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明細書 :視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-219681 (P2017-219681A)
公開日 平成29年12月14日(2017.12.14)
発明の名称または考案の名称 視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法
国際特許分類 G09F   9/00        (2006.01)
G01N  21/57        (2006.01)
G09F   9/30        (2006.01)
G09F   9/37        (2006.01)
FI G09F 9/00 357
G01N 21/57
G09F 9/30 390
G09F 9/37
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-113598 (P2016-113598)
出願日 平成28年6月7日(2016.6.7)
発明者または考案者 【氏名】岩瀬 英治
【氏名】岡田 陽平
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100188994、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 裕介
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
5C094
5G435
Fターム 2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059HH02
2G059KK04
5C094AA01
5C094AA44
5C094BA63
5C094BA77
5C094ED11
5G435AA06
5G435AA17
5G435BB16
5G435DD11
5G435FF03
5G435HH08
要約 【課題】視覚的質感を1つのパラメータで定量化し、入射光の照射方向、波長領域および強度の角度分布等の情報を必要とせず、簡便かつ低コストな構成で、任意の照明環境で任意の視覚的質感を提示することができる視覚的質感提示デバイス1および視覚的質感提示方法を提供する。
【解決手段】視覚的質感提示デバイス1において、正反射光4の強度を代表する値と、正反射光4の強度以外の散乱光5の強度を代表させる値とを用いて視覚的質感を定量化したパラメータを散乱度Sとするとき、散乱度Sが異なる少なくとも2つの表面を含む複数のセルと、当該複数のセルを用いて表面の時間的および/または空間的な提示割合を提供する提示手段とを備え、提示割合に依存したセルの散乱度Sに対応する質感をもたらすようにした構成とする。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
正反射光強度を代表する値と、前記正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値とを用いて視覚的質感を定量化したパラメータを散乱度とするとき、
前記散乱度が異なる少なくとも2つの表面を含む複数のセルと、
前記複数のセルを用いて前記表面の時間的および/または空間的な提示割合を提供する提示手段とを備え、
前記提示割合に依存した前記セルの散乱度に対応する質感をもたらすよう構成されることを特徴とする視覚的質感提示デバイス。
【請求項2】
前記セルをヒトの眼による空間分解能の識別能力以下の細かさで並べる請求項1記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項3】
前記時間的な提示割合をヒトの眼による時間分解能の識別能力以下の速さで提供する請求項1記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項4】
前記提示割合が、前記散乱度が異なる前記表面の面積割合である請求項1~3のいずれか1項記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項5】
前記提示割合が可変である請求項1~4のいずれか1項記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項6】
前記セルが、第1の散乱度を有する第1の表面と、前記第1の散乱度と異なる第2の散乱度を有する第2の表面とを含む請求項1~5のいずれか1項記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項7】
前記第1の表面を有する第1の物体がガラスと実質的に同じ屈折率を有する液体であり、前記第2の表面を有する第2の物体が表面を粗くしたガラス板であり、前記第1の物体が前記第2の物体の上に重ね合わされる請求項6記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項8】
前記第1の表面および前記第2の表面を連続するようにして設けた物体が柔軟材料で構成され、前記物体を回転移動させるように構成された請求項6記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項9】
前記第2の表面を有する第2の物体の上方に、前記第1の表面を有する第1の物体を設け、前記第1の物体が左右方向に伸縮または移動して、前記第2の表面を覆う領域を変化させるように構成された請求項6記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項10】
前記第2の表面を有する第2の物体の上方に、前記第1の表面を有する第1の物体を設け、前記第1の物体が任意の箇所で分割されており、分割されたそれぞれの前記第1の物体が、回動可能に固定された両端を軸にして、上方に開閉できるように構成された請求項6記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項11】
一面が前記第1の表面で、他面が前記第2の表面で構成される物体を、前記物体に設けた回転軸を中心に回転自在に構成した請求項6記載の視覚的質感提示デバイス。
【請求項12】
正反射光強度を代表する値と、前記正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値とを用いて、視覚的質感を散乱度たる1つのパラメータで定量化し、
異なる前記散乱度を有する複数の表面の組み合わせにおけるそれぞれの時間的および/または空間的な提示割合によって、前記複数の表面の質感の中間を含む質感を提示することを特徴とする視覚的質感提示方法。
【請求項13】
前記時間的および/または空間的な提示割合が可変である請求項12記載の視覚的質感提示方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法に関し、特に、視覚的質感が異なる複数の表面を用いて、これら表面の質感の中間を含む質感を提示する視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、視覚的な質感および材質感は、光源に対する反射光の角度強度分布によって提示できることが知られている。これを利用した応用例として、光の照射方向に応じた発光強度の角度分布を制御することにより、視覚的質感を提示する方法を用いた画像表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
コンピュータグラフィクス(CG)では、コンピュータ内で設定した照明条件から、表示する被対象物に対し、その表面の散乱光の強度を計算し、視覚的質感を提示する方法が一般的に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】向川康博,宮木一,三橋貞彦,尺長健,“Photometric Image-Based Renderingによる仮想照明画像の生成,”情報処理学会論文誌コンピュータビジョンとイメージメディア,vol. 41, no. SIG 10(CVIM1), pp. 19-30, 2000.
【0005】

【特許文献1】特開2008-116878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の画像表示方法では、入射光の照射方向、波長領域および強度の角度分布を知らないといけないため、受光素子が必要である他、発光部を制御するための制御装置も必要となる。
【0007】
非特許文献1では、仮想の光源に対して散乱特性を計算しているだけであり、例えば、自動車のボディーなど実際の物体表面に任意の視覚的質感を提示できるものではない。任意の照明環境で、実際の物体表面に光沢やつやなしといった様々な視覚的質感を提示する方法はこれまでにない。物体表面の光学特性を変化させる方法として、3次元ディスプレイを利用することもできるが、より簡便かつ低コストで実現可能な方法が期待される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、視覚的質感を1つのパラメータで定量化し、入射光の照射方向、波長領域および強度の角度分布等の情報を必要とせず、簡便かつ低コストな構成で、任意の照明環境で任意の視覚的質感を提示することができる視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の一つの特徴に従った視覚的質感提示デバイスは、
正反射光強度を代表する値と、前記正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値とを用いて視覚的質感を定量化したパラメータを散乱度とするとき、前記散乱度が異なる少なくとも2つの表面を含む複数のセルと、前記複数のセルを用いて前記表面の時間的および/または空間的な提示割合を提供する提示手段とを備え、前記提示割合に依存した前記セルの散乱度に対応する質感をもたらすように構成される。
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の一つの特徴に従った視覚的質感提示方法は、正反射光強度を代表する値と、前記正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値とを用いて、視覚的質感を散乱度たる1つのパラメータで定量化し、異なる前記散乱度を有する複数の表面の組み合わせにおけるそれぞれの時間的および/または空間的な提示割合によって、前記複数の表面の質感の中間を含む質感を提示する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法によれば、物体の色だけでなく、色の見え方、光沢感および材質感等の視覚的質感を、照明や環境光の情報がなくても提示することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理の説明のための図であり、図1Aは単体で散乱度sが0%の表面を説明する図、図1Bは単体で散乱度sが100%の表面を説明する図、図1Cは単体で散乱度sが50%の表面を説明する図、図1Dは散乱度sが0%の表面と散乱度sが100%の表面を微細に並べることによって散乱度s=50%を提示する様子を示す図である。
【図2】本発明の散乱度Sの定義に関し、鏡(図中、Mirror)、つやつやなアクリル板(図中、Acrylic)およびざらざらな画用紙(図中、Drawing paper)に、-45°から入射光を照射したときの散乱光の角度強度分布を示す図である。
【図3】本発明の説明に供する、画用紙の一部をくり抜き、アクリル板に重ね合わせたサンプルを示す図である。
【図4】同上、正方形の穴の間隔を1mmとした画用紙の写真図である。
【図5】同上、アクリル板と画用紙との面積比を4:5としたアクリル44%板の写真図である。
【図6】同上、正方形の穴の間隔を2mmとした画用紙の写真図である。
【図7】同上、アクリル板と画用紙との面積比を1:3としたアクリル25%板の写真図である。
【図8】同上、アクリル44%板およびアクリル25%板の散乱光の角度強度分布を示す図である。
【図9】同上、アクリル板の面積割合と散乱度sの関係を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る視覚的質感提示デバイスを示す図であり、図10Aは提示される散乱度sが80%となる状態の透過型の可変質感提示デバイスを示す図、図10Bは提示される散乱度sが40%となる状態の透過型の可変質感提示デバイスを示す図である。
【図11】同上、透過型の可変質感提示デバイスを用いた、色だけではなく視覚的質感(材質感)も提示可能なディスプレイの構成の一例を示す図である。
【図12】同上、反射型の可変質感提示デバイスを示す図であり、図12Aは散乱度sが100%の場合、図12Bは散乱度sが約40%の場合の図である。
【図13】同上、反射型の可変質感提示デバイスを示す図であり、図13Aは散乱度sが約20%の場合、図13Bは散乱度sが約40%の場合の図である。
【図14】同上、反射型の可変質感提示デバイスを示す図であり、図14Aは散乱度sが0%の場合、図14Bは散乱度sが100%の場合の図である。
【図15】同上、反射型の可変質感提示デバイスを示す図であり、図15Aは散乱度sが0%の場合、図15Bは散乱度sが100%の場合の図である。
【図16】同上、ヒトの眼の空間分解能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
始めに、質感を与える反射光について説明する。

【0014】
物体が光源2からの光3を反射するときに生じる反射光として、典型的には2種類考えることができる。図1Aに示すような正反射光4と、図1Bに示すような等方向散乱光5である。図1Aに示すつやつやな表面6は正反射光4がほとんどであるのに対して、図1Bに示すざらざらな表面7は散乱光5がほとんどである。通常の物体の場合には、図1Cに示すように、表面8の表面粗さに応じて、正反射光4と散乱光5とが所定の強度割合で混合された形の反射光となる。なお、本実施の形態でいう「つやつや」および「ざらざら」といった質感は、視覚的に認識される質感を示すものとする。また、図面において「ざらざら」した質感を有する表面を凹凸として記載しているが、凹凸がある表面は視覚的に「ざらざら」した質感が提示されることを表すものとする。

【0015】
次に、正反射光4の正反射光強度および散乱光5の散乱光強度を用いた散乱度Sの定義について説明する。散乱度Sは、正反射光強度を代表する値と、正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値を用いて、視覚的質感を1つのパラメータで定量化するものである。

【0016】
本実施の形態に係る散乱度Sの具体的な定義の一例を示す。図2は、鏡(図中、Mirror)、つやつやなアクリル板(図中、Acrylic)およびざらざらな画用紙(図中、Drawing paper)に、-45°から入射光を照射したときの散乱光の角度強度分布である。測定装置(図示せず)は、光源に接続された光ファイバの先端とサンプルとの距離を200mm、入射角を45°に固定した配置にし、分光器に接続された光ファイバの先端とサンプルの距離を70mmとした状態で、受光角0°から90°まで回転させて5°毎に測定した。また、受光角40°から50°においては1°毎に測定した。光源に接続された光ファイバおよび分光器に接続された光ファイバを270mm離して対向させた光強度を分母とし、サンプルに光を照射した際の反射光の光強度を3回測定した平均値を分子として、散乱光の角度強度分布を測定した。

【0017】
鏡の場合、45°の正反射が尖鋭に出て、かつそれ以外の角度すなわち散乱光がほとんど見られないのに対し、アクリル板では尖鋭に出た角度の幅が広くなり、かつ散乱光が存在している。画用紙の場合は、正反射は全く見られず、散乱光のみが見られる。鏡、アクリル板および画用紙のいずれも、受光角0°から40°でほぼ一定であった。そこで、鏡において正反射光強度がピークとなる受光角45°における光強度r45を、正反射光強度を代表する値とし、受光角15°における光強度r15を、散乱光強度を代表する値とし、これらの値の比を散乱度s[%]と定義する。

【0018】
【数1】
JP2017219681A_000003t.gif

【0019】
この指標を用いると、つやつやな表面6を持つ物体は散乱度sが小さくなり、ざらざらな表面7を持つ物体は散乱度sが大きくなる。実際の測定により算出した結果、鏡の散乱度sは10.29×10-4%と非常に小さく、アクリル板の散乱度sは10.25%、画用紙の散乱度sは90.61%となった。この値の大きさの順序は、視覚的につやつやしていると感じる順序に各サンプルを並べるヒトによる官能評価の結果と一致しており、散乱度sを視覚的質感の定量化のパラメータとして用いることができることを確認した。

【0020】
なお、本実施の形態では、-45°から入射光を照射したときの受光角45°における光強度r45に対する受光角15°の光強度r15の比を散乱度s[%]と定義するが、入射角は-45°とする場合に限られず、適宜変更可能である。また、どの受光角の光強度を用いて比を算出するかも任意に設定可能である。さらに、どちらの受光角の光強度を分母としてもよい。ただし、つやつやした表面を有する物体において、散乱光強度を代表する値を分母とする場合には、採用する受光角の散乱光強度が限りなくゼロに近くなることが考えられるので、その場合には規格化する等の処理が必要である。要するに、正反射光強度を代表する値と、正反射光強度以外の散乱光強度を代表させる値を用いて、視覚的質感を散乱度Sたる1つのパラメータで定量化すればよい。したがって、正反射光強度と散乱光強度との強度比以外にも、それぞれの強度の値の2乗比など、他の算出方法によるパラメータを散乱度Sとして定義してもよい。

【0021】
次に、本実施の形態にかかる、視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法について説明する。視覚的質感は反射光における正反射光と散乱光の強度割合によって変化すると考えられることに基づけば、図1Cのような均一な表面8の場合、表面粗さなど表面形状で定量化することも考えられる。しかしながら、本実施の形態では、図1Dに示すように、表面9としてつやつやな表面6とざらざらな表面7とを交互に並べて配置する空間的提示割合の提示手段により、いわば混色に相当する知覚現象を引き起し、表面8に相当する効果を生じさせる。図1A~図1Dの例で説明すると、図1Aが単体で散乱度sが0%の表面6、図1Bが単体で散乱度sが100%の表面7とし、図1Cが単体で散乱度sが50%の表面8とする場合に、図1Dでは散乱度sが0%の表面6と散乱度sが100%の表面7を微細に並べる所望とする空間的提示割合の提示手段によって、図1Cの散乱度s=50%の表面8と同等の質感の表面9を得るものである。

【0022】
図3は、散乱度Sが異なる2つの表面を微細に並べることによって、中間的な質感が提示できることの確認実験で用いたサンプルを説明する図である。本実施の形態では、散乱度Sが異なる表面を複数、好ましくは2つ組み合わせたものを1つのセルと考える。すなわち、1つのセルが、例えば2つの表面の時間的および/または空間的に提示割合に依存して知覚される中間的な質感に対応する1つの散乱度Sを有するともいえる。図3では、第1の散乱度S1の第1の表面6を有する第1の物体11と、第1の散乱度S1と異なる第2の散乱度S2の第2の表面7を有する第2の物体12とを微細に並べる例として、第2の物体12たる画用紙16の一部をくり抜き、これを第1の物体11たるアクリル板15に重ね合わせたサンプル13を作製した。

【0023】
ざらざらな表面7を持つ画用紙20にカッティングプロッタ(グラフテック製、CE6000-40)を用いて2mm×2mmの正方形の穴21を等間隔に開け、これを100mm×100mmのつやつやな表面6を持つアクリル板22の上に重ね合わせる。図4のように正方形の穴21の間隔を1mmとした画用紙20を用いてアクリル板22と画用紙21との面積比を4:5としたアクリル44%板23(図5)、および、図6のように正方形の穴21の間隔を2mmとした画用紙24を用いてアクリル板22と画用紙24との面積比を1:3としたアクリル25%板25(図7)を作製した。図8はアクリル板22の割合を44%としたアクリル44%板23の場合と、アクリル板22の割合を25%としたアクリル25%板25の場合の散乱光の角度強度分布である。図9はアクリル板22の面積割合と散乱度sの関係を示すものである。アクリル板22の割合を44%とした場合および25%とした場合には、アクリル板単体(アクリル板の面積割合が100%)および画用紙単体(アクリル板の面積割合が0%)の場合に対し、それらの面積割合に応じたマクロ的に中間の散乱度sを提示する表面が実現されることが分かる。散乱度sの値は、アクリル44%板23は47.89%、アクリル25%板25は62.31%であった。また、アクリル板、アクリル44%板23、アクリル25%板25および画用紙の散乱度sの順序は、ヒトによる官能評価を行った結果と一致した。

【0024】
以下、視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法について、図面に基づいて説明する。

【0025】
例えば、ディスプレイ上では、R(赤)、G(緑)、B(青)の3つの原色を用い、その重ね合わせの割合を変えることで数千万色(RGB各8bitであれば224=1677万7216色)という色を提示する方法が一般的に用いられている。視覚的質感は反射光における正反射光と散乱光の強度割合によって変化すると考えられるから、反射角度に対する反射光の強度を変化させれば、様々な視覚的質感を提示することができる。本発明では、原色に相当するつやつやな視覚的質感を有する表面やざらざらな視覚的質感を有する表面といった異なる視覚的質感を含むセル(画素)を用意し、これらの表面の面積の割合を変化させたり、表面が提示される割合を時間的に変化させることにより表面の提示割合を変えることで、混色に相当する中間的な視覚的質感を提示する。

【0026】
本発明では、まず、正反射光4の強度を代表する値および散乱光5の強度を代表させる値の強度比によって、視覚的質感を1つのパラメータで定量化する。この1つのパラメータは、ざらざら感に相当する変数であり、これが上述の散乱度Sである。これは、色をR(赤)、G(緑)、B(青)の3つのパラメータで表現できるのと同様に、視覚的質感を1つのパラメータで表現できるということである。例えば、質感情報として既に定義した散乱度Sを用いると、(R,G,B,S)=(256,256,256,100)と表すことができる。このように表すことで、ディスプレイによる表示や、視覚的質感を含む表面光学特性に関する情報を伝送する際に、ディジタル化した散乱度Sたる1パラメータのみの少ない情報量で表現できることから、非常に大きな利点となる。

【0027】
次に、第1の散乱度S1を有する第1の表面6たるつやつやな表面と、第1の散乱度S1と異なる第2の散乱度S2を有する第2の表面7たるざらざらな表面とを複数微細に並べ、提示割合、具体的には各表面6,7の時間的および/または例えば面積割合等の空間的な提示割合により、中間の質感を提示する。これにより、RGBの3つの原色とその時間的な提示割合によりもともと用意していない中間色の提示を実現しているのと同様に、散乱度Sの異なる複数、好ましくは2つの表面のみを用意するだけで、もともと用意していない混色に相当する中間の視覚的質感を提示することが可能である。例えて言うと、白と黒を用意して、任意の灰色をつくるのと同じことが、質感でもできるということである。

【0028】
以上のような構成によれば、光の照射といった任意の環境下で、入射光の照射方向、波長領域および強度の角度分布を知らなくても、視覚的質感を提示することができる。

【0029】
ここで、第1の散乱度S1および第2の散乱度S2の大きさは、既に定義した散乱度sを用いた場合、一方が0%に近く、他方が100%に近いことが好ましい。すなわち、第1の散乱度s1が実質的にできる限り0%である第1の表面6と、第2の散乱度s2が実質的にできる限り100%である第2の表面7とで構成し、第1の散乱度s1と第2の散乱度s2とをできる限り大きく異なるようにすると、提示できる中間の質感の範囲を広くすることができる。

【0030】
異なる散乱度Sを有する2つの表面の時間的および/または空間的な提示割合を可変として、提示される質感が自由に変更可能な、可変質感提示デバイスの例を示す。これらの例は、複数のセルを用いて2つの表面の時間的および/または空間的な提示割合を提供する種々の提示手段を示すものである。なお、時間的な提示割合とは、例えば第1の表面を0.02sec表示した後、第2の表面を0.01sec表示する、ということを繰り返すことを意味する。これにより、第1の表面と第2の表面との時間的提示割合は2:1となり、ヒトの眼による時間分解能の識別能力以下の速さで表示することになるので、残像効果が生じ、混色に相当する知覚現象が起こる。空間的な提示割合としては、2つの表面の面積割合を挙げることができる。時間的な提示割合で2:1とすることと、空間的な提示割合で2:1とすることとは、ほぼ同じ考え方である。本実施の形態のデバイスは、時間的な提示割合を提供する提示手段と空間的な提示割合を提供する提示手段とのいずれか一方のみを備えてもよいし、両方の提示手段を備えてもよい。

【0031】
図10Aおよび図10Bは、例えばガラスで作った第2の物体12たるざらざらな板32の上の一部を、例えばマッチングオイルなどのガラスと屈折率がほぼ同じ第1の物体11たる液体31で覆うよう構成されたセル(画素)30を示す。この場合、第1の散乱度S1の第1の表面33を有する第1の物体11を上側、第2の散乱度S2の第2の表面34を有する第2の物体12を下側にして、表面の散乱度Sが異なる2つの物体11,12を上下に重ね合わせた構成となる。図10Aは、提示される散乱度sが80%となる状態であり、図10Bは、提示される散乱度sが40%となる状態である。散乱度sが大きくてざらざらなガラス板32がむき出しの領域はざらざらな表面として機能し、液体31がガラス板32を覆ってガラス板32と液体31が上下に重ね合わされている領域は、液体31とガラス32の屈折率がほぼ同じことから、ガラス表面での散乱が生じず、液体表面の散乱度sが小さいつやつやな表面として機能する。このようなセル30を複数微細に並べることにより、中間の質感を提示するデバイス1を実現することができる。図10Aおよび図10Bは透明材料で作製した、いわゆる透過型の可変質感提示デバイス1といえる。

【0032】
この場合、液体31がガラス板32を覆う面積は、例えば電圧によって制御することができる。すなわち、デバイスへの応用例も示されている、エレクトロウェッティングと呼ばれる原理を用いれば、電圧により制御することが可能である。なお、エレクトロウェッティングの応用例については、一例として以下の文献を参考に挙げることができる。
R. A. Hayes et al., “Video-speed electronic paper based on electrowetting,” Nature, vol. 425, pp. 383-385, 2003.

【0033】
図11はこの構成を用いて、色だけではなく視覚的質感(材質感)も提示可能なディスプレイ10の構成の一例を示すものである。この構成は、現在使用されているディスプレイ(R、G、B)の上部に、可変質感提示デバイス1を重ねた簡易的な構造であり、実現が容易なものである。現在、ディスプレイ装置は4Kや8Kなど画素の高精細化が進んでいるが、人間の眼の空間分解能の識別能力からすると十分な領域に達している。一方、視覚的質感という軸は全くの未発達であり、本発明の狙う領域は広大である。例えば図11に示す構成であれば、現在のすべての(色彩提示)ディスプレイ装置を、色彩および質感提示可能ディスプレイ装置10とすることが可能である。本発明を利用した質感提示可能ディスプレイ装置10であれば、照明や環境光の情報がなくても照明や環境光に応じた質感を提示することができるので、例えば、オンラインショッピングなどで、ディスプレイ上で毛糸の質感や金属の質感を表示することができ、ディスプレイ画面だけで商品等の質感を知ることができる。すなわち、自分の部屋に商品を置いたときの見え方や、太陽の下での見え方を、ディスプレイ上で確認することができる。このように、本発明は、従来、映像として伝送する際には欠落してしまっていた視覚的質感を、ディジタル化された散乱度Sたる1パラメータのみの少ない情報量で伝送することができる革新的な技術である。なお、発色および質感提示可能ディスプレイ10に表示する元画像を撮影するカメラ側も、現状のものでは視覚的質感を撮影できないが、例えば特許4932436号の質感情報取得装置および質感情報取得方法を利用したカメラを用いれば撮影可能である。

【0034】
上述の透過型のデバイスに対し、いわゆる反射型の可変質感提示デバイスも実現可能である。

【0035】
図12Aおよび図12Bは、第1の表面43たるつやつやな表面、および、第2の表面44たるざらざらな表面を連続するようにして構成するセル40を示す。このセル40を複数微細に並べて、視覚的質感デバイス1を構成する。これらの連続した表面43,44を有する物体42は、柔軟材料41で構成される。当該物体42は、約半分がつやつやな表面43で、残りの約半分がざらざらな表面44となっている。物体42はベルトコンベアのように回転移動可能に構成され、一周すると同じ位置に戻る。つやつやな表面43およびざらざらな表面44を連続するようにして設けた物体42を回転移動させることによって、図中、上方向から見た場合の、つやつやな表面43およびざらざらな表面44の面積割合を変えることができる。図12Aは、上方向から見たすべての領域をざらざらな表面44が占めており散乱度sが100%の場合である。図12Bは、図12Aの位置から表面を所定の方向に回転移動させてつやつやな表面43の領域が見えるようにし、散乱度sが約40%となる場合を示す。図12Aの位置から半周すると、上方向から見たすべての領域をつやつやな表面43が占めて、散乱度sが0%となる。

【0036】
図13Aおよび図13Bは、第2の表面54たるざらざらな表面を有する第2の物体12たる物体52の上方に、第1の表面53たるつやつやな表面を有する第1の物体11たる遮蔽板51を設け、遮蔽板51が図中の左右方向に伸縮または移動して、ざらざらな表面54を覆う領域を変化させ、上方向から見た場合の、つやつやな表面53およびざらざらな表面54の面積割合を変えるセル50を示す。このセル50を複数微細に並べて、視覚的質感デバイス1を構成する。図13Aは、散乱度sが約20%の場合を示し、図13Bは、図13Aの位置から遮蔽板51を左方向に伸縮または移動させてざらざらな表面54が見える領域を増大し、散乱度sが約40%となる場合を示す。

【0037】
これらの図12A~図13Bの可変質感提示デバイス1は、第1の表面43,53と第2の表面44,54との面積割合で散乱度Sを制御している。

【0038】
図14Aおよび図14Bは、第2の表面64たるざらざらな表面を有する第2の物体12たる物体62の上方に、第1の表面63たるつやつやな表面を有する第1の物体11たる遮蔽板61を設け、遮蔽板61が任意の箇所65で分割されており、分割されたそれぞれの遮蔽板61が、回動可能に固定された両端66を軸にして、上方に開閉できる構成となっているセル60を示す。このセル60を複数微細に並べて、視覚的質感デバイス1を構成する。遮蔽板61が完全に閉じて散乱度sが0%である図14Aの状態と、遮蔽板61が完全に開いて散乱度sが100%である図14Bの状態とで、散乱度sを二値的に変化させることができる。中間の散乱度sを提示する場合には、遮蔽板61の開閉を制御し、時間的な提示割合を制御することにより、すなわち、つやつやな表面とざらざらな表面との提示割合を時間的に制御し、その提示割合に応じて中間の視覚的質感であるとヒトが認識できるように提示する。

【0039】
図15Aおよび図15Bは、一面が第1の表面73たるつやつやな表面で、その裏面の他面が第2の表面74たるざらざらな表面である物体72を利用したセル70を示す。このセル70を複数微細に並べて、視覚的質感デバイス1を構成する。当該物体72は、例えば中央に設けられた回転軸76を中心に回転自在である。図15Aはつやつやな表面73が上面を向いて散乱度sが0%の状態であり、図15Bは、物体72が図15Aの位置から所定の方向に180°回転し、ざらざらな表面74が上面を向いて散乱度sが100%の状態である。図15Aの状態と、図15Bの状態とで、散乱度sを二値的に変化させることができる。中間の散乱度sを提示する場合には、物体71の回転を制御し、時間的な提示割合を制御することにより、すなわち、つやつやな表面とざらざらな表面との提示割合を時間的に制御することにより、その提示割合に応じて中間の視覚的質感であるとヒトが認識できるように提示する。

【0040】
これらの反射型の可変質感提示デバイス1は、プロジェクタ装置のように投影型の画像表示装置のスクリーンとして使用できる。また、現在のプロジェクタ装置等では、LCoS(Liquid crystal on silicon、反射型液晶パネル)などの反射型光学形を利用しているものも多くみられるように、反射型可変質感提示デバイス1を組み込んだプロジェクタ・ディスプレイも構成可能である。

【0041】
なお、図12A~図15Bの可変質感提示デバイス1は、つやつやな第1の表面33,43,53,63,73の第1の散乱度s1が0%であり、ざらざらな第2の表面34,44,54,64,74の第2の散乱度s2が100%であるとして説明している。第1の散乱度s1および第2の散乱度s2が0%および100%であると、提示可能な中間の質感の幅が広がるので好ましい。しかしながら、第1の散乱度s1および第2の散乱度s2の値は、採用する材料等に応じて、0%および100%以外にも適宜設定可能である。また、散乱度Sの定義が異なれば、これらの数値も変わってくる。

【0042】
本発明では、異なる散乱度Sを有する複数のセルを、ヒトの眼による空間分解能の識別能力以下の細かさで並べることが好ましい。ディスプレイなどで用いられる混色の方法は、主に併置混色が用いられている。併置混色とは、ディスプレイ上で原色を画素として並べた場合、近くから見ると個々の色が区別して見えるが、ある距離より遠くから見ると個々の色が区別されず、ヒトの眼にはそれぞれの色の面積比に応じた中間の色が知覚されることを意味する。これは、ある距離を超えると個々の色の点の大きさがヒトの眼による空間分解能を下回るためである。ヒトの眼による空間分解能は、視力1.0の場合、約1分(1/60°)と言われている。このことから、視力1.0のヒトの眼において、異なる色の正方形を併置したときに混色して見える距離を算出することができる。

【0043】
図16に示すように、1辺がrの正方形をセル80としてモザイク状に隙間なく配置し、ヒトが距離dだけ離れた位置から見たときに、一つ一つのセル80が混色して見えずにはっきりと区別がつくためには、辺rが眼81の空間分解能よりも小さくなければならない。ヒトの眼による空間分解能をθ0とし、辺rとヒトの眼による空間分解能θ0とが同じとすると、以下の式が成り立つ。

【0044】
【数2】
JP2017219681A_000004t.gif

【0045】
ヒトの眼による空間分解能θは1/60°であるから、tan(θ/2)の値は以下のようになる。

【0046】
【数3】
JP2017219681A_000005t.gif

【0047】
よって辺rは以下のように表せる。

【0048】
【数4】
JP2017219681A_000006t.gif

【0049】
したがって、r<2.908d×10となると視覚的な混色が起こり始める。また、距離dは以下のように求められる。

【0050】
【数5】
JP2017219681A_000007t.gif

【0051】
本発明でも、併置混色と同様の考え方により、「つやつや」や「ざらざら」といった原色に相当する視覚的質感を定量化した異なる散乱度Sを有する複数の表面を、ヒトの眼による空間分解能θ0の識別能力以下の細かさで並べることで、中間的な視覚的質感を提示することができる。上述の式により、アクリル44%板23およびアクリル25%板25の距離dを算出すると、r=2mmであるから、d=6.878mとなる。したがって、アクリル44%板23およびアクリル25%板25の場合、理論的にはヒトの眼81がサンプルから6.878m以上離れていると、異なる2つの視覚的質感の境目が区別できなくなり、中間の視覚的質感を提示することができる。

【0052】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、本実施の形態に係る視覚的質感提示デバイス1では、散乱度Sの異なる表面を2つとした例を提示しているが、散乱度Sの異なる3つ以上の表面を組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る視覚的質感提示デバイスおよび視覚的質感提示方法は、上述したディスプレイ装置の他、部屋の壁紙や家の外装、自動車の車体、さらには洋服等に適用すれば、外装をメタリックにしたり、木の質感にしたり、適宜視覚的質感を変更することが可能となる。また、貼り付け可能なシート上での多彩な視覚的質感表示等の縮尺の小さいマイクロスケールへの応用も可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 視覚的質感提示デバイス
11 第1の物体
12 第2の物体
30,40,50,60,70 セル
31 液体
32 ガラス板
33,43,53,63,73 第1の表面(つやつやな表面、所定の表面)
34,44,54,64,74 第2の表面(ざらざらな表面、所定の表面)
41 柔軟材料
42,52,62,72 物体
65 任意の箇所
66 両端
76 回転軸
S 散乱度
S1 第1の散乱度
S2 第2の散乱度
θ0 ヒトの眼による空間分解能
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
14
【図16】
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