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明細書 :摺動組成物、並びに、摺動部材及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6765707号 (P6765707)
公開番号 特開2017-200982 (P2017-200982A)
登録日 令和2年9月18日(2020.9.18)
発行日 令和2年10月7日(2020.10.7)
公開日 平成29年11月9日(2017.11.9)
発明の名称または考案の名称 摺動組成物、並びに、摺動部材及びその製造方法
国際特許分類 C08L  93/00        (2006.01)
C08L  27/18        (2006.01)
C08J   5/16        (2006.01)
F16C  33/20        (2006.01)
FI C08L 93/00
C08L 27/18
C08J 5/16 CEW
F16C 33/20 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2016-093303 (P2016-093303)
出願日 平成28年5月6日(2016.5.6)
審査請求日 平成31年4月25日(2019.4.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
発明者または考案者 【氏名】宮武 正明
【氏名】上滝 晃一
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 国際公開第00/068330(WO,A1)
特開平05-169899(JP,A)
調査した分野 C08L
C08K
C10M 109/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物、及び、
固体潤滑剤を含有し、
前記固体潤滑剤の材質が、フッ素樹脂、(変性)ポリオレフィン、シリコーン、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、酸化亜鉛、メタケイ酸カルシウム、有機繊維及び液晶ポリエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である
摺動組成物。
【請求項2】
前記固体潤滑剤が、ポリテトラフルオロエチレン粉末を含む、請求項1に記載の摺動組成物。
【請求項3】
前記固体潤滑剤の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、10~60質量%である、請求項1又は請求項2に記載の摺動組成物。
【請求項4】
前記固体潤滑剤の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、25~45質量%である、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の摺動組成物。
【請求項5】
前記ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールの総含有量が、摺動組成物の全質量に対し、10~90質量%である、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載の摺動組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の摺動組成物を硬化してなる硬化物を摺動面に少なくとも備えた摺動部材。
【請求項7】
前記摺動部材が、基材の摺動面の少なくとも一部に前記摺動組成物を硬化してなる層を有する、請求項6に記載の摺動部材。
【請求項8】
基材表面の少なくとも一部に請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の摺動組成物を塗布する塗布工程、及び、
塗布された前記摺動組成物を硬化させる硬化工程を含む
摺動部材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動組成物、並びに、摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材は、その表面に接触する他の部材をすべらせて動かすための部材であり、例えば、スリーブやベアリング等の軸受などに用いられ、撹拌機や加工機械等の種々の工業機械における重要な部材として知られている。
従来の摺動部材としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
特許文献1には、10~60重量%のフッ素樹脂、37~60重量%の天然黒鉛粉末、及び2~30重量%の炭素繊維から成るフッ素樹脂組成物を成形して得られるシール材中の空隙に、熱硬化性樹脂を含浸し硬化させることにより該空隙を封孔したシール材が記載されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2010-156398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、得られる硬化物の摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れる摺動組成物を提供することである。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れる摺動部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、以下の<1>、<6>又は<8>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>~<5>及び<7>とともに以下に記載する。
<1>ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物、及び、固体潤滑剤を含有する摺動組成物、
<2>前記固体潤滑剤が、ポリテトラフルオロエチレン粉末を含む、<1>に記載の摺動組成物、
<3>前記固体潤滑剤の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、10~60質量%である、<1>又は<2>に記載の摺動組成物、
<4>前記固体潤滑剤の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、25~45質量%である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の摺動組成物、
<5>前記ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールの総含有量が、摺動組成物の全質量に対し、10~90質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の摺動組成物、
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載の摺動組成物を硬化してなる硬化物を摺動面に少なくとも備えた摺動部材、
<7>前記摺動部材が、基材の摺動面の少なくとも一部に前記摺動組成物を硬化してなる層を有する、<6>に記載の摺動部材、
<8>基材表面の少なくとも一部に<1>~<5>のいずれか1つに記載の摺動組成物を塗布する塗布工程、及び、塗布された前記摺動組成物を硬化させる硬化工程を含む摺動部材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、得られる硬化物の摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れる摺動組成物を提供することができた。
また、本発明によれば、摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れる摺動部材及びその製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1~3、並びに、比較例1及び2の試験片を用いて、摩擦特性試験を摺動速度0.005m/sで行った際の摩擦係数の推移結果を示す図である。
【図2】実施例1~3、並びに、比較例1及び2の試験片を用いて、摩擦特性試験を摺動速度0.025m/sで行った際の摩擦係数の推移結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。

【0009】
(摺動組成物)
本発明の摺動組成物は、ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物、及び、固体潤滑剤を含有することを特徴とする。
漆は、一般に、漆の木から採取される樹液を基にした天然材料であり、ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含むものである。
漆は、漆器に代表されるように、古くから食器のコート材として用いられており、硬質の材料であることが知られている。
本発明者らが鋭意検討した結果、漆、及び、固体潤滑剤を含有する摺動組成物を硬化したものが、摩擦特性に優れ(摩擦係数が小さく)、耐摩耗性に優れ、また、耐薬品性に優れることを見出した。
本発明の摺動組成物は、様々な機械に用いられる摺動部材の摺動部分のコート材として、好適に用いることができる。
また、本発明の摺動組成物を硬化した硬化物は、漆の硬化物であるため、人体への影響を与える物質の溶出、及び、摩耗による硬化物の飛散が少なく、また、酸やアルカリ溶液に対する耐薬品性に優れるため、食品加工機械に使用する摺動部材に特に好適に用いることができる。

【0010】
<ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物>
本発明の摺動組成物は、ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する。
前述したように、漆には、ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が含まれ、本発明の摺動組成物は、漆を好適に含有することができる。
なお、本発明における「漆」は、未硬化の漆である。
本発明の摺動組成物は、前記ウルシオール、ラッコール、又は、チチオールだけでなく、漆に含まれる、水、及び、ラッカーゼ酵素を含んでいてもよく、また、樹液由来のゴム成分や糖タンパク等を含んでいてもよい。
漆中における水は、油中水滴型エマルションとして含まれており、本発明の摺動組成物中においても同様である。
また、漆としては、生漆であっても、精製漆であってもよい。
生漆としては、特に制限はなく、日本産生漆、中国産生漆、台湾産生漆、ベトナム産生漆、タイ産生漆、及び、ミャンマー産生漆等が挙げられる。
精製漆としては、例えば、混練処理(なやし)を行った精製漆、及び、加熱処理をして水分を低減した脱水精製漆(くろめ漆)が挙げられる。
また、脱水精製漆としては、そのまま使用する透漆であってもよいし、鉄粉又は水酸化鉄により黒く着色した後固形分を除いた黒漆であってもよい。
更に、前記透漆又は前記黒漆は、そのまま無油漆として用いてもよいし、アマニ油やエノ油等の乾性油を加えた有油漆として用いてもよい。
これらの中でも、本発明に用いる漆としては、ウルシオールを少なくとも含む漆が好ましい。

【0011】
ウルシオール、ラッコール、及び、チチオールよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物は、1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
本発明の摺動組成物におけるウルシオール、ラッコール、及び、チチオールの総含有量は、摺動組成物の全質量に対し、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、30~75質量%であることが特に好ましい。上記範囲であると、得られる硬化物の摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性により優れ、また、安全性に優れる。
本発明の摺動組成物における水の含有量は、摺動組成物の全質量に対し、30質量%以下であることが好ましく、0.1~30質量%であることがより好ましく、0.5~15質量%であることが特に好ましい。

【0012】
<固体潤滑剤>
本発明の摺動組成物は、固体潤滑剤を含有する。
固体潤滑剤としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、粉末状のものが挙げられる。
固体潤滑剤の材質の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂;(変性)ポリエチレン、(変性)ポリプロピレン等の(変性)ポリオレフィン;ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、アルコール変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシ変性ポリジメチルシロキサン、フッ素変性ポリジメチルシロキサン等のシリコーン;天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛;二硫化モリブデン、二硫化タングステン、酸化亜鉛、メタケイ酸カルシウム;液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維等の有機繊維;液晶ポリエステル等の高分子化合物などが例示できる。
中でも、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、又は、二硫化モリブデンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粉末が特に好ましい。

【0013】
固体潤滑剤の平均粒径としては、0.1~200μmであることが好ましく、0.5~100μmであることがより好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。上記範囲であると、得られる硬化物の摩擦特性及び耐摩耗性により優れる。
固体潤滑剤の平均粒径の測定方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定する方法、及び、摺動組成物を硬化した硬化物の断面を走査型電子顕微鏡により観察し測定する方法等が挙げられる。また、本発明において、平均粒径は、50個以上の測定値の平均値をとるものとする。

【0014】
固体潤滑剤は、1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
本発明の摺動組成物における固体潤滑剤の含有量は、摺動組成物の全質量に対し、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更に好ましく、25~45質量%であることが特に好ましい。上記範囲であると、得られる硬化物の摩擦特性、耐摩耗性及び耐薬品性により優れる。

【0015】
<界面活性剤>
本発明の摺動組成物は、組成物中での固体潤滑剤の凝集を抑制するため、界面活性剤を含有していてもよい。
界面活性剤としては、特に制限はなく、公知の界面活性剤を用いることができる。
界面活性剤として具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、親油型モノステアリン酸グリセリン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、ジステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びトリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が例示できる。

【0016】
界面活性剤は、1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
本発明の摺動組成物における界面活性剤の含有量は、摺動組成物の全質量に対し、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。上記範囲であると、得られる硬化物の摩擦特性及び耐摩耗性により優れ、また、摺動組成物の安定性に優れる。

【0017】
<他の成分>
本発明の摺動組成物は、前述した以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、特に制限はなく、公知の各種添加剤を用いることができる。
添加剤としては、例えば、前記界面活性剤以外の分散安定剤、硬化促進剤、着色剤、及び、塗布溶媒等が挙げられる。

【0018】
(摺動部材)
本発明の摺動部材は、本発明の摺動組成物を硬化してなる硬化物を摺動面に備えた摺動部材である。
本発明の摺動部材は、摺動部分に本発明の摺動組成物の硬化物を備えるため、人体への影響を与える物質の溶出、及び、摩耗による硬化物の飛散が少なく、また、酸やアルカリ溶液に対する耐薬品性に優れ、食品加工機械に使用する摺動部材に特に好適に用いることができる。
本発明の摺動部材は、基材の摺動面の少なくとも一部に本発明の摺動組成物を硬化してなる層を有していてもよい。
また、本発明の摺動部材は、全体が本発明の摺動組成物を硬化してなる硬化物である摺動部材であってもよいし、少なくとも摺動部分に本発明の摺動組成物を硬化してなる硬化物を有する摺動部材であってもよい。
本発明の摺動部材として、具体的には例えば、基材の摺動面に本発明の摺動組成物を層状に塗布し硬化させたもの、本発明の摺動組成物を摺動部材の形状に硬化させたもの、及び、織布又は不織布に本発明の摺動組成物を含浸させ所望の形状に成形した後硬化させたもの等が挙げられる。
本発明の摺動部材に用いる基材の形状は、特に制限はなく、使用する装置又は機械における所望の形状に応じ、任意の形状とすることができる。
本発明の摺動部材に用いる基材の材質としては、特に制限はなく、例えば、金属、樹脂、木材、織布、不織布、及び、これらの複合基材等が挙げられ、金属であることが好ましい。
また、本発明の摺動部材に用いる基材は、単一の材質の基材であっても、複数種の材質の基材を組み合わせたものであってもよい。

【0019】
更に、本発明の摺動部材に用いる基材において、本発明の摺動組成物を硬化してなる層との密着性を高めるため、前記層を形成する部分の表面を、粗面化処理してもよい。
粗面化処理としては、公知の処理方法を用いることができ、例えば、やすりやペーパーやすり等による機械的粗面化処理、薬品処理による化学的粗面化処理、及び、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。
また、前記基材に対して、焼き入れ処理等、公知の処理を行ってもよい。

【0020】
本発明の摺動部材における本発明の摺動組成物を硬化してなる層の厚さは、所望の形状や耐久性を考慮し、適宜設定することができるが、1~5,000μmであることが好ましく、2~2,000μmであることがより好ましく、5~1,500μmであることが特に好ましい。
本発明の摺動組成物を硬化してなる層を設ける基材表面は、平面であっても、曲面であってもよい。
また、本発明の摺動組成物を硬化してなる層を設ける基材が多面体である場合、本発明の摺動組成物を硬化してなる層を1つの面に有していても、2以上の面に有していてもよい。
更に、本発明の摺動部材における本発明の摺動組成物を硬化してなる層は、単層であってもよいし、2層以上の複層であってもよい。

【0021】
(摺動部材の製造方法)
本発明の摺動部材の製造方法は、本発明の摺動部材を製造可能であれば特に制限はない。
本発明の摺動組成物を硬化した層を有する摺動部材の製造方法である場合、基材表面の少なくとも一部に本発明の摺動組成物を塗布する塗布工程、及び、塗布された前記摺動組成物を硬化させる硬化工程を含むことが好ましい。

【0022】
<塗布工程>
本発明の摺動部材の製造方法は、基材表面の少なくとも一部に本発明の摺動組成物を塗布する塗布工程を含むことが好ましい。
本発明の摺動部材の製造方法に用いる基材としては、前述した基材が好ましく挙げられる。
本発明の摺動組成物を塗布する塗布方法としては、特に制限はなく、公知の塗布方法を用いることができる。また、本発明の摺動組成物は、漆と固体潤滑剤との組成比等により、液状であったり、ペースト状であったりするため、組成物の状態にあわせ塗布方法を適宜選択することが好ましい。
前記塗布工程における本発明の摺動組成物の塗布厚は、所望に応じて適宜設定することができるが、1~5,000μmであることが好ましく、2~2,000μmであることがより好ましく、5~1,500μmであることが特に好ましい。

【0023】
<硬化工程>
本発明の摺動部材の製造方法は、前記塗布工程において塗布された前記摺動組成物を硬化させる硬化工程を含むことが好ましい。硬化工程においては、前記摺動組成物におけるウルシオール、ラッコール及びチチオール等の重合性化合物が重合し、硬化する。
前記硬化工程における温度は、各成分の劣化抑制、及び、硬化性の観点から、280℃以下であることが好ましく、150℃~250℃であることがより好ましい。
前記硬化工程における前記温度での硬化時間は、摺動組成物の硬化が十分進行すれば特に制限はないが、硬化させる摺動組成物の組成や厚さ等にも依存し、1分~60時間が好ましい。
前記硬化工程に用いる加熱手段としては、特に制限はなく、公知の加熱手段を用いることができる。加熱手段としては例えば、高温乾燥炉が挙げられる。

【0024】
<他の工程>
本発明の摺動部材の製造方法は、前記塗布工程及び前記加熱工程以外に他の工程を含んでいてもよい。
他の工程としては、特に制限はなく、後述するような工程や、その他公知の工程を含むことができる。
他の工程として具体的には、例えば、前記塗布工程の前に基材の塗布面を洗浄する洗浄工程、前記塗布工程の前に基材の塗布面を粗面化する粗面化工程、前記加熱工程後、得られた摺動部材を洗浄する後洗浄工程、及び、前記加熱工程後、得られた摺動部材を所望の形状に加工する形状加工工程等が挙げられる。

【0025】
また、全体が本発明の摺動組成物を硬化してなる硬化物である摺動部材、又は、少なくとも摺動部分に本発明の摺動組成物を硬化してなる硬化物を有する摺動部材の製造方法である場合、本発明の摺動部材の製造方法は、本発明の摺動組成物を所望の形状とする工程、及び、所望の形状とした前記摺動組成物を硬化させる工程を含むか、又は、本発明の摺動組成物を硬化させる工程、及び、硬化した前記摺動組成物を所望の形状に加工する工程を含むことが好ましい。
前記硬化させる工程しては、前述した硬化工程と硬化温度及び硬化時間の好ましい態様は同様である。
また、これら摺動部材の製造方法は、前記他の工程を更に含んでいてもよい。

【0026】
更に、本発明の摺動部材の製造方法としては、織布若しくは不織布又は所望の形状に成形した織布若しくは不織布に本発明の摺動組成物を含浸させる工程、織布若しくは不織布又は前記摺動組成物を含浸させた織布若しくは不織布を所望の形状に成形する工程、及び、前記織布若しくは不織布に含浸又は付着している前記摺動組成物を硬化させる工程を含む方法が好ましく挙げられる。
織布及び不織布としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【実施例】
【0028】
実施例及び比較例で使用した摺動組成物の各成分を以下に示す。
漆:日本国産生漆(ウルシオール約63質量%含有)
ポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE粉末、平均粒径4μm、最大粒径14μm、(株)サンプラテック製)
ポリテトラフルオロエチレン板材(亜木津工業(株)製)
【実施例】
【0029】
(実施例1~6、並びに、比較例1及び2)
<摺動組成物の調製>
PTFE粉末の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、10質量%となるように、漆(国産生漆)とPTFE粉末とを混合し、実施例1の摺動組成物を調製した。
また、PTFE粉末の含有量が、摺動組成物の全質量に対し、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、又は、60質量%とした以外は、実施例1の摺動組成物を調製と同様にして、実施例2~6の摺動組成物をそれぞれ調製した。
比較例1については、漆(国産生漆)100質量%のものを比較例1の摺動組成物とした。
【実施例】
【0030】
<試験片の調製>
15mm角の直方体の金属部材(ステンレス鋼(SUS420J2)、厚さ7mm程度)における15mm角の一面に、実施例1~6又は比較例1の摺動組成物をそれぞれ塗布厚50μmで塗布した。摺動組成物を塗布した各金属部材を、高温乾燥炉にて200℃で12時間加熱し、摺動組成物を硬化させ、実施例1~6又は比較例1の試験片(摺動部材)を作製した。
なお、比較例2の試験片は、ポリテトラフルオロエチレン板材を前記試験片と同じ大きさに切り出したものを使用した。
【実施例】
【0031】
<摩擦特性試験>
リングオンプレート摩擦試験機を使用し、試験条件は以下とした。
荷重w:50N
接触面積A:100mm
接触圧p=w/A:0.5MPa
摺動速度(回転速度)V:0.005m/s又は0.025m/s
総摺動距離:125m
総摺動時間:6.95時間又は1.39時間
試験片を、空気静圧軸受により指示されたエアシリンダに取り付け、相手材はステンレス鋼(SUS420J2、真空焼き入れしたもの)を使用した。
エアシリンダへの空気圧を調整することにより、試験片に任意の荷重を負荷し、相手材の軸回転時に試験片に加わる摩擦力は、トルクアームとロードセルにより測定した。
【実施例】
【0032】
実施例1~3、並びに、比較例1及び2の試験片を用いて、前記摩擦特性試験を摺動速度0.005m/sで行った際の摩擦係数の推移結果を図1に示す。
漆のみの比較例1の試験片では、摩擦係数は0.6程度であり、一方、実施例1、実施例2、実施例3の順で試験片の摩擦係数が減少し、実施例3の試験片では、摩擦係数が0.2弱であり、PTFE100質量%である比較例2の試験片の摩擦係数に近い値であった。
また、実施例4~6の試験片を用い、前記摩擦特性試験を摺動速度0.005m/sで行った結果、実施例4~6の試験片の摩擦係数は、いずれも約0.1であった。
【実施例】
【0033】
更に、実施例1~3、並びに、比較例1及び2の試験片を用いて、前記摩擦特性試験を摺動速度0.025m/sで行った際の摩擦係数の推移結果を図2に示す。
漆のみの比較例1の試験片では、摩擦係数は0.5程度であり、一方、実施例1、実施例2、実施例3の順で試験片の摩擦係数が減少し、実施例3の試験片では、摩擦係数が0.10~0.16であり、PTFE100質量%である比較例2の試験片の摩擦係数に近い値であった。
また、実施例4~6の試験片を用い、前記摩擦特性試験を摺動速度0.025m/sで行った結果、実施例4の試験片の摩擦係数は0.10前後であり、実施例5の試験片の摩擦係数は0.12前後であり、実施例6の試験片の摩擦係数は0.15前後であった。
【実施例】
【0034】
<耐摩耗性試験>
前記摩擦特性試験後の試験片表面を、(株)キーエンス製VR-3050三次元測定機及びVK-150レーザー顕微鏡により撮影した画像から、試験片における摩耗量を算出した。摩耗量の算出は、前記摩擦特性試験時に摺動された部分の面と、摺動されていない部分の面との高さの差を測定により求めた。
【実施例】
【0035】
比較例2の試験片の摩耗量は、前記摩擦特性試験を摺動速度0.025m/sで行った場合は23μmであり、前記摩擦特性試験を摺動速度0.005m/sで行った場合は13μmであった。
一方、実施例1~6、及び、比較例1の試験片の摩耗量は、摺動速度0.025m/s又は0.005m/sのいずれの場合であっても、1μm未満であった。
【実施例】
【0036】
前記摩擦特性試験及び耐摩耗性試験の結果より、実施例1~6の試験片(摺動部材)は、摩擦係数が小さく、かつ、耐摩耗性に優れており、摩擦特性及び耐摩耗性に優れるものであった。
【実施例】
【0037】
(実施例7~12、並びに、比較例3)
<耐薬品性試験片の調製>
実施例1~6の摺動組成物をそれぞれ用い、15mm角、厚さ0.5mmの試験片となるように、高温乾燥炉にて200℃で12時間加熱し、摺動組成物を硬化させ、実施例7~12の耐薬品性試験片をそれぞれ得た。
また、比較例3の耐薬品性試験片を、紙フェノール(フェノール樹脂を紙に含浸させ固めたもの)を15mm角に裁断して作製した。
実施例7~12、及び、比較例3の耐薬品性試験片をそれぞれ、キッチンハイター(花王(株)製、次亜塩素酸ナトリウム6質量%含有液体)に、室温(25℃)で48時間浸漬させた。
浸漬させた耐薬品性試験片をキッチンハイターより取り出し、目視により変色の有無を確認した。
実施例7~12の耐薬品性試験片については、いずれも変色が見られなかった。
一方、比較例3の耐薬品性試験片は、顕著な変色が見られ、また、試験片表面が脆化していることが確認された。
【実施例】
【0038】
前記摩擦特性試験及び耐摩耗性試験の結果より、実施例1~6の摺動組成物を硬化させた硬化物は、耐薬品性に優れるものであった。
図面
【図1】
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【図2】
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