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明細書 :試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-012015 (P2019-012015A)
公開日 平成31年1月24日(2019.1.24)
発明の名称または考案の名称 試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キット
国際特許分類 G01N  27/62        (2006.01)
FI G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2017-128700 (P2017-128700)
出願日 平成29年6月30日(2017.6.30)
発明者または考案者 【氏名】齋藤 亮彦
【氏名】吉田 豊
【氏名】後藤 佐和子
出願人 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100141139、【弁理士】、【氏名又は名称】及川 周
審査請求 未請求
テーマコード 2G041
Fターム 2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA22
2G041FA24
2G041GA03
要約 【課題】アンジオテンシンペプチドを正確に定量可能な試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キットを提供する。
【解決手段】試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法であって、前記試料に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合した後、前記試料から内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを精製する工程1と、前記精製された前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを、質量分析法を用いて検出し、定量する工程2と、を備える方法であり、アンジオテンシンペプチドの定量限界が0.1fmol/μL以下である。アンジオテンシンペプチドの定量キットは、同位体標識アンジオテンシンペプチドと、変性剤と、を備える。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法であって、
前記試料に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合した後、前記試料から内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを精製する工程1と、
前記精製された前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを、質量分析法を用いて検出し、定量する工程2と、
を備え、
アンジオテンシンペプチドの定量限界が0.1fmol/μL以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アンジオテンシンペプチドがアンジオテンシン1、2、3、4、1-7、1-9、1-12、アンジオテンシンA及びアラマンディンからなる群のうち少なくとも一つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2種類以上のアンジオテンシンペプチドの量を同時に測定する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程2において、三連四重極質量分析計を用いて、多重反応モニタリングを使用して検出する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多重反応モニタリングで2つ以上の質量遷移を検出し、定量する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程1において、前記試料から前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを液体クロマトグラフィーにより分離精製する請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程1において、前記試料から前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを固相抽出法により分離精製する請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程1において、前記試料が体液であり、
前記試料に変性剤を添加し、前記試料中のタンパク質を変性させて沈殿させ、前記沈殿物のうち、前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを再可溶化させて分離精製する請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が腎臓由来の組織抽出液又は尿である請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
同位体標識アンジオテンシンペプチドと、
変性剤と、
を備えることを特徴とするアンジオテンシンペプチドの定量キット。
【請求項11】
前記変性剤が、尿素、チオ尿素及びジチオスレイトールからなる群の少なくとも1つである請求項10に記載のアンジオテンシンペプチドの定量キット。
【請求項12】
さらに固相抽出カラムを備える請求項10又は11に記載のアンジオテンシンペプチドの定量キット。
【請求項13】
2種類以上の同位体標識アンジオテンシンペプチドを備える請求項10~12のいずれか一項に記載のアンジオテンシンペプチドの定量キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キットに関する。
【背景技術】
【0002】
レニンアンジオテンシン系(renin-angiotensin system;RAS)は生体の血圧調節で重要な役割を担い、中でも、アンジオテンシンペプチドはこの系の中心的役割を果たしているホルモンである。アンジオテンシンペプチドは、肝臓で主に産生されるアンジオテンシノーゲン(Angiotensinogen;AGT)から、レニン(Renin)、アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin-converting enzyme;ACE)等の酵素によって生成される。心臓、腎臓等の臓器の局所及び組織のRASは、全身のRASとは異なる機序で制御されていることが指摘されているが、未だ不明な点が多い。特に、腎臓のRASに関しては、アンジオテンシンペプチドの産生場所及び産生機序に関していくつか仮説があり、生理的な意義に関しても議論がなされている。よって、腎臓等の臓器、及び、血液、尿等の生体試料中のアンジオテンシンペプチドを正確に定量することは、組織のRASの病態への関与の解明に役立つと期待される。
【0003】
現在、アンジオテンシンペプチドは、放射免疫測定法(Radioimmunoassay;RIA)(例えば、非特許文献1参照)、酵素免疫測定法(Enzyme-Linked immunosorbent assay;ELISA)等、抗体を使用する免疫測定法で定量されていることが多い。
【0004】
また、その他の定量方法としては、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography;LC)及び質量分析法(mass spectrometry;MS)(以下、「LC/MS」と称する場合がある。)を組み合わせた測定法を用いて、腎臓、尿、血漿又は白色脂肪組織中のアンジオテンシンペプチドを定量した値が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
また、特許文献1には、LC/MSを用いて、血漿中のアンジオテンシンペプチドの量を測定することでレニン活性を測定する方法が開示されている。
さらに、特許文献2には、LC/MSを用いて、血漿中の、RASのアンジオテンシンペプチドの生成及び分解カスケードが平衡状態に達した際のアンジオテンシンペプチドの量を定量する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2016-075698号公報
【特許文献2】特表2015-518964号公報
【0007】

【非特許文献1】Navar L G et al., “Tubular Fluid Concentrations and Kidney Contents of Angiotensins I and II in Anesthetized Rats”, J. Am. Soc. Nephrol., vol.5, p1153-1158, 1994.
【非特許文献2】Ali Q et al., “Estimation of angiotensin peptides in biological samples by LC/MS method”, Anal Methods, vol.6, no.1, p215-222, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗体を使用する免疫測定法によるアンジオテンシンペプチドの定量法では、定量値が報告によって異なる。抗体は特定のアミノ酸配列を認識するが、各アンジオテンシンペプチドはアミノ酸配列の相同性が高いため、抗体の交差反応により正確な定量が困難である可能性が指摘されている。また、免疫測定法によるアンジオテンシンペプチドの定量法では、同時に複数種のアンジオテンシンペプチドを定量することが困難である。
また、LC/MSを用いてアンジオテンシンペプチドを定量したこれまでの報告には、相対定量も含まれており、報告によって定量値が異なる。特に、試料として腎臓、尿、血漿又は白色脂肪組織を用い、LC/MSを用いて、腎臓中のアンジオテンシンペプチドを定量したのは非特許文献2のみである。しかしながら、その定量値は、これまでの免疫測定法による定量値の約1000倍であり、大きくかけ離れている。
さらに、特許文献1及び2では、LC/MSを用いてアンジオテンシンペプチドの定量を行っているが、血漿のレニン活性の測定を目的としたもの、又は、少なくとも15分以上インキュベーションした結果生じたアンジオテンシンペプチドの定量を目的としている。そのため、いずれも生体内の生理的及び病態生理学的なアンジオテンシンペプチドの定量法ではなく、定量法としての検証も不十分である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、アンジオテンシンペプチドを正確に定量可能な試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法は、試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法であって、前記試料に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合した後、前記試料から内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを精製する工程1と、前記精製された前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを、質量分析法を用いて検出し、定量する工程2と、を備える方法であり、アンジオテンシンペプチドの定量限界が0.1fmol/μL以下である。
前記アンジオテンシンペプチドがアンジオテンシン1、2、3、4、1-7、1-9、1-12、アンジオテンシンA及びアラマンディンからなる群のうち少なくとも一つであってもよい。
上記第1態様に係る方法において、2種類以上のアンジオテンシンペプチドの量を同時に測定してもよい。
前記工程2において、三連四重極質量分析計を用いて、多重反応モニタリングを使用して検出してもよい。
上記第1態様に係る方法において、前記多重反応モニタリングで2つ以上の質量遷移を検出し、定量してもよい。
前記工程1において、前記試料から前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを液体クロマトグラフィーにより分離精製してもよい。
前記工程1において、前記試料から前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを固相抽出法により分離精製してもよい。
前記工程1において、前記試料が体液であり、前記試料に変性剤を添加し、前記試料中のタンパク質を変性させて沈殿させ、前記沈殿物のうち、前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを再可溶化させて分離精製してもよい。
前記試料が腎臓由来の組織抽出液又は尿であってもよい。
【0011】
本発明の第2態様に係るアンジオテンシンペプチドの定量キットは、同位体標識アンジオテンシンペプチドと、変性剤と、を備える。
前記変性剤が、尿素、チオ尿素及びジチオスレイトールからなる群の少なくとも1つであってもよい。
上記第2態様に係るアンジオテンシンペプチドの定量キットは、さらに固相抽出カラムを備えてもよい。
上記第2態様に係るアンジオテンシンペプチドの定量キットは、2種類以上の同位体標識アンジオテンシンペプチドを備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上記態様によれば、アンジオテンシンペプチドを正確に定量可能な試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法及びアンジオテンシンペプチドの定量キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】実施例1における検量線を示すグラフである。具体的には、血漿試料でのアンジオテンシン1の検量線を示すグラフである。
【図1B】実施例1における検量線を示すグラフである。具体的には、血漿試料でのアンジオテンシン2の検量線を示すグラフである。
【図2A】実施例1における正常マウス(対照)、腎特異的メガリンノックアウトマウスNdrg1Cre ERT2、megalin lox/lox(以下、「NDRG1マウス」と称する)及びApoECre、megalin lox/lox(以下、「ApoEマウス」と称する)の尿試料でのアンジオテンシン1の定量値を比較したグラフである。
【図2B】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの尿試料でのアンジオテンシン2の定量値を比較したグラフである。
【図2C】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの尿試料でのアンジオテンシン1-9の定量値を比較したグラフである。
【図2D】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの尿試料でのアンジオテンシン1-7の定量値を比較したグラフである。
【図3】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの血漿試料でのアンジオテンシン2の定量値を比較したグラフである。
【図4A】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの腎臓試料でのアンジオテンシン1の定量値を比較したグラフである。
【図4B】実施例1における正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの腎臓試料でのアンジオテンシン2の定量値を比較したグラフである。
【図5A】実施例2におけるアンジオテンシノーゲン投与又は非投与の正常マウス(対照)及びNDRG1マウスの腎臓試料でのアンジオテンシン1-9の定量値を比較したグラフである。
【図5B】実施例2におけるアンジオテンシノーゲン投与又は非投与の正常マウス(対照)及びNDRG1マウスの腎臓試料でのアンジオテンシン1-7の定量値を比較したグラフである。
【図6A】実施例2におけるアンジオテンシノーゲン投与又は非投与の正常マウス(対照)及びApoEマウスの腎臓試料でのアンジオテンシン1-9の定量値を比較したグラフである。
【図6B】実施例2におけるアンジオテンシノーゲン投与又は非投与の正常マウス(対照)及びApoEマウスの腎臓試料でのアンジオテンシン1-7の定量値を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法≫
本発明の一実施形態に係る試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法は、試料中のアンジオテンシンペプチドの量を測定するための方法であって、前記試料に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合した後、前記試料から内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを精製する工程1と、前記精製された前記内因性アンジオテンシンペプチド及び前記同位体標識アンジオテンシンペプチドを、質量分析法を用いて検出し、定量する工程2と、を備える方法であり、アンジオテンシンペプチドの定量限界が0.1fmol/μL以下である。

【0015】
本実施形態の方法によれば、アンジオテンシンペプチドを正確に定量することができる。

【0016】
本実施形態の方法において、分析対象となるアンジオテンシンペプチドとしては、アンジオテンシノーゲンの酵素分解産物であればよく、特別な限定はない。アンジオテンシンペプチドとして具体的には、例えば、アンジオテンシン1、アンジオテンシン2、アンジオテンシン1-9、アンジオテンシン1-7、アンジオテンシン1-12、アンジオテンシン3、アンジオテンシン4、アンジオテンシンA、アラマンディン等が挙げられ、これらに限定されない。
中でも、本実施形態の方法において、分析対象となるアンジオテンシンペプチドとしては、アンジオテンシン1、アンジオテンシン2、アンジオテンシン1-9、及びアンジオテンシン1-7からなる群のうち少なくとも一つであることが好ましい。

【0017】
アンジオテンシン1、アンジオテンシン2、アンジオテンシン1-9、及びアンジオテンシン1-7のアミノ酸配列は以下に示すとおりである。
アンジオテンシン1:DRVYIHPFHL(配列番号1)
アンジオテンシン2:DRVYIHPF(配列番号2)
アンジオテンシン1-9:DRVYIHPFH(配列番号3)
アンジオテンシン1-7:DRVYIHP(配列番号4)

【0018】
上記アミノ酸配列が示すように各アンジオテンシンペプチドはアミノ酸の相同性が高い。そのため、従来の抗体を用いた免疫測定法では、抗体の交差反応により、正確な定量が困難であった。また、従来の抗体を用いた免疫測定法では、同時に複数種のアンジオテンシンペプチドを定量することは困難であった。これに対し、本実施形態の方法では、質量分析により定量を行うため、質量の差により、これらの各アンジオテンシンペプチドを識別して、正確に定量することができる。さらに、同時に複数種のアンジオテンシンペプチドを定量することも可能である。

【0019】
また、これまで、LC/MSを用いてアンジオテンシンペプチドを定量する方法では、抗体を用いた免疫測定法と比較して、定量値が大きくかけ離れていた。これは、試料の調製段階での酵素活性が十分に抑制されていなかったこと、試料の精製が不十分であったこと、質量分析法による定量方法の精度が不十分であった可能性が挙げられる。
これに対し、本願発明では、後述に示す試料の種類に応じた調製方法及び精製方法、並びに質量分析法を用いた高精度な定量方法を用いることで、アンジオテンシンペプチドを絶対定量することができる。
本実施形態の方法の工程1、2について、以下に詳細を説明する。

【0020】
<工程1>
[混合工程]
まず、試料に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合する。このとき、既知の濃度の同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合することで、後述の質量分析法により、試料に含まれる内因性アンジオテンシンペプチドを絶対定量することができる。また、試料の精製前に同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合することで、試料中のアンジオテンシンペプチドの回収率を算出することができる。
本実施形態の方法に用いられる試料としては、動物、培養細胞又は培養組織から得られる生体試料であって、アンジオテンシンペプチドを含有し得るものであればよい。試料として具体的には、例えば、動物から摘出された組織若しくは培養組織由来の組織抽出液、培養細胞由来の細胞抽出液又は体液等が挙げられる。

【0021】
前記組織又は培養組織としては、例えば、血管内皮、脳、肝臓、腎臓等が挙げられ、これらに限定されない。
前記培養細胞としては、例えば、上述の組織由来の細胞を株化したもの等が挙げられる。

【0022】
前記体液としては、例えば、血液、血清、血漿、尿(例えば、原尿、蓄尿等)、バフィーコート、唾液、胆汁、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、汗、膀胱洗浄液等が挙げられ、これらに限定されない。

【0023】
全身のRASの解析を行う場合には、血液、血清、血漿等の全身を循環する体液を試料とすることが好ましい。
これに対し、組織のRASの解析を行う場合には、動物から摘出された組織若しくは培養組織由来の組織抽出液、培養細胞由来の細胞抽出液、又は、特定の組織に由来する体液を試料とすることが好ましい。
特定の組織に由来する体液として具体的には、例えば、腎臓のRASを解析するためには、尿(好ましくは、原尿)を用いればよい。
また、例えば、脳のRASを解析するためには、脳脊髄液を用いればよい。
また、例えば、肝・胆道系のRASを解析するためには、胆汁を用いればよい。
これまで、組織のRASの解析を行うために、組織におけるアンジオテンシンペプチドを絶対定量することが困難であった。これに対し、本実施形態の方法によれば、上述の試動物から摘出された組織若しくは培養組織由来の組織抽出液、培養細胞由来の細胞抽出液、又は、特定の組織に由来する体液を試料として用いて、それら試料の種類に応じた調製方法及び精製方法、並びに質量分析法を用いた高精度な定量方法を用いることで、組織におけるアンジオテンシンペプチドを絶対定量することができる。

【0024】
また、試料の由来となる動物としては、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等が挙げられ、これらに限定されない。

【0025】
本実施形態の方法に用いられる同位体標識アンジオテンシンペプチドとしては、13C及び15N同位体標識されたアミノ酸残基を有するものであればよい。13C及び15N同位体標識されたアミノ酸残基として具体的には、例えば、バリン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、リシン、フェニルアラニン、プロリン等が挙げられ、これらに限定されない。同位体標識アンジオテンシンペプチドにおいて、アミノ酸残基のうち1種が13C及び15N同位体標識されたアミノ酸残基に置換されていてもよく、2種以上が置換されていてもよい。
中でも、本実施形態の方法に用いられる同位体標識アンジオテンシンペプチドとしては、N末端から2番目のアルギニン残基の炭素原子が13C同位体と置換され、窒素原子が15N同位体と置換されたものであることが好ましい。この同位体標識アンジオテンシンペプチドは、天然アンジオテンシンペプチドと比較して約10Daの質量の増加をもたらす。

【0026】
また、工程1において試料中には複数種の内因性アンジオテンシンペプチドが含まれている、そのため、試料中に含まれる複数種の内因性アンジオテンシンペプチドのうち特定の1種を定量する場合には、混合する同位体標識アンジオテンシンペプチドは当該定量する内因性アンジオテンシンペプチドに対応したものを1種類混合すればよい。
一方、試料中に含まれる複数種の内因性アンジオテンシンペプチドのうち2種類以上を定量する場合には、混合する同位体標識アンジオテンシンペプチドは当該定量する内因性アンジオテンシンペプチドに対応したものを2種類以上混合すればよい。試料に2種類以上の同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合することで、後述の質量分析法により、同時に2種類以上の内因性アンジオテンシンペプチドの量を定量することができる。

【0027】
[試料調製工程]
また、混合工程の前に、適宜、試料の調製を行えばよい。試料の調製方法は、試料の種類等に応じて、公知の方法を用いて、適宜行えばよい。
例えば、試料が動物から摘出された組織及び培養組織由来の組織抽出液、並びに培養細胞由来の細胞抽出液である場合、公知の方法(参考文献1:Navar L G et al., “Tubular Fluid Concentrations and Kidney Contents of Angiotensins I and II in Anesthetized Rats”, J. Am. Soc. Nephrol., vol.5, p1153-1158, 1994.)に従い、調製すればよい。
具体的には、まず、採取後の組織、培養細胞、又は培養組織を直ちに予め-80℃に保冷しておいたメタノール内でホモジナイズする。得られたホモジネートに同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合する。その後、余分なタンパク質及び細胞膜等を除去するために、遠心分離等を行い、その上清を得る。この上清にはメタノールが含まれるため、適宜加熱してメタノールを蒸発させる。得られた乾燥物はリン酸ナトリウム緩衝液等に溶解させて、試料として用いることができる。

【0028】
上記組織抽出液又は細胞抽出液の調製方法は、これまで、RIAによるアンジオテンシンペプチドの定量を行う際に、用いられてきた。しかしながら、本発明者らは、今回初めて、質量分析法によるアンジオテンシンペプチドの定量を行う際に、組織抽出液又は細胞抽出液(後述の実施例に示すように、特に、腎臓由来の組織抽出液)の調製方法として、当該調製方法を適用したところ、アンジオテンシンペプチドの絶対定量を行うことができた。これは、組織、培養組織、及び培養細胞を採取後、直ちに-80℃の低温のメタノールに保持することで、RASに関与する酵素の活性を充分に抑制することができ、生体内でのアンジオテンシンペプチドの量を正確に定量することができるためであると推察される。

【0029】
試料がプロテアーゼ等の酵素を含む体液(例えば、血液、血清、血漿、原尿等)である場合、血液等の体液を採取後、直ちにプロテアーゼ阻害剤を添加することが好ましい。これにより、RASに関与する酵素の活性を充分に抑制することができ、生体内でのアンジオテンシンペプチドの量を正確に定量することができる。
プロテアーゼ阻害剤として具体的には、例えば、EDTA等の金属プロテアーゼ阻害剤;カプトプリル、リシノプリル等のアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin-converting enzyme;ACE)阻害剤;アリスキレン等のレニン阻害剤等が挙げられ、これらに限定されない。これらのプロテアーゼ阻害剤を単独で添加してもよく、複数組み合わせて添加してもよい。中でも、RASに関与する酵素の活性を充分に抑制するために、プロテアーゼ阻害剤を複数組み合わせて添加することが好ましい。
また、プロテアーゼ阻害剤を添加した後、血液等の体液に、同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合すればよい。試料として血清、血漿等を用いる場合、公知の方法を用いて、プロテアーゼ阻害剤の添加及び同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合後の血液から調製すればよい。

【0030】
[精製工程]
次いで、同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合した試料から、試料に含まれる内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドを精製する。
精製方法は、試料の種類に応じて、公知の方法を適宜選択すればよい。

【0031】
精製方法として具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography;LC)、固相抽出法等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、固相抽出法及びLCをこの順に行い、分離精製することが好ましい。

【0032】
例えば、試料が体液である場合、固相抽出及びLCによる分離精製の前に、試料中のタンパク質を低減させるために、ペプチド抽出法による分離精製することが好ましい。
ペプチド抽出法としては、例えば、アルブミン除去処理法、アセトニトリル沈殿法、限外濾過法、DS法(Differential Solubilization method)等が挙げられる。中でも、ペプチド抽出法としては、DS法を用いることが好ましい。
これまで、DS法は、血漿等の体液を試料として、LC/MSによるバイオマーカー(アンジオテンシンペプチドは除く)の探索や定量を行う際に、用いられてきた。しかしながら、本発明者らは、今回初めて、質量分析法によるアンジオテンシンペプチドの定量を行う際に、血漿、尿等の体液の分離精製方法として、DS法を適用したところ、数十μL等の微量の試料に含まれるアンジオテンシンペプチドの絶対定量を行うことができた。これは、DS法を用いることにより、試料中からアンジオテンシンペプチドをより高い回収率で得られたためであると推察される。
特に、血漿よりもタンパク質含有量が少ない体液試料(例えば、後述の実施例に示すように、尿)に対し、分離精製を行う場合には、限外濾過法を適用することが一般的である。これに対し、尿等のタンパク質をほとんど含まない体液試料に対し、DS法を用いて分離精製を行うことで、高い回収率を達成できることは、本発明者らにより、今回初めて見出されたものである。
すなわち、本実施形態の方法において、試料が体液である場合、DS法、固相抽出法、及びLCをこの順に行い、分離精製することが好ましい。

【0033】
DS法を用いた試料の処理方法として具体的には、以下に示す手順で行えばよい。
まず、体液に変性剤を添加する。
変性剤としては、例えば、尿素、チオ尿素、ジチオスレイトール(dithiothreitol;DTT)等が挙げられ、これらに限定されない。これら変性剤を単独で用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。中でも、より効果的にタンパク質を変性できることから、尿素、チオ尿素、及びDTTを組み合わせて用いることが好ましい。

【0034】
次いで、変性剤を添加した体液を4℃程度に冷却したアセトン等の有機溶媒中にゆっくりと滴下する。滴下後、4℃程度で30分以上3時間以下程度の時間をかけて混和し、試料中のタンパク質を変性させて沈殿させる。次いで、遠心分離等により分離し、上清を除去して沈殿物を得る。得られた沈殿物を、塩酸等の強酸及びアセトニトリル等の有機溶媒に懸濁する。懸濁後、4℃程度で、30分以上3時間以下程度の時間をかけて混和し、変性されたタンパク質のうち、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドを再可溶化させる。次いで、遠心分離等により分離し、上清を得ることで、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドを分離精製することができる。このとき、上清には、アセトニトリルが含まれるため、必要に応じて乾燥によりアセトニトリルを蒸発させる。得られた乾燥物を適当な緩衝液に溶解させて、固相抽出又はLCによる分離精製に用いられる試料とすることができる。

【0035】
(液体クロマトグラフィー(liquid chromatography;LC))
なお、本明細書における「液体クロマトグラフィー(LC)」とは、流体が微粉化物質のカラム又は毛細管路を通して、均一に浸透するのに従い、流体溶液のうちの1つ以上の成分が選択的に遅延するプロセスを意味する。この遅延は、流体が固定相に対して移動するにしたがって、1つ以上の固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間に混合物の成分が分布する結果として生じる。
液体クロマトグラフィーとして具体的には、例えば、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、乱流液体クロマトグラフィー(TFLC)(高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)又は高スループット液体クロマトグラフィーとも称される)等が挙げられる。

【0036】
液体クロマトグラフィー(LC)による分離精製において、アンジオテンシンペプチドの種類に応じて、公知のLC装置及びカラムを適宜選択することができる。クロマトグラフィーカラムは、典型的には、媒体(すなわち、充填成分)を含み、化学部分の分離(すなわち、分画)を促進する。媒体は、微粒子を含んでいてもよい。
LCによる分離精製方法として具体的には、例えば、試料(又は、予め精製された試料)は、流入ポートからカラムに導入される。次いで、溶媒又は溶媒混合物を用いて溶離され、流出ポートから排出され、生成された試料を得ることができる。
また、アンジオテンシンペプチドを溶離するために、異なる溶離モードが選択されてもよい。液体クロマトグラフィーの溶離モードとしては、例えば、勾配モード、等張モード、又は多型(すなわち、混合)モード等が挙げられる。
クロマトグラフィーの際、成分(本実施形態においては、アンジオテンシンペプチド)の分離は、溶離剤(「移動相」とも称される)、溶離モード、勾配条件、温度等の各種条件によって行われる。

【0037】
(固相抽出法)
本明細書において、固相抽出(Solid phase extraction;SPE)とは、分析化学手法の一つであって、溶液又は懸濁液中の目的とする化合物と不純物とを物理又は化学的性質に基づいて分離する方法を意味する。例えば、移動相が固体相を通して、又は、その周囲を通過するに従い、移動相の望ましくない成分は、固相によって滞留され、移動相中の目的とする化合物が精製される。また、例えば、試料中の目的とする化合物は固体相によって滞留され、移動相の望ましくない成分を、固体相を通して又はその周囲を通過させてもよい。この場合、次いで、第2の移動相を使用して、さらなる処理又は分析のために、滞留された目的とする化合物を固相から溶離させればよい。
固相抽出カラムとしては、市販のものを用いてもよく、例えば、Mono Spin(登録商標)シリーズ(GLサイエンス製)等が挙げられる。

【0038】
<工程2>
次いで、分離精製後の質量分析計に導入し、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドを検出及び定量する。

【0039】
本明細書において、「質量分析法(Mass Spectrometry;MS)」とは、分子をイオン化し、その質量によって化合物を同定する分析技術を意味する。
質量分析法として、具体的には、以下に示すように、分子の質量対電荷比(m/z)に基づいて、イオン化工程、検出工程、及び定量工程をこの順に行う。

【0040】
[イオン化工程]
本実施形態の方法において、質量分析計で分析対象はイオン化されている必要がある。このため、分離精製後の試料に含まれる、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドは、質量分析計に導入する前にイオン化される。

【0041】
内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドをイオン化させる方法としては、例えば、電子イオン化、化学イオン化、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)、液体二次イオン化(LSI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)、粒子ビームイオン化等が挙げられる。
イオン化方法は、アンジオテンシンペプチドの種類、試料の種類、検出器の種類、正対負モードの選択等に基づいて、適宜選択することができる。

【0042】
中でも、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドをイオン化させる方法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)を用いることが好ましく、正モードにおいて、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いることがより好ましい。

【0043】
[検出工程]
次いで、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドのイオンの量を、検出する。
具体的には、試料がイオン化された後、それによって生成された正荷電又は負荷電イオンを分析し、質量対電荷比を決定することができる。質量対電荷比を決定するための分析器としては、例えば、三連四重極質量分析器、四重極質量分析器、イオントラップ分析器、フーリエ変換分析器、オービトラップ分析器、飛行時間分析器等が挙げられる。
イオンは、いくつかの検出モードを使用して検出することができる。具体的には、例えば、イオンは、高選択性反応モニタリング(H-SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、選択的反応モニタリング(SRM)、選択的イオンモニタリングモード(SIM)等を使用して検出されてもよい。

【0044】
中でも、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識アンジオテンシンペプチドのイオンの質量対電荷比は、三連四重極質量分析器を用いて、多重反応モニタリングを使用して検出されることが好ましい。
さらに、より正確に定量できることから、多重反応モニタリングを使用した際に、2つ以上の質量遷移を検出することが好ましい。
これにより、後述の定量工程に示すように、2つ以上の質量遷移から得られる質量プロットから2つ以上のピーク下面積を得て、さらに2つ以上のピーク下面積から2つ以上の定量値を計算し、それら定量値の平均値を算出することで、より高精度のアンジオテンシンペプチドの定量値を得ることができる。

【0045】
また、三連四重極質量分析器は「タンデム質量分析器(MS/MS)」とも呼ばれ、MS技術の選択性を向上させることができる。この技術では、着目分子から生成される前駆体イオン(親イオンとも呼ばれる)は、MS装置内で濾過され、続いて前駆体イオンは断片化されて1つ以上の生成物イオン(娘イオンまたは断片イオンとも呼ばれる)を生じ、次にこれは第2のMS手順において分析される。前駆体イオンを選択することで、特定の分子(本実施形態ではアンジオテンシンペプチド)によって生成されるイオンのみが分画チャンバを通過し、ここで不活性ガスの原子との衝突によって生成物イオンが生成する。前駆体及び生成物イオンの両方とも、所与の一連のイオン化/断片化条件下で、再現可能なように生成される。そのため、MS/MS技術は、非常に強力な分析ツールである。例えば、濾過/分画の組み合わせを使用して、干渉物質を排除することができ、生物学的試料等の複雑な試料において特に有用である。

【0046】
[定量工程]
定量工程では、イオン化したターゲットペプチド(親イオン、すなわちアンジオテンシンペプチド)が解離して生じる娘イオンが検出された場合のみシグナルとして検出する。そのシグナルのピークから目的のアンジオテンシンペプチドの定量が可能になる。また、この時、定量を行うアンジオテンシンペプチドを同位体標識したペプチドを既知量加えて内部標準として用いることで、回収率及び絶対定量値を算出することが可能になる。

【0047】
定量方法としてより具体的には、例えば、イオンの量のデータは、コンピュータに中継され、イオン数対時間のプロットとして生成される。このプロットされた質量クロマトグラムから、内因性アンジオテンシンペプチド(例えば、アンジオテンシン1)及び同位体標識アンジオテンシンペプチド(例えば、同位体標識アンジオテンシン1)のピーク下の面積を決定することができる。これらの面積を用いて、以下の式[1]から内因性アンジオテンシンペプチドの量を算出することができる。
試料中のアンジオテンシンペプチドの濃度
=(試料のピーク下の面積/内部標準のピーク下の面積)× 内部標準の濃度・・・[1]

【0048】
また、同位体標識アンジオテンシンペプチドを2種類以上混合させておくことで、同時に2種類以上のアンジオテンシンペプチドの絶対量を得ることができる。

【0049】
<好ましい実施形態>
[試料:組織抽出液又は細胞抽出液]
本実施形態の方法において、試料が組織抽出液又は細胞抽出液である場合、好ましい実施形態としては、以下に示すとおりである。
まず、上述の組織抽出液又は細胞抽出液の調製方法を用いて、試料を調製し、同位体標識アンジオテンシンペプチドを混合する。次いで、混合物を固相カラムに通し、さらに、液体クロマトグラフィーにより分離精製する。次いで、分離精製物を三連四重極質量分析器に導入し、正モードにおいて、エレクトロスプレーイオン化(ESI)し、多重反応モニタリングを使用して、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上の質量遷移を検出する。検出された内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上の質量遷移から質量クロマトグラムを作成し、それぞれ2つ以上のピーク下の面積を決定する。次いで、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上のピーク下の面積から上述の式[1]を用いて、2つ以上の内因性アンジオテンシンペプチドの定量値を算出する。次いで、2つ以上の質量遷移(transition)から得られる定量値の平均を定量値とし、最終定量値は同一試料を2回以上測定した場合の平均値をとる。

【0050】
[試料:体液]
本実施形態の方法において、試料が体液である場合、好ましい実施形態としては、以下に示すとおりである。
まず、試料と同位体標識アンジオテンシンペプチドとを混合する。次いで、DS法を用いて分離精製する。次いで、混合物を固相カラムに通し、さらに、液体クロマトグラフィーにより分離精製する。次いで、分離精製物を三連四重極質量分析器に導入し、正モードにおいて、エレクトロスプレーイオン化(ESI)し、多重反応モニタリングを使用して、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上の質量遷移を検出する。検出された内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上の質量遷移から質量クロマトグラムを作成し、それぞれ2つ以上のピーク下の面積を決定する。次いで、内因性アンジオテンシンペプチド及び同位体標識ペプチドの2つ以上のピーク下の面積から上述の式[1]を用いて、2つ以上の内因性アンジオテンシンペプチドの定量値を算出する。次いで、2つ以上の定量値の平均値を最終定量値とする。

【0051】
[定量限界]
本実施形態の方法において、アンジオテンシンペプチドの定量限界(定量下限)は、0.5fmol/μL以下であることが好ましく、0.1fmol/μL以下であることがより好ましい。
一方、アンジオテンシンペプチドの定量上限は、例えば、300fmol/μL以上である。

【0052】
なお、本明細書において、「定量限界(limit of quantitation;LOQ)」とは、測定が定量的に有意義となる点を意味する。この定量限界における検体応答は、20%の精度及び80~120%の正確度によって、同定し、分離し、再現することができる。また、「定量上限」とは、検体応答の定量化可能な線形上限範囲を意味する。

【0053】
≪アンジオテンシンペプチドの定量キット≫
本発明の一実施形態に係るアンジオテンシンペプチドの定量キットは、同位体標識アンジオテンシンペプチドと、変性剤と、を備える。

【0054】
本実施形態の定量キットによれば、アンジオテンシンペプチドを正確に定量することができる。

【0055】
本実施形態の定量キットに含まれる同位体標識アンジオテンシンペプチドとしては、上述の工程1において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の定量キットに含まれる同位体標識アンジオテンシンペプチドとしては、N末端から2番目のアルギニン残基の炭素原子が13C同位体と置換され、窒素原子が15N同位体と置換されたものであることが好ましい。この同位体標識アンジオテンシンペプチドは、天然アンジオテンシンペプチドと比較して約10Daの質量の増加をもたらす。

【0056】
また、本実施形態の定量キットに含まれる同位体標識アンジオテンシンペプチドは1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の同位体標識アンジオテンシンペプチドを備えることで、同時に2種類以上のアンジオテンシンペプチドの量を定量することができる。

【0057】
本実施形態の定量キットに含まれる変性剤としては、上述の工程1において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、本実施形態の定量キットに含まれる変性剤としては、尿素、チオ尿素、及びDTTからなる群のうち少なくとも一つであることが好ましく、尿素、チオ尿素、及びDTTからなる群のうち少なくとも2つであることがより好ましく、尿素、チオ尿素、及びDTTであることがさらに好ましい。

【0058】
本実施形態の定量キットは、さらに、固相抽出カラム等を備えていてもよい。固相抽出カラムを備えることで、LCによる分離精製前の試料の精製度をより向上させることができる。
固相抽出カラムとしては、上述の工程1において例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0059】
本実施形態の定量キットは、さらに、LCによる分離精製及び質量分析に用いられる溶媒、試薬、及び容器等を適宜備えていてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
1.試料の準備
被検体として、12~15週齢の正常雄マウス(C57BL/6J)(Charles Rivers Laboratories Internationalより購入)、遺伝子組み換えマウスであるメガリン完全ノックアウト(KO)マウス(Ndrg1Cre ERT2、megalin lox/lox)(以下、「NDRG1マウス」と称する場合がある)及びメガリン部分KOマウス(ApoECre、megalin lox/lox)(以下、「ApoEマウス」と称する場合がある)を使用した。
【実施例】
【0062】
(1)尿の採取
解剖前24時間蓄尿した尿を試料として使用した。なお、得られた尿は、低速遠心により、細胞成分等を除去し、上清を使用した。得られた上清は、凍結し、使用するまで-80℃で保存した。
【実施例】
【0063】
(2)血液の採取
呼気麻酔イソフルランを用いて、マウスを鎮静した後に、頸椎脱臼を行い、正中切開した。次いで、下大静脈から0.8mL採血した。なお、このとき、血液1mLあたり、500mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)50μL、2mM Captopril 6.45μL、合成プロテアーゼインヒビターコンプリート(Rosche製1錠を2mLの超純水で溶解)25μL、25mM Aliskiren10μLを予め満たした1mLのシリンジに直ちに採血した。次いで、血液は室温、800×gで20分遠心し、上清の血漿を集め、液体窒素で凍結した。得られた血漿は、使用するまで-80℃で保存した。なお、得られた血漿において、オリエンタル酵母工業株式会社に依頼してRIA2抗体法によりレニン活性が十分に抑制されていることを確認した。また、血漿にアンジオテンシン1を添加し、アンジオテンシン2への変化量を測定することで、ACE活性が十分に抑制されていることを確認した。
【実施例】
【0064】
(3)腎臓の摘出
採血後、右腎を摘出し、被膜を除去して1/2にカットし、直ちに液体窒素で凍結した。左腎も摘出し、同様に処理し、凍結した。得られた腎臓は、使用するまで-80℃で保存した。
【実施例】
【0065】
2.工程1:アンジオテンシンペプチドの精製
(1)各試料からのアンジオテンシンペプチドの分離
・尿試料からのアンジオテンシンペプチドの分離
まず、40μLの尿に安定同位体標識のアンジオテンシンペプチド(1、2、1-9及び1-7)(アンジオテンシンペプチド1、2はGrainer bio-one製、アンジオテンシンペプチド1-9及び1-7はSigma-Aldrich製)をそれぞれ100fmolずつ添加した。なお、各アンジオテンシンペプチドのアミノ酸配列は配列番号1~4に示すとおりである。次いで、サンプルの倍量の変性剤(7M尿素、2Mチオウレア、及び20mM dithiothreitol(DTT))を添加した。次いで、混合液を4℃に冷やした2mLのアセトンの中に、ゲルローディング用の細いチップを用いて一滴ずつゆっくりと添加した。添加後すぐに4℃で1時間混和した。次いで、4℃、19000×gで15分遠心し、上清を捨てた。次いで、1mLの12mM塩酸(HCl)及び80%アセトニトリル(ACN)の混合溶液を用いて、沈殿を再懸濁した。次いで、4℃で、2時間混和した。次いで、4℃、19000×gで15分遠心し、上清を回収した。次いで、回収した上清を遠心乾燥機で乾燥させて、乾燥物を得た。得られた乾燥物を1mLの0.2%トリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid;TFA)で再懸濁した。
【実施例】
【0066】
・血漿試料からのアンジオテンシンペプチドの分離
まず、20μLの血漿に安定同位体標識のアンジオテンシンペプチド(1、2、1-7及び1-9、Sigma-Aldrich製)をそれぞれ100fmolずつ添加した。次いで、サンプルの倍量の変性剤(7M尿素、2Mチオウレア、及び20mM dithiothreitol(DTT))を添加した。次いで、混合液を4℃に冷やした2mLのアセトンの中に、ゲルローディング用の細いチップを用いて一滴ずつゆっくりと添加した。添加後すぐに4℃で1時間混和した。次いで、4℃、19000×gで15分遠心し、上清を捨てた。次いで、800μLの12mM塩酸(HCl)及び80%アセトニトリル(ACN)の混合溶液を用いて、沈殿を再懸濁した。次いで、4℃で、1時間混和した。次いで、4℃、19000×gで15分遠心し、上清を回収した。次いで、回収した上清を遠心乾燥機で乾燥させて、乾燥物を得た。得られた乾燥物を1mLの0.2%TFAで再懸濁した。
【実施例】
【0067】
・腎臓試料からのアンジオテンシンペプチドの分離
まず、腎臓の湿重量を計測後、1/2にカットした右腎を2.5mLのメタノール(-80℃で予め冷やしたもの)内でホモジナイズした(条件:IKAホモジナイザー、30秒)。なお、得られた腎臓のホモジネートにおいて、オリエンタル酵母工業株式会社に依頼してRIA2抗体法によりレニン活性が十分に抑制されていることを確認した。また、得られた腎臓のホモジネートにアンジオテンシン1を添加し、アンジオテンシン2への変化量を測定することで、ACE活性が十分に抑制されていることを確認した。
次いで、得られたホモジネートに、内部標準として安定同位体標識アンジオテンシンペプチド(1、2、1-7及び1-9、Sigma-Aldrich製)をそれぞれ500fmolずつ添加した。次いで、4℃、1400×gで15分遠心し、上清を15mLの耐熱ガラス試験管に採取した。次いで、85℃に熱したヒートブロックで上清を含む試験管を加熱し、メタノールを蒸発させた。乾燥後、500μLのAngiotensin assay buffer(50mM sodium-phosphate及び1mM EDTA含有、pH7.4)で再懸濁した。次いで、4℃、21000×gで20分遠心し、上清を回収した。次いで、回収した上清に500μLの0.2%TFAを加え、合計約1mLとした。
【実施例】
【0068】
(2)各試料の脱塩及びペプチド分画
・尿試料及び腎臓試料の脱塩及びペプチド分画
次いで、(1)で得られた尿及び腎臓由来の再懸濁液をMono Spin(登録商標) C18(GLサイエンス製)を用いて脱塩及びペプチド分画した。具体的な手順は以下に示すとおりである。
まず、Mono Spin(登録商標) C18(GLサイエンス製)に、溶媒又はサンプルを滴下し、4℃、1000×gで1分間遠心した。溶媒及び試料の滴下した順番は以下に示すとおりである。
(カラムの平衡化)
5mL メタノール
→5mL 0.2%TFA及び80%ACN混合液
→5mL 0.2%TFA
(試料の滴下)
→1mLの(1)で得られた再懸濁液
(洗浄)
→5mL 0.2%TFA
(溶出)
→2mL 0.2%TFA及び30%ACN混合液
【実施例】
【0069】
・血漿試料の脱塩及びペプチド分画
次いで、(1)で得られた血漿由来の再懸濁液をMono Spin(登録商標) C18(GLサイエンス製)を用いて脱塩及びペプチド分画した。具体的な手順は以下に示すとおりである。
まず、Mono Spin(登録商標) C18(GLサイエンス製)に、溶媒又はサンプルを滴下し、4℃、1000×gで1分間遠心した。溶媒及び試料の滴下した順番は以下に示すとおりである。
(カラムの平衡化)
5mL メタノール
→5mL 0.2%TFA及び80%ACN混合液
→5mL 0.2%TFA
(試料の滴下)
→1mLの(1)で得られた再懸濁液
(洗浄)
→5mL 0.2%TFA
→5mL 0.2%TFA及び15%ACN混合液
(溶出)
→2mL 0.2%TFA及び30%ACN混合液
【実施例】
【0070】
(3)試料の最終調製
上述のMono Spin C18の処理で得られたアンジオテンシンペプチドを含んだ各溶出物を、遠心乾燥機で乾燥させた。次いで、腎臓試料は100μL、尿及び血液試料はそれぞれ20μLの0.2%TFAで再懸濁し、液体クロマトグラフィーに使用する試料とした。
【実施例】
【0071】
(4)液体クロマトグラフィーによる分離精製
・尿試料及び腎臓試料の液体クロマトグラフィーによる分離精製
液体クロマトグラフィー(Liquid Chromatography;LC)システムとしては、Eksigent(登録商標) Exspert nano LC 400、Eksigent(登録商標) Exspert cHiPLC(登録商標)を用いた。カラム温度は30℃に設定し、Trap and elute modeで使用した。
【実施例】
【0072】
また、使用したカラム、移動相及び流速は以下に示すとおりである。
(カラム)
Trap column:Nano cHiPLC(登録商標) Trap column 200μm×0.5mm ChromXP C18-CL 3μm 120Å(804-00006)
Analytical column:Nano cHiPLC(登録商標) column 75μm×15cm ChromXP C18-CL 3μm 120Å(804-00001)
(移動相)
A溶媒:0.1%ギ酸(formic acid;FA)
B溶媒:0.1%FA及び100%ACN混合液
(流速)
300nL/min
【実施例】
【0073】
LCによる分離精製の手順としては、以下に示すとおりである。
A溶媒98%、B溶媒2%で平衡化したAnalytical columnへの(3)で最終調製された試料を導入した時間を0分とした。まず、B溶媒を30分で32%まで直線的に上昇させ、測定対象物であるアンジオテンシンペプチドを分離溶出した。次いで、そこから5分間でB溶媒を90%まで上昇させた。次いで、5分間、A溶媒10%、B溶媒90%を保ち、カラムを洗った。次いで、そこから0.1分間でA溶媒98%、B溶媒2%まで戻し、60分まで初期状態のA溶媒98%、B溶媒2%で平衡化した。
【実施例】
【0074】
・血漿試料の液体クロマトグラフィーによる分離精製
使用したLCシステム、カラム、移動相及び流速は、尿試料及び腎臓試料の液体クロマトグラフィーによる分離精製と同様である。
LCによる分離精製の手順としては、以下に示すとおりである。
A溶媒90%、B溶媒10%で平衡化したAnalytical columnへの(3)で最終調製された試料を導入した時間を0分とした。まず、B溶媒を30分で28%まで直線的に上昇させ、測定対象物であるアンジオテンシンペプチドを分離溶出した。次いで、そこから5分間でB溶媒を90%まで上昇させた。次いで、5分間、A溶媒10%、B溶媒90%を保ち、カラムを洗った。次いで、そこから0.1分間でA溶媒98%、B溶媒2%まで戻し、70分までA溶媒98%、B溶媒2%で平衡化した。
【実施例】
【0075】
3.工程2:質量分析(アンジオテンシンペプチドのイオン化、検出及び定量)
質量分析計は、Sciex社製のTriple TOF(登録商標) 5600+をPositive ion modeで使用した。
【実施例】
【0076】
・尿試料の解析方法
尿試料を用いたAngiotensin I、II、1-9及び1-7の質量分析は以下の条件にて行った。
(質量分析の条件)
TOF MS質量範囲:200~1200Da
Declustering potential(DP):80V
Collision energy(CE):10V
TOF-MS accumulation time:0.25秒
Product ion accumulation time:0.199秒
Cycle time:1.89秒
合計1895サイクル
なお、衝突誘起解離反応の条件は、各アンジオテンシンペプチドの標準品を用いて最適化を行った。
また、各アンジオテンシンペプチドのMS/MSスペクトルの取得条件は以下の表1に示すとおりである。
【実施例】
【0077】
【表1】
JP2019012015A_000002t.gif
【実施例】
【0078】
・血漿試料及び腎臓試料の解析方法
血漿試料及び腎臓試料を用いたAngiotensin I及びIIの質量分析は以下の条件にて行った。
(質量分析の条件)
TOF MS質量範囲:400~1250Da
Declustering potential(DP):80V
Collision energy(CE):10V
TOF-MS accumulation time:0.25秒
Product ion accumulation time:0.20秒
Cycle time:1.1秒
合計3272サイクル
なお、衝突誘起解離反応の条件は、各アンジオテンシンペプチドの標準品を用いて最適化を行った。
また、各アンジオテンシンペプチドのMS/MSスペクトルの取得条件は以下の表2に示すとおりである。
【実施例】
【0079】
【表2】
JP2019012015A_000003t.gif
【実施例】
【0080】
各試料について、生成されたイオンのうち、質量対電荷比が表3に示す値である前駆体イオン(Precursor ion)を選択するように設定された第1の四重極(Q1)を通過させた。次いで、第2の四重極に流入するイオンをアルゴンガスと衝突させて、イオン画分を生成させた。次いで、Q2で得られた各イオン画分のうち、質量対電荷比が表3に示す値である生成物イオン(Product ion)を選択するように設定された第3の四重極(Q3)を通過させた。また、表3に示すように、前駆体イオン及び生成物イオンの組み合わせである質量遷移(transition)として、アンジオテンシン1、1-9及び1-7は3つの質量遷移を組み、アンジオテンシン2は2つの質量遷移を組んだ。なお、各試料におけるアンジオテンシンペプチドの定量値は、この2つ又は3つの質量遷移から得られる定量値の平均値を用いた。
また、同時に、内部標準である安定同位体標識アンジオテンシンペプチドについても、質量対電荷比が表3に示す値である前駆体イオン及び生成物イオンを選択するようにして、同様に三連四重極質量分析を行った。
なお、表3中、「light」が標識なしのアンジオテンシンペプチドを示し、「heavy」が安定同位体標識アンジオテンシンペプチドを示す。
【実施例】
【0081】
【表3】
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【実施例】
【0082】
また、各試料のLC-MS/MSのデータ取得及び解析ソフトウェアはAnalyst(登録商標) TF1.6(AB SCIEX製)を使用した。さらに、MRM-HR(登録商標)法における定量メソッドの構築及びpeak area値の算出のためのソフトウェアとしてSkyline(MacCoss Lab Software、University of Washington)を用いた。
なお、「MRM-HR(登録商標)法」とは、選択的反応モニタリング(SRM)とほぼ同一の原理である方法である。具体的には、MRM-HR(登録商標)法では、まず、あらかじめ定量したいペプチド(ターゲットペプチド)のイオンをPrecursor ionとして選択し、その選択したPrecursor ionのみに衝突誘起解離法(CID)と呼ばれる方法で、主にペプチド結合で開裂(fragmentation)を起こし、そのPrecursor ionに由来するProduct ionを選択的に検出するという方法である。
具体的なデータ解析としては、まず、イオン数対時間のプロットを生成した。ピーク下の面積を測定し、内部標準である安定化同位体標識アンジオテンシンペプチド)の濃度(尿、血漿、腎臓試料いずれも25fmol/on column(5μL))を元に、以下の式[1]を用いて、試料の濃度を定量化した。
試料中のアンジオテンシンペプチドの濃度[fmol]
=(試料のピーク下の面積/内部標準のピーク下の面積)× 内部標準の濃度・・・[1]
【実施例】
【0083】
また、検量線を以下の方法を用いて作成し、内因性のアンジオテンシンペプチドが含まれているため、直線の傾きのみを定量値の算出に使用した。
まず、安定同位体標識アンジオテンシンペプチドを含まないmatrixを作成し、内部標準として安定同位体標識アンジオテンシンペプチド(heavy peptides)を一定量添加し、さらに濃度を振った標識なしのアンジオテンシンペプチド (light peptides)を添加して標準溶液を作成した。なお、標識なしの各アンジオテンシンペプチド(1、2、1-9及び1-7)はSigma-Aldrich社製を用いた。heavy peptidesは、25fmol/on columnとなるように添加した。なお、「on column」とは、導入量を意味し、この場合は5μLである。また、light peptidesは、0、1、2.5、10、50、75、及び100fmol/on columnとなるように添加した。
次いで、light peptidesのpeak area値、heavy peptidesのpeak area値の比をとり(light/heavy)、横軸をlight peptidesの濃度、縦軸をpeak area比(light/heavy)として検量線を作成した。なお、各濃度標準溶液につき3回測定を行った。また、検量線は小二乗法を用いて作成し、検量線の直線性を評価した。
【実施例】
【0084】
さらに、3回の測定のStandard deviation(SD)、精度(precision)及び真度(accuracy)を算出し、LLOQ(lower limit of quantification)を評価した。LLOQの評価項目としては、「precision≦20%及びaccuracy≦20%を満たすこと」とした。
また、Quality control sampleとして、低濃度(2.5fmol/on column)、中等濃度(50fmol/on column)、高濃度(75fmol/on column)の標準溶液を各5回ずつ測定し、precision及びaccuracyを評価した。評価項目としては、「precision≦15%及びaccuracy≦15%を満たすこと」とした。
血漿試料でのアンジオテンシン1及び2の検量線を図1A(アンジオテンシン1)及び図1B(アンジオテンシン2)に示す。なお、図1A及び図1Bにおいて、「1st」とは1回目の測定値、「2nd」とは2回目の測定値、「3rd」とは3回目の測定値を意味する。
【実施例】
【0085】
図1A(アンジオテンシン1)及び図1B(アンジオテンシン2)から、precision≦20%及びaccuracy≦20%を満たすLLOQは、アンジオテンシン1(AngI)では、0.5fmol/on column、アンジオテンシン2(AngII)では 0.5fmol/on columnであった。
またQuality control sampleとして、低濃度(2.5fmol/on column)、中等濃度(50fmol/on column)、高濃度(75fmol/on column)の標準溶液を各5回ずつ測定した結果、precision≦15%及びaccuracy≦15%を満たすことが確認できた。
【実施例】
【0086】
各試料に含まれるアンジオテンシンペプチドの定量結果を以下の表4に示す。また、正常マウス、メガリン完全ノックアウトマウス(NDRG1マウス)及びメガリン部分ノックアウトマウス(ApoEマウス)間の各試料に含まれるアンジオテンシンペプチドを比較した結果を図2A(尿中のアンジオテンシン1)、図2B(尿中のアンジオテンシン2)、図2C(尿中のアンジオテンシン1-9)、図2D(尿中のアンジオテンシン1-7)、図3(血漿中のアンジオテンシン1)、図4A(腎臓中のアンジオテンシン1)及び図4B(腎臓中のアンジオテンシン2)に示す。なお、尿及び血漿中のアンジオテンシンペプチドの濃度は、fmol/mLで示し、腎臓中のアンジオテンシンペプチドの濃度は、fmol/gで示した。また、表及び各図において、「NDRG1」はNDRG1マウスの測定結果、「ConN」はNDRG1マウスの対照としたコントロール(正常)マウスの測定結果、「ApoE」はApoEマウスの測定結果、「ConE」はApoEマウスの対照としたコントロール(正常)マウスの測定結果を示す。
【実施例】
【0087】
【表4】
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【実施例】
【0088】
表4及び図2A~図2Dから、尿試料からはアンジオテンシン1、2、1-9及び1-7の全てを検出することができた。また、正常マウスと比較して、NDRG1マウス及びApoEマウス(特に、NDRG1マウス)のほうが各アンジオテンシンペプチドの含有量が多いことが明らかとなった。
また、血漿試料では、アンジオテンシンペプチド1、1-9及び1-7は定量下限未満であったが、アンジオテンシン2について検出することができた。また、正常マウス、NDRG1マウス及びApoEマウスとでアンジオテンシン2の含有量に大きな差がないことが明らかとなった。
また、腎臓試料では、アンジオテンシンペプチド1-9及び1-7は定量下限未満であったが、アンジオテンシン1及び2について検出することができた。また、正常マウス、NDRG1マウス及びApoEマウスとでアンジオテンシン2の含有量に大きな差がないことが明らかとなった。
【実施例】
【0089】
[実施例2]
1.試料の準備
被検体として、12~15週齢の正常雄マウス(C57BL/6J)(Charles Rivers Laboratories Internationalより購入)、遺伝子組み換えマウスであるメガリン完全KOマウス(NDRG1マウス)及びメガリン部分KOマウス(ApoEマウス)を使用した。
【実施例】
【0090】
(1)腎臓の摘出
正常マウス(対照)、NDRG1マウス及びApoEマウスの一部に、5mg/mLのマウス組換えアンジオテンシノーゲン(AGT)を200μL(すなわち、1mgのAGT含有)腹腔内注射した。30分後に頸椎脱臼を行い、正中切開した。
次いで、右腎を摘出し、被膜を除去して1/2にカットし、直ちに液体窒素で凍結した。左腎も摘出し、同様に処理し、凍結した。得られた腎臓は、使用するまで-80℃で保存した。
【実施例】
【0091】
2.工程1:アンジオテンシンペプチドの精製
(1)腎臓試料からのアンジオテンシンペプチドの分離
内部標準として安定同位体標識アンジオテンシン1-9及び1-7のみを用いた以外は、実施例1の(1)の「腎臓試料からのアンジオテンシンペプチドの分離」と同様の方法を用いて、アンジオテンシンペプチドを分離した。
【実施例】
【0092】
(2)腎臓試料の脱塩及びペプチド分画
実施例1の(1)の「尿試料及び腎臓試料の脱塩及びペプチド分画」と同様の方法を用いて、脱塩及びペプチド分画した。
【実施例】
【0093】
(3)腎臓試料のLCによる分離精製
実施例1の(3)の「尿試料及び腎臓試料の液体クロマトグラフィーによる分離精製」と同様の方法を用いて、アンジオテンシンペプチドを分離溶出した。
【実施例】
【0094】
3.工程2:質量分析(アンジオテンシンペプチドのイオン化、検出及び定量)
実施例1の「3.工程2~4:質量分析(アンジオテンシンペプチドのイオン化、検出及び定量)」の「尿試料の解析方法」の条件を参照しながら、同様の方法を用いて、各マウスの腎臓試料に含まれるAngiotensin 1-9及び1-7を質量分析し、定量した。結果を以下の表5及び表6に示す。また、正常マウス、メガリン完全ノックアウトマウス(NDRG1マウス)及びメガリン部分ノックアウトマウス(ApoEマウス)間の腎臓試料に含まれるアンジオテンシンペプチドを比較した結果を図5A(正常マウス及びNDRG1マウスのアンジオテンシン1-9)、図5B(正常マウス及びNDRG1マウスのアンジオテンシン1-7)、図6A(正常マウス及びApoEマウスのアンジオテンシン1-9)及び図6B(正常マウス及びApoEマウスのアンジオテンシン1-9)に示す。
なお、表5、図5A及び図5Bにおいて、「con(dis)」とはAGT非投与の正常マウスでの測定結果を示し、「con AGT+(dis)」とはAGT投与した正常マウスでの測定結果を示し、「NDRG1(dis)」とはAGT非投与のNDRG1マウスでの測定結果を示し、「NDRG1 AGT+(dis)」とはAGT投与したNDRG1マウスでの測定結果を示す。
また、表6、図6A及び図6Bにおいて、「con(dis)」とはAGT非投与の正常マウスでの測定結果を示し、「con AGT+(dis)」とはAGT投与した正常マウスでの測定結果を示し、「ApoE(dis)」とはAGT非投与のApoEマウスでの測定結果を示し、「ApoE AGT+(dis)」とはAGT投与したApoEマウスでの測定結果を示す。
【実施例】
【0095】
【表5】
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【実施例】
【0096】
【表6】
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【実施例】
【0097】
表5、図5A及び図5Bから、AGTを投与することで、正常マウス及びNDRG1マウスのいずれにおいても、腎臓試料のアンジオテンシン1-9及び1-7の値が上昇することが確かめられた。
また、表6、図6A及び図6Bから、AGTを投与することで、正常マウス及びApoEマウスのいずれにおいても、腎臓試料のアンジオテンシン1-9及び1-7の値が上昇することが確かめられた。一方、AGTの非投与の正常マウス及びApoEマウスでは、アンジオテンシン1-9及び1-7は定量下限未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本実施形態の方法及び定量キットによれば、アンジオテンシンペプチドを正確に定量することができる。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2A】
2
【図2B】
3
【図2C】
4
【図2D】
5
【図3】
6
【図4A】
7
【図4B】
8
【図5A】
9
【図5B】
10
【図6A】
11
【図6B】
12