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明細書 :磁性高分子ミセル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-210425 (P2017-210425A)
公開日 平成29年11月30日(2017.11.30)
発明の名称または考案の名称 磁性高分子ミセル
国際特許分類 A61K   9/10        (2006.01)
A61K  47/34        (2017.01)
A61K  47/32        (2006.01)
A61K  47/38        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  47/02        (2006.01)
A61K   9/14        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  47/50        (2017.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/43        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61K  47/12        (2006.01)
A61K  47/18        (2006.01)
C08L 101/00        (2006.01)
C08K   5/27        (2006.01)
FI A61K 9/10
A61K 47/34
A61K 47/32
A61K 47/38
A61K 47/36
A61K 47/02
A61K 9/14
A61K 45/00
A61K 47/48
A61P 35/00
A61P 43/00 105
A61K 49/00 C
A61K 37/02
A61K 48/00
A61K 37/48
A61K 39/395 M
A61K 31/7088
A61K 39/395 Y
A61K 47/42
A61K 47/12
A61K 47/18
C08L 101/00
C08K 5/27
請求項の数または発明の数 18
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2016-103660 (P2016-103660)
出願日 平成28年5月24日(2016.5.24)
発明者または考案者 【氏名】石川 義弘
【氏名】キム ジョン-ファン
【氏名】梅村 将就
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C084
4C085
4C086
4J002
Fターム 4C076AA16
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD21A
4C076DD42H
4C076DD51H
4C076EE02A
4C076EE02F
4C076EE06A
4C076EE06F
4C076EE13A
4C076EE13F
4C076EE17A
4C076EE17F
4C076EE24A
4C076EE24F
4C076EE30A
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4C076EE30H
4C076EE32A
4C076EE32F
4C076EE37A
4C076EE37F
4C076EE41H
4C076EE49A
4C076EE49F
4C076EE59A
4C076EE59F
4C076FF11
4C076FF16
4C076FF36
4C076GG45
4C076GG47
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA62
4C084DA39
4C084DB01
4C084DC01
4C084MA05
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4C084MA44
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB211
4C084ZB261
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085CC31
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4C085DD51
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4C085HH07
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4C085KA28
4C085KB07
4C085KB08
4C085KB12
4C085KB67
4C085KB68
4C085KB69
4C085KB74
4C085KB75
4C085KB79
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA07
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4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB21
4C086ZB26
4J002AB021
4J002AB052
4J002BE021
4J002BG131
4J002BP031
4J002CE002
4J002CF191
4J002CH022
4J002CM012
4J002EU056
4J002FD206
4J002GB01
要約 【課題】磁性有機化合物を医薬品として実用化するために有用な手段を提供すること。
【解決手段】熱感受性ポリマーセグメント及びpH感受性ポリマーセグメントを含む少なくとも1種のブロック共重合体と、少なくとも1種の磁性有機化合物とを含む、磁性高分子ミセルを提供した。本発明の磁性高分子ミセルは、有毒な溶媒を必要とせず、穏やかな反応条件で、シンプルな工程で製造することができる。本発明の磁性高分子ミセルは従来の薬剤内包ミセルやリポソームと比べて薬剤(磁性有機化合物)の充填率が非常に高く、30%以上の充填率で磁性有機化合物を内包できる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
熱感受性ポリマーセグメント及びpH感受性ポリマーセグメントを含む少なくとも1種のブロック共重合体と、少なくとも1種の磁性有機化合物とを含む、磁性高分子ミセル。
【請求項2】
熱感受性ポリマーセグメントがミセルのコア層を、pH感受性ポリマーセグメントがミセルのシェル層を形成し、磁性有機化合物がミセル内部に含まれる、請求項1記載の磁性高分子ミセル。
【請求項3】
熱感受性ポリマーセグメントが、ポリカプロラクトン、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース、及びポリビニルメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項1又は2記載の磁性高分子ミセル。
【請求項4】
熱感受性ポリマーセグメントが、ポリカプロラクトン、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース、及びポリビニルメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーと、ポリエチレングリコールとのブロック共重合体を含む、請求項1又は2記載の磁性高分子ミセル。
【請求項5】
pH感受性ポリマーセグメントが、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、アラビアゴム、及びキトサンから選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル。
【請求項6】
磁性有機化合物が金属サレン錯体である、1ないし5のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル複合体。
【請求項7】
前記金属が、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又はGdである、請求項6記載の磁性高分子ミセル。
【請求項8】
前記金属がFeである、請求項7記載の磁性高分子ミセル。
【請求項9】
官能基の付与及び安定した生体適合性を得るために被覆剤がミセル表面に結合している、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル。
【請求項10】
被覆剤が、アラビアゴム、アルブミン、デキストラン、コハク酸、及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項9記載の磁性高分子ミセル。
【請求項11】
液相中で粒子径10 nm~500 nmのミセル粒子を形成する、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル。
【請求項12】
凍結乾燥粉末の形態にある、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル。
【請求項13】
リンカーを介して又は介さずにさらなる薬剤を担持している、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセル。
【請求項14】
前記さらなる薬剤が、低分子抗がん剤、抗生物質、抗体、抗体断片、ペプチド、核酸、酵素、ホルモン、及びバイオマーカーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13記載の磁性高分子ミセル。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1項に記載の磁性高分子ミセルを含む医薬品。
【請求項16】
がん、又はマクロファージ集積病変部の治療に用いられる、請求項15記載の医薬品。
【請求項17】
温熱療法剤である、請求項15記載の医薬品。
【請求項18】
MRI又はCT用の造影剤である、請求項15記載の医薬品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性有機化合物を内包した磁性高分子ミセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁性粒子の合成方法は,無機金属化合物である酸化鉄を用いることを前提としていた。しかし、この方法は合成の過程で高温を必要とすること、時間がかかること、有毒な有機溶媒が必須であることなどの不便が多い。また、生成する粒子の形状やサイズを制御するのも困難である。
【0003】
磁性有機物質は一般的に疎水性で、有機溶媒にしか溶けず、また溶けると磁性が弱まってしまう。水性溶媒に溶けないことで、医療や生物学の研究への応用が大きく制限されてしまっている。
【0004】
ドラッグデリバリーへの応用を目的としたミセルやリポソームの研究はこれまでも行われているが、どれも薬剤の充填率は10%未満に留まっている。特に、タキソールやメトトレキサートなど疎水性の強い抗がん剤はミセル内への充填が難しく、5%に満たない。加えて、体内の目的の場所に鉄を輸送することはとても難しく、その効率は現在も低いままである。さらに、従来のミセルやリポソームは安定性が十分に高いとは言い難い。十分に高い安定性を有しないと、外的刺激や体内を移動している間に壊れる恐れがあり、患者にとって重篤な副作用を引き起こしかねない。さらに、分解や細胞への取り込みがなされずに肝臓や腎臓などの臓器に蓄積されるのではないかとの指摘もある。
【0005】
本願発明者らは、これまでに、穏やかな条件下で容易に合成できる磁性有機化合物として金属サレン錯体化合物を同定している(非特許文献1、2、特許文献1、2)。金属サレン錯体は抗がん活性を有することも報告している。しかしながら、金属サレン錯体化合物は正常細胞に対しても毒性を示すため、医薬品として用いるためにはこの細胞毒性が問題となる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO 2010/058280
【特許文献2】WO 2012/086683
【0007】

【非特許文献1】Eguchi et al. (2015) A magnetic anti-cancer compound for magnet-guided delivery and magnetic resonance imaging. Scientific Reports, 5, 9194
【非特許文献2】Sato et al. (2016) Simultaneous hyperthermia-chemotherapy with controlled drug delivery using single-drug nanoparticles. Scientific Reports, 6, 24629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、磁性有機化合物を医薬品として実用化するために有用な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、熱感受性を有するポリマー鎖とpH感受性を有する導電性のポリマー鎖を用いたブロック共重合体を用いてミセルを形成させることで、磁性有機化合物を高い充填率で内包した安定性の高い磁性高分子ミセルを簡便な工程で製造できることを見出し、さらに、この磁性高分子ミセルによれば、磁力を用いて所望の局所領域にミセルを集積できるだけでなく、交流磁場の印加等による発熱を利用した温熱療法や、さらにはMRIやCT用の造影剤としても活用できることを見出し、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、熱感受性ポリマーセグメント及びpH感受性ポリマーセグメントを含む少なくとも1種のブロック共重合体と、少なくとも1種の磁性有機化合物とを含む、磁性高分子ミセルを提供する。また、本発明は、上記本発明の磁性高分子ミセルを含む医薬品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁性高分子ミセルは、有毒な溶媒を必要とせず、穏やかな反応条件で、シンプルな工程で製造することができる。本発明の磁性高分子ミセルは従来の薬剤内包ミセルやリポソームと比べて薬剤(磁性有機化合物)の充填率が非常に高く、30%以上の充填率で磁性有機化合物を内包できる。この磁性高分子ミセルには以下の利点がある。
(1) 磁性化合物を内包するため、磁石を用いて目的の局所領域にミセルを輸送できる。充填率が高い分、ミセルの磁性も強くなる。
(2) ミセルの安定性は非常に高く、薬剤の漏出による副作用が起こりにくい。熱や電気的刺激等の外的刺激を加えなければほとんど崩壊しないので、正常組織・細胞への悪影響を回避しつつ、集積させた局部において効率的に薬効をもたらすことができる(内包させた磁性有機化合物、担持させた薬剤の徐放のタイミングを良好にコントロールできる)。
(3) pH感受性を利用して、がんやアテローム性動脈硬化病巣などの低pHの病変部で薬剤を放出させ、良好な治療効果を得ることができる。
(4) 交流磁場の印加や近赤外線レーザーの照射により磁性有機化合物が発熱し、ミセルそのものを発熱させることができる。この発熱を利用してがんに対する温熱療法を行なうことができる。
(5) MRIやCTに映るため、造影剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】調製例1のFe(Salen)内包ミセルの構造を説明する模式図である。
【図2】調製例2のFe(Salen)内包ミセルの構造を説明する模式図である。
【図3】調製例3のFe(Salen)内包ミセルの構造を説明する模式図である。
【図4】Fe(Salen)内包ミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)の透過型電子顕微鏡像である。
【図5】Fe(Salen)サンプル及びFe(Salen)内包ミセルの磁性強度を測定した結果である。
【図6】Fe(Salen)内包ミセル溶液にNIRレーザーを照射し、液温の上昇を測定した結果である。
【図7】Fe(Salen)内包ミセル溶液に交流磁場を印加し、液温の上昇を測定した結果である。
【図8】HeLa細胞を用いてFe(Salen)内包ミセルによる温熱療法の効果を検討した結果である。線で囲んだ細胞は死細胞である。
【図9】細胞培養液中へのミセルの添加濃度とレーザー照射後のHeLa細胞の生存率との関係を調べた結果である。
【図10】温度変化及びpH変化によるミセルからのFe(Salen)の放出を調べた結果である。
【図11】ヒト卵巣類内膜癌由来細胞株OVK18を用いてFe(Salen)内包ミセルの細胞毒性をXTTアッセイにより調べた結果である。
【図12】Fe(Salen)内包ミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)での細胞処理時に細胞懸濁液を加熱し、外部からの加熱がミセルの細胞毒性に与える影響をXTTアッセイにより調べた結果である。
【図13】Fe(Salen)内包ミセルPEI-PEG-PCL-Fe(Salen)での細胞処理時に細胞懸濁液を加熱し、外部からの加熱がミセルの細胞毒性に与える影響をXTTアッセイにより調べた結果である。
【図14】Fe(Salen)内包ミセルGA-PEG-PCL-Fe(Salen)での細胞処理時に細胞懸濁液を加熱し、外部からの加熱がミセルの細胞毒性に与える影響をXTTアッセイにより調べた結果である。
【図15】Fe(Salen)内包ミセル[PPy-PCL/PEI-PEG-PCL]-Fe(Salen)での細胞処理時に細胞懸濁液を加熱し、外部からの加熱がミセルの細胞毒性に与える影響をXTTアッセイにより調べた結果である。
【図16】メトトレキサート(MTX)をFe(Salen)内包ミセル表面に担持させ、抗がん活性を調べた結果である。
【図17】表面被覆しないFe(Salen)内包ミセルPPy-PCL-Fe(Salen)の構造解析結果である。
【図18】Fe(Salen)の充填量を増やしたFe(Salen)内包ミセルの構造解析結果である。
【図19】表面をGAで被覆したFe(Salen)内包ミセルの構造解析結果である。
【図20】Fe(Salen)内包ミセルの光学的性質を調べた結果である。 PPy-PCL-Fe(Salen)ミセル、ブロック共重合体PPy-PCL、及びFe(Salen)の紫外可視分光(UV-vis)スペクトル(a)及びフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル(b)、並びにBSA又はGAで被覆したミセルのUV-visスペクトル(c)及びFT-IRスペクトル(d)である。
【図21】動的光散乱法(a)及びゼータ電位測定(b)によりミセルのコロイド特性を評価した結果である。
【図22】各種Fe(Salen)内包ミセルの磁性強度をESRにより測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の磁性高分子ミセルは、熱感受性ポリマーセグメント及びpH感受性ポリマーセグメントを含む少なくとも1種のブロック共重合体と、磁性有機化合物とを含む。当該ミセルはコアシェル型のミセルであり、熱感受性ポリマーセグメントがミセルのコア層を、pH感受性ポリマーセグメントがミセルのシェル層を形成する。磁性有機化合物はミセルの内部、主としてコア層内に含まれる。pH感受性ポリマーセグメントは、低pH(酸性)環境下で分解するpH感受性をミセルに付与し、熱感受性ポリマーセグメントは、高温環境下で分解する熱感受性をミセルに付与する。

【0014】
本発明の磁性高分子ミセル複合体において、ブロック共重合体を構成するポリマーは、ドープ型でも非ドープ型でもよい。すなわち、本発明の磁性高分子ミセルは、ドープ剤をさらに含んでいてもよい。

【0015】
熱感受性ポリマーセグメント、及びpH感受性ポリマーセグメントは、単独重合体で構成されていてもよいし、これらのセグメント自体が2種以上のポリマーのブロック共重合体で構成されていてもよい。

【0016】
pH感受性ポリマーセグメントとしては、pH感受性でかつ導電性のポリマーが用いられる。好ましくは、pH感受性ポリマーセグメントは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレンイミン、アラビアゴム、キトサン、及びポリエチレングリコール(PEG)からなるポリマー群より選択される少なくとも1種のポリマーを含む。これらのポリマー群のうちいずれか1種の単独重合体でもよいし、該ポリマー群のうちの2種以上のポリマーのブロック共重合体でもよい。該ポリマー群のうちの少なくとも1種と他のポリマーとのブロック共重合体でもよい。

【0017】
熱感受性ポリマーセグメントは、好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロース、及びポリビニルメチルエーテルからなるポリマー群より選択される少なくとも1種のポリマーを含む。これらのポリマー群のうちいずれか1種の単独重合体でもよいし、該ポリマー群のうちの2種以上のポリマーのブロック共重合体でもよい。該ポリマー群のうちの少なくとも1種と他のポリマーとのブロック共重合体でもよく、例えば、該ポリマー群から選択される1種のポリマーとPEGとの共重合体を含んでいてもよい。PEGは単独ではpH感受性を示すが、熱感受性のポリマーとのブロック共重合体は熱感受性ポリマーセグメントとして利用できる。そのような熱感受性ポリマーとPEGのブロック共重合体の具体例としては、下記実施例にも記載されているポリカプロラクトン-PEG共重合体を挙げることができるが、これに限定されない。

【0018】
磁性有機化合物は、磁性を有する有機化合物であれば特に限定されない。好ましい例として、サレンを配位子とする金属錯体である金属サレン錯体を挙げることができる。自己磁性を有する様々な金属サレン錯体が知られており、製造方法も公知であり、市販品も存在する。本発明では、磁性有機化合物として、自己磁性を有するいずれの金属サレン錯体でも使用可能である。金属サレン錯体において、金属は好ましくはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、Gd等の遷移金属である。

【0019】
好ましい金属サレン錯体の具体例として、下記式(I)又は(II)で表される金属サレン錯体を挙げることができる。

【0020】
【化1】
JP2017210425A_000003t.gif

【0021】
式(I)及び(II)中、
MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又はGdであり、
a~pは水素であるか、又はa~pの少なくとも一つが水素以外の官能基・置換基(例えば、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ヒドロキシアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、シクロアルキル基、アリール基など(いずれもアルキル部分は炭素数が1~5程度が好ましく、アルキル部分の炭素のうち少なくとも1個が酸素原子、窒素原子又は硫黄原子に置き換わっていてもよい。))で置換されていてもよい。

【0022】
上記式(I)又は(II)で表される金属サレン錯体及びその製造方法も公知であり、例えばWO 2010/058280及びWO 2012/086683に記載されている。これらの金属サレン錯体には、それ自体に抗がん活性があることが知られている(WO 2010/058280、WO 2012/086683)。

【0023】
上記式(I)又は(II)で表される金属サレン錯体の中でも特に好ましいものとして、鉄サレン錯体(Eguchi et al. (2015) A magnetic anti-cancer compound for magnet-guided delivery and magnetic resonance imaging. Scientific Reports, 5, 9194、及びSato et al. (2016) Simultaneous hyperthermia-chemotherapy with controlled drug delivery using single-drug nanoparticles. Scientific Reports, 6, 24629)が挙げられる。鉄サレン錯体は以下の構造(すなわち上記式のうちの(II))を有することが結晶学的解析により確認されている(Eguchi et al. (2015)、上掲)。

【0024】
【化2】
JP2017210425A_000004t.gif

【0025】
本発明の磁性高分子ミセルの製造においては、pH感受性ポリマーセグメント及び熱感受性ポリマーセグメントを含む両親媒性のブロック共重合体の分子が会合してミセルを形成する系内に磁性有機化合物を共存させればよい。ブロック共重合体分子の内側に磁性有機化合物の分子が集まってミセルが形成され、その結果、ミセルの内側に磁性有機化合物が内包された本発明の磁性高分子ミセルを得ることができる。本発明の磁性高分子ミセルは、毒性の高い溶媒を使用することなく、また高温処理なども不要で反応条件も穏やかであり、シンプルな工程で製造することができる。

【0026】
pH感受性ポリマーセグメント及び熱感受性ポリマーセグメントを含むブロック共重合体の市販品を用いる場合には、まずメタノールやクロロホルムなどの有機溶媒中に磁性有機化合物を溶解し、必要に応じて超遠心や磁気分離を行なって不溶の沈殿物を溶液から分離除去し、この溶液中にpH感受性ポリマーセグメント及び熱感受性ポリマーセグメントを含むブロック共重合体を添加し、強く撹拌すればよい。

【0027】
pH感受性ポリマーセグメント及び熱感受性ポリマーセグメントを含むブロック共重合体をモノマーの重合によって製造する場合には、磁性有機化合物の共存下でブロック共重合体を生成させればよい。モノマーの重合によるブロック共重合体の製造方法としては、pH感受性ポリマー鎖及び熱感受性ポリマー鎖をそれぞれ重合してから各ポリマー鎖を結合させる方法と、一方のポリマー鎖を重合した後、その末端に他方のモノマーを重合させる方法がある。前者の場合には、磁性有機化合物の共存下で各ポリマー鎖を結合すればよく、後者の場合には、磁性有機化合物の共存下でポリマー鎖末端に他方のモノマーを重合させればよい。pH感受性ポリマー及び熱感受性ポリマーに市販のポリマーを用いてもよく、その場合には、上記の前者と同様に、磁性有機化合物の共存下で各ポリマー鎖を結合すればよい。

【0028】
コア層を形成する熱感受性ポリマーセグメントに両親媒性のブロック共重合体を用いる場合には、まず、水-有機溶媒の2相エマルジョン法などによって、磁性有機化合物を内包した熱感受性ブロック共重合体のミセルを形成させ、このミセルにpH感受性ポリマーを結合させることにより、本発明の磁性高分子ミセルを調製することもできる。この製造方法の具体例が下記実施例に製造例2として記載されている。

【0029】
上記のような方法で製造される本発明の磁性高分子ミセルは、従来の方法で製造したコアシェル型ミセルよりも磁性有機化合物の充填率が高く、30%以上の充填率で磁性有機化合物を内包する。

【0030】
本発明では、ミセル表面に被覆剤を結合させ、被覆剤によって表面を被覆してもよい。被覆剤として、タンパク質、タンパク質断片、オリゴペプチド、多糖のような天然ポリマー物質や、コハク酸、アミノ酸等のその他の生体物質を用いることで、ミセル表面に官能基を付与できるのみならず、安定した生体適合性をミセルに与えることもできる。また、被覆剤でのミセル表面の被覆により、内包する磁性有機化合物をクラスター化し、コア(内部の磁性有機化合物の粒子)のサイズを調整することができる。天然ポリマーの具体例を挙げると、タンパク質の好ましい例としては血清アルブミン等のアルブミンを挙げることができ、多糖の好ましい例としては、アラビアゴム等の植物ゴム、及びデキストラン等を挙げることができるが、これらに限定されない。

【0031】
また、本発明の磁性高分子ミセルにリンカーを介して又は介さずにさらなる薬剤を担持させてもよい。さらなる薬剤は、通常、ミセル表面に結合される。担持させ得る薬剤の例としては、低分子抗がん剤(メトトレキサート、タキソール系抗がん剤など)、抗生物質、抗体、抗体断片(Fab、F(ab')2、scFv等)、ペプチド(組換えリガンド、組換え受容体断片等)、核酸(アプタマー、アンチセンス核酸、リボザイム、siRNA、デコイ核酸等)、酵素、ホルモン、バイオマーカー等を挙げることができる。リンカーの要否、及び使用するリンカーの種類は、担持させる薬剤の化学構造等に応じて適宜決定、選択することができる。リンカーの具体例としては、塩化セチルピリニジウム、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)などを挙げることができるが、これらに限定されない。

【0032】
本発明の磁性高分子ミセルは、乾燥状態(例えば、凍結乾燥させた粉末の形態)で提供されてもよいし、液相中に懸濁した懸濁液ないしは分散液の状態で提供されてもよい。本発明のミセルは、液相中でナノサイズ(10~500 nm程度、例えば10~300 nm程度)のミセル粒子を形成し、6か月以上の長期間にわたって良好なコロイド状態を維持できる。

【0033】
本発明の磁性高分子ミセルを含む医薬品には、疾患の治療薬の他、診断薬も包含される。以下、本発明の磁性高分子ミセルの特性に基づく応用例について説明する。

【0034】
本発明の磁性高分子ミセルは、pH7~pH6以下の低pH環境下で分解し、内包する磁性有機化合物や担持しているさらなる薬剤を放出する。pHが低いほど放出率が高まる。また、体温以上、例えば42℃~45℃以上の高温によっても分解し、磁性有機化合物等を放出する。低pHと高温処理を組み合わせることでさらに放出率を高めることができる。本発明のミセルは安定性に優れ、外的刺激(熱、低pH、電気的刺激)を加えなければ崩壊しないので、内包される磁性有機化合物や所望により担持されるさらなる薬剤が体内の正常組織・細胞に毒性を及ぼすリスクが非常に低い。磁性を有する本発明のミセルは、磁力により生体内の所望の局所領域に集積させることができる。従って、生体に投与後、磁力により所望の局所領域に集積させてから熱や電気的刺激を加えることで、患部のみで効率的に薬効を発揮させることができる。また、本発明の磁性高分子ミセルは、近赤外線レーザー照射や交流磁場印加によって内包する磁性有機化合物が高い熱を発するので、がん等の温熱療法にも利用することもできる。「温熱療法剤」という語は、温熱療法における本発明の磁性高分子ミセルないしは該ミセルを含む医薬品の使用を意味する。ミセル自体が加熱されることでミセルの崩壊も促され、内包する磁性有機化合物や担持させたさらなる薬剤の薬効も得られる。

【0035】
低pH環境で分解する性質は、患部のpHが低くなる疾患の治療に有利である。そのような疾患の具体例としては、第一にがんを挙げることができる。また、生体内でマクロファージが集積する部位はpHが低いことが知られており(Dongjin Park et al. Chem. Commun., 2014, 50, 15014-15017)、本発明の磁性高分子ミセルはそのようなマクロファージ集積病変部の治療にも有用である。マクロファージ集積病変部の具体例として、アテローム性動脈硬化病巣を挙げることができる。磁性有機化合物の中でも、上記式(I)、(II)で表される金属サレン錯体には抗がん活性があることが知られており、金属サレン錯体を内包する磁性高分子ミセルはそれ自体をがんの治療剤として活用できる。また金属サレン錯体の細胞毒性を利用してがん以外の病変部細胞を損傷させ、治療効果を得ることもできる。所望の薬剤をミセルに担持させることで、さらなる治療効果を得ることができる。

【0036】
磁性を持つ本発明のミセルはMRIやCTに写るので、MRI用又はCT用の造影剤としても有用である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
下記実施例において、試薬類はシグマ-アルドリッチ社より高純度のものを購入した。Fe(Salen)は、WO 2012/086683に記載の方法により作製したもの、又は東京化成工業より購入したものを用いた。調製したミセルの粒子径及び粒子構造は、H-7500透過型電子顕微鏡(日立製作所、日本国東京)を用いて80 kVで観察した。磁場での発熱の測定では、トランジスタインバータ(Hot Shot, Ameritherm Inc., 米国ニューヨーク州)を用いて内径4cmの垂直コイルにより交流磁場を発生させた。周波数308 kHz、電流250 Aで交流磁場を印加した。ハンディタイプ温度計測器HA-200(安立計器株式会社、日本国東京)を用いて温度を測定した。細胞傷害作用はスペクトル型in vivoイメージングシステム(IVIS)によりモニターした。
【実施例】
【0039】
略号はそれぞれ下記を指す。
PPy: ポリピロール
PCL: ポリカプロラクトン
GA: アラビアゴム
BSA: ウシ血清アルブミン
PEG: ポリエチレングリコール
PEI: ポリエチレンジアミン
Fe(Salen): μ-オキソN,N'-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン鉄
【実施例】
【0040】
1.Fe(Salen)内包ミセルの調製(調製例1)
下記の手順により、熱感受性ポリマーセグメントをPCLとし、pH感受性ポリマーセグメントをPPyとするブロック共重合体によるFe(Salen)内包ミセルを調製した。
【実施例】
【0041】
10 mgのFe(Salen)(東京化成工業)を100 mLのメタノールに溶解して十分に撹拌し、150,000 rpmで遠心した後、ネオジウム磁石を用いた濾過により、不溶の沈殿物を溶液から分離除去した。2.5 mLの0.5 wt%ブロック共重合体PPy-PCL(シグマ-アルドリッチ、PPy鎖の分子量は4,000、PCL鎖の分子量は2,000。PPy鎖上にp-トルエンスルホン酸が25%ドープされているもの。)を超音波ホーンによりパルスモードで10秒間超音波処理し、上記で調製したFe(Salen)溶液に添加した。15分間強く撹拌すると、黒色のPPy-PCL-Fe(Salen)化合物が沈降した。この黒色化合物をネオジウム磁石で分離回収し、ミセルに充填されなかったFe(Salen)及び残余のPPy-PCL分子を除去し(メタノール中に溶解しているFe(Salen)は、その常磁性のために磁石に吸引されないので、Fe(Salen)が内包された共重合体のミセルのみ磁石で吸引回収できる)、5 mgのPPy-PCL-Fe(Salen)ミセル化合物を得た。
【実施例】
【0042】
次いで、ウシ血清アルブミン又はアラビアゴムによるPPy-PCL-Fe(Salen)ミセル表面の被覆処理を行なった。回収した黒色のPPy-PCL-Fe(Salen)化合物をメタノールで数回洗浄した後、50mLの生理食塩水中に添加し、パルスモードで10秒間超音波処理して分散させた。この分散液に、被覆剤として過剰量(50 mg)のウシ血清アルブミン(BSA, 分子量66.5kDa)又はアラビアゴム(GA, 分子量250kDa)を添加して溶解させた。反応混合物をパルスモードで10秒間超音波処理し、150,000 rpmで30分間超遠心した後、磁気分離洗浄を3回行ない、ミセルに結合しなかった被覆剤を除去し、BSA又はGAで表面を被覆したミセルBSA-PPy-PCL-Fe(Salen)及びGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を得た。
【実施例】
【0043】
本調製例1で得られた、pH感受性セグメントがpH6未満の条件下で分解するFe(Salen)内包ミセルの構造の模式図を図1に示す(ミセル表面のBSA分子及びGA分子は図中では省略)。
【実施例】
【0044】
本調製例1で調製したFe(Salen)内包ミセルPPy-PCL-Fe(Salen)について、Fe(Salen)充填容量(loading capacity, %)及びFe(Salen)充填効率(loading efficiency, %)を下記の式により求めた。
Fe(Salen)充填容量(%)=MinitialFe(Salen)- MFe(Salen) in excess)/(Mmicelle) x 100
Fe(Salen)充填効率(%)=(MinitialFe(Salen)- MFe(Salen) in excess)/(MinitialFe(Salen)) x 100
式中、
MinitialFe(Salen): 添加したFe(Salen)の初期量[mg]
MFe(Salen) in excess: 上清中のFe(Salen)量(ミセルに内包されなかったFe(Salen)量)[mg]
Mmicelle: 得られたFe(Salen)内包ミセル量[mg]
本調製例1では、MinitialFe(Salen)が10 mgであり、Mmicelleは5 mgであり、MFe(Salen) in excessを化学量論的に算出すると約5.5 mgであったので、Fe(Salen)充填効率は約45 wt%、Fe(Salen)充填容量は約90 wt%であった。
【実施例】
【0045】
2.Fe(Salen)内包ミセルの調製(調製例2)
下記の手順により、熱感受性ポリマーセグメントをPCL-PEG、pH感受性ポリマーセグメントをポリエチレンイミン又はアラビアゴムとするブロック共重合体によるFe(Salen)内包ミセルを調製した。
【実施例】
【0046】
10 mgのFe(Salen)(東京化成工業)を10 mLのクロロホルムに溶解して十分に撹拌し、150,000 rpmで遠心した後、ネオジウム磁石を用いた濾過により、不溶の沈殿物を溶液から分離除去した。2 mgのブロック共重合体PCL-PEG-R(R=COOH)(シグマ-アルドリッチ、PCL鎖の分子量は5,000、PEG鎖の分子量は5,000)を1mLのクロロホルムに溶解し、上記で調製したFe(Salen)溶液に添加した。15分間強く撹拌して得られた透明な溶液を1mLの水と混合した。この混合物を、全てのFe(Salen)が上層の水相に移動するまで、超音波ホーンを用いてパルスモードで1分間超音波処理した。クロロホルム相を除去した後、2mgのポリエチレンジアミン(PEI)(分子量2,500、シグマ-アルドリッチ)を1mLの0.5%アセテートに溶解したものを添加して反応させた。2時間の反応により、PCL-PEGのCOOH基をPEIのアミノ基に静電気的に結合させた。不安定なミセル構造物を除去するため、10mLのクロロホルムを用いて洗浄して未結合のFe(Salen)を分離し、上層の水相を新鮮なクロロホルムで洗浄した。室温で乾燥させた後、得られた紫色のFe(Salen)内包ミセルPEI-PEG-PCL-Fe(Salen)を生理食塩水中に分散させ、8,000 rpmで30分間の超遠心洗浄を行ない、再度生理食塩水中に分散させ、10秒間超音波処理した。
【実施例】
【0047】
また、PEIに代えてアラビアゴム(分子量5,000~25,000)を使用し、上記と同様の手順により、Fe(Salen)内包ミセルGA-PEG-PCL-Fe(Salen)を調製した。
【実施例】
【0048】
本調製例2で得られた、pH感受性セグメントがpH7未満の条件下で分解するFe(Salen)内包ミセルPEI-PEG-PCL-Fe(Salen)及びGA-PEG-PCL-Fe(Salen)の構造の模式図を図2に示す。なお、ここではPCL-PEG-R(R=COOH)を用いたが、RがNH4、CH4、OH、又はSHであるブロック共重合体を使用しても同様にFe(Salen)内包ミセルを調製することができる。
【実施例】
【0049】
3.Fe(Salen)内包ミセルの調製(調製例3)
下記の手順により、調製例1のブロック共重合体及び調製例2のブロック共重合体を組み合わせた、2種類のブロック共重合体を含むFe(Salen)内包ミセルを調製した。
【実施例】
【0050】
10 mgのFe(Salen)(東京化成工業)を10 mLのクロロホルムに溶解して十分に撹拌し、150,000 rpmで遠心した後、ネオジウム磁石を用いて濾過し、不溶の沈殿物を溶液から分離除去した。50μLの0.5wt%ブロック共重合体PPy-PCL(シグマ-アルドリッチ、調製例1と同じ)、及び1mLのクロロホルムに溶解した1.5 mgのブロックコポリマーPCL-PEG-R(R=COOH)(シグマ-アルドリッチ、調製例2と同じ)を、上記で調製したFe(Salen)溶液に添加した。15分間強く撹拌して得られた透明な溶液を1mLの水と混合した。この混合物を、全てのFe(Salen)相が上層の水相に移動するまで、超音波ホーンを用いてパルスモードで1分間超音波処理した。クロロホルム相を除去した後、2mgのポリエチレンジアミン(PEI)(分子量2500、シグマ-アルドリッチ)を1mLの0.5%アセテートに溶解したものを添加して反応させた。2時間の反応により、PCL-PEGのCOOH基をPEIのアミノ基に静電気的に結合させた。不安定なミセル構造物を除去するため、10mLのクロロホルムを用いて洗浄して未結合のFe(Salen)を分離し、上層の水相を新鮮なクロロホルムで洗浄した。室温で乾燥させた後、得られた紫色のFe(Salen)内包ミセル[PPy-PCL/PEI-PEG-PCL]-Fe(Salen)を生理食塩水中に分散させ、8,000 rpmで30分間の超遠心洗浄を行ない、再度生理食塩水中に分散させ、10秒間超音波処理した。
【実施例】
【0051】
また、PEIに代えてキトサン(分子量2500)を使用し、上記と同様の手順により、Fe(Salen)内包ミセル[PPy-PCL/キトサン-PEG-PCL]-Fe(Salen)を調製した。
【実施例】
【0052】
本調製例3で得られたFe(Salen)内包ミセルの構造の模式図を図3に示す。当該ミセルは、熱感受性ポリマーセグメントをPCLとし、pH感受性ポリマーセグメントをPPyとするブロック共重合体(PPy:PCL=2:1)と、熱感受性ポリマーセグメントをPCL-PEGとし、pH感受性ポリマーセグメントをPEI又はキトサンとするブロック共重合体(PEI:PEG:PCL又はキトサン=1:2:2)とを組み合わせたミセルである。2種類のブロック共重合体のモル比は、PPy-PCL:PEI-PEG-PCL(又はキトサン-PEG-PCL)=6:7.5であり、ミセルはpH7未満で分解するpH感受性を示す。
【実施例】
【0053】
4.磁性化合物担持ミセルの構造
調製例1のミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)の透過型電子顕微鏡像を図4に示す。ミセルは30%以上のFe(Salen)を含有し、PCL及びFe(Salen)を含むコア部が導電性のPPy層及び最外層のアラビアゴム層で構成されるシェルに包まれたマルチコアシェル構造が確認された。
【実施例】
【0054】
5.磁性化合物内包ミセルの磁性強度測定
ミセルに充填したFe(Salen)の磁性強度を測定し、ミセルに充填していないFe(Salen)と比較した。Fe(Salen)内包ミセルは、調製例1のGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を用いた。ミセル非充填のFe(Salen)として、東京化成工業製のFe(Salen)をシンキー製ナノ粉砕機NP-100で粉砕したもの、及び未粉砕のものの2種類を用いた。
【実施例】
【0055】
上記3種類の試料に生理食塩水を加え、それぞれFe(salen)の含有量が1mg/mLとなるように調製した。調製した試料をガラスキャピラリーに20μL吸い上げ、電子スピン共鳴装置(Electron Spin Resonance; ESR)で磁場強度3500G付近のエネルギー吸収を検出した。グラフの磁場-エネルギー吸収曲線とX軸との間の面積を磁性強度の指標として、各試料のもつ磁性の強さを比較した。各試料ともサンプル数を4とし、4回の測定値の平均値を求めて比較した。
【実施例】
【0056】
測定結果を図5に示す。ミセルに内包させることでFe(Salen)の磁性が高まることが確認された。
【実施例】
【0057】
6.磁性化合物内包ミセルを用いた温熱療法
(1) J-H. Kim and T-M. Lu, RSC Advances 6(21)、 2016に記載の方法により、NIRレーザー照射による温熱療法の検討実験を行なった。25℃の2.5 mg/mLミセル溶液0.5 mL(調製例1のミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を使用)にNIRレーザー(800 nm)を照射し、液温を測定した。結果を図6に示す。レーザー照射開始から短時間のうちに温度の上昇がみられた。
【実施例】
【0058】
(2) 交流磁場の印加によるミセルの発熱を調べた。ミセル溶液(調製例1のミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を使用。濃度は10 mg/mL、5 mg/mL、2.5 mg/mL)及び東京化成工業製Fe(salen)懸濁液(2.5mg/mL)をそれぞれ1.5mLチューブに1mLずつ入れ、温度計の先端を完全に液に浸かるように刺した。チューブをコイルの中心に固定し、電流378.8A、周波数308~309kHzの交流磁場を印加した。試料の温度を5分間隔で40分間記録した。
【実施例】
【0059】
温度の測定結果を図7に示す。交流磁場の印加によっても数分以内に温度の上昇がみられた。図5に示した結果と合致するように、ミセル非担持のFe(Salen)よりも磁性が高まったFe(Salen)内包ミセルは、交流磁場の印加によりミセル非担持のFe(Salen)よりもはるかに高温まで温度が上昇した。
【実施例】
【0060】
(3) 次いで、ヒト子宮頸がん由来細胞であるHeLa細胞を用いて、Fe(Salen)内包ミセルを用いた温熱療法の効果をさらに詳細に検討した。96穴プレートの各ウェルに100μLのHeLa細胞懸濁液(細胞数は各ウェル5000個)を添加し、調製例1のミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を終濃度0.1 mg/mLで添加混合し、液温が42℃に達するまで約10分間NIRレーザー(波長800 nm)を照射した。
【実施例】
【0061】
結果を図8に示す。蛍光の色により生存細胞と死細胞を区別した。図8中では赤色蛍光を発する死細胞を実線で囲んで示す。ミセル非混合でレーザー照射したHeLa細胞(図8左)では死細胞はほとんど観察されなかったが、ミセルと混合してレーザー照射したHeLa細胞(図8右)では80%に上る細胞が死亡しており、レーザー照射されたミセルの発熱により細胞を殺傷できることが確認された。
【実施例】
【0062】
細胞培養液中へのミセルの添加濃度とレーザー照射後のHeLa細胞の生存率との関係を調べた結果を図9に示す。80μg/mL以上のミセル濃度において、レーザー照射により80%以上の細胞を殺傷できた。
【実施例】
【0063】
以上の(1)~(3)により、本発明のFe(Salen)内包ミセルは、レーザー照射や磁場の印加などの手段と組み合わせてがん等の温熱療法に適用できる可能性が示された。
【実施例】
【0064】
7.温度変化及びpH変化によるミセルからの薬剤放出
調製例1のミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)を用いて、温度変化及びpH変化によるミセルからの薬剤放出を調べた。ミセルを生理食塩水に溶解し、塩酸でpHを調整した。37℃、45℃、50℃、55℃又は60℃でミセル溶液を1時間加熱した後、室温で48時間インキュベートし、ミセルから放出されたFe(Salen)の溶液中濃度(~30%)をUV-vis分光光度計(Nanodrop, サーモフィッシャー社)によりλmax 310 nmで測定した。
【実施例】
【0065】
結果を図10に示す。中性条件では、ミセルを加熱してもミセルからのFe(Salen)の放出はほとんど生じず、60℃の加熱で放出量は6.5%程度であった。低pH条件では45℃程度の加熱でも10%~25%程度のFe(Salen)の放出がみられ、温度が高いほど多量のFe(Salen)が放出された。特にpH4では体温程度(37℃)でも10%以上の薬剤の放出が見られた。この結果は、低pHを示す病変部、例えばがん病変部や、アテローム性動脈硬化病変部などのマクロファージが集積する病変部(Park et al., Chem. Commun., 2014, 50, pp.15014-15017)に対して選択的に作用する治療手段としての本発明のミセルの有効性を示唆している。
【実施例】
【0066】
8.Fe(Salen)内包ミセルの細胞毒性
ヒト卵巣類内膜癌由来細胞株OVK18を用いてFe(Salen)内包ミセルの細胞毒性をXTTアッセイにより調べた。アッセイには市販のXTTアッセイキット(ロシュ社)を用いた。
【実施例】
【0067】
96ウェル平底プレートのウェルにOVK18細胞を20,000個/ウェル/50μLで添加し、5%CO2下で37℃、3時間インキュベートした。調製例1のFe(Salen)内包ミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)、又はFe(Salen)を3.13~50μg/mLの終濃度となるように各ウェルの細胞に50μL/ウェルで添加し、5%CO2下で37℃、24時間インキュベートした。XTT試薬を50μL/ウェルで細胞に添加し、5%CO2下で37℃、2時間インキュベートした後、測定波長490nm、参照波長655nmで吸光度を測定し、細胞の増殖を調べた。
【実施例】
【0068】
結果を図11に示す。ミセルに担持させないFe(Salen)は、約3μg/mLの濃度でも細胞を傷害し、12.5μg/mLの濃度で50%以上の細胞を殺傷した。一方、上記調製例の通りに調製したFe(Salen)内包ミセルは、12.5μg/mLの濃度でもほとんど細胞毒性を示さず、50μg/mLの処理濃度でも、ミセル非担持のFe(Salen)を3.13μg/mLの濃度で処理した時と同程度の細胞毒性しか示さなかった。上記の通りにミセルに内包させることでFe(Salen)の細胞毒性を大幅に低減できることが確認された。
【実施例】
【0069】
9.Fe(Salen)内包ミセルの細胞毒性(加熱がミセルの細胞毒性に与える影響)
Fe(Salen)内包ミセルでの細胞処理時に細胞懸濁液を加熱し、外部からの加熱がミセルの細胞毒性に与える影響をXTTアッセイにより調べた。
【実施例】
【0070】
(1) 調製例1のFe(Salen)内包ミセルGA-PPy-PCL-Fe(Salen)
上記8.の実験系で、Fe(Salen)内包ミセル又はFe(Salen)で細胞を処理する工程において、ウェルを43℃で30分間又は60分間加熱した後、室温で引き続き細胞の処理を行なった(薬剤処理時間は合計で24時間とした)。
【実施例】
【0071】
結果を図12に示す。細胞増殖は、43℃の加熱処理を行なった場合でも加熱処理なし(室温, RT)の場合と同等であった。図10に示した結果とも合致するように、Fe(Salen)内包ミセルは、中性のミセル溶液を外部から43℃程度に加熱する程度では崩壊せず、ミセルに内包したFe(Salen)の漏出が生じないことが示唆された。
【実施例】
【0072】
(2) 調製例2のFe(Salen)内包ミセルPEI-PEG-PCL-Fe(Salen)
熱感受性ポリマーセグメントをPCL-PEGで、pH感受性ポリマーセグメントをPEIで構成したFe(Salen)内包ミセルについて、加熱の影響を検討した。細胞はOVK18の他にヒト滑膜肉腫由来細胞株HS-SY-IIも使用した。細胞数はいずれも20,000個/ウェルとした。ミセルによる処理濃度は0.5~10μg/mLとし、処理開始から1時間45℃で加熱した後、室温で引き続き23時間処理した。非加熱コントロールの細胞はミセル処理を室温で24時間行なった。
【実施例】
【0073】
結果を図13に示す。いずれの細胞株に対しても、加熱処理の導入により増殖抑制作用の増加が若干認められた。調製例1のミセルと比べると当該ミセルは加熱に対してやや敏感であることが示唆された。
【実施例】
【0074】
(3) 調製例2のFe(Salen)内包ミセルGA-PEG-PCL-Fe(Salen)
熱感受性ポリマーセグメントをPCL-PEGで、pH感受性ポリマーセグメントをGAで構成したFe(Salen)内包ミセルについて、(2)と同様の検討を行なった。結果を図14に示す。当該ミセルは、非加熱条件ではOVK18に対する増殖抑制作用はHS-SY-IIに対する増殖抑制作用よりも弱いが、加熱によりOVK18に対する増殖抑制作用が大幅に増加した。HS-SY-IIに対しては加熱による増殖抑制作用の増大は見られなかった。細胞の種類(腫瘍の種類)によってもミセルの効果が異なり得ることが示唆された。
【実施例】
【0075】
(4) 調製例3のFe(Salen)内包ミセル
2種類の熱感受性ブロック-pH感受性ブロック共重合体を組み合わせた調製例3のFe(Salen)内包ミセル[PPy-PCL/PEI-PEG-PCL]-Fe(Salen)について、(2)と同様の検討を行なった。結果を図15に示す。HS-SY-IIに対しては、加熱により増殖抑制作用がやや増大した。
【実施例】
【0076】
10.抗がん剤担持Fe(Salen)内包ミセルの調製及びその抗がん活性の評価
(1) 抗がん剤担持ミセルの調製
抗がん剤としてメトトレキサート(MTX)を用いた。Fe(Salen)内包ミセルにMTXを担持させるため、まずミセルに塩化セチルピリジニウムを担持させた。脱イオン水中にFe(Salen)内包ミセル(分散剤不使用の調製例1のミセルPPy-PCL-Fe(Salen))を溶解させた1 mg/mLミセル溶液1 mLを10 mg/mLの塩化セチルピリジニウム1 mLと混合し、水酸化カリウムでpH8に調整した。1時間反応させた後、水酸化カリウムでpH8とした水にて3回ミセルを洗浄し、ミセル表面に塩化セチルピリジニウムを結合させた。
【実施例】
【0077】
洗浄後の塩化セチルピリジニウム結合ミセルを滅菌水1 mLに溶解し、MTX(DMSO溶液、pH8)を2mg/mLの濃度で添加、混合した。1時間反応させた後、生理食塩水(pH8)で洗浄し、塩化セチルピリジニウムを介してMTXがミセル表面に担持されたMTX担持Fe(Salen)内包ミセルM-MTX CPyを得た。
【実施例】
【0078】
さらに、塩化セチルピリジニウム以外のリンカーとして、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いてMTX担持ミセルを調製した。脱イオン水中にFe(Salen)内包ミセルを溶解させた1 mg/mLミセル溶液1mLを10 mg/mL EDC及びMTX(DMSO, pH 8, 2 mg/mL)と混合し、1時間反応させた後、生理食塩水(pH 8)で洗浄することにより、EDSを介してMTXを表面に担持させたミセルM-MTX EDCを得た。
【実施例】
【0079】
リンカーを用いずにMTXを担持させたミセルM-MTXは、1 mg/mLのFe(Salen)内包ミセルをMTX (DMSO, pH 8, 2 mg/mL)と混合し、1時間反応させた後、生理食塩水(pH 8)で洗浄することにより調製した。
【実施例】
【0080】
(2) 抗がん剤担持ミセルの抗がん活性
上記で調製した各種MTX担持Fe(Salen)内包ミセル(M-MTX、M-MTX EDC、M-MTX CPy)及びMTX非担持のFe(Salen)内包ミセル(M)について、XTTアッセイにより抗がん活性を調べた。アッセイには市販のキット(ロシュ社)を用いた。
【実施例】
【0081】
<方法>
96ウェル平底プレートのウェルにHeLa細胞を5000個/ウェル/50μLで添加し、5%CO2下で37℃、3時間インキュベートした。上記の薬剤のいずれかを終濃度15μg/mL又は30μg/mLとなるように50μL/ウェルで細胞に添加し、5%CO2下で37℃、24時間インキュベートした。XTT試薬を50μL/ウェルで細胞に添加し、5%CO2下で37℃、2時間インキュベートした後、測定波長490nm、参照波長655nmで吸光度を測定し、細胞の増殖を調べた。
【実施例】
【0082】
<結果>
結果を図16に示す。塩化セチルピリジニウムを用いてMTXを担持させたミセルは、他のミセルと比べて抗がん細胞傷害活性が最も高かった。このことは、塩化セチルピリジニウムがミセルのPPyシェル上にMTXを担持させるリンカーとして非常に有用であることを示している。
【実施例】
【0083】
11.Fe(Salen)の担持量又は被覆剤によるミセルの調製
以下のミセルについて、構造、光学的性質、磁性強度を解析し、被覆剤による調製の効果を検討した。
M1: 被覆剤を使用しないほかは調製例1の通りに調製したミセル
M1.5: M1においてFe(Salen)の使用量を1.5倍に増やして調製したミセル
M2: 被覆剤としてBSAを用いて調製した調製例1のミセル
M3: 被覆剤としてアラビアゴム(GA)を用いて調製した調製例1のミセル
【実施例】
【0084】
(1) 調製したミセルの構造解析
被覆剤で覆われていない裸のミセルであるM1では、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察された酸化鉄の粒子は1%未満であった(図17)。ミセル内部に充填されたFe(Salen)分子が乾燥状態ではクラスター化しておらず、Fe(Salen)粒子のサイズがTEMの検出下限値を下回っていたために、乾燥状態のミセル試料において内部のFe(Salen)を直接観察することは困難であった。
【実施例】
【0085】
Fe(Salen)の量を1.5倍に増やして調製したM1.5では、TEMにより酸化鉄の粒子が多少観察された(図18)。元素マッピング(図18左下)でも、ナノサイズの酸化鉄粒子の存在が確認された。ミセル粒子のラインスキャン(図18右下)の結果、ポリマーのシェル構造に加え酸化鉄のコア構造も確認された。Fe(Salen)を増量することでミセル内部のFe(Salen)分子がより密に集積してクラスター化していることが確認された。
【実施例】
【0086】
Fe(Salen)の量はM1と同じであるが表面をGAで被覆したM3では、サイズが均一な酸化鉄の粒子構造が多数観察された(図19)。表面をGAで被覆することで、ミセル内部のFe(Salen)分子がさらに密に集積し、M1.5よりも大きなクラスターを形成していることが確認された。
【実施例】
【0087】
各サンプルのX線回折測定の結果によると、M1及びM1.5のミセルサンプルでは結晶相としてFe3O4と推測される回折角2θ=41°のピークが検出されたが、C16H14FeN2O2と推測されるピークは検出されなかった。ピーク形状から、非晶質成分が主成分であると推測された。Fe3O4はFe(Salen)の分解により生じた不純物と考えられる。このFe3O4のピークの強度は、M1では1950、M1.5では300であり、ミセルに担持させるFe(Salen)の量を多くすることでFe(Salen)の分解不純物が低減された。
【実施例】
【0088】
(2) 調製したミセルの光学的性質
調製例1のミセルPPy-PCL-Fe(Salen)、BSA-PPy-PCL-Fe(Salen)及びGA-PPy-PCL-Fe(Salen)の紫外可視分光(UV-vis)スペクトル及びフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを図20に示す。比較のため、ブロックコポリマーPPy-PCL、ミセル非担持のFe(Salen)、並びに被覆剤として用いたBSA及びGAについても測定を行なった。
【実施例】
【0089】
UV-vis吸光分光測定(図20a)によると、PPy-PCL-Fe(Salen)ミセル(Fe(Salen)-Micelle)の表面は典型的なPPyの特徴を示し、PCLの288 nmの吸光度ピーク及びFe(Salen)の310 nmの吸光度ピークは消失していた。このことは、Fe(Salen)がPPy-PCLポリマーの内側に充填できていることを示している。特に、トルエンスルホン酸でドープされたPPyポリマーの特徴的なバイポーラロン状態として、700~800 nmの近赤外光(NIR)の波長帯で応答性のピーク(バイポーラロン)が観察され、NIR照射により熱を生成できることがUV-visスペクトルからも確認された。
【実施例】
【0090】
図20bに示したFe(Salen)のFT-IRスペクトルによると、1619, 1384, 1336, 及び1302 cm-1のバンドがFe(Salen)の典型的なIRバンドであり、マグネタイトに関する580 cm-1付近のFe-Oの振動バンドは全く観察されなかった。また、図20bのミセルのFT-IRスペクトルでは、フリーのFe(Salen)のスペクトルとの比較によりFe(Salen)のピークが消失していることがわかり、ミセル上のPPy表面の化学官能性が有効であることが確認された。Fe(Salen)内包ミセルのFTIRスペクトルでは、1200及び910 cm-1に特徴的なバイポーラロンバンドが観察されたが、このことは、S-O、C-S伸縮振動が700~500 cm-1の領域で観察されるp-トルエンスルホン酸によってPPyシェルがドープされた状態にあることを示している。1562及び1434 cm-1のC=C伸縮振動、1359 cm-1のC-N、C-C振動、1198及び1142 cm-1のC-H面内変角振動、780~1033 cm-1のC-H面外変角振動。3400 cm-1のピークはN-H伸縮振動として割り当てられた。これらのピークはPPyポリマー主鎖に由来していると考えられ、ミセル形成過程でPPy主鎖が修飾をほとんど受けていないことが示唆される。
【実施例】
【0091】
図20c、20dは被覆剤GA、BSAで表面被覆されたミセルのUV-Visスペクトル及びFT-IRスペクトルである。これらのスペクトルもミセル表面のBSA及びGAの特徴的な化学官能性を示しており、ミセル表面を生体官能化できていることが確認された。興味深いことに、GA被覆ミセルでは、700~800 nmのNIR応答性吸光度ピークが消失していた。このことは、BSA被覆ミセルや裸の(被覆なしの)ミセルのようなマルチコアミセルとは異なり、FeNPシングルコアの形成と一致している。
【実施例】
【0092】
(3) 調製したミセルのコロイド特性
動的光散乱法(DLS)及びゼータ電位測定によりミセルのコロイド特性を評価した結果を図21a及び21bにそれぞれ示す。観察されたミセルのサイズは、TEM解析で得られたサイズよりも大きかった(~300 nm)。このことは、液相中ではミセルコロイドが膨張していることを示している。多分散指数(Polydispersity index)は、BSA被覆ミセルが0.272±0.007、GA被覆ミセルが0.339±0.032、裸のミセルが0.352±0.021であり、液体中での高い単分散性を有していた。ゼータ電位は、BSA被覆ミセルが-25 mV、GA被覆ミセルが-30 mV、裸のミセルが+26 mVであり、高いコロイド安定性をもって生体適合的に表面安定化できていた。これらの結果より、ミセルは6か月以上の期間卓越したコロイド安定性を示すことがわかった。
【実施例】
【0093】
(4) 調製したミセルの磁気的性質
各ミセルの磁性強度をESRにより測定した。ミセル非担持のFe(Salen)サンプルは、精製サンプルを2種類(Fe(Salen) purified 1、Fe(Salen) purified 2)、未精製サンプルを1種類(Fe(Salen) TCI)準備した。各サンプル3回の測定を行い、平均値を求めた。
Fe(Salen)の精製サンプルは次の通りに作製した。東京化成工業製のFe(Salen)粉末をアセトンに溶解して十分に撹拌し、150,000 rpmで遠心し、ネオジウム磁石を用いた濾過により不溶の沈殿物を分離除去した後、乾燥させて粉末状とした。乾燥を25℃で行なった精製サンプルをFe(Salen) purified 1、45℃で行なった精製サンプルをFe(Salen) purified 2とした。
【実施例】
【0094】
結果を図22に示す。被覆剤を使用していないM1と比べ、被覆剤を使用したM2及びM3では磁性がわずかに低下したが、磁性強度はほとんど同レベルであった。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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