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明細書 :簡便、迅速、高精度な皮膚pHの測定法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-203731 (P2017-203731A)
公開日 平成29年11月16日(2017.11.16)
発明の名称または考案の名称 簡便、迅速、高精度な皮膚pHの測定法
国際特許分類 G01N  33/84        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
A61B   5/00        (2006.01)
FI G01N 33/84 A
G01N 33/50 Q
G01N 27/416 353A
A61B 5/00 M
A61B 5/00 N
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2016-096685 (P2016-096685)
出願日 平成28年5月13日(2016.5.13)
発明者または考案者 【氏名】逢坂 哲彌
【氏名】大橋 啓之
【氏名】黒岩 繁樹
【氏名】秀島 翔
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4C117
Fターム 2G045BA13
2G045BB01
2G045CB09
2G045DB03
4C117XA02
4C117XB13
4C117XD05
4C117XE04
要約 【課題】皮膚表面のpHを簡便、迅速かつ高精度に測定する測定方法を確立する。さらに、イオン感応性電界効果トランジスタを使用した皮膚表面pHの測定方法を確立する。
【解決手段】被験動物の皮膚表面成分を既知量の水分を含ませた採取器具を用いて採取した被験試料を用い、該被験試料のpHをpHメーターで測定し、該pH測定によって得られるpH値より皮膚表面pHを算出し決定するプロセスを含む被験動物の皮膚表面pHの測定方法を提供する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被験動物の皮膚表面成分を既知量の水分を含ませた採取器具を用いて採取した被験試料を用い、該被験試料のpHをpHメーターで測定し、該pH測定によって得られるpH値より皮膚表面pHを算出し決定するプロセスを含むことを特徴とする、被験動物の皮膚表面pHの測定方法。
【請求項2】
被験動物の皮膚表面pHの測定方法であって、
前記被験試料は、2種類以上の既知の水分量で同一の動物個体の皮膚表面を採取器具で皮膚表面成分を採取して、それぞれの採取器具のpH値をpHメーターで測定するステップ、
前記pHメーターで測定して得られたpH値より102pH値を算出するステップ、
前記水分量と前記102pH値との一次回帰直線を求め、水分量が0のときの102pH値を一次回帰直線を用いて算定するステップ、及び、
前記回帰直線上の水分量が0のときの102pH値よりpH値を算出し、決定するステップ、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
被験動物の皮膚表面pHの測定方法であって、
前記一次回帰直線を予め作成しておき、
被験動物に対して1種類の既知の水分量で採取した被験試料のpHをpHメーターで測定して得られるpH値より102pH値を求め、
前記予め作成した一次回帰直線に前記既知の水分量と前記102pH値とを適用し、水分量が0のときの102pH値より皮膚表面のpHを算出し決定するステップ
を含むことを特徴とする、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
被験動物の皮膚表面pHの測定方法であって、
前記pHメーターがイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)又はガラス電極であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
被験動物の皮膚表面pHの測定方法であって、
前記採取器具が、スワブ、綿棒、脱脂綿又はガーゼから選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記測定方法が、アレルギー疾患、皮膚疾患の診断若しくは補助診断、それらの疾患の予後診断、若しくは、それらの疾患への処置に対する被験動物の応答性の評価、又は、肌荒れの度合いの評価に用いられることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記被験動物が、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ及びニワトリからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項8】
被験動物のアレルギー疾患及び/又は皮膚疾患の診断若しくは補助診断、これらの疾患の予後診断若しくはこれらの疾患への処置に対する被験動物の応答の予測、又は、肌荒れの度合いを評価するためのシステムであって、
該システムは、正常動物と皮膚疾患罹患動物からなる参照動物に対して、請求項1~7のいずれか1項に記載の測定方法で得られたpH値、測定時の水分量、測定部位、前記pH値と前記水分量から求めた一次回帰直線、該参照動物の症状、その予後及び/又は処置に対する参照動物の応答性、又は肌荒れの度合いの評価に関する観測情報を含む参照動物観測データセットと、該参照動物の動物種、性別、年齢及び/又は既往歴の個体の属性に関する情報である参照動物属性データセットが格納される参照動物情報格納手段と、
前記参照動物情報格納手段に格納される参照動物情報より、皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断及び/又は処置に対する応答性、又は、肌荒れの度合いの評価に対する予測アルゴリズムを作成し、該予測アルゴリズムを適用させる予測アルゴリズム適用手段と、
被験動物に対して請求項1~7のいずれか1項に記載の測定方法で被験試料を測定して得たpH値、測定時にスワブに含有させた水分量、測定部位、及び/又は他の1つ以上の観測データを含む被験動物観測データ、並びに、当該被験動物の個体の属性に関する被験動物個体情報との被験動物情報データセットを前記予測手段に入力する入力手段、又は、前記被験動物情報データセットの送信手段及び該送信手段より送信された被験動物情報データセットを受信し入力する受信入力手段と、
前記入力手段又は受信入力手段より入力された被験動物観測データと被験動物個体情報とに対応する参照動物観測データと参照動物個体情報とを含む参照動物情報を、皮膚疾患の診断若しくは補助診断、予後診断若しくは処置への応答の予測、又は、肌荒れの度合いの評価に対して前記予測アルゴリズム適用手段の予測アルゴリズムに適用し、被験動物の異常状態を予測し決定する被験動物異常情報予測決定手段と、
前記被験動物異常情報予測決定手段で得られた情報である異常情報に対する送信手段及び/又は表示手段とを具備する、
ことを特徴とする予測システム。
【請求項9】
前記予測システムにおいて前記被験動物の異常情報が皮膚表面のpH値であり、前記予測システムを被験動物の皮膚表面のpH値の取得に使用されることを特徴とする、請求項8に記載の予測システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便、迅速、高精度な皮膚pHの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のpHは、健常人ではpH4.0~4.9と弱酸性であり、皮膚のバリア機能に関与し、アトピー性皮膚炎を含む種々の疾患でpHが上昇していることが知られている(非特許文献1)。これは、pHの上昇により常在菌の増殖が抑制され、黄色ブドウ球菌等の病原菌の増殖が促進され、この増殖した病原菌への生体の免疫応答が、アトピー性皮膚炎の発症及び悪化の原因と考えられている(非特許文献2)。そして、この皮膚pH及び皮膚バリア機能の保持に皮膚角質層のフィラグリンが代謝分解されたアミノ酸代謝物が関与することが解明されてきている。また、角質層でのフィラグリンの代謝分解が、皮膚疾患により抑制されることが、さらにpHの上昇をもたらし、その結果、さらに皮膚炎等の皮膚障害が増悪すると考えられている(非特許文献3、4)。
【0003】
さらに、上記アミノ酸代謝物の中で、皮膚角質層に存在するpKa1=3.85のウロカニン酸が皮膚のバリア機能、特に、その光照射によって生じる異性体がアトピー皮膚炎の抑制作用を有することが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
そして、日本では、厚生労働省の調査で、アトピー性皮膚炎患者が約50万人に達し、年齢別では、小学1年生の11.8%がアトピー性皮膚炎に罹患していると報告している。
【0005】
また、日本でペットとして飼育されるイヌの実に25.7%が皮膚疾患を罹患していると報告され、疾患別罹患率で皮膚疾患がもっとも多く、ネコにおいても9.1%で疾患別罹患率で第3位である(非特許文献6)。
【0006】
一方、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)は、参照電極を使用しないため測定前に校正が必ずしも必要なく、小型化可能なイオン感応性電界効果トランジスタが研究、開発されている(特許文献1)。しかし、このイオン感応性電界効果トランジスタを使用して、皮膚表面のpHを簡便、迅速かつ高精度に測定する測定方法は確立されていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2009-236687号公報
【0008】

【非特許文献1】Matousek L. Jenniferら、Veterinary Dermatology 13:293-300 (2002)
【非特許文献2】遠藤薫ら、日皮会誌、110:19-25(2000)
【非特許文献3】平尾哲二、日本香粧品学会誌、37:95-100 (2013)
【非特許文献4】Armengot-Carbo M.ら、Actas Dermosifiliogr.106:86-95 (2015)
【非特許文献5】Thawer-Esmail F.ら、J Allergy Clin Immunol.,133:280-2.e1-2 (2014)
【非特許文献6】アニコム家庭どうぶつ白書2014 (pp22、アニコム損害保険株式会社、2015年11月17日発行、東京)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
皮膚表面のpHを簡便、迅速かつ高精度に測定する測定方法を確立する。さらに、イオン感応性電界効果トランジスタを使用した皮膚表面pHの簡便、迅速かつ高精度な測定方法を確立する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、皮膚pHの測定の際、皮膚表面成分を水分中に抽出する、又は移行させる必要があること、そして、これらの成分を純水を含有させた試料採取器具へ抽出又は移行させることにより採取し、この試料採取器具の水分のpHを測定することを見出した。さらに、使用する水分量による抽出又は移行成分の希釈がもたらすpHへの影響を回避するために、種々の既知の水分量を含ませた試料採取器具で測定して得たそれぞれのpH値を基に、各水分量と各102pH値との関係式を作成すると、102pH値と水分量は高い相関性を示すことを見出した。そこで、より高精度にpHを測定するには、水分量と102pH値の関係の一次回帰直線を求め、水分量が0のときの102pH値を外挿により算定し、この外挿102pH値より皮膚表面のpH値を算出することにより、精度の高い皮膚pH値を得られることを見出した。
【0011】
さらに複数の動物個体で前記方法で予め測定して得られた前記一次回帰直性のデータを集積することによりpH値算定アルゴリズムを作成しておき、被験動物に対して複数の水分量の純水で測定しなくとも1つの水分量の純水を含有させて測定することにより、皮膚表面の正確なpH値を求めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
具体的には、本発明は、被験動物の皮膚表面pHの測定方法であって、
既知量の水分を含ませた採取器具を用いて、皮膚表面成分を採取して採取試料を得ること、及び、
前記試料を測定して得られるpH値より、皮膚表面pHを決定する
被験動物の皮膚表面pHの測定方法を提供する。
【0013】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、被験動物の皮膚表面成分を既知量の水分を含ませた採取器具を用いて採取した被験試料を用い、該被験試料のpHをpHメーターで測定し、該pH測定によって得られるpH値より皮膚表面pHを算出し決定するプロセスを含む被験動物の皮膚表面pHの測定方法を提供する。
【0014】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
前記被験試料は、2種類以上の既知の水分量で同一の動物個体の皮膚表面を採取器具で皮膚表面成分を採取して、それぞれの採取器具のpH値をpHメーターで測定するステップ、
前記pHメーターで測定して得られたpH値より102pH値を算出するステップ、
前記水分量と前記102pH値との一次回帰直線を求め、水分量が0のときの102pH値を該一次回帰直線を用いて算定するステップ、及び、
前記回帰直線上の水分量が0のときの102pH値よりpH値を算出し決定するステップ、
を含む測定方法である場合がある。
【0015】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、前記一次回帰直線を予め作成しておき、
被験動物に対して1種類の既知の水分量で採取した被験試料のpHをpHメーターで測定して得られるpH値より102pH値を求め、
前記予め作成した一次回帰直線に前記既知の水分量と前記102pH値とを適用し、水分量が0のときの102pH値より皮膚表面のpHを算出し決定するステップ
を含む測定方法である場合がある。
【0016】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
前記pHメーターがイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)又はガラス電極である測定方法である場合がある。
【0017】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
前記既知の水分量が、50~1000μLの範囲である測定方法である場合がある。
【0018】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
前記採取器具が、スワブ、綿棒、脱脂綿又はガーゼから選択される測定方法である場合がある。
【0019】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
前記採取器具が、天然コットン製、セルロース製、ポリエステル製、又はこれらとナイロンとの混合繊維製である測定方法である場合がある。
【0020】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、
アレルギー疾患、皮膚疾患の診断若しくは補助診断、それらの疾患の予後診断、若しくは、それらの疾患への処置に対する被験動物の応答性の評価、又は、肌荒れの度合いの評価に用いられる測定方法である場合がある。
【0021】
前記被験動物の皮膚表面pHの測定方法は、前記被験動物が、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ及びニワトリからなる群から選択される測定方法である場合がある。
【0022】
さらに、本発明は、被験動物のアレルギー疾患及び/又は皮膚疾患の診断若しくは補助診断、これらの疾患の予後診断若しくはこれらの疾患への処置に対する被験動物の応答の予測、又は、肌荒れの度合いを評価するためのシステムであって、
該システムは、正常動物と皮膚疾患罹患動物からなる参照動物に対して、前記測定方法で得られたpH値、測定時の水分量、測定部位、前記pH値と前記水分量から求めた一次回帰直線、該参照動物の症状、その予後及び/又は処置に対する参照動物の応答性、又は肌荒れの度合いの評価に関する観測情報を含む参照動物観測データセットと、該参照動物の動物種、性別、年齢及び/又は既往歴の個体の属性に関する情報である参照動物属性データセットとが格納される参照動物情報格納手段と、
前記参照動物情報格納手段に格納される参照動物情報より、皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断及び/又は処置に対する応答性、又は、肌荒れの度合いの評価に対する予測アルゴリズムを作成し、該予測アルゴリズムを適用させる予測アルゴリズム適用手段と、
被験動物に対して前記測定方法で被験試料を測定して得たpH値、測定時にスワブに含有させた水分量、測定部位、及び/又は他の1つ以上の観測データを含む被験動物観測データ、並びに、当該被験動物の個体の属性に関する被験動物個体情報との被験動物情報データセットを前記予測手段に入力する入力手段、又は、前記被験動物情報データセットの送信手段及び該送信手段より送信された被験動物情報データセットを受信し入力する受信入力手段と、
前記入力手段又は受信入力手段より入力された被験動物観測データと被験動物個体情報とに対応する参照動物観測データと参照動物個体情報とを含む参照動物情報を、皮膚疾患の診断若しくは補助診断、予後診断若しくは処置への応答の予測、又は、肌荒れの度合いの評価に対して前記予測アルゴリズム適用手段の予測アルゴリズムに適用し、被験動物の異常状態を予測し決定する被験動物異常情報予測決定手段と、
前記被験動物異常情報予測決定手段で得られた情報である異常情報に対する送信手段及び/又は表示手段とを具備する、
予測システムを提供する。
【0023】
前記予測システムは、前記被験動物の異常情報が皮膚表面のpH値であり、前記予測システムを被験動物の皮膚表面のpH値の取得に使用される予測システムである場合がある。
【発明の効果】
【0024】
皮膚表面のpHを簡便、迅速かつ高精度に測定する測定方法が提供される。さらに、イオン感応性電界効果トランジスタを使用する皮膚表面のpHを簡便、迅速かつ高精度に測定する測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】pH測定値等を用いた被験動物の情報を予測するための予測システムを表す図。
【図2】ヒト(女性)の皮膚にISFET-pHメーターのセンサ面を直接押し当てたときの電位と応答時間との関係を表す図。
【図3】ヒト(男性)の皮膚にISFET-pHメーターのセンサ面を直接押し当てたときの電位と応答時間との関係を表す図。
【図4】ヒト(女性)の皮膚を水分で湿らせて、ISFET-pHメーターのセンサ面を押し当てたときの電位と応答時間との関係を表す図。
【図5】ヒト(女性)皮膚表面成分を既知量の水分を含ませたスワブを用いて採取し、スワブにISFET-pHメーターのセンサ面を押し当てたときの電位と応答時間との関係を表す図(スワブの全ての面を用い皮膚表面成分を採取。被験者 : 22 歳女性)。
【図6】スワブに含ませる水分量を変化させ、ヒト皮膚表面成分をスワブの全ての面を用いて採取したときのpH値の測定結果を表す図。
【図7】スワブに含ませる水分量を変化させ、スワブの1面のみを用いてヒト皮膚表面成分を1回又は10回、スワブで拭いた場合のpH値の測定結果を表す図。
【図8】同一被験者の手の甲及び手首内側を、約4分毎に90μLの水分を含むスワブで拭いて、スワブのpHを測定して得られたpH値の変化を表す図。
【図9】ヒト皮膚表面成分をスワブで採取してISFET-pHメーターでpHを測定した場合と、市販のガラス電極を用いるpHメーターを用いて直接皮膚を測定した場合の測定pH値の比較結果を表す図(男性2名、女性1名での結果)。
【図10】正常雌性ビーグル犬(2~3歳)の両側外耳、両側前足指間、両側腹部をスワブを用いて測定したpH値の結果を表す図。
【図11】女性の皮膚表面成分をスワブで採取し、水抽出した抽出液のHPLCクロマトグラムを表す図。
【図12】雌性ビーグル犬(2~3歳)の皮膚表面成分をスワブで採取し、水抽出した抽出液のHPLCクロマトグラムを表す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.被験動物の皮膚表面pHの測定方法
本発明の1つの実施態様は、被験動物の皮膚表面pHの測定方法である。

【0027】
前記測定方法は、被験動物の皮膚表面成分を既知量の水分を含ませた採取器具を用いて採取した被験試料を用い、該被験試料のpHをpHメーターで測定し、該pH測定によって得られるpH値より皮膚表面pHを算出し決定するプロセスを含む被験動物の皮膚表面pHの測定方法である。

【0028】
より具体的には、前記測定方法は、試料採取器具に既知量の水分を含有させ、測定部位の皮膚表面の成分をこの試料採取器具で採取し、pHメーターで試料採取器具が含有する水のpHを測定し、この測定pH値より102pH値を求め、予め作成しておいた水分量と102pH値との一次回帰直線から水分量が0のときの102pH値を外挿し、この外挿により得た水分量が0のときの102pH値からpH値を算出することにより、測定に使用する水分量の相違による希釈率の相違の影響を受けない皮膚表面pHを取得できる。

【0029】
前記pHメーターは、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)を用いる水素イオンセンサ(ISFET-pHメーター、特許文献1)、及び、商業的に入手可能なガラス電極によるpH測定装置等のpHメーターを入手して本発明の測定方法を実施できる。

【0030】
本明細書において、被験動物の例として、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ及びニワトリ等が挙げられる。

【0031】
以下に、本発明の測定方法をより詳細に説明する。

【0032】
これらの被験動物の皮膚のpHは、皮膚表面に存在する各種の成分のpKaの影響を受ける。すなわち、皮膚表面のpHは、本来、種々のpKaを有する皮膚表面成分の複雑な関係によってもたらされる水素イオン濃度の対数値(log10)に(-1)を乗じた数値として表される。

【0033】
pHメーターで皮膚表面のpHを測定するには、皮膚表面成分を一旦水で抽出する、又は水に移行させる必要がある。そして、このときに使用する水によって皮膚表面成分は希釈され、その結果、使用する水分量によって希釈率は相違し、pHはその影響を受け、この水分量の影響を受けたpH値がpHメーターで測定される。

【0034】
そこで、この水分量の影響を受けた測定pH値より、真の皮膚表面のpH値を求めるには、皮膚表面上の各種成分のpKaとその量又は濃度を考慮したシミュレーション式を求めて算出する必要がある。しかし、皮膚表面に存在する成分は多種多様であり、また、それらの量は、被験動物によっても、その動物種によっても、その性別によっても変動し、さらに、同一被験動物であっても季節や測定日時等の影響を受ける。そこで、これらの全成分に対してシミュレーション式を構築することは不可能である。

【0035】
しかし、本発明においては、前記シミュレーションの算出式の代わりに、簡便な式として102pH値を求める。すなわち、測定に使用する水分量と、測定値より求められる102pH値との関係より高い相関性を有する一次回帰直線を作成し、水分量が0のときの102pH値を求め、この102pH値よりpHを算出することにより、測定に使用する水分量の影響を補正した皮膚表面のpH値を求めることができる。

【0036】
そして、予め複数の水分量で102pH値を求めて一次回帰直線を作成し、その一次回帰直線の(102pH値)/(水分量(μL))の傾きを適用することにより、複数の水分量で皮膚表面を測定しなくとも1つの水分量で皮膚表面成分を水に抽出又は移行させ、その水のpHをpHメーターで測定することにより、皮膚のpH値を算出できる。

【0037】
本発明の皮膚のpHの測定に使用する水の例としては、純水やイオン交換水が好ましい。これらの水の例においても、長期間空気と接触させると、空気中の二酸化炭素を吸収し、炭酸イオンが水に含まれるため、長期間空気と接触させていない水を使用することが好ましい。

【0038】
そして、皮膚表面成分を水に抽出又は移行させるために、単に皮膚表面を水で濡らしただけでは、水が皮膚表面から落下することにより、精度の高いpH測定はできない。特に、自発運動を伴う乳幼児や動物においては、単に水で皮膚表面を濡らすだけでは、水が落下するため精度の高いpH値は得られない。

【0039】
そこで、本発明では、既知の水分量の水を含ませた皮膚表面成分の試料採取器具で皮膚表面を所定の条件で、この皮膚表面成分を試料採取器具に含まれる水分に移行又は抽出することにより採取し、この試料採取器具の水分のpHを感応性電界効果トランジスタ(ISFET)又はガラス電極等を用いたpHメーターで測定し、そのpH測定値より102pH値を求め、予め作成された前記一次回帰直線に適用し、水分量が0の点の102pH値を算出し、この水分量が0の点の102pH値より逆計算によりpH値を算出することにより、皮膚表面の真のpH値に近似するpH値を算定し決定する。

【0040】
前記皮膚表面成分の試料採取器具は、所定の水分量を保持することが可能で、皮膚表面を拭く、拭う、こすりつける又は擦過することにより皮膚表面成分を該試料採取器具中の水分へ抽出又は移行させることが可能であり、試料採取器具が保持する水分のpHをpHメーターで測定可能である限り、いずれの器具であってもよい。その具体的な例としては、スワブ、綿棒、脱脂綿又はガーゼが挙げられる。

【0041】
本発明に使用するスワブの材質としては、例えば、商業的に利用可能な天然コットン製、セルロース製若しくはポリエステル製のスワブ、又は50%の天然コットンと50%ナイロンとが混合されたスワブ等を入手して使用できる。

【0042】
試料採取器具に含有させる水の量の例としては、50~1000μLの範囲である。

【0043】
試料採取器具が商業的に利用可能なスワブ又は綿棒の場合に、保持可能な水分量は200μLまでであり、したがって、商業的に利用可能なスワブ又は綿棒を、皮膚表面成分の試料採取器具として使用する場合に、含有させる水分量としては、50~200μLであり、好ましくは80~100μLであり、もっとも好ましくは90μLである。

【0044】
例えば、既知量の水分を含ませたスワブ又は綿棒で皮膚表面成分を採取する場合、90μLの水分を含有させたスワブ又は綿棒で、ヒトの上肢、顔面又は頸部の一部の所定の面積又は長さを、所定の回数で、拭く、拭う、こすりつける又は擦過することにより皮膚表面成分を採取し、pHメーターによるpH測定に提供できる。

【0045】
皮膚表面成分を採取する採取器具に含ませる水分は、他の溶媒、例えば、エタノールを含む水とエタノールとの混合溶媒であってもよい。

【0046】
皮膚表面成分の採取においては、複数回皮膚表面を拭く、拭う等により、適宜、試料採取器具に含ませる水を追加しながら、200μLまでの水分量の範囲を超えた水分量を使用して、皮膚表面成分を試料採取器具に採取できる。このとき、例えば、商業的に利用可能なスワブ等で皮膚表面の同一場所を5回~10回拭く場合に、少量の水を適宜スワブ等に追加しながら皮膚を拭くことにより、水分量が前記水分量よりも多い水分量を使用できる。この適宜水分を追加して皮膚表面成分を採取する場合の水分量は、合計量の例として200~1000μLを挙げることができる。

【0047】
したがって、試料採取器具に、商業的に利用可能なスワブ又は綿棒を使用する場合、皮膚表面成分の採取時に含ませる水分量は、50~1000μLの範囲である。

【0048】
ヒトや動物によって皮膚表面のpHが相違し、また、同じ動物個体であっても、皮膚の場所によってpHが相違することが知られている。そこで、試料採取器具に水を含ませて皮膚表面を拭く際の皮膚の場所の例としては、ヒトの場合、上肢手首付近の近位部、手の甲、顔面及び頸部等を利用できる。イヌの場合の例として、外耳、前肢又は後肢の指間等の毛根のない皮膚面、及び、除毛後の腹部等が挙げられる。

【0049】
これらの方法で皮膚表面成分を水を含ませた試料採取器具で採取する前に、皮膚に付着した汚れや化粧品等を乾燥したテッシュペーパー又はペーパータオル等で拭き、予めpH測定に影響を与える汚れを除いておく場合がある。使用されるテッシュペーパー又はペーパータオル等としては、一般に商業的に利用可能なテッシュペーパー又はペーパータオルを入手して使用できる。

【0050】
また、pHメーターとして、電界効果トランジスタ(ISFET)-pHメーターを使用する場合には、計算機能を有するイオンセンサ装置を使用し、予め上記(102pH値)を算出するための計算式をプログラムしておくことによって、試料採取器具のpHを測定し、即座に、上記外挿により求められる皮膚表面のpH値を算出して表示できる。

【0051】
2.アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断、処理に対する応答性、並びに、肌荒れの度合いの評価
皮膚のpHは、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患や肌荒れと関連し、皮膚のpHの上昇によりこれらの皮膚症状を発現又は悪化させることが知られている。また、これらの皮膚症状の悪化により、さらにpHが上昇するとも考えられている。そこで、本発明の動物の皮膚のpHの測定方法は、例えば、皮膚疾患の診断、予後診断、皮膚疾患の治療に対する被験動物の応答性の評価、美容に関連する肌荒れの程度の評価に使用できる。

【0052】
ヒトが被験動物の場合、前記皮膚疾患の診断、予後診断、皮膚疾患の治療に対する被験動物の応答性の評価の例としては、病院又は診療所等の医療機関において、既知の水分量を含ませた試料採取器具を用い、皮膚表面成分を採取して、試料採取器具のpHを測定することにより、皮膚表面のpH値を決定することができる。

【0053】
ヒトが被験動物の場合、前記肌荒れの評価の例としては、美容院等において、既知の水分量を含ませた試料採取器具を用い、皮膚表面成分を採取して、試料採取器具のpHを測定することにより、皮膚表面のpH値を決定することができる。

【0054】
被験動物がヒト以外の動物の場合、前記皮膚疾患の診断、予後診断、皮膚疾患の治療に対する被験動物の応答性の評価の例としては、動物病院又は動物のための診療所等の機関において、既知の水分量を含ませた試料採取器具を用い、皮膚表面成分を採取して、試料採取器具のpHを測定することにより、皮膚表面のpH値を決定することができる。

【0055】
被験動物がヒト以外の動物の場合、前記肌荒れの評価の例としては、動物病院、動物のための診療所又はペット動物の美容施設等において、既知の水分量を含ませた試料採取器具を用い、皮膚表面成分を採取して、試料採取器具のpHを測定することにより、皮膚表面のpH値を測定し、算定し、決定することができる。

【0056】
3.皮膚疾患の診断、予後診断、皮膚疾患の治療に対する被験動物の応答性の予測システム
本発明の他の実施態様は、皮膚疾患の診断、予後診断、皮膚疾患の処置や治療に対する被験動物の応答性の予測システムである。その概略図を図1に示す。

【0057】
予測システムの適用の例は、上記実施態様の皮膚表面のpH測定方法で、予め複数の動物個体において皮膚pH値を測定し、そのデータを集積し、その動物個体の皮膚病又は肌荒れの症状、治療法、該動物個体の処置や治療に対する応答性を予測するアルゴリズムを予め作成しておき、被験動物で測定して得られた皮膚pH値を、このアルゴリズムに適用することにより、被験動物の皮膚病又は肌荒れの症状、治療法、該動物個体の処置や治療に対する応答性を予測することができる。

【0058】
より具体的な本発明の予測システムの例は、
被験動物のアレルギー疾患及び/又は皮膚疾患の診断、補助診断、これらの疾患の予後診断又はこれらの疾患への処置に対する被験動物の応答の予測、又は肌荒れの度合いを評価するためのシステムであって、
該システムは、正常動物と皮膚疾患罹患動物からなる参照動物に対して、前記皮膚pHの測定方法で得られたpH値、測定時の水分量、測定部位、前記pH値と前記水分量から求めた一次回帰直線、該参照動物の症状、その予後及び/又は処置に対する参照動物の応答性に関する観測情報を含む参照動物観測データセットと、該参照動物の動物種、性別、年齢及び/又は既往歴の個体の属性に関する情報である参照動物属性データセットが格納される参照動物情報格納手段と、
前記参照動物情報格納手段に格納される参照動物情報より、皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断及び/又は処置に対する応答性対する予測、又は肌荒れの度合いの評価に対するアルゴリズムを作成し、該予測アルゴリズムを適用させる予測アルゴリズム適用手段と、
被験動物に対して前記皮膚pHの測定方法で被験試料を測定して得たpH値、測定時に試料採取器具に含有させた水分量、測定部位、及び/又は他の1つ以上の観測データを含む被験動物観測データ、並びに、当該被験動物の個体の属性に関する被験動物個体情報との被験動物情報データセットを前記予測手段に入力する入力手段、又は、前記被験動物情報データセットの送信手段及び該送信手段より送信された被験動物情報データセットを受信し入力する受信入力手段と、
前記入力手段又は受信入力手段より入力された被験動物観測データと被験動物個体情報とに対応する参照動物観測データと参照動物個体情報とを含む参照動物情報を、皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断及び/又は処置への応答性、又は肌荒れの度合いの評価に対して前記予測アルゴリズム適用手段の予測アルゴリズムに適用し、被験動物の異常状態を予測し決定する被験動物異常情報予測決定手段と、
前記被験動物異常情報予測決定手段で得られた情報である異常情報に対する送信手段及び/又は表示手段とを具備する予測システムである。

【0059】
前記の参照動物情報格納手段、予測アルゴリズム適用手段及び験動物異常情報予測決定手段は、商業的に入手可能なコンピュータ等を入手して本発明のシステムに使用できる。また、前記の送信手段及び受信入力手段は、商業的に入手可能な送信装置、受信装置及び入力装置等を入手して、本発明のシステムに使用できる。

【0060】
本システムは、遠隔地の診療機関、ペット動物の美容施設等で測定した被験動物の皮膚pHの測定結果等の被験動物観測データ等を本システムに送信し、本システム内で被験動物の異常状態を予測し、その結果を前記遠隔地の診療機関や美容施設に送信し、その情報をフィードバックすることにより、遠隔地においても、本発明の方法である予測結果の利便を享受することが可能である。

【0061】
前記予測システムは、前記被験動物の異常情報が皮膚表面のpH値であり、前記予測システムを被験動物の皮膚表面のpH値の取得に使用される予測システムである場合がある。

【0062】
前記測定方法は、家庭においても、pHを測定し、皮膚バリア機能を評価することにより、ヒト及びペット動物の健康管理に利用でき、そのときに、前記予測システムを活用することもできる。そして、これらは、肌荒れ、アレルギー疾患及び皮膚病等の予防にも利用できる。

【0063】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0064】
1.材料及び装置
試薬として、エタノール(関東化学株式会社、東京)を使用した。純水(H2O)はMilli-Q 製造装置(MILLIPORE,gradient A 10)で製造し、空気へ長期間曝露することなく使用した。
【実施例】
【0065】
実験に使用した装置として、ISFETを利用するpH メーター : 株式会社 堀場製作所(D-74型、京都)を使用し、ドレーン電流: Ids=132.7μA、ドレーン電圧: Vds=2.99Vで使用した。pHガラス電極によるpHメーターは、Skin pH meter-HI99181(Hanna Instruments,Inc.、米国)を使用した。AD コンバータは株式会社コンテック(AI-1608AY-USB型、大阪)を、液体クロマトグラフィー(LC) 装置はWaters社(米国)製ACQUITY UPLC H-Class型を、マススペクトルメトリー(MS)装置はWaters社製Xevo G2-S QTof型を使用した。
【実施例】
【0066】
2.実験方法
(1) pH測定方法
pHの測定は、ISFETを利用した前記pHメーターをAD コンバータに接続し、応答電位の時間変化をモニタリングした。測定電位が±0.6mV以内で3秒以上継続して安定したところを応答電位としてみなし、その電位から、校正用標準pH液を測定して得た校正式に適用し、pHを算出した。また、センサ面は1 測定ごとに洗浄した。洗浄はエタノール、純水(Milli-Q水)の順で行い、水分を十分に拭き取った状態で、pH測定を行った。
【実施例】
【0067】
最初に、ヒトに対して、皮膚表面にセンサ面を直接当てた測定、皮膚表面を湿らせた測定、サンプリングシートを用いた測定、皮膚表面成分の採取器具としてスワブを用いた測定の4種類の方法で、pH測定が可能である方法を評価した。その後、ヒトに対して測定可能であった方法によって、イヌに対して測定を行った。
【実施例】
【0068】
ヒトは上腕部内側の手首より近位側約5cm近傍、並びにビーグル犬は、両側外耳、両側前肢の指間及び除毛後の腹部両側の皮膚表面上成分を水を含ませていないスワブで採取し、pH測定を行った。
【実施例】
【0069】
次に、水を含ませたスワブにより皮膚表面を拭くことにより皮膚表面成分をスワブに採取した。スワブによる拭き方は、水分量を種々変化させ、スワブの全面又は1面のみを使用する場合、スワブの同じ面で複数回拭く拭き方等の種々の条件で実施した。スワブで皮膚を拭くときの条件は、特に記載がない実験においては、スワブを横にして2cmの範囲で拭いた。また、スワブで繰り返し拭く場合には、皮膚の同じ場所を繰り返し拭いたスワブのpHを測定し、皮膚表面のpH値を下記の102pHを求める方法で算出した。
【実施例】
【0070】
(2) pHに影響を与える成分の分析
pHに影響を与える皮膚表面の物質を知るために,皮膚の成分分析を行った。分析方法は、まず100μLの純水を含ませた綿棒を用いて、十分に皮膚表面上で回転させながら拭き取った。その後、0.75mLの純水を入れたバイアル瓶に綿棒を30分浸し、綿棒を取り出した後LC-MSに10μLを注入し分析を行った。分析条件は以下のとおりである.
【実施例】
【0071】
・液体クロマトグラフィーによる分離条件
カラム:ACQUITY UPLC(R) HSS T3 1.8μm (2.1mm x 100mm)
移動相:移動相A:10mM 酢酸アンモニウム溶液
移動相B:アセトニトリル:テトラヒドロフラン=90:10
グラジエント条件:
0~5分:移動相A98%/移動相B2%
5~15分:15分に移動相A20%/移動相B80%となるようにグラジエント
15~20分:20分に移動相A10%/移動相B90%となるようにグラジエント
20~21分:21分に移動相A98%/移動相B2%となるようにグラジエント
23分:移動相A98%/移動相B2%
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
注入量:10μL
0~23分の測定を1サイクルとした。
【実施例】
【0072】
・マススペクトロメトリーの測定条件
イオン化条件:
キャピラリー電圧:0.3kV
サンプリングコーン:30
ソースオフセット:80
ソース温度:150℃
脱溶媒温度(℃):500℃
ガス流量(L/h):コーンガス50L/時
脱溶媒ガス1000L/時
衝突電圧:15~20V
【実施例】
【0073】
3.pH算出方法
ISFET を利用した前記pHメーターについて、皮膚表面を拭いたスワブのpH測定を行う前に、pH 7及びpH 4の標準溶液でキャリブレーションを行ったところ、以下の結果が得られた。
【表1】
JP2017203731A_000003t.gif
【実施例】
【0074】
この測定結果より、pH が1 変化するごとに電位が58.1mV 変化するため、式(1)のpHと電位の関係式が得られた。(x:応答電位、y:pH)上記表1の結果から、(202.3-36.8)/(6.86-4.01) =58.1であり、下記式(1)を得た。
【実施例】
【0075】
[式1]
JP2017203731A_000004t.gif
表1の結果、x=36.8、y=6.86 を式(1)にそれぞれ代入して、下記式(2)を得た。
【実施例】
【0076】
[式2]
JP2017203731A_000005t.gif
【実施例】
【0077】
上記実験結果で得られたpHは式(2)に応答電位を代入することによって算出された。その後の実験は、同様にしてそれぞれキャリブレーションから得られた関係式によってpHを算出した。
【実施例】
【0078】
4.ヒト皮膚pHの測定結果
(1) ヒト皮膚表面pHの直接測定
まず、初秋(9月)の日の13:00-17:00、気温24.2℃、湿度43%の時間及び環境下、皮膚に直接センサ面を押し当てた測定を行った。被験者として、女性4人、男性5人の協力のもとで行った。今回の測定において、センサ面を直接押し当てるのみの方法では、女性の応答はすべて安定な状態に達しなかった(図2)が、男性は60秒~90秒程で応答が安定する傾向が確認された(図3)。
【実施例】
【0079】
このように男女間で結果に違いが生じる要因として、女性の皮膚上の水分量が少ないことが考えられる。本結果より、ISFET-pHメーターは、測定対象の水分量が少ない場合は測定が困難であることが推測された。そこで、皮膚表面pHの測定には、外部より水分を加えて測定する必要があると考えられた。
【実施例】
【0080】
(2) ヒト皮膚表面を水で濡らした場合におけるpH測定
直接皮膚を測定することが困難であったため、次に2人の女性(被験者の年齢22歳及び23 歳)を対象にして皮膚を水で湿らせた後に測定する実験を行った。皮膚表面に40μLの純水をたらして濡らした場合、及び、皮膚表面の水の落下を防止するために40μLの純水を含んだ1cm×1cm のベンコットを皮膚につけてベンコットを介した場合の2種類の条件で、測定を行った。
【実施例】
【0081】
皮膚表面に、安定した測定が可能な最小量の水分である40μLの純水をたらして濡らした被験者(女性2名)はそれぞれpH=4.13±0.15 (n=4、各測定値:4.06, 4.13, 3.98, 4.33)、pH=4.87±0.09(n=4、各測定値:4.92, 4.90, 4.93, 4.73)であった。また、ベンコットを介した測定の場合、それぞれpH=4.44±0.12で、pH= 4.97±0.26であった。ヒトの皮膚pHは主に4.5から6.0と知られている(非特許文献1)。
【実施例】
【0082】
図4に示すように、純水で湿らせた場合は短時間で応答が安定し、測定可能であることが確認された。これらの結果は、ヒト皮膚のpHの測定には、ヒト皮膚表面成分を水で抽出又は水に移行させる必要があることが示された。
【実施例】
【0083】
(3) サンプリングシートを用いた測定
次に、サンプリングシートを用いて皮膚pHを測定する実験を行った。サンプリングシートは、アドバンテック東洋株式会社(東京)のメンブレンフィルターを使用した。40μLの純水を含ませたサンプリングシートを皮膚の上に30秒間置いてサンプリング後、 pH 測定を行った。
【実施例】
【0084】
測定結果は、pHが常に6付近となり、正常に測定できなかった。
【実施例】
【0085】
また、イヌ等のヒト以外の動物にも適用可能な皮膚pH測定法を確立するとの観点より、サンプリングシートを非麻酔下のイヌ等の動物の皮膚に所定の時間静置することは実際的ではないところから、シートではなく次に示すスワブを利用した方法を検討し、評価した。
【実施例】
【0086】
(4) 皮膚表面を拭き取ったスワブを測定試料とする測定
(i) スワブを用いたときの電位と応答時間の測定
先端部分を一回純水に浸した綿棒を、被験者(23歳女性)の皮膚表面上に5回こすりつけた後にpHの測定を行った(初秋(9月)の日の13:00-16:00,気温23.8℃,湿度66%)。スワブのすべての面が皮膚に接触する拭き測定したところ、約3秒で電位は安定し、安定後の電位よりpHを求めるとpH=5.48±0.10であった(図5)。
【実施例】
【0087】
(ii)スワブに含有させる水分量の検討
測定毎にスワブが含む水分量が異なるため、含ませる量を既知量として、50、100、200、300、400及び500μLに変化させて水分量の違いが与えるpH影響を評価した(各水分量に対してn=4~6)。スワブの全ての面を使用して5回ずつ皮膚表面を拭くことにより、ヒト皮膚表面の成分をスワブに採取し、この皮膚表面成分を採取したスワブのpHのISFET-pHメーターによる測定を実施した。実験は、初冬(11月)の日の14:00-16:00の時間帯で、気温24.1℃、湿度39%の環境下で実施した。
【実施例】
【0088】
スワブに含ませた水の量に対するpH測定値の結果を図6に示した。これらの結果から一次回帰直線を求めると、相関係数R=0.9477の良い相関性を示した(図6)。
【実施例】
【0089】
次に、50、100、500又は1000μLの水分を含ませたスワブの同じ面を、1回又は10回の回数で皮膚表面を拭くことにより皮膚表面成分を採取し、そのスワブに対するISEFT-pHメーターによるpHの測定を、初冬(11月)の日の11:00-16:00の時間帯で、気温24.1℃、湿度50%の環境下で実施した。
【実施例】
【0090】
スワブに含ませた水の量に対するpH測定値の結果を図7に示した。そして、これらの結果より一次回帰直線とその相関係数を求めると、1回スワブで皮膚表面を拭いた場合:相関係数R=0.9939、10回スワブで皮膚表面を拭いた場合:相関係数R=0.9845と、いずれも良い相関性を示した(図7)。
【実施例】
【0091】
これらの結果は、スワブに水分を含ませて皮膚表面を拭くことにより皮膚表面成分をスワブに採取し、スワブのpHを測定することによって得られるpHの測定値は、スワブに含ませる水分量、皮膚を拭く際のスワブの使い方、拭き取り回数の影響を受ける。しかし、スワブに含ませる水分量を、少なくとも2種類の既知量の水分量で皮膚表面を拭き、そのスワブのpHを測定し、102pH値を算出し、スワブに含有させた水分量と102pH値との関係をプロットすると良い相関性をもたらすとの結果を示した。
【実施例】
【0092】
すなわち、これらの結果は、既知量の水分を含ませた試料採取器具で皮膚表面成分を採取し、一次回帰直線を作成し、その一次回帰直線において、スワブに含ませる水分量が0のときのpH値を求めることにより、水分量の相違によって相違する希釈の影響を受けることなく、真の皮膚のpHを求めることができることを示す。
【実施例】
【0093】
また、これらの結果は、水分を含ませたスワブの1面で、かつ、1回の皮膚表面を拭く方法が、水分量とpHの測定値の一次回帰直線において、もっとも高い相関係数を示した。また、スワブに含ませる水分量が高いとpHが弱酸性から中性側の値を示すところから、比較的少量の水をスワブに含ませる方がより高い精度で皮膚のpHを測定できることを示した。
【実施例】
【0094】
そこで、さらに、水分量の違いによるpHの影響の評価を行った。スワブが含む水分量は80~100μLの範囲で測定ごとに異なる。得られた式から80μL及び100μLのときのpH値を算出した。その結果を表2に示す。
【表2】
JP2017203731A_000006t.gif
【実施例】
【0095】
その結果,80~100μLの範囲では測定値に大きな影響は与えないことが示された。なお、拭き取り回数が1回と10回の場合にpHに差が生じた要因としては、皮膚pHは時間帯によって変化するため、午前と午後に測定したことが影響したと考えられる。
【実施例】
【0096】
(iii) スワブを用いたヒトの皮膚表面pH値の変動(変動係数:CV)の評価
同一被験者で、上肢の手背(手の甲)、及び上肢手首付近の内側近位部(前前腕部)を90μLの水分を含有させたスワブで各5回ずつ拭きpHを測定する操作を約4分毎に8回繰り返すと、手の甲で、pH 5.44±0.26(CV値4.70%)、手首内側でpH 4.35±0.26(CV値6.06%)であり、変動の少ない測定値を示し、本測定方法が精度の高い測定値をもたらすことが示された(図8)。
【実施例】
【0097】
動物を対象にした皮膚表面のpH測定は、皮膚表面を湿らせての測定は静止状態を保つ必要があり、自発運動を伴い静止状態を維持できない動物では困難と考えられる。一方、スワブを用いる場合、スワブに含有させる水分量による希釈の影響を受けないpH値を求めることが可能であり、また、動物個体が数秒静止すれば、皮膚表面成分の採取が可能であるところから、ヒト以外の動物を含めた皮膚表面pHの測定に対して、既知量の水分を含有させたスワブを用いる測定方法が有効である。そこで、ヒトとイヌとで、既知量の水分を含ませたスワブを用いる皮膚表面pHの測定方法をさらに検討し、評価した。
【実施例】
【0098】
(iv)スワブを用いたISFETでの測定とガラス電極を用いた場合との比較
男性2名、女性1名に対して、腕(ひじと手の甲の間)を90μLの水分量をスワブに含ませて、拭き取り回数は5回で拭いたスワブに対して、ISFETを利用するpHメーターでの測定値を、ガラス電極を用いたpHメーターでガラス電極を皮膚に接触させて測定した測定値と比較した。
【実施例】
【0099】
ISFETでの測定時間は5~20秒であり、一方、ガラス電極によるpH測定は、5分以上の測定時間を要した。ISFETで測定し、pH値に換算した値とガラス電極とを用いた場合に、両者の測定pH値は、いずれの被験者においてほぼ同値を示した(図9)。
【実施例】
【0100】
本結果より、ガラス電極を用いたpHメーターよりも、スワブを用いてISFET-pHメーターで測定した方が、簡便に測定できることが示された。
【実施例】
【0101】
ISFETを用いたpHメーターは小型化が可能であり、また、ガラス電極の場合、測定前にpH標準液を用いた校正が必要であるが、ISFETでは、この校正が省略可能なpHメーターを製造可能である。したがって、ISFETを用いたpHメーターは、迅速、簡便、かつ高精度な皮膚表面pHの測定に有用と考えられる。
【実施例】
【0102】
5.イヌの皮膚pH 測定
スワブで皮膚を拭き取る方法によって、ビーグル犬の皮膚表面のpH測定を行った。文献より犬のpH は体の部位によって異なり、4.84~7.70の範囲とされている(非特許文献1)。
【実施例】
【0103】
正常犬の1頭を対象にして、スワブに90μLの水分を含有させ、外耳、前足及び腹部の各部位で5回ずつ同一部位をスワブで拭き、ISFETで測定した応答電位より上記換算式に適用し、pH測定を行った。その結果、体の部位によるpHの変化が確認され、測定法としての再現性が確認された(図10)。また、報告されているイヌ皮膚のpH値の範囲内にあることが確認された。
【実施例】
【0104】
6.pH測定に影響を及ぼす皮膚表面成分の評価
(1)ヒト皮膚表面成分の分析
pH に影響を与えるヒトの皮膚表面の物質を知るために、皮膚の成分分析を行った。女性1名、男性2名を分析し、女性の分析結果を図11に示す。保持時間(RT)=7分以降をスワブ溶出成分とみなし、RT=7分までの成分の分析を行った。まず、図11より女性のみに出てきたピーク(RT=0.76分)は、化粧品由来のトリエタノールアミンであり、図11のRT=1.03分のピークは、ヒスチジンの中間体であるウロカニン酸と考えられる。同様のピークは男性2人を対象に測定した場合にも認められた。
【実施例】
【0105】
また、RT=2.6分付近のピークは、アミノ酸であるフェニルアラニンであり、RT=5.1分付近のピークは、トリプトファンであると考えられた。
【実施例】
【0106】
ウロカニン酸はpKa1=3.85であり、皮膚pHの恒常性に関与し皮膚を弱酸性に保つ役割を果たしている。そのため、ウロカニン酸がヒトの皮膚pHに影響を与える成分の1つである可能性が考えられる。
【実施例】
【0107】
(2)イヌ皮膚表面成分の分析
pHに影響を与えるイヌの皮膚表面の成分を知るために、ビーグル犬の皮膚の成分分析を行った。ビーグル犬(メス、2~3歳)を対象とした。分析結果のクロマトグラムを図12に示した。図11のヒトの分析結果と同様に、保持時間RT=7分以降はスワブからの溶出成分と推定され、RT=7分までの成分の分析を行った。その結果、RT=2.96分付近に認めたピークがフェニルアラニン、RT=6.53分付近に現れたピークがトリプトファンであると考えられ、ヒトと同様の成分が確認された。
【実施例】
【0108】
皮膚表面のpHは、アミノ酸代謝物を含む各種成分によってもたらされ、これらの成分のpKaは、例えば、ウロカイン酸(分子量:138.1) [COOH:pKa1 = 3.85]、[C3H4N2:pKa2=6.13]、フェニルアラニン(分子量:165.2) [COOH:pKa1=2.16]、[NH2:pKa2=9.18]、及び、トリプトファン(分子量:204.23) [COOH:pKa1=2.38]、[NH2:pKa2=9.36]であり、それぞれのpKaが相違するところから、これらのアミノ酸代謝物が複雑に関与して皮膚表面のpHが形成されるものと考えられる。
【実施例】
【0109】
したがって、本発明において、水分を含ませた試料採取器具のpHを測定して得られた測定値を、一旦102pHに変換した上で、一次回帰直線より水分を含まない点の外挿値より皮膚表面pH値を求める方法は、簡便、迅速、高精度等の特性を有し、非常に有用性の高い方法である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、ヒト、ペット動物、家畜動物及び実験動物等の皮膚の表面成分を試料採取器具を用いて採取した試料のpHを測定し、該pH値より所定の計算式を適用して皮膚表面のpHを求めるものであり、ヒトを含む動物のアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の診断、補助診断、予後診断及び処置に対する応答性の予測、並びに、美容上の肌荒れの度合いの評価等に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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