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明細書 :拘束性皮膚障害のリスク検査及び治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-071818 (P2019-071818A)
公開日 令和元年5月16日(2019.5.16)
発明の名称または考案の名称 拘束性皮膚障害のリスク検査及び治療
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
C12Q 1/68 Z
C12Q 1/02
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 17
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2017-199849 (P2017-199849)
出願日 平成29年10月13日(2017.10.13)
発明者または考案者 【氏名】河野 通浩
【氏名】秋山 真志
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX01
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA46
要約 【課題】拘束性皮膚障害の発症に関連する、重要な遺伝子変異を同定し、拘束性皮膚障害の診断法及び治療法の開発に貢献することを課題とする。
【解決手段】被検者から採取された核酸検体について、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異を検出し、拘束性皮膚障害のリスクを検査する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者から採取された核酸検体について、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異を検出するステップを含む、拘束性皮膚障害のリスク検査法。
【請求項2】
以下の(a)及び/又は(b)の基準に従いリスクを判定することを特徴とする、請求項1に記載のリスク検査法:
(a)前記変異が検出されるとリスクが高い;
(b)対立遺伝子の両方で前記変異が検出されるとリスクが特に高い。
【請求項3】
前記被検者が妊娠前の女性である、請求項1又は2に記載のリスク検査法。
【請求項4】
前記被検者が妊婦であり、前記核酸検体が母体由来である、請求項1又は2に記載のリスク検査法。
【請求項5】
前記被検者が妊婦であり、前記核酸検体が胎児由来である、請求項1又は2に記載のリスク検査法。
【請求項6】
出産を予定又は希望している一組の男女を前記被検者として前記ステップを行い、両者の検出結果に基づきリスクを判定する、請求項1又は2に記載のリスク検査法。
【請求項7】
前記被検者が日本人である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリスク検査法。
【請求項8】
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とした、拘束性皮膚障害のリスク検査用核酸プローブ。
【請求項9】
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が変異型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している蛍光プローブ、又は
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が野生型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している蛍光プローブ、
である、請求項8に記載のリスク検査用核酸プローブ。
【請求項10】
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異検出用の核酸セットを含む、拘束性皮膚障害のリスク検査用キットであって、
前記核酸セットは、
前記変異位置を含むDNA配列を標的とし、前記変異位置が変異型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には第1のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している第1蛍光プローブ、及び/又は前記変異位置を含むDNA配列を標的とし、前記変異位置が野生型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には前記第1のレポーター蛍光色素とは異なる第2のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している第2蛍光プローブと、
前記DNA配列を含むDNA領域を増幅するためのプライマーペアと、
からなる、リスク検査用キット。
【請求項11】
前記核酸セットにおける第1蛍光プローブが配列番号3の配列を含み、
前記核酸セットにおける第2蛍光プローブが配列番号4の配列を含む、
請求項10に記載のリスク検査用キット。
【請求項12】
前記核酸セットにおけるプライマーペアが配列番号5の配列からなるフォワードプライマーと、配列番号6の配列からなるリバースプライマーからなる、
請求項10又は11に記載のリスク検査用キット。
【請求項13】
以下のステップ(i)及び(ii)を含む、拘束性皮膚障害の治療薬のスクリーニング法:
(i)プロモーターと、該プロモーターの制御下にある、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子又はその断片(但し、前記変異位置を含む)と、該ZMPSTE24遺伝子又はその断片にインフレームで連結されたレポーター遺伝子と、を含むレポーター遺伝子コンストラクトが導入された哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ、
(ii)前記レポーター遺伝子の発現を検出するステップであって、発現が検出されること又は被験物質の非存在下で前記哺乳動物細胞を培養した場合と比較して発現量が多いことが有効性の指標となるステップ。
【請求項14】
以下のステップ(I)及び(II)を含む、拘束性皮膚障害の治療薬のスクリーニング法:
(I)c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子を保有した哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ、
(II)培養後の前記哺乳動物細胞内における全長ZMPSTE24タンパク質を検出するステップであって、全長ZMPSTE24タンパク質が検出されることが有効性の指標となるステップ。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項13又は14に記載のスクリーニング法。
【請求項16】
前記哺乳動物細胞が線維芽細胞である、請求項13~15のいずれか一項に記載のスクリーニング法。
【請求項17】
前記哺乳動物細胞が、拘束性皮膚障害の患者由来の線維芽細胞又はその不死化細胞である、請求項14に記載のスクリーニング法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は拘束性皮膚障害の検査及び治療に関する。詳しくは、拘束性皮膚障害の発症に関連する遺伝子変異を利用したリスク検査及び治療法の開発等に関する。
【背景技術】
【0002】
拘束性皮膚障害(Restrictive dermopathy;RD)は1983年に初めて報告された、新しい遺伝性疾患である。胎生後期の皮膚の皮膚硬化により、多発性関節拘縮、呼吸様運動障害による肺低形成を示し、多くは子宮内胎児死亡となり、出生してもまもなく死亡に至る(非特許文献1)。これまでに100例弱の報告があるに過ぎないが、適切に診断されていない可能性もあり、認知度が高まれば症例数(患者数)は増えてくると思われる。
【0003】
治療薬の提案はあるものの(特許文献1を参照)、現状、拘束性皮膚障害に対する確立された治療法はなく、有効な治療薬の創出が切望される。一方で、拘束性皮膚障害は遺伝性疾患であることから、妊娠前又は出生前に発症リスクを把握し、早い段階で必要な対策を講じることが望まれる。尚、2004年に本疾患の原因遺伝子が常染色体劣性遺伝症例はZMPSTE24、常染色体優性遺伝はLMNAであることが明らかになった。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2008/003864号パンフレット
【0005】

【非特許文献1】Canadian Medicine, A Case of Restrictive Dermopathy: CASE REPORT Posted in January 23rd 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景の下、本発明は、拘束性皮膚障害の発症に関連する、重要な遺伝子変異を同定し、拘束性皮膚障害の診断法及び治療法の開発に貢献することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
拘束性皮膚障害は症例の報告が極めて少なく検体の入手自体が困難であるが、本発明者らの研究グループは幸運にも5例の検体を入手することができ、遺伝子診断及び出生前診断を行った。詳細な検討の結果、5例全てにおいてZMPSTE24遺伝子に同一の変異(ナンセンス変異)が見つかり、内4例はホモ変異体であった。この事実は、当該変異のしかもホモ変異体でのみ拘束性皮膚障害が発症することを示唆するものであり、当該変異が診断(リスクの判定)及び治療薬の開発において極めて有効な標的になることを意味する。一つの変異が発症原因になることは、効率的な治療薬スクリーニング系の構築を容易にする。また、例えば、ナンセンス変異に有効なリードスルー治療のデザイン等がし易く、治療戦略上も有利である。
以下の発明は主として上記の成果及び考察に基づく。
[1]被検者から採取された核酸検体について、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異を検出するステップを含む、拘束性皮膚障害のリスク検査法。
[2]以下の(a)及び/又は(b)の基準に従いリスクを判定することを特徴とする、[1]に記載のリスク検査法:
(a)前記変異が検出されるとリスクが高い;
(b)対立遺伝子の両方で前記変異が検出されるとリスクが特に高い。
[3]前記被検者が妊娠前の女性である、[1]又は[2]に記載のリスク検査法。
[4]前記被検者が妊婦であり、前記核酸検体が母体由来である、[1]又は[2]に記載のリスク検査法。
[5]前記被検者が妊婦であり、前記核酸検体が胎児由来である、[1]又は[2]に記載のリスク検査法。
[6]出産を予定又は希望している一組の男女を前記被検者として前記ステップを行い、両者の検出結果に基づきリスクを判定する、[1]又は[2]に記載のリスク検査法。
[7]前記被検者が日本人である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のリスク検査法。
[8]ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とした、拘束性皮膚障害のリスク検査用核酸プローブ。
[9]ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が変異型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している蛍光プローブ、又は
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が野生型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している蛍光プローブ、
である、[8]に記載のリスク検査用核酸プローブ。
[10]ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異検出用の核酸セットを含む、拘束性皮膚障害のリスク検査用キットであって、
前記核酸セットは、
前記変異位置を含むDNA配列を標的とし、前記変異位置が変異型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には第1のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している第1蛍光プローブ、及び/又は前記変異位置を含むDNA配列を標的とし、前記変異位置が野生型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には前記第1のレポーター蛍光色素とは異なる第2のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している第2蛍光プローブと、
前記DNA配列を含むDNA領域を増幅するためのプライマーペアと、
からなる、リスク検査用キット。
[11]前記核酸セットにおける第1蛍光プローブが配列番号3の配列を含み、
前記核酸セットにおける第2蛍光プローブが配列番号4の配列を含む、
[10]に記載のリスク検査用キット。
[12]前記核酸セットにおけるプライマーペアが配列番号5の配列からなるフォワードプライマーと、配列番号6の配列からなるリバースプライマーからなる、
[10]又は[11]に記載のリスク検査用キット。
[13]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、拘束性皮膚障害の治療薬のスクリーニング法:
(i)プロモーターと、該プロモーターの制御下にある、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子又はその断片(但し、前記変異位置を含む)と、該ZMPSTE24遺伝子又はその断片にインフレームで連結されたレポーター遺伝子と、を含むレポーター遺伝子コンストラクトが導入された哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ、
(ii)前記レポーター遺伝子の発現を検出するステップであって、発現が検出されること又は被験物質の非存在下で前記哺乳動物細胞を培養した場合と比較して発現量が多いことが有効性の指標となるステップ。
[14]以下のステップ(I)及び(II)を含む、拘束性皮膚障害の治療薬のスクリーニング法:
(I)c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子を保有した哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ、
(II)培養後の前記哺乳動物細胞内における全長ZMPSTE24タンパク質を検出するステップであって、全長ZMPSTE24タンパク質が検出されることが有効性の指標となるステップ。
[15]前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、[13]又は[14]に記載のスクリーニング法。
[16]前記哺乳動物細胞が線維芽細胞である、[13]~[15]のいずれか一項に記載のスクリーニング法。
[17]前記哺乳動物細胞が、拘束性皮膚障害の患者由来の線維芽細胞又はその不死化細胞である、[14]に記載のスクリーニング法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】TaqMan(登録商標)-PCR用のプライマー及びプローブの一覧。No.1~20:exon 1~exon 10用のフォワードプライマー及びリバースプライマー。No.21:c.121C>T(p.Q41X)変異検出用のフォワードプライマー(ZMPSTE24_c121C-T.F:配列番号5)。No.22:c.121C>T(p.Q41X)変異検出用のリバースプライマー(ZMPSTE24_c121C-T.R:配列番号6)。No.23:c.121C>T(p.Q41X)変異検出用の野生型プローブ(ZMPSTE24_c121C.VIC:配列番号4)、5'末端にはレポーター蛍光色素VICが、3'末端には非蛍光クエンチャーMGBがそれぞれ結合されている。No.24:c.121C>T(p.Q41X)変異検出用の変異型のプローブ(ZMPSTE24_c121T.FAM:配列番号3)、5'末端にはレポーター蛍光色素FAMが、3'末端には非蛍光クエンチャーMGBがそれぞれ結合されている。
【図2】ZMPSTE24遺伝子(ZMPSTE24)変異の解析結果。
【図3】簡便スクリーニング法による、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の検出。
【図4】リードスルー活性を測定可能なレポータージーンアッセイ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.拘束性皮膚障害のリスク検査法
本発明の第1の局面は拘束性皮膚障害のリスク検査法に関する。本発明において「拘束性皮膚障害のリスク」とは、拘束性皮膚障害を発症するおそれ(可能性)の程度をいう。従って、本発明のリスク検査法によれば、拘束性皮膚障害の発症予測が可能となる。尚、本発明のリスク検査法を、拘束性皮膚障害の検査又は診断を補助する方法として利用することもできる。

【0010】
本発明のリスク検査法では、被検者から採取された核酸検体について、特定の遺伝子変異を検出し、検出結果に基づきリスクを判定・評価する。本発明のリスク検査法の検出対象となる遺伝子変異は、本発明者らの検討によって拘束性皮膚障害の発症との間に強い相関が認められた、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異である。尚、ZMPSTE24遺伝子はメタロプロテイナーゼをコードし、ラミンAのプロセシングに関与する。

【0011】
慣例に従い、本明細書では、cDNAの翻訳開始コドン基準の番号、即ち、翻訳開始コドンのAを1番目(1位の塩基)として番号付けした位置で各変異位置を特定する。尚、c.121C>T変異はナンセンス変異であり、41番グルタミン(Q)のコドンを終止コドンへと置換する。

【0012】
野生型(正常型)ZMPSTE24遺伝子のmRNAの配列を配列番号1(NCBI GenBank DEFINITION: Homo sapiens zinc metallopeptidase (STE24 homolog, S. cerevisiae) (ZMPSTE24), mRNA. ACCESSION: NM_005857. VERSION: NM_005857.3)に、同アミノ酸配列を配列番号2(NCBI GenPept DEFINITION CAAX prenyl protease 1 homolog [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_005848. VERSION: NP_005848.2.)にそれぞれ示す。尚、配列番号1の配列においてCDS(コード領域)は212番塩基~1639番塩基である。

【0013】
本発明では、核酸検体が特定の変異を有するか否か、即ち、特定の変異に関して野生型であるか変異型であるかを明らかにするために、変異が検出される。従って、変異の有無を調べるための検出ないし測定を「変異の検出」又は「変異を検出する」等と表現する。

【0014】
本発明のリスク検査法では、まず、被検者から採取された核酸検体を用意する。核酸検体は被検者の血液、唾液、リンパ液、尿、汗、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。検出対象の変異位置を含むものであれば任意の長さのゲノムDNAを核酸検体として用いることができる。尚、後述のように、本発明のリスク検査法の被検者として妊婦も想定されるが、妊婦を被検者とした場合には、母体の検体としては妊婦の血液や唾液、リンパ液、尿、汗、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等を、胎児由来の検体としては、絨毛膜、母体の血液、体液、羊水などから胎児成分を抽出したものや胎児の血液、体液等を、それぞれ用いことができる。

【0015】
被検者は特に限定されない。本発明のリスク検査法の被検者として、以下の3種類の被検者を想定できる。尚、家系に拘束性皮膚障害を発症した例(胎児を含む)がある者、過去の他の検査等によってZMPSTE24遺伝子に変異を有することが判明している者、胎児又は出産後に子が拘束性皮膚障害を発症するに至った経験を有する者等、遺伝的リスクが高い者は特に好適な被検者となる。

【0016】
<母親/母体(胎児由来成分を検体にする場合を含む)>
拘束性皮膚障害を発症する子の出産を未然に防止する目的の下、例えば、妊娠前の女性(将来、母親となる者)又は妊婦(出産を予定している者)を被検者にすることができる。前者の場合には、体外受精の際に本発明のリスク検査法を利用することもできる。即ち、着床前の受精卵を本発明のリスク検査に供し、検査結果を踏まえて受精卵を選別し、拘束性皮膚障害を発症するリスクの少ない受精卵(通常は、c.121C>T(p.Q41X)変異を有しない受精卵)を体外受精に用いるといった利用態様が想定される。妊婦を被検者にする場合、母体の検体又は胎児由来の検体が用いられる。

【0017】
<夫婦>
出産を予定又は希望している一組の男女を被検者とする。例えば、自身が高リスク者(即ち、c.121C>T(p.Q41X)変異に関してヘテロ接合体である者)で出産を希望する場合に相手(典型的には配偶者)が高リスク者でないことを確認し、拘束性皮膚障害を発症する子の出産を未然に防止する目的で本発明のリスク検査用を利用できる。

【0018】
<一般の者>
広く一般の者を被検者にすることができる。例えば、一般検診の中で本発明のリスク検査法を実施する(スクリーニング的なリスク検査)。

【0019】
本発明の適用範囲は日本人に限られない。即ち、日本人以外のモンゴロイドやその他の人種(コーカサイド等)に対しても本発明を適用可能である。但し、遺伝的に近い集団(例えば日本人集団に対して中国人集団や韓国人集団は近い)では遺伝子変異の種類・頻度が同様の傾向を示すことが多いという事実と後述の実験結果を考慮すると、本発明における被検者は好ましくはモンゴロイド(日本人、中国人、韓国人など)であり、更に好ましくは日本人である。

【0020】
変異の検出法(測定法)は特に限定されるものではなく例えばアレル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法による増幅、及び増幅産物の変異を蛍光又は発光によって検出する方法や、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アレル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、TaqMan(登録商標、Roche Molecular Systems社)-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))に代表されるリアルタイムPCR法、Invader(登録商標、Third Wave Technologies社)法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用した方法(Heller, Academic Press Inc, pp. 245-256(1985)、Cardullo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8790-8794(1988)、国際公開第99/28500号パンフレット、特開2004-121232号公報など)、ASP-PCR(Allele Specific Primer-PCR)法(国際公開第01/042498号公報など)、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法(Haff LA, Smirnov IP, Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))等、公知の方法を採用できる。さらに、検出対象の変異位置を直接シークエンスすることにしてもよい。尚、これらの方法を任意に組み合わせて変異を検出してもよい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの核酸増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの検出法を適用することもできる。

【0021】
多数の核酸検体を検出する場合にはアレル特異的PCR法、アレル特異的ハイブリダイゼーション法、TaqMan(登録商標)-PCR法、Invader法、FRETを利用した方法、ASP-PCR法、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cycle amplification)法、又はDNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法等、多数の検体を比較的短時間で検出可能な検出法を用いることが特に好ましい。

【0022】
以上の方法では、各方法に応じたプローブやプライマー等の核酸(本発明において「変異検出用核酸」ともいう)が使用される。プローブとして利用される変異検出用核酸の例としては、検出対象の変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。検出対象のc.121C>T(p.Q41X)変異の位置を含む染色体領域を標的としてプローブを設計すればよい。ここでの「部分染色体領域」の長さは、例えば16~500塩基長、好ましくは18~200塩基長、さらに好ましくは20~50塩基長である。また、当該核酸は好ましくは部分染色体領域に相補的な配列を有するが、特異的なハイブリダイゼーションに支障のない限り、多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個である。ここでの「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸プローブによる検出の際に通常採用されるハイブリダイゼーション条件(好ましくはストリンジェントな条件)の下、標的の核酸(部分染色体領域)に対してハイブリダイズする一方で、他の核酸との間にクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。尚、当業者であれば例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にしてハイブリダイゼーション条件を容易に設定可能である。

【0023】
プライマーとして利用される変異検出用核酸の例としては、検出対象の変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有し、当該変異部分を含むDNAフラグメントを特異的に増幅できるように設計された核酸を挙げることができる。プライマーとして利用される変異検出用核酸の他の例として、検出対象の変異位置がいずれかの塩基である場合にのみ当該変異位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計されたプライマーペアを挙げることができる。より具体的には、検出対象の変異位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計されたプライマーペアであって、変異位置がいずれかの塩基であるアンチセンス鎖の当該変異位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域(変異位置の近傍領域)に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなるプライマーペアを例示することができる。ここで、増幅されるDNAフラグメントの長さはその検出に適した範囲で適宜設定され例えば15~1000塩基長、好ましくは20~500塩基長、更に好ましくは30~200塩基長である。尚、プローブの場合と同様、プライマーとして利用される変異検出用核酸についても、増幅対象(鋳型)に特異的にハイブリダイズし、目的のDNAフラグメントを増幅することができる限り、鋳型となる配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個である。

【0024】
変異検出用核酸(プローブ、プライマー)には、検出法に応じて適宜DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA:Peptide nucleic acid:)等が用いられる。変異検出用核酸の塩基長はその機能が発揮される長さであればよく、プローブとして用いられる場合の塩基長の例としては16~500塩基長、好ましくは18~200塩基長、さらに好ましくは20~50塩基長である。他方、プライマーとして用いられる場合の塩基長の例としては10~50塩基長、好ましくは15~40塩基長、更に好ましくは15~30塩基長である。

【0025】
変異検出用核酸(プローブ、プライマー)はホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、変異検出用核酸の設計、合成等に関しては成書(例えばMolecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New YorkやCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))を参考にすることができる。

【0026】
本発明における変異検出用核酸を予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化核酸を用いることにより、例えば、増幅産物の標識量を指標として変異を検出することができる。また、変異型の遺伝子における部分DNA領域に特異的なプローブと、野生型の遺伝子における部分DNA領域に特異的なプローブを異なる標識物質で標識しておけば、増幅産物から検出される標識物質及び標識量によって、変異の有無を判別できる。

【0027】
変異検出用核酸の標識に用いられる標識物質としてはFAMTM(6-carboxyfluorescein)、VICTM、TETTM(tetrachlorofluorescein)、NEDTM、HEXTM、CAL Fluor Gold 540、CAL Fluor Orange 560(CFO)、CAL Fluor Red 590、CAL Fluor Red 610、CAL Fluor Red 635、Quasar 570、Quasar 670、Quasar 705、T(JOETM)、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin(APC)、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、テキサスレッド(Texas Red(登録商標))、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC-CyTM7、オレゴングリーン(Oregon Green)、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドットなどの蛍光色素、32P、131I、125Iなどの放射性同位元素、ビオチンを例示でき、標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。

【0028】
変異検出用核酸を不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。固定化に使用する不溶性支持体をチップ状、ビーズ状などに加工しておけば、これら固定化核酸を用いて変異の検出をより簡便に行うことができる。

【0029】
以上の通り、様々な検出手段を採用し得るが、特に、リアルタイムPCR法を用いることが好ましい。リアルタイムPCR法は迅速かつ高感度、更には定量性に優れるという利点を有する。リアルタイムPCRを利用した方法の具体例はTaqMan(登録商標、Roche Molecular Systems社)-PCR法である。この方法では、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理を利用した蛍光プローブを用いる。

【0030】
本発明では、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の検出結果を基に拘束性皮膚障害を発症するリスクを判定する。換言すれば、本発明は、検出結果、即ち変異情報から拘束性皮膚障害の遺伝的リスクを判定するステップを含む。ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や臨床検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。

【0031】
具体的な判定基準は、以下の(a)及び(b)である。好ましくは、(a)及び(b)の両方を用い、リスクを判定する。
(a)c.121C>T(p.Q41X)変異が検出されるとリスクが高い
(b)対立遺伝子の両方でc.121C>T(p.Q41X)変異が検出されるとリスクが特に高い

【0032】
本発明のリスク検査法は例えば、拘束性皮膚障害の早期診断や予防に役立つ。また、妊娠前又は出生前に本発明を利用すれば、拘束性皮膚障害を発症する子の出産を未然に防止することもできる。

【0033】
2.拘束性皮膚障害のリスク検査用プローブ
本発明の第2の局面は、本発明のリスク検査法に利用可能なプローブを提供する。具体的には、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異を検出するためのものであり、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とした核酸プローブが提供される。当該プローブは、採用する検出手段に応じてその配列などが設計される。

【0034】
一態様では、FRETの原理を利用した測定手段に適するようにプローブが設計される。具体的には以下の構成を備えることになる。(i)は変異型を特異的に検出するための構成であり、(ii)は野生型を特異的に検出するための構成である。(i)のプローブは変異型を直接検出することを可能にする。他方、(ii)のプローブによれば、野生型の検出又は非検出によって、変異型の非存在又は存在をそれぞれ示すことができ、即ち、間接的に変異型を検出することが可能になる。
(i) プローブの構成1
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が変異型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり(即ち、標的DNA領域に相補的である)、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している。
(ii) プローブの構成2
ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が野生型であるときに該DNA領域にハイブリダイズする配列からなり(即ち、標的DNA領域に相補的である)、5'末端にはレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している。

【0035】
(i)と(ii)の両者を併用すれば、c.121C>T(p.Q41X)変異に関して、変異型と野生型を同時に検出することができる。この場合には、変異型と野生型を区別できるように、蛍光を識別可能な2種類のレポーター蛍光色素を用意し、片方を(i)におけるレポーター蛍光色素とし、他方を(ii)におけるレポーター蛍光色素とする。

【0036】
典型的には、本発明のプローブは、FRETの原理を利用したリアルタイムPCR(例えばTaqMan(登録商標)-PCR法)に用いられる。そこで、好ましくは、当該方法に適合するように、プローブの配列が設計され、またレポーター蛍光色素及びクエンチャーが選択される。プライマーペアが増幅するDNA配列(PCR産物)のほぼ中央を標的とするようにプローブの配列を設計するとよい。また、プローブのTmが60~65℃になるようにするとよい。5'末端に結合させるレポーター蛍光色素としては、FAMTM(6-carboxyfluorescein)、VICTM、TETTM(tetrachlorofluorescein)、NEDTM、CAL Fluor Orange 560(CFO)、HEXTM、CAL Fluor Gold 540、CAL Fluor Orange 560、CAL Fluor Red 590、CAL Fluor Red 610、CAL Fluor Red 635、Quasar 570、Quasar 670、Quasar 705、T(JOETM)等を用いることができる。一方、3'末端に結合させるクエンチャーとしてはTAMRA(tetramethylrhodamine)、MGB(dihydrocyclopyrroloindole tripeptide minor groove binder)、BHQ(登録商標)-1(Black Hole Quencher 1)、BHQ(登録商標)-2(Black Hole Quencher 2)、BHQ(登録商標)-3(Black Hole Quencher 3)、Pulsar 650、Spacer C3等を用いることができる。以下、(i)及び(ii)のプローブを構成する配列の具体例を示す。尚、慣例に従い、5'末端側が左側に、3'末端側が右側になるように記載している。

【0037】
(i) 5'-AGGCTCACCTACCGCT-3'(配列番号3)
(ii) 5'-TAGGCTCACCTGCCGCT-3'(配列番号4)

【0038】
以上の配列は一例であって、特異的なハイブリダイゼーションを支障なく行える限度において一部の塩基配列に改変が施されたものであってもよい。ここでの「一部の改変」とは、塩基の一部が欠失、置換、挿入及び/又は付加されていることを意味する。改変にかかる塩基数は例えば1~3個、好ましくは1~2個、更に好ましくは、1個である。

【0039】
3.拘束性皮膚障害のリスク検査用キット
本発明は更に、本発明のリスク検出法に利用可能なキットを提供する。本発明の変異検出用キットは、「ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異検出用の核酸セット」を含む。

【0040】
上記核酸セットは大別して、プローブとプライマーペアから構成される。プローブとしては、変異型に特異的な第1蛍光プローブ又は野生型に特異的な第2蛍光プローブ、或いはこれらの両方が用いられる。ここでの第1蛍光プローブは、検出対象の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が変異型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には第1のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している。一方、第2プローブは検出対象の変異位置を含むDNA配列を標的とし、変異位置が野生型であるときに該DNA配列にハイブリダイズする配列からなり、5'末端には前記第1のレポーター蛍光色素とは異なる第2のレポーター蛍光色素が結合しており、3'末端には、蛍光共鳴エネルギー移動の原理によって該レポーター蛍光色素の消光を誘導するクエンチャーが結合している。

【0041】
第1のレポーター蛍光色素と第2のレポーター蛍光色素の組合せとしては、FAMTMとCFO、(いずれを第1のレポーター蛍光色素にしてもよい。以下の組合せにおいても同様である)、FAMTMとVICTM、FAMTMとHEXTM、FAMTMとTETTM、HEXTMとJoeTM、HEXTMとTETTM等を挙げることができる。

【0042】
典型的には、本発明のリスク検査用キットは、FRETの原理を利用したリアルタイムPCR(例えばTaqMan(登録商標)-PCR法)に用いられる。そこで、好ましくは、当該方法に適合するようにプローブ及びプライマーペアが構成される。プローブの設計については、上記「変異検出用プローブ」の欄における記述を援用し、重複する説明を省略する。プライマーペアは、変異位置を含む100bp~200bpの領域を増幅し、Tmが68~70℃になるように設計することが好ましい。

【0043】
上記の核酸セットを構成するプローブ及びプライマーペアの配列の具体例を示す。尚、慣例に従い、5'末端側が左側に、3'末端側が右側になるように記載している。
<核酸セット>
第1蛍光プローブ:5'-FAM-AGGCTCACCTACCGCT-MGB-3'(配列番号3)
第2蛍光プローブ:5'-VIC-TAGGCTCACCTGCCGCT-MGB-3'(配列番号4)
フォワードプライマー:5'-TCTTTGGGAGACCTTCCTAGCA-3'(配列番号5)
リバースプライマー:5'-GGCTGGCCGGGTATGG-3'(配列番号6)

【0044】
以上のプローブ及びプライマーの配列は一例であって、プローブについては特異的なハイブリダイゼーションを支障なく行える限度において、プライマーであれば目的の増幅反応を支障なく行える限度において、一部の塩基配列に改変が施されたものであってもよい。ここでの「一部の改変」とは、塩基の一部が欠失、置換、挿入及び/又は付加されていることを意味する。改変にかかる塩基数は例えば1~3個、好ましくは1~2個、更に好ましくは、1個である。

【0045】
本発明のリスク検査用キットには核酸セットが含まれるが、変異の検出に必要な他の試薬(DNAポリメラーゼ、反応液など)や容器、器具等を含めてもよい。尚、通常、本発明のリスク検査用キットには取り扱い説明書が添付される。

【0046】
4.拘束性皮膚障害の治療薬のスクリーニング法
本発明の更なる局面は、拘束性皮膚障害の予防又は治療に有効な薬剤、即ち治療薬のスクリーニング法に関する。「治療薬」とは、標的の疾病ないし病態(即ち、拘束性皮膚障害)に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、標的疾患/病態に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患/病態に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。標的疾患/病態に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、標的疾患/病態に対する治療薬に該当する。

【0047】
本発明のスクリーニング法は、ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異に対するリードスルー活性を示し、拘束性皮膚障害の治療/予防に有効な物質の効率的な探索ないし選抜に有効である。リードスルー活性とは、ナンセンス変異によって生じた異常な終止コドンを読み飛ばす(リードスルー)ことを促す作用である。リードスルーが生じると、異常な終止コドンを越えて翻訳が進行し、正常なタンパク質(野生型全長タンパク質)が合成される。

【0048】
本発明は大別して2種類のスクリーニング法を提供する。第1のスクリーニング法はレポータージーンアッセイを利用するものであり、以下のステップ(i)及び(ii)を行う。
(i)プロモーターと、該プロモーターの制御下にある、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子又はその断片(但し、前記変異位置を含む)と、該ZMPSTE24遺伝子又はその断片にインフレームで連結されたレポーター遺伝子と、を含むレポーター遺伝子コンストラクトが導入された哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ、
(ii)前記レポーター遺伝子の発現を検出するステップであって、発現が検出されること又は被験物質の非存在下で前記哺乳動物細胞を培養した場合と比較して発現量が多いことが有効性の指標となるステップ。

【0049】
ステップ(i)では、まず、レポーター遺伝子コンストラクトが導入された哺乳動物細胞(「スクリーニング用細胞」とも呼ぶ)を用意する。レポーター遺伝子コンストラクトは、プロモーター、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子又はその断片(但し、c.121C>T(p.Q41X)変異の変異位置を含む)、及びレポーター遺伝子を含む。説明の便宜上、以下、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子とその断片をまとめて、「変異ZMPSTE24遺伝子」と呼ぶ。

【0050】
プロモーターは哺乳動物細胞で機能するものが用いられる。例えば、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、CAG、SV40ori、レトロウイルスLTR、SRα、EF1α、βアクチンプロモーター等を使用可能である。変異ZMPSTE24遺伝子はプロモーターの制御下に配置される。「制御下」とは「支配下」と同義であり、プロモーターと変異ZMPSTE24遺伝子が機能的に(即ち変異ZMPSTE24遺伝子が作動可能に)連結していることを意味する。プロモーターの制御下に変異ZMPSTE24遺伝子が配置されることによって、変異ZMPSTE24遺伝子の転写がプロモーターの制御(調節)を受ける。典型的にはプロモーターに変異ZMPSTE24遺伝子が直接連結されるが、変異ZMPSTE24遺伝子がプロモーターに転写制御される限りにおいて、プロモーターと変異ZMPSTE24遺伝子の間に他の配列が介在していてもよい。

【0051】
レポーター遺伝子は変異ZMPSTE24遺伝子にインフレームで(即ち、正しい読み枠となるように)連結される。レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59~72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子等を用いることができる。レポーター遺伝子の下流には通常、ポリA付加シグナル配列が配置される。

【0052】
レポーター遺伝子コンストラクトが導入される哺乳動物細胞としては、線維芽細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、骨髄細胞、血液細胞(白血球)、これらの前駆細胞又は幹細胞、株化細胞(例えば、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞)を用いることができる。好ましくはヒト細胞が用いられるが、他の動物種(サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)の細胞を用いることを妨げるものではない。

【0053】
レポーター遺伝子コンストラクトの導入は常法で行うことができ、例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等のウイルスベクターを用いる方法、又はリン酸カルシウムを利用したトランスフェクション、エレクトロポレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))、マイクロインジェクション(Graessmann,M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))等の方法により行うことができる。

【0054】
好ましくは、スクリーニング用細胞として、レポーター遺伝子コンストラクトが安定的に発現する哺乳動物細胞、即ち、ゲノム内にレポーター遺伝子コンストラクトが組み込まれている哺乳動物細胞(安定発現細胞)を用意し、本発明のスクリーニング法に用いる。このような安定発現細胞は、上記の如き各種ウイルスベクターを使用することによって作製することができる他、部位特異的組換え酵素(Creリコンビナーゼ、Flpリコンビナーゼ等)を利用した組換えシステム(例えば、Thermo Fisher Scientific社が提供するinvitrogenTM Flp-InTM system)によって作製することができる。

【0055】
ステップ(i)では、レポーター遺伝子コンストラクトが導入された哺乳動物細胞(スクリーニング用細胞)を被験物質の存在下で培養する。被験物質の添加のタイミングは特に限定されない。従って、被験物質を含まない培養液でスクリーニング用細胞の培養を開始した後、ある時点で被験物質を添加することにしても、予め被験物質を含む培養液でスクリーニング用細胞の培養を開始することにしてもよい。培養条件は使用する細胞に標準的なものを採用すればよい。培養時間は、例えば1時間~1週間、好ましくは2時間~5日間、更に好ましくは5時間~2日間である。尚、最適な培養時間は予備実験によって決定することができる。

【0056】
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬や栄養食品等の既存成分或いは候補成分も好ましい被験物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被験物質として用いてもよい。既存の薬剤(例えば、米国食品医薬品局(FDA)承認薬のライブラリ)を被験物質として用いることもできる。また、様々な化合物ライブラリー(例えばLigand Box)が提供されており(例えばAsinex社やナミキ商事株式会社から入手することができる)、当該化合物ライブラリを用いることにしてもよい。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。

【0057】
リードスルー効果を有することが報告されている化合物(例えばゲンタマイシン)は有望な被験物質となる。従って、当該化合物を被験物質とすることは好ましい一態様である。

【0058】
ステップ(i)に続くステップ(ii)ではレポーター遺伝子の発現を検出する。使用するレポーター遺伝子に応じて適切な検出手段を採用すればよい。検出結果に基づき被験物質の有効性を判定する。具体的には、例えば、発現が検出されることを有効性の指標として被験物質の有効性を判定する。好ましくは、コントロールとの比較で被験物質の有効性を判定する。即ち、被験物質の非存在下でスクリーニング用細胞を培養した場合と比較して発現量が多いことを有効性の指標として用いる。但し、コントロールの使用は必須ではない。例えば、被験物質の非存在下で培養した場合にレポーター遺伝子が発現しないことが確認できている場合等は、レポーター遺伝子の発現の有無を指標として被験物質の有効性を判定可能である。尚、レポーター遺伝子の発現量は被験物質の作用ないし効果の高さを反映することから、レポーター遺伝子の発現量に基づき被験物質の有効性の程度を判定することもできる。

【0059】
本発明の第2のスクリーニング法は、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子を保有した哺乳動物細胞を用い、全長ZMPSTE24タンパク質の生成を指標として被験物質の有効性を判定する。具体的には、以下のステップ(I)及び(II)を行う。
(I)c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子を保有した哺乳動物細胞を被験物質の存在下で培養するステップ
(II)培養後の前記哺乳動物細胞内における全長ZMPSTE24タンパク質を検出するステップであって、全長ZMPSTE24タンパク質が検出されることが有効性の指標となるステップ

【0060】
ステップ(I)では、まず、c.121C>T(p.Q41X)変異を有するZMPSTE24遺伝子を保有した哺乳動物細胞(スクリーニング用細胞)を用意する。好ましい一態様では、スクリーニング用細胞として、拘束性皮膚障害の患者由来の線維芽細胞(好ましくは、患者から単離された線維芽細胞を株化(不死化)したもの)を用いる。一方、例えば、ジーンターゲティング法やゲノム編集技術(ZFN、TALEN、CRISPER/Cas9法など)を利用した遺伝子改変によってスクリーニング用細胞を調製することもできる。遺伝子改変に供する哺乳動物細胞としては、線維芽細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、骨髄細胞、血液細胞(白血球)、これらの前駆細胞又は幹細胞、株化細胞(例えば、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞)を用いることができる。好ましくはヒト細胞が用いられるが、他の動物種(サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)の細胞を用いることを妨げるものではない。

【0061】
スクリーニング用細胞は被験物質の存在下で培養される。被験物質の添加態様や被験物質の種類などは上記第1のスクリーニング法と同様であるため、その説明を省略する。

【0062】
ステップ(I)に続くステップ(II)では全長ZMPSTE24タンパク質を検出する。全長ZMPSTE24タンパク質の検出には、ウエスタンブロットやELISA法等、免疫学的手法を利用することができる。ZMPSTE24タンパク質は分泌タンパク質ではないため、通常は細胞溶解液(ライセート)を調製し、全長ZMPSTE24タンパク質の検出を行う。

【0063】
本発明では、全長ZMPSTE24タンパク質が検出されることを有効性の指標として被験物質の有効性を判定する。実験結果の信頼性向上等の目的のため、好ましくは、被験物質の非存在下でスクリーニング用細胞を培養した場合(コントロール)との比較の上で被験物質の有効性を判定する。尚、全長ZMPSTE24タンパク質の発現量は被験物質の作用ないし効果の高さを反映することから、全長ZMPSTE24タンパク質の発現量に基づき被験物質の有効性の程度を判定することもできる。
【実施例】
【0064】
<拘束性皮膚障害の発症に関わる新規変異の同定>
1.方法
1-1.ZMPSTE24遺伝子(ZMPSTE24)の新規変異の検出
ZMPSTE24遺伝子(ZMPSTE24)の変異をスクリーニングするため、対象者の血液、唾液、組織などからゲノムDNAを抽出した。ZMPSTE24のエクソン領域及びエクソン-イントロン接続領域を以下の方法でダイレクトシークエンスし、新規変異を検出した。5μL 10xPlatinum Taq buffer、1.5 mM MgCl2、各0.2mM dNTP、図1に記載した各500 nM フォワードプライマー及びリバースプライマー(No.1~20。exon 1~exon 10のそれぞれについてフォワードプライマー及びリバースプライマーの配列を示す)、2 Unit InvitrogenTM PlatinumTM Taq DNA Polymerase (Thermo Fisher Scientific)、37.5 ng ゲノムDNAに2回蒸留水(ddw)を加えて、合計50μLとした。PCRは、94℃で5分の反応の後、94℃で15秒、65℃で30秒、72℃で1分のサイクルを30回行い、最後に72℃で10分の反応を行った。PCR産物をQIAquick PCR Purification Kit (Qiagen)にて精製し、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzerにてダイレクトシークエンスした。
【実施例】
【0065】
1-2.ZMPSTE24遺伝子(ZMPSTE24)の変異の簡便スクリーニング法
ZMPSTE24遺伝子(ZMPSTE24)の変異をスクリーニングするため、対象者の血液、唾液、組織などからゲノムDNAを抽出した。図1に記載したTaqMan(登録商標)プローブ(No.23、24)及びプライマー(No.21、22)を用いたReal-time PCR法によるジェノタイピングアッセイを行った。野生型検出用(ZMPSTE24_c121C.VIC:配列番号4)と変異型検出用(ZMPSTE24_c121T.FAM:配列番号3)の2種類のプローブを用意した。野生型検出用プローブの5'末端にはリポーター蛍光色素としてのVICTMを結合している。一方、変異型検出用プローブの5'末端にはリポーター蛍光色素としてのFAMTMが結合している。このように蛍光特性の異なる2種類の蛍光色素を用いることにより、野生型と変異型の同時検出を可能にした。尚、各プローブの3'末端には非蛍光クエンチャーであるMGBを結合させた。
【実施例】
【0066】
野生型検出用プローブと変異型検出用プローブを併用し、FAMTMからの蛍光強度とVICTM からの蛍光強度を測定すれば、検体が、(i)野生型アレルのホモ接合、(ii)野生型アレルと変異型アレルのヘテロ接合及び(iii)変異型アレルのホモ接合、の中のいずれに該当するかがわかる。
【実施例】
【0067】
Real-time PCRはLightCycler 480 system II 384 plate (Roche Diagnostics)を用いて行う。2x LightCycler 480 Probes Master (Roche Diagnostics), 各200 nMの野生型プローブ(ZMPSTE24_c121C.VIC:配列番号4)及び変異型のプローブ(ZMPSTE24_c121T.FAM:配列番号3)と各500 nMのフォワードプライマー(ZMPSTE24_c121C-T.F:配列番号5)及びリバースプライマー(ZMPSTE24_c121C-T.R:配列番号6)、そして5 ng ゲノムDNAを加えて、合計5μLとした。PCRは、95℃で10分の反応の後、95℃で10秒、60℃で1分、72℃で1秒のサイクルを40回行い、最後に40℃で30秒の反応を行った。エンドポイント(Endpoint)蛍光を検出した。得られたデータはLightCycler 480 softwareを用いてジェノタイピング解析した。
【実施例】
【0068】
2.結果
拘束性皮膚障害の日本人4症例のすべてからZMPSTE24の変異としてホモ接合性p.Gln41Xを同定した。その両親のすべてからヘテロ接合性p.Gln41Xを同定した(図2)。我々が調べ得た限りの拘束性皮膚障害の日本人患者における病的変異はこの変異のみである。この変異は正常人100人において認められていない。このことから、日本人拘束性皮膚障害患者においては創始者効果が認められることが明らかになった。より簡便に拘束性皮膚障害の変異を持つ保因者及び患者をスクリーニングすることができるようになり、臨床的な意義も高まった。
【実施例】
【0069】
簡便スクリーニング法により、従来のダイレクトシークエンス法などに比べて日本人拘束性皮膚障害患者及び保因者を迅速、安価にスクリーニングできた(図3)。4人の患者及び8人の保因者のZMPSTE24上のp.Gln41Xの変異を検出した際には全てダイレクトシークエンスと一致した結果であった。
【実施例】
【0070】
<拘束性皮膚障害に対する新規治療法の開発>
以上の検討によって、拘束性皮膚障害の日本人4症例のすべてからZMPSTE24の変異としてホモ接合性p.Gln41Xを同定した。その両親のすべてからヘテロ接合性p.Gln41Xを同定した。我々が調べ得た限りの拘束性皮膚障害の日本人患者における病的変異はこの変異のみである。つまり、日本人における拘束性皮膚障害はホモ接合性ナンセンス変異により発症するといえる。このナンセンス変異型遺伝性疾患(ナンセンス変異疾患)は、点突然変異により構造遺伝子上に未熟終止コドン(premature termination codon:PTC)が形成され、機能を有するタンパク質の発現が妨げられることに起因する。ナンセンス変異疾患に対する治療薬として、翻訳過程においてPTCを読み飛ばし(リードスルー)、完全長のタンパク質を発現させる作用を持つ低分子化合物(リードスルー化合物)が注目されている。拘束性皮膚障害に対してもリードスルー化合物による治療(リードスルー治療)が奏効すると期待される。そこで、拘束性皮膚障害の治療薬又はそのリード化合物を効率的に探索することを可能にする、以下のアッセイ系(スクリーニング法)を構築した。
【実施例】
【0071】
(1)リードスルー活性を測定可能なレポータージーンアッセイの確立
pGL4.20ベクター(Promega)のルシフェラーゼ遺伝子(luc2)の前にZMPSTE24のコード領域の前半180bpを挿入し、luc2との融合遺伝子(ZMPSTE24-luc2)を作成した。部位特異的突然変異(site directed mutagenesis)により、人工的に早期終止コドン(TGA)を作成する(Gln41X)(図4)。制限酵素を用い、変異を導入した融合遺伝子ZMPSTE24-luc2をpcDNA5/FRTベクター(Thermo Fisher Scientific)内のCMVプロモーターの下流にクローニングした。変異ZMPSTE24-luc2遺伝子を挿入した同ベクターとpOG44(Thermo Fisher Scientific)を293FlpIn細胞(Thermo Fisher Scientific)にコトランスフェクトし、ハイグロマイシンで選択後に得られたコロニーから、安定発現株(stable cell line)を作成した。それぞれのコロニーから得られたクローンについて、ルシフェラーゼアッセイによる特徴付け(characterization)を行った。
【実施例】
【0072】
(2)ZMPSTE24をターゲットにした拘束性皮膚障害の新規治療法の開発(リードスルー治療)
(1)で作成した変異ZMPSTE24-luc2遺伝子を持つ安定発現株にFDA承認薬剤ライブラリ(1280種類の化合物)を24時間曝露し、発光量を計測した。なお、アミノグリコシド系抗生物質の一つであるG418(重大な副作用を持ち、人体には投与不可能な物質)の曝露(治療)によりこの細胞株は強い発光を示したため、G418を陽性コントロールとして用いることができる。陰性コントロールには例えばDMSO(1%)を用いる。
【実施例】
【0073】
一般に、終止コドンの種類によってリードスルーの効率は異なる。発症を規定する変異が一つであり、しかも当該変異により形成される終止コドン(PTC)は最も効率が良いとされるUGAであることは、治療法を開発する上で極めて重要かつ有利な点であり、この変異に特化して治療薬を探索することで、有望なリードスルー治療法の開発を効率的に進めることができる。
【実施例】
【0074】
上記の如きスクリーニング系(レポータージーンアッセイ)によって、効率よくリードスルーができる化合物が見つかった際には、患者の線維芽細胞を入手し、それを不死化して、その化合物によるリードスルー効果を検証する。このようにして、治療薬として有望な化合物を更に絞り込むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のリスク検査法によれば、遺伝子変異(ZMPSTE24遺伝子のc.121C>T(p.Q41X)変異)という客観的根拠に基づき、拘束性皮膚障害を発症するリスクを判定できる。妊娠前の女性(将来、母親となる者)又は妊婦、或いは出産を予定又は希望している一組の男女を被検者として本発明を実施することにより、拘束性皮膚障害を発症する子の出産を未然に防止することが可能となる。一方、本発明のスクリーニング法は拘束性皮膚障害の治療薬の開発に活用されることが期待される。
【0076】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0077】
配列番号3:人工配列の説明:プローブZMPSTE24_c121T.FAM
配列番号4:人工配列の説明:プローブZMPSTE24_c121C.VIC
配列番号5:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_c121C-T.F
配列番号6:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_c121C-T.R
配列番号7:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon1.F
配列番号8:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon1.R
配列番号9:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon2.F
配列番号10:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon2.R
配列番号11:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon3.F
配列番号12:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon3.R
配列番号13:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon4.F
配列番号14:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon4.R
配列番号15:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon5.F
配列番号16:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon5.R
配列番号17:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon6.F
配列番号18:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon6.R
配列番号19:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon7.F
配列番号20:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon7.R
配列番号21:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon8.F
配列番号22:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon8.R
配列番号23:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon9.F
配列番号24:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon9.R
配列番号25:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon10.F
配列番号26:人工配列の説明:プライマーZMPSTE24_exon10.R
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3