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明細書 :酸素検出剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6274585号 (P6274585)
公開番号 特開2017-203719 (P2017-203719A)
登録日 平成30年1月19日(2018.1.19)
発行日 平成30年2月7日(2018.2.7)
公開日 平成29年11月16日(2017.11.16)
発明の名称または考案の名称 酸素検出剤
国際特許分類 G01N  31/00        (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
G01N  31/22        (2006.01)
C07C 211/61        (2006.01)
FI G01N 31/00 L
C09K 11/06
G01N 31/22 122
C07C 211/61
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2016-096349 (P2016-096349)
出願日 平成28年5月12日(2016.5.12)
審査請求日 平成29年4月3日(2017.4.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
発明者または考案者 【氏名】内山 洋介
【氏名】丸山 弘子
【氏名】川上 文貴
【氏名】澤村 維宏
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 特公平06-064046(JP,B2)
特公平05-032701(JP,B2)
特開2008-096360(JP,A)
特開平06-180287(JP,A)
特開平04-221745(JP,A)
J Fluoresc,2013年,Vol.23,Page.425-437
J Appl Spectrosc,2009年 5月,Vol.76 No.3,Page.319-324
Tetrahedron,1980年,Vol.36 No.17,Page.2453-2457
J Phys Chem A,2014年12月11日,Vol.118 No.49,Page.11512-11520
調査した分野 G01N 31/00
C09K 11/06
G01N 31/22
C07C 211/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
9-アミノアントラセン(9AA)又はその誘導体を有効成分として含有する、酸素検出剤。
【請求項2】
酸素が存在しない領域の可視化用である、請求項1に記載の酸素検出剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素検出剤及びその使用に関する。より具体的には、酸素検出剤、9-アミノアントラセン(以下、「9AA」という場合がある。)又はその誘導体の安定化剤、蛍光組成物、9AA又はその誘導体の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光物質には、天然の動植物から抽出された天然物と人工的に合成された非天然物が存在する。天然物は、大量の動植物から選択的に抽出しなければならないため、大量に得ることが困難な場合があるが、非天然物は、人工的な合成により大量に得ることが比較的容易である。
【0003】
非天然物の緑色蛍光物質の1つとして、下記式(1)で表される9-アミノアントラセン(以下、「9AA」という場合がある。)が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。9AAは、波長約420nmの励起光を照射すると、波長約510nmの蛍光を発する化合物である。9AAは、カラムクロマトグラフィーや再結晶等による分離を必要としない方法により、研究室レベルでも数10gのオーダーで合成することができる。このため、工場レベルで大量生産することにより安価に提供することができる。
【0004】
【化1】
JP0006274585B2_000002t.gif

【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】H. Prichystalova, et al., N-Triazinyl Derivatives of 1- and 9-aminoanthracene: Synthesis and Photo-Physical Properties, J. Fluoresc., 23, 425-437, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、9AA又はその誘導体は、不安定で徐々に分解し、例えば大気中では数十秒で退色するため、その利用が限られている。そこで、本発明は、9AA又はその誘導体の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]9-アミノアントラセン(9AA)又はその誘導体を有効成分として含有する、酸素検出剤。
[2]低酸素領域の可視化用である、[1]に記載の酸素検出剤
]9AA又はその誘導体が存在する環境から酸素を除去する工程を備える、9AA又はその誘導体の安定化方法。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、9AA又はその誘導体の酸素検出剤としての用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、実験例1において、酸素の非存在下で16、24、72時間放置後のサンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。(d)、(e)、(f)、(g)は、それぞれ、実験例1において、酸素の存在下で1.5、16、24、72時間放置後のサンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図2】(a)は、実験例2における、エタノールアミンを添加したサンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。(b)は実験例2における、対照サンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[9AAの分解過程]
発明者らは、9AAの分解過程をH NMR測定により追跡した。下記スキーム(1)に、発明者らが追跡した9AAの分解過程を示す。スキーム(1)に示すように、9AAは酸化によりアントラキノンモノイミン(以下、「AQNH」という場合がある。)に変換され、更にAQNHは加水分解によりアントラキノン(以下、「AQ」という場合がある。)に変換される。

【0011】
【化2】
JP0006274585B2_000003t.gif

【0012】
また、酸性条件下では、9AAは9AAHとの平衡状態にあるため、酸化が遅くなる傾向にある。すなわち、酸性条件下では、9AAの蛍光が維持される傾向にある。また、実施例において後述するように、エタノールアミンの存在下では、9AAの酸化が抑制される。

【0013】
したがって、酸素の非存在下では9AAは安定であり、酸素の存在下では上記の反応により9AAがAQNHに変換される。また、酸素の存在下であってもエタノールアミンを共存させることにより、9AAのAQNHへの変換を抑制することができる。

【0014】
[酸素検出剤]
1実施形態において、本発明は、9AA又はその誘導体を有効成分として含有する、酸素検出剤を提供する。

【0015】
(9AA又はその誘導体)
本実施形態の酸素検出剤において、9AAの誘導体としては、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を表す。上記のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。

【0016】
【化3】
JP0006274585B2_000004t.gif

【0017】
9AA又はその誘導体は、波長約420nmの励起光を照射すると波長約510nmの蛍光を発する。しかしながら、上述したように、9AA又はその誘導体は、酸素の存在下では、それぞれAQNH又はAQNHに対応する化合物に変換され、上記の蛍光を発しなくなる。

【0018】
そこで、この性質を利用して、9AA又はその誘導体を酸素の検出に用いることができる。具体的には、例えば、酸素の存在を検出する対象となる試料に9AA又はその誘導体を添加する。続いて、試料に波長約420nmの励起光を照射し、前記9AA又はその誘導体が発する波長約510nmの蛍光を検出する。その結果、波長約510nmの蛍光が検出された場合には、試料中に酸素が存在しないと判断することができる。逆に、波長約510nmの前記蛍光が検出されなかった場合には、試料中に酸素が存在し、9AA又はその誘導体は、それぞれAQNH又はAQNHに対応する化合物に変換されたと判断することができる。

【0019】
いいかえると、本発明の一態様は、試料中の酸素の存在を検出する方法であって、前記試料に9AA又はその誘導体を添加する工程と、前記9AA又はその誘導体に波長約420nmの励起光を照射する工程と、前記9AA又はその誘導体が発する波長約510nmの蛍光を検出する工程と、を備え、波長約510nmの前記蛍光が検出されることが、前記試料中に酸素が存在しないことを示し、波長約510nmの前記蛍光が検出されないことが、前記試料中に酸素が存在することを示す方法を提供するものであるということができる。

【0020】
本実施形態の酸素検出剤は、試料中の低酸素領域の可視化用に用いることもできる。より具体的には、例えば、本実施形態の酸素検出剤を、生体組織切片等の試料中の低酸素領域をイメージングする等の用途に用いることができる。

【0021】
実施例において後述するように、発明者らは、9AA又はその誘導体の生体に対する毒性が低いことを明らかにした。したがって、本実施形態の酸素検出剤は、培養容器中の生細胞や組織等の試料に適用することもできる。

【0022】
[安定化剤]
1実施形態において、本発明は、エタノールアミンを有効成分として含有する、9AA又はその誘導体の安定化剤を提供する。

【0023】
実施例において後述するように、発明者らは、エタノールアミンが共存すると、酸素の存在下であっても9AAのAQNHへの変換が抑制されることを見出した。したがって、エタノールアミンは9AA又はその誘導体の安定化剤として利用することができる。

【0024】
[蛍光組成物]
1実施形態において、本発明は、9AA又はその誘導体、及びエタノールアミンを含有する、蛍光組成物を提供する。本実施形態の蛍光組成物中の9AAは、AQNHへの変換が抑制されているため、長期間安定に9AA又はその誘導体に由来する蛍光を発することができる。

【0025】
[9AA又はその誘導体の安定化方法]
1実施形態において、本発明は、9AA又はその誘導体が存在する環境から酸素を除去する工程を備える、9AA又はその誘導体の安定化方法を提供する。実施例において後述するように、酸素の非存在下では、9AAはAQNHに変換されず、安定に存在することができる。したがって、本実施形態の安定化方法によって、9AA又はその誘導体を安定化し、その蛍光を維持することができる。

【0026】
別の1実施形態において、本発明は、9AA又はその誘導体にエタノールアミンを添加する工程を備える、9AA又はその誘導体の安定化方法を提供する。実施例において後述するように、酸素の存在下であっても、エタノールアミンを共存させることにより、9AAのAQNHへの変換を抑制することができる。したがって、本実施形態の安定化方法によって、9AA又はその誘導体を安定化し、その蛍光を維持することができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
[実験例1]
酸素と9AAとの反応を検討した。具体的には、酸素の非存在下及び存在下において、9AAの分解反応をH NMRスペクトル測定により追跡した。まず、J-Youngバルブ付き5φNMR管中で、9AA(3.46mg、0.15mmol)のCDCl(0.5mL)溶液を調製し、キャピラリーを通じて窒素を5分間バブリングさせた。続いて、窒素を吹き込みながらバルブを閉じた。続いて、バルブを閉じてから16、24、72時間後のH NMRスペクトルを測定した。
【実施例】
【0029】
図1(a)、(b)、(c)は、それぞれ、バルブを閉じてから16、24、72時間後のH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。その結果、低酸素条件下(窒素存在下)では、72時間経過しても9AAの分解(AQNHへの変換)は観察されなかった。
【実施例】
【0030】
続いて、上記のNMR管に、キャピラリーを通じて酸素を5分間バブリングさせた後、バルブを閉じた。続いて、バルブを閉じてから1.5、16、24、72時間後のH NMRスペクトルを測定した。
【実施例】
【0031】
図1(d)、(e)、(f)、(g)は、それぞれ、バルブを閉じてから1.5、16、24、72時間後のH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。その結果、酸素の存在下では、1.5時間後に9AAの分解(AQNHへの変換)が観察された。以上の結果から、酸素により9AAがAQNHに酸化されることが明らかとなった。
【実施例】
【0032】
[実験例2]
酸素存在下での9AAの分解に対するエタノールアミンの影響を検討した。具体的には、5φNMR管中で、9AA(2.34mg、0.12mmol)のDMSO-d(0.25mL)溶液にDO(0.25mL)及びエタノールアミン(10μL)を添加したサンプルを作製した。対照として、エタノールアミン(10μL)を添加しない点以外は上記と同様のサンプルを作製した。続いて、各サンプルにキャピラリーを通じて窒素を5分間バブリングさせた。続いて、窒素を吹き込みながらバルブを閉じた。バルブを閉じてから経時的に3日間H NMRスペクトルを測定した。その結果、いずれのサンプルにおいてもスペクトルに変化は観察されなかった。
【実施例】
【0033】
続いて、上記の各サンプルに、キャピラリーを通じて酸素を5分間バブリングさせた後、バルブを閉じた。続いて、バルブを閉じてから経時的に2日間H NMRスペクトルを測定した。その結果、いずれのサンプルにおいてもスペクトルに変化は観察されなかったが、白色の不溶物の生成が観察された。
【実施例】
【0034】
そこで、各サンプル(0.05mL)をCDCl(0.5mL)に溶解させ、H NMRスペクトルを測定した。図2(a)はエタノールアミンを添加したサンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。図2(b)は対照サンプルのH NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【実施例】
【0035】
その結果、エタノールアミンの存在下では、9AAのAQNHへの分解が抑制されることが明らかとなった。これに対し、エタノールアミンの非存在下(対照)では、9AAのAQNHへの分解が認められた。
【実施例】
【0036】
[実験例3]
9AAの毒性を検討した。具体的には、まず、ヒト胎児由来の腎細胞株であるHEK293FT細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するDMEM培地(高グルコース)中、3×10個/ウェルで96ウェルプレートに播種し、5%CO、37℃の環境下で2時間インキュベートし、細胞をウェルの底に沈着させた。
【実施例】
【0037】
続いて、細胞の培地を、9AAを終濃度が0、1、3、10、100、1000μMとなるように添加した10%FBS-DMEM培地(高グルコース)に交換し、5%CO、37℃の環境下で24時間インキュベートした。
【実施例】
【0038】
続いて、MTT試験により細胞の生存を検討した。MTT試験には、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム,1ナトリウム塩、同仁化学)を使用した。細胞の培地を、WST-8を含有する10%FBS-DMEM培地(高グルコース)に交換し、5%CO、37℃の環境下で2時間インキュベートした後、プレートリーダーを用いてWST-8ホルマザンの450nmの吸光を測定した。
【実施例】
【0039】
その結果、0、1、3、10、100、1000μMのいずれの濃度の9AAの存在下においても、吸光度の値は1.2~1.4であった。この結果は、上記の濃度の範囲において、9AAが毒性を有しないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、9AA又はその誘導体の、細胞毒性の無い酸素検出剤としての用途を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1