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明細書 :補酵素の製造方法及び補酵素製造用形質転換体セット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年9月7日(2017.9.7)
発明の名称または考案の名称 補酵素の製造方法及び補酵素製造用形質転換体セット
国際特許分類 C12P  19/32        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
FI C12P 19/32
C12N 1/21
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 25
出願番号 特願2017-502323 (P2017-502323)
国際出願番号 PCT/JP2016/054872
国際公開番号 WO2016/136620
国際出願日 平成28年2月19日(2016.2.19)
国際公開日 平成28年9月1日(2016.9.1)
優先権出願番号 2015033843
優先日 平成27年2月24日(2015.2.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】本田 孝祐
【氏名】跡見 晴幸
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AF28
4B064CA21
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA23
要約 本発明は、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に対して、熱分解により失われるNADを補充するために、当該酵素反応系内においてNAD又はNADHを合成する方法、及び当該方法に用いる補酵素製造用形質転換体セットを提供する。すなわち、本発明は、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に、ニコチンアミドからNADを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNAD又はNADHの合成を行うことを特徴とする、補酵素の製造方法、及び非耐熱性微生物を宿主とし、ニコチンアミドからNAD又はNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなることを特徴とする、補酵素製造用形質転換体セットである。
特許請求の範囲 【請求項1】
NADを必要とする酵素反応系に、ADP-リボースとニコチンアミドからNADを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNADの合成を行うことを特徴とする、補酵素の製造方法。
【請求項2】
前記NADを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼである、請求項1に記載の補酵素の製造方法。
【請求項3】
NADHを必要とする酵素反応系に、ADP-リボースとニコチンアミドからNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNADHの合成を行うことを特徴とする、補酵素の製造方法。
【請求項4】
前記NADHを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ、及びNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素である、請求項3に記載の補酵素の製造方法。
【請求項5】
前記酸化還元酵素が、糖、アルコール、又は有機酸を基質とするデヒドロゲナーゼである、請求項4に記載の補酵素の製造方法。
【請求項6】
前記酵素反応系内に、さらに、AMP又はADPからATPを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加し、前記酵素反応系内においてATPの合成を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の補酵素の製造方法。
【請求項7】
前記ATPを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼである、請求項6に記載の補酵素の製造方法。
【請求項8】
前記耐熱性酵素が、非耐熱性微生物の発現系によって合成されたものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の補酵素の製造方法。
【請求項9】
前記耐熱性酵素が、非耐熱性微生物を宿主とし、耐熱性酵素をコードしている遺伝子を導入した形質転換体が合成したものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の補酵素の製造方法。
【請求項10】
前記形質転換体を培養して得られた菌体の加熱処理物を、前記酵素反応系に添加する、請求項9記載の補酵素の製造方法。
【請求項11】
前記非耐熱性微生物が大腸菌である、請求項8~10のいずれか一項に記載の補酵素の製造方法。
【請求項12】
非耐熱性微生物を宿主とし、ADP-リボースとニコチンアミドからNAD又はNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなることを特徴とする、補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項13】
前記耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼである、請求項12に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項14】
前記耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ、及びNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素である、請求項12に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項15】
さらに、非耐熱性微生物を宿主とし、AMP又はADPからATPを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項16】
1の形質転換体に1種類の耐熱性酵素をコードする遺伝子が導入されている、請求項12~15のいずれか一項に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項17】
前記非耐熱性微生物が大腸菌である、請求項12~16のいずれか一項に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
【請求項18】
前記形質転換体が、加熱処理されたものである、請求項12~17のいずれか一項に記載の補酵素製造用形質転換体セット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系において、NADの分解産物からNAD又はNADHを合成する方法、及び当該方法に用いるNAD又はNADHを製造するための形質転換体セットに関する。
本願は、2015年2月24日に、日本に出願された特願2015-33843号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子改変技術の発達に伴い、微生物を合成反応の反応系として用い、有用な有機化合物を微生物が備える代謝経路を利用して製造する方法が、工業上の量産にも利用されつつある。さらに、より効率よく有機化合物を合成するために、生きた微生物の代謝経路を改変するのではなく、複数の代謝酵素を予めモジュール化し、これらを任意に組み合わせることによって物質生産に特化した合成経路を人工的に構築すること(人工代謝システム)も試みられている。人工代謝システムを利用した方法により、例えば、グルコースやグリセロールから乳酸、リンゴ酸、1-ブタノールなどが選択的かつ高収率に生産できたことが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
モジュール化して使用される代謝酵素(酵素モジュール)は、微生物に当該代謝酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換体に産生させることにより、安価かつ簡便に提供可能である。中でも、酵素モジュールとしては、物理的及び化学的な安定性に優れており、工業的利用に適していることから、耐熱性酵素を使用することが好ましい。耐熱性酵素を微生物によって産生する方法としては、例えば、非耐熱性の抗酸菌に目的の耐熱性酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換体を培養して当該形質転換体内に耐熱性酵素を産生させた後、培養された菌体物を加熱処理することによって、形質転換体の死滅菌体内に固定化された耐熱性酵素を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。当該方法では、宿主である抗酸菌に由来するタンパク質が全て失活されており、目的の耐熱性酵素のみが活性を保持した状態で形質転換体の死滅菌体内に固定化されているため、当該死滅菌体をそのまま反応系に添加した場合でも、宿主由来の酵素による副反応が生じないという利点がある。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2011-160778号公報
【0005】

【非特許文献1】Krutsakorn,et al.,Metabolic Engineering,2013,vol.20,p.84~91.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工代謝システムを利用した方法によれば、基質特異性や合成物の立体選択性に優れ、かつ比較的穏和な条件下で目的の有機化合物を合成することができるという酵素反応の利点を活かし、有機合成では製造が困難であった有機化合物をより効率的に製造することができる。しかし、当該方法は、長時間反応時の安定性に乏しく、結果として得られる目的の有機化合物量は、工業上の量産レベルには未だ達していない。これは、用いる酵素モジュールの安定性の問題ではなく、酵素反応に必要な補酵素、特に酸化還元補酵素であるNAD、NADHの熱分解に起因するためである。長時間安定して目的の有機化合物を合成するためには、熱分解により減少したNADやNADHを反応系外から適宜補充する必要があるが、NAD等は比較的高価であり、このことが、人工代謝システムを利用した方法の工業上利用が進まない一因となっている。
【0007】
本発明は、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に対して、熱分解により失われるNAD又はNADHを補充するために、当該酵素反応系内においてNAD又はNADHを合成する方法、及び当該方法に用いるNAD又はNADHを製造するための形質転換体セットを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、NADの熱分解産物であるニコチンアミドからNADをサルベージ合成するための人工代謝経路(NAD人工合成経路)及びニコチンアミドからNADHをサルベージ合成するための人工代謝経路(NADH人工合成経路)を構築し、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に対して、直接NAD又はNADHを外添するのではなく、NAD人工合成経路又はNADH人工合成経路に必要な代謝酵素を添加し、当該酵素反応系内においてNAD又はNADHを合成することによって、熱分解により失われるNAD又はNADHをより安価に補充できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る補酵素の製造方法及び補酵素製造用形質転換体セットは、下記[1]~[18]である。
[1] NADを必要とする酵素反応系に、ADP-リボースとニコチンアミドからNADを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNADの合成を行うことを特徴とする、補酵素の製造方法。
[2] 前記NADを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼである、前記[1]の補酵素の製造方法。
[3] NADHを必要とする酵素反応系に、ADP-リボースとニコチンアミドからNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNADHの合成を行うことを特徴とする、補酵素の製造方法。
[4] 前記NADHを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ、及びNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素である、前記[3]の補酵素の製造方法。
[5] 前記酸化還元酵素が、糖、アルコール、又は有機酸を基質とするデヒドロゲナーゼである、前記[4]の補酵素の製造方法。
[6] 前記酵素反応系内に、さらに、AMP又はADPからATPを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加し、前記酵素反応系内においてATPの合成を行う、前記[1]~[5]のいずれかの補酵素の製造方法。
[7] 前記ATPを合成するための反応に要する耐熱性酵素が、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼである、前記[6]の補酵素の製造方法。
[8] 前記耐熱性酵素が、非耐熱性微生物の発現系によって合成されたものである、前記[1]~[7]のいずれかの補酵素の製造方法。
[9] 前記耐熱性酵素が、非耐熱性微生物を宿主とし、耐熱性酵素をコードしている遺伝子を導入した形質転換体が合成したものである、前記[1]~[8]のいずれかの補酵素の製造方法。
[10] 前記形質転換体を培養して得られた菌体の加熱処理物を、前記酵素反応系に添加する、前記[9]の補酵素の製造方法。
[11] 前記非耐熱性微生物が大腸菌である、前記[8]~[10]のいずれかの補酵素の製造方法。
[12] 非耐熱性微生物を宿主とし、ADP-リボースとニコチンアミドからNAD又はNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなることを特徴とする、補酵素製造用形質転換体セット。
[13] 前記耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼである、前記[12]の補酵素製造用形質転換体セット。
[14] 前記耐熱性酵素が、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ、及びNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素である、前記[12]の補酵素製造用形質転換体セット。
[15] さらに、非耐熱性微生物を宿主とし、AMP又はADPからATPを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体を含む、前記[12]~[14]のいずれかの補酵素製造用形質転換体セット。
[16] 1の形質転換体に1種類の耐熱性酵素をコードする遺伝子が導入されている、前記[12]~[15]のいずれかの補酵素製造用形質転換体セット。
[17] 前記非耐熱性微生物が大腸菌である、前記[12]~[16]のいずれかの補酵素製造用形質転換体セット。
[18] 前記形質転換体が、加熱処理されたものである、前記[12]~[17]のいずれかの補酵素製造用形質転換体セット。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る補酵素の製造方法により、熱分解により失われやすいNAD又はNADHを補酵素として必須とする酵素を用いた酵素反応系において、酵素反応開始後に高価なNAD又はNADHを外添せずとも、長時間安定して目的の酵素反応を行うことができる。
また、本発明に係る補酵素製造用形質転換体セットにより、より簡便に、前記補酵素の製造方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ADP-リボースとニコチンアミドを出発原料としたNADサルベージ合成経路の一態様を示した図である。
【図2】ニコチンアミドを出発原料としたNADサルベージ合成経路の一態様を示した図である。
【図3】ATP合成経路の一態様を示した図である。
【図4】参考例1において、NADの熱分解反応を示した図である。
【図5】参考例1において、NADの熱分解反応におけるNAD、ニコチンアミド、及びADP-リボースの経時的変化を示した図である。
【図6】実施例1において、横軸に示す濃度のNADの存在下におけるTtNAPRT活性値(NADを含まない反応液中での活性を100%とした場合の相対活性値)
【図7】実施例1において、NADサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素群とNADを含有する反応液を60℃でインキュベートした場合の反応液中のNAD濃度の経時的変化を示した図である。
【図8】実施例2において、NADサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素群とNADとを含有する反応液を60℃でインキュベートした場合の反応液中のNAD濃度の経時的変化を示した図である。
【図9】実施例3において、NADHサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素群とNADHとを含有する反応液を60℃でインキュベートした場合の反応液中のNADH濃度の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る補酵素の製造方法は、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に、ニコチンアミドからNAD又はNADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加することにより、前記酵素反応系内においてNAD又はNADHのサルベージ合成を行うことを特徴とする。本発明に係る補酵素の製造方法は、NADとNADHの両方を必要とする酵素反応系に利用してもよい。本発明に係る補酵素の製造方法のうち、NADを必要とする酵素反応系に、NADを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加してNADのサルベージ合成を行う方法を、「NADの製造方法」という。本発明に係る補酵素の製造方法のうち、NADHを必要とする酵素反応系に、NADHを合成するための反応に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素を添加してNADHのサルベージ合成を行う方法を、「NADHの製造方法」という。NAD又はNADHを必要とする酵素反応系内において、NAD又はNADHの熱分解物であるニコチンアミドからNAD又はNADHを合成させることにより、NAD又はNADHを直接外添せずとも、熱分解により失われたNAD又はNADHを補充し、当該酵素反応系の目的産物である有機化合物を長時間安定的に合成することができる。

【0013】
本発明に係るNADの製造方法において、「NADを必要とする酵素反応系」は、細胞外の反応系(いわゆるin vitroの反応系)であって、NADを補酵素とする酵素による酵素反応を含む反応系を意味する。当該酵素反応系は、1段階の酵素反応のみからなる反応系であってもよく、2段階以上の酵素反応からなる反応系であってもよい。2段階以上の酵素反応からなる酵素反応系の場合には、少なくとも1の段階がNADを補酵素とする酵素による酵素反応であればよい。また、NADを補酵素とする酵素も、特に限定されるものではなく、目的の有機化合物及び反応経路に基づいて適宜決定することができる。

【0014】
本発明に係るNADHの製造方法において、「NADHを必要とする酵素反応系」は、細胞外の反応系(いわゆるin vitroの反応系)であって、NADHを補酵素とする酵素による酵素反応を含む反応系を意味する。当該酵素反応系は、1段階の酵素反応のみからなる反応系であってもよく、2段階以上の酵素反応からなる反応系であってもよい。2段階以上の酵素反応からなる酵素反応系の場合には、少なくとも1の段階がNADHを補酵素とする酵素による酵素反応であればよい。また、NADHを補酵素とする酵素も、特に限定されるものではなく、目的の有機化合物及び反応経路に基づいて適宜決定することができる。

【0015】
本発明に係る補酵素の製造方法において、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系としては、中性~アルカリ性の環境下で行われる反応系が好ましく、pHが7.6~9.0の弱アルカリ性環境下で行われる反応系がより好ましく、pHが7.8~8.5の弱アルカリ性環境下で行われる反応系がさらに好ましい。反応系のpHが中性~アルカリ性の場合には、NADやNADHの熱分解の主たる産物がニコチンアミドとADP-リボースになり、本発明に係る補酵素の製造方法により効率よくNAD及びNADHを再合成できるためである。

【0016】
なお、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系が合成する目的の有機化合物は、特に限定されるものではないが、乳酸、リンゴ酸、n-ブタノール等のように、化学合成品や医薬品、化粧品、飲食品等の原材料として有用な有機化合物であることが好ましい。

【0017】
本発明に係るNADの製造方法において、「ニコチンアミドからNADを合成するための反応」は、ニコチンアミドを基質とする1段階又は2段階以上の酵素反応により、最終的にNADを合成する酵素反応を意味する。当該反応は、以降、「NADサルベージ合成経路」ということがある。NADサルベージ合成経路は、いずれかの生物が本来有する天然の代謝経路であってもよく、当該天然の代謝経路を適宜改変したものであってもよく、人工的に合成した代謝経路であってもよい。

【0018】
NADサルベージ合成経路としては、具体的には、例えば、図1に示すように、ADP-リボースとニコチンアミドを出発原料とし、ニコチンアミダーゼ(NAase)、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAPRT)、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(NMAT)、NADシンターゼ(NADS)、ADP-リボースピロホスファターゼ(ADPRP)、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼ(RPK)を用いた経路が挙げられる。ADP-リボースを基質としてADP-リボースピロホスファターゼによりリボース-5-リン酸が合成され、リボース-5-リン酸を基質としてリボースリン酸ピロホスホキナーゼによりホスホリボシルピロリン酸(PRPP)が合成される。これとは独立して、ニコチンアミドを基質とし、ニコチンアミダーゼによりニコチン酸が合成される。ニコチン酸とホスホリボシルピロリン酸を基質としてニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼによりニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)が合成され、ニコチン酸モノヌクレオチドとATPからニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼによりデアミノNADが合成される。このデアミノNADを基質としてNADシンターゼによりNADが合成される。

【0019】
NADサルベージ合成経路としては、また、例えば、図2に示すように、ニコチンアミドを出発原料とし、NMNヌクレオシダーゼ及びニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼを用いた経路が挙げられる。ニコチンアミドとホスホリボシルピロリン酸(PRPP)等のリン酸化リボース供与体からNMNヌクレオシダーゼによりニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が合成され、ニコチンアミドモノヌクレオチドを基質としてニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼによりNADが合成される。

【0020】
本発明に係るNADHの製造方法において、「ニコチンアミドからNADHを合成するための反応」は、ニコチンアミドを基質とする1段階又は2段階以上の酵素反応により、最終的にNADHを合成する酵素反応を意味する。当該反応は、以降、「NADHサルベージ合成経路」ということがある。NADHサルベージ合成経路は、いずれかの生物が本来有する天然の代謝経路であってもよく、当該天然の代謝経路を適宜改変したものであってもよく、人工的に合成した代謝経路であってもよい。

【0021】
NADHは、熱分解によりまずNADに分解され、その後、ADP-リボースとニコチンアミドにまで分解される。そこで、NADHサルベージ合成経路としては、ADP-リボースとニコチンアミドからNADHを合成する反応経路が好ましい。例えば、前記NADサルベージ合成経路に、NADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素を付加した経路を、NADHサルベージ合成経路とすることができる。

【0022】
NADからNADHを合成する反応は、NADを補酵素とする各種の酸化反応によって行うことができる。NADを補酵素とする酸化反応の基質や酸化還元酵素としては、特に限定されるものではない。本発明において用いられるNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素としては、例えば、糖、アルコール、又は有機酸を基質とするデヒドロゲナーゼを用いることができる。糖を基質とするデヒドロゲナーゼとしては、グルコースデヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.47)、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.49)、ガラクトース-1-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.48)、L-アラビノース-1-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.46)、D-キシロース-1-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.175)、グルクロン酸レダクターゼ(EC.1.1.1.19)等が挙げられる。アルコールを基質とするデヒドロゲナーゼとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.1)、グリセロールデヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.6)、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(NAD)(EC.1.1.1.8)、マンニトール-1-リン酸-5-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.17)、イノシトール-2-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.18)、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.67)等が挙げられる。有機酸を基質とするデヒドロゲナーゼとしては、乳酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.27、EC.1.1.1.28)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.37、EC.1.1.1.38、EC.1.1.1.39)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.41)、酒石酸デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.93)、グルコン酸-5-デヒドロゲナーゼ(EC.1.1.1.69)ギ酸デヒドロゲナーゼ(EC.EC.1.2.1.2)等が挙げられる。

【0023】
本発明において用いられるNADからNADHを合成する反応を触媒する酸化還元酵素としては、基質が比較的安価であることから、グルコースデヒドロゲナーゼ、ギ酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、又は乳酸デヒドロゲナーゼを用いることが特に好ましい。例えば、NADHのサルベージ合成を行う酵素反応系に、グルコースとグルコースデヒドロゲナーゼを添加することにより、サルベージ合成されたNADとグルコースからグルコースデヒドロゲナーゼにより、グルコノラクトンと共にNADHが合成される。同様に、NADHのサルベージ合成を行う酵素反応系に、ギ酸とギ酸デヒドロゲナーゼを添加することによって二酸化炭素と共にNADHが合成され、アルコールとアルコールデヒドロゲナーゼを添加することによってアルデヒドと共にNADHが合成され、乳酸と乳酸デヒドロゲナーゼを添加することによってピルビン酸と共にNADHが合成される。

【0024】
本発明に係る補酵素の製造方法において、NAD又はNADHを必要とする酵素反応系に添加されるNADサルベージ合成経路又はNADHサルベージ合成経路に要する酵素としては、耐熱性酵素であることが好ましい。耐熱性酵素は、非耐熱性酵素と比較して、化学的及び熱的安定性に優れているため、酵素反応系内において、より安定してNAD又はNADHを合成することができる。

【0025】
本発明及び本願明細書において、「耐熱性酵素」とは、60℃の加熱処理を行った場合でも変性することなく、酵素活性を保持できる酵素を意味する。NADを必要とする酵素反応系に添加される耐熱性酵素としては、70℃の加熱処理を行った場合でも変性することなく、酵素活性を保持できる耐熱性を有するものが好ましい。

【0026】
耐熱性酵素としては、天然型の酵素(いずれかの生物が本来有している酵素)であってもよく、天然型の酵素を改変したものであってもよく、人工的に設計・合成されたものであってもよい。天然型の耐熱性酵素は、例えば、超好熱菌又は好熱菌から単離することができる。超好熱菌又は好熱菌としては、例えば、パイロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)、パイロコッカス・アビッシ(Pyrococcus abyssi)、パイロコッカス・グリコボランス(Pyrococcus glycovorans)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、パイロコッカス・ウォセイ(Pyrococcus wosei)等のパイロコッカス属;メタノパイラス・カンドラリ(Methanopyrus kandleri)等のメタノパイラス属;パイロロバス・フマリ(Pyrolobus fumarii)等のパイロロバス属;スルフォロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)、スルフォロバス・アイランディカス(Sulfolobus islandicus)、スルフォロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)、スルフォロバス・トウコウダイ(Sulfolobus tokodaii)等のスルフォロバス属;パイロディクティム・アキュルタム(Pyrodictium occultum)、パイロディクティム・アビッシ(Pyrodictium abyssi)、パイロディクティム・ブロッキ(Pyrodictium brockii)等のパイロディクティム属;ハイパーサーマス・ブチリカス(Hyperthermus butylicus)等のハイパーサーマス属;パイロバキュラム・アエロフィラム(Pyrobaculum aerophilum)、パイロバキュラム・アルセナティカム(Pyrobaculum arsenaticum)、パイロバキュラム・オルガノトロファム(Pyrobaculum organotrophum)等のパイロバキュラム属;アエロパイラム・ペルニックス(Aeropyrum pernix)等のアエロパイラム属;サーモコッカス・プロファンダス(Thermococcus profundus)、サーモコッカス・コダカレンシス(Thermococcus kodakarensis)、サーモコッカス・ガンマトレランス(Thermococcus gammatolerans)等のサーモコッカス属;アクイフェックス・パイロフィラス(Aquifex pyrophilus)等のアクイフェックス属;サーモトーガ・マリティマ(Thermotoga maritima)、サーモトーガ・ナフトフィラ(Thermotoga naphthophila)、サーモトーガ・レティンガエ(Thermotoga lettingae)、サーモトーガ・ネアポリタナ(Thermotoga neapolitana)、サーモトーガ・ペトロフィラ(Thermotoga petrophila)等のサーモトーガ属;サーモデスルフォバクテリウム・コムネ(Thermodesulfobacterium commune)等のサーモデスルフォバクテリウム属;サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等のサーマス属;サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)、サーモプラズマ・ヴォルカニウム(Thermoplasma volcanium)等のサーモプラズマ属;ゲオバシラス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)等のゲオバシラス属;アシジロバス・サッカロボランス(Acidilobus saccharovorans)等のアシジロバス属;スルフォロブス・ソルファタチカス(Sulfolobus solfataticus)等のスルフォロブス属、等に属する微生物が挙げられる。

【0027】
NADサルベージ合成経路又はNADHサルベージ合成経路が多段階反応の場合、各段階における酵素反応の速度は、酵素反応自体の反応速度と、酵素反応系内における耐熱性酵素の存在量により規定される。そこで、これらの合成経路に使用される各耐熱性酵素は、酵素量の不足による反応効率の低下を招かないよう、反応系内に充分量添加することが好ましい。特に、反応速度が比較的遅い耐熱性酵素の存在量(ユニット量)は、当該耐熱性酵素による酵素反応が律速とならないように、反応系に充分量添加されることが好ましく、反応速度が比較的速い耐熱性酵素の存在量よりも多くなるように酵素反応系に添加されることも好ましい。酵素反応系内における各耐熱性酵素の存在量を、反応速度とのバランスを考慮して調節することにより、酵素量を抑えつつ、NAD又はNADHをより迅速に効率よく合成することができる。なお、本発明に係る補酵素の製造方法において、耐熱性酵素は、酵素反応系が目的とする有機化合物を合成するための酵素反応の反応開始前に酵素反応系に添加してもよく、酵素反応開始後に酵素反応系に添加してもよい。

【0028】
例えば、図1に示すNADサルベージ合成経路の場合、酵素反応系内に存在する各耐熱性酵素の存在量比(ユニット比)が、ニコチンアミダーゼ=1に対して、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ=5~50、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ=10~100、NADシンターゼ=200~600、ADP-リボースピロホスファターゼ=1~2、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ=5~10となるように、各耐熱性酵素を酵素反応系に添加することが好ましく、ニコチンアミダーゼ:ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ:ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ:NADシンターゼ:ADP-リボースピロホスファターゼ:リボースリン酸ピロホスホキナーゼ=1:50:75:500:1.2:10となるように、各耐熱性酵素を酵素反応系に添加することがより好ましい。

【0029】
NADサルベージ合成経路及びNADHサルベージ合成経路においては、ATPを用いた反応が含まれている。そこで、本発明に係る補酵素の製造方法においては、NADサルベージ合成経路又はNADHサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素に加えて、ATPを合成する反応(ATP合成経路)に要する耐熱性酵素も、NADを必要とする酵素反応系又はNADHを必要とする酵素反応系に添加することも好ましい。ATP合成経路としては、具体的には、例えば、図3に示すように、AMPとATPを出発原料とし、アデニル酸キナーゼ(ADK)及びポリリン酸キナーゼ(PPK)を用いた経路が挙げられる。1分子のAMPと1分子のATPからアデニル酸キナーゼにより2分子のADPが合成され、この2分子のADPからポリリン酸キナーゼにより2分子のATPが合成される。

【0030】
本発明において用いられるNADサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素、NADHサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素、及びATP合成経路に要する耐熱性酵素は、例えば、微生物の代謝系を利用した発現系によって製造できる。当該発現系は、微生物に、耐熱性酵素をコードしている遺伝子(耐熱性酵素遺伝子)が導入された形質転換体内において発現させる発現系であってもよく、いわゆる、セルフリー発現系であってもよい。

【0031】
本発明において酵素反応系に添加する耐熱性酵素を形質転換体内で合成させる場合、一つの形質転換体が発現させる耐熱性酵素は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。また、NADサルベージ合成経路又はNADHサルベージ合成経路に要する全ての耐熱性酵素遺伝子を、一つの形質転換体内で発現させてもよい。

【0032】
耐熱性酵素遺伝子の超好熱菌又は好熱菌からの単離は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。具体的には、先ず、超好熱菌又は好熱菌のゲノムDNAを作製した後に、ゲノムDNAを適当な制限酵素で切断し、同一の制限酵素又は共通の切断末端を与える制限酵素で切断したプラスミド又はファージにリガーゼ等を用いて連結することによりゲノムDNAライブラリーを作製する。次いで、取得目的の耐熱性酵素の塩基配列に基づき設計したプライマーセットを用いて、これらのゲノムDNAライブラリーを鋳型としたPCRを行うことにより目的の耐熱性酵素遺伝子を得ることができる。或いは、上記塩基配列に基づき設計したプローブを用いて、これらのゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによっても、目的の耐熱性酵素遺伝子を得ることができる。得られた耐熱性酵素遺伝子は、コードする耐熱性酵素のアミノ酸配列は変更せずに、宿主細胞において使用頻度の高いコドンへ改変してもよい。なお、コドンの改変は、公知の遺伝子組換え技術によって行うことができる。

【0033】
当該耐熱性酵素遺伝子は、N末端やC末端に、各種タグが付加されたキメラ遺伝子であってもよい。当該タグとしては、例えば、Hisタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換えタンパク質の発現又は精製において汎用されているタグを用いることができる。耐熱性酵素をタグが付加された状態で発現させることにより、発現系からの精製や発現量の測定等が簡便になる。

【0034】
宿主細胞に耐熱性酵素遺伝子を導入した形質転換体の作製は、公知の方法により又は公知の方法を適宜改変した方法により行うことができる。具体的には、例えば、耐熱性酵素遺伝子を適当なベクターに連結することによって、当該遺伝子を含有する組換えベクターを得、当該組換えベクターを用いて、宿主細胞を形質転換する方法が挙げられる。当該組換えベクターによる宿主細胞の形質転換は、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法等の公知の方法に従って行うことができる。

【0035】
耐熱性酵素遺伝子の導入に使用されるベクターとしては、形質転換する宿主細胞において耐熱性酵素を発現させ得るものであれば、特に制限されない。例えば、プラスミド、ファージ等のベクターを用いることができる。具体的には、pET11a、pET21a、pUC18、pKK223-3、pBAD、pRCI(Ninh et al.,Biotechnology and Bioengineering,2015,vol.112, p.189-196)、pNit-QT2、pNit-RC2、pTip-QT2、pTip-RC2等が挙げられる。また、当該組換えベクターには、宿主細胞内において耐熱性酵素遺伝子の発現を可能にするためのプロモーターやその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列)が含まれていることが好ましい。当該プロモーターとして、具体的には、T7プロモーター、lambda PRプロモーター、PnitAプロモーター、PtipAプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、pBAD/AraCプロモーター等のプロモーターが挙げられる。

【0036】
NADサルベージ合成経路及びNADHサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素が複数ある場合、各耐熱性酵素遺伝子の発現を制御するプロモーターは、全て同一種類のものであってもよく、互いに異なる種類のものであってもよい。各耐熱性酵素遺伝子の発現を制御するプロモーターが全て同一種類のものではない場合には、酵素反応系への添加量が比較的多くなる反応速度が遅い耐熱性酵素の発現を制御するプロモーターには発現効率が高いものを用いることが好ましい。酵素反応系への添加量が比較的少なくて済む反応速度が速い耐熱性酵素の発現を制御するプロモーターには、発現効率が比較的低いものを用いてもよい。

【0037】
また、当該組換えベクターには、形質転換された細胞の選択を可能とするために、マーカー遺伝子が含まれていてもよい。当該マーカー遺伝子としては、例えば、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子、薬剤に対する抵抗遺伝子等が挙げられる。

【0038】
耐熱性酵素遺伝子が導入された形質転換体を得るための宿主細胞としては、特に限定されるものではなく、原核細胞であってもよく、真核単細胞であってもよく、真核多細胞生物の細胞であってもよい。真核多細胞生物の細胞としては、植物細胞であってもよく、昆虫細胞や哺乳細胞等の動物細胞であってもよい。当該宿主細胞としては、培養が容易であり、かつ大量発現に適していることから、微生物であることが好ましい。

【0039】
耐熱性酵素遺伝子が導入された形質転換体を得るための宿主細胞としては、特に、非耐熱性微生物が好ましい。非耐熱性微生物を宿主細胞とした形質転換体内において耐熱性酵素を発現させた場合、当該形質転換体を加熱処理することにより、耐熱性酵素の活性は維持させたまま、宿主細胞由来の全てのタンパク質を熱変性させて失活させることができる。このため、耐熱性酵素と共に宿主細胞由来のタンパク質が酵素反応系に持ち込まれた場合でも、意図せぬ副反応を抑制することができる。宿主細胞とする非耐熱性微生物としては、大腸菌;バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバシラス属菌;シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescense)等のシュードモナス属菌;ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)等のロドコッカス属菌;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属菌;シゾサッカロマイセス・ポンベ(Scizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属菌;ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等のピキア属菌、等が好ましく、発現効率が高く、かつ培養を比較的低コストで容易に培養可能なことから、大腸菌が特に好ましい。

【0040】
本発明において酵素反応系に添加する耐熱性酵素は、精製されたものであってもよく、粗精製されたものであってもよく、精製されていないものであってもよい。発現系からの耐熱性酵素の精製は、常法により行うことができる。

【0041】
特に、耐熱性酵素を、非耐熱性微生物を宿主細胞とし、耐熱性酵素遺伝子を導入した形質転換体によって合成した場合には、耐熱性酵素を発現させた形質転換体の加熱処理物を、そのまま酵素反応系に添加することができる。加熱処理により、耐熱性酵素は活性を維持しつつ、宿主細胞由来のタンパクが失活するため、意図せぬ副反応を引き起こすことなく、耐熱性酵素を精製せずに加熱処理物をそのまま酵素反応系内に添加することができる。また、加熱処理により形質転換体の細胞構造、特に細胞膜や細胞壁が部分的に破壊され、形質転換体の内外への物質の透過性が向上する。つまり、基質と酵素反応の生産物は死滅菌体(加熱処理後の形質転換体)を透過することができるため、加熱処理物中の耐熱性酵素が形質転換体の死滅菌体内に保持されている場合でも、加熱処理物をそのまま酵素反応系に添加した場合でも、当該酵素反応系内において当該加熱処理物中の耐熱性酵素による酵素反応を行うことができる。さらに、加熱処理物に含まれている宿主細胞由来のADP-リボース、ニコチンアミド、NAD、NADH、ATP、及びAMP等の成分を、酵素反応系における酵素反応の原料として使用できる。

【0042】
大腸菌は、比較的細胞壁が加熱処理により破壊されやすい。このため、大腸菌を宿主細胞とし、耐熱性酵素遺伝子を導入した形質転換体の場合には、加熱処理物中の耐熱性酵素は、死滅菌体内に保持されるよりも、死滅菌体外に流出しやすい。加熱処理物を酵素反応系に添加した場合に、死滅菌体外に流出した耐熱性酵素は、酵素反応系内に分散する。耐熱性酵素が死滅菌体内に保持されている場合よりも酵素反応系内を広く分散しているほうが、当該耐熱性酵素による酵素反応の効率がよい。酵素反応系内における反応効率の点からも、細胞壁が加熱処理により破壊され難い非耐熱性微生物よりも、大腸菌のように比較的細胞壁が加熱処理により破壊されやすい非耐熱性微生物のほうが、本発明において用いられる耐熱性酵素を発現させる宿主細胞として好ましい。

【0043】
本発明に係る補酵素の製造方法においては、酵素反応系に元々補酵素として添加されたNAD及び/又はNADHの熱分解物であるニコチンアミド及び/又はADP-リボースを基質とすることにより、当該酵素反応系にニコチンアミドやADP-リボースを外添せずともNAD又はNADHを合成することができる。また、酵素反応系に、NADを一切添加せず、ニコチンアミド等のNADサルベージ合成経路の出発原料となる化合物のみを添加し、NADサルベージ合成経路により合成されたNADのみを酵素反応系内において使用してもよい。同様に、酵素反応系に、NADHを一切添加せず、ニコチンアミド等のNADHサルベージ合成経路の出発原料となる化合物のみを添加し、NADHサルベージ合成経路により合成されたNADHのみを酵素反応系内において使用してもよい。

【0044】
非耐熱性微生物に耐熱性酵素を発現させた形質転換体の加熱処理の条件は、宿主細胞由来のタンパク質は失活するが、目的の耐熱性酵素の活性は維持される条件であれば特に限定されるものではない。例えば、加熱処理は、耐熱性酵素を発現させた形質転換体を、60~90℃程度で1~30分間加熱する条件で行うことができる。

【0045】
本発明に係る補酵素製造用形質転換体セットは、非耐熱性微生物を宿主とし、当該補酵素のサルベージ合成経路に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなることを特徴とする。本発明に係る補酵素製造用形質転換体セットのうち、非耐熱性微生物を宿主とし、NADサルベージ合成経路に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなるものをNAD製造用形質転換体セットという。同様に、非耐熱性微生物を宿主とし、NADHサルベージ合成経路に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体からなるものをNADH製造用形質転換体セットという。

【0046】
NADサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素は、当該NAD製造用形質転換体セットに含まれるいずれかの形質転換体内で発現される。つまり、当該NAD製造用形質転換体セットに含まれる形質転換体を培養することにより、NADサルベージ合成経路に要する全種類の耐熱性酵素を製造することができる。同様に、NADHサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素は、当該NADH製造用形質転換体セットに含まれるいずれかの形質転換体内で発現され、当該NADH製造用形質転換体セットに含まれる形質転換体を培養することにより、NADHサルベージ合成経路に要する全種類の耐熱性酵素を製造することができる。

【0047】
例えば、NADサルベージ合成経路が図1に示すように、ニコチンアミダーゼ、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、ニコチン酸-ヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ、NADシンターゼ、ADP-リボースピロホスファターゼ、及びリボースリン酸ピロホスホキナーゼの全6種類の耐熱性酵素を要する場合、当該NAD製造用形質転換体セットは、これらの6種類の耐熱性酵素遺伝子が全て導入された1種類の形質転換体からなってもよく、それぞれの耐熱性酵素遺伝子がそれぞれ異なる形質転換体に導入された6種類の形質転換体からなってもよい。また、これら6種類の耐熱性酵素遺伝子のうち、3種類が導入された形質転換体と、残りの3種類が導入された形質転換体との2種類の形質転換体からなってもよい。

【0048】
当該NAD製造用形質転換体セット及びNADH製造用形質転換体セットには、さらに、ATP合成経路に要する1種又は2種以上の耐熱性酵素をコードしている遺伝子が導入された1種又は2種以上の形質転換体が含まれていてもよい。

【0049】
当該補酵素製造用形質転換体セットに含まれる形質転換体としては、前記の通りのものを用いることができ、大腸菌を宿主細胞とするものが好ましい。

【0050】
当該補酵素製造用形質転換体セットに含まれる形質転換体は、長期保存に適したグリセロールストックの状態であってもよく、寒天培地でコロニーを形成させた状態であってもよい。また、培養用培地にてある程度培養させた培養液の状態(懸濁液)であってもよく、培養後の湿菌体を加熱処理されたものであってもよい。
【実施例】
【0051】
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<HPLC分析>
NAD、ADP-リボース、ニコチンアミド、ニコチン酸、ニコチン酸モノヌクレオチド、及びデアミノNADは、5C18AR-IIカラム(4.6mm(内径)×250mm、ナカライテスク社製)を用いてHPLCにて定量分析した。溶出には、溶離液Aとして50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)、溶離液Bとして同緩衝液に25%(v/v)メタノールと5 mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウムを溶解させた溶液を用いたグラジエント溶出を用いた。溶離液の流速は0.5mL/minとし、溶出開始から5分間は溶離液A単独での溶出、その後5~11分までの間に溶離液Bの混合比率を0から100% (v/v)にまで上昇させた後、さらに、溶離液B単独で6分間の溶出を行った。カラム温度は40℃に保ち、溶出液は254nmでモニターした。
ATP、ADP、及びAMPの定量は、HILICカラム(4.6mm(内径)×250mm、ナカライテスク社製)を用いたHPLC分析により実施した。溶離液として、20mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)とアセトニトリルを当容量ずつ混合した溶液を用い、流速1.0mL/minで溶出した。カラム温度は40℃に保ち、溶出液は254nmでモニターした。
【実施例】
【0053】
[参考例1]
1分子のNADが熱分解されると、1分子のニコチンアミドと1分子のADP-リボースが生産される(図4)。
終濃度1mMのNAD溶液を70℃で3時間インキュベートした後、5C18AR-IIカラムを用いたHPLC分析に供したところ、NADのほかに2本のピークが観察された。NADの構成単位となる各種化合物の分析結果と比較したところ、ニコチンアミド、ADP-リボースがそれらのピークと同じ保持時間を示すことが明らかとなった。次に、NADの熱分解を経時的に追跡したところ、分解に伴ってニコチンアミド、ADP-リボースが化学量論的に蓄積することが明らかとなった(図5)。この結果より、ニコチンアミド及びADP-リボースの両物質は、NADに比して熱に対する安定性に優れることが示唆され、サルベージ合成の出発物質として利用可能であると判断された。
なお、ここで示された分解様式は、Chenaultらの総説(Chenault and Whitesides,Applied Biochemistry and Biotechnology,1987,vol.14,p.147-197)において、アルカリ触媒下におけるNAD分解スキームとして提唱されている知見ともよく合致した。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
<NADサルベージ合成経路のデザイン>
ニコチンアミドを出発物質としたNADサルベージ合成経路をデザインしたところ、図1及び2に示す2ルートが考えられた。図1に示すNADサルベージ合成経路に必要とされる6種類の酵素について、超好熱菌又は好熱菌由来の酵素の中から表1に示す酵素を選択した。また、合わせて、図3に示すATP合成経路に必要とされる2種類の酵素と、グルコースデヒドロゲナーゼについて、超好熱菌又は好熱菌由来の酵素の中から表1に示す酵素を選択した。なお、グルコースデヒドロゲナーゼは、合成されたNADの定量のために使用するものである。表1中、「GI number」は、GenBank(NCBI(National Center for Biotechnology Information)が提供する塩基配列データベース)のアクセッション番号である。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP2016136620A1_000002t.gif
【実施例】
【0056】
サーモプラズマ・アシドフィラムのニコチンアミダーゼは、ニコチンアミダーゼ活性があり、大腸菌内での異種発現も可能であるとの報告があるアシジロバス・サッカロボランス由来ニコチンアミダーゼ(GI:503031789)のアミノ酸配列をクエリ配列としてBLAST検索を行った結果に見出された酵素であり、当該酵素をコードする遺伝子は、サーモプラズマ・アシドフィラムのゲノムDNAよりPCR法によって単離した。単離された酵素遺伝子を大腸菌に導入し、得られた形質転換体内において当該酵素を発現させたところ、60℃においてニコチンアミダーゼ活性を備えることを確認した。
また、デアミノNADのアミノ化酵素(NADシンターゼ)は、表1に記載の酵素に代えて、サーマス・サーモフィラス由来のNADシンターゼを用いてもよい。
なお、表1中のTtNMATは、ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)のみならず、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)も基質としうる酵素である。
【実施例】
【0057】
<形質転換体の作製>
表1に記載の耐熱性酵素について、各耐熱性酵素遺伝子を大腸菌に導入して形質転換体(組換え大腸菌)を作製した。
表1に記載の耐熱性酵素のうち、サーマス・サーモフィラス HB8由来のものは、いずれも理化学研究所より提供を受けた同菌の1遺伝子発現プラスミドライブラリー(Yokoyama,et al.,Nature Structural Biology,2000,vol.7,p.943-945)に含まれるものである。同ライブラリーの発現ベクターはpET11a(Novagen社製)及びその誘導体をバックボーンとして作製されたものであり、目的遺伝子はT7プロモーター制御下に配置され、IPTGによる発現誘導を受ける。
サーマス・サーモフィラス HB27由来のポリリン酸キナーゼ(TtPKK)及びサーモプラズマ・アシドフィラム由来ニコチンアミダーゼ(TaNAase)は、各微生物のゲノムDNAよりPCR増幅した当該遺伝子をpET21aに連結し、同様にT7プロモーター制御下で発現させた。
これらの遺伝子発現ベクターは、全てE.coli Rosetta2(DE3)pLysS(Novagen社製)に導入し、形質転換体を作製した。
【実施例】
【0058】
スルフォロブス・ソルファタチカス由来グルコースデヒドロゲナーゼ(SsGDH)遺伝子は、pRCIのlambda PRプロモーター制御下に連結し、E.coli DH5α株に導入し、形質転換体を作製した。SsGDH遺伝子の発現は、培養温度を42℃にシフトさせることによって誘導を行った。
【実施例】
【0059】
組換え大腸菌は全て100μg/mLのアンピシリンを含むLuria-Bertani培地を用い、37℃で好気的に培養した。E.coli Rosetta2(DE3)pLysSの培養では、さらに30μg/mLのクロラムフェニコールを培地に添加した。対数増殖後期に培養液に0.2mM IPTGの添加、若しくは熱誘導(42℃)により、目的酵素遺伝子の発現誘導を行った。
【実施例】
【0060】
<粗酵素液の調製>
目的の耐熱性酵素を発現させた組換え大腸菌の湿菌体を200mg(wet cells)/mLとなるように100mM HEPES-NaOH(pH7.0)に懸濁した。得られた懸濁液を超音波破砕処理に供することにより菌体を破砕し、無細胞抽出液を得た。当該無細胞抽出液に対し、70℃、30分間の熱処理を施し、宿主由来タンパク質を変性させ、失活させた。熱処理後の懸濁液を遠心分離処理し、細胞残さと変性タンパク質を取り除いた上清を粗酵素液として活性測定に用いた。
【実施例】
【0061】
<酵素活性測定>
活性測定には400mM HEPES-NaOH(pH8.0)を使用し、反応は全て60℃で実施した。各酵素の活性は、図1に示すNADサルベージ合成経路において下流に位置する酵素とカップリングさせることにより生じるNADを、さらにSsGDHによって還元し、蓄積するNADHの濃度を340nmにおける吸収をモニターすることによって測定した。各酵素の活性は、本測定条件下で1分間に1μmolの基質消費を触媒する量を1ユニット(U)と定義して表す。
【実施例】
【0062】
TaNAaseの活性測定は、400mM HEPES-NaOH(pH8.0)、1mM グルコース、60mM NHCl、10mM MgCl、3mM ATP、1mM ポリリン酸(平均鎖長60)、0.2mM ホスホリボシルピロリン酸(PRPP)からなる反応液中で実施した。当該反応溶液に、TaNAase、TtNAPRT、TtNMAT、GsNADS、及びSsGDHの粗酵素液を添加し、60℃で3分間プレインキュベートした。なおこの際、TtNAPRT、TtNMAT、GsNADS、SsGDHは、TaNAaseに対して活性値において過剰量となるように添加し、下流酵素の反応がNADH合成反応の律速段階とならないようにした。プレインキュベーション後、終濃度0.2mMのニコチンアミドを添加し、340nmにおける吸光度の上昇をモニターした。反応速度の算定には、同波長におけるNADHのモル吸光度係数6.2mM—1cm—1を使用した。
【実施例】
【0063】
同様にTtNAPRTの活性測定は、TaNAaseを添加しないことを除き、同じ組成の反応液で実施した。プレインキュベーションの後に、基質として0.2mMのニコチン酸を加えることにより反応を開始させた。同様にTtNMAT、GsNADSについても、各酵素の基質(ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)、デアミノNAD)0.2mMを用いて活性測定を行った。また、TtADPRP、TtRPKの活性も、それぞれ0.2mMのADP-リボース、リボース5-リン酸を基質とし、TtNAPRT、TtNMAT、GsNADS、又はSsGDHとのカップリング反応速度を定量することによって測定した。
【実施例】
【0064】
また、NAD存在下における各酵素の活性を評価する場合には、400mM HEPES-NaOH(pH8.0)中で各酵素とその基質を60℃でインキュベートし、生産物の濃度をHPLCで測定した。
TtADK、TtPPKについては、これらの粗酵素液を400mM HEPES-NaOH(pH8.0)中で、10mM MgCl、0.2mM ATP、3.0mM AMP、1mM ポリリン酸と共に60℃でインキュベートし、ATP蓄積量及びAMP減少量をHPLCで測定した。
【実施例】
【0065】
<NADサルベージ合成試験>
NADサルベージ合成試験は、400mM HEPES-NaOH(pH8.0)、60mM NHCl、10mM MgCl、4mM NAD、3mM ATP、1mM ポリリン酸(平均鎖長60)、0.2mM ADP-リボース、0.2mM ニコチンアミドからなる反応液中で実施した。
反応液量0.5mLに対し、TaNAase、TtNAPRT、TtNMAT、GsNADS、TtADPRP、TtRPK、TtADK、及びTtPPKを個別に発現させた組換え大腸菌からそれぞれ調製した粗酵素液を混合し、各酵素の終濃度がそれぞれ0.02、0.18、0.25、0.51、0.02、0.03、0.05、及び0.05U/mLとなるように添加した。また、対照試験として、組換え大腸菌や粗酵素液を含まない反応液を用意し、これらを60℃でインキュベートした。経時的にサンプリングを行い、反応液中のNADをHPLCで定量した。
【実施例】
【0066】
HEPES-NaOH(400mM、pH8)中、60℃にて4mMのNADをインキュベートしたところ、その分解速度は50μM/min程度と見積もられた。そこで、酵素活性測定法に示した反応条件のもと、NADH生産速度を吸光度変化によってモニターしつつ、各酵素の添加量を調節することにより、ADP-リボース、ニコチンアミド各0.2mMから50μM/minの速度でNADHを合成するために必要な酵素の濃度を見積もった。
【実施例】
【0067】
一方、HPLC分析により4mM NAD存在下での各酵素の活性測定を行った。この結果、ニコチン酸のホスホリボシル化を触媒するTtNAPRTがNADにより顕著な阻害を受けることが明らかとなった。図6に、横軸に示す濃度のNADを含む400mM HEPES-NaOH(pH8.0)中でTtNAPRTを、各0.2mMのPRPP、ATP、及びニコチン酸とともに60℃でインキュベートした後、反応液中のニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)濃度をHPLCで定量し、活性値(NADを含まない反応液中での活性を100%とした場合の相対活性値)を算出した結果を示す。同条件下でのTtNAPRT活性はNAD非存在下のそれの約1/4と見積もられたことから、本酵素に関しては吸光度測定に基づき決定した酵素濃度の4倍量を添加することとした。
【実施例】
【0068】
<ATP合成経路とのカップリング>
図1のNADサルベージ合成経路では、NADを1分子合成するに当たり3分子のATPが消費され、3分子のAMPが放出される。そこで、TtADKとTtPPKによるポリリン酸をリン酸基供与源としたAMPからのATP合成経路をNADサルベージ合成経路にカップリングさせた。この際の酵素量は、NAD分解速度から必要と見積もられる速度(150μM/min)に比して、過剰量となるように設定した。
【実施例】
【0069】
こうして決定された濃度の活性値を有する粗酵素液、又は当該粗酵素液と同等の酵素活性値を有する耐熱性酵素を含む組換え大腸菌の懸濁液を熱処理(70℃、30分間)に供したものを加えた反応液中で、60℃にて4mM NADをインキュベートし、その濃度変化を経時追跡した(図7)。この結果、少なくとも6時間までの間において、酵素非添加時に比べNADの見かけ上の分解速度が大きく低下し、初発濃度に近しい濃度のNADが維持され続けることが確認された。すなわち、NADサルベージ合成経路とATP合成経路に要する耐熱性酵素を添加することにより、NADの熱分解物からNADが再合成され、見掛け上、系内のNAD濃度は低下しないこと、よって、NADを必要とする酵素反応系にNADサルベージ合成経路に要する耐熱性酵素を添加することにより、NADを外添せずともNADの熱分解による濃度低下を抑制することができ、ひいては目的の有機化合物の合成を長時間安定して行えることが確認された。
【実施例】
【0070】
[実施例2]
NADサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素を用いて、NADサルベージ合成試験を行った。使用した各種耐熱性酵素は、実施例1で用いたものを用いた。
【実施例】
【0071】
具体的には、NADサルベージ合成反応を、300mM HEPES-NaOH(pH8.0)、60mM NHCl、10mM MgCl、1mM ポリリン酸(平均鎖長60)、4mM NAD、3mM ATP、0.2mM ニコチンアミド、0.2mM ADP-リボース、及び実施例1で用いた各種耐熱性酵素の混合物である酵素カクテルを含む反応液2mL中で実施した。なお、当該反応液に含まれている耐熱性酵素の最終濃度はそれぞれ、TaNAaseが0.12U(0.6U/mL)、TtNAPRTが0.26U(0.13U/mL)、TtNMATが1.6U(0.8U/mL)、GsNADSが10U(5U/mL)、TtADPRPが0.12U(0.6U/mL)、TtRPKが0.2U(0.1U/mL)、TtADKが18U(9U/mL)、TtPPKが10U(5U/mL)であった。
【実施例】
【0072】
調製した反応液を、60℃でインキュベートした。また、対照試験として、酵素カクテルを含まない反応液を用意し、同様に60℃でインキュベートした。反応開始から3時間ごとにサンプリングを行い、反応液中のNADをHPLCで定量した。反応液中のNAD量の経時的変化を図8に示す。図中、「酵素有り」が酵素カクテルを添加した反応液の結果を示し、「酵素なし」が酵素カクテルを添加していない反応液の結果を示す。図8に示すように、耐熱性酵素を添加していない反応液では、NADはインキュベート開始直後から時間経過と共に徐々に低下した。これに対して、NADサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素を添加した反応液では、インキュベート開始から21時間くらいまでは、NADの量はさほど低下しなかった。これらの結果から、当該反応液中では、NADサルベージ合成反応によりNADの分解物からNADが合成されていること、NADの合成に必要なATPもATP合成反応により補給されていることが確認できた。
【実施例】
【0073】
[実施例3]
NADHサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素を用いて、NADH合成試験を行った。使用した各種耐熱性酵素は、実施例1で用いたものを用いた。
【実施例】
【0074】
具体的には、NADHサルベージ合成反応を、300mM HEPES-NaOH(pH8.0)、60mM NHCl、10mM MgCl、1mM ポリリン酸(平均鎖長60)、4mM NADH、50mM グルコース、3mM ATP、0.2mM ニコチンアミド、0.2mM ADP-リボース、及び実施例1で用いた各種耐熱性酵素の混合物である酵素カクテルを含む反応液2mL中で実施した。なお、当該反応液に含まれている耐熱性酵素の最終濃度はそれぞれ、TaNAaseが0.12U(0.6U/mL)、TtNAPRTが0.26U(0.13U/mL)、TtNMATが1.6U(0.8U/mL)、GsNADSが10U(5U/mL)、TtADPRPが0.12U(0.6U/mL)、TtRPKが0.2U(0.1U/mL)、TtADKが18U(9U/mL)、TtPPKが10U(5U/mL)、SsGDHが10U(5U/mL)であった。
【実施例】
【0075】
調製した反応液を、60℃でインキュベートした。また、対照試験として、酵素カクテルを含まない反応液を用意し、同様に60℃でインキュベートした。反応開始から3時間ごとにサンプリングを行い、反応液中のNADHをHPLCで定量した。反応液中のNADH量の経時的変化を図9に示す。図中、「酵素有り」が酵素カクテルを添加した反応液の結果を示し、「酵素なし」が酵素カクテルを添加していない反応液の結果を示す。図9に示すように、耐熱性酵素を添加していない反応液では、NADHはインキュベート開始直後から時間経過と共に徐々に低下した。これに対して、NADHサルベージ合成経路及びATP合成経路に要する耐熱性酵素を添加した反応液では、インキュベート開始から15時間くらいまでは、NADHの量はほとんど低下していなかった。これらの結果から、当該反応液中では、NADHサルベージ合成反応によりNADHの分解物からNADHが合成されていること、NADHの合成に必要なATPもATP合成反応により補給されていることが確認できた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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