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明細書 :プロテインキナーゼ阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6761993号 (P6761993)
公開番号 特開2017-132743 (P2017-132743A)
登録日 令和2年9月10日(2020.9.10)
発行日 令和2年9月30日(2020.9.30)
公開日 平成29年8月3日(2017.8.3)
発明の名称または考案の名称 プロテインキナーゼ阻害剤
国際特許分類 C07K  14/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
C40B  40/10        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  47/50        (2017.01)
A61K  31/7076      (2006.01)
A61K  38/16        (2006.01)
FI C07K 14/00 ZNA
C12Q 1/02
C12Q 1/48 Z
C40B 40/10
A61P 35/00
A61P 43/00 111
A61K 47/50
A61K 31/7076
A61K 38/16 200
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2016-016460 (P2016-016460)
出願日 平成28年1月29日(2016.1.29)
審査請求日 平成31年1月21日(2019.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
発明者または考案者 【氏名】藤井 郁雄
【氏名】藤原 大佑
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査官 【審査官】林 康子
参考文献・文献 特開2014-047156(JP,A)
米国特許出願公開第2011/0034670(US,A1)
Takayama, R., et al,Peptide Science 2014, Proceedings of the 51st Japanese Peptide Symposium,The Japanese Peptide Sciety,2015年 3月,p.313-314
Current Protocols in Chemical Biology, (2013), Vol.5, p.171-194
J Med Chem, (1991), Vol.34, p.73-78
Nature Structural Biology, (2001), Vol.8, No.1, p.37-41
Bioorg Med Chem Lett, (2010), Vol.20, p.1776-1778
Takayama, R.,et al,P-124 Molecular design of protein kinase inhibitors: Conjugation of ATP-competitive molecules with kinase surface-targeted peptides,第51回ペプチド討論会講演要旨集,日本ペプチド学会,2014年 9月30日,p.168
FUJIWARA, D., et al,Peptide Science 2016,2017年 2月,p.169-170
調査した分野 C07K 14/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
ペプチド鎖を表層に提示したファージライブラリーを作製する工程と、
当該ファージライブラリーのファージ表面に提示されたペプチド鎖に次の化学式1、3~6の何れかの化学式で示される化合物が間接に結合されたペプチド複合体のファージライブラリーを作製する工程と、
前記ファージライブラリーと標的キナーゼを接触させてバイオパンニングする工程を有する標的キナーゼに対する2価阻害剤のスクリーニング方法であって、
前記ペプチド鎖はヘリックス-ループ-ヘリックス構造のペプチド部のN末端にCDGGSGGGSのアミノ酸配列を有し、
前記キナーゼ結合性低分子化合物は、前記ペプチド複合体のN末端のシステイン残基と、前記化合物のマレイミド残基の3位又は4位が結合したスクリーニング方法。
【化1】
JP0006761993B2_000008t.gif
【化3】
JP0006761993B2_000009t.gif
【化4】
JP0006761993B2_000010t.gif
【化5】
JP0006761993B2_000011t.gif
【化6】
JP0006761993B2_000012t.gif

【請求項2】
前記ヘリックス-ループ-ヘリックス構造を有するペプチド部は配列番号3に示すアミノ酸配列を有する請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記標的キナーゼはオーロラキナーゼA、オーロラキナーゼC、Erk2、PAK4、PKACαである請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
ファージ表面に提示されたペプチド鎖に化学式1、3~6の何れかの化学式で示される化合物が間接に結合されたペプチド複合体のファージライブラリーであって、
前記ペプチド鎖はヘリックス-ループ-ヘリックス構造を有するペプチド部のN末端にCDGGSGGGSのアミノ酸配列を有し、
前記ペプチド複合体のN末端のシステイン残基と、前記化合物のマレイミド残基の3位又は4位が結合したファージライブラリー
【化1】
JP0006761993B2_000013t.gif
【化3】
JP0006761993B2_000014t.gif
【化4】
JP0006761993B2_000015t.gif
【化5】
JP0006761993B2_000016t.gif
【化6】
JP0006761993B2_000017t.gif

【請求項5】
前記ヘリックス-ループ-ヘリックス構造は、
14個のアミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックス鎖とこれら2本のα-ヘリックスをつなぐ7個のアミノ酸残基からなるループ部から構成され、
前記ヘリックス-ループ-ヘリックス構造は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する請求項4に記載のファージライブラリー。
【請求項6】
次の構造式(化学式2)で示されるペプチド複合体。
但し、構造式中のA鎖-C鎖-B鎖からなるペプチド鎖は配列番号20に示されたアミノ酸配列を有し、構造式中のアミノ酸Xはトリプトファン(W)である。
【化2】
JP0006761993B2_000018t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はプロテインキナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼ(以下、本発明においては「キナーゼ」と称する。)は、二基質反応の一種であるタンパク質のリン酸化反応を触媒し、基質であるタンパク質をリン酸化する。キナーゼは、このリン酸化によってタンパク質の酵素活性や他のタンパク質との会合状態を変化させることから、細胞内における様々なシグナル伝達や代謝の調節因子として機能する。がん細胞においても、キナーゼががん細胞の増殖や移動、浸潤、アポトーシス(細胞死)の調節に関与することから、近年、キナーゼの活性阻害に着目した抗がん剤(キナーゼ阻害剤)の開発が進められている。例えば、チロシンキナーゼ阻害剤である慢性骨髄性白血病の治療薬であるイマチニブが知られている。
【0003】
しかしながら、キナーゼのATP結合部位の立体構造は互いに相同性が高いので、ほとんどの低分子キナーゼ阻害剤は標的キナーゼ以外のキナーゼに対して非特異的に結合する可能性があり、副作用の原因とも考えられる。そこで、標的とするキナーゼ以外への非特異的な阻害活性が少ない抗がん剤の開発が望まれる。
【0004】
このような状況下において、標的となるタンパク質を2か所で認識することで選択性が向上した二価阻害剤の開発が行われている。例えば、特許文献1(特表2015-528447号公報)には、非ペプチドの低分子化合物であるIAP二価阻害剤が開示されている。この阻害剤は、標的タンパク質であるXIAPのBIR2ドメインおよびBIR3ドメインの両方を同時に標的とすることにより、一方のドメインを標的とする阻害剤よりもはるかに強力なXIAPアンタゴニストとなり得る。また、非特許文献1(Ricouart, A., Gesquiere, J.C., Tartar, A., & Sergheraert, C. Design of potent protein kinase inhibitors using the bisubstrate approach. J. Med. Chem. 34, 73-78 (1991))には、ATPのアナログとPKA(Protein Kinase A)の基質ペプチドを模倣した合成ペプチドが1~数個のβ-アラニンからなるリンカーで結合された化合物が、非特許文献2(Parang, K., Till, J.H., Ablooglu, A.J., Kohanski, R.A, Hubbard, S.R, & Cole, P.A. Mechanism- based design of a protein kinase inhibitor. Nat. struct. Biol. 8, 37-41 (2001))には、ATPとIRK(Insulin Receptor Protein Kinase)の基質となる合成基質IRS(J. Biol. Chem. 2000, 275, 30394-30398)がリンカーで結合された化合物が開示されている。さらに、非特許文献3(J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 13812-13813)には、PKA阻害剤であるスタウロスポリンと環状ペプチドが3分子のPEG(Polyethylene Glycol)を含むリンカーで結合された化合物が開示されており、当該環状ペプチドはファージ表層提示法(ファージディスプレイ法)を利用して作製されている。
【0005】
一方、2本のα-ヘリックスとそれらを繋ぐループ(リンカー)を備えたヘリックス-ループ-ヘリックス構造(HLH構造)を有するペプチドは公知である。このHLH構造を有するペプチドでは、2本のα-ヘリックスは、内側に存在するロイシン側鎖の疎水相互作用等により安定なHLH構造を形成し、ロイシン側鎖を保持した状態ではHLH構造が安定に保持される。
【0006】
これまでに、当該HLH構造を有するペプチド(HLHペプチド)が転写因子p53とMDM2(Murine Double Minute 2)タンパク質との結合を阻害すること(特許文献2:特開2014-1189号公報)や、ヒトインターロイキン-5やサイトカインなどの受容体に直接結合してアゴニストまたはアンタゴニストとして作用すること(特許文献3:特開2011-231085号公報や特許文献4:特開2008-214254号公報)などが知られている。
【0007】
ところで、特定のタンパク質(標的タンパク質)に強い結合性を示すペプチド又はタンパク質をスクリーニングする方法としてバイオパンニングが知られている(非特許文献3や5)。この方法は、目的とするペプチド等を表層に提示させたファージと、対象となる特定のタンパク質を結合させることで、結合性の強いペプチド等を選択する方法である。この方法では、プレートなどに固定した標的タンパク質とファージを接触させ、結合したファージを回収、増殖させた後に、再度標的タンパク質と接触させることで、標的タンパク質に強く結合するファージが濃縮され、標的タンパク質に強い結合性を示すペプチド等が得られる。従って、このバイオパンニングを利用することで、特定のタンパク質に対して強い親和性を有するペプチド等を比較的容易に見いだすことができる。
【0008】
しかしながら、これまでのところ、標的タンパク質であるキナーゼに対するHLH構造を有するペプチドを備えた2価阻害剤は見いだされていない。また、非特許文献3には、目的とする環状ペプチドを得るためにバイオパンニングが利用されている。しかし、ここでのスクリーニング法は、ファージ表層提示法で得られたペプチドライブラリーとそれと結合した第1のペプチド鎖を有する第1の複合体と、低分子化合物であるスタウロスポリンとそれと結合した第2のペプチド鎖を有する第2の複合体が、第1のペプチド鎖と第2のペプチド鎖の会合により結合することを利用した方法であるので、低分子化合物とペプチドライブラリーとの距離が正確に把握できない。従って、スクリーニングにより得られたペプチドと低分子化合物を結合するためのリンカーを新たに設計する必要に迫られ、スクリーニングされた結果をそのまま化学的合成に活かすことができない。この結果、スクリーニング精度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特表2015-528447号公報
【特許文献2】特開2014-1189号公報
【特許文献3】特開2011-231085号公報
【特許文献4】特開2008-214254号公報
【0010】

【非特許文献1】Ricouart A. et al.、J. Med. Chem.、34、73-78(1991)
【非特許文献2】Parang, K. et al.、Biol.、8、37-41(2001)
【非特許文献3】Meyer, S.C. et al.、J. Am. Chem. Soc.、2007、129、13812-13813
【非特許文献4】Smith, G.P.、Science.、228、1315-1317(1985)
【非特許文献5】Kather, I. et al.、J. Mol. Biol. 2005, 354, 666-678.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、特定の標的キナーゼ、例えばオーロラキナーゼに対して強い結合性を示すHLHペプチド複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、ペプチドを表層に提示したファージライブラリーを作製する工程と、当該ファージライブラリーのファージ表面に提示されたペプチド鎖にキナーゼ結合性低分子化合物が直接又は間接に結合されたペプチド複合体のファージライブラリーを作製する工程と、前記ファージライブラリーと標的キナーゼを接触させてバイオパンニングする工程を有する。そして、前記ペプチド鎖としてヘリックス-ループ-ヘリックス構造を有するペプチド部を有するペプチド鎖を用いるとともに、前記キナーゼ結合性低分子化合物として標的キナーゼのATP結合部位にATPと競合的な結合性を有し、ATPの前記標的キナーゼへの結合性よりも弱い結合性を有する化合物を用いて標的キナーゼに対する2価阻害剤をスクリーニングする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オーロラキナーゼといった特定の標的キナーゼに対して強い結合性を示すHLHペプチド複合体を見いだすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の基礎となるヘリックス-ループ-ヘリックス構造を有するペプチドライブラリーの概念図である。
【図2】図2は本発明で得られるペプチド複合体ファージライブラリーを示す概念図である。
【図3】図3はペプチドライブラリーの作製に用いたファージベクターの模式図である。
【図4】図4はペプチドライブラリーの作製に用いたファージベクターの塩基配列を示す図である。
【図5】図5はATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメント(マレイミド-アデノシン)の合成方法を示す図である。
【図6】図6はバイオパンニングにおけるファージ回収率を示す図である。
【図7】図7はバイオパンイングにより得られたクローンが有するランダム化されたアミノ酸の収束を示す図である。
【図8】図8はペプチドBip-3のCDスペクトルである。
【図9】図9は各種標的キナーゼに対するキナーゼ阻害剤Bip-3-Adcの阻害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るプロテインキナーゼ阻害剤(以下「キナーゼ阻害剤」と略する。)は二価阻害剤であって、キナーゼに対して結合性を有するペプチド鎖とキナーゼ結合性低分子化合物が直接又は間接に結合した化合物である。当該ペプチド鎖はHLH構造を有するペプチド部を有し、キナーゼに対して結合性を有する。HLH構造を有するペプチド部は前記のとおり、それぞれ14個のアミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックス(N末端側のA鎖と、C末端側のB鎖)とこれら2本のα-ヘリックスをつなぐ7個のアミノ酸残基からなるループ部(C鎖)から構成される。当該ペプチド部のアミノ酸配列は、標的キナーゼに応じて決定され得る。代表的なHLH構造を有するペプチド部は例えば図1のYT-1に示されるように、配列番号1で示されるアミノ酸配列(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLAALKAKLAALKA)を有し、2本のα-ヘリックスの内側に存在するロイシン側鎖の疎水相互作用等により安定なHLH構造が保持される。キナーゼに対して結合性を有するペプチド部はHLH構造の安定化に影響が少ない位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたものであって、例えば配列番号2(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLXXLKXKLXXLKX)に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「ペプチド部」と称する)であり、このペプチド部から1~3個のアミノ酸が欠損、付加又はX以外のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたペプチド(ペプチド部)でもあり得る。キナーゼ阻害剤におけるペプチド鎖は、ペプチド部そのものであるか、ペプチド部のN末端又はC末端に付加された1個のアミノ酸又は2~20個のアミノ酸を含み得る。付加されたアミノ酸は、後述するように、キナーゼ結合性低分子化合物とのリンカーの一部となり得る。また、本発明においてアミノ酸はランダム化されるアミノ酸Xを含めてすべて天然タンパク質に見いだされる20種類のアミノ酸の何れか1種である。

【0016】
キナーゼ結合性低分子化合物も標的キナーゼに対して結合性を有する。当該キナーゼ結合性低分子化合物は標的タンパク質に限らず、標的タンパク質以外のキナーゼにも結合し得る化合物である。この低分子化合物は、当該キナーゼの活性中心に本来結合すべき化合物の類縁体(アナログ)であればよく、好ましくは標的タンパク質に対して弱い結合性を示す化合物、つまり当該キナーゼの活性中心に対する結合力が、当該キナーゼの活性中心に本来結合すべき化合物の結合力よりも弱い化合物である。また、当該低分子化合物の分子量は、ペプチドの分子量よりも小さく、具体的には4000以下、好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、望ましくは300以下である。そして、当該低分子化合物は、ペプチド認識部位とは異なる認識部位に結合することが必要である。このような低分子化合物として、ATP(アデノシン三リン酸)の類縁体であるアデニンやアデノシン、ADP(アデノシン二リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)が例示される。ここに例示したアデニン又はアデノシンなどは、キナーゼのATP受容体に結合可能であり、ATPと競合的にATP受容体に結合し、その結合力はATPのそれよりも弱い。ATP受容体へのアナログの結合力がATPの結合力よりも強いとアナログが標的タンパク質以外のタンパク質にも結合し、標的タンパク質に選択的に結合するペプチド複合体が得られなくなる可能性が大きくなる。もっとも当該低分子化合物はキナーゼの活性中心にあるATP結合部位に結合する(ATPに対して競合阻害活性を持つ)化合物であればよく、アデニンやアデノシン以外の類縁体、例えば非特許文献1~4などに記載された低分子化合物も使用し得る。なお、本発明において類縁体として使用されるアデニン又はアデノシン、ADP、AMPには、ATP受容体への結合性が失われない限りにおいて、その化学構造の一部が改変された化合物が含まれる。

【0017】
キナーゼ結合性低分子化合物は、直接又は間接に前記ペプチド部に結合される。ここにおいて直接に結合されるとは、キナーゼ結合性低分子化合物の構成元素と前記ペプチド部の構成元素が直接結合していることを意味する。また、間接に結合されるとは、キナーゼ結合性低分子化合物の構成元素と前記ペプチド部の構成元素がリンカーと言われる1~30個の元素が直鎖状に結合した化合物を介して結合していることを意味する。リンカーは前記低分子化合物とペプチド部を繋ぐことができればよく、分岐鎖を含む化合物でも差し支えない。また、リンカーは、ペプチド部の機能に変化させない温和な条件下でシステインのチオール基と化学選択的に反応して修飾できるものが好ましい。例えば、マレイミドやヨードアセトアミドである。マレイミドを備えることで、ペプチド鎖への修飾(結合)が容易になるからである。マレイミドを用いた場合、例えば、ペプチド鎖のシステイン残基が有するイオウとマレイミドの3位の炭素が結合したペプチド複合体が得られる。リンカーのペプチド鎖への結合位置は、ペプチド鎖のN末端のアミノ酸又はC末端のアミノ酸又はそれらから1~数個、好ましくは5個以内、望ましくは3個以内であり、好ましくはペプチド鎖のN末端のアミノ酸又はC末端のアミノ酸である。このとき、HLH構造のN末端側のα-ヘリックスのN末端又はC末端側のα-ヘリックスのC末端に、リンカーの一部となる1~20個、好ましくは2~10個、望ましくは1~5個のアミノ酸が付加され得る。付加されるアミノ酸は任意のアミノ酸であって、好ましくは1個のシステインが含まれるように構成される。リンカーが結合する位置は、へプチド部のN末端側又はC末端側の何れでもよいが、リンカーの導入の容易さからはN末端側のα-ヘリックスの末端である。また、1分子のキナーゼ結合性低分子化合物と1分子のペプチド部が結合することが望ましいが、場合によっては1分子のキナーゼ結合性低分子化合物と複数分子のペプチド部が結合され、あるいは複数分子のキナーゼ結合性低分子化合物と1分子のペプチド部が結合することもあり得る。

【0018】
本発明におけるペプチド鎖には、HLH構造を有するペプチド部に対して、リンカーを結合するために付加されるアミノ酸の他に、リンカーが付加されないN末端又はC末端にさらに1~20個程度、好ましくは1~数個、望ましくは1~5個のアミノ酸が付加され得る。例えば配列番号3(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLXXLKXKLXXLKXX)に示すペプチドでは、HLH構造を有するペプチド部のC末端に1個のアミノ酸Xが付加されている。従って、本発明におけるペプチドは35~70個のアミノ酸残基を有する。

【0019】
本発明に係る二価阻害剤は、(1)ペプチド鎖を表層に提示したファージライブラリーを作製する工程と、(2)当該ファージライブラリーのファージ表面に提示されたペプチド鎖にキナーゼ結合性低分子化合物が直接又は間接に結合されたペプチド複合体のファージライブラリーを作製する工程と、(3)前記ファージライブラリーとキナーゼのような標的タンパク質を接触させてバイオパンニングする工程を有する方法により取得され得る。

【0020】
(1)の工程は、ペプチド鎖を表層に提示したファージライブラリーを作製する工程である。この工程における表層にペプチド鎖を提示したファージ(ファージ表層提示ペプチド)の作製方法は公知であって、例えば非特許文献3や4に記載された方法によって作製され得る。用いられるファージとして例えばM13ファージ、fdファージなどが挙げられる。また、繊維状ファージfdの変異体であって、コートタンパク質pIIIの1分子が有する6個のシステイン残基が全て他のアミノ酸残基に置換されたファージであるcys-freeファージが好ましく用いられる(非特許文献5参照)。この工程では、ペプチド鎖が提示された多種類のファージが得られるようにファージが改変される。提示させるペプチド鎖は特に限定されないが、好ましくは前記ヘリックス-ル-プ-ヘリックス構造を有するペプチド部を有するペプチド鎖である。このペプチド部は、例えば配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるYT-1ペプチドを改変したペプチド部である。改変ペプチド部は、好ましくはヘリックス-ループ-ヘリックス構造が維持されるように、2本のα-ヘリックスの内側に存在するロイシン側鎖以外のアミノ酸残基が任意のアミノ酸残基に置換されたペプチド鎖である。置換されるアミノ酸残基の数は1以上であり、置換されるアミノ酸残基はN末端側のα-ヘリックスやC末端側のα-ヘリックスの何れか一方のアミノ酸残基でもあり、また2本のα-ヘリックス双方のアミノ酸残基でもあり得る。改変部位は標的タンパク質に応じて適宜決定され得る。例えば、キナーゼの1種類であるオーロラキナーゼAを標的タンパク質にした場合には、配列番号1に示すアミノ酸配列のうちN末端から24番目のアラニン(A24:以下、アミノ酸を示すコードに付記された数字は、各ペプチドのN末端からの位置を示す。)、A25、A28、A31、A32、A35がそれぞれ任意のアミノ酸Xに置換される。

【0021】
本発明においては、前記のように配列番号1に示すHLH構造のペプチド部のN末端又はC末端に、低分子化合物の結合のために1~20個、好ましくは2~10個、望ましくは1~5個のアミノ酸が付加され得る。さらに、リンカーが付加されないC末端又はN末端にさらに1~20個程度、好ましくは1~数個、望ましくは1~5個のアミノ酸が付加され得る。そして、これらのアミノ酸が付加されたペプチド鎖が提示されるようにファージが改変される。

【0022】
このように改変されたペプチド鎖がファージ表層に提示されるように遺伝子工学的手法によって構築したファージを大腸菌などの宿主を用いて増幅し、種々のペプチド鎖がファージ表層に提示されたファージライブラリーを作製する。

【0023】
(2)の工程は、(1)の工程で得られたファージライブラリーに、キナーゼ結合性低分子化合物を修飾し、ペプチド複合体のファージライブラリーを作製する工程である。キナーゼ結合性低分子化合物の修飾方法は適宜当業者によって決定され得る。当該方法は、予め合成したキナーゼ結合性低分子化合物とリンカーの全部又は一部の合成体と、得られたファージライブラリーを反応させる方法であり、ファージライブラリーに予めリンカーを結合させた後、あるいはリンカーの一部を発現したファージライブラリーに低分子化合物を反応させる方法でもあり得る。例えば、HLH構造のペプチド部のN末端又はC末端にアミノ酸が付加されたペプチド鎖と、キナーゼ結合性低分子化合物を反応させる。

【0024】
(3)の工程は、(2)の工程で得られたペプチド複合体のファージライブラリーと、標的タンパク質を用いてバイオパンニングを行う工程である。バイオパンニングの手法も公知であって、当該工程はファージライブラリーと標的タンパク質を接触する工程と、標的タンパク質と結合したファージを回収して、さらに大腸菌などの宿主を用いてファージを増幅する工程とを含む。これらの工程を繰り返すことで、標的タンパク質に対して強い結合性を示すペプチド表層提示ファージが選択される。そして、得られたペプチド表層提示ファージのペプチド鎖中のアミノ酸配列を解析することで強い標的タンパク質に対して強い結合性を示すペプチド複合体が得られる。強い結合性を有するペプチド複合体は、種々の公知であるペプチド合成方法に従って合成することが出来る。合成方法としては例えばFmoc固相合成法、フラグメント縮合法等の液相合成法が挙げられる。

【0025】
標的タンパク質は例えばプロテインキナーゼであり得る。プロテインキナーゼも特に限定されず、セリン/スレオニンキナーゼであり、チロシンキナーゼであり得る。また、標的タンパク質は、タンパク質を翻訳後修飾する酵素のうち、アデノシン及びその類似化合物を利用する酵素であればよく、プロテインキナーゼ以外では、メチル基転移酵素であり、アセチル基転移酵素でもあり得る。

【0026】
図2は本発明で作製されるペプチド複合体ファージライブラリーを概念的に示した図である。図示されたペプチド複合体ファージライブラリーは、オーロラキナーゼAに対して結合性を示すペプチド複合体ファージライブラリーの一例である。当該ファージライブラリーは、オーロラキナーゼAのペプチド認識部位に対して結合性を示すペプチドファージライブラリーに、オーロラキナーゼAのATP結合部位に対して競合的に結合性を有するキナーゼ低分子化合物(Analog)が修飾されたライブラリーである。配列番号4に示されたアミノ酸配列(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLXXLKXKLXXLKXX)を有するペプチド鎖は、YT-1から改変されたものであって、配列番号2に示すペプチド部のC末端に1つのアミノ酸Xと、ペプチド部のN末端にリンカーの一部となるCDGGSGGGSの9個のアミノ酸を有する。本発明では、キナーゼに対して結合性を示すペプチドファージライブラリーとして、配列番号4に示されたアミノ酸配列中、X33がE、G、H、Q、P、V、Rの何れかのアミノ酸、好ましくはE又はH、望ましくはEであり、X34がG、N、T、L、R、Y、Vの何れかのアミノ酸、好ましくはG又はY、望ましくはYであり、X37がW、M、S、A、D、F、Qの何れかのアミノ酸、好ましくはW又はD又はM、望ましくはWであり、X40がW、P、L、I、A、Gの何れかのアミノ酸、好ましくはW又はL又はP、望ましくはWであり、X41がP、V、D、I、G、Wの何れかのアミノ酸、好ましくはP又はV、望ましくはPであり、X44がG,D,E、Y、R、Q、S、Wの何れかのアミノ酸、好ましくはG又はDであり、X45がW、G、D、M、E、S、Rの何れかのアミノ酸、好ましくはW又はG、望ましくはWであるライブラリー、より具体的には、例えば、配列番号5(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLERLKAKLLDLKYM)、配列番号6(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLGGLKMKLWPLKDW)、配列番号7(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLEYLKWKLWPLKGW)、配列番号8(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLHVLKDKLLPLKGG)、配列番号9(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLVNLKSKLWPLKEW)配列番号10(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLQGLKMKLWPLKDW)、配列番号11(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLHTLKSKLIPLKRE)、配列番号12(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLETLLWPLKGW)、配列番号13(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLGLLKWKLPILKQD)、配列番号14(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLPLLKWKLPVLKSS)、配列番号15(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLQILKWKLPVLKGD)、配列番号16(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLRNLKFKLGQLKEG)、配列番号17(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLPGLKQKLAWLKWR)を有するペプチド複合体が得られる。これら配列番号5~17のアミノ酸配列で示されるペプチド複合体のペプチド部はそれぞれ配列番号18~30のアミノ酸配列で示されるペプチド部(A鎖-B鎖-C鎖)を有する。

【0027】
キナーゼ阻害剤には、ペプチド複合体ファージライブラリー又は、このライブラリーからファージを取り除いたペプチド複合体ライブラリーから、標的タンパク質に対する解離定数Kがペプチド単体における解離定数Kより小さいもの、具体的には解離定数Kが10μM、好ましくは5μM、望ましくは1μM以下のペプチド複合体が選択される。なお、解離定数Kの測定方法は公知の方法であればいずれの方法でもよく、例えば実施例に記載された方法が選択される。得られたペプチド複合体はオーロラキナーゼAのような標的タンパク質に対して結合し、標的タンパク質の活性が阻害される。

【0028】
以下、下記の実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されることのないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0029】
〔ファージ表層提示ペプチド複合体ライブラリーの作製〕
オーロラキナーゼに強い結合性を有するペプチド複合体を表層に提示したファージファイブラリーを調製した。オーロラキナーゼは、セリン/スレオニンキナーゼの一つで、種々のがん細胞で過剰発現している。オーロラキナーゼはオーロラA、B、及びCの3つのホモログが知られている。
【実施例1】
【0030】
(1)ファージ表層提示ペプチドライブラリーの作製
まず、Cys-Freeファージ発現用プラスミドfdg3p0ss21(Heinis, C. et al.、 Phage-encoded combinatorial chemical libraries based on bicyclic peptides.、Nat. Chem. Biol.、5、502-507 (2009)、Arai, K. et al.、A monosaccharide-modified peptide phage library for screening of ligands to carbohydrate-binding proteins.、Bioorg. Med. Chem. Lett.、23、4940-4943 (2013)参照)を用いて、ファージ表層提示ペプチドライブラリーを作製した。当該ライブラリーを構成するペプチド鎖は配列番号3に示すアミノ酸配列(CDGGSGGGSAELAALEAELAALEGGGGGGGKLXXLKXKLXXLKXX)を有する。これらのペプチド鎖は公知である配列番号1に示すアミノ酸配列(AELAALEAELAALEGGGGGGGKLAALKAKLAALKA)からなるペプチドYT-1のアミノ酸配列を元にして構成された(表1参照)。アミノ酸Xは、HLH構造を構成するそれぞれ14アミノ酸残基からなる2本のα-ヘリックスにおいて、立体構造の保持に関与しないとされるアミノ酸であり、任意のアミノ酸に置換され得る。また、ライブラリーを構成する各ペプチド鎖はC末端側のα-ヘリックスのC末端に付加された1つのアミノ酸と、下記で合成されるATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメントを修飾するための9個のアミノ酸配列(CDGGSGGGS)を有する(表1及び図1参照)。なお表1中HLH-libraryはYT-1のアミノ酸の一部をランダム化したアミノ酸配列、Adc-Libraryは後述する低分子フラグメントが結合したペプチドライブラリーのアミノ酸配列、同Bip-3はオーロラAに強い結合性を示すペプチドのアミノ酸配列、同Bip-3-AdcはオーロラAに強い結合性を示すペプチド複合体のアミノ酸配列である。
【表1】
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【実施例1】
【0031】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードした遺伝子断片をOverlap extension PCRにより作製し、2nd PCRにより制限酵素サイト(SfiI)とpIIIにつながるリンカー部位を導入した。次にfdg3p0ss21のpIII D1-D2ドメインコード部位をPCRによって増幅し、制限酵素サイト(SfiI)とペプチドをつなぐリンカー部位を導入した。その後、ペプチド部位およびD1-D2部位の遺伝子断片を合わせてPCRを行うことでインサートを作製した。ファージベクターfdg3p0ss21-stopとインサートをSfiIサイトで制限酵素処理後、ライゲーションすることでペプチド提示ファージベクターを作製した。大腸菌TG1株をヒートショック法によって形質転換した後、DNAシーケンシングによりベクター中に所定のアミノ酸配列を確認した。次に、大腸菌をSB+cam培地で培養することでファージを増殖し、それを回収した。用いられたファージベクターの模式図を図3に、その塩基配列を図4に示した。なお、図4に示すリンカー(Linker)は、各サイトを結合するリンカー部位を示し、ペプチド複合体におけるリンカーを示すものではない。
【実施例1】
【0032】
(2)ATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメントの合成
次に上記で得られたファージ表層提示ペプチドライブラリーに修飾するATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメント(以下「マレイミド-アデノシンMale-AdC」と称することがある。)を図5に従って合成した。ここではATP競合的キナーゼ結合性低分子としてアデノシンを選択した。アデノシンはATPを構成する化合物である。ATPはキナーゼに結合することで、ATPからリン酸基をキナーゼに転移することでキナーゼを活性化する。従って、アデノシンは、キナーゼに対してATPと競合的に結合して、キナーゼに対する阻害剤として機能する。また、アデノシンは各種のキナーゼに対して結合性を有し、ATPよりもキナーゼに対する結合性が弱い(IC50=100-300μM)。
【実施例1】
【0033】
2',3'-O-Isopropylideneadenosine(1.23g)(化合物1)をアセトニトリル(4ml)に溶解し,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(125mg)を加え撹拌後、水(4ml)に溶解したヨードベンゼンジアセタート(2.83g)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応液をフィルター濾過することで結晶を濾別した。ジエチルエーテルとアセトンを用いて洗浄し、減圧留去することで化合物2(2',3'-O-Isopropylideneadenosine-5'-carboxylic acid)を945.3mg(収率86%)得た。
【実施例1】
【0034】
得られた化合物2(321.3mg)を無水N,N'-ジメチルホルムアミド(30ml)に溶解し、N-ヒドロキシスクシンイミド(230.2mg)を加え撹拌後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(383.5mg)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応液をN,N'-ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解したエチレンジアミン(668μl)に注ぎ、室温にて一晩撹拌した。反応液を減圧留去後、残渣を逆相高速液体クロマトグラフィー(流速3.0ml/min、検出波長λ=260nm、アセトニトリル:0.1%TFA水溶液=13:87)にて精製して化合物3(2',3'-O-Isopropylideneadenosine-5'-(2'-aminoethyl)-amide)を277.8mg(収率76%)得た。
【実施例1】
【0035】
この化合物3(68.2mg)をアセトニトリル(3ml)に溶解し、トリエチルアミン(52μl)を加え撹拌後、3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジル(100mg)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応液を減圧留去後、残渣を逆相高速液体クロマトグラフィー(流速3.0ml/min、検出波長λ=260nm、アセトニトリル:0.1%TFA水溶液=18:82)にて精製して化合物4(2',3'-O-Isopropylideneadenosine-5'-(2'-maleimidopropionamidoethyl)-amideを21.6mg(収率22%)た。
【実施例1】
【0036】
化合物4(15.6 mg)をメタノール(1.5ml)-水(1.5ml)に溶解し、1N HCl(50μl)を加えて55℃にて24時間攪拌した。反応液を逆相高速液体クロマトグラフィー(流速3.0ml/min、検出波長λ=260nm、アセトニトリル:0.1%TFA水溶液=10:90)にて精製して化合物5(5 Adenosine-5'-(2'-maleimidopropionamidoethyl)-amide)を6.1mg(収率39%)得た。この化合物は、1H-NMR(400MHz,DMSO-d6):δ8.51(s,1H),8.31(s,1H),8.07(s,1H),6.99(s,2H),5.98(d,J=7.8,1H),4.59(dd,J = 4.5 and 2.9,1H),4.32(d,J=1.2Hz,1H),4.18(d,J=4.1Hz,1H),2.78(t,J=7.3,2H),3.07-3.22(m,3H),2.28(t,J=7.3Hz,2H)のシグナルを与えた。
【実施例1】
【0037】
(3)バイオパンニング
(1)で得られたファージ表層提示ライブラリーを、(2)で得られたATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメントで修飾した後、オーロラAに対するバイオパンニングを行った。
200μlのPBS(pH7.0)に1012cfuのペプチド提示ファージと1mMのマレイミド-アデノシン溶液1μlを混合して室温にて2時間反応させた。反応後、遠心分離(14,000g、20min)してファージを回収した。これをTBS(137mM NaCl、2.68mM KCl、25mM Tris(pH7.4))で希釈し、全量を100μlとして、ファージ溶液を調製した。調製したファージ溶液を、下記の方法で調製されたオーロラAが固定された抗GST抗体固定化プレート上で室温にて30分間インキュベーションした。その後、TBST(TBS with 0.05% Tween(商品名)20)で20回プレートを洗浄した後,100μlの0.1M Gly-HCl buffer(pH2.0)を加え室温にて20分間振とうした。Outputファージ溶液を回収し、10μlの1M Tris-HCl buffer(pH9.1)で中和した。この操作を3ラウンド繰り返し、各ラウンドのOutputファージの力価(タイター)及び回収率(Output/Input(%))を求めた。ファージの力価は、ファージと接触させた大腸菌TG1株を、37℃一晩培養することで得られたコロニー数から求めた。その結果を表2及び図6に示した。
(オーロラAが固定された抗GST抗体固定化プレートの調製方法)
抗GST抗体溶液(GE Healthcare社)を1/1000倍に希釈し、マイクロタイターウェル(Polysorp、NUNC)に50μlずつ加えて4℃で一晩静置した。TBSTを用いてウェルを4回洗浄し、2%BSAブロッキング溶液を200μlずつ各ウェルに加え、室温で1時間静置した。TBSTでウェルを4回洗浄し、TBSTを用いて、キナーゼ活性を十分に有する濃度にオーロラA(CARNA BIOSCIENCES社)の溶液を50μl加えて室温で1時間振とうした。
【実施例1】
【0038】
【表2】
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【実施例1】
【0039】
ラウンドを重ねるごとにファージ回収率が上昇し、オーロラA結合性ファージの濃縮がみられた。一方、オーロラAの対照として用いたBSAに対してはファージの濃縮がみられなかった。よってオーロラAに選択的に結合するペプチドの獲得が強く示唆された。
【実施例2】
【0040】
次に得られたペプチド表層ペプチドのアミノ酸配列の決定を行った。ラウンド3で得られたOutputファージの中から任意の16クローンを選択し、16クローンのファージについてペプチドのアミノ酸配列を推定した。アミノ酸配列の推定は、力価測定時に得られたコロニーを培養して得られた菌体から、QIAprep(商標名) spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出及び精製した。得られたプラスミドを鋳型として、BigDye(商標名) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit及びPCRサーマルサイクラーを用いてDNA鎖の伸長を行い、DNAシーケンサー(ABI Prism(商標名) 3100-Avant Gentic Analyzer;Applied Biosystems)を用いて配列解析を行った。その結果を表3に示す。なお、表3には、C末端側のα-ヘリックス部分とα-ヘリックスのC末端に付加されたアミノ酸部分の配列を示し、各配列番号のアミノ酸配列には前記のとおりペプチド鎖の全長を示した。また、得られたペプチドのアミノ酸の出現頻度をSequence logo55を用いて調べたところ、図7に示すように一部のアミノ酸に収束することが確認され、収束されたアミノ酸は、同じ配列となったクローン3,10,11がもつアミノ酸の性質と類似した性質を持っていた。なお、アミノ酸配列3において、X33はE、H、G、P、Q、V、Rに、X34はG、Y、L、N、T、Yに、X37はW、D、M、S、A、Fに、X40はW、L、P、A、Gに、X41はP、V、D、I、G、Wに、X44はG、D、E、W、R、Q、Yに、X45はW、G、D、E、M、R、Sに収束された。
【実施例2】
【0041】
【表3】
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【実施例3】
【0042】
〔オーロラA結合性ペプチド複合体の結合阻害活性〕
バイオパンニングで収束したアミノ酸配列のうち、同一のアミノ酸配列が得られたペプチド3(Bip-3)を有するペプチド複合体(Bip-3-AdC)を合成し、オーロラAに対する結合阻害活性を求めた。
【実施例3】
【0043】
(1)オーロラA結合性ペプチドの化学合成
実施例2で得られたクローン3、10、11のアミノ酸配列に基づき、配列番号7に示すアミノ酸配列からなるペプチドBip-3を合成した。Fmoc固相合成法に基づき、ペプチドBip-3を合成した。0.25mmolスケールでペプチド合成機CS336X(CS-Bio社)を用いて合成した。0.25mmolのアミドレジン(Fmoc-NH-SAL-PEG resin:渡辺化学工業社)1.1gをリアクションベッセルへ量り取り、DMFを用いてレジンを膨潤させた。また、1mmolの各Fmocアミノ酸をチューブにそれぞれ量り分けて合成機にセットして合成した後、クリベージ溶液(TFA:EDT:Anisole:EDT=95:1:3:1)にて脱樹脂・脱保護を行った。アミドレジンを用いたので、C末端がアミド基のペプチドを得た。その後、下記条件にて逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)により分取して、精製した。精製したペプチドをRP-HPLCで分析して純度を決定したところ、純度が92%であった。さらにMALDI-TOF-MSで質量分析を行ったところ、m/zは4457.370となり,ペプチドの[M+H]+の計算値4457.251と一致したことから、目的のペプチドが合成されたことが確認された。
【実施例3】
【0044】
<精製条件>
カラム: YMC-Pack ODS-AM AM323 250×10mm I.D.(YMC社)
溶出液: A) 0.1%TFA水溶液
: B) アセトニトリル
流速: 3.0ml/min
検出波長: 280nm
溶出条件: Linear gradient:30%-60%(A:B)(1%/min)
【実施例3】
【0045】
(2)ペプチド複合体の合成
得られたペプチドBip-3に対して、実施例1で得たATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメント(マレイミド-アデノシンMale-AdC)を結合した。ペプチドBip-3の10mgをPBS(pH7.0)に溶解し、マレイミド-アデノシンMale-AdC 2.68mgを加え、室温にて3時間攪拌した。反応液をRP-HPLCを用いて目的の化合物を分取して精製した。精製したペプチド複合体を上記精製条件にてRP-HPLCで分析して純度を決定したところ、純度が98%であった。さらにMALDI-TOF-MSで質量分析を行ったところ、m/zは4930.860となり、ペプチドの分子量(4457.25)にマレイミド-アデノシンMale-AdCの分子量(474.43)を足し、水素原子の原子量を引いた値と一致したことから、目的のペプチド複合体Bip-3-AdCが合成されたことが確認された。
【実施例3】
【0046】
(3)ペプチド立体構造の保持
ペプチドがα-へリックス構造を有する場合、208nmと222nmに負の吸収極大を示すことが知られている。20μMのペプチドBip-3溶液を、TBSを用いて調製し、円二色性分散計(J-820、JASCO社)を使用してCDスペクトルを測定して、平均分子楕円率を求めた。その結果、基礎としたペプチドYT-1のCDスペクトルとほぼ同様なスペクトルを示し、合成したペプチドBip-3がα-へリックス構造を保持することが確認された(図8参照)。
【実施例3】
【0047】
(4)オーロラAに対する結合性
得られたペプチド複合体Bip-3-AdCとオーロラAの結合性について、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)法により分子間相互作用を測定し、解離定数(KD)を求めた。対照として、ペプチドBip-3とオーロラAの結合性及びフラグメントMale-AdCとオーロラAの結合性も測定した。
【実施例3】
【0048】
SPR装置Biacore T200(BIACORE社)の操作マニュアルに従い、装置のセンサーチップCM5に、アミンカップリング法を用いてオーロラAをリガンドとして固定化した。リファレンスとしてエタノールアミンを固定化し、サンプルをアナライトとして測定を行った。測定は全て25℃で行い、ランニングバッファーにはTBSを使用した。ペプチド複合体Bip-3-AdCを溶解したランニングバッファーを、オーロラAを固定化したセンサーチップCM5へインジェクト(流速30μl/min,2分間)した後、ランニングバッファーを10分間流して、ペプチド複合体Bip-3-AdCを解離させた。解離定数の算出にはBiacore T200 Evaluation Software(BIACORE社)を用いてカイネティクス解析を行った。得られたセンサーグラムに直接反応式をカーブフィッティングさせ、非線形最小二乗法により速度定数を算出した。解析には1:1 bindingモデルを使用した。結合と解離が速く、カイネティクス解析ができない場合は平衡値解析を適用した。得られた解離定数を表4に示した。
【実施例3】
【0049】
【表4】
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【実施例3】
【0050】
このように、ペプチドBip-3と合成したATP競合的キナーゼ結合性低分子フラグメント(マレイミド-アデノシンMale-AdC)が結合したペプチド複合体Bip-3-AdCは、ペプチドBip-3に比べて強力なオーロラAに対する結合性を示した。なお、ペプチドYT1についても同様の条件で分子間相互作用を測定したが、オーロラAに対して結合を示さず、ペプチドBip-3はオーロラA結合性ペプチドであることが確認された。
【実施例3】
【0051】
(5)ペプチド複合体の阻害活性
ペプチドBip-3、マレイミド-アデノシンMale-AdC及びペプチド複合体Bip-3-AdCがそれぞれオーロラAに対して阻害活性を有するのかどうかをIMAP TR-FRET法を用いて測定した。対照として、Bip-3、アデノシン、スタウロスポリンを用いた。基質には5-FAM PKAtide、ATPをそれぞれ最終濃度0.6μM、7.5μMとして使用した.酵素には最終濃度10nMのオーロラAを使用した。
【実施例3】
【0052】
測定には、IMAP TR-FRET Evaluation Kit(Molecular Devices社)と、45μMのATP溶液及び2μMの蛍光標識基質ペプチド(5-FAM PKAtide)を用い、Kitの使用法に従って操作を行った。ATP溶液と基質溶液を1μlずつ384ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに加え、任意の濃度に希釈した阻害剤サンプルを2μlずつ加えて混合した。オーロラA酵素溶液を2μlずつ加えた後、500gで2分間遠心して遮光下にて1時間静置した。ここにIMAP TR-FRETバッファーを18μlずつ各ウェルに添加後、500gで2分間遠心して遮光下にて1時間静置した。蛍光プレートリーダーを用いて波長330nmの励起光を照射し、波長490nm及び波長520nmの蛍光を測定し、求められたFRET ratioから酵素に対する各サンプルのIC50を求めた。
【実施例3】
【0053】
この結果から、ペプチド複合体Bip-3-AdCは、ペプチドBip-3とマレイミド‐アデノシンMale-AdCと比較して、高い阻害活性を有し、二価阻害剤とすることで、オーロラキナーゼAに対して強い結合性を有するペプチド複合体が得られることがわかった(表5参照)。
【実施例3】
【0054】
【表5】
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【実施例3】
【0055】
(6)各種標的キナーゼにおける対する阻害活性
次に、得られたBip-3-Adcの各種標的キナーゼにおける阻害活性を評価した。ここでは、オーロラAの他に、同じオーロラファミリー内に含まれるオーロラB、オーロラC、そして、異なるファミリーよりPAK4、Erk2、PKACα、Srcを選び、それぞれのキナーゼに対する阻害活性を前記IMAP TR-FRET法を用いて測定した。その結果を図9及び表6に示した。
【実施例3】
【0056】
Bip-3-AdcはオーロラAとPKACαに対して特に強く阻害した。また、オーロラA、PKACαに対するIC50はそれぞれ1.4μM、12μMであり、オーロラAに対して強い結合性を示すペプチド複合体を選択することができた。
【実施例3】
【0057】
【表6】
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【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によると、目的とするキナーゼに対して強い結合性を示すペプチド性のプロテインキナーゼ阻害剤が提供される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8