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明細書 :電極触媒層及びその形成方法並びに電極触媒層形成用インクの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-137184 (P2018-137184A)
公開日 平成30年8月30日(2018.8.30)
発明の名称または考案の名称 電極触媒層及びその形成方法並びに電極触媒層形成用インクの製造方法
国際特許分類 H01M   4/86        (2006.01)
H01M   4/90        (2006.01)
H01M   4/96        (2006.01)
H01M   4/88        (2006.01)
H01M   8/10        (2016.01)
FI H01M 4/86 M
H01M 4/90 X
H01M 4/86 H
H01M 4/96 B
H01M 4/88 K
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2017-032683 (P2017-032683)
出願日 平成29年2月23日(2017.2.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物等1 1)刊行物名:化学工学会第48回秋季大会webサイト講演要旨集 URL:http://www3.scej.org/meeting/48f/ 2)公表日 :平成28年8月23日 3)発行者名:公益社団法人 化学工学会 4)講演番号:D302 刊行物等2 1)発表大会:The 67th Annual Meeting of the International Society of Electrochemistry(国際電気化学会67回大会)URL:http://annual67.ise-online.org 2)ポスター発表日:平成28年8月23日 3)学会名 :International Society of Electrochemistry(国際電気化学会) 4)講演番号:s07-071(ポスター発表) 刊行物等3 1)発表大会:2016 PRiME Meeting The joint international meeting of:230th Meeting of The Electrochemical Society,2016 Fall Meeting of The Electrochemical Society of Japan,2016 Fall Meeting of The Korean URL:http://ecst.ecsdl.org/content/75/52/149.shor 2)公表日 :平成28年10月4日 3)学会名 :The Electrochemical Society(米国電気化学会) 4)講演番号:Z01-Poster Session-Oct4 2016 6:00PM 刊行物等4 1)刊行物名:ECS Transaction(米国電気化学会誌) 2)発行日:平成29年1月20日(Published 20 January 2017) 3)発行者名:The Electrochemical Society(米国電気化学会) 4)該当頁 :p.149-154
発明者または考案者 【氏名】福長 博
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査請求 未請求
テーマコード 5H018
5H126
Fターム 5H018AA06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE17
5H018EE19
5H018HH05
5H126BB06
要約 【課題】白金触媒よりも触媒性能が低い炭素触媒を用いた場合であっても、良好な触媒性能を実現した電極触媒層及びその形成方法等を提供する。
【解決手段】微細な炭素触媒2とイオン導電性高分子3とを少なくとも有し、イオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間5を有している電極触媒層1により上記課題を解決した。非触媒性の炭素粒子4をさらに有し、炭素粒子4及びイオン導電性高分子3はいずれも疎水性又は親水性であることが好ましい。この電極触媒層1は、炭素触媒2とイオン導電性高分子3と該イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、混合物にイオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、電極触媒層形成用インクを塗布して電極触媒層1を形成する工程とを有する方法で形成する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
微細な炭素触媒とイオン導電性高分子とを少なくとも有し、前記イオン導電性高分子が前記炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間を有していることを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
非触媒性の炭素粒子をさらに有し、前記炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である、請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
炭素触媒とイオン導電性高分子と該イオン導電性高分子を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、
前記混合物に前記イオン導電性高分子をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、
前記電極触媒層形成用インクを塗布して電極触媒層を形成する工程と、を有することを特徴とする電極触媒層の形成方法。
【請求項4】
前記電極触媒層形成用インクを得る工程において、前記第2有機溶媒とともに非触媒性の炭素粒子を前記混合物に加え、該炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である、請求項3に記載の電極触媒層の形成方法。
【請求項5】
前記イオン導電性高分子がパーフルオロカーボン材料である場合、前記第1有機溶媒の誘電率εが10超であり、前記第2有機溶媒の誘電率εが3以上10以下である、請求項3又は4に記載の電極触媒層の形成方法。
【請求項6】
炭素触媒とイオン導電性高分子と該イオン導電性高分子を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、
前記混合物に前記イオン導電性高分子をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、を有することを特徴とする電極触媒層用インクの製造方法。
【請求項7】
前記電極触媒層形成用インクを得る工程において、前記第2有機溶媒とともに非触媒性の炭素粒子を前記混合物に加え、該炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である、請求項6に記載の電極触媒層形成用インクの製造方法。
【請求項8】
前記イオン導電性高分子がパーフルオロカーボン材料である場合、前記第1有機溶媒の誘電率εが10超であり、前記第2有機溶媒の誘電率εが3以上10以下である、請求項6又は7に記載の電極触媒層形成用インクの製造方法。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒層及びその形成方法並びに電極触媒層形成用インクの製造方法に関する。さらに詳しくは、燃料電池用電極を作製する際のインクを2段階で調製して得た電極触媒層形成用インクで形成した電極触媒層及びその形成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低い家庭用定置型発電システムや自動車用電源として、固体高分子形燃料電池(PEFCと略す。)の実用化が始まっている。しかし、本格的な普及には解決すべき課題も多く、そのための研究開発が盛んに行われている。現在、カソード触媒として一般的に用いられている白金担持カーボン(Pt/Cと略す。)は、白金の埋蔵量や溶出による劣化等の点に問題があるため、白金代替触媒が求められている。
【0003】
シルク由来の炭素触媒(シルク活性炭ともいう。)は、高価な金属錯体を原料としない、原料に金属を含まず安定性に優れている、酸素還元開始電位が高い、等の理由から、PEFCの非白金カソード触媒として期待されている(特許文献1及び非特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2013-86002号公報
【0005】

【非特許文献1】Iwasaki,T et al,ElctroChem.Commun,11,376(2009).
【非特許文献2】Fukunaga,H et al,Innovative Materials for Processes in Energy Systems 2010,142(2011).
【非特許文献3】Junji Morita, Studied in surface and catalysis., 132. 959-962(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シルク活性炭は、白金触媒に比べると酸素還元活性は低いが、低コストの炭素触媒であるという利点がある。また、触媒が有効な反応場として機能するために必要な触媒、アイオノマー及びガスの3つの相の界面(三相界面)も、Pt/Cの反応場がPt粒子なのに対して、シルク活性炭の反応場は表面全体になるため、これまでとは異なる観点での検討が必要である。
【0007】
低コストの炭素触媒であるシルク活性炭のように白金触媒よりも触媒性能が低い触媒の場合には、電極触媒層を厚くして反応場を拡大することも性能向上の一つの手段である。
【0008】
本発明の目的は、白金触媒よりも触媒性能が低い炭素触媒を用いた場合であっても、良好な触媒性能を実現した電極触媒層及びその形成方法を提供することになる。また、そうした電極触媒層を形成するための電極触媒層形成用インクの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
白金触媒の場合には触媒性能が優れるため電極触媒層を厚くして反応場を広くすることは行わないが、本発明者は、触媒性能が白金触媒より低い炭素触媒(例えばシルク活性炭等)を低コスト素材として利用する場合に、電極触媒層を厚くして反応場を拡大することを検討した。その検討過程で、電極触媒層を厚くして反応場を拡大する場合には、炭素触媒同士の繋がりが良いこと、炭素触媒とイオン導電性高分子との繋がりが良いこと、ガス拡散経路が確保されることを目指した。本発明はそうした検討過程で得られた知見に基づくものである。
【0010】
(1)本発明に係る電極触媒層は、微細な炭素触媒とイオン導電性高分子とを少なくとも有し、前記イオン導電性高分子が前記炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間を有していることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、イオン導電性高分子が炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着しているので、炭素触媒同士の繋がりが良く、炭素触媒とイオン導電性高分子との繋がりもよく、さらに、隙間を有している構造形態になっている。その結果、触媒性能が白金よりも低い炭素触媒を用いた場合であっても、反応場が増した触媒性能の良い電極触媒層とすることができる。
【0012】
本発明に係る電極触媒層において、非触媒性の炭素粒子をさらに有し、前記炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である。該炭素粒子が前記炭素触媒同士の隙間に均一又は略均一に入り込んでいる。
【0013】
この発明によれば、炭素粒子とイオン導電性高分子の両方が同じ性質(疎水性又は親水性)であるので、炭素粒子は、炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着するイオン導電性高分子とともに、炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着することができる。その結果、炭素粒子が炭素触媒同士の隙間に入り込み、炭素粒子が電子伝導を担って触媒性能を高めることができる。
【0014】
(2)本発明に係る電極触媒層の形成方法は、炭素触媒とイオン導電性高分子と該イオン導電性高分子を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、前記混合物に前記イオン導電性高分子をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、前記電極触媒層形成用インクを塗布して電極触媒層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、最初に、イオン導電性高分子を溶液状にする第1有機溶媒中に炭素触媒とイオン導電性高分子と混ぜたので、溶液状になったイオン導電性高分子が炭素触媒の周りに高分散状態で均一又は略均一に付着た態様となる。その次に、イオン導電性高分子をコロイド状にする第2有機溶媒を加えるので、炭素触媒の周りに付着していないイオン導電性高分子がコロイド状になって繋がった態様となる。こうした異なる態様を含む電極触媒層形成用インクを用いて電極触媒層を形成したので、得られ電極触媒層は、イオン導電性高分子が炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間を有した態様になっている。そのため、炭素触媒同士の繋がりが良く、炭素触媒とイオン導電性高分子との繋がりも良く、さらに、隙間を有する態様になっているので、触媒性能が白金触媒よりも低い炭素触媒を用いた場合であっても、反応場が増した触媒性能の良い電極触媒層とすることができる。
【0016】
本発明に係る電極触媒層の形成方法では、前記電極触媒層形成用インクを得る工程において、前記第2有機溶媒とともに非触媒性の炭素粒子を前記混合物に加え、該炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である。
【0017】
この発明によれば、第2有機溶媒とともに混合物に加える非触媒性の炭素粒子が、イオン導電性高分子と同じ性質(疎水性又は親水性)であるので、その炭素粒子は、炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着するイオン導電性高分子とともに、炭素触媒の周りに均一又は略均一に付着することができる。その結果、炭素粒子が炭素触媒同士の隙間に入り込み、炭素粒子が電子伝導を担って触媒性能を高めることができる。
【0018】
本発明に係る電極触媒層の形成方法において、前記イオン導電性高分子がパーフルオロカーボン材料である場合、前記第1有機溶媒の誘電率εが10超であり、前記第2有機溶媒の誘電率εが3以上10以下である。
【0019】
この発明によれば、パーフルオロカーボン材料を、前記第1有機溶媒では溶液状にすることができ、第2有機溶媒ではコロイド状にすることができる。
【0020】
(3)本発明に係る電極触媒層形成用インクの製造方法は、炭素触媒とイオン導電性高分子と該イオン導電性高分子を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、前記混合物に前記イオン導電性高分子をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る電極触媒層形成用インクの製造方法では、前記電極触媒層形成用インクを得る工程において、前記第2有機溶媒とともに非触媒性の炭素粒子を前記混合物に加え、該炭素粒子及び前記イオン導電性高分子はいずれも疎水性又は親水性である。
【0022】
本発明に係る電極触媒層形成用インクの製造方法において、前記イオン導電性高分子がパーフルオロカーボン材料である場合、前記第1有機溶媒の誘電率εが10超であり、前記第2有機溶媒の誘電率εが3以上10以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、白金触媒よりも触媒性能が低い炭素触媒を用いた場合であっても、良好な触媒性能を実現した電極触媒層及びその形成方法並びに電極触媒層形成用インクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】二段階混合した電極触媒層形成用インクで形成した電極触媒層の一例を示す電子顕微鏡写真である。(A)はカーボンブラックがシルク活性炭の周りに均一に付着していることがわかる電子顕微鏡写真であり、(B)はNafion(登録商標)が均一に分散していることがわかる元素マッピング写真である。
【図2】同時混合した電極触媒層形成用インクで形成した電極触媒層の一例を示す電子顕微鏡写真である。(A)はカーボンブラックがシルク活性炭の周りに均一に付着せずに別々に存在していることがわかる電子顕微鏡写真であり、(B)はNafion(登録商標)が均一に分散していないことがわかる元素マッピング写真である。
【図3】カーボンブラックの添加の有無によるI-V測定結果である。
【図4】カーボンブラックの添加の有無によるηxの違いを示す結果である。
【図5】有機溶媒の混ぜ方の違いによるI-V測定結果である。
【図6】有機溶媒の混ぜ方の異なる電極のターフェルプロットとηxである。
【図7】シルク活性炭とNafion(登録商標)の混合比に対する影響を示すI-V測定結果である。
【図8】Nafion(登録商標)比の異なる電極のターフェルプロットとηxである。
【図9】有機溶媒の比に対するI-V測定結果である。
【図10】有機溶媒の比に対するナイキスト・プロット結果である。
【図11】有機溶媒とNafion(登録商標)の比に対するI-V測定結果である。
【図12】二段階混合でのカーボンブラック添加の有無の影響を示すI-V測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る電極触媒層及びその形成方法並びに電極触媒層用インクの製造方法を図面を参照しつつ説明する。本発明はその要旨を有する限り、以下の実施形態の記載のみに限定されず、種々の変形や応用が可能である。

【0026】
[電極触媒層及びその形成方法]
本発明に係る電極触媒層1は、図1に示すように、微細な炭素触媒2とイオン導電性高分子3とを少なくとも有し、イオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間5を有している。

【0027】
この電極触媒層1は、炭素触媒2とイオン導電性高分子3と該イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、その混合物に前記イオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、その電極触媒層形成用インクを塗布して電極触媒層1を形成する工程とを有する方法で形成される。

【0028】
形成された電極触媒層1は、イオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間5を有している。そのため、炭素触媒同士2,2の繋がりが良く、炭素触媒2とイオン導電性高分子3との繋がりも良く、さらに、隙間5を有したガス拡散経路を備えている。その結果、触媒性能が白金触媒よりも低い炭素触媒を用いた場合であっても、反応場が増した触媒性能の良い電極触媒層とすることができる。

【0029】
形成方法については、最初に、イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒中に炭素触媒2とイオン導電性高分子3と混ぜたので、溶液状になったイオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに高分散状態で均一又は略均一に付着た態様となる。その次に、イオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えるので、炭素触媒2の周りに付着していないイオン導電性高分子3がコロイド状になって繋がった態様となる。こうした異なる態様を含む電極触媒層形成用インクを用いて電極触媒層1が形成される。

【0030】
以下、電極触媒層1及びその形成方法について詳しく説明する。なお、電極触媒層形成用インクの製造方法についても併せて説明する。

【0031】
(炭素触媒)
炭素触媒2は、触媒性能を有する炭素材料であれば特に限定されない。炭素触媒は、白金触媒に比べて触媒性能は低いが、本発明ではそうした炭素触媒を用いた点に特徴がある。炭素触媒2としては、シルク活性炭、カーボンアロイ等を挙げることができる。これらの中でも、シルク活性炭は原料であるシルク材料の入手が容易で廉価であることから好ましい。シルク活性炭は、種々の方法で得ることができるが、例えば後述の実施例1に記載のように、シルクフィブロイン等のシルク材料を原料とし、1次炭化、粉砕、2次炭化を経て作製できる。なお、シルク材料は、セリシン又はフィブロインと呼ばれるタンパク質を主成分とする動物繊維を挙げることができ、例えば蚕から排出される綿状シルク、シルク織物等を好適に用いることができる。また、カーボンアロイについては、鉄やコバルト錯体を含む有機物を炭化することで作製することができる。

【0032】
炭素触媒2の形状は特に限定されず、粒形状でも棒形状(ファイバー形状ともいう。)でも角形状等であってもよい。上記シルク活性炭の場合は、棒形状や粒形状とすることができる。炭素触媒2の大きさについても特に限定されないが、例えば、粒形状の場合は0.1μm~10μmの範囲内とすることができ、棒形状の場合は、100μm以下の範囲内とすることができるが、カーボンナノチューブであれば0.4nm以上のものを用いてもよい。棒形状については、任意のアスペクト比(直径:長さ)とすることができる。

【0033】
(イオン導電性高分子)
イオン導電性高分子3は、燃料電池用電極の電極触媒層として利用可能なものであればよく、特に限定されないが、例えば、パーフルオロカーボン材料を挙げることができる。パーフルオロカーボン材料としては、Nafion(登録商標)、Aquivion(登録商標)、スルホン化スチレン-オレフィン共重合体等を挙げることができるが、これ以外であってもよい。いずれも上市されているものから購入すればよい。中でも、Nafion(登録商標)が好ましい。

【0034】
イオン導電性高分子3は、疎水性であっても親水性であってもよい。なお、疎水性であっても構造骨格中に親水基を有するものもあるし、親水性であっても構造骨格中に疎水基を有するものもあるが、ここでの疎水性、親水性とは、全体的に疎水性であるか親水性であるかということである。例えば、Nafion(登録商標)の場合は、全体として疎水性であるが親水基を有している。

【0035】
炭素触媒2との関係では、例えばシルク活性炭のように炭素触媒2が親水性であり、例えばNafion(登録商標)のようにイオン導電性高分子3が疎水性である場合には、疎水性の炭素粒子4を配合することにより、シルク活性炭とNafion(登録商標)との電極触媒層1内での分散が向上し、触媒性能が高まる。なお、炭素触媒2が疎水性である場合はイオン導電性高分子3も疎水性であることが好ましく、炭素触媒2が親水性である場合はイオン導電性高分子3も親水性であることが好ましいが、両者の性質が異なる場合は、上記のような炭素粒子4を配合することにより、電極触媒層1内での分散性を高めることができる。

【0036】
後述する炭素粒子4との関係では、イオン導電性高分子3が疎水性である場合は、炭素粒子4も疎水性であることが好ましく、イオン導電性高分子3が親水性である場合は、炭素粒子4も親水性であることが好ましい。炭素粒子4とイオン導電性高分子3の両方が同じ性質(疎水性又は親水性)とすることにより、炭素粒子4は、炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着するイオン導電性高分子3とともに、炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着することができる。その結果、炭素粒子4が炭素触媒同士2,2の隙間に入り込み、炭素粒子4が電子伝導を担って触媒性能を高めることができる。

【0037】
(炭素粒子)
炭素粒子4は、電極触媒層1に任意に含まれる。この炭素粒子4は触媒性能を有しない(非触媒性)。なお、触媒性能を有するものは、前記した炭素触媒2に含まれる。この炭素触媒2は、前記したように、イオン導電性高分子3が疎水性である場合は、炭素粒子4も疎水性であることが好ましく、イオン導電性高分子3が親水性である場合は、炭素粒子4も親水性であることが好ましい。その理由は上記したとおりであり、炭素粒子4が炭素触媒同士2,2の隙間に入り込み、炭素粒子4が電子伝導を担って触媒性能を高めることができる。

【0038】
炭素粒子4の形状は特に限定されないが、炭素触媒同士2,2の隙間5に入り込むことから、粒子形状であることが好ましい。炭素粒子4の大きさも特に限定されないが、炭素触媒同士2,2の隙間5に入り込むことから、炭素触媒2よりも小さく且つ0.01μm~10μmの範囲内であることが好ましい。

【0039】
具体的な炭素粒子4としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。イオン導電性高分子3として疎水性のNafion(登録商標)を採用した場合は、疎水性であるカーボンブラックを採用することが好ましい。

【0040】
(その他)
電極触媒層1には、本発明の効果を阻害しない範囲(種類と添加量)で、その他の添加材料が含まれていてもよい。そうした添加材料としては、高分子化合物、金属又は金属の化合物等を挙げることができる。

【0041】
(電極触媒層の構造)
電極触媒層1は、図1に示すように、微細な炭素触媒2とイオン導電性高分子3とを少なくとも有している。そして、イオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに均一又は略均一に付着し且つ隙間5を有している。こうした形態の電極触媒層1は、炭素触媒同士2,2の繋がりが良く、炭素触媒2とイオン導電性高分子3との繋がりも良く、さらに、隙間5を有したガス拡散経路を備えた態様になっているので、触媒性能が白金触媒よりも低い炭素触媒2を用いた場合であっても、反応場が増した触媒性能の良い電極触媒層1とすることができる。

【0042】
隙間5は、図1に示すように、炭素触媒同士2,2に存在している。その大きさは特に限定されないが、電子顕微鏡写真から解析した結果では、0.1μm~10μmの範囲内であることが好ましい。こうした隙間5の存在により、ガス拡散経路を備えた態様となり、性能を高めることができる。

【0043】
[電極触媒層形成用インク及びその製造方法]
電極触媒層形成用インクは、電極触媒層1を形成するためのインクであり、炭素触媒2とイオン導電性高分子3と第1有機溶媒と第2有機溶媒とを少なくとも有しており、必要に応じて、炭素粒子4や添加材料が含まれている。第1有機溶媒と第2有機溶媒以外の構成要素については、既に説明したとおりである。

【0044】
本発明では、電極触媒層形成用インクを2種の有機溶媒を用いて2段階で製造する。つまり、1種目の有機溶媒(第1有機溶媒)に炭素触媒2とイオン導電性高分子3を混ぜて混合物とした後、その混合物に2種目の有機溶媒(第2有機溶媒)を混ぜてインクを作製する。

【0045】
すなわち、本発明に係る電極触媒層形成用インクの製造方法は、炭素触媒2とイオン導電性高分子3と該イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、その混合物にイオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程とを有することに特徴がある。この方法は、最初に、イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒中に炭素触媒2とイオン導電性高分子3と混ぜたので、溶液状になったイオン導電性高分子3が炭素触媒2の周りに高分散状態で均一又は略均一に付着た態様となる。その次に、イオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えるので、炭素触媒2の周りに付着していないイオン導電性高分子3がコロイド状になって繋がった態様となる。こうした異なる態様を含む電極触媒層形成用インクを用いて電極触媒層1が形成される。

【0046】
第1有機溶媒は、イオン導電性高分子3を溶液状にする溶媒であり、第2有機溶媒は、イオン導電性高分子3をコロイド状にする溶媒である。これらの溶媒は、いわゆるコイル・グロビュール転移(coil-globule transition)と呼ばれる高分子の形態の相転移と同様のことを2種の溶媒で行おうとするものである。溶媒中の高分子は、溶媒との相互作用により全体が広がったコイル状態や凝縮したグロビュール状態で存在する。コイル・グロビュール転移とは、コイル状態で存在していた高分子が、溶媒の温度が低温になること等によりグロビュール状態になることである。

【0047】
第1有機溶媒は、イオン導電性高分子3を溶液状(コイル状態に相当)にする溶媒であるが、どのような第1有機溶媒を選択するかは、イオン導電性高分子3の種類によって選ばれる。例えば、イオン導電性高分子3としてNafion(登録商標)を用いる場合は、Nafion(登録商標)を溶液状にするために誘電率εが10超の有機溶媒を用いる。そうした誘電率εを有する有機溶媒としては、1-プロパノール(1P)、2-プロパノール、エタノール、メタノール等を挙げることができる。このような有機溶媒を用いることにより、Nafion(登録商標)を溶液状にして高分散化させ、炭素触媒2の周囲に均一又は略均一に付着させることができる。その結果、炭素触媒2の外周全てが反応場となり、炭素触媒2を有効利用でき、触媒性能を高めることができる。

【0048】
第2有機溶媒は、イオン導電性高分子3をコロイド状(グロビュール状態に相当)にする溶媒であるが、どのような第2有機溶媒を選択するかは、第1有機溶媒と同様、イオン導電性高分子3の種類によって選ばれる。例えば、イオン導電性高分子3としてNafion(登録商標)等のパーフルオロカーボン材料を用いる場合は、パーフルオロカーボン材料をコロイド状にするために誘電率εが3以上10以下の有機溶媒を用いる。そうした誘電率εを有する有機溶媒としては、酢酸ブチル(BA)、酢酸エチル等を挙げることができる。このような有機溶媒を用いることにより、パーフルオロカーボン材料をコロイド状にしてパーフルオロカーボン材料同士の繋がりを良くすることができるとともに、炭素触媒2に付着したパーフルオロカーボン材料同士の繋がりも良くなる。その結果、膜厚方向に積層した場合でも、Nafion(登録商標)等のパーフルオロカーボン材料が良好に繋がっているので、プロトンの移動が良くなり、触媒性能が白金触媒に比べて劣る炭素触媒2を使用した場合であっても、厚さ方向に反応場を拡大でき、触媒性能を高めることができる。

【0049】
炭素粒子4は、既述したように、炭素触媒2の隙間に入り込んで電子伝導を高めることができるので、配合することが好ましい。炭素粒子4は、第2有機溶媒とともに非触媒混合物に加えることが好ましい。炭素粒子4はイオン導電性高分子3と同じ性質(疎水性又は親水性)とすることが好ましく、そうした炭素粒子4を2段階目に加えることにより、均一に分散したイオン導電性高分子3との相溶性が良く、炭素触媒2の隙間に入り込み易くなる。

【0050】
なお、このように、有機溶媒の誘電率の違いによりイオン導電性高分子3を溶液状にしたりコロイド状にしたりすることができることから、コロイド状にできる有機溶媒だけを用いて作製した電極触媒層1は、イオン導電性高分子3の繋がりが良く、さらに電極触媒層中の細孔率が高くなる。その結果、プロトン(H)の移動や物質移動の点で有利であり、カソード触媒として適したものとなる。一方、溶液状にできる有機溶媒だけを用いて作製した電極触媒層1は、イオン導電性高分子3が高分散し、さらに電極触媒層中の細孔率が低くなる。その結果、有効な反応場が増加し、COを含んだ改質模擬ガスを供給したアノード触媒として適したものとなる。本発明では、イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒と、イオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒とを併用するので、得られた電極触媒層1は両方の利点を備えたものとなり、反応場が増すとともに、プロトン(H)の移動や物質移動の点で有利でも有利なものとなる。

【0051】
なお、電極触媒層形成用インクを構成する各材料の配合割合は特に限定されず、得られる電極触媒層1の触媒性能を考慮して任意に配合される。また、2種の有機溶媒の配合量も特に限定されないが、イオン導電性高分子3の溶液状の程度やコロイド状の程度と、得られた電極触媒層1の触媒性能を考慮して任意に設定される。

【0052】
[電極触媒層の形成方法]
本発明に係る電極触媒層1の形成方法は、上記して得た炭素触媒2とイオン導電性高分子3と該イオン導電性高分子3を溶液状にする第1有機溶媒とを少なくとも含む混合物を得る工程と、その混合物に前記イオン導電性高分子3をコロイド状にする第2有機溶媒を加えて電極触媒層形成用インクを得る工程と、その電極触媒層形成用インクを塗布して電極触媒層1を形成する工程とを有する方法である。

【0053】
電極触媒層形成用インクは、上記した方法で得られるので、ここではその説明を省略する。

【0054】
電極触媒層形成用インクは、例えばNafion(登録商標)膜等の固体高分子電解質膜上に塗布されたり、転写膜であるポリテトラフルオロエチレンやカプトンのシート上に塗布されたり、カーボンペーパー等の集電体に塗布されたりする。塗布方法は特に限定されず、従来公知の各種の方法で塗布することができる。

【0055】
以上説明したように、本発明に係る電極触媒層1は、電極との界面付近ではイオン導電性高分子3(好ましくはNafion(登録商標)等のパーフルオロカーボン材料)が高分散しているので、イオン導電性高分子同士が繋がった構造形態となっており、反応場が多く、触媒が有効利用される。また、電極から離れてもイオン導電性高分子同士の繋がりが良く、プロトンが移動しやすい構造形態となっている。したがって、この電極触媒層1は、界面膜厚方向に反応場が広がるように膜構造が制御されているので、有効な三相界面の反応場が増して触媒性能を向上させることができる。

【0056】
後述するインピーダンス測定結果においても、電極触媒層1は、塗布量の増加に伴って、反応の界面抵抗が減少し、イオン伝導の界面抵抗が増加している。反応の界面抵抗の減少は膜厚方向に反応場が増加していることを示しており、イオン伝導の界面抵抗の増加は膜厚方向に対するプロトン(H)の伝導距離が増加していることを示している。
【実施例】
【0057】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例】
【0058】
[試料の作製]
炭素触媒2として、シルク活性炭(CSと略す。)を用いた。シルク活性炭は、原料のシルクフィブロインを窒素雰囲気下500℃で1次炭化し、ボールミルで粉砕した後、900℃で2次炭化を行うことで作製した。得られたシルク活性炭は、平均径で、長さ約数10μmで直径約数μmの微細な棒形状のものである。イオン導電性高分子3として、パーフルオロカーボン材料であるNafion(登録商標)5%溶液を用いた。第1有機溶媒として、誘電率εが約22の1-プロパノール(NPと略す。)を用いた。第2有機溶媒として、誘電率εが約5の酢酸ブチル(BAと略す。)を用いた。炭素粒子4として、平均径が約50nmのカーボンブラック(CBと略す。)を用いた。
【実施例】
【0059】
異なる有機溶媒を2段階混合する電極触媒層形成用インクの作製は、先ず、シルク活性炭(CS)とNafion(登録商標)溶液と1-プロパノール(NP)とを混合して混合物とした。その後、その混合物に、酢酸ブチル(BA)と必要に応じて配合するカーボンブラック(CB)とを混合した。一方、異なる有機溶媒を同時混合する電極触媒層形成用インクは、シルク活性炭(CS)とNafion(登録商標)溶液と1-プロパノール(NP)と酢酸ブチル(BA)と必要に応じて配合するカーボンブラック(CB)とを同時に混合した。なお、各構成材料の配合比は、下記に実験で適宜変えて行った。
【実施例】
【0060】
こうして得た電極触媒層形成用インクをガス拡散層(カーボンペーパー)に塗布・乾燥を繰り返し、カソード触媒層を作製した。このカソード触媒層と市販の白金担持アノードとで固体高分子電解質膜であるNafion(登録商標)膜を挟み、さらのそれらの外側からポリイミドフィルムで挟んで、130℃、3分間の条件で熱圧着を行い、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、電子顕微鏡観察、I-V測定、インピーダンス測定等を行った。
【実施例】
【0061】
[測定]
(電極触媒層の構造観察)
電極触媒層1は、電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)とエネルギー分散型X線分光器で観察した。
【実施例】
【0062】
混合方法の違いによる電極構造観察の結果を図1及び図2に示した。図1は二段階混合で作製した電極触媒層形成用インクを用いた場合であり、図2は同時混合した電極触媒層形成用インクを用いた場合である。図1(A)では棒状のシルク活性炭が多く見えず、二段階混合ではCSにCBが均一分散により付着してCSが隠れて見えにくくなっているのに対して、図2(A)では棒状のシルク活性炭が多く見られ、同時混合ではCSとCBとが別々になり易くなっていることがわかる。このように、有機溶媒を二段階で混合することで、反応場として有効に機能する三相界面を膜厚方向に増加させつつ、触媒近傍の反応場の形成を促進させるような電極触媒層構造になっていることがわかった。
【実施例】
【0063】
また、Nafion(登録商標)主鎖であるF(フッ素原子)をEDXで元素マッピング観察した結果、図1(B)ではフッ素は偏らずにNafion(登録商標)がきれいに分散していることがわかるが、図2(B)ではフッ素が偏っており、Nafion(登録商標)の分散が不十分であることがわかった。この結果は、Nafion(登録商標)はNP中で溶液状であり、BA中でコロイド状であるため、先にNPでCSの周りをNafion(登録商標)が高分散して、その後にBAでNafion(登録商標)同士の繋がりが良くなっていることがわかった。その結果、シルク活性炭がNafion(登録商標)で被覆されることと、コロイド状のNafion(登録商標)が膜厚方向につながることで、Hが供給され易くなり、有効な反応場が増え、最大電流密度が向上したことがわかる。
【実施例】
【0064】
(I-V測定とインピーダンス測定)
80℃におけるI-V測定は、アノードに相対湿度100%の水素を40ccm供給し、カソードに相対湿度60%の酸素を40ccmで供給し、ポテンショスタットを用いて定電位操作で行った。また、インピーダンス測定は、ポテンショスタットに周波数応答解析装置を接続し、100kHz~10mHzの範囲で行った。
【実施例】
【0065】
(EIS測定)
EIS測定は、セルに非常に微小な交流信号を負荷として重畳させ、その際の電圧と電流の応答信号からセルのインピーダンスを測定する交流インピーダンス法である。直流抵抗測定では電気化学系全体としての情報しか得られないが、EIS測定で得られるCole-Coleプロット(ナイキスト線図)からは、電極反応に起因するインピーダンスと、電子伝導やイオン伝導に起因するインピーダンスのそれぞれを応答周波数の違いを利用して分離測定することができる。高周波数領域から低周波数領域まで測定することにより、それぞれのインピーダンスは抵抗と容量成分との並列回路と見なされるようになり、周波数の大きい側から、バルク抵抗成分、粒界抵抗成分、界面抵抗成分それぞれに分離測定できる。
【実施例】
【0066】
[実験1]
(触媒層内への疎水性CBの添加の影響)
親水性のシルク活性炭に疎水性のCBを添加することによる効果を調べた。Nafion(登録商標)の量は一定とし、シルク活性炭とCBの重量比を変えて、電極を作製して比較した。まず、CBを添加の影響を調べるために、CS:Nafion(登録商標)=5:2と、CS:CB:Nafion(登録商標)=4.5:0.5:2として作製した二種類の電極を用いてI-V測定を行った。その結果を図3に示す。図3より、CBを添加した電極のほうが、低電流密度域では性能が低いが、高電流密度域では性能は高くなっていることがわかる。
【実施例】
【0067】
ここで、CBがどの過電圧に影響するかを調査するために、I-V曲線から過電圧の分離を行った。図3のI-V測定結果のデータからIR補正してターフェルプロットを作成し、過電圧を算出した。ターフェル式で近似した値と式1を用いて算出した。ここで、Erevは燃料電池の80℃における理論起電力ηrはインピーダンス測定より求めたバルク抵抗から計算した抵抗過電圧であり、ηaはターフェル式で近似した活性化過電圧であり、ηxを残りの過電圧として算出した過電圧である。図4に示すように、CBを添加していないものは直線的に増加しているが、CBを添加した電極は電流密度が100mA/cm2以上では増加していない。CBを添加した電極のほうが最大電流密度が高くなったことから、用いたCBは疎水性であり、添加するとシルク活性炭とNafion(登録商標)の相分離を最小限にし、CSとNafion(登録商標)のつながりが良くなり、反応場である三相界面が増加したことがわかる。また、ηxが増加しなくなったことから、疎水性のCBを添加したことにより、疎水性層が形成され、層内部への酸素の輸送と層内で発生する水の除去が促進されたと考えられる。この結果から、疎水性材料の添加により、性能が向上し、触媒近傍へのプロトンの供給の改善が示唆された。
【実施例】
【0068】
【数1】
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【実施例】
【0069】
[実験2]
(混ぜ方の違いによる性能比較)
BAとNPの比率を同じにし、電極触媒層構造を変えるために作製手順を変えて電極触媒層を作製した。CSにNafion(登録商標)が被覆して反応場が増加する構造と、Nafion(登録商標)同士が繋がってH移動がし易く且つより多く運ぶことができる構造とを両方もつ電極触媒層構造を作製するために、先にCSとNafion(登録商標)とNPとを混合してNafion(登録商標)を被覆させ、その後にCBとBAを混合した電極触媒層形成用インクで電極触媒層を形成し、発電実験を行った。
【実施例】
【0070】
I-V測定結果を図5に示す。図5より、BAとNPを同時混合(図5中の黒丸)した場合より、二段階混合(図5中の白丸)した場合の電極のほうが、最大電流密度が高い。また、高電流密度域で、グラフが上に凸になっているように見えることから、過電圧の分離を行った。その結果を図6に示す。過電圧の分離の結果から、ηaは、図6(a)に示すように同時混合(図中の黒丸)した場合よりも二段階混合(図中の白丸)した場合のほうが低くなっている。また、ηxは、図6(b)に示すように、同時混合(図中の黒丸)と二段階混合(図中の白丸)とが同程度であることがわかる。このことから、二段階混合は、同時混合に比べて、反応場として有効に機能する三相界面を膜厚方向に増加させつつ、触媒近傍の反応場の形成を促進させるような触媒層構造になったことがわかる。特に、反応に起因するηaが改善され、向上したと考えられる。
【実施例】
【0071】
[実験3]
(CSとNafion(登録商標)の混合比による比較)
CSとNafion(登録商標)の混合比の異なる電極触媒層を作製してNafion(登録商標)の量の影響を調べた。乾燥温度を40℃にしたCS:CB:Nafion(登録商標)=4:1:0.5、4:1:1、4:1:2、4:1:3、4:1:5のI-V測定結果を図7に示す。図7から、Nafion(登録商標)が少ない電極のほうが最大電流密度が高いことがわかる。しかし、減らしすぎてしまうと電流密度が低くなる。また、端子間電圧が400mV以上ではほぼ電流密度は変わらないが、400mV未満では電流密度に差が現れていることがわかる。詳しく調査するために、I-V曲線から過電圧の分離を行った。過電圧ηaとηxを図8に示す。図8中のプロット図形(◇、□、○、△、×)は図7中で標記したものと同じである。図8から反応に起因するηaは、Nafion(登録商標)比が高い電極ほど小さくなっていることがわかる。Nafion(登録商標)は、イオン導電体であり反応に関与するためNafion(登録商標)が多い方が、より多く反応することがわかる。そのためηaは小さくなったと考えられる。一方、ηxはηaとは逆に、Nafion(登録商標)比が高い電極ほど、過電圧が大きくなっていることがわかる。I-V曲線からも高電流密度域での差はηxの影響が大きいと考えられる。これは、Nafion(登録商標)が多いと触媒の隙間にNafion(登録商標)が入り込んでしまい、つながりが悪くなったことが考えられる。
【実施例】
【0072】
[実験4]
(有機溶媒の比に対する影響)
CS:CB:Nafion(登録商標)=4:1:2で、総量は1.0gとしてBAとNPの比を1:1だけではなく、BA:NP=1:4、4:1で発電実験を行った。先にCSとNafion(登録商標)とNPとを混合し、その後にCBとBAを混合して触媒を作製した。その結果を図9に示す。図9から、NPを多く混ぜたBA:NP=1:4は低電流密度域では最も高い電流密度であるが、最大電流密度は最も低いことがわかり、低電流密度域で有効に作用していることがわかる。これは、誘電率の高いNPによってNafion(登録商標)は溶液状であり、CSの周りをNafion(登録商標)が高分散して、触媒がNafion(登録商標)で被覆されることで反応場が増加したことがわかる。しかし、高電流密度域では、BAが少なく触媒層の厚さ方向の繋がりが悪く、電流密度は高くならなったことがわかる。次に、厚さ方向の繋がりをよくするために、BAを増やした。その結果、高電流密度域ではNPの多いBA:NP=1:4の電極のほうが性能が高いが、最大電流密度はそこまで変わらない。このことから、高電流密度域でBAは有効に作用すると考えられる。これは、誘電率の低いBAによってNafion(登録商標)はコロイド状になり、Nafion(登録商標)が膜厚方向につながることで、Hが供給され易くなり、有効な反応場が増えたと考えられる。
【実施例】
【0073】
図10は、インピーダンス測定の印加電圧が0から800mVにおけるナイキスト・プロットを示す。各電圧での円弧の違いを調査するために、高周波側の円弧の端の位置を揃えたものを示す。低電流密度で性能が高かったBA:NP=1:4と、最大電流密度が最も高かったBA:NP=1:1の比較を行った。BA:NP=1:4の電極で電圧をかえた結果を見てみると、印加電圧が400mVと600mVでは過電圧がほとんど変わっていないことがわかる。BA:NP=1:1を見てみると、印加電圧が400mVと600mVでは過電圧が減少していることがわかる。このことから、最大電流密度が高いBA:NP=1:1は、高電流密度域でも電極構造がうまく使われているが、BA:NP=1:4では高電流密度域ではうまく使われていない部分があると考えられる。これは、誘電率の高いNPを多く用いることで、CSの周りにNafion(登録商標)が厚く被覆しすぎてしまい、アイオノマーの抵抗が大きくなってしまったためではないかと考えられる。
【実施例】
【0074】
[実験5]
(有機溶媒とNafion(登録商標)の比の影響)
CS:CB:Nafion(登録商標)=4:1:1、BA:NP=1:4で電極を作製してI-V測定を行った。その測定結果を図11に示す。その結果から、最大電流密度は有機溶媒の配合比、Nafion(登録商標)の比を変えたことで向上したことがわかる。
【実施例】
【0075】
[実験6]
(二段階混合におけるCBの影響)
CSは親水性であるのに対してNafion(登録商標)は疎水性であるため、CSとNafion(登録商標)とは一様に分散せず、疎水性のCBを電極触媒層に添加することで、Nafion(登録商標)の分散が良好となり、反応場が多くなって性能を向上させるということが上記の実験からわかった。しかし、二段階混合にしたことで、有機溶媒であるNPによってNafion(登録商標)が均等に分散したと考えられた。ここで、二段階目の混合で、CBは必要なのか調べるために、同じ二段階混合でCSの量とNafion(登録商標)の量は変えずに、CBを添加したものとしていないものとを作製して比較した。そのI-V測定結果を図12に示す。I-V結果から最大電流密度はCB添加した電極のほうが性能が高くなっている。CB添加なしのほうは、高電流密度域で性能が下がっている。しかし、低電流密度域でみるとCB添加がないほうが性能は高い。これは、CBを無くしたことで、電子の導電率が悪くなったためであると考える。
【実施例】
【0076】
[結果]
<CB添加の添加による影響>
親水性のシルク活性炭(CS)と主鎖は疎水性であるNafion(登録商標)との分散をよくするために、疎水性のカーボンブラック(CB)を添加した結果、CSとNafion(登録商標)との相分離が最小限になって、CSとNafion(登録商標)の繋がりが良くなり、反応場である三相界面が増加することがわかった。また、疎水性のCBを添加したことにより、疎水性層が形成され、層内部への酸素の輸送と層内で発生する水の除去が促進されることがわかった。この結果から、疎水性材料の添加により、性能が向上し、触媒近傍へのプロトンの供給が改善された。
【実施例】
【0077】
<有機溶媒の違いによる影響>
Nafion(登録商標)を分散させるために加えている有機溶媒がどのように性能に影響しているのかを調査した結果、有機溶媒によってCSに付着するNafion(登録商標)の形状が変わり、各電流密度域で有効な部分が異なることがわかった。Nafion(登録商標)の形状がBAを使用してコロイド状になったときは、高電流密度域で有効に働き、NPを使用して溶液状になったときは、低電流密度域で有効に働くことがわかった。
【実施例】
【0078】
<混ぜ方の違いによる性能比較(BAとNP)>
BAとNPの有効に働く部分を組み合わせてより反応場の多い電極触媒層構造とするため、先にCSとNafion(登録商標)とNPを混合し、その後にCBとBAを混合して電極触媒層形成用インクを作製した。その結果、CSがNafion(登録商標)で被覆されることと、コロイド状のNafion(登録商標)が膜厚方向に繋がることで、Hが供給され易くなり、有効な反応場が増え、最大電流密度が向上した。
【実施例】
【0079】
<Nafion(登録商標)の混合比と有機溶媒の配合比による影響>
Nafion(登録商標)が少ない電極のほうが最大電流密度が高くなる。これは、Nafion(登録商標)が多いとCSの隙間にNafion(登録商標)が入り込んでしまい、繋がりが悪くなったためである。BAとNPの比を変えて発電実験を行った結果、NPを多く混ぜたBA:NP=1:4では、低電流密度域で有効に作用しているが、高電流密度域ではうまく使われていない部分があった。これは、NPを多く用いることで、CSの周りにNafion(登録商標)が厚く被覆しすぎてしまい、アイオノマーの抵抗が大きくなってしまったためではないかと考える。これらのことから、高電流密度域ではNafion(登録商標)が少なくNPが多いほうが良く、低電流密度域ではNPが多いほうが良いことが示唆された。この2つを組み合わせたNafion(登録商標)を減らしつつ、NPを増やした電極で発電を行った結果、最大電流密度は向上した。
【実施例】
【0080】
<CBの有無の影響(二段階混合)>
二段階混合にしたことで、NPによってNafion(登録商標)が均等に分散したと考えられた。ここで、二段階目の混合で、CBは必要なのか調べるために再度CB添加の有無による性能比較を行った結果、CBを添加することで高電流密度域で性能が良くなることが確認できた。これらの結果から、有機溶媒、混合方法を変えてもCBは有効に働いていることがわかった。
【符号の説明】
【0081】
1 電極触媒層
2 炭素触媒
3 イオン導電性高分子
4 炭素粒子
5 隙間

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11