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明細書 :塞栓形成用製剤及びマイクロカテーテル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6739742号 (P6739742)
登録日 令和2年7月28日(2020.7.28)
発行日 令和2年8月12日(2020.8.12)
発明の名称または考案の名称 塞栓形成用製剤及びマイクロカテーテル
国際特許分類 A61L  31/04        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61K  47/22        (2006.01)
A61K  47/04        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61L  31/14        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61M  25/14        (2006.01)
A61M  25/00        (2006.01)
FI A61L 31/04 120
A61K 47/42
A61K 47/22
A61K 47/04
A61K 47/36
A61L 31/14 300
A61K 45/00
A61P 35/00
A61M 25/14 514
A61M 25/00 520
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2016-555208 (P2016-555208)
出願日 平成27年10月19日(2015.10.19)
国際出願番号 PCT/JP2015/079405
国際公開番号 WO2016/063824
国際公開日 平成28年4月28日(2016.4.28)
優先権出願番号 2014213293
優先日 平成26年10月20日(2014.10.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年10月16日(2018.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】玉井 努
【氏名】武井 孝行
【氏名】井戸 章雄
【氏名】吉田 昌弘
【氏名】境 慎司
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100187481、【弁理士】、【氏名又は名称】小原 淳史
審査官 【審査官】大西 隆史
参考文献・文献 国際公開第00/004053(WO,A1)
特表平07-502057(JP,A)
特開2003-252936(JP,A)
特表2002-538848(JP,A)
ROMBOUTS F. M. and THIBAULT J. F.,Sugar Beet Pectins: Chemical Structure and Gelation through Oxdative Coupling,Chemistry and Function of Pectins,1986年 6月 5日,pp. 49-60,DOI: 10.1021/bk-1986-0310
TAKEI Takayuki et al.,Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition,2013年,Vol. 24, Issue 11,pp. 1333-1342,DOI: 10.1080/09205063.2012.757727
WENG Lihui et al.,Acta Biomaterialia,2013年 9月,Vol. 9, Issue 9,pp. 8182-8191,DOI: 10.1016/j.actbio.2013.06.020
調査した分野 A61L 15/00-33/18
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61M 25/00-29/04
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチンを含む溶液と、
ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む溶液と、
過酸化水素を含む溶液と、
を含む、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に架橋反応によってゲル化する塞栓形成用製剤。
【請求項2】
フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチン、並びに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む第1溶液と、
過酸化水素を含む第2溶液と、
を含む、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に架橋反応によってゲル化する塞栓形成用製剤。
【請求項3】
フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチンと、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上と、グルコースオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びコレステロールオキシダーゼから選択される一種以上とを含む、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に架橋反応によってゲル化する塞栓形成用製剤。
【請求項4】
薬剤をさらに含む請求項1~のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【請求項5】
薬剤が、抗がん剤である請求項に記載の塞栓形成用製剤。
【請求項6】
遠位端において開口するチューブ状のカテーテル本体を有するマイクロカテーテルであって、
前記カテーテル本体の内部には隔壁により仕切られた同軸の内腔及び外腔が形成され、
前記内腔及び前記外腔はそれぞれ、前記カテーテル本体の遠位端側で開口するが、前記隔壁が前記カテーテル本体の遠位端よりも近位端側へ奥まって位置することにより、前記内腔の開口部と前記カテーテル本体の遠位端との間に、前記内腔及び前記外腔のそれぞれに供給される液体が混合される混合室が形成され、
前記内腔が、フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチン、並びに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む第1溶液、又は
過酸化水素を含む第2溶液のいずれか一方を供給するためのものであり、
前記外腔が、他方を供給するためのものである、前記マイクロカテーテル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、塞栓形成用製剤及びマイクロカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肝がん等のがん組織を縮小・消失させるため、がん組織に栄養を送る肝動脈等の血管内にカテーテルによってゼラチンスポンジ、多孔性ゼラチン粒その他の球状塞栓物質を注入し、血管を塞栓することでがん組織を阻血壊死に陥らせる肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization;TAE)が有用な治療法として知られている。また、油性造影剤が腫瘍内に停滞することを利用し、リピオドール(登録商標、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル)と抗がん剤の混合液(リピオドールエマルジョン)の注入後に塞栓物質を注入する肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)が行われている。リピオドールエマルジョンを肝動脈内に注入することで、腫瘍内に停滞したエマルジョンからの抗がん剤の放出を可能にし、ドラッグデリバリーの役割を果たす。このようなTACEにおける塞栓物質として、豚コラーゲンより作製された多孔性ゼラチン粒(ジェルパート(登録商標))が知られている。
【0003】
また、塞栓を形成するための製剤として、(特許文献1)には、(a)約2.5重量%から約8.0重量%までの生体適合性ポリマー、(b)約10μm以下の平均粒子サイズを有する約10重量%から約40重量%までの水不溶性、生体適合性造影剤、及び(c)約52重量%から約87.5重量%までの、ジメチルスルホキシド、エタノール及びアセトンからなる群から選ばれる生体適合性溶媒を含む組成物が開示されている。さらに、(特許文献2)には、哺乳動物の血管部位に一時的に塞栓形成する方法であって、逆感熱性ポリマーを含む組成物を哺乳動物の脈管構造内に導入するステップを含み、前記逆感熱性ポリマーが、前記脈管構造内においてゲル化し、その結果、前記哺乳動物の血管部位に一時的に塞栓形成する方法が開示されている。
【0004】
ところで、従来、哺乳動物の循環器系に液体を送出するため、あるいは循環器系から液体を取り出すための、複数の管(ルーメン)を有するマイクロカテーテルが知られている。このようなマイクロカテーテルは、疾患の治療等を目的として、患者の循環器系に異なる薬物を供給したり、透析療法等において複数のルーメンにより送血及び脱血を行ったりするために用いられる。また、上記塞栓物質の注入にも用いることができる。
【0005】
複数のルーメンを有するマイクロカテーテルとして、例えば、(特許文献3)には、哺乳動物の体内に挿入するためのマルチルーメンカテーテルであって、近位端と遠位端とを有し、少なくとも3つの分離したルーメンを取り囲む外壁を有する細長いカテーテル本体と、第1、第2、及び第3ルーメンを備える前記少なくとも3つの分離したルーメンであって、前記第1ルーメンが前記第2及び第3ルーメンに対して中央に配置され、前記第1、第2、及び第3ルーメンのそれぞれが前記カテーテルの遠位部に位置する遠位開口部を備えるルーメンとを備え、前記第2及び第3ルーメンの遠位開口部がほぼ同じ位置にカテーテルの長手方向に沿って隣接して配置され、前記第1ルーメンの遠位開口部が、前記第2及び第3ルーメンの遠位開口部に対して遠位又は近位に前記カテーテルの長手方向に沿って配置される、マルチルーメンカテーテルが開示されている。
【0006】
また、(特許文献4)には、隔壁により仕切られた返血ルーメンと脱血ルーメンを有するチューブをカテーテル本体とするダブルルーメンカテーテルにおいて、返血ルーメンの開口部である返血孔をカテーテル本体の先端部付近に設け、脱血ルーメンの開口部である脱血孔をカテーテル本体の先端部から基部側に3~11cm隔てた位置に設け、該脱血孔の開口面がカテーテル本体の長手方向に対して5~90°の角度を有しており、さらに脱血孔のある位置から先端側のカテーテル本体の形状が、断面積の小さい狭径部とそれに引続く断面積の大きい広径部とからなる構成が開示されている。さらに、(特許文献5)には、内管と外管からなるカテーテルチューブ及びバルーンにより構成され、内管は、先端が開口した第1のルーメンを有し、外管は、内部に内管を挿通し、先端が内管の先端よりやや後退した位置に設けられ、この外管の内面と内管の外面により第2のルーメンが形成され、この第2のルーメンは、その先端がバルーン内の後端部と連通し、バルーンを膨張させるための液体が流入されるバルーンカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2008-086785号公報
【特許文献2】特表2006-521177号公報
【特許文献3】特表2008-504897号公報
【特許文献4】特開2001-340466号公報
【特許文献5】特開平7-328124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の抗がん剤を含む油性造影剤(リピオドール)は、抗がん剤の作用が一過性であり、徐放効果は期待できなかった。また、従来の塞栓物質あるいは塞栓形成用製剤は、性能に改善の余地があった。すなわち、抗がん剤の保持及び徐放ができ、血管を速やかに閉塞してwash outされにくく、分解時間をコントロールできる塞栓形成用製剤が望まれるが、そのような製剤は未だ開発されていない。
【0009】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、抗がん剤の保持及び徐放ができ、血管に注入することによって血管内を閉塞し、wash outされにくく、分解時間がコントロールされた(すなわち、組織全体が壊死しないように、しばらくの間血管を閉塞し、機能を終えた後は速やかに分解される)、生体への安全性が高い塞栓形成用製剤を提供することを目的とする。
【0010】
また、マイクロカテーテルに関して、複数のルーメンを有する従来のマイクロカテーテルは、各薬剤を個別のルーメンに供給することによって薬剤の混合を回避するものである。あるいは、複数のルーメンのうちの一つはバルーンを膨張させて血管を拡張させるために使用され、残りのルーメンとは独立して機能している。
【0011】
一方、複数の薬剤を投与する際に、投与前にはそれら複数の薬剤を別々に管理し、互いに混合することはできないものの、血管内等に到達する時点では混合状態となり、さらには薬剤同士を反応させることが必要になる場合がある。しかし、従来のマイクロカテーテルでは、上記のような複数の薬剤を混合状態で投与する方法に対応することができなかった。
【0012】
そこで本発明は、複数の薬剤を別々に注入し、カテーテルから放出される直前で混合され、均一な混合状態で血管内等に投与することができる新規なマイクロカテーテルを提供することを目的とする。このマイクロカテーテルは、特に、本発明の塞栓形成用製剤を供給するためのカテーテルとして好適に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意研究を行った結果、所定の構造を有するフェノール性水酸基修飾ポリマーを、ペルオキシダーゼ等により酸化的重合反応させることによって、血管を閉塞可能なゲルが形成されることを見出し、塞栓形成用製剤についての発明を完成した。
【0014】
また、マイクロカテーテルに関しては、カテーテルの先端部に、別々のルーメン(内腔及び外腔)を経て供給される薬剤を混合するための混合室を形成することにより、上記課題が解決されることを見出し、発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0016】
(1)下記式(1):
【化1】
JP0006739742B2_000002t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーを含む溶液と、
ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む溶液と、
過酸化水素を含む溶液と、
を含む塞栓形成用製剤。
【0017】
(2)下記式(1):
【化2】
JP0006739742B2_000003t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマー、並びに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む第1溶液と、
過酸化水素を含む第2溶液と、
を含む塞栓形成用製剤。
【0018】
(3)下記式(1):
【化3】
JP0006739742B2_000004t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーと、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上と、グルコースオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びコレステロールオキシダーゼから選択される一種以上とを含む塞栓形成用製剤。
【0019】
(4)生体適合性ポリマーが、ゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、キトサン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース又はコラーゲンである上記(1)~(3)のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【0020】
(5)式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーが、フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチンである上記(1)~(3)のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【0021】
(6)式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、式(1)で表される別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーを含む上記(1)~(5)のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【0022】
(7)式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、アニリン又はその誘導体を含む上記(1)~(5)のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【0023】
(8)薬剤をさらに含む上記(1)~(7)のいずれかに記載の塞栓形成用製剤。
【0024】
(9)薬剤が、抗がん剤である上記(8)に記載の塞栓形成用製剤。
【0025】
(10)遠位端において開口するチューブ状のカテーテル本体を有するマイクロカテーテルであって、
前記カテーテル本体の内部には隔壁により仕切られた同軸の内腔及び外腔が形成され、
前記内腔及び前記外腔はそれぞれ、前記カテーテル本体の遠位端側で開口するが、前記隔壁が前記カテーテル本体の遠位端よりも近位端側へ奥まって位置することにより、前記内腔の開口部と前記カテーテル本体の遠位端との間に、前記内腔及び前記外腔のそれぞれに供給される液体が混合される混合室が形成されている前記マイクロカテーテル。
【0026】
(11)前記内腔が、下記式(1):
【化4】
JP0006739742B2_000005t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマー、並びに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む第1溶液、又は
過酸化水素を含む第2溶液のいずれか一方を供給するためのものであり、
前記外腔が、他方を供給するためのものである、上記(10)に記載のマイクロカテーテル。
【0027】
(12)生体適合性ポリマーが、ゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、キトサン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース又はコラーゲンである上記(11)に記載のマイクロカテーテル。
【0028】
(13)式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーが、フェルラ酸基を有する甜菜由来ペクチンである上記(11)に記載のマイクロカテーテル。
【0029】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2014-213293号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の塞栓形成用製剤は、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に速やかにゲル化する製剤(インジェクタブルゲル)である。血管内に、血管と同形状のゲルを隙間無く形成することができるため、wash outされにくい。また、ゲルの分解時間は、生体適合性ポリマーの種類や各成分の濃度等によってコントロールでき、生体への安全性が確保される。さらに、製剤に予め抗がん剤等の薬剤を含むことで、ゲルによる薬剤の保持及びゲルからの薬剤の徐放が可能となる。
【0031】
また、本発明のマイクロカーテルによれば、複数の薬剤を内腔及び外腔のそれぞれに別々に注入し、カテーテルから放出される直前で混合し、均一な混合状態で血管内等に投与することができる。
【0032】
特に、本発明のマイクロカテーテルは、甜菜由来ペクチン等のフェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等を含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とを混合し、血管内への注入とともに反応して速やかにゲル化させ、血管を閉塞するための、上述のような本発明に係る塞栓形成用製剤(インジェクタブルゲル)の投与に適したカテーテルとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の塞栓形成用製剤を門脈内投与後、Day0における病理組織像(アルシアンブルー染色)を示す図である。
【図2】本発明の塞栓形成用製剤を門脈内投与後、Day1における病理組織像(アルシアンブルー染色)を示す図である。
【図3】本発明の塞栓形成用製剤を門脈内投与後、Day3における病理組織像(アルシアンブルー染色)を示す図である。
【図4】本発明の塞栓形成用製剤を門脈内投与後、Day7における病理組織像(アルシアンブルー染色)を示す図である。
【図5】本発明の塞栓形成用製剤の門脈内投与後におけるAST及びALT変化を示すグラフである。
【図6】本発明の塞栓形成用製剤の門脈内投与後におけるγGTP及び総ビリルビン変化を示すグラフである。
【図7】本発明のマイクロカテーテルの一実施形態を示す図である。
【図8】マイクロカテーテルの先端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0035】
本発明の塞栓形成用製剤は、下記式(1):
【化5】
JP0006739742B2_000006t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり(Pに結合する側から記載している)、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーを含む溶液と、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上を含む溶液と、過酸化水素を含む溶液とを含むことを特徴とする。これらの溶液を混合すると、フェノール性水酸基修飾ポリマーのフェノール部分において、過酸化水素が酸化剤として機能し、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ又は鉄ポルフィリン錯体による酸化的重合反応が起こってフェノール性水酸基修飾ポリマー同士が架橋することにより速やかにゲル化する。このような反応は生体内で起こっている反応であり、毒性がほとんどないという利点がある。本発明の塞栓形成用製剤は、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に速やかにゲル化する「インジェクタブルゲル」として使用することができる。

【0036】
上記式(1)において、-OCO-C~C-アルケニレン基としては、-OCO-CH=CH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができる。また、-CONH-C~C-アルキレン基としては、-CONH-CH-基、-CONH-CHCH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができ、-HNCO-C~C-アルキレン基としては、-HNCO-CH-基、-HNCO-CHCH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができる。さらに、OH基及びXは、ベンゼン環のいずれの部位に結合していても良く、Xに相当するC~C-アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等を挙げることができる。

【0037】
フェノール性水酸基修飾ポリマーと、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上(以下、「ペルオキシダーゼ等」という場合がある)に対し、過酸化酸素が接触することによって直ちにゲル化が始まるため、本発明の塞栓形成用製剤は、フェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等と過酸化水素とを分けておき、血管への注入直前に混合する必要がある。一方、フェノール性水酸基修飾ポリマーとペルオキシダーゼ等とは予め混合しておいても差し支えないため、製剤としての取り扱い性の観点から、本発明の塞栓形成用製剤は、フェノール性水酸基修飾ポリマーとペルオキシダーゼ等を含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とからなるキットとして構成することが好ましい。もっとも、これに限定されるものではなく、3液以上から構成しても良い。

【0038】
生体適合性ポリマーは、生体に使用した場合に、使用量においては毒性を示さず、化学的に不活性であり、非免疫性なものであれば適用可能である。好適な例として、ゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、キトサン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン等を挙げることができる。これらの生体適合性ポリマーに対し、式(1)で表されるフェノール部分を含む側鎖を導入する方法としては、通常知られた方法により行うことができる。すなわち、一般的なカルボジイミドケミストリーと呼ばれる反応により、生体適合性ポリマーのアミノ基やカルボキシル基に、それぞれフェノール部分を含む3-(p-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸やチラミン等を反応させて導入することができる。なお、アミノ基を有する生体適合性ポリマーとしてはキトサンが挙げられ、カルボキシル基を有する生体適合性ポリマーとしてはゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン等を挙げることができる。

【0039】
特に、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーとして、甜菜由来ペクチンが好ましく用いられる。甜菜由来ペクチンは、甜菜から抽出、精製された多糖類である。具体的には、甜菜からショ糖を製造した後に残る甜菜糖粕(甜菜パルプ)や甜菜を出発原料とし、これらを水に懸濁し、pH1~7の酸性条件下、50℃~120℃の温度で酸性熱水抽出することにより製造することができるが、この製造法に限定されるものではない。

【0040】
甜菜由来ペクチンは、中性糖を有しており、下記式に示すようにフェルラ酸がその中性糖とエステル結合している。この甜菜由来ペクチンは、過酸化酸素を酸化剤として、ペルオキシダーゼ等による酸化的重合反応が起こり、フェノール部分が架橋して速やかにゲルを形成することができる。

【0041】
【化6】
JP0006739742B2_000007t.gif

【0042】
上記ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体としては、特に限定されるものではなく、天然及び合成のものを適用可能である。例えば、ペルオキシダーゼとしては、ヒト、ウシ等の動物由来のもの、西洋ワサビ等の植物由来のもの、細菌、カビ等の微生物由来のもの等を適宜選択して用いることができる。また、微生物等のペルオキシダーゼの遺伝子を大腸菌等の微生物等に組み込む遺伝子組み換え技術により調製したものも適用可能である。

【0043】
フェノール性水酸基修飾ポリマー、ペルオキシダーゼ等及び過酸化水素の濃度は、それぞれの成分の具体的な種類や分子量、目標とするゲル化時間によって異なり特に限定されるものではない。一例として、甜菜由来ペクチン及びペルオキシダーゼを含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とから塞栓形成用製剤を構成する場合、第1溶液中、甜菜由来ペクチンの濃度を0.5~10重量%、ペルオキシダーゼの濃度を0.5~200unit/mlとすることが好ましい。また、第2溶液中、過酸化水素の濃度は0.1~200mmol/lとすることが好ましい。さらに、第1溶液及び第2溶液は1:1~9:1(容量比)の比率で混合し、ゲル化させることが好ましい。なお、血管に注入する観点から、第1溶液の粘度は37℃で1~200mPa・s程度であることが好ましい。なお、ペルオキシダーゼの活性とその重量の関係は210unit/mgである。pH7.0、25℃において1分間に1μmolのグアヤコールを酸化する酵素量を1unitとしている。

【0044】
また、別の実施形態として、本発明に係る塞栓形成用製剤は、過酸化水素に代えてグルコースオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びコレステロールオキシダーゼから選択される一種以上(以下、「グルコースオキシダーゼ等」という場合がある)を用い、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマー、ペルオキシダーゼ等及びグルコースオキシダーゼ等を含む1液の製剤とすることができる。ここで、フェノール性水酸基修飾ポリマーとしては、上記と同様のポリマーを用いることができる。この1液からなる塞栓形成用製剤を生体内に注入すると、グルコースオキシダーゼ等によって生体内に過酸化水素が生成する。例えば、グルコースオキシダーゼが生体内のグルコースと反応して過酸化水素が生成するため、この過酸化水素が酸化剤として機能し、フェノール性水酸基修飾ポリマーが架橋してゲル化することとなる。2液を混合する必要がなく、1液を生体内に注入するだけでゲル化させることができるため有利である。

【0045】
グルコースオキシダーゼ等としては、天然及び合成のグルコースオキシダーゼ等を特に限定されることなく用いることができる。例えば、グルコースオキシダーゼとしては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)等の微生物の産生する酵素である市販のグルコースオキシダーゼ等を使用することができる。

【0046】
この実施形態において、製剤におけるフェノール性水酸基修飾ポリマー、ペルオキシダーゼ等及びグルコースオキシダーゼ等それぞれの濃度は、各成分の具体的な種類や分子量、目標とするゲル化時間によって異なり特に限定されるものではない。一例として、フェノール性水酸基修飾ポリマーとして甜菜由来ペクチンを採用し、さらにペルオキシダーゼ及びグルコースオキシダーゼを用いる場合、製剤中、甜菜由来ペクチンが0.5~5.0重量%、ペルオキシダーゼが0.5~200unit/ml、グルコースオキシダーゼが0.5~200unit/mlの濃度範囲とすることが好ましい。なお、グルコースオキシダーゼの活性とその重量の関係は241unit/mgである。pH5.1、35℃において1分間で1μmolのβ-D-グルコースをD-グルコノラクトンと過酸化水素に酸化する酵素量を1unitとしている。

【0047】
また、本発明の塞栓形成用製剤は、必要に応じて、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、式(1)で表される別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーを含んでいても良い。このような別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーは、過酸化水素と別の溶液であれば、別種のフェノール性水酸基修飾ポリマー単独の溶液や、他方のフェノール性水酸基修飾ポリマーあるいはペルオキシダーゼ等、グルコースオキシダーゼ等と一緒の溶液として用いることができる。これらの別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーは、主に、ゲルの分解時間を調節するために用いられる。例えば、甜菜由来ペクチンは、生体内に甜菜由来ペクチンの分解酵素がないため、分解速度が比較的遅い。そこで、例えば、より分解しやすいゼラチンを、甜菜由来ペクチン:ゼラチン=1:9~9:1(重量比)の範囲で混合することにより、甜菜由来ペクチン同士だけでなく甜菜由来ペクチンとゼラチンの間も架橋してゲルが形成される。このゲルは、ゼラチンがより早く分解することにより架橋構造が壊れ、甜菜由来ペクチン単独のゲルに比べて50~200%程度、ゲルの分解時間を早めることができる。

【0048】
さらに、本発明の塞栓形成用製剤は、必要に応じて、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、アニリン又はその誘導体を含んでいても良い。アニリンの誘導体としては、アニリン骨格にアルキル基、アミノ基、シアノ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、カルボキシル基を有する化合物等が適用可能であり、具体的にはアミノフェノール、ジアミノベンゼン等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。アニリン又はその誘導体は、上述のペルオキシダーゼ等、並びに過酸化水素又はグルコースオキシダーゼ等の存在下で、フェノール性水酸基修飾ポリマーと酸化的重合反応により反応し、ゲルを形成することができる。フェノール性水酸基修飾ポリマーとアニリン又はその誘導体を併用する場合は、その混合比は、所望のゲル化時間となるように適宜設定することができ、例えば、フェノール性水酸基修飾ポリマー:アニリン又はその誘導体=1:9~9:1(重量比)とすることができる。

【0049】
本発明の塞栓形成用製剤には、さらに、抗がん剤等の種々の薬剤を含有させることができる。これらの薬剤は、血管を閉塞するゲル中に保持され、ゲルの分解に伴い徐放させることができる。したがって、ドラッグデリバリーシステム(DDS)として利用することができる。抗がん剤としては、エピルビシン、シスプラチン等の従来知られた物質を挙げることができる。なお、ここで「抗がん剤」とは、悪性腫瘍(がん)の増殖を抑えることを目的とする薬剤であれば良く、狭義の抗がん剤のみならず、いわゆる制がん剤をも含む趣旨である。また、ゲル中の薬剤の濃度は、薬剤の種類や対象疾患に応じて適宜設定することができる。

【0050】
さらに、必要に応じて、本発明の塞栓形成用製剤には種々の添加剤を含有させることができる。添加剤の具体例としては、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸等のpH調整剤等を挙げることができる。

【0051】
本発明の塞栓形成用製剤は、種々の哺乳動物に対して適用可能である。哺乳動物としては、血管を塞栓することにより疾患の治療が期待されるヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等を挙げることができる。塞栓形成用製剤を注入する部位についても特に限定されるものではなく、対象疾患等に応じて決定することができ、好適な例としては、肝動脈等を挙げることができ、マイクロカテーテル等を用いて製剤を注入することができる。例えば、以下に説明するような本発明に係るマイクロカテーテルは、上記の塞栓形成用製剤を注入するためのカテーテルとして好適に用いられる。

【0052】
次に、その本発明に係るマイクロカテーテルについて詳細に説明する。

【0053】
図7及び図8に基づき、本発明のマイクロカテーテルの一実施形態について説明する。図7に示すように、本発明のマイクロカテーテル1は、遠位端1aにおいて開口するチューブ状のカテーテル本体10を有する。

【0054】
カテーテル本体10は、ステンレス鋼、プラスチック等の種々の材料からなり、通常は可撓性を有する。また、血管等の標的部位と適合性があることが好ましく、必要に応じて表面に親水性や抗菌性を付与するためのコーティングを施しても良い。また、透視下でのマイクロカテーテルの視認性の向上を目的として、カテーテル本体10の先端(遠位端1aを含む先端部分)の外側あるいは内側に、X線非透過性のチップを取り付けても良い。

【0055】
カテーテル本体10の内部には、図8に示すように、隔壁100により仕切られた同軸の内腔101及び外腔102が形成されている。そして、内腔101及び外腔102はそれぞれ、カテーテル本体10の遠位端1a側で開口するが、隔壁100がカテーテル本体10の遠位端1aよりも近位端1b側へ奥まって位置することにより、内腔101の開口部101aとカテーテル本体10の遠位端1aとの間に、内腔101及び外腔102のそれぞれに供給される液体L、Lが混合される混合室103が形成されている。

【0056】
混合室103の大きさは、供給されるL、Lが遠位端1aから放出される前に十分に混合される大きさであれば良く、特に限定されるものではない。一例として、後述するようなフェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等を含む第1溶液及び過酸化水素を含む第2溶液を、内腔101及び外腔102のそれぞれに0.1ml/分~1.0ml/分程度の圧力で供給し、混合室103において均一な混合状態とするためには、混合室103の直径を1.5~5.0mm、長さを5~10mm程度とすることができる。なお、上記圧力は、血管造影時には1.5ml/秒程度とすることができる。

【0057】
液体L、Lは、近位端1b側に位置する接続部104、105にシリンジ等を接続することにより、内腔101及び外腔102のそれぞれに供給される。あるいは、カテーテル内に注入される液体の量及び/又は注入圧力を制御するため、マイクロポンプ等を接続しても良い。また、必要に応じて、カテーテル本体10の外側にはバルーンを設け、血管等の標的とする管をバルーンによって拡張することができる。

【0058】
マイクロカテーテル1を導入する管は、ヒト等の哺乳動物の体内又は体外に位置する任意の管である。例えば、静脈、動脈、食道、尿道、腸等を挙げることができる。また、マイクロカテーテル1によって処置され得る器官及び組織には、哺乳動物の任意の器官及び組織が含まれ、具体例として、肝臓、心臓、肺、脳、腎臓、膀胱、腸、胃、膵臓、卵巣、前立腺等を挙げることができる。

【0059】
そして、マイクロカテーテル1によって投与される液体L、Lとしては、特に限定されるものではないが、本発明のマイクロカテーテルは、内腔101及び外腔102を介して別々に供給する必要があり、マイクロカテーテル1から放出される直前で液体L、Lを混合し、場合によっては反応させることが求められるような液体について好適に用いられる。液体の例として、抗がん剤、抗炎症剤等の医薬として活性な化合物、担体、溶媒、ポリマー、タンパク質、細胞、造影剤、DNA、遺伝子/ベクター系、抗血管形成剤、抗酸化剤、酸化剤、抗菌剤、麻酔剤等を挙げることができる。

【0060】
特に、本発明のマイクロカテーテルは、生体に注入する前は液体であるが、生体への注入後に速やかにゲル化する製剤(インジェクタブルゲル)を投与するために好適に用いられる。この製剤は、血管内に、血管と同形状のゲルを隙間無く形成し、血管を閉塞する塞栓形成用製剤として用いられる。形成されたゲルは一定時間経過後に分解される。

【0061】
塞栓形成用製剤の一実施形態は、上述したような本発明の塞栓形成用製剤である。すなわち、下記式(1):
【化7】
JP0006739742B2_000008t.gif
(式中、Pは生体適合性ポリマーであり、Aは単結合であるか、又は-OCO-C~C-アルケニレン基、-CONH-C~C-アルキレン基もしくは-HNCO-C~C-アルキレン基であり(Pに結合する側から記載している)、Xは水素又はC~C-アルコキシ基である)
で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマー、並びに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体から選択される一種以上(以下、「ペルオキシダーゼ等」という場合がある)を含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とを含む。これらの第1溶液及び第2溶液のいずれか一方を、カテーテル本体10の内腔101に供給し、第1溶液及び第2溶液の他方を外腔102に供給し、混合室103において均一に混合した上で放出する。混合により、フェノール性水酸基修飾ポリマーのフェノール部分において、過酸化水素が酸化剤として機能し、ペルオキシダーゼ等による酸化的重合反応が起こってフェノール性水酸基修飾ポリマー同士が架橋し速やかにゲル化する。このような反応は生体内で起こっている反応であり、毒性がほとんどないという利点がある。

【0062】
上記式(1)において、-OCO-C~C-アルケニレン基としては、-OCO-CH=CH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができる。また、-CONH-C~C-アルキレン基としては、-CONH-CH-基、-CONH-CHCH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができ、-HNCO-C~C-アルキレン基としては、-HNCO-CH-基、-HNCO-CHCH-基等の直鎖状又は分岐状の基を挙げることができる。さらに、OH基及びXは、ベンゼン環のいずれの部位に結合していても良く、Xに相当するC~C-アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等を挙げることができる。

【0063】
フェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等に対し、過酸化酸素が接触することによって直ちにゲル化が始まるため、上記の塞栓形成用製剤は、フェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等と過酸化水素とを分けておき、血管への注入直前に混合する必要がある。一方、フェノール性水酸基修飾ポリマーとペルオキシダーゼ等とは予め混合しておいても差し支えないため、製剤としての取り扱い性の観点から、上記の塞栓形成用製剤は、フェノール性水酸基修飾ポリマーとペルオキシダーゼ等を含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とからなるキットとして構成されている。

【0064】
生体適合性ポリマーは、生体に使用した場合に、使用量においては毒性を示さず、化学的に不活性であり、非免疫性なものであれば適用可能である。好適な例として、ゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、キトサン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン等を挙げることができる。これらの生体適合性ポリマーに対し、式(1)で表されるフェノール部分を含む側鎖を導入する方法としては、通常知られた方法により行うことができる。すなわち、一般的なカルボジイミドケミストリーと呼ばれる反応により、生体適合性ポリマーのアミノ基やカルボキシル基に、それぞれフェノール部分を含む3-(p-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸やチラミン等を反応させて導入することができる。なお、アミノ基を有する生体適合性ポリマーとしてはキトサンが挙げられ、カルボキシル基を有する生体適合性ポリマーとしてはゼラチン、ペクチン、アルブミン、ヒアルロン酸、アミロペクチン、アルギン酸、カルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、コラーゲン等を挙げることができる。

【0065】
特に、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーとして、甜菜由来ペクチンが好ましく用いられる。甜菜由来ペクチンは、甜菜から抽出、精製された多糖類である。具体的には、甜菜からショ糖を製造した後に残る甜菜糖粕(甜菜パルプ)や甜菜を出発原料とし、これらを水に懸濁し、pH1~7の酸性条件下、50℃~120℃の温度で酸性熱水抽出することにより製造することができるが、この製造法に限定されるものではない。

【0066】
甜菜由来ペクチンは、中性糖を有しており、下記式に示すようにフェルラ酸がその中性糖とエステル結合している。この甜菜由来ペクチンは、過酸化酸素を酸化剤として、ペルオキシダーゼ等による酸化的重合反応が起こり、フェノール部分が架橋して速やかにゲルを形成することができる。

【0067】
【化8】
JP0006739742B2_000009t.gif

【0068】
上記ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、カタラーゼ及び鉄ポルフィリン錯体としては、特に限定されるものではなく、天然及び合成のものを適用可能である。例えば、ペルオキシダーゼとしては、ヒト、ウシ等の動物由来のもの、西洋ワサビ等の植物由来のもの、細菌、カビ等の微生物由来のもの等を適宜選択して用いることができる。また、微生物等のペルオキシダーゼの遺伝子を大腸菌等の微生物等に組み込む遺伝子組み換え技術により調製したものも適用可能である。

【0069】
フェノール性水酸基修飾ポリマー、ペルオキシダーゼ等及び過酸化水素の濃度は、それぞれの成分の具体的な種類や分子量、目標とするゲル化時間によって異なり特に限定されるものではない。一例として、甜菜由来ペクチン及びペルオキシダーゼを含む第1溶液と、過酸化水素を含む第2溶液とから塞栓形成用製剤を構成する場合、第1溶液中、甜菜由来ペクチンの濃度を0.5~10重量%、ペルオキシダーゼの濃度を0.5~200unit/mlとすることが好ましい。また、第2溶液中、過酸化水素の濃度は0.1~200mmol/lとすることが好ましい。さらに、第1溶液及び第2溶液は1:1~9:1(容量比)の比率で混合し、ゲル化させることが好ましい。なお、血管に注入する観点から、第1溶液の粘度は37℃で1~200mPa・s程度であることが好ましい。なお、ペルオキシダーゼの活性とその重量の関係は210unit/mgである。pH7.0、25℃において1分間に1μmolのグアヤコールを酸化する酵素量を1unitとしている。

【0070】
さらに、塞栓形成用製剤は、必要に応じて、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、式(1)で表される別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーを含んでいても良い。このような別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーは、過酸化水素と別の溶液であれば、他方のフェノール性水酸基修飾ポリマー及びペルオキシダーゼ等と一緒の溶液として用いることができる。これらの別種のフェノール性水酸基修飾ポリマーは、主に、ゲルの分解時間を調節するために用いられる。例えば、甜菜由来ペクチンは、生体内に甜菜由来ペクチンの分解酵素がないため、分解速度が比較的遅い。そこで、例えば、より分解しやすいゼラチンを、甜菜由来ペクチン:ゼラチン=1:9~9:1(重量比)の範囲で混合することにより、甜菜由来ペクチン同士だけでなく甜菜由来ペクチンとゼラチンの間も架橋してゲルが形成される。このゲルは、ゼラチンがより早く分解することにより架橋構造が壊れ、甜菜由来ペクチン単独のゲルに比べて50~200%程度、ゲルの分解時間を早めることができる。

【0071】
さらに、塞栓形成用製剤は、必要に応じて、式(1)で表されるフェノール性水酸基修飾ポリマーに加えて、アニリン又はその誘導体を含んでいても良い。アニリンの誘導体としては、アニリン骨格にアルキル基、アミノ基、シアノ基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、カルボキシル基を有する化合物等が適用可能であり、具体的にはアミノフェノール、ジアミノベンゼン等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。アニリン又はその誘導体は、上述のペルオキシダーゼ等、並びに過酸化水素の存在下で、フェノール性水酸基修飾ポリマーと酸化的重合反応により反応し、ゲルを形成することができる。フェノール性水酸基修飾ポリマーとアニリン又はその誘導体を併用する場合は、その混合比は、所望のゲル化時間となるように適宜設定することができ、例えば、フェノール性水酸基修飾ポリマー:アニリン又はその誘導体=1:9~9:1(重量比)とすることができる。

【0072】
塞栓形成用製剤には、さらに、抗がん剤、抗炎症剤等の医薬として活性な化合物、担体、溶媒、ポリマー、タンパク質、細胞、造影剤、DNA、遺伝子/ベクター系、抗血管形成剤、抗酸化剤、酸化剤、抗菌剤、麻酔剤等、種々の薬剤を含有させることができる。これらの薬剤は、血管を閉塞するゲル中に保持され、ゲルの分解に伴い徐放させることができる。したがって、ドラッグデリバリーシステム(DDS)として利用することができる。抗がん剤としては、エピルビシン、シスプラチン等の従来知られた物質を挙げることができる。なお、ここで「抗がん剤」とは、悪性腫瘍(がん)の増殖を抑えることを目的とする薬剤であれば良く、狭義の抗がん剤のみならず、いわゆる制がん剤をも含む趣旨である。また、ゲル中の薬剤の濃度は、薬剤の種類や対象疾患に応じて適宜設定することができる。

【0073】
さらに、必要に応じて、塞栓形成用製剤には種々の添加剤を含有させることができる。添加剤の具体例としては、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸等のpH調整剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0074】
次に、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
甜菜由来ペクチン及びペルオキシダーゼを溶解した水溶液0.9mlと過酸化水素水溶液0.1mlの2液を混合した後、迅速にゲル化する各物質の濃度を調べた。その結果、それぞれの濃度が3.0(w/v)%(甜菜由来ペクチン濃度)、10unit/ml(ペルオキシダーゼ濃度)、1mmol/l(過酸化水素濃度)の時に、迅速に(10秒以内)にゲル化することが分かった。
【実施例】
【0076】
(実施例2)
次に、血管内投与を想定して、血圧・脈拍・湿度の調整が可能な血管モデルを用いて、ゲル化の確認を行った。血管モデルは閉鎖回路であり、その途中には、アクリル板にて毛細血管を想定し1.5mmよりさらに細径の管まで作製されており、流れる液体内におけるゲル化の確認に有用なモデルである。この血管モデルに、蒸留水を125mmHgの圧力で循環させた。
【実施例】
【0077】
次に、図7及び図8に示すようなマイクロカテーテルを作製した。このマイクロカテーテルは、遠位端1aの開口部の直径が3mmであり、内腔101の開口部の直径が0.43mmであり、混合室103の長さ(遠位端1aから隔壁100までの距離)が5mmである。なお、上記マイクロカテーテルは、既存の先端バルーン型カテーテル(内側の流路が2層構造のもの)を加工して作製したものである。作製したマイクロカテーテルは、内腔と外腔がそれぞれ独立しており、カテーテル先端において、内腔と外腔のそれぞれを通る第1溶液及び第2溶液が一緒になり、混合された状態でカテーテル先端から外部に放出されるように構成されている。
【実施例】
【0078】
上記マイクロカテーテルの内腔に、甜菜由来ペクチン(濃度:3.3重量%)、ペルオキシダーゼ(濃度:11.1unit/ml)を含む水溶液(第1溶液)を0.9ml/分の速度で流し、他方の外腔には、過酸化水素(濃度10mmol/l)を含む水溶液(第2溶液)を0.1ml/分の速度を流し、カテーテルの先端から第1溶液及び第2溶液の混合液1.0mlを血管モデル中に注入した。注入後、混合液は血管モデル中の細管に流れ、数秒後に細管を閉塞してゲル化した。
【実施例】
【0079】
(実施例3)
まず、甜菜由来ペクチン(濃度:3.3重量%)、ペルオキシダーゼ(濃度:11.1unit/ml、及び抗がん剤としてエピルビシン(濃度:5mg/ml)を含む水溶液(第1溶液)と、過酸化水素(濃度10mmol/l)を含む水溶液(第2溶液)を調製した。次に、実施例2と同じマイクロカテーテルの内腔に、第1溶液を0.9ml/分の速度で流し、他方の外腔には、第2溶液を0.1ml/分の速度で流し、カテーテルの先端から第1溶液及び第2溶液の混合液1.0mlを外部へ放出した。放出後、混合液は数秒でゲル化した。エピルビシンを添加しない場合に比べて、ゲル化時間が延長する傾向はなく、ほぼ瞬時にゲル化し、ゲルに薬剤が保持されることが確認された。また、エピルビシンに代えて、抗がん剤であるシスプラチンを用いて同様の実験を行ったところ、エピルビシンの場合と同様にゲル化時間が延長する傾向はみられなかった。
【実施例】
【0080】
(実施例4)
まず、甜菜由来ペクチン(濃度:3.6重量%)及びL929線維芽細胞(濃度:1.5×10cells/ml)を含む水溶液1.0mlと、ペルオキシダーゼ(濃度:12unit/ml)を含む水溶液0.1mlと、過酸化水素(濃度1.2mmol/l)を含む水溶液0.1mlを調製した。次に、上記の甜菜由来ペクチン及びL929線維芽細胞の水溶液に対し、ペルオキシダーゼ水溶液及び過酸化水素水溶液を加えて混合した。混合液は10秒後にゲル化し、厚さが100μm未満のゲル薄膜が形成された。このゲル薄膜について、Cellstain(登録商標、細胞二重染色キット)を用いて生細胞及び死細胞を同時に染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。観察の結果、ゲル化プロセスにおいて包括細胞はほとんど障害を受けず、生体に対する本発明の塞栓形成用製剤及びその製剤から形成するゲルの安全性は高いことが確認された。
【実施例】
【0081】
(実施例5)
次に、上記のマイクロカテーテルを用いて、本発明の塞栓形成用製剤を動脈内に投与した場合の副作用について動物モデルで確認した。
【実施例】
【0082】
まず、ウサギに全身麻酔施行後、開腹して盲腸を露出させ、門脈を穿刺し、透視下に門脈内に実施例2と同じマイクロカテーテルを留置した。甜菜由来ペクチン(濃度:3.3重量%)及びペルオキシダーゼ(濃度11.1unit/ml)を溶解させた水溶液(第1溶液)と、過酸化水素(濃度10mmol/l)を含む水溶液(第2溶液)をそれぞれマイクロカテーテルに接続し、シリンジポンプ(圧入器)を用いて、過酸化水素水溶液は0.1ml/分、甜菜由来ペクチン及びペルオキシダーゼを溶解した水溶液は0.9ml/分の速度で、マイクロカテーテル先端から混合液の血管内投与を行った。投与量は甜菜由来ペクチンが5mlとなるように設定した。門脈内投与後のウサギは、投与直後(30分)、1日後、3日後、そして7日後に採血し、肝臓を摘出し、血液生化学検査及び病理組織学的検討を行った。
【実施例】
【0083】
塞栓形成用製剤を門脈内投与後、Day3の肝臓の肉眼所見では、右側肝葉に赤褐色の色調変化と、形成されたゲルあるいはそれに付随する炎症によると考えられる点状の白色調変化を認めた。経時的な病理組織像(アルシアンブルー染色)を図1~4に示す。塞栓形成用製剤を注入後Day0(図1)、Day1(図2)、Day3(図3)、Day7(図4)では、それぞれ門脈内に注入され、塞栓物質として門脈内に残存したゲルが青く染色されていた(図1~4、灰色矢印)。塞栓形成用製剤は注入直後より、末梢の門脈内まで流入が認められ、Day1ではより末梢側の門脈内までゲルを同定可能であった。また、Day3では中枢側から末梢側へと押し流されるような像も観察され、特にDay3では塞栓に伴う肝障害が著明であった(図3、白矢印)。しかし、Day7では門脈内にゲルの残存を認めるものの、炎症は改善していた。Day0からDay7の病理組織において、肝動脈内へのゲルの流出は認めず、また、門脈内投与に関連したウサギの死亡は認められなかった。
【実施例】
【0084】
門脈内塞栓による肝臓への影響を血液生化学検査でも確認した。図5に示す通り、ASTはDay1、またALTはDay3をピークに最大で300IU/L弱の肝障害を認めたが、Day7ではいずれもコントロール群と同程度に改善していた。これらの変化はγGTPでも同様であり(図6)、総ビリルビンはDay7においてもわずかに高い値であるが、肝不全の兆候を示すような著明な増加ではなかった。以上の通り、本発明の塞栓形成用製剤について、血管内でのゲル化と塞栓効果が確認された。また、本発明のマイクロカテーテルを用いた塞栓形成用製剤の投与により、血管内でのゲル化と塞栓効果が確認された。塞栓形成用製剤の血管内投与による副作用として、塞栓による肝障害が認められたが、いずれも一過性であり、7日目にはいずれも改善傾向を示すことが分かった。
【実施例】
【0085】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 マイクロカテーテル
1a 遠位端
1b 近位端
10 カテーテル本体
100 隔壁
101 内腔
102 外腔
103 混合室
104 接続部
105 接続部
、L 液体
【符号の説明】
【0087】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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