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明細書 :水素脱離方法、シリコン結晶積層体、水素貯蔵システム、トリチウム分離システム、及びトリチウム分離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-207097 (P2017-207097A)
公開日 平成29年11月24日(2017.11.24)
発明の名称または考案の名称 水素脱離方法、シリコン結晶積層体、水素貯蔵システム、トリチウム分離システム、及びトリチウム分離方法
国際特許分類 F17C  11/00        (2006.01)
C01B   3/00        (2006.01)
C01B  33/02        (2006.01)
B01J  20/28        (2006.01)
B01J  20/02        (2006.01)
B01J  20/34        (2006.01)
H01M   8/0606      (2016.01)
H01M   8/04        (2016.01)
G21F   9/12        (2006.01)
G21F   9/06        (2006.01)
FI F17C 11/00 A
C01B 3/00 B
C01B 3/00 Z
C01B 33/02 Z
B01J 20/28 Z
B01J 20/02 A
B01J 20/34 E
H01M 8/06 R
H01M 8/04 J
G21F 9/12 501B
G21F 9/06 591
G21F 9/12 501J
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2016-098165 (P2016-098165)
出願日 平成28年5月16日(2016.5.16)
発明者または考案者 【氏名】松本 貴裕
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100152272、【弁理士】、【氏名又は名称】川越 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 3E172
4G066
4G072
4G140
5H127
Fターム 3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD03
3E172FA07
3E172FA30
4G066AA03B
4G066BA05
4G066BA25
4G066CA12
4G066CA38
4G066DA07
4G066GA18
4G066GA31
4G066GA35
4G072AA01
4G072BB10
4G072BB20
4G072GG01
4G072HH01
4G072NN27
4G072NN30
4G140AA32
4G140AB01
5H127BA02
5H127BA23
5H127BA59
5H127EE13
要約 【課題】シリコンに吸着した水素を電磁波照射によって脱離させることが可能な水素脱離方法、その脱離方法を利用した水素貯蔵システム、トリチウム分離システム及びトリチウム分離方法、並びに高い水素貯蔵率を有するシリコン結晶積層体を提供する。
【解決手段】[1]水素を吸着したシリコン結晶に、Si-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記シリコン結晶から水素を脱離させる水素脱離方法。[2]水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させる水素脱離方法。[3]水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射し、同時にSi-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させる水素脱離方法。
【選択図】図11
特許請求の範囲 【請求項1】
水素を吸着したシリコン結晶に、Si-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記シリコン結晶から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
【請求項2】
水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
【請求項3】
水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射し、
同時にSi-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
【請求項4】
前記Si-H結合の振動に共鳴する波長が、550~750cm-1及び2050~2150cm-1のうち少なくとも一方の波数に対応する波長であることを特徴とする請求項1又は3に記載の水素脱離方法。
【請求項5】
前記バンド間遷移を生じさせ得る波長λ(nm)が、前記粒子の群の平均粒径L(nm)によって表される下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項2又は3に記載の水素脱離方法。
λ=(hc)/{1.06+2.05×(1/L)1.6} ・・・(1)
(式中、hはプランク定数、cは光速度、である。)
【請求項6】
シリコン結晶からなり、多孔度が75%以上95%以下の第一層と、多孔度が30%以上75%未満の第二層と、を備えるシリコン結晶積層体。
【請求項7】
水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得るIR光源とを備えた、水素貯蔵システム。
【請求項8】
水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得るIR光源とを備えた、トリチウム分離システム。
【請求項9】
トリチウムが含まれる放射性水溶液にシリコン結晶を浸漬して、水素及びトリチウムを前記シリコン結晶のダングリングボンドに結合させる吸着工程と、
前記シリコン結晶に赤外線及び可視光線の少なくとも一方を照射して、水素を優先的に脱離させてダングリングボンドを再生するとともに、トリチウムを前記シリコン結晶に結合させた状態を維持する脱離工程と、を繰り返すことによって、
前記放射性水溶液に含まれるトリチウムを前記シリコン結晶に結合させて、前記放射性水溶液からトリチウムを分離することを特徴とするトリチウム分離方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素脱離方法、シリコン結晶積層体、水素貯蔵システム、トリチウム分離システム、及びトリチウム分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出に伴う地球温暖化問題を解決するために、従来の化石燃料に代えて水素をエネルギー媒体とする新しいクリーンエネルギーシステムが必要となりつつある。しかし、水素エネルギーシステムを実用化するためには、解決すべき技術上の課題が数多く存在する。その課題の一つに、水素を高密度に貯蔵して輸送する技術の確立が挙げられる。現在、水素貯蔵の手法としては、(a)液体水素として貯蔵する方法、(b)高圧ガスとして貯蔵する方法、及び(c)水素吸蔵材料に吸蔵させて貯蔵する方法、が検討されている。各手法には一長一短があり、なかでも水素を原子状態で貯蔵する(c)の手法は、安全性を確保しつつ高密度に水素を貯蔵できる点から注目を集めている。
【0003】
現状の水素吸蔵材料を備えた水素貯蔵システムには次の2つの大きな課題が存在する。(i)材料の単位質量当たりの水素貯蔵量が低く、水素吸蔵材料の質量に対して5質量%を超える貯蔵効率は達成されていない。(ii)水素吸蔵材料から水素を放出させるために、水素吸蔵材料を200℃以上の高温に加熱する必要があり、瞬時に水素を放出させることができていない。また、高温に加熱するためのエネルギーを投入することは、水素から得られるエネルギーを相殺してしまう。
【0004】
上記課題のうち(ii)に対しては、シリコンに吸着した水素に可視光線を照射することによって水素を放出するアイディアが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2007-526426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の可視光線の作用は、単独に存在する水素原子を量子準位n=2からn=3(バルマー系列の656nm励起に相当)に励起して水素放出を起こさせることを意図したものである。水素原子が大量にシリコンに吸着した材料では、水素原子とシリコン原子の化学結合により電子状態が変化するため、また、同一のエネルギー状態を有する水素原子とシリコン原子が10個以上存在するとパウリの排他原理が働き、エネルギーバンドを形成することになるため、水素原子の量子準位自体が水素終端シリコン材料に存在することはない。
このため、特許文献1に記載してある水素原子の量子準位を励起する手法は、一般的な水素吸蔵材料に対して有効な水素放出手法とはならないことが判る。具体的には、水素を大量に含むシリコン材料としてアモルファスシリコンが良く知られているが、本材料の光吸収スペクトル並びに発光スペクトルを評価しても、広いエネルギー状態にわたって滑らかな曲線スペクトルが示されるだけで、水素原子自体の吸収並びに発光を示す線スペクトルは全く存在しないことからも明らかである。
【0007】
本発明は、シリコンに吸着した水素を電磁波照射によって脱離させることが可能な水素脱離方法、その脱離方法を利用した水素貯蔵システム、トリチウム分離システム及びトリチウム分離方法、並びに高い水素貯蔵率を有するシリコン結晶積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、電磁波照射によってシリコンに吸着した水素を放出する方法を鋭意検討したところ、特定波長の電磁波照射によってシリコンに吸着した水素を高速に放出できる方法を見出した。また、シリコン結晶の多孔度を高めることによって高い水素貯蔵率を達成できることを見出した。これらの発見に基づいて完成した本発明は、以下の通りである。
【0009】
[1] 水素を吸着したシリコン結晶に、Si-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記シリコン結晶から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
[2] 水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
[3] 水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射し、同時にSi-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させることを特徴とする水素脱離方法。
[4] 前記Si-H結合の振動に共鳴する波長が、550~750cm-1及び2050~2150cm-1のうち少なくとも一方の波数に対応する波長であることを特徴とする[1]又は[3]に記載の水素脱離方法。
[5] 前記バンド間遷移を生じさせ得る波長λ(nm)が、前記粒子の群の平均粒径L(nm)によって表される下記式(1)を満たすことを特徴とする[2]又は[3]に記載の水素脱離方法。
λ=(hc)/{1.06+2.05×(1/L)1.6} ・・・(1)
(式中、hはプランク定数、cは光速度、である。)
[6] シリコン結晶からなり、多孔度が75%以上95%以下の第一層と、多孔度が30%以上75%未満の第二層と、を備えるシリコン結晶積層体。
[7] 水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得るIR光源とを備えた、水素貯蔵システム。
[8] 水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得るIR光源とを備えた、トリチウム分離システム。
[9] トリチウムが含まれる放射性水溶液にシリコン結晶を浸漬して、水素及びトリチウムを前記シリコン結晶のダングリングボンドに結合させる吸着工程と、前記シリコン結晶に赤外線及び可視光線の少なくとも一方を照射して、水素を優先的に脱離させてダングリングボンドを再生するとともに、トリチウムを前記シリコン結晶に結合させた状態を維持する脱離工程と、を繰り返すことによって、前記放射性水溶液に含まれるトリチウムを前記シリコン結晶に結合させて、前記放射性水溶液からトリチウムを分離することを特徴とするトリチウム分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素脱離方法及びその脱離方法を利用した水素貯蔵システムによれば、特定波長の電磁波照射によってシリコンに吸着した水素を高速に脱離させることができる。
本発明のシリコン結晶積層体によれば、高い貯蔵率で水素を貯蔵することができる。
本発明のトリチウム分離システム及びトリチウム分離方法によれば、従来は有効な手段がなかったトリチウム汚染水からトリチウムを分離し、トリチウム汚染水を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シリコン結晶におけるSi-Hの伸縮モードに共鳴する赤外線波長域の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】金属酸化物を積層してなるフィラメントの放射率スペクトルである。
【図3】水素で終端されたシリコン結晶粒子のバンドギャップエネルギーと、シリコン結晶粒子の粒径L(単位:nm)との相関関係を示すグラフである。
【図4】シリコンウエハを陽極酸化処理するエッチング装置1の模式図である。
【図5】本発明にかかる水素貯蔵システム20の模式図である。
【図6】本発明にかかるトリチウム分離システム30の模式図である。
【図7】実施例で作製したナノ結晶Siを構成するナノ粒子のTEM像である。
【図8】エッチング液を構成するエタノールの割合と、エッチングによって形成されたナノ結晶Siの表面積との関係を表すグラフである。
【図9】実施例で作製した3種のナノ結晶Siについて得たSAXS散乱スペクトルである。
【図10】実施例で作製した3種のナノ結晶Siについて、その多孔度と平均粒径の関係を示すグラフである。
【図11】実施例で作製したナノ結晶Siに対して、可視光線、赤外線を照射したことにより水素脱離が起こったことを示す、シリコン結晶のバンド間励起の緩和に伴う発光強度と時間の関係を示すグラフである。
【図12】シリコン結晶基板におけるSi-H結合とSi-D結合の伸縮モードに対応する赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《水素脱離方法》
[第一態様]
本発明の第一態様の水素脱離方法は、水素を吸着したシリコン結晶に、Si-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射することにより、前記シリコン結晶から水素を脱離させる方法である。以下、特に明記しない場合、「水素」は水素原子を意味する。

【0013】
水素を吸着したシリコン結晶の形態は、赤外線の透過性を考慮して、板状、フィルム状(膜状)等の薄い形態であることが好ましいが、厚い形態、例えば、直方体、立方体、回転楕円体、球等の塊状であってもよい。

【0014】
水素ガスとして脱離させる水素は、シリコン結晶を構成するシリコンのダングリングボンドに結合して終端している、いわゆる終端水素であることが好ましい。

【0015】
このシリコン結晶にSi-H結合の振動に共鳴する波長の赤外線を照射することにより、Si-Hの振動を加速させ、Si-H結合を断ち切り、水素を脱離させることができる。脱離した水素原子は、脱離と同時又は脱離の直後に、近傍の水素原子と結合して水素分子を形成する。その後、多数の水素分子が集まり、水素ガスが形成される。

【0016】
Si-H結合の振動に共鳴する波長としては、波数550~2500cm-1に対応する波長4μm~18.2μmが好ましく、Si-H結合の伸縮(stretching)モードに共鳴する波数2050~2150cm-1に対応する波長約4.65μm~4.88μmと、Si-H結合の変角及び挟み(bending)モードに共鳴する波数550~750cm-1に対応する波長約13.3μm~18.2μmの2つの波長帯を構成する波長がより好ましい。これら2つの波長帯のうち少なくとも一方の波長帯を構成する1以上の波長を前記シリコン結晶に照射することにより、前記シリコン結晶のダングリングボンドを終端している水素をより容易に脱離させることができる。この脱離効率を高める観点から、上記の2つの波長帯の両方からそれぞれ1つ以上選ばれる2波長以上を同時に照射することが好ましい。

【0017】
シリコン結晶に上記波長の赤外線を照射する時間及び強度は、シリコン結晶の厚さ、シリコン結晶と赤外線光源との距離に応じて適宜設定すればよい。例えば、単位体積のシリコン結晶に対して、波長4.65μm~4.88μmの赤外線を1~100 mW/cmの照射強度で5~10秒照射することにより、当該単位体積のシリコン結晶に吸着した終端水素の大半を脱離させることができる。また、波長13.3μm~18.2μmの赤外線を1~100 mW/cmの照射強度で5~10秒照射することにより、当該単位体積のシリコン結晶に吸着した終端水素の大半を脱離させることができる。

【0018】
図1は、水素で終端されたシリコン結晶にSi-H伸縮モードに共鳴する赤外線を照射することによって、水素脱離が起こり、この脱離に起因してSi-H伸縮モード吸収が低減したことを示すグラフである。グラフにおいて、実線は赤外線照射前の吸収スペクトルであり、破線は水素が脱離したことを示す赤外線照射後の吸収スペクトルである。

【0019】
前記シリコン結晶に照射する550~2500cm-1の赤外線の光源としては、例えば、放射率の波長依存性を人工的に制御したフィラメントを作製し、このフィラメントを加熱することにより上記の赤外線を発生させる光源が挙げられる。ここで、上記フィラメントは、例えば“T. Matsumoto et al., Optics Expres 18, A192-200(2010)”を参照して作製することができる。具体例として、物理蒸着法によって、厚さがそれぞれ50nmである、Cr膜、CrO膜、SnO膜をタングステン又は銅基材上に積層したフィラメントは、図2に示すような階段関数状の放射率スペクトルを示す。公知の薄膜光学設計によって前記放射率スペクトルをSi-H振動の各モードにマッチしたピーク状関数とすることによって、所望の波数(波長)の赤外線を取り出すことができる。

【0020】
前記シリコン結晶の形態は、多孔質であることが好ましい。多孔質であれば、表面積が広くなり、水素の吸着量又は脱離量をさらに増加できる。
前記シリコン結晶の多孔度としては、例えば50~95%が好ましく、60~90%がより好ましく、70~85%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、シリコン結晶の表面積が増大してダングリングボンドにおける水素の吸着及び脱離の効率が高められる。上記範囲の上限値以下であると、シリコン結晶によって構成される水素貯蔵部材の機械的強度を容易に維持することができる。

【0021】
前記シリコン結晶の「多孔度」とは、単位体積のシリコン結晶中に占める空隙(空隙÷単位体積×100)の百分率を意味し、その単位は(%)である。
前記シリコン結晶の多孔度を測定する方法としては、例えば、ガス吸着法、X線小角散乱法、中性子小角散乱法、質量・体積評価法が挙げられる。本明細書における多孔度の好適な数値及びその範囲はX線小角散乱法、中性子小角散乱法、並びに質量・体積評価法によって総合的に評価された場合の数値である。

【0022】
前記シリコン結晶の多孔度が増加するほど、当該シリコン結晶の総質量に対する水素の吸着量が増加する。例えば、多孔度が50~95%である場合の水素の吸着量は約3.15~10.5質量%であり、多孔度が60~90%である場合の水素の吸着量は約5.25~8.9質量%であり、多孔度が70~85%である場合の水素の吸着量は約5.78~8.2質量%である。

【0023】
[第二態様]
本発明の第二態様の水素脱離方法は、水素を吸着したシリコン結晶の粒子に(以下、シリコン結晶粒子という)、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射することにより、前記粒子から水素を脱離させる方法である。
前記波長の光は、近紫外域及び近赤外域を含めた可視光線であることが好ましい。

【0024】
複数のシリコン結晶粒子の群から水素を脱離させる場合、各シリコン結晶粒子は互いに独立した粒子が集合した粉体を構成していてもよいし、各シリコン結晶粒子同士が接合した(凝集した)接合体を構成していてもよい。この接合体の形態は、可視光線の透過性を考慮して、板状、フィルム状(膜状)等の薄い形態であることが好ましいが、厚い形態、例えば、直方体、立方体、回転楕円体、球等の塊状であってもよい。

【0025】
具体的には、後述する陽極酸化処理によってシリコンウエハをエッチングすることによって形成された、シリコン結晶粒子が互いに接合してなる多孔質のシリコン結晶基板を使用することが好ましい。このシリコン結晶基板は前述した第一態様においても好適である。

【0026】
水素ガスとして脱離させる水素は、前記終端水素であることが好ましい。
シリコン結晶粒子を構成するシリコンのバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する波長の可視光線を照射することにより、シリコン結晶粒子がその可視光線を吸収してバンド間遷移が生じる。これによりシリコン結晶粒子の表面に存在する水素を非結合状態(Anti-Bonding State)にすることができる。このことは、第一原理計算により、シリコン結晶粒子の励起状態においてシリコン結晶粒子表面全体に電子の波動関数が広がることに基づいて確認されている。この非結合状態におけるシリコンと水素の原子間距離(1.7Å)が、結合状態時の原子間距離(1.5Å)と比較して10%以上伸張しているため、前述した赤外線照射によって容易に脱離する。また、赤外線照射が無くとも可視光線照射のみで脱離し得る。脱離した水素原子は、脱離と同時又は脱離の直後に、近傍の水素原子と結合して水素分子を形成する。その後、多数の水素分子が集まり、水素ガスが形成される。

【0027】
水素で終端されたシリコン結晶粒子のバンドギャップエネルギーは、図3に示すように、シリコン結晶粒子の粒径L(単位:nm)に依存する。各粒径のシリコン結晶粒子に対して、そのバンドギャップエネルギーより高いエネルギーを有する可視光線を照射してバンド間励起を生じさせることによって、ダングリングボンドを終端している水素を前記非結合状態にすることができる。
なお、図3は、X線小角散乱により粒径を評価した種々のサイズを有するシリコン結晶粒子に対して、光透過並びに反射スペクトルを評価することによって決定されたバンドギャップエネルギーをプロットした結果である。

【0028】
シリコン結晶粒子の群に照射する可視光線の波長は、粒子の粒径に応じて設定することが好ましく、照射する可視光線の波長λ(nm)は、シリコン結晶粒子の群の平均粒径L(nm)によって表される下記式(1)を満たすことが好ましい。
λ=(hc)/{1.06+2.05×(1/L)1.6} ・・・(1)
(式中、hはプランク定数、cは光速度、である。)

【0029】
シリコン結晶の光吸収係数αは結晶サイズ並びに励起波長に依存するが、可視光領域においては凡そ100~10,000cm-1である。

【0030】
シリコン結晶粒子の群の平均粒径は、例えば、1nm~1000nm程度が好ましく、1nm~100nmがより好ましく、1nm~10nmがさらに好ましく、1nm~5nmが特に好ましく、1nm~2nmが最も好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、シリコン結晶粒子の群によって構成される水素貯蔵部材の機械的強度を容易に保持することができる。上記範囲の上限値以下であると、シリコン結晶粒子の群によって構成される水素貯蔵部材の多孔度が高まり、水素の吸着量(貯蔵量)を増大させることができる。

【0031】
具体的には、例えば、シリコン結晶粒子の群の平均粒径が1nm以上2nm未満である場合、バンド間遷移を生じさせ、水素を放出させることができる波長の範囲としては、300~800nmが好ましく、350~750nmがより好ましく、400~720nmがさらに好ましい。上記波長の範囲であれば、全ての光が有効に吸収されるため、輝線スペクトルである必要は無く、帯域の広い光スペクトルをシリコン結晶粒子に照射することができる。
また、例えば、シリコン結晶粒子の群の平均粒径が2以上5nm未満である場合、バンド間遷移を生じさせ、水素を放出させることができる波長の範囲としては、700~1050nmが好ましく、750~1000nmがより好ましく、720~950nmがさらに好ましい。
また、例えば、シリコン結晶粒子の群の平均粒径が5以上10nm未満である場合、バンド間遷移を生じさせ、水素を放出させることができる波長の範囲としては、850~1050nmが好ましく、900~1100nmがより好ましく、950~1150nmがさらに好ましい。
上記波長範囲の可視光線を照射すると、シリコン結晶粒子に必要充分な光エネルギーが吸収され、水素を効率良く放出させることができる。ここで、必要充分とは、シリコン結晶粒子を無駄に加熱することがなく、且つバンドギャップ間遷移を生じさせるために足りることを意味する。

【0032】
シリコン結晶に上記波長の可視光線を照射する時間及び強度は、シリコン結晶の厚さ、シリコン結晶と可視光線光源との距離に応じて適宜設定すればよい。例えば、単位体積のシリコン結晶に対して、波長400~650nmの可視光線を1~100 mW/cmの照射強度で30~60秒照射することにより、当該単位体積のシリコン結晶に吸着した終端水素の40から50%を脱離させることができる。

【0033】
以上で説明した、シリコン結晶粒子の平均粒径は、X線小角散乱法の測定値に基づいて、分布関数(ワイブル分布)を平均化したものより算出される。
同様に、後述する陽極酸化処理によって形成された、シリコン結晶粒子が互いに接合してなる多孔質のシリコン結晶基板を構成するシリコン結晶粒子の群の平均粒径も、上記の通りに求められる。

【0034】
[第三態様]
本発明の第三態様の水素脱離方法は、水素を吸着したシリコン結晶の粒子に、その粒子を構成するシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の光を照射し(第一照射工程)、Si-H結合の振動に共鳴する波長の光を照射する(第二照射工程)ことにより、前記粒子から水素を脱離させる方法である。

【0035】
第一照射工程の具体的な方法は前述した第一態様の方法と同様であり、第二照射工程の具体的な方法は前述した第二態様の方法と同様である。

【0036】
第一照射工程の照射時間は、第二照射工程の照射時間よりも長くてもよいし、短くてもよい。
第一照射工程と第二照射工程は、同時に行ってもよいし、順次若しくは交互に繰り返して行ってもよい。第一照射工程と第二照射工程を順次若しくは交互に行う場合の順序は、何れの工程が先であってもよい。
本態様においては、水素脱離がより迅速に行われるので、第一照射工程と第二照射工程を同時に(第一照射工程とともに第二照射工程を)行うことが好ましい。

【0037】
《多孔質のシリコン結晶の作製》
本発明にかかる水素脱離方法の用途に適したシリコン結晶として、シリコン結晶基板を陽極酸化処理して得られる多孔質のシリコン結晶基板が挙げられる。その多孔度は陽極酸化処理時の電流密度やエッチング液の組成によって調整することができる。例えば、多孔度75~95%にすると、平均粒径1~2.5nm程度で、シリコン結晶の総質量(100質量%)に対する水素吸着量が5.8~10.5質量%のシリコン結晶粒子が互いに接合した状態の多孔質シリコン基板が得られる。

【0038】
陽極酸化処理に用いるシリコン結晶基板としては、例えば、面方位(100)又は(111)のシリコンウエハに公知のドーパントが含まれたP型又はN型のシリコンウエハが挙げられる。ドーパントの種類によってシリコンウエハの光透過性が変化することが知られており、例えば、赤外線に対する透過性を維持又は向上させる観点から、ヒ素や亜リン酸等が含まれていてもよい。

【0039】
陽極酸化処理は、例えば図4に示すエッチング装置1で行うことができる。図4は、エッチング装置1の模式図であり、エッチング液を入れる容器部2と、容器部2内に保持されたエッチング液3と、エッチング対象であるシリコンウエハ4によって構成される陽極と、白金製のメッシュ5によって構成される陰極と、シリコンウエハ4に流す電流密度を調整する電源6と、シリコンウエハ4に光を照射してエッチングを促進するための光源7と、が備えられている。N型シリコンウエハをエッチングする場合には、そのエッチングを促進する目的で、光源7から例えば波長400~700nmの光を照射しながらエッチングすることが好ましい。

【0040】
エッチング装置1における容器部2はエッチング液3に耐性を有するフッ素系樹脂からなり、容器部2の底部に設置されたシリコンウエハ4は、その一方の面のみがエッチング液3に接触するように配置されている。電源6から電流を供給すると、エッチング液3に接したシリコンウエハ4の一方の面から陽極酸化が進行し、シリコンウエハ4の他方の面へ向けて、エッチングが起こる先端面が徐々に下がる。エッチングを継続すると、一方の面側に多孔質層を備えたシリコンウエハ4が得られる。

【0041】
エッチング液3の組成としては、例えば、フッ化水素酸と第一級アルコールの混合液が挙げられる。シリコン基板の多孔度の調整が容易である観点から、フッ化水素酸とエタノールの混合液が好ましい。フッ化水素酸とエタノールの混合液を構成するエタノールの割合は、例えば5~98体積%の範囲で調整することが好ましい。エタノールの割合が高まる程、シリコン結晶基板の多孔度が高まり、その表面積を増大させることができる。したがって、作製するシリコン結晶基板の水素貯蔵効率を高める観点から、エタノールの上記割合は、50~95体積%が好ましく、60~92体積%がより好ましく、70~90体積%がさらに好ましい。フッ化水素酸の割合が5体積%以上であると、エッチング速度が高まり迅速に処理することができる。

【0042】
陽極酸化処理における電流密度及び処理時間は、シリコンウエハの種類に応じて適宜設定すればよく、例えば、10~30mA/cmにて60~120分程度が好ましい。この条件であると、抵抗1~10Ω×cmの面方位(100)のP型シリコンウエハを多孔度50~95%程度にすることができる。

【0043】
また、電流密度を700mA/cm程度に高めると、それ以前の穏やかなエッチングにより形成した多孔質層をシリコンウエハ4の未エッチング部から剥がして、いわゆる自立膜(Free-standing膜)として、多孔質のシリコン結晶基板を得ることができる。
シリコン結晶基板の厚さとしては、例えば、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。

【0044】
シリコン結晶基板の多孔度が高まるにつれてその機械的強度が低くなり、例えば比表面積が700m/cmを超えると、自立膜を維持することが難しくなる場合がある。この場合、二酸化炭素又はペンタン等の炭化水素溶媒を用いた超臨界洗浄を自立膜に施すことにより、その膜構造を強化することができる。

【0045】
エッチング装置1において電源6から電流を供給すると、エッチング液3に接したシリコンウエハ4の一方の面から陽極酸化が進行し、シリコンウエハ4の他方の面へ向けて、エッチングが起こる先端面が徐々に下がっていく。この際、先端面が通過して一度エッチングを終えた部位ではエッチングがほとんど起こらないことを利用して、単一のシリコンウエハにおいて、その深度毎に多孔度を変えることができる。すなわち、シリコンウエハの厚さ方向に見て多孔度が変化する、複数の層が積層してなる2次元超格子状のシリコン結晶積層体(即ち、シリコン結晶積層基板)を作製することができる。

【0046】
シリコン結晶積層基板の最小構成として、互いに異なる多孔度を有する少なくとも2つの層が積層された構成が挙げられる。第一シリコン結晶層(第一層)の多孔度が第二シリコン結晶層(第二層)の多孔度よりも高い構成である場合、第一層が有する広い表面積によって水素貯蔵率を向上させることができる。ここで、第一層は多孔度が高められているために機械的強度が低下しているが、相対的に多孔度が低く、機械的強度が高い第二層によって第一層は支持されているので、シリコン結晶積層基板全体としての機械的強度は充分に保たれている。

【0047】
第一層の厚さは、例えば、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.5~5μmがさらに好ましい。第一層が厚い程、水素の吸着量を増加させることができる。第一層が薄い程、電磁波の透過性が高まり、水素の脱離がより容易となる。
第二層の厚さは、例えば、0.01~10μmが好ましく、0.05~5μmがより好ましく、0.1~1μmがさらに好ましい。第二層が厚い程、シリコン結晶積層基板の機械的強度を高めることができる。第二層が薄い程、シリコン結晶積層基板の単位体積当たりの水素吸着量を増加させることができる。

【0048】
具体例として、多孔度が75%以上95%以下の第一シリコン結晶層(第一層)と、多孔度が30%以上75%未満の第二シリコン結晶層(第二層)と、を備えるシリコン結晶積層基板が挙げられる。

【0049】
別の具体例として、シリコンウエハの厚さ方向に見て多孔度が高/低/高で変化する、三つの層が積層してなるシリコン結晶基板において、多孔度が75%以上95%以下の第一層及び第三シリコン結晶層(第三層)と、これらに挟まれた多孔度が30%以上75%未満の第二層と、を備えるシリコン結晶積層基板が挙げられる。この3層構成の場合、多孔度が相対的に低く、機械的強度が比較的高い、中間に挟まれた第二層がその両側の第一層及び第三層を構造的に支持することができる。
第三層の厚さは、第一層と同じでもよく、異なっていてもよく、例えば、第一層の前述した好適な厚さが適用できる。

【0050】
シリコン結晶積層基板の形成方法としては、例えば、エッチングの初期に電流密度を高く設定して多孔度が比較的高い第一層を形成し、続いてエッチングの中期に電流密度を低く設定して多孔度が比較的低い第二層を形成し、最後のエッチング後期に再び電流密度を高く設定して多孔度が比較的高い第三層を形成する方法が挙げられる。このような段階的なエッチングによって、シリコンウエハの厚さ方向に見て多孔度が高/低/高で変化する、三つの層が積層してなるシリコン結晶積層基板を作製することができる。
本手法を用いて三つの層が積層した構造より多数の積層構造、例えば40層の積層構造を作製することも可能である。

【0051】
シリコン結晶積層基板の他の形成方法としては、例えば、まずシリコンウエハの一方の面側に多孔度が比較的高い第一層を形成し、続いてシリコンウエハの他方の面側に多孔度が比較的低い第二層を形成することによって、二層構成の積層体を形成する。次いで、この二層構成の積層体を複数作製し、これらを公知の常温ウエハ接合技術によって接合することにより、第一層と第二層が任意の数で交互に積層された縞状のシリコン結晶積層基板が得られる。

【0052】
以上で説明したシリコン結晶積層基板の形態は板状であるが、本発明にかかるシリコン結晶積層体の形態は板状以外の形態、例えば、直方体、立方体、回転楕円体、球等の塊状であってもよい。

【0053】
《水素貯蔵システム》
本発明の第四態様の水素貯蔵システムは、水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得る位置に配置されたIR光源とを備える。具体例として、図5に示す水素貯蔵システム20を参照して説明する。
水素貯蔵システム20は、多孔質のシリコン結晶基板21と、IR光源(赤外線光源)22と、可視光線光源23と、水素放出バルブ24と、水素補給バルブ25と、これらを収納する収納容器26と、を備えている。

【0054】
収納容器26内において、複数のシリコン結晶基板21が備えられ、各シリコン結晶基板21は一定間隔で離間した状態で積み重ねられている。
また、複数のIR光源22及び可視光線光源23は、積み重ねられた各シリコン結晶基板21の間隙に投光可能な位置、例えば各シリコン結晶基板21の基板面の延長線上又はその近傍に配置されている。IR光源22及び可視光線光源23の配置はこれに限定されず、例えば、シリコン結晶基板21の基板面に対して正面方向及び斜め方向を含めた上方又は下方等の任意の位置に配置できる。

【0055】
水素貯蔵システム20に備えられたシリコン結晶基板21の形態は板状であるが、本発明にかかる水素貯蔵システムにおけるシリコン結晶の形態は板状以外の形態、例えば、直方体、立方体、回転楕円体、球等の塊状であってもよい。

【0056】
陽極酸化処理で多孔質化されたシリコン結晶基板21を構成するシリコン表面には、ダングリングボンドを終端する水素原子が予め吸着している。

【0057】
IR光源22から、Si-H結合の振動に共鳴する波長を有する赤外線、すなわち波数550~750cm-1及び2050~2150cm-1のうち少なくとも一方の赤外線を照射する。シリコン結晶基板21は基本的には赤外線に対して透明である。このため、図5のように、シリコン結晶基板21の側面に配置された複数のIR光源22から照射された赤外線は、収納容器26中で散乱及び拡散しながら、積層された各シリコン結晶基板21の全面に行き渡る。赤外線によって励起されたSi-H結合が切れて、水素原子が放出され、近傍にある同様に放出された水素原子と結合して水素分子が形成される。

【0058】
また、可視光線光源23から、シリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の可視光線、例えば、400~650nmを上記の赤外線と同時に又は単独に照射する。ここで可視光線を単独で照射する場合、赤外線照射の前に可視光線を照射してもよいし、赤外線照射の後で任意の時間の経過後に可視光線を照射してもよい。

【0059】
可視光線は、複数のシリコン結晶基板21の間隙を縫うように伝搬し、シリコン結晶基板21の表面を構成する多孔質構造のシリコン結晶粒子に吸収される。この際、シリコン結晶基板21は基本的には可視光線に対して不透明であるため、複数のシリコン結晶基板21の基板平面の延長線上又はその近傍に可視光線光源23が複数設置されていることが好ましい。この配置であると、複数のシリコン結晶基板21の間隙に可視光線を照射し、光源23から離れたシリコン結晶基板21の中央付近まで可視光線を到達させることができる。可視光線によって励起されたシリコン結晶においてはバンド間遷移が生じ、前述した物理メカニズムによりシリコン結晶のダングリングボンドを終端していた水素原子が放出され、近傍にある同様に放出された水素原子と結合して水素分子が形成される。

【0060】
赤外線及び可視光線の照射によってシリコン結晶基板21の全面で放出された水素分子は、互いに凝集して水素ガスを形成しながら収納容器26を上昇し、収納容器26の上部に設けられた水素放出バルブ24から容器外へ取り出される。

【0061】
上記のように特定波長の赤外線を照射することによって、照射とほぼ同時に水素を脱離して水素ガスを形成できるため、従来の加熱による脱離方法よりも迅速に水素ガスを得ることができる。また、照射する赤外線はSi-H結合に吸収され易く、Si-Si結合には吸収され難いため、効率良くSi-H結合を切断することができ、シリコン結晶基板21の全体を無駄に加熱する必要がない。このため、水素脱離及び水素ガスの形成に投入するエネルギーは、従来の基板全体の加熱方法に比べて極めて小さくすることができる。

【0062】
また、上記のように特定波長の可視光線を照射することによって、水素を脱離して水素ガスを形成することができる。赤外線を照射する場合と同様に、シリコン結晶を無駄に加熱することなく迅速に水素を脱離させることができる。

【0063】
上記のように赤外線と可視光線を同時に照射した場合、水素の脱離に寄与する割合は、赤外線照射の方が大きい。この詳細な理由は未解明であるが、赤外線照射はSi-H結合をピンポイントで直接的に切断することができる一方、可視光線照射はシリコン結晶粒子の全体を励起した上でシリコン結晶粒子の表面に結合した水素のSi-H結合を間接的に切断していることが一因であると考えられる。

【0064】
上記のように複数のシリコン結晶基板を一定間隔で重ねて配置した装置構成である場合、シリコン結晶基板を透過する赤外線の照射効率は、シリコン結晶基板を透過し難い可視光線の照射効率よりも格段に高い。すなわち、赤外線の方がシリコン結晶基板の全面をムラなく効率的に照射することができる。このため、赤外線と可視光線の何れか一方を選ぶとすれば、照射効率及び水素脱離効率の高い赤外線の方が好ましい。

【0065】
以上で説明した水素脱離方法において、シリコン結晶基板21から水素原子を脱離させる際に赤外線及び可視光線を照射したが、可視光線を用いずに赤外線照射のみで水素を脱離させてもよい。また、逆に赤外線を用いずに可視光線照射のみで水素を脱離させてもよい。なお、水素脱離の効率を高める観点から、可視光線は水素の脱離を促進する補助的な手段として用い、赤外線照射を水素脱離の主な手段とすることが好ましい。

【0066】
水素が脱離した後のシリコン結晶基板に生じた未終端のダングリングボンドは、原子状水素によって終端される。原子状水素をシリコン結晶基板21に供給する方法としては、液相プロセスと気相プロセスが挙げられる。

【0067】
液相プロセスとしては、例えば、原子状水素が含まれたバッファードフッ酸(pHが緩衝化されたフッ酸溶液)にシリコン結晶基板21を浸漬させてダングリングボンドを原子状水素で終端する方法が挙げられる。
水素貯蔵システム20において、水素補給バルブ25から収納容器26内にバッファードフッ酸溶液を注入することにより、間隔を空けて積層された複数のシリコン結晶基板21の間及び各シリコン結晶基板21の多孔質構造をバッファードフッ酸溶液で満たすことができる。

【0068】
気相プロセスとしては、例えば、水素ガスを金属フィラメントで加熱することにより原子状水素を発生させた空間に、シリコン結晶基板21を置いてダングリングボンドを原子状水素で終端する方法が挙げられる。

【0069】
水素貯蔵システム20においては、気相プロセスによって生成された原子状水素が、水素補給バルブ25から収納容器26内へ、必要に応じて補給される。例えば、まず、水素ガスの需要に応じて、赤外線及び可視光線照射によって迅速にシリコン結晶基板21から水素ガスを取り出し、水素放出バルブ24から需要先へ供給する。その後、適当な時期に、シリコン結晶基板21に生じたダングリングボンドを原子状水素で終端することができる。
なお、原子状水素は強い還元力を有するため、光源の照射面をサファイア基板で保護したり、容器内壁をフッ素系樹脂で保護したりする等の対策を講じることが好ましい。

【0070】
また、上記の液相プロセス、気相プロセスに代えて、次の方法を採用してもよい。すなわち、ガス状の水素分子(水素ガス)又は液体状の水素分子(液体水素)中に、未終端のダングリングボンドを有するシリコン結晶基板を放置し、ダングリングボンドが水素原子によって自然に終端されるのを待つ方法を採用してもよい。ただし、ダングリングボンドの強い還元力のみを利用したこの方法では、終端される速度は前述の液相プロセス、気相プロセスよりも一桁程度遅くなる。

【0071】
《トリチウム分離システム、トリチウム分離方法》
本発明の第五態様のトリチウム分離システムは、水素が吸着するシリコン結晶を有する水素吸着材と、前記シリコン結晶に赤外線を照射し得る位置に配置されたIR光源とを備える。具体例として、図6に示すトリチウム分離システム30を参照して説明する。
トリチウム分離システム30は、多孔質のシリコン結晶基板31と、IR光源(赤外線光源)32と、可視光線光源33と、放出バルブ34と、流入バルブ35と、これらを収納する収納容器36と、を備えている。このトリチウム分離システム30の構成は、前述した水素貯蔵システム20と同様である。

【0072】
収納容器36内において、複数のシリコン結晶基板31が備えられ、各シリコン結晶基板31は一定間隔で離間した状態で積み重ねられている。
また、複数のIR光源32及び可視光線光源33は、積み重ねられた各シリコン結晶基板31の間隙に投光可能な位置、例えば各シリコン結晶基板31の基板面の延長線上又はその近傍に配置されている。IR光源32及び可視光線光源33の配置はこれに限定されず、例えば、シリコン結晶基板31の基板面に対して正面方向及び斜め方向を含めた上方又は下方等の任意の位置に配置できる。

【0073】
トリチウム分離システムに備えられたシリコン結晶基板31の形態は板状であるが、本発明にかかるトリチウム分離システムにおけるシリコン結晶の形態は板状以外の形態、例えば、直方体、立方体、回転楕円体、球等の塊状であってもよい。

【0074】
陽極酸化処理で多孔質化されたシリコン結晶基板31を構成するシリコン表面には、ダングリングボンドを終端する水素原子が予め吸着している。

【0075】
まず、IR光源32からSi-H結合の振動に共鳴する波長を有する赤外線を照射するとともに、可視光線光源33からシリコンのバンド間遷移を生じさせ得る波長の可視光線を照射することによって、終端水素を脱離させ、ダングリングボンドを形成する。

【0076】
次いで、収納容器36内にトリチウム(三重水素)を含む放射性水溶液を導入し、間隔を空けて積層された複数のシリコン結晶基板31の間及び各シリコン結晶基板31の多孔質構造を放射性水溶液によって満たす。放射性水溶液はバッファードフッ酸溶液に成るように予め調製されており、この放射性水溶液に浸漬されたシリコン結晶基板31のダングリングボンドは、放射性水溶液に含まれる水素又はトリチウムの原子を結合する。水素及びトリチウムの何れが結合するかは、放射性水溶液中の各原子の濃度に依存する。例えば、放射性水溶液中の水素及びトリチウムの合計のうち0.1%程度がトリチウムである場合、ダングリングボンドの約0.1%がトリチウムによって終端されると考えられる。

【0077】
続いて、収納容器36から放射性水溶液を排出した後、再びIR光源32及び可視光線光源33から前記波長の光を照射することによって、シリコン結晶基板31のダングリングボンドを終端している水素原子を脱離させる。この際、トリチウムは水素原子よりも大きい質量を有するので、水素原子が優先的に脱離してダングリングボンドを形成する一方、トリチウムの多くはダングリングボンドに結合したまま残る。

【0078】
この理論的な裏付けは、Si-T結合の振動に共鳴する赤外線の周波数が大きく同位体シフトすることによる。即ち、伸縮に共鳴する周波数は波数2050~2150cm-1から1205~1260cm-1へシフトし、変角及び挟みに関する周波数は波数550~750cm-1から320~440cm-1にシフトする。このため、Si-H結合の振動に共鳴する赤外線を照射してもSi-T結合の振動は励起しないので、Si-H結合のみが切断される。

【0079】
その後、再び流入バルブ35から放射性水溶液を収納容器36内に導入するとともに、収納容器内36の水素ガスを放出バルブ34から容器外へ排出する。放射性水溶液に浸漬されたシリコン結晶基板31において、水素又はトリチウムがダングリングボンドに結合する。

【0080】
上記のように、シリコン結晶基板31をトリチウムが含まれる放射性水溶液に浸漬して、水素及びトリチウムをシリコン結晶のダングリングボンドに結合させる吸着工程と;シリコン結晶基板31に赤外線及び可視光線を照射して、水素を優先的に脱離させてダングリングボンドを再生するとともに、トリチウムをシリコン結晶基板31に結合させた状態を維持する脱離工程と;を繰り返すことによって、シリコン結晶基板31のダングリングボンドを終端するトリチウム原子の数量及び濃度が増大し、最終的にはその殆どがトリチウムによって終端される。つまり、放射性水溶液に含まれるトリチウムをシリコン結晶基板31に結合させて、放射性水溶液からトリチウムを分離することができる。

【0081】
ダングリングボンドの殆どがトリチウムに終端されたシリコン結晶基板31からトリチウムを脱離させる方法としては、例えば、シリコン結晶基板31を200℃程度に加熱する方法が挙げられる。トリチウムが脱離してダングリングボンドが再生されたシリコン結晶基板31は、再び吸着工程に使用することができる。

【0082】
以上で説明したトリチウムの分離方法において、シリコン結晶基板31から水素原子を脱離させる際に赤外線及び可視光線を照射したが、可視光線を用いずに赤外線照射のみで水素を脱離させてもよい。また、逆に赤外線を用いずに可視光線照射のみで水素を脱離させてもよい。なお、水素脱離の効率を高める観点から、可視光線は水素の脱離を促進する補助的な手段として用い、赤外線照射を水素脱離の主な手段とすることが好ましい。

【0083】
また、以上で説明したトリチウムの分離方法において、放射性水溶液を収納容器36から排出した後、赤外線を照射してシリコン結晶基板31に終端している水素原子を脱離させるプロセスを説明した。この方法に代えて、水の赤外吸収を避ける装置構成を採用し、放射性水溶液を排出せずにその溶液中で連続的に水素脱離及びトリチウム終端の化学反応をおこなわせることができる。具体的には、シリコン結晶基板の表面(第一面)が放射性水溶液に浸透されている場合は、その水溶液に浸透されていないシリコン結晶基板の裏面(第二面)から赤外線を照射すればよい。一方、そのシリコン結晶基板の表面から赤外線を照射する場合は、水の吸収係数を考慮した装置構成を取ればよい。具体的には、550~2150cm-1の波数領域では、水の吸収係数は凡そ10cm-1となるので、赤外線が透過する部位の水の厚さを10μm以下となるように装置を構成すればよい。
【実施例】
【0084】
[水素終端ナノ結晶Siの作製]
水素終端ナノ結晶Siは、Si基板をフッ酸とエタノールの混合溶液中で電気化学的にエッチングすることによって作製した。
具体的には、まず、図4に示す装置によって、1~10Ω・cmのP型Si<100>ウエハ基板の陽極酸化処理を上記混合液中で20mA/cmの定電流で10分行い、続いて700mA/cmの電流密度で電解研磨を行うことによって、自立性を有する厚さ5μmの膜状のシリコン結晶基板(以下、ナノ結晶Siという。)を形成した。このナノ結晶Siはナノ粒子同士が接合してなる多孔質の膜を形成しており、そのナノ粒子の平均粒径は1nm~5nmの範囲で調整した。作製したナノ結晶Siを構成するナノ粒子の透過電子顕微鏡写真の一例を図7に示す。
【実施例】
【0085】
図8のグラフに示すように、フッ酸に対するエタノールの割合を増大させ、ナノ結晶Siを構成する粒子の粒径を小さくし、ナノ結晶Siの比表面積及び水素の質量比を増大させた。グラフに示した通り、エタノールの割合が増えるほど、ナノ結晶Siの比表面積が増加した。比表面積の増加に応じて、吸着する水素の量も増大した。
【実施例】
【0086】
陽極酸化処理によって得たナノSi結晶を構成するナノ粒子の平均粒径および粒径分布を調べるために、X線小角散乱法(SAXS)による分析を行った。
図9に、エッチング条件を変えて作製した3種のナノ結晶Si(以下、試料と呼ぶことがある。)について得たSAXS散乱スペクトル[図中の波数q(cm-1)はq=(4π/λ)sin(2θ/2)で2θは散乱角]を示す。ここで示すSAXS散乱スペクトルは、試料のX線吸収率(透過率)、検出器のバックグラウンドノイズスリット幅、等の補正を全て行った後のデータである。
【実施例】
【0087】
上記3種の試料は互いに異なる多孔度を有しており、各多孔度は、それぞれ、63%、79%、87%である。試料の多孔度が増大するにつれて相対的にSAXS散乱強度が減少していることは、Siウエハのエッチングが進行するにつれてナノ結晶Si中のシリコン原子数が減少していること、すなわちナノ結晶Siを構成するナノ粒子の平均粒径が小さくなっていくことを示している。
【実施例】
【0088】
図9のスペクトルにおいて、波数0.2nm-1以下では、ナノ結晶Siにおいて多孔度が低いほど、散乱強度が急激に立ちあがっている。これは、ナノ結晶Si中においてナノ粒子の集合体が副構造を形成していること、及び平均粒径の大きなナノ結晶Siでは、この副構造内のナノ粒子にある程度の秩序性があることを示している。例えるなら、ナノ粒子がぶどうの粒であるとすると、副構造はぶどうの房であるといえる。
【実施例】
【0089】
SAXS測定によって得たナノ結晶Si中のナノ粒子の分布関数及び構造因子を解析することにより、理論的にフィットする平均粒径及び粒径分布を求めた。
各多孔度を有する上記試料について、上記解析により求めた粒径分布の結果を図10に示す。この粒径分布から、多孔度63%の試料の平均粒径(ナノ粒子を含む最小球の平均直径)は2.43nm、多孔度79%の試料の平均粒径は2.24nm、多孔度87%の試料の平均粒径は2.11nmであることが分かった。
【実施例】
【0090】
また、上記3種の水素終端ナノ結晶Siの水素吸着量は、ナノ結晶Siの総質量に対してそれぞれ5質量%(多孔度63%)、6.3質量%(多孔度79%)、8.2質量%(多孔度87%)であることを、多孔度測定及びエッチング時の電気量(電流×時間)によって確認した。
【実施例】
【0091】
[水素終端ナノ結晶Siの水素放出]
上記の陽極酸化処理によって作製した多孔度79%、平均粒径2.24nmのナノ結晶Si(以下、試料という。)を準備した。この試料に、ナノ結晶Siが有するSi-H結合の振動に共鳴する波数2100cm-1(波長4.76μm)の赤外線と、ナノ結晶Siを構成するシリコン粒子が吸収する波長400nmの可視光線とを照射した。この照射によって、ナノ結晶Siのダングリングボンドに結合して終端している大量の水素を高速に放出させられることを以下の方法で確認した。
【実施例】
【0092】
具体的な方法としては、上記陽極酸化処理によって作製されたナノ結晶Siを真空容器内(真空度10-5Pa)に設置し、波長400nmの可視光線を出力するレーザを用いてナノ結晶Siを照射した。さらにこの照射と同時に、波長4.7μmの赤外光線を出力する半導体発光素子またはパラメトリック発振器を用いてナノ結晶Siを照射した。この際、可視光線および赤外光線がナノ結晶Siにおける同一箇所を照射するようにした。照射強度については、可視光線および赤外光線ともに10mW/cm程度の励起強度となるようにした。
【実施例】
【0093】
可視光線及び赤外光線の照射によるナノ結晶Siからの水素脱離の観測には、四重極型質量分析計を用いた。照射時に観測された水素に由来するスペクトルから、非照射時のスペクトルを差し引くことによって、脱離した水素量を半定量的に評価した。
可視光線照射によりナノ結晶Siが赤色に発光する。その発光強度の時間的変化はCCD光検出器が付帯した分光器を用いて観測した。水素脱離による発光強度の低減量と、ダングリングボンド数の増大との相関は、光励起可能な電子スピン共鳴装置を用いて予め評価した。
【実施例】
【0094】
可視光線及び赤外光線の照射によるナノ結晶Siの温度変化を、赤外放射温度計で評価したところ、水素を脱離させたナノ結晶Siの部位(照射箇所)の温度はほとんど上昇せず、100℃以下であった。
【実施例】
【0095】
上記実験により得た結果を図11に示す。可視光線を単独で照射した場合(グラフの破線)には比較的緩やかに水素が放出される一方、上記特定波長の赤外線を可視光線と共に同時に照射した場合(グラフの実線)には、短時間で急速に大量の水素が放出されることが明らかである。即ち、グラフの実線から、照射後0.1~5秒の間で終端水素の40%程度、照射後0.1~10秒の間にほぼ50%の終端水素が急速に脱離したことが分かる。
【実施例】
【0096】
上記実験においては赤外線と可視光線の両方を同時に照射したが、赤外線(波数2100cm-1)のみを照射した場合にも同様に、短時間で急速に大量の水素が放出されることを確認した。
【実施例】
【0097】
また、上記のSi-H結合の伸縮モードに共鳴する波数の赤外線(波数2100cm-1)に代えて、Si-H結合の変角及び挟みモードに共鳴する赤外線(波数550~750cm-1)のみを照射した場合にも、上記と同様に短時間で急速に大量の水素が放出されることを確認した。
【実施例】
【0098】
また、上記の波長400nmの可視光線に代えて、波長450~600nmの可視光性を単独で及び上記赤外線と同時に照射した場合にも、上記と同様に短時間で急速に大量の水素が放出されることを確認した。
【実施例】
【0099】
<トリチウム分離試験>
トリチウムよりも取り扱いが容易な重水素を用い、シリコン結晶基板中に重水素を濃縮する実験を行った。
具体的には、水素(H)及び重水素(D)を9:1の比率で含む蒸気混合ガスをシリコン結晶基板に接触させた状態で、Si-H伸縮振動を励起する波数2050~2150cm-1の赤外線を照射した。これによりSi-H結合が切断され、ダングリングボンドが形成されるが、周囲の水素又は重水素がそのダングリングボンドを終端した。この切断と終端が繰り返されるプロセスを2~6時間継続したところ、シリコン結晶基板のダングリングボンドの多くが重水素原子によって終端されること、すなわちシリコン結晶基板中に重水素が濃縮されることを確認した。この結果を図12に示す。
【実施例】
【0100】
図12の赤外線吸収スペクトルにおいて、実線はプロセス初期のスペクトルを表し、破線はプロセス中期~後期のスペクトルを表す。プロセス初期においては、Si-H結合の伸縮モードに対応する波数2050~2150cm-1のピークのみが観測されている。一方、プロセス中期~後期においては、波数2100cm-1のピークが減少し、Si-D結合の伸縮モードに対応する波数1500~1550cm-1のピークが増加している。
【実施例】
【0101】
上記の結果から、質量の重い重水素は、水素(軽水素)が脱離する波数の赤外線照射によっては脱離し難いことが明らかである。このことから、さらに質量の重いトリチウムも重水素の場合と同様に、水素(軽水素)が脱離する波数の赤外線照射によっては脱離し難いことが理解される。したがって、上記の切断と終端のプロセスを繰り返すことによって、トリチウムをシリコン結晶基板中に濃縮し、軽水素から分離することができる。
【実施例】
【0102】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、水素エネルギーを利用する技術分野、例えば、水素貯蔵材料、水素自動車用燃料電池、モバイル機器用燃料電池、トリチウム分離材料などの材料分野に広く適用できる。
【符号の説明】
【0104】
1…エッチング装置、2…容器部、3…エッチング液、4…シリコンウエハ、5…白金製のメッシュ、6…電源、7…光源、20…水素貯蔵システム、21…シリコン結晶基板、22…赤外線光源、23…可視光線光源、24…水素放出バルブ、25…水素補給バルブ、26…収納容器、30…トリチウム分離システム、31…シリコン結晶基板、32…赤外線光源、33…可視光線光源、34…放出バルブ、35…流入バルブ、36…収納容器
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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