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明細書 :放射性セシウム吸着剤、その製造方法、および放射性セシウムの除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6656671号 (P6656671)
公開番号 特開2017-207352 (P2017-207352A)
登録日 令和2年2月7日(2020.2.7)
発行日 令和2年3月4日(2020.3.4)
公開日 平成29年11月24日(2017.11.24)
発明の名称または考案の名称 放射性セシウム吸着剤、その製造方法、および放射性セシウムの除去方法
国際特許分類 G21F   9/12        (2006.01)
G21F   9/16        (2006.01)
G21F   9/30        (2006.01)
B01J  20/02        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
C01C   3/12        (2006.01)
FI G21F 9/12 501B
G21F 9/12 501J
G21F 9/16 521B
G21F 9/30 515A
B01J 20/02 A
B01J 20/30
C01C 3/12
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2016-099442 (P2016-099442)
出願日 平成28年5月18日(2016.5.18)
審査請求日 平成31年4月11日(2019.4.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
発明者または考案者 【氏名】市川 恒樹
【氏名】山田 一夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100141966、【弁理士】、【氏名又は名称】新井 範彦
【識別番号】100103539、【弁理士】、【氏名又は名称】衡田 直行
審査官 【審査官】小林 直暉
参考文献・文献 特開2014-142264(JP,A)
特開2016-45017(JP,A)
特開2015-34811(JP,A)
特開2016-50133(JP,A)
特開2013-170948(JP,A)
特開2015-147860(JP,A)
調査した分野 B01J20/00-20/281
20/30-20/34
G21F9/00-9/36
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを含む放射性セシウム吸着剤。
Cs(4/m-x/m-2/m)[NiFe(CN)]・・・・・・(1)
(上記(1)式において、xは0.1~1.0の実数を表し、Mはセシウム以外の正電荷を有するアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを表し、mは1または2の整数を表す。)
【請求項2】
下記(a)~(c)から選ばれるいずれか1つのフェロシアン化ニッケルの生成工程と、
該生成したフェロシアン化ニッケルとセシウム塩の水溶液を混合して、フェロシアン化ニッケルに、セシウムイオンをイオン交換により吸着させて、下記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを生成させる、セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程を、
少なくとも含む、放射性セシウム吸着剤の製造方法。
[フェロシアン化ニッケルの生成工程]
(a)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(b)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、固体状のフェロシアン化金属塩を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(c)固体状のニッケル塩と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
[セシウム含有フェロシアン化ニッケル]
Cs(4/m-x/m-2/m)[NiFe(CN)]・・・・・・(1)
(上記(1)式において、xは0.1~1.0の実数を表し、Mはセシウム以外の正電荷を有するアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを表し、mは1または2の整数を表す。)
【請求項3】
前記セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程において、セシウム/フェロシアン化金属塩の混合比(モル比)が0.1~1.0である、請求項2に記載の放射性セシウム吸着剤の製造方法。
【請求項4】
セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中の放射性セシウム)のモル比が10以上となるように、請求項1に記載の放射性セシウム吸着剤と、放射性セシウム含有水を混合して、該放射性セシウム含有水中のセシウムを吸着して除去する、放射性セシウムの除去方法。
【請求項5】
さらに、放射性セシウムを吸着した放射性セシウム吸着剤(ただし、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比は0.75以上)、または該吸着剤を含む放射性セシウム含有水と、セメントを混合して固型化する、請求項4に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項6】
セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中のセシウム)のモル比が10以上となるように、放射性セシウム含有水、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.75以上の請求項1に記載の放射性セシウム吸着剤、およびセメントを混合して固型化する、放射性セシウムの除去方法。
【請求項7】
前記放射性セシウム含有水が、放射性セシウムを含む焼却灰の含水物、放射性セシウムを含む焼却灰のスラリー、放射性セシウムを含む焼却灰の洗浄水、または放射性セシウムを含む焼却灰からの漏出水から選ばれる1種以上である、請求項4~6のいずれか1項に記載の放射性セシウムの除去方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウムイオンなどの多種類の金属イオンが多量に存在する強アルカリ性の水中でも、放射性セシウムイオンを選択的に吸着できる放射性セシウム吸着剤、該吸着剤の製造方法、および該吸着剤を用いた放射性セシウムの吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の事故により、放射性セシウム(セシウム137とセシウム134)が広範囲に飛散したため、福島県に留まらず首都圏の焼却場でも、放射性セシウムで汚染された土壌や、放射性セシウムが濃縮した焼却灰が大量に発生するようになった。
この放射性セシウムの漏洩や拡散を阻止するには、放射性セシウムを含む土壌や焼却灰(以下「放射性セシウム汚染物」ということもある。)を、安全対策が施された保管施設に収納する方法が有効である。しかし、現状では保管施設の建設用地の取得が難しいため、放射性セシウム汚染物の多くは発生場所の近辺に仮置きされたままである。したがって、現在、放射性セシウム汚染物を安全に保管・処理することが、解決すべき喫緊の社会的課題になっている。
【0003】
もっとも、放射性セシウム汚染物でも、放射性セシウムを除去すれば、通常の非放射能汚染廃棄物と同等に扱えるから、廃棄処理が容易になる。
従来、放射性セシウム汚染物から放射性セシウムを除去する方法は、放射性セシウム汚染物に水溶液を加えて処理する湿式処理と、該汚染物に化学薬品を加えて加熱処理する乾式処理が知られている。しかし、焼却灰に多く含まれるカリウムは、同じアルカリ金属であるセシウムと化学的性質が似ているため、前記除去方法では、放射性セシウムだけを分離して回収することができず、その結果、回収した放射性セシウムは、セシウムの総量の数万~数十万倍ものカリウムを含むことになる。また、焼却灰は水酸化カルシウム等のアルカリ性化合物を多く含むため、強アルカリ性を示す。
したがって、放射性セシウムで汚染された焼却灰から放射性セシウムを除去する上で、放射性セシウム吸着剤に必要な性能は、セシウムに対して数万~数十万倍のカリウムが存在する状況でも、放射性セシウムを選択的に吸着でき、かつ、強アルカリ性でも、吸着した放射性セシウムが吸着剤から離脱しないことである。かかる性能を有する放射性セシウム吸着剤なら、焼却灰からの放射性セシウムの吸着のほか、放射性セシウムを吸着した吸着剤に、セメントと水を加えて固型化した後、該セメント固型化物を安全に廃棄処理する方法(セメント固型化法)が適用できる可能性がある。このセメント固型化法は、廃棄物を簡便に固型化処理できるが、セメント固型化物はpH14程度の強アルカリ性を呈する場合があるから、セメント固型化法に用いる放射性セシウム吸着剤は、pH14程度の高い耐アルカリ性が要求される。
【0004】
ところで、本発明者らは、フェロシアン化物溶液とニッケル塩溶液を混合して得られる、非水溶性の固体であるフェロシアン化ニッケルは、前記の性能を有すること(特許文献1)、また、フェロシアン化金属塩の濃厚溶液と、ニッケル塩の濃厚溶液若しくは固体状のニッケル塩、または、固体状のフェロシアン化金属塩とニッケル塩の濃厚溶液を、撹拌することなく接触させて接触界面に生じるフェロシアン化ニッケルは、耐アルカリ性がさらに向上すること(特許文献2)を見出し、放射性セシウムの選択的吸着性と耐アルカリ性に優れた放射性セシウム吸着剤を提案した。
しかし、特許文献2で提案したフェロシアン化ニッケルの耐アルカリ性は、pH13程度はあるもののpH14まではないため、該フェロシアン化ニッケルを、pH14程度になる放射性セシウム汚染物やセメント固型化法に用いると、フェロシアン化ニッケルが分解して、放射性セシウムを吸着できないおそれがあった。そのため、該フェロシアン化ニッケルを、pHが13.3を超える放射性セシウム汚染物等に使用する際は、塩化カルシウムなどのpH降下剤を添加してpHを調整する必要があった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2013-231742号公報
【特許文献2】特開2016-45017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、特許文献2に記載のフェロシアン化ニッケル(放射性セシウム吸着剤)の利点を生かしつつ、さらに耐アルカリ性を高めた放射性セシウム吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的にかなう放射性セシウム吸着剤を検討したところ、複数種あるカチオンの一つとしてセシウムを含むセシウム含有フェロシアン化ニッケルは、耐アルカリ性がさらに向上し、かつ、放射性セシウムを選択的に吸着できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記の構成を有する放射性セシウム吸着剤である。
【0008】
[1]下記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを含む放射性セシウム吸着剤。
Cs(4/m-x/m-2/m)[NiFe(CN)]・・・・・・(1)
(上記(1)式において、xは0.1~1.0の実数を表し、Mはセシウム以外の正電荷を有するアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを表し、mは1または2の整数を表わす。)
[2]下記(a)~(c)から選ばれるいずれか1つのフェロシアン化ニッケルの生成工程と、該生成したフェロシアン化ニッケルとセシウム塩の水溶液を混合して、フェロシアン化ニッケルに、セシウムイオンをイオン交換により吸着させて、前記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを生成させる、セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程を、
少なくとも含む、放射性セシウム吸着剤の製造方法。
[フェロシアン化ニッケルの生成工程]
(a)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(b)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、固体状のフェロシアン化金属塩を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(c)固体状のニッケル塩と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
[3]前記セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程において、セシウム/フェロシアン化金属塩の混合比(モル比)が0.1~1.0である、前記[2]に記載の放射性セシウム吸着剤の製造方法。
[4]セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中のセシウム)のモル比が10以上となるように、前記[1]に記載の放射性セシウム吸着剤と、放射性セシウム含有水を混合して、該放射性セシウム含有水中の放射性セシウムを吸着して除去する、放射性セシウムの除去方法。
[5]さらに、放射性セシウムを吸着した放射性セシウム吸着剤(ただし、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比は0.75以上)、または該吸着剤を含む放射性セシウム含有水と、セメントを混合して固型化する、前記[4]に記載の放射性セシウムの除去方法。
[6]セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中の放射性セシウム)のモル比が10以上となるように、放射性セシウム含有水、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.75以上の前記[1]に記載の放射性セシウム吸着剤、およびセメントを混合して固型化する、放射性セシウムの除去方法。
[7]前記放射性セシウム含有水が、放射性セシウムを含む焼却灰の含水物、放射性セシウムを含む焼却灰のスラリー、放射性セシウムを含む焼却灰の洗浄水、または放射性セシウムを含む焼却灰からの漏出水から選ばれる1種以上である、前記[4]~[6]のいずれかに記載の放射性セシウムの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放射性セシウム吸着剤は、強アルカリ性の水中でも分解し難く、かつ放射性セシウムを選択的に吸着できる。そのため、放射性セシウムを吸着した吸着剤や、該吸着剤を含む放射性セシウム含有水を、そのままセメントを用いて固型化して得たセメント固型化物は、該固型化物からのセシウムの漏洩を抑制できるから、安全に廃棄処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】放射性セシウム吸着剤のセシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比と、該放射性セシウム吸着剤の耐アルカリ性の関係を示す図である。
【図2】放射性セシウム吸着剤/水中のセシウムのモル比と、セシウムの除去率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、放射性セシウム吸着剤、放射性セシウム吸着剤の製造方法、および放射性セシウムの除去方法に分けて詳細に説明する。

【0012】
1.放射性セシウム吸着剤
本発明の放射性セシウム吸着剤は、下記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを含むものである。
Cs(4/m-x/m-2/m)[NiFe(CN)]・・・・・・(1)
(上記(1)式において、xは0.1~1.0の実数を表し、Mはセシウム以外の正電荷を有するアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを表し、mは1または2の整数を表す。)
ここで、前記xが0.1未満では耐アルカリ性が充分でなく、1.0を超えるとセシウムの吸着効果が低下するおそれがある。なお、該xは、好ましくは0.2~0.9、より好ましくは0.25~0.8、さらに好ましくは0.3~0.7である。
なお、セシウム含有フェロシアン化ニッケルのアルカリ分解反応は、下記反応式により表される。
CsxM(4/m-x/m-2/m)[NiFe(CN)6] +2OH → xCs+ + (8-x)Mm+ + Ni(OH)2 + Fe(CN)64-
また、Mは、セシウムとのイオン交換能が高いことから、正電荷を有するアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンであり、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム等から選ばれる1種以上が挙げられる。
なお、本発明の放射性セシウム吸着剤は、セシウム含有フェロシアン化ニッケルのほかに、pHを調整する必要がある場合は、塩化カルシウム等のpH降下剤を含んでもよい。

【0013】
2.放射性セシウム吸着剤の製造方法
本発明の放射性セシウム吸着剤の製造方法は、下記(a)~(c)から選ばれるいずれか1つのフェロシアン化ニッケルの生成工程と、該生成したフェロシアン化ニッケルとセシウム塩の水溶液を混合して、フェロシアン化ニッケルに、セシウムイオンをイオン交換により吸着させて、前記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを生成させる、セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程を、少なくとも含む製造方法である。
以下、フェロシアン化ニッケルの生成工程と、セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程に分けて説明する。

【0014】
(1)フェロシアン化ニッケルの生成工程
該工程は、下記(a)~(c)のいずれかの工程である。
(a)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(b)0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のニッケル塩の水溶液と、固体状のフェロシアン化金属塩を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程
(c)固体状のニッケル塩と、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度のフェロシアン化金属塩の水溶液を、撹拌せずに接触させた後、静置してフェロシアン化ニッケルを生成させる工程

【0015】
前記(a)工程は、ニッケル塩の水溶液とフェロシアン化金属塩の水溶液とを接触静置させる液-液反応による工程である。該工程では、フェロシアン化ニッケルの結晶成長速度が遅いため、格子欠陥が少なく化学的に安定で、耐アルカリ性の高いフェロシアン化ニッケルが得られると推察する。また、前記ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。
また、前記(b)工程は、ニッケル塩の水溶液と固体状のフェロシアン化金属塩とを、また前記(c)工程は、固体状のニッケル塩とフェロシアン化金属塩の水溶液とを、いずれも、接触静置させる固-液反応による工程である。当該工程では、ニッケルカチオンとフェロシアンアニオンの接触界面が小さいため、フェロシアン化ニッケルの生成速度が極めて遅く、その結果、生成するフェロシアン化ニッケルの結晶粒子内の格子欠陥が少なくなるため、該粒子は耐アルカリ性が高まるものと推察する。また、前記(b)工程および(c)工程における、ニッケル塩の水溶液およびフェロシアン化金属塩の水溶液の濃度は、0~100℃の液温における飽和水溶液濃度の10~100%の濃度、好ましくは50~100%の濃度である。
なお、前記ニッケル塩は水溶性であれば特に制限されず、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、および硝酸ニッケル等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、前記フェロシアン化金属塩も水溶性であれば特に制限されず、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、およびフェロシアン化カルシウム等から選ばれる1種以上が挙げられる。

【0016】
(2)セシウム含有フェロシアン化ニッケルの生成工程
該工程は、フェロシアン化ニッケルとセシウム塩の水溶液を混合して、フェロシアン化ニッケルに、セシウムイオンをイオン交換により吸着させて、前記(1)式に示すセシウム含有フェロシアン化ニッケルを生成させる工程である。
該工程において、セシウムイオンとフェロシアン化ニッケルの混合比は、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比で0.1~1.0である。該比が0.1~1.0の範囲であれば、フェロシアン化ニッケルはセシウムイオンをほぼすべて吸着するため、前記(1)式のxが0.1~1.0であるセシウム含有フェロシアン化ニッケルが生成する。
なお、前記セシウム塩は水溶性であれば特に制限されず、塩化セシウム、硫酸セシウム、および硝酸セシウム等から選ばれる1種以上が挙げられる。

【0017】
3.セシウムの除去方法
該除去方法の第一は、セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中のセシウム)のモル比が10以上となるように、放射性セシウム含有水と、前記放射性セシウム吸着剤を混合して、該放射性セシウム含有水中の放射性セシウムを吸着して除去する方法である。該モル比が10以上であれば、後掲の図2に示すように、放射性セシウムの除去率は87%以上になる。なお、該モル比は、好ましくは20以上、より好ましくは50以上である。
また、該除去方法の第二は、さらに、放射性セシウムを吸着してセシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.75以上になった放射性セシウム吸着剤、または該吸着剤を含む放射性セシウム含有水と、セメントを混合して固型化する方法である。該モル比が0.75以上であれば、放射性セシウムを吸着したセシウム含有フェロシアン化ニッケルは、後掲の表1に示すように、pH14でも分解しないため、セメント固型化法が適用できる。
また、該除去方法の第三は、セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中の放射性セシウム)のモル比が10以上となるように、放射性セシウム含有水、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.75以上の放射性セシウム吸着剤、およびセメントを混合して固型化する方法である。該方法によれば、放射性セシウム吸着剤は分解することなく放射性セシウムを吸着でき、また放射性セシウム含有水は一括してセメントにより固型化できるから、より簡便である。また、セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(放射性セシウム含有水中の放射性セシウム)のモル比が10以上の場合、該モル比は人為的に加えた非放射性セシウム(セシウム含有フェロシアン化ニッケル中のセシウム)の量により決まる。
もっとも、フェロシアン化ニッケルを用いて、セシウムの吸着量を人為的に高める方法として2つある。
その第一の方法は、除去対象物の放射性セシウムをフェロシアン化ニッケルに吸着させる際にpHが高い場合、そのpHに応じてフェロシアン化ニッケルに部分的に非放射性セシウムを吸着させて放射性セシウム吸着剤を製造し、これを用いて除去対象物の放射性セシウムを吸着させる方法である。この方法は非放射性セシウムを前もって吸着させるため、吸着した非放射性セシウムの分、除去対象物の放射性セシウムを吸着させるのに必要な放射性セシウム吸着剤の量は多くなる。
その第二の方法は、フェロシアン化ニッケルをそのまま用いて除去対象物の放射性セシウムを吸着させ、放射性セシウムを吸着したセシウム含有フェロシアン化ニッケルにさらに非放射性セシウムを吸着する方法である。この方法は、除去対象物の放射性セシウムを放射性セシウム吸着剤に吸着させる際のpHが高くはないが、放射性ニッケルを吸着した放射性セシウム吸着剤をセメントによる固型化のように高アルカリ性雰囲気下で保存する場合に有効である。

【0018】
本発明において用いるセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、石炭灰含有セメント、およびエコセメントから選ばれる1種以上が挙げられる。
また、セメントの混合量は、水/セメント比(質量比)で示せば、好ましくは5~100%であり、放射性セシウム含有水の質量部を基準にして示せば、放射性セシウム含有水100質量部に対し、好ましくは500~1000質量部である。特に、固型化の対象物が、セシウムを含む焼却灰の含水物である場合、放射性セシウムを含む焼却灰の含水物100質量部に対し、好ましくはセメント5~100質量部であり、これを水/セメント比(質量比)で示せば、好ましくは5~100%である。該混合量が該範囲にあれば、焼却灰の防塵や減容化が可能である。放射性セシウム含有水とセメントの混合方法は特に制限されず、また、混合装置は、強制練りミキサ、混練造粒機、混練押出機等が使用できる。また、成型方法は、放射性セシウム含有水とセメントの混合物のレオロジー特性に応じて、例えば、流し込み、振動締固め、および転圧等の方法から選択することができる。
なお、前記放射性セシウム含有水は、放射性セシウムを含む焼却灰の含水物、放射性セシウムを含む焼却灰のスラリー、放射性セシウムを含む焼却灰の洗浄水、または放射性セシウムを含む焼却灰からの漏出水から選ばれる1種以上が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.放射性セシウム吸着剤の製造
0.6M(1M=1mol/dm3)のフェロシアン化カリウム水溶液2ミリリットルと、1.4Mの塩化ニッケル水溶液1ミリリットルを、撹拌せずに接触させた後、1昼夜静置して、中間原料であるフェロシアン化ニッケル1.2ミリモルを含む懸濁液3ミリリットルを製造した。次に、該フェロシアン化ニッケルを、4種類の濃度の非放射性の塩化セシウム水溶液97ミリリットルに、撹拌して懸濁させて、セシウム/フェロシアン化ニッケル(Cs/NiFeCN)のモル比(x)が、それぞれ0.10、0.20、0.25、および0.30の放射性セシウム吸着剤(セシウム含有フェロシアン化ニッケル、ただし、前記(1)式中、m=1である。)を1.2ミリモル含む懸濁液100ミリリットルを製造した(以下、この方法を「非撹拌・接触法」という。)。
また、比較のために、0.2Mのフェロシアン化カリウム水溶液6ミリリットルと0.2Mの塩化ニッケル水溶液6ミリリットルを、撹拌しながら加えて、フェロシアン化ニッケルの懸濁液を得た後、これに4.1×10-3Mの塩化セシウム水溶液88ミリリットルを加えて、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比(x)が0.3のセシウム含有フェロシアン化ニッケルを1.2ミリモル含む懸濁液100ミリリットルを製造した(以下、この方法を「撹拌・混合法」という。)。
なお、使用したフェロシアン化カリウム、塩化ニッケル、および塩化セシウムはすべて特級試薬である。
【実施例】
【0020】
2.放射性セシウム吸着剤の耐アルカリ性
(1)セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比および製造方法の違いと耐アルカリ性
セシウム/フェロシアン化ニッケルが前記各モル比の放射性セシウム吸着剤の懸濁液100ミリリットルに、水酸化カルシウム約200mgを加えて、水酸化カルシウム飽和懸濁液を作製した。次に、該水溶液を40℃で保管して、放射性セシウム吸着剤のアルカリ分解により生じるFe(CN)64-イオンの濃度の経時変化を、過マンガン酸カリウムを用いて酸化還元滴定により求めた。Fe(CN)64-イオンの濃度の経時変化は図1に示す。
図1に示すように、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比(Cs/NiFeCN)が高くなるほど、水酸化カルシウムによる放射性セシウム吸着剤のアルカリ分解速度は低下し、該比が0.3では放射性セシウム吸着剤は分解しない。そして、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が同じ0.3のセシウム含有フェロシアン化ニッケルでも、前記非撹拌・接触法で製造した本発明の放射性セシウム吸着剤(△印)は、撹拌・混合法で製造した放射性セシウム吸着剤(◎印)と比べ、耐アルカリ性は格段に高い。
【実施例】
【0021】
(2)セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比とセシウム含有フェロシアン化ニッケルが分解するpHの関係
水酸化カルシウム飽和水溶液のpH以外で、セシウム含有フェロシアン化ニッケルの耐アルカリ性を知るため、前記と同様に、非撹拌・接触法で製造したフェロシアン化ニッケル1.2ミリモルを含む懸濁液3ミリリットルを、5種類の濃度の非放射性の塩化セシウム水溶液47ミリリットルに、撹拌して懸濁させ、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比(x)が、それぞれ0.15、0.30、0.50、0.75および1.00の放射性セシウム吸着剤の懸濁液50ミリリットルを製造した。これに各種濃度の水酸化ナトリウム50ミリリットルを撹拌しながら加えて、全量を100ミリリットルとした後、該混合液を、前記と同様に、40℃の恒温槽中に1か月間放置し、アルカリ分解で生じるFe(CN)64-イオンの有無を、過マンガン酸カリウムを用いた酸化還元滴定で確認した。その結果を表1に示す。
【実施例】
【0022】
【表1】
JP0006656671B2_000002t.gif
【実施例】
【0023】
表1に示すように、セシウム/フェロシアン化ニッケル(Cs/NiFeCN)のモル比が0.75以上の放射性セシウム吸着剤(試験例4、5)は、pH14でも分解せず、極めて高い耐アルカリ性を有する。したがって、本発明の放射性セシウム吸着剤は、セシウムを吸着してセシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.75以上になれば、pH14程度にまでなるセメント固型化法で固型化処理しても分解しないから、セメント固型化法に好適である。
【実施例】
【0024】
3.放射性セシウム吸着剤の除去試験
(1)焼却飛灰からの模擬漏出液の作製
焼却飛灰からの模擬漏出液として、焼却飛灰に含まれる各種の塩の混合液を作製した。
具体的には、最終水溶液組成として、塩化セシウム(極微量のセシウム137を含む)の濃度が10-4M、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化カルシウムの濃度が各1Mになるように各塩を添加して作製した水溶液に、水酸化カルシウム粉末を添加して攪拌し、水酸化カルシウムが懸濁して飽和した焼却飛灰からの模擬漏出液を作製した。なお、ここで使用した塩化セシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化カルシウムはすべて特級試薬である。
【実施例】
【0025】
(2)放射性セシウム吸着剤の製造とセシウムの除去試験
0.6Mのフェロシアン化カリウム水溶液と1.4Mの塩化ニッケル水溶液を、体積比2:1で、撹拌せずに接触させた後、1日静置してセシウム含有フェロシアン化ニッケルの懸濁液を製造した。次に、該懸濁液に、各種の濃度の塩化セシウム水溶液を撹拌しながら加えて、セシウム/フェロシアン化ニッケルのモル比が0.35のセシウムを含有するセシウム含有フェロシアン化ニッケルの懸濁液を製造した。
さらに、前記セシウム含有フェロシアン化ニッケルの懸濁液を、前記模擬漏出液に、セシウム含有フェロシアン化ニッケル/(模擬漏出液中のセシウム)のモル比が10、20、50、70、および100になるように加えて、室温で2週間撹拌した後、水中のセシウムの濃度をシンチレーションカウンターにより測定し、セシウムの除去率を下記式により求めた。図2に放射性セシウム吸着剤/模擬漏出液中のセシウムのモル比と、セシウムの除去率の関係を示す。
セシウムの除去率(%)=100×(懸濁液添加前の水中のセシウムの濃度-懸濁液添加後の水中のセシウムの濃度)/懸濁液添加前の水中のセシウムの濃度
【実施例】
【0026】
図2に示すように、セシウム含有フェロシアン化ニッケル/模擬漏出液中のセシウムのモル比が10以上であれば、セシウムの除去率は87%以上になり、特に該比が50以上であれば、97%以上のセシウムを除去できる。
図面
【図1】
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【図2】
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