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明細書 :口腔内バイオフィルム抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6541111号 (P6541111)
登録日 令和元年6月21日(2019.6.21)
発行日 令和元年7月10日(2019.7.10)
発明の名称または考案の名称 口腔内バイオフィルム抑制剤
国際特許分類 A61K   6/08        (2006.01)
A61K  31/4425      (2006.01)
A61P   1/02        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
FI A61K 6/08 H
A61K 31/4425
A61P 1/02
A61P 31/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2016-544275 (P2016-544275)
出願日 平成27年8月21日(2015.8.21)
国際出願番号 PCT/JP2015/073635
国際公開番号 WO2016/027901
国際公開日 平成28年2月25日(2016.2.25)
優先権出願番号 2014169033
優先日 平成26年8月22日(2014.8.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年8月2日(2018.8.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】大森 一弘
【氏名】伊東 孝
【氏名】高柴 正悟
【氏名】入江 正郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100113181、【弁理士】、【氏名又は名称】中務 茂樹
【識別番号】100180600、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
審査官 【審査官】鶴見 秀紀
参考文献・文献 特表2002-503520(JP,A)
特開2009-167204(JP,A)
特開2013-43869(JP,A)
米国特許出願公開第2012/0027829(US,A1)
米国特許出願公開第2013/0189337(US,A1)
米国特許出願公開第2011/024431(US,A1)
国際公開第02/47572(WO,A1)
国際公開第2008/100451(WO,A1)
米国特許第5330746(US,A)
歯科材料・器械,1985年,Vol.4,No.4,Page.307-314
日本歯科保存学雑誌,2013年,Vol.56,No.2,Page.138-143
Contributions Sec.Biol.Med.Sci,2012年,Vol.33,No.1,pp.243-263
調査した分野 A61K 6/00-6/10
A61K 31/00-31/80
A61P 1/02
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
塩化セチルピリジニウムを含む硬化性組成物からなり、該組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が10MPa以下であり、かつ前記塩化セチルピリジニウムの含有量が0.001~3重量%であることを特徴とする口腔内バイオフィルム抑制剤。
【請求項2】
塩化セチルピリジニウムを含む硬化性組成物を歯質欠損部位に塗布することにより該組成物を歯質欠損部位で硬化させ、該硬化された組成物が崩壊することにより口腔内におけるバイオフィルムを抑制するために用いられる請求項1記載の口腔内バイオフィルム抑制剤。
【請求項3】
前記硬化された組成物が崩壊した部位に前記硬化性組成物を再度塗布する請求項2記載の口腔内バイオフィルム抑制剤。
【請求項4】
硬化性組成物と塩化セチルピリジニウムとからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであって、
口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度が10MPa以下であり、かつ
前記口腔内バイオフィルム抑制剤における塩化セチルピリジニウムの含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである口腔内バイオフィルム抑制剤キット。
【請求項5】
硬化性組成物と水を主成分とする液剤とからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであって、
硬化性組成物又は水を主成分とする液剤の少なくとも一方が塩化セチルピリジニウムを含有し、
口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度が10MPa以下であり、かつ
前記口腔内バイオフィルム抑制剤における塩化セチルピリジニウムの含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである口腔内バイオフィルム抑制剤キット。
【請求項6】
塩化セチルピリジニウムを含む硬化性組成物からなる口腔内バイオフィルム抑制剤の製造方法であって、
口腔内バイオフィルム抑制剤における塩化セチルピリジニウムの含有量が0.001~3重量%となるように硬化性組成物と塩化セチルピリジニウムとを混合する請求項1~3のいずれか記載の口腔内バイオフィルム抑制剤の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内バイオフィルム抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、う蝕、歯周病、歯肉炎、口臭などの口腔疾患は、口腔内に存在する様々な細菌等が原因であることが知られている。一般に、口腔細菌等の多くは口腔内に単独で存在しているのではなく、バイオフィルムと呼ばれる細菌等の集合体を形成して口腔内に存在している。そのため、口腔疾患を予防する観点から、口腔内のバイオフィルムを抑制することが重要である。
【0003】
特許文献1には、硫酸カルシウム10~90重量%、酢酸ビニル樹脂5~40重量%、無機充填材1~40重量%、沸点が110℃以上のアルコール類1~30重量%及び非イオン系界面活性剤0.001~5重量%からなる歯科用水硬性仮封材組成物が記載されている。これによれば、従来の歯科用水硬性仮封材よりも初期の硬化性に優れ、封鎖性が高く、口腔内における充填の操作性も極めて良好である歯科用水硬性仮封材組成物を提供することができるとされている。しかしながら、特許文献1にはバイオフィルムを抑制することについての記載も示唆もなかった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2011-213608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、口腔内のバイオフィルムの抑制効果に優れた口腔内バイオフィルム抑制剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、抗菌剤を含む硬化性組成物からなり、該組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下であり、かつ前記抗菌剤の含有量が0.001~3重量%であることを特徴とする口腔内バイオフィルム抑制剤を提供することによって解決される。
【0007】
このとき、抗菌剤を含む硬化性組成物を歯質欠損部位に塗布することにより該組成物を歯質欠損部位で硬化させ、該硬化された組成物が崩壊することにより口腔内におけるバイオフィルムを抑制するために用いられる口腔内バイオフィルム抑制剤であることが好ましい。
【0008】
また、前記硬化された組成物が崩壊した部位に前記硬化性組成物を再度塗布することも本発明の好適な実施態様である。
【0009】
上記課題は、硬化性組成物と抗菌剤とからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであって、口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下であり、かつ前記口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである口腔内バイオフィルム抑制剤キットを提供することによっても解決される。
【0010】
また、上記課題は、硬化性組成物と水を主成分とする液剤とからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであって、硬化性組成物又は水を主成分とする液剤の少なくとも一方が抗菌剤を含有し、口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下であり、かつ前記口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである口腔内バイオフィルム抑制剤キットを提供することによっても解決される。
【0011】
さらに、上記課題は、抗菌剤を含む硬化性組成物からなる口腔内バイオフィルム抑制剤の製造方法であって、口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように硬化性組成物と抗菌剤とを混合する口腔内バイオフィルムの製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、口腔内のバイオフィルムの抑制効果に優れた口腔内バイオフィルム抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1、比較例1及び2における、硬化物の圧縮強度を示したグラフである。
【図2】実施例1、比較例1及び2における病理組織学的検査の写真である。
【図3】実施例1、比較例1及び2における、6時間後及び12時間後の培養液のATP量を示したグラフである。
【図4】実施例1、比較例1及び2における、培養液浸漬後の硬化物の表面の電子顕微鏡写真(1000倍及び10000倍)である。
【図5】比較例3~5における、硬化物の圧縮強度を示したグラフである。
【図6】比較例3~5における、6時間後及び12時間後の培養液のATP量を示したグラフである。
【図7】比較例3~5における、培養液浸漬後の硬化物の表面の電子顕微鏡写真(1000倍及び10000倍)である。
【図8】実施例2、比較例6及び7における、6時間後及び12時間後の培養液のATP量を示したグラフである。
【図9】実施例2、比較例6及び7における、培養液浸漬後の硬化物の表面の電子顕微鏡写真(1000倍及び10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、抗菌剤を含む硬化性組成物からなり、前記組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下であり、かつ前記抗菌剤の含有量が0.001~3重量%である口腔内バイオフィルム抑制剤であることを特徴とする。本発明において、当該組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が特定の値以下であり、かつ抑制剤における抗菌剤の含有量が特定の範囲内であることが極めて重要である。本発明者らは、このような条件を満たす場合にのみ、本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤がバイオフィルムに対して優れた抑制効果を示すことを見出した。

【0015】
本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量は0.001~3重量%であることが重要である。抗菌剤の含有量がこの範囲にあるとき、培養液における抗菌性の効果が確認され、硬化物の表面にはバイオフィルムが形成されていないことが確認された。抗菌剤の含有量が3重量%を超えるとバイオフィルムを抑制することが困難である。後述する実施例でも明らかにされているように、抗菌剤の含有量が5重量%であった硬化物を、S.mutans培養液に浸した場合、当該培養液における抗菌性の効果を確認することはできたが、硬化物の表面にはバイオフィルムが形成されていた。抑制剤における抗菌剤の含有量が多くなるとバイオフィルムを抑制する効果がかえって低下することは、本発明者らが検討して初めて明らかとなったことであり、まさに驚くべきことである。したがって、抗菌剤の含有量を3重量%以下とする構成を採用する意義が大きい。

【0016】
一般に、カチオン性の抗菌剤は苦みを有するものが多いことが知られている。口腔に入れたときの苦みを抑える観点から、抗菌剤の含有量はより少ない方が好ましい。かかる観点から抗菌剤の含有量は、2重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。一方、抗菌剤の含有量が0.001重量%未満の場合もバイオフィルムを抑制することができず、抗菌剤の含有量は、0.005重量%以上であることが好ましく、0.01重量%以上であることがより好ましい。

【0017】
本発明において、抗菌剤の種類は特に限定されない。抗菌剤としては、塩化セチルピリジニウム(CPC)などのカチオン性抗菌剤、チモール、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)などを挙げることができる。

【0018】
本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤において、抗菌剤を含む硬化性組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下であることも重要である。圧縮強度が150MPaを超えるとバイオフィルムを抑制することが困難となり、圧縮強度は、100MPa以下であることが好ましく、50MPa以下であることがより好ましく、25MPa以下であることがさらに好ましく、10MPa以下であることが特に好ましい。一方、圧縮強度が小さすぎると付形性を保てないおそれがあるため、通常、0.01MPa以上であり、好適には0.05MPa以上である。本発明における硬化物の圧縮強度は、JIS T6602に記載された「圧縮強さ試験」に準拠して規定されるものである。後述する実施例から分かるように、3個の硬化物について、クロスヘッドスピード毎分2mmの速さで加圧し硬化物が破砕したときの荷重を測定して平均値を算出することにより圧縮強度が求められる。

【0019】
硬化性組成物の種類としては、抗菌剤を含む硬化性組成物が硬化して得られる硬化物の圧縮強度が150MPa以下になるものであれば特に限定されない。硬化性組成物としては、水硬性組成物、光硬化性組成物、熱硬化性組成物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、水硬性組成物は、水を主成分とする液剤と反応して硬化するので操作性が良い。この点から、硬化性組成物は水硬性組成物であることがより好ましく、唾液中の水分と反応して硬化するため硫酸カルシウムを主成分として含有する水硬性組成物であることがさらに好ましい。ここで本明細書において、水を主成分とする液剤とは、純水であっても、水を主成分とし他の成分を含有する液剤であってもよい。また、主成分とは、通常、含有量が50重量%以上である成分であり、好適には80重量%以上である成分である。

【0020】
硬化性組成物が硬化する前の形態も特に限定されないが、口腔内への塗布が容易である点から、ペースト状であることが好ましい。

【0021】
口腔内バイオフィルム抑制剤は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、抗菌剤以外の成分を含有しても構わない。例えば、香料、着色料、増粘剤などを適宜配合することができる。これら成分の含有量は、通常、10重量%以下であり、5重量%以下であることが好ましい。

【0022】
本発明において、抗菌剤を含む硬化性組成物を歯質欠損部位に塗布することにより該組成物を歯質欠損部位で硬化させ、該硬化された組成物が崩壊することにより口腔内におけるバイオフィルムを抑制するために用いられる口腔内バイオフィルム抑制剤であることが好ましい。

【0023】
本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤は、適度な圧縮強度を有しているため、咀嚼などにより、抑制剤の一部が崩壊することがある。そして、抑制剤が崩壊することにより該抑制剤に含まれている抗菌剤が口腔内に放出される。その結果、口腔内のバイオフィルムをより効果的に抑制することができる。

【0024】
このとき、硬化された組成物が崩壊した部位に、抗菌剤を含む硬化性組成物を再度塗布することが本発明の好適な実施態様である。このようにすることで、口腔内を常に清潔に保つことができる。

【0025】
抗菌剤を含む硬化性組成物を歯質欠損部位に塗布する方法としては、歯質欠損部位を十分に封鎖することのできる方法であれば特に限定されない。歯質欠損部位としては、う蝕や歯周病で歯質が欠損した部位、外傷により歯質が欠損した部位、窩洞などが挙げられる。硬化性組成物を歯質欠損部位で硬化させる方法も限定されない。硬化性組成物が硫酸カルシウムを主成分とする水硬性組成物である場合、唾液中の水分と反応して硬化するので硬化方法が簡便である。水硬性組成物を歯質欠損部位に塗布した後、必要に応じて当該組成物の表面に水を散布することもできる。

【0026】
硬化性組成物と抗菌剤とからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。このとき、口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度は150MPa以下である。また、該キットは、口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである。

【0027】
硬化性組成物と水を主成分とする液剤とからなる口腔内バイオフィルム抑制剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。このとき、硬化性組成物又は水を主成分とする液剤の少なくとも一方が抗菌剤を含有する。口腔内バイオフィルム抑制剤を硬化して得られる硬化物の圧縮強度は150MPa以下である。また、該キットは、口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように混合して使用するものである。

【0028】
本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤の製造方法は特に限定されないが、口腔内バイオフィルム抑制剤における抗菌剤の含有量が0.001~3重量%となるように硬化性組成物と抗菌剤とを混合する方法である。硬化性組成物と抗菌剤とを混合する方法としては特に限定されず、手混合や混合装置などを用いて行うことができる。歯質欠損部位に塗布する直前に硬化性組成物と抗菌剤とを混合して調製してもよい。本発明において、水を主成分とする液剤を用いる場合には、抗菌剤を含む硬化性組成物に水を主成分とする液剤を混合してもよいし、硬化性組成物に水を主成分とし抗菌剤を含む液剤を混合してもよい。

【0029】
本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤は、口腔内のバイオフィルムの抑制効果に優れているため、様々な使用態様が想定される。使用対象者としては、口腔疾患を有している患者はもちろんのこと、免疫力が低下している患者(例えば、がん治療中の患者)や高齢者などが想定される。免疫力が低下している場合には様々な全身疾患を発症するリスクが高くなる。例えば、このような全身疾患の一つとして誤嚥性肺炎を挙げることができる。誤嚥性肺炎とは、口腔細菌等が誤嚥によって肺に入り込み、肺の中で増殖して肺が炎症を起こす疾患のことである。口腔細菌等が肺に入り込んだ場合、必ずしも肺炎を発症する訳ではないが、免疫力が低下していると誤嚥性肺炎を発症するリスクは高くなる。本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤を口腔内に塗布することによって誤嚥性肺炎をはじめとする様々な全身疾患を予防することが可能となる。

【0030】
また、本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤は使用方法が簡便であるので、歯科医院等に限らず在宅医療の現場でも使用することができる。さらに、大規模災害の現場でも使用することができる。大規模災害が発生した場合、断水などにより口腔内を清潔に保つことが困難になり口腔衛生環境が劣悪になる。そして、これに伴って上述したような全身疾患を引き起こすことが懸念される。本発明の口腔内バイオフィルム抑制剤を用いることにより口腔内を常に清潔に保つことができるので、大規模災害の現場で当該抑制剤を用いるメリットは特に大きい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
実施例1
[硬化物の作製]
以下の手順で硬化物を作製した。
(1)歯科用水硬性仮封材(株式会社ジーシー社製「キャビトン(caviton)」)1.99gと塩化セチルピリジニウム(以下、CPCと略記することがある)0.01gとを室温にて混合して混合物を得た。
(2)得られた混合物を、直径が5mm、深さが10mmのモールドに充填した。
(3)このモールドを蒸留水に浸漬した。
(4)モールドを蒸留水に浸漬してから24時間経過したとき、蒸留水中からモールドを取り出した。
(5)取り出したモールドを乾燥室(37℃)に入れた。
(6)モールドを乾燥室に入れてから3日間経過したとき、乾燥室からモールドを取り出し、さらに、このモールドから円柱状の硬化物を取り出した。
【実施例】
【0033】
[強度の測定]
JIS T6602に記載された「圧縮強さ試験」に準拠し、得られた硬化物の圧縮強度を測定した。測定は3個の硬化物について行い、クロスヘッドスピード毎分2mmの速さで加圧し硬化物が破砕したときの荷重を測定して平均値を算出することで行った。測定に用いた硬化物の平均直径は、5.1mmであり、平均高さは10.6mmであった。測定装置は株式会社島津製作所製の「Autograph AG-X 20kN」を用いた。試験の結果、得られた硬化物の直径5.1mm当たりの圧縮強度は1.31kgf/φ5.1mmであった。そして、単位面積当たりの圧縮強度(MPa)に換算した結果、圧縮強度は0.63MPaであった。結果を表1及び図1に示す。
【実施例】
【0034】
[口腔粘膜刺激性の評価]
硬化物抽出液の口腔粘膜刺激性を評価するため、シリアンハムスターを用いた頬袋粘膜刺激性試験を行った。硬化物抽出液は、硬化物1g当たり200mLのPBSで37℃、12時間抽出することにより得た。硬化物抽出液をそれぞれ5匹のシリアンハムスターの右頬袋内に1時間おきに4回投与し、最終投与後24時間まで頬袋粘膜を肉眼的に観察するとともに、肉眼観察終了後にペントバルビタール過麻酔で安楽死させた後、左右の頬袋を摘出し、病理組織学的検査を行った。左頬袋は無処置の対照とした。
試験名:ハムスターを用いるCPC含有キャビトン抽出液の頬袋粘膜刺激性試験
試験番号:G102(590-005)、GLP非適用
試験実施者:公益財団法人食品農医薬品安全性評価センター
【実施例】
【0035】
その結果、硬化物抽出液はシリアンハムスターの頬袋粘膜に対して刺激性がないと判断された。図2(Cav-CPC0.5)に病理組織学的検査の写真を示す。
【実施例】
【0036】
[抗菌性の評価]
(S.mutans培養液の作製)
以下の手順でS.mutans培養液を作製した。
(1)Streptococcus mutans ATCC25175株を37℃の好気条件下において、BactoTM Brain Heart Infusion(Becton, Dickinson and Company,Sparks,MD,USA)液体培地を用いて培養した。
(2)好気的条件において対数増殖期まで培養した後に、吸光度計(株式会社島津製作
所製「SPECTRONIC 20A」)を用いて波長660nmの吸光度(A660)を測定して、1×10cfu/mlとなるように上記液体培地で希釈することで細菌懸濁液を調製した。
【実施例】
【0037】
(細菌増殖活性の評価)
得られた培養液12mlを取り、液温を37℃に保ち、この培養液に硬化物を浸漬させた。そして、硬化物を培養液に浸漬させてから48時間後に、培養液から硬化物を取り出した。このとき、培養液中のATP量を測定するために、硬化物を培養液に浸漬してから6時間後及び12時間後の培養液を採取した。そして、採取した培養液のATP量を測定キット及び検査器(キッコーマンバイオケミファ株式会社製「ルシフェールHSセット」及び「ルミテスター C-110」)を用いて測定した。6時間後及び12時間後の培養液のATP量を表1及び図3に示す。表1及び図3において、RLU(発光量)の値が小さいほど細菌の増殖が抑制されていることを示す。図3の「Cont」は、培養液に硬化物を浸漬しなかった場合の6時間後のRLUの値(平均値:37206.0、標準偏差:1857.2)及び12時間後の培養液のRLUの値(平均値:689864.7、標準偏差:38395.5)を示す。
【実施例】
【0038】
[バイオフィルム抑制の評価]
(顕微鏡観察)
培養液から取り出した硬化物の表面を電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した。図4に倍率が1000倍の電子顕微鏡写真と倍率が10000倍の電子顕微鏡写真を示す。得られた電子顕微鏡写真(「Cav-CPC0.5」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、細菌は確認されず、硬化物にはバイオフィルムは形成されていなかった。電界放射型走査電子顕微鏡装置は、Topcon社製の「FE-SEM DS-720」を用いた。
【実施例】
【0039】
実施例2
以下の手順で作製したCandida albicans培養液を用いて実施例1と同様にして「細菌増殖活性の評価」と[バイオフィルム抑制の評価]を行った。6時間後及び12時間後の培養液のATP量を表2及び図8に示す。また、図9に倍率が1000倍の電子顕微鏡写真と倍率が10000倍の電子顕微鏡写真を示す(Cav-CPC0.5)。その結果、菌は確認されず、硬化物にはバイオフィルムは形成されていなかった。
【実施例】
【0040】
(1)C. albicans(臨床分離株)を37℃の好気条件下において、BactoTM Brain Heart Infusion(Becton, Dickinson and Company,Sparks,MD,USA)液体培地を用いて培養した。
(2)好気的条件において対数増殖期まで培養した後に、吸光度計(株式会社タイテック製「miniphoto 518R」)を用いて波長660nmの吸光度(A660)を測定して、1×10cfu/mlとなるように上記液体培地で希釈することで細菌懸濁液を調製した。
【実施例】
【0041】
比較例1
実施例1の[硬化物の作製]において、キャビトン1.90gとCPC0.1gとを室温にて混合して混合物を得た以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例1と同様にして、[強度の測定]、[抗菌性の評価]及び[バイオフィルム抑制の評価]を行った。得られた結果を表1及び図1、3及び4に示す。図4に示すように、得られた電子顕微鏡写真(「Cav-CPC5」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、細菌(写真中の矢印)が45個確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。また、実施例1と同様にして「口腔粘膜刺激性の評価」を行った。その結果、硬化物抽出液はシリアンハムスターの頬袋粘膜に対して刺激性がないと判断された。図2(Cav-CPC5)に病理組織学的検査の写真を示す。
【実施例】
【0042】
比較例2
実施例1の[硬化物の作製]において、CPCを用いずにキャビトン2gを用いた以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例1と同様にして、[強度の測定]、[抗菌性の評価]及び[バイオフィルム抑制の評価]を行った。得られた結果を表1及び図1、3及び4に示す。図4に示すように、得られた電子顕微鏡写真(「Cav-CPC0」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、細菌(写真中の矢印)が208個確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。また、実施例1と同様にして「口腔粘膜刺激性の評価」を行った。その結果、硬化物抽出液はシリアンハムスターの頬袋粘膜に対して刺激性がないと判断された。図2(Cav-CPC0)に病理組織学的検査の写真を示す。
【実施例】
【0043】
比較例3
実施例1の[硬化物の作製]において、歯科用水硬性仮封材を株式会社モリタ社製の「パナビア(panavia)F」に変え、パナビアF0.4975gとCPC0.0025gとを室温にて混合して混合物を得た以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例1と同様にして、[強度の測定]、[抗菌性の評価]及び[バイオフィルム抑制の評価]を行った。得られた結果を表1及び図5~7に示す。比較例3~5では、実施例1と同様にしてS.mutans培養液を新たに作製した。図6の「Cont」は、培養液に硬化物を浸漬しなかった場合の6時間後のRLUの値(平均値:33152、標準偏差:433)及び12時間後の培養液のRLUの値(平均値:682856、標準偏差:44861)を示す。図7に示すように、得られた電子顕微鏡写真(「Pana-CPC0.5」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、細菌が300個以上確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。
【実施例】
【0044】
比較例4
実施例1の[硬化物の作製]において、歯科用水硬性仮封材を株式会社モリタ社製の「パナビア(panavia)F」に変え、パナビアF0.475gとCPC0.025gとを室温にて混合して混合物を得た以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例1と同様にして、[強度の測定]、[抗菌性の評価]及び[バイオフィルム抑制の評価]を行った。得られた結果を表1及び図5~7に示す。図7に示すように、得られた電子顕微鏡写真(「Pana-CPC5」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、細菌が60個確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。
【実施例】
【0045】
比較例5
実施例1の[硬化物の作製]において、歯科用水硬性仮封材を株式会社モリタ社製の「パナビア(panavia)F」に変え、CPCを用いずにパナビアF0.5gを用いた以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例1と同様にして、[強度の測定]、[抗菌性の評価]及び[バイオフィルム抑制の評価]を行った。得られた結果を表1及び図5~7に示す。図7に示すように、得られた電子顕微鏡写真(「Pana-CPC0」の「×10000」)において、硬化物の表面に細菌が存在しているか否かを目視にて観察した。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、細菌が300個以上確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。
【実施例】
【0046】
比較例6
実施例1の[硬化物の作製]において、キャビトン1.90gとCPC0.1gとを室温にて混合して混合物を得た以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例2で作製したCandida albicans培養液を用いて実施例1と同様にして「細菌増殖活性の評価」と[バイオフィルム抑制の評価]を行った。6時間後及び12時間後の培養液のATP量を表2及び図8に示す。図9に倍率が1000倍の電子顕微鏡写真と倍率が10000倍の電子顕微鏡写真を示す(Cav-CPC5)。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、菌(写真中の矢印)が300個以上確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。
【実施例】
【0047】
比較例7
実施例1の[硬化物の作製]において、CPCを用いずにキャビトン2gを用いた以外は実施例1と同様にして硬化物を得た。そして、実施例2で作製したCandida albicans培養液を用いて実施例1と同様にして「細菌増殖活性の評価」と[バイオフィルム抑制の評価]を行った。6時間後及び12時間後の培養液のATP量を表2及び図8に示す。図9に倍率が1000倍の電子顕微鏡写真と倍率が10000倍の電子顕微鏡写真を示す(Cav-CPC0)。その結果、電子顕微鏡写真の区画(13μm×9μm)において、菌(写真中の矢印)が300個以上確認され、硬化物にはバイオフィルムが形成されていることがわかった。
【実施例】
【0048】
【表1】
JP0006541111B2_000002t.gif
【実施例】
【0049】
【表2】
JP0006541111B2_000003t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8