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明細書 :呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-000224 (P2018-000224A)
公開日 平成30年1月11日(2018.1.11)
発明の名称または考案の名称 呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラム
国際特許分類 A61B   5/0452      (2006.01)
A61B   5/08        (2006.01)
A61B   5/0488      (2006.01)
FI A61B 5/04 312A
A61B 5/08
A61B 5/04 330
請求項の数または発明の数 18
出願形態 OL
全頁数 28
出願番号 特願2016-126337 (P2016-126337)
出願日 平成28年6月27日(2016.6.27)
発明者または考案者 【氏名】朱 欣
【氏名】陳 文西
出願人 【識別番号】506301140
【氏名又は名称】公立大学法人会津大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100118094、【弁理士】、【氏名又は名称】殿元 基城
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
4C127
Fターム 4C038SS08
4C038SX07
4C127AA02
4C127AA04
4C127CC02
4C127FF03
4C127FF05
4C127GG01
4C127GG10
要約 【課題】心電図データに基づいて被検者の呼吸状態を検出すること。
【解決手段】
呼吸検出方法では、まず、被検者の心電図データから1心拍分のPQRST波を含む基本信号を抽出する(S.03)。また、過去に抽出された基本信号のPQRST波をテンプレート信号として記録手段に記録する。次に、次の基本信号からテンプレート信号を減算することにより、残存信号を生成する(S.05)。そして、残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求め、差分の変化を累積的に求めることにより、被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する(S.07)。その後、呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出する(S.08)。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者の心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出する基本信号抽出手段と、
該基本信号抽出手段により過去に抽出された前記被検者の基本信号をテンプレート信号として記録する記録手段と、
前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記記録手段に記録された前記テンプレート信号を減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成する残存信号生成手段と、
前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する呼吸波算出手段と、
前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出する呼吸数検出手段と
を備えることを特徴とする呼吸検出装置。
【請求項2】
前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、
前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段に記録された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出するテンプレート信号抽出手段を備え、
前記残存信号生成手段は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することによって、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項1に記載の呼吸検出装置。
【請求項3】
前記テンプレート信号抽出手段は、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求め、
前記残存信号生成手段は、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置において、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することによって、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項2に記載の呼吸検出装置。
【請求項4】
前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成するテンプレート信号生成手段と、
該テンプレート信号生成手段により生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録するテンプレート信号更新手段とを備え、
前記残存信号生成手段は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成手段により生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の呼吸検出装置。
【請求項5】
最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録するテンプレート信号追加手段を備え、
前記残存信号生成手段は、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加手段により追加記録された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の呼吸検出装置。
【請求項6】
前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出し、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定する閾値決定手段と、
前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定手段により決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行うノイズ低減手段と
を備え、
前記呼吸波算出手段は、前記ノイズ低減手段によりノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出すること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の呼吸検出装置。
【請求項7】
被検者の心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出する基本信号抽出ステップと、
該基本信号抽出ステップにおいて過去に抽出された前記被検者の基本信号がテンプレート信号として記録手段に記録され、当該記録手段から読み出された前記テンプレート信号を、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成する残存信号生成ステップと、
前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する呼吸波算出ステップと、
前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出する呼吸数検出ステップと
を備えることを特徴とする呼吸検出方法。
【請求項8】
前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、
前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段より読み出された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出するテンプレート信号抽出ステップを備え、
前記残存信号生成ステップにおいて、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項7に記載の呼吸検出方法。
【請求項9】
前記テンプレート信号抽出ステップにおいて、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求め、
前記残存信号生成ステップにおいて、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置で、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項8に記載の呼吸検出方法。
【請求項10】
前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成するテンプレート信号生成ステップと、
該テンプレート信号生成ステップにおいて生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録させるテンプレート信号更新ステップとを備え、
前記残存信号生成ステップにおいて、前記基本信号抽出ステップにより抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成ステップにおいて生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項8または請求項9に記載の呼吸検出方法。
【請求項11】
最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録するテンプレート信号追加ステップを備え、
前記残存信号生成ステップにおいて、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加ステップにおいて追加記録された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成すること
を特徴とする請求項8または請求項9に記載の呼吸検出方法。
【請求項12】
前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出し、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定する閾値決定ステップと、
前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定ステップにおいて決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行うノイズ低減ステップと
を備え、
前記呼吸波算出ステップでは、前記ノイズ低減ステップにおいてノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出すること
を特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載の呼吸検出方法。
【請求項13】
被検者の心電図データに基づいて当該被検者の呼吸数を検出する呼吸検出装置用の呼吸検出用プログラムであって、
前記呼吸検出装置は記録手段を有し、
前記呼吸検出装置の制御手段に、
前記心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出させる基本信号抽出機能と、
該基本信号抽出機能において過去に抽出された前記被検者の基本信号がテンプレート信号として前記記録手段に記録されており、前記記録手段から読み出された前記テンプレート信号を、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成させる残存信号生成機能と、
前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出させる呼吸波算出機能と、
前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出させる呼吸数検出機能と
を実現させることを特徴とする呼吸検出用プログラム。
【請求項14】
前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、
前記制御手段に、
前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段より読み出された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出させるテンプレート信号抽出機能を実現させ、
前記残存信号生成機能において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させること
を特徴とする請求項13に記載の呼吸検出用プログラム。
【請求項15】
前記制御手段に対して、
前記テンプレート信号抽出機能において、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求めさせ、
前記残存信号生成機能において、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させること
を特徴とする請求項14に記載の呼吸検出用プログラム。
【請求項16】
前記制御手段に、
前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成させるテンプレート信号生成機能と、
該テンプレート信号生成機能により生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録させるテンプレート信号更新機能とを実現させ、
前記残存信号生成機能において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成機能により生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させること
を特徴とする請求項14または請求項15に記載の呼吸検出用プログラム。
【請求項17】
前記制御手段に、
最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録させるテンプレート信号追加機能を実現させ、
前記残存信号生成機能において、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加機能により追加記録される前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させること
を特徴とする請求項14または請求項15に記載の呼吸検出用プログラム。
【請求項18】
前記制御手段に対して、
前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出させ、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定させる閾値決定機能と、
前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定機能により決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行わせるノイズ低減機能と
を備え、
前記呼吸波算出ステップにおいて、前記ノイズ低減機能によりノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出させること
を特徴とする請求項13乃至請求項17のいずれか1項に記載の呼吸検出用プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムに関し、より詳細には、被検者より検出された心電図に基づいて、当該被検者の呼吸数を検出することが可能な呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検者(患者等)の呼吸状態を検出するための呼吸検出装置が知られている。一般的な呼吸検出装置として、例えば、フローセンサ、サーミスタセンサ、あるいは呼吸バンドセンサと呼ばれる装置が用いられている(例えば、特許文献1(段落[0002]等)参照)。
【0003】
フローセンサとは、鼻や口先に取り付けたセンサによって、呼吸に伴う気流変化(気流状態)をモニタリングする装置である。検出された気流状態に基づいて、被検者の呼吸状態を検出する。フローセンサは、睡眠中の無呼吸状態や低呼吸状態を調べるために用いられることが多い。
【0004】
サーミスタセンサとは、鼻や口先に取り付けた温度検知用のセンサによって、呼吸に伴って変化する温度を検出する装置である。温度変化に伴ってサーミスタの抵抗値が変化するため、抵抗値の変化に基づいて、被検者の呼吸状態を検出することができる。一般的に、人が吐く息と吸う息とは、息の温度が異なっている、したがって、息の温度差を利用することによって、呼吸の呼気および吸気を測定することができる。
【0005】
呼吸バンドセンサとは、ひずみゲージ(ストレインゲージ)付のベルトを胸部に装着することにより、被検者の呼吸状態を検出する装置である。一般的に、外力を加えて金属(抵抗体)を伸縮させると、その伸縮に伴って金属の抵抗値が増減する。このため、被検者の胸部などに抵抗体を装着させて、抵抗値の変化状態を検出する。例えば、被検者が呼吸を行うと、呼吸に伴って胸部が伸縮された状態になる。胸部が伸縮されると、胸部に装着された抵抗体が伸縮するため、電極間の抵抗値が変化する。変化する抵抗値に基づいて、被検者の呼吸状態を検出する。
【0006】
しかしながら、フローセンサやサーミスタセンサでは、鼻や口先に物理的なセンサを取り付ける必要があるため、呼吸状態を検出する時に、被検者に違和感を与えてしまう。また、センサを物理的に取り付ける必要があるため、取付負担等が生じ、装置の利便性が悪いという問題があった。また、日常生活において、被検者にセンサを取り付けて継続的に呼吸測定を行うことが困難であった。さらに、センサを使用した後(呼吸測定後)にセンサを消毒する必要があるため、装置のメンテナンス等に負担が生じていた。
【0007】
また、呼吸バンドセンサの場合には、胸部の動きを検出するために、胸部がベルトで締め付けられた状態になってしまう。このため、呼吸バンドセンサの使用に伴って、被検者に違和感と拘束感とを与えてしまうという問題があった。また、胸部に締め付けを伴うため、日常生活において継続的に測定を行うことが難しいという問題もあった。
【0008】
このような呼吸検出装置の問題を考慮して、異なる検出装置で検出されたデータを用いて、呼吸状態を検出する方法が提案されている。例えば、被検者の心電図データの波形状態に基づいて、被検者の呼吸状態を検出する方法が提案されている。ここで、心電図データとは、心臓の活動を電気信号(電気波形)として示したデータである。
【0009】
心電図データによって検出される一般的な波形は、図14に示すように、P波とQRS波とT波とによって概略的に示すことができる。心電図データの波形では、初めに小さなドーム状のP波が発生し、次に背の高い上向きのQRS波が発生し、最後に、やや大きなドーム状のT波が発生する。QRS波は、頂点R点とその前後に下向で示されるQ点とS点とによって波形が形成される。一般的にQRS波は、Q点、R点およびS点からなる一体の波形として判断される。
【0010】
心電図データでは、P波、QRS波およびT波を組み合わせたPQRST波が、1心拍毎に繰り返し発生する。1心拍分のPQRST波は、1回の心臓の拍動に対応する波形を示す。PQRST波のうち、P波は心房の興奮(収縮)を示し、QRS波は心室の興奮(収縮)を示し、T波は、心室が興奮消褪に入る状態(拡張)を示している。
【0011】
心電図データは、上述したように心臓の心房や心室等の興奮状態を電気信号として検出したものであるが、心電図データには、呼吸動作に伴う電気信号も含まれ得ることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。一般的には、呼吸筋を動員して呼吸を行う努力呼吸はもちろんのこと、安静時呼吸であっても、呼吸動作に伴って筋肉が動くため、筋肉の動きが電気信号として検出される。例えば、努力呼吸に伴う胸鎖乳突筋や、内肋間筋や、腹筋などの補助呼吸筋の活動によって電気信号が発生する。また、呼吸動作に伴う胸郭や肩などの筋肉の動きによっても、電気信号が発生する。これらの筋肉の動きに関する電気信号は、筋電図データとして心電図データに含まれる。
【0012】
したがって、呼吸動作に伴う電気信号だけを心電図データから抽出することができれば、心電図データから被検者の呼吸状態を判断することができる。特に、一般に市販されているホルター心電計等を用いることによって、日常生活において継続的に心電図データの検出を行うことができるため、日常生活において継続的に呼吸状態を検出することが可能になる。しかしながら、呼吸動作に伴う電気信号は、心臓の拍動に伴って検出される電気信号よりも弱い信号であるため、心電図データから呼吸動作に伴う電気信号だけを抽出することが困難であった。
【0013】
このような課題に対し、近年では、心臓の興奮状態を示す電気信号、つまり、PQRST波の成分を、心電図データから取り除くことによって、呼吸状態を検出する方法が研究されている(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。
【0014】
心電図データから呼吸状態を検出する方法として、例えば、X,Y,Z(直交する3軸方向)の直交双極誘導を用いて、それぞれの心電図データを導出した後に、各誘導により得られた信号を120Hzで低域遮断することによって、PQRST波の低周波成分を低減させる。その後に、X,Y,Z誘導で求められた信号の3次元ベクトルマグニチュード値を時間減衰積分することにより、呼吸波形を抽出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特許第5323532号明細書
【0016】

【非特許文献1】関口浩至、近藤豊、久木田一朗、「表面筋電図を使用した補助呼吸筋の活動分析による努力呼吸の評価」、人工呼吸、一般社団法人日本呼吸療法医学会、2013年4月1日公開、第30巻第1号
【非特許文献2】原正壽、外7名、「LP測定時における呼吸検出法の一案」、第25回 体表心臓微小電位研究会 プログラム・抄録集、体表心臓微小電位研究会、2015年2月28日
【非特許文献3】原正壽、外7名、「ホルター心電計による呼吸筋電図検出法-いかに心電図を消去するか-」、第31回心電情報処理ワークショップ抄録集、2015年10月21日、p.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、心電図データを120Hzで低域遮断する方法では、低減遮断処理によって、呼吸動作に伴う信号成分も低減されてしまう傾向があった。このため、十分な検出精度で呼吸波形を求めることが難しいという問題があった。また、120Hzの低域遮断によって、PQRST波の波形成分を低減させることはできるが、120Hz以上の周波数成分にもPQRST波の成分が含まれるため、PQRST波成分の一部が残されてしまう。このため、心電図データを120Hzで低域遮断する方法では、PQRST波の信号レベル(振幅)がノイズとして残ってしまい、呼吸状態の信号成分を十分に検出することが難しいという問題があった。さらに、呼吸に関わる筋電図は120Hz以下の成分も含んでいるため、120Hzで遮断すると、筋電図成分は少なくなり、抽出した呼吸波形が弱くなるという問題があった。
【0018】
本発明は上記問題に鑑みて成されたものであり、心電図データからPQRST波の成分を除去することによって、被検者の心電図データから呼吸状態を検出することが可能な呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明に係る呼吸検出装置は、被検者の心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出する基本信号抽出手段と、該基本信号抽出手段により過去に抽出された前記被検者の基本信号をテンプレート信号として記録する記録手段と、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記記録手段に記録された前記テンプレート信号を減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成する残存信号生成手段と、前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する呼吸波算出手段と、前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出する呼吸数検出手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る呼吸検出方法は、被検者の心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出する基本信号抽出ステップと、該基本信号抽出ステップにおいて過去に抽出された前記被検者の基本信号がテンプレート信号として記録手段に記録され、当該記録手段から読み出された前記テンプレート信号を、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成する残存信号生成ステップと、前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する呼吸波算出ステップと、前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出する呼吸数検出ステップとを備えることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明に係る呼吸検出用プログラムは、被検者の心電図データに基づいて当該被検者の呼吸数を検出する呼吸検出装置用の呼吸検出用プログラムであって、前記呼吸検出装置は記録手段を有し、前記呼吸検出装置の制御手段に、前記心電図データから、1心拍分のPQRST波を含む基本信号を継続して抽出させる基本信号抽出機能と、該基本信号抽出機能において過去に抽出された前記被検者の基本信号がテンプレート信号として前記記録手段に記録されており、前記記録手段から読み出された前記テンプレート信号を、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から減算することによって、前記心電図データから前記PQRST波の成分を除去した残存信号を生成させる残存信号生成機能と、前記残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、当該差分の変化を累積的に求めることにより、前記被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出させる呼吸波算出機能と、前記呼吸波の波形変化に基づいて単位時間当たりの呼吸数を検出させる呼吸数検出機能とを実現させることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、被検者より検出された1心拍分のPQRST波を含む基本信号から、テンプレート信号を減算することにより、心電図データからPQRST波の成分を除去する。ここで、テンプレート信号は、同じ被検者より過去に抽出された心電図データ(基本信号)である。
【0023】
一般的な心電図データのPQRST波は、被検者が異なるとその波形の特徴が異なる傾向がある。このため、本発明に係る呼吸検出装置等のように、同じ被検者によって過去に抽出された基本信号をテンプレート信号とすることにより、テンプレート信号の波形と、心電図データから抽出されるPQRST波の波形とが、近似したものとなる。したがって、被検者の心臓の拍動に伴って検出される心電図データのPQRST波を、同じ被検者により生成されたテンプレート信号のPQRST波で減算することによって、心電図データから効果的にPQRST波の成分を除去することが可能になる。
【0024】
また、心電図データからPQRST波の成分が除去された残存信号には、被検者の呼吸動作に伴う筋肉の動きを示した電気信号が含まれる。しかしながら、残存信号の振幅変化に含まれる呼吸動作の振幅変化(電圧変化)は、心臓の拍動に伴う振幅変化を示したPQRST波の成分に比べて変化が少ない。したがって、残存信号のままでは、筋肉の動きに伴い変化する呼吸状態を把握する精度に影響する。
【0025】
このため、本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、呼吸波として、残存信号の輪郭線を算出する。つまり、残存信号が一定時間毎に変化する振幅値の差を差分として求め、求められた差分の変化を累積的に求めることにより、被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する。このように、呼吸動作に伴う筋肉の動きの振幅変化の差(振幅値の差分)を求めて、差分の変化を累積的に求めることによって、PQRST波の成分よりも振幅変化の少ない呼吸動作の筋肉の動きを、顕在化することが可能になる。呼吸動作時の筋肉の動きが顕在化された呼吸波に基づいて、単位時間当たりの波形変化を求めることによって、被検者の呼吸数を心電図データから検出することが可能になる。
【0026】
また、上述した呼吸検出装置において、前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段に記録された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出するテンプレート信号抽出手段を備え、前記残存信号生成手段は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することによって、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0027】
さらに、上述した呼吸検出方法において、前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段より読み出された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出するテンプレート信号抽出ステップを備え、前記残存信号生成ステップにおいて、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0028】
また、上述した呼吸検出用プログラムにおいて、前記記録手段には、少なくとも1つ以上の前記テンプレート信号が記録されており、前記制御手段に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号の波形と、前記記録手段より読み出された前記テンプレート信号の波形との相関係数を、前記記録手段に記録された全ての前記テンプレート信号について求めることにより、相関係数が最も高い値を示す前記テンプレート信号を1つだけ抽出させるテンプレート信号抽出機能を実現させ、前記残存信号生成機能において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させるものであってもよい。
【0029】
本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、基本信号の波形と、テンプレート信号の波形との相関係数を求める。さらに、相関係数を求める処理は、記録手段に記録される全てのテンプレート信号に対してそれぞれ行われる。例えば、テンプレート信号が記録手段にn個記録されている場合には、n個のそれぞれのテンプレート信号と、被検者の心電図データから抽出される基本信号との相関係数を求めるため、n個の相関係数が求められる。
【0030】
求められたn個の相関係数のうち、最も値が高い相関係数を示したテンプレート信号の波形は、被検者の心電図データから抽出される基本信号の波形に、最も類似する波形であると判断できる。このため、被検者の心電図データより抽出される基本信号から、最も値が高い相関係数を示したテンプレート信号を減算することによって、心電図データからPQRST波の成分を効果的に除去することが可能になる。
【0031】
また、上述した呼吸検出装置において、前記テンプレート信号抽出手段は、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求め、前記残存信号生成手段は、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置において、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することによって、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0032】
さらに、上述したこと呼吸検出方法は、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求め、前記残存信号生成ステップにおいて、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置で、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0033】
また、上述した呼吸検出用プログラムにおいて、前記制御手段に対して、前記テンプレート信号抽出機能において、前記基本信号に含まれる前記PQRST波のR点を基準として、前記テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、前記相関係数を求めさせ、前記残存信号生成機能において、前記相関係数が最も高い値を示した時間位置において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させるものであってもよい。
【0034】
本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、基本信号に含まれるPQRST波のR点を基準として、テンプレート信号のPQRST波におけるR点の時間位置を少しずつずらしながら、相関係数を求めることにより、互いの信号のPQRST波成分が最も類似する時間位置の相関係数を求めることができる。
【0035】
このため、相関係数が最も高い値を示した時間位置において、被検者の心電図データより抽出される基本信号から、最も値が高い相関係数を示したテンプレート信号を減算することによって、心電図データからPQRST波の成分をより効果的に除去することが可能になる。
【0036】
また、上述した呼吸検出装置は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出手段により1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成するテンプレート信号生成手段と、該テンプレート信号生成手段により生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録するテンプレート信号更新手段とを備え、前記残存信号生成手段は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成手段により生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0037】
さらに、上述した呼吸検出方法は、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出ステップにおいて1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成するテンプレート信号生成ステップと、該テンプレート信号生成ステップにおいて生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録させるテンプレート信号更新ステップとを備え、前記残存信号生成ステップにおいて、前記基本信号抽出ステップにより抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成ステップにおいて生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0038】
また、上述した呼吸検出用プログラムにおいて、前記制御手段に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号と、前記テンプレート信号抽出機能により1つだけ抽出された前記テンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成させるテンプレート信号生成機能と、該テンプレート信号生成機能により生成された新たなテンプレート信号を、前記1つだけ抽出された前記テンプレート信号に換えて、前記記録手段に記録させるテンプレート信号更新機能とを実現させ、前記残存信号生成機能において、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号生成機能により生成された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させるものであってもよい。
【0039】
本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、被検者の心電図データから抽出される基本信号と、最も値が高い相関係数を示したテンプレート信号とを合成することにより、新たなテンプレート信号を生成する。合成処理によって新たなテンプレート信号を生成することによって、合成前のテンプレート信号の波形を、心電図データから抽出される基本信号の波形に類似した波形へ改良することができる。したがって、被検者の心電図データより抽出される基本信号から、合成された新たなテンプレート信号を減算することによって、より類似性の高い波形を用いて減算処理を行うことができる。このため、心電図データからPQRST波の成分を、より効果的に除去することが可能になる。
【0040】
また、上述した呼吸検出装置は、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録するテンプレート信号追加手段を備え、前記残存信号生成手段は、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加手段により追加記録された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0041】
さらに、上述した呼吸検出方法は、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録するテンプレート信号追加ステップを備え、前記残存信号生成ステップにおいて、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加ステップにおいて追加記録された前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成するものであってもよい。
【0042】
また、上述した呼吸検出用プログラムにおいて、前記制御手段に、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号を、新たなテンプレート信号として前記記録手段に追加記録させるテンプレート信号追加機能を実現させ、前記残存信号生成機能において、最も高い値を示した前記相関係数が、予め設定される閾値以下である場合に、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号から、前記テンプレート信号追加機能により追加記録される前記新たなテンプレート信号を減算することにより、前記残存信号を生成させるものであってもよい。
【0043】
最も高い値を示した相関係数が、予め設定される閾値以下である場合とは、被検者の心電図データから抽出される基本信号と、記録手段に記録されたテンプレート信号のうち最も類似性の高いテンプレート信号とが、予め想定した相関性を満たしていない場合を意味する。このような場合には、被検者の心電図データより抽出される基本信号からテンプレート信号を減算しても、心電図データのPQRST波の成分を十分に除去することができない。
【0044】
したがって、予め設定される閾値の相関性を満たさない場合に、相関性を満たさなかった基本信号を、あえて新たなテンプレート信号として記録手段に追加記録させる。そして、心電図データより抽出される基本信号から、追加された新たなテンプレート信号を減算することによって、心電図データから、より効果的にPQRST波の成分を除去することが可能になる。
【0045】
また、新たに追加されたテンプレート信号は、既に記録手段に記録されている他のテンプレート信号に類似しない波形になる可能性が高い。このため、さまざまな波形に対応したテンプレート信号を用意することが可能になる。さらに、新たに追加されたテンプレート信号は、ノイズによって波形が崩されるPQRST波の波形や、心室早期収縮などの不整脈によるPQRST波の波形を除去する処理に利用することができる。
【0046】
また、上述した呼吸検出装置は、前記基本信号抽出手段により抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出し、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定する閾値決定手段と、前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定手段により決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行うノイズ低減手段とを備え、前記呼吸波算出手段は、前記ノイズ低減手段によりノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出するものであってもよい。
【0047】
さらに、上述した呼吸検出方法は、前記基本信号抽出ステップにおいて抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出し、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定する閾値決定ステップと、前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定ステップにおいて決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行うノイズ低減ステップとを備え、前記呼吸波算出ステップでは、前記ノイズ低減ステップにおいてノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出するものであってもよい。
【0048】
また、上述した呼吸検出用プログラムにおいて、前記制御手段に対して、前記基本信号抽出機能により抽出される前記基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値を検出させ、当該振幅値の標準偏差に基づいて、前記残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定させる閾値決定機能と、前記残存信号の振幅値のうち、前記閾値決定機能により決定された前記閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用することにより、前記残存信号に対するノイズの低減を行わせるノイズ低減機能とを備え、前記呼吸波算出ステップにおいて、前記ノイズ低減機能によりノイズの低減が行われた前記残存信号を用いて、前記呼吸波を算出させるものであってもよい。
【0049】
心電図データより抽出される基本信号において、P波の終点からQRS波の始点までのタイミングは、心房の興奮(収縮)後から心室の興奮(収縮)前までのタイミングに該当するため、心臓の動きが少ない。したがって、この区間で検出される振幅値は、検出量・変動量が少ない傾向がある。振幅値(電圧値)の検出量・変動量が少ない区間において、一定範囲外の振幅値(電圧値)が検出される場合には、振幅値に何らかのノイズが含まれていると推定することができる。
【0050】
このため、本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、基本信号のP波の終点からQRS波の始点までの間の振幅値の標準偏差に基づいて、残存信号のノイズ判定に用いる閾値を決定する。これにより、ノイズに該当する可能性の高い振幅値をより効果的かつ高精度に求めることが可能になる。
【0051】
さらに、残存信号の振幅値のうち、決定された閾値に収まらなかった振幅値に対して、メディアンフィルタを適用する。メディアンフィルタを適用して、残存信号に対するノイズを低減させることによって、残存信号の信号波形に対する精度を全体として保ちつつ、局所的なノイズを違和感なくかつ精度よく除去することが可能になる。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、被検者より検出された1心拍分のPQRST波を含む基本信号から、テンプレート信号を減算することにより、心電図データからPQRST波の成分を除去する。本発明に係る呼吸検出装置等のように、同じ被検者より抽出された基本信号のPQRST波に基づいて、テンプレート信号を生成することによって、テンプレート信号の波形と、心電図データから抽出されるPQRST波の波形とが、近似したものとなる。したがって、被検者の心臓の拍動に伴って検出される心電図データのPQRST波を、同じ被検者より生成されたテンプレート信号のPQRST波成分で減算することによって、心電図データから効果的にPQRST波の成分を除去することが可能になる。
【0053】
また、本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出方法および呼吸検出用プログラムでは、残存信号が一定時間毎に変化する振幅値の差を差分として求め、求められた差分の変化を累積的に求めることにより、被検者の呼吸状態を示した呼吸波を算出する。このように、呼吸動作に伴う筋肉の動きの振幅変化の差(振幅値の差分)を求めて、差分の変化を累積的に求めることによって、PQRST波の成分よりも振幅変化の少ない呼吸動作に伴う筋肉の動きを、顕在化することが可能になる。呼吸動作時の筋肉の動きが顕在化された呼吸波に基づいて、単位時間当たりの波形変化を求めることによって、被検者の呼吸数を心電図データから検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態に係る呼吸検出装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】実施の形態に係るCPUの処理内容を示したフローチャートである。
【図3】図2に示した処理の一部を詳細に示したフローチャートである。
【図4】図3に示した処理の一部を詳細に示したフローチャートである。
【図5】(a)は、受信された心電図データの一例を示した図であり、(b)は、P波の始点P1とT波の終点P2とを示した図である。
【図6】(a)~(c)は、現在の基本信号に含まれるPQRST波のRa点を基準として、i番目のテンプレート信号のPQRST波成分におけるRb点の時間位置を少しずつずらしながら、相関係数の算出を行う処理を説明するための図である。
【図7】現在の基本信号と、最も相関係数の高いk番目のテンプレート信号とを合成して、新たなテンプレート信号を生成する処理を説明するための図である。
【図8】(a)は、残存信号の振幅値の変化状態を示した図であり、(b)は、(a)に対して閾値S1と閾値S2とを示した図であり、(c)は、(a)に示す残存信号にメディアンフィルタを適用した信号を示した図である。
【図9】(a)は、ヒルベルト変換が施された残存信号を示した図であり、(b)は、呼吸波z1を示した図である。
【図10】(a)は、残存信号の差分y(m)を示した図であり、(b)は、差分y(m)の絶対値を示した図であり、(c)は、呼吸波z2を示した図である。
【図11】(a)は、差分積分法を用いて算出された呼吸波を示し、(b)は、(a)と同じタイミングで、サーミスタセンサを用いて検出した被検者の呼吸状態を示した波形である。また、(c)は、ヒルベルト変換を用いて算出した呼吸波を示し、(d)は、(c)同じタイミングで、サーミスタセンサを用いて検出した被検者の呼吸状態を示した波形である。
【図12】上気道で吸気に負荷を生じさせる呼吸負荷装置を用いて被検者が呼吸を行った場合であって、(a)は、被検者の心電図の波形を示し、(b)は、呼吸バンドセンサを用いて検出された呼吸信号の波形を示し、(c)は、心電図に基づいて検出された呼吸波を示した図である。
【図13】(a)は、中枢性睡眠時無呼吸症候群の被検者の心電図データから求めた差分信号を示し、(b)は呼吸波を示した図である。
【図14】一般的な心電図データのPQRST波を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明に係る呼吸検出装置に関して、その一例を示し、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に係る呼吸検出装置の一例となる、呼吸検出装置1の概略構成を示したブロック図である。呼吸検出装置1は、CPU(制御手段、基本信号抽出手段、残存信号生成手段、呼吸波算出手段、呼吸数検出手段、テンプレート信号抽出手段、テンプレート信号生成手段、テンプレート信号更新手段、テンプレート信号追加手段、閾値決定手段、ノイズ低減手段)10と、データ受信部12と、ROM(Read-only memory)14と、RAM(Random-access memory,記録手段)16と、表示部18とを備えている。また、呼吸検出装置1は、ホルター心電計等の一般的な心電図検出装置20よって検出された心電図データ(心電図波形)を、リアルタイムに読み取ることが可能となっている。このため、呼吸検出装置1は、一般的な心電図検出装置20のオプション品等として用いることも可能である。

【0056】
データ受信部12は、心電図検出装置20よって検出された心電図データを、継続的に受信(取得)する。データ受信部12は、心電図検出装置20と有線ケーブルを介して、あるいは無線通信を用いて、心電図データを受信する。データ受信部12によって受信された心電図データは、RAM16に記録される。

【0057】
ROM14は、CPU10における処理内容を示したプログラムや、処理に用いられるパラメータ等(例えば、後述する相関係数の閾値等)が予め記録されている。また、RAM16は、CPU10の処理に一時的に利用される作業領域として機能し、各種設定値やデータを一時的に記録する。

【0058】
表示部18は、CPU10に基づいて算出された呼吸波(例えば、後述する図11(a)(c)など)等を、視覚的に示すための表示手段である。表示部18として、一般的な表示手段である液晶ディスプレイ等を用いることが可能である。

【0059】
CPU10は、ROM14に記録されるプログラム(例えば、後述する図2~図4に示すフローチャート用のプログラム)に基づいて、心電図検出装置20から受信した心電図データから呼吸波を算出し、呼吸数を求める処理を行う。

【0060】
図2~図4は、CPU10の処理内容を示したフローチャートである。CPU10は、図2~図4に示したフローチャートに基づいて、心電図データから呼吸数の検出を行う。なお、図2~図4に示したフローチャートに基づく処理内容は、プログラムとしてROM14に記録されており、CPU10は、ROM14から読み出されたプログラムに基づいて、図2~図4に示される処理を実行する。

【0061】
図2は、CPU10において、呼吸数を検出するためのメイン処理を示したフローチャートである。CPU10は、図2に示すように、データ受信部12を介して、心電図検出装置20より心電図データを受信する(S.01)。心電図データは、図14を用いて既に説明したように、P波、QRS波、T波よりなる1心拍分の波形(振幅変化)が、心拍に応じて連続的に示されたデータである。CPU10では、継続的に心電図データを受信することによって、リアルタイムに心電図データを取得する。図5(a)は、受信された心電図データの一例を示した図である。図5(a)に示す心電図データには、図5(b)に示すように、継続的に受信された3心拍分のPQRST波が含まれている。

【0062】
次に、CPU10は、取得された心電図データからPQRST波の区分点検出を行う(S.02)。具体的に、CPU10は、心電図データよりQRS波の頂上部分を検出し、検出された頂上部分のR点の振幅値を基準として、P波の始点、T波の終点、QRS波の始点等を求める。具体的な検出方法は、非特許文献である「Jiapu Pan and WJ Tompkins, A Real-Time QRS Detection Algorithm, IEEE Transaction on Biomedical Engineering, Vol. BME-32, No. 3, March 1985, pp.230-236」、「PS Hamilton and WJ Tompkins, Quantitative Investigation of QRS Detection Rules Using the MIT/BHI Arrhythmia Database, IEEE Transaction on Biomedical Engineering, Vol. BME-33, No. 12, Dec. 1986, pp.1157-1165」、「P Laguna, R. Jane, P. Caminal., Automatic detection of wave boundaries in multilead ECG signals: validation with the CSE database, Computers and Biomedical Research, Vol. 27, Issue 1, February 1994, pp.45-60」等に記載されているため、ここでの詳細な説明は省略する。

【0063】
図5(b)には、図5(a)に示した心電図データに対し、P波の始点P1とT波の終点P2とを一例として示している。CPU10は、心電図データの波形からP波、QRS波およびT波の区分点を検出する。区分点を検出することによって、1心拍の心電図データに含まれるP波、QRS波およびT波の発生タイミング(発生時間)を、P波の始点を基準として求めることが可能になる。

【0064】
そして、CPU10は、区分点の検出に基づいて、心電図データから1心拍分のPQRST波を含む信号長を判断し、1心拍分のPQRST波を含む信号を基本信号として、心電図データから継続的に抽出する(S.03)。抽出される基本信号は、RAM16に順次記録される。

【0065】
次に、CPU10は、P波の終点からQRS波の始点までの基本信号の振幅値(電圧値)に基づいて、ノイズレベル判断の閾値(ノイズ判定に用いる閾値)を決定する(S.04)。P波の終点からQRS波の始点までのタイミングは、心房の興奮(収縮)後から心室の興奮(収縮)前までのタイミングに該当するため、心臓の動きが少ない。したがって、図14に示すように、この区間で検出される振幅値は、検出量・変動量が少ない傾向がある。振幅値(電圧値)の検出量・変動量が少ない区間において、一定範囲外(マイナスの一定値より小、あるいはプラスの一定値より大)の振幅値(電圧値)が検出される場合には、振幅値に何らかのノイズが含まれていると推定することができる。

【0066】
CPU10は、P波の終点からQRS波の始点まで細かく振幅値(電圧値)を検出し、検出された複数の振幅値(電圧値)に基づいて標準偏差を算出する。本実施の形態に係るCPU10では、この標準偏差を基準とし、ノイズレベル判断の閾値範囲(閾値S2、閾値S1)に決定する。本実施の形態では、一例として、予め設定されたa用いて、-a×標準偏差(閾値S2)から+a×標準偏差(閾値S1)までの振幅値範囲(電圧値範囲)を、ノイズレベル判断の閾値範囲(閾値S2、閾値S1)とする。aの値は特に限定されないが、例えば、整数の値を用いることができる。aは、予めROM14に記録されている。

【0067】
CPU10は、-a×標準偏差(閾値S2)から+a×標準偏差(閾値S1)までの範囲を超える振幅値(電圧値)が検出された場合に、振幅値にノイズが含まれていると判断する。CPU10は、求められたノイズレベル判断の閾値S1と閾値S2とを、RAM16に記録する。

【0068】
次に、CPU10は、心電図データからPQRST波の成分を除去する処理を行う(S.05)。図3は、CPU10が、PQRST波の成分を除去する処理内容を示したフローチャートである。

【0069】
CPU10は、まず、S.03の処理において抽出された、1心拍分のPQRST波を含む最初の基本信号を、最初のテンプレート信号として、RAM16に記録する(S.11)。この処理(S.11)によってRAM16に記録された最初の基本信号は、最初のテンプレート信号となる。

【0070】
なお、RAM16に記録されるテンプレート信号は、1つには限定されない。後述する処理において、CPU10は、所定の条件を満たすPQRST波の信号を、テンプレート信号として、RAM16に記録する処理を行う(例えば、後述する図4のS.26,S.29等)。したがって、RAM16に記録されるテンプレート信号は、複数となる場合もある。記録されたテンプレート信号の更新処理(図4のS.27)、あるいは、新たな(2つ目以降の)テンプレート信号の追加処理(図4のS.29)に関しては、後述する。

【0071】
次に、CPU10は、RAM16に記録された最初の基本信号(心電図データの1心拍分のPQRST波を含む信号)から、RAM16に記録したテンプレート信号を減算する処理を行う(S.12)。心電図データの基本信号から、テンプレート信号を減算することによって、心電図データにおけるPQRST波の成分が除去される。

【0072】
次に、CPU10は、データ受信部12を介して受信された心電図データに基づいて、次の基本信号(次の1心拍分のPQRST波を含む信号)が抽出された否かを判断する(S.13)。次の基本信号を抽出できない場合(S.13においてNoの場合)、例えば、被検者における心電図データの検出処理が終了等して、データ受信部12を介して心電図データが受信されない場合等、CPU10は、図3に示す処理を終了し、図2に示すS.06に処理を移行する。次の基本信号を抽出した場合(S.13においてYesの場合)、CPU10は、図4に示すテンプレート信号の更新追加処理(S.14)を実行した後、処理をS.13に移行して、次の基本信号が抽出されたか否かの判断処理(S.13)を繰り返し実行する。

【0073】
図4は、テンプレート信号の更新追加処理を示したフローチャートである。CPU10は、次の基本信号を抽出した場合(図3のS.13においてYesの場合)、抽出した次の基本信号を、現在の基本信号としてRAM16に記録する(S.21)。

【0074】
そして、CPU10は、記録した現在の基本信号の波形と、RAM16に記録されるテンプレート信号の波形との相関係数を算出する(S.22)。具体的には、n個のテンプレート信号が、RAM16に記録されている場合、CPU10は、1個目から順番にテンプレート信号をRAM16から読み出す。そして、CPU10は、現在の基本信号の波形と、i番目(i=1,2,・・・,n)のテンプレート信号の波形とを比較して、相関係数を算出する。

【0075】
相関係数を算出する場合、CPU10は、図6(a)~(c)に示すように、現在の基本信号に含まれるPQRST波のRa点を基準として、i番目のテンプレート信号のPQRST波におけるRb点の時間位置を、w時間前からw時間後までの2w時間の間で、少しずつずらしながら、複数の時間位置で相関係数の算出を行う。

【0076】
同じ被検者の心電図データであっても、心拍毎に検出されるPQRST波の波形が、全て同じ波形になることはない。例えば、心拍が早い場合や、不整脈が発生する場合には、PQRST波の始めから終わりまでの長さだけでなく、P波、QRS波、T波の間隔等が変化する場合がある。このため、2w時間の間で少しずつ時間位置をずらしながら複数の相関係数を算出することによって、最良の相関係数を算出することができる。

【0077】
なお、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、最良となる相関係数が算出された時間位置をt(-w<t<+w)とする。なお、上述した時間wは、w>0以上の時間であればよく、例えば、0.05秒×サンプリングレート等の時間を一例として設定することが可能である。この時間wの設定は特定の値に限定されるものではなく、さまざまな値を用いることができる。

【0078】
次に、CPU10は、1~n番目までの全てのテンプレート信号について、それぞれのテンプレート信号毎に、最も値が高い相関係数と、その相関係数が算出された時の時間位置tとを求める(S.23)。つまり、n個の相関係数と、n個の時間位置tとが求められる。

【0079】
そして、CPU10は、n個の相関係数のうち、最も値が高い相関係数を1つだけ抽出すると共に、抽出された相関係数を算出したテンプレート信号(このテンプレート信号を、k番目のテンプレート信号とする)と、抽出された相関係数が算出された時間位置tkとを求める(S.24)。つまり、S.23およびS.24の処理によって、現在の基本信号に対して最も値が高い相関係数と、この相関係数が求められたk番目のテンプレート信号と、相関係数が最も高くなる時間位置tkとを求めることができる。

【0080】
次に、CPU10は、求められた最も値の高い相関係数が、予め設定される閾値よりも大きい値であるか否かの判断を行う(S.25)。この閾値は、予めROM14等に記録される値である。一般的に相関係数の値は+1から-1までの範囲の値となる。本実施の形態では、0.75から0.90までの範囲のいずれかの値が閾値として設定される。

【0081】
最も値の高い相関係数が予め設定される閾値よりも大きい場合(S.25においてYesの場合)、CPU10は、最も値の高い相関係数を示したk番目のテンプレート信号に基づいて、新たなテンプレート信号を生成する(S.26)。図7は、新たなテンプレート信号を生成する処理を説明した図である。現在の基本信号と、最も値の高い相関係数を示したk番目のテンプレート信号とを合成することによって、新たなテンプレート信号を生成する。具体的には、更新係数αを用いて合成を行う。更新係数αは、0<α<1の範囲からなる定数である。

【0082】
CPU10は、現在の基本信号に対して更新係数αを掛け合わせた信号と、k番目のテンプレート信号に対して(1-α)の係数を掛け合わせた信号とを、互いに足し合わせることによって、新たなテンプレート信号を生成する。足し合わせを行う場合には、現在の基本信号のRa点と、k番目のテンプレート信号のRb点とが一致する時間位置に、それぞれのPQRST波成分の時間位置が調整される。本実施の形態では、更新係数αの値の一例として、α=0.1を用いる。

【0083】
そして、CPU10は、生成された新たなテンプレート信号を、RAM16に記録されていた「合成前のk番目のテンプレート信号」に換えて、RAM16に記録する。つまり、CPU10は、RAM16に記録されていたk番目のテンプレート信号を、新たに生成されたテンプレート信号に更新する(置き換える)処理を行う(S.27)。

【0084】
次に、CPU10は、更新された新たなテンプレート信号の時間位置を時間位置tkに調整した上で、現在の基本信号から、更新された新たなテンプレート信号を減算する(S.28)。本実施の形態に係るCPU10では、減算処理を行う前に、更新された新たなテンプレート信号に対して、現在の基本信号との最小二乗回帰処理を行い、新たなテンプレート信号の振幅値幅(電圧値幅)の調整を行う。調整後に減算処理を行うことにより、CPU10は、心電図データ(継続して抽出される基本信号)から、P波、QRS波およびT波の波形成分を取り除いた信号(以下、残存信号とする)を求める。CPU10は、求められた残存信号を、RAM16に記録する。そして、CPU10は、処理を図3に示すS.13に移行する。

【0085】
一方で、最も値の高い相関係数が、予め設定される閾値よりも大きくない場合(S.25においてNoの場合)、CPU10は、現在の基本信号のデータを、新たなテンプレート信号(n+1番目のテンプレート信号)として、RAM16に追加する(S.29)。

【0086】
相関係数が閾値よりも大きくない場合とは、最も値の高い相関係数を示したk番目のテンプレート信号の波形と、現在の基本信号の波形とが、想定したよりも類似していないことを意味する。つまり波形が異なっているか、あるいは正反対に近い振幅値変化をする波形(相関係数がマイナスの場合)であると考えられる。このように2つの信号の相関が低い場合には、例えば、現在の基本信号におけるP波、QRS波またはT波の振幅の高さ、波形と波形との間隔、波長などが、k番目のテンプレート信号と大きく異なっていると考えられる。

【0087】
このように、相関係数が最も高い値であって、現在の基本信号の波形に類似する可能性が高いk番目のテンプレート信号を抽出したにも係わらず、予め設定される閾値よりも相関係数が低い場合がある。このように、現在の基本信号の波形が、テンプレート信号の波形と非類似となる可能性が高い場合には、現在の基本信号を、新たなテンプレート信号として、RAM16に追加記録する。テンプレート信号の波形と非類似となる基本信号を、新たなテンプレート信号としてRAM16に追加記録することによって、従来のテンプレート信号では十分に除去することが難しいP波、QRS波、T波の振幅を、新たなテンプレート信号によって効果的に低減させることが可能になる。

【0088】
CPU10は、現在の基本信号から、S.29において新たに加えられたテンプレート信号を減算することによって、現在のテンプレート信号から、P波、QRS波およびT波の波形成分を取り除いた信号を求めて、RAM16に記録する(S.30)。

【0089】
また、RAM16には、既に記録されているテンプレート信号の数が、パラメータnとして記録されている。従って、新たなテンプレート信号がRAM16に追加される場合(S.29)、CPU10は、RAM16に記録されるパラメータnの値をn+1に更新して(S.31)、処理を図3に示すS.13へ移行する。

【0090】
次に、CPU10は、減算処理によってP波、QRS波およびT波の成分が除去された残存信号の振幅値(電圧値)のうち、S.04の処理で決定されたノイズレベル判断の閾値を超えた振幅値(電圧値)を求めて、閾値を超えた振幅値を低減させる処理を行う(図2に示すS.06)。

【0091】
S.04の処理で説明したように、CPU10は、-a×標準偏差(閾値S2)と+a×標準偏差(閾値S1)とをノイズレベル判断の閾値として決定する。したがって、CPU10は、振幅値がa×標準偏差(閾値S1)の値を超える振幅値を検出した場合、その振幅値にノイズが含まれていると判断する。また同様に、CPU10は、-a×標準偏差(閾値S2)の値よりも小さい振幅値を検出した場合、その振幅値にノイズが含まれていると判断する。そして、CPU10は、ノイズが含まれると判断された残存信号に対して、メディアンフィルタを適用する。メディアンフィルタを適用することによって、ノイズが含まれると判断された振幅値は、その前後のタイミング(時間位置)で検出された振幅値の中間値になるように低減(修正)される。このようにして、振幅値の値が低減されることによって、残存信号の振幅値は、閾値S2(-a×標準偏差)から閾値S1(a×標準偏差)の範囲に制限され、残存信号からノイズが除去される。

【0092】
図8(a)は、一例として、残存信号における5秒間の振幅値(電圧値)の変化状態を示した図である。また、図8(b)は、図8(a)に示した残存信号に対して、振幅のプラス側の閾値S1と、マイナス側の閾値S2とを示した図である。そして、図8(c)は、図8(a)に示された残存信号に対してメディアンフィルタを適用することにより、ノイズの除去が行われた残存信号を示した図である。

【0093】
次に、CPU10は、ノイズの除去が行われた残存信号に基づいて、呼吸波を算出する処理を行う(S.07)。残存信号は、心電図データからPQRST波の成分が除去された信号であるため、心臓の拍動に伴って変化する振幅成分(電圧成分)は、観察されない。一方で、残存信号には、呼吸動作に伴って変化する筋肉の動きの振幅成分(電圧成分、筋電図データ成分)が含まれている。しかしながら、呼吸動作に伴って変化する筋肉の動きの振幅成分(電圧成分)は変化量が小さいため、残存信号の振幅変化をそのまま観察しても、呼吸動作に伴って変化する筋肉の動きの振幅成分を観測することが難しい。したがって、CPU10は、残存信号の一定時間毎の振幅値の差を差分として求めて、振幅値の差分の変化状態を累積的に求めることによって、呼吸波を求める。なお、呼吸波とは、呼吸動作に伴う筋電図成分の振幅(電圧)変化を示した信号である。

【0094】
例えば、ノイズが除去された残存信号に対して、ヒルベルト変換あるいは差分積分法を適用することによって、時間毎の振幅値差(電圧値差)の変化状態を累積的に求めることができる。

【0095】
ヒルベルト変換を用いて呼吸波を算出する場合には、残存信号の波形をxとし、残存信号にヒルベルト変換を施した関数をyとする。

【0096】
y=Hilbert(x) ・・・式1
このとき、呼吸波z1は、
z1=(y*y+x*x)0.5 ・・・式2
で求めることができる。ここで、式2に示した「*」は、畳み込み積分を意味している。

【0097】
図9(a)は、ヒルベルト変換が施された残存信号を示した図である。図9(b)は、式2に基づいて求められた呼吸波z1を示した図である。呼吸波z1において、振幅値が山になっている部分は吸気動作を示し、谷になっている部分は呼気動作を示している。

【0098】
また、差分積分法を用いて呼吸波を算出する場合には、まず、残存信号xの差分yを算出し、
y(m)=x(m+1)-x(m-1) ・・・式3
求められた差分y(m)の絶対値を求めて、絶対値の時間積分を算出することによって呼吸波z2を求める。

【0099】
z2(m)=sum(abs(y(i)*wf(j)) ・・・式4
但し、i=m-u/2,・・・,m+u/2
j=-u/2,・・・,u/2 であり、
wfは窓関数(例えば、Hanning窓を用いる)を示し、uは窓関数の長さを示している。

【0100】
図10(a)は、式3に基づいて求められた残存信号の差分y(m)を示した図であり、図10(b)は、差分y(m)の絶対値を示した図である。また、図10(c)は、式4に基づいて求められた呼吸波z2を示した図である。呼吸波z2も呼吸波z1と同様に、振幅値が山になっている部分は吸気動作を示し、谷になっている部分は呼気動作を示している。

【0101】
このように、残存信号に含まれる呼吸時の筋電図データに基づいて、呼吸波を求めることによって、呼気動作と吸気動作とを心電図データから求めること可能になる。図11(a)~(d)は、心電図データから求めた呼吸波の波形と、実際にサーミスタセンサを用いて検出した呼吸動作の波形とを示している。(a)は、差分積分法を用いて算出された呼吸波を示し、(b)は、(a)の呼吸波と同じタイミングで、サーミスタセンサを用いて検出した被検者の呼吸状態を示した波形である。また、(c)は、ヒルベルト変換を用いて算出した呼吸波を示し、(d)は、(c)の呼吸波と同じタイミングで、サーミスタセンサを用いて検出した被検者の呼吸状態を示した波形である。

【0102】
図11(a)と図11(b)とを比較すると、それぞれの波形の起伏変化がほぼ一致している。したがって、呼吸動作の呼気および吸気のタイミングが図11(a)と(b)とで対応していると判断できる。また、同様に、図11(c)と図11(d)とを比較すると、それぞれの波形の起伏変化がほぼ一致しており、呼吸動作の呼気および吸気のタイミングが図11(c)と(d)とで対応していると判断できる。図11(a)~(d)より明らかなように、心電図データに基づいて算出された呼吸波の呼気および吸気のタイミングは、従来より用いられているサーミスタセンサ等の呼吸検出装置で検出されるタイミングに対応するものである。心電図データに基づいて高い精度で呼吸波を求めることができる。

【0103】
次に、CPU10は、求められた呼吸波に基づいて、呼吸数の検出を行う(S.08)。具体的にCPU10は、呼吸波の振幅変化(電圧変化)に基づいて、一定時間における振幅(電圧)の平均値を求める。CPU10は、求められた平均値を振幅閾値としてRAM16に記録する。例えば、振幅閾値を求めるため、予めROM14に初期時間Tを記録しておき、CPU10がROM14から初期時間Tの値を読み出して初期時間Tの平均値を算出することによって、振幅閾値を求める。

【0104】
次に、CPU10は、算出された振幅閾値を基準にして、呼吸波の振幅値(電圧値)が、振幅閾値を下から上へ超えた時点(平均値よりも低い振幅値から平均値よりも高い振幅値へと変化するタイミング)を、呼吸の特徴点としてカウントする。そして、CPU10は、一定期間、例えば30秒間毎あるいは1分間毎に、特徴点の数をカウントすることによって、1分当たり(単位時間当たり)の呼吸数を求める。

【0105】
なお、振幅閾値は、初めに算出された振幅の平均値を振幅閾値としてそのまま使用することもできる。一方、例えば、時間Tの平均値を毎秒、あるいは一定間時間毎に算出し直すことによって、平均値の更新を行うようにしてもよい。

【0106】
また、例えば、決定される振幅閾値の範囲を、呼吸波の標準偏差の1/4の振幅範囲に制限することにより、例外的に振幅値が乱れた場合であっても、適切な振幅範囲になるように振幅閾値を修正することが可能である。

【0107】
一方で、決定される新しい振幅閾値が、呼吸波の標準偏差の1/4の振幅範囲に入らなかった場合に、さらに新しい振幅閾値を算出して変更するようにしてもよい。例えば、古い振幅閾値によって求められた標準偏差の1/4の振幅範囲を8割とし、新しい振幅閾値によって求められた標準偏差の1/4の振幅範囲を2割として、さらに新しい振幅範囲を設定するようにしてもよい。CPU10は、呼吸波における特徴点の検出を、心電図データが心電図検出装置20より受信できなくなるまで繰り返し実行する。

【0108】
以上説明したように、本実施の形態に係る呼吸検出装置1のCPU10では、心電図データから過去に抽出された被検者の基本信号に基づいて、テンプレート信号を生成・更新し、生成・更新されたテンプレート信号に基づいて、同じ被検者の心電図データからPQRST波の成分を除去する。同じ被検者より求められたテンプレート信号を用いて、心電図データからPQRST波の成分を除去することによって、心拍に伴う電気信号の波形を、心電図データから効果的に除去することができる。

【0109】
さらに、CPU10は、P波の終点からQRS波の始点までの振幅値に基づいて、ノイズの低減を行う。この低減処理によって、心拍に伴う電気信号の振幅が検出されにくいタイミングを基準として、効果的にノイズの低減を図ることが可能になる。

【0110】
さらに、本実施の形態に係る呼吸検出装置1のCPU10では、残存信号に基づいて、一定時間毎の振幅値(電圧値)の差分を求めて、差分の変化状態を累積的に求める。具体的には、残存信号に対して、ヒルベルト変換(例えば、式1、式2)を適用したり、あるいは差分積分法(例えば、式3、式4)を適用したりすることにより、呼吸波を求める。呼吸波を求めることによって、CPU10は、被検者の呼気動作および吸気動作を、心電図データに基づいて求めることができる。

【0111】
さらに、CPU10は、呼吸波の振幅の平均値に基づいて、30秒、あるいは1分当たりの呼吸の特徴点をカウントする。これにより、心電図データに基づいて単位時間当たりの呼吸数を求めることが可能なる。呼吸検出装置1では、心電図に基づいて呼吸数を求めることができるので、フローセンサやサーミスタセンサを用いた呼吸検出装置のように、鼻や口先に物理的なセンサを取り付ける必要がない。このため、被検者に対する検査負担の軽減や、検査中の違和感低減を図ることが可能になる。また、呼吸バンドセンサのように胸部を締め付ける必要がないため、被検者に違和感や拘束感を与えてしまうことがない。さらに、センサ使用後の消毒処理や、ベルトの付け外し処理などが必要ないため、装置の使用負担やメンテナンス負担を低減させることが可能になる。また、ホルター心電図等を用いることによって、日常生活において継続的に心電図データの検出を行うことができる。このため、心電図データから呼吸波を求めることによって、被検者の呼吸状態を、日常生活において継続的に調べることが可能になる。

【0112】
また、PQRST波の成分を除去するためのテンプレート信号は、同じ被検者の心電図データより検出された1心拍毎のPQRST波を含む基本信号に基づいて生成・更新される。一般的に心拍の間隔(心拍数)やPQRST波の波形などは、被検者毎に異なっている。しかしながらが、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、被検者の基本信号に基づいてテンプレート信号の生成・更新が行われるため、被検者に適したテンプレート信号を生成することができる。

【0113】
さらに、呼吸検出装置1では、基本信号におけるPQRST波の波形と、テンプレート信号におけるPQRST波成分の波形との相関係数を求め、相関係数に基づいて、新たなテンプレート信号の追加・更新を行う。このため、テンプレート信号のPQRST波成分における波形の高さ、波形と波形との間隔、波長などを、被検者にとって最適になるように修正・追加することができる。したがって、基本信号から新たなテンプレート信号を減算することによって、心電図データから効果的にPQRST波成分を除去することが可能になる。

【0114】
さらに、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、基本信号のPQRST波におけるRa点を基準として、テンプレート信号のPQRST波成分のRb点を、±wの時間位置で少しずつずらしながら相関係数を算出する。このように2つのPQRST波成分の位置関係を少しずつずらしながら相関係数を算出することによって、より最適な相関係数を求めることができ、心電図データから効果的にPQRST波の成分を除去することが可能になる。

【0115】
さらに、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、心電図データからPQRST波の成分を除去するために、心電図データ(基本信号)からテンプレート信号を減算する処理を行う。このため、従来の呼吸検出装置のように、心電図データの一定帯域(例えば120Hz以下の帯域)の振幅をフィルタ処理によって一律に取り除く処理は行わない。したがって、心電図データにおけるPQRST波成分の振幅を、全周波数帯域において効果的に除去することができる。さらに、呼吸動作に伴う電気信号の変動成分が心電図データから減ってしまうことを防止することが可能となる。

【0116】
また、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、呼吸動作に伴う筋肉の動きに基づいて呼吸状態を検出することができる。このため、被検者の呼吸状態が安静時呼吸であるか、あるいは努力呼吸であるかを呼吸波から判断することも可能である。

【0117】
ここで、努力呼吸とは、安静時呼吸では使用されない呼吸筋を動員して行う呼吸を意味している。安静時呼吸は、通常、横隔膜や外肋間筋などの呼吸筋の収縮と弛緩とにより行われる。一方で、努力呼吸は、吸気時に胸鎖乳突筋などの補助呼吸筋を動員し、呼気時に内肋間筋や腹筋を活動させて呼吸を行う。努力呼吸は、重度の低酸素血症や喘息などの時に行われる傾向がある。

【0118】
安静時呼吸と努力呼吸とでは、動員される筋肉等が異なるため、呼吸動作に伴って検出される呼吸波の波形が異なったものになる。したがって、医師等の専門家が呼吸波の波形を確認することによって、呼吸状態が安静時呼吸であるか、あるいは努力呼吸であるかを、容易に判断することができる。

【0119】
図12(a)は、心電図データの波形を示し、(b)は、呼吸バンドセンサを用いて検出された呼吸動作の波形を示し、(c)は、心電図データに基づいて検出された呼吸波を示している。図12では、上気道で吸気に負荷を生じさせる呼吸負荷装置を用いて、被検者に呼吸を行ってもらいながら、それぞれの信号の検出を行った。

【0120】
図12(a)~(c)において、時間x1よりも前の呼吸動作では、吸気の負荷は課されておらず、時間x1以降の呼吸動作において、吸気の負荷が課されている。図12(a)(c)に示すように、吸気の負荷が開始された後では、吸気の負荷が開始される前に比べて、心電図データに基線動揺が発生し、呼吸波の振幅値が大きくなっている。このように、心電図データに基線動揺が発生し、呼吸波の振幅が大きくなる場合には、努力呼吸が行われていると判断することができる。

【0121】
さらに、呼吸動作の際の筋肉の活動状態に基づいて呼吸状態を調べることができる。このため、近年、増加している睡眠時無呼吸症候群の患者に対し、患者の呼吸波を求めることによって、睡眠時の呼吸状態を容易に調査することが可能になる。睡眠時無呼吸症候群は、大きく分けて、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と、中枢性睡眠時無呼吸症候群との2つに分類することができる。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、空気が通るための十分なスペースが、上気道で確保できなくなることによって、無呼吸状態になる。したがって、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合には、上気道の空気の通り道が物理的に塞がれてしまうが、呼吸動作に伴う筋肉の動きは継続的に行われる。

【0122】
一方で、中枢性睡眠時無呼吸症候群の場合には、脳の異常等によって脳から呼吸器官に対して呼吸動作に関する指令が出力されない。このため、中枢性睡眠時無呼吸症候群では、空気の通り道が物理的に塞がれてはいないが、呼吸動作に伴う筋肉の動きが大きく低下してしまう。

【0123】
したがって、睡眠時無呼吸症候群の患者に対し、フローセンサやサーミスタセンサ等を用いて鼻や口からの呼吸状態を検出しつつ、心電図データに基づいて呼吸波の波形検出を行う。心電図データに基づいて求められた呼吸波の振幅値が、あまり変化していない場合には、呼吸動作を行うための筋肉の動きが低下していると考えられるため、中枢性睡眠時無呼吸症候群に該当すると判断できる。一方で、呼吸波の振幅値が変化しているが、フローセンサ等によって口や鼻からの呼吸状態が検出されない場合には、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に該当すると判断できる。

【0124】
図13は、中枢性睡眠時無呼吸症候群の患者の差分信号(図13(a))および呼吸波(図13(b))を示している。図13(a)(b)では、y1の時に患者が呼吸を止め、y2のタイミングで呼吸を再開した状態が示されている。図13(a)(b)に示すように、y1からy2までの間、差分信号の振幅変化が弱くなり、呼吸波においても波形が平らな状態を示している。このように、呼吸波において振幅値の変化が弱く、波形が平ら(フラット)な状態の場合には、呼吸動作に伴う筋肉の動きが弱っており、呼吸動作が行われていないと判断することができる。

【0125】
また、睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器系疾患は、不整脈や心不全などに深く関連するため、臨床において呼吸・心拍を同時に計測することが多い。このため、フローセンサ等の従来の呼吸検出装置と心電図測定とを併用することにより、あるいは心電図データから呼吸波を検出することにより、心臓の拍動状態と呼吸状態とを同時に測定することができる。また、より詳細に患者の無呼吸状態の検出を行うことが可能になる。

【0126】
さらに、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、心電図データに基づいて検出された現在の基本信号のRa点を基準として、テンプレート信号のRbの時間位置を、-wから+wまでの範囲で少しずつ位置をずらしながら相関係数の値を求める。このため、被検者が不整脈等を発生する場合であって、心拍のタイミングが一定でない場合であっても、心電図データにおけるPQRST波成分の除去精度を高めることが可能になる。

【0127】
また、本実施の形態に係る呼吸検出装置1は、心電図検出装置20より心電図データを受信することによって呼吸数や呼吸状態を検出することができる。このため、心電図検出装置20として、一般に市販されているホルター心電計等を使うことができる。既に販売等されているホルター心電計等をそのまま利用しつつ、本実施の形態に係る呼吸検出装置1を追加するだけで、被検者の心臓の拍動状態だけでなく、呼吸数や呼吸動作の状態を簡単に検出することが可能になる。

【0128】
以上、本発明に係る呼吸検出装置、呼吸検出用方法および呼吸検出用プログラムについて、図面を用いて詳細に説明したが、本発明に係る呼吸検出装置等は、本実施の形態に示した内容には限定されない。

【0129】
例えば、本実施の形態に係る呼吸検出装置1として、スマートフォンやタブレット等の一般的な情報端末を用いることも可能である。情報端末の通信機能を用いて心電図データを受信し、情報端末のCPU,ROM,RAM等を用いることによって、心電図データから呼吸波および呼吸数を検出することも可能である。この場合には、一般的な情報端末に対して、図2~図4に示すような処理を実行させるための呼吸検出用のプログラムを、アプリケーションソフトとしてインストールすることによって、本実施の形態に示した呼吸検出装置1と同様の処理内容を、情報端末で実現することが可能である。

【0130】
また、同様にして、一般的なパーソナルコンピュータ等に対して呼吸検出用のプログラムをインストールすることによって、汎用性の高いパーソナルコンピュータを用いて、本実施の形態に示した呼吸検出装置1と同様の処理内容を実現することが可能である。

【0131】
さらに、本実施の形態に係る呼吸検出装置1では、処理S.25において、相関係数が閾値より大きいかを判断し、相関係数の方が大きい場合(S25においてYesの場合)に、新たなテンプレート信号を作成してから(S.26)、現在の基本信号から新たなテンプレート信号を減算して残存信号を求める処理手順について説明した。しかしながら、相関係数が閾値より大きいかを判断(S.25)する前に、現在の基本信号からk番目のテンプレート信号を減算して残存信号を求めて、その後に、相関係数が閾値より大きいかを判断して(S.25)、新たなテンプレート信号を作成し(S.26)、新たなテンプレート信号を更新(S.27)する処理を行う構成であってもよい。また、同様にして、相関係数が閾値より大きいかを判断(S.25)する前に、現在の基本信号からk番目のテンプレート信号を減算して残存信号を求めて、その後に、相関係数が閾値より大きいかを判断(S.25)し、相関係数の方が大きくない場合(S25においてNo場合)に、現在の基本信号を新たなテンプレート信号として追加し(S.29)、パラメータnの値をn+1に変更する(S.31)処理を行う構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 …呼吸検出装置
10 …CPU(制御手段、基本信号抽出手段、残存信号生成手段、呼吸波算出手段、呼吸数検出手段、テンプレート信号抽出手段、テンプレート信号生成手段、テンプレート信号更新手段、テンプレート信号追加手段、閾値決定手段、ノイズ低減手段)
12 …データ受信部
14 …ROM
16 …RAM(記録手段)
18 …表示部
20 …心電図検出装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13