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明細書 :シクロデキストリン繊維集合体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-052380 (P2019-052380A)
公開日 平成31年4月4日(2019.4.4)
発明の名称または考案の名称 シクロデキストリン繊維集合体及びその製造方法
国際特許分類 D04H   1/728       (2012.01)
D04H   1/4266      (2012.01)
D01D   5/04        (2006.01)
FI D04H 1/728
D04H 1/4266
D01D 5/04
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-175313 (P2017-175313)
出願日 平成29年9月13日(2017.9.13)
発明者または考案者 【氏名】吉田 裕安材
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 4L045
4L047
Fターム 4L045AA01
4L045BA34
4L045DA02
4L047AA11
4L047AB03
4L047AB08
4L047BA09
4L047CB10
要約 【課題】 シクロデキストリンが備える化合物を包接する機能を有効かつ複合的に備えるシクロデキストリン繊維集合体を提供する。
【解決手段】 シクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体であって、前記シクロデキストリンからなるファイバが、グルコースの数が異なる複数種のシクロデキストリンからなることを特徴とする。
前記シクロデキストリンからなるファイバが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくともいずれか2種からなることを特徴とする。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
シクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体であって、
前記シクロデキストリンからなるファイバが、グルコースの数が異なる複数種のシクロデキストリンからなることを特徴とするシクロデキストリン繊維集合体。
【請求項2】
前記シクロデキストリンからなるファイバが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくともいずれか2種からなることを特徴とする請求項1記載のシクロデキストリン繊維集合体。
【請求項3】
ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒として複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程と、
前記複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液をエレクトロスピニング法により射出し、複数種のシクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体を作製する工程と、
を備えることを特徴とするシクロデキストリン繊維集合体の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液を調製する工程において、
複数種のシクロデキストリンについて、各々のシクロデキストリンをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した溶液を個別に調製する工程と、
個別に調製したシクロデキストリンの溶液を所定の混合比で混合することにより、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程と、
を備えることを特徴とする請求項3記載のシクロデキストリン繊維集合体の製造方法。
【請求項5】
前記複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程において、
α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくともいずれか2種を含む混合溶液を調製することを特徴とする請求項3または4記載のシクロデキストリン繊維集合体の製造方法。





発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はシクロデキストリン繊維集合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融紡糸、湿式紡糸、エレクトロスピニングといった紡糸法においては、一般的に、分子間相互作用や分子の絡み合いが大きな高分子が利用されてきた。これに対し、近年、低分子であるリン脂質(レシチン)を、エレクトロスピニングを用いることでファイバ化が可能であるという報告がなされた。この報告では、溶液中で形成されるワーム状ミセルが、高分子のように絡み合うことでファイバ形成を可能にしていると説明しており、臨界ミセル濃度(35 wt%)以上に濃度を設定することでファイバ形成が可能であると報告している。この報告により、比較的弱い相互作用しか持たない低分子であっても、紡糸条件を適切に制御することでファイバ化が可能であることが明らかとなり、低分子化合物を用いたエレクトロスピニングによりファイバ作製に成功した報告が多数なされるようになってきた。
【0003】
また、用いられる化合物も多様化してきているが、中でも、シクロデキストリン(CD)によるエレクトロスピニングは多様な分野で利用されてきたシクロデキストリン自体の学術的・産業的価値のために、研究が活発化している。トルコのUyarらは、2011年に世界で初めて全メチル化シクロデキストリンがエレクトロスピニングによりナノファイバ化できることを報告しており(非特許文献2)、その後2013年に未修飾シクロデキストリンのエレクトロスピニングに成功している(非特許文献3、4)。
また、2013年には韓国の研究グループ(非特許文献5)、2014年に吉田らが同様の現象を報告している(非特許文献6)。
これらの報告における大きな違いは紡糸時に用いる溶媒であり、揮発性や誘電性、シクロデキストリンの溶解度などが紡糸に多大な影響を与えることが知られている。
【0004】
シクロデキストリンは、複数のD-グルコースがα-1,4-グリコシド結合により結合した環状オリゴ糖である。D-グルコースが6、7、8単位のものはそれぞれα-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)と呼ばれる。それぞれの環の内径は4.7-5.3、6.0-6.5、7.5-8.3オングストロームであり、第一級水酸基側(Primary face)の内径の方が狭く,第二級水酸基(Secondary face)の内径の方がやや広い構造となっている。
また、異なるのは環のサイズだけでなく、溶媒への溶解性もかなり異なっている。例えば、水への溶解度では、α-CDが14.5 g/100mL、β-CDが1.85 g/100mL、γ-CD が23.2 g/100mLと、β-CDが特に低い。これは、環の水素結合や立体構造に起因していると言われている。
【0005】
シクロデキストリンのその環の内部はCH基に覆われているため疎水性を示すのに対し、環の外部は多数の水酸基に由来した親水性を示す。この特徴によりシクロデキストリンは、疎水性相互作用を利用して環内部に分子を包接させることが可能であり、包接した分子の溶解度の向上、酸化や光分解、熱などに対する安定性の向上、薬や香りの徐放のコントロールなどに利用され、食品、薬品、化粧品や環境保護など様々な用途に用いられてきている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】T. E. Long et al., Science 2006, 311, 353-355.
【非特許文献2】A. Celebioqlu, T. Uyar, Chem. Commun. 2010, 46, 6903.
【非特許文献3】T. Uyar, A. Celebioqlu, J. Colloid Interface Sci. 2013, 404, 1.
【非特許文献4】T. Uyar, A. Celebioqlu, RSC Adv. 2013, 3, 22891.
【非特許文献5】Y. Ahn, Y. Kang, M. Ku, Y. Yang, S. Jung, H. Kim, RSC Adv. 2013, 3, 14983.
【非特許文献6】T. Kida, S. Sato, H. Yoshida, A. Teragaki, M. Akashi, Chem. Commun. 2014, 50, 14245.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、シクロデキストリンは、環内部に分子を包接させることができるという作用を備えることから、現在では代表的な包接分子として認知されるに至っている。また、シクロデキストリンを用いてエレクトロスピニング法によりファイバ化することが可能であり、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒とすることで、エレクトロスピニング法によりシクロデキストリンの不織布を作製した報告がなされている(非特許文献6)。
本発明は、代表的な環状オリゴ糖であるシクロデキストリンの包接作用を効果的に利用することができ、様々な用途への利用を可能にするシクロデキストリンからなるファイバを含む新規な構成を備えるシクロデキストリン繊維集合体及びその好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体はシクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体であって、前記シクロデキストリンからなるファイバが、グルコースの数が異なる複数種のシクロデキストリンからなることを特徴とする。
なお、本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体は、シクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体であり、繊維集合体はシクロデキストリンからなるファイバのみから構成されているものであってもよいし、シクロデキストリンからなるファイバ以外の素材からなるファイバを併せ含むものであってもよい。
繊維集合体としては、不織布等のシート状に形成されたものであってもよいし、ブロック状にファイバが集合した形態のものであってもよく、その形態や大きさが限定されるものではない。
【0009】
シクロデキストリンからなるファイバとしては、例として、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくともいずれか2種からなるものにより構成することができる。
なお、繊維集合体に含まれるシクロデキストリンからなるファイバは、α-CD、β-CD、γ-CDに限らず、任意のグルコース数からなるシクロデキストリンを組み合わせて(混合して)なるものであり、異種のシクロデキストリンを適宜組み合わせて構成され、シクロデキストリンの組み合わせが限定されるものではない。たとえば、シクロアミロースはグルコースが22~50量体の混合物で、分子を包接する機能を備えている。シクロアミロースのように、グルコースの量体数が異なるものが混在しているものや、22量体、26量体といった数十量体のグルコースを備えるものもシクロデキストリンに含まれ、これらを用いてシクロデキストリンからなるファイバを構成することができる。
【0010】
また、本発明に係るシクロデキストリン不織布の製造方法は、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒として複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程と、前記複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液をエレクトロスピニング法により射出し、複数種のシクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体を作製する工程と、を備えることを特徴とする。なお、複数種のシクロデキストリンからなるファイバとは、エレクトロスピニング法により射出して形成された1本のファイバそのものに複数種のシクロデキストリンが混在して存在するファイバとして構成されているという意味である。
エレクトロスピニング法により作製する繊維集合体は、上述したように、不織布のようなシート状のものであってもよいし、ファイバが絡み合ってブロック状になったものであってもよく、その形態および大きさ、疎密度等が限定されるものではない。
また、繊維集合体はシクロデキストリンからなるファイバのみからなるものであってもよいし、シクロデキストリン以外の他の素材からなるファイバが混在されているものであってもよい。シクロデキストリン以外の素材からなるファイバが混在する繊維集合体は、複数のノズルを備えるエレクトロスピニング装置を使用し、一つのノズルからはシクロデキストリンの混合溶液を射出し、他のノズルからは高分子溶液を射出するといった方法によって作製することができる。
【0011】
エレクトロスピニング法を利用してファイバを形成する際には、一般的に、ノズルとコレクター間の印加電圧、ノズルとコレクターとの離間間隔、溶液供給速度をパラメータとして制御することに加えて、溶液の誘電率や電気伝導性を変えることによって、ファイバ径やファイバ構造といったファイバの特性を制御することができる。シクロデキストリン混合溶液を用いてエレクトロスピニング法により繊維集合体を作製する場合も、これらのパラメータを適宜設定することによって、適宜望みの性状のファイバを作製成功することができる。
【0012】
また、前記混合溶液を調製する工程において、複数種のシクロデキストリンについて、各々のシクロデキストリンをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した溶液を個別に調製する工程と、個別に調製したシクロデキストリンの溶液を所定の混合比で混合することにより、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程と、を備えることにより、シクロデキストリンの混合溶液を構成する各々のシクロデキストリンの混合比を容易に設定することができ、繊維集合体に含まれるシクロデキストリンの混合比を任意に設定することが可能になる。シクロデキストリン繊維集合体の用途によっては、繊維集合体に含まれるシクロデキストリンの種類を選択したり、シクロデキストリンの混合比率を選択する必要がある。このような目的に、本発明方法は有用である。
また、前記複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程において、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくともいずれか2種を含む混合溶液を調製することにより、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの少なくとも2種を含む繊維集合体を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体は、複数種のシクロデキストリンからなるファイバを含むものとして構成されるから、シクロデキストリンが備える分子を包接する機能が、単一種に限らず種々の分子(化合物)を選択的に包接する機能を備えるものとして提供され、分子(化合物)を吸着等する機能を備える用途として多様に利用することができる。また、本発明に係るシクロデキストリン不織布の製造方法によれば、分子(化合物)を吸着等する多様な機能を備える繊維集合体を、容易にかつ確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】混合比α-CD:β-CD=80:20の混合溶液を使用し、エレクトロスピニングにより得られた不織布のSEM像と、不織布を構成するファイバの直径分布を示すグラフである。
【図2】混合比α-CD:β-CD=60:40の混合溶液を使用し、エレクトロスピニングにより得られた不織布のSEM像と、不織布を構成するファイバの直径分布を示すグラフである。
【図3】混合比α-CD:β-CD=40:60の混合溶液を使用し、エレクトロスピニングにより得られた不織布のSEM像と、不織布を構成するファイバの直径分布を示すグラフである。
【図4】混合比α-CD:β-CD=20:80の混合溶液を使用し、エレクトロスピニングにより得られた不織布のSEM像と、不織布を構成するファイバの直径分布を示すグラフである。
【図5】α-CDとβ-CDの異なる混合比のサンプルについて測定して得られたXRDパターンである。
【図6】α-CDとγ-CDの混合比率をα-CD:γ-CD=100:0、80:20、60:40、40:60、20:80、0:100とした溶液を用いて作製した不織布のSEM像である。
【図7】(a)α-CD、β-CD、γ-CDの混合溶液を用いて作製した不織布のSEM像、(b)得られた不織布についてのXRDパターンである。
【図8】(a)α-CD/HFIPとγ-CD/pyrene/HFIPを別個のノズルから射出して得られた不織布についての共焦点蛍光観察像、(b)混合溶液(α-CD/γ-CD/pyrene/HFIP)を射出して得られた不織布についての共焦点蛍光観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体を構成するシクロデキストリンからなるファイバはエレクトロスピニング法を利用して作製する。エレクトロスピニング法を利用してファイバを作製する従来方法は、分子間相互作用や分子の絡み合いが大きな高分子を使用する方法が常法である。したがって、エレクトロスピニング法にシクロデキストリンのような低分子化合物を使用する方法は、きわめて特異な方法ということができる。シクロデキストリンは自己集合力が弱く、ミセルのような会合体を形成しないため、ファイバ形成が困難であるという理由もある。
本発明は、エレクトロスピニング法と非常に相性の良いヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が、シクロデキストリンの良溶媒として作用することに基づいてなされたものである。

【0016】
下記にシクロデキストリンの化学構造を示す。
【化1】
JP2019052380A_000003t.gif

【0017】
上図でn=1の場合、すなわち構成するグルコースの数が6個のものがα-シクロデキストリン(α-CD)、n=2の場合、すなわりグルコースの数が7個のものがβ-シクロデキストリン(β-CD)、n=3、グルコースの数が8個のものがγ-シクロデキストリン(γ-CD)と称される。
シクロデキストリンは、これら3種のα-CD、β-CD、γ-CDに限られるものではなく、グルコースの数が4、5及び9以上のものも存在し、シクロアミロースのように、α-CD、β-CD、γ-CD以外のシクロデキストリンも化学品として提供されている。

【0018】
前述したように、シクロデキストリンの環状部位の径は、シクロデキストリンを構成するグルコースの数によって異なり、グルコースの数が多くなるにしたがって径寸法は大きくなる。上記α-CD、β-CD、γ-CDについてみると、最小径は0.47nm(α-CD)最大径は0.83nm(γ-CD)である。
このようにシクロデキストリンを構成するグルコースの数と、シクロデキストリンの環状部位の径との間には相関関係があるから、シクロデキストリンに包接しようとする分子の大きさに合わせてグルコースの数を設定したシクロデキストリンを用意すれば、目的とする分子を選択的に包接することができるシクロデキストリンを設計することができる。

【0019】
(シクロデキストリン繊維集合体の製造方法)
本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体の製造方法においては、複数種のシクロデキストリンを含むシクロデキストリンの混合溶液を調製し、この混合溶液を用いてエレクトロスピニング法により、複数種のシクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体、たとえば不織布を作製する。
本発明方法では、下記の1)、および2)の工程を備える。
1)ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒として複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程
2)複数種のシクロデキストリンの混合溶液をエレクトロスピニング法により射出し、複数種のシクロデキストリンからなるファイバを含む繊維集合体を作製する工程

【0020】
複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する工程においては、複数種のシクロデキストリンについて、各々のシクロデキストリンをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した溶液をあらかじめ個別に調製しておき、個別に調製したシクロデキストリンの溶液を所定の混合比で混合する方法によって、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製する方法を利用することができる。
混合溶液に混在させるシクロデキストリンの種類はとくに限定されるものではなく、個別に用意したそれぞれのシクロデキストリンの溶液を混合することによって、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製することができる。

【0021】
混合溶液を調製する際におけるシクロデキストリンの溶液の混合比率は任意に設定することが可能であり、たとえば2種のシクロデキストリンの溶液を1:1で混合する、2:1で混合するといったように、任意に混合比率を選択することができる。すなわち、混合溶液に含まれる個々のシクロデキストリンの混合比は任意に設定される。
異種のシクロデキストリンの溶液を混合して混合溶液を調製する方法は、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液におけるシクロデキストリンの混合比率を任意に設定する操作としてきわめて容易であるという利点がある。

【0022】
なお、混合溶液中における全シクロデキストリンの濃度はとくに限定されるものではない。ただし、シクロデキストリンの全濃度(溶媒中におけるシクロデキストリン全量の濃度)が低すぎたり、高すぎたりするとファイバ化が困難になる場合があるから、混合溶液中のシクロデキストリンの濃度については適宜設定する必要がある。

【0023】
シクロデキストリンの混合溶液を使用し、エレクトロスピニング法により不織布等の繊維集合体を作製する方法は、通常のエレクトロスピニング法を利用して繊維集合体を作製する方法によればよい。
エレクトロスピニング法によれば、ナノ-マイクロメートル径のファイバを迅速かつ容易に作製することができる。
エレクトロスピニングにおける紡糸では、非常に広いパラメータの設定が可能であり、温度や湿度などの「紡糸環境」や溶液の濃度や粘度、導電性といった「溶液特性」だけでなく、印加電圧や極板間距離、射出速度などの「紡糸条件」を制御することによりファイバ化する。
シクロデキストリン溶液を用いてエレクトロスピニングでファイバ化する際には、シクロデキストリンの溶液の粘度を適当に設定する必要がある。本発明者らの実験によるとシクロデキストリン溶液の粘度が15mPa・sec程度以上であれば、ファイバ化することができ、均一な不織布が得られることが分かっている。

【0024】
(実験例1)
繊維集合体として、α-シクロデキストリン(α-CD)とβ-シクロデキストリン(β-CD)とを含むファイバからなる不織布を作製した例について説明する。
まず、α-CD 2.26gあるいはβ-CD 2.26gにHFIP 10mLを加え、室温で一晩撹拌することで、12.5 wt% α-CDあるいは12.5 wt% β-CDのストック溶液を調製した。
次いで、これら2つの溶液を体積比4:1、3:2、2:3、1:4で混合したシクロデキストリン溶液を下記の条件で紡糸した。
α-CD:β-CD=80:20 印加電圧20kV、射出速度2.36mL/h、電極間距離10cm
α-CD:β-CD=60:40 印加電圧20kV、射出速度2.36mL/h、電極間距離10cm
α-CD:β-CD=40:60 印加電圧20kV、射出速度1.77mL/h、電極間距離10cm
α-CD:β-CD=20:80 印加電圧30kV、射出速度1.77mL/h、電極間距離10cm
なお、シクロデキストリン、HFIPはいずれも化成品として購入したものを使用した。

【0025】
図1~4はエレクトロスピニング法を利用して得られた不織布のSEM像と不織布を構成するファイバの直径の分布を示すグラフである。
図1は、混合比α-CD:β-CD=80:20とした混合溶液を使用した場合、図2は、混合比α-CD:β-CD=60:40とした場合、図3は、混合比α-CD:β-CD=40:60とした混合、図4は、混合比α-CD:β-CD=20:80とした場合である。

【0026】
図1~4を見ると、α-CDとβ-CDの混合比をいずれに設定した場合でも、α-CDとβ-CDを混合した混合溶液を使用してエレクトロスピニングする方法により、シクロデキストリンがファイバ化され不織布が形成されたことが分かる。この実験結果は、複数種のシクロデキストリンを含む混合溶液を調製してエレクトロスピニングする方法を利用することにより、不織布を形成することができることを示している。
図1~4に、ファイバの平均直径と標準偏差を示した。α-CDとβ-CDの混合比が異なる4種のサンプルについて、平均直径と標準偏差の値についいては大きな差異は見られない。

【0027】
図5は、上述した4種のサンプルについて測定したXRDパターンを示す。図5では、参考として、α-CDとβ-CDの混合比を100:0、0:100としたサンプルについて測定したXRDパターンについても併せて示した。
図5に示す測定結果は、α-CDとβ-CDの混合比を80:20、60:40、40:60、20:80とした4種のサンプルのいずれについても、アモルファスの形態として構成されていることを示している。
また、α-CDのみからなる不織布とβ-CDのみからなる不織布に表れているピークの位置に関して、α-CDとβ-CDを混合したサンプルにおいては殆どピークが消失している。この結果は、混合シクロデキストリン繊維の内部は、α-CDのみの部分やβ-CDのみの部分が存在するのではなく、2つのCDが混ざった状態であることを示唆しているものと考えられる。

【0028】
(実験例2)
繊維集合体として、α-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとを含むファイバからなる不織布を作製した例について説明する。
α-CD 2.26gあるいはγ-CD 1.58gにHFIP 10mLを加え、室温で一晩撹拌することで、12.5 wt% α-CDあるいは9 wt% γ-CDのストック溶液を調製した。これら2つの溶液を体積比4:1、3:2、2:3、1:4で混合したCD溶液を下記の条件で紡糸した。
α-CD:γ-CD=80:20 印加電圧20kV、 射出速度1.59mL/h、電極間距離15cm
α-CD:γ-CD=60:40 印加電圧15kV、 射出速度3.18mL/h、電極間距離15cm
α-CD:γ-CD=40:60 印加電圧10kV、 射出速度4.72mL/h、電極間距離10cm
α-CD:γ-CD=20:80 印加電圧20kV、 射出速度4.72mL/h、電極間距離15cm

【0029】
図6にそれぞれの溶液を用いてエレクトロスピニングすることによって得られた不織布のSEM像を示す。
α-CDのみからなる場合、γ-CDのみからなる場合を含め、α-CDとγ-CDの混合比が異なるいずれの混合溶液を用いた場合についても、はっきりとファイバ化され、シクロデキストリンの不織布が形成されていることが認められる。

【0030】
(実験例3)
次に、3種のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを等量比(1:1:1)で混合した混合溶液を調製して、エレクトロスピニング法によりファイバ化して不織布を作製する実験を行った。
α-CD 2.26gあるいはβ-CD 2.26gあるいはγ-CD 1.58gにHFIP 10mLを加え、室温で一晩撹拌することで、12.5 wt%α-CD、あるいは12.5 wt% β-CD、あるいは9 wt% γ-CDのストック溶液を調製した。
これら3つの溶液を体積比1:1:1で混合したCD溶液を以下の条件で紡糸した。
α-CD:β-CD:γ-CD=1:1:1 印加電圧20kV, 射出速度2.78mL/h、電極間距離10cm

【0031】
図7(a)に、得られた不織布のSEM像を示す。図7(a)は、α-CD、β-CD、γ-CDを等量比で含む混合溶液を用いてエレクトロスピニングすることにより、シクロデキストリンがファイバ化され、シクロデキストリンの不織布が形成されたことを示す。
図7(b)は、図7(a)の測定に用いた不織布について測定したXRDパターンである。図7(b)から、3種のα-CD、β-CD、γ-CDを含む混合溶液を用いてエレクトロスピニングして得られたシクロデキストリン不織布はアモルファスの形態であることを示す。
なお、上記各実験例における紡糸条件は、均一なファイバが安定して得られる条件として設定したものであり、これらのパラメータでないと紡糸できないという訳ではない。

【0032】
(実験例4)
図8は、複数種のシクロデキストリンを混合した混合溶液を用いてエレクトロスピニングすると、各々のファイバは、複数種のシクロデキストリンが混在した状態でファイバ化されることを確かめる実験を行った結果を示す。
実験は、α-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとを用いて行った。α-シクロデキストリンはピレン(pyrene)を包接せず、γ-シクロデキストリンはピレンを包接することが知られており、γ-シクロデキストリンはピレンを包接すると380nm付近と475nm付近にピレン由来の発光を示す。

【0033】
このピレンの発光作用を利用するため、ピレンを添加したγ-シクロデキストリン溶液(γ-CD/HFIP)を調製し、α-シクロデキストリン溶液(α-CD/HFIP)と、ピレンを包接させたγ-シクロデキストリン溶液(γ-CD/pyrene/HFIP)と、α-CD/HFIPとγ-CD/pyrene/HFIPを混合させた混合溶液(α-CD/γ-CD/pyrene/HFIP)の3種類の溶液を用意した。
図8(a)は、二つのノズルを備えるエレクトロスピニング装置を使用し、一方のノズルからはα-シクロデキストリン溶液(α-CD/HFIP)を射出し、他方のノズルからはγ-シクロデキストリン溶液(γ-CD/pyrene/HFIP)を射出して得られた不織布について測定した共焦点蛍光観察像である。
図8(b)は、一つのノズルから、混合溶液(α-CD/γ-CD/pyrene/HFIP)を射出して得られた不織布について測定した共焦点蛍光観察像である。

【0034】
図8(a)は、α-シクロデキストリンからなるファイバと、γ-シクロデキストリンからなるファイバとが絡み合って存在し、γ-シクロデキストリンからなるファイバのみから蛍光が現れていることを示す。一方、図9(b)ではすべてのファイバから蛍光が出ていることが確認できる。この実験結果は、α-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンとを混合した溶液を用いてエレクトロスピニングして得られるファイバにはα-シクロデキストリンとγ-シクロデキストリンが混在して存在することを示している。

【0035】
上述した実験は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを繊維集合体を作製するシクロデキストリン源として使用した例である。本発明に係るシクロデキストリン繊維集合体の製造方法はα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの3種のシクロデキストリンを組み合わせて繊維集合体を作製する場合に限るものではなく、グルコース数がこれらと異なるシクロデキストリンを適宜組み合わせて、種々の繊維集合体を作製することができる。

【0036】
本発明方法によって得られるシクロデキストリン繊維集合体は、シクロデキストリンによって分子を包接する機能の観点から見ると、複数種の分子(化合物)を選択的に包接して取り込むことができる不織布等の繊維集合体として機能する。従来の単一のシクロデキストリンからなる不織布では分子を包接させる作用が限定的になることと比較して、本発明に係る繊維集合体は、複数種の分子(化合物)を選択的に包接することができる点で、包接機能(吸着機能)を利用して繊維集合体に付与する機能をより多様化することができるという利点がある。また、繊維集合体に混在させる複数種のシクロデキストリンの混在比率を任意に設定することが容易に可能であり、これによってさまざまな用途に応じた繊維集合体として提供することが可能になる。
本発明に係る繊維集合体に付与する機能剤としては、抗菌剤、消臭剤、生体親和性材料、医薬成分、酵素、蛍光材料等が挙げられる。

【0037】
シクロデキストリンはグルコースからなる環状オリゴ糖であるため、シクロデキストリンからなる不織布(繊維集合体)は水溶性である。これを非水溶性とするには、架橋方法を利用してシクロデキストリン不織布を水不溶化するか、非水溶性の処理を施したシクロデキストリンを用いて不織布を作製する必要がある。
シクロデキストリンを用いて不織布を作製する方法としては、未修飾シクロデキストリンとゲスト分子の包接錯体を利用して不織布を作製することも可能である。この場合もシクロデキストリンとゲスト分子との包接錯体が水溶性であれば、これから作製した不織布は水溶性となり、シクロデキストリンとゲスト分子との包接錯体が非水溶性であれば、これから作製した不織布は非水溶性となる。





図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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