TOP > 国内特許検索 > 組織透明化方法、組織透明化試薬及び組織観察方法 > 明細書

明細書 :組織透明化方法、組織透明化試薬及び組織観察方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6325461号 (P6325461)
登録日 平成30年4月20日(2018.4.20)
発行日 平成30年5月16日(2018.5.16)
発明の名称または考案の名称 組織透明化方法、組織透明化試薬及び組織観察方法
国際特許分類 G01N   1/30        (2006.01)
G01N   1/28        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
C12Q   1/00        (2006.01)
FI G01N 1/30
G01N 1/28 J
G01N 1/28 F
G01N 33/48 P
G01N 21/64 F
G01N 21/64 E
C12Q 1/00 C
請求項の数または発明の数 15
全頁数 17
出願番号 特願2014-558293 (P2014-558293)
出願日 平成25年11月20日(2013.11.20)
国際出願番号 PCT/JP2013/006811
国際公開番号 WO2014/115206
国際公開日 平成26年7月31日(2014.7.31)
優先権出願番号 PCT/JP2013/004369
2013012889
優先日 平成25年7月17日(2013.7.17)
平成25年1月28日(2013.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成28年9月5日(2016.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小野寺 宏
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査官 【審査官】土岐 和雅
参考文献・文献 国際公開第2011/111876(WO,A1)
特開2007-051957(JP,A)
国際公開第2012/161143(WO,A1)
国際公開第2012/147965(WO,A1)
米国特許第06472216(US,B1)
特開平11-187900(JP,A)
特開2001-220529(JP,A)
Smith W A, Going J J.,Subgross breast pathology in the twenty-first century.,Virchows Arch,2012年 5月,Vol.460 No.5,Page.489-495
P.T.Gonzalez-Bellido and T.J.Wardill,Imaging Neurons in Thick Inverterbrate Tissues,Cold Spring Harb Protoc,2012年 9月,970-983
APPLETON P.L., QUYN A.J., SWIFT S., NAETHKE I.,Preparation of whole mount mouse intestine for high-resolution three-dimensional imaging using two-photon microscopy,J Microsc,,2009年 5月,Vol.234 No.2,Page.196-204
Philbert S. Tsai et al.,Correlations of Neuronal and Microvascular Densities in Murine Cortex Revealed by Direct Counting and Colocalization of Nuclei and Vessels,The Journal of Neuroscience,2009年,Vol.29(46),14553-14570
MARTIN B D, NIKOLOV N, POLLACK S K, SAPRIGIN A, SHASHIDHAR R , ZHANGF, HEINEY P A,Hydroxylated secondary dopants for surface resistance enhancementin transparent poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate) thin films,Synth Met,2004年 4月13日,Vol.142 No.1/3,Page.187-193
Thorsten Staudt et al.,2,2'-Tiodiethanol: A New Water Soluble Mounting Medium for High Resolution Optical Microscopy,MICROSCOPY RESEARCH AND TECHNIQUE,2007年,Vol.70,1-9
調査した分野 G01N1/00~1/44、21/64、33/48~33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
STN
特許請求の範囲 【請求項1】
2,2´-チオジエタノールと、非イオン性有機ヨウ素化合物と、を含む水溶性溶媒中に組織を浸漬する手順を含む組織透明化方法。
【請求項2】
前記溶媒がさらにグリセロールを含む、請求項1記載の組織透明化方法。
【請求項3】
前記溶媒が、2,2´-チオジエタノールとグリセロールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液との混合液であり、2,2´-チオジエタノール、グリセロール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比がそれぞれ10~50%、1~20%及び10~70%である請求項記載の組織透明化方法。
【請求項4】
前記溶媒が、2,2´-チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液であり、2,2´-チオジエタノール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比が20~80%、80~20%である請求項1記載の組織透明化方法。
【請求項5】
前記溶媒が、さらにスクロース水溶液を含む請求項1又は2記載の組織透明化方法。
【請求項6】
前記溶媒の屈折率が、1.4~1.7である請求項1~5のいずれか一項に記載の組織透明化方法。
【請求項7】
前記組織が、脳、脊髄、肝臓、肺、心臓、血管及び癌からなる群より選択される一以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の組織透明化方法。
【請求項8】
前記組織が1mm以上の厚さを有する請求項7記載の組織透明化方法。
【請求項9】
2,2´-チオジエタノールと、非イオン性有機ヨウ素化合物と、を含む水溶性溶媒からなる組織透明化試薬。
【請求項10】
さらにグリセロールを含む、請求項9記載の組織透明化試薬。
【請求項11】
2,2´-チオジエタノールと、非イオン性有機ヨウ素化合物と、を含む水溶性溶媒中に組織を浸漬する透明化手順を含む組織観察方法。
【請求項12】
前記溶媒がさらにグリセロールを含む、請求項11記載の組織観察方法。
【請求項13】
前記組織を蛍光標識する標識手順と、
蛍光標識後の前記組織を前記溶媒中に浸漬する前記透明化手順と、
透明化後の組織中の前記蛍光標識から発せられる蛍光を検出する検出手順と、を含む請求項11又は12記載の組織観察方法。
【請求項14】
前記組織を前記溶媒中に浸漬する前記透明化手順と、
透明化後の組織を蛍光標識する標識手順と、
透明化及び蛍光標識後の組織中の前記蛍光標識から発せられる蛍光を検出する検出手順と、を含む請求項11又は12記載の組織観察方法。
【請求項15】
前記検出手順において、前記蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光実体顕微鏡、共焦点顕微鏡又は多光子顕微鏡により観察する請求項13又は14記載の組織観察方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、組織透明化方法、組織透明化試薬及び組織観察方法に関する。より詳しくは、組織をその変化を引き起こすことなく、簡便かつ安全に透明化できる組織透明化方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、形質転換技術及び遺伝子導入技術の進展に伴い、様々な臓器において特定の細胞のみを蛍光タンパク質で標識し観察することが行われている。例えば、脳内の種々の神経回路を選択的に蛍光標識し、蛍光を指標に3次元的に神経回路を可視化し再構築する試みがなされてきている。
【0003】
従来、臓器の内部組織の観察は、固定、包埋した臓器(あるいは臓器片)を機械的に薄切して組織切片を作成し、光学顕微鏡下で観察することにより行われてきた。また、近年では、共焦点レーザー顕微鏡や多光子励起顕微鏡を用いて臓器を光学的に「切る」ことにより、内部組織の観察像を得られるようになっている。
【0004】
神経回路等の組織構造を3次元的に観察する場合、上述の機械的手法では、連続的な組織切片を多数作成し、それらの蛍光画像を積み上げていくことが必要となり、非常な労力を伴う。一方、光学的手法では、光が臓器内部で散乱するため、観察する部位が臓器表面から深くなるにつれて蛍光画像の取得が困難となる問題(観察深度限界)がある。
【0005】
観察深度限界は、一般に、共焦点レーザー顕微鏡で0.15mm程度、二光子励起顕微鏡で最大4mm程度とされている。例えば研究に汎用されるマウスの脳の場合、表層の皮質の厚さが約1mmであるので、皮質よりも脳の内側にある海馬や視床を観察するためには、観察深度限界を数ミリメートルまで広げる必要がある。
【0006】
そこで、臓器内部での光の散乱を抑制して観察深度限界を広げるための技術として、臓器を透明化する技術が検討されてきている。例えば、非特許文献1には、テトラヒドロフランを用いた手法によって脳脊髄を透明化したことが報告されている。また、特許文献1及び非特許文献2には、高濃度の尿素を用いた手法(Scale法)によって脳を透明化できたことが記載されている。
【0007】
非特許文献4には、2,2´-チオジエタノールを用いてトンボの胸部神経節やイカの皮膚などの組織を0.6mm程度の厚さまで透明化できたことが記載されている。また、これに先行する非特許文献5には、2,2´-チオジエタノールを封入剤に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2013-522590号
【0009】

【非特許文献1】"Three-dimensional imaging of the unsectioned adult spinal cord to assess axon regeneration and glial responses after injury." Nature Medicine,2011, Vol.18, No.1, pp.166-71
【非特許文献2】"Scale: a chemical approach for fluorescence imaging and reconstruction of transparent mouse brain." Nature Neuroscience, 2011, Vol.14, No.11, pp.1481-1488
【非特許文献3】"Visual properties of transgenic ratsharboring the channelrhodopsin-2 gene regulated by the thy-1.2 promoter." PLoS ONE, 2009, Vol.4, No.11, e7679
【非特許文献4】"Labeling and confocal imaging of neurons in thick invertebrate tissue samples." Cold Spring Harbor Protocol, 2013
【非特許文献5】"2,2'-thiodiethanol: a new water soluble mounting medium for high resolution optical microscopy." Microscopy Research and Technique, 2007, 70:1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載される透明化手法は、透明化度に優れるが、発癌性が疑われるジクロロメタンを含む有機溶媒を使用する必要があり、有機溶媒の易燃性や廃液管理の困難さの問題がある。また、固定した臓器を脱水する過程や透明化試薬そのものの影響で、臓器が硬化したり、臓器中に標識された蛍光タンパク質の蛍光シグナルが消失又は減衰したりする問題があった。
【0011】
一方、非特許文献2に開示される透明化手法(Scale法)は、生体材料の脱水を必要としない水溶性試薬を用いることができるため、非特許文献1に記載される手法の上記問題を解決し得るものである。しかしながら、Scale法では、透明化のための処理に長期間(2週間程度)を要し、透明化度も不十分である。また、臓器が過度に膨化し、かつ脆弱化するという問題があった。
【0012】
また、従来の2,2´-チオジエタノールを用いる方法では、透明化が可能な組織の厚さは0.6mm程度に過ぎず、観察深度が不十分であった(非特許文献4参照)。加えて、2,2´-チオジエタノールを80~85%以上の高濃度で用いると、GFPなどの一部の蛍光タンパク質では、蛍光シグナルの消失又は減衰が生じていた(非特許文献5参照)。
【0013】
これらの従来技術における課題に鑑み、本発明は、有毒なあるいは危険な有機溶媒を用いることなく簡便な操作によって、種々の臓器をその変化を引き起こすことなく十分に透明化できる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、屈折率が1.4~1.7である水溶性溶媒中に組織を浸漬する手順を含む組織透明化方法を提供する。
この組織透明化方法において、前記水溶性溶媒には、2,2´-チオジエタノールとグリセロールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液との混合液が好適に用いられる。この場合、水性溶媒中の2,2´-チオジエタノール、グリセロール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比は、それぞれ10~50%、1~20%及び10~70%とされる。
また、前記水性溶媒として、2,2´-チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液を用いることもできる。この場合、水性溶媒中の2,2´-チオジエタノール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比は、20~80%、80~20%とされる。
さらに、前記水性溶媒として、2,2´-チオジエタノールとグリセロールとの混合液を用いてもよい。この場合、水性溶媒中の2,2´-チオジエタノール及びグリセロールの容量比は、70~95%、5~30%とされる。
水性溶媒中の2,2´-チオジエタノールの濃度を抑制して蛍光タンパク質の蛍光シグナルの消失又は減衰を防止するため、水性溶媒には、2,2´-チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液あるいはこれにグリセロールを加えたものを用いることが好ましい。
加えて、前記水溶性溶媒は、対象とする臓器に応じて、さらにスクロース水溶液を含むことができる。
【0015】
また、本発明は、屈折率が1.4~1.7である水溶性溶媒を含んでなる組織透明化試薬を提供する。組織透明化試薬は、2,2´-チオジエタノールと、グリセロール及び非イオン性有機ヨウ素化合物の少なくとも一方と、を含む水溶性溶媒を含む。組織透明化試薬は、対象とする臓器に応じて、2,2´-チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液、あるいは2,2´-チオジエタノールとグリセロールとの混合液、より好ましくは2,2´-チオジエタノールとグリセロールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液との混合液とされる。
また、組織透明化試薬は、対象とする臓器に応じて、さらにスクロース水溶液を含んでいてもよい。
【0016】
さらに、本発明は、屈折率が1.4~1.7である水溶性溶媒中に組織を浸漬する透明化手順を含む組織観察方法をも提供する。
この組織観察方法は、具体的には、前記組織を蛍光標識する標識手順と、蛍光標識後の前記組織を前記溶媒中に浸漬する前記透明化手順と、透明化後の組織中の前記蛍光標識から発せられる蛍光を検出する検出手順と、を含むことができる。
また、この組織観察方法は、前記組織を前記溶媒中に浸漬する前記透明化手順と、透明化後の組織を蛍光標識する標識手順と、透明化及び蛍光標識後の組織中の前記蛍光標識から発せられる蛍光を検出する検出手順と、を含むことができる。
この組織観察方法では、前記検出手順において、蛍光顕微鏡、蛍光実体顕微鏡、共焦点顕微鏡又は多光子顕微鏡による観察を好適に採用できる。
【0017】
本発明において、「組織」の用語は、「臓器」と同義に用いるものとし、生体組織を広く意味する。「組織(あるいは臓器)」には、脳、脊髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓、血管、皮膚、皮下組織、腸、脂肪組織、リンパ節、筋肉、腱及び癌などが、特に限定されることなく、含まれる。また、骨も、胎仔又は新生仔の骨のように、カルシウム沈着が進んでいない骨であれば本発明に係る組織透明化方法等の対象とできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、有毒なあるいは危険な有機溶媒を用いることなく簡便な操作によって、種々の臓器をその変化を引き起こすことなく十分に透明化できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】透明化したラット脊髄を示す図面代用写真である。(A)は従来方法、(B)は本発明に係る方法により透明化した脊髄を示す。
【図2】透明化したラット脳を示す図面代用写真である。(A)は従来方法、(B)は本発明に係る方法により透明化した脳を示す。
【図3】神経軸索を蛍光標識したラット脊髄を透明化し、取得した蛍光画像を示す図面代用写真である。
【図4】透明化したラット損傷脊髄を示す図面代用写真である。
【図5】透明化したラット損傷脊髄の3次元蛍光画像を示す図面代用写真である。
【図6】透明化したマウス脊髄(A)と脳(B)の炎症部位の観察像を示す図面代用写真である。
【図7】透明化したマウス炎症脳の3次元蛍光画像を示す図面代用写真である。
【図8】透明化マウス肺の炎症部位の観察像を示す図面代用写真(A)とその階調反転写真(B)である。
【図9】透明化したマウス炎症肺の肺胞血管の3次元構築像を示す図面代用写真である。
【図10】透明化した癌を示す図面代用写真である。
【図11】透明化した癌の3次元蛍光画像を示す図面代用写真である。(A)は本発明に係る方法、(B)は従来方法により透明化した癌を示す。
【図12】透明化したラット心臓を示す図面代用写真である。
【図13】透明化したマウス肝臓を示す図面代用写真である。
【図14】透明化したラット脳の免疫染色像を示す図面代用写真である。
【図15】透明化したラット脳の脂肪染色像を示す図面代用写真である。
【図16】透明化したラット脳の核染色像を示す図面代用写真である。
【図17】透明化したラット脳のニッスル染色像を示す図面代用写真である。
【図18】透明化したラット個体を示す図面代用写真である。
【図19】非イオン性有機ヨウ素化合物を含む組織透明化試薬により透明化した癌を示す図面代用写真である。
【図20】透明化したマウス脳を示す図面代用写真である。
【図21】脳血管を蛍光標識したマウス脳を透明化し、取得した蛍光画像を示す図面代用写真である。
【図22】比較のためチオジエタノール単独溶液にラット脳を浸漬した結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る組織透明化方法、及び該組織透明化方法を一手順として含む組織観察方法を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0021】
(1)組織透明化手順(組織透明化方法)
本発明に係る組織透明化方法及び組織観察方法は、屈折率が1.4~1.7である水溶性溶媒(組織透明化試薬)中に組織を浸漬する透明化手順を含むことを特徴とする。水溶性溶媒の屈折率は、より好ましくは1.50~1.52とされる。

【0022】
[対象臓器]
本発明に係る組織透明化方法及び組織観察方法において、対象とする臓器(あるいは臓器片)は、特に限定されないが、脳、脊髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓、血管、皮膚、皮下組織、腸、脂肪組織、リンパ節、筋肉、腱及び癌、並びに骨などとされる。本発明では、2,2´-チオジエタノール(以下、単に「チオジエタノール」と称する)にグリセロールを組み合わせて用いることで、1mm以上の厚さの組織、具体的には1mm~2cm程度の厚みの組織であっても、透明化できることが初めて明らかにされた。

【0023】
[組織透明化試薬]
水溶性溶媒(以下、「組織透明化試薬」とも称する)の屈折率は、対象臓器に応じて上記数値範囲内で適宜設定され得る。上記屈折率を満たす組織透明化試薬の好適な例として、チオジエタノール(屈折率1.52)と非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液(ヨウ素含有量40%の水溶液の屈折率約1.51)の混合液、あるいはチオジエタノールとグリセロール(屈折率1.474)との混合液が挙げられ、より好ましくはチオジエタノールとグリセロールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液との混合液が挙げられる。また、組織透明化試薬は、対象とする臓器に応じて所望により、さらにスクロース水溶液を含んでいてもよい。

【0024】
チオジエタノールとグリセロールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液との混合液の場合、水性溶媒中のチオジエタノール、グリセロール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比は、それぞれ10~50%、1~20%及び10~70%とされる。
また、チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液を用いる場合、水性溶媒中のチオジエタノール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比は、20~80%、80~20%とされる。
さらに、チオジエタノールとグリセロールとの混合液を用いる場合、水性溶媒中のチオジエタノール及びグリセロールの容量比は、70~95%、5~30%とされる。
スクロース水溶液を添加する場合には、スクロース水溶液の添加容量に応じて、チオジエタノール、グリセロール及び非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液のいずれか1以上の添加容量を減らせばよい。

【0025】
組織透明化試薬中のチオジエタノール、グリセロール、非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液及びスクロース水溶液の容量比は、対象臓器に関して所望される透明化度の程度に応じ幅広い範囲で調整され得る。

【0026】
組織透明化試薬中において、チオジエタノールの容量を増加させることで、臓器の透明化度をより高めることもできる。例えば、対象臓器を肺とする場合、チオジエタノール:グリセロール=70:30の混合溶媒を用いると、太い気管支を完全に透明化されないようにして視認可能なまま残すことができる。一方、チオジエタノール:グリセロール=85:15の混合溶媒を用いると、気管支の透明化度を高めて、肺全体を十分に透明化できる。

【0027】
上述の通り、組織透明化試薬は、チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の混合液を用いてもよいが、高い透明化度及び蛍光タンパク質の蛍光シグナルの高い保持性を得るためには、チオジエタノールと非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液にグリセロールを加えた試薬を用いることが最も好ましい。また、組織透明化試薬としてチオジエタノールとグリセロールとの混合液を用いる場合には、グリセロールを加えることで比較的高いチオジエタノール濃度(80%よりも高い容量比)の条件であっても、蛍光タンパク質の蛍光シグナルの消失又は減衰を抑制しながら、臓器を透明化することが可能となる。

【0028】
また、組織透明化試薬中に、上記屈折率範囲(1.4~1.7)に該当する屈折率(ヨウ素含有量40%の水溶液の屈折率約1.51)を有する非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液を加えることで、チオジエタノールの使用量を10~50%程度、好ましくは20~50%程度に減らすことができる。これによって、透明化後も蛍光タンパク質の蛍光シグナルを良好なレベルに保つことができる。

【0029】
組織透明化試薬中に非イオン性有機ヨウ素化合物を添加する場合、例えばヨウ素含有量40%の水溶液の場合、容量比で10~80%が好ましい。ヨウ素含有量(質量/体積%)は、非イオン性有機ヨウ素化合物の全体質量に占めるヨウ素原子の質量比と、水溶液中の非イオン性有機ヨウ素化合物の濃度(質量/体積%)とから算出できる。なお、非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液のヨウ素含有量は適宜変更可能であり、40%に限られない。組織透明化試薬中の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比も、ヨウ素含有量に応じて適宜調整され得る。

【0030】
非イオン性有機ヨウ素化合物としては、例えばヨウ素原子を高濃度で含有する有機化合物に親水性を付与した非イオン性ヨード造影剤を用いることができる。非イオン性ヨード造影剤には、ジアトリゾ酸、アミドトリゾ酸、イオキサグル酸、イオキシラン、イオタラム酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオポダートナトリウム、メトリゾ酸、ヨーダミド、ヨードキサム酸、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル等の従来公知の造影剤が挙げられる。

【0031】
組織透明化試薬中にスクロースを添加する場合、30%スクロース水溶液の容量比で2~10%が好ましい。スクロース水溶液を加えることで、組織透明化試薬の浸透度を向上させて臓器の透明化度を高めることができる。この要因としては、何ら論理に拘束されるわけではないが、スクロースを添加することで、組織の過度の固定による細胞膜や細胞質の混濁を防止できるものと推定される。

【0032】
組織透明試薬の組成の好適な例として、チオジエタノール、グリセロール及びヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液の容量比が45:5:50である混合液が挙げられる。

【0033】
組織透明化試薬には、ヂメチルスルフォキシド(DMSO)を添加してもよい。DMSOは、組織透明化試薬の浸透度を向上させて臓器の透明化度を高めることに寄与する。DMSOの添加濃度は、例えば0.1~10%とされる。DMSOを添加する場合には、DMSOの添加容量に応じて、チオジエタノール、グリセロール、非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液及びスクロース水溶液のいずれか1以上の添加容量を減らせばよい。

【0034】
なお、屈折率1.4~1.7を満たす水溶性溶媒として、上述した混合溶媒以外にも、多価アルコール類、多価アルコール類誘導体、含窒素溶媒、アルコール類、含硫黄溶媒及びこれらの混合溶媒などを使用できる場合もある。また、スクロース以外の他の単糖類及び/又は多糖類を水溶性溶媒中に添加できる場合もあるが、水中への溶解度の高さの観点からはスクロースが好ましいと考えられる。

【0035】
[浸漬]
臓器は組織透明化試薬中に所定時間浸漬することにより透明化される。浸漬は4~60℃程度にて行うことが好ましく、20~42℃程度にて行うことが特に好ましい。試薬を室温以上に加温することで、試薬の粘性が低下し、臓器内への浸透度が向上する。低温度下でのスクロースの析出を防止するため、スクロース水溶液には30%程度の濃度の水溶液を用いることが好ましい。浸漬する時間は対象臓器によって異なるが、例えば24時間~6日間である。一例として、対象臓器が脳、脊髄、心臓、皮膚又は筋肉である場合、4~6日程度の浸漬が行われる。また、対象臓器が肝臓、腎臓、肺、血管、リンパ節又は癌である場合、24時間~3日間の浸漬が好ましい。

【0036】
臓器を組織透明化試薬中に浸漬する際には、チオジエタノール、グリセロール及び/又は非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液、並びに必要に応じてスクロース水溶液を上記容量比で混合した最終溶液への浸漬の前段手順として、チオジエタノールの容量比を小さくした前処理溶液への浸漬を行ってもよい。

【0037】
前処理溶液は、チオジエタノールの容量比の異なる複数の溶液を用いてもよく、この場合、チオジエタノールの容量比がより少ない前処理溶液から順に臓器を一定時間ずつ浸漬していく。段階的な浸漬を行う場合、前段手順ではスクロースを含む処理溶液を用い、最終的にはスクロースを含まない処理溶液を用いてもよく、これはスクロースの析出が問題となるような場合に有効である。なお、このような多段階(2段階以上)での前処理は、組織透明化試薬としてチオジエタノール及びグリセロール並びに必要に応じてスクロース水溶液の混合液を最終溶液とする場合に特に有効であり、最終溶液として非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液を含む混合液を用いる場合は必ずしも必要とはならない。

【0038】
非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液を含まない組織透明化試薬を用いる場合の多段階前処理の一例として、対象臓器を脳又は脊髄とする場合、チオジエタノール:グリセロール:30%スクロース=20:40:40の溶液、50:40:10の溶液、70:25:5の溶液の各前処理溶液に順にそれぞれ24時間ずつ浸漬した後、最終溶液(90:5:5)への浸漬(24時間)を行う。また、他の臓器では、例えばチオジエタノール:グリセロール=20:80の溶液、50:50の溶液、70:30の溶液の各前処理溶液に順にそれぞれ24時間ずつ浸漬した後、最終溶液(85:15)への浸漬(24時間)を行う。

【0039】
非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液を含む組織透明化試薬を用いる場合には一段階の前処理によって、脳を3~4日間程度で、骨を除く他の全ての組織を2日間程度で透明化できる。この場合、例えば前処理液にチオジエタノール:グリセロール:30%スクロース=20:40:40の溶液を用い、最終溶液(組織透明化試薬)にチオジエタノール:グリセロール:ヨウ素含有量40%の非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液:=45:5:50の溶液を用いる。前処理液には例えば4℃~25℃で24時間、最終溶液には例えば4℃~25℃で24~48時間浸漬を行う。

【0040】
本発明に係る組織透明化方法では、従来手法に比べて短時間の操作で十分な臓器の透明化度が得られる。また、本発明に係る組織透明化方法では、有毒なあるいは危険な有機溶媒を使用することなく、水溶性溶媒中への浸漬により臓器を透明化できる(後述する実施例参照)。このため、本発明に係る組織透明化方法は、有機溶媒の易燃性や廃液管理の困難さの問題がなく、安全性が高い。

【0041】
さらに、本発明に係る組織透明化方法では、有機溶媒を使用しないため、固定した臓器を脱水する過程や組織透明化試薬そのものの影響で、臓器中に標識された蛍光タンパク質の蛍光シグナルが消失又は減衰したりすることがなく、ほぼすべての蛍光標識の蛍光が保持される。さらに、本発明に係る組織透明化方法では、水溶性溶媒中に添加されたグリセロールによって蛍光タンパク質の劣化(退色)を防止する効果も得られる。

【0042】
(2)固定化手順
本発明に係る組織透明化方法及び組織観察方法では、上述の組織透明化手順の前に、従来公知の病理組織学的手法による固定化手順を行ってもよい。また、固定化手順には、必要に応じて従来公知の脱脂処理等を組み合わせてもよい。

【0043】
固定化手順には、フォルマリン溶液(10%中性フォルマリン溶液、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液)で臓器を灌流固定した後に臓器を摘出し、さらに同溶液に24時間程度又はそれ以上の時間浸漬する手法を採用できる。あるいは、灌流固定を行うことなく摘出した臓器を、フォルマリン溶液に48時間程度又はそれ以上の時間浸漬する手法も採用できる。固定化後フォルマリン雰囲気を除去し、組織透明化手順を行うことが好ましい。

【0044】
(3)標識手順・検出手順
[透明化前の蛍光標識]
本発明に係る組織観察方法では、組織を蛍光標識した後に、上述の透明化手順を行って、透明化された組織中の蛍光標識から発せられる蛍光を検出することが可能である。上述のように、本発明に係る組織透明化方法は、ほぼすべての蛍光標識の蛍光を保持でき、かつ、蛍光タンパク質の劣化(退色)を防止できるため、複数の蛍光標識を用いた多重染色による組織観察にも好適である。

【0045】
標識手順は、遺伝子導入により組織(例えば神経線維)に蛍光タンパク質を発現させる手法、蛍光タンパク質又は蛍光色素を臓器(例えば血管)中に注入する手法、蛍光タンパク質又は蛍光色素を標識した抗体を細胞に結合させる手法等の従来公知の手法によって行うことができる。なお、ここで、蛍光色素とは、GFP等の蛍光タンパク質よりも分子量の小さい低分子化合物(例えばフルオレセイン等)を指すものとする。蛍光タンパク質及び蛍光色素には従来公知の物質を使用できる。

【0046】
透明化後の組織中の蛍光標識から発せられる蛍光の検出手順も、蛍光顕微鏡、蛍光実体顕微鏡、共焦点顕微鏡又は多光子顕微鏡による観察などの従来公知の蛍光検出手段を特に限定されることなく用いて行うことができる。本発明に係る組織透明化方法によれば臓器の高い透明度を達成できるため、共焦点顕微鏡又は多光子顕微鏡による観察深度限界を数ミリメートルまで広げることが可能である。

【0047】
本発明に係る組織観察方法では、組織透明化手順により種々の臓器を硬化、膨化及び脆弱化させることなく透明化できる(後述する実施例参照)。従って、Scale法等の従来手法と異なり、摘出された臓器の状態を維持したまま観察を行うことが可能である。また、透明化後もナイフ等で簡単に臓器を薄切できるため、透明化後に組織染色を行って観察を行うこともできる。

【0048】
さらに、本発明に係る組織観察方法では、上述したように、臓器中に標識された蛍光タンパク質の蛍光シグナルが消失又は減衰したりすることがないため、高精度な蛍光観察が可能である。特に、本発明に係る組織観察方法は、多光子顕微鏡を用いて非常に弱い励起エネルギーで臓器深部の観察を行う際に効果を発揮する。

【0049】
[透明化後の蛍光標識]
また、本発明に係る組織観察方法では、上述の透明化手順を行った後に、透明化後の組織を蛍光標識して、透明化された組織中の蛍光標識から発せられる蛍光を検出することも可能である。

【0050】
本発明に係る組織透明化方法は、臓器を過度に膨化させたり、脆弱化させたりするとなく透明化できるため、透明化後の臓器は薄切が可能である。このため、透明化後に薄切した臓器片を、蛍光標識抗体を用いた免疫組織化学的手法により染色すれば、透明化後の組織を蛍光標識できる。

【0051】
また、透明化後の臓器あるいは臓器片は、各種染色液を用いて、従来公知の病理組織学的染色を行うこともできる。特に、本発明に係る組織透明化方法では、脂肪を保持させたまま臓器を透明化できるため、ズダンIII染色やオイルレッド染色、ズダンブラック染色などの脂肪染色を行うことも可能である。

【0052】
さらに、遺伝子導入により組織を蛍光標識した後、臓器を摘出して透明化を行い、透明化後の組織をさらに免疫染色によって蛍光標識し、透明化された組織中の2以上の蛍光標識から発せられる蛍光を検出するといった応用も可能である。
【実施例】
【0053】
<実施例1:ラット脊髄の透明化>
4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で灌流固定した後にラット脊髄を摘出し、さらに同溶液に24時間浸漬して固定した。固定後の脊髄(径3mm)を、チオジエタノール:グリセロール:スクロース=20:40:40の溶液、50:40:10の溶液、70:25:5の溶液の各前処理溶液に順にそれぞれ24時間ずつ浸漬した後、90:5:5の最終溶液に24時間浸漬して透明化した。
【実施例】
【0054】
結果を図1Bに示す。なお、Aは、非特許文献2記載のScale法による結果を示す。本発明に係る組織透明化方法(B)では、Scale法(A)に比して透明度高く脊髄を透明化できた。また、Scale法(A)では、脊髄が2倍に膨化してしまう問題があったのに対して、本発明に係る組織透明化方法(B)ではこのような問題は生じなかった。
【実施例】
【0055】
<実施例2:ラット脳の透明化>
ラット脳(組織厚6mm)を実施例1に記載の手順で固定し透明化した。
【実施例】
【0056】
結果を図2Bに示す。なお、Aは、非特許文献2記載のScale法による結果を示す。本発明に係る組織透明化方法(B)では、Scale法(A)に比して透明度高く脳を透明化できた。また、Scale法(A)では、脳が顕著に膨張し、指で押圧すると容易に崩れてしまう問題があったのに対して、本発明に係る組織透明化方法(B)では膨化及び脆弱化は生じなかった。
【実施例】
【0057】
<実施例3:ラット脊髄の蛍光観察>
神経軸索に蛍光タンパク質VENUSを発現するトランスジェニックラットを作成した。トランスジェニックラットの作成は、非特許文献3("Visual properties of transgenic rats harboring the channelrhodopsin-2 gene regulated by the thy-1.2 promoter." PLoS ONE, 2009, Vol.4, No.11, e7679)記載の手法により行った。実施例1に記載の手順で固定し透明化した脊髄を共焦点顕微鏡(Zeiss, LSA-700)により観察した。
【実施例】
【0058】
取得された蛍光画像を図3Aに示す。Bは、A中の点線で囲った領域の拡大画像である。本発明に係る組織観察方法によれば、神経軸索を高精度に観察することが可能であった。また、比較的高いチオジエタノール濃度(容量比90%)の条件であっても、蛍光タンパク質の蛍光シグナルの消失又は減衰を抑制できた。
【実施例】
【0059】
<実施例4:ラット損傷脊髄の観察>
上述のトランスジェニックラットの第12胸髄の背側を鋭利なハサミで半切して脊髄を損壊した後、傷口を閉じた。4週間後に、実施例1に記載の手順で脊髄を固定し透明化した。透明化後の脊髄を多光子励起顕微鏡(Nikon, A1MP)により観察した。
【実施例】
【0060】
透明化後の脊髄では、図4に示すように、外部から損壊された部位を透視することが可能となった。損壊部位は、ヘモジデリンによる着色で茶色く視認される。取得された3次元蛍光画像を図5に示す。画像中、緑は神経軸索からのシグナル、青は第二高調波発生(Second harmonic generation: SHG)のシグナルを示す。コラーゲンからのSHGによる蛍光が損壊部位で観察され、同部位でコラーゲンが増生し線維化が生じていることが確認される。
【実施例】
【0061】
<実施例5:マウス脳脊髄炎の観察>
マウスに実験的脳脊髄炎を誘起した。マウス尾根部に炎症誘起MOGペプチドエマルジョンを皮下注射し、30日後に4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で灌流固定した後に脳脊髄を摘出し、さらに同溶液に24時間浸漬して固定した。固定後の脳脊髄を、チオジエタノール:グリセロール=20:80の溶液、50:50の溶液、70:30の溶液の各前処理溶液に順にそれぞれ24時間ずつ浸漬した後、90:10の最終溶液に24時間浸漬して透明化した。透明化後の脳脊髄を多光子励起顕微鏡により観察した。
【実施例】
【0062】
図6に透明化後の脊髄(A)と脳(B)を示す。本実施例では、組織透明化試薬としてチオジエタノール及びグリセロールを含み、スクロース水溶液を含まない水溶性溶媒を用いることで最終的な臓器の透明化度を敢えて抑制した。これにより、図6(B)に示されるように、病変を脳幹内の混濁した部位として確認することができている。また、図7には、取得された3次元蛍光画像を示す。画像中、赤は血管、緑は骨髄由来細胞の蛍光像である。血管の蛍光標識は、蛍光試薬を結合したトマトレクチンを動物の血管に注入することによって実施した。また、骨髄由来細胞の蛍光標識は、蛍光標識した抗F4/80抗体を用いて行った。
【実施例】
【0063】
<実施例6:マウス肺の観察>
実施例1に記載の手順でマウス肺(下葉、縦:横:厚み=7mm:5mm:5mm)を固定し透明化した。透明化後の肺を多光子励起顕微鏡により観察し、肺胞血管の3次元構造を構築した。
【実施例】
【0064】
透明化後の肺を図8Aに示す。Bは、Aの画像を階調反転させた画像である。透明化後の肺では、図8に示すように、外部から気管支を透視することが可能となった。また、図9には、取得された肺胞血管の3次元画像を示す。
【実施例】
【0065】
<実施例7:癌の観察>
GFPを遺伝子導入したヒト肺癌細胞をヌードマウスの皮下に移植し、60日後に癌組織(5mm角)を摘出し、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液に24時間浸漬して固定した。実施例1に記載の手順により透明化を行った。透明化後の癌を多光子励起顕微鏡により観察した。
【実施例】
【0066】
透明化後の癌を図10に示す。また、癌の3次元蛍光画像を図11Aに示す。なお、図11Bは、Scale法により透明化を行った癌の蛍光観察像である。Scale法(B)による観察では、観察深度限界が100μm程度であり、腫瘍血管は描出不能で、腫瘍細胞(画像中、緑)の分布は不明瞭であった。一方、本発明に係る組織透明化方法(A)による観察では、観察深度限界が1000μm以上であり、腫瘍血管(画像中、赤)が描出可能で、腫瘍細胞の分布も確認された。また、GFPの蛍光シグナルもよく保持されていることが分かった。
【実施例】
【0067】
<実施例8:ラット心臓・マウス肝臓の透明化>
ラットの心臓(1.2cm角)及びマウスの肝臓(縦:横:厚み=1cm:1cm:6mm)を実施例1に記載の手順で固定し透明化した。結果を図12、図13に示す。図12中矢印は、大動脈を示す。図13中矢印は、門脈を示す。
【実施例】
【0068】
<実施例9:透明化後の染色>
実施例2で透明化したラット脳を薄切し、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)に対する免疫染色、脂肪染色、核染色及びニッスル染色を行った。
【実施例】
【0069】
免疫染色は、抗GFAP抗体と、酵素(パーオキシダーゼ)と色素(ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド)を利用した市販の検出キットを用いて行った。脂肪染色にはズダンIIIを用いた。核染色にはDAPIを用いた。ニッスル染色にはトルイジンブルーを用いた。
【実施例】
【0070】
結果を図14~図17に示す。図14はGFAP陽性を示す小脳バーグマングリア細胞の免疫染色像を示し、図15は脂肪染色、図16は核染色、図17はニッスル染色の結果を示す。図14では、透明化によって優れた深部描出性が実現されている。また、脂肪染色、核染色及びニッスル染色においても、それぞれ目的とする小脳白質、細胞核及び神経細胞が染色されているのが確認できる。
【実施例】
【0071】
<実施例10:ラット個体の透明化>
4日齢のラット個体を前処理液(チオジエタノール:30%スクロース=20:80)に4℃で24時間、最終溶液(チオジエタノール:グリセロール:30%スクロース=90:5:5)に4℃で48時間浸漬して透明化した。結果を図18に示す。ラット個体を丸ごと透明化できていることが確認される。
【実施例】
【0072】
<実施例11:有機ヨウ素化合物の検討>
GFPを遺伝子導入したヒト肺癌細胞をヌードマウスの皮下に移植し、4週間成長させた。蛍光試薬を結合したトマトレクチンを動物の血管に注入した後、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で灌流固定した。癌組織を摘出し、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液に24時間浸漬して固定した。
【実施例】
【0073】
固定後の癌組織を、前処理液(チオジエタノール:30%スクロース=20:80)に4℃で24時間、最終溶液(チオジエタノール:グリセロール:イオメプロール=50:5:45)に4℃で24時間浸漬して透明化した。結果を図19Bに示す。なお、イオメプロールには、エーザイ社のイオメロン(登録商標)を用いた。イオメロン(登録商標)400は、ヨウ素含有量40%であり、屈折率は1.51である。
【実施例】
【0074】
Aは、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で固定後の癌組織を示す。Cは、前処理液(チオジエタノール:30%スクロース=20:80)に4℃で24時間、最終溶液(チオジエタノール:グリセロール=90:10)に4℃で24時間浸漬して透明化した癌組織を示す。有機ヨウ素化合物を用いたBで最も高い透明度が得られた。
【実施例】
【0075】
透明化後の癌組織においてトマトレクチンにより蛍光標識された血管を多光子励起顕微鏡により観察した。Aに示した固定後の癌組織では、癌組織表面の結合織被膜のため内部は全く観察できなかった。Cに示した透明化後の癌組織では、観察深度限界は約800μmであった。Bに示した透明化後の癌組織では、顕微鏡の検出限界である約1800μmを超えて腫瘍血管の描出が可能であり、癌細胞のGFPからの蛍光シグナルの減弱もみられなかった。この結果ら、非イオン性有機ヨウ素化合物水溶液を加えた最終溶液を用いることによって、高い透明化度が得られることが明らかになり、チオジエタノールの使用量を抑えてGFPの蛍光シグナルをより良好に保持できることが示された。
【実施例】
【0076】
<実施例12:マウス脳の透明化2>
4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で灌流固定した後にマウス脳を摘出し、さらに同溶液に24時間浸漬して固定した。固定後の脳(組織厚6mm)を、チオジエタノール:イオメプロール=50:50の溶液に25℃で48時間浸漬した。結果を図20Aに示す。
【実施例】
【0077】
また、固定後の脳を、チオジエタノール:イオメプロール:グリセロール=50:44.5:5.5の溶液に20℃で48時間浸漬した。結果を図20Bに示す。
【実施例】
【0078】
図に示すように、イオメプロールを用いることで、チオジエタノールの容量比を50%に抑制しながら、脳を透明化することができた。また、グリセロールを加えた場合(B)には、加えない場合(A)に比して、透明化度は顕著に向上した。同様の手順により、胃、腎臓、子宮についても透明化できた(図示省略)。
【実施例】
【0079】
<実施例13:マウス脳血管の蛍光観察>
EGFPを発現するレトロウイルスベクターを用いてマウスの脳血管にEGFPを発現させた。実施例12と同様の手順で固定し透明化した脳を共焦点顕微鏡(Zeiss, LSA-700)により観察した。
【実施例】
【0080】
取得された蛍光画像を図21に示す。イオメプロールを用いた場合、EGFPにより蛍光標識された脳血管を高精度に観察することが可能であった。
【実施例】
【0081】
<比較例:チオジエタノール単独溶液の検討>
4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で灌流固定した後にラット脳を摘出し、さらに同溶液に24時間浸漬して固定した。固定後の脳(組織厚4mm)を、チオジエタノールに3日間浸漬した。
【実施例】
【0082】
結果を図22に示す。Aは、4%パラフォルムアルデヒド緩衝液で固定後の脳を示す。Bは、チオジエタノール単独溶液に浸漬した脳を示す。Cは、前処理液(チオジエタノール:30%スクロース=20:80)に4℃で24時間、最終溶液(チオジエタノール:グリセロール=90:10)に4℃で48時間浸漬して透明化した脳を示す。チオジエタノール単独溶液への浸漬では、厚い脳組織を透明化することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る組織透明化方法によれば、有毒なあるいは危険な有機溶媒を用いることなく簡便な操作によって、種々の臓器をその変化を引き起こすことなく十分に透明化できる。従って、本発明に係る組織透明化方法は、病態解析や薬効評価、癌転移スクリーニングなどの種々の分野において、手間のかかる組織切片作成を行うことなく臓器の内部組織を観察するために用いられ得る。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21