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明細書 :ポリイオンコンプレックスを有効成分とするドライアイ処置用組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6703408号 (P6703408)
公開番号 特開2017-132746 (P2017-132746A)
登録日 令和2年5月12日(2020.5.12)
発行日 令和2年6月3日(2020.6.3)
公開日 平成29年8月3日(2017.8.3)
発明の名称または考案の名称 ポリイオンコンプレックスを有効成分とするドライアイ処置用組成物
国際特許分類 A61K  31/787       (2006.01)
A61K  47/32        (2006.01)
A61P  27/04        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K   9/107       (2006.01)
FI A61K 31/787
A61K 47/32
A61P 27/04
A61K 47/36
A61K 9/08
A61K 9/107
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2016-016748 (P2016-016748)
出願日 平成28年1月30日(2016.1.30)
審査請求日 平成31年1月9日(2019.1.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】長崎 幸夫
【氏名】中川 寛之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000741、【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
審査官 【審査官】新熊 忠信
参考文献・文献 国際公開第2013/111801(WO,A1)
特開2007-197461(JP,A)
特表平05-508840(JP,A)
特開2003-095924(JP,A)
国際公開第2005/072752(WO,A1)
特表2015-520197(JP,A)
調査した分野 A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)


特許請求の範囲 【請求項1】
ポリイオンコンプレックスを有効成分として含むドライアイ処置用組成物であって、
ポリイオンコンプレックスが式I
【化1】
JP0006703408B2_000007t.gif
式中、
1は、同一または異なる連結基を表し、
2は、独立して、-C1-6アルキレン-NH-(C1-6アルキレン)q-であり、ここでqは0または1の整数であり、そして
Rは、独立して、各Rの総数mの少なくとも30%が2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル-3-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシル-3-イル及び2,4,4-トリメチル-1,3-オキサゾリジン-3-オキシル-2-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-チアゾリジン-3-オキシル-2-イル及び2,4,4-トリメチル-イミダゾリンジン-3-オキシル-2-イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
Yは、独立して、H、C1-6アルキルで置換されていてもよいフェニルチオカルボニル
チオ、C1-6アルキルチオカルボニルチオ、C1-6アルキルオキシチオカルボニルチオまたはSHからなる群より選ばれ、
mは、独立して、3~1,000の整数であり、そして
nは、5~5,000の整数である
で表されるカチオン性トリブロックコポリマーを含み、かつ、
ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(スルホン酸)、ポリアニオン性多糖類からなる群より選ばれる1種またはそれ以上のポリアニオン性ポリマーを含み、
ポリイオンコンプレックスを水性媒体中に溶解または分散した場合にミセルを形成する、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記ポリイオンコンプレックスが、さらに、式II
【化2】
JP0006703408B2_000008t.gif
式中、
Rは、独立して水素原子、C1-3アルキル基を表し、
aは、1~12の整数であり、
mは、3~1,000の整数であり、
nは、5~5,000の整数である
で表されるカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーを含む、
組成物。
【請求項3】
ポリアニオンがポリ(アクリル酸)またはポリ(メタクリル酸)である、請求項1または2に記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイオンコンプレックス(PIC)を有効成分として含有するドライアイ処置用組成物及びそれらの一構成成分として含めることのできる新規ポリカチオン性ポリマーに関する。特に、PICは、ポリカチオンとして、ペンダント基中に含まれる環状ニトロキシドラジカルがアミニレン(NH基)を介してポリマー主鎖に共有結合した複数の反復単位を含む2つのブロック間に挟まれたポリ(エチレングリコール)ブロックを含むトリブロックコポリマーを必須の成分として含んでなる。
【背景技術】
【0002】
生体適合性を有する物質を利用した人工涙液やヒアルロン酸の液剤点眼剤がドライアイ治療薬として使用されてきた。しかしながら、組織表面での接着性および滞留性が低く頻回投与が求められることや、現在市販の点眼剤は渇いた眼組織への保水効果に焦点を当てており、十分なドライアイへの治療効果が得られない。さらにはマトリックス自体に高分子等を利用するため、そのマトリックス自身が炎症を引き起こす原因となる等、問題があった。そのため組織表面での高い滞留性を達成し投薬回数を削減し、ドライアイの原因の一つとされる炎症に対して十分な治療効果を示す材料の提供が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の人工涙液やヒアルロン酸の液剤点眼液剤は、主としてドライアイのコア・メカニズムとして涙液層の安定性の低下を防止することが目標とされているところ、かようなメカニズム全体により好適にマッチし、より効果的なドライアイ処置用剤または組成物に対するニーズは依然として存在する。したがって、本発明はこのようなニーズに答えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは近年、生体中でポリイオンコンプレックスが必ずしも十分に安定でないことに着目し、ポリアミン-PEG-ポリアミンというA-B-A型トリブロックコポリマーとポリアニオンとのPICが室温下で流動するフラワーミセルを形成するのに対し、このようなPICは生体環境下で緩み、ゲル化するとともに生体中で局所滞留性を示すこと見出した。さらにポリアミン部分に活性酸素種を消去するニトロキシドラジカルを導入することにより材料それ自体が、炎症を抑制するインテリジェントゲルとなることも見出し、このようなPICとその使用について提案した(WO 2013/111801、WO 2014/199982、WO 2015/118993参照)。
【0005】
これらの特許文献では、PICゲルを滞留させる生体内局所として、歯周ポケット、癌病巣部、関節炎等、PICゲル実験動物の足に皮下注射した場合にはその組織内滞留性が確認されており、また、このようなゲルが生体内で組織または器官どうしの接着を防ぐ物理的バリアーとして機能し、癒着防止効果を発揮することも記載されている。当該文献にいう生体内局所は何れも生成したゲル事態に物理的な外力が実質的にかからない箇所である。仮に、かようなゲルが、多量の水性媒体中で瞬き等の外力が頻繁にかかる眼球表面においても接着、滞留でき、しかも、視力に悪影響を及ぼさないのであるなら、ドライアイ処置用の組成物または製剤の有効成分として使用できるかも知れない。本発明者らはこのような想定の下、各種検討を行ったところ、前記フラワーミセルはin vivoの涙液中でゲル化し、眼球表面上に安定に接着滞留できることが確認できた。くわえて、このように接着滞留したゲル中のニトロキシドラジカルが抗酸化ストレス能を発揮することも推認できた。具体的には、PIC形成を駆動力とするフラワー型ミセル作成し,これを眼球
組織に投与すると、生体環境下に投与するとゲル化し、組織表面での滞留性が向上した。
【0006】
さらに、前記PICにおいて、ポリカチオン性ポリマー成分として、前記トリブロックコポリマーに加えて、カチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーをさらに含めた場合でも前記フラワーミセルの形成に悪影響を及ぼすことなく、安定なミセルが提供でき、in vivo涙液中でゲル化し、さらに、該ゲルが眼球表面により強く接着滞留し、優れたドライアイ処置効果を発揮することも確認できた。これは、マトリックス表面に存在するフェニルボロン酸と眼表面ムチンとの結合により眼球表面での接着性が向上させたものと推認できる。
【0007】
したがって、第一の態様の本発明として、次の組成物が提供される。
【0008】
ポリイオンコンプレックスを有効成分として含むドライアイ処置用組成物であって、
ポリイオンコンプレックスが式I
【0009】
【化1】
JP0006703408B2_000002t.gif

【0010】
式中、
1は、同一または異なる連結基を表し、
2は、独立して、-C1-6アルキレン-NH-(C1-6アルキレン)q-であり、ここでqは0または1の整数であり、そして
Rは、独立して、各Rの総数mの少なくとも30%が2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル-3-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシル-3-イル及び2,4,4-トリメチル-1,3-オキサゾリジン-3-オキシル-2-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-チアゾリジン-3-オキシル-2-イル及び2,4,4-トリメチル-イミダゾリンジン-3-オキシル-2-イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であり、
Yは、独立して、H、C1-6アルキルで置換されていてもよいフェニルチオカルボニルチオ、C1-6アルキルチオカルボニルチオ、C1-6アルキルオキシチオカルボニルチオまたはSHからなる群より選ばれ、
mは、独立して、3~1,000の整数であり、そして
nは、5~5,000の整数である
で表されるカチオン性トリブロックコポリマーを含み、かつ、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(スルホン酸)、ポリアニオン性多糖類からなる群より選ばれる1種またはそれ以上のポリアニオン性ポリマーを含み、
ポリイオンコンプレックスを水性媒体中に溶解または分散した場合にミセルを形成する、組成物。
【0011】
さらに、第二の態様または好適な態様の本発明として、次の組成物が提供される。
【0012】
第一の態様の本発明組成物であって、前記ポリイオンコンプレックスが、さらに、式II
【0013】
【化2】
JP0006703408B2_000003t.gif

【0014】
式中、
Rは、独立して水素原子、C1-3アルキル基を表し、
aは、1~12の整数であり、
mは、5~1,000の整数であり、
nは、3~5,000の整数である
で表されるカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーを含む、
組成物。
【0015】
さらに、該組成物それ自体、上記の特許文献に未載の組成物であり、前記カチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーを介してムチン質が存在または発現している生体における器官または細胞に結合することで、当該PICが効果的に機能し得るいずれかの症状または障害の処置を必要とする広範な医療分野で使用できる。
【0016】
また、上記式IIで表されるカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーは、本発明者らの知るところでは、従来技術文献未載である。したがって、第三の態様の本発明として、該IIで表されるカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーそれ自体が提供される。
【0017】
<発明の詳細な記述>
以下、本発明の各構成について、詳述する。
【0018】
「ドライアイ処置用」とは、ドライアイの防止もしくは予防および治療するための使用を意味し、単に治療のみを意味するものでない。
【0019】
前述した本発明の作用効果については、理論により本発明の技術的範囲等が限定されるものでないが、次のように理解されている。前記PICミセルはゲル化により表面に露出した式Iのトリブロックコポリマーのカチオン性ポリマー部分が、アニオン性物質により構成される眼組織と静電相互作用することにより該ゲルが眼球表面に接着することに起因し、特有の作用効果を発揮する。さらに、カチオン性ポリマー成分として式IIのカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーを含有せしめると、フェニルボロン酸部と眼球表面に存在するムチンと結合するので、眼球表面へのゲルのさらなる接着性が向上する。すなわち、本発明にしたがう前記ゲルは、単に涙液中の特定箇所に滞留することのみならず、眼球表面または角膜上皮に接着することにより瞬き等の物理的な外力がかかっても接着した箇所に安定に滞留できる。かような接着の結果、前記PICは眼表面上の涙液層に安定に存在できることのみならず、上皮、特に角膜上皮が構成する層にニトロキシドラジカルが作用し、ドライアイの原因となる炎症を抑制できるので、より高い効能を有するドライアイ処置用組成物が提供できる。上記説明に関する概念図を図1に示す。
【0020】
第一の態様の本発明おける、PICそれ自体は、WO 2015/118993に開示されたものをそのまま使用できる。したがって、この特許文献の記載内容、具体例として本願発明に整合する記載は、当該文献を引用することにより、本願明細書の内容となるが、以下、さらに説明を加える。
【0021】
<ポリカチオン性ポリマー>
式Iで表されるカチオン性トリブロックコポリマーにおけるL1は、該トリブロックコポリマーとポリアニオン性ポリマーとのPICを水性媒体中で溶解または分散した場合にミセルを形成することができるものであれば、如何なる連結基であってもよい。しかし、限定されるものでないが、各L1は、例えば、独立して、単結合、-S-(CH2c-、-S-(CH2cCO-、-(CH2cS-、-CO(CH2cS-、
【0022】
【化3】
JP0006703408B2_000004t.gif

【0023】
からなる群より選ばれ、ここでcは1ないし5の整数である、ことができる。本発明に関し、連結基を定義する具体的な基は、特記しないかぎり、式中において、記載した方向性を以って結合するものと理解されている。
【0024】
式IのYは、好ましくは、Hであるか、または-SH、
【0025】
【化4】
JP0006703408B2_000005t.gif

【0026】
からなる群から選ばれる。
【0027】
式IのRは、独立して、各Rの総数mの、一般に少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは約100%が2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル-3-イル、2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシル-3-イル及び2,4,4-トリメチル-1,3-オキサゾリジン-3-オキシル-2-イル、2,4,4-トリメチル-1,3-チアゾリジン-3-オキシル-2-イル及び2,4,4-トリメチル-イミダゾリンジン-3-オキシル-2-イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシ基であることができる。R基のニトロキシドラジカルは、好ましくは、次式で表される。

【0028】
【化5】
JP0006703408B2_000006t.gif

【0029】
上式中、R’はメチル基である、
式Iにおける、mは、独立して、一般に3~1000、好ましくは、5~400、より好ましくは10~100の整数であり、そして
nは、好ましくは、5~1000、より好ましくは10~200の整数であることができる。
【0030】
式IIで表されるカチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーにおいて、ホウ酸残基-B(OH)2はそれが結合するフェニレンのo-、m-およびp-位のいずれに結合することもできるが、好ましくはp-位に結合し、aは、一般に1~12の整数であるが、好ましくは、1~6、さらには、1であることができる。mは、一般に3~1,000の整数であるが、好ましくは10~600、より好ましくは14~100であることができる。nは、一般に5~5,000であるが、好ましくは10~500、より好ましくは20~300であることができる。カチオン性ボロン酸修飾ジブロックコポリマーは、後述する製造例に準じて、必要により、開始剤として目的とするフェニルボロン酸に相当する開始剤を使用して製造できる。
【0031】
本発明に関して、C1-6アルキルまたはそれらを含む基は、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ヘキシル等の分岐もしくは直鎖の低級アルキル基を挙げることができ、C1-12アルキレンに該当する基は、限定されるものではないが具体的には、メチレン、1,2-プロパンジイル、1,3-プロパンジイル、1,4-ブタンジイル、等の対応するアルキルのジイル基を挙げることができる。
【0032】
<ポリアニオン性ポリマー>
本発明で用いる、ポリアニオン性ポリマーは、水性溶液中で前記式I表されるトリブロックコポリマーと安定なPICを形成でき、かつ、安定なできるPICミセルを形成できるものであれば、理論上、限定されるものでない。しかし、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(スルホン酸)、ポリアニオン性多糖類等からなる群から選ばれる1種またはそれ以上であり、ポリアニオン性多糖について、好ましいものとしては、カルボキシメチルデキストラン、カラギーナン、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸、ヒアル酸、ヘパリンからなる群より選ばれるポリアニオン性多糖類を挙げることができる。特に、ポリ(アクリル酸)またはポリ(メタアクリル酸)が好ましい。これらのポリアニオン性ポリマーの分子量は、ポリマーの種類によって最適値が異なり、所期の目的を達成するものであれば限定されるものでない。しかし、ポリアクリル酸の場合、Mnが、1000~1000000、好ましくは、1000~100000、より好ましくは、1000~10000であり、ポリアニオン性多糖類、例えばコンドロイチン硫酸の場合、MnまたはMwが1000~1000000、好ましくは1000~100000であり、これらは市販のものを、必要に応じて精製して使用することができる。
【0033】
<トリブロックコポリマーとポリアニオン性ポリマーの使用の態様>
カチオン性トリブロックコポリマー(カチオン性ジブロックコポリマーが共存してもよ
い)とポリアニオン性ポリマーは、それらを含む組成物が、一般的な水性溶液または水性媒体(生理的pHに緩衝化されていてもよい、水(純水もしくはイオン交換水))中でそれらの分子が会合してミセルを形成することにより、透明なポリイオンコンプレックスミセルとして存在し得る適当な割合で使用することが望ましい。このようなPICミセル溶液または分散液は、さらに本発明の目的に沿うためには、水性溶液中のイオン強度、pH、温度変化、特に、生体内環境下または生理学的条件下への変化により、不可逆的ゲルを形成することのできる割合でポリカチオン性ポリマーとポリアニオン性ポリマートリブロックコポリマーとポリアニオン性ポリマーが含められる。このような変化は、例えば、イオン強度が、イオン濃度0(ゼロ)もしくは数十mMであり、室温から、生体の眼球上の涙液に倣うイオン濃度、例えば150mM及び37℃付近以上の温度に変化することが挙げられる。
【0034】
このような割合は、ポリカチオン性ポリマーのアミノ基(アミニレン基(もしくは第二アミン)または第三アミンを包含する)のモル数とポリアニオン性ポリマーのアニオン性基のモル数が1:4~4:1、好ましくは、1:1~4:1であり、より好ましくは前者のモル数が後者のモル数を数パーセント超えるものである。このようなPICから形成されるミセルは、限定されるものでないが、動的光散乱(DLS)測定により決定するときに、40~120nmの平均粒径を有する。
【0035】
カチオン性トリブロックコポリマーとカチオン性ジブロックコポリマーが併用される場合には、総カチオン性ポリマーの重量当たり15重量%未満、好ましくは、13重量%未満、より好ましくは11重量%未満のカチオン性ジブロックコポリマーを使用できる。
【0036】
このような組成物中のPICは、必要により、生理学的に許容され得る希釈剤または賦形剤を含むPICミセルの水溶液として提供できる。このような希釈剤は、滅菌水、鉱酸を含む酸性水溶液、生理食塩水、生理的に許容される緩衝剤を含む溶液等であることができ、賦形剤は、例えば、ソビトール、デキストリン、ブドウ糖、マンニトール、アミノ酸(例えば、グリシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、グルタミン酸等)等であることができ、また、PICミセルは凍結乾燥物として組成物に含めることができる。
【0037】
本発明では、組成物に含まれるPIC、特に、そのミセル溶液は、必要により、当該技術分野で公知の滅菌方法、電子線照射等、により滅菌した後、投与する必要のある眼球表面に適宜、投与される。かような投与は、当該技術分野でそれ自体公知の点眼用デバイスを用いて注入可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に従うPICミセルを含有溶液が点眼剤として作用する際の概念図である。図中、SolはPICミセルが溶解または均質に分散している液(ゾル)を意味し、Gelは眼球上皮にPICミセルがゲル化し接着している状態を表す。
【図2】製造例3で製造された脱保護前PBA-PEG-PEAMAジブロックコポリマーの1H NMRスペクトルである。
【図3】製造例で製造された脱保護後のPBA-PEG-PEAMAジブロックコポリマーの1H NMRスペクトルである。
【図4】製造例4に基づいて得られるPBA-PEG-PEAMA含有PICミセルの粒度分布(a)、平均粒径およびPDI( 多分散度 )(b)を表すグラフである。
【図5】製造例5に基づいて得られるPBA-PEG-PEAMA含有PICミセル(pH=6.2)のゲル化の様子を表す図に代わる写真である。
【図6】試験1によるPBA-PEG-PEAMA含有PICミセル由来のインジェクタブルゲル(RIG)の粘度測定の結果(a)およびゲル化温度の測定結果を表すグラフである。
【図7】試験2によるサンプル投与後のIVISによる眼表面イメージング画像の写真(a)および眼表面滞留性の定量評価の結果を表すグラフである。
【図8】試験3による動物試験の手順の概略図およびサンプル投与群について説明する図である。
【図9】試験3によるドライアイモデルマウスに対するRIGのドライアイ治療効果を表すグラフである。
【図10】試験4によるPBA-PEG-PEAMA含有PICミセルによるムチン接着評価の結果を表すグラフである。

【実施例】
【0039】
以下に、具体例を挙げ、さらに本発明を具体的に説明するが、これらの具体例に本発明を限定することを意図するものでない。
【0040】
製造例1(参考):ポリクロロメチルスチレン-b-ポリエチレングリコール-b-ポリクロロメチルスチレン(PCMS-b-PEG-b-PCMS)トリブロック共重合体の合成
両末端にチオール基を有しているポリエチレングリコール(HS-PEG-SH)(Mn:10000;0.5mmol,5.0g)を反応容器に加えた。次に、反応容器中を真空にした後、窒素ガスを吹き込む操作を3回繰り返すことにより、反応容器内を窒素雰囲気にした。反応容器に1アゾビスイソブチロニトリル/トルエン(0.5mmol/10ml)溶液とクロロメチルスチレン(35mmol,4.93mL)を加え、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。反応混合物をポリクロロエチルスチレンホモポリマーに対しての良溶媒であるジエチルエーテルを用いて3回洗浄操作を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、白い粉体を得た。収量は、5.82gであり、収率は87%であった。得られたPCMS-b-PEG-b-PCMSトリブロック共重合体のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定と1H NMRスペクトルの結果から、PEGブロックは実質的に上記Mn値を示し、ポリ(クロロメチルスチレン)の総Mnが3368を示す目的のトリブロック共重合体が得られたことが確認できた。
【0041】
製造例2(参考):TEMPOを有するトリブロックポリマー(PMNT-b-PEG-b-PMNT)の合成
反応容器に、PCMS-b-PEG-b-PCMS(Mn:13368;4.0g, 0.3mmol)を加えた。次に、4-アミノ-TEMPO(5.7g,1.5mmol)を20mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、反応容器に加え、室温で24時間攪拌を行った。反応終了後、反応溶液を透析膜(Spectra/Por molecular weight cut-off size 3,500 Spectrum Medical Industries Inc.,Houston TX)中に加え、2Lのメタノールに対して透析を行った。メタノールは2時間ごとに8回交換し、エバポレーションを行い、ベンゼン凍結乾燥を行った。収率は、86%であった。1H NMR測定の結果より、クロロメチル基が100%反応し、TEMPOが導入されていることが確認された。
【0042】
製造例3(実施例):ボロン酸-ポリエチレングリコール-b-ジエチルアミノエチルメタクリレート(PBA-PEG-b-PEAMA)ジブロック共重合体の合成
窒素下フラスコ中、25mLのテトラヒドロフラン(THF)中に0.3gの4-(ヒドロキシメチル)フェニルボロン酸ピナコールエステルおよび化学当量のカリウムナフタレンのTHF溶液(1.0molスラッシュL)を加えたのち、6gのエチレンオキシドを加え、水冷下2日間攪拌した。その後6gのメタクリル酸(2-ジエチルアミノエチル)を加え、30分反応させた。溶媒留去後図2に示す1H NMRスペックトルを得た。
【0043】
上記ポリマー1.0gをフラスコ中でTHFにて溶解し、化学等量のジエタノールアミン(8.8ml)を加え室温で1時間反応させた。反応後、沈殿したポリマーをフィルターにて回収後、1.0MのHClを加え溶解し1時間反応させた。反応終了後、反応溶液を透析膜中に加え、2Lの水に対して透析を行った。透析外液は2時間ごとに8回交換し、溶媒蒸留後下記のNMRを得た。
【0044】
1H NMR測定の結果より、脱保護化反応によりボロン酸エステル(図2参照)からボロン酸(図3参照)へと脱保護されていることが認められた。
【0045】
製造例4(実施例):ポリイオンコンプレックスミセルの設計
PMNT-b-PEG-b-PMNTトリブロックポリマーの粉末を0.1M HCl水溶液に溶解し、PMNT鎖のアミノ基を完全にプロトン化させ、水系の凍結乾燥を行い回収した。次に、PMNT-b-PEG-b-PMNTトリブロックポリマーおよびPBA-PEG-PEAMAジブロックポリマー、ポリ(アクリル酸)(PAA;Mw:5k)をそれぞれリン酸バッファー(0.1M)に溶解し、濃度を5mg/mlにしたカチオンPMNT-b-PEG-b-PMNTおよびPBA-PEG-PEAMA混合水溶液とアニオンPAA水溶液を調製した。ここでカチオン性水溶液はPBA-PEG-PEAMAが重量比で0%、5%、10%、15%、20%、100%含まれる水溶液を調整した。その後、PMNT-b-PEG-b-PMNTトリブロックポリマーおよびPBA-PEG-PEAMAジブロックポリマー混合水溶液をPAA水溶液に撹拌しながら滴下し、pHが6.2の条件下でポリイオンコンプレックスミセルを調製した。ここで、ポリカチオンとポリアニオンのモル比r=1:1となるように、ポリイオンコンプレックスミセルを調製した(モル比r=[PAAの活性化されたカルボキシル基のモル数]/[PMNT-b-PEG-b-PMNTの活性化されたアミノ基のモル数])。得られたポリイオンコンプレックスミセルの平均粒径を動的光散乱(DLS)測定により行ったところ、単峰性の粒子を形成することが確認された(図4参照)。
【0046】
製造例5(実施例):PBA-PEG-PEAMA含有インジェクタブルゲル(PBA-RIG)の設計
上記調製した各ポリイオンコンプレックスミセル溶液5mg/mlを遠心エバポレーションにより濃縮し、イオン強度を150mMに調整し、温度37℃の水浴中でゲル化実験を試験管反転法により検討した。pH6.2のPICミセル溶液で、PBA-PEG-PEAMAジブロックポリマーの重量比が10重量%まで含まれるPICミセルにおいて、イオン強度150mMかつ温度37℃の環境下で不可逆的ゲル化したことが確認された(図5参照)。
【0047】
試験1:PBA-PEG-PEAMA含有PICミセルの粘弾性測定およびゲル化温度測定
さらに、ゲル化の挙動についてレオメーターを用いて解析し、温度昇温に伴う粘性の変化およびゲル化温度について評価を行った。ゲル化温度はレオメーター測定における貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G”)がクロスポイントした温度と定義した。
【0048】
PBA-PEG-PEAMAの含有率が重量比で10%のPICミセルにおいて、生体温度付近で粘性の上昇が見られた。PBA-PEG-PEAMAの重量比が15%のPICミセルにおいてはゲル化温度が39.6℃と生体温度以上の値を示し、重量比15%を超えるミセル溶液ではゲル転移を示さなかった。これらの結果から、PBA-PEG-PEAMAが重量比で10%含まれるPICミセルでは生体環境下にてゲル化しうることが示唆された(図6参照)。
【0049】
試験2:インジェクタブルゲル(RIG)の眼組織表面滞留性評価
蛍光物質を担持したRIGを使用して生体イメージング(IVIS)により、マウスの眼組織表面での滞留性を評価する実験を行った。蛍光物質には蛍光効率の優れたアミノフルオレセインを選択し、アミノフルオレセインをPAAのカルボキシ基と反応させアミド化反応により共有結合にて結合させたのちに、PMNT-PEG-PMNTと混合することにより、蛍光物質アミノフルオレセインを担持したFL-RIGを作製した。BALB/c-nuマウス(n=2)の眼組織にFL-RIGを5μL投与後、蛍光強度を追跡することで、RIGの眼組織上での滞留性を評価した。本試験では低分子アミノフルオレセイン溶液(AFL)およびアミノフルオレセインを担持したナノ粒子(FL-iRNP)を対照群として使用した。
【0050】
サンプル群:AFL:低分子アミノフルオレセイン溶液
FL-iRNP:PEG-PMNTジブロックポリマーのアミノ基に対して
、アミノフルオレセインを修飾したPAAを静電相互作用により反応させた
PICミセル溶液
FL-RIG:PMNT-PEG-PMNTトリブロックポリマーのアミノ
基に対してアミノフルオレセインを修飾したPAAを静電相互作用により反
応させたインジェクタブルゲルとして機能するPICミセル溶液
【0051】
サンプル投与後、フルオレセインの蛍光をIVISを用いて検出した。(Ex500nm,Em:540nm)。サンプル投与直後に検出した蛍光強度を100%として、蛍光強度の経時変化を追跡することで眼表面での滞留性を評価した。
【0052】
図7にサンプル投与後の眼表面イメージング画像と眼表面での滞留性を定量化したグラフを示した。低分子のAFL溶液やミセル溶液であるFL-iRNP溶液は迅速に眼表面から排出され1時間以内に蛍光強度が著しく減少した。液剤であるため、瞬き等により眼表面からサンプルが流れ、蛍光が皮膚や手から検出された。一方でRIG投与群においては眼表面でのゲル化により滞留性が向上し投与後数時間の間、眼表面組織から蛍光が検出された。また、AFLやFL-iRNP投与群と比較し、投与部位からのみ蛍光が検出され、眼組織との高い接着性が示唆された。これはゲル化により表面に露出したカチオン性高分子とアニオン性物質により構成される眼組織が静電相互作用したためであると考察される。これらの結果から、作製したRIGは生体環境に応答して眼表面でゲル化し高い滞留性を示すことが確認された。ハイドロゲルによる優れた保水効果や持続的な抗炎症作用により、優れたドライアイ治療薬としての効果が期待され、点眼剤の頻回投与の回数を削減しうることを示唆している。
【0053】
試験3:インジェクタブルゲルのドライアイに対する治療効果の検討(In vivo)
作製したRIGをドライアイモデルマウスに投与し、ドライアイへの治療効果の検討を行った。実験手順については図8に示す以下の通りである。
【0054】
BALB/cマウス(n=6,4週齢)の眼組織に0.5%の塩化ベンザルコニウム水溶液を3μL1週間投与しドライアイモデルマウスを作製した。ドライアイモデルマウス作製後、同様に3μLのサンプルを1週間投与しドライアイへの治療効果の検討を行った。本試験での実験群は非処置群(BAC投与,サンプル投与なし)、TEMPO投与群(BAC投与,低分子TEMPO溶液投与)、iRNP投与群(BAC投与,iRNP投与)、RIG投与群(BAC投与,RIG投与)の計4群である。なお、ドライアイの評価方法には涙液量検査用糸として使用される、ゾーンクイック(ZONE-QUICK)糸を用いた。ゾーンクイック糸は黄色いフェノールレッド糸であるが、涙液に触れると涙液の弱アルカリ性に反応し糸が赤く変化する。この性質を利用し、赤く変化した部分の長さを測定することにより、涙液の量を定量化する評価法である。イソフルランの吸入麻酔科でマウスの下瞼に約1mmのフェノールレッド糸を一分間挿入した。赤くなった部分の長
さを測定しるサンプル投与による涙液量の変化を検証した。
【0055】
図9にゾーンクイック糸にて測定した涙液量の経時変化を示した。どのグループにおいてもBACを投与した期間(day-7からday 0)で涙液量が低下したことからBACによるドライアイモデルマウスの作製に成功した。ミセル溶液であるiRNP投与群においては涙液量の回復は見られずドライアイに対する治療効果は見られなかった。ミセル溶液のため眼組織から迅速に排出されたためであると考察できる。一方RIG投与群においては投与開始から涙液量の増加が顕著に見られた。この結果からRIGは生体投与後にミセル溶液からゲルへと転移することで、滞留性が向上し、ハイドロゲルの高い保水性と持続的な抗酸化ストレス能が効果的にドライアイの治療に貢献したものと結論付けられる。
【0056】
試験4:PBA-PEG-PEAMA含有ナノ粒子(PBA-iRNP)によるムチンとの接着性評価
新規合成したPBA-PEG-PEAMAの眼組織との接着性を評価するため、PBA-PEG-PEAMA含有ナノ粒子を作製し、ムチンとの接着性を評価した。PEG-b-PMNTジブロックポリマーおよびPBA-PEG-PEAMAジブロックポリマー、ポリアクリル酸(PAA;Mw:5k)をそれぞれリン酸バッファー(0.1M)に溶解し、濃度を5mg/mlにしたカチオンPEG-b-PMNTおよびPBA-PEG-PEAMA混合水溶液とアニオンPAA水溶液を調製した。ここでカチオン性水溶液はPBA-PEG-PEAMAが重量比で0%、10%、20%、含まれる水溶液を調整した。その後、PEG-b-PMNTジブロックポリマーおよびPBA-PEG-PEAMAジブロックポリマー混合水溶液をPAA水溶液に撹拌しながら滴下することでポリイオンコンプレックスナノ粒子(PBA-iRNP)を調製した。それぞれのナノ粒子溶液を濃縮し30mg/mLとした後、ムチン(1mg/mL)とpH=7.4、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0 条件下で反応させ、接着性をPAS(Periodic acid/Schiff)染色法により評価した。
【0057】
図10に各pHにおけるナノ粒子とムチンとの接着量を示した。ナノ粒子を使用することでムチンとの接着性が向上した。これは静電相互作用により形成しているナノ粒子が負電荷に帯電しているムチンと相互作用したためであると考察される。またpHが弱アルカリ領域であるpH=8.0付近でPBA-iRNPのムチン接着能が向上した。これはPBA-PEG-PEAMAポリマーをナノ粒子に組み込むことにより、フェニルボロン酸とムチンとの間での結合形成により有意に接着性が上昇したものと考えられる。これらの結果から、本研究で新規に合成したPBA-PEG-PEAMAジブロックポリマーを、インテリジェントゲル(RIG)に組み込むことにより、さらなる眼組織との接着性の向上が見込まれ、ドライアイ治療点眼剤として優れた機能を発揮するものと期待される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、ドライアイの処置に用いることのできる組成物が提供される。したがって、本発明は少なくとも製薬業において利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
8
【図10】
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