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明細書 :ムーコル症を診断/検査するためのツール及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-084500 (P2018-084500A)
公開日 平成30年5月31日(2018.5.31)
発明の名称または考案の名称 ムーコル症を診断/検査するためのツール及び方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C07K  16/12        (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAD
C12Q 1/02
C07K 16/12
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2016-227864 (P2016-227864)
出願日 平成28年11月24日(2016.11.24)
発明者または考案者 【氏名】掛屋 弘
【氏名】金子 幸弘
【氏名】宮▲崎▼ 義継
【氏名】山越 智
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4H045
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS33
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045CA11
4H045DA75
4H045EA50
要約 【課題】ムーコル症マーカーを特定し、ムーコル症の迅速な診断/検査のためのツール及び方法を開発すること。
【解決手段】本発明は、対象者の生物学的サンプルにおいて、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質 を測定することを特徴とする、ムーコル症診断用データを取得する方法を提供する。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
対象者の生物学的サンプルにおいて、
(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は
(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質
を測定することを特徴とする、ムーコル症診断用データを取得する方法。
【請求項2】
生物学的サンプルが血液サンプルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質(i)~(iii)のいずれかの測定が抗体を用いて行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は
(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質
に結合する抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体を含むことを特徴とするムーコル症診断薬又はキット。
【請求項6】
検体が血液サンプルであることを特徴とする請求項5に記載の診断薬又はキット。
【請求項7】
支持体に不動態化された請求項1に記載の抗体と、標識された請求項1に記載の抗体とを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
ムーコル症検出における請求項4に記載の抗体の使用。
【請求項9】
請求項4に記載の抗体、請求項5に記載のムーコル症診断薬又はキットを製造するための、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその抗原性フラグメントの使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ムーコル症を診断/検査するためのツール及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深在性真菌症は真菌(カビ)による感染症で、宿主が免疫抑制状態にある場合にはしばしば宿主の生命を脅かす。中でも侵襲性ムーコル症は、侵襲性アスペルギルス症に次いで二番目に罹患率が高い日和見型の糸状真菌感染症であるが、幾つかの研究により、その発生率が免疫不全状態の患者(例えば、血液悪性疾患患者や、臓器移植を受けた患者など)で上昇していることが示されている。
日和見型深在性真菌症は、その原因真菌(リゾプス属菌、アスペルギルス属菌、カンジダ属菌、クリプトコックス属菌など)により治療方針が異なるため、その適切な治療には正確で早期の鑑別的診断が必要である。にもかかわらず、組織病理学的分析及び顕微鏡観察に基づく現在の診断/検査法では、ムーコル症と他の真菌症(特にアスペルギルス症)の正確で迅速な識別は困難である。
【0003】
また、日和見型深在性真菌症の患者は、免疫抑制状態にあり、多くの場合で全身状態が不良であるため、診断のための侵襲的検査(例えば、経気管支的及び外科的肺生検)は患者の負担が大きく、困難である。診断及び介入が遅れる結果として、ムーコル症の予後は、アスペルギルス症と比べて不良のままである。
したがって、好ましくは採取に際する侵襲性が小さい血清のようなサンプルにおいて、ムーコル症を正確で早期に診断/検出し、できる限り早く適切な治療を開始することが重要である。
その他の深在性真菌症であるアスペルギルス症及びクリプトコックス症には、それぞれアスペルギルス特異抗原(ガラクトマンナン)及びクリプトコックス特異抗原(グルクロノキシロマンナン)に基づく血清検査が利用可能であるが、ムーコル症には利用可能な標準化されたアッセイは現在のところ存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、本発明の目的は、ムーコル症のマーカーを特定し、ムーコル症の迅速な診断/検査のためのツール及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、レトロウイルスを用いるシグナルシークエンストラップ(SST-REX)法により、ムーコル症の原因菌であるリゾプス属菌に特異的な抗原(分泌型タンパク質)を特定した(図1及び2)。後述する実施例で示すように、このタンパク質はムーコル症のマーカーとして有用であることが確証された。
したがって、本発明は、対象者の生物学的サンプルにおいて、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質 を測定することを特徴とする、ムーコル症診断用データを取得する方法を提供する。
【0006】
本発明はまた、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質 に結合する抗体を提供する。
本発明はまた、上記抗体を含むことを特徴とするムーコル症診断薬又はキットを提供する。
本発明はまた、ムーコル症検出における上記抗体の使用を提供する。
本発明はまた、上記抗体、上記のムーコル症診断薬又はキットを製造するための、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質又はその抗原性フラグメントの使用を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ムーコル症の正確で迅速・簡便な診断/検査が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】SST-REX法により同定した、リゾプス属菌に特異的な分泌型タンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す。
【図2】SST-REX法により同定した、リゾプス属菌に特異的な分泌型タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【図3】侵襲性肺ムーコル症マウスモデルの実験計画を示す。
【図4】リゾプス オリゼ感染後のKaplan-Meier生存曲線を示す。
【図5】リゾプス属菌の培養上清におけるリゾプス属菌特異抗原の濃度推移を示す。
【図6】血清(A)及び肺(B)でのリゾプス属菌特異抗原の力価を示す。各プロットは3つの結果の平均を表し、バーは各プロットの平均を表す。* コントロールマウスからの有意差(P<0.05)。
【図7】血清(A)及び肺(B)でのリゾプス属菌特異抗原力価と肺重量との相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質がリゾプス属菌に特異的な分泌型タンパク質であり、当該タンパク質がムーコル症感染個体の生物学的サンプル(特に血液)中で検出されるという新たな知見に基づく。

【0010】
<ムーコル症検査方法>
本発明のムーコル症検査方法は、対象者の生物学的サンプルにおいて、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質(タンパク質(i)~(iii)を一纏めに「リゾプス属菌由来タンパク質」とも呼ぶ)を測定することを特徴とする。
本発明のムーコル症検査方法は、対象者の生物学的サンプルにおける、本発明に係るリゾプス属菌由来タンパク質の存否又は量を指標としてムーコル症を検査/検出する方法である。この方法はムーコル症診断用データを取得する方法でもある。

【0011】
本明細書において、「ムーコル症」とは、接合菌類(Zygomycetes)、特にはケカビ目(Mucorales)に属する菌、より具体的にはケカビ科(Mucoraceae)に属する菌、更により具体的にはリゾプス属菌(Rhizopus spp.;例えば、リゾプス オリゼ[Rhizopus orizae]及びリゾプス ミクロスポラス[Rhizopus microsporus]、特に前者)等により引き起こされる深在性真菌症である。

【0012】
「対象者」は、ヒトを含む動物であり、好ましくはヒトを含む哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。1つの特定の実施形態において、対象者は、日和見感染症、特に深在性真菌症(具体的には、ムーコル症)を疑われるものである。別の1つの特定の実施形態において、対象者はムーコル症患者である。更に別の1つの特定の実施形態において、対象者は免疫抑制状態にある者である。

本明細書において、「生物学的サンプル」は、例えば、血液(全血サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルを含む)、リンパ液、髄液、胸水、腹水、組織滲出液又は分泌液(例えば、気道分泌液、気管支分泌液、肺胞分泌液を含む)及び尿を含む体液;血管、気道、気管、気管支、肺、粘膜などの組織(そのホモジネート、溶解物若しくは抽出物を含む);組織洗浄液;細胞(その溶解産物及び抽出物を含む);細胞又は組織の培養物又は培養上清、などである。生物学的サンプルの好適な具体例としては、血漿、血清、喀痰、気管支肺胞洗浄液(BAL又はBALF)、気道又は気管擦過検体、副鼻腔吸引検体又は洗浄液(又は上顎洞穿刺液)を挙げ得る。

【0013】
対象者の生物学的サンプルは、測定の前に、希釈、濾過や遠心分離による夾雑物の除去などの前処理を行なってもよい。希釈には、例えば、上記のような緩衝液を用いることができる。
本発明のムーコル症検査方法に好ましい生物学的サンプルは、血液サンプル(特に、血清サンプル)である。

【0014】
本明細書において、「測定」とは、測定対象の検出又は定量(量の推定も含む)をいう。
タンパク質(i)~(iii)の測定は、各タンパク質のフラグメント(例えば、抗原性フラグメント又は酵素等での処理により生じる分解フラグメント群若しくは特異的フラグメント)の測定に基いてもよい。
測定は、イムノアッセイのような特異的相互作用(例えば特異的結合)に基づくアッセイ、電気泳動法、クロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せなど種々の方法により行うことができる。
特異的相互作用(例えば特異的結合)に基づくアッセイには、上記タンパク質(i)~(iii)又はそれらのフラグメントに特異的に相互作用する物質を用いる。そのような物質としては、例えば、抗体、アプタマーが挙げられる。

【0015】
測定は、好ましくは免疫測定法による。免疫測定法の具体例としては、酵素免疫測定法(EIA;特にELISA)、イムノクロマト法、ラテックス凝集(LA)法、蛍光免疫測定法、免疫比濁法、放射免疫測定法、免疫組織化学的染色が挙げられる。免疫測定法には、好ましくは、リゾプス属菌由来タンパク質に結合する抗体(下記で詳述する「本発明に係る抗体」)を用いる。免疫測定法においては、リゾプス属菌由来タンパク質又はその抗原性フラグメント(以下、「本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチド」ともいう)の測定は、抗原:抗体複合体又は抗体:抗原:抗体複合体の測定に基づく。本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドが不動態化していない(懸濁状態にある)サンプル(例えば、血液サンプルのような流体サンプル)を用いる場合、測定は、より好ましくはサンドイッチ法による。

【0016】
サンドイッチ法には、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドに結合する抗体として、支持体上に不動態化された本発明に係る抗体(捕捉抗体)及び不動態化されていない本発明に係る抗体(検出抗体)の2種類の抗体を用いる。検出抗体には、通常、上記のような標識が付されている。検出抗体に標識が付されていない場合には、追加的に、検出抗体に特異的に結合し、かつ標識が付されている物質(例えば二次抗体)を用いる。
サンドイッチ法においては、先ず、サンプルと、捕捉抗体が不動態化された支持体とを接触させ、次いで(例えば、洗浄後)、該支持体を検出抗体と接触させてもよいし、或いは、サンプルと検出抗体との混合液を、捕捉抗体が不動態化された支持体と接触させてもよい。後者の場合、混合は該支持体上(支持体内部を含む)で行なってもよいし、別の容器内で行なってもよい。

【0017】
免疫測定法において、サンプルと本発明に係る抗体との接触は、サンプルに当該抗体を添加することにより行なってもよいし、当該抗体が不動態化若しくは固相化された支持体にサンプルを添加するか若しくは展開させることにより行なってもよい。
接触は、本発明に係る抗体がサンプル中の標的(本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチド)と結合するに適切な条件下で、例えば、4~50℃の温度(通常4℃~40℃、好ましくは15℃~40℃、より好ましくは15℃~35℃、更に好ましくは20~30℃にて、数秒間~数十時間の間(通常数秒間~数時間、好ましくは十数秒間~数時間、より好ましくは数十秒間~数十分間、更に好ましくは数分間~十数分間)行う(インキュベーション)。
必要に応じて、更に、標識が付された二次抗体を接触させてもよい。この場合、接触は、二次抗体が本発明に係る抗体と結合するに適切な条件(例えば上記のような条件)下で行う。

【0018】
用いる標識に応じた方法により、標識に起因するシグナル(例えば、発光、発色/着色、蛍光、放射活性、磁気、電気伝導度)を測定する。例えば、標識が蛍光物質である場合、励起光を照射して生じる蛍光発光を測定する。また、例えば、酵素である場合、適切な基質を添加し、生成物による発光又は発色を測定する。また、例えば、標識が着色粒子である場合、(必要に応じて所定位置での)着色の有無を観察する。
シグナルの測定は、分光光度計、蛍光光度計、CCDカメラ、CMOSカメラ、フォトダイオード、光電子増倍管などから適宜選択したものを、必要に応じて光源及び/又はフィルターと共に使用して行うことができる。測定が検出である場合には、肉眼又は顕微鏡観察による発色/着色の有無又は位置の観察/確認によることもできる。

【0019】
本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドの測定の前、間又は後に、ブランク及び標準物質を用いて標準曲線又は検量線を作成してもよい。ここで、標準物質は、本発明の方法に用いる抗体(本発明に係る抗体)が結合し得るペプチド(本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチド)であり得る。

【0020】
閾値レベル(カットオフ値)は、統計学的に有意な数の、ムーコル症と確定診断された患者及び(ムーコル症に罹患していないことが明確な)健常人についての測定データに基づいて決定できる。
測定したシグナルのレベルがカットオフ値を上回る(又はカットオフ値以上である)場合、検査対象者はムーコル症に罹患しているか又はその可能性が高いと判断でき、シグナルレベルがカットオフ値以下である(又はカットオフ値を下回る)場合、検査対象者はムーコル症に罹患していないか又は罹患している可能性が低いと判断できる。
或いは、呈色が観察された場合、検査対象者はムーコル症に罹患しているか又はその可能性が高いと判断でき、呈色が見られない場合、検査対象者はムーコル症に罹患していないか又は罹患の可能性が低いと判断できる。

【0021】
本発明のムーコル症検査方法において、患者への負荷が小さくて済み、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドの測定を免疫測定法により行う場合には、簡便かつ安価で、比較的迅速な検出が可能になる。このため、本発明の方法は、臨床検査用の設備・機器の充実した病院や検査機関のみならず、診療所や医院においても比較的容易に実施でき、ムーコル症の早期検出に繋がる。
本発明のムーコル症検査方法は、深在性真菌症についてのより精密な検査(例えば、真菌学的検査[臨床検体又はその培養検体の顕微鏡検査]や病理組織学的検査)を必要とする患者を抽出するための(一次)スクリーニング方法として用いることもできる。
本発明のムーコル症検査方法はまた、ムーコル症治療を受けている対象者から2以上の時点で採取したサンプルについて実施し、得られた結果を比較することによって、当該治療の有効性の評価及び/又は当該治療の効果のモニタリングに使用することができる。

【0022】
測定は、抗体に代えてアプタマーを用いても同様に行うことができる。また、抗体とアプタマー(捕捉用又は検出用の何れとしても)とを組み合わせたサンドイッチ法として行なってもよい。アプタマーには、下記で抗体に関して記載するものと同様な標識が付されていてもよい。
アプタマーは、特定の標的を認識する一本鎖核酸(DNA、RNA又は核酸アナログ(例えばLNA))である。特定の標的に特異的に結合し得るアプタマーを作製する方法は、当該分野において公知である。簡潔には、ランダムな塩基配列(例えば30~150塩基)を有する核酸群を作製し、この中から対象の標的を特異的に認識するものを、例えばSELEX法などのスクリーニング法により選定する。
アプタマーを用いる測定は、上記で抗体を用いる測定に関して記載したものと同様の利点を有する。

【0023】
測定は、血漿プロテオミクス解析を利用しても行うことができる。
血漿プロテオミクス解析を利用した測定は、例えば以下のように行うことができる(具体的数値及び製品名は例示である)。
採取した血漿サンプル(500μL)をAgilent社製カラム(Multiple Affinity column Human)に通し、アルブミンやグロブリンなどの血漿中に多量に含まれる14種の蛋白質(albumin、IgG、antitrypsin、IgA、transferrin、haptoglobin、fibrinogen、alpha2-macroglobulin、alpha1-acid glycoprotein、IgM、apolipoprotein AI、apolipoprotein AII、complement C3及びtransthyretin)を除去する。
血漿中に多量に含まれる蛋白質を除去したサンプルに、25%アセトニトリルを含む100mM重炭酸アンモニウム溶液を加え37℃で60分間ゆるやかに攪拌して蛋白質を変性させる。次に、1μMのTris(2-carboxyethyl)phosphine(TECP)を添加して37℃で45分間緩やかに攪拌する。続いて、5μMヨードアセトミドを加えサンプルを遮光し室温で30分間放置して、蛋白質に含まれるシステイン残基を還元アルキル化する。

【0024】
アルキル化した蛋白質は、ブタトリプシン(Promega社製)を加え、37℃で16時間インキュベートすることによりすべての蛋白質をペプチドに分解する。
ブタトリプシン処理により生成したペプチドは、1.0% v/vトリフルオロ酢酸(TFA)にペプチド濃度が0.1mg/mLとなるように溶解し、Finigan LTQ linear ion trap LC-MS/MSシステム(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて分析する。
LC-MS/MSシステムにおけるペプチド分離は、Magic C18 capillary LC column(内径0.2mm,長さ50mm,粒子径3μm,細孔径200Å)を接続したParadigm MS4 LC装置(Michrom BioResources 社製)により行う。溶離液は、ギ酸:アセトニトリル:精製水=0.1:2:98の溶離液Aと、0.1:90:10の溶離液Bを用いる。カラムに吸着したペプチドは、流速は1μLで、溶離液Bの5%から40%の70分間の直線的濃度勾配後95%5分間溶離液を流すことにより溶出する。

【0025】
LCから連続して溶出したペプチド溶液はFortisTip Spray emitter(内径20μm, AMR社製)を用いたelectrospray ionization(ESI)装置(spray voltage 20kV,温度200℃)で気化し、MS/MS装置に導入する。
MS/MS解析は、気相のプロトン付加ペプチドを連続的に450-2000m/zレンジでスキャンし、2次MSの取得を行う。
ペプチドシグナルデータの取得は、Xcalibur Revison 1.4 SRI system controller(Thermo Fisher Scientific社製)で行う。シグナルデータからペプチド配列、およびペプチドから蛋白質の同定は、Mascot software(Version 2.1.04, Matrix Science 社製)で行う。
配列番号2の蛋白質配列から、サンプル中に下記の表に列挙したペプチドで450-2000m/zに相当するペプチドの検出の有無を調べる。検出されれば、ムーコル症に感染したと判断する。

【0026】
【表1】
JP2018084500A_000003t.gif

【0027】
なお、上記した例では、タンパク質のペプチド分解にトリプシンを用いたが、これに限らず、他のプロテアーゼ(例えば、キモトリプシン、ペプシン、ブロメライン、エラスターゼ、クロストリパイン、V8プロテアーゼ、サーモリシン、リシルエンドペプチダーゼ、アルギニンエンドペプチダーゼ、プロリルエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸-Nプロテアーゼなど)を使用することができる。
また、プロテアーゼに限らず、アミノ酸又はアミノ酸配列の部位に特異的に反応する化学反応を生じさせる試薬を用いることもできる。このような試薬としては、例えば、ブロモシアン、N-ブロモコハク酸イミド、BNPS-スカトール、ジメチルスルホキシド-HCl-HBr、ヨードシル安息香酸、N-クロロスクシンアミド、ヒドロキシルアミン、塩酸グアニジンなどが挙げられる。
トリプシン以外のプロテアーゼ又は試薬を用いた場合に生成されるペプチド配列は、配列番号2のアミノ酸配列から容易に決定できる。

【0028】
本明細書において、アミノ酸の置換、付加、挿入及び/又は欠失に関して「1若しくは複数個」とは、例えば1~25個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個のアミノ酸を意味する。

【0029】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、5×又は6×SSC(50%ホルムアミドを含んでもよい)中での少なくとも60℃(例えば63℃、65℃、68℃、70℃)でのハイブリダイゼーションをいう。このストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、0.1~1×SSC中での約40℃~60℃での洗浄処理を伴ってもよい。1×SSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムを含有する溶液を意味する。

【0030】
<リゾプス属菌由来ペプチドに対する抗体>
本発明の抗体は、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質に結合することを特徴とする。
本発明の抗体は、リゾプス属菌抗原の測定に有用であるため、サンプルにおけるリゾプス属菌の検出、ムーコル症診断/検査薬、ムーコル症診断/検査キット、ムーコル症診断/検査/検出方法に使用できる。

【0031】
本明細書において、「抗体」には、従来型の抗体(2本の重鎖及び2本の軽鎖からなる抗体)のみならず、その抗原結合部位を有するフラグメント(Fab、F(ab')2、Fab'、Fv、scFv、Fdを含む)、ダイアボディ、ナノボディ、単一ドメイン抗体を含む。抗体は、いずれのクラス(サブクラス)のものであってもよい。また、抗体は、モノクローナルであってもポリクローナルであってもよい。

【0032】
本発明の抗体は、当該分野において公知の方法を用いて作製することができる。
本発明のポリクローナル抗体は、例えば、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列1又は複数個のアミノ酸が置換、付加及び/又は欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質、又は(iv)前記タンパク質(i)、(ii)若しくは(iii)の抗原性フラグメント((i)~(iii)をまとめて「本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチド」或いは単に「リゾプス属菌由来ペプチド」又は「リゾプス属菌抗原」ともいう)を、単体で又は適切なキャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、ジフテリア毒素、破傷風毒素)との接合体で、必要に応じてアジュバント(例えば、完全若しくは不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム又はリン酸化アルミニウム(ミョウバン))と共に、1回又はそれ以上(皮下、静脈内、腹腔内などに)投与した動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ラクダ、ラマ、アルパカ、ニワトリ、ダチョウなど抗体産生に使用できる動物)の血液から、例えば免疫グロブリン画分として取得することができる。

【0033】
本発明のモノクローナル抗体も当該分野において公知の方法により作製することができる(例えば、Kohler and Milstein(Nature, 256:495-497, 1975;Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane編, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。簡潔には、上記のように本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドで免疫した動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター)のB細胞、脾臓細胞又は抗体産生細胞を、細胞融合法(例えばPEG法)により適切な骨髄腫細胞と融合して不死化細胞(ハイブリドーマ)を作製し、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質への結合能を有する抗体を産生するハイブリドーマを選択する(例えば、限界希釈法)。このハイブリドーマを、インビトロ又はインビボ(例えば、マウス腹腔内)で増殖させて産生抗体を取得することができる。

【0034】
上記のようにして得られた抗体は、タンパク質について用いられる通常の分離・精製技法を使用して均質にまで精製することができる。抗体の分離・精製には、例えば、(プロテインA、プロテインG、抗Ig抗体又は免疫原若しくはその抗原性フラグメントなどの適切な親和性物質を用いる)アフィニティークロマトグラフィーやハイドロキシ又はフルオロアパタイトクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーカラム、ゲル電気泳動、塩析、透析、限外濾過、及びこれらの組合せを用いることができる。

【0035】
本明細書において、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質の「抗原性フラグメント」は、当該タンパク質のアミノ酸配列からの少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも8アミノ酸、更により好ましくは少なくとも10アミノ酸からなるフラグメントであって、抗原決定基(エピトープ)を含むフラグメントである。

【0036】
抗原決定基は親水性領域である場合が多いので、アミノ酸配列から、例えば各アミノ酸残基の疎水性指標(例えば、Kyte, J. and Doolittle, RF., J Mol Biol., 157(1):105-32, 1982)又は親水性指標(例えば、Hopp, TP. and Woods, KR., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 78: 3824-3828, 1981)に基づいて予測することができる。抗原決定基は、Chou, PY. and Fasman, GD., Biochemistry, 13(2): 222-45, 1974や、Emini, EA., Hughes, JV., Perlow, DS. and Boger, J., J Virol., 55(3):836-9, 1985に記載されている方法などの当該分野において公知の方法によっても予測可能である。N末端領域及びC末端領域は好適な抗原性フラグメントとなり得る。
或いは、抗原性フラグメントはPEPSCAN法に従って容易に同定することができる。

【0037】
上記のとおり、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドは、単体で、又は適切なキャリアと接合させて、本発明の抗体を作製するための免疫原として用いることができる。また、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドは、本発明の抗体の選択及び/又は精製に(例えば、ELISAやアフィニティーカラムクロマトグラフィーにおいて)用いることもできる。
本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドは、当該分野において公知の技術により製造することが可能である。例えば、当該ペプチドは、固相合成法により化学的に合成してもよいし、遺伝子組換技術を用いて酵母や細菌のような生物において組換え発現させてもよい。

【0038】
本発明の抗体は、検出可能な標識が付されていてもよい。抗体の標識は、当該分野で公知であり、使用する検出手段に応じて適宜選択できる。検出可能な標識は、それ自体が検出可能であるか、又は、更なる物質と反応させてそれ自体検出可能な産物を生成することにより検出することができる。例えば、標識には、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発色物質、化学発光物質、電気化学的標識、着色物質などが使用できる。酵素としては、例えばペルオキシダーゼ(特にはHRP)、β-ガラクトシダーゼ、ホスファターゼ(特にはアルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ)、ルシフェラーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-グルコシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-ラクタマーゼなどが挙げられる。放射性同位体としては、例えば、3H、14C、32P、35S、125I、131Iが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセイン及びその誘導体(例えばFITC)、ローダミン及びその誘導体(例えばRITC)、Cy2、Cy3などが挙げられる。発色物質としては、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などが挙げられる。発光物質としては、ルミノール、ルシフェリンなどが挙げられる。電気化学的標識としてはルテニウム錯体などが挙げられる。着色物質としては、金コロイド粒子や銀コロイド粒子のような金属コロイド粒子、着色樹脂微粒子などが挙げられる。

【0039】
標識は、抗体に直接付されていてもよい。或いは、標識は、(ストレプト)アビジン-ビオチンのような結合対の一方のパートナー(例えば、(ストレプト)アビジン)に付着されていることにより、他方のパートナー(例えば、ビオチン)が付着した抗体と結合可能にされていてもよい。

【0040】
好ましくは、本発明の抗体は、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質に免疫学的に特異的に結合する。「免疫学的に特異的に結合する」とは、目的の物質と結合するが、それ以外の物質とはバックグランドレベル(好ましくは、バックグランドレベルの平均+標準偏差、より好ましくは平均+2×標準偏差)を超えて結合しないことをいう。バックグランドレベルは、ネガティブコントロールの値であり得る。

【0041】
<ムーコル症診断/検査薬>
本発明のムーコル症診断/検査薬は、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質に結合する抗体(「本発明に係る抗体」)を含んでなることを特徴とする。
本発明のムーコル症診断/検査薬は、ムーコル症診断/検査キット、ムーコル症診断/検査方法(特に好適には、血液サンプルを検体とするもの)に使用できる。
本発明のムーコル症診断/検査薬は、本発明に係る抗体を含んでなる、ムーコル症を診断/検査するための組成物と表現することもできる。

【0042】
本発明のムーコル症診断/検査薬において、本発明に係る抗体は、<リゾプス属菌由来ペプチドに対する抗体>の項に記載したような標識が付されていてもよいし、或いは、ビーズ(例えば磁性ビーズ)や粒子のような支持体に不動態化されていてもよい。
本明細書において、「不動態化」とは、免疫測定法で通常に用いられる洗浄工程により洗い流されない程度に固定されていることを意味する。

【0043】
本発明のムーコル症診断/検査薬には、緩衝剤、pH調整剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、防腐剤、界面活性剤、及び/又は消泡剤などが添加されていてもよい。
緩衝剤及び/又はpH調整剤としては、例えば、リン酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、ホウ酸、塩酸及びそれらの塩(例えば、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属)、トリス、HEPES、ヒスチジン及びグルタミン酸のようなアミノ酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
安定化剤としては、例えば、アルブミン;ゼラチン;ソルビトール、マンニトール、スクロース、キシリトール、トレハロース、デキストラン、グリセリンなどのような糖及び糖アルコール;ヒスチジン及びメチオニンのようなアミノ酸などが挙げられる。

【0044】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、上記のような糖及び糖アルコールなどが挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸塩、亜硫酸塩、α-トコフェロールなどが挙げられる。
防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、パラオキシ又はパラヒドロキシ安息香酸エステル、クロロブタノールなどが挙げられる。
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートのようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
媒体は、好ましくは、水性媒体(例えば、水、水及び水と混和性の有機溶媒の混合媒体)である。

【0045】
本発明のムーコル症診断/検査薬は、溶液形態若しくは懸濁液形態(例えば、ラテックス形態)で提供されてもよいし、凍結乾燥形態で提供されてもよい。溶液形態又は懸濁液形態で提供される場合、凍結状態で提供されてもよい。

【0046】
<ムーコル症診断/検査キット>
本発明のムーコル症診断/検査キットは、(i)配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、(ii)配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、付加、挿入及び/若しくは欠失されたアミノ酸配列からなるリゾプス属菌由来のタンパク質、又は(iii)配列番号1の塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするリゾプス属菌由来の核酸分子によりコードされるタンパク質に結合する抗体(「本発明に係る抗体」)を含んでなることを特徴とする。

【0047】
本発明のキットにおいて、本発明に係る抗体は、<リゾプス属菌由来ペプチドに対する抗体>の項に記載したような標識が付されていてもよい。
本発明に係る抗体が上記のように直接又は間接に標識されていない場合、本発明のキットは、本発明に係る抗体に結合する物質(例えば、抗体)を更に含むことができる。例えば、キット中の本発明に係る抗体がウサギIgGである場合、本発明に係る抗体に結合する物質は、例えば抗ウサギIgGマウス抗体であり得る。この場合、一般には、本発明に係る抗体(リゾプス属菌由来ペプチドに結合する抗体)は「一次抗体」と呼ばれ、一次抗体に結合する抗体は「二次抗体」と呼ばれる。当業者は、用いる一次抗体に応じて適切な二次抗体を選択することができる。

【0048】
本発明のキットは、好ましくは、本発明に係る抗体が不動態化された支持体を含んでなる。支持体の形態は、当該分野において公知のものから適宜選択でき、例えば、プレート(例えば、マイクロタイタープレート)、チューブ、キャピラリチューブ、ビーズ(例えば、磁性ビーズ)、粒子、濾紙、フィルター、膜、不織布、ディスク、スティック、ストリップ、スライドグラス、チップなどであり得る。
支持体の材料は、当該分野において公知のものをいずれも使用でき、例えば、ガラス、樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリプロピレン、ポリビニルブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、レーヨン)、セルロース及びその誘導体(例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース)などであり得る。特定の実施形態においては、支持体は吸水性材料からなる。

【0049】
支持体への抗体の不動態化は、物理的吸着、共有結合又は非共有結合(イオン結合、静電結合、疎水性相互作用など)のいずれであってもよい。
抗体は、支持体に直接結合/吸着していてもよいし、マレイミド化合物のようなリンカー物質を介して間接的に結合/吸着していてもよい。

【0050】
支持体は非特異的吸着を防止するためにブロッキング処理されていることが好ましい。ブロッキング剤は、当該分野において公知のものをいずれも使用できるが、例えば血清アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA))、脱脂粉乳、カゼインなどであり得る。
抗体が不動態化され、ブロッキング処理された支持体の表面は、水溶性高分子(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースのようなセルロースエステル)又は非還元多糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラフィノース)などでコーティングされていてもよい。このようなコーディングにより、支持体上の抗体を含む固相は非常に安定化し、長期間の保存に適する。

【0051】
本発明のキットは、支持体上に不動態化された抗体に加えて、又は、代わりに、不動態化されていない抗体を含んでなってもよい。
不動態化されていない抗体は、溶液形態で提供されてもよいし、凍結乾燥形態で提供されてもよい。
或いは、不動態化されていない抗体は、支持体上において、単独で又は水溶性高分子(例えばカゼイン、デキストラン、ポリエチレングリコールなど)と共に固相(水溶性層)を形成していてもよい。この場合、水溶性層に含まれる抗体は、該層が水性媒体に曝されると、その中に遊離/溶出し、水性媒体中を移動可能となるか、又は水性媒体と共に支持体上及び/又は支持体内部を移動可能となる。固相は、例えば、抗体及び任意に水溶性高分子を含む溶液を支持体に含浸させることにより形成することができる。

【0052】
本発明のキットは、必要に応じて、標識シグナル生成剤及び/又は反応停止液を更に含んでいてもよい。
標識シグナル生成剤は、標識に応じて公知のものから適宜選択できる。例えば、標識がペルオキシダーゼである場合には、TMB、DAB、o-フェニレンジアミン(OPD)、2,2-アジノ-ジ-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)などであり得、アルカリホスファターゼである場合には、p-ニトロフェニルリン酸(pNPP)、4-メチルウンベリフェリルリン酸(4-MUP)などであり得る。
反応停止液は、例えば、硫酸又は水酸化ナトリウムであり得る。

【0053】
本発明のキットは、洗浄用の溶液を備えていてもよい。代替的又は追加的に、サンプル希釈用及び/又はサンプル展開用の溶液を備えていてもよい。更に、キットに含まれる抗体の少なくとも1つが凍結乾燥形態で提供される場合には、再構成用の液体を備えていてもよい。
これら溶液は、好ましくは生理食塩水、より好ましくは緩衝化生理食塩水である。
緩衝液は、当該分野において公知のものから適宜選択するが、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液などである。緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(例えば、Tween 20、Triton X-100)及び/又は防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム)を含んでいてもよい。緩衝液の具体例としては、PBS、PBS-T、TBS又はTBS-Tが挙げられる。
本発明のキットはまた、インキュベーションの間に支持体をシールするシーリング材(例えば、支持体がプレートである場合、プレートカバー又はプレートシール)を含んでいてもよい。

【0054】
本発明のキットを用いる対象の検体は、いずれの生物学的サンプルであってもよい。
生物学的サンプルは、測定の前に、希釈、濾過や遠心分離による夾雑物の除去などの前処理を行なってもよい。
本明細書において、単に「サンプル」という場合、文脈からそうでないことが明らかでない限り、「生物学的サンプル」を意味する。
本発明のキットを用いる対象の検体は、好ましくは血液サンプル(特に、血清サンプル)である。

【0055】
本発明のキットは、例えばポジティブコントロール用及び/又は標準曲線若しくは検量線作成用に、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチド(当該キットに含まれる本発明に係る抗体が結合し得るもの)を含んでいてもよい。本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドは、溶液形態で提供されてもよいし、凍結乾燥形態で提供されてもよい。

【0056】
好ましくは、本発明のキットは、支持体に不動態化された本発明に係る抗体(「捕捉抗体」として;第1の抗体)と、支持体に不動態化されていない本発明に係る抗体(第2の抗体)とを含む(ここで、「第1の抗体」及び「第2の抗体」との呼称は、2種類の抗体を区別するための便宜的呼称にすぎず、添加や結合の順序を反映するものでないことに留意すべきである。下記の「第3の抗体」についても同様である)。第2の抗体は、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドにおいて、第1の抗体が結合していない部位を認識できることが好ましい。
第2の抗体は、上記のように直接又は間接に標識されていることがより好ましい。
第1の抗体と第2の抗体は、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドの異なる部位(例えば、N末端領域の部位とC末端領域の部位)を認識するように選択してもよい。

【0057】
本発明のキットが、第1の抗体と第2の抗体とを含んでなる場合、第1の抗体が不動態化された支持体は第2の抗体が固相化された支持体と同一であってもよいし、異なっていてもよい。第1の抗体が不動態化された支持体又は領域と第2の抗体が固相化された支持体又は領域との間は、抗体を含む流体が移動可能なように連通していることが好ましい。

【0058】
本発明のキットは、第2の抗体に結合する物質であって、上記のような標識が付されているか、又は支持体に不動態化されている物質を更に含むことができる。第2の抗体に結合する物質は、第2の抗体を介して本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドを測定するためのものであるか、又は、本発明に係るリゾプス属菌由来ペプチドに結合しなかった第2の抗体を回収するためのものであり得る。第2の抗体に結合する物質は好ましくは抗体(「第3の抗体」)であり得、第2の抗体がラットIgGである場合、第3の抗体は例えば抗ラットIgGヤギ抗体であり得る。
本発明のキットは、ムーコル症治療の有効性を評価するため、及び/又はムーコル症治療の効果をモニターするために使用することもできる。

【0059】
更に、本発明のキットは、アスペルギルス フミガーツス(Aspergillus fumigatus)の特異抗原(例えば、ガラクトマンナン[GM]抗原やYMAF1タンパク質[特許第5925783号参照])に結合する抗体及び/又はクリプトコックス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)の特異抗原(例えば、グルクロノキシロマンナン[GXM]抗原)に結合する抗体及び/又はカンジダ アルビカンス(Candida albicans)の特異抗原(例えば、マンナン抗原)に結合する抗体を含んでいてもよい。
これら更なる抗体は、捕捉抗体として、本発明に係る抗体が不動態化された支持体と同じ支持体に(好ましくは異なる位置で)不動態化されていてもよいし(すなわち、キットは1つの支持体を含んでなる)、別個の支持体に不動態化されていてもよい(すなわち、キットは2つ、3つ、4つ又はそれより多い支持体を含んでなる)。
これら更なる抗体は、検出抗体として、本発明に係る抗体に付されるものと異なる標識が付されていてもよいし(例えば、同じ支持体に不動態化されている場合)、同じ標識が付されていてもよい(例えば、異なる支持体に不動態化されている場合)。
【実施例】
【0060】
1.材料及び方法
微生物
リゾプス オリゼTIMM 1327株(帝京大学医真菌研究センター由来株)をポテト-デキストロース-寒天(PDA)プレートで2週間30℃にて培養した。感染当日に、PDAプレートから分生子を無菌状態で取り出し、0.05% Tween 80を補充した無菌生理食塩水中に懸濁し、70μmナイロンセルストレイナー(BD Falcon, Heidelberg, Germany)に通して菌糸断片を除去した。分生子を血球計でカウントして、感染用の最終種菌を調製した。
【実施例】
【0061】
SST-REX法によるリゾプス属菌特異タンパク質抗原のクローニング
リゾプス オリゼのcDNAライブラリをSST-REX法(Kojima T. and Kitamura T., A signal sequence trap based on a constitutively active cytokine receptor. Nature Biotechnology 1999; 17(5): 487-490)によりスクリーニングした。
簡潔には、YPD培地(0.5%酵母抽出物、1%ペプトン、2%グルコース)で一晩培養したリゾプス オリゼ細胞のトータルRNAからcDNAを合成した。cDNAをサイズ分離し、600bpより大きなフラグメントをpMX-SSTベクターのBstXI部位に、BstXIアダプター(Invitrogen, 米国)を用いて挿入した。得られたpMX-SSTベクターを用いて、リゾプス オリゼのcDNAライブラリを発現する高力価レトロウイルスを作製し、これをBa/F3細胞に感染させた。因子非依存性Ba/F3クローンから、組み込まれたcDNAフラグメント(シグナル配列を有するもの)をゲノムPCRにより単離した。全てのcDNAフラグメントを配列決定して解析した。シグナル配列は、SignalP 4.1 Server (http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)で予想した。その後、pME18Sベクター中に上記と同様にして挿入したリゾプス オリゼcDNAライブラリを、上記の配列分析に基いて作製した32P-標識cDNAフラグメントを用いてスクリーニングして、リゾプス オリゼのシグナル配列を有するタンパク質をコードする全長cDNAを単離した。
【実施例】
【0062】
動物
6週齢雌性ICRマウス(>20g)を日本エスエルシーから購入し、1週間順応させた。マウスには放射線照射済み飼料及び滅菌水を与えた。全ての実験手順は日本生理学会及び国立公衆衛生研究所の実験動物の取扱・使用に関するガイドラインに従って行った。研究プロトコルは、大阪市立大学の動物実験の取扱・使用に関する委員会の承認を受けた。実験プロトコルは、大阪市立大学の動物実験に関する倫理検討委員会の承認を受けた。
【実施例】
【0063】
免疫抑制
マウスに、真菌感染を基準日として-2日目及び0日目に酢酸コルチゾン(250mg/kg,和光純薬工業)を皮下に、-2日目、0日目及び2日目にシクロホスファミド(100mg/kg,シグマ アルドリッチ ジャパン)を腹腔内に注射した(図3)。細菌感染予防のため、-2日目からの実験期間中を通じて、テトラサイクリン塩酸塩(和光純薬工業)を飲用水に0.8mg/mLの濃度で加えた(de Campos Rasteiro VM, da Costa AC, Araujo CF, et al. Essential oil of Melaleuca alternifolia for the treatment of oral candidiasis induced in an immunosuppressed mouse model. BMC Complement Altern Med 2014; 14: 489)。
【実施例】
【0064】
感染
マウスを、(i)コントロール群(5匹、1ケージ)及び(ii)リゾプス オリゼ感染群(27匹、5ケージ;生存モニタリング用の10匹、2ケージを含む)の2群に分けた。
0日目に、イソフルランによる鎮静下、コントロール群には0.05% Tween 80含有滅菌生理食塩水(50μL)を、リゾプス オリゼ感染群には0.05% Tween 80含有滅菌生理食塩水(50μL)中のリゾプス オリゼTIMM 1327株分生子(107)を気管内に投与した(図3)。
【実施例】
【0065】
肺におけるリゾプス オリゼ量の測定及び抗原検出試験
菌量の測定及び抗原検出試験のため、マウスを4日目に安楽死させた。麻酔下に、血液サンプルを心臓から採取し、肺を摘出した。肺は、秤量後、滅菌正常生理食塩水(1mL)中でホモジナイズした。
菌量測定には、肺ホモジネートをPDAプレート上で室温にて24時間インキュベートし、出現するコロニーをカウントした。値はlog10 CFUで表した。なお、肺ホモジネートを滅菌正常生理食塩水で10倍~1,000,000倍希釈し、各希釈物(100μL)をPDAプレートに展開して得られた検出限界は、100コロニー形成単位(CFU)/mLであった。
抗原検出試験には、血液サンプル及び肺ホモジネートを1700×gで10分間遠心分離して得られる血清及びホモジネート上清を用いた。
【実施例】
【0066】
ELISA
SST-REX法により同定されたリゾプス オリゼ由来タンパク質(配列番号2)の異なるエピトープを認識する2種類のポリクローナル抗体を作製し、サンドイッチELISAにおいて一方を捕捉抗体として、他方を検出抗体として用いた。ポリクローナル抗体の作製は常法に従った。簡潔には、免疫原をアジュバントと共にウサギに複数回皮下注射し、最後の注射から数週間後に採取したウサギ血清から、免疫原に結合するポリクローナル抗体を含有する画分を精製した。
マイクロタイタープレート(Nunc MaxiSorp(登録商標), Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を、3μg/mLの捕捉抗体を含む0.05M炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(pH9.6)100μLと室温にて2時間インキュベートした。ウェルを5%Tween 20含有リン酸緩衝化生理食塩水(PBS-T)で3回洗浄し、未結合の抗体を除去した。ウェルに残存するタンパク質結合部位をブロッキング緩衝液(4%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.2Mスクロースを含むリン酸緩衝化生理食塩水)で4℃にて一晩ブロックし、3回洗浄した後に保存した。
【実施例】
【0067】
(1)リゾプス属菌の培養上清についてのアッセイ
リゾプス オリゼ(MF-1267株、MF1012株、MF1013株)、リゾプス ミクロスラス(MF-1435株)及びリゾプス ミクロスポラス バリアント リゾポディフォルミス(R. microsporus var. rhizopodiformis;MF-1266株)をサブロー-デキストロース-液体培地(SDB)で30℃にて培養し、培養開始の6時間後、24時間後及び48時間後に培養上清を採取した。
上記のとおり作製したマイクロタイタープレートにおいて、各培養上清をウェルに添加し、室温にて1時間インキュベートした。このとき、標準曲線作成用に、リゾプス オリゼ由来タンパク質(配列番号2)の系列希釈物(20%マウス血清含有接種緩衝液中1.25~20ng/mL)も各々3つのウェルに添加し、同様にインキュベートした。
ウェルの洗浄後、3μg/mLのビオチン接合検出抗体を含む接種緩衝液(100μL)を各ウェルに添加し、室温にて1時間インキュベートした。マイクロプレートを洗浄し、接種緩衝液に1:10,000希釈したストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ接合体(Pierce, Rockford, IL, USA)を添加し(100μL/ウェル)、室温にて30分間インキュベートした。再びプレートを洗浄し、100μLのSureBlue(登録商標) TMB 1-Component Microwell Peroxidase Substrate (KPL, Gaithersburg, MD, USA)を各ウェルに添加した。プレートを室温にて10分間インキュベートした後、HClを添加して反応を停止した。Multiskan-JX (Thermo Fisher Scientific, Yokohama, Japan)を用いて、吸光度を450nmで測定した。
吸光度に基づいて標準曲線から得られる抗原力価を培養時間に対してプロットする。
【実施例】
【0068】
(2)血清サンプル及び肺ホモジネート上清についてのアッセイ
上記のとおり作製したマイクロタイタープレートにおいて、接種緩衝液(0.1% BSA含有PBS)で5倍希釈した血清サンプル又は肺ホモジネート上清(100μL)を各々3つのウェルに添加し、室温にて1時間インキュベートした。このとき、標準曲線作成用に、リゾプス オリゼ由来タンパク質(配列番号2)の系列希釈物(20%マウス血清含有接種緩衝液中1.25~20ng/mL)も各々3つのウェルに添加し、同様にインキュベートした。
ウェルの洗浄後、3μg/mLのビオチン接合検出抗体を含む接種緩衝液(100μL)を各ウェルに添加し、室温にて1時間インキュベートした。マイクロプレートを洗浄し、接種緩衝液に1:10,000希釈したストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ接合体(Pierce, Rockford, IL, USA)を添加し(100μL/ウェル)、室温にて30分間インキュベートした。再びプレートを洗浄し、100μLのSureBlue(登録商標) TMB 1-Component Microwell Peroxidase Substrate (KPL, Gaithersburg, MD, USA)を各ウェルに添加した。プレートを室温にて10分間インキュベートした後、HClを添加して反応を停止した。Multiskan-JX (Thermo Fisher Scientific, Yokohama, Japan)を用いて、吸光度を450nmで測定した。
吸光度に基づいて標準曲線から得られる抗原力価を平均±標準偏差で表す。
【実施例】
【0069】
統計分析
統計値は、JMP software, version 10.0.0 for Windows (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いて算出した。統計学的有意性のレベルは5%とした。
生存曲線はKaplan-Meier法により作成した。2群間の比較にはWilcoxonの順位和検定を用いた。相関関係の評価には、Spearmanの順位相関係数を求めた。
【実施例】
【0070】
2.結果
SST-REX法によるリゾプス属菌由来の分泌型タンパク質の同定
SST-REX法により、シグナル配列を有する(したがって膜貫通型又は分泌型である)タンパク質をコードする遺伝子を同定した。この遺伝子は678ヌクレオチドからなり(図1)、該遺伝子がコードするタンパク質は、18残基のシグナル配列を有する225アミノ酸残基からなる(図2)。BLAST検索により、このタンパク質がリゾプス属菌種(Rhizopus spp.)間で良好に保存されている一方で、最も一般的な病原性真菌アスペルギルス属菌種(Aspergillus spp.)及びカンジダ属菌種(Candida spp.)には存在しないことが確証された。よって、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質は、リゾプス属菌種に特有のタンパク質であり、したがってリゾプス属菌感染症であるムーコル症のマーカーとして利用できる。
【実施例】
【0071】
リゾプス オリゼ分生子を気管内感染させたマウスの生存率
リゾプス オリゼ感染マウス(10匹)は、4日目から死亡し始め、モニタリング終了時の14日目には唯1匹が生存し、生存日数の中央値は5日であった(図4)。コントロール群のマウスはモニタリング期間を通じて死亡しなかった。
【実施例】
【0072】
肺におけるリゾプス オリゼの生存及び増殖
表1に、感染の4日目に安楽死させたマウスの肺重量及び肺ホモジネート培養物中の菌量を示す。
リゾプス オリゼ感染群の17匹のマウスのうち、16匹が4日目の安楽死まで生存した。16匹中13匹で、培養物にリゾプス オリゼコロニーを生じた。このうち、2匹では培養物中に他の細菌コロニーを生じたため、共感染が疑われた。菌糸が検出されなかったマウス(3匹)は分析から除外した。
コントロール群では培養物中でコロニーを検出できなかった。
リゾプス オリゼ感染群では、肺重量が有意に増加し、log10 CFUの平均が5.2(範囲2.51~5.49)であった(表1)。
【実施例】
【0073】
【表2】
JP2018084500A_000004t.gif
【実施例】
【0074】
リゾプス属菌の培養上清におけるリゾプス属菌特異抗原の濃度推移
リゾプス属菌リゾプス オリゼ、リゾプス ミクロスポルス及びリゾプス ミクロスポルス バリアント リゾポディフォルミスの培養上清において、抗原力価の経時的上昇が観察された(図5)。よって、上記で同定したタンパク質(配列番号2)は、リゾプス属菌種の分泌型タンパク質であることが実験的に確証され、血液サンプル(特に血清サンプル)におけるムーコル症のマーカーとして利用可能であることが確認された。
【実施例】
【0075】
血清及び肺ホモジネートにおけるリゾプス属菌特異抗原の濃度の評価
リゾプス オリゼ感染マウス血清の抗原力価は161.1±117.7ng/mL(範囲53.5~413.6ng/mL)であり、コントロールマウス血清の抗原力価(57.7±12.3ng/mL;範囲50.2~61.3ng/mL)より有意に高かった(P<0.05, 図6A)。
検出限界は約50 ng/mLであるので、コントロールマウスでの抗原力価は非特異的結合によるものと推測される。
感染マウスにおいて、血清中の抗原濃度は肺重量と正の相関関係を示す傾向がみられる(P = 0.085, r = 0.50, 図7A)。
【実施例】
【0076】
肺ホモジネートの抗原力価は、感染マウス群において307.0±64.4 ng/mL(95.1~426.7ng/mL)であり、コントロールマウス群(66.1±4.9 ng/mL;範囲62.5~76.9ng/mL)より有意に高かった(P<0.05, 図6B)。
感染マウスにおいて、肺組織中の抗原濃度は肺重量と有意な相関関係を示す(P<0.0001, r = 0.89;図7B)。
【実施例】
【0077】
上記の結果は、本発明において同定したタンパク質(配列番号2)がリゾプス属菌に特異的な抗原であり、したがって生物学的サンプル中のバイオマーカーとして利用できること、及び、血清中の該タンパク質の測定(特に、免疫学的測定)が、ムーコル症の診断/検査に有効であることを示している。
【実施例】
【0078】
上記の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的形態及び例のみに限定されるものではない。本明細書に記載された具体的な構成、手段及び方法は、本発明の要旨を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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