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明細書 :毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-217323 (P2017-217323A)
公開日 平成29年12月14日(2017.12.14)
発明の名称または考案の名称 毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の製造方法
国際特許分類 A61L  27/26        (2006.01)
A61L  27/50        (2006.01)
A61L  27/52        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI A61L 27/26
A61L 27/50 300
A61L 27/52
C12M 1/00 A
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2016-115661 (P2016-115661)
出願日 平成28年6月9日(2016.6.9)
発明者または考案者 【氏名】武井 孝行
【氏名】吉田 昌弘
【氏名】大角 義浩
【氏名】柳 雄介
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180862、【弁理士】、【氏名又は名称】花井 秀俊
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4C081
Fターム 4B029AA21
4B029BB11
4C081AB14
4C081CD112
4C081CD121
4C081CD15
4C081DA12
4C081DB04
4C081DB06
4C081EA03
要約 【課題】毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体を短時間で形成させる手段を提供する。
【解決手段】微小流路構造体は、ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを、25℃以下の温度の二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出して、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を、繊維形成液から引取り紡糸する工程;ゼラチン芯鞘繊維とキレート剤又はアルギン酸加水分解酵素とを接触させて鞘部を溶解し、2~25μmの直径を有するゼラチン繊維を得る工程;ゼラチン繊維を、コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上のゲル化剤に浸漬する工程;ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤をゲル化して、ゼラチン繊維をゲルに包埋する工程;ゲルに包埋されたゼラチン繊維を、25℃を超える温度で溶解させて、微小流路をゲル中に形成させる工程により形成することが出来る。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを、25℃以下の温度の二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出して、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を、繊維形成液から引取り紡糸する、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程;
ゼラチン芯鞘繊維とキレート剤又はアルギン酸加水分解酵素であるアルギン酸除去剤とを接触させて、アルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部を溶解させて2~25 μmの直径を有するゼラチン繊維を得る、ゼラチン繊維形成工程;
ゼラチン繊維を、コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上のゲル化剤に浸漬する、浸漬工程;
ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤をゲル化して、ゼラチン繊維をゲルに包埋する、ゲル化工程;
ゲルに包埋されたゼラチン繊維を、25℃を超える温度で溶解させて、微小流路をゲル中に形成させる、微小流路形成工程;
を含み、
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程が、下記の式:
【数1】
JP2017217323A_000008t.gif
[式中、
Dは、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径(cm)であり、
Qは、芯成分及び鞘成分の総押出流量(ml/分)であり、
Rは、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比であり、
vは、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度(cm/分)であり、
πは、円周率である。]
で表される関係を満たす条件で実施される、前記ゲルとゲル中に2~25 μmの範囲の直径の三次元網状の微小流路とを有する、微小流路構造体の製造方法。
【請求項2】
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程において、
ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径Dが、2~25 μmの範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量Qが、0.5~6 ml/分の範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比Rが、0.0000293~0.00283の範囲であり、且つ
ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vが、300~900 cm/分の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゼラチン繊維形成工程で得られたゼラチン繊維を、エタノール、2-プロパノール若しくはメタノール、又はそれらの混合物である低融点有機溶媒中で脱水し、次いで脱水したゼラチン繊維を、低融点有機溶媒、又はtert-ブチルアルコール若しくはジメチルスホキシド、又はそれらの混合物である中融点有機溶媒中で凍結乾燥して、三次元網状のゼラチン繊維を得る、凍結乾燥工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
共押出が、同心円状に配設された2個の吐出口を有するダイの中心部吐出口から芯成分を、外周部吐出口から鞘成分を、それぞれ吐出することによって実施され、中心部吐出口の直径が、200~600 μmの範囲であり、外周部吐出口の直径が、200~1000 μmの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される芯成分が、1~50 w/v% ゼラチン水溶液である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される鞘成分が、0.1~10 w/v% アルギン酸ナトリウム水溶液である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される二価陽イオンを含む繊維形成液が、10~6000 mM 塩化カルシウム水溶液である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アルギン酸除去剤が、10~1000 mM クエン酸水溶液である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上のゲル化剤を含むゲルと、該ゲル中に2~25 μmの範囲の直径の三次元網状の微小流路とを有する、微小流路構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元網状の微小流路を有する微小流路構造体、特に毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植は、難治性臓器疾患の唯一の根治療法である。しかしながら、移植用の臓器の提供者(ドナー)の不足により、臓器移植による治療を受けられる難治性臓器疾患患者は多くない。生体外において人工臓器を製造することができれば、臓器移植による治療を受けられる患者数を増加させ、結果として該患者の救命率を向上させることができる。
【0003】
生体内において、血管は重要な役割を担っている。特に、毛細血管は、生体組織内の細胞に酸素及び栄養素を供給する極めて重要な役割を担っている。毛細血管は、通常は、血球が通過し得る直径、例えば、約10 μmの直径を有する。また、生体内において、毛細血管は、三次元網状又は綿飴状の形状を有する毛細血管網を構成する。微小形状を有する毛細血管網により、生体組織内の細胞は、十分な量の酸素及び栄養素を受け取ることができる。このような毛細血管網の働きにより、生体は、0.1~1.5 Lに及ぶ大型の臓器を維持することができる。それ故、生体外において人工臓器を製造する場合、毛細血管網様の形状を有する微小流路を形成させる手段が必要となる。
【0004】
例えば、非特許文献1は、血管の内腔を覆っている血管内皮細胞をコラーゲン等の生体由来タンパク質からなるゲル中で培養し、その細胞に自発的に毛細血管様構造体を形成させる方法を記載する。
【0005】
非特許文献2は、3Dプリント技術を応用して、コラーゲンゲル中にゼラチンゲルファイバーを配置し、それを昇温しファイバーのみを溶解させることで、同ゲル中に流路を作製する方法を記載する。
【0006】
非特許文献3は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなる直径10 μm程度のファイバーを調製し、そのファイバーの束をアガロースゲル内に包埋し、ファイバーのみを特異的に溶解することで、ゲル内に毛細血管網様流路ネットワークを作製したことを記載する。
【0007】
特許文献1は、アルギン酸ナトリウム及びタンパク質が溶解された第一の水溶液を導入するための少なくとも一つの入口A1~Am(m≧1)と、ゲル化剤水溶液を導入するための少なくとも一つの入口G1~Gn(n≧1)と、入口A1~Am及び入口G1~Gnにそれぞれ接続される入口流路CA1~CAm及びCG1~CGnと、入口流路CA1~CAm及び入口流路CG1~CGnが同時或いは段階的に合流する合流流路Mと、合流流路Mの下流に存在する出口Oを有する流路構造Xに対し、前記第一の水溶液及び前記ゲル化剤水溶液をそれぞれ流路構造Xに連続的に導入し、流路構造Xの内部において、前記第一の水溶液を連続的にゲル化してハイドロゲルを形成し、その後、流路構造Xの外部或いは内部において、前記ハイドロゲルに含まれる前記タンパク質を化学的に架橋し、さらに前記ハイドロゲルに含まれるアルギン酸を除去する、繊維状タンパク質材料の作製方法を記載する。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開第2016/021498号
【0009】

【非特許文献1】Folkman J, Haudenschild C., Angiogenesis in vitro, Nature 第288巻, p. 551-556, 1980年
【非特許文献2】Lee W, Lee V, Polio S, Keegan P, Lee JH, Fischer K, Park JK, Yoo SS., On-demand three-dimensional freeform fabrication of multi-layered hydrogel scaffold with fluidic channels, Biotechnol Bioeng, 第105巻, p. 1178-1186, 2010年
【非特許文献3】科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書, 武井孝行, 「生体と類似の毛細血管網および再生医療用重厚三次元臓器創製技術の開発」, 課題番号 23760752, 2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り、毛細血管網様の形状を有する微小流路を形成させるいくつかの手段が知られている。しかしながら、公知の手段には改善の余地が存在した。
【0011】
非特許文献1に記載の方法の場合、緻密な形状を有する流路を形成させるために数日を要する。この期間、ゲル内に配置された臓器細胞に十分な量の酸素及び栄養素を供給することが困難となるため、臓器細胞が死滅する可能性がある。
【0012】
非特許文献2に記載の方法の場合、作製される流路の直径は、ゼラチンゲルファイバーの直径によって変動し得る。当該文献に記載のゼラチンゲルファイバーは、100 μm以上の直径を有する。このため、結果として得られる流路も、100 μm以上の直径を有する。このような大きい直径を有する流路は、人工臓器において毛細血管網として機能することは困難である。また、3Dプリント技術によって、毛細血管網のような緻密な形状を作製するためには、非常に長い時間を要する。
【0013】
非特許文献3に記載の方法の場合、PMMAファイバーを溶解するために、ジクロロメタンのような脂溶性有機溶媒を使用する。脂溶性有機溶媒の使用は、生体適合性を有する人工臓器の製造において好ましくない。
【0014】
特許文献1に記載の方法の場合、アルギン酸ナトリウムとタンパク質の混合液をゲル化して繊維状ゲルを形成した後、タンパク質を化学的に架橋し、次いでアルギン酸を除去して繊維状タンパク質を作製する。しかしながら、化学的に架橋された繊維状タンパク質は、再び溶解させることは困難である。また、タンパク質を化学的に架橋することなく繊維状タンパク質の強度を向上させるために、タンパク質の含有量を増大させることが考えられる。この場合、アルギン酸の除去が不十分となって、繊維状タンパク質中にアルギン酸が残存し得る。繊維状タンパク質中にアルギン酸が残存すると、タンパク質を溶解させても、繊維状のアルギン酸が残存する可能性がある。このため、特許文献1に記載の方法で得られる繊維状タンパク質を、例えば非特許文献2又は3に記載の方法におけるファイバーとして適用しても、流路の鋳型として使用することは困難である。加えて、特許文献1に記載の方法では、微小な直径の繊維状タンパク質を得るために、微細加工技術を用いて作製された特殊且つ複雑な形状を有する微小流路構造体を使用する必要がある。このため、当該文献に記載の方法は、実施するためのコストが高くなる可能性がある。
【0015】
それ故、本発明は、毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体を短時間で形成させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを、特定の条件下で二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出することにより、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を得られることを見出した。また、本発明者らは、キレート剤のようなアルギン酸除去剤を用いて前記ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を溶解させて得られる約10 μmの直径を有するゼラチン繊維をゲルに包埋しつつ、ゼラチン繊維を溶解させることにより、ゲル中に約10 μmの直径を有する三次元網状の微小流路を短時間で形成できることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0018】
(1) ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを、25℃以下の温度の二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出して、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を、繊維形成液から引取り紡糸する、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程;
ゼラチン芯鞘繊維とキレート剤又はアルギン酸加水分解酵素であるアルギン酸除去剤とを接触させて、アルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部を溶解させて2~25 μmの直径を有するゼラチン繊維を得る、ゼラチン繊維形成工程;
ゼラチン繊維を、コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上のゲル化剤に浸漬する、浸漬工程;
ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤をゲル化して、ゼラチン繊維をゲルに包埋する、ゲル化工程;
ゲルに包埋されたゼラチン繊維を、25℃を超える温度で溶解させて、微小流路をゲル中に形成させる、微小流路形成工程;
を含み、
ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程が、下記の式:
【数1】
JP2017217323A_000003t.gif
[式中、
Dは、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径(cm)であり、
Qは、芯成分及び鞘成分の総押出流量(ml/分)であり、
Rは、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比であり、
vは、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度(cm/分)であり、
πは、円周率である。]
で表される関係を満たす条件で実施される、前記ゲルとゲル中に2~25 μmの範囲の直径の三次元網状の微小流路とを有する、微小流路構造体の製造方法。
(2) ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程において、
ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径Dが、2~25 μmの範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量Qが、0.5~6 ml/分の範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比Rが、0.0000293~0.00283の範囲であり、且つ
ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vが、300~900 cm/分の範囲である、前記実施形態(1)に記載の方法。
(3) ゼラチン繊維形成工程で得られたゼラチン繊維を、エタノール、2-プロパノール若しくはメタノール、又はそれらの混合物である低融点有機溶媒中で脱水し、次いで脱水したゼラチン繊維を、低融点有機溶媒、又はtert-ブチルアルコール若しくはジメチルスホキシド、又はそれらの混合物である中融点有機溶媒中で凍結乾燥して、三次元網状のゼラチン繊維を得る、凍結乾燥工程をさらに含む、前記実施形態(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 共押出が、同心円状に配設された2個の吐出口を有するダイの中心部吐出口から芯成分を、外周部吐出口から鞘成分を、それぞれ吐出することによって実施され、中心部吐出口の直径が、200~600 μmの範囲であり、外周部吐出口の直径が、200~1000 μmの範囲である、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される芯成分が、1~50 w/v% ゼラチン水溶液である、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される鞘成分が、0.1~10 w/v% アルギン酸ナトリウム水溶液である、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される二価陽イオンを含む繊維形成液が、10~6000 mM 塩化カルシウム水溶液である、前記実施形態(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8) アルギン酸除去剤が、10~1000 mM クエン酸水溶液である、前記実施形態(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上のゲル化剤を含むゲルと、該ゲル中に2~25 μmの範囲の直径の三次元網状の微小流路とを有する、微小流路構造体。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体を短時間で形成させる手段を提供することが可能となる。
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一態様に係る微小流路構造体の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一態様に係る微小流路構造体の製造方法に含まれるゼラチン芯鞘繊維紡糸工程の一実施形態の模式図である。A:ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程の一実施形態の概略、B:ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で使用される装置の一実施形態の断面図。
【図3】図3は、共押出における芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比(押出流量比)と、結果として得られたゼラチン芯鞘繊維の直径及び芯部の直径との関係を示すグラフである。黒塗り四角:ゼラチン芯鞘繊維の直径、黒塗り丸:ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径。
【図4】図4は、得られたゼラチン芯鞘繊維の位相差顕微鏡写真である。A:押出流量比が0.167の場合に得られたゼラチン芯鞘繊維、B:押出流量比が0.000833の場合に得られたゼラチン芯鞘繊維。
【図5】図5は、得られたゼラチン繊維の実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡写真である。A:ゼラチン繊維の全体の外観を示す写真、B:ゼラチン繊維の拡大写真。
【図6】図6は、線状の微小流路を有する微小流路構造体の作製の概略を示す模式図である。
【図7】図7は、得られた線状の微小流路を有する微小流路構造体の蛍光顕微鏡写真である。
【図8】図8は、毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の作製の概略を示す模式図である。
【図9】図9は、ラットの血液を注入した毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の外観を示す写真である。A:注入開始5秒後の写真、B:注入開始10秒後の写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1:毛細血管網様の微小流路構造体の製造方法>
毛細血管は、生体組織内の細胞に酸素及び栄養素を供給する極めて重要な役割を担っている。それ故、生体外において人工臓器を製造する場合、毛細血管網様の微小流路を形成させる手段が必要となる。しかしながら、毛細血管網様の微小流路を短時間で形成させる手段は知られていなかった。

【0022】
本発明者らは、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を形成した後、キレート剤のようなアルギン酸除去剤を用いて前記ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を溶解させて得られる約10 μmの直径を有するゼラチン繊維をゲルに包埋しつつ、ゼラチン繊維を溶解させることにより、ゲル中に約10 μmの直径を有する三次元網状の微小流路を短時間で形成できることを見出した。それ故、本発明の一態様は、毛細血管網様の微小流路構造体の製造方法に関する。本態様に係る微小経路構造体の製造方法は、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程、ゼラチン繊維形成工程、浸漬工程、ゲル化工程及び微小流路形成工程を含む。また、本態様に係る方法は、所望により、凍結乾燥工程をさらに含むことができる。本態様に係る方法の工程について、以下において詳細に説明する。

【0023】
本発明の各態様において、「毛細血管網様」の形状は、動物の組織又は器官に存在する毛細血管網に類似の形状を意味し、例えば、三次元網状又は綿飴状の形状を意味する。毛細血管網を構成する毛細血管は、例えば2~25 μmの範囲、通常は5~20 μmの範囲、典型的には5~15 μmの範囲、特に約10 μmの直径を有する。前記直径は、毛細血管の内径の平均値を意味する。また、毛細血管網において、隣接する毛細血管の間の距離は、通常は50~200 μmの範囲、特に約100 μmである。前記距離は、毛細血管網における隣接する毛細血管の間の距離の平均値を意味する。毛細血管網において、毛細血管の直径及び隣接する毛細血管の間の距離は、例えば、毛細血管網を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって観察し、数カ所(例えば、10~50カ所)の直径及び距離を測定して、その平均値を算出することにより、決定することができる。

【0024】
[I-1:ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程]
本態様に係る方法は、ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出して、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を、繊維形成液から引取り紡糸する、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程を含むことが必要である。

【0025】
本発明の各態様において、「ゼラチン」は、コラーゲンを熱変性させて得られるタンパク質を意味する。コラーゲンは、哺乳動物をはじめとする多細胞生物の細胞から分泌される接着性のタンパク質であって、フィブロネクチン、ヒドロネクチン、オステオネクチン及びプロテオグリカン等の糖タンパク質とともに細胞外マトリクスの主要成分であることが知られている。コラーゲンは、多種類のタンパク質スーパーファミリーからなり、それぞれ、I型、II型、III型、…等のように分類される。各型のコラーゲン分子は、それぞれ3本の同種又は異種ポリペプチド鎖からなる。コラーゲン溶液は、通常は25~37℃の範囲の温度でゲル化する性質を有する。これに対し、ゼラチン溶液は、通常は25℃以下の温度でゲル化する性質を有する。本発明の各態様において使用されるゼラチンは、特に限定されないが、例えば、ブタ又はウシ由来のゼラチンを挙げることができる。

【0026】
本工程において使用される芯成分に含まれるゼラチンは、通常は、水、若しくはエタノール、2-プロパノール若しくはジメチルスルホキシド等の水混和性有機溶媒、又はそれらの混合物中の溶液の形態であることが好ましく、水溶液の形態であることがより好ましい。この場合、芯成分に含まれるゼラチンの濃度は、1~50 w/v%の範囲であることが好ましく、5~20 w/v%の範囲であることがより好ましく、約10 w/v%であることがさらに好ましい。芯成分に含まれるゼラチンの濃度が前記下限値未満の場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される範囲より小さくなるか、又は芯部が形成されない可能性がある。また、芯成分に含まれるゼラチンの濃度が前記上限値を超える場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される範囲より大きくなる可能性がある。それ故、前記条件でゼラチンを含む芯成分を使用することにより、所望の特徴を有するゼラチン芯鞘繊維を得ることができる。

【0027】
本工程において使用される鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム及びアルギン酸リチウムからなる群より選択される1種以上の化合物であることが好ましく、アルギン酸ナトリウムであることがより好ましい。前記化合物を鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩として使用することにより、アルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部を形成させることができる。

【0028】
本工程において使用される鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩は、通常は、水、若しくはエタノール、2-プロパノール若しくはジメチルスルホキシド等の水混和性有機溶媒、又はそれらの混合物中の溶液の形態であることが好ましく、水溶液の形態であることがより好ましい。この場合、鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩の濃度は、0.1~10 w/v%の範囲であることが好ましく、0.5~3 w/v%の範囲であることがより好ましく、約1 w/v%であることがさらに好ましい。アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分を、二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出することにより、アルギン酸の2個のカルボキシル基が1個の二価陽イオンを介してイオン架橋する。このイオン架橋を有するアルギン酸の二価陽イオン塩の形成により、鞘成分がゲル化して鞘部を形成する。鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩の濃度が前記下限値未満の場合、イオン架橋が十分に形成されず、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径が本明細書で規定される範囲より小さくなるか、又は鞘部が形成されない可能性がある。また、鞘成分に含まれるアルギン酸のアルカリ金属塩の濃度が前記上限値を超える場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径が本明細書で規定される範囲より大きくなる可能性がある。それ故、前記条件でアルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分を使用することにより、所望の特徴を有するゼラチン芯鞘繊維を得ることができる。

【0029】
本工程において使用される芯成分及び鞘成分は、以下において繊維形成液に含まれる二価陽イオンとして開示される二価陽イオンを含まないことが好ましい。これにより、芯成分及び鞘成分を繊維形成液中に共押出する前に、鞘成分がゲル化することを実質的に回避することができる。

【0030】
本工程において、芯成分と鞘成分とを共押出する繊維形成液に含まれる二価陽イオンは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン及びストロンチウムイオンからなる群より選択される1種以上の陽イオンであることが好ましく、カルシウムイオンであることがより好ましい。繊維形成液に含まれる二価陽イオンは、ハロゲン化物イオンとの塩の形態であることが好ましく、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム及び塩化バリウムからなる群より選択される1種以上の化合物の形態であることがより好ましく、塩化カルシウムの形態であることがさらに好ましい。前記二価陽イオンを含む繊維形成液を使用することにより、アルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部を形成させることができる。

【0031】
本工程において使用される繊維形成液に含まれる二価陽イオン又は該二価陽イオンを含む化合物は、通常は、水、若しくはエタノール、2-プロパノール若しくはジメチルスルホキシド等の水混和性有機溶媒、又はそれらの混合物中の溶液の形態であることが好ましく、水溶液の形態であることがより好ましい。この場合、繊維形成液に含まれる二価陽イオン又は該二価陽イオンを含む化合物の濃度は、10~6000 mMの範囲であることが好ましく、50~1000 mMの範囲であることがより好ましく、約100 mMであることがさらに好ましい。繊維形成液に含まれる二価陽イオン又は該二価陽イオンを含む化合物の濃度が前記下限値未満の場合、鞘成分に含まれるアルギン酸のイオン架橋が十分に形成されず、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径が本明細書で規定される範囲より小さくなるか、又は鞘部が形成されない可能性がある。それ故、前記条件で二価陽イオン又は該二価陽イオンを含む化合物を含む繊維形成液を使用することにより、所望の特徴を有するゼラチン芯鞘繊維を得ることができる。

【0032】
芯成分と鞘成分とを共押出する繊維形成液の温度は、25℃以下であることが必要であり、1~25℃の範囲であることが好ましく、1~10℃の範囲であることがより好ましく、約4℃であることがさらに好ましい。繊維形成液の温度が前記上限値以下の場合、芯成分に含まれるゼラチンがゲル化し得る。それ故、前記範囲の温度の繊維形成液中に芯成分と鞘成分とを共押出することにより、ゼラチンを含む芯部とアルギン酸の二価陽イオン塩を含む鞘部とを有するゼラチン芯鞘繊維を形成することができる。

【0033】
本工程において、芯成分及び鞘成分の総押出流量、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比、及びゼラチン芯鞘繊維を繊維形成液から引取り紡糸する引取速度と、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径との間には、一定の相関関係が存在することが判明した。この相関関係は、下記の式:
【数2】
JP2017217323A_000004t.gif
[式中、
Dは、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径(cm)であり、
Qは、芯成分及び鞘成分の総押出流量(ml/分)であり、
Rは、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比であり、
vは、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度(cm/分)であり、
πは、円周率である。]
で表される。それ故、本工程を、前記数式で表される関係を満たす条件で実施することにより、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0034】
本工程において、芯成分及び鞘成分の総押出流量Qは、0.5~6 ml/分の範囲であることが好ましい。芯成分及び鞘成分の総押出流量Qが前記上限値を超える場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される上限値を超える可能性がある。また、芯成分及び鞘成分の総押出流量Qが前記下限値未満の場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される下限値未満となる可能性がある。それ故、芯成分及び鞘成分の総押出流量Qを前記範囲として、且つ前記数式で表される関係を満たす条件で本工程を実施することにより、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0035】
本工程において、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比Rは、0.0000293~0.00283の範囲であることが好ましい。芯成分及び鞘成分の流量比Rが前記上限値を超える場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される上限値を超える可能性がある。また、芯成分及び鞘成分の流量比Rが前記下限値未満の場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される下限値未満となる可能性がある。それ故、芯成分及び鞘成分の流量比Rを前記範囲として、且つ前記数式で表される関係を満たす条件で本工程を実施することにより、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0036】
本工程において、芯成分及び鞘成分の総押出流量Q、並びに芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比Rは、芯成分及び鞘成分を押出するシリンジ等の押出手段を、シリンジポンプ等の手段を用いて所定の流量で動作させることにより、調整することができる。

【0037】
本工程において、ゼラチン芯鞘繊維を繊維形成液から引取る際の引取速度vは、300~900 cm/分の範囲であることが好ましい。ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vが前記下限値未満の場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される上限値を超える可能性がある。また、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vが前記上限値を超える場合、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が本明細書で規定される下限値未満となる可能性がある。それ故、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vを前記範囲として、且つ前記数式で表される関係を満たす条件で本工程を実施することにより、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0038】
本工程において、引取速度vは、ゼラチン芯鞘繊維を繊維形成液から引取る巻取軸のような引取手段を所定の速度で動作させることにより、調整することができる。

【0039】
本工程によって得られるゼラチン芯鞘繊維の直径、すなわちゼラチン芯鞘繊維の外径は、通常は150~650 μmの範囲であり、典型的には200~500 μmの範囲であり、特に約450 μmである。また、本工程によって得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径D、すなわちゼラチン芯鞘繊維の芯部の外径は、例えば2~25 μmの範囲であり、通常は5~20 μmの範囲であり、典型的には5~15 μmの範囲であり、特に約10 μmである。本工程によって得られるゼラチン芯鞘繊維、特に芯部は前記範囲の微小な直径を有することから、該ゼラチン芯鞘繊維の芯部を、毛細血管網様の微小流路の鋳型として使用することができる。

【0040】
好ましくは、
ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径Dが、2~25 μmの範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量Qが、0.5~6 ml/分の範囲であり、
芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比Rが、0.0000293~0.00283の範囲であり、且つ
ゼラチン芯鞘繊維の引取速度vが、300~900 cm/分の範囲である。前記条件で本工程を実施することにより、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0041】
本工程によって得られるゼラチン芯鞘繊維の直径及び芯部の直径は、例えば、ゼラチン芯鞘繊維を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって観察し、数カ所(例えば、10~50カ所)の芯鞘繊維の直径及び芯部の直径を測定して、その平均値を算出することにより、決定することができる。

【0042】
本工程の一実施形態の模式図を図2に示す。図2Aに示すように、ゼラチンを含む芯成分と、アルギン酸のアルカリ金属塩を含む鞘成分とを、25℃以下の温度の二価陽イオンを含む繊維形成液中に共押出する。繊維形成液中に押出された鞘成分に含まれるアルギン酸は、繊維形成液中に含まれる二価陽イオンを介して直ちにイオン架橋を形成する。これにより、繊維形成液中に押出された鞘成分は、その表面から直ちにゲル化が進行して、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を形成し得る。鞘部の表面のゲル化は、通常は、繊維形成液中への押出から0.1秒以内に進行する。これに対し、芯部のゲル化は、通常は、繊維形成液中への押出から数秒後に徐々に進行する。すなわち、鞘部の表面のゲル化が進行する時点において、鞘部の内部では、アルギン酸のイオン架橋が十分に形成されておらず、芯成分のゲル化も十分に進行していない。ここで、鞘部の表面のゲル化が進行しているゼラチン芯鞘繊維を引取ることにより、ゼラチン芯鞘繊維の直径、すなわち鞘部の直径を減少させることができる。これにより、ゲル化していない鞘成分及び芯成分の流路の直径を減少させることができる。その後、鞘部の内部においてもアルギン酸のイオン架橋が形成されて鞘部が形成されるとともに、芯成分に含まれるゼラチンも、ゲル化温度以下(25℃以下)の温度の繊維形成液中で徐々にゲル化して、芯部が形成され得る。このような機構でゼラチン芯鞘繊維の形成が進行することから、比較的大口径の吐出口から芯成分及び鞘成分を繊維形成液中に共押出する場合であっても、前記数式で表される関係を満たす条件となるように芯成分及び鞘成分の総押出流量Q、芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比R、並びにゼラチン芯鞘繊維の引取速度vを調整することにより、鞘部の直径、並びにゲル化していない鞘成分及び芯成分の流路の直径を減少させて、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径及び芯部の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。

【0043】
本工程で使用される装置の一実施形態の断面図を図2Bに示す。図2Bに示すように、本工程で使用される装置は、通常は、芯成分と鞘成分とを共押出する手段21と、二価陽イオンを含む繊維形成液を入れる繊維形成液槽22と、ゼラチン芯鞘繊維を繊維形成液槽22から引取る引取手段23とを備える。芯成分と鞘成分とを共押出する手段21は、芯鞘構造を有する芯鞘繊維を形成することができる手段であれば特に限定されない。例えば、共押出が、同心円状に配設された2個の吐出口24、25を有するダイの中心部吐出口24から芯成分を、外周部吐出口25から鞘成分を、それぞれ吐出することによって実施されることが好ましい。前記実施形態の場合、芯成分と鞘成分とを共押出する手段21は、芯成分を中心部吐出口24に押出する芯成分押出手段26と、鞘成分を外周部吐出口25に押出する鞘成分押出手段27とをさらに備えることが好ましい。同心円状に配設された2個の吐出口を有するダイを使用することにより、中心部吐出口24から芯成分を、外周部吐出口25から鞘成分を、それぞれ吐出することができる。この場合、中心部吐出口24の直径(すなわち内径)は、200~600 μmの範囲であることが好ましく、300~500 μmの範囲であることがより好ましく、450~500 μmの範囲であることがさらに好ましい。また、外周部吐出口25の直径(すなわち内径)は、200~1000 μmの範囲であることが好ましく、250~950 μmの範囲であることがより好ましい。芯成分と鞘成分とを共押出する手段21は、吐出口が前記特徴を備えていれば、他の部分の形状及び寸法は特に限定されない。例えば、中心部吐出口24及び外周部吐出口25の形状は、円柱状若しくは円錐台状、又はこれらの組み合わせであることができる。前記のように、中心部吐出口24及び外周部吐出口25は比較的大口径であることから、芯成分と鞘成分とを共押出する手段21は、中心部吐出口24及び外周部吐出口25、並びに芯成分押出手段26及び鞘成分押出手段27として、例えば、当該技術分野で通常使用されるシリンジ針及びシリンジを使用することができる。前記で説明したように、本態様に係る方法は、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の直径及び芯部の直径と比較して大口径の吐出口から芯成分及び鞘成分を繊維形成液中に共押出する場合であっても、ゼラチン芯鞘繊維の直径及び芯部の直径を本明細書で規定される範囲とすることができる。それ故、本態様に係る方法は、微細加工技術を用いて作製された特殊且つ複雑な形状を有する微小流路構造体を共押出する手段として使用することなく、前記特徴を有する単純な装置を使用して本工程を実施することにより、所望の特徴を有するゼラチン芯鞘繊維を容易に得ることができる。

【0044】
[I-2:ゼラチン繊維形成工程]
本態様に係る方法は、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で得られたゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させて、アルギン酸カルシウムを含む鞘部を溶解させてゼラチン繊維を得る、ゼラチン繊維形成工程を含むことが必要である。

【0045】
本工程において使用されるアルギン酸除去剤は、通常は、キレート剤又はアルギン酸加水分解酵素である。キレート剤は、クエン酸(例えばクエン酸三ナトリウム)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びグリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)からなる群より選択される1種以上の配位子を含むことが好ましく、クエン酸を含むことがより好ましい。アルギン酸加水分解酵素は、アルギン酸リアーゼ等が好ましい。アルギン酸除去剤は、前記配位子又は酵素を、水、若しくはエタノール、2-プロパノール若しくはジメチルスルホキシド等の水混和性有機溶媒、又はそれらの混合物中に含む溶液の形態であることが好ましく、前記配位子又は酵素を水中に含む水溶液の形態であることがより好ましい。この場合、キレート剤に含まれる配位子の濃度は、10~1000 mMの範囲であることが好ましく、50~800 mMの範囲であることがより好ましい。アルギン酸除去剤のpHは、3~10の範囲であることが好ましく、5~8の範囲であることがより好ましい。ゼラチン芯鞘繊維と前記で例示される配位子を含むキレート剤とを接触させると、配位子とゼラチン芯鞘繊維の鞘部に含まれる二価陽イオンとがキレート錯体を形成する。その結果、鞘部に含まれるアルギン酸の二価陽イオン塩のイオン架橋が切断されて、鞘部が溶解する。キレート剤に含まれる配位子の濃度が前記下限値未満の場合、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部に含まれる十分な量の二価陽イオンとキレート錯体を形成できない可能性がある。また、アルギン酸除去剤のpHが前記下限値未満又は前記上限値を超える場合、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部に含まれる二価陽イオンとキレート剤に含まれる配位子がキレート錯体を形成できない、又はアルギン酸加水分解酵素による酵素反応の速度が低下する可能性がある。これらの場合、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を十分に溶解できない可能性がある。それ故、前記特徴を有するアルギン酸除去剤を使用することにより、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を十分に溶解してゼラチン繊維を得ることができる。

【0046】
本工程において、ゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させる条件は、キレート剤に含まれる配位子と二価陽イオンとがキレート錯体を形成できる、又はアルギン酸加水分解酵素による酵素反応が進行し得る範囲内であれば、特に限定されない。例えば、ゼラチン芯鞘繊維を溶液の形態のアルギン酸除去剤に浸漬させることによって実施してもよく、溶液の形態のアルギン酸除去剤をゼラチン芯鞘繊維に滴下することによって実施してもよい。ゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させる温度は、25℃以下であることが好ましく、1~20℃の範囲であることがより好ましく、2~8℃の範囲であることがさらに好ましい。ゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させる時間は、0.1~72時間の範囲であることが好ましく、12~48時間の範囲であることがより好ましい。ゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させる温度が前記上限値を超える場合、ゼラチン芯鞘繊維の芯部に含まれるゼラチンが溶解する可能性がある。それ故、前記条件下でゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させることにより、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部を溶解して、ゼラチン繊維を得ることができる。

【0047】
ゼラチン芯鞘繊維は、アルギン酸除去剤と接触させる前、後、又は前及び後に、洗浄用溶媒で洗浄してもよい。この場合、使用される洗浄用溶媒は、水、若しくはエタノール、2-プロパノール若しくはジメチルスルホキシド等の水混和性有機溶媒、又はそれらの混合物であることが好ましく、水であることがより好ましい。ゼラチン芯鞘繊維及び/又は結果として得られるゼラチン繊維を洗浄用溶媒で洗浄する際の温度は、ゼラチン芯鞘繊維とアルギン酸除去剤とを接触させる温度と同一であることが好ましい。本工程において、ゼラチン芯鞘繊維を洗浄することにより、結果として得られるゼラチン繊維の純度を向上させることができる。

【0048】
本工程によって得られるゼラチン繊維は、ゼラチン芯鞘繊維の芯部に相当する。このため、本工程によって得られるゼラチン繊維の直径は、通常は、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程で得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径と同一の範囲となる。ゼラチン繊維の直径は、例えば2~25 μmの範囲であり、通常は5~20 μmの範囲であり、典型的には5~15 μmの範囲であり、特に約10 μmである。本工程によって得られるゼラチン繊維は前記範囲の微小な直径を有することから、該ゼラチン繊維を毛細血管網様の微小流路の鋳型として使用することができる。

【0049】
本工程によって得られるゼラチン繊維の直径は、例えば、ゼラチン繊維を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって観察し、数カ所(例えば、10~50カ所)の直径を測定して、その平均値を算出することにより、決定することができる。

【0050】
[I-3:凍結乾燥工程]
本態様に係る方法は、所望により、ゼラチン繊維形成工程で得られたゼラチン繊維を低融点有機溶媒中で脱水し、次いで脱水したゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒中で凍結乾燥して、三次元網状のゼラチン繊維を得る、凍結乾燥工程をさらに含むことができる。

【0051】
本発明の各態様において、「中融点有機溶媒」は、室温付近、例えば20~26℃の範囲の融点を有する有機溶媒を意味する。また、本発明の各態様において、「低融点有機溶媒」は、例えば4℃以下、好ましくは-114~-89.5℃の範囲の融点を有する有機溶媒を意味する。本工程において使用される中融点有機溶媒は、tert-ブチルアルコール若しくはジメチルスホキシド、又はそれらの混合物であることが好ましく、tert-ブチルアルコールであることがより好ましい。前記で例示される中融点有機溶媒は、少量、例えば5 v/v%以下、特に2 v/v%以下の水を含んでいてもよい。また、本工程において使用される低融点有機溶媒は、エタノール、2-プロパノール若しくはメタノール、又はそれらの混合物であることが好ましく、エタノールであることがより好ましい。前記で例示される低融点有機溶媒は、少量、例えば5 v/v%以下、特に2 v/v%以下の水を含んでいてもよい。

【0052】
本工程において、ゼラチン繊維形成工程で得られたゼラチン繊維を前記で例示される低融点有機溶媒中に浸漬することにより、ゼラチン繊維を脱水することができる。ゼラチン繊維を低融点有機溶媒中に浸漬する際の温度は、ゼラチン繊維が融解しない温度であればよく、25℃以下であることが好ましく、1~20℃の範囲であることがより好ましく、2~8℃の範囲であることがさらに好ましく、約4℃であることが特に好ましい。ゼラチン繊維を前記で例示される低融点有機溶媒中に浸漬することにより、ゼラチン繊維に含まれる水を除去することができる。これにより、続いて実施する凍結乾燥における水に起因する望ましくない影響、例えば、残存する水の表面張力の影響を実質的に回避して、所望の形状を有するゼラチン繊維を得ることができる。

【0053】
本発明の各態様において、「凍結乾燥」は、対象物質及び溶媒を含む混合物を凍結させ、該凍結物を溶媒の蒸気圧以下に減圧して、凍結物中の溶媒を昇華させて除去し、乾燥した対象物質を得る処理を意味する。例えば、脱水したゼラチン繊維を低融点有機溶媒中で凍結乾燥する場合、ゼラチン繊維及び低融点有機溶媒を含む凍結混合物の温度は、低融点有機溶媒の融点を超える温度であればよく、-114℃以上であることが好ましく、-114~-89.5℃の範囲であることがより好ましい。脱水したゼラチン繊維を中融点有機溶媒中で凍結乾燥する場合、ゼラチン繊維及び中融点有機溶媒を含む凍結混合物の温度は、中融点有機溶媒の融点を超える温度であればよく、20~30℃の範囲であることが好ましい。例えば、ゼラチン繊維を、水又はエタノールのような低融点有機溶媒中に浸漬させ、得られる混合物を凍結後に真空乾燥させる場合、前記上限値を超える温度、例えば室温で実施すると、融点の低い水又はエタノールのような低融点有機溶媒は、通常は融解して液体となる。このような場合、ゼラチン繊維の内部に含まれる液体の表面張力により、ゼラチン繊維が押しつぶされて、所望の形状のゼラチン繊維が得られない可能性がある。これに対し、前記で例示される中融点有機溶媒は、融点が比較的高い。例えば、tert-ブチルアルコールの融点は、25.7℃である。このような中融点有機溶媒中にゼラチン繊維を含む混合物を凍結後に真空乾燥させる場合、前記下限値を超える温度、例えば室温で実施しても、中融点有機溶媒は、融解して液体となる可能性が低い。それ故、前記で例示される低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒を、前記範囲の温度で使用することにより、融解して生じる液体の表面張力の影響を実質的に回避して、所望の形状を有するゼラチン繊維を得ることができる。

【0054】
本工程において、ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒に浸漬させる条件、ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒中に含む混合物を凍結させる条件、及び該混合物を凍結させる条件は、使用される低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒に基づき、適宜設定することができる。例えば、ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒に浸漬させる温度は、低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒の融点を超える温度であればよく、26℃以上であることが好ましく、26~50℃の範囲であることがより好ましく、26~40℃の範囲であることがさらに好ましい。ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒に浸漬させる時間は、0.1~48時間の範囲であることが好ましく、0.1~24時間の範囲であることがより好ましい。また、ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒中に含む混合物を凍結させる温度は、低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒の融点以下の温度であればよく、例えば中融点有機溶媒の場合、26℃以下であることが好ましく、-80~26℃の範囲であることがより好ましく、-30~26℃の範囲であることがさらに好ましい。ゼラチン繊維を低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒中に含む混合物を凍結させる時間は、0.1~48時間の範囲であることが好ましく、0.1~24時間の範囲であることがより好ましい。さらに、前記混合物を凍結乾燥させる圧力は、0.1~500 Paの範囲であることが好ましく、0.1~50 Paの範囲であることがより好ましい。前記混合物を凍結乾燥させる時間は、1~48時間の範囲であることが好ましく、1~24時間の範囲であることがより好ましい。

【0055】
本工程において、低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒に浸漬させたゼラチン繊維を所望の形状に成形した後で、ゼラチン繊維を含む混合物を凍結させることが好ましい。成形されたゼラチン繊維を含む混合物を凍結乾燥することにより、低融点有機溶媒又は中融点有機溶媒が昇華除去されて、所望の形状を有するゼラチン繊維を得ることができる。ゼラチン繊維は、三次元網状又は綿飴状の形状を有することが好ましい。本発明の各態様において、「三次元網状」は、繊維又は微小流路によって形成される網目が三次元的に配置されている形状を意味する。また、本発明の各態様において、「綿飴状」は、繊維又は微小流路が所定の距離で離間しながら一定の空間的広がりをもって配置されている形状を意味する。本工程によって得られる三次元網状又は綿飴状の形状を有するゼラチン繊維の実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。図中、Aは、ゼラチン繊維の全体の外観を示す写真であり、Bは、ゼラチン繊維の拡大写真である。この場合、隣接するゼラチン繊維の間の距離は、通常は50~200 μmの範囲であり、典型的には50~150 μmの範囲であり、特に約100 μmである。本工程によって得られるゼラチン繊維が三次元網状又は綿飴状の形状を有する場合、該ゼラチン繊維を毛細血管網様の微小流路の鋳型として使用することができる。

【0056】
本工程によって得られるゼラチン繊維の形状、及び繊維間の距離は、例えば、ゼラチン繊維を実体顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって観察し、数カ所(例えば、10~50カ所)の繊維間の距離を測定して、その平均値を算出することにより、決定することができる。

【0057】
[I-4:浸漬工程]
本態様に係る方法は、ゼラチン繊維形成工程で得られたゼラチン繊維をゲル化剤に浸漬する、浸漬工程を含むことが必要である。

【0058】
本工程において使用されるゲル化剤は、コラーゲン及びフィブリンからなる群より選択される1種以上の化合物を含むことが必要であり、コラーゲンを含むことが好ましく、ブタ又はウシ由来のI型コラーゲンを含むことがより好ましい。前記のように、コラーゲンは、通常は25~37℃の範囲の温度でゲル化する性質を有する。それ故、コラーゲンを含むゲル化剤を使用することにより、以下において開示する工程においてゼラチン繊維をゲルに包埋することができる。

【0059】
本工程において、ゼラチン繊維をゲル化剤に浸漬する際の温度は、25℃以下の温度であることが好ましく、1~10℃の範囲であることがより好ましく、1~8℃の範囲であることがさらに好ましい。ゼラチン繊維をゲル化剤に浸漬する際の温度が前記上限値を超える場合、ゼラチン繊維に含まれるゼラチンが溶解する可能性がある。それ故、前記範囲の温度でゼラチン繊維をゲル化剤に浸漬することにより、ゼラチンが溶解することを実質的に回避してゼラチン繊維をゲル化剤に浸漬することができる。

【0060】
[I-5:ゲル化工程]
本態様に係る方法は、ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤をゲル化して、ゼラチン繊維をゲルに包埋する、ゲル化工程を含むことが必要である。

【0061】
本工程において、ゲル化剤をゲル化する条件は、浸漬工程で使用されたゲル化剤のゲル化条件に応じて当業者が適宜設定することができる。例えば、ゲル化剤としてコラーゲンを使用する場合、ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤を、25~37℃の範囲、好ましくは30~37℃の範囲の温度で静置する。この場合、前記温度で静置する時間は、10~60分間の範囲であることが好ましく、10~40分間の範囲であることがより好ましい。ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤を静置する温度が前記上限値を超える場合、ゲル化剤がゲル化するよりも早く、ゼラチン繊維に含まれるゼラチンが急速に溶解する可能性がある。また、ゲル化剤として使用されるコラーゲンが熱変性する可能性がある。それ故、ゲル化剤としてコラーゲンを使用する場合、前記条件で本工程を実施することにより、ゼラチンが急速に溶解することを実質的に回避しつつゲル化剤をゲル化させて、ゼラチン繊維をゲルに包埋することができる。或いは、ゲル化剤としてフィブリンを使用する場合、ゼラチン繊維を浸漬した水溶液の形態のゲル化剤及びトロンビン水溶液を、1~37℃の範囲、好ましくは1~10℃の範囲、より好ましくは1~4℃の範囲の温度で混合し、静置する。この場合、混合物を前記温度で静置する時間は、10~60分間の範囲であることが好ましく、20~40分間の範囲であることがより好ましい。ゼラチン繊維を浸漬したゲル化剤を静置する温度が前記上限値を超える場合、ゲル化剤がゲル化するよりも早く、ゼラチン繊維に含まれるゼラチンが急速に溶解する可能性がある。また、ゲル化剤として使用されるフィブリンが熱変性する可能性がある。それ故、ゲル化剤としてフィブリンを使用する場合、前記条件で本工程を実施することにより、ゼラチンが急速に溶解することを実質的に回避しつつゲル化剤をゲル化させて、ゼラチン繊維をゲルに包埋することができる。

【0062】
本工程は、以下において開示する微小流路形成工程と別々に実施してよく、所望により、微小流路形成工程と同時に又は連続して実施してもよい。例えば、ゲル化剤としてコラーゲンを使用する場合、本工程と微小流路形成工程とを同時に実施することにより、ゲル化剤がゲル化してゼラチン繊維をゲルに包埋すると同時に、ゼラチン繊維に含まれるゼラチンの溶解が進行し得る。これにより、ゲル化工程及び微小流路形成工程を実質的に同時に又は連続して実施することができる。

【0063】
[I-6:微小流路形成工程]
本態様に係る方法は、ゲルに包埋されたゼラチン繊維を溶解させて、微小流路をゲル中に形成させる、微小流路形成工程を含むことが必要である。

【0064】
本工程において、ゲルに包埋されたゼラチン繊維を溶解させる温度は、25℃を超える温度であることが必要であり、25~37℃の範囲であることが好ましく、30~37℃の範囲であることがより好ましい。ゲルに包埋されたゼラチン繊維は、前記範囲の温度で一定時間、例えば10~60分間の範囲、好ましくは10~40分間の範囲の時間静置されることが好ましい。本態様に係る方法で使用されるゼラチンは、通常は、25℃を超える温度で溶解する。このため、ゼラチン繊維を、前記下限値を超える温度にすることにより、ゼラチン繊維を溶解させることができる。また、ゲル化剤としてコラーゲン又はフィブリンを使用する場合、前記上限値を超えると、ゲル化剤として使用されるコラーゲン又はフィブリンが熱変性する可能性がある。それ故、ゲル化剤としてコラーゲン又はフィブリンを使用する場合、前記条件で本工程を実施することにより、ゲルを実質的に安定に維持しつつ、ゼラチン繊維を溶解させることができる。

【0065】
本態様に係る方法において、三次元網状又は綿飴状の形状を有するゼラチン繊維を鋳型として用いることにより、ゲル中に毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体を得ることができる。前記で開示するように、本態様に係る方法は、非常に短時間で、例えば十数分間~数時間で、微小流路を形成することができる。また、本態様に係る方法によって形成される微小流路は、三次元網状又は綿飴状の形状を有し、且つ毛細血管と同程度の直径を有する。それ故、本態様に係る方法により、人工臓器を作製する際に毛細血管網として使用し得る微小流路構造体を、従来技術と比較して非常に短時間で製造することができる。

【0066】
<2:毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体>
本発明の別の一態様は、三次元網状の微小流路を有する微小流路構造体に関する。本態様に係る微小流路構造体の一実施形態を図1に示す。図1に示すように、本態様に係る微小流路構造体1は、ゲル11と、該ゲル11中に微小流路12とを有する。本態様に係る微小流路構造体は、前記で説明した本発明の一態様に係る方法によって製造することができる。

【0067】
本態様に係る微小流路構造体は、1種以上のゲル化剤を含むゲルを有する。1種以上のゲル化剤は、前記で説明した本発明の一態様に係る方法で使用されるゲル化剤から適宜選択することができる。ゲルの形状及び寸法は、微小流路をその内部に配置できれば特に限定されない。本態様に係る微小流路構造体の用途等を考慮して、ゲルは、任意の形状及び寸法とすることができる。

【0068】
本態様に係る微小流路構造体は、ゲル中に微小流路を有する。微小流路の具体的な形状は特に限定されない。微小流路の形状は、例えば、三次元網状又は綿飴状の形状である。微小流路の直径は、例えば2~25 μmの範囲であり、通常は5~20 μmの範囲であり、典型的には5~15 μmの範囲であり、特に約10 μmである。また、隣接する微小流路の間の距離は、通常は50~200 μmの範囲であり、典型的には50~150 μmの範囲であり、特に約100 μmである。前記の形状及び寸法は、毛細血管網と同様の形状及び寸法を有する。それ故、本態様に係る方法によって得られる微小流路構造体は、人工臓器を作製する際に毛細血管網として使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
<I:微小流路構造体の製造>
[I-1:ゼラチン芯鞘繊維の紡糸]
ゼラチン(Gelatin from porcine skin (Type A)、シグマ-アルドリッチ社)を用いて、10 w/v% ゼラチン水溶液を、芯成分として調製した。また、1 w/v% アルギン酸ナトリウム水溶液を、鞘成分として調製した。同心円状に配設された2個の吐出口を有する二重円筒管形状のダイ(中心部吐出口径:0.48 mm、外周部吐出口径:0.94 mm)を準備して、中心部吐出口に接続された内筒及び外周部吐出口に接続された外筒に、それぞれシリンジを接続した。ダイの中心部吐出口及び外周部吐出口は、市販のシリンジ針(テルモシリンジ、テルモ社)を用いて作製した(図2B)。内筒に接続されたシリンジに芯成分(80℃)を、外筒に接続されたシリンジに鞘成分(20℃)を、それぞれ注入した。シリンジポンプを用いて、中心部吐出口から80℃に維持した芯成分を、外周部吐出口から20℃に維持した鞘成分を、それぞれ所定の押出流量で吐出しながら(芯成分及び鞘成分の総押出流量:3 ml/分)、約4℃の100 mM 塩化カルシウム水溶液中に共押出した。アルギン酸の2個のカルボキシル基は、1個のカルシウムイオンを介してイオン架橋し得る。このため、鞘成分に含まれるアルギン酸は、塩化カルシウム水溶液中に共押出されてゲル化する。また、芯成分に含まれるゼラチンは、低温の塩化カルシウム水溶液中に共押出されてゲル化する。それ故、塩化カルシウム水溶液中に共押出された芯成分及び鞘成分は、ゼラチン芯鞘繊維を形成した。形成されたゼラチン芯鞘繊維を、900 cm/分の引取速度で、吐出口から30 cmの位置に配置した巻取軸(直径:7.5 cm)に巻き取りながら、塩化カルシウム水溶液から引取紡糸した(図2A)。共押出における芯成分及び鞘成分の総押出流量に対する芯成分の押出流量の比(押出流量比)と、結果として得られたゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径との関係を図3に示す。図中、黒塗り四角は、ゼラチン芯鞘繊維の直径を、黒塗り丸は、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径を、それぞれ示す。また、位相差顕微鏡(DM IL LED、ライカ社)を用いて、得られたゼラチン芯鞘繊維を観察した。得られたゼラチン芯鞘繊維の写真を図4に示す。図中、Aは、押出流量比が0.167の場合に得られたゼラチン芯鞘繊維であり、寸法線は、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径を表す。Bは、押出流量比が0.000833の場合に得られたゼラチン芯鞘繊維であり、矢印は、ゼラチン芯鞘繊維を表す。
【実施例】
【0071】
図3に示すように、押出流量比が大きくなるほど、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が大きくなった。押出流量比が0.000833以下、特に0.0000587~0.000833の範囲では、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が25 μm以下となった(図4B)。これに対し、押出流量比が0.05を超えると、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径が100 μm以上となった(図4A)。
【実施例】
【0072】
前記手順において、芯成分及び鞘成分の総押出流量、押出流量比及び引取速度を変更した他は、前記と同様にゼラチン芯鞘繊維紡糸工程を実施した。ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程の条件と得られたゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径とを表1に示す。
【実施例】
【0073】
【表1】
JP2017217323A_000005t.gif
【実施例】
【0074】
表1に示すように、ゼラチン芯鞘繊維紡糸工程における芯成分及び鞘成分の総押出流量、押出流量比及び引取速度と、結果として得られるゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径との間には一定の相関関係が存在することが明らかとなった。この相関関係は、下記の式:
【数3】
JP2017217323A_000006t.gif
[式中、
Dは、ゼラチン芯鞘繊維の芯部の直径(cm)であり、
Qは、芯成分及び鞘成分の総押出流量(ml/分)であり、
Rは、押出流量比であり、
vは、ゼラチン芯鞘繊維の引取速度(cm/分)であり、
πは、円周率である。]
で表される。
【実施例】
【0075】
比較例として、特許文献1に記載の方法に基づきゼラチン繊維を紡糸した。1 w/v% アルギン酸ナトリウム及び10 w/v% ゼラチン(ゲル化タンパク質)を含む水溶液を繊維成分として調製した。市販のシリンジ針(テルモシリンジ、テルモ社)を用いて、1個の吐出口を有するダイ(吐出口径:0.48 mm)を準備して、吐出口に接続されたシリンジに繊維成分(80℃)を注入した。シリンジポンプを用いて、吐出口から80℃に維持した繊維成分を所定の押出流量で吐出しながら、約4℃の100 mM 塩化カルシウム水溶液中に押出した。塩化カルシウム水溶液中に押出された繊維成分は、ゼラチン繊維を形成した。形成されたゼラチン繊維を、所定の引取速度で巻取軸(直径:7.5 cm)に巻き取りながら、塩化カルシウム水溶液から引取紡糸した。得られたゼラチン繊維の直径は、200 μm以上となった。ゼラチン繊維の直径を減少させるために、押出流量及び引取速度を調整したが、引取中に繊維が破断して、繊維を紡糸できなかった。
【実施例】
【0076】
[I-2:ゼラチン繊維の形成]
I-1で得られた実施例1(2)のゼラチン芯鞘繊維(芯部の直径:11 μm、長さ:2×103m)を、4℃の蒸留水で洗浄した。次に、ゼラチン芯鞘繊維を、4℃の5000 mLの100 mM クエン酸水溶液(pH 7.4)に48時間浸漬した。クエン酸とゼラチン芯鞘繊維の鞘部に含まれるカルシウムイオンとは、キレート錯体を形成する。このため、ゼラチン芯鞘繊維をクエン酸水溶液に浸漬させることにより、鞘部に含まれるアルギン酸カルシウムのイオン架橋が切断されて、鞘部が溶解する。それ故、ゼラチン芯鞘繊維の鞘部が溶解して、ゼラチン繊維が形成された。クエン酸水溶液からゼラチン繊維を取り出し、4℃の蒸留水で洗浄した。ゼラチン繊維を、4℃の99 v/v%エタノールに24時間浸漬して脱水した。次いで、ゼラチン繊維を、30℃のtert-ブチルアルコールに浸漬した。ゼラチン繊維を含むtert-ブチルアルコール混合物を4℃に冷却して凍結させた。この混合物を凍結乾燥して、ゼラチン繊維(0.06 g)を得た。実体顕微鏡(SMZ1500、ニコン社)及び走査型電子顕微鏡(SEM)(S-3000N、日立ハイテクノロジーズ社)を用いて、得られたゼラチン繊維を観察した。得られたゼラチン繊維の写真を図5に示す。図中、Aは、ゼラチン繊維の全体の外観を示す写真であり、Bは、ゼラチン繊維の拡大写真である。
【実施例】
【0077】
図5Aに示すように、得られたゼラチン繊維は、三次元網状又は綿飴状の形状を有していた。図5Bに示すSEM写真に基づき測定したところ、ゼラチン繊維の直径の平均値は、10±2 μm(n=50)であった。三次元網状又は綿飴状の形状を有するゼラチン繊維において、隣接するゼラチン繊維の間の距離の平均値は、88±68 μm(n=50)であった。
【実施例】
【0078】
[I-3:線状の微小流路を有する微小流路構造体の作製]
線状の微小流路を有する微小流路構造体の作製の概略を図6に示す。I-1及びI-2において、芯成分として使用するゼラチン水溶液に、1 μmの直径を有する蛍光標識ポリスチレン微粒子(Fluoresbrite Carboxylate Microspheres、カタログ番号:15702、Polysciences社)を0.1w/v%の濃度で添加した他は、実施例1と同様の手順及び条件で、蛍光標識ポリスチレン微粒子を含有するゼラチン繊維(直径:10μm、長さ:5×102m)を得た。このゼラチン繊維を切断して、3 cmの繊維片を得た。0.3% Cellmatrix(登録商標) Type I-A コラーゲン水溶液(新田ゼラチン社)、10倍濃度のイーグル最小必須培地及び再構成用緩衝液(47.7 g/L HEPES、1 M 水酸化ナトリウム及び22 g/L 炭酸水素ナトリウムを含む水溶液)を、約4℃の氷水中で冷却しながら8:1:1の割合(体積比)で混合して、コラーゲン混合液(pH 7.4)を得た。円形プラスチックシャーレ(10 cm)に、蛍光標識ポリスチレン微粒子を含有するゼラチン繊維片を静置した。このシャーレに、4℃の2 mLのコラーゲン混合液を入れて、4℃でゼラチン繊維片をコラーゲンに浸漬した。
【実施例】
【0079】
コラーゲンに浸漬されたゼラチン繊維片を含む円形シャーレを、20℃で20分間静置した。コラーゲンがゲル化して、蛍光標識ポリスチレン微粒子を含有するゼラチン繊維片がコラーゲンゲルに包埋された。次いで、コラーゲンゲルに包埋された蛍光標識ポリスチレン微粒子を含有するゼラチン繊維片を含む円形シャーレを、37℃のインキュベーターに入れて、37℃で20分間静置した。ゼラチン繊維片に含まれるゼラチンの溶解が進行した。これにより、コラーゲンゲル中に、ゼラチン繊維片を鋳型とする微小流路が形成されて、コラーゲンゲルと、該ゲル中に線状の微小流路を有する微小流路構造体を得た。蛍光顕微鏡(ECLIPSE Ti、ニコン社)を用いて、得られた微小流路構造体を観察した。微小流路構造体の蛍光顕微鏡写真を図7に示す。また、蛍光顕微鏡を用いて、蛍光粒子を含有するゼラチン繊維片及び得られた微小流路の直径を数カ所測定し、平均値を算出した。結果を表2に示す。
【実施例】
【0080】
【表2】
JP2017217323A_000007t.gif
【実施例】
【0081】
図7に示すように、コラーゲンゲル中に、蛍光標識ポリスチレン微粒子が流動する微小流路が形成された。形成された微小流路の直径は、鋳型として使用したゼラチン繊維片の直径と略同一であった。
【実施例】
【0082】
[I-4:毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の作製]
毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の作製の概略を図8に示す。図8に示すように、透明プラスチック容器(開口:3 cm×0.5 cm、深さ:2 cm)の側面に、0.7 mmの外径及び70 mmの長さの2本のステンレス針(テルモシリンジ、テルモ社)を貫通させた。2本のステンレス針は、互いに及びプラスチック容器の底面と平行となるように、且つ深さ方向に一定の間隔(1.3 cm)で互いに離間するように配置した。I-1及びI-2の手順にしたがって得られた実施例1の三次元網状又は綿飴状のゼラチン繊維(直径:10 μm、長さ:2×103m、質量:0.06 g)を、2本の針に接するようにプラスチック容器の内部に配置した。プラスチック容器に、I-3と同様の手順で調製した4℃のコラーゲン混合液(pH 7.4)を入れて、4℃でゼラチン繊維をコラーゲンに浸漬した。コラーゲンに浸漬されたゼラチン繊維を含むプラスチック容器を、20℃で20分間静置した。コラーゲンがゲル化して、ゼラチン繊維がコラーゲンゲルに包埋された。次いで、コラーゲンゲルに包埋されたゼラチン繊維を含むプラスチック容器を、37℃のインキュベーターに入れて、37℃で20分間静置した。ゼラチン繊維に含まれるゼラチンの溶解が進行した。これにより、コラーゲンゲル中に、ゼラチン繊維を鋳型とする微小流路が形成されて、コラーゲンゲルと、該ゲル中に三次元網状の微小流路を有する微小流路構造体を得た。
【実施例】
【0083】
2本の針をプラスチック容器から穏やかに引き抜いた。針を引き抜いたプラスチック容器の貫通孔のうち、右下方の1カ所から、シリンジを用いてヘパリン処理したラットの血液を注入した。ラットの血液を注入した毛細血管網様の微小流路を有する微小流路構造体の外観を示す写真を図9に示す。図中、Aは、注入開始5秒後、Bは、注入開始10秒後の写真である。図9に示すように、注入開始10秒後に、ラットの血液は、微小流路構造体の内部の微小流路の略全体に亘って流通した。
【符号の説明】
【0084】
1…微小流路構造体
11…ゲル
12…微小流路
21…芯成分と鞘成分とを共押出する手段
22…繊維形成液槽
23…引取手段
24…中心部吐出口
25…外周部吐出口
26…芯成分押出手段
27…鞘成分押出手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8