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明細書 :有用代謝産物の生産方法及び代謝産物生産条件のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-057371 (P2018-057371A)
公開日 平成30年4月12日(2018.4.12)
発明の名称または考案の名称 有用代謝産物の生産方法及び代謝産物生産条件のスクリーニング方法
国際特許分類 C12P   1/06        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
FI C12P 1/06 A
C12N 1/00 B
C12N 1/20 A
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-189266 (P2017-189266)
出願日 平成29年9月29日(2017.9.29)
優先権出願番号 2016192235
優先日 平成28年9月29日(2016.9.29)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】小嶋 政信
【氏名】保坂 毅
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064CA03
4B064CC05
4B064DA02
4B065AA50X
4B065AC14
4B065BA25
4B065BC48
4B065CA44
要約 【課題】暗所で放線菌を培養する場合とは異なる有用代謝産物を得ることが可能な有用代謝産物の生産方法、及び、放線菌に対する光刺激の影響を代謝産物変化や代謝産物量変化に基づいて評価する代謝産物生産条件のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程を含む有用代謝産物の生産方法。また、光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程と、前記放線菌の代謝産物を確認する代謝産物確認工程とをこの順序で含む代謝産物生産条件のスクリーニング方法。光刺激培養工程の前又は後に、暗所で前記放線菌を培養する培養工程を更に含む有用代謝産物の生産方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程を含むことを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有用代謝産物の生産方法において、
前記光刺激培養工程の前又は後に、暗所で前記放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含むことを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有用代謝産物の生産方法において、
前記有用代謝産物は、抗生物質であることを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の有用代謝産物の生産方法において、
前記光刺激培養工程では、前記光刺激の光量子束密度が5μmolm-2-1以上である条件で前記放線菌を培養することを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の有用代謝産物の生産方法において、
前記放線菌は、Streptomyces coelicolor、Streptomyces griseus、Streptomyces parvulusのいずれかであることを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【請求項6】
光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程と、
前記放線菌の代謝産物を確認する代謝産物確認工程とをこの順序で含むことを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項6に記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、
前記光刺激培養工程では、複数のサンプルにそれぞれ異なる波長の光による前記光刺激を付与することを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、
前記光刺激培養工程の前又は後かつ前記代謝産物確認工程の前に、暗所で前記放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含むことを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、
前記代謝産物確認工程では、暗所培養による場合と光刺激を付与する培養による場合での代謝産物の生産量の増減を比較して、放線菌の代謝産物を確認することを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放線菌に関する有用代謝産物の生産方法及び代謝産物生産条件のスクリーニ
ング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放線菌は真正細菌の一種である。放線菌は動植物における病原菌となることもある一方
で、有用な物質を生産することも広く知られている。当該有用な物質の代表例としては、
抗生物質を挙げることができる。なお、本明細書では、放線菌等の微生物が生産(代謝)
する物質のことを「代謝産物」といい、代謝産物の中でも有用な効果や用途があるものの
ことを「有用代謝産物」という。
【0003】
放線菌による有用代謝産物の生産は、通常、培地上で放線菌を培養することにより行わ
れる。このとき、培地の組成を調整する、培地に2種類以上の放線菌を植菌する等の方法
により、同じ放線菌から異なる種類の代謝産物が得られることが広く知られている。また
、放線菌に放射線や紫外線を照射することで当該放線菌の遺伝子を変異させ、通常とは異
なる種類の代謝産物を得る試みも広く行われている。
【0004】
ところで、放線菌のような微生物を培養する際には、暗所で培養することが一般的であ
る。
ここで、菌類の一種である糸状菌については、光刺激を付与しながら培養することで有
用代謝産物を生産する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、放線菌については、光刺激を付与しながら培養することで有用代謝産物
を生産する方法については知られていない。また、放線菌については、光刺激を付与しな
がら培養する工程を含む代謝産物のスクリーニング方法についても知られていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2013/035473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、暗所で放線菌を培養する場合とは異なる有用代謝産物を得ることが可能な有用代謝産物の生産方法を提供することを目的とする。また、本発明は、放線菌に対する光刺激の影響を代謝産物変化や代謝産物量変化に基づいて評価することを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程を含むことを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【0008】
[2]上記[1]に記載の有用代謝産物の生産方法において、前記光刺激培養工程の前又は後に、暗所で前記放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含むことを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【0009】
[3]上記[1]又は[2]に記載の有用代謝産物の生産方法において、前記有用代謝産物は、抗生物質であることを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【0010】
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の有用代謝産物の生産方法において、前記光刺激培養工程では、前記光刺激の光量子束密度が5μmolm-2s-1以上である条件で前記放線菌を培養することを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【0011】
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の有用代謝産物の生産方法において、
前記放線菌は、Streptomyces coelicolor、Streptomyces griseus、Streptomyces parvulusのいずれかであることを特徴とする有用代謝産物の生産方法。
【0012】
[6]光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程と、前記放線菌の代謝産物を確認する代謝産物確認工程とをこの順序で含むことを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【0013】
[7]上記[6]に記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、前記光刺激培養工程では、複数のサンプルにそれぞれ異なる波長の光による前記光刺激を付与することを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【0014】
[8]上記[6]又は[7]に記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、前記光刺激培養工程の前又は後かつ前記代謝産物確認工程の前に、暗所で前記放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含むことを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【0015】
[9]上記[6]~[8]のいずれかに記載の代謝産物生産条件のスクリーニング方法において、前記代謝産物確認工程では、暗所培養による場合と光刺激を付与する培養による場合での代謝産物の生産量の増減を比較して、放線菌の代謝産物を確認することを特徴とする代謝産物生産条件のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有用代謝産物の生産方法によれば、後述する実験例からもわかるように、暗所で放線菌を培養する場合とは異なる有用代謝産物を得ることが可能となる。
【0017】
本発明の有用代謝産物の生産方法によれば、光刺激に用いる光の波長を変えることで、得られる有用代謝産物の種類や量を変えることが可能となる。
【0018】
本発明の代謝産物生産条件のスクリーニング方法によれば、後述する実験例からもわかるように、放線菌に対する光刺激の影響を代謝産物変化や代謝産物量変化に基づいて評価することが可能となる。
【0019】
本発明の代謝産物生産条件のスクリーニング方法によれば、光刺激に用いる光の波長を変えることで、代謝産物の種類や量の波長依存性に関する知見を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実験例1の結果を示す写真である。
【図2】実験例1の結果を示す写真である。
【図3】実験例2の結果を示す写真である。
【図4】実験例2の結果を示す写真である。
【図5】実験例2における菌体の生育の様子を示す写真である。
【図6】実験例3における暗所培養と緑色光刺激を付与して培養して得られたStreptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株由来代謝産物のHPLCクロマトグラムである(検出波長:210nm)。
【図7】実験例3における暗所培養と緑色光刺激を付与して培養して得られたStreptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株由来代謝産物のHPLCクロマトグラムである(検出波長:450nm)。
【図8】実験例4における暗所培養、緑色光刺激、青色光刺激を付与して培養して得られたStreptomyces griseus IFO 13189菌株由来代謝産物のHPLCクロマトグラムである(検出波長:254nm)。
【図9】実験例4における暗所培養、緑色光刺激を付与して培養して得られたStreptomyces parvulus ATCC 12434菌株由来代謝産物のHPLCクロマトグラムである(検出波長:300nm)。
【図10】実験例5における緑色光刺激を付与して培養したStreptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株と、暗所下で継代培養してきたStreptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株を暗所培養した結果を比較した写真である。

【0021】
以下、本発明の有用代謝産物の生産方法及び代謝産物生産条件のスクリーニング方法に
ついて、実施形態に基づいて説明する。
【0022】
[実施形態1]
実施形態1では、有用代謝産物の生産方法について説明する。なお、以下の記載においては、「有用代謝産物の生産方法」を単に「生産方法」と記載することもある。
実施形態1に係る生産方法は、光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程を含む。
実施形態1に係る生産方法は、光刺激培養工程以外の工程を含んでもよい。光刺激培養工程以外の工程としては、例えば、放線菌が光刺激を付与するのに都合のよい状態となるまで暗所で培養を行うプレ培養工程や、放線菌又は放線菌の培養に用いた培地から有用代謝産物を抽出する抽出工程を挙げることができる。例示した抽出工程は、溶媒等を用いる抽出の他に、例えば、菌体の破砕、遠心分離及び乾燥等の精製を含む工程として実施することができる。
【0023】
また、実施形態1に係る生産方法においては、光刺激培養工程の前又は後に、暗所で放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含んでもよい。なお、暗所培養工程を含む場合には、後述する実験例に示すように、生産される有用代謝産物の種類や量が変わる可能性がある。
【0024】
光刺激培養工程及び暗所培養工程は、それぞれ1回ずつ実施することとしてもよいし、それぞれ複数回繰り返し実施することとしてもよい。繰り返し実施する場合の例示としては、数Hz~数百万Hz、数秒、数十秒、数分、数十分、数時間、数十時間、数日又は数十日毎に光刺激培養工程と暗所培養工程とを繰り返す、という方法を挙げることができる。
上記のようにして光刺激による明反応と暗所における暗反応との周期を制御することにより、従来の生育環境にはない光刺激を付与することが可能となる。その結果、生合成経路変化による代謝産物変化や代謝産物量変化を引き起こす可能性が考えられる。
【0025】
実施形態1に係る生産方法に用いる放線菌は、特に限定されない。後述する実験例においては、Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株を用いたが、これは一例にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
光刺激を付与する際の放線菌の状態(生活環のいずれの状態であるか)は、特に限定されない。
【0026】
実施形態1における有用代謝産物には、一次代謝産物及び二次代謝産物の両方が含まれる。
実施形態1における有用代謝産物として想定されるのは、代表的には抗生物質である。本発明はこれに限定されるものではなく、有用代謝産物は抗生物質以外の物質(例えば、生理活性物質、抗がん作用を有する物質、農薬や医薬品の製造原料、高分子分解酵素等)であってもよい。
【0027】
光刺激を付与するにあたっては、可視光を用いる。当該可視光としては、単色光を用いてもよいし、複数の波長を含む光を用いてもよい。
光刺激を付与するために用いる装置は、特に限定されないが、例えば、光源として複数又は単数のLED(発光ダイオード)を備える装置を用いることができる。なお、光刺激を付与するために用いる装置としては、赤色光を発する光源、緑色光を発する光源及び青色光を発する光源を備えるものを好適に用いることができる。
【0028】
なお、紫外線のような波長が短い電磁波を放線菌に照射すると、DNAに損傷や変異が生じ、これに起因して代謝経路が変わる場合があることが知られている。しかし、本発明では可視光(波長の下限が約360~400nm、上限が約760~830nmの電磁波)による光刺激を付与するため、DNAに代謝経路が変わるような損傷等が生じる可能性はほぼないといえる。本発明の生産方法は光刺激の付与による可逆的な代謝経路の変更を利用するものであり、この点でDNAの損傷等による不可逆的な代謝経路の変更を利用する有用代謝産物の生産方法とは全く異なるといえる。
【0029】
本発明は、「放線菌のDNAに直接的損傷を与えない可視光による光刺激を付与することにより、菌体の代謝経路を制御しながら特定の有用代謝産物を生産する新技術」であるともいえる。
【0030】
光刺激の光量子束密度(光刺激の強さ)の下限は、特に限定されないが、十分な光刺激を付与するという観点からは、例えば、5μmolm-2-1以上とすることができ、10μmolm-2-1以上とすることが好ましく、30μmolm-2-1以上とすることが一層好ましく、50μmolm-2s-1以上とすることがより一層好ましい。また、光刺激の光量子束密度の上限は、特に限定されないが、過剰な光刺激による放線菌の変質を抑制するという観点からは、1000μmolm-2-1以下とすることができ、500μmolm-2-1以下とすることが好ましく、200μmolm-2-1以下とすることが一層好ましく、150μmolm-2-1以下とすることがより一層好ましい。
【0031】
光刺激を付与する時間は、特に限定されないが、一回あたり3時間以上であることが好ましい。また、光刺激の付与は連続して行うことが好ましいが、断続的に行ってもよい。
【0032】
[実施形態2]
実施形態2では、代謝産物生産条件のスクリーニング方法について説明する。なお、以下の記載においては、「代謝産物生産条件のスクリーニング方法」を単に「スクリーニング方法」と記載することもある。
【0033】
実施形態2に係るスクリーニング方法は、主に、放線菌が所望の有用代謝産物を生産する光刺激の条件を求めるために、又は、放線菌が新規な又は多量の有用代謝産物を生産する光刺激の条件を求めるために、実施形態1に係る生産方法に先立って行われるものである。このため、光刺激の付与に用いることができる光の波長、光刺激の強さ、光刺激を付与する時間や周期等の条件については実施形態1と同様であるため、再度の記載は省略する。
なお、実施形態2に係るスクリーニング方法は、放線菌や培地の種類に関する条件を求めるために用いることもできる。
【0034】
実施形態2に係るスクリーニング方法は、光刺激を付与しながら放線菌を培養する光刺激培養工程と、放線菌の代謝産物を確認する代謝産物確認工程とをこの順序で含む。
【0035】
実施形態2における光刺激培養工程では、複数のサンプルを準備し、サンプルごとに条件を変えて培養を行うことが好ましい。例としては、複数のサンプルにそれぞれ異なる波長の光による光刺激を付与することを挙げることができる(後述する実験例1参照。)。また、複数のサンプルについて、光刺激に用いる光の条件を揃えた上で、それぞれ異なる時間や周期で光刺激を付与することとしてもよい。さらに、複数のサンプルについて、光刺激の条件を揃えた上で、それぞれ異なる種類の放線菌や培地を用いてもよい(後述する実験例1、2参照。)。
また、光刺激培養工程の前又は後かつ代謝産物確認工程の前に、暗所で放線菌を培養する暗所培養工程をさらに含んでもよい(後述する実験例2参照。)。
【0036】
なお、実施形態2に係るスクリーニング方法においては、前記光刺激培養工程では単色光を用いることが好ましい。このようにすることで、光の波長と代謝産物との関係を明確にすることが可能となる。
【0037】
代謝産物確認工程は、代謝産物の種類や量を確認するための工程であり、その内容については特に制限されない。確認は目視により実施してもよいし(後述する実験例1、2参照。)、機器を用いて実施してもよい。また、確認は、代謝産物を全て抽出してから実施してもよいし、代謝産物を一部のみ抽出してから実施してもよいし、代謝産物を抽出せずに(つまり、代謝産物を菌体や培地に含有させたまま)実施してもよい。
なお、実施形態2における代謝産物には、一次代謝産物及び二次代謝産物の両方が含まれる。
【0038】
[実験例]
以下、実験例として、実際に光刺激を付与しながら放線菌を培養した例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下に記載する実験例(実験例1、2)はいわば具体例であり、本発明は実験例に何ら制約されるものではない。
【0039】
まず、以下の実験例1、2で用いた機器について説明する。
培養のための装置としては、CCS社製のELUX-1096LED植物育成装置を用いた。
光源としては、CCS社製のLED光源パネルISLシリーズ305×302を用いた。
発光強度の測定には、LI-COR社製の光量子計であるLI-250Light-Meterに、同社製の光量子センサーであるLI-190QuantumSensor又はPPSystemInternational社製の単波長センサーである660/730nmSKR110Sensorを取り付けて用いた。
【0040】
次に、実験例1、2におけるサンプルの準備方法について説明する。
実験例1、2における放線菌の培養には、改変R5培地(以下、MR5培地という。)及びGYM培地を用いた。以下、各培地について説明する。なお、培地についての説明においてカッコ内に記載するのは、構成成分の入手元、規格又はブランドである。各試薬は、特記しない限り、ナカライテスク株式会社から入手した特級のものを用いた。なお、「Bacto」は、米国のベクトン・ディッキンソンアンドカンパニーのDifcoブランドの商標である。
【0041】
MR5培地は、グルコース 10g、酵母エキス 5g(Bacto)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸 5.73g、後述する微量成分 2ml、MgCl・6HO 10.12g、KSO 250mg、及び、カサミノ酸 100mg(Bacto)に逆浸透膜処理水1000mlを加え、寒天(Extra Pure Reagent)を2%となるようにさらに加え、内径90mmの汎用ガラスシャーレ内に調製した。MR5培地に用いた微量成分としては、ZnCl 40mg、FeCl・6HO 200mg、CuCl・2HO 10mg、MnCl・4HO 10mg、Na・10HO 10mg、及び、(NHMo24・4HO 10mgに逆浸透膜処理水を1000mlとなるまで加えたものを用いた。調製したMR5培地のpHは7.2であった。
【0042】
GYM培地は、グルコース 4g、乾燥酵母エキスS 4g(日本製薬株式会社)、麦芽エキス 10g、NaCl 2g、NZアミンA 1g(和光純薬工業株式会社)、及び、後述するOB Salt 600μlに逆浸透膜処理水1000mlを加え、寒天(Extra Pure Reagent)を2%となるようにさらに加え、内径90mmの汎用ガラスシャーレ内に調製した。GYM培地に用いたOB Saltとしては、MgSO・7HO 50g、CuSO・5HO 1.6g、FeSO・7HO 2.5g、MnSO・4HO 1.2g、CaCl 5g、及び、ZnSO・7HO 3gに逆浸透膜処理水を1000mlとなるまで加えたものを用いた。調製したGYM培地のpHは7.2であった。
【0043】
上記のようにして調製したMR5培地及びGYM培地は、汎用のオートクレーブを用いて加圧蒸気滅菌した(121℃、15分間)。その後、各培地上に、Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株を植菌し、サンプルを準備した。植菌は、シャーレ内の培地上全面に渡って満遍なく行った。
【0044】
Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株は、原栄養性の野生株であり、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品バイオテクノロジー研究領域生物機能解析ユニットから分譲されたものを用いた。
なお、実験例で用いた上記の放線菌は、赤色の抗生物質であるウンデシルプロジギオシン(下記の式(1)参照。)と、青色の抗生物質であるアクチノロージン(下記の式(2)参照。)とを生産する。これらの物質はそれぞれ色が異なるため、どのような物質が生産されたのかは、目視で識別することが可能である。
【化1】
JP2018057371A_000003t.gif
【化2】
JP2018057371A_000004t.gif

【0045】
[実験例1]
実験例1では、光の波長の影響についての実験を行った。
図1及び図2は、実験例1の結果を示す写真である。図1は実験を行ったサンプルのシャーレを植菌した側から見た写真であり、図2はシャーレを図1とは反対の側から見た写真である。図1及び図2の(a)~(d)はMR5培地を用いたサンプルであり、(e)~(h)はGYM培地を用いたサンプルである。また、図1及び図2の(a),(e)は暗所で培養したサンプルであり、(b),(f)は赤色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルであり、(c),(g)は緑色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルであり、(d),(h)は青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルである。
【0046】
実験例1において、光刺激を付与しながら培養する操作は、サンプルにそれぞれ単色光である赤色光、緑色光又は青色光による光刺激を付与しながら放線菌を培養する方法で行った。光源としては赤色LED(中心波長660nm)、緑色LED(中心波長525nm)及び青色LED(中心波長470nm)を用いた。光刺激の強さは全て共通で、100μmolm-2-1とした。それぞれのサンプルは、光刺激を付与しながら、30℃の温度条件で12日間培養した。
また、比較用のサンプルも用意し、30℃の温度条件で12日間、暗所で培養した。
【0047】
培養したサンプルについて、目視観察を行った。
まず、MR5培地を用いた場合の結果について記載する。暗所で培養したサンプル(a)は全体的に赤色となったことから、ウンデシルプロジギオシンが生産されたことが確認できた。赤色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(b)は赤色に黄橙色が混じったことから、ウンデシルプロジギオシンに加えて他の代謝産物が生産されたことが推定されるが、他の代謝産物の存在を具体的に確認することはできなかった。緑色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(c)は青色と黄橙色とが混じりあったような色となったことから、ウンデシルプロジギオシンの生産は抑制され、アクチノロージンの生産が促進されたことが確認できた。青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(d)は緑色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(c)よりも青色の部分が広がり、青色の色合いが鮮やかになったことから、緑色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(c)よりもさらに顕著にアクチノロージンの生産が促進されたことが確認できた。
【0048】
次に、GYM培地を用いた場合の結果について記載する。GYM培地を用いた場合には、暗所で培養したサンプル(e)、赤色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(f)、緑色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(g)については、全体的に黄橙色となった。また、青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(h)については透明感のある薄い黄橙色となったが、目視観察では暗所培養による場合と光刺激を付与した場合とで生産される代謝産物の差異については明確には判断できなかった。ただし、GYM培地を用いた場合でも、培地の色の変化から、光刺激を付与した培養によって暗所培養とは異なる新規代謝産物が生産された可能性も考えられる。
【0049】
なお、MR5培地を用いた場合とGYM培地を用いた場合とで共通の傾向として、図1及び図2に示すように、光刺激を付与しながら培養した場合には、培養後、菌体の塊が培地上に発生することが確認できた。当該菌体の塊は、光が短波長側になるほど大きくなる傾向があることも確認できた。
【0050】
以上の実験例1により、光刺激を付与しながら放線菌を培養することにより、暗所で放線菌を培養する場合とは異なる有用代謝産物を得ることが可能となることが確認できた。つまり、光刺激が放線菌の代謝経路に顕著な影響を及ぼすことが確認できた。また、生産される代謝産物は、培地の組成に依存することも確認できた。
また、実験例1により、光刺激に用いる光の波長を変えることで、得られる有用代謝産物の種類や量を変えることも可能となることが確認できた。
【0051】
さらに、実験例1により、放線菌に対する光刺激の影響を代謝産物変化や代謝産物量変化に基づいて評価することが可能であることも確認できた。
また、実験例1により、光刺激に用いる光の波長を変えることで、代謝産物の種類や量の波長依存性に関する知見を得ることも可能となることが確認できた。
【0052】
[実験例2]
実験例2では、暗所での培養と光刺激を付与しながらの培養との順番が異なる場合の影響について実験した。
図3及び図4は、実験例2の結果を示す写真である。図3は実験を行ったサンプルのシャーレを植菌した側から見た写真であり、図4はシャーレを図3とは反対の側から見た写真である。図3及び図4の(i)~(l)はMR5培地を用いたサンプルであり、(m)~(p)はGYM培地を用いたサンプルである。また、図3及び図4の(i),(m)は暗所で培養したサンプルであり、(j),(n)は暗所で培養した後に青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルであり、(k),(o)は青色光による光刺激を付与しながら培養した後に暗所で培養したサンプルであり、(l),(p)は青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルである。
【0053】
図5は、実験例2における菌体の生育の様子を示す写真である。図5は、実体顕微鏡により得た写真である。図5の上段は低倍率で観察したときの写真であり、下段は高倍率で観察したときの写真である。なお、図5の写真は図面に記載する都合上、観察時の倍率と記載上の倍率とが異なってしまっているが、上段は倍率6.3倍で撮影したものであり、下段は倍率40倍で撮影したものである。また、図5に記載のサンプルは全てMR5培地を用いたサンプルであり、左の列は暗所で培養したサンプル(i)の写真であり、中央の列は青色光による光刺激を付与しながら培養した後に暗所で培養したサンプル(k)の写真であり、右の列は青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(l)の写真である。
【0054】
実験例2においては、あるサンプルについては5日間暗所で培養し、その後、7日間青色光による光刺激を付与しながら培養した。また、他のサンプルについては5日間青色光による光刺激を付与しながら培養し、その後、7日間暗所で培養した。温度条件及び光刺激の強さについては、実験例1の場合と同様とした。
また、比較用として、12日間暗所で培養したサンプル及び12日間青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプルも用意した。
【0055】
培養したサンプルについて、目視観察を行った。
まず、MR5培地を用いた場合の結果について記載する。暗所で培養した後に青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(j)は薄めの黄橙色となったことから、ウンデシルプロジギオシンもアクチノロージンもほとんど生産されなかったと推定される。一方、青色光による光刺激を付与しながら培養した後に暗所で培養したサンプル(k)は全体的に青色となったことから、青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(l)の場合と同様にアクチノロージンが顕著に生産されたことが確認できた。ただし、図5に示すように、サンプル(k)とサンプル(l)とでは、菌体の生長及び形態形成に違いがみられた。
【0056】
次に、GYM培地を用いた場合の結果について記載する。GYM培地を用いた場合には、暗所で培養した後に青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(n)は全体的に黄橙色となり、暗所で培養したサンプル(m)と似た傾向を示した。一方、青色光による光刺激を付与しながら培養した後に暗所で培養したサンプル(o)は透明感のある薄い黄橙色となり、青色光による光刺激を付与しながら培養したサンプル(p)と似た傾向を示した。
【0057】
以上の実験例2により、暗所での培養と光刺激を付与しながらの培養との順番が異なる場合には、代謝産物の種類や量が変わる場合があることが確認できた。
【0058】
[実験例3]
実験例1、2は、放線菌に緑色光あるいは青色光の光刺激を付与して培養すると、暗所培養では見られない代謝産物が生成されることを示唆する。以下では、緑色光刺激によって生成された代謝産物についてHPLC分析を行った結果について説明する。
試験に使用した放線菌は、Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株である。この菌株をMR5培地に移植し、30℃で12日間、緑色光による光刺激を付与して培養した。緑色光による光刺激は実験例1と同様で、中心波長525nmの緑色LEDを光源に使用した。
HPLC分析には、株式会社島津製作所製 Prominence HPLC system(検出器:SPD-M20A フォトダイオードアレイ検出器)を使用した。
カラム:InertSustain AQ-C18 (粒子径5μm, 径4.6× 長さ250mm)
カラムオーブン温度 : 35℃
移動相:
0~5分 20%アセトニトリルで保持
5~20分 20→100%アセトニトリル直線的濃度勾配法で溶出
20~30分 100%アセトニトリルで溶出
流速:1.0mL/min.
注入サンプル:培養物のメタノール抽出物(0.1mL相当分)
【0059】
図6は検出波長210nmにおけるクロマトグラム、図7は検出波長450nmにおけるクロマトグラムである。図6、図7で緑色光とあるのは、緑色光による光刺激を付与して得られたサンプルについての測定結果、暗所とあるのは暗所で培養して得られたサンプルについての測定結果である。
図6の測定結果からは、緑色光刺激と暗射培養のサンプルについて、A~Hの8個の成分の存在が確認された。これらのA~Hの成分について、緑色光刺激による培養と暗所培養とのピーク面積の解析値を表1に示す。ND: Not Detected、NA: Not Availableである。
【表1】
JP2018057371A_000005t.gif

【0060】
また、図7は、暗所培養のサンプルに特徴的な成分Iが存在することを示す。表2に、成分Iの暗所培養と緑色光刺激の場合のピーク面積の解析値を示す。図7の450nmのピークは暗所培養によって特徴的に表れる赤色抗生物質(ウンデシルプロジギオシン)に由来する吸収と考えられる。
【表2】
JP2018057371A_000006t.gif

【0061】
図6、7に示す測定結果及び表1、表2に示す解析結果は、培養によって生成された代謝産物のうち、成分A、B、C、D、Eについては、緑色光刺激と暗所培養のサンプルに共通に存在する一方、成分F、G、Hについては緑色光刺激による培養サンプルのみで生成される成分であり、成分Iについては暗所培養でのみ生成される成分であることを示す。
また、緑色光刺激と暗所培養とで共通にみられる成分A~Eのうち、成分A、D、Eについては緑色光刺激による培養で、暗所培養と比較して顕著(2倍~16倍)に増大することが分かる。
【0062】
この実験結果は、緑色光刺激による培養方法によれば、暗所培養下では生合成されない複数の代謝産物が存在することを示しており、これらの代謝産物中には従来知られていない新たな抗生物質等の有用代謝産物が存在する可能性があることを示す。
また、緑色光刺激による培養方法では、暗所培養によって特徴的に生成される赤色抗生物質が生成されないことから、緑色光刺激による培養によって、暗所培養とは異なる作用によって新規な代謝産物を得ることができる可能性を示唆する。
また、緑色光刺激と暗所培養とで共通に生成される成分のうち、特定の成分については、暗所培養と比べて緑色光刺激による培養方法が有効であることを示唆する。
【0063】
[実験例4]
【0064】
緑色光刺激による培養方法を利用することで、暗所培養による場合とは異なる代謝産物が生成される実験について、実験例3で用いた放線菌Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株とは異なる放線菌を用いて確認した。
実験に使用した放線菌はStreptomyces griseus IFO 13189菌株と、Streptomyces parvulus ATCC 12434菌株である。
図8、9ともに、暗所培養、緑色光刺激を付与した培養、青色光刺激を付与した培養を行った各サンプルについて、HPLC分析により代謝産物を検出する測定を行った。HPLC分析による分析条件は実験例3と同様である。
各測定結果のクロマトグラフ中に、暗所培養、緑色光刺激、青色光刺激による場合の培養日数を示した。培養に使用した培地は、前述したMR5培地、培養条件は30℃で3日~12日間である。緑色光刺激には、中心波長525nmの緑色LEDを光源に使用し、青色光刺激には中心波長470nmの青色LED光源を使用した。
【0065】
図8は、Streptomyces griseus IFO 13189菌株についての検出波長254nmにおけるクロマトグラフを示す。
この測定結果においてA成分のピーク面積の解析値についてみると、23514(暗所3日間)、32811(暗所8日間)、29771(暗所12日間)、147932(緑色光3日間)、143356(緑色光8日間)、121538(緑色光12日間)、247549(青緑色光12日間)であり、A成分については、緑色光刺激により。暗所培養の約4倍以上、青色光刺激によれば約8倍以上に増大している。
また、暗所培養によって認められている成分で、緑色光刺激、青色光刺激培養ではピークが小さくなったり検出されなくなったりする成分がある一方で、暗所培養では検出されない成分が緑色光刺激、青色光刺激培養では検出されていることから、光刺激により代謝産物量の増減変動が誘導されていることがわかる。
【0066】
図9は、Streptomyces parvulus ATCC 12434菌株を用いた場合であり、検出波長300nmにおけるクロマトグラフを示している。この測定結果では、緑色光刺激による成分Eと成分Fの増減変動が特徴的である。
成分Eについてのピーク面積の解析値は、ND(緑色光3日間)、193981(緑色光8日間)、605329(緑色光12日間)であり、暗所培養ではまったく検出されていない成分が、緑色光刺激による培養期間が長くなるにしたがって、成分強度が顕著に増大している。
また、成分Fについてみると、ピーク面積の解析値が61754(暗所3日間)、ND(暗所8日間)、ND(暗所12日間)、902982(緑色光3日間)、368046(緑色光8日間)、824245(緑色光12日間)であり、緑色光刺激を開始した初期において成分Fの強度が特徴的に増大するという結果が得られた。
図8に示す測定結果も、暗所培養と緑色光刺激を付与する培養とでは、生成される代謝産物が明らかに相異することを示している。
【0067】
図8、9に示す実験結果は、放線菌に光刺激を付与して培養する方法が、放線菌を暗所培養して得られる代謝産物とは異なる代謝産物生産を誘起する方法として有効であることを示す。図7、8、9では、暗所培養と光刺激を付与した培養によって得られる代謝産物量の増減が比較的明瞭に確認できる検出波長でのクロマトグラムを示したものである。放線菌に光刺激を付与することで得られる代謝産物はきわめて多種に渡ること、また光刺激による作用がきわめて多様な作用として現れることから、放線菌に光刺激を付与して培養する方法は、放線菌を用いて新たな有用代謝産物を見出す方法として極めて有効な新手法であることを示す実験結果である。
【0068】
本発明に関わるスクリーニング方法を利用すれば、光刺激を付与した培養方法によって生成される代謝産物の生成量の増減を明確に検知することが可能であり、放線菌の機能を見出す新手段として極めて有効に利用することができる。すなわち、光刺激により代謝産物量が増減する作用は、光受容体による光シグナルの受信-光シグナルの伝達-遺伝子発現(mRNA発現量の増減)-酵素・タンパク質発現量の増減-代謝産物量の増減といった機序にしたがって誘導される。したがって、光刺激により増減する代謝産物の構造が決定されれば、その代謝産物を生合成する際に作用する重要な酵素・タンパク質触媒が推定できる。その触媒をコードする遺伝子の発現量が光刺激で増減していれば、光刺激の作用点を明確にすることができる。従って、特定の有用代謝産物を生産する場合において、上述の方法により特定した重要な酵素・タンパク質触媒の発現量を、他の手法により増加させることができれば、光刺激を与えなくても生産できることになり、本手法を大変有効に利用できる。
【0069】
[実験例5]
放線菌に可視光による光刺激を付与することで放線菌のDNAに損傷や変異が生じないことを確認するため、緑色光による光刺激を付与して培養した放線菌と、暗所下で継代培養してきた放線菌を同一の培地に並べて移植し、継代培養の条件下で培養して生長変化を目視観察する実験を行った。
実験に使用した放線菌は、Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株であり、培地にはGYM培地を使用した。光刺激に用いた緑色光は、実験例1と同様に、緑色LED、中心波長525nmのものである。
【0070】
図10Aは、GYM培地に、Streptomyces coelicolor A3(2) 1147菌株を植菌し、緑色光刺激を10日間付与して培養した後の状態のシャーレを植菌した側から見た状態である。図中の円形部分は、GYM培地に移植するために菌を取り出した部位を示す。
図10B、Cは、緑色光刺激を付与して培養した放線菌と、いままで継代培養してきた放線菌をGYM培地に移植し、30℃、3日間、継代培養した状態を示す。図10Bはシャーレを表側から見た状態、図10はシャーレを裏側から見た状態である。図中の数字1は、これまで継代培養してきた放線菌、数字2は緑色光刺激を付与した放線菌である。
【0071】
図10に示す実験結果は、緑色光の光刺激による処理を施した放線菌と、いままで継代培養してきた放線菌の生長状態が、シャーレの表側からの目視によっても裏側からの目視によっても、まったく変わらないことを示す。
この実験結果は、緑色光刺激(可視光刺激)によって放線菌のDNAに損傷や変異が生じることはないことを示しており、本発明方法が光刺激の付与による可逆的な代謝経路の制御を利用して有用代謝産物を生産する方法であることを明示するものである。
【0072】
以上の実験例から、本発明が「放線菌のDNAに直接的損傷を与えない可視光による光刺激を付与することにより、菌体の代謝経路を制御しながら特定の有用代謝産物を生産する新技術」として産業上極めて有益であることが明らかになった。

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9