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明細書 :SiC単結晶の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-168020 (P2018-168020A)
公開日 平成30年11月1日(2018.11.1)
発明の名称または考案の名称 SiC単結晶の製造方法
国際特許分類 C30B  29/36        (2006.01)
C30B  19/00        (2006.01)
FI C30B 29/36 A
C30B 19/00 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-067147 (P2017-067147)
出願日 平成29年3月30日(2017.3.30)
新規性喪失の例外の表示 新規性喪失の例外適用申請有り
発明者または考案者 【氏名】太子 敏則
【氏名】玄 光龍
【氏名】沓掛 穂高
【氏名】鈴木 晧己
【氏名】高橋 大
【氏名】土本 直道
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4G077
Fターム 4G077AA02
4G077BE08
4G077CG02
4G077EG02
4G077HA05
4G077QA04
4G077QA52
要約 【課題】カーボンからなるるつぼを使用して溶液法によりSiC単結晶を製造する際に、確実にかつ効率的にSiC単結晶を得ることを可能にするSiC単結晶の製造方法の提供。
【解決手段】Si融液を収容するカーボンからなるるつぼを使用し、前記るつぼ内でSi融液の液面が接する範囲に、前記るつぼを構成するカーボンと比較してSi融液との濡れ性を低くする処理を施したるつぼを使用してSiCの単結晶を育成するSiC単結晶の製造方法。前記Si融液との濡れ性を低くする処理として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、窒化ケイ素(Si4C4)から選択されるいずれか一つの這い上がり抑制材を、前記るつぼの内壁面に被覆する処理を施したるつぼを使用するSiC単結晶の製造方法。
【選択図】図8
特許請求の範囲 【請求項1】
Si融液を収容するカーボンからなるるつぼを使用し、溶液法によりSiCの単結晶を製造する方法であって、
前記るつぼとして、前記るつぼ内でSi融液の液面が接する範囲に、前記るつぼを構成するカーボンと比較してSi融液との濡れ性を低くする処理を施したるつぼを使用してSiCの単結晶を育成することを特徴とするSiC単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記Si融液との濡れ性を低くする処理として、前記るつぼの内壁面に、前記カーボンと比較してSi融液との濡れ性が低い這い上がり抑制材を被覆する処理を施したるつぼを使用することを特徴とする請求項1記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記這い上がり抑制材として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、窒化ケイ素(Si4C4)から選択されるいずれか一つを使用することを特徴とする請求項2記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記Si融液との濡れ性を低くする処理として、前記るつぼの内壁面に、前記カーボンと比較してSi融液との濡れ性を低くする改質処理を施したるつぼを使用することを特徴とする請求項1記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記坩堝の内壁面に、前記Si融液との濡れ性を低くする処理が前記るつぼの内壁面に施され、
前記Si融液との濡れ性を低くする処理が施された範囲を除く前記るつぼの表面が露出するるつぼを使用することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載のSiC単結晶の製造方法。






発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は溶液法を用いるSiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは次世代のパワーデバイス用材料として注目されている。このSiCを電子デバイス用の材料として使用するためには高品質のSiCの単結晶を得る必要がある。単結晶の製造方法には様々あるが、溶液法(溶液引上げ法)は融液法により単結晶を製造するシリコンの単結晶の製造に類似し、高品質で大型の単結晶を効率的に製造する方法として有効である。しかしながら、SiCの単結晶の製造に溶液法を適用する場合に、SiCを出発材料とすると、SiCは常圧下で加熱した場合、2000℃で昇華してしまい、融液とならない。したがって、単に一般的な溶液法を利用する方法ではSiCの単結晶を作製することができない。
【0003】
このため、溶液法によってSiC単結晶を製造する方法として従来行われている手法は、カーボンからなるるつぼに、組成材料であるシリコン(Si)を供給し、Siを融解してSiC単結晶を製造する方法(TSSG法)である。この製造方法では、るつぼからカーボン(C)がSiの融液に溶け出すことでSiにCが供給され、SiCの単結晶が成長する。
しかしながら、カーボンのるつぼからSiの融液へ溶け出す炭素量は僅かであり(1500℃で0.01%以下、2050℃で約0.45%)、SiC単結晶の成長速度を向上させるには、Siの融液により多くのCを溶解させる必要がある。Siの融液に効率的にCを溶解させる方法として考えられている方法が、CrやTi、AlをSiの融液に加えることによりCがSiの融液に溶け込みやすくする方法である(特許文献1、2、3)。この方法であれば、カーボンからなるるつぼから効率的にSiの融液にCを溶解させることができ、SiCの単結晶を形成することができる。
【0004】
しかしながら、カーボンのるつぼを使う方法では、SiCが結晶成長するにしたがってSi-Cの溶液から次第にSi成分が失われ、溶液の組成が変化してしまうという問題がある。また、カーボンからなるるつぼから過剰にCが融液中に溶け出してSi-Cの溶液の組成が変化するという問題、溶液の組成が変化することにより結晶欠陥が生じて完全な単結晶にならないという問題もある。
これらの問題を解消する方法として、SiC成長開始後にSiCを補給する方法(特許文献4)や、SiCを主成分とするるつぼを使用する方法(特許文献5)等がある。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2000-264790号公報
【特許文献2】特開2004-2173号公報
【特許文献3】特開2008-303125号公報
【特許文献4】特開2011-98853号公報
【特許文献5】特開2015-110501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンのるつぼを使用して溶液法によりSiC単結晶を製造する方法(TSSG法)においては、結晶成長時における、るつぼ内部の温度分布や温度勾配といった結晶育成条件を数値解析によって分析する方法が利用されている。
本発明者は、溶液法による結晶成長におけるるつぼやるつぼ内部の温度分布等を高精度に分析し、溶液法によりSiC単結晶を成長させる際の課題を明らかにすることにより本発明を想到したものである。
本発明は、カーボンからなるるつぼを使用して溶液法によりSiC単結晶を製造する際に、確実にSiC単結晶を製造することを可能にするSiC単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、Si融液を収容するカーボンからなるるつぼを使用し、溶液法によりSiCの単結晶を製造する方法であって、前記るつぼとして、前記るつぼ内でSi融液の液面が接する範囲に、前記るつぼを構成するカーボンと比較してSi融液との濡れ性を低くする処理を施したるつぼを使用してSiCの単結晶を育成することを特徴とする。
前記るつぼにSi融液との濡れ性を低くする処理を施す場合には、るつぼの内壁面でSi融液の液面が接触する範囲についてSi融液との濡れ性を低くする処理を施し、この処理を施した領域を除く範囲については、るつぼの表面を露出させる。溶液法によりSiCの単結晶を製造する方法では、カーボンからなるるつぼの表面を露出させ、るつぼからカーボンがSi融液に溶出するようにする必要があるからである。
【0008】
前記Si融液との濡れ性を低くする処理として、前記るつぼの内壁面に、前記カーボンと比較してSi融液との濡れ性が低い這い上がり抑制材を被覆する処理を施したるつぼを使用することができる。
また、前記這い上がり抑制材としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、炭化ホウ素(B4C)、窒化ケイ素(Si4C4)から選択されるいずれか一つを使用することができる。
這い上がり抑制材として炭化ケイ素以外の材料を使用した場合は、Si融液中にSiC以外の材料が入り込む可能性があり、得られたSiC単結晶中にこれらの物質が不純物として混入する可能性があるが、得られたSiC単結晶を純粋なSiCのエピタキシャル用基板として使用するといった用途に用いる場合は問題なく利用できる。
【0009】
また、前記Si融液との濡れ性を低くする処理として、前記るつぼの内壁面に、前記カーボンと比較してSi融液との濡れ性を低くする改質処理を施したるつぼを使用することができる。Si融液との濡れ性を低くする改質処理としては、例えば、プラズマ処理、高温耐熱塗料をコーティングする方法:パイロコート(登録商標)等が使用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るSiC単結晶の製造方法によれば、結晶育成工程において、るつぼに収容されているSi融液の液面がるつぼの内壁に接する部位での這い上がりが抑制され、SiCの種結晶に優先的にSiC結晶が晶出し、SiC単結晶を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】SiC単結晶の製造装置の主要部の構成を示す断面図である。
【図2】るつぼ内の溶液の温度分布を数値解析した結果を示す図である。
【図3】るつぼ内の溶液の温度分布を数値解析した結果を示す図である。
【図4】SiC結晶の育成実験後、種結晶を取り付けた支持部を下面側から見た写真(a)と種結晶の断面写真(b)である。
【図5】SiC結晶の育成実験後のるつぼの断面写真(a)とるつぼの内壁の周縁部の断面を拡大して示す写真(b)である。
【図6】るつぼの中心部の種結晶を配置する部位に比べて、るつぼの内壁周縁部の温度が高くなるように解析条件を設定してるつぼ内部の温度分布を数値解析した結果を示す図である。
【図7】SiC結晶の育成実験後、種結晶を取り付けた支持部を下面側から見た写真(a)と種結晶部分の断面写真(b)である。
【図8】SiC結晶の育成実験後のるつぼの断面写真(a)とるつぼの内壁の周縁部の断面を拡大して示す写真(b)である。
【図9】るつぼの内壁面に窒化ホウ素(BN)をコーティングした状態のるつぼをるつぼの上方から見た写真である。
【図10】るつぼにシリコンを収容した状態を示す写真である。
【図11】実験例1でSiC単結晶を育成した後のるつぼをるつぼの上方から見た写真である。
【図12】実験例1でSiC単結晶を育成した後のるつぼを断面方向から見た写真である。
【図13】実験例2でSiC単結晶を育成した後のるつぼをるつぼの上方から見た写真である。
【図14】実験例2でSiC単結晶を育成した後のるつぼを断面方向か見た写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(数値解析:溶液の温度分布)
カーボンのるつぼを使用して溶液引上げ法によりSiC単結晶を製造する(TSSG法)際における、るつぼ内の溶液の温度分布を数値解析に基づいて解析した。
図1は解析の対象であるSiC単結晶の製造装置の主要部の構成を示す。この製造装置は、準高密度カーボンからなる外容器10aと高密度カーボンからなる内容器10bとからなるるつぼ10と、SiCの種結晶20を支持する支持部12と、るつぼを支持する昇降支持部14とを備える。

【0013】
SiCの種結晶20は支持部12の下端面に装着される。支持部12は軸線の回りに回転可能に支持されており、結晶育成時に一定速度で回転駆動される。
るつぼ10は、外容器10aの下部で昇降支持部14により開口部を鉛直上向きとして支持される。昇降支持部14も軸線の回りに回転可能に支持されており、結晶育成時に一定速度で回転駆動される。なお、結晶育成時のるつぼ10と種結晶20の回転の向きは逆向きに設定される。

【0014】
昇降支持部14の周囲にはカーボンヒータ16が配設されている。るつぼ10とカーボンヒータ16との相対的な高さは、昇降支持部14によりるつぼ20の高さ位置を調節することよってなされる。
るつぼ20にはSiが供給され、結晶育成時には、るつぼ10に供給されたSiはSi融液30となる。
なお、結晶育成時の加熱炉内の、るつぼ10の周囲と、支持部12、昇降支持部14、カーボンヒータ16の内部空間にはアルゴンガスが通流される。

【0015】
図2、図3は、るつぼ10内の温度分布を数値解析した結果を示す。数値解析にはSTR社の結晶育成シミュレーションソフトCGSimを使用した。
図2は、SiCの種結晶とSi融液とがメニスカス状に接するとした条件に基づく解析結果、図3は種結晶とSi融液とがメニスカス状に接する条件に加えて、Si融液がるつぼの内壁面に這い上がる条件を設定して数値解析した結果を示す。
数値解析における解析条件を以下に示す。
るつぼの内径: 40mm
シリコン充填量: 85.4g
るつぼの回転速度: 左回転 1rpm
種結晶の回転速度: 右回転 1rpm
加熱炉内雰囲気: Arガス 1atm
種結晶温度: 1960K
シリコンの表面張力: 0.7N/m
種結晶メニスカス高さ: 1.0mm
るつぼとの接触角: 25°

【0016】
図2と図3に示すように、数値解析結果から、種結晶の中心位置、種結晶の周縁部のメニスカスの位置、るつぼの内壁の這い上がり位置での温度は下記のようになった。
種結晶の中心位置: 図2 1962.7K 図3 1959.6K
種結晶の周縁部: 図2 1971.8K 図3 1968K
這い上がり位置: 図2 1952.4K 図3 1927.4K
この図2と図3に示した解析結果において特徴的な差異は、SiCの種結晶とSi融液とが接するるつぼの中央部付近の温度と、Si融液がるつぼの内壁に接する内壁周縁部の温度との差異である。すなわち、図2の解析結果では、るつぼの中央部近傍とるつぼの内壁周縁部の温度差は19℃程度であるのに対して、図3の解析結果では、るつぼの中央部近傍と比較してるつぼの内壁周縁部の温度が明らかに低く、その温度差が40℃程度もあることである。

【0017】
また、SiCの種結晶とSi融液とがメニスカス状に接する条件に加えて、Si融液がるつぼの内壁面に這い上がる条件を設定すると、Si融液がカーボンるつぼの内壁に濡れ上がる高さが6mmになった。
この解析結果は、Si融液がるつぼの内壁面に這い上がる条件を設定すると、るつぼ内部の温度分布が、Si融液がるつぼの内壁面に這い上がる条件を設定していない場合と比較して、大きく異なるものになることを示している。

【0018】
(結晶育成実験)
図2、3に示す解析結果は、るつぼの内壁にSi融液が這い上がることを考慮した場合には、るつぼの中央部とるつぼの内壁周縁部(融液が這い上がる部位)では大きな温度差が生じることを示している。
この解析結果に基づき、図2、3の解析結果を得た解析条件とまったく同一の結晶育成条件にしたがって、SiC単結晶を育成する実験を行い、結晶の育成状態を確かめる実験を行った。結晶育成の実験では、るつぼの内径や種結晶温度等はすべて前述した解析条件と同一とし、実際の育成条件として、下記の条件で結晶を育成した。
保持時間: 4時間
種結晶: 4H-SiC C面
種結晶の厚さ:330μm

【0019】
図4は、SiC結晶の育成実験後、るつぼから種結晶の部分を取り出した状態の写真である。図4(a)は種結晶を取り付けた支持部を下面側から見た写真、図4(b)は、種結晶の断面写真である。図4(a)、(b)は、種結晶からSiCが結晶成長しなかったこと、種結晶がメルトバックしてしまったことを示す。

【0020】
図5(a)は、SiC結晶の育成実験後のるつぼの断面写真、図5(b)はるつぼの内壁の周縁部を拡大して示す写真である。図5(a)、(b)から、Si融液がるつぼの内壁に這い上がって育成されることに加えて、図5(b)の拡大写真から、るつぼの内壁のSi融液が這い上がった部位に多量のSiC微結晶が晶出していることが分かる。
この実験結果は、種結晶に晶出すべきSiCが、るつぼの内壁の周縁部近傍に晶出してしまったことを示す。

【0021】
(数値解析:改良 溶液の温度分布)
図6はるつぼの内壁周縁部にSiCの微結晶ができるだけ晶出しないように、るつぼの中心部の種結晶を配置する部位に比べて、るつぼの内壁周縁部の温度が高くなるように解析条件を設定して数値解析した例(改良版)である。るつぼの内壁近傍の温度をるつぼの中心部よりも高く設定することにより、るつぼの中心に配置した種結晶に、るつぼの周縁部よりも優先的にSiCが晶出するように想定した。
このときの解析条件(育成条件)を下記に示す。
るつぼの内径: 40mm
シリコン充填量: 37.8g
るつぼの回転速度: 左回転 1rpm
種結晶の回転速度: 右回転 1rpm
加熱炉内雰囲気: Arガス 1atm
種結晶温度: 2081K
シリコンの表面張力: 0.7N/m
種結晶メニスカス高さ: 3.0mm
るつぼとの接触角: 25°

【0022】
図6に示す解析結果は、るつぼの中心位置の温度が2081.1K、種結晶の周縁部の温度が2083.9K、るつぼ内壁周縁の温度が2085.2Kとなり、るつぼの中心部の温度がるつぼの内壁周縁部よりも高くなっている。

【0023】
(結晶育成実験:改良)
次に、図6に示す解析結果を確かめるため、上記の解析条件(育成条件)にしたがって、SiC結晶を育成する実験を行った。なお、このときの育成条件は、図6に示す育成条件に加えて、下記の条件を設定した。この育成条件は、図5に示す実験結果を得たときと同一の条件である。
保持時間: 4時間
種結晶: 4H-SiC C面
種結晶の厚さ:330μm

【0024】
図7(a)は、SiC結晶の育成実験後、るつぼから取り出した種結晶を取り付けた支持部を下面側から見た写真、図7(b)は種結晶部分の断面写真である。種結晶部分の断面写真から、SiC結晶が種結晶の部分で厚さ70μm程度成長したことがわかる。
また、図8(a)は、るつぼの断面写真、図8(b)はるつぼの周縁部近傍の断面を拡大して示す写真である。図8(a)、(b)から、このSiCの育成実験では、Si融液の這い上がり部分に晶出したSiCの微結晶は少ないことが分かる。

【0025】
図7、8に示すSiC結晶の育成実験は、カーボンからなるるつぼを使用して溶液法(TSSG法)によりSiC単結晶を製造する際には、るつぼの内壁周縁部にできるだけSiCの微結晶を晶出させないようにるつぼ内部の温度分布を制御して育成する方法が有効であることを示唆する。

【0026】
(実験例1)
上述した分析結果から、溶液法によりSiC単結晶を製造する際に、るつぼに収容されているSi融液の液面がるつぼと接触する部位でSi融液がるつぼの内壁面に這い上がることを抑えることができれば、Si融液の液面がるつぼの内壁面と接触する部位の近傍でSiCの微結晶が晶出することを抑制することができ、種結晶に効率的にSiCを晶出させることが可能になると考えられる。

【0027】
図9は、カーボンからなるるつぼの内壁面に、Si融液の這い上がりを抑制する這い上がり抑制材として窒化ホウ素(BN)をコーティングした状態を示す。BNのコーティングはるつぼの底面を除く、るつぼの内壁面(側面部分)に施した。
窒化ホウ素のコーティングには、窒化ホウ素を主成分とする既成のコーティング材(株式会社オーデック製:BNコート)を使用した。コーティング処理では、BNコーティング材をるつぼの内壁面に0.3mm程度の厚さにコーティングした。
BNコーティングした後、24時間自然乾燥させ、次いでホットプレートを用いて約300℃で加熱処理した。
BNコーティングはできるだけ薄くするのがよい。BNコーティングの厚さが厚いと加熱時(結晶育成中)にコーティング部分にクラックが生じ、結晶育成中にコーティング材が剥離してしまうおそれがあるからである。

【0028】
図10は、内壁面に窒化ホウ素のコーティングを施したるつぼに結晶材料の小片状のシリコンを入れた状態を示す。
るつぼの内径40mm、るつぼの上面からるつぼの内底部までの高さ47mm、るつぼの上面からつるぼの底面までの高さは55mmである。
るつぼに供給したシリコンの分量は、溶融した状態でSi融液の高さが約20mmとなる量(65.001g)である。

【0029】
図11、12は、上述したシリコンを収納したるつぼを加熱炉にセットし、結晶育成した後、加熱炉から取り出したるつぼを示す。
結晶育成条件
結晶育成温度:1800℃
成長時間: 4時間
種結晶: 4H-SiC C面 オフ角4°
なお、結晶育成温度は、るつぼの底部(るつぼの下面に接触させた熱電対)の温度である。成長時間はSi融液に種結晶を種子付けして結晶を育成していた時間である。
図11は、結晶育成後のるつぼを上方から見た状態である。るつぼの内壁面にコーティングした窒化ホウ素は気化し、るつぼの内壁面には残っていない。

【0030】
図12(a)、(b)は、るつぼの断面を示す。るつぼ内には種結晶と溶融して固化したシリコンが残っているが、シリコンとるつぼの内壁面との接触部分の這い上がりを観察すると、窒化ホウ素をコーティングしていないるつぼを使った場合と比較して、這い上がり量が抑制され、Siとるつぼ内壁面との濡れ角も緩やかになっていることが分かる。

【0031】
(実験例2)
実験例1と同様に、るつぼの内壁面に窒化ホウ素をコーティングしたるつぼを使用してSiC単結晶を育成する実験を行った。
結晶育成条件
結晶育成温度:1800℃
成長時間: 200分
種結晶: 4H-SiC C面 オフ角4°
るつぼに供給したシリコンの分量は85.405gである。

【0032】
図13は、結晶育成後に加熱炉から取り出したるつぼをるつぼの上方から見た状態である。るつぼの内壁面に施したBNコーティングは残っていない。
図14(a)、(b)は、るつぼの断面を示す。図14(a)、(b)はるつぼを異なる断面で切断した状態である。図14(a)、(b)から、種結晶が接触していたるつぼの中央部分(固化したシリコンの中央部分)が盛り上がった形態となっていることが分かる。るつぼに収容されたシリコンの中央部分が盛り上がる形態になった理由は、るつぼの内壁面でのSi融液の這い上がりが抑えられ、Si融液の液面が全体として平面的な形態になり、種結晶がSi融液と接触する部位で種結晶の外面にSi融液が付着しやすくなったためと考えられる。
この実験結果も、るつぼの内壁面にBNコーティングを施すことにより、Si融液がるつぼの内壁面で這い上がることを抑制する作用効果があることを示している。
【符号の説明】
【0033】
10 るつぼ
10a 外容器
10b 内容器
12 支持部
14 昇降支持部
16 カーボンヒータ
20 種結晶
30 Si融液

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13