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明細書 :ゲル微粒子の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-048298 (P2018-048298A)
公開日 平成30年3月29日(2018.3.29)
発明の名称または考案の名称 ゲル微粒子の製造方法
国際特許分類 C08F 265/10        (2006.01)
C08F   2/10        (2006.01)
A61B   5/0275      (2006.01)
FI C08F 265/10
C08F 2/10
A61B 5/02 830J
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2017-093570 (P2017-093570)
出願日 平成29年5月10日(2017.5.10)
優先権出願番号 2016180109
優先日 平成28年9月15日(2016.9.15)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】鈴木 大介
【氏名】湊 遥香
【氏名】大浦 舜
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4C017
4J011
4J026
Fターム 4C017AA11
4C017AB10
4C017AC26
4C017AC40
4C017BB03
4C017FF05
4J011AA08
4J011HA02
4J011HB13
4J011HB14
4J011HB16
4J026AA43
4J026AA50
4J026AC31
4J026BA25
4J026BA32
4J026BB03
4J026BB04
4J026DA02
4J026DA07
4J026DA12
4J026DB02
4J026DB08
4J026DB12
4J026FA02
4J026FA07
4J026FA09
4J026GA08
4J026GA09
要約 【課題】 水系沈殿重合を利用してミクロンサイズのゲル微粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るゲル微粒子の製造方法は、水系沈殿重合法を用いてゲル微粒子を製造する方法であって、コアモノマーと架橋剤と水との混合液に開始剤を加えて昇温させ、沈殿重合によりコア粒子の分散液を作製する工程と、前記コア粒子の分散液にシェルモノマーと架橋剤とを供給し、沈殿重合により前記コア粒子からミクロンサイズのゲル微粒子を作製するコア粒子の大径化工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
水系沈殿重合法を用いてゲル微粒子を製造する方法であって、
コアモノマーと架橋剤と水との混合液に開始剤を加えて昇温させ、沈殿重合によりコア粒子の分散液を作製する工程と、
前記コア粒子の分散液にシェルモノマーと架橋剤とを供給し、沈殿重合により前記コア粒子からミクロンサイズのゲル微粒子を作製するコア粒子の大径化工程と、
を備えることを特徴とするゲル微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記コアモノマーと前記シェルモノマーの少なくとも一方に、複数種のモノマーを使用することを特徴とする請求項1記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記コアモノマーと前記シェルモノマーとして、同一もしくは同一の組み合わせのモノマーを使用することを特徴とする請求項1または2記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記コアモノマーと前記シェルモノマーとして、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーを使用することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性アクリルアミド誘導体モノマーに共重合させるモノマーとして荷電基モノマーを使用することを特徴とする請求項4記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤として、前記コアモノマー及びシェルモノマーよりも水に対する溶解度が高いものを使用することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤として、BIS、HMBA、DHEA、PEG、EBAから選択されるいずれか一つを使用することを特徴とする請求項6記載のゲル微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載のゲル微粒子の製造方法により得られた、コア粒子とコア粒子を被覆するシェル層とからなるゲル微粒子を擬似血球として使用し、
擬似血管に前記擬似血球を含む擬似血液を流入させ、擬似血管内における擬似血液の流動挙動を観察することにより血流を解析することを特徴とする血流解析方法。
【請求項9】
前記ゲル微粒子として、血球と同等の柔らかさを備えるゲル微粒子を使用することを特徴とする請求項8記載の血流解析方法。
【請求項10】
前記ゲル微粒子の柔らかさを制御する方法として、前記コアモノマーとシェルモノマーの添加量を調整することを特徴とする請求項9記載の血流解析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はゲル微粒子の製造方法に関し、より詳細には水系沈殿重合によりミクロンサイズのゲル微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水系沈殿重合法を利用してゲル微粒子を製造する方法として、温度制御法によりゲル微粒子を製造する方法が知られている(非特許文献1)。この製造方法では、水溶性アクリルアミド誘導体モノマー(NIPAm)、アクリル酸(AAc)、架橋剤(BIS)と水との混合液を45~65℃に昇温させながら沈殿重合させることにより2.5~4.5μmの粒子径のゲル微粒子を製造している。
また、まず沈殿重合の温度制御法によりコア粒子(核となる粒子)を作製し、次いで水溶性モノマーを供給する方法を利用してゲル微粒子を製造する方法も提案されている(非特許文献2、3)この方法によれば最終的に4.7μmの粒子径のゲル微粒子を得ている。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Lyon, L. A. et al. Colloid Polym. Sci. 2009, 287, 277-285.
【非特許文献2】Ngai, T. et al. Macromol. Rapid Commun. 2012, 33, 419-425.
【非特許文献3】Ngai, T. et al. Langmuir 2013, 29, 9581-9591.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水系沈殿重合法はゲル微粒子を低コストで大量に生産することが可能であり、ゲル微粒子を製造する有力な方法である。水系沈殿重合法により作製されるゲル微粒子の構造理解や挙動を可視化するために、微粒子の肥大化が試みられてきたが、従来の水系沈殿重合法によって作製したゲル微粒子は最大でも5μm以下の大きさのものが限度である。
本発明は、水系沈殿重合を用いる方法では作製が困難であったミクロンサイズの大径のゲル微粒子を得ることを可能にするゲル微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るゲル微粒子の製造方法は、水系沈殿重合法を用いてゲル微粒子を製造する方法であって、コアモノマーと架橋剤と水との混合液に開始剤を加えて昇温させ、沈殿重合によりコア粒子の分散液を作製する工程と、前記コア粒子の分散液にシェルモノマーと架橋剤とを供給し、沈殿重合により前記コア粒子からミクロンサイズのゲル微粒子を作製するコア粒子の大径化工程とを備えることを特徴とする
なお、本明細書においては、ゲル微粒子を作製する際に核となる粒子をコア粒子と称する。本発明に係るゲル微粒子の製造方法においては、まずコア粒子を作製し、次いで大径化工程により、コア粒子を大径化することによってミクロンサイズのゲル微粒子を作製する。本明細書においては、コア粒子を大径化した後の粒子をゲル微粒子と称する。このゲル微粒子の構成上の特徴としては、ゲル微粒子の中心部を構成するコア粒子とコア粒子を被覆するシェル層の2層構造からなるものということができる。
【0006】
本発明に係るゲル微粒子の製造方法においては、前記コアモノマーとして単一もしくは複数種のモノマーを使用し、前記シェルモノマーとして単一もしくは複数種のモノマーを使用することができる。
前記コアモノマーと前記シェルモノマーは同一のモノマーであってもよいし、異なるモノマーであってもよい。また、コアモノマーとシェルモノマーに複数種のモノマーを組み合わせて使用する場合も、同一の組み合わせのモノマーを使用することもできるし、異なる組み合わせのモノマーを使用することもできる。
【0007】
前記コアモノマーと前記シェルモノマーには適宜モノマーを使用することができる。ゲル微粒子を作製する水溶性モノマーとしては、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーが好適に使用できる。ゲル微粒子を作製するモノマーとしては、この他に生体適合性を有するポリエチレングリコールを側鎖にもつモノマーなども使用することができる。
また、コアモノマーとシェルモノマーとして複数種のモノマーを組み合わせて使用することにより、組み合わせるモノマーを適宜選択することで、ゲル微粒子の特性を変化させることができる。たとえば、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーに荷電基モノマーを組み合わせることで、荷電基を有するゲル微粒子を得ることができる。荷電基モノマーを組み合わせる場合、コア粒子とシェル層の電荷(カルボキシ基)が同じであれば、コアモノマーとシェルモノマーに、共重合モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸等)を組み合わせることが可能である。
また、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーに機能性を有するモノマーを組み合わせることで、機能性を付与したゲル微粒子を得ることができる。
【0008】
コア粒子の分散液を作製する工程と大径化工程では、架橋剤を使用する。架橋剤には、コアモノマー及びシェルモノマーよりも水に対する溶解度が高いものを使用することが有効である。
架橋剤には下記の架橋剤を選択して使用することができる。
BIS:N,N’-Methylenebis(acrylamide)、HMBA: N,N’-Hexamethylenebis(methacrylamide)、DHEA:N,N’-(1,2-Dihydroxyethylene)-bisacrylamide、PEG : Poly (ethylene glycol) dimethacrylate、DVB: Divinylbenzene、EBA : N, N’-Ethylenebis(acrylamide)。
【0009】
本発明に係るゲル微粒子の製造方法によれば7~8μmとされるヒトの赤血球と同等の大きさの微粒子を作製することが容易に可能であり、コアモノマーとシェルモノマーに使用するモノマーの種類やモノマー濃度を制御することによりゲル微粒子の柔らかさを調整することが可能である。したがって、ゲル微粒子を疑似血球として利用しゲル微粒子を血流解析に利用することが可能である。本発明者は、実験により、ゲル微粒子が血流解析に利用することができる可能性があることを確かめることができた。
【0010】
血栓性疾患等の血液循環に関わる疾患についての情報を得る方法として血液循環の機能、動態の解明が望まれる。しかしながら、多成分から成る血液が、屈曲、分岐、径の変化など複雑な構造を有する血管を流れる血液循環においては、定量的評価が困難とされてきた。血液循環についての研究例として、血液成分の一つである赤血球は、構造由来の変形能に基づき様々な形態をとり、流動する際に血管中央に集中する、血球の分離現象(マージネーション)が確認されている。赤血球が管中央に集中することで血液の見かけの粘度が低下し血管壁に作用する圧が抑えられ、また、白血球、血小板は血管壁付近を流れることで各々の機能(貪食,止血)を効率的に発揮することが知られている。最近では、マージネーションを説明する上で、構成粒子のサイズ、やわらかさが重要な因子であることが数値シミュレーションによって示されている。
【0011】
しかしながら、血球は空気に触れることで直ちに変性し経時的に力学特性が変化するため、分離現象の定量評価が困難である。このため、疑似的な血液循環の環境を再現する血液(血球)代替物の需要が高まっている。血球は糖鎖由来の負電荷を持つため、界面コロイド化学の理論に基づき分散安定なコロイド粒子と捉えることで表面特性、物性の評価を行うことが可能である。したがって、疑似的な血液環境を再現する上で物性、形態を容易に制御することができるゲル微粒子はきわめて有効である。ゲル微粒子は、高分子鎖が架橋され、水を良溶媒とし、膨潤状態として存在するため柔軟性に富むこと、また、沈殿重合法により単分散かつ大量作製が可能であり、官能性モノマー等と共重合することで機能の付与も可能であるという利点もある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るゲル微粒子の製造方法によれば、水系沈殿重合法を利用してミクロンサイズのゲル微粒子を容易にかつ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ゲル微粒子の作製工程を示す説明図である。
【図2】架橋剤の添加量と温度制御条件を変えたときのコア粒子の粒子径を示すグラフである。
【図3】架橋剤とコア粒子の粒子径との関係を示すグラフである。
【図4】水溶性アクリルアミド誘導体モノマー(NIPAm)を用いて作製したコア粒子(NB1)とゲル微粒子の光学顕微鏡画像である。
【図5】水溶性アクリルアミド誘導体モノマー(NIPAm)と荷電基モノマー(アクリル酸)を用いて作製したコア粒子の粒子径の測定結果を示すグラフである。
【図6】NIPAmとアクリル酸を用いて作製したゲル微粒子の蛍光顕微鏡画像である。
【図7】ゲル微粒子(NAB1-NAB3)のpH応答性を観察した蛍光顕微鏡画像である。
【図8】ゲル微粒子(NAB1-NAB1.4)のpH応答性を観察した蛍光顕微鏡画像である。
【図9】液中でのゲル微粒子を観察した光学・蛍光顕微鏡画像である。
【図10】ゲル微粒子作製時の塩添加の有無の影響を観察した光学顕微鏡画像である。
【図11】(a)、(b)、(c):液滴中におけるpNIPAmゲル微粒子の光学顕微鏡像、(d)、(e)、(f):気水界面におけるゲル微粒子の光学顕微鏡像、(g):乾燥後のポリスチレン粒子のFE-SEM像、(h):乾燥後のゲル微粒子の光学顕微鏡像、(i):乾燥後のPS粒子の光学顕微鏡像である。
【図12】流路中におけるゲル微粒子の光学顕微鏡像(a)、(b)、蛍光顕微鏡像(c)、ポリスチレン粒子単独の光学顕微鏡像(d)、ゲル微粒子とポリスチレン粒子の混合分散液の光学顕微鏡像(e)である。
【図13】ゲル微粒子と固体粒子(ポリスチレン粒子)との作用を示す説明図である。
【図14】流路の幅を変えたときの混合分散液の流動状態を示す光学顕微鏡像(a)、(b)、(c)、(d)、ゲル微粒子とPS粒子の分散状態を示すグラフ(e)である。
【図15】ゲル微粒子の体積分率が異なる混合分散液を流路に流入させたときの光学顕微鏡像である。
【図16】ポリスチレン粒子の濃度が異なる混合分散液を流路に流入させたときの光学顕微鏡像である。
【図17】流路の壁面から中心方向を横軸として、PS粒子が通過した割合を測定した結果を示すグラフである。
【図18】(a)、(b)、(c):ゲル微粒子NA-s3.0とPS粒子との混合分散液の流路内の挙動を示す光学顕微鏡像、(d)、(e)、(f):ゲル微粒子NA-s0.1とPS粒子の混合分散液の流路内の挙動を示す光学顕微鏡像、(g):ゲル微粒子NA-s3.0についての観測結果をGray値に変換したグラフ、(f):ゲル微粒子NA-s0.1についての観測結果をGray値に変換したグラフである。
【図19】ゲル微粒子NA-s1.4とPS粒子、ゲル微粒子NA-s3.0とPS粒子との混合分散液を流路に流入させたときの蛍光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ゲル微粒子の製造方法)
本発明に係るゲル微粒子の製造方法は、水系沈殿重合法を利用してミクロンサイズのゲル微粒子を製造する方法であり、その製造方法は、まず沈殿重合によりコア粒子を形成し(コア粒子作製工程)、次いで、作製されたコア粒子の分散液に水溶性モノマーを添加して、より大径のゲル微粒子を形成する(大径化工程)という2つの工程からなる。できるだけ大径のゲル微粒子を得るには、できるだけ大径のコア粒子を作製し、そのコア粒子をさらに大径化する方法が有効である。

【0015】
図1に本発明に係るゲル微粒子の基本的な製造方法を示す。
コア粒子を作製する工程では、容器(フラスコ)にコアモノマーと架橋剤と水とを入れ、混合液を攪拌しながら昇温させて沈殿重合させ、コア粒子を作製する。
コアモノマーには水溶性アクリルアミド誘導体モノマー、架橋剤には水溶性架橋剤を使用する。混合液はフラスコに撹拌棒を取り付けて撹拌(撹拌速度;250rpm)を行い、その際、溶液内の溶存酸素を取り除くため窒素ガスによりバブリングを行う。
その後、窒素フローに切り替え、開始剤水を添加した後、オイルバスの設定温度を一定の速度で昇温させ、沈殿重合させる。

【0016】
図1の例は、窒素ガスによるバブリングを1時間行い、溶液を40℃に加熱した後、窒素ガスフローに切り替え、開始剤を加えて溶液の温度を40~60℃まで1時間で徐々に昇温させる例である。コア粒子の作製に使用する試薬等により、昇温温度、昇温時間、窒素ガスによるバブリング時間等は適宜設定することができる。

【0017】
コア粒子作製工程によりコア粒子を作製した後、ゲル微粒子を大径化する大径化工程に進む。大径化工程では、シェルモノマー溶液をコア粒子の分散液に少しずつ滴下した後、窒素フローを停止し、室温まで冷却してゲル微粒子を作製する。
図1では、シェルモノマー溶液を1分間に100μLの速度で5時間滴下し、滴下後1時間経過したところで窒素フローを止め、さらに1時間後にゲル微粒子分散液を回収し、室温まで冷却してゲル微粒子を得る例を示している。

【0018】
コアモノマーあるいはシェルモノマーには、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーを使用する。水溶性アクリルアミド誘導体モノマーには、NIPAm : N-Isopropylacrylamide、NIPMAm : N-Isopropylmethacrylamide等がある。共重合するために、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーと共に使用される水溶性モノマーには、AAc : Acrylic acid、GMA : Glycidyl methacrylate、MAc : Methacrylic acid、FAc : Fumaric acid等がある。
なお、コア粒子の作製に用いるコアモノマーと、コア粒子の大径化に用いるシェルモノマーは、同一のモノマーでなければならない訳ではなく、コアモノマーとシェルモノマーとして異なるモノマーを使用することが可能である。

【0019】
水溶性架橋剤として使用することができる試薬には、次のようなものがある。
BIS:N,N’-Methylenebis(acrylamide)、
HMBA: N,N’-Hexamethylenebis(methacrylamide)、
DHEA:N,N’-(1,2-Dihydroxyethylene)-bisacrylamide、
PEG : Poly (ethylene glycol) dimethacrylate、
DVB: Divinylbenzene、
EBA : N, N’-Ethylenebis(acrylamide)

【0020】
水溶性ラジカル重合開始剤としては、KPS : Potassium peroxodisulfate、V-50 : 2,2 -Azobis(2-methylpropanimidamide) Dihydrochloride等が用いられる。
水溶性ラジカル重合開始剤は、開始剤の分解によりラジカルが生成しモノマーに付加することで重合を開始することを目的として使用するものである。

【0021】
(コア粒子の作製例)
コア粒子の作製工程においては、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーに架橋剤を加えて水系沈殿重合によりコア粒子を作製する。
図2は、架橋剤の添加量と、温度制御条件を変えた場合に、コア粒子径がどのように変化するかを測定した結果を示す。
なお、この実験では、コアモノマーとしてNIPAm、架橋剤としてBISを使用し、開始剤としてV-50を使用した。
温度制御条件としては、1時間で40~60℃まで昇温させた場合、50~60℃まで昇温させた場合、1時間にわたり50℃、60℃、70℃に保持した場合について、それぞれ架橋剤の添加量を変えて測定した。
コア粒子の粒子径は動的光散乱法によって測定した。

【0022】
図2に示す測定結果は、温度条件として、1時間で40~60℃まで昇温させる温度条件とした場合が他の温度条件の場合と比較してコア粒子の粒子径が大きくなる結果を示している。とくに、温度条件40~60℃とし、架橋剤(BIS)の添加量が1mol%のときにコア粒子の粒子径が最大となる結果が得られた。架橋剤の添加量が1mol%のときに得られたコア粒子の最大径は852nmである。

【0023】
なお、温度条件40~60℃については、架橋剤(BIS)の添加量を1.5mol%とした場合に、開始剤を添加して10分半経過後に凝集した。温度条件40~60℃について1.5mol%以上の測定結果が示されていないのはこのためである。
また、温度条件50~60℃については、BISの添加量を3mol%とした場合、開始剤添加して12分後に凝集した。したがって、温度条件50~60℃についてはBISの添加量が2mol%まで示した。
また、温度条件50℃については、BISの添加量を3mol%とした場合、開始剤添加して10分後に凝集した。温度条件50℃についてはBISの添加量が2mol%まで示した。
また、温度条件60℃については、BISの添加量を10mol%とすると、開始剤添加して1分半後に凝集した。
また、水溶性アクリルアミド誘導体モノマー(NIPAm)を100%とし、架橋剤を加えない条件(BIS 0mol%)で、温度条件30~60℃とした場合は、開始剤添加して23分後に凝集した。BISの添加量を10mol%とした場合と添加量を0mol%とした結果は図2には示していない。

【0024】
図2に示す測定結果は、コア粒子の粒子径が温度条件と添加する架橋剤の量に依存すること、コア粒子の粒子径を最大にする条件としては、架橋剤(BIS)の添加量を1mol%、温度条件としては1時間で40~60℃に昇温させる条件が好適であること(図2の○印)を示している。

【0025】
図3はコアモノマーに加える架橋剤の種類によって粒子径がどのようになるかを測定した結果を示す。実験に使用した架橋剤は次の6種である。
BIS:N,N’-Methylenebis(acrylamide)、AAm:Acrylamide
DHEA:N,N’-(1,2-Dihydroxyethylene)-bisacrylamide
HMBA: N,N’-Hexamethylenebis(methacrylamide)
DVB: Divinylbenzene
PEG : Poly (ethylene glycol) dimethacrylate(PEG200)
PEG : Poly (ethylene glycol) dimethacrylate(PEG500)
コアモノマーにはNIPAmを使用し、温度条件70℃一定、架橋剤の添加量を1mol%とした。粒子径の評価は動的光散乱法を利用した。

【0026】
図3は、架橋剤とコア粒子の粒子径との関係を、横軸を架橋剤の溶解度として示したものである。
図3から、架橋剤としてBIS、DHEA、PEG500を使用した場合に、他の架橋剤よりも大きなコア粒子が得られることを示す。すなわち、コアモノマーに用いているNIPAmよりも溶解度が大きな架橋剤が、粒子径の大きなコア粒子を得る上で有効であると言うことができる。
また、BIS、DHEA、PEG500のうちでは、BISとDHEAが同程度に有効である。ただし、DHEAは分解性架橋剤であるため、より安定なゲル微粒子を作製する目的にはBISが有効であると考えられる。したがって、大径のゲル微粒子を作製する工程では、架橋剤にBISを用いたコア粒子を利用した。

【0027】
(ゲル微粒子の作製例)
ゲル微粒子はコア粒子を大径化する処理を施すことによって得られる。
コア粒子は前述した方法によって作製した。コアモノマーとしてNIPAm、架橋剤としてBISを使用し、開始剤としてV-50を使用した。温度条件は、1時間で40~60℃に昇温させる条件とした。
得られたコア粒子の分散液(60℃)にシェルモノマー溶液を1分間に100μLの速度で5時間滴下を行った。シェルモノマー溶液には、モノマーと架橋剤を水35 mLに溶解させ、溶液内の溶存酸素を取り除くために30分間以上窒素ガスによりバブリングしたものを用いた。シェルモノマーにはNIPAmを使用し架橋剤にはBISを使用した。滴下後1時間で窒素フローを止め、その1時間後、得られたゲル微粒子分散液を回収し、室温まで冷却した。

【0028】
図4(NB1)は実際に作製したコア粒子の光学顕微鏡画像であり、図4(NB1-NB0、NB1-NB1、NB1-NB2、NB1-NB4、NB1-NB5)は、図4(NB1)に示すコア粒子を大径化する処理を施した後のゲル微粒子(コアシェル粒子)の光学顕微鏡画像である。コア粒子(NB1)の粒子径は1760nmであり、コアシェル粒子の最大粒子径は4920nmである。大径化処理により、ゲル微粒子の粒子径がコア粒子の粒子径の3倍程度になっている。

【0029】
表1に、作製したコア粒子とゲル微粒子(コアシェル粒子)のいくつかの作製例について、作製条件と、コア粒子とゲル微粒子の粒子径をまとめて示す。サンプル名NB0、NB0.1、NB0.5、NB1、NB1.5はコア粒子であり、NB1-NB0、NB1-NB1、NB1-NB2、NB1-NB4、NB1-NB5がゲル微粒子(コアシェル粒子)である。
なお、コア粒子の作製時に架橋剤を1.5mol%添加したものは凝集してしまったことを示す。
【表1】
JP2018048298A_000003t.gif

【0030】
(ゲル微粒子の他の作製例)
上述したゲル微粒子の製造方法においては、コア粒子とコアシェル粒子を作製する工程において、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーと架橋剤を使用している。ゲル微粒子の作製に用いる材料はこれらに限るものではなく、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーと水溶性の荷電基モノマーを用いるといった方法も可能である。
図5は、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーとしてNIPAmを使用し、荷電基モノマーとしてアクリル酸(AAc: acrylic acid)を使用してコア粒子を作製したときの粒子径を測定した結果を示す。コア粒子の作製方法は、コアモノマーとして、水溶性アクリルアミド誘導体モノマーと荷電基モノマーを使用した他は図1に示す方法と同様である。

【0031】
図5の横軸は架橋剤として用いたBISの濃度で、アクリル酸(AAc)の濃度を0mol%、15mol%、30mol%としたときの粒子径を示す。
図5に示す実験結果は、アクリル酸の濃度を増加させることにより、コア粒子の粒子径が増大することを示す。とくに、アクリル酸の濃度を30mol%、架橋剤(BIS)の濃度を1mol%としたときにコア粒子径が最大1161nmになる。
なお、架橋剤(BIS)の濃度が5mol%とした場合、回収物に凝集物が存在していた。また、アクリル酸の濃度を40mol%とした場合、サンプルのpH調整なしでは、DLSによる測定可能範囲を超えてしまった。また、アクリル酸濃度を50mol%とした場合は、開始剤を添加して23分後に凝集した。この結果から、アクリル酸の添加濃度は50mol%程度以下に設定する必要があると考えられる。

【0032】
表2は上記コア粒子を用いてゲル微粒子(コアシェル粒子)を作製した結果を示す。表2では、コア粒子とコアシェル粒子の作製に使用したモノマーの他に、架橋剤、開始剤、コア粒子径、コアシェル粒子径を示す。
【表2】
JP2018048298A_000004t.gif

【0033】
表2は、コア粒子とコアシェル粒子を作製する工程では、水溶性アクリルアミド誘導体モノマー(NIPAm)と荷電基モノマー(AAc)をともに使用したことを示す。なお、表2では、塩としてNaClを添加した例を含む。
表2では、コア粒子の作製工程での、架橋剤(BIS)の添加量を0.5mol%、1mol%、3mol%、4mol%、5mol%とした実験結果を示す。これらのうち、架橋剤の添加量を1mol%としたものについては21200nm、15500nmといったきわめて大径のゲル微粒子を得ることができた。
なお、コア粒子の作製時に架橋剤を5mol%添加したものは凝集してしまったことを示す。なお、架橋剤の添加濃度を4mol%とし、シェルモノマーにNaClを10mM添加したものでは、コアシェル粒子が形成されたが、上記のゲル微粒子と比較すると大きく小径になった。

【0034】
図6は、荷電基モノマーを加えて得られた上記ゲル微粒子の蛍光顕微鏡画像を示す。
図6(a)はシェルモノマーに加える架橋剤(BIS)の濃度を3mol%とした場合、図6(b)は1.4mol%とした場合、図6(c)は0.7mol%とした場合である。これら各図を比較すると、シェルモノマーに添加する架橋剤の濃度によってゲル微粒子の粒子径が大きく変化することがわかる。
架橋剤の濃度については、前述したように、コア粒子の作製工程においてもコア粒子の粒子径に大きく関わることが分かっている。図6に示す実験結果は、ゲル微粒子の作製工程において、コア粒子の作製、コア粒子を大径化する工程の双方において、使用する架橋剤の濃度がゲル微粒子の大径化に大きく関わることを示している。

【0035】
(ゲル微粒子のpH応答性)
図7はゲル微粒子のpH応答性を蛍光顕微鏡画像を用いて観察した結果を示す。観察対象のゲル微粒子は、シェルモノマーとして架橋剤(BIS)の添加量を3mol%としたものである。
図7(a)はゲル微粒子の分散液をpH=4とした場合、図7(b)はpH=6とした場合、図7(c)はpH=10とした場合のゲル微粒子の蛍光顕微鏡画像である。分散液のpH調整は、精製したゲル微粒子の濃度が約0.003wt%の分散液に、100mMのHCl、NaCl、NaOHをそれぞれ加えることで行った。
図7に示すように、分散液のpHが4、6、10と変化するにしたがってゲル微粒子が大径になることが観察された。

【0036】
図8は、同様に、ゲル微粒子のpH応答性を蛍光顕微鏡画像から調べた結果を示すもので、シェルモノマーのBISの添加量を1.4mol%としたゲル微粒子について観察した結果を示す。
図8(a)はゲル微粒子の分散液をpH=4とした場合、図8(b)はpH=5とした場合、図8(c)はpH=7とした場合である。分散液のpH調整は、精製したゲル微粒子の濃度が約0.003wt%の分散液に、100mMのHCl、NaCl、NaOHをそれぞれ加えることで行った。
図8に示す測定結果は、pHが高くなるにしたがってゲル微粒子の粒子径が小さくなる傾向を示している。これは図7に示した測定結果と逆の傾向である。

【0037】
図9は気水界面においてゲル微粒子が変形している可能性があることから、ビトロチューブを用いて、液中でのゲル微粒子を観察した結果を示す。各図は液中でのゲル微粒子の濃度を変えて測定した結果である。観察したゲル微粒子は、大径のゲル微粒子が得られた、シェルモノマーのBISの添加量を1.4mol%としたものである。
図9に示すように、ゲル微粒子の濃度を薄くするにしたがって、ゲル微粒子の粒子径が大きくなること、気水界面で測定したゲル微粒子の粒子径と比べて液中では粒子径が小さくなることがわかる。すなわち、ゲル微粒子は気水界面で変形している可能性が示唆される。

【0038】
(塩添加による作用)
図10は、シェルモノマーへの塩添加の有無が、二次粒子の発生に作用することを示すもので、シェルモノマーのBISの添加量を3mol%としたゲル微粒子について観察した結果を示す。
図10(a)はシェルモノマーに塩添加なしで作製した場合、(b)は塩10mM添加した場合のゲル微粒子分散液の乾燥時の光学顕微鏡画像である。
図10に示すように、塩添加により二次粒子の発生が抑制できたことが観察された。二次粒子は、シェルモノマーがコア粒子に十分に付与されていないことを示唆する結果であるため、二次粒子の発生を抑制することはコア粒子の大径化において重要である。

【0039】
上述した実験では、コアモノマーとシェルモノマーとして水溶性アクリルアミド誘導体モノマーと荷電基モノマーの2種類のモノマーを使用した。このように、コアモノマーとシェルモノマーに使用するモノマーとして、複数種のモノマーを用いることが可能であり、適宜モノマーを組み合わせて使用することができる。

【0040】
(ゲル微粒子の用途例)
本発明に係るゲル微粒子の製造方法によれば、10μm程度の大きさのゲル微粒子を単分散で大量に作製することができる。このゲル微粒子は柔軟性に富み、擬似血球として使用することが可能である。以下では、ゲル微粒子を擬似血球として利用し、強制対流下における分離現象の評価に適用した例について説明する。

【0041】
<粒子の調製>
ゲル微粒子としてpoly(NIPAm-co-AAC)ゲル微粒子(以下、「pNIPAmゲル微粒子」という)を下記の方法によって調製した。
300mL四ッ口フラスコにイオン交換水、モノマー(core :表3)を入れ、40℃に設定したオイルバス中においてガラス撹拌棒で撹拌し(250rpm)、N2バブリングを行って系内の溶存酸素を取り除いた。30min後N2フローに切り替え、KPS水溶液(水:1mL)を同様に注入し重合を開始した。
表3にゲル微粒子の調製に使用したコアモノマーとシェルモノマー他の材料を示す。
【表3】
JP2018048298A_000005t.gif
開始剤添加後、オイルバスの設定温度が1h後に60℃になるように3min間に1℃上げ、系内が60℃になった後にシリンジポンプでモノマー水溶液30mL(shell:表3)を100μL/minで5h滴下した。

【0042】
滴下終了の1h後にN2フローを止め、更に1h後に得られた粒子分散液をサンプル管(100ml)に移し替え、急冷を行うことで重合を終了させた。
得られた粒子分散液を遠心機(Beckman Coulter, Avanti J-26S XP)で70000G、15℃の条件で完全に粒子が沈降することを確認できるまで遠心分離を行い、上澄みを除去し新たにイオン交換水を加え再分散させた後、同様の遠心精製を再度行った。精製後のサンプルをセルロース透析膜に入れ透析1週間を行い、残存モノマーの除去を行いpNIPAmゲル微粒子を得た。

【0043】
なお、ゲル微粒子の体積分率の調整を行うため、得られたpNIPAmゲル微粒子:NA-s3.0、NA-s1.4、NA-s0.1について、ウベローデ粘度計を使用した固有粘度測定を行い、それぞれ固有粘土[η]=248.2、355.2、749.0g/mlであることを確認した。この結果、shell層の架橋剤仕込み量が低いほど膨潤度が大きいことがわかった。
ゲル微粒子の見かけの体積分率Φは、Einstein の粘度式(次式)により任意の値に調節する。
Φ = [η]/2.5 ×c (cは濃度 ml/g)

【0044】
実験ではpNIPAmゲル微粒子とポリスチレン粒子を混合した分散液を使用した。
ポリスチレン粒子はソープフリー乳化重合により下記の方法によって調製した。
300mL四ッ口フラスコにイオン交換水95mL、スチレン:0.08 molを入れ、72℃(系内70℃)に設定したオイルバス中にてガラス撹拌棒で撹拌(250rpm)し、N2バブリングを行って系内の溶存酸素を取り除いた。N2バブリング開始30min後にN2フローに切り替え、KPS水溶液(水:5mL)を同様に注入し重合を開始した。
表4にポリスチレン粒子の調製工程で供給したポリマーを示す。
【表4】
JP2018048298A_000006t.gif
図11(h)はガラス基板上で乾燥させたpNIPAmゲル微粒子(NA-s1.4)の光学顕微像であり、図11(i)はガラス基板上で乾燥させたPS粒子の光学顕微鏡像である。同一スケールの図11(h)と図11(i)とを対比すると、pNIPAmゲル微粒子に比べてPS粒子がはるかに小さいサイズであることがわかる。

【0045】
<混合分散液の流動実験>
混合分散液について流動実験をはじめる前に、pNIPAmゲル微粒子NA-s1.4とPS粒子を、それぞれ単一成分として、断面形状が長方形(断面幅W=200μm、高さh=μm)の直線型マイクロ流体デバイス(Fluidware Technologies, E3-2-APT)の流路内に、流量Q=0.4mL/hで流入させ、流入口から40 mmの位置で挙動を観察した。観察は光学顕微鏡像を観察する方法と蛍光顕微鏡像を観察する方法で行った。

【0046】
開始剤添加後24h経過後に得られた粒子分散液をサンプル管(100ml)に移し替え、急冷を行うことで重合を終了させた。得られた粒子分散液を遠心機(KUBOTA、3500)で20000G、15℃の条件で完全に粒子が沈降することを確認できるまで遠心分離を行い、上澄みを除去し新たにイオン交換水を加え再分散させた後、同様の遠心精製を再度行ってポリスチレン粒子を得た。なお、上述した方法によって得た粒子をPS粒子ということにする。

【0047】
<pNIPAmゲル微粒子とPS粒子の粒径>
図11に、前述した方法によって調製したpNIPAmゲル微粒子とPS粒子の測定結果を示す。
図11(a)、(b)、(c)は、表3に示すpNIPAmゲル微粒子 NA-s3.0、NA-s1.4、NA-s0.1の、液滴中における光学顕微鏡像、図11(d)、(e)、(f)はそれぞれのpNIPAmゲル微粒子についての気水界面での光学顕微鏡像である。
液滴中のpNIPAmゲル微粒子 NA-s3.0、NA-s1.4、NA-s0.1の径は、それぞれ4.5μm、4.6μm、5.5μmである。また、気水界面における径は、それぞれ、5.7μm、7.0μm、7.8μmである。

【0048】
また、図11(g)はPS粒子のFE-SEM像である。動的光散乱法(DLS)による測定によりPS粒子の平均粒径Dh=374nmであり、FE-SEM像の観察からも得られたPS粒子が単分散であることがわかる。
図12(a)は、pNIPAmゲル微粒子NA-s1.4を体積分率ΦNA-s1.4 = 20%で流動させた場合の顕微鏡像である。ゲル微粒子は水で膨潤しているためポリマー密度が低く、明度が高く観察された。図12(b)は送液を停止させて観測したときの顕微鏡像である。送液を停止させたことでゲル微粒子が流動していることがわかる。図12(c)は蛍光顕微鏡像である。ゲル微粒子を染色することでゲル微粒子が流路の中央に集中していることがわかる。

【0049】
一方、pNIPAmゲル微粒子と同一の条件でPS粒子を2.0wt%で流動させたところ、PS粒子は固体粒子でありポリマー密度が高いため、明度が低く流路全体が黒く観察され(図12(d))、僅かに流路の中央に集中して流動する傾向が見られた。
単一成分の粒子が角路を流れるときは、粒子が壁面から中央方向へ移動し、レイノルズ数に依存した集中現象が起こることは知られている。
上記の実験結果は、pNIPAmゲル微粒子、PS粒子とも、単一成分として流路内を流動させると流路の中央に集中する傾向が同様にみられることを示す。
次に、pNIPAmゲル微粒子の体積分率ΦNA-s1.4 = 20%、PS粒子濃度:2.0wt%になるようにpNIPAmゲル微粒子とPS粒子を混合して調整した混合分散液を流路内に流入させて光学顕微鏡を用いて流動状態を観察した。すると、流路中央の明度が高くなることが観察された(図12(e))。

【0050】
やわらかさの異なる粒子の強制対流下における分離現象は、壁面近傍における揚力(壁効果)と粒子間の接近で説明される。流れの中でせん断力によって変形した粒子は変形を解消しようとする際に周囲の溶媒を押し、壁面近傍では反作用が生じ揚力となる(図13(a))。また、粒子間が衝突する際には、変形により衝撃を緩和する(図13(b))。
この作用を本実験例に当てはめると、揚力によりpNIPAmゲル微粒子が流路中心方向へと移動し、その間に衝突したPS粒子が流路壁面方向へ移動することで分離が起きたと推察することができる。また、pNIPAmゲル微粒子(NA-s1.4)の粒径がPS粒子よりも大きいため、さらに移動を支配していると考えることができる。

【0051】
実際にこれらの2種の作用がpNIPAmゲル微粒子とPS粒子の混合分散液においても作用して分離現象が生じるかについて検証した。
揚力は壁面から一定距離まで生じるため、流路幅を狭くすると壁効果の及ぶ領域の占める割合が大きくなり、ゲル微粒子はさらに流路中央へと集中するはずである。
ΦNA-s1.4 = 20 %、PS粒子濃度:1.0wt%になるように調整した混合分散液を、流路幅をW = 200、150、100、50μmとした4種の流路に、それぞれ流量Q = 0.4、0.3、0.2、0.1mL/hとして送液し観察した。

【0052】
図14(a)、(b)、(c)、(d)は、異なる流路幅wの流路を流動する混合分散液の光学顕微鏡像をGray値に変換した結果を示す。図14(a)はW = 200 μm、Q = 0.4 mL/h、(b)はW = 150 μm、Q = 0.3 mL/h、(c)はW = 100 μm、Q = 0.2 mL/hm(d)はW = 50 μm、Q = 0.1 mL/hの結果である。
いずれの流路においても、中央の明度が高くpNIPAmゲル微粒子が中央に集中して流れることがわかる。また、pNIPAmゲル微粒子が流動する領域は流路幅が狭まるにつれ流路中央により集中することがわかる。すなわち、pNIPAmゲル微粒子に壁効果が作用してpNIPAmゲル微粒子を流路の中央に移動させる作用が生じているといえる。図14(e)は、異なる幅の流路についての観測結果を、流路の対向する壁間の距離を1にする規格化を行ってGray値として示したグラフである。図14(e)に流路幅wを数値で示した。流路幅が狭まるにしたがって流路の中央にゲル微粒子が集中している。

【0053】
また一方、粒子間の衝突については粒子数が多いほど衝突頻度が上がり、より顕著にpNIPAmゲル微粒子とPS粒子の分離作用が働くはずである。
そこで、ΦNA-s1.4 = 0、5、10、15、20%、PS粒子濃度:1.0 wt%とした、ゲル微粒子の体積分率が異なる5種の混合分散液を調製し、W = 200 μmの流路にQ = 0.4 mL/hで送液して観察を行った。
図15(a)はΦNA-s1.4 = 0 %、(b)はΦNA-s1.4 = 5 %、(c)はΦNA-s1.4 = 10 %、(d)はΦNA-s1.4 = 15 %、(e)はΦNA-s1.4 = 20 %としたときの流路内の光学顕微鏡像である。これらの光学顕微鏡像を見ると、pNIPAmゲル微粒子の体積分率が上昇するにしたがってコントラストが大きくなること、すなわち流路の中央にpNIPAmゲル微粒子が集まり、PS粒子が流路の壁面近傍に移動することがわかる。すなわち、pNIPAmゲル微粒子の個数が多くなるほど粒子間の衝突頻度が高くなり、また流路中央におけるゲル微粒子の密度が高くなり、PS粒子が流路の壁面側に押しやられて分離現が顕著に観察されたといえる。
以上の実験結果から、pNIPAmゲル微粒子とPS粒子の壁面近傍における揚力に伴う移動と、PS粒子との衝突に伴う分離現象を確認することができた。

【0054】
<混合分散液の流動実験:蛍光可視化>
上述した実験で使用したpNIPAmゲル微粒子とPS粒子を擬似血液として想定する場合に、実際の血液内の血球の比は、赤血球:血小板:白血球 = 50:13:1であり、pNIPAmゲル微粒子とPS粒子を、それぞれ赤血球,血小板と仮定すると、PS粒子の個数がかなり多い。
したがって、血流解析モデルにゲル微粒子とPS粒子とを利用するには、PS粒子が少量存在している条件における分離作用を確認する必要がある。
図16(a)、(b)、(c)、(d)は、ΦNA-s1.4 = 20 %、PS粒子濃度:2.0、1.0、0.1、0.01wt%としたときのそれぞれの流路内における光学顕微鏡像である。図16は明るさの条件が異なるが、PS粒子濃度:2.0、1.0、0.1 wt%については分離が確認できるものの、PS粒子濃度:0.01 wt%は粒子の個数が少ないためにGray Value評価では分離を確認することができない。

【0055】
そこで、PS粒子を蛍光染料で染色し、流動位置の直接可視化を試みた。観察はPS濃度をさらに下げた 0.001wt%に固定し、pNIPAmゲル微粒子の体積分率ΦNA-s1.4=0、5、10、20%に加えて、PS粒子が少量であるため凝集せずに調製が可能となったΦNA-s1.4=40%の場合についても実験した。
図17は蛍光顕微鏡を使用し、流路の壁面から中心方向を横軸とし、その領域を通過したPS粒子が全体の何%に相当すかを解析した結果を示すグラフである。それぞれの分散液は、前述した流路(W = 200 μm、H=50μm)に流量Q = 0.4 mL/hとして流入させた。図17では、図中にpNIPAmゲル微粒子の体積分率ΦNA-s1.4を示した。
図17から、壁面近傍を流れるPS粒子は、ΦNA-s1.4が大きくなるほど多くなることがわかる。すなわち、PS粒子の個数が少ない場合であってもpNIPAmゲル微粒子との相互作用によりPS粒子は流路の壁面近傍を流れる

【0056】
<ゲル微粒子のやわらかさと分離との関係>
赤血球はヘモグロビンで充填した細胞がタンパク質によって骨格維持され、その表面が脂質二重層から成る膜で覆われている。その細胞膜の粘弾性や流動性が赤血球の変形能を強く規定している。混合分散液を流路中に流動させた際に生じる分離現象と構成粒子のやわらかさには密接な関係があり、実際に赤血球の表面を化学処理して硬化させると、赤血球の体積分率が低いときに分離が起き難くなることが確認されている。しかし、赤血球の変形能(やわらかさ)という概念には未だ物理量としての定義がない。そこで、ゲル微粒子を使用し、赤血球の階層構造とやわらかさに着目して分離現象について実験した。

【0057】
実験では、ゲル微粒子として、表3に示したNA-s3.0、NA-s1.4、NA-s0.1の3種を使用した。
図18は、pNIPAmゲル微粒子NA-s3.0、NA-s0.1について、PS粒子との分散液を調製し、流路(W= 200 μm、H=50μm)に分散液を流入させ、光学顕微鏡で挙動を観察した結果を示す。PS粒子濃度:1.0wt%、流量Q =0.4mL/hである。
図18(a)はpNIPAmゲル微粒子の体積分率ΦNA-s3.0=20%、(b)はΦNA-s3.0=10%、(c)はΦNA-s3.0=5.0%、(d)はΦNA-s0.1=20%、(e)はΦNA-s0.1=10%、(f)はΦNA-s0.1=5.0%とした場合の結果である。
図18(g)は、図18(a)、(b)、(c)についてのgray値の解析結果、図18(f)は図18(d)、(e)、(f)についてのgray値の解析結果を示すグラフである。

【0058】
図18に示す解析結果は、pNIPAmゲル微粒子NA-s3.0とNA-s0.1とを比較すると、図18(a)、(b)、(c)及び図18(g)から、シェル層が硬いNA-s3.0は各体積分率においてGray値が小さく、PS粒子との分離が起きにくいことがわかる。
これに対して、ゲル微粒子NA-s3.0よりもシェル層がやわらかいゲル微粒子NA-s0.1は、図18(d)、(e)、(f)及び図18(h)から、PS粒子と分離しやすくなることがわかる。ゲル微粒子NA-s0.1では体積分率Φ=5% の場合も分離現象が確認できている。

【0059】
図19は、ゲル微粒子NA-s1.4とPS粒子、ゲル微粒子NA-s3.0とPS粒子との混合分散液についての挙動を蛍光顕微鏡により観察した結果を示す。流路:W= 200μm、H=50μm、PS粒子濃度:1.0wt%、流量Q =0.4mL/hである。
図19(a)はゲル微粒子NA-s1.4についての解析結果、図19(b)はゲル微粒子NA-s3.0についての解析結果である。図19(a)、(b)の実験結果は、ゲル微粒子NA-s1.4については、流路の中心側に集まるのに対し、ゲル微粒子NA-s1.4よりも硬いゲル微粒子NA-s3.0については流路の中心側に集まる傾向は見られるものの、流路全体に広がって分布していることがわかる。
これらの実験結果は、ゲル微粒子のシェル層が硬くなるとゲル微粒子の移動が小さくなりPS粒子との分離現象が起き難く、シェル層がやわらかいゲル微粒子ではPS粒子との分離現象が生じやすくなり、ゲル微粒子のシェル層のやわらかさが分離現象に大きく影響することを示している。









図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18