TOP > 国内特許検索 > エマルション型蓄熱材及びその製造方法 > 明細書

明細書 :エマルション型蓄熱材及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-038975 (P2019-038975A)
公開日 平成31年3月14日(2019.3.14)
発明の名称または考案の名称 エマルション型蓄熱材及びその製造方法
国際特許分類 C09K   5/06        (2006.01)
F28D  20/02        (2006.01)
FI C09K 5/06 J
C09K 5/06 Z
C09K 5/06 L
F28D 20/02 E
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-164070 (P2017-164070)
出願日 平成29年8月29日(2017.8.29)
発明者または考案者 【氏名】酒井 俊郎
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
要約 【課題】異なる複数の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材とその製造方法を提供する。
【解決手段】有機系相転移材料からなるゲルボールが、分散媒中に分散したエマルション型蓄熱材であって、前記分散媒中に、相転移温度が異なる複数種の有機系相転移材料からなる複数種のゲルボールが存在し、それぞれのゲルボールが、疎水性の材料により表面が被覆されているエマルション型蓄熱材。例えば前記ゲルボールが、相転移温度が異なる2種類の有機系相転移材料からなる2種類のゲルボールからなる場合、二段階の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材となる。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
有機系相転移材料からなるゲルボールが、分散媒中に分散したエマルション型蓄熱材であって、
前記分散媒中に、相転移温度が異なる複数種の有機系相転移材料からなる複数種のゲルボールが存在し、
それぞれのゲルボールが、疎水性の材料により表面が被覆されていることを特徴とするエマルション型蓄熱材。
【請求項2】
前記ゲルボールが、相転移温度が異なる2種類の有機系相転移材料からなる2種類のゲルボールからなり、二段階の停滞温度を備えることを特徴とする請求項1記載のエマルション型蓄熱材。
【請求項3】
前記疎水性の材料が、疎水性のシリカ粒子であることを特徴とする請求項1または2記載のエマルション型蓄熱材。
【請求項4】
前記疎水性シリカ粒子の相転移材料に含まれる分量が、3~5wt%であることを特徴とする請求項3記載のエマルション型蓄熱材。
【請求項5】
前記有機系相転移材料がパラフィンであり、前記分散媒が水であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載のエマルション型蓄熱材。
【請求項6】
有機系相転移材料と、ゲル化剤と、ゲル化抑制材と、疎水性の材料と、分散媒とを混合して攪拌し、前記有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションを調製する工程と、
前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料と、ゲル化剤と、ゲル化抑制材と、疎水性の材料と、分散媒とを混合して攪拌し、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションを調製する工程と、
前記有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションと、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションとを混合し、前記有機系相転移材料の相転移温度と、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料の相転移温度に相当する複数の異なる温度停滞域を備えるエマルションを調製する工程と、
を備えることを特徴とするエマルション型蓄熱材の製造方法。
【請求項7】
有機系相転移材料としてパラフィンを使用し、前記疎水性の材料として疎水性の粒子材料を使用することを特徴とする請求項6記載のエマルション型蓄熱材の製造方法。



発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はエマルション型蓄熱材及びその製造方法に関し、より詳細には複数の相転移点を備えるエマルション型蓄熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルション型蓄熱材には、界面活性剤を用いてパラフィン等の油類を水に分散させてエマルションとしたものが、従前、提案されている(特許文献1、2、3等)。
これに対し、本発明者は、界面活性剤をまったく使用しないエマルション型蓄熱材を提案した(特許文献4、5)。このエマルション型蓄熱材は、水と油と油ゲル化剤とを用いて、油を粒状のゲル(ゲルボール)とし、水中でゲルボールが分散するように調製したものである。油をゲルボールとすることで、相転移を繰り返しても粒状の保形性を保ち、高分散状態を維持することが可能となり、過冷却を抑制した蓄熱材(熱エネルギー貯蔵材料)として利用することができる。この蓄熱材は、相転移によって固相になった状態でも、流動性を保持するから、配管等を利用して容易に輸送することができ、その流動性を利用して種々用途に利用することが可能である。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2005-171031号公報
【特許文献2】特開2006-83276号公報
【特許文献3】特開2008-303337号公報
【特許文献4】特開2015-38176号公報
【特許文献5】特開2016-165716号公報
【特許文献6】特開2017-43755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
相転移を利用する蓄熱材には、用途に応じてさまざまな相転移温度に設定した商品が提供されている。油等の有機材料を相転移材料とする蓄熱材は、ヒトの生活温度帯域に相転移温度があることから、農業、漁業、医療等に好適に利用することができる。
しかしながら、従来提供されている蓄熱材は、特定の温度を相転移温度に設定したもので、一つの蓄熱材で複数の異なる相転移温度に対応できるものではない。生活温度帯域においては、異なる相転移温度の蓄熱材を使う場合がしばしばあるから、一つの蓄熱材で複数の相転移温度に対応することができれば、使い勝手の良い蓄熱材として利用することが可能である。
本発明は、一つの蓄熱材で複数の相転移温度を備えるエマルション型蓄熱材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、油を粒状のゲル(ゲルボール)として水に分散させたエマルション型蓄熱材の技術を利用することで、複数の相転移温度を備える蓄熱材を提供することを試みた。その方法は、相転移温度が異なる有機材料を用いて相転移温度が異なる複数種のゲルボールを分散媒中に分散させることで、複数の相転移温度に対応することができるエマルション蓄熱材を提供する方法である。しかしながら、この方法では、複数の相転移温度を備えるエマルション型蓄熱材を得ることができないことが判明した。
そこで、本発明者は、複数の相転移温度に対応することができるエマルション型蓄熱材について研究を重ね、複数の相転移温度に対応することができる新規な構成を備えるエマルション型蓄熱材に想到したものである。
【0006】
本発明に係るエマルション型蓄熱材は、有機系相転移材料からなるゲルボールが、分散媒中に分散したエマルション型蓄熱材であって、前記分散媒中に、相転移温度が異なる複数種の有機系相転移材料からなる複数種のゲルボールが存在し、それぞれのゲルボールが、疎水性の材料により表面が被覆されていることを特徴とする。
ゲルボールの表面とはゲルボールと分散媒との界面の意であり、ゲルボールの表面が疎水性の材料により被覆されることにより、エマルション中で同種あるいは異種のゲルボールが合一となることを抑制し、それぞれのゲルボール固有の相転移機能が発揮され、複数の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材として機能する。
【0007】
なお、有機系相転移材料とは、相転移する有機材料であるが、本発明に係るエマルション型蓄熱材はヒトの生活域における環境温度範囲において潜熱蓄熱材として利用することを想定している。したがってこれらの温度域において利用できる潜熱を備える有機系相転移材料であれば利用することができる。有機系相転移材料としては、たとえば炭化水素系の相転移材料として、パラフィン系または脂肪酸エステル系の油が挙げられる。有機系相転移材料としては炭化水素系の相転移材料に限らず、水に不溶な炭化水素、アルコール、脂肪酸、エステル、エーテル、シリコーンオイル、炭化フッ素、及びこれらの混合物が例示される。
ゲル化剤は、有機系相転移材料中で3次元のネットワークを形成してゲル化させるものである。ゲル化剤としては、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α-、γ-ジブチルアミド(LGBA)、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド(EGBA)等が利用できる。
ゲルボールとは有機系相転移材料がゲル化剤によりゲル化され、5~20μm程度の微小な粒状(ボール状)に形成されたものを指す。
ゲルボールの表面を被覆する疎水性の材料としては、基材の表面を疎水性処理あるいは撥水性処理を施して疎水性とした材料が使用できる。疎水性の材料はゲルボールの表面を被覆して、ゲルボールの界面の強度を増大させるためのものであり、疎水性を備える粒子状の材料、たとえば疎水性処理を施したシリカ粒子がある。
【0008】
本発明に係るエマルション型蓄熱材は、異なる相転移温度を備える二種類の有機系相転移材料を用いて調製した二種類のゲルボールを含むエマルションを調製することにより、二段階の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材として提供することができる。
エマルションの停滞温度は使用する有機系相転移材料によって任意に設定することができる。停滞温度を設定する場合も、二段階に限らず三段階、四段階といったように任意に設定することが可能である。
【0009】
本発明に係るエマルション型蓄熱材の製造方法は、有機系相転移材料と、ゲル化剤と、ゲル化抑制材と、疎水性の材料と、分散媒とを混合して攪拌し、前記有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションを調製する工程と、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料と、ゲル化剤と、ゲル化抑制材と、疎水性の材料と、分散媒とを混合して攪拌し、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションを調製する工程と、前記有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションと、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料からなるゲルボールを含むエマルションとを混合し、前記有機系相転移材料の相転移温度と、前記有機系相転移材料とは異なる有機系相転移材料の相転移温度に相当する複数の異なる温度停滞域を備えるエマルションを調製する工程と、を備えることを特徴とする。
なお、エマルション型蓄熱材の製造方法において、異種の有機系相転移材料からなるエマルションを混合する操作は、2種類の有機系相転移材料を混合する場合に限るものではなく、3種類以上の有機系相転移材料を混合することにより、三段階以上の温度停滞域を備えるエマルション型蓄熱材を製造することができる。
なお、有機系相転移材料としてパラフィンを使用することが有効であり、前記疎水性の材料として疎水性のシリカ粒子等の疎水性の粒子材料を使用することが有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るエマルション型蓄熱材は、エマルション中に含まれるゲルボールが、疎水性の材料によって外面が被覆されていることにより、異なる相転移温度を備えるゲルボールがエマルション中に分散して存在し、これによって複数の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材として提供することができる。また、本発明方法によれば、攪拌操作によることで複数の停滞温度を備えるエマルション型蓄熱材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】2種類の相転移材料を含むエマルションの調製方法を示す説明図である。
【図2】2種類の相転移材料を含むエマルションの温度履歴を測定した結果を示すグラフである。
【図3】単体の相転移材料を含むエマルションの温度履歴を測定した結果を示すグラフである。
【図4】3種類のエマルションについて温度履歴を測定した結果を示すグラフである。
【図5】3種類のエマルションについて、エマルション中における油交換メカニズムを示す説明図である。
【図6】シリカ粒子の濃度を変えたときのエマルションの温度履歴とゲルボールの粒子径の測定結果を示すグラフである。
【図7】ゲル化剤の濃度を変えたときのエマルションの温度履歴とゲルボールの粒子径の測定結果を示すグラフである。
【図8】ゲル化剤としてLGBA、添加剤として疎水性シリカ粒子を用いたエマルションの相転移のサイクル特性を調べた結果を示すグラフである。
【図9】ゲル化剤としてLGBA、添加剤として疎水性シリカ粒子を用いたエマルションの相転移のサイクル特性を調べた結果を示すグラフである。
【図10】冷却加熱サイクルを繰り返したときのエマルション中のゲルボールの粒子径を測定した結果を示すグラフである。
【図11】冷却加熱サイクル試験を行った際のエマルションの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<異種の相転移材料を含むエマルション:予備実験>
本発明に係るエマルション型蓄熱材は、相転移温度が異なる異種の有機系の相転移材料を含むエマルションを調製し、一つの蓄熱材で、複数の相転移温度を有するエマルション型蓄熱材を提供するものである。
複数の相転移温度を備えるエマルション型蓄熱材を調製する予備実験として、相転移温度が異なる2種類の相転移材料を含むエマルションを調製し、どのような相転移状態が生じるかを実験した。

【0013】
実験で使用した相転移材料は下記のPCM1とPCM2の2種である(PCMはPhase Change Materialの意)。
PCM1: パラフィン(相転移温度19.6℃、潜熱165 kJ kg-1
ゲル化剤 LGBA(N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α-、γ-ジブチルアミド)
PCM2: パラフィン(相転移温度30.6℃、潜熱184 kJ kg-1
ゲル化剤 LGBA(N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α-、γ-ジブチルアミド)

【0014】
図1に2種類の相転移材料を含むエマルションの調製方法と、相転移測定方法を示す。
まず、相転移材料PCM1とPCM2を含むエマルションを別個に調製する。エマルションの調製は、パラフィンとゲル化剤とゲル化抑制材と水とをローター式ホモジナイザーの容器に入れ、60℃で20分間、15000rpmで攪拌する方法によって調製した。
具体的には、パラフィン60ml(ゲル化剤3wt%含む)、ゲル化抑制材としてプロパノール30ml、水110mlを混合して攪拌した。ゲル化抑制材はゲル化剤を添加したことによってパラフィンがゲル化することを抑制し、攪拌操作によって微小なゲルボールが分散媒中で分散したエマルションを調製するために用いている。

【0015】
PCM1とPCM2とからなるゲルボールをそれぞれ含むエマルションは、ともに白色の外観を呈する。
次に、PCM1からなるゲルボールを含むエマルションと、PCM2からなるゲルボールを含むエマルションを一つの容器に入れて混合し、2種のゲルボールを含むエマルションを調製する。実験では、PCM1のゲルボールを含むエマルションとPCM2からなるゲルボールを含むエマルションをそれぞれ等量(200ml)ずつ容器に入れ、-1℃の恒温槽内で3日間、マグネチックスターラーを用いて継続して攪拌操作を行った。この攪拌操作はエマルション中のゲルボールを完全に固化させるためである。
相転移測定は、PCM1とPCM2の2種類のゲルボールを含むエマルションを収容した容器を-1℃の恒温槽から40℃の恒温槽に移し、エマルションの温度の経時変化を測定した。

【0016】
図2は、相転移材料PCM1からなるゲルボールとPCM2からなるゲルボールをともに含むエマルションの温度履歴を測定した結果を示す温度プロフィールである。この測定結果は、PCM1からなるゲルボールとPCM2からなるゲルボールをともに含むエマルションでは、特定の温度帯において温度が停滞する領域が見られないことを示している。

【0017】
図3はPCM1とPCM2からなるゲルボールを単独で含むエマルションについて、上記実験とは別個に測定して得た温度プロフィールである。図3(a)はPCM1からなるゲルボールを含むエマルションについて、図3(b)はPCM2からなるゲルボールを含むエマルションについての測定結果である。この実験も、それぞれのエマルションを-1℃から40℃まで温度上昇させて測定したものである。
図3(a)に示す、PCM1からなるゲルボールを含むエマルションについては、19.6℃近傍において温度の停滞域が見られ、図3(b)に示す、PCM2からなるエマルションについては、30.6℃近傍に温度停滞域がある。それぞれ、PCM1に固有の相転移温度、PCM2に固有の相転移温度に相当する温度停滞域が生じている。すなわち、相転移材料からなるゲルボールが分散したエマルションとすることで、それぞれ固有の潜熱蓄熱材として作用する。

【0018】
図2、3に示す実験結果は、相転移材料PCM1とPCM2をそれぞれ単独で含むエマルションについては相転移が生じるが、PCM1からなるゲルボールとPCM2からなるゲルボールとを混在させたエマルションでは明確な相転移特性が表れないことを示す。
パラフィンに油ゲル化剤を加えてエマルション化したものは、油滴がゲル化されて分散媒中でパラフィンがゲルボールとなって分散している(特許文献4)。分散媒中で分散しているゲルボールは、ゲル化していることで一定の粘弾性を備え、保形性を備えている。したがって、分散媒中でゲルボールは合一する(凝集する)ことが抑制され、分散媒中で安定的に分散する。

【0019】
このようなゲルボールの分散性を考慮すると、分散媒中でPCM1、PCM2のような異なる相転移材料からなる異種類のゲルボールが存在する場合であっても、ゲルボールが合一することが抑制され、それぞれのゲルボールは分散媒中で分散して存在すると考えられ、それぞれ固有の相転移特性がが発揮されることが想定される。
しかしながら、上述した実験結果は、異種の相転移材料からなるゲルボールを単に混合させただけでは所要の相転移特性が得られないことを示している。この実験結果は、異種のゲルボールが分散媒中で合一し、それぞれ本来の特性を失ってしまったものと想像される。

【0020】
<複数の相転移温度を有するエマルションの調製>
相転移温度が異なる有機系相転移材料からなる複数種のゲルボールを含むエマルションについて、複数の停滞温度を備えるエマルションを調製するために、分散媒中でゲルボールが合一する(凝集する)ことを抑制する方法として、ゲルボールの界面強度を増大させる方法を検討した。
ゲルボールの界面強度を増大させる方法として実験で相転移材料に添加して使用した材料は、界面活性剤であるアルキルポリオキシエチレンエーテル(商品名Brij56)と、疎水性処理したシリカ粒子である。アルキルポリオキシエチレンエーテルはゲルボールの表面を被覆することにより、ゲルボールが相互に接触することを抑制する作用と、ゲルボールの界面強度を増大させる作用を備えると考え、疎水性のシリカ粒子はゲルボールの界面強度を増大させる作用を備えると考えて添加剤として使用した。

【0021】
図4(a)、(b)、(c)は、前述したPCM1とPCM2の2種類の相転移材料を用いて作製した3種のエマルションのサンプルA、B、Cについて相転移特性を調べる実験を行った結果を示す。
サンプルA
1:パラフィン(相転移温度19.6℃、潜熱165 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
2:パラフィン(相転移温度30.6℃、潜熱184 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
サンプルB
1:パラフィン(相転移温度19.6℃、潜熱165 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
添加剤 Bij56(3wt%)
2:パラフィン(相転移温度30.6℃、潜熱184 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
添加剤 Bij56(3wt%)
サンプルC
1:パラフィン(相転移温度19.6℃、潜熱165 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
添加剤 疎水性のシリカ粒子(3wt%)
2:パラフィン(相転移温度30.6℃、潜熱184 kJ kg-1) ゲル化剤LGBA(3wt%)
添加剤 疎水性のシリカ粒子(3wt%)
サンプルCで添加剤として使用したシリカ粒子は、フュームドシリカ(ワッカー社製)で、疎水性処理が施されたシリカ粒子である。
疎水性のシリカ粒子は、

【0022】
サンプル1はパラフィンにゲル化剤のみを添加して調製したエマルション、サンプル2はパラフィンにゲル化剤と添加剤として界面活性剤(Bij56)を添加して調製したエマルション、サンプル3はパラフィンにゲル化剤と添加剤として疎水性のシリカ粒子を添加して調製したエマルションを用いて調製したものである。いずれも、図1に示すように、相転移材料が異なる2種類のエマルションを調製した後、エマルションを混合し、-1℃で3日間、継続して攪拌した後、-1℃から40℃まで温度上昇させて温度履歴を測定した。

【0023】
添加剤として界面活性剤(Bij56)あるいは疎水性のシリカ粒子を添加したエマルションを調製する方法も、前述したPCM1、PCM2を相転移材料として含むエマルションの調製方法と変わらない。
すなわち、パラフィン60ml(ゲル化剤3wt%、添加剤3wt%含む)と、ゲル化抑制材であるプロパノール30mlと、水110mlとを収容した容器をローター式ホモジナイザーにセットし、回転数15000rpmで60℃、20分間、攪拌処理してエマルションを調製した。2種類の相転移材料についてそれぞれエマルションを調製し、それぞれ200mlを混合した400mlのエマルションについて-1℃で3日間継続して攪拌した後、実験を行った。

【0024】
図4(a)は、サンプルAについて相転移特性を測定した結果を示す。この場合は、前述した実験結果と同様に、相転移に係る温度の停滞領域が見られない。
図4(b)は、サンプルBについての測定結果である。この場合は24℃付近に一つの温度停滞が見られる。このときの停滞温度はパラフィン(PCM1)の相転移温度とパラフィン(PCM2)の相転移温度の中間の温度になっている。
図4(c)は、サンプルCについての測定結果である。この場合は、20℃付近と31℃付近に温度停滞域が見られる。サンプルCで見られる停滞領域の温度は、使用した相転移材料である2種のパラフィンPCM1、PCM2の相転移温度に一致する。この実験結果は、添加剤として疎水性のシリカ粒子を添加することにより、それぞれの相転移材料(ゲルボール)に固有の異なる二段階の温度停滞を備えるエマルションが得られたことを示す。

【0025】
図5は、図4に示した3種のエマルションについて、エマルション中における油交換メカニズムを想定して模式的に示したものである。
図4に示す実験結果から、ゲル化剤のみで添加剤を加えていないものと、添加剤として界面活性剤を添加したものは、混合した後、時間経過するとともにゲルボール同士が合一したことが想定される。
界面活性剤を加えたサンプルBでは、PCM1とPCM2のゲルボールが合一してゲルボール間で油交換が生じ、ゲルボール内部でパラフィンの組成が均等化されること(油交換したこと)により、それぞれのパラフィンの相転移温度の中間の温度で温度停滞域が生じたと説明することができる。サンプルAについて、温度停滞域が明確に表れない理由については不明である。

【0026】
これに対して、添加剤としてシリカ粒子を添加したサンプルについては、シリカ粒子が疎水性であることから、ゲルボールと水との界面にシリカ粒子が集まり、ゲルボールの表面がシリカ粒子によって被覆されたことにより、ゲルボールの表面にシリカ粒子による界面膜が形成され、界面が補強されることで、ゲルボール同士が接触しても油が交換することがなく、ゲルボールが合一となることを抑制したものと考えられる。

【0027】
<疎水性シリカ粒子による作用>
添加剤として加える疎水性シリカ粒子の作用を調べるため、シリカ粒子の添加量を1wt%、3wt%、5wt%、7wt%とした4種類のサンプルを調製し、相転移特性とエマルションに含まれるゲルボールの粒子径を測定する実験を行った。
図6(a)、(b)は、シリカ粒子の濃度によって2つの停滞温度が表れるかどうかを測定した結果、図6(c)はエマルションに含まれるゲルボールの粒子径を示す。

【0028】
図6(a)、(b)に示す実験結果は、シリカ粒子濃度が1wt%と7wt%の場合は、2段階の温度停滞を示さず、シリカ粒子濃度が3wt%と5wt%のときに2段階の温度停滞が表れることを示す。
図6(c)には、エマルションを調製した直後の粒子径と、冷却-加熱を1サイクル経過した後の粒子径を示した。図6(c)は、シリカ粒子の濃度を増加させると、ゲルボールの粒子径が減少することを示す。

【0029】
この実験結果は、添加剤として加えるシリカ粒子の濃度が低い場合には、ゲルボールがシリカ粒子によって完全に被覆されず、シリカ粒子によってゲルボールの界面強度を増強させる作用が十分に作用しなくなることを意味していると考えられる。また、シリカ粒子の濃度が高すぎる場合は、個々のゲルボールの体積が減少し、マクロ的な相転移作用が十分に作用しなくなったものと考えられる。
この実験結果は、疎水性のシリカ粒子を用いて二段階の温度停滞を備えるエマルションを調製する場合に好適なシリカ粒子の濃度範囲が3~5wt%であることを示す。

【0030】
<ゲル化剤による作用>
エマルションの調製に使用するゲル化剤の作用を調べるため、ゲル化剤の濃度を変えたエマルションについて相転移特性とエマルション中のゲルボールの粒子径を測定する実験を行った。
ゲル化剤としてLGBAを使用し、ゲル化剤の濃度を1wt%、3wt%、5wt%、7wt%とした4種類のサンプルを調製して測定した。添加剤のシリカ粒子の濃度は好適範囲である3wt%に設定した。

【0031】
図7(a)はゲル化剤の濃度を変えたサンプルについて相転移特性を測定した結果、図7(b)は停滞温度の測定結果である。
図7(a)、(b)は、ゲル化剤LGBAの濃度を1wt%、3wt%、5wt%、7wt%とした4種類のエマルションのいずれについても、二段階の温度停滞を備えることを示す。また、図7(b)は、ゲル化剤の濃度を増加させると、第1停滞温度(低温側の温度停滞)が若干上昇することを示す。
また、図7(c)から、ゲル化剤の濃度を増加させていくと、ゲルボールの粒子径が大きくなることが分かる。すなわち、ゲル化剤の濃度を増加させると、ゲルボール間の相互作用が強くなり、ゲルボールの凝集体が形成されていき、ゲルボール間の油の交換が生じたものと推定される。
図7に示す測定結果は、ゲルボール間の相互作用を抑制し、所望の二段階の温度停滞を備えるエマルションとして、ゲル化剤LGBAの好適な濃度範囲が1~3wt%であることを示す。

【0032】
<エマルションの熱的安定性>
図8、9に、ゲル化剤としてLGBA、添加剤として疎水性のシリカ粒子を用いて調製したエマルションについて相転移のサイクル特性を調べた結果を示す。
図8(a)は、ゲル化剤LGBA濃度1wt%、シリカ粒子濃度3wt%のサンプル、図8(b)は、LGBA濃度3wt%、シリカ粒子濃度3wt%のサンプルにつての測定結果、図9(a)は、LGBA濃度5wt%、シリカ粒子濃度3wt%のサンプル、図9(b)は、LGBA濃度7wt%、シリカ粒子濃度3wt%のサンプルについての測定結果である。サイクル特性は-1℃と40℃の間で、昇温と降温とを繰り返して温度履歴を測定して得たものである。

【0033】
図8(a)、(b)は、ゲル化剤LBGAの濃度が1wt%のときも3wt%のときも、ともに5サイクル経過後においても二段階の温度停滞を有すること(潜熱を二つ持つこと)を示す。すなわち、いずれのサンプルについても、冷却加熱サイクルを繰り返したときに、二段階の温度停滞を有するという相転移特性が維持されている。
図9(a)、(b)では、冷却加熱サイクルを繰り返すにしたがって、高温側の第2停滞温度の存在が不明確になっていくことが見られる。これは、冷却加熱サイクルを繰り返すことによってゲルボールの凝集が進行していくためと考えられる。LBGAの濃度が5wt%と7wt%のときは、LBGA濃度が1wt%と3wt%のときと比べてエマルションの熱的安定性が低いということができる。

【0034】
図10は、冷却加熱サイクルを繰り返したときのエマルション中のゲルボールの粒子径を測定した結果を示す。LGBA濃度が1wt%、3wt%、5wt%、7wt%のいずれの場合も、冷却加熱サイクルを繰り返していくと、粒子径は大径側にシフトする。この粒子径のシフト量は、LGBA濃度が増加するにしたがって大きくなり、徐々にゲルボールの凝集が進行することを示している。なお、LGBA濃度7wt%のサンプルでは、120μm付近に凝集体によるものと思われる分布が表れている。

【0035】
図11は、冷却加熱サイクル試験を行った際のエマルションの外観写真である。ゲル化剤と疎水性のシリカ粒子を添加剤として加えて調製したエマルションの外観は白色で、容器の下部からエマルション部分が若干浮いた状態にはなったが、冷却加熱サイクル試験を経過しても、エマルション自体の流動性が損なわれることはなかった。
本実験例のエマルションは、添加剤として加えたシリカ粒子がゲルボールの表面を膜状に被覆し、異なる相転移材料からなるゲルボール間の油の交換を抑制することによって、二段階の温度停滞域を備えるエマルションとして利用することができる。




図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10