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明細書 :肝細胞癌に関する診断のために有用な背景肝因子及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年11月30日(2017.11.30)
発明の名称または考案の名称 肝細胞癌に関する診断のために有用な背景肝因子及びその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
C07K  16/24        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 P
G01N 33/68
G01N 33/574 A
C07K 16/24
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 27
出願番号 特願2017-500766 (P2017-500766)
国際出願番号 PCT/JP2016/054939
国際公開番号 WO2016/133212
国際出願日 平成28年2月19日(2016.2.19)
国際公開日 平成28年8月25日(2016.8.25)
優先権出願番号 2015030710
優先日 平成27年2月19日(2015.2.19)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】野本 周嗣
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4H045
Fターム 2G045AA26
2G045CA25
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB03
4B063QA07
4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ58
4B063QR48
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX01
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA51
要約 肝細胞癌の予後予測等の診断のために有用なマーカー及びその利用を提供する。本教示は、肝細胞癌の予後予測等に関する診断を補助する方法であって、FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定する工程、を備えるようにする。肝細胞癌罹患個体や肝細胞癌の可能性ある個体の背景肝につき、FAM3B及び/又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定することで、肝細胞癌の予後予測等に関する診断を補助する有用な情報を得ることができる。
特許請求の範囲 【請求項1】
肝細胞癌に関する診断を補助する方法であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を備える、方法。
【請求項2】
背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
肝細胞癌罹患個体の背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定して、肝細胞癌の進展、肝細胞癌の再発及び予後に関する診断を補助する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
肝細胞癌リスク個体の背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定して、肝細胞癌の発症リスク又は肝細胞癌への進展に関する診断を補助する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルの経時的な変化又は前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを所定の基準値と対比する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
肝細胞癌に関する診断を補助する方法であって、
肝細胞癌罹患個体又は肝細胞癌リスク個体から採取した液性成分中のFAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を備える方法。
【請求項7】
前記液性成分は、血液の少なくとも一部を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
肝細胞癌に関する診断のためのマーカーであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の遺伝子産物である、マーカー。
【請求項9】
肝細胞癌に関する診断のための診断剤であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含む、診断剤。
【請求項10】
肝細胞癌に関する診断のためのキットであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定するための1又は2以上の試薬を含む、キット。
【請求項11】
肝細胞癌に関する診断のための診断剤であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))を測定するための試薬を含む、診断剤。
【請求項12】
前記試薬は、前記FAM3B及び/又は前記KRT23を特異的に認識する抗体である、請求項11に記載の診断剤。
【請求項13】
肝細胞癌に関する診断のためのキットであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))を測定するための1又は2以上の試薬を含む、キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書は、肝細胞癌に関する診断のために有用な背景肝因子及びその利用に関する。本出願は、2015年2月19日に出願された日本国特許出願である特願2015-030710の関連出願であり、この日本出願に基づく優先権を主張するものであり、この日本出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma,HCC)は、肝細胞に由来する悪性腫瘍である。また、肝細胞癌は、95%が肝硬変などの慢性肝疾患を伴っているという特徴がある。肝細胞癌は、原発性肝細胞癌と転移性肝細胞癌とがあるが、本明細書において、特記しない限り、肝細胞癌というときには、原発性肝細胞癌を意味している。
【0003】
肝細胞癌は、高率に多中心性発癌することが知られている。すなわち、1つの肝臓に次から次へと肝細胞癌が発生するのである。このため、肝細胞癌においては、手術後においても、肝内に多発再発する傾向があり、再発病巣は、初発病変部の肝内転移(IM)よりも、多中心性発生(MO)の頻度が多い(おおよそ75%)とされている(非特許文献1)。したがって、肝細胞癌において、多中心性発癌や多中心性発生再発を予測し、予防や治療方針を立てることが重要である。
【0004】
肝細胞癌の治療においては、一般に、切除した癌組織(原発巣)の病理学的検討を基礎とする細胞の悪性度により、癌手術後の予後予測を検討している。また、肝細胞癌の腫瘍マーカーにはAFP(α-フェトプロテイン)、PIVKA-II及びAFP-L3%が用いられている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Nomoto S. et al., Br J Cancer 2007, 97, p1260-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肝細胞癌罹患個体にあって、多中心性発生の再発が多い以上、原発巣の悪性度だけで予後を予測するだけでは十分でない。また、肝細胞癌は、肝硬変などの慢性肝疾患に合併するため発癌リスクはある程度認識できる。しかながら、現在のところ、肝細胞癌マーカーは、種々用いられているものの、早期の肝細胞癌において、これらの陽性率は低く、早期発見に必ずしも貢献しているわけではない。したがって、肝細胞癌リスク個体において、早期に肝細胞癌を精度よく検知したり肝細胞癌の発症リスクを検知できる方法も提供されていない。
【0007】
本明細書は、肝細胞癌の予後予測等の診断のために有用なマーカー及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、肝細胞癌の予後予測等の診断にあたって、肝細胞癌に罹患した個体の癌組織以外の肝臓部分(背景肝)に着目した。そして、原発性肝細胞癌の背景肝と転移性肝癌の癌組織でない正常肝組織における遺伝子発現状態を対比した。この結果、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルが、肝細胞癌罹患個体の予後等に関連付けられるという知見を得た。また、FAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子の発現レベルを組み合わせて検討することにより、これらの遺伝子の発現レベルと肝細胞癌罹患個体の予後等との関連がより明確となるという知見を得た。さらに、本発明者は、これらの背景肝因子の血中濃度についても検討したところ、健常個体と肝細胞癌罹患個体とを区別できるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0009】
(1)肝細胞癌に関する診断を補助する方法であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を備える、方法。
(2)背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定する、(1)に記載の方法。
(3)肝細胞癌罹患個体の背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定して、肝細胞癌の進展、肝細胞癌の再発及び予後に関する診断を補助する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)肝細胞癌リスク個体の背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを測定して、肝細胞癌の発症リスク又は肝細胞癌への進展に関する診断を補助する、(1)又は(2)に記載の方法。
(5)背景肝の前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルの経時的な変化又は前記FAM3B遺伝子及び/又は前記KRT23遺伝子の発現レベルを所定の基準値と対比する、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)肝細胞癌に関する診断を補助する方法であって、
肝細胞癌罹患個体又は肝細胞癌リスク個体から採取した液性成分中のFAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を備える方法。
(7)前記液性成分は、血液の少なくとも一部を含む、(6)に記載の方法。
(8)肝細胞癌に関する診断のためのマーカーであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の遺伝子産物である、マーカー。
(9)肝細胞癌に関する診断のための診断剤であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含む、診断剤。
(10)肝細胞癌に関する診断のためのキットであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)遺伝子及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))遺伝子の発現レベルを測定するための1又は2以上の試薬を含む、キット。
(11)肝細胞癌に関する診断のための診断剤であって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))を測定するための試薬を含む、診断剤。
(12)前記試薬は、前記FAM3B及び/又は前記KRT23を特異的に認識する抗体である、(11)に記載の診断剤。
(13)肝細胞癌に関する診断のためのキットであって、
FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)及び/又はKRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))を測定するための1又は2以上の試薬を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】肝細胞癌患者172症例のうち予後最悪24症例及び予後最良24症例におけるFAM3B遺伝子発現量を示す図である。
【図2】肝細胞癌患者172症例のうち予後最悪24症例及び予後最良24症例におけるKRT23遺伝子発現量を示す図である。
【図3】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子高発現群と低発現群についての生存率を示す図である。
【図4】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子高発現群と低発現群(ただし、発現量20を基準として)についての生存率を示す図である。
【図5】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子高発現群と低発現群(ただし、発現量20を基準として)についての臨床病理学的評価を示す図である。
【図6】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子高発現群と低発現群についての単変量解析及び多変量解析による臨床病理学的評価を示す図である。
【図7】肝細胞癌患者におけるKRT23遺伝子高発現群と低発現群についての生存率を示す図である。
【図8】肝細胞癌患者におけるKRT23遺伝子高発現群と低発現群(ただし、発現量15を基準として)についての生存率を示す図である。
【図9】肝細胞癌患者におけるKRT23遺伝子高発現群と低発現群(ただし、発現量15を基準として)についての臨床病理学的評価を示す図である。
【図10】肝細胞癌患者におけるKRT23遺伝子高発現群と低発現群についての単変量解析及び多変量解析による臨床病理学的評価を示す図である。
【図11】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子が共に高発現である高発現群とそれ以外(両遺伝子が共に低発現又はどちらかが低発現)である低発現群についての生存率を示す図である。
【図12】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子が共に高発現である高発現群とそれ以外(両遺伝子が共に低発現又はどちらかが低発現)である低発現群(ただし、FAM3Bの発現量20、KRT23の発現量15を基準として)についての生存率を示す図である。
【図13】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子が共に高発現である高発現群とそれ以外(両遺伝子が共に低発現又はどちらかが低発現)である低発現群(ただし、それぞれのメジアンを基準として)についての生存率を示す図である。
【図14】肝細胞癌患者におけるFAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子のいずれかが高発現である高発現群とそれ以外である低発現群(ただし、FAM3Bの発現量20、KRT23の発現量15を基準として)についての生存率を示す図である。
【図15】肝細胞癌患者及び健常個体から採取した血液中のFAM3B量を示す図である。
【図16】肝細胞癌患者及び健常個体から採取した血液中のKRT23量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、ヒトなどの動物の肝細胞癌の診断に関する新たな背景肝因子を提供する。すなわち、本開示は、肝細胞癌罹患個体の肝細胞癌ではない組織(背景肝)におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを、肝細胞癌の再発、肝細胞癌の進展及び生存率などの予後に関する診断に利用することに関する。また、本開示は、肝細胞癌リスク保有個体の肝組織(背景肝)におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを、肝細胞癌の発症リスク、肝細胞癌への進展、肝細胞癌の発症に関する診断に利用することに関する。

【0012】
本開示において、肝細胞癌罹患個体とは、肝細胞癌の診断が確定している個体であって、特に明記しない限り、初発であるか再発であるかを問わない。また、病巣を死滅、除去等するための種々の処置を行う前後も問わない。

【0013】
本開示において、肝細胞癌リスク個体とは、肝硬変や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの慢性肝疾患個体やC型及び/又はB型肝炎ウイルスに感染歴を有する個体など、肝細胞癌リスク因子を有する個体を含んでいる。

【0014】
本明細書において、背景肝とは、肝細胞癌罹患個体の肝臓の肝細胞癌でない組織をいい、肝細胞癌に未だ罹患していない肝疾患罹患リスク個体などの肝細胞癌リスク個体の肝臓組織をいう。

【0015】
本開示は、発明者が、背景肝因子として肝細胞癌罹患個体の背景肝の遺伝子発現について探索するにあたり、肝細胞癌罹患個体の予後不良の背景肝と予後良好の背景肝との遺伝子発現を比較したところ、予後不良の背景肝において、予後良好の背景肝に対して有意にFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルが上昇していることに基づいている。

【0016】
また、本開示は、本発明者によって見出された背景肝因子の血中濃度が、健常人に比較して肝細胞癌罹患個体において増大していることに基づいている。

【0017】
肝細胞癌罹患個体の背景肝については、これまで、術前において肝臓の障害度を知るために、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン活性値や繊維化などの臨床結果を指標として間接的に評価されていた。しかしながら、背景肝の組織の直接評価はされていなかった。また、背景肝因子の血中濃度についても着目されていなかった。

【0018】
本開示によれば、肝細胞癌罹患個体における背景肝におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルが予後に大きく影響すること、及び肝細胞癌の予後にはその多くが肝内における多中心性発生(MO)によるものであることから、肝細胞癌罹患個体のみならず、肝細胞癌リスク個体の背景肝においてFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定することで初発の肝細胞癌リスク等の診断を補助することができる。

【0019】
また、本開示によれば、肝細胞癌リスク個体や肝細胞癌罹患個体など対象個体のFAM3B量又はKRT23量を測定することでも、肝細胞癌リスクや肝細胞癌の予後等の肝細胞癌に関する診断を補助することができる。

【0020】
以下、本開示の各種実施形態について、本開示の背景肝因子(マーカー)、肝細胞癌に関する診断を補助する方法及び試薬キット等について説明する。

【0021】
以下の示す詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された肝細胞癌に関する診断のために有用な背景肝因子及びその利用を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。

【0022】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。

【0023】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。

【0024】
本開示において、肝細胞癌に関する診断とは、肝細胞癌の発症前及び発症後における、肝細胞癌に関連した診断であればよい。こうした診断項目としては、例えば、肝細胞癌自体の疾患診断、肝細胞癌の発症リスクの増加(又はその減少)、肝細胞癌への進展(又はその改善)、肝細胞癌の再発(又はその改善)、肝細胞癌の進展(又はその改善)、生存率(全及び無再発)等が挙げられる。診断項目としては、これらのいずれか又は2以上の組合せを包含していてもよい。肝細胞癌においては、多中心性発癌による癌が挙げられる。また、再発に関しては、肝内転移再発と多中心性発生再発の双方を含みうるが、多中心性発生再発が挙げられる。

【0025】
(肝細胞癌の診断に関する背景肝因子(マーカー)及びそれを用いた肝細胞癌に関する診断を補助する方法)
本開示は、FAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子を肝細胞癌の背景肝因子として同定する。FAM3B遺伝子は、FAM3B(family with sequence similarity 3, member B)をコードする遺伝子である。FAM3Bは、サイトカイン様遺伝子ファミリーの1つで、分泌型のサイトカインである。FAM3Bは、膵臓ランゲルハンス島のα、β細胞において高発現していることが知られている(Zhu Y, et al Genomics. 2002;80(2):144-50)。また、FAM3Bは、脂質代謝に関与している。高発現状態で肝臓のインスリン抵抗性と脂質生成を誘導し、脂肪化を引き起こし、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の進展に関与することが報告されている(Yang J, et al Journal of gastroenterology and hepatology. 2013;28 Suppl 1:105-11)。

【0026】
KRT23遺伝子は、KRT23(keratin 23(histone deacetylase inducible))をコードする遺伝子である。KRT23は、ケラチンファミリーの一種であり、細胞骨格を構成する成分の一つである、中間径フィラメントを構成するタンパク質である。KRT23は、ヒトの各種組織において発現している。また、KRT23は、大腸腺癌において、プロモーター領域が脱メチル化することで高発現していることが報告されている(Birkenkamp-Demtroder K, et al PloS one. 2013;8(9):e73593)。また、脂肪性肝炎において、脂肪肝及び正常肝と比較して高発現していることが知られている(Starmann J, et al PloS one. 2012;7(10):e46584)。

【0027】
FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子は、動物において広く存在しており、本開示の対象個体の動物種に応じて選択される。対象個体としては、概してヒトであり、ヒトFAM3B遺伝子又はヒトKRT23遺伝子を用いる。ヒトFAM3B遺伝子及びヒトKRT23遺伝子の代表的なポリヌクレオチド(cDNA)を含む塩基配列は公知のデータベースから容易に取得できる。例えば、ヒトFAM3B遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のAccession No.AY358459にて取得可能である。塩基配列は配列番号1で表され、アミノ酸配列は配列番号2で表される。さらに、ヒトKRT23遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIのホームページのAccession No.NM_015515 XM_005257198 XM_005277789にて取得可能である。塩基配列は配列番号3で表され、アミノ酸配列は配列番号4で表される。なお、ポリヌクレオチドがmRNAの場合には、この塩基配列のチミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。

【0028】
FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子を肝細胞癌の予後予測等の診断に関する背景肝因子として利用する場合、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定する。すなわち、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルの測定は、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の遺伝子産物の測定により行う。遺伝子産物とは、転写産物及び翻訳産物を包括的に意味している。転写産物とはFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子から、転写の過程を経て生じるRNAをいうが、好ましくはmRNA(未成熟mRNA、成熟mRNA等)をいい、より好ましくは、未成熟mRNAより転写・プロセシングの過程を経て生じる成熟mRNAをいう。翻訳産物とは、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子から転写・翻訳の過程を経て生じるタンパク質(ポリペプチド)をいう。翻訳産物は、未修飾であっても翻訳後修飾されていてもよい。翻訳後修飾としては、例えば、リン酸、糖又は糖鎖、リン脂質、脂質、ヌクレオチド等による修飾などが挙げられる。

【0029】
FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルの測定工程は、対象個体の背景肝から採取した生体試料のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定してもよいし、対象個体の背景肝におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを直接測定してもよい。

【0030】
対象個体から採取した生体試料を用いる場合、まず生体試料よりFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物を調製する。転写産物の調製は、当該分野で周知の方法によって行うことができ、また、市販のキットを用いて行ってもよい。

【0031】
生体試料としては、例えば、背景肝組織、背景肝の細胞、背景肝の液体成分等が挙げられ、特に限定されない。生体試料は、倫理的な問題が生じないように、バイオプシー等により対象者から分離される。好ましくは、背景肝の組織を採取する。組織は、組織切片、組織破砕物又は後述の組織抽出物の態様で提供されてもよい。肝臓や肝臓組織の抽出物は、肝細胞や肝臓組織を、当業者に公知の方法によってホモジネート又は可溶化されることにより得られる。本開示の一態様において、対象個体の背景肝又はその組織、あるいはこれらの抽出物等が好ましく用いられる。

【0032】
転写産物の発現量を測定する場合、まず、生体試料から遺伝子の転写産物を調製する。転写産物の調製は、当該分野で周知の方法によって行うことができる。

【0033】
転写産物の発現量の測定は当該分野で周知の方法により測定することができ、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットブロットハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、核酸アレイ等によって測定することができる。ノーザンブロットハイブリダイゼーション法やドットブロットハイブリダイゼーション法においては、後述するFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物を特異的に検出し得るプローブを、RT-PCR法においては、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物を特異的に検出し得るプライマーを、核酸アレイとしては後述の核酸アレイをそれぞれ用いることができる。

【0034】
転写産物の発現レベルを測定する場合には、測定値を公知の方法によって補正することができる。補正により、独立した複数の生体試料における転写産物の発現レベルをより正確に比較することが可能となる。測定値の補正は、上記生体試料において、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて、上記遺伝子の発現レベルの測定値を補正することにより行われる。発現レベルが大きく変動しない遺伝子の例としては、GAPDH、β-アクチン等を挙げることができる。

【0035】
翻訳産物の発現レベルを測定する場合、まず生体試料より翻訳産物の発現レベルを測定可能なサンプルを調製する。翻訳産物の発現レベルの測定をELISA、ウェスタンブロット法、スポット法、凝集法、後述する抗体アレイ等の免疫学的方法、表面プラズモン共鳴等により行う場合、通常、生体試料より液体サンプルを調製する。例えば、生体試料が組織や細胞の場合、これらを機械的に破砕したり、可溶化剤で処理すること等により可溶化物を調製する。翻訳産物の発現レベルの測定をフローサイトメトリー法や免疫学的組織染色等の免疫学的方法により行う場合は、組織や細胞等の生体試料は適宜固定等の処理に付され、抗体等により染色される。このように、免疫学的方法によりFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物の発現レベルを測定する場合においては、抗体として後述する翻訳産物を特異的に認識する抗体を用いることができる。

【0036】
発現レベルの測定を対象個体において直接行う場合には、通常、上記組織中の遺伝子の翻訳産物の発現レベルが測定される。この場合、翻訳産物の発現レベルの測定は、当該分野で周知の方法により行うことができ、例えば、陽電子放射断層撮影法(Positron Emission Tomography;PET)などが利用可能である。PETによりFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物の発現レベルを測定する場合には、該翻訳産物に親和性を有する物質であって、ポジトロン放出核種で標識されたものを、対象者に投与し、該物質から発生する陽電子が消滅する際に放出されるガンマ線を検出することで、生体内の該物質の分布、即ち翻訳産物の発現レベルの変化をPET画像により非侵襲的に測定することができる。該物質としては、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物に特異的に結合する核酸、翻訳産物を特異的に認識する抗体等を使用することができる。ポジトロン放出核種としては、11C、13N、15O、18O、45Ti、62Cu、68Ga、82Rb等を挙げることができる。

【0037】
また、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物の発現レベルは、生体試料中のFAM3B又はKRT23の翻訳産物の活性を測定することによっても知ることができる。FAM3B又はKRT23の基質として公知のオリゴペプチドの分解活性として測定してもよい。

【0038】
例えば、一態様として、手術や検査などで切除を行った背景肝の切片を用いるとき、この組織は免疫組織化学染色に供され、免疫組織化学染色によって生じた染色の強度、並びに染色の分布(単位面積当たりの染色割合)を、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルとして取得できる。発現レベルの取得及び評価をマスイメージング法に基づいて行うこともできる。

【0039】
本開示の方法では、対象個体の背景肝のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルに基づいて当該個体における肝細胞癌の予後予測等の診断を補助できる。すなわち、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルに基づいて、対象個体の肝細胞癌に関する診断補助情報を得ることができる。例えば、複数の肝細胞癌罹患個体を含む肝細胞癌罹患個体群のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルから得られる基準値を利用して、当該基準値に対する大小(例えば、基準値以上と基準値未満又は基準値超と基準値以下)で、肝細胞癌罹患個体や肝細胞癌リスク個体の肝細胞癌に関する診断を補助できる。

【0040】
なお、基準値は、肝細胞癌に関する診断目的(発症リスク、診断、再発など)に応じて、当該分野において周知の統計的処理によって適切に設定されるものである。基準値は、肝細胞癌罹患個体群、肝細胞癌罹患群におけるガンの進展ステージ等に基づいて分類された群、肝細胞癌罹患群中の所定の基準に基づく予後不良群や予後良好群、健常者群等に関して、FAM3B遺伝子やKRT23遺伝子の発現レベルに基づく平均値、メジアン及びその他の所定の基準に基づいて特定した診断補助等に有用な数値とすることができる。

【0041】
FAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子は、いずれも、高発現である場合において、肝細胞癌の予後不良に関連付けられる。例えば、肝細胞癌罹患個体のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子発現レベルが肝細胞癌罹患個体群から取得した基準値よりも高いとき、肝細胞癌の進展、再発や予後不良が肯定的に判定される。また、同様にFAM3B遺伝子発現レベルが基準値よりも高いとき、HCV陽性、肝硬変陽性及び肝細胞癌の腫瘍マーカーAFPの上昇が肯定される。また、KRT23遺伝子発現レベルが基準値よりも高いとき、肝硬変陽性が肯定される。また、肝細胞癌リスク個体のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子発現レベルが基準値よりも高発現のとき、肝細胞癌の発症リスクの増加、肝細胞癌の発症、肝細胞癌への進展や、再発可能性や予後不良が肯定される。

【0042】
一方、肝細胞癌罹患個体や肝細胞癌リスク個体のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子発現レベルが、肝細胞癌罹患個体群の基準値よりも低発現のときには、上記高発現のときとは逆の肝細胞癌の発症リスク、肝細胞癌への進展、肝細胞癌の発症、肝細胞癌の再発、肝細胞癌の進展などが否定的に判定される。換言すれば、肝細胞癌の発症リスク低下、肝組織の改善、肝細胞癌の未再発、肝細胞癌の改善、予後良好などが肯定的に判定される。

【0043】
例えば、背景肝におけるFAM3B遺伝子の発現レベルに基づくとき、基準値を、FAM3B遺伝子の発現レベル(FAM3B/GAPDH×103)に関して「20」とすることができる。すなわち、被験個体の発現レベルが20以下あるいは20未満のときには、予後良好(肝細胞癌の発症、再発、進展等について否定的)に判定され、同発現レベルが20超あるいは20以上のときには、予後不良(肝細胞癌の発症、再発、進展等について肯定的)に判定されることになる。

【0044】
同様にして、背景肝におけるKRT23遺伝子の発現レベルに基づくとき、基準値を、KRT23遺伝子の発現レベル(KRT23/GAPDH×103)に関して「15」とすることができる。すなわち、被験個体の発現レベルが15以下あるいは15未満のときには、予後良好に判定され、同発現レベルが15超あるいは15以上のときには、予後不良に判定されることになる。

【0045】
また、本開示の方法では、対象個体の背景肝のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルの経時的な変化に基づいて、肝細胞癌に関する診断を補助できる。例えば、対象個体の背景肝のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子発現レベルが経時的に上昇する傾向があるとき、肝細胞癌罹患個体の肝細胞癌の進展、再発や予後不良が肯定的に判定され、肝細胞癌リスク個体の肝細胞癌の発症リスクの増加、肝細胞癌の発症、肝細胞癌への進展や、再発可能性や予後不良が肯定的に判定される。一方、同様のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子発現レベルが経時的に減少するときには上記各診断項目が否定的に判定される。

【0046】
また、こうした対象個体の背景肝におけるFAM3B遺伝子の発現レベル及びKRT23遺伝子の発現レベルの双方を指標とすることで、より高い確度で肝細胞癌の予後予測等の診断を補助することができる。

【0047】
(背景肝因子を用いた肝細胞癌に関する診断を補助する方法その2-対象個体から採取した血液などの液性成分を対象とする方法)
本開示は、また、背景肝因子を用いた肝細胞癌に関する診断を補助する方法として、対象個体から採取した血液及び血清、血漿等の血液由来の液性成分(本明細書において、単に、液性成分ともいう。)中のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベル(典型的には、FAM3Bタンパク質又はKRT23タンパク質)を指標とする、肝細胞癌に関する診断を補助する方法も提供する。

【0048】
本発明者が、健常個体と肝細胞癌罹患個体の血管から採取した血液から分離した血清についてFAM3B量又はKRT23量を測定したところ、健常者に対して肝細胞癌罹患個体において有意に高い結果が得られた。この結果に基づけば、肝細胞癌罹患個体や肝細胞癌リスク個体について、背景肝組織等を生体試料として採取しなくても、生体試料として血液を採取すれば、背景肝組織等を生体試料とする場合と同様に、肝細胞癌に関する診断を補助することが可能となる。

【0049】
この態様の診断補助方法においては、生体試料としては、既に説明した対象個体から採取した液性成分、すなわち、血液又は血液に由来する血清、血漿等の液性成分を用いることができる。なお、FAM3B量又はKRT23量を測定するものとして上記した生体試料と同等である限り、涙液、精液、睡液、尿及び汗等を用いることができる。

【0050】
こうした生体試料中のFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定するには、既に説明したように、背景肝組織等における翻訳産物(FAM3B又はKRT23)の発現レベルの測定と同様に実施できる。すなわち、まず生体試料からFAM3B又はKRT23を測定可能なサンプルを調製する。FAM3B量又はKRT23量の測定をELISA、ウェスタンブロット法、スポット法、凝集法、抗体アレイ等の免疫学的方法、表面プラズモン共鳴等により行うことができる。なお、免疫学的方法によりFAM3B量又はKRT23量を測定する場合においては、既に説明した抗体として後述する翻訳産物を特異的に認識する抗体を用いることができる。

【0051】
また、FAM3B量又はKRT23量などのFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルは、生体試料中のFAM3B又はKRT23活性を測定することによっても知ることができる。FAM3B又はKRT23の基質として公知のオリゴペプチドの分解活性として測定してもよい。

【0052】
本開示の方法によれば、肝細胞癌リスク個体や肝細胞癌罹患個体における、肝細胞癌への進展、発症、再発や予後などを血液などの液性成分から簡易に推測することができるようになる。

【0053】
本開示の方法によれば、例えば、健常個体について予め取得した液性成分中のFAM3B量又はKRT23量(又は濃度)の基準値と、肝細胞癌リスク個体や肝細胞癌罹患個体及びその他の対象個体から取得した液性成分中のFAM3B量又はKRT23量と、を対比することで、肝細胞癌に関する診断を補助できる。より具体的には、基準値よりも対象個体のFAM3B量又はKRT23量が同等あるいは基準値を超えるときには、対象個体の肝細胞癌のリスク、発症、再発、進展等が肯定的に判断される。また、基準値よりも対象個体のFAM3B量又はKRT23量が低い等のときには、対象個体の肝細胞癌のリスク、発症、再発、進展等が否定的に判断される。

【0054】
なお、基準値は、肝細胞癌罹患個体群、肝細胞癌罹患群におけるガンの進展ステージ等に基づいて分類された群、肝細胞癌罹患群中の所定の基準に基づく予後不良群や予後良好群、健常者群等に関して、FAM3B遺伝子やKRT23遺伝子の発現レベルに基づく平均値、メジアン及びその他の所定の基準に基づいて特定した診断補助等に有用な数値とすることができる。

【0055】
また、こうした対象個体の液性成分を対象とするFAM3B量又はKRT23量を指標とする診断補助工程と、既に述べた背景肝組織等におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを指標とする診断補助工程とを組み合わせると、より高い確度で肝細胞癌の診断を補助できる。

【0056】
(肝細胞癌に関する診断のための診断剤)
本開示の診断剤は、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定できる1又は2以上の試薬を含んでいる。より具体的には、本開示の診断剤は、(a)FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物を特異的に検出可能な核酸プローブ若しくはプライマー及び/又は(b)FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物に特異的に認識する抗体を含んでいる。

【0057】
(FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の転写産物を特異的に検出可能な核酸プローブ若しくはプライマー)
プローブとは、標的核酸(FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子のmRNA、cDNA、染色体DNA等)に対する特異的なハイブリダイゼーションによって、標的核酸の検出に用いられる核酸をいう。

【0058】
本開示の核酸プローブ又はプライマーとしては、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子のヌクレオチド配列若しくはその部分配列又はこれらの相補配列を有する核酸を用いることができる。ここで、「遺伝子のヌクレオチド配列」とは、遺伝子がコードされるゲノムDNA、mRNA又はcDNAの全長ヌクレオチド配列であり、特に限定されないが、好ましくはmRNA又はcDNAの全長ヌクレオチド配列である。遺伝子としては、好ましくは構造遺伝子である。上記mRNAは、未成熟mRNA又は成熟mRNAであり、特に限定されないが、好ましくは成熟mRNAである。

【0059】
プローブは、標的核酸に対して特異的ハイブリダイゼーションを達成できればその長さは特に限定されないが、例えば、少なくとも15bp、好ましくは少なくとも20bp、より好ましくは少なくとも25bp、さらにより好ましくは30bp以上とすることができる。また、プライマーは、標的核酸の伸長反応に十分な長さであれば特に限定されないが、通常15~100bp、好ましくは18~50bp、さらに好ましくは18~35bpである。プライマー(セット)は、特に限定されないが、遺伝子増幅の反応効率の観点から、好ましくは特異的遺伝子増幅産物の大きさが50~1000bp、より好ましくは100~600bpとなるように選択される。該プライマー(セット)は、増幅対象である背景肝因子関連遺伝子のヌクレオチド配列に基づき、当業者であれば容易にデザインすることが可能である。プローブ及びプライマーは、DNAであってもRNAであってもよい。

【0060】
プローブ及びプライマーは、当該分野で周知の方法により作製することができる。例えば、約100bp以下の大きさの核酸分子であれば有機化学的方法により作製することができる。また、核酸分子のサイズが大きい場合には、生物学的方法(細胞系、無細胞系を含む)により作製することも可能である。プローブ及びプライマーは、適宜、蛍光標識や、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、アルカリフォスファターゼ標識などによる修飾がなされていてもよい。

【0061】
プローブ及びプライマーは、様々な態様を採ることができる。例えば、プローブは、公知の固相担体に固定化されたデバイスの形態を採ることができる。こうしたデバイスは、いずれもプローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションを意図するが、一般的なハイブリダイゼーションを指向するアレイデバイスと、クロマトグラフィーによるハイブリダイゼーションを指向する核酸クロマトグラフィーデバイスとが挙げられる。固相担体は、当該分野で通常用いられているものを用いることができる。例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ガラス、プラスチック、金属などが挙げられる。プローブ及びプライマーの固相担体への固定化は共有結合や静電的結合など当該分野で周知である。

【0062】
(FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物を特異的に認識する抗体)
抗体の種類は特に限定されない。例えば、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。また、本開示の抗体は、キメラ抗体、ヒト型抗体、ヒト抗体、又はこれらのエピトープ結合フラグメントであってもよい。また、翻訳産物の翻訳後修飾がその機能に重要な役割を果たす場合は、抗体は、未修飾の翻訳産物と修飾後の翻訳産物を識別できるものが好ましい。

【0063】
FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物に対する抗体の一部が、ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体として市販されている場合には、これら市販物を用いることができる。また、ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体は、当該分野で周知の方法によって作製することもできる。

【0064】
エピトープ結合フラグメントとは、上述した抗体の抗原結合領域を含む部分又は当該領域から誘導された部分をいい、具体的にはF(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、scFv(single chain Fv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)等が挙げられる。

【0065】
抗体は、修飾されていてもよい。当該修飾としては、特に限定されないが、例えば、蛍光(FITC、ローダミン、テキサスレッド、6-カルボキシ-フルオレッセイン(FAM)、テトラクロロ-6-カルボキシフルオレッセイン(TET)、2,7-ジメトキシ-4,5-ジクロロ-6-カルボキシフルオレッセイン(JOE)、ヘキソクロロ-6-カルボキシフルオレッセイン(HEX)、6-カルボキシ-テトラメチル-ローダミン(TAMRA)等)標識、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、アルカリフォスファターゼ標識、放射性同位体標識、鉄などの金属ナノ粒子による標識等が挙げられる。

【0066】
抗体は、様々な態様で提供される。例えば、抗体は、公知の固相担体に固定化されたデバイスの形態を採ることができる。こうしたデバイスは、いわゆるアレイデバイスの形態と、クロマトグラフィーを指向する免疫クロマトグラフィーデバイスとが挙げられる。固相担体は、当該分野で通常用いられているものを用いることができる。例えば、メンブレン(例えば、ナイロン膜)、ガラス、プラスチック、金属などが挙げられる。抗体を固相担体に固定化することは、当該分野で周知である。

【0067】
抗体アレイによる遺伝子の翻訳産物の測定は、使用する抗体アレイの形態によっても異なるが、例えば、サンプルから抽出された翻訳産物を標識し、次いでこれを抗体アレイ上の各抗体に反応させることにより行なうことができる。標識は、直接検出可能なシグナルを発するものでもよいし、検出可能なシグナルを発する物質に特異的に結合する物質でもよい。直接検出可能なシグナルを発する標識の例としては、蛍光性物質、アルカリフォスファターゼ、放射性同位元素などが挙げられる。検出可能なシグナルを発する物質に特異的に結合する物質の例としては、ビオチン、アビジン、ジゴキシゲニン、抗体などが挙げられる。標識の方法としては、化学反応で翻訳産物に直接結合させる方法などが挙げられる。

【0068】
本開示の方法が実施される態様の一例として、以下が挙げられる。本態様においては、分析に供される試料として、生検や手術などで切除を行った背景肝の切片が用いられる。この組織は免疫組織化学染色に供され、免疫組織化学染色によって生じたFAM3B又はKRT23の染色の強度、並びに染色の分布(単位面積当たりの染色割合)を併せてマーカーの発現レベルの指標とする。基準レベルは、正常肝組織の染色強度、並びに染色の分布(単位面積当たりの染色割合)を考慮したものでありうる。例えば、染色強度が基準レベルより強い領域が、分析に供された組織の30%以上の範囲に分布していることをもって、当該個体の予後等の指標とすることができる。

【0069】
こうしたFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の診断剤を用いることで、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定することができる。

【0070】
(肝細胞癌に関する診断のためのキット)
本開示のキットは、FAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルを測定できる1又は2以上の試薬を含んでいる。より具体的には、既述のプローブ及び/又はプライマーや抗体のほかに、これらを用いた測定や保存に必要な要素を組み合わせたキットであってもよい。例えば、本開示の診断剤が、プローブ又はプライマーを含む場合、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜、発色基質、反応用緩衝液、塩溶液、dNTP溶液、Taq DNAポリメラーゼ溶液等をさらに含むことができる。本開示の診断剤が抗体を含む場合、標識二次抗体、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、ELISAプレート、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。また、必要に応じて保存剤や防腐剤を各要素に加えてもよい。

【0071】
なお、本開示によれば、対象個体から採取した液性成分を対象とするFAM3B又はKRT23を用いた肝細胞癌に関する診断のための診断剤及びキットも提供される。既に説明した、肝細胞癌に関する診断のための診断剤及びキットにおけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の翻訳産物であるFAM3Bタンパク質又はKRT23タンパク質を特異的に認識する抗体は、対象個体から採取した液性成分を対象とするFAM3B又はKRT23を用いた肝細胞癌に関する診断のための診断剤及びキットの要素でもある。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0073】
本実施例では、HCV陽性肝硬変から発症した肝細胞癌患者(1症例、58才、男性、HCVnormal(CN))の背景肝組織から取得したmRNAと、転移性肝癌患者(11症例)の背景肝(正常肝組織、Super Normal(SN))から取得したmRNAとを用いて、発現アレイ解析を行った。SNに関しては、個人背景を消失させるため、全11症例のmRNAを混和して使用した。発現アレイとしては、Agilent Whole Human Genome(4×44K)Microarrays(Mississauga, Canada)を用いた。
【実施例1】
【0074】
発現アレイを解析したところ、CNとSNとの比較により複数の遺伝子が抽出された。各遺伝子の発現と予後との関連を検討するため、肝細胞癌患者172症例のうち予後最悪24症例及び予後最良24症例の背景肝について、定量RT-PCRにより各遺伝子の発現量を比較した。その結果、図1及び図2に示すように、FAM3B遺伝子(P=0.0033)及びKRT23遺伝子(P=0.0086)の発現量について、予後最悪24症例が予後最良24症例に対して有意に高いことがわかった。
【実施例1】
【0075】
以上のことから、背景肝におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルが、肝細胞癌の再発などの肝細胞癌の予後予測等に関する診断の指標となることがわかった。
【実施例2】
【0076】
本実施例では、肝細胞癌患者159症例の背景肝からmRNAを取得して、FAM3B遺伝子の発現量(FAM3B/GAPDH/10)をRT-PCRで測定し、159症例の平均値12.404を基準として高発現群(n=33)と低発現群(n=126)とに分類して、全生存率を検討した。また、FAM3Bの発現量を20以上発現した高発現群(n=23)と20未満の低発現群(n=136)とに分類して、全生存率を検討した。これらの結果を、FAM3B遺伝子の発現量と全生存率との関係について図3及び図4に示す。
【実施例2】
【0077】
図3に示すように、平均値を基準とした高発現群と低発現群とでは、全生存率に関し有意差があった(P=0.0123)。また、図4に示すように、発現量「20」を基準とした高発現群と低発現群とでも、全生存率に関し有意差があった(P=<0.0001)。いずれも、高発現群が生存期間の短縮に、低発現群が生存期間の延長に、それぞれ関連付けられた。
【実施例2】
【0078】
また、本実施例では、FAM3B遺伝子の発現量「20」を基準値とした高発現群と低発現群とについて、臨床病理学的検討を行った。結果を図5及び図6に示す。
【実施例2】
【0079】
図5に示すように、FAM3B遺伝子の発現量「20」を基準値とした高発現群は低発現群に対して、HCV陽性(P=0.0048)、肝硬変陽性(P=0.0153)及びAFP高値(P=0.0075)に有意な相関を示した。
【実施例2】
【0080】
さらに、図6に示すように、予後不良について、単変量解析では、肝硬変陽性(P=0.0300)、肝障害度B又はC(P=0.0011)、複数個の腫瘍の存在(P=0.0168)、AFP高値(P=0.0033)、低分化組織型(P=0.0053)、漿膜浸潤の存在(P=0.0195)、血管浸潤の存在(P=0.0014)、切除断端陽性(P=0.0074)及びFAM3B高値(P=0.0001)が有意な相関を示し、これらは予後不良因子であった。また、多変量解析では、上記のうち、低分化組織型(P=0.0492)及びFAM3B高値(P=0.0128)のみが有意な相関を示し、独立した予後不良因子となることがわかった。
【実施例2】
【0081】
以上のことから、FAM3B遺伝子の発現レベルは、肝細胞罹患個体の予後(生存率)などの肝細胞癌に関する診断の指標となることがわかった。また、FAM3B遺伝子の発現レベルは、臨床病理学的評価にも一致していた。さらに、FAM3B遺伝子の発現レベルを所定の基準値と比較することで、肝細胞癌の予後予測等に関する診断をより詳細に精度よく実施できることがわかった。
【実施例3】
【0082】
本実施例では、肝細胞癌患者155症例の背景肝からmRNAを取得して、KRT23遺伝子の発現量(KRT23/GAPDH/10)をRT-PCRで測定し、155症例の平均値7.601を基準として高発現群(n=29)と低発現群(n=126)とに分類して、全生存率を検討した。また、KRT23の発現量を15以上発現した高発現群(n=16)と15未満の低発現群(n=139)とに分類して、全生存率を検討した。これらの結果を、KRT23遺伝子の発現量と全生存率との関係について図7及び図8に示す。
【実施例3】
【0083】
図7に示すように、平均値を基準とした高発現群と低発現群とでは、全生存率に関し有意差があった(P=0.0049)。また、図8に示すように、発現量「15」を基準とした高発現群と低発現群とでも、全生存率に関し有意差があった(P=0.0013)。いずれも、高発現群が生存期間の短縮に、低発現群が生存期間の延長に、それぞれ関連付けられた。
【実施例3】
【0084】
また、本実施例では、KRT23遺伝子の発現量「15」を基準値とした高発現群と低発現群とについて、臨床病理学的検討を行った。結果を図9及び図10に示す。
【実施例3】
【0085】
図9に示すように、KRT23遺伝子の発現量「15」を基準値とした高発現群は低発現群に対して、肝硬変陽性に有意な相関を示した(P=0.0437)。
【実施例3】
【0086】
さらに、図10に示すように、予後不良について、単変量解析では、肝硬変陽性(P=0.0300)、肝障害度B又はC(P=0.0011)、複数個の腫瘍の存在(P=0.0168)、AFP高値(P=0.0033)、低分化組織型(P=0.0053)、漿膜浸潤の存在(P=0.0195)、血管浸潤の存在(P=0.0014)、切除断端陽性(P=0.0074)及びKRT23高値(P=0.0053)が有意な相関を示し、これらは予後不良因子であった。また、多変量解析では、上記のうち、肝硬変陽性(P=0.0297)及びKRT23高値(P=0.0198)のみが有意な相関を示し、独立した予後不良因子となることがわかった。
【実施例3】
【0087】
以上のことから、KRT23遺伝子の発現レベルは、肝細胞罹患個体の予後(生存率)などの肝細胞癌に関する診断の指標となることがわかった。また、KRT23遺伝子の発現レベルは、臨床病理学的評価にも一致していた。さらに、KER23遺伝子の発現レベルを所定の基準値と比較することで、肝細胞癌の予後予測等に関する診断をより詳細に精度よく実施できることがわかった。
【実施例4】
【0088】
本実施例では、肝細胞癌患者172症例の背景肝からmRNAを取得して、FAM3B遺伝子の発現量(FAM3B/GAPDH/10)及びKRT23遺伝子の発現量(KRT23/GAPDH/10)をRT-PCRで測定し、それぞれの遺伝子について172症例の平均値を基準として、両遺伝子の発現量が共に平均値以上の高発現群(n=22)、それ以外(両遺伝子の発現量が共に平均値未満又は両遺伝子の発現量のうちどちらかが平均値未満)の低発現群(n=150)とに分類して、全生存率を検討した。また、FAM3Bの発現量が20以上であり、かつKRT23の発現量が15以上である高発現群(n=11)と、それ以外(両遺伝子の発現量が共に前記基準値未満又は両遺伝子の発現量のうちどちらかが前記基準値未満)の低発現群(n=161)とに分類して、全生存率を検討した。これらの結果を、図11及び図12に示す。
【実施例4】
【0089】
図11に示すように、平均値を基準とした高発現群と低発現群とでは、全生存率に関し有意差があった(P=0.0028)。また、図12に示すように、FAM3Bの発現量「20」とKRT23の発現量「15」とを基準とした高発現群と低発現群とでも、全生存率に関し有意差があった(P=<0.0001)。いずれも、高発現群が生存期間の短縮に、低発現群が生存期間の延長に、それぞれ関連付けられた。
【実施例4】
【0090】
また、FAM3Bの発現量がメジアン(2.39)以上であり、KRT23の発現量もメジアン(1.00)以上の高発現群(n=100)と、それ以外(両遺伝子の発現量が共に基準値未満又は両遺伝子の発現量のうちどちらかがメジアン未満)の低発現群(n=72)とに分類して、全生存率を検討した。これらの結果を、図13に示す。
【実施例4】
【0091】
図13に示すように、メジアンを基準とした高発現群と低発現群とでは、全生存率に関し有意差があった(P=0.0037)。高発現群が生存期間の短縮に、低発現群が生存期間の延長に、それぞれ関連付けられた。
【実施例4】
【0092】
さらに、FAM3Bの発現量が20以上又はKRT23の発現量が15以上である高発現群(n=31)と、それ以外(両遺伝子の発現量が共に前記基準値未満又は両遺伝子の発現量のうちどちらかが前記基準値未満)の低発現群(n=141)とに分類して、全生存率を検討した。これらの結果を、図14に示す。
【実施例4】
【0093】
図14に示すように、所定の基準値を基準とした高発現群と低発現群とでは、全生存率に関し有意差があった(P=0.0003)。高発現群が生存期間の短縮に、低発現群が生存期間の延長に、それぞれ関連付けられた。
【実施例4】
【0094】
以上のことから、FAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子の発現レベルは、それぞれ単独でも、あるいはこれらを組み合わせた場合にも、肝細胞罹患個体の予後(生存率)などの肝細胞癌に関する診断の指標となることがわかった。また、2つの遺伝子の発現レベルを組み合わせて検討することで、1つの遺伝子の発現レベルのみで検討する場合と比較してより精度よく実施することができる。また、FAM3B遺伝子及びKRT23遺伝子の発現レベルを組み合わせて所定の基準値と比較することで、肝細胞癌の予後予測等に関する診断をさらに精度よく実施できることがわかった。
【実施例5】
【0095】
本実施例では、ヒトの肝細胞癌罹患個体(n=6)と健常個体(n=6)とについて、それぞれ血液を採取し、採取血液から分離した血清について、市販の抗FAM3B抗体を含むELISAキット(FAM3B/Pancreatic Derived Factor, Soluble, Human, ELISA Kit (96 well)(Aviscera Bioscience, Inc.))及び抗KRT23抗体を含むELISAキット(Human Keratin, type I cytoskeletal 23, KRT23 ELISA Kit(CUSABIO))を用いてFAM3B量及びKRT23量を測定した。結果を図15及び図16に示す。
【実施例5】
【0096】
図15及び図16に示すように、FAM3B量及びKRT23量について、肝細胞癌罹患個体では、健常個体に対して有意に高いことがわかった。
【実施例5】
【0097】
以上のことから、肝細胞癌罹患個体においては、血液成分においてFAM3B量及びKRT23量が健常個体に対してより高いという結果となった。血液などの液性成分中のFAM3B量又はKRT23量を指標としても肝細胞癌に関する診断を補助できることがわかった。
【実施例5】
【0098】
また、対象個体の背景肝におけるFAM3B遺伝子又はKRT23遺伝子の発現レベルに加えて、液性成分中のFAM3B量又はKRT23量を測定することで、より高い確度で肝細胞癌の診断を補助できることがわかった。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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