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Specification :(In Japanese)多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P6562395
Publication number P2017-009495A
Date of registration Aug 2, 2019
Date of issue Aug 21, 2019
Date of publication of application Jan 12, 2017
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法
IPC (International Patent Classification) G01N   3/00        (2006.01)
G01N   3/08        (2006.01)
G01N  33/20        (2019.01)
FI (File Index) G01N 3/00 Z
G01N 3/08
G01N 33/20
Number of claims or invention 7
Total pages 14
Application Number P2015-126830
Date of filing Jun 24, 2015
Date of request for substantive examination Apr 9, 2018
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】山本 隆栄
【氏名】佐久間 俊雄
【氏名】鈴木 章彦
Representative (In Japanese)【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100113918、【弁理士】、【氏名又は名称】亀松 宏
【識別番号】100187702、【弁理士】、【氏名又は名称】福地 律生
【識別番号】100126848、【弁理士】、【氏名又は名称】本田 昭雄
【識別番号】100140121、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 朝幸
Examiner (In Japanese)【審査官】多田 達也
Document or reference (In Japanese)特開2012-098064(JP,A)
特開2012-098104(JP,A)
特開2002-202233(JP,A)
米国特許出願公開第2007/0185694(US,A1)
Field of search G01N 3/00 - 3/62
G01N 33/00 -33/46
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
多結晶形状記憶合金の一様な応力を受ける微視材料要素を、変態応力・逆変態応力の異なる部分要素が直列に配列した直列モデルとみなすステップと、
前記多結晶形状記憶合金の変態終了応力と変態開始応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記応力差を等分して、得られた応力値を各部分要素の変態応力とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始応力と逆変態終了応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記応力差を等分して、得られた応力値を各部分要素の逆変態応力とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を増加する過程において、前記部分要素の応力変態ひずみの誘起を判定するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を増加する過程において、応力誘起変態の完了を判定するステップと、
前記部分要素の応力変態ひずみの誘起を判定するステップにおける判断に基づいて、前記部分要素の変態ひずみ量を算出するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を減少する過程において、前記部分要素の逆変態の有無を判定するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を減少する過程において、前記逆変態の完了を判定するステップと、
前記部分要素の逆変態の有無を判定するステップにおける判断に基づいて、前記部分要素の逆変態ひずみ量を算出するステップとを有することを特徴とする多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項2】
前記多結晶形状記憶合金に対する前記部分要素の体積率は、変態における加工硬化曲線の実測値に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項3】
前記部分要素への負荷応力が当該部分要素の変態応力に達する前後において、前記部分要素のひずみ量の変化率が同一或いは連続的に変化するように、前記部分要素のひずみ量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項4】
前記部分要素への負荷応力が当該部分要素の逆変態応力に達する前後において、前記部分要素のひずみ量の変化率が同一或いは連続的に変化するように、前記部分要素のひずみ量を算出することを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項5】
前記応力誘起変態の判定及び前記変態の判定は、前記部分要素に負荷される応力をミーゼスの相当応力とすることによって行うことを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項6】
前記部分要素のひずみ量のテンソル成分は、全ひずみ理論におけるヘンキーの式を用いて算出されることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
【請求項7】
前記多結晶形状記憶合金の変態終了温度と変態開始温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の変態温度とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始温度と逆変態終了温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の逆変態温度とするステップと、
温度誘起変態した部分要素が、温度誘起変態から応力誘起変態へ変化するか否かを判断するステップとを含み、
前記変態終了応力、変態開始応力、逆変態開始応力及び逆変態終了応力の温度依存性の実測値を参照して前記部分要素のひずみ量を算出し、
温度変動を伴う環境下における応力負荷された多結晶形状記憶合金の変態挙動を推定することを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項に記載の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多結晶形状記憶合金を利用する機器において、当該機器に設けられた多結晶形状記憶合金の変形挙動を推定するためには、多結晶形状記憶合金の相変態挙動を精密に推定する必要がある。
【0003】
多結晶形状記憶合金は、結晶方位の異なる単結晶合金の集合体であり、それぞれの結晶粒は24通りの変態方位を持っている。例えば、ある結晶のある変態方位において変態が生じたとすると、生じた変態ひずみによって、その変態方位の変態に抵抗するような内部応力が形成され、次の変態は別の結晶粒の別の方位において生じる。このようなメカニズムが次々と働き、変態過程における多結晶体中の内部応力を最小にする。
【0004】
このメカニズムによる変態ひずみ生成過程をアコモデーションと呼び、当該メカニズムをアコモデーション機構と呼ぶ。
【0005】
特許文献1には、アコモデーション機構に基づいて、多結晶形状記憶合金の相変態を伴う負荷応力と当該多結晶形状記憶合金のひずみの関係を計算する構造式モデルが開示されている。特許文献1に開示された前記構造式モデルによれば、応力誘起によるマルテンサイト変態開始のひずみとその変態終了のひずみ、及び除荷過程におけるマルテンサイト相からオーステナイト相に逆変態開始のひずみとその逆変態終了のひずみを明瞭にすることができる。
【0006】
また、特許文献2には、アコモデーション機構に基づいて、多結晶形状記憶合金に応力と温度が与えられた時の当該多結晶形状記憶合金の相変態挙動を計算する構造式モデルが開示されている。特許文献2に開示された前記構造式モデルによれば、与えられた応力及び温度履歴に関して多結晶形状記憶合金の変態ひずみを精度良く算出することができる。
【0007】
しかし、特許文献1、2に開示された構造式モデルは、いずれも、多結晶形状記憶合金を結晶方位の異なる結晶粒の並列結合により示し,各結晶粒をさらに部分要素に分割することを要件としている。そのため、特許文献1、2に開示された構造式モデルを用いて多結晶形状記憶合金の変態挙動を予測するには、多結晶形状記憶合金中の全ての結晶粒の方位およびそれぞれの結晶粒における変態面と変態方向(24通りの組合わせがある)における分解せん断応力の値を計算し、変態および逆変態発生の判定をすることが必要になる。このように、従来の構造式モデルを用いた相変態挙動の推定方法は、計算負荷が大きい。そのため、必要な精度を保ちながら計算負荷の少ない相変態挙動の推定技術が求められている。
【0008】
また、多結晶形状記憶合金を産業機器に応用するときには、温度と応力の組み合わせの下で多結晶形状記憶合金の変態ひずみを推定する必要がある。更に、応力は一般的には多軸応力となるので、前記変態ひずみの推定手法は多軸応力状態に適用可能なものでなくてはならない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特許第5521161号公報
【特許文献2】特許第5521162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み、温度と応力の変動する負荷の下での多結晶形状記憶合金の変態挙動を、材料のミクロ構造の挙動を解析することなく、直接的に現象論的に推定する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述したように、多結晶形状記憶合金の変態は、応力による変態(以下、「応力誘起変態」という。)と温度による変態(以下、「温度誘起変態」という。)がある。そこで、まず、変態ひずみと、応力誘起変態、温度誘起変態との関係について検討した。
【0012】
(1)温度誘起変態
オーステナイト状態にある形状記憶合金に対し、無応力の状態に保持し温度を下げていくと、ある温度(変態開始温度:Ms)からマルテンサイト変態が始まり、さらに温度を下げていくとある温度(変態終了温度:Mf)にて変態が完了し、前記形状記憶合金はマルテンサイト状態になる。逆にその状態から温度を上げていくとある温度(逆変態開始温度:As)から逆変態が始まり、さらに温度を上げていくとある温度(逆変態終了温度:Af)にて逆変態が終了し、前記形状記憶合金は元のオーステナイト状態に戻る。このような温度誘起変態においては、変態ひずみは発生しない。
【0013】
(2)応力誘起変態
一方、ある温度条件のもと、オーステナイト状態にある材料に応力を負荷していくとある応力値(変態開始応力:Sms)にて変態を開始し、さらに応力を増加するとある応力値(変態終了応力:Smf)で変態が完了し、材料はマルテンサイト状態になる。その状態にある材料に対し応力を減少してゆくとある応力値(逆変態開始応力:Sas)にて逆変態が開始しさらに応力を減少していくとある応力値(逆変態終了応力:Saf)にて逆変態が完了し、材料は元のオーステナイト状態に戻る。応力の作用下で生じる変態は応力の作用する方向に生じ、それにより変態ひずみが生じ、逆変態によりこのひずみはリセットされる。従って、このような応力誘起変態による変態ひずみの量を知るためには、材料のどのくらいの割合がマルテンサイト状態にあるかを知ることが必要となる。
【0014】
また、温度誘起変態によりマルテンサイト状態にある材料が応力の作用により変態方向の再分布が生じた時には、材料は温度誘起変態状態から応力誘起変態状態に変化し、それにより変態ひずみが発生する。
【0015】
応力誘起変態及び温度誘起変態に関する検討から分かるように、温度と応力の組み合わせの下での変態ひずみを推定するためには、変態・逆変態の開始及び終了の温度条件および応力条件を与える必要がある。
【0016】
本発明者らは、実験等の手法により、解析に必要な温度領域において変態・逆変態の温度および応力の限界値を求め、これをデータとして用いることにより,温度および応力変動下の変態ひずみを推定できることを見出した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0018】
本発明の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法は、一様な応力を受ける微視材料要素を、変態応力・逆変態応力の異なる部分要素が直列に配列した直列モデルとみなすステップと、
前記多結晶形状記憶合金の変態終了応力と変態開始応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記応力差を等分して、得られた応力値を各部分要素の変態応力とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始応力と逆変態終了応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記応力差を等分して、得られた応力値を各部分要素の逆変態応力とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を増加する過程において、前記部分要素の応力変態ひずみの誘起を判定するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を増加する過程において、応力誘起変態の完了を判定するステップと、
前記部分要素の応力変態ひずみの誘起を判定するステップにおける判断に基づいて、前記部分要素の変態ひずみ量を算出するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を減少する過程において、前記部分要素の逆変態の有無を判定するステップと、
前記多結晶形状記憶合金への負荷応力を減少する過程において、前記逆変態の完了を判定するステップと、
前記部分要素の逆変態の有無を判定するステップにおける判断に基づいて、前記部分要素の逆変態ひずみ量を算出するステップとを有することを特徴とする。
【0019】
前記多結晶形状記憶合金に対する前記部分要素の体積率は、変態における加工硬化曲線の実測値に基づいて決定される。
【0020】
また、前記部分要素への負荷応力が当該部分要素の変態応力に達する前後において、前記部分要素のひずみ量の変化率が、同一或いは連続的に変化するように、前記部分要素のひずみ量を算出しても良い。
【0021】
また、前記部分要素への負荷応力が当該部分要素の逆変態応力に達する前後において、前記部分要素のひずみ量の変化率が、同一或いは連続的に変化するように、前記部分要素のひずみ量を算出しても良い。
【0022】
また、前記応力誘起変態の判定及び前記変態の判定は、前記部分要素に負荷される応力をミーゼスの相当応力とすることによって行っても良い。
【0023】
また、前記部分要素のひずみ量のテンソル成分は、全ひずみ理論におけるヘンキー(Henkcy)の式を用いて算出しても良い。
【0024】
また、本発明の多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定方法の他の例では、
前記多結晶形状記憶合金の変態終了温度と変態開始温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の変態温度とするステップと、
前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始温度と逆変態終了温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の逆変態温度とするステップと、
温度誘起変態した部分要素が、温度誘起変態から応力誘起変態へ変化するか否かを判断するステップとを含み、
前記変態終了応力、変態開始応力、逆変態開始応力及び逆変態終了応力の温度依存性の実測値を参照して前記部分要素のひずみ量を算出し、
温度変動を伴う環境下における応力負荷された多結晶形状記憶合金の変態挙動を推定しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、材料内部の微視的な挙動を省略しているため、計算負荷が小さく、実用的に有用な多結晶形状記憶合金の相変態挙動推定手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】部分要素の直列モデルで表された構成式モデルを示す図である。
【図2】(A)は多結晶形状記憶合金の変態/逆変態挙動に対しオンーオフ挙動をする部分要素の応力・ひずみ挙動を示す図であり、(B)は部分的な変態および部分的な逆変態が可能な部分要素の応力ひずみ線図を示す図である。
【図3A】第1の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの前段部分である。
【図3B】第1の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの後段部分である。
【図4】第1の実施形態の相変態挙動推定手法を用いて、変態完了まで応力を多結晶形状記憶合金に負荷し、逆変態完了までの超弾性挙動を計算した例である。
【図5A】第2の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの前段部分である。
【図5B】第2の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの後段部分である。
【図6】第2の実施形態の相変態挙動推定手法を用いて、負荷途中で、変態完了以前に応力を除荷し、逆変態を起こさせ、逆変態完了以前に再負荷を行い、変態を生じさせる場合における多結晶形状記憶合金の超弾性挙動の計算例である。
【図7】第3の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの前段部分である。
【図8】第3の実施形態の相変態挙動推定手法を用いて、応力を負荷することにより温度誘起変態が応力誘起変態に変化し、変態ひずみが発生する多結晶形状記憶合金の超弾性挙動の計算例である。
【図9】多結晶形状記憶合金の変態温度と逆変態温度との関係、及び、変態応力及び逆変態応力の温度依存性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。

【0028】
(第1の実施形態)
材料の応力とひずみの関係を与える式を構成式という。この構成式を導くにあたって、応力が一様とみなせる微視要素を考える。応力一定のモデルでは材料内部の応力は負荷応力と同じであるが、ひずみに関しては、材料内部で部分的な変態による不均一なひずみが生じるので、材料の微視要素のひずみを内部の不均一なひずみの平均で与えられるものとする。このような材料挙動を表すモデルは図1に示すように材料微視要素をN個の部分要素に分割しその直列構造の応答により材料の応答を表すモデルとなる。このモデルは、部分要素が等しい応力を持つことより等応力モデルあるいは部分要素の直列構造により材料挙動を表すことから直列モデルと呼ばれる。

【0029】
また、前記多結晶形状記憶合金に対する前記部分要素の体積率は、変態における加工硬化曲線の実測値に基づいて決定される。

【0030】
それぞれの部分要素の変態応力は材料の変態開始応力の値と変態終了応力の値の間をN等分してその値をそれぞれの部分要素の変態応力とする。それぞれ部分要素においては応
力が変態応力に達すると変態が生じ材料固有の変態ひずみε0 が生じる。このような取扱いをすることにより応力誘起変態の変態開始から変態終了までを記述することができ、部分要素の体積率を調整することにより、実験から求められた応力誘起変態における加工硬化曲線を近似することができる。逆変態においても同様に扱う。すなわち、逆変態開始応力と逆変態終了応力の間をN等分しその応力の値をそれぞれの部分要素の逆変態応力の値とする。また、温度誘起変態・逆変態についても同様に、変態開始温度と変態終了温度の間をN等分しその温度をそれぞれの部分要素の変態温度、逆変態開始温度と逆変態終了温度の間をN等分しその温度をそれぞれの部分要素の逆変態温度とする。図1 に示される直列モデルの部分要素の応力・ひずみ挙動は、変態と逆変態に関し図2(A)に示すようなオンーオフ挙動をすることになる。

【0031】
図3A及び図3Bは、第1の実施形態の相変態挙動推定方法をアルゴリズムとして示すフローチャートである。このフローチャートについて詳細に説明する。

【0032】
まず、相変態の挙動が推定される対象となる多結晶形状記憶合金を、応力が一様とみなせる微視要素を考え、微視要素を、図1に示されるように、等しい応力を有する部分要素が直列に配列した直列モデルに置き換える(S101)。

【0033】
また、前記多結晶形状記憶合金の変態終了応力と変態開始応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数Nで前記応力差を等分して、前記直列モデルを構成する各部分要素の変態応力とする(S102)。更に、前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始応力と逆変態終了応力との応力差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数で前記応力差を等分して、前記直列モデルを構成する各部分要素の逆変態応力とする(S103)。尚、図3Aでは、ステップS101、S102がステップS103の前に行われているが、ステップS102及びS103は、多結晶形状記憶合金に応力が加えられる前に実行されていれば、順序は問われない。

【0034】
変態応力及び逆変態応力が部分要素毎に設定された後、前記多結晶形状記憶合金に応力を徐々に加える(S104)。応力を増加してゆく過程において、部分要素に加わる応力が、当該部分要素の変態応力以上に達した時に当該部分要素の変態ひずみが誘起されたと判定する(S105)。

【0035】
前記部分要素に加わる応力が当該部分要素の変態応力に達しない場合、当該部分要素では応力の増加に伴い弾性変形が進行すると判断して、弾性ひずみ量を計算する(S106)。前記部分要素に加わる応力が当該部分要素の変態応力に達する場合、当該部分要素が応力誘起変態したと判断して当該部分要素の変態ひずみ量を計算し(S107)、前記多結晶形状記憶合金の応力誘起変態が完了するか否かを判定する(S108)。前記多結晶形状記憶合金全体の応力誘起変態が完了しなければ、他の部分要素が応力誘起変態していないと判断して、当該他の部分要素について、ステップS104~S108の工程が繰り返される。

【0036】
前記多結晶形状記憶合金全体の応力誘起変態が完了したと判断され、前記多結晶形状記憶合金に負荷される応力が増加するか否かが判断される(S110)。前記多結晶形状記憶合金に負荷される応力が増加すると判断される場合、変態後の弾性変形が生じると判断され、変態後の弾性ひずみ量を計算し(S111)、所定の弾性ひずみ量に達するまで、ステップS110、S111及びS118の工程が繰り返される。

【0037】
一方、前記多結晶形状記憶合金全体の応力誘起変態が完了後に前記多結晶形状記憶合金に負荷される応力が増加しないと判断された場合、部分要素に加わる応力が、当該部分要素の逆変態応力以下に達するか否かが判断される(S112)。部分要素に加わる応力が逆変態応力にまで減少しない場合、当該部分要素は逆変態せずに逆変態前の弾性変形が生じると判断され、当該逆変態前の弾性ひずみ量を計算する(S113)。部分要素に加わる応力が逆変態応力以下に達したと判断される場合、当該部分要素が逆変態して当該部分要素の変態ひずみ量が回復したと判断され、回復したひずみ量に基づいて逆変態後のひずみ量を計算する(S114)。次いで、前記多結晶形状記憶合金全体の逆変態が完了するか否かを判定し(S115)、前記多結晶形状記憶合金全体の逆変態が完了しなければ、他の部分要素が逆変態していないと判断して、当該他の部分要素について、ステップS112~S115の工程が繰り返される。

【0038】
前記多結晶形状記憶合金全体の逆変態が完了したと判断される場合、逆変態後の弾性変形が生じると判断され、逆変態後の弾性ひずみ量を計算し(S116)、前記多結晶形状記憶合金に加えられる応力が所定の大きさに減少するまで、逆変態後の弾性ひずみ量が計算される(S116、S117)。

【0039】
図4は、第1の実施形態の相変態挙動推定方法を用いて計算した多結晶形状記憶合金の超弾性挙動の計算例を示す。変態完了まで応力を付加し、その後応力を減少させて逆変態完了まで計算したものである。オーステナイト状態(Af 点以上の温度領域)にある形状記憶合金に単軸引張り応力を負荷すると、応力の増加に伴いマルテンサイト変態が生じ、応力・ひずみ曲線の勾配が緩くなる。さらに変形が進みマルテンサイト変態が飽和するとマルテンサイトの弾性変形により、応力・ひずみ曲線が立ち上がる。次いで除荷過程においては、ある応力以下になるとオーステナイト逆変態が起こり、オーステナイト逆変態の飽和を経て、応力・ひずみの原点に復帰する。この一連の応力・ひずみ挙動が示されている。

【0040】
また、多軸応力状態での変態挙動を計算するため変態・逆変態の判定には相当応力を用いても良い。各部分要素における相当応力は、ミーゼスの相当応力を用いて算出しても良い。

【0041】
また、各部分要素の変態ひずみのテンソル成分は、ヘンキー(Henkcy)の式を用いて算出しても良い。本発明は、ミーゼスの相当応力を用いて変態・逆変態の判定を行い、ヘンキーの式を用いて変態ひずみの成分を計算することによって、多軸応力場の変態ひずみを推定することができる。また、変態の計算には全ひずみ理論を用いていることによって、増分法による場合に必要となる変形履歴の参照が不要であることも計算負荷を小さくしている。

【0042】
(第2の実施形態)
前項で示したモデルにより材料の超弾性挙動が記述できることが示されたが、そのモデルでは変態完了以前に除荷する場合、また、逆変態完了以前に再負荷する場合には、弾性除荷から逆変態開始の遷移領域および弾性再負荷から変態開始の遷移領域において、滑らかな応答が記述できない欠点がある。そこで、第2の実施形態は、部分要素の応力・ひずみ挙動を図2(B)に示すように部分的な変態および部分的な逆変態を許すように改良したことを特徴とする。

【0043】
図5A及び図5Bは、第2の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートである。図5A及び図5Bに示すアルゴリズムは、多結晶形状記憶合金全体の応力誘起変態が完了する前に前記多結晶形状記憶合金に負荷される応力が除荷されているか否かを判定するステップS201と、逆変態完了以前に前記多結晶形状記憶合金への再負荷が行われているか否かを判定するステップS202を有する点で、第1の実施形態のアルゴリズムと異なる。

【0044】
また、第2の実施形態のアルゴリズムは、多結晶形状記憶合金に負荷する応力を増加してゆく過程においてひずみ量を計算する工程(ステップS106、S107及びS111)が、各部分要素への負荷応力が当該各部分要素の変態応力に達する前後において、前記各部分要素のひずみ量の変化率が、同一或いは連続的に変化するように、前記各部分要素のひずみ量を算出することを特徴とする。

【0045】
また、第2の実施形態のアルゴリズムは、多結晶形状記憶合金に負荷する応力を減少させてゆく過程においてひずみ量を計算する工程(ステップS113、S114及びS116)が、前記各部分要素への負荷応力が当該部分要素の逆変態応力に達する前後において、前記各部分要素のひずみ量の変化率が、同一或いは連続的に変化するように、前記各部分要素のひずみ量を算出することを特徴とする。

【0046】
尚、図5Aにおいて、ステップS201はステップS107とS108の間で実行されるが、ステップS201の機能が損なわれない限り、ステップS201が実行される順序は限定されず、ステップS105及びS107の間で実行されても良い。

【0047】
また、図5Bにおいて、ステップS202は、ステップS114とS115の間で実行されるが、ステップS202の機能が損なわれない限り、ステップS202が実行される順序は限定されない。例えば、ステップS115からステップS112に戻る際、ステップS202を実行しても良い。

【0048】
このように、第2の実施形態は、第1の実施形態の機能に加え、前記多結晶形状記憶合金全体の応力誘起変態が完了する前に前記多結晶形状記憶合金に負荷される応力が除荷し、逆変態を起こさせ、逆変態完了以前に再負荷を行い、変態を生じさせる場合であっても、材料の超弾性挙動を推定できる機能を有する。

【0049】
図6は、第2の実施形態の相変態挙動推定方法による形状記憶合金の超弾性挙動の計算例であり、負荷途中で、変態完了以前に応力を除荷し、逆変態を起こさせ、逆変態完了以前に再負荷を行い、変態を生じさせる場合の応答を示したものである。図2(B)の部分変態および部分逆変態を許す部分要素を用いることにより、負荷途中で除荷する場合における弾性から逆変態への滑らかな遷移および除荷途中で再負荷する場合における弾性から変態への滑らかな遷移が表されている。

【0050】
このように、第2の実施形態の相変態挙動推定方法は、部分的な変態および逆変態を示す部分要素の直列モデルを用いることによって、第1の実施形態の欠点を取り除いていることが分かる。

【0051】
(第3の実施形態)
温度と応力の組み合わせの下での変態ひずみを推定するためには、変態・逆変態の開始及び終了の温度条件および応力条件を与える必要がある。特に応力条件は温度によって変化するので、実験等の手法により、解析に必要な温度領域においてこれをデータとして求めておく必要がある。実験およびその他の手法により求められた変態・逆変態の温度および応力の限界値の例を図9に示す。

【0052】
図9に示す変態応力・逆変態応力の温度依存性のデータを用いることにより、形状記憶効果を含む種々の温度・応力変動負荷に対する形状記憶合金の応答を計算することができる。

【0053】
本発明による部分的な変態および逆変態を示す部分要素の直列モデルと図9に示す変態応力・逆変態応力の温度依存性のデータを用いることにより多結晶形状記憶合金の相変態挙動を推定する手法により、形状記憶効果を含む種々の温度・応力変動負荷に対する形状記憶合金の応答を計算することができる。

【0054】
第3の実施形態は、第1或いは第2の実施形態を基本とするが、温度変動を伴う環境下における応力負荷された多結晶形状記憶合金の変態挙動を推定できる機能を更に備える点で、第1及び第2の実施形態に対して異なる。

【0055】
第3の実施形態のアルゴリズムは、ステップS301~S304を備えている点で、第1及び第2の実施形態に対して異なる。ステップS301では、前記多結晶形状記憶合金の変態終了温度と変態開始温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数Nで前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の変態温度とすることが行われる。

【0056】
また、ステップS302では、前記多結晶形状記憶合金の逆変態開始温度と逆変態終了温度との温度差を算出し、前記直列モデルを構成する部分要素の数Nで前記温度差を等分して、等分された温度差を部分要素の逆変態温度とすることが行われる。ステップS301及びS302が実行される順序は特に限定されず、例えば、多結晶形状記憶合金に応力を徐々に加える工程(図1のステップS104)が実行される前に行っても良い。

【0057】
また、ステップS303は、温度誘起変態した部分要素が、応力負荷によって温度誘起変態から応力誘起変態へ変化するか否かを判断する、また、ステップS304は、前記変態開始応力、変態終了応力の温度依存性の実測値を参照して前記部分要素のひずみ量を算出する。

【0058】
図7は、第3の実施形態をアルゴリズムとして示すフローチャートの前段部分である。第3の実施形態のアルゴリズムの後段は、図3Bに示されるフローチャート或いは図5Bに示されるフローチャートを用いて実施しても良い。いずれの場合も、温度変動を伴う環境下における多結晶形状記憶合金の変態挙動を推定するために、ステップS114及びS116は、逆変態開始応力及び逆変態終了応力の温度依存性の実測値を参照して前記部分要素のひずみ量を算出する機能を備える必要がある。

【0059】
尚、図7のフローチャートでは、ステップS303及びS304がステップS108の前に実行されるが、第3の実施形態は、図7に示される順序に限定されない。例えば、ステップS303及びS304をステップS201の前後で行ってもよい。

【0060】
図8は、形状記憶合金の形状記憶効果の計算例を示す図であり、ひずみと温度の関係を示している。無応力状態において温度を290Kから270Kまで下げる負荷条件において、温度283K(Ms)から温度誘起変態が始まり温度273.4K(Mf)で温度誘起変態が完了する。温度誘起変態によっては変態ひずみが発生しないのでこの負荷条件ではひずみゼロのままである。

【0061】
温度 270K に温度を一定に保ったまま単軸引張り負荷を与え変態を生じさせる。温度 270K の縦軸上のひずみ 0.078 は、弾性ひずみと変態ひずみの和である。これはは、応力を負荷することにより温度誘起変態が応力誘起変態に変化して変態ひずみが発生したことに起因する。この間、材料はマルテンサイト状態にあるので、弾性ひずみの計算はマルテンサイトの弾性定数を用いて行う。この状態から応力を除荷するとそれに伴い弾性ひずみがゼロとなるが、この温度においては、図9よりわかるように逆変態は生じないので変態ひずみはそのまま残りその値が0.069 となることが分かる。

【0062】
次にこの状態から応力をゼロに保ったまだ温度を上昇させていくと、温度287.9K(As)から逆変態が開始し変態ひずみが減少し始め温度297.3K(Af)に達すると逆変態が完了し変態ひずみは完全にゼロとなり変形前の状態に戻り形状記憶効果が表現される。応力ゼロの状態では図9からわかるように温度 As およびAfが応力誘起変態に対する逆変態開始および終了条件となり、Af以上の温度においては逆変態完了により応力誘起変態ひずみがリセットされるからである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、材料のミクロ構造の挙動を解析することを省略して温度と応力の変動する負荷の下での多結晶形状記憶合金の変態挙動を推定することができ、多軸応力状態に適用可能である。このように、本発明は、多結晶形状記憶合金を産業機器への応用において利用可能性が高いものである。
Drawing
(In Japanese)【図1】
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(In Japanese)【図2】
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(In Japanese)【図3A】
2
(In Japanese)【図3B】
3
(In Japanese)【図4】
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(In Japanese)【図5A】
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(In Japanese)【図5B】
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(In Japanese)【図6】
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(In Japanese)【図7】
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(In Japanese)【図8】
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(In Japanese)【図9】
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