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明細書 :ゼオライト分離膜及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-192378 (P2018-192378A)
公開日 平成30年12月6日(2018.12.6)
発明の名称または考案の名称 ゼオライト分離膜及びその製造方法
国際特許分類 B01D  71/02        (2006.01)
B01D  69/12        (2006.01)
B01D  69/00        (2006.01)
C01B  32/198       (2017.01)
C01B  32/182       (2017.01)
C01B  39/38        (2006.01)
C01B  39/02        (2006.01)
FI B01D 71/02
B01D 69/12
B01D 69/00
C01B 32/198
C01B 32/182
C01B 39/38
C01B 39/02
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-095333 (P2017-095333)
出願日 平成29年5月12日(2017.5.12)
発明者または考案者 【氏名】金子 克美
【氏名】クコバット ラドバン
【氏名】バエホス ブルゴス フェルナンド エステバン
【氏名】二村 竜祐
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4D006
4G073
4G146
Fターム 4D006GA41
4D006MA10
4D006MB04
4D006MC03X
4D006MC05X
4D006NA45
4D006NA50
4D006NA54
4D006PB63
4D006PB70
4G073BA62
4G073BD15
4G073BD18
4G073CZ13
4G073CZ49
4G073CZ50
4G073DZ02
4G073FA15
4G073FB30
4G073FD01
4G073FD28
4G073FF02
4G073GA12
4G073GA13
4G073GA14
4G073GA40
4G073GB02
4G073UA06
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD17
4G146AD31
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB32
4G146CB39
要約 【課題】 ゼオライト結晶の細孔による分離作用を確実に利用することができるゼオライト膜と、そのゼオライト膜の好適な製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るゼオライト分離膜は、ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンにより被覆され、前記酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなること、また、ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、
前記各々のゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンにより被覆され、前記酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とするゼオライト分離膜。
【請求項2】
ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、
前記各々のゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とするゼオライト分離膜。
【請求項3】
ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとを水に分散させた分散液を調製する工程と、
前記分散液中でゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェンを被着させ、酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体の分散液を得る工程と、
酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体が分散する分散液から酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体をろ過し、ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得る工程とを備えることを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体の分散液を調製する工程において、
前記分散液を、酸化グラフェンと前記ゼオライト微結晶体とが相互作用し、ゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェンが被着するpH値に調整することを特徴とする請求項3記載のゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項5】
ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得た後工程として、
前記ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを還元し、前記ゼオライト微結晶体の表面を被覆するグラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得る工程を備えることを特徴とする請求項3または4記載のゼオライト分離膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト分離膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは結晶固有の細孔があり、理想的な分子篩性が期待できる物質である。しかし、一般にゼオライトは粉末結晶として得られ、結晶間クラックのないマクロなゼオライト膜を創製することは多くのノウハウの集積が必要である。
ゼオライト微結晶を用いてマクロなゼオライト膜を作製する方法としては、アルミナ等の多孔質体の支持体上に、シリカとアルミナを出発材料として水熱合成法あるいは気相法等によりゼオライト膜を析出させる方法がある(特許文献1)。また、ゼオライト微結晶を種結晶として支持体上にゼオライト膜を形成する方法も報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2003-210950号公報
【特許文献2】特開2013-59714号公報
【特許文献3】特開2016-174996号公報
【特許文献4】特開2016-179417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゼオライト結晶の細孔径は1.0nm程度であり、複数成分の混合物から特定成分を選択的に分離する分離膜として好適に利用することができる。しかしながら、ゼオライト膜にクラック等の欠陥が存在すると、その欠陥部分では分離作用が機能しないため、ゼオライト膜による分離作用が十分に発揮されるようにするには、完全に欠陥のないマクロなゼオライト膜を用意しなければならない。このようなゼオライト膜を作製するにはかなりのノウハウが必要である。
本発明は、ゼオライト結晶の細孔による分離作用を確実に利用することができるゼオライト膜と、そのゼオライト膜の好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るゼオライト分離膜は、ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンにより被覆され、前記酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とする。
また、本発明に係るゼオライト分離膜は、ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とする。
なお、ゼオライト微結晶体が隙間なく結合されるという意味は、酸化グラフェンあるいはグラフェンを介してゼオライト微結晶体が緻密に結合され、ゼオライト結晶の細孔構造に基づく分離機能が保持される、すなわちゼオライト結晶による分離機能を損なうクラック等の欠陥がまったく排除された状態の分離膜として構成されるという意味である。
【0006】
また、本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとを水に分散させた分散液を調製する工程と、前記分散液中でゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェンを被着させ、酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体の分散液を得る工程と、酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体が分散する分散液から酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体をろ過し、ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得る工程とを備えることを特徴とする。
また、前記酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体の分散液を調製する工程において、前記分散液を、酸化グラフェンと前記ゼオライト微結晶体とが相互作用し、ゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェンが被着するpH値に調整することにより、確実にかつ容易に酸化グラフェンによりゼオライト微結晶体の表面を被覆することができる。
また、本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法は、ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得た後工程として、前記ゼオライト微結晶体の表面を被覆する酸化グラフェンを還元し、前記ゼオライト微結晶体の表面を被覆するグラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなるゼオライト分離膜を得る工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るゼオライト分離膜は、ゼオライト結晶の細孔による分離機能を確実に備える分離膜として提供することができる。また、本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法によればゼオライト分離膜を確実にかつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜(a)、グラフェンによりゼオライト微結晶体を被覆したゼオライト分離膜(b)の構成を示す模式図である。
【図2】MFIゼオライトとBEAゼオライトの構造図である。
【図3】酸化グラフェンのAFM像(原子間力顕微鏡像)と厚さの測定プロファイルである。
【図4】酸化グラフェンの表面電荷密度のpH変化を測定した結果を示すグラフと、酸化グラフェンの構造モデル図である。
【図5】ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの表面電荷密度のpHによる変化を調べた結果を示すグラフである。
【図6】ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散液に塩化アンモニウムを添加してpHを変えたときのイオン強度の変化を測定した結果を示すグラフである。
【図7】ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散液に塩化アンモニウムを添加したときの作用を示す図である。
【図8】ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの水分散液に添加する塩化アンモニウムの添加量を変えて、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散状態を実験した結果を示す写真である。
【図9】塩化アンモニウムの添加量を0.05Mに設定し、分散液を作成した直後と、48時間経過後の状態を示す写真である。
【図10】ゼオライト微結晶体、酸化グラフェン、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の水分散液について、分散液を調製した初期状態と平衡状態になった状態で、分散状態が変化するか否かを測定した結果を示すグラフである。
【図11】ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの水分散液に塩化アンモニウムを添加した場合と、添加しない場合とで酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の分散性がどのようになるかを実験した結果を示す写真である。
【図12】酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体をグラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体を作成する熱処理工程の例を示す図である。
【図13】窒素吸着等温線グラフ(a)、低圧下における窒素吸着等温線グラフ(b)、グラフェン-ゼオライト分離膜の細孔分布を示すグラフ(c)、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜のSEM像である。
【図14】窒素吸着等温線グラフ(a)、低圧下における窒素吸着等温線グラフ(b)、グラフェン-ゼオライト分離膜の細孔分布を示すグラフ(c)、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜のSEM像である。
【図15】窒素吸着等温線グラフ(a)、低圧下における窒素吸着等温線グラフ(b)、グラフェン-ゼオライト分離膜の細孔分布を示すグラフ(c)、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜のSEM像である。
【図16】窒素吸着等温線グラフ(a)、低圧下における窒素吸着等温線グラフ(b)、グラフェン-ゼオライト分離膜の細孔分布を示すグラフ(c)、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜のSEM像である。
【図17】ゼオライト微結晶の表面積と、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の表面積を測定した結果を示すグラフである。
【図18】ヘリウム圧力と流速との関係を測定したグラフ(a)、窒素とヘリウムの透過性を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ゼオライト分離膜の構成)
本発明に係るゼオライト分離膜は、ゼオライトの結晶が備える微小な細孔構造を利用して混合ガス等を分離する機能を備えるものであり、ゼオライト微結晶体が隙間なく結合したシート状の形態に形成されたものである。本発明においては、ゼオライト微結晶体を隙間なく結合させるため、ゼオライト微結晶体の表面にグラフェンあるいは酸化グラフェンを被覆し、グラフェンあるいは酸化グラフェンを介することでゼオライト微結晶体が隙間なく結合された分離膜として構成される。

【0010】
図1(a)にゼオライト微結晶体10の表面をグラフェン12により被覆して形成したゼオライト分離膜の構造、図1(b)に従来のゼオライト微結晶体10のみからなるゼオライト分離膜を模式的に示した。図1(a)、(b)は、ゼオライト分離膜に混合ガスを通過させることで微小な分子のみがゼオライト分離膜を通過して分離されることを示す。

【0011】
なお、図1(a)ではグラフェン12が隣接するゼオライト微結晶体10間に連続的に(シート状の形態で)配されるように描いているが、グラフェン12はゼオライト微結晶体間に連続して配されるものではない。実際には、グラフェン12はゼオライト微結晶体10よりも小さく、ゼオライト微結晶体10の表面を複数枚のグラフェン12で被覆する形態となる。
ゼオライト微結晶体10のサイズはとくには限定されるものではないが、複数枚のグラフェン(10nm~数十nm程度の大きさ)で被覆するようにするためには、小径のものとしては50nm~100nmのもの、大径のものとしては10μm~20μm程度のものが使用できる。

【0012】
ゼオライト微結晶体10を被覆するグラフェンあるいは酸化グラフェンの細孔はゼオライト微結晶の細孔よりもはるかに大きく、ゼオライト微結晶の細孔構造に基づく分子の分離作用に影響を及ぼすことはない。また、ゼオライト分離膜はアルミナ等のゼオライト分離膜の細孔よりも大径の孔をもつ支持体14に支持して使用する。

【0013】
図1(a)、(b)に示すように、ゼオライト微結晶体の細孔構造による分離作用が有効に機能するには、ゼオライト微結晶体が相互に(平面方向にも積層方向にも)隙間なく緻密に結合した膜として構成される必要がある。ゼオライト微結晶膜に欠陥等によりわずかな隙間(孔)が存在するとゼオライトの細孔構造による分離作用が阻害される。図1(b)は、ゼオライト微結晶体が隙間なく結合していないと、分離作用が不十分になることを示している。
本発明に係るゼオライト分離膜では、ゼオライト微結晶体の表面がグラフェンあるいは酸化グラフェンにより被覆され、グラフェンあるいは酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が結合されることにより、ゼオライト微結晶体が確実にかつ緻密に結合され、ゼオライトの結晶構造に基づく分離作用を確実に得ることができる。

【0014】
ゼオライト分離膜は本来導電性を備えるものではないが、本発明に係るグラフェンでゼオライト微結晶体を被覆したゼオライト分離膜は導電性を備えるものとなる。したがって、この場合はゼオライト分離膜に電圧を印加することで、電荷をもつ分子をゼオライト分離膜に留めることができ、電荷をもっていない分子を分離するといった利用の仕方が可能である。

【0015】
(ゼオライト分離膜の製造方法)
<ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの作用>
本発明に係るゼオライト分離膜の製造方法においては、ゼオライト微結晶体の表面を酸化グラフェンで被覆し、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体を相互に結合させてシート状のゼオライト分離膜(圧縮成形膜)を作製する。
ゼオライト分離膜を作製する実験で使用したゼオライト微結晶体は、MFIゼオライト(早稲田大学製、三菱化学製)、BEAゼオライト(早稲田大学製)、東ソー製のゼオライトF9(大きさ10μm以上)である。
表1に、MFIゼオライトとBEAゼオライトの大きさと細孔径を示す。また、図2にMFIゼオライトとBEAゼオライトの構造を示す。
【表1】
JP2018192378A_000003t.gif

【0016】
MFIゼオライトとBEAゼオライトとして比較的小さなゼオライト微結晶体を使用した理由は、酸化グラフェンでゼオライト微結晶体を被覆する(ラップする)際に、小さなゼオライト微結晶体である方が酸化グラフェンで被覆しやすいと考えたからである。もちろん、ゼオライト分離膜の作製に使用するゼオライト微結晶体の大きさが、表1に示した大きさのものに限定されるものではない。

【0017】
図3は、ゼオライト微結晶体の被覆に使用した酸化グラフェンのAFM像(原子間力顕微鏡像)と厚さを測定したプロファイルを示す。
AFM像で暗く見えている部分が測定用の基板、やや明るく見えている部分が酸化グラフェンである。高さプロファイルはAFM像で基板部分と酸化グラフェンとの境界部分を横断するようにスキャンして測定したものである。
高さプロファイルの測定結果から、酸化グラフェンの厚さは2nm程度であり、この測定対象の酸化グラフェンは3-5枚重なっているとみられる。

【0018】
本発明方法においてゼオライト微結晶体を酸化グラフェンによって被覆する理由は、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆することにより、ゼオライト微結晶体同士では結合(一体化)しないものが、酸化グラフェンを介することでゼオライト微結晶体同士が結合しやすくなるからである。
ゼオライト微結晶体の表面を酸化グラフェンで被覆できるようにするため、本発明方法ではゼオライト微結晶体と酸化グラフェンを水中に分散させた分散液を調製し(分散液を調製する工程)、粒子間の静電相互作用を利用してゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する。

【0019】
静電相互作用についてみるため、酸化グラフェンの表面電荷密度を調べた。図4は酸化グラフェンの表面電荷密度がpHによってどのように変化するかを調べた結果を示す。図4から、酸化グラフェンは負に帯電することと、pH2~10程度の範囲ではほとんど表面電荷密度が変化しないことが分かる。
なお、図4に酸化グラフェンの構造モデル図を示した。

【0020】
図5は表1に示したMFIゼオライトとBEAゼオライトとF9ゼオライトについて、電荷密度のpHによる変化を測定した結果を示す。図5には、あわせて、それぞれのpH値のときの酸化グラフェンの表面電荷密度を示す。
図5は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンはともに負の表面電荷を持っているため、両者を水に分散させるだけでは、相互に反発してしまい、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆することが困難であることを示す。

【0021】
<分散液のpH調整による作用>
本発明においては、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとを相互作用させる方法として、酸化グラフェンはpH1~10程度の領域ではほとんど表面電荷密度が変化しないのに対して、ゼオライト微結晶体はpH変化により表面電荷密度が変化することから、塩化アンモニウムを用いてイオン強度を変えることで、粒子間の静電反発を決める電気二重層の厚さを示すDebye長さを制御する(薄くする)ようにし、酸化グラフェンによってゼオライト微結晶体の表面が被覆されやすくなるように制御した。

【0022】
図6は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散液に塩化アンモニウムを添加することによりpHを変えたときのイオン強度の変化を測定した結果を示す。図7は塩化アンモニウムを添加することによって酸化グラフェンがプロトン化され分散液のpHが大きくなることを示す。
図6に示す測定結果は、pHが3-4の間の極めて狭い領域で急激にゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの表面電荷が変わることを示す。

【0023】
図8は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの水分散液(コロイド分散液)に添加する塩化アンモニウムの添加量を変えて分散液のpHを変えたときに、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散状態がどのように変化するかを実験した結果を示す。
図8は、塩化アンモニウム添加量に応じてゼオライト微結晶体と酸化グラフェンが相互作用し、コロイド分散系の体積が変化する様子を示す。この実験結果は、図11は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンを水に分散させた分散液に塩化アンモニウムを添加した場合と、添加しない場合とでゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散状態がどのようになるかを実験した結果を示す。
なお、ゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンによって被覆された状態で、酸化グラフェンにより被覆されたゼオライト微結晶体は分散した状態にあり、凝集している訳ではない。

【0024】
図9は塩化アンモニウムの添加量をゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとが強く相互作用する条件である0.05Mに設定し、4種のゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとの分散液について、分散液を作成した直後と、48時間経過後の状態を示したものである。図9に示す実験結果は、いずれのゼオライト微結晶についても、48時間経過させることでゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとの相互作用が完了し、ゼオライト微結晶体が酸化グラフェンによって被覆された状態まで進行したことを示す(酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体の分散液を調製する工程)。

【0025】
図10はゼオライト微結晶体、酸化グラフェン、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体のそれぞれを水に分散させた分散液について、分散液を調製した初期状態(start)と20時間程度経過させて平衡状態(equilibrium)になった状態で、分散状態が変化するか否かを分散状態にある系の重さあたりの体積で示したものである。
図10から、酸化グラフェンについては初期状態と平衡状態でも分散状態がきわめて良好に維持されていることが分かる。
また、ゼオライト微結晶体については、初期状態については分散性が良好であったものが、時間が経過するとともに沈降すること、すなわち平衡時におけるパッキング体積がきわめて小さくなる。
また、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体についてみると、初期状態と平衡状態とを比較すると、平衡状態ではパッキング体積がわずかに減少するに過ぎず、分散性が良好に維持されることを示している。

【0026】
図11は、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の水分散液に塩化アンモニウムを添加した場合と、添加しない場合とでゼオライト微結晶体と酸化グラフェンの分散状態がどのようになるかを実験した結果を示す。
図11(a)は、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体(Zeolite/GO)の塩化アンモニウムを添加した分散液を容器の上方から見た状態を示す。Zeolite/GOは分散液中で良好に分散していることが分かる。

【0027】
図11(b)は塩化アンモニウムを添加してZeolite/GOの分散液を調製した後、図11(c)は塩化アンモニウムを添加してZeolite/GOの分散液を調製した後、60℃で分散液を加熱し、乾燥させた状態を示す。乾燥処理により容器の底にZeolite/GOの沈殿物が残留するが、塩化アンモニウムを添加しないものは容器の底の一部に偏って存在する一方、塩化アンモニウムを添加したものは容器の底に沈殿物が均一に付着して残る。この実験から、分散液に塩化アンモニウムを添加すると、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の分散性が良好になることがわかる。

【0028】
<酸化グラフェン被覆によるゼオライト分離膜の作製>
酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなる分離膜は、前述したように、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンとが強く相互作用する条件となるように分散液のpHを調整することにより、酸化グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の分散液を調製した後、フィルタで分散液をシート状にろ過することにより得ることができる。こうして得られたゼオライト分離膜は、ゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンで被覆され、酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく緻密に結合した分離膜として得られる。酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が緻密に結合した分離膜として得ることができることで、混合ガス等の分離に好適に利用することができる。
酸化グラフェンでゼオライト微結晶体を被覆する操作は、分散液のpHを制御する条件を設定するだけでよく、ゼオライト分離膜の製造方法としてはきわめて容易であるという利点がある。

【0029】
<グラフェン被覆によるゼオライト分離膜の作製>
グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜は上述した方法によって得られた酸化グラフェンにより被覆したゼオライト微結晶体からなる分離膜を熱還元する方法によって得ることができる。
図12に、酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体をグラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体を作成する熱処理工程の例を示す。この熱還元処理では、不活性機体中で、室温から1K/minの昇温速度で573Kまで昇温させ、573Kで30分保持した後、1K/minの降温速度で室温まで降温させる。

【0030】
図13は、ゼオライト微結晶体として100nmサイズのMFIゼオライトを使用してグラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜についてその細孔構造について確かめた実験結果を示す。
図13(a)は窒素吸着等温線グラフであり、図13(b)は低圧下における窒素吸着等温線グラフ、図13(c)はグラフェン-ゼオライト分離膜の細孔分布を示すグラフである。いずれも、グラフェン-ゼオライト分離膜についての測定結果と比較例としてゼオライトについての測定結果を示す。図13(d)はグラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜のSEM像である。

【0031】
図13(a)、(b)に示す測定結果から、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜と通常のゼオライトについて、相対圧ゼロ付近での窒素吸着量について大きな変化がないことから、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜においても、ゼオライトの結晶に由来する細孔が保持されていることがわかる。
図13(c)の細孔分布のグラフは、1nm以下の細孔に大きな変化がないことと、グラフェンで被覆したことにより、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体間の粒子間構造に変化があり、幅広いメソ細孔が生じていることを示している。
図13(d)の走査電子顕微鏡像からは、ゼオライト微結晶体がグラフェンによって包まれている様子が観察される。

【0032】
図14は、ゼオライト微結晶体として200nmサイズのMFIゼオライトを使用してグラフェン-ゼオライト微結晶からなるゼオライト分離膜についての測定結果、図15はゼオライト微結晶体として300nmサイズのMFIゼオライトを使用してグラフェン-ゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜について測定した結果を示す。
図14、15についても、図13に示した測定結果と同様に、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜が、通常のゼオライトの結晶と同様の細孔構造を備えることがわかる。なお、細孔構造は使用するゼオライト微結晶体のサイズによって変化している。

【0033】
図16は、ゼオライト微結晶体としてゼオライトF9を使用し、グラフェン-ゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜について同様の測定を行た結果を示す。
ゼオライトF9はMFIゼオライトとは異なり、10μm程度の大きさの微結晶体である。この場合には、極低圧での窒素吸着が十分ではなく、ゼオライト微結晶の細孔をグラフェンが塞いでいる可能性が考えられる。しかしながら、この場合でもゼオライト微結晶体の細孔構造の特徴を見ることができる。

【0034】
図17は、通常のゼオライト微結晶の表面積と、グラフェンで被覆したゼオライト微結晶体の表面積を測定した結果を示す。図17から、グラフェンでゼオライト微結晶体を被覆すると、表面積が10-30%程度低下することがわかる。しかしながら、グラフェンでゼオライト微結晶体を被覆した場合であっても、ゼオライト微結晶体の細孔の有効性については前述した窒素吸着の実験結果から明らかである。

【0035】
<分離実験例>
図18は、100μmのMFIゼオライト微結晶体を用いて作製した酸化グラフェン/ゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜についてその特性を調べた結果を示す。実験は、上記ゼオライト分離膜を200nm細孔のある酸化アルミナフィルター上に貼り付けて行った。
図18(a)はヘリウム圧力と流速との関係を測定したもので、ヘリウム圧力と流速とが直線的でありゼオライト分離膜にはクラックがないことを示している。
図18(b)は、窒素とヘリウムの透過性を、混合ガス供給サイド(Feed)と膜透過後(Filtrate)の変化で見たものである。これによると、16時間後にヘリウム圧は膜を透過した後で、圧力が増加しているが、窒素は反対に減少している。このことから選択的にヘリウムが透過していることがわかる。選択係数を求めると1.9である。
この実験結果は、酸化グラフェン/ゼオライト微結晶体からなるゼオライト分離膜の分離特性を示している。
【符号の説明】
【0036】
10 ゼオライト微結晶体
12 グラフェン
14 支持体










図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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