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明細書 :分岐鎖脂肪酸の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-000015 (P2019-000015A)
公開日 平成31年1月10日(2019.1.10)
発明の名称または考案の名称 分岐鎖脂肪酸の製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P   7/64        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 7/64
C12N 1/21
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2017-116061 (P2017-116061)
出願日 平成29年6月13日(2017.6.13)
発明者または考案者 【氏名】鈴木 石根
【氏名】町田 峻太郎
出願人 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
【識別番号】100169764、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 雄一郎
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AD02
4B064AD87
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB16
4B064CB30
4B064CD07
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA36Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB10
4B065CA13
4B065CA28
4B065CA29
要約 【課題】分岐鎖脂肪酸を製造する技術を提供する。
【解決手段】特定の配列からなる塩基配列にコードされるタンパク質、又は特定の配列からなる塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質、及び、別の特定の配列からなる塩基配列にコードされるタンパク質、又は別の特定の配列からなる塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質、を発現させた宿主をインキュベートすることにより、不飽和脂肪酸の二重結合にメチル基が導入されて分岐鎖脂肪酸が合成される工程を備える、分岐鎖脂肪酸の製造方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を発現させた宿主をインキュベートすることにより、前記宿主中の不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチル基が導入されて下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程を備える、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造方法。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
【化1】
JP2019000015A_000015t.gif
【化2】
JP2019000015A_000016t.gif

【請求項2】
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
不飽和脂肪酸に、下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、前記不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチレン基が導入されて下記式(3)で表される基を有する脂肪酸が合成される工程と、
下記式(3)で表される基を有する前記脂肪酸に、下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程と、
を備える、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造方法。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
【化3】
JP2019000015A_000017t.gif
【化4】
JP2019000015A_000018t.gif
【化5】
JP2019000015A_000019t.gif

【請求項4】
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を備える、不飽和脂肪酸から下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
【化6】
JP2019000015A_000020t.gif

【請求項6】
下記(iii-1)又は(iii-2)に記載の核酸、及び下記(iv-1)又は(iv-2)に記載の核酸を備える、不飽和脂肪酸から下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット。
(iii-1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸
(iii-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸
(iv-1)配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸
(iv-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸
【化7】
JP2019000015A_000021t.gif

【請求項7】
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、及び下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、が導入された宿主。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
【請求項9】
下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造用である、請求項8に記載の宿主。
【化8】
JP2019000015A_000022t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐鎖脂肪酸の製造方法に関する。より具体的には、分岐鎖脂肪酸の製造方法、不飽和脂肪酸から分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット及び宿主に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐鎖脂肪酸は、不飽和脂肪酸の特性である低い融点と、飽和脂肪酸の特性である酸化に対する高い耐性とをあわせ持つことから、その産業応用が期待されている。また、微生物における分岐鎖脂肪酸の合成機構の解析も進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、マイコバクテリウム・ツベルクローシスのRv0469(umaA)遺伝子にコードされる酵素(UmaA)が、10-メチルステアリン酸の合成に関与することが記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Meena L. S., et al., Biochemical characterization of an S-adenosyl-l-methionine-dependent methyltransferase (Rv0469) of Mycobacterium tuberculosis., Biol. Chem., 394 (7), 871-877, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実施例に後述するように、発明者らは、非特許文献1に記載されているUmaAタンパク質を大腸菌で発現させても、10-メチルステアリン酸を合成することができないことを明らかにした。そこで、本発明は、微生物における分岐鎖脂肪酸の合成機構を解明し、分岐鎖脂肪酸を製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を発現させた宿主をインキュベートすることにより、前記宿主中の不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチル基が導入されて下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程を備える、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造方法。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
【化1】
JP2019000015A_000002t.gif
【化2】
JP2019000015A_000003t.gif
[2]前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、[1]に記載の製造方法。
[3]不飽和脂肪酸に、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、前記不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチレン基が導入されて下記式(3)で表される基を有する脂肪酸が合成される工程と、下記式(3)で表される基を有する前記脂肪酸に、上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程と、を備える、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造方法。
【化3】
JP2019000015A_000004t.gif
【化4】
JP2019000015A_000005t.gif
【化5】
JP2019000015A_000006t.gif
[4]前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、[3]に記載の製造方法。
[5]上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を備える、不飽和脂肪酸から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット。
[6]下記(iii-1)又は(iii-2)に記載の核酸、及び下記(iv-1)又は(iv-2)に記載の核酸を備える、不飽和脂肪酸から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット。
(iii-1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸
(iii-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸
(iv-1)配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸
(iv-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸
[7]前記不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、前記分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸である、[5]又は[6]に記載のキット。
[8]上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、及び上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、が導入された宿主。
[9]上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造用である、[8]に記載の宿主。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分岐鎖脂肪酸を製造する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)及び(b)は、実験例2におけるガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。
【図2】実験例3におけるガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。
【図3】実験例4におけるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の結果を示す写真である。
【図4】実験例6におけるガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。
【図5】実験例6におけるガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。
【図6】実験例7の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[分岐鎖脂肪酸の製造方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、下記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び下記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を発現させた宿主をインキュベートすることにより、前記宿主中の不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチル基が導入されて下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程を備える、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造方法を提供する。
(i-1)配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(i-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質
(ii-1)配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質
(ii-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質

【0010】
【化6】
JP2019000015A_000007t.gif

【0011】
【化7】
JP2019000015A_000008t.gif

【0012】
ここで、10-メチレンステアリン酸は、オレイン酸の10位の炭素原子にメチレン基が結合した脂肪酸であり、10-メチレンオクタデカン酸とも呼ばれる。また、10-メチルステアリン酸は、オレイン酸の二重結合部分にメチル基が導入された分岐脂肪酸であり、10-メチルオクタデカン酸、ツベルクロステアリン酸とも呼ばれる。10-メチルステアリン酸は、結核菌であるマイコバクテリウム・ツベルクローシス等の細菌の膜リン脂質に大量に含まれていることが知られている。下記式(4)にオレイン酸の化学式を示し、下記式(5)に10-メチレンステアリン酸の化学式を示し、下記式(6)に10-メチルステアリン酸の化学式を示す。

【0013】
【化8】
JP2019000015A_000009t.gif

【0014】
【化9】
JP2019000015A_000010t.gif

【0015】
【化10】
JP2019000015A_000011t.gif

【0016】
配列同一性とは、対象の塩基配列が、基準となる塩基配列(基準塩基配列)に対して一致している割合を示す値である。基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式(1)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致した塩基数/対象塩基配列の総塩基数×100 (1)

【0017】
実施例において後述するように、配列番号1に記載の塩基配列にコードされるタンパク質は、S-アデノシルメチオニン(SAMM4) dependent methyl transferaseの一種である(以下、「SAMM4タンパク質」という場合がある。SAMM4タンパク質のRefSeqアクセッション番号はWP_048472121である。また、SAMM4タンパク質をコードする遺伝子を「SAMM4遺伝子」又は「BfaB遺伝子」という場合がある。)。

【0018】
また、配列番号2に記載の塩基配列にコードされるタンパク質は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)-linked oxidoreductaseの一種である(以下、「FADOタンパク質」という場合がある。FADOタンパク質のRefSeqアクセッション番号はWP_048472120である。また、FADOタンパク質をコードする遺伝子を「FADO遺伝子」又は「BfaA遺伝子」という場合がある。)。

【0019】
実施例において後述するように、発明者らは、大腸菌にSAMM4タンパク質を発現させ、オレイン酸を与えても、オレイン酸から10-メチルステアリン酸は合成されないことを明らかにした。更に、発明者らは、大腸菌にSAMM4タンパク質及びFADOタンパク質を発現させ、オレイン酸を与えると、オレイン酸から10-メチルステアリン酸が合成されることを明らかにした。

【0020】
すなわち、SAMM4タンパク質及びFADOタンパク質の両者が存在する場合に、不飽和脂肪酸の上記式(1)で表される基にメチル基が導入されて上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される。

【0021】
不飽和脂肪酸から分岐鎖脂肪酸を合成するために、SAMM4タンパク質及びFADOタンパク質の双方が必要であることは、発明者らが今回初めて明らかにしたものである。本実施形態の製造方法により、分岐鎖脂肪酸を製造することができる。

【0022】
実施例において後述するように、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスのSAMM4タンパク質及びFADOタンパク質も、本実施形態の製造方法に用いることができる。そして、実施例において後述するように、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスのSAMM4遺伝子の塩基配列は、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのSAMM4遺伝子の塩基配列とそれぞれ76%、79%、79%の配列同一性を有していた。

【0023】
したがって、SAMM4タンパク質をコードする塩基配列は、オレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードしている限り、配列番号1に記載の塩基配列と70%以上、例えば75%以上、例えば80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上の配列同一性を有していれば、配列番号1の記載の塩基配列に対して変異を有していてもよいといえる。本明細書において、配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をSAMM4タンパク質の変異体という場合がある。

【0024】
また、実施例において後述するように、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスのFADO遺伝子の塩基配列は、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子の塩基配列とそれぞれ75%、77%、77%の配列同一性を有していた。

【0025】
したがって、FADOタンパク質をコードする塩基配列は、10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有している限り、配列番号2に記載の塩基配列と70%以上、例えば75%以上、例えば80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上、例えば99%以上の配列同一性を有していれば、配列番号2の記載の塩基配列に対して変異を有していてもよいといえる。本明細書において、配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をFADOタンパク質の変異体という場合がある。

【0026】
上記式(1)で表される基は、不飽和脂肪酸の二重結合部分を含む2価の基である。また、上記式(2)で表される基は、上記式(1)で表される基にメチル基が導入されて形成された基であり、脂肪酸の分岐鎖を含む。上記式(2)で表される基を有する脂肪酸は分岐鎖脂肪酸である。

【0027】
本実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸は、上記式(1)で表される基を有するものであれば特に限定されず、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、不飽和脂肪酸は二重結合を1個有する脂肪酸であってもよく2個以上有する脂肪酸であってもよいが、二重結合を1個有する脂肪酸であることが好ましい。

【0028】
本実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸は特に限定されず、例えば、不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、目的生産物である分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸であってもよい。

【0029】
本実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸は、遊離していてもよいし、リン脂質等を形成していてもよいし、脂肪酸の金属塩等を形成していてもよい。

【0030】
第1実施形態の製造方法は、宿主内でSAMM4タンパク質及びFADOタンパク質を発現させて分岐鎖脂肪酸を製造する方法である。ここで、宿主は、通常、上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造しない宿主であってもよい。宿主としては、取り扱いが容易なものであれば特に限定されず、例えば、大腸菌、シアノバクテリア、カビ、ラビリンチュラ類、微細藻類等が挙げられる。

【0031】
宿主は、製造目的の分岐鎖脂肪酸の材料となる不飽和脂肪酸を合成する生物であってもよいし、製造目的の分岐鎖脂肪酸の材料となる不飽和脂肪酸を合成しない生物であってもよい。

【0032】
例えば、オレイン酸を材料として10-メチルステアリン酸を製造する場合、宿主としてはオレイン酸を合成しない大腸菌を用いてもよいし、オレイン酸を合成するシアノバクテリアを用いてもよい。

【0033】
製造目的の分岐鎖脂肪酸の材料となる不飽和脂肪酸を合成しない生物を宿主とする場合には、宿主に不飽和脂肪酸を与えて分岐鎖脂肪酸を製造するとよい。したがって、第1実施形態の製造方法は、宿主に不飽和脂肪酸を与える工程を更に備えていてもよい。宿主に不飽和脂肪酸を与える方法としては、例えば、宿主の培地に不飽和脂肪酸を添加することが挙げられる。この場合、不飽和脂肪酸は、不飽和脂肪酸の金属塩の形態で培地に添加してもよい。

【0034】
また、製造目的の分岐鎖脂肪酸の材料となる不飽和脂肪酸を合成する生物を宿主とする場合には、宿主に不飽和脂肪酸を与えなくても分岐鎖脂肪酸を製造することができる。また、製造目的の分岐鎖脂肪酸の材料となる不飽和脂肪酸を合成する生物を宿主とする場合であっても、宿主に不飽和脂肪酸を与えて分岐鎖脂肪酸を製造してもよい。

【0035】
例えば、大腸菌を宿主として10-メチルステアリン酸を製造する場合、大腸菌の培地にオレイン酸を添加すればよい。また、シアノバクテリアを宿主として10-メチルステアリン酸を製造する場合、原料となるオレイン酸を添加しなくても10-メチルステアリン酸を製造することができる。

【0036】
宿主をインキュベートする条件は、宿主の種類や製造目的の分岐鎖脂肪酸等に応じて適宜設定することができる。また、第1実施形態の製造方法は、宿主から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を回収する工程を更に備えていてもよい。

【0037】
第1実施形態の製造方法は、一般的なバイオリアクターを用いて実施することができる。バイオリアクターは、宿主をインキュベートする容器を備えており、容器内で分岐鎖脂肪酸が製造される。ここで、宿主は培地中に浮遊した状態でインキュベートされてもよいし、樹脂、多糖類等から構成された担体に固定化された状態でインキュベートされてもよい。宿主が固定化されていると、宿主の取り扱いが容易になる、製造した分岐鎖脂肪酸の回収が容易になる等好ましい場合がある。バイオリアクターを用いて分岐鎖脂肪酸を製造する場合、分岐鎖脂肪酸の製造はバッチ式で実施してもよいし、連続式で実施してもよい。

【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る分岐鎖脂肪酸の製造方法は、不飽和脂肪酸に、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、前記不飽和脂肪酸の下記式(1)で表される基にメチレン基が導入されて下記式(3)で表される基を有する脂肪酸が合成される工程と、下記式(3)で表される基を有する前記脂肪酸に、上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を反応させることにより、下記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸が合成される工程と、を備える。

【0039】
【化11】
JP2019000015A_000012t.gif

【0040】
【化12】
JP2019000015A_000013t.gif

【0041】
【化13】
JP2019000015A_000014t.gif

【0042】
第2実施形態の製造方法は、インビトロで分岐鎖脂肪酸を製造する方法である。上述したように、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質は、SAMM4タンパク質又はその変異体であり、上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質は、FADOタンパク質又はその変異体である。

【0043】
第2実施形態の製造方法では、まず、不飽和脂肪酸にSAMM4タンパク質又はその変異体を反応させて、上記式(3)で表される基を有する脂肪酸を合成する。続いて、上記式(3)で表される基を有する脂肪酸にFADOタンパク質又はその変異体を反応させて、製造目的である上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を合成する。

【0044】
第2実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸、分岐鎖脂肪酸、SAMM4タンパク質又はその変異体、FADOタンパク質又はその変異体は、第1実施形態において上述したものと同様である。

【0045】
第2実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸は特に限定されず、例えば、不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、目的生産物である分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸であってもよい。この場合、上記式(3)で表される基を有する脂肪酸は、10-メチレンステアリン酸である。

【0046】
また、第2実施形態の製造方法は、反応系から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を回収する工程を更に備えていてもよい。

【0047】
第2実施形態の製造方法は、一般的なバイオリアクターを用いて実施することができる。バイオリアクターは、反応槽を備えており、反応槽で分岐鎖脂肪酸が製造される。SAMM4タンパク質又はその変異体、及びFADOタンパク質又はその変異体は、それぞれ、樹脂、多糖類等から構成された担体に固定化された状態で用いると取り扱いが容易である。

【0048】
また、不飽和脂肪酸の二重結合部分にメチレン基が導入される工程、及び、メチレン基が導入された前記脂肪酸が分岐鎖脂肪酸に変換される工程は、別々の反応槽で実施されてもよいし、同一の反応槽で実施されてもよい。また、第2実施形態の製造方法も、第1実施形態の製造方法と同様に、バッチ式で実施してもよいし、連続式で実施してもよい。

【0049】
[不飽和脂肪酸から分岐鎖脂肪酸を製造するためのキット]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質、及び上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質を備える、不飽和脂肪酸から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのキットを提供する。

【0050】
上述したように、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質は、SAMM4タンパク質又はその変異体であり、上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質は、FADOタンパク質又はその変異体である。

【0051】
本実施形態のキットにおいて、不飽和脂肪酸、分岐鎖脂肪酸、SAMM4タンパク質又はその変異体、FADOタンパク質又はその変異体は、分岐鎖脂肪酸の製造方法の実施形態において上述したものと同様である。本実施形態のキットは、上述した第2実施形態の製造方法に好適に用いることができる。

【0052】
本実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸は特に限定されず、例えば、不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、目的生産物である分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸であってもよい。

【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るキットは、下記(iii-1)又は(iii-2)に記載の核酸、及び下記(iv-1)又は(iv-2)に記載の核酸を備える、不飽和脂肪酸から上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸を製造するためのものである。
(iii-1)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸
(iii-2)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸
(iv-1)配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸
(iv-2)配列番号2に記載の塩基配列と70%以上の配列同一性を有し且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させるタンパク質をコードする核酸

【0054】
ここで、上記(iii-1)又は(iii-2)に記載の核酸は、SAMM4タンパク質又はその変異体をコードする核酸であり、上記(iv-1)又は(iv-2)に記載の核酸は、FADOタンパク質又はその変異体をコードする核酸である。

【0055】
本実施形態のキットにおいて、不飽和脂肪酸、分岐鎖脂肪酸、SAMM4タンパク質又はその変異体、FADOタンパク質又はその変異体は、分岐鎖脂肪酸の製造方法の実施形態において上述したものと同様である。本実施形態のキットは、例えば、SAMM4タンパク質又はその変異体をコードする核酸、及びFADOタンパク質又はその変異体をコードする核酸を、発現可能に宿主に導入することにより、上述した第1実施形態の製造方法に好適に用いることができる。

【0056】
第2実施形態のキットにおいて、SAMM4タンパク質又はその変異体をコードする核酸は、ベクターに組み込まれていてもよい。また、FADOタンパク質又はその変異体をコードする核酸は、ベクターに組み込まれていてもよい。

【0057】
更に、SAMM4タンパク質又はその変異体をコードする核酸、及びFADOタンパク質又はその変異体をコードする核酸は、それぞれ独立したベクターに組み込まれていてもよいし、1個のベクターに組み込まれていてもよい。また、上記のベクターは発現ベクターであってもよい。発現ベクターのプロモーターは、使用する宿主内で機能可能なものを適宜選択して用いることができる。

【0058】
本実施形態の製造方法において、不飽和脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸は特に限定されず、例えば、不飽和脂肪酸がオレイン酸であり、目的生産物である分岐鎖脂肪酸が10-メチルステアリン酸であってもよい。

【0059】
[宿主]
1実施形態において、本発明は、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、及び上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質の発現ベクター、が導入された宿主を提供する。

【0060】
ここで、宿主としては、第1実施形態の製造方法において上述したものと同様であり、例えば、大腸菌、シアノバクテリア、カビ、ラビリンチュラ類、微細藻類等が挙げられる。

【0061】
本実施形態の宿主において、上記(i-1)又は(i-2)に記載のタンパク質は、SAMM4タンパク質又はその変異体であり、上記(ii-1)又は(ii-2)に記載のタンパク質は、FADOタンパク質又はその変異体である。また、SAMM4タンパク質又はその変異体、FADOタンパク質又はその変異体は、分岐鎖脂肪酸の製造方法の実施形態において上述したものと同様である。

【0062】
ここで、「発現ベクターが導入された宿主」とは、SAMM4タンパク質又はその変異体、及びFADOタンパク質又はその変異体を発現可能に構成された宿主であれば特に限定されない。

【0063】
例えば、SAMM4タンパク質又はその変異体の発現ベクター、及びFADOタンパク質又はその変異体の発現ベクターが宿主のゲノムに組み込まれた宿主であってもよい。あるいは、SAMM4タンパク質又はその変異体の発現ベクター、及びFADOタンパク質又はその変異体の発現ベクターが、宿主のゲノムには組み込まれておらず、エピソーマルに維持された宿主であってもよい。

【0064】
また、SAMM4タンパク質又はその変異体をコードする核酸、及びFADOタンパク質又はその変異体をコードする核酸は、それぞれ独立したベクターに組み込まれていてもよいし、1個のベクターに組み込まれていてもよい。

【0065】
本実施形態の宿主は、上述した第1実施形態の製造方法に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の宿主は、上記式(2)で表される基を有する分岐鎖脂肪酸の製造用であるということもできる。
【実施例】
【0066】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
[実験例1]
(大腸菌におけるUmaAタンパク質の発現)
非特許文献1には、マイコバクテリウム・ツベルクローシスのumaA(Rv0469)遺伝子にコードされるUmaAタンパク質が、オレイン酸の二重結合にメチル基を導入する酵素であると記載されている。
【実施例】
【0068】
そこで、これが事実であるか否かを確認した。まず、umaA遺伝子の発現ベクターを作製し、大腸菌rosetta2株に導入した。配列番号3にumaA遺伝子の塩基配列を示す。また、大腸菌はオレイン酸を合成しないため、大腸菌の培地に終濃度1mMのオレイン酸ナトリウムを添加した。続いて、18時間培養後、脂肪酸組成を解析した。
【実施例】
【0069】
《脂肪酸組成の解析》
まず、培地を遠心して大腸菌を回収した。続いて、大腸菌の沈殿を2mLのメタノールに懸濁し、懸濁液をガラス試験管に移した。続いて、遠心濃縮機(型式「CC-105」、トミー精工)で遠心しながら完全に乾燥させた。続いて、沈殿を0.1M塩酸メタノール溶液に再懸濁した。
【実施例】
【0070】
続いて、チューブを強く閉め、100℃で1時間インキュベートし、脂質中のアシル基をけん化して脂肪酸メチルエステルに変換した。続いて、得られた脂肪酸メチルエステルにn-ヘキサンを添加した。続いて、ヘキサン相を回収してヘキサンを蒸発させ、脂肪酸メチルエステルを含む残渣を100μLのn-ヘキサンに溶解させた。続いて、1μLのヘキサン溶液をガスクロマトグラフ(型式「GC-2014」、島津製作所)に導入し、脂肪酸組成を解析した。
【実施例】
【0071】
その結果、10-メチルステアリン酸のピークは検出されないことが明らかとなった。
この結果は、少なくともUmaAタンパク質の発現のみでは、オレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成することができないことを示す。
【実施例】
【0072】
[実験例2]
(大腸菌におけるSAMM1(WP_048471942)、SAMM4(WP_048472121)、SAMM7(WP_048471691)タンパク質の発現)
実験例1の結果から、既知の酵素ではオレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成することができないことが明らかとなった。そこで、オレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成する酵素の探索を行った。
【実施例】
【0073】
具体的には、まず、10-メチルステアリン酸の合成において、オレイン酸に導入されるメチル基の供与体は、S-アデノシルメチオニン(SAM)であると予測した。そして、SAM dependent methyl transferaseであるとアノテーションされた様々な菌株のタンパク質のアミノ酸配列を公共データベースから抽出し、系統樹を作成した。
【実施例】
【0074】
続いて、SAM dependent methyl transferaseを有する菌株のうち、分岐鎖脂肪酸を産生し、全ゲノムが解読されており、遺伝子を入手可能であり、P1レベルで実験可能であること等から、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムを実験対象として選択し、以降の実験を行った。
【実施例】
【0075】
マイコバクテリウム・クロロフェノリカムには、SAM dependent methyl transferaseとアノテーションされた遺伝子が7つ存在した。そこで、これらを、それぞれ、SAMM1(RefSeqアクセッション番号:WP_048471942)、SAMM2(RefSeqアクセッション番号:WP_048473846)、SAMM3(RefSeqアクセッション番号:WP_048471080)、SAMM4(RefSeqアクセッション番号:WP_048472121)、SAMM5(RefSeqアクセッション番号:WP_048471690)、SAMM6(RefSeqアクセッション番号:WP_048473845)、SAMM7(RefSeqアクセッション番号:WP_048471691)と呼ぶことにした。
【実施例】
【0076】
続いて、SAMM1遺伝子、SAMM4遺伝子、SAMM7遺伝子の発現ベクターをそれぞれ作製し、大腸菌rosetta2株にそれぞれ導入した。配列番号4にSAMM1遺伝子の塩基配列を示し、配列番号1にSAMM4遺伝子の塩基配列を示し、配列番号5にSAMM7遺伝子の塩基配列を示す。
【実施例】
【0077】
また、大腸菌はオレイン酸を合成しないため、大腸菌の培地に終濃度1mMのオレイン酸ナトリウムを添加した。続いて、18時間培養後、実験例1と同様にして脂肪酸組成を解析した。
【実施例】
【0078】
図1(a)及び(b)は各大腸菌の脂肪酸組成を解析したガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。図1(b)は、図1(a)の四角で囲んだ部分を拡大した図である。図1(a)及び(b)中、「16:1Δ7」は7-ヘキサデセン酸を表し、「16:1Δ9」はパルミトレイン酸を表し、「16:0」はヘキサデカン酸を表し、「17:1cycloΔ9」はシス-9,10-メチレンヘキサデカン酸を表し、「18:1Δ9」はオレイン酸を表し、「18:1Δ11」はバクセン酸を表し、「18:0」はステアリン酸を表し、「19:0Me10」は10-メチルステアリン酸を表し、「対照」は、SAMM1、SAMM4、SAMM7遺伝子を導入していない大腸菌rosetta2株の結果であることを表す。
【実施例】
【0079】
その結果、SAMM1、SAMM4、SAMM7遺伝子を発現させた大腸菌のいずれにおいても10-メチルステアリン酸のピークが検出されないことが明らかとなった。この結果は、少なくともSAMM1、SAMM4、SAMM7遺伝子の単独発現のみでは、オレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成することができないことを示す。
【実施例】
【0080】
[実験例3]
(大腸菌におけるFADO及びSAMM4タンパク質の発現)
実験例2の結果を受け、発明者らは、オレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成するために、SAMM1~SAMM7遺伝子以外に必要な遺伝子が存在すると予測した。そして、その遺伝子は、ゲノム上SAMM1~SAMM7遺伝子の近くに存在すると予測した。そこで、SAMM1~SAMM7遺伝子の周辺遺伝子を調査した。
【実施例】
【0081】
その結果、SAMM4遺伝子の上流にフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)-linked oxidoreductaseとアノテーションされたタンパク質(以下、「FADO」という。)をコードする遺伝子が存在することを見出した。配列番号2に、FADO遺伝子の塩基配列を示す。
【実施例】
【0082】
FADO遺伝子とSAMM4遺伝子の特徴的な関係として、FADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端が4塩基分オーバーラップしていることが見出された。このことから、発明者らは、FADO及びSAMM4は常に同時に発現していると予測した。配列番号6に、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端が4塩基分オーバーラップしている領域の塩基配列を示す。
【実施例】
【0083】
なお、分岐鎖脂肪酸を合成するマイコバクテリウム・クロロフェノリカム以外の菌株のゲノムを調べたところ、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシス等の菌株においても、FADO遺伝子及びSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップして存在していることが確認された。
【実施例】
【0084】
そこで、まず、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま発現ベクターにクローニングし、大腸菌rosetta2株に導入した。また、大腸菌はオレイン酸を合成しないため、大腸菌の培地に終濃度1mMのオレイン酸ナトリウムを添加した。続いて、18時間培養後、実験例1と同様にして脂肪酸組成を解析した。
【実施例】
【0085】
図2は大腸菌の脂肪酸組成を解析したガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。図2中、「16:1Δ9」はパルミトレイン酸を表し、「16:1Δ7」は7-ヘキサデセン酸を表し、「16:0」はヘキサデカン酸を表し、「17:1cycloΔ9」はシス-9,10-メチレンヘキサデカン酸を表し、「18:1Δ9」はオレイン酸を表し、「18:1Δ11」はバクセン酸を表し、「18:0」はステアリン酸を表し、「19:0Me10」は10-メチルステアリン酸を表し、「19:1cycloΔ9」はシス-9,10-メチレンオクタデカン酸を表し、「19:1cycloΔ11」はシス-11,12-メチレンオクタデカン酸を表し、「FADO-SAMM4」はFADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま大腸菌に導入した結果であることを表し、「対照」は遺伝子を導入していない大腸菌の結果であることを表し、「+」はイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により発現誘導した結果であることを表し、「-」は発現誘導していない結果であることを表す。
【実施例】
【0086】
その結果、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま発現させた大腸菌では10-メチルステアリン酸のピークが検出されないことが明らかとなった。
【実施例】
【0087】
[実験例4]
(大腸菌におけるFADO及びSAMM4タンパク質の発現の検出)
実験例3の結果を受けて、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま発現させた大腸菌における、FADOタンパク質及びSAMM4タンパク質の発現を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により確認した。また、比較のために、空のベクターを導入した大腸菌、及びSAMM4遺伝子のみの発現ベクターを導入した大腸菌についても同様の検討を行った。
【実施例】
【0088】
図3は、SDS-PAGEの結果を示す写真である。図3中、「+」はIPTGの添加により発現誘導した結果であることを表し、「-」は発現誘導していない結果であることを表し、「対照」は空のベクターを導入した大腸菌の結果であることを表し、「SAMM4」はSAMM4遺伝子のみの発現ベクターを導入した大腸菌の結果であることを表し、「FADO-SAMM4」はFADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま発現させた大腸菌の結果であることを表し、「M」は分子量マーカーを表し、矢印はFADOタンパク質及びSAMM4タンパク質を示す。
【実施例】
【0089】
その結果、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま発現させた大腸菌では、プロモーターの直下に位置するFADOタンパク質のみしか発現していないことが明らかとなった。
【実施例】
【0090】
[実験例5]
(発現ベクターの改変)
実験例4の結果から、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしたものをそのまま大腸菌発現させても、FADOタンパク質のみしか発現しないことが明らかとなった。この結果から、マイコバクテリウム・クロロフェノリカム由来の塩基配列では、大腸菌内でsequence to start translation(シャイン・ダルガノ配列、Shine-Dalgarno sequence、SD配列)が機能しないために、FADOタンパク質のみしか発現しないことが考えられた。
【実施例】
【0091】
そこで、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップした遺伝子の発現ベクターに対し、以下のストラテジー1及びストラテジー2の2種類の方法により改変を加え、大腸菌内でFADO遺伝子及びSAMM4遺伝子の双方を発現させることを試みた。
【実施例】
【0092】
《ストラテジー1》
SAMM4遺伝子の上流の塩基配列を、コドンを変化させないようにAGリッチにした塩基配列に改変した。配列番号7に、ストラテジー1により改変後の、FADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端を含む領域の塩基配列を示す。
【実施例】
【0093】
《ストラテジー2》
SAMM4遺伝子の上流に、大腸菌内で機能する新たなSD配列を挿入した。配列番号8に、ストラテジー2により改変後の、FADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端を含む領域の塩基配列を示す。
【実施例】
【0094】
[実験例6]
(オレイン酸の10-メチレンステアリン酸への変換)
実験例5で改変した、ストラテジー1(st1)及びストラテジー2(st2)の発現ベクターをそれぞれ大腸菌rosetta2株に導入した。また、比較のために空のベクターを導入した大腸菌も用意した。また、大腸菌はオレイン酸を合成しないため、大腸菌の培地に終濃度1mMのオレイン酸ナトリウムを添加した。また、比較のために、培地にオレイン酸ナトリウムを添加しなかったものも用意した。続いて、18時間培養後、実験例1と同様にして脂肪酸組成を解析した。
【実施例】
【0095】
図4及び図5は大腸菌の脂肪酸組成を解析したガスクロマトグラフィーの結果を示すグラフである。図4は培地にオレイン酸ナトリウムを添加しなかった場合の結果であり、図5は培地にオレイン酸ナトリウムを添加した場合の結果である。
【実施例】
【0096】
図4及び図5中、「st1」は実験例5のストラテジー1により改変した発現ベクターを導入した結果であることを表し、「st2」は実験例5のストラテジー2により改変した発現ベクターを導入した結果であることを表し、「対照」は空のベクターを導入した結果であることを表し、「standard」は10-メチルステアリン酸の標品を表し、「18:1Δ9」はオレイン酸を表し、「18:0」はステアリン酸を表し、「19:0Me10」は10-メチルステアリン酸を表す。
【実施例】
【0097】
その結果、図4に示すように、培地にオレイン酸ナトリウムを添加しなかった場合には、st1及びst2の発現ベクターのいずれを導入した大腸菌においても、10-メチルステアリン酸のピークが検出されないことが確認された。
【実施例】
【0098】
一方、図5に示すように、培地にオレイン酸ナトリウムを添加した場合には、st1及びst2の発現ベクターのいずれを導入した大腸菌においても、10-メチルステアリン酸のピークが検出された。
【実施例】
【0099】
更に、st2の発現ベクターを導入した大腸菌における10-メチルステアリン酸のピークをガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)により解析した結果、標品の10-メチルステアリン酸と同一のマススペクトルを示すことが確認された。また、データベース上にある10-メチルステアリン酸のマススペクトルとも一致することが確認された。
【実施例】
【0100】
以上の結果は、大腸菌内でFADO遺伝子及びSAMM4遺伝子の双方を発現させることにより、オレイン酸から10-メチルステアリン酸を合成できることを示す。
【実施例】
【0101】
以上の結果から、SAMM4タンパク質の活性により、オレイン酸が10-メチレンステアリン酸に変換され、続いてFADOタンパク質の活性により、10-メチレンステアリン酸が10-メチルステアリン酸に変換されると考えられた。
【実施例】
【0102】
また、上述したように、FADO遺伝子とSAMM4遺伝子が4塩基分オーバーラップしている、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスは、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムと同様に不飽和脂肪酸の二重結合にメチル基を導入して分岐鎖脂肪酸を製造すると考えられる。
【実施例】
【0103】
そして、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子と、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスのFADO遺伝子との配列同一性を算出した結果、それぞれ75%、77%、77%であることが明らかとなった。
【実施例】
【0104】
また、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのSAMM4遺伝子と、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ラバー、ノカルディア・ブラシリエンシスのFADO遺伝子との配列同一性を算出した結果、それぞれ76%、79%、79%であることが明らかとなった。
【実施例】
【0105】
したがって、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子と概ね70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つ10-メチレンステアリン酸を10-メチルステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質は、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子と同様に機能するといえる。
【実施例】
【0106】
また、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのSAMM4遺伝子と概ね70%以上の配列同一性を有する塩基配列にコードされ且つオレイン酸を10-メチレンステアリン酸に変化させる活性を有するタンパク質は、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのSAMM4遺伝子と同様に機能するといえる。
【実施例】
【0107】
[実験例7]
(st2の発現ベクターを導入した大腸菌における10-メチルステアリン酸の割合)
実験例6において、st2の発現ベクターを導入した大腸菌における、各脂肪酸の全脂肪酸に対する存在割合を測定した。対照として、空のベクターを導入した大腸菌における各脂肪酸の全脂肪酸に対する存在割合を測定した。
【実施例】
【0108】
図6は、脂肪酸の存在割合を測定した結果を示すグラフである。図6中、「14:0」はテトラデカン酸を表し、「16:0」はヘキサデカン酸を表し、「16:1Δ7」は7-ヘキサデセン酸を表し、「16:1Δ9」はパルミトレイン酸を表し、「17:1cycloΔ9」はシス-9,10-メチレンヘキサデカン酸を表し、「18:0」はステアリン酸を表し、「18:1Δ9」はオレイン酸を表し、「18:1Δ11」はバクセン酸を表し、「19:1cycloΔ9」はシス-9,10-メチレンオクタデカン酸を表し、「19:1cycloΔ11」はシス-11,12-メチレンヘキサデカン酸を表し、「19:0Me10」は10-メチルステアリン酸を表す。
【実施例】
【0109】
その結果、st2の発現ベクターを導入した大腸菌では、全脂肪酸の約1モル%程度の10-メチルステアリン酸が合成されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、分岐鎖脂肪酸を製造する技術を提供することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0111】
配列番号1はSAMM4遺伝子の塩基配列である。
配列番号2はFADO遺伝子の塩基配列である。
配列番号3はumaA遺伝子の塩基配列である。
配列番号4はSAMM1遺伝子の塩基配列である。
配列番号5はSAMM7遺伝子の塩基配列である。
配列番号6は、マイコバクテリウム・クロロフェノリカムのFADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端が4塩基分オーバーラップしている領域の塩基配列である。
配列番号7は、実験例5のストラテジー1により改変後の、FADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端を含む領域の塩基配列を示す。
配列番号8は、実験例5のストラテジー2により改変後の、FADO遺伝子の3’末端とSAMM4遺伝子の5’末端を含む領域の塩基配列を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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