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明細書 :太陽電池の性能劣化を回復する装置およびその方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-047547 (P2019-047547A)
公開日 平成31年3月22日(2019.3.22)
発明の名称または考案の名称 太陽電池の性能劣化を回復する装置およびその方法
国際特許分類 H02S  40/30        (2014.01)
FI H02S 40/30
請求項の数または発明の数 2
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-164885 (P2017-164885)
出願日 平成29年8月29日(2017.8.29)
発明者または考案者 【氏名】吉田 弘樹
【氏名】野々村 修一
【氏名】大橋 史隆
出願人 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100147038、【弁理士】、【氏名又は名称】神谷 英昭
審査請求 未請求
テーマコード 5F151
Fターム 5F151KA03
5F151KA07
要約 【課題】PID現象により出力低下したモジュールの出力を回復する方法であって、既設の太陽電池モジュールを接地した状態のままで処理することが可能な方法を提案すること。
【解決手段】太陽電池セルの電極間に対して、最高電圧が-3~-20Vの範囲で設定された逆電圧を印加する電源を有し、最高電圧に到達するまで連続的又は段階的に電圧を上げるとともに、最高電圧に到達した後は、印加電圧を下げる又は停止し、以後前記電圧の上昇・降下を繰り返すことを特徴とする、発電効率の劣化を回復する劣化太陽電池の回復装置。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
太陽電池セルの電極間に対して、最高電圧が-3~-20Vの範囲で設定された逆電圧を印加する電源を有し、最高電圧に到達するまで連続的又は段階的に電圧を上げるとともに、最高電圧に到達した後は、印加電圧を下げる又は停止し、以後前記電圧の上昇・降下(又は停止)を繰り返すことを特徴とする、発電効率の劣化を回復する劣化太陽電池の回復装置。
【請求項2】
劣化太陽電池の効率を回復する方法であって、
(1)太陽電池モジュールを構成する太陽電池パネル間の接続を解放し、各パネルに並列に接続されているダイオードに対する電気的回路を遮断するステップ、
(2)請求項1に記載の回復装置を、前記太陽電池パネルのプラス電極にマイナスの電位を、マイナス電極にプラスの電位を接続するステップ、
(3)前記太陽電池セルに対して最大印加電圧(-3~-20Vの範囲に設定)になるまで連続的或いは段階的に電圧を上げつつ通電し、逆方向の電圧を印加するステップ、
(4)前記最大印加電圧に達した後は、速やかに通電を停止するか又は電圧を降下させるステップ、
(5)前記(3)及び(4)を複数回繰り返すステップ、を含むことを特徴とする劣化太陽電池の回復方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電システム設置後のPID(potential-induced degradation)現象などによる出力低下を回復する装置およびそれを用いた回復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムは、設置後十年前後でようやく設置コストの回収ができると言われており、長期間の安定した出力が求められている。しかし太陽光発電で先行するヨーロッパ等では、PID現象とよばれる太陽電池モジュールシステムの性能劣化が発生するという問題が報告されている。PID現象とは、太陽電池モジュール内部回路で電荷の分極が生じ、セル内部での電子の移動が妨げられることで出力の著しい低下が起こる現象である。
【0003】
PID現象は、高電圧化した太陽光発電設備において、接地されたフレームと太陽電池モジュール内部回路との間に大きな電位差が発生するようになり、これに湿度、温度等の外部要因が作用し、或いはモジュールに用いられるガラス基板などからのアルカリ金属イオンが拡散して、モジュールの内部回路とフレーム間に漏れ電流が生じることが原因といわれている。
【0004】
ここで本明細書における用語について以下のように定義する。太陽電池の基本単位で太陽電池素子そのものを太陽電池セルといい、このセルを必要枚数配列して、屋外で利用できるように樹脂や強化ガラスなどで保護し、パッケージ化したものを太陽電池パネルという。また太陽電池パネルを複数枚並べて接続したものを太陽電池モジュールという。太陽電池セル単位でみると、該セルの一部分に前記の劣化現象が発生し、それが太陽電池パネル一枚の性能劣化へとつながり、さらに太陽電池モジュールを構成する直列に接続された太陽電池パネルのうち、一枚でもこのような性能劣化を起こすと、システム全体の発電効率の低下を招いてしまう。
【0005】
このようなPID現象を抑制する方法として種々の提案がなされている。例えば、所定レベル以上の高い絶縁性を有する太陽電池用封止膜を利用するもの(特許文献1)、環状オレフィン系樹脂のフィルムと、エチレン・α-オレフィンゴム共重合体(A)とエチレン・アクリル酸共重合体(B)を所定の配合比でブレンドした組成物に有機過酸化物課教材を含む材料でモジュールを封止するもの(特許文献2)、エチレン・極性モノマー共重合体と、シランカップリング剤と、ヒンダードアミン系光安定剤を含む封止用樹脂を提供するもの(特許文献3)などがある。これらの技術は、封止膜により結晶シリコン等のセルを保護しようとするものである。
【0006】
また、太陽光発電システムに使用する電力変換装置に絶縁トランスを追加し、かつ負極に接地することによりPIDの発生を防止する方法(特許文献4)や、太陽電池モジュールとパワーコンディショナの間に出力低下予防回復装置と発電回路との切り替え手段を設けて、太陽電池モジュール内部に正電圧を印加する電源と前記モジュールを接地する接地手段を備えた装置(特許文献5)などの提案もある。これらの技術はPID現象を効果的に抑制するものではあるが、既に設置済みの太陽電池モジュールに適用することは困難である。
【0007】
一方、既設の太陽電池モジュールの劣化を回復する手段として、例えば40℃で1000Vの電圧を100時間かけることでPIDを起こさせたのち、逆の電圧を同温度、同時間かけることでPIDが回復したという結果(非特許文献1)や、600Vの逆電圧あるいは250℃で2.5時間の処理により回復するという報告(非特許文献2)がある。これらの方法によれば回復可能であるかも知れないが、太陽電池モジュールを再利用する場合のように、一旦設備を分解するなどして回収することが必要となる。
【0008】
なお、一定期間使用された太陽電池パネルについて出力を回復するための補修装置として、直流通電により太陽電池パネルに発生した発熱箇所を赤外線カメラで撮影・解析し、レーザーを照射して加熱する方法(特許文献6)があるが、熱疲労によるはんだクラックにより出力低下した太陽電池パネルの回復手段に関するものであり、同じ手法がPIDの回復に適用できるか否かは不明である。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2014-27035号公報
【特許文献2】特開2015-179827号公報
【特許文献3】特開2016-12643号公報
【特許文献4】特開2011-103497号公報
【特許文献5】特開2014-99438号公報
【特許文献6】特開2014-82366号公報
【0010】

【非特許文献1】S.Pingel,S.Janke,O.Frank, EU PVSEC 2012
【非特許文献2】D.Lausch,V.Naumann et al,Energy Procedia 55,486-493,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、既設の太陽電池モジュールを設置した状態のままで、PID現象により出力低下したモジュールの出力を回復する装置およびその方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明らは先に、発電効率が劣化したと判断された太陽電池セルの電極間に対して-3~-15Vの範囲で逆電圧を印加する電源を有し、発電効率の劣化を回復する装置及びその方法を提案した(特願2017-36400号)。なお、劣化しているか否かは、太陽電池セルに対して逆方向の一定電圧をかけたときの抵抗値を測定することにより判別することができる。劣化判定に際して印加する電圧は通常0.01V~0.2V、一般的には0.01~0.05Vの範囲内で印加したときの測定電流から判定する。
【0013】
劣化判定と効率回復に際して印加する電圧に大きな差異があるものの、出力電圧の変更が可能な装置を使用することで、発電効率の検査と回復を一つの装置として兼用することもできる。現地に赴くことは必要になるが、簡易的な装置を持ち運びすることで、設置状態のまま発電効率の点検及び劣化の回復をすることが可能となるのである。
【0014】
先の発明では、逆電圧を印加するに際してパルス状の波形の電圧が適当であると提案している。連続通電による未劣化部分への悪影響を抑えることができるからである。
【0015】
それに対し、本発明の性能劣化を回復する装置は、回復処理時の通電に際して、所定の波形の電圧を印加することに特徴がある。ここで「所定の波形」とは、最大印加電圧になるまで連続的或いは段階的に電圧をあげつつ、通電する際の時間をx軸、電圧をy軸とする二次元グラフにプロットしたとき、波の形状が三角形、ノコギリ形、正弦波を全波整流した形状等又はこれらを混合した波形を示すもの(パルス波のような、一つの波が方形のものを除く。)を言う。最大印加電圧は-3~-20V、好ましくは-3~-15Vの範囲で設定される。
【0016】
また、本発明の装置は、前記最大印加電圧に到達した後は、印加電圧を0Vまで徐々に下げるか又は印加を停止する。以後は前記動作(印加電圧の上昇・降下(又は停止))を繰り返すことができる装置である。
【0017】
前記の通り、PID現象による太陽電池セルの劣化は部分的であると考えられるので、未劣化の状態である部分が殆どを占めることとなる。そのような未劣化部分に対して、逆方向の高電圧を長時間印加すると発熱等により却ってセルの損傷を招くことになる。そこで、本発明のような所定の波形で通電することで未劣化部分への悪影響を抑えつつ、劣化部分の修復を図るのである。
【0018】
本発明の発電効率の劣化を回復する方法は、(1)太陽電池モジュールを構成する太陽電池パネル間の接続を解放し、各パネルに並列に接続されているダイオードに対する電気的回路を遮断するステップ、(2)電圧を所定の波形で印加できる回復装置を、前記太陽電池パネルのプラス電極にマイナスの電位を、マイナス電極にプラスの電位を接続するステップ、(3)前記太陽電池セルに対して最大印加電圧(-3~-20Vの範囲に設定)になるまで連続的或いは段階的に電圧を上げつつ通電し、逆方向の電圧を印加するステップ、(4)前記最大印加電圧に達した後は、速やかに通電を停止するか又は電圧を降下させるステップ、(5)前記(3)及び(4)を複数回繰り返すステップ、を含むことを特徴とする。
【0019】
太陽電池セルの電極は、受光面側の電極と、それとは反対側の電極(裏面側電極)が形成されている。これらの各セルを直列に配列して太陽電池パネルが構成されるのであるが、その際には、ダイオードがパネル裏面に接続されている。これは、各パネルにおける非発電時の電力消費や電流の逆流を防止するためのものである。従って、逆電圧を印加する場合には、現場にてダイオードの接続を解放する必要がある。
【0020】
ダイオードの電気的接続を遮断したあとは、太陽電池セルの電極に所定の波形を有する電圧を印加するだけで、発電効率の劣化を回復させることができるのである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回復装置は、太陽光発電システムが設置されている現地において、設置された状態を殆ど維持したままで処理することができる装置である。従って、太陽光発電のメンテナンスが容易になるとともに、安定した発電量を長期に渡って維持できることが期待される。また本発明の装置は、従来から汎用されている簡便な電源を使用することができるので、コストを極めて低く抑えることができ、操作に特別な技術・知識を必要としないので、広く普及させるのに好適である。
【0022】
さらに、本発明の回復装置の設定電圧(-3~-20V)の範囲内において、より高い電圧を最大印加電圧とし、所定の波形の電圧を印加することにより、太陽電池パネルの未劣化部分に対する悪影響を抑えるとともに、極めて短時間で性能を回復させることが可能となる。
【0023】
本発明の方法によれば、これから設置される太陽光発電システムに対しては勿論であるが、既存の設備に対して適用できる点で極めて大きな経済効果を有している。仮にPID現象を効果的に予防することができる新規な材料からなる太陽電池セルが開発されたとしても、その導入には、安定性、安全性、経済性などクリアすべき課題が多いので、直ぐには対応できないだけでなく、既存設備のセルの交換等のコストが伴うことが予想されるからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、劣化した太陽電池パネルに対して順方向バイアスに印加し、EL発光したものを撮影した画像である。
【図2】図2は、印加電圧の波形について、先願(a)と本発明(b)とを比較した図である。横軸を時間、縦軸を電圧として表している。
【図3】図3は、逆電圧の印加時間(sec)に対する並列抵抗(Rsh)の値の変化を、先願と本発明例とで比較した図である。
【図4】図4は、ノコギリ波(上図)と、劣化回復過程の予測メカニズムを説明する図(下図(a)~(e))である。
【図5】図5は、本発明の太陽電池劣化回復装置の外観を示す図である。
【図6】図6は、本発明の印加電圧波形(ノコギリ波)の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の印加電圧波形(三角波)の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の印加電圧波形(エクスポネンシャル波)の一例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の印加電圧波形(部分的サイン波)の一例を示す図である。
【図10】図10は、ノコギリ波と三角波とを印加した時間に対する並列抵抗の回復率を示す図である。
【図11】図11は、ノコギリ波、エクスポネンシャル波、部分的サイン波のそれぞれを印加したときの、劣化の回復率を示す図である。
【図12】図12は、段階的に電圧を上げる際の波形(ステップ波)の一例を示す参考図である。
【図13】図13は、ノコギリ波とステップ波を使用した場合の並列抵抗の回復率を比較した図である。
【図14】図14は、ノコギリ波の波形であって、電圧の上昇速度をそれぞれ-1V/0.02sec、-1V/0.2sec、-1V/2secとしたときの例を示す図である。
【図15】図15は、ノコギリ波の電圧上昇速度に対する、並列抵抗の回復率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係わる太陽電池の性能劣化を回復する装置は、太陽電池パネルに対して最大で-3~-20Vの範囲で所定の波形の逆電圧を印加するだけで、PID現象によって効率が劣化したと見られる症状が改善・回復するというものである。詳細なメカニズムについては未だ完全には解明できていないが、原因と思われるナトリウムの電気的な排除または、逆電圧印加時の発熱がその作用効果を現していると考えられる。

【0026】
PID現象による出力低下は、例えばドイツの研究機関フラウンホーファーCSPの実験(http://www.en.csp.fraunhofer.de/press-and-events/details/id/857/)によれば、商用太陽電池モジュールを、温度50℃、湿度50%で48時間1000V印加することで確認されたという。これまで日本では目立った報告はされていないようであるが、メガソーラーと称される大規模な発電施設が建設され、高温多湿のような環境下では今後顕在化する可能性が高いと言われている。特にPIDは最も広く使用されている結晶シリコン系の太陽電池で生じるので、既設の太陽光発電システムや、PID防止効果に劣る太陽電池モジュールが使用されれば、必然的に本発明のような回復装置が求められるのである。

【0027】
PID現象は発電効率の低下を意味するが、太陽電池モジュールの全体が出力低下の原因になるというよりも、その一部(例えば太陽電池セル或いはセルの一部分)の欠陥が全体の出力低下を引き起こすことが多い。

【0028】
ところで、太陽電池の製品検査の一つとして、クラックや断線等の有無の確認のためEL(エレクトロルミネッセンス)検査法がある。EL検査法とは、太陽電池パネルに対して順方向に電流を流したときに太陽電池が発光する現象を利用するものであるが、これを応用して、発光状態を解析することで太陽電池パネルの性能が評価できる(例えば国際公開WO2006/059615号等参照)。

【0029】
すなわち、シリコン半導体からなる太陽電池セルに対して、p型領域側に正、n型領域側に負の極性の外部電圧を印加することにより、順方向に直流電流を導入するのである。この時の電流強度は、太陽電池セルの作動電流と略同じ強度であることが好ましい。なお、作動電流とは、評価対象の太陽電池セルに太陽光を照射した際に、実際に光電変換により発生する電流のことをいう。例えば、シリコン半導体からなる太陽電池セルであれば5~40mA/cm程度が適当である。

【0030】
こうして順方向電流を流した後、ルミネッセンス強度をCCDカメラなどで直接画像データとして収集し、その画像データを解析すれば、どこに欠陥があるのかが特定できる。

【0031】
図1には、劣化した太陽電池パネルに対し順方向バイアスに印加することで、半導体内に入った電子と正孔が再結合してEL発光したものを撮影した画像が示されている。この図の暗部が劣化箇所を示しており、太陽電池パネルの一部に劣化が起きていることが判る。なお、これまでの知見からパネル内において劣化しやすいとされる部分は端部に多く、さらにパネルから電力を取り出す電極の近傍はより劣化が進み易いことが判っている。

【0032】
前記のように、PID現象は太陽電池モジュールの一部の欠陥である場合が多いので、修復(逆電圧を印加)する場合には欠陥部分に集中させることが望ましい。しかし、集中させるには当該一部を抜き出して、例えばセル単位で回復処理を行うこととなるが、それはすなわち太陽電池モジュールの分解を意味することになる。少なくとも既設のモジュールでは、簡単な操作で分解することは不可能に近く、まして太陽光発電の現場にてそのような修理を行うことは現実的ではない。そこで、太陽電池パネル全体に逆電圧を印加するものの、できるだけ高電圧状態を避けて、かつ回復効率の良い条件を検討する必要がある。

【0033】
本発明では、通常パネル一枚の裏面側に並列に配線されているダイオードの電気的接続を遮断することが必要である。ダイオードは前記の通り一部の太陽電池パネルが非発電或いは低発電時において、他の通常に発電している太陽電池パネルからの発電損失を回避するためのバイパス用として、及び逆電流の防止のために接続されているものである。本発明では太陽電池パネルの設けられたプラス電極とマイナス電極に逆電圧を印加するのであるが、その際にはダイオードの配線側にも同様に電圧がかかることになるので、そのままでは劣化部分の回復効果が低下する。従って電気的な接続を遮断することが好ましいのである。この程度の操作であれば、それ程の手間も掛からず現場にて行うことが可能である。

【0034】
発電効率回復時には正常な部分にも逆電圧が印加されることとなるので、逆電圧により却って正常部分に損傷を与えないことが重要である。一方で、回復処理時間の短縮化には、ある程度の高電圧を印加することが好ましいという、トレードオフの関係があることが判っている。

【0035】
本発明では、「所定の波形」の電圧であれば、高電圧で印加され続けることを防止して正常な部分への影響を最小限に抑えるだけでなく、回復効率がより高いことを見いだしたものである。

【0036】
図2には、「所定の波形」として本発明のノコギリ形の波形(b)と、比較として本発明者らが先の発明において使用したパルス波形(a)を、時間(横軸)に対する電圧(縦軸)の変化として示した。最高電圧はともに-15Vである。この例ではノコギリ形の波形は、電圧の印加開始から、約3秒で最高電圧に到達し、その後電圧を0Vにするサイクルを繰り返した。また最高電圧に到達するまでは、電圧を一定の上昇速度(-5V/sec)で上昇させた。一方、先の発明では、パルスの電圧印加時間を約0.1sec、パルスの間隔を約0.1secとして-15Vの電圧を繰り返し印加した。

【0037】
図3には、前記の本発明例(ノコギリ波)を使用した場合を実線で、先の発明例(パルス波)を使用した場合を破線で、それぞれの場合について印加時間と劣化太陽電池パネルの並列抵抗値(Rsh)の変化を示した。なお、並列抵抗値が高くなることは太陽電池パネルの性能が回復していくことを意味している。この図から明らかなように、少なくとも短時間の処理であった場合には、先の発明例では、一定の抵抗値まで回復した後それ以上に回復する様子が認められないのに対して、本発明例の場合には、短時間の処理であっても抵抗値が継続的に上昇し回復の程度がより進行することがわかる。

【0038】
図4には本発明のノコギリ波1によって劣化が回復する際のメカニズムとして、本発明者らが推定している概略が示されている。結晶系シリコン太陽電池はn型半導体2とp型半導体3を貼り合わせた構造をしている。2つの半導体の接合面では、電子と正孔が結合して、互いの電荷を打ち消し合うことで、電荷を運ぶキャリアが存在しない状態となり、この領域は空乏層4と呼ばれる。この空乏層近傍に不純物5(劣化に関与する成分で、ナトリウム等が考えられる。図4ではドットで示している。)が存在することにより太陽電池パネルが劣化すると考えられている(図4(a))。

【0039】
この劣化した太陽電池パネルに、本発明のノコギリ波等の電圧を印加する(ノコギリ波は、図4上側の図で、折れ線にて示している。また、図4(a)~(e)は太陽電池パネルの断面構造を拡大して模擬的に示したもので、この各図に上方向から伸びる各矢印は、ノコギリ波のどの段階に対応しているかを示している。)と、電圧の上昇に伴って空乏層がp型半導体側に広がり、不純物も同じように空乏層の図面右側寄りに移動する(図4(b))。最高電圧に達した後、電圧を0Vにすることで空乏層が元の状態に戻るが、不純物は追随できずにそのままの状態となる(図4(c))。再度、電圧印加により空乏層をp型半導体側に広げ、不純物の移動を促進させる(図4(d))。これを繰り返して不純物を走引することにより、初期の空乏層内にあった不純物が除去されp型半導体の深部に残される(図4(e))。太陽電池動作状態における電圧は0.6V程度と低いので、元の空乏層内にあった不純物はほぼ特性に影響がない程度に除去できる。

【0040】
本発明装置の印加電圧は、最大電圧を-3~-20Vの範囲、好ましくは-3~-15Vの範囲内で設定することが望ましい。前記範囲よりも低い電圧では劣化部分の回復に長時間を要することになり、前記範囲よりも高い電圧では、未劣化部分への電圧印加によりパネルの発熱が加速され、損傷に繋がるおそれがあるからである。太陽電池モジュール内では、前記のように劣化セルと未劣化セルとが混在して接続されていることになる。-3~-15V程度の逆電圧を印加する条件では、劣化セルに優先的に電流が流される。一方、未劣化セルには-15V程度を超える逆電圧が印加されると、急に電流が流れるようになる。従って、印加電圧を前記範囲で設定することが望ましいのである。

【0041】
電圧を印加する際の上昇速度は、-1~-20V/sec、好ましくは-3~-10V/secである。上昇速度が、前記範囲よりも遅い場合には太陽電池パネルの性能回復に時間を要するようになり、前記範囲よりも早い場合には、先の発明で使用したパルス電圧に近似して、回復率が一定のところで停滞し短時間での回復が遅れることが予想されるからである。

【0042】
図5には、本発明の回復装置11と太陽電池パネル12が接続されている状態の概観が示されている。太陽電池パネルは、複数の太陽電池セル14を接続して形成され、パネルは一対の電極15を備えている。回復装置から当該電極に対して所定の波形の逆電圧が印加されるのである。なお、図5には太陽電池パネルの下に加熱装置13を敷設した状態が示されている。この加熱装置は必須のものではなく、一般的には温度上昇により回復速度を早めることができるため、より短時間にて処理したい場合には、本発明の回復装置と併用すると良い。

【0043】
回復装置による印加電圧の波形については、前記の通りノコギリ波(図6、上昇速度:-5V/sec)を好ましい例として示しているが、他にも三角波(図7、上昇速度-5V/sec、降下速度5V/sec)、エクスポネンシャル波(図8、電圧の関数15(1-exp(-t))、部分的サイン波(図9、電圧の関数15sin(π/6))などの波形でも良い。いずれの波形についても所定の速度(必ずしも一定速度のみを意味するものではない。)で電圧を上げること、最高電圧に達した後は、一旦0Vまで電圧を下げ、再度最高電圧まで所定の速度で電圧を印加する、という操作を繰り返し行う点で共通している。

【0044】
三角波とは、ノコギリ波の最高印加電圧に達したのちに瞬時に0Vに(すなわち印加を停止)するのではなく、電圧上昇時と同じ速度またはそれ以上或いはそれ以下の速度で、徐々に電圧を0Vにする波のことをいう。図10にはノコギリ波と三角波とを印加した時間(sec)(横軸)に対する並列抵抗の回復率(縦軸)で示した。なお、回復率1.0とは元の抵抗値に回復したものを示し、0.5とは元の抵抗値の半分の抵抗値に回復したものを示す。この図10からは、劣化回復スピードの点でノコギリ波よりも三角波は若干劣ることが認められた。

【0045】
この原因は明確ではないが、図4に示すようなメカニズムを前提とすると、電圧降下時(すなわち、印加電圧が0Vに戻るとき)には空乏層の幅が徐々に元に戻ることになるために、不純物の動きが抑えられ或いは全く移動しなくなり、処理時間の割に回復効率が悪くなることが考えられる。

【0046】
また、そもそも電圧降下時には回復効果が全くないことも考えられる。例えば三角波の30秒間とは最高電圧まで5回上昇させていることとなるが、これをノコギリ波で見ると15秒間で5回の電圧上昇となり、その際の回復率は共に1.0で同じである。電圧上昇回数が1回、2回、3回を比較すると、時間的には三角波が倍の処理時間をかけながら、ノコギリ波と回復率は略一致している。このことから、電圧の上昇回数が重要であり、最高電圧まで到達した後は、速やかに電圧印加を停止することが好ましいものと考えられる。

【0047】
図11には、ノコギリ波と、エクスポネンシャル波、部分的サイン波のそれぞれを印加した場合に、劣化の回復率を示している。強いて言えばノコギリ波が最も効率が良いが、各波形による差はそれほど大きくはないことが判る。このことも、電圧上昇の回数が重要であることを示唆している。

【0048】
図12には、ノコギリ波等のように最高電圧まで連続的に電圧を上げるのではなく、段階的に電圧を上げていく際の波形(ステップ波とも言う)の一例を示している。図に示すように、最高電圧まで3段階を経て電圧を印加する方法である。このときの電圧上昇は、1秒で-5Vとしているので、3秒間で-15Vまで上昇する点においては、ノコギリ波と同じであるが、ノコギリ波は図6に示す通り連続的に電圧を上昇させているのに対して、ステップ波は、所定の電圧を瞬時に印加してその状態を保持しつつ断続的に電圧を上昇させる点が異なる。

【0049】
図13にはノコギリ波とステップ波を使用した場合の、太陽電池パネルの劣化回復効率を示した。ノコギリ波と比較すると短時間での回復率が劣ることが判る。

【0050】
図11、13の結果からは、電圧の印加については最高電圧に達するまでは、連続的に電圧を上げることが重要で、段階的に上げるよりも回復効率が良く、特にパルス波のようにいきなり所定の電圧を印加することは、劣化回復には効果があるものの、処理時間の短縮には繋がらないと思われる。

【0051】
図14には、電圧の上昇速度をそれぞれ-1V/0.02sec(直線)、-1V/0.2sec(点線)、-1V/2sec(一点鎖線)としたときのノコギリ波の波形を示している。下側のグラフは、上側のグラフの15秒間を抜き出して、拡大した図である。

【0052】
図15に、ノコギリ波の電圧上昇速度に対する、並列抵抗の回復率を示している。いずれも回復率は1.0に達するが、最も早く回復するのは、電圧の上昇速度が-1V/0.2sec(=-5V/sec)のときであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明の太陽電池の劣化回復装置は、太陽電池パネルの電極に逆電圧を印加するだけで良いので、極めて簡単な装置・構成で複雑な手順も必要ない。従って、既設の太陽光発電システムにPID現象が生じた場合のメンテナンスに最適であり、設置された状態のままその処理が行えるので、市場導入が容易な技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ノコギリ波
2 n型半導体
3 p型半導体
4 空乏層
5 不純物
11 回復装置
12 太陽電池パネル
15 電極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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