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明細書 :ロボティックウエア及びその制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-005250 (P2019-005250A)
公開日 平成31年1月17日(2019.1.17)
発明の名称または考案の名称 ロボティックウエア及びその制御方法
国際特許分類 A61H   3/00        (2006.01)
B25J  11/00        (2006.01)
FI A61H 3/00 B
B25J 11/00 Z
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-123861 (P2017-123861)
出願日 平成29年6月26日(2017.6.26)
発明者または考案者 【氏名】橋本 稔
【氏名】塚原 淳
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 3C707
4C046
Fターム 3C707AS38
3C707HS27
3C707WA22
3C707XK06
3C707XK13
3C707XK15
3C707XK27
3C707XK82
4C046AA25
4C046CC01
4C046DD02
4C046DD23
4C046DD38
4C046DD39
4C046DD41
4C046EE06
4C046FF02
4C046FF06
4C046FF25
4C046FF29
要約 【課題】 階段歩行時に的確に歩行をアシストすることができるロボティックウェアの制御方法及びロボティックウェアを提供することを目的とする。
【解決手段】 ロボティックウェアを制御する同調制御装置は、左右の股関節アクチュエータを制御する股関節神経振動子と、左右の膝関節アクチュエータを制御する膝関節神経振動子とを備え、左右の前記股関節神経振動子については相互に抑制結合され、左右の膝関節神経振動子については相互に抑制結合され、左の股関節神経振動子と左の膝関節神経振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合され、右の股関節振動子と右の膝関節振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合されている。
【選択図】 図12
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節と膝関節にそれぞれ伝える股関節アクチュエータ及び膝関節アクチュエータを備える人体装着型のロボティックウエアの制御を、神経振動子を用いて行う同調制御方法であって、
ヒトの階段昇行時に、
股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御するとともに、
膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの階段昇行時の一足一段歩行の1周期に対応するように設定し、
左右の前記膝関節制御軌道を、左右の前記股関節制御軌道にそれぞれ対応して、股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように設定することを特徴とするロボティックウエアの同調制御方法。
【請求項2】
前記ロボティックウエアは、
前記股関節アクチュエータとしてヒトの左右の股関節にそれぞれアシスト力を付与する左股関節アクチュエータ及び右股関節アクチュエータと、
前記膝関節アクチュエータとしてヒトの左右の膝関節にそれぞれアシスト力を付与する左膝関節アクチュエータ及び右膝関節アクチュエータとを備え、
前記左股関節アクチュエータ及び前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記左膝関節アクチュエータ及び前記右膝関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記左股関節アクチュエータ及び前記左膝関節アクチュエータを、前記膝関節制御軌道が前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように駆動制御し、
前記右股関節アクチュエータ及び前記右膝関節アクチュエータを、前記膝関節制御軌道が前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように駆動制御することを特徴とする請求項1記載のロボティックウエアの同調制御方法。
【請求項3】
ヒトの階段昇行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータと、
ヒトの階段昇行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータと、
前記股関節アクチュエータ及び前記膝関節アクチュエータを制御する同調制御装置とを備えるロボティックウェアであって、
前記同調制御装置は、
ヒトの階段昇行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部と、
前記階段昇行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節制御部とを備えるとともに、
前記股関節制御軌道の周期が、ヒトの階段昇行時の一足一段歩行の周期に対応して設定され、
左右の前記膝関節制御軌道が、左右の前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように設定されていることを特徴とするロボティックウエア。
【請求項4】
前記同調制御装置は、
前記左右の股関節アクチュエータを制御する前記股関節神経振動子と、前記左右の膝関節アクチュエータを制御する膝関節神経振動子とを備え、
前記左右の前記股関節神経振動子については相互に抑制結合され、
前記左右の膝関節神経振動子については相互に抑制結合され、
前記左の股関節神経振動子と前記左の膝関節神経振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合され、
前記右の股関節振動子と前記右の膝関節振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合されていることを特徴とする請求項3記載のロボティックウェア。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、同調制御方法を利用して歩行をアシストするロボティックウエア及びその制御方法に関し、より詳細には階段歩行を好適にアシストすることができるロボティックウェア及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者支援、介護支援などの様々な動作を補助するロボットの開発が進められている(非特許文献1)。本発明者等は、これまで神経振動子モデル(非特許文献2)を用いて装着者の歩行動作に同調した補助動作を行うことのできるロボティックウエアを開発してきた(非特許文献2、3、特許文献1、2、3、4)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2012-66375号公報
【特許文献2】特開2015-44240号公報
【特許文献3】特開2015-2970号公報
【特許文献4】特開2017-46977号公報
【0004】

【非特許文献1】山海嘉之、「人体密着型ロボットスーツ「HAL」」、日本機械学会No.09-17、第14回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集(2009)
【非特許文献2】松岡清利、「神経振動子によるロボットの運動制御」、IEICE Technical Report、NC2012-40、2012
【非特許文献3】Xia Zhang and Minoru Hashimoto, “SBC for Motion Assist Using Neural Oscillator”IEEE International Conference on Robotic and Automation 2009
【非特許文献4】竹内志津江、パタキ トッド、橋本稔、「同調制御を用いた下肢ロボティックウエアの歩行動作への影響」、第15回システムインテグレーション部門講演会(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者等が提案してきたロボティックウェアは平面歩行において歩行をアシストするものであり、階段歩行において同調制御方法を利用してアシストする方法については未検討であった。
本発明は、階段歩行についても的確にアシストすることができるロボティックウェア及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、平面歩行においては、1歩行周期の間に、立脚相及び遊脚相からなる異なる振幅の2周期運動をなすことに着目し、2周期運動による膝関節の軌道制御を行うことで、神経振動子モデルを用いた同調制御方法により歩行動作をアシストする方法を提案した。
本発明に係る階段歩行においては、膝関節の動きは平面歩行の際における動作とは異なり、階段昇行における周期的動作が股関節と膝関節の位相が略同調すること、また1周期ごとに略単一の正弦波波形を描くことに基づいて制御する。
【0007】
すなわち、本発明に係るロボティックウェアの制御方法は、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節と膝関節にそれぞれ伝える股関節アクチュエータ及び膝関節アクチュエータを備える人体装着型のロボティックウエアの制御を、神経振動子を用いて行う同調制御方法であって、ヒトの階段昇行時に、股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御するとともに、膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、前記股関節制御軌道の1周期をヒトの階段昇行時の一足一段歩行の1周期に対応するように設定し、左右の前記膝関節制御軌道を、左右の前記股関節制御軌道にそれぞれ対応して、股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように設定することを特徴とする。
【0008】
また、前記ロボティックウエアは、前記股関節アクチュエータとしてヒトの左右の股関節にそれぞれアシスト力を付与する左股関節アクチュエータ及び右股関節アクチュエータと、前記膝関節アクチュエータとしてヒトの左右の膝関節にそれぞれアシスト力を付与する左膝関節アクチュエータ及び右膝関節アクチュエータとを備え、前記左股関節アクチュエータ及び前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御し、前記左膝関節アクチュエータ及び前記右膝関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、前記左股関節アクチュエータ及び前記左膝関節アクチュエータを、前記膝関節制御軌道が前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように駆動制御し、前記右股関節アクチュエータ及び前記右膝関節アクチュエータを、前記膝関節制御軌道が前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように駆動制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るロボティックウェアは、ヒトの階段昇行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータと、ヒトの階段昇行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータと、前記股関節アクチュエータ及び前記膝関節アクチュエータを制御する同調制御装置とを備えるロボティックウェアであって、前記同調制御装置は、ヒトの階段昇行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部と、前記階段昇行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節制御部とを備えるとともに、前記股関節制御軌道の周期が、ヒトの階段昇行時の一足一段歩行の周期に対応して設定され、左右の前記膝関節制御軌道が、左右の前記股関節制御軌道と同一周期、かつ同一位相となるように設定されていることを特徴とする。
また、前記同調制御装置は、前記左右の股関節アクチュエータを制御する前記股関節神経振動子と、前記左右の膝関節アクチュエータを制御する膝関節神経振動子とを備え、前記左右の前記股関節神経振動子については相互に抑制結合され、前記左右の膝関節神経振動子については相互に抑制結合され、前記左の股関節神経振動子と前記左の膝関節神経振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合され、前記右の股関節振動子と前記右の膝関節振動子については、いずれか一方とのみ抑制結合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒトが階段を昇降する際の歩行動作を好適にアシストすることができるロボティックウェア及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ロボティックウエアの構成を示す外観図である。
【図2】ロボティックウェアの制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】神経素子のユニットの構造を示す図である。
【図4】神経振動子のモデル図である。
【図5】平面歩行時における神経振動子間の抑制結合形態を示す模式図である。
【図6】階段歩行時の関節角度を示す図である。
【図7】股関節についての関節角度と関節トルクの測定結果を示すグラフである。
【図8】膝関節についての関節角度と関節トルクの測定結果を示すグラフである。
【図9】階段を昇行したときの股関節と膝関節についての関節角度の測定結果を示すグラフである。
【図10】平面歩行の際に股関節と膝関節について生成する波形のグラフである。
【図11】股関節と膝関節を同一周期となるように設定したときの左右股関節と左右膝関節についての出力波形を示すグラフである。
【図12】階段歩行時の神経振動子の抑制結合形態を示す模式図である。
【図13】図12に示す抑制結合形態のもとで得られた神経振動子の出力波形のグラフである。
【図14】図13の出力波形に基づく関節角度の波形を示すグラフである。
【図15】図9の股関節と膝関節の関節角度の測定波形と、神経振動子の出力波形に基づく関節角度の波形とを重ねて示したグラフである。
【図16】同調ゲインC=0.5としたときのモータのエンコーダの角度と相互作用トルクの測定結果を示すグラフである。
【図17】同調ゲインC=0.4としたときのモータのエンコーダの角度と相互作用トルクの測定結果を示すグラフである。
【図18】同調ゲインC=0.3としたときのモータのエンコーダの角度と相互作用トルクの測定結果を示すグラフである。
【図19】同調ゲインC=0.2としたときのモータのエンコーダの角度と相互作用トルクの測定結果を示すグラフである。
【図20】同調ゲインC=0.1としたときのモータのエンコーダの角度と相互作用トルクの測定結果を示すグラフである。
【図21】同調ゲインC=0.4のときの右膝と左膝の関節角度の計測値を正規化したグラフである。
【図22】同調ゲインC=0.4のときの右腰と左腰の関節角度の計測値を正規化したグラフである。
【図23】Normal walkingとAbnormal walkingの差のRMSと、Normal walkingとWith controlの差のRMSを求めた結果を示すグラフである。
【図24】同調ゲインをC=0.1~0.5で変えた各々の場合について求めたRMSのグラフである。
【図25】同調ゲインC=0.3のときの右膝と左膝の関節角度の計測値を正規化したグラフである。
【図26】同調ゲインC=0.3のときの右腰と左腰の関節角度の計測値を正規化したグラフである。
【図27】同調ゲインをC=0.1~0.5で変えた各々の場合について求めたRMSのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ロボティックウエアの構成)
図1に、本発明に係るロボティックウエアの一実施形態を示す。このロボティックウエアは、人体の骨格構造をロボット機構の支持体として利用する構成を有するもので、人体の骨格の外側にリンク機構を備えないことから、非外骨格型ロボティックウェアと称される(特許文献4)。
図1に示すロボティックウェアは、股関節の左右の外側の位置に配置した第1のモータユニット10と、左右の膝関節の外側の位置にそれぞれ配置した第2のモータユニット20とを備える。第1のモータユニット10は、股関節を挟んで、腰ベルト14と左右の太腿に配置した太腿ベルト16との間を連繋し、第2のモータユニット12は膝関節を挟んで膝上ベルト18と膝下ベルト20との間を連繋する。

【0013】
第1のモータユニット10と第2のモータユニット12は、モータと、モータの出力軸に連繋する減速機とを備える。減速機の出力軸には旋回腕が取り付けられ、第1のモータユニット10では腰ベルト14と太腿ベルト16との間を連繋するように旋回腕が設けられ、第2のモータユニット12では膝上ベルト18と膝下ベルト20との間を連繋するように旋回腕が設けられている。
ヒトの歩行動作のアシストは、第1のモータユニット10と第2のモータユニット12の旋回腕を、ヒトの歩行動作に合わせて、その旋回タイミング、旋回角度(開き角度)を制御することによってなされる。

【0014】
(同調制御方法)
本発明に係るロボティックウエアでは、神経振動子を用いた同調制御方法(非特許文献3)を利用して駆動系を制御している。
図2に、その制御システムの概要を示す。本発明に係るロボティックウェアの制御方法は、ロボットとヒトの動きによって生じるロボットとヒトとの相互作用力を、減速機に内蔵したトルクセンサによって検知し、同調ゲインを乗じたものを神経振動子への入力として使用し、入力を受けた神経振動子からは同調信号が出力され、この出力信号を目標角度としてPID制御を通じてロボットの動きを生成し、フィードバック制御によりヒトの運動との同調を図ろうとする仕組みである。同調ゲインを高くした場合は人間主体の運動生成が可能となり、同調ゲインを低めていくと、よりロボットが能動的に人間を牽引するような運動生成が可能になる。したがって、装着者の能力に応じて同調ゲインを調整することにより、適切な補助力によるアシストが可能となる。

【0015】
(神経振動子)
ヒトは歩行運動などの基本的なリズム運動を行う際には、CPG(Central Pattern Generator)と呼ばれる神経回路を用いて制御しながら動作を生成している。CPGは互いに位相関係を有しながら振動している神経組織の集合で、この神経回路内で発現する神経素子間の興奮・抑制メカニズムをモデル化したものが神経振動子である。

【0016】
松岡らは、神経振動子を構成する神経素子のモデル化ならびに神経振動子の組み合わせによって、CPGが構成されることを提唱し(非特許文献2)、神経振動子間の抑制結合形態とそれによって生成される出力振動の関連についても研究を行った。この神経振動子には外部入力信号に自励振動を同調させる同調現象や外部に対する引き込みという性質があり、先行研究(非特許文献3)では、この性質を利用したロボットとヒトの同調制御を実現している。

【0017】
本発明においても、この松岡モデルを用いてロボットを制御する。松岡モデルは下記の非線形1 階連立微分方程式によって表すことができる。図3は、神経素子のユニットの構造を示す。
【数1】
JP2019005250A_000003t.gif

【0018】
図3で、xiはi番目のニューロンの内部状態を表す係数、fiはi番目のニューロンの疲労状態を表す係数、g(xi)はi番目のニューロンの出力、Siはi番目のニューロンの定常入力、biはi番目のニューロンの疲労係数、aijはi番目のニューロンからj番目のニューロンへの結合係数、Ta及びTrは時定数である。Inputは外部入力であり、センサからの入力などである。
同調制御方法では、ロボットのモータに取り付けたひずみセンサにより、相互作用トルクと呼ばれるロボットとヒトのトルクの差からロボットとヒトの動きの違いを検知し、そこに同調ゲインと呼ばれる同調性を調整するパラメータを設定することで、外部入力を取り入れる度合いを調整している。

【0019】
図4に従来の同調制御に用いてきた振動子モデルを示す。この神経振動子のモデルでは、図4に示すような2つのユニットで構成し、この神経振動子の出力をg(x1)-g(x2)とすることで正弦波のような周期的な信号波形を得て制御している。
松岡モデルでは、x1(0)、x2(0)、f1(0)、f2(0)、a12、a21、b1、b2、S1、S2、Ta、Tr、Inputを任意に定めることによって、神経振動子の出力波形を変化させることができる。

【0020】
(平面歩行時の神経振動子の抑制結合形態)
図1に示したロボティックウェア(下肢4関節制御システム)では、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータとして第1のモータを備え、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータとして第2のモータを備え、股関節アクチュエータ及び膝関節アクチュエータを制御する同調制御装置を備える。

【0021】
同調制御装置はコンピュータを中心に構成され、インストールされている同調制御用コンピュータプログラムを実行することにより、ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部と、歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節駆動制御部とを備える。

【0022】
図5は、先行研究(特許文献4)で開発した平面歩行時における神経振動子間の抑制結合形態を示す。先行研究では、ヒトが平面歩行するときには膝関節が2周期軌道をなすことからロボティックウェアの同調制御方法においては、左右の股関節の動作を制御する神経振動子を相互に抑制結合し、左右の膝関節の動作を制御する神経振動子を相互に抑制結合するとともに、左股関節と左膝関節を制御する神経振動子を相互に抑制結合し、右股関節と右膝関を制御する神経振動子を相互に抑制結合する方式を採用している。

【0023】
図1に示すロボティックウェアを実際に使用する際には、同調制御装置と第1のモータ及び第2のモータを駆動する電源(電池)を内蔵したバックを背負い、第1のモータ、第2のモータ等を所定位置に装着し、第1のモータ及び第2のモータと電源等とを接続し、ロボティックウェアを駆動して歩行する。

【0024】
(階段歩行)
ヒトの階段歩行方法には、一足一段歩行と二足一段歩行の二種類ある。一足一段歩行は右足と左足を交互に動かして階段歩行をなすもので、通常の階段歩行はこの動作である。一方、二足一段は片足を次の段に移動した後、他方の足を同じ段に移動する動作で階段歩行するものである。本明細書では、健常者の通常の階段歩行方法である一足一段歩行の制御について検討する。

【0025】
階段歩行時におけるアシスト制御を検証する第一段階として、一足一段歩行で階段を昇る際の股関節及び膝関節の角度変化と、そのときに作用するトルクの推移を調べる実験を行った。関節角度はモーションキャプチャにより、高低差200mm、幅550mm、奥行260mmで3段の階段を昇る際の動きを計測し、モーションキャプチャのマーカのデータを解析ソフトに取り込み、関節角度を調べる方法で行った。関節トルクは、階段の踏み板に相当する位置に接触判定用のプレートを配置し、足の裏との接触点にかかる力を計算し、逆動力学によって求めた。図6に関節角度(股関節角度θ1、膝関節角度θ2)の定義を示す。

【0026】
図7は左股関節、図8は左膝関節についての測定結果を示す。それぞれ関節トルクと角度変化を示す。関節トルクは縦軸の正の値が屈曲方向に、負の値が伸展方向に力が働いていることを示す。関節角度は縦軸の正の値が屈曲、負の値が伸展を表している。
図7、8から、足を段差より高く上げたあとに、段の高さまで降ろしてくるという角度変化が読み取れる。そして、足を下ろした後は、体を持ち上げるために関節の伸展方向に強い力がかかっていることがわかる。

【0027】
発揮されているトルクが最も大きな地点では、股関節で100Nm、膝関節で130Nm程度の力がかかっていた。従来のロボティックウェアで使われているモータの最大発生トルクは14.5Nm程度であるので、モータの最大発生トルクに対して。股関節では伸展時に発揮される最大トルクの14~15%程度、膝関節では11%程度のアシストができると考えられる。
なお、右股関節、右膝関節の関節角度、関節トルクについても、図7、8と略同様な測定結果が得られている。

【0028】
上記測定は3段の階段を使用した実験であるが、階段歩行時における関節角度変化とトルクの推移についてより正確な実験データを得る目的で、12段の段数の階段を用いて実験を行った。実験で用いた階段の高低差は175±5mm、奥行きは300mmである。この階段を、ロボティックウェアを着用し、まったくアシスト制御を行わない状態(ロボティックウェアが人間の動きに単に追従する状態)で、関節角度がどのようになるかを測定した。
図9は、階段を昇行したときの右股関節と右膝関節についての関節角度の測定結果を示す。図9に示す測定結果は、右股関節と右膝関節の波(動作)周期が略一致していること、すなわち、階段昇行の際には股関節と膝関節は略一致した動作をなすことがわかる。なお、左股関節と左膝関節についても同様の動作となることが確かめられた。

【0029】
(神経振動子による軌道生成)
上述した実験結果は、階段昇行においては、腰と膝の関節角度の推移が位相がそろった同一周期の波形をなすという特徴的な動作をなすことを示す。したがって、神経振動子による軌道生成においては、股関節で波形が1周期発生する際に、膝関節においても股関節の波形と同一の位相で1周期の波形を生成させる軌道を生成する必要がある。

【0030】
階段歩行における制御用の軌道を生成する方法として、前述した平面歩行の際の軌道生成方法を利用する。日常動作では平面歩行と階段歩行が混在して存在するから、平面歩行の軌道生成方法を利用することができれば、平面歩行と階段歩行とを簡単に切り替えて使用することができるからである。
先行研究に係る左右の股関節と左右の膝関節を制御するロボティックウェアでは、神経振動子の出力(Output)によって振幅1の正弦波のような波形を出力する。それに角度を掛け合わせ、適切なオフセットを加えることにより、波形を正または負方向にシフトさせて軌道生成を行っている。
図10は平面歩行における制御の場合で、股関節と膝関節で生成する波形である。平面歩行では膝関節の動作に遊脚相と立脚相があり、これらは股関節の周期の1/2であることから、股関節の1周期の間に膝関節では2周期の波形を出力させ、かつ遊脚相と立脚相とで振幅倍率を乗じる処理を行っている。

【0031】
階段歩行において図9に示した波形と同様の軌道を生成させるため、平面歩行では、膝関節についての松岡モデルの式における時定数Taを股関節のTaの1/2にする処理を、膝関節と股関節の時定数Taを同一とし、膝関節と股関節の周期を一致させるようにした。
図11は、股関節と膝関節を同一周期となるように設定したときの左右股関節と左右膝関節を制御するそれぞれの神経振動子の出力波形を示す。図11に示すように、単に時定数を一致させる処理をすると、波形は同一の周期になるものの、それぞれ波形が4分の1周期ずつずれる結果となった。

【0032】
図11に示すように、それぞれの波形の位相がずれる理由としては、平面歩行においては、図5に示すように、左右の股関節と左右の膝関節を制御する4つの神経振動子を相互に抑制結合しているためと考えられる。そこで、図12に示すように、左股関節と左膝関節について相互に抑制結合していたものを、左股関節から左膝関節に対して抑制結合し、右股関節と右膝関節についても相互に抑制結合していたものを、右股関節から右膝関節に対して抑制結合する方法に設定変更して神経振動子からの出力波形を調べてみた。

【0033】
図13は、図12に示す抑制結合形態のもとで得られた神経振動子の出力波形、図14はこの出力波形により発生した関節角度の波形を示す。図13、14に示した左右の股関節と膝関節についての波形を見ると、左右の股関節と膝関節で逆位相になり、左の股関節と膝関節では同一周期でかつ位相のずれが抑えられ、右の股関節と右膝関節でも同一周期で位相のずれが小さく抑えられた結果となったことがわかる。
図15は、図9に示した股関節と膝関節の関節角度の測定波形と、神経振動子の出力波形に基づく関節角度の波形とを重ねて示したものである。図15から、実際の測定で得られた関節角度の波形と比べると、膝関節についての波形では僅かに位相の遅れが見られる。位相の遅れを完全になくす方法としては神経振動子のユニット同士の接続を変えるといったことが考えられるが、平面歩行と階段歩行を切り替える際の容易さを考慮すると、階段歩行の制御方法として、図12に示した抑制結合形態を利用する方法は有効であると考えられる。

【0034】
なお、左右の股関節を相互に抑制結合している理由は、互いに抑制結合することで左右の股関節の動作が逆位相になるようにし、左右の脚を交互に動作させることに対応できるようにするためである。左右の膝関節を相互に抑制結合している理由も、左右の膝関節の動作を逆位相として、左右の膝関節が交互に動作することに対応できるようにするためである。
本実施形態においては、左股関節と左膝関節の抑制結合を一方のみとし、右股関節と右膝関節の抑制結合を一方のみとしたことで、左右の股関節と膝関節の位相が逆位相になることを抑えるようにしたことになる。実施形態では左右の股関節から左右の膝関節へ向けて入力することとした(図12の黒丸の意味)が、左右の膝関節から股関節へ向けて入力するという結合の方法であってもよい。なお、神経振動子間の抑制結合は、前述した非線形1 階連立微分方程式のInput項へ該当する信号を入力することによってなされる。

【0035】
(階段昇行テスト:1)
図12に示した抑制結合形態による同調制御装置を備えるロボティックウェアを実際に使用して、階段歩行についてのロボティックウェアによるアシスト性能について検証する実験を行った。実験は、健常男性にロボティックウェアを装着し、高低差18cm、幅1320mm、奥行300mm、12段の階段で昇行テストを行う方法で行った。アシスト性能は、同調制御装置の同調ゲインCを0.5から0.1まで、0.1刻みで下げて評価した。

【0036】
図16~20に、同調ゲインC=0.5、0.4、0.3、0.2、0.1としたときの測定結果を示す。それぞれ、モータのエンコーダの角度と相互作用トルクを示す。エンコーダの角度変化(左の縦軸)は正の値が屈曲を、負の値が伸展を表し、相互作用トルク(右の縦軸)は正の値がロボット側から屈曲側に力を受けていることを、負の値が伸展側に力を受けていることを表す。
なお、実験では左右股関節と左右の膝関節についてそれぞれデータを取得したが、ここでは右股関節と右膝関節についての実験結果を示す。

【0037】
図16の同調ゲインC=0.5の場合は、人間の動きに対する同調性が最も高いため、アシストされる感覚は少ないが、ロボットが人間の関節に合わせて動くのが感じられた。
図17(同調ゲインC=0.4)では、相互作用トルクの振幅は同調ゲインC=0.5のときと比べて、膝関節ではあまり変わらないが、股関節では振幅が小さくなっている。
図18(同調ゲインC=0.3)では、C=0.5、0.4のときと比べて相互作用トルクの振幅がやや大きくなってきている。これは同調性が低くなったために、ロボットが人間の動きに合わせなくなってきたためと考えられる。
図19(同調ゲインC=0.2)では、C=0.3~0.5のときと比べて相互作用トルクの振幅が大きくなってきている。
図20(同調ゲインC=0.1)では、C=0.2~0.4の時と比べて相互作用トルクの振幅が大きくなっている。ロボットが人間よりも先に動き、階段を歩行する動きを先導するような感覚があり、アシスト感を最も強く感じることができた。

【0038】
また、両関節、特に膝関節で顕著であるが、歩き始めて1周期目の波形は振幅が小さめに出ており、2周期目から一定の値に落ち着いていることがわかる。これは、モータがある程度止まってから昇行動作の測定をしていることが原因と考えられる。同調性をかなり低く設定しているために、ヒトが動き出したという意思を反映するのにロボット側で時間がかかり、1周期目が小さな振幅になっていると考えられる。2歩目からは同程度の振幅が出力されているから、改善方法として、歩行開始時には同調性が高い状態から制御をスタートさせ、徐々に同調性を下げていくような制御が考えられる。
このテスト結果から、前述した制御方法に基づいてロボティックウェアを制御する方法が階段歩行にも有効に利用できる可能性が得られた。

【0039】
(階段昇行テスト:2)
次に、図12に示した抑制結合形態による同調制御装置を備えるロボティックウェアを使用し、下記の3通りの条件で階段昇行実験を行った。使用した階段は階段昇行テスト:1と同一のものである。
a)制御をしない
b)おもりを着けるが制御をしない
c)おもりを着けて制御をする
比較のため、股関節と膝関節の角度をXSENS社の測定装置を用いて測定した。この測定装置は、3軸加速度センサと3軸のジャイロセンサ、地磁気センサが内蔵されたもので、この装置を腰、大腿部、下腿部、足に装着し、センサの情報から生体力学的モデルを用いて関節角度を算出した。
また、ロボティックウェアの関節角度の振幅のパラメータは、制御なしの状態で歩行したときの角度変化をもとに決定し、最小値から最大値を推移するように設定した。おもりは2.5kgのものを両足首に装着した。

【0040】
被験者は、同調ゲインC=0.1~0.5の5段階を設定して歩行し、同調ゲインごと、使用感についてのアンケートを行った。アンケートの質問項目を以下に示す。
1)アシストは得られましたか
2)屈曲時に意思通り動いていましたか
3)伸展時に意思通り動いていましたか
4)楽に昇れましたか
5)安心して昇れましたか
これらの項目を7段階で評価し、悪い評価から良い評価を-3、 -2、 -1、 0、 1、 2、 3点で点数化した.

【0041】
<被験者A>
表1に被験者Aのアンケート結果を示す。
【表1】
JP2019005250A_000004t.gif
アンケートの結果、同調ゲインC=0.4のときが最も合計得点が高くなった。
同調ゲインC=0.4のときの右膝と左膝の関節角度の計測値を図21、右腰と左腰の関節角度の計測値を図22に示す。図21、22は、左右各関節の反対側の足が接地した時点からもう一度接地するまでの時間を100%とした周期で正規化し、5周期分を平均した正規化波形である。
With controlがおもりを着けて制御をしている状態、Nomal walkingがおもりを着けずに制御もかけていない状態、Abnormal walkingがおもりを着けているが制御をしていない状態である。

【0042】
図21に示す膝関節については、制御あり(With control)と制御なし(Abnormal Walking)で波形に違いが見られる。制御なしでは足を上げてから段の高さまで下ろしてくる際の膝が小さな角度まで戻ってくるのに対して、制御ありでは小さな角度までは降りてこず、制御なしの状態(Abnormalwalking)とNormal walkingの中間程度の変化となっている.
図22に示す股関節については、左股関節におもりをつけると振幅が大きくなっていたが、制御をかけるとその角度変化がおもりなし(Normalwalking)の変化に近づいていることがわかる。これは、おもりを持ち上げるために股関節をより高く持ち上げようとしたのではないかと考えられる。この変化は右股関節では見られなかった。利き足などの理由も考えられる。

【0043】
次に、正規化した波形について、AbnormalwalkingとWith controlについて、おもりを着けずに制御もかけていない状態(Normalwalking)とのRMS(二乗平均平方根)を求めた。
図23に、Normal walkingとAbnormal walkingの差のRMS(Abnormal walking)、Normal walkingとWith controlの差のRMS(With control)を求めた結果を示す。
図23から、膝関節及び股関節ともに、制御あり(With control)とすることでRMSが減少し、アシスト(制御あり)することによりNormalwalkingに近づいたことを示す。

【0044】
図24は同調ゲインをC=0.1~0.5の範囲で変えた各々の場合についてRMSを求めた結果を示す。図24でAbnormalwalkingとあるのはNormal walkingとAbnormal walkingの差のRMSである。その他は、同調ゲインC=0.1~0.5のそれぞれについて、Normal walkingとWith controlの差のRMSを示す。
図24では、Abnormal walkingと比較して、C=0.1ではRMSの増加が見られたが、C=0.2及び0.4では膝関節、股関節ともにRMSが減少しており、ロボティックウェアによって階段昇行がアシストされたと考えられる。

【0045】
<被験者B>
表2に被験者Bのアンケート結果を示す。
【表2】
JP2019005250A_000005t.gif

【0046】
図25に、最高点であった同調ゲインC=0.3のときの右膝と左膝の関節角度の計測値を正規化した波形、図26に右腰と左腰の計測値を正規化した波形を示す。
被験者Bについても被験者Aと同様に、Normalwalkingの場合に膝関節では一つ目の山を下りてきた後にあるへこみが、Abnormal Walkingではより小さな角度まで下りてきている。しかし、制御をすることによってへこみが解消され、Normal walkingに近づいていることがわかる。被験者Bの場合、おもりをつけると股関節では振幅がNormal walkingに比べて小さな角度部分を変位するという特徴が見られた。制御をしている場合でもその傾向は変わらず低い位置を推移しており、股関節にはAbnormal walkingとWith controlであまり差は見られなかった。

【0047】
図27は同調ゲインをC=0.1~0.5の範囲で変えた場合についてRMSを求めた結果を示す。
図27から、被験者については、股関節ではすべてのパラメータでRMSが増加したが、膝関節ではC=0.4以外のパラメータでわずかに減少が見られた。股関節では同調ゲインCが大きくなるほどRMSが小さくなる傾向が見られた。
【符号の説明】
【0048】
10 第1のモータユニット
12 第2のモータユニット
14 腰ベルト
16 太腿ベルト
18 膝上ベルト
20 膝下ベルト



図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
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