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明細書 :新規アルツハイマー病治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6797408号 (P6797408)
登録日 令和2年11月20日(2020.11.20)
発行日 令和2年12月9日(2020.12.9)
発明の名称または考案の名称 新規アルツハイマー病治療薬
国際特許分類 A61K  31/353       (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/353
A61P 25/28
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 5
全頁数 43
出願番号 特願2016-557841 (P2016-557841)
出願日 平成27年11月6日(2015.11.6)
国際出願番号 PCT/JP2015/081417
国際公開番号 WO2016/072522
国際公開日 平成28年5月12日(2016.5.12)
優先権出願番号 2014226236
2015196282
優先日 平成26年11月6日(2014.11.6)
平成27年10月1日(2015.10.1)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成30年9月18日(2018.9.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
発明者または考案者 【氏名】岩田 修永
【氏名】城谷 圭朗
【氏名】浅井 将
【氏名】田中 隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
【識別番号】100137729、【弁理士】、【氏名又は名称】赤井 厚子
【識別番号】100151301、【弁理士】、【氏名又は名称】戸崎 富哉
審査官 【審査官】大島 彰公
参考文献・文献 国際公開第2006/116535(WO,A1)
特開2010-100540(JP,A)
特表2011-520814(JP,A)
Biosci Biotechnol Biochem,2013年,Vol.77, No.5,p.1100-1103
調査した分野 A61K 31/353
A61P 25/28
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
脂溶性ポリフェノール誘導体を有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療用薬剤であって、該ポリフェノール誘導体が、式(I):
【化1】
JP0006797408B2_000026t.gif


(式中、n1はA環に結合する水酸基の数を示し、2の整数であり;n2はG環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n3はB環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n4はC環に結合する水酸基の数を示し、0又は1である。)
で表される(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート誘導体又は(-)-エピカテキン-3-O-ガレート誘導体のA環に、それぞれ置換基を有していてもよい、鎖状炭化水素基、環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂溶性ビタミン残基及びステロール残基からなる群より選択される脂溶性基が導入された化合物であって、A環に結合する2つの水酸基とA環に導入された脂溶性基及び/又は脂溶性基上の置換基とが一緒になってそれぞれ環を形成し、A環、C環、B環及びG環は、水酸基及び脂溶性基以外にオキソ基を有していてもよい、薬剤。
【請求項2】
脂溶性基が置換基を有していてもよい鎖状炭化水素基である、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
脂溶性基がA環にC-C結合で直接導入されている、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
脂溶性基の導入にS-エステル結合又はO-エステル結合を使用しない、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項5】
ネプリライシン活性を増強し、且つαセクレターゼ活性を増強する、及び/又はβセクレターゼ活性を阻害する薬剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の治療薬とは作用機序を異にする新規なアルツハイマー病(AD)治療薬に関する。詳細には、本発明は、アミロイドβペプチド(Aβ)の分解システムを担うペプチダーゼであるネプリライシンの活性を増強する作用及び/又はアミロイドβペプチド産生阻害に貢献するαセクレターゼの活性を増強する作用に基づいたADの予防及び/又は治療用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ADは老年期認知症の主要因となる進行性の神経変性疾患であり、臨床症状が現れるまでには細胞外アミロイドβペプチドの蓄積→細胞内タウの凝集・蓄積→神経変性・神経細胞死という病理カスケードをたどる(アミロイド仮説)。それ故、ADはAβの蓄積から始まると考えられ、根本的治療のためにはAβの産生阻害、分解促進、凝集抑制、凝集沈着物の除去により脳内からAβを取り除く必要があり、このような抗Aβ薬の開発の為に世界規模で競って研究が進められている。
【0003】
ADの治療薬については、アリセプトなどのいくつかの薬剤が存在するものの、いずれも病状を緩和する効果を有するのみであり、根本的な治療薬にはなっていない。一方、Aβの代謝研究では従来産生系に関わるβ及びγセクレターゼの解析が進められたため、ADの創薬研究においてもこれらの酵素を標的とする阻害剤の開発が先行し、複数の薬剤について臨床試験が行われた。しかしながら、副作用の問題などで次々と開発が中止されているのが現状である。それ以外の作用点である凝集沈着物の除去(Aβワクチン療法)や凝集抑制薬についても、臨床試験まで進んだものの、いずれの場合も副作用のため開発中止を余儀なくされている。
【0004】
脳内Aβの分解システムについては、ネプリライシンと呼ばれるペプチダーゼが分解の責任酵素であることが報告されている(非特許文献1、2)。ネプリライシンは動物の種々の組織に存在する中性エンドペプチダーゼの一種であり、細胞外ドメインに触媒部位を有する膜結合型の酵素である。インビトロの実験では、エンケファリン、サブスタンスP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、エンドセリン等がネプリライシンの基質になり得ることが知られている。
【0005】
正常老化脳で観察されるAβ蓄積やADのアミロイド病態の進行と脳内のネプリライシンレベルの低下を関連づける結果が報告されている。正常マウスやADモデルマウスの大脳皮質や海馬で加齢と共に発現レベルが顕著に低下する。最近では、ヒトの場合にも同様な低下が起こることが明らかにされ、ネプリライシンレベルの低下と不溶性画分のAβ42レベルが逆相関することが報告されている。
【0006】
AD脳におけるネプリライシンレベルの低下についてもまた、独立した複数の研究グループで一致した結果が報告されている。ADの前段階の海馬および側頭葉で、ネプリライシンの発現量およびタンパク量が50%近く低下していることが知られている。アミロイド病理に抵抗性を示す小脳ではネプリライシンの発現量は海馬や側頭葉に比較して高く、ネプリライシンの発現低下も認められない。一方で、アミロイド病理が進んだ剖検脳ではネプリライシンレベル低下はさらに強まって、対照群の70%まで激減することが示されている。
【0007】
分解系に着目したAD治療薬はADの根本的治療薬として期待されているが、現在のところ、ネプリライシン遺伝子を利用したADの遺伝子治療の試みがモデルマウスを用いて行われている段階に過ぎない。
【0008】
ポリフェノールは、抗酸化作用、コレステロール低下作用、抗菌作用などを有するとされ、健康維持に好影響を与えることが一般によく知られている。又、お茶由来成分のポリフェノールであるカテキンがADに効くという報告もある(非特許文献3~5)。ポリフェノールの1種であり、下記構造
【0009】
【化1】
JP0006797408B2_000002t.gif

【0010】
を有する(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCg)は神経系細胞で中性エンドペプチダーゼの酵素活性を増大させることが報告されているが(非特許文献6~9)、これらの実験では中性エンドペプチダーゼの一般的な人工基質を用いているので、実際にどの酵素に作用したものか不明である。EGCgにアルキル鎖を付加し脂溶性(疎水性)を高め、生体内利用率(腸管での吸収効率や脳内移行性)を高めた誘導体が報告されている(特許文献1、非特許文献10)。イチョウ葉等に含まれるポリフェノールであるアメントフラボンにはAβ凝集抑制や細胞死保護効果が報告されている(非特許文献11、12)。多くの植物に含まれるポリフェノールであるアピゲニンにもAβ凝集抑制効果が報告されている(非特許文献13、14)。イチゴ等に含まれるケンプフェロールにもAβ産生抑制、Aβ凝集抑制、細胞死保護効果が知られている。
しかしながら、いずれのポリフェノールについてもネプリライシンとの関係を示す論文はなく、また、該ポリフェノールを誘導体化することによってより優れた抗AD効果が得られることは記載も示唆もされていない。
【0011】
アミロイド前駆体蛋白質(APP)を代謝する酵素としてα、β及びγセクレターゼが知られている。β及びγセクレターゼによってAβが産生され、一方で、αセクレターゼはAβの内部でAPPを切断する。APPがαセクレターゼで代謝されるとAβが産生されないことから、αセクレターゼ活性の増強に着目したAD治療薬もまた期待されている。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】特開2010-100540号公報
【0013】

【非特許文献1】Iwata N et al., Nat Med. 2000 6(7):718-719.
【非特許文献2】Iwata N et al., Science. 2001 292(5521):1550-1552.
【非特許文献3】Mandel SA et al., CNS Neurosci Ther. 2008 14(4):352-365.
【非特許文献4】Kim J et al., J Neurochem. 2010 112(6):1415-1430.
【非特許文献5】Mecocci P et al., Front Pharmacol. 2014 5:147.
【非特許文献6】Kiss A et al., Pharmazie. 2006 61:66-69.
【非特許文献7】Melzig MF, JankaM, Phytomedicine. 2003 10:494-498.
【非特許文献8】Melzig MF, Escher F, Pharmazie. 2002 57:556-558.
【非特許文献9】Ayoub S, MelzigMF, J Pharm Pharmacol. 2006 58:495-501.
【非特許文献10】Fudouji R et al., J Agric Food Chem. 2009 57(14):6417-6424.
【非特許文献11】Thapa A, et al., Biochemistry. 2011 50(13):2445-2455.
【非特許文献12】Kang SS, et al., Bioorg Med Chem Lett. 2005 15(15):3588-3591.
【非特許文献13】Zhao L, et al., Molecules. 2013 18(8):9949-9965.
【非特許文献14】Gauci AJ, et al., J Alzheimers Dis. 2011 27(4):767-779.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、新規な作用機序を有する、副作用が低減された、ADの予防及び/又は治療用薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み、ネプリライシン活性を増強する低分子化合物の探索を鋭意行ってきた結果、元来水溶性であるポリフェノールに対して脂溶性を高めることでネプリライシン活性を強力に増強する化合物を得ることに成功した。さらに該ポリフェノール誘導体はαセクレターゼ活性を増強する作用をも有する。これらの作用によってAβの脳内蓄積を減らすことが可能となり、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下に示す通りである。
[1]ポリフェノール誘導体を有効成分として含有する、アルツハイマー病の予防及び/又は治療用薬剤。
[1-1]ポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー病の予防及び/又は治療方法。
[1-2]アルツハイマー病の予防及び/又は治療における使用の為のポリフェノール誘導体。
[2]ポリフェノール誘導体が、脂溶性ポリフェノール誘導体である、上記[1]記載の薬剤;上記[1-1]記載の方法;又は上記[1-2]記載の誘導体。
[3]脂溶性ポリフェノール誘導体が、脂溶性カテキン誘導体である、上記[2]記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[4]脂溶性カテキン誘導体が、式(I)で表される(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート誘導体又は(-)-エピカテキン-3-O-ガレート誘導体に脂溶性基が導入された化合物である、上記[3]記載の薬剤;方法;又は誘導体。
【0016】
【化2】
JP0006797408B2_000003t.gif

【0017】
(式中、n1はA環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;n2はG環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n3はB環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n4はC環に結合する水酸基の数を示し、0又は1であり;n1+n2+n3+n4は2以上である。)
[5]脂溶性カテキン誘導体が、式(II)で表される(-)-エピガロカテキン誘導体又は(-)-エピカテキン誘導体に脂溶性基が導入された化合物である、上記[3]記載の薬剤;方法;又は誘導体。
【0018】
【化3】
JP0006797408B2_000004t.gif

【0019】
(式中、m1はA’環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;m2はB’環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;m3はC’環に結合する水酸基の数を示し、0~2の整数であり;m1+m2+m3は2以上である。)
[6]脂溶性基が、それぞれ置換基を有していてもよい、鎖状炭化水素基、環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂溶性ビタミン残基及びステロール残基からなる群より選択される、上記[4]又は[5]に記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[7]脂溶性基が置換基を有していてもよい鎖状炭化水素基である、上記[4]又は[5]に記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[8]脂溶性基がA環又はA’環にC-C結合で直接導入されている、上記[4]~[7]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[9]脂溶性基の導入にS-エステル結合又はO-エステル結合を使用しない、上記[4]~[7]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[10]C環又はC’環の4位にカルボニル基が存在する、上記[4]~[9]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[11]脂溶性ポリフェノール誘導体の分配係数(logP)が、対照として(-)-エピカテキン-3-O-ガレートを用いた場合、その1.8倍以上であることを特徴とする、上記[2]記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[12]ポリフェノール誘導体が、下記化合物群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載の薬剤;上記[1-1]記載の方法;又は上記[1-2]記載の誘導体。
【0020】
【化4】
JP0006797408B2_000005t.gif

【0021】
【化5】
JP0006797408B2_000006t.gif

【0022】
[13]ポリフェノール誘導体が、下記化合物群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載の薬剤;上記[1-1]記載の方法;又は上記[1-2]記載の誘導体。
【0023】
【化6】
JP0006797408B2_000007t.gif

【0024】
[14]ポリフェノール誘導体が、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)下記式
【0025】
【化7】
JP0006797408B2_000008t.gif

【0026】
(式中、
は、炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水酸基を示し、あるいは
及びRは、一緒になってケト基を示す)
で表される化合物を反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体である、上記[1]記載の薬剤;上記[1-1]記載の方法;又は上記[1-2]記載の誘導体。
[15]ポリフェノール誘導体が、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)2-ヘキセナール、2-ノネナール、シンナムアルデヒド、フェルラアルデヒド、p-クマルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ゲラニアール、ゲラニオール、ファルネサール、ファルネソール、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデセナール、フィトール、3-ノネン-2-オンまたはペリルアルデヒドとを、酸を加えて反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体である、上記[1]記載の薬剤;上記[1-1]記載の方法;又は上記[1-2]記載の誘導体。
[16]ネプリライシン活性を増強することを特徴とする、上記[1]、[1-1]、[1-2]、[2]~[15]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[17]ネプリライシン活性の増強が、ネプリライシンの細胞表面への顕在化を促進することによるものである、上記[16]記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[18]αセクレターゼ活性を増強することを特徴とする、上記[1]、[1-1]、[1-2]、[2]~[17]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[19]βセクレターゼ活性を阻害することを特徴とする、上記[1]、[1-1]、[1-2]、[2]~[18]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[20]該ポリフェノール誘導体が、ネプリライシン活性を増強する効果、αセクレターゼ活性を増強する効果及びβセクレターゼ活性を阻害する効果からなる群より選択される少なくとも1種の効果を有することを特徴とする、上記[1]、[1-1]、[1-2]、[2]~[15]のいずれかに記載の薬剤;方法;又は誘導体。
[21]ポリフェノール誘導体を有効成分として含有する、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性の増強剤。
[21-1]ポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性を増強する方法。
[21-2]ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性の増強における使用の為のポリフェノール誘導体。
[22]βセクレターゼ活性を阻害する効果を有する、上記[21]記載の剤。
[22-1]ポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性を増強し、且つβセクレターゼ活性を阻害する方法。
[22-2]ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性の増強、並びにβセクレターゼ活性の阻害における使用の為のポリフェノール誘導体。
[23]ポリフェノール誘導体を有効成分として含有する、βセクレターゼ活性の阻害剤。
[23-1]ポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、βセクレターゼ活性を阻害する方法。
[23-2]βセクレターゼ活性の阻害における使用の為のポリフェノール誘導体。
[24]αセクレターゼ活性を増強する効果及び/又はβセクレターゼ活性を阻害する効果を有する、上記[23]記載の剤。
[25]ポリフェノール誘導体が、脂溶性ポリフェノール誘導体である、上記[21]、[21-1]、[21-2]、[22]、[22-1]、[22-2]、[23]、[23-1]、[23-2]及び[24]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
[26]脂溶性ポリフェノール誘導体が、脂溶性カテキン誘導体である、上記[25]記載の剤;方法;又は誘導体。
[27]脂溶性カテキン誘導体が、式(I)で表される(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート誘導体又は(-)-エピカテキン-3-O-ガレート誘導体に脂溶性基が導入された化合物である、上記[26]記載の剤;方法;又は誘導体。
【0027】
【化8】
JP0006797408B2_000009t.gif

【0028】
(式中、n1はA環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;n2はG環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n3はB環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n4はC環に結合する水酸基の数を示し、0又は1であり;n1+n2+n3+n4は2以上である。)
[28]脂溶性カテキン誘導体が、式(II)で表される(-)-エピガロカテキン誘導体又は(-)-エピカテキン誘導体に脂溶性基が導入された化合物である、上記[26]記載の剤;方法;又は誘導体。
【0029】
【化9】
JP0006797408B2_000010t.gif

【0030】
(式中、m1はA’環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;m2はB’環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;m3はC’環に結合する水酸基の数を示し、0~2の整数であり;m1+m2+m3は2以上である。)
[29]脂溶性基が、それぞれ置換基を有していてもよい、鎖状炭化水素基、環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂溶性ビタミン残基及びステロール残基からなる群より選択される、上記[27]又は[28]に記載の剤;方法;又は誘導体。
[30]脂溶性基が置換基を有していてもよい鎖状炭化水素基である、上記[27]又は[28]に記載の剤;方法;又は誘導体。
[31]脂溶性基がA環又はA’環にC-C結合で直接導入されている、上記[27]~[30]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
[32]脂溶性基の導入にS-エステル結合又はO-エステル結合を使用しない、上記[27]~[30]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
[33]C環又はC’環の4位にカルボニル基が存在する、上記[27]~[32]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
[34]脂溶性ポリフェノール誘導体の分配係数(logP)が、対照として(-)-エピカテキン-3-O-ガレートを用いた場合、その1.8倍以上であることを特徴とする、上記[25]記載の剤;方法;又は誘導体。
[35]ポリフェノール誘導体が、下記化合物群より選択される少なくとも1種である、上記[21]、[21-1]、[21-2]、[22]、[22-1]、[22-2]、[23]、[23-1]、[23-2]及び[24]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
【0031】
【化10】
JP0006797408B2_000011t.gif

【0032】
【化11】
JP0006797408B2_000012t.gif

【0033】
[36]ポリフェノール誘導体が、下記化合物群より選択される少なくとも1種である、上記[21]、[21-1]、[21-2]、[22]、[22-1]、[22-2]、[23]、[23-1]、[23-2]及び[24]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
【0034】
【化12】
JP0006797408B2_000013t.gif

【0035】
[37]ポリフェノール誘導体が、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)下記式
【0036】
【化13】
JP0006797408B2_000014t.gif

【0037】
(式中、
は、炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水酸基を示し、あるいは
及びRは、一緒になってケト基を示す)
で表される化合物を反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体である、上記[21]、[21-1]、[21-2]、[22]、[22-1]、[22-2]、[23]、[23-1]、[23-2]及び[24]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
[38]ポリフェノール誘導体が、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)2-ヘキセナール、2-ノネナール、シンナムアルデヒド、フェルラアルデヒド、p-クマルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ゲラニアール、ゲラニオール、ファルネサール、ファルネソール、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデセナール、フィトール、3-ノネン-2-オンまたはペリルアルデヒドとを、酸を加えて反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体である、上記[21]、[21-1]、[21-2]、[22]、[22-1]、[22-2]、[23]、[23-1]、[23-2]及び[24]のいずれかに記載の剤;方法;又は誘導体。
【発明の効果】
【0038】
Aβの分解系に着目して得られた本発明は、ADの根本的治療薬又は予防薬として使用できる。本発明はポリフェノール骨格を有し、今までの蓄積された研究成果を利用することができ、より安全且つ効果的な薬剤の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のポリフェノール誘導体のネプリライシン活性増強作用を示したグラフである。ポリフェノール誘導体を添加していない場合のネプリライシン活性を1として評価した。各誘導体は、それぞれ1又は10μMの濃度で用いた。
【図2】本発明のポリフェノール誘導体のネプリライシン、αセクレターゼ、βセクレターゼ発現量及びAPP発現量に及ぼす影響を示した図である。上図はネプリライシンあるいは各APPに対する特異抗体、あるいはADAM10及びBACE1に対する特異抗体を用いて検出したウエスタンブロット像を示し、下図はそれを数値化したグラフである。ポリフェノール誘導体を添加していない場合(Control)の発現量を1とした。標準化の為にβ-actinの発現量も測定した。
【図3】本発明のポリフェノール誘導体のネプリライシン、αセクレターゼ、βセクレターゼのmRNAレベルでの発現量に及ぼす影響を示した図である。ネプリライシンmRNAの検出にはMME遺伝子に対するプローブ及びプライマーセットを、αセクレターゼmRNAの検出にはADAM9、10及び17遺伝子に対するそれぞれのプローブ及びプライマーセットを、βセクレターゼmRNAの検出にはBACE1遺伝子に対するプローブ及びプライマーセットをそれぞれ用いて、定量的リアルタイムPCRにより測定した。ポリフェノール誘導体を添加していない場合(Control)の発現量を1とした。標準化の為にGAPDHmRNAの発現量も測定した。
【図4】マウス初代培養細胞を用いたネプリライシンの活性染色の結果を示した図である。A~Cに、活性染色法により測定したネプリライシン活性の結果を示す。ポリフェノール誘導体を添加していない場合(DMSO)のシグナル強度を1とした。
【図5】各ポリフェノール誘導体についての、各要素の変動を模式的に示した図である。
【図6】βセクレターゼ阻害剤(BSI)、γセクレターゼ阻害剤(GSI)、本発明のポリフェノール誘導体(NUP-11)及びそれらの併用(Cocktail)によるAPPsα量、APPsβ量及びAPPsα/APPsβ(α/β)比に及ぼす影響を示した図である。試験化合物を添加していない場合(Control)の発現量を1とした。
【図7】βセクレターゼ阻害剤(BSI)、γセクレターゼ阻害剤(GSI)、本発明のポリフェノール誘導体(NUP-11)及びそれらの併用(Cocktail)によるアミロイドβの産生量(pM)に及ぼす影響を示した図である。
【図8】本発明のポリフェノール誘導体を直接海馬に注入した場合のネプリライシン活性に及ぼす影響を示した図である。ネプリライシン活性は、組織抽出液の一定蛋白量あたり1分間に基質を切断する量(nmol/mg protein/min)として表した。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明は、有効成分としてポリフェノール誘導体を用いる。
本発明における「ポリフェノール誘導体」とは、2個以上のフェノール性水酸基を持つ化合物及びその誘導体を意味し、ネプリライシン活性を増強させる効果、αセクレターゼ活性を増強させる効果及びβセクレターゼ活性を抑制する効果のいずれか1つ、好ましくは2つ、特に好ましくは3つを有していれば特に限定されない(以下、本発明のポリフェノール誘導体とも称する)。

【0041】
ネプリライシンやαセクレターゼあるいはβセクレターゼの活性の測定は、ネプリライシンやαセクレターゼあるいはβセクレターゼをコードする遺伝子の発現量もしくは該遺伝子から翻訳された蛋白質を指標にすることができる。遺伝子の発現量はRT-PCRやノーザンブロット法等により、該遺伝子から翻訳された蛋白質量はELISAやウエスタンブロット法等により測定することができる。あるいは酵素活性を直接測定することもできる。酵素活性は、一定時間内に分解される基質の量で提示することができる。

【0042】
ネプリライシンの場合、その活性は、例えば、特開2002-34596号公報、特開2004-151079号公報に記載の方法に従っても測定することができる。ネプリライシンの基質と薬剤未処置または薬剤処置した細胞(H4細胞、SH-SY5Y細胞、HEK細胞、Neuro2a細胞などの株化培養細胞、iPS細胞から分化誘導した神経細胞、マウスやラットなどの動物から調製した初代培養神経細胞など)や組織(マウスやラットなどの動物から調製した脳組織など)、前記細胞や組織の溶解液、または該細胞溶解液から精製したネプリライシン等を反応させ、試料中のネプリライシンが基質を切断する量(基質の分解量)によって評価される。基質としては、例えばAβ、エンケファリン、サブスタンスP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、エンドセリン等に加え、ベンジルオキシカルボニル-アラニル-アラニル-ロイシル-パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル-アラニル-アラニル-フェニルアラニル-パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-ロイシル-パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-フェニルアラニル-パラニトロアニリド、グルタリル-アラニル-アラニル-フェニルアラニル-4-メトキシ-2-ナフチルアミド、グルタリル-アラニル-アラニル-フェニルアラニル-2-ナフチルアミド、サクシニル-アラニル-アラニル-フェニルアラニン-4-メチルクマリン-7-アミド、Mca-RPPGFSAFK(Arg-Pro-Pro-Gly-Phe-Ser-Ala-Phe-Lys)-Dnp-OH(R&D Systems, Inc.;配列番号1)や5-FAM/QXLtm520(AnaSpec, Inc.)等の合成基質が挙げられるが、これらに限定されない。反応条件は、使用する基質に応じて当業者が適宜選択できる。例えば、基質の濃度は、用いる基質により異なるが、0.1~1000μg/mlとして反応を行えばよい。基質の濃度は反応系において、1~100μg/mlであることが好ましく、3~30μg/mlであるのが更に好ましい。反応温度は、20℃~45℃が好ましく、20℃~40℃が更に好ましい。反応時間は使用する基質および濃度等の反応系の条件により異なるが、例えば、5分~24時間の間で適宜選択すればよく、迅速性という点からは、5分~60分という短時間で測定できるような反応系を設定することが好ましい。反応は中性のpH、すなわちpH6~9で行うことが好ましく、pH7~8で行うことが更に好ましい。

【0043】
基質の分解量の測定は、分解して得られる化合物の濃度を測定することであってもよい。方法は特に限定されないが、分解して得られた化合物の吸光度が増加する、分解して得られた化合物が蛍光を発する、もしくは分解して得られた化合物と試薬が反応して蛍光又は化学発光を発する場合、その蛍光強度又は化学発光強度を測定することで分解された量を測定することができる。他の態様として、薄層クロマトグラフィー、HPLC、質量分析等により分析することもできるし、分解産物のペプチド断片や化学構造を特異的に認識する抗体を用いたイムノアッセイによっても分析できる。このとき、阻害剤(例えば、チオルファン)を加えた測定値により分解量を補正することが好ましい。ネプリライシンの活性は、単位細胞量あたりまたは総タンパク質あたりの基質の分解量としてもよい(Iwata, N., et al., J. Neurosci. 24(4):991-998, 2004; Ogawa, T., et al., J. Neurochem. 95(4):1156-1166, 2005)。

【0044】
タンパク質レベルでのネプリライシンの発現量を測定する方法としては、前記細胞や組織の溶解液、または該細胞溶解液から精製したネプリライシン等を試料として、ネプリライシンに特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法により解析できる。また、上記細胞や組織を固定した後、ネプリライシンに特異的な抗体を用いて、細胞、組織の免疫染色によっても解析できる(Fukami, S.,et al., Neurosci. Res. 43(1):39-56, 2002)。mRNAレベルでのネプリライシンの発現量を測定する方法としては、前記細胞や組織の溶解液を試料として、ネプリライシンに特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いてノーザンブロット法、定量的RT-PCR法やリアルタイムPCR法により解析できる(Ogawa, T., et al., J. Neurochem. 95(4):1156-1166, 2005)。また、上記細胞や組織とネプリライシンに特異的な標識オリゴヌクレオチドプローブをin situハイブリダイゼーションし、オートラジオグラフィーや免疫組織化学的手法によっても解析できる。

【0045】
αセクレターゼの場合、その活性は、例えば、既報(Lopez-Perez E., et al., J Neurochem, 2001)に従っても測定することができる。薬剤未処置または薬剤処置した細胞(H4細胞、SH-SY5Y細胞、HEK細胞、Neuro2a細胞などの株化培養細胞、iPS細胞から分化誘導した神経細胞、マウスやラットなどの動物から調製した初代培養神経細胞など)や組織(マウスやラットなどの動物から調製した脳組織など)からαセクレターゼによって切断され、培養上清中または105,000×g上清に分泌されるAPPの代謝物APPsα量をAPPsαのアミノ末端配列に特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法(Yahata, N., et al., PLoS One. 6(9):e25788. 2011)やELISA法(Human sAPPα (highly sensitive) Assay Kit - IBL等, タカラバイオ)で定量することで評価される。または既報(Obregon D.F., et al., J Biol Chem, 2006)に従っても測定することができる。メタロプロテアーゼ以外の各プロテアーゼに対する阻害剤を含む細胞懸濁液とαセクレターゼ切断部位を模倣した蛍光人工基質MCA-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Lys-Dnp-OH(配列番号2)やAPP、APLP1、APLP2などのαセクレターゼの内在性基質のリコンビナント標品を反応させて基質を切断する量(基質の分解量)によっても評価される。基質の分解量の測定は、分解して得られる化合物の濃度を測定することであってもよい。方法は特に限定されないが、分解して得られた化合物の吸光度が増加する、分解して得られた化合物が蛍光を発する、もしくは分解して得られた化合物と試薬が反応して蛍光又は化学発光を発する場合、その蛍光強度又は化学発光強度を測定することで分解された量を測定することができる。他の態様として、薄層クロマトグラフィー、HPLC、質量分析等により分析することもできるし、分解産物のペプチド断片や化学構造を特異的に認識する抗体を用いたイムノアッセイによっても分析できる。このとき、阻害剤(例えば、TAPI-1[TNF-α Protease Inhibitor-1]またはTAPI-2[TNF-α Protease Inhibitor-2])を加えた測定値により分解量を補正することが好ましい。αセクレターゼの活性は、単位細胞量あたりまたは総タンパク質あたりの基質の分解量としてもよい(Iwata, N., et al., J. Neurosci. 24(4):991-998, 2004; Ogawa, T., et al., J. Neurochem. 95(4):1156-1166, 2005)。

【0046】
タンパク質レベルでのαセクレターゼの発現量を測定する方法としては、前記細胞や組織の溶解液、または該細胞溶解液から精製したαセクレターゼ等を試料として、ADAM9、ADAM10またはADAM17に特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法により解析できる(Yahata, N., et al., PLoS One. 6(9):e25788. 2011)。また、上記細胞や組織を固定した後、ADAM9、ADAM10またはADAM17に特異的な抗体を用いて、細胞、組織の免疫染色によっても解析できる。mRNAレベルでのαセクレターゼの発現量を測定する方法としては、前記細胞や組織の溶解液を試料として、ADAM9、ADAM10またはADAM17に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いてノーザンブロット法、定量的RT-PCR法やリアルタイムPCR法により解析できる(Ogawa, T., et al., J. Neurochem. 95(4):1156-1166, 2005)。また、上記細胞や組織とADAM9、ADAM10またはADAM17に特異的な標識オリゴヌクレオチドプローブをin situハイブリダイゼーションし、オートラジオグラフィーや免疫組織化学的手法によっても解析できる。

【0047】
βセクレターゼの場合も、αセクレターゼの場合と同様にして、βセクレターゼ切断部位を模倣した蛍光人工基質を用いてβセクレターゼ活性を測定することができ、また、BACE1に特異的な抗体等のβセクレターゼに特異的な抗体を用いてタンパク質レベルでのβセクレターゼの発現量を測定することができる。

【0048】
本発明のポリフェノール誘導体は、脂溶性が高められたもの、即ち脂溶性ポリフェノール誘導体であることが好ましい。より好ましくは脂溶性カテキン誘導体である。

【0049】
脂溶性の程度は、logP(partition coefficient)等の分配係数によって数値化することができる。分配係数は、測定条件によって異なるが、例えば対照として(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCg)を用いた場合、本発明の脂溶性ポリフェノール誘導体のlogPはEGCgのlogPの1.8倍以上であることが好ましい。

【0050】
一般に有機化合物における脂溶性の向上は、脂溶性基を該化合物に導入することによって行われる。「脂溶性基」とは脂質との親和性が強く、水との相互作用が小さい極性が低い置換基を意味し、例えば、鎖状炭化水素基(例、アルキル基等の鎖状飽和炭化水素基、アルケニル基等の鎖状不飽和炭化水素基)、環式炭化水素基(例、シクロアルキル基等の環式飽和炭化水素基、シクロアルケニル基等の環式不飽和炭化水素基)、芳香族炭化水素基(例、アリール基等)、脂溶性ビタミン残基、ステロール残基、及びそれらの2種以上が結合した基等が挙げられる。これらの基はそれぞれ置換基を有していてもよく、当該置換基が結合して環を構成することもできる。

【0051】
「アルキル基」としては、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、例えば、C3-30アルキル基(例、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-メチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、1,2-ジメチルプロピル、ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、3-メチルヘキシル、オクチル、1-イソプロピル-3-メチルブチル、3-メチル-1-(1-メチルエチル)ブチル、2-エチルヘキシル、デシルおよび4-プロピルペンチル、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデシル、2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサニル等)が挙げられる。

【0052】
「アルケニル基」としては、直鎖状もしくは分岐鎖状であって、前記した炭素数2以上のアルキル基に1個以上の二重結合などの不飽和基を有するものが挙げられ、具体的には、C3-30アルケニル基(例、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、2,6-ジメチル-ヘプタ-1,5-ジエン-1-イル、3-フェニルプロペニル、3-(p-ヒドロキシフェニル)プロペニル、ゲラニル-ゲラニル、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデセニル、スクアレニル等)が挙げられる。
さらに当該基は、天然に存在する二重結合を有する鎖状不飽和炭化水素(例、ヘミテルペン、モノテルペン、ジテルペン、テスタテルペン、トリテルペン等)の任意の水素原子を除去して誘導される基であってもよい。

【0053】
「シクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル(すなわち、C3-6シクロアルキル)、シクロへプチル、シクロオクチル、ビシクロ[2.2.2]オクチルなどのC3-30シクロアルキル基が挙げられる。またこれらに加えて、ステロイドなどの天然のシクロアルカン化合物の任意の水素原子を除去して誘導される基であってもよい。

【0054】
「シクロアルケニル基」としては、前記したシクロアルキル基に1個以上の二重結合などの不飽和基を有するものが挙げられ、具体的には、シクロプロペニル、シクロブチリル、シクロペンチニル、シクロヘキシニル、シクロへプチニル、シクロオクチニル、ビシクロ[2.2.2]オクチニルなどのC3-30シクロアルケニル基が挙げられる。
またこれらに加えて、コレステリル、オレアノイル基といった天然のシクロアルケニル化合物の任意の水素原子を除去して誘導される基であってもよい。

【0055】
「アリール基」としては、少なくとも1つの環が芳香族であり、各環が5~8の環原子を有する単環式、二環式、三環式および四環式炭素環式基が挙げられ、具体的には、フェニル、インデニル、ナフチル、フルオレニル等が挙げられる。

【0056】
「脂溶性ビタミン残基」としては、脂溶性ビタミン由来の残基の他、脂溶性ビタミン中の官能基である水酸基、アルデヒド、カルボン酸を他の反応性官能基に適宜変換した誘導体由来の残基を用いることができる。脂溶性ビタミンとしては、レチノイン酸、レチノール、レチナール、エルゴステロール、7-デヒドロコレステロール、カルシフェロール、コルカルシフェロール、ジヒドロエルゴカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、トコフェロール、トコトリエノール等を挙げることができる。

【0057】
「ステロール残基」としては、例えばコレステリル基(コレステロール残基)、コレスタリル基(コレスタノール残基)、スチグマステリル基(スチグマステロール残基)、β-シトステリル基(β-シトステロール残基)、ラノステリル基(ラノステロール残基)、及びエルゴステリル基(エルゴステロール残基)等が挙げられる。

【0058】
脂溶性基の導入は、通常当分野で用いられている方法及びそれに準じた方法によって行うことができる。例えばポリフェノールとしてカテキンやプロアントシアニジンを用いた場合、脂溶性基の導入は特許文献1に記載の方法によって実施することができる。

【0059】
カテキンは緑茶の主成分であり、抗酸化作用、コレステロール低下作用、抗菌作用などを有するとされ、健康維持に好影響を与えることが一般的によく知られている。本発明における「カテキン」とは、公知のカテキン類(例、茶カテキン等)全てを含む。該カテキンは自体公知の方法で誘導体化されていてもよい。ここで「誘導体化」とは、例えば、メチル化、エステル化、アセトン付加、酸化的二量体化等、公知のカテキンを化学修飾することを通じて、その機能を改善することをいう。

【0060】
特に、茶の渋み成分である茶カテキンとしては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等が挙げられる。また、酸化的二量体化されたカテキンとしては、紅茶のテアシネンシン類やテアフラビン類が挙げられる。

【0061】
また、「プロアントシアニジン」とは、カテキン類がC-4位とC-8位との間で炭素-炭素結合した構造を持つ二量体~重合体すべてを含む。さらに本発明におけるプロアントシアニジンは、上記のプロアントシアニジンが自体公知の方法で誘導体化されたものであってもよい。ここで「誘導体化」とは、例えば、メチル化、エステル化等、公知のプロアントシアニジンを化学修飾することを通じて、その機能を改善することをいう。
特に食品に含まれるプロアントシアニジンとしては、プロシアニジンB-1、プロシアニジンB-2、プロシアニジンB-3、プロシアニジンB-4、プロシアニジンC-1、プロデルフィニジンB-1、プロデルフィニジンB-2等が挙げられる。

【0062】
本発明の脂溶性カテキン誘導体の好ましい一実施態様は、式(I)で表される(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート誘導体又は(-)-エピカテキン-3-O-ガレート誘導体に脂溶性基が導入された化合物(以下、式(I)化合物とも称する)である。

【0063】
【化14】
JP0006797408B2_000015t.gif

【0064】
(式中、n1はA環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;n2はG環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n3はB環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;n4はC環に結合する水酸基の数を示し、0又は1であり;n1+n2+n3+n4は2以上である。)
ここで、n1は好ましくは0~2であり、より好ましくは2であり、いっそう好ましくはA環の5位と7位に水酸基が結合している。n2は好ましくは0~3であり、より好ましくは3であり、いっそう好ましくはG環の3”位、4”位及び5”位に水酸基が結合している。n3は好ましくは0~3であり、より好ましくは3であり、いっそう好ましくはB環の3’位、4’位及び5’位に水酸基が結合している。n4は0であることが好ましい。

【0065】
本発明の脂溶性カテキン誘導体の別の好ましい一実施態様は、式(II)で表される(-)-エピガロカテキン誘導体又は(-)-エピカテキン誘導体に脂溶性基が導入された化合物(以下、式(II)化合物とも称する)である。

【0066】
【化15】
JP0006797408B2_000016t.gif

【0067】
(式中、m1はA’環に結合する水酸基の数を示し、0~4の整数であり;m2はB’環に結合する水酸基の数を示し、0~5の整数であり;m3はC’環に結合する水酸基の数を示し、0~2の整数であり;m1+m2+m3は2以上である。)
ここで、m1は好ましくは0~2であり、より好ましくは2であり、いっそう好ましくはA’環の5位と7位に水酸基が結合している。m2は好ましくは0~3であり、より好ましくは3であり、いっそう好ましくはB’環の3’位、4’位及び5’位に水酸基が結合している。m3は0であることが好ましい。

【0068】
式(I)化合物及び式(II)化合物に導入される脂溶性基としては上述のものが挙げられるが、好ましくは置換基を有していてもよい鎖状炭化水素基であり、より好ましくは、それぞれ置換基を有していてもよい、アルキル基及びアルケニル基である。導入される脂溶性基が複数ある場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。

【0069】
脂溶性基が有していてもよい置換基としては、水酸基で置換されていてもよい低級アルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどのC1-6アルキル基)、カルボキシル基等が挙げられるがこれらに限定されない。脂溶性基及び/又は脂溶性基上の置換基と各環上の水酸基が一緒になって環を形成してもよい。

【0070】
式(I)化合物において、脂溶性基は、A環、C環、B環及びG環からなる群の1以上に導入され得、C-C結合で直接導入されても、別の結合を介して導入されてもよい。好ましくはA環にC-C結合で直接導入される。また脂溶性基の導入にはS-エステル結合又はO-エステル結合が使用されないことが好ましい。
式(II)化合物において、脂溶性基は、A’環、C’環及びB’環からなる群の1以上に導入され得、C-C結合で直接導入されても、別の結合を介して導入されてもよい。好ましくはA’環にC-C結合で直接導入される。また脂溶性基の導入にはS-エステル結合又はO-エステル結合が使用されないことが好ましい。

【0071】
式(I)化合物及び式(II)化合物において、C環又はC’環の4位にカルボニル基が存在する化合物もまた、本発明の脂溶性ポリフェノール誘導体として好ましい。

【0072】
式(I)化合物中、A環、C環、B環及びG環は、水酸基及び脂溶性基以外に置換基を有していてもよい。式(II)化合物中、A’環、C’環及びB’環は、水酸基及び脂溶性基以外に置換基を有していてもよい。各環が有していてもよい置換基としては、オキソ基等が挙げられるがこれに限定されない。

【0073】
本発明のポリフェノール誘導体として好ましい化合物の具体例は以下の通りである。

【0074】
【化16】
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【0075】
【化17】
JP0006797408B2_000018t.gif

【0076】
なかでも、

【0077】
【化18】
JP0006797408B2_000019t.gif

【0078】
が好ましい。

【0079】
本発明のポリフェノール誘導体の一例として、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)下記式

【0080】
【化19】
JP0006797408B2_000020t.gif

【0081】
(式中、
は、炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水素又は炭化水素基を示し;
は、水酸基を示し、あるいは
及びRは、一緒になってケト基を示す)
で表される化合物を反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体が挙げられる。
ここで「炭化水素基」としては、鎖状飽和炭化水素基(例、アルキル基等)、鎖状不飽和炭化水素基(例、アルケニル基等)、環式飽和炭化水素基(例、シクロアルキル基等)、環式不飽和炭化水素基(例、シクロアルケニル基等)、芳香族炭化水素基(例、アリール基等)等が挙げられ、上記「脂溶性基」として例示した各基と同義である。
当該化合物は、具体的には、特許文献1に記載の方法によって製造することができる。

【0082】
本発明のポリフェノール誘導体の一例として、(i)カテキン又はプロアントシアニジンと、(ii)2-ヘキセナール、2-ノネナール、シンナムアルデヒド、フェルラアルデヒド、p-クマルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ゲラニアール、ゲラニオール、ファルネサール、ファルネソール、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデセナール、フィトール、3-ノネン-2-オン、ペリルアルデヒド、又はアクロレインとを、酸を加えて反応させることによって製造されたカテキン誘導体またはプロアントシアニジン誘導体が挙げられる。
当該化合物は、具体的には、特許文献1に記載の方法によって製造することができる。

【0083】
当該化合物は、(i)と(ii)を結合させた生成物にさらに(ii)を結合させて製造することもできる。例えばカテキンとアクロレインを結合させて得られる物質にさらにアルコール類、アミン類、カルボン酸類、チオール類などを結合させることで製造することもできる(実施例参照)。

【0084】
本発明のポリフェノール誘導体は塩の形態であってもよい。例えば、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例:塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例:酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロ酢酸)との塩等が用いられる。

【0085】
本発明のポリフェノール誘導体に、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する場合には、いずれか一方の異性体も、異性体の混合物も用いることができる。また、本発明のポリフェノール誘導体に、互変異性体等の構造異性体及び幾何異性体が存在する場合には、いずれの異性体も用いることができる。

【0086】
本発明のポリフェノール誘導体は、同位元素(例、H,14C,35S,125I等)等で標識されていてもよい。

【0087】
本発明のポリフェノール誘導体は、ネプリライシン活性を増強させる効果及び/又はαセクレターゼ活性を増強させる効果、及び/又はβセクレターゼ活性を阻害する効果を有する為、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性の増強剤、あるいはβセクレターゼ活性の阻害剤(以下、それぞれ本発明の増強剤、あるいは本発明の阻害剤とも称し、併せて本発明の剤とも称する)として有用である。また、該作用により本発明のポリフェノール誘導体はADの予防及び/又は治療用薬剤(以下、本発明の薬剤とも称する)として有用である。本発明のポリフェノール誘導体、それを有効成分として含む剤及び薬剤を総称して本発明の医薬とも称する。本発明の剤は、ADの予防及び/又は治療用薬剤としての用途に加え、ADの発症機序の解明や新規な抗AD薬の開発に繋がるツールとなり得る。
さらに本発明は、本発明のポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー病の予防及び/又は治療方法を提供することができる。
さらに本発明は、本発明のポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性を増強する方法を提供することができる。当該方法は、βセクレターゼ活性の阻害を伴っていてもよく、伴っていることが好ましい。
さらに本発明は、本発明のポリフェノール誘導体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、βセクレターゼ活性を阻害する方法を提供することができる。当該方法は、ネプリライシン活性及び/又はαセクレターゼ活性の増強を伴っていてもよく、伴っていることが好ましい。
また、本発明のポリフェノール誘導体は、ネプリライシン活性増強作用を有するので、ADのみならず他のアミロイド病態を示す疾患やネプリライシンの基質ペプチドが関与する末梢組織の悪性腫瘍やがんにも適用できる。

【0088】
本発明の医薬は有効成分がポリフェノール誘導体であることからその低毒性が期待できる。液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の温血動物(例:マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ネコ、イヌ、サル、トリ等)に対して経口的または非経口的(例:血管内投与、皮下投与等)に投与することができる。

【0089】
本発明のポリフェノール誘導体は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。さらに、本発明のポリフェノール誘導体は、上記した個々のポリフェノール誘導体を所望により2種以上含む混合物の形態であってもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明のポリフェノール誘導体と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。

【0090】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、髄腔内注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の改善剤を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例:エタノール)、ポリアルコール(例:プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例:ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記ポリフェノール誘導体を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
また、本発明のポリフェノール誘導体は、外科的手術等により脳内に直接投与することもできる。

【0091】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。

【0092】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、有効成分であるポリフェノール誘導体の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。

【0093】
本発明の医薬の投与量は、投与対象、症状、投与ルート等によっても異なるが、例えば、成人のAD治療・予防のために使用する場合には、本発明の医薬を1日量として、通常1~50mg/kg体重程度、好ましくは10~30mg/kg体重程度、さらに好ましくは15~25mg/kg体重程度を、1日1~5回程度、好ましくは1日1~3回程度、経口投与するのが好都合である。他の投与経路の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。

【0094】
なお、前記した各組成物は、本発明のポリフェノール誘導体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。

【0095】
また、前記した各組成物は、本発明のポリフェノール誘導体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、該ポリフェノール誘導体以外の、ADの予防及び/又は治療に有効な他の化合物を併用することができる(以下、併用化合物とも称する)。併用化合物としては、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)やグルタミン酸のNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)等の既に日本で販売、認可されている薬剤に加え、近年研究が進められている、アミロイドワクチン、αセクレターゼ活性増強剤、βセクレターゼ阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、γセクレターゼ調節剤等が挙げられる。
αセクレターゼ活性増強剤としては、特に限定されるものではないが、例えばレチノイド等が挙げられる。
βセクレターゼ阻害剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、β-secretase inhibitor IV、VTP-37948、E2609、JNJ-54861911、LY3314814、サリドマイド、MK-8931等が挙げられる。γセクレターゼ阻害剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、Compound E、ACPC((S,S)-2-aminocyclopentanecarboxylic acid)、セマガセスタット等が挙げられる。
γセクレターゼ調節剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ピニトール、EVP-0962等が挙げられる。アミロイドワクチンは、抗体を直接投与する受動免疫ワクチン又はAβペプチドをアジュバントとともに投与する能動免疫ワクチンの何れも可能である。
特にβやγセクレターゼ阻害剤は、副作用が強い為、本発明のポリフェノール誘導体と組み合わせることにより、使用濃度を低減することができ、副作用のリスクを分散させることができる。

【0096】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。特に示されない場合、用いる試薬等は商業的に入手可能である。
【実施例】
【0097】
実施例1
(材料と方法)
1.ポリフェノール誘導体
試験化合物として以下のポリフェノール誘導体を調製し、所定の濃度で用いた。また、各化合物のオクタノールに対する分配係数は既報(Fudouji, Rら, J. Agric. Food Chem. 57(14):6417-6424, 2009)に準じる。
【実施例】
【0098】
【表1-1】
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【実施例】
【0099】
【表1-2】
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【実施例】
【0100】
【表1-3】
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【実施例】
【0101】
カテキンとアクロレイン(Acr)を結合させて得られる物質にさらにアルコール類、アミン類、カルボン酸類、チオール類などを結合させることで得られるポリフェノール誘導体として例えばNUP-E15-1(EGCg-Acr-monoC15)やNUP-E15-2(EGCg-Acr-diC15)が挙げられるが、当該化合物は以下のようにして製造することができる。
【実施例】
【0102】
【化20】
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【実施例】
【0103】
エピガロカテキンガレート(EGCg;1mmol)をアクロレイン(2ml)に溶かし、70℃で1時間加熱した。反応液はそのままエタノールで膨潤させたSephadex LH-20カラム(2cm×15cm)に付し、エタノール、エタノール-アセトン-水混液(8:1:1,6:2:2,0:1:1,v/v/v)で順次溶出しアクロレイン結合体(EGCg-Acr;0.78mmol,78%)を得た。次にアクロレイン結合体(114mg,0.2mmol)と15-ヒドロキシペンタデカン酸(0.2mmol)とをトリフルオロ酢酸(5%)を含むアセトン(2ml)に溶かし、60℃で7時間加熱した。反応生成物はシリカゲルカラム(2cm×10cm)に付し、クロロホルム-メタノール(100:0,90:10,85:15,80:20,75:25,70:30、v/v)で分離してモノ置換体(EGCg-Acr-monoC15;46.8mg,0.082mmol,29%)とジ置換体(EGCg-Acr-diC15;18.5mg,0.018mmol,9%)を得た。
【実施例】
【0104】
EGCg-Acr
白色無晶形粉末
[α]29-146.8(c=0.10,MeOH)
FAB-MS m/z: 571[M+H]+
HR-FAB-MS m/z: 571.1450[M+H]+(C28H27O13 requires 571.1452)
UV λmaxMeOHnm(logε): 210(3.87),275(2.98)
IR νmax cm-1: 3374,2954,2856,1688,1613,1534,1453.
1H-NMR(400MHz,acetone-d6)δ: 5.05(1H,br s,H-2),5.54(1H,br s,H-3),2.84(1H,br d,H-4),3.00(m,H-4), 6.56(2H,br s,B-ring,H-2,6),7.00(2H,br s,galloyl-H-2,6).5.54(2H,m,Acr-1,1'),1.87(4H,m,Acr-2,2'),2.56,2.75(m,Acr-3,3').
13C-NMR(100MHz,acetone-d6)δ: 77.7(C-2),69.1(C-3),28.0(C-4),99.6(C-4a),151.2(C-5),103.3(C-6),151.2(C-7),102.6(C-8),149.7(C-8a),130.8(B-ring C-1),106.4(B-ring C-2,6),146.2(B-ring C-3,5),133.0(B-ring C-4),121.8(galloyl C-1),109.7(galloylC-2,6),145.8(galloyl C-3,5),138.7(galloylC-4),166.2(galloylC-7).92.9(Acr-C-1,1'),26.7(Acr-C-2,2'),15.9(Acr-C-3,3').
【実施例】
【0105】
EGCg-Acr-monoC15
白色無晶形粉末
[α]D29-102.7(c=0.10,MeOH)
FAB-MS m/z: 849[M+K]+
HR-FAB-MS m/z: 849.3092[M+K]+ (C43H54O15K requires 849.3100)
UV λmaxMeOH nm(logε): 209(3.89),275(3.01)
IR νmax cm-1: 3250,2923,2851,1682,1615,1536,1455.
1H-NMR(400MHz,acetone-d6)δ: 5.06(H-2),5.20,5.28(H-3),2.96(H-4),6.66(brs,B-ring H-2,6),6.99(brs,galloyl-C-2,6),5.54(m,Acr-H-1,1'),1.90(m,Acr-H-2,2'),2.60(m,Acr-H-3,3'),1.2-1.6(m,CH2)3.55,3.88(CH2-O-).
13C-NMR(100MHz,acetone-d6)δ: 77.6(C-2),68.5-69.3(C-3),28.0(C-4),100.0(C-4a),151.2(C-5),103.0-103.7(C-6,8),151.2(C-7),149.5(C-8a),130.9(B-ring C-1),106.4(B-ring C-2,6),146.2(B-ring C-3,5),132.9(B-ring C-4),121.7(galloyl C-1),110.0(galloylC-2,6),145.8(galloyl C-3,5),138.8(galloylC-4),166.2(galloylC-7).92.8,97.9(Acr-C-1,1'),26.8(Acr-C-2,2'),15.9(Acr-C-3,3'),175.0(COOH),25.6,26.7,29.2,29.6,29.8,30.0,30.2,30.4,34.2(CH2),68.5-69.3(CH2O).
【実施例】
【0106】
EGCg-Acr-diC15
白色無晶形粉末
[α]D28-86.6(c=0.10,MeOH)
FAB-MS m/z: 1089[M+K]+
HR-FAB-MS m/z: 1089.5195[M+K]+(C58H82O17Krequires 1089.5189)
UV λmaxMeOH nm(logε): 209(3.77),275(3.05)
IR νmax cm-1: 3330,2924,2852,1703,1615,1536,1459.
1H-NMR(400MHz,acetone-d6)δ:5.04,5.08(H-2),5.20,5.26(H-3),2.90-3.10(H-4),6.66(brs,B-ring H-2,6),6.98,7.01(galloyl-C-2,6),5.55(m,Acr-H-1,1’),1.90(m,Acr-H-2,2’),2.50-2.85(m,Acr-H-3,3’),1.2-1.6(m,CH2)3.50-3.85(CH2-O-).
13C-NMR(100MHz,acetone-d6)δ:77.6(C-2),68.2-69.3(C-3),26.8(C-4),100.1(C-4a),151.2(C-5),103.2-103.8(C-6,8),151.2(C-7),149.2(C-8a),130.9(B-ring C-1),106.4(B-ring C-2,6),146.3(B-ring C-3,5),133.0(B-ring C-4),121.7(galloyl C-1),110.0(galloylC-2,6),145.8(galloyl C-3,5),138.7(galloylC-4),166.2,166.3(galloylC-7).97.7,97.9,98.4(Acr-C-1,1’),26.8(Acr-C-2,2’),15.5(Acr-C-3,3’),174.8(COOH),25.6,26.7,30.4,34.2(CH2,overlapped with solvent signals),68.2-69.3(CH2O).
【実施例】
【0107】
2.サンプル調製
6穴プレートにAPP-H4細胞を12×10 cells/1.5mLの密度で播種し、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum, FBS; Equitech-Bio, Inc. [Kerrville, TX, USA])、100U/mLペニシリン+100μg/mLストレプトマイシン(Nacalai Tesque, Inc.)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium, DMEM; Nacalai Tesque, Inc.)中で培養した。24時間培養後、培養上清を除去し、血清使用量低減培地Opti-MEM(登録商標) I Reduced Serum Medium(Life Technologies Corporation, Carlsbad, CA, USA)1mLに交換した。そこに試験対象となるポリフェノール誘導体を1μL添加し、さらに48時間培養した。培養後、培養上清を全量1.5mLチューブに回収し、死細胞を除くために4,000×g/4℃/10minで遠心分離し、上清800μLを新しいチューブに移した。培養上清はサンプル調製まで-80℃で保存した。細胞は氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline, PBS)で2回洗浄した。その後、セルスクレーパーを用いてプレートから細胞をかきとった。細胞を1.5mLチューブに回収して4,000×g/4℃/10minで遠心分離を行った後、上清を除き、サンプル調製まで-80℃で保存した。凍結した細胞は氷上において1%Triton X-100、protease inhibitor cocktail CompleteTMEDTA-free(Roche)および50mM Tris-HClを含む40μLの可溶化バッファーで溶解した。細胞溶解物は氷上で60分間インキュベートした後、4℃、21,900×gで30分間遠心分離し上清を回収し、可溶化細胞抽出液とした。
細胞抽出液の総タンパク濃度は、BSAを標準液として用いてBCA protein assay kit(Takara)によって決定した。また、用いた試験化合物の最終濃度は1μM、10μMであり、それぞれの溶媒を対照として定量を行った。
【実施例】
【0108】
3.ネプリライシン活性の測定
細胞抽出液に含まれるネプリライシン依存的中性エンドペプチダーゼ活性は、間接的共役酵素アッセイ法を用いて蛍光定量的に測定した。中性エンドペプチダーゼの基質として、succinyl-Ala-Ala-Phe-7-amino-4-methylcoumarin(suc-AAF-AMC)(I-1315; Bachem)を用いた。最終濃度が基質0.1mM suc-AAF-AMC、細胞抽出液のタンパク質1~6μg、100mM MESバッファー(pH6.5)となるように、合計50μLの反応液を調製した。基質を加えた時点を反応開始として37℃で1時間反応させ、中性エンドペプチダーゼによる基質からのPhe-AMC切り出しを行った.その後、反応液に0.1mg(0.4 units equivalent)/mL leucine aminopeptidase(L-5006; Sigma-Aldrich)、および0.2mMホスホラミドン(4082; Peptide Institute)を含む溶液2.5μLを加えた。37℃で30分間反応させ、アミノペプチダーゼによるPhe-AMCからのPhe(フェニルアラニン)残基の切り出しを行った。microplate spectrometer Infinite M-1000(Tecan)を用いて、half-well size 96-well black plate(#3695; Corning)上で励起波長390nm、蛍光波長460nmを測定することで、遊離したAMCの蛍光強度を測定した。ネプリライシン依存的中性エンドペプチダーゼ活性は,ネプリライシン特異的阻害剤である10μMチオルファン(T-6031;Sigma-Aldrich)による活性の低下に基づいて決定した。
【実施例】
【0109】
4.ネプリライシン、αセクレターゼ及びβセクレターゼ発現量の測定
前記細胞抽出液は、6×SDS-polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)sample buffer(Nacalai Tesque,Inc.)と5:1の割合で混合して5分間煮沸し、ネプリライシン、αセクレターゼ及びβセクレターゼタンパク質の検出サンプルとした。
18穴コームを用いて7.5%アクリルアミドゲルを作製した。電気泳動に使用したラピタス・ミニスラブ電気泳動槽はAtto Corporation(Tokyo,Japan)から、パワーサプライはGE Healthcare UK Ltd.(Buckinghamshire,England)から購入した。
調製したサンプルを20μLずつ用いてSDS-PAGEを行った。濃縮ゲルと分離ゲルの境までは50V定電圧、その後は電圧を100Vに変更し、色素がガラス板から流れるまで泳動した。ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride,PVDF)膜(GE Healthcare UK Ltd.)をメタノールに20秒間浸し、トランスファーバッファーに30分間以上浸してPVDF膜を親水化した。電気泳動後、ゲルをトランスファーバッファーに浸して振盪することによってSDSを除いた。親水化したPVDF膜とゲルを、トランスファーバッファーをしみ込ませた濾紙にはさみ、ゲル中のタンパク質をPVDF膜にタンク方式(Bio-Rad Laboratories,Inc,Hercules,CA,USA)で転写した。
転写後のPVDF膜をウォッシュバッファーで洗浄し、一次抗体の非特異的結合を防ぐためにブロッキングバッファーに浸して室温で1時間ブロッキング反応を行った。その後、一次抗体(anti-CD10 mouse IgG monoclonal antibody [clone 56C6, NCL-CD10-270, Leica Biosystems, Ltd]1μg/mL、またはanti-human neprilysin polyclonal antibody [AF1182, R&D systems., Inc.]1μg/mL;FL-APP,anti-C-terminal region of human APP rabbit polyclonal antibody (A8717, Sigma-Aldrich)1μg/mL;ADAM10,anti-ADAM 10 antibody, C-terminus (AB19031, Merck Millipore);BACE1,anti-BACE (Ab-2)(485-501) polyclonal antibody (PC529, Calbiochem);β-actin,anti-β-actin mouse monoclonal antibody (clone AC15, A5441,Sigma-Aldrich))と反応させて4℃で16時間以上抗原抗体反応を行った。反応後のPVDF膜をウォッシュバッファーで洗浄し、一次抗体に対応する二次抗体horseradish peroxidase conjugated anti-mouseまたはanti-rabbit IgG (1:10,000; GE Healthcare UK Ltd.)を室温で1時間反応させ、ECL Select Western Blotting Detection Kit (GE Healthcare UK Ltd.)を用いて検出を行った。
バンドのシグナル強度はデンシトメーターLAS-4000(GE Healthcare UK Ltd.)および画像解析ソフトScience Laboratory 2003 Image Gauge Version 4.23(Fujifilm Holdings Corporation,Tokyo,Japan)を用いて定量した。
【実施例】
【0110】
5.α及びβセクレターゼ活性の測定
前記培養上清は-80℃から解凍後、6×SDS-polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)sample buffer(Nacalai Tesque,Inc.)と5:1の割合で混合して5分間煮沸し、ウエスタンブロット解析におけるαセクレターゼによるAPPの代謝産物であるAPPsα、およびβセクレターゼによるAPPの代謝産物であるAPPsβの検出サンプルとした。
18穴コームを用いて7.5%アクリルアミドゲルを作製した。電気泳動に使用したラピタス・ミニスラブ電気泳動槽はAtto Corporation(Tokyo,Japan)から、パワーサプライはGE Healthcare UK Ltd.(Buckinghamshire,England)から購入した。
調製したサンプルを20μLずつ用いてSDS-PAGEを行った。濃縮ゲルと分離ゲルの境までは50V定電圧、その後は電圧を100Vに変更し、色素がガラス板から流れるまで泳動した。ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride,PVDF)膜(GE Healthcare UK Ltd.)をメタノールに20秒間浸し、トランスファーバッファーに30分間以上浸してPVDF膜を親水化した。電気泳動後、ゲルをトランスファーバッファーに浸して振盪することによってSDSを除いた。親水化したPVDF膜とゲルを、トランスファーバッファーをしみ込ませた濾紙にはさみ、ゲル中のタンパク質をPVDF膜にタンク方式(Bio-Rad Laboratories,Inc,Hercules,CA,USA)で転写した。
転写後のPVDF膜をウォッシュバッファーで洗浄し、一次抗体の非特的結合を防ぐためにブロッキングバッファーに浸して室温で1時間ブロッキング反応を行った。その後、一次抗体(APPsα,anti-human APPsα mouse monoclonal antibody(2B3, Immuno-Biological Laboratories Co., Ltd.,Gunma,Japan)3μg/mL;APPsβ,anti-APPsβ rabbit polyclonal antibody,1μg/mL)と反応させて4℃で16時間以上抗原抗体反応を行った。反応後のPVDF膜をウォッシュバッファーで洗浄し、一次抗体に対応する二次抗体horseradish peroxidase conjugated anti-mouseまたはanti-rabbit IgG (1:10,000; GE Healthcare UK Ltd.)を室温で1時間反応させ、ECL Select Western Blotting Detection Kit(GE Healthcare UK Ltd.)を用いて検出を行った。
バンドのシグナル強度はデンシトメーターLAS-4000(GE Healthcare UK Ltd.)および画像解析ソフトScience Laboratory 2003 Image Gauge Version 4.23(Fujifilm Holdings Corporation,Tokyo,Japan)を用いて定量した。抗体(rabbit anti-APPsβ)作製には、APPsβのC末端側のアミノ酸配列とハプテン抗原の融合物をウサギに免疫し、精製したものを用いた(Yahata, N., et al., PLoS One. 6(9):e25788. 2011)。
【実施例】
【0111】
6.ネプリライシン、αセクレターゼ及びβセクレターゼmRNA発現量の測定
上記2.と同様にして試験対象となる各ポリフェノール誘導体で処理・培養した細胞からHigh Pure RNA Isolation kit (Roche 11828665001)でtotal RNAを調製し、PrimeScript RT-PCR kit (TaKaRa RR014A)により逆転写反応させリアルタイムPCRのサンプル(cDNA)を得た。
調製したサンプルとPremix Ex taq (Perfect Real Time) (TaKaRaRR039A)とプローブ、プライマーをチューブ(TaKaRa SC910A)で混合し、Smart Cycler II System機(TaKaRa)でリアルタイムPCR反応(初期変性:95℃ 30秒、PCR反応:95℃ 5秒、60℃ 20秒、40 times)を行った。
プローブ及びプライマーセットを下記表2に示す。プローブの5’末端は蛍光物質FAM、3’末端はクエンチャー物質TAMRAでそれぞれ修飾されている。
【実施例】
【0112】
【表2】
JP0006797408B2_000025t.gif
【実施例】
【0113】
7.統計解析
すべての実験データの数値は平均値(mean)±標準偏差(standard deviation, S.D.)で表した。p値はSigma Plot(Systat Software, Inc., Chicago, IL, USA)を用いてone-way ANOVA後、Student-Newman-Keulstestによる多重比較解析により求め、p<0.05で有意とした。【0114】
(結果)
EGCgによるネプリライシン活性増強作用はコントロールの約1.5倍であるのに対してNUP-18では約3.8倍、NUP-11では約3.5倍、NUP-19では約2.7倍、NUP-16では約1.8倍、NUP-E15-1では約2.4倍、NUP-E15-2では約1.5であった(図1)。また、ネプリライシンのタンパク質レベルでの発現量は、NUP-18、NUP-11、NUP-19、NUP-16で、コントロールに対してそれぞれ約3.8倍、約3.3倍、約3.2倍、約1.8倍に増加した(図2)。ネプリライシンのmRNAレベルでの発現量は、NUP-11、NUP-19、NUP-E15-1、NUP-E15-2で、コントロールに対してそれぞれ約4倍、約2.1倍、約2.8倍、約7.9倍に増加した(図3)。
また、EGCgとは構造的に異なるポリフェノールである化合物Amentoflavone、Baicalein、Kaempferol、Apigenin、Chrysin及びHonokiolのネプリライシン活性増強作用を調べたところ、コントロールに対してそれぞれ約2倍、約1.7倍、約1.5倍、約1.5倍、約1.4倍、約1.3であった(図1)。Resveratrolのネプリライシン活性増強作用は、コントロールに対して約1.4倍であった。
また、NUP-16、NUP-18は、αセクレターゼの活性をコントロールに対してそれぞれ約1.7倍、約1.2倍増強した。NUP-18、NUP-11、NUP-19は、βセクレターゼの活性をコントロールに対してそれぞれ約43%、約41%、約37%阻害した。また、細胞外に分泌されたAPPsα/APPsβ比は、NUP-18、NUP-11、NUP-16、NUP-19でコントロールに対してそれぞれ約2.1倍、約2.0倍、約1.6倍、約1.4倍に上昇した(図2)。
mRNAレベルでは、NUP-E15-1はADAM9、ADAM10及びADAM17の発現をそれぞれ約1.8倍、約1.3倍、約2.2倍増加した。ADAM17については、NUP-11、NUP-19、NUP-16、NUP-E15-2でも、コントロールに対してそれぞれ約2.4倍、約1.3倍、約1.2倍、約3.7倍に増加した。
以上の結果より、NUP-16はネプリライシンおよびαセクレターゼの両方の活性を増強するダブルモジュレーター、NUP-11とNUP-19はネプリライシンを増強し、βセクレターゼを阻害するダブルモジュレーター、NUP-18、NUP-E15-1及びNUP-E15-2はネプリライシンおよびαセクレターゼの両方の活性を増強し、かつβセクレターゼを阻害するトリプルモジュレーターであることがわかる。
【実施例】
【0115】
実施例2
1.初代培養神経細胞のネプリライシン活性染色
本法は、細胞膜表面に局在するネプリライシンの量を培養細胞を用いて測定する方法である。Aβは細胞外に分泌されるため、ネプリライシンが細胞膜上に存在すればするほど、効率よくAβの分解除去が可能になる。既報(特開2004-151079;Saito T., Iwata N., et al., Nat. Med. 11(4), 434-439, 2005)に準じ、以下の手順で行った。
マウス胎仔大脳皮質および海馬から調製した神経細胞を培養、固定して、基質で反応させた。反応終了後、アミノペプチダーゼ・ホスホラミドン混合液およびニトロサリチルアルデヒド溶液を順次添加し反応させた。反応終了後の細胞について、共焦点レーザー顕微鏡下でアルゴンレーザーとローダミン用のフィルターを用いて陽性染色像を観察した。より簡便には、蛍光顕微鏡下でFITCフィルターを用いて陽性染色像を観察することも可能である。ネプリライシンにより基質が分解されると不溶性の蛍光反応物が形成され、ネプリライシンの存在部位が黄色(疑似カラーであり、緑色でも良い)に視覚化される。この方法で細胞を染色する際、ネプリライシンの特異的阻害剤であるチオルファンを共存させると、陽性染色像が消失することから、マウス胎仔大脳皮質および海馬の初代培養神経細胞の細胞表面にネプリライシンが存在することが確認できる。
【実施例】
【0116】
2.各種化合物によるネプリライシン酵素活性の誘導
マウス胎仔大脳皮質および海馬から調製した神経細胞を培養し、培養7日目から21目に、所定の濃度で下記試験化合物を個々に添加し、さらに48時間培養した。培養終了後、上記1.で示した方法により、マウス初代培養神経細胞のネプリライシン活性を視覚化して観察した。染色像を画像解析ソフトウェア(MetaMorph,ver. 7.7 (Universal Imaging Corporation, Downington, PA))により定量化して検討した。非添加(ネガティブコントロール:DMSO)の細胞のシグナル強度を1とし、各試験化合物についての結果を相対的に表した。結果を図4に示す。また、ソマトスタチンは、内在性のネプリライシンの活性調節分子であることが知られており、ポジティブコントロールとして用いた。
(試験化合物)
第1群
NUP-6、NUP-11、NUP-19、NUP-16、NUP-15、NUP-18、EGCg
いずれの化合物も実施例1と同様にして調製し、最終濃度10μMで試験した。結果を図4Aに示す。
第2群
Honokiol、Apigenin、Kaempferol、Baicalein、Chrysin、Amentoflavone、NUP-E15-1、NUP-E15-2
いずれの化合物も実施例1と同様にして調製し、最終濃度10μMで試験した。結果を図4Bに示す。
第3群
Minocycline(5μM)、Pioglitazone(10μM)、Rosiglitazone(10μM)、Chlorpromazine(10μM)、Resveratrol(10μM)、Somatostatin(1μM)、DYRK inhibitor Harmine(1μM)
いずれも市販品を用いて、DMSOに溶解して、カッコ内に示した最終濃度で試験した。結果を図4Cに示す。
【実施例】
【0117】
3.結果
図4A~Cに、活性染色法により測定したネプリライシン活性の結果を示す。図5は、図1、2、3、4A~Cの結果に基づき、各ポリフェノール誘導体についての、各要素の変動を模式的に示した図である。
図4A及びBより本発明のポリフェノール誘導体で処理した場合、細胞膜へ移行したネプリライシンが増加すること、即ち、本発明のポリフェノール誘導体が、ネプリライシンの細胞膜へ輸送を促進することがわかった。Aβは細胞外に分泌されるため、ネプリライシンが細胞膜上に存在すればするほど効率よくAβの分解除去が可能になる。従って、ネプリライシンの細胞表面への顕在化を促進する作用を有し、分泌されたAβを効率よく分解するように働く本発明のポリフェノール誘導体はアルツハイマー病の予防及び/又は治療に有用である。
図4Cより、Minocycline、Pioglitazone、Rosiglitazone、Chlorpromazine、Resveratrol、Somatostatin、及びDYRK inhibitor Harmineといった一連の化合物がネプリライシン活性増強作用を有することが確認された。
【実施例】
【0118】
実施例3
βセクレターゼ阻害剤及びγセクレターゼ阻害剤との併用によるカクテル療法
試験化合物としては、本発明のポリフェノール誘導体であるNUP-11(実施例1で調製;10μM)を用いた。βセクレターゼ阻害剤としてβ-secretase inhibitor IV (N-[(1S, 2R)-1-benzyl-3-(cyclopropylamino)-2-hydroxypropyl]-5-[methyl(methylsulfonyl)amino-N’-[(1R)-1-phenylethyl]isophthalamide(Merck KGaA;0.1μM)、γセクレターゼ阻害剤としてCompound E((S,S)-2-[2-(3,5-difluorophenyl)-acetylamino]-N-(1-methyl-2-oxo-5-phenyl-2,3-dihydro-1H-benzo[e][1,4]diazepin-3-yl)-propionamide)(Merck KGaA;0.1nM)を用いた。また、NUP-11(10μM)、β-secretase inhibitor IV(0.1μM)及びCompound E(0.1nM)の3種全てを用いてカクテル療法を実施した。
実施例1と同様にして各試験化合物で処理した細胞の細胞抽出液中のAPPsα産生量、APPsβ産生量及びAPPsα/APPsβの割合を測定した。結果、本発明のポリフェノール誘導体は、低濃度のβセクレターゼ阻害剤及びγセクレターゼ阻害剤と併用して、培養細胞に添加することでAPPsαレベルを上昇させ、APPsβレベルを低下させた(図6)。
さらにカクテル療法のアミロイドβ産生抑制効果について調べた。
実施例1と同様にしてNUP-11、β-secretase inhibitor IV及びCompound Eの3種全てで同時に処理した細胞を用いて細胞抽出液を調製し、該抽出液中のAβ量を測定した。
Aβ産生は、既報(Iwata N., et al., J Neurosci 24(4), 991-998, 2004)に準じ、BNT77/BA27モノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法によりAβ1-40の量を測定することにより評価した。結果を図7に示す。
結果、本発明のポリフェノール誘導体、βセクレターゼ阻害剤及びγセクレターゼ阻害剤を用いたカクテル療法は優れたアミロイドβ産生抑制作用を示した。
【実施例】
【0119】
実施例4
脳内注入によるin vivoデータ
本発明のポリフェノール誘導体を直接脳内に注入し、そのネプリライシン活性に及ぼす影響を調べた。
既報(Iwata N., et al., J Neurosci 24(4), 991-998, 2004)に準じ、本発明のポリフェノール誘導体を所定の濃度で脳室内投与し、投与後の海馬組織から細胞抽出液を調製し、実施例1と同様にしてネプリライシン活性を測定することにより評価した。結果を図8に示す。
結果、本発明のポリフェノール誘導体は、in vivoにおいても優れたネプリライシン活性増強効果を示した。
【配列表フリ-テキスト】
【0120】
配列番号1:合成基質
配列番号2:合成基質
配列番号3:Hs_MME-プローブ
配列番号4:Hs_MME-プライマー(フォワード)
配列番号5:Hs_MME-プライマー(リバース)
配列番号6:Hs_ADAM9-プローブ
配列番号7:Hs_ADAM9-プライマー(フォワード)
配列番号8:Hs_ADAM9-プライマー(リバース)
配列番号9:Hs_ADAM10-プローブ
配列番号10:Hs_ADAM10-プライマー(フォワード)
配列番号11:Hs_ADAM10-プライマー(リバース)
配列番号12:Hs_ADAM17-プローブ
配列番号13:Hs_ADAM17-プライマー(フォワード)
配列番号14:Hs_ADAM17-プライマー(リバース)
配列番号15:Hs_BACE1-プローブ
配列番号16:Hs_BACE1-プライマー(フォワード)
配列番号17:Hs_BACE1-プライマー(リバース)
配列番号18:Hs_GAPDH-プローブ
配列番号19:Hs_GAPDH -プライマー(フォワード)
配列番号20:Hs_GAPDH -プライマー(リバース)
【産業上の利用可能性】
【0121】
加齢依存的に脳内のネプリライシンレベルが低下すること、及びAD脳でネプリライシンレベルが低下すること、に示唆されるように、AD発症過程や加齢に伴う脳内Aβレベルの上昇はネプリライシン活性の低下に起因する可能性がある。本発明はこのようなネプリライシン活性の低下を阻害する(ネプリライシン活性を増強する)ことで脳内のAβ蓄積を抑制してAD発症を予防し、又治療することが可能となる。
また、本発明のポリフェノール誘導体は食品や飲料に含めることにより健康食品・特定保健用食品として有用である。
【0122】
本出願は、日本で出願された特願2014-226236(出願日2014年11月6日)及び特願2015-196282(出願日2015年10月1日)を基礎としておりそれらの内容は本明細書に全て包含されるものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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