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明細書 :水質改善方法及び貝類生育促進方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-143907 (P2018-143907A)
公開日 平成30年9月20日(2018.9.20)
発明の名称または考案の名称 水質改善方法及び貝類生育促進方法
国際特許分類 C02F  11/04        (2006.01)
A01K  63/04        (2006.01)
FI C02F 11/04 ZABZ
A01K 63/04 F
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2017-038155 (P2017-038155)
出願日 平成29年3月1日(2017.3.1)
発明者または考案者 【氏名】渡辺 亮一
【氏名】古賀 雅之
【氏名】古賀 義明
出願人 【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
【識別番号】500569041
【氏名又は名称】コヨウ株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査請求 未請求
テーマコード 2B104
4D059
Fターム 2B104EE09
2B104EF00
2B104EF09
4D059AA09
4D059BF20
4D059BK30
4D059CC10
4D059DA12
4D059DA22
4D059DB40
4D059EB20
要約 【課題】干潟等の水環境の水質を効率的に改善すると共に、さらに、水環境中に生息する生物の生育も促進できる水質改善方法を提供する。
【解決手段】
水質改善方法は、生物が生息する水環境の水質を改善する水質改善方法であって、フルボ酸鉄及び可溶性シリカから成る水質改善材を、単位面積当たり0.03~ 1.88kg/mの散布量で散布し、前記水環境における泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させる。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
生物が生息する水環境の水質を改善する水質改善方法であって、
フルボ酸鉄及び可溶性シリカから成る水質改善材を、単位面積当たり0.03~1.88kg/mの散布量で散布し、
前記水環境における泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させることを特徴とする
水質改善方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水質改善方法において、
前記水質改善材を砂と混合し、当該混合状態で、水の透過性を有する袋状の収納袋に収納し、
前記収納袋を、前記水環境中に投入し、固定することを特徴とする
水質改善方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水質改善方法において、
前記収納袋が、多孔性を有する生分解性繊維から成ることを特徴とする
水質改善方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の水質改善方法において、
前記水環境が、海域であり、
前記収納袋の高さが、前記水環境における潮の干満の平均深さと同じであることを特徴とする
水質改善方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の水質改善方法において、
前記収納袋が、0.075mm~1.0mmのメッシュサイズから成る網目構造を有することを特徴とする
水質改善方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれかに記載の水質改善方法において、
前記水質改善材と前記砂との配合比率が、水質改善材/砂=0.3~3.0であることを特徴とする
水質改善方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水質改善方法において、
前記水質改善材に含まれる鉄とシリカの配合モル比率が、シリカ/鉄=0.1~3.0であることを特徴とする水質改善方法。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の水質改善方法において、
前記水質改善材が、有機廃棄物1kgに対して、シリカ鉄含有溶液50~7000mgと混合し、熟成されて形成されることを特徴とする水質改善方法。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の水質改善方法を用いて、前記水環境の水質を改善し、前記水環境に生息する生物である貝類の生育を促進させることを特徴とする貝類生育促進方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、魚貝類等の生物が生息する干潟や浅瀬等の水環境の水質を改善する水質改善方法に関し、特に、効率的に水質を改善すると共に、生息する生物の生育をも促進させる水質改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国沿岸では長年に渡って海岸工事をはじめとする環境負荷の増加によって、赤潮も発生し、干潟にヘドロ等が堆積し、貧酸素や硫化水素の存在によって、底質環境が著しく悪化している。このため、アサリ貝に代表される魚貝類の漁獲量が激減し、漁業関係者にとっては由々しき問題となっている。
【0003】
この状況に対して、有害化学物質の化学形態変化に及ぼす腐植物質の研究(例えば、非特許文献1参照)や、魚貝類資源であるアサリ貝の管理方法の研究(例えば、非特許文献2参照)等、各方面から様々な研究が進められている。
【0004】
現状では、干潟の水質を改善し、魚貝類の漁獲量を回復させるために、主として、他の海域の海砂を採取し、その海砂を海底に撒くという覆砂事業が実施されている。しかし、覆砂事業は、その実施に膨大なコストが掛かるだけでなく、その効果も、干潟がヘドロと砂のサンドイッチ層を形成するだけで、漁獲量を回復するには至っていないというのが現状である。
【0005】
このように悪化した底質環境(水環境)の水質を改善するために、様々な水質改善方法が提案されている。
【0006】
例えば、従来の水質改善方法としては、鉄と炭を水溶性バインダーで固めた小塊を水中に沈めることで、二価鉄イオンを溶出させて、植物プランクトンの餌を増やすと共に、水中のヘドロを浄化することが開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献3参照)。
【0007】
また、従来の水質改善方法としては、鉄と炭と焼酎滓或いは柑橘類の滓で固めた小塊を水中に沈めることで、鉄キレートを発生させ、この鉄キレートを用いて、水中における植物プランクトンの増殖およびヘドロの浄化、水質環境の改善、貝類の養殖を行うことが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、コンクリートにフルボ酸鉄を溶出するフルボ酸鉄含有資材を含むコンクリートからなる水環境浄化用コンクリートブロックも開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
この他にも、水環境の水質を改善するための可溶性シリカを含んだフルボ酸鉄資材も開示されており、そのフルボ酸鉄資材を安価に製造する方法も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2007-268511号公報(特許第5258171号)
【特許文献2】特開2010-242075号公報(特許第4710036号)
【特許文献3】特開2013-245118号公報
【特許文献4】WO2014/038596号公報
【0011】

【非特許文献1】有害化学物質の化学形態変化に及ぼす腐植物質の影響 福嶋正巳, NIREニュース, 2000年9月
【非特許文献2】三重県アサリ資源管理マニュアル~伊勢湾のアサリを守り、育て生かす~三重県水産研究所他 p2‐4, 2010.3
【非特許文献3】鉄ダンゴと海洋緑化2010.11(社)海洋緑化協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の水質改善方法では、二価鉄イオンを用いて、底質環境(水環境)を改善する種々の方法が開示されているものの、溶出した二価鉄イオンは、水中の溶存酸素によって三価鉄イオンに遷移し易いことから、その効果に持続性がなく、一定の効果を得るには多大な時間が必要とされている。また、水環境の水質を改善するための可溶性シリカを含んだフルボ酸鉄資材も開示されてはいるが、それを用いて所望とする水質浄化効果を得るための手法は確立されておらず、安定的な水質浄化効果が得られるには至っていない。
【0013】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、干潟等の水環境の水質を効率的に改善すると共に、さらに、水環境中に生息する生物の生育も促進できる水質改善方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、フルボ酸鉄・シリカ含有物を最適な条件下で使用することによって、ヘドロを分解することのみならず、ヘドロから魚貝類の増殖のための餌を安定的に生成できることを見出し、干潟の再生と魚貝類の増殖を同時に達成できる新規の水質改善方法を導き出した。
【0015】
かくして、本願に係る水質改善方法は、生物が生息する水環境の水質を改善する水質改善方法であって、フルボ酸鉄及び可溶性シリカから成る水質改善材を、単位面積当たり0.03~ 1.88kg/mの散布量で散布し、前記水環境における泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水質改善方法における水質改善材の載置(施工)を説明する説明図を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る水質改善方法における泥分率と水質改善材の散布量との相関関係を例示するグラフを示す。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る水質改善方法における水質改善材を収納した収納袋の載置(施工)を説明する説明図を示す。
【図4】実施例1に係る水質改善方法の実施後のマイクロコズムによるヘドロの分解状況写真(1日目(a)と4日目(b))を示す。
【図5】実施例1に係る水質改善方法の実施後マイクロコズムによるヘドロの分解状況写真(a)と、比較例(b)(水質改善材の添加無し)を示す。
【図6】実施例1に係る水質改善方法の実施後のマイクロコズム表層の赤茶色部分の1500倍拡大写真(a)と、当該マイクロコズム内でのアサリ稚貝の死亡数比較(b)(M-1・M-4:比較例(水質改善材の添加無し)、M-2:水質改善材の推奨量添加、M-3・M-5:水質改善材の推奨量の範囲内でM-2の2倍添加)を示す。
【図7】実施例2に係る水質改善方法により得られたコドラート調査結果(第1施工区)を、比較例(対照区)と共に示す。
【図8】実施例2に係る水質改善方法により得られたコドラート調査結果(第2施工区(a)、第3施工区(b))を示す。
【図9】実施例2に係る水質改善方法により得られたコドラート調査結果による個体数変化(アサリ貝(a)、シオフキガイ(b))を示す。
【図10】実施例2に係る水質改善方法により得られたコドラート調査結果による個体数変化(ホトトギスガイ)(a)と、アサリ貝の月別総量(b)を示す。
【図11】実施例2に係る水質改善方法の実施後の干潟の地盤高さの測定結果について、経時的な地盤高さの推移を表す写真(a)と、比較例(対照区)との地盤高比較(b)を示す。
【図12】実施例2に係る水質改善方法の実施後の土壌(第1~第3施工区)における含水比試験の測定結果を、比較例(対照区)と共に示す。
【図13】実施例2に係る水質改善方法の実施後の土壌(第1~第3施工区)における強熱減量試験の測定結果を、比較例(対照区)と共に示す。
【図14】実施例2に係る水質改善方法の実施後の土壌(第1~第3施工区)における泥分率の測定結果を、比較例(対照区)と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る水質改善方法について、図1~3に従い、以下説明する。

【0019】
第1の実施形態に係る水質改善方法は、生物が生息する水環境の水質を改善する水質改善方法であって、フルボ酸鉄及び可溶性シリカから成る水質改善材を、単位面積当たり0.03~ 1.88kg/mの散布量で散布し、前記水環境における泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させるものである。

【0020】
生物が生息する水環境としては、特に限定されないが、好ましくは、海域であり、好適には魚貝類等の生物が生息する海岸部の干潟や浅瀬等が挙げられるが、この他にも、生物が生息する河川、湖沼、水路等の各種の水域の水底も対象とすることができ、さらには、魚介類を飼育するための生簀も対象とすることができる。

【0021】
水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物ともいう)を構成するフルボ酸鉄とは、フルボ酸に鉄イオン(二価)が結合した化合物である。フルボ酸とは、森林や土壌中の自然界において、草木等の有機物や有機廃棄物の腐食によって、長時間かけて生成される有機酸であり、分子内にカルボキシル基やフェノール性水酸基を多く含む多価有機酸である。

【0022】
水質改善材を構成する可溶性シリカとは、溶液中でイオン状態になり得るシリカ(Si)であり、例えば、シリカ(Si)を構成元素に含む無機化合物から得ることができる。このような無機化合物としては、特に限定されないが、例えば、ケイ酸塩が挙げられ、例えば、ケイ酸ナトリウム(NaSiO、NaSiO等)が挙げられる。

【0023】
水質改善材に含まれる鉄とシリカの配合モル比率は、特に限定されないが、より好ましくは、シリカ/鉄=0.1~3.0である。このシリカ/鉄が、0.10(下限値)より低い場合には、シリカの相対量が不足しがちとなって十分な水質改善作用を発揮し難くなり、3.0(上限値)より高い場合には、鉄の相対量が不足しがちとなって十分な水質改善作用を発揮し難くなる。

【0024】
このような水質改善材を、単位面積当たり0.03~1.88kg/mの散布量で散布し、前記水環境における泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させる。単位面積を基準としているのは、例えばヘドロが堆積する海岸等の海域において、海水の存在している領域の深さは、海水表面の広さと比べて十分に小さい(浅い)ことに拠る。例えば、図1(a)に示すように、海水の存在している領域の深さMである海岸部100を例示すると、図1(b)に示すように、海岸部100の面積L×Lごとに、水質改善材1を単位面積当たり0.03~1.88kg/mとなるように載置(施工)することによって、図1(c)に示すように、海岸部100全体にわたって、水質改善材1の有効成分が水溶性成分となって放出される。

【0025】
このように、海岸部100に水質改善材1を施工する際には、ヘドロの堆積厚さ(泥分率)に応じてフルボ酸鉄シリカ資材の投入間隔を設定することが好ましい。例えば、泥分率が20%以下の場合には、10m間隔(L=10m)で水質改善材を設置してもよく、十分な効果(例えば干潟におけるアサリ貝の生息量増加)が見込まれる。また、泥分率が20%を超える場合には、5m間隔(L=5m)で水質改善材を設置することが望ましく、より効率的に水環境の水質改善を行うことができる。また、図1に示すように、水質改善材を、間隔Lで密に設置する他にも、1段ずらして設置してもよく、いずれの場合でも、水質改善材の成分を、満遍なく、海岸部100全体に拡散させることができる。

【0026】
水質改善材の単位面積当たりの散布量が、0.03kg/mより低い場合には、水質の改善速度(例えばヘドロの浄化速度)が遅くなり、アサリ貝等の生息生物の増殖効果が低下する。1.88kg/mより高い場合には、散布量が増大することから設置および製品コストが高くなると共に、移動体(例えば船)からの散布も難しくなる。

【0027】
泥分率とは、水環境の底質における粒径75μm未満の粒子の質量構成率を示す指標値であり、ヘドロの存在割合が示される。図2(a)のグラフに例示するように、この泥分率が増加するにつれて、前記散布量を増加させることにより、ヘドロの存在状況に応じた散布が最適に行えることとなり、より効率的に水環境を浄化し改善することができる。

【0028】
また、より好ましくは、図2(b)に示すように、泥分率30%を閾値として、泥分率が30%以上の場合には、前記散布量がより高値となるように増加させることがより好ましい。泥分率が30%を超える場合には、アサリ貝等の魚介類の生息が困難となるまで汚染された水環境となっていることから、より多量の散布を行うことによって水環境を改善することができる。また、泥分率が30%より小さい場合には、より少量の散布を行うことによって、散布コストを抑えた上で、より効率的に水環境を改善することができる。このように、泥分率30%を閾値とすることによって、より効率的に水環境を改善することができる。また、コドラート調査によって、千鳥格子状に5m間隔で資材を投入した施工区がアサリの生息数が一番多く、この施工区に比べて、10m間隔で投入した施工区では、アサリの生息数がより少ないことが確認されている(後述の実施例参照)。

【0029】
このような水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)は、フルボ酸原料と、鉄とシリカを主成分とする鉄・シリカ原料とを混合して、発酵させることによって、得ることができる。より好ましくは、水質改善材が、有機廃棄物1kgに対して、シリカ鉄含有溶液50~7000mgと混合し、熟成されて形成されることである。

【0030】
フルボ酸原料としては、有機廃棄物(例えば、下水汚泥や木屑)を一時発酵して、滅菌処理したもの(堆肥とも称される)を用いることができ、このフルボ酸原料に対して、鉄・シリカ原料として、例えば、ポリシリカ鉄凝集剤(例えば、商品名PSI-025:タイキ薬品工業社製)を混合して、二次発酵させたものを生分解性の袋に充填することで得ることができる。このような水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)としては、市販品(製品名 龍宮の遣い:コヨウ株式会社製)を用いることができ、容易に入手することができる。

【0031】
このような水質改善材を水環境中に適用する(設置する)方法としては、特に限定されないが、好ましくは、水質改善材を砂(例えば海砂)と混合し、この混合状態で、水の透過性を有する袋状の収納袋に収納し、この収納袋を、水環境中に投入して固定することである。収納袋における水の透過性については、少なくとも鉄フルボ酸分子を通過(透過)可能な特性を有するものであれば、特に限定されない。

【0032】
収納袋は、好ましくは、多孔性を有する生分解性繊維から成るものである。ここでいう生分解性繊維とは、植物由来の繊維(バイオマス素材)から成り、ポリ乳酸(PLA)を主成分とし、自然界に存在する微生物が分泌する酵素によって分解可能な繊維である。このような収納袋を構成する生分解性繊維としては、例えば、トウモロコシ由来の繊維を用いることができるが、この他にも、ワラ、ジュート、ヤシ、サトウキビ、ブドウ外皮等を由来とする繊維を用いることも可能である。

【0033】
図3(a)に示すように、水質改善材1と砂2とが混合状態で、生分解性繊維から成る多孔性の収納袋3に収納されることによって、海岸部100にこの収納袋3が載置された際に、砂2の重さによって水質改善材1が地面にしっかりと固定されると共に、図3(b)に示すように、収納袋3の多孔性を構成する空隙から、周囲の水環境に対して、水質改善材1が水溶性成分として均一且つ徐々に染み出す(放出される)こととなり、安定的且つ持続的に水質改善材が作用し、水環境を浄化し改善させることができる。

【0034】
さらに、収納袋3が生分解性繊維から成ることから、図3(c)に示すように、水環境中における水質改善材1の使用後には、収納袋が生分解されることとなり、図3(d)に示すように、水質改善材1と混合された砂2のみが水環境中に残存し、結果として、自然物である砂2のみが残存し、水環境における周囲の砂環境(例えば干潟)に自然に溶け込むことになる。このように、水質改善材1の使用後の後処理などの手間が不要であると共に、自然環境に負荷を与えることもなく、簡易に、水環境を浄化し改善させることができる。

【0035】
水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)の砂に対する混合割合および混合量は、特に制限されることは無いが、前記水質改善材と前記砂との配合比率が、水質改善材/砂=0.3~3.0であることが好ましい。水質改善材/砂の割合が、3.0より大きくなると、水質改善材のコストが高くなると共に砂の重みが軽いことにより水環境に投入後に動き易くなり固定が不安定になる。また、水質改善材/砂の割合が、0.3より小さくなると、砂による重さの影響により収納袋の大部分が底泥に埋没して水質改善資材成分の溶出が減る。また、持ち運びや管理等において取扱いが難しくなる。

【0036】
また、例えば、水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)を海域(例えば、浅瀬や干潟)に設置する場合の設置方法については、特に限定されないが、干潮時に設置しても良く、また、満潮時に船から等間隔に落下させて設置しても良い。

【0037】
また、海域(例えば、浅瀬や干潟)に設置する場合には、収納袋3の高さは、海域における潮の干満の平均深さと同じにすることが、より好ましい。この収納袋3の高さによって、潮の干満サイクルのうちの半サイクルの期間では、収納袋3の全体が海域中に浸漬した状態が維持されると共に、残りの半サイクルの期間では、収納袋3の一部(経時的に変化する)が海域中に浸漬した状態に遷移することとなり、この収納袋3が海域中に載置されることのみによって、潮の干満と共に、水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)が、経時的に拡散量を動的に変化させながら、海域中に拡散されることとなり、効率良く、海域(水環境)の水質改善を行うことができる。

【0038】
また、上記の水の透過性を有する袋状の収納袋3は、0.075mm~1.0mmのメッシュサイズから成る網目構造を有することがより好ましい。この網目構造は、Tyler標準フルイを用いて換算した場合には、16メッシュ(1.0mm)~200メッシュ(0.075mm)のメッシュサイズとして示される。この網目構造によって、収納袋3から、鉄フルボ酸分子がより効率的に通過(透過)されることとなり、鉄フルボ酸分子の放出(染み出し)によって、より効率的に水環境の水質改善を行うことができる。

【0039】
このように、本実施形態に係る水質改善方法では、水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)を最適条件で用いることによって、ヘドロを分解し浄化するだけではなく、その分解物が魚貝類の餌にもなって、魚貝類の増殖も促進させることから、干潟再生による魚貝類の資源回復を確実に行うことができる。

【0040】
水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)は、好適には海域(例えば、浅瀬や干潟)に固定して用いることであり、海域に固定することによって、海底の堆積物のヘドロが分解され砂地化されて、海域が浄化され、さらに植物プランクトンが増殖し、アサリ貝をはじめとする魚介類の生育環境が改善される。

【0041】
事実として、水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)から溶出するフルボ酸鉄が、ヘドロ成分を分解すると共に、さらに、この分解した有機物とフルボ酸鉄・シリカ含有物から溶出する可溶性シリカが反応して珪藻類が生成され、魚貝類の餌となる植物プランクトン(例えば、アサリ貝の代表的な餌の一つであるスケレトネマ)を増殖させることが確認されている(後述の実施例参照)。

【0042】
このような優れた効果を奏するメカニズムは、詳細には解明されていないが、水質改善材(フルボ酸鉄・シリカ含有物)を単位面積当たり0.03~ 1.88kg/mの散布量で散布して使用することによって、フルボ酸鉄と水環境中の溶存酸素と太陽光エネルギーが組み合わさって作用することによって、フルボ酸が、水中の溶存している酸素と光反応し、過酸化水素を生成し、この過酸化水素が三価鉄イオンと光フェントン反応により、ヒドロキシラジカルやヒドロパーオキシドラジカル等のラジカルが生成し、このヒドロキシラジカルの強力な酸化作用によって、水環境に含まれるヘドロの有機成分が高効率で分解されているものと考えられる。

【0043】
この有機成分の分解の際に、フルボ酸鉄由来の二価鉄イオンは、三価鉄イオンに遷移するが、フルボ酸の存在下で光エネルギーを受けることによって還元され、再度、二価鉄イオンに戻るという鉄イオンの酸化還元が、水中で繰り返し起きていると考えられ、このことによって、硫化物を含む有機化合物を分解し、底質土を浄化し、魚貝類を効率的に増殖させていると考えられる。

【0044】
このように、本実施形態に係る水質改善方法を用いる適用例の一例として、水環境の水質を改善し、水環境に生息する生物である貝類の生育を促進させる貝類生育促進方法として利用することが可能である。

【0045】
以下、実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明の好適な例を示すものであって、本発明の範囲がこれにより限定されるものではない。

【0046】
(実施例1)
[フルボ酸鉄・シリカ含有物の抽出液の作成]
先ず、フルボ酸鉄・シリカ含有物として、市販品(製品名 龍宮の遣い、コヨウ株式会社製)を用いた。フルボ酸、鉄及び可溶性シリカの分析は株式会社 日本食品機能分析研究所で分析したところ、製品単位当たりの濃度は、フルボ酸9500mg/kg、可溶性鉄3400mg/kg、可溶性シリカ7.6g/kgであつた。この製品7.5kgと海砂7.5kgを袋に充填したものを使用した。

【0047】
次に、このフルボ酸鉄・シリカ含有物7.5kgを水道水80L入れたプラスチックタンクヘ入れ、20日間浸漬し、フルボ酸鉄・シリカ含有物の抽出液を得た。この抽出液中の鉄(Fe)とシリカ(Si)濃度を分析(ICP‐MS分析装置を使用)したところ、それぞれの濃度は、フルボ酸10,000(mg/L)、可溶性鉄(Fe)63(mg/L)、可溶性シリカ(Si)3860(mg/L)であった。

【0048】
[珪藻類のスケレトネマの観測]
縦45cm、横24cm、高さ34cmの透明アクリルまたはガラス容器(これをマイクロコズムと称する)へ福岡県柳川市橋本町沿岸干潟で採取した低質土(ヘドロ)を水道水30L入れ、この容器へ底質±3.8kg、上記のフルボ酸鉄・シリカ含有物抽出液375ml入れ、屋外で日光の当たる場所に10日間静置した。この時点で、水温計を設置し、マイコロコズム内の様子を観察した。この時点で生成された浮遊物を採取し、浮遊物の同定とデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000型)で1500倍の倍率で観察した。得られたマイクロコズムによるヘドロの分解状況写真を図4および図5に示す。

【0049】
図4(a)では、マイクロコズム内でのヘドロ変化状況(一:フルボ酸鉄シリカ無添加,二:フルボ酸鉄シリカ推奨量添加、三:フルボ酸鉄シリカ推奨量2倍添加)の1日目を示しており、さらに、図4(b)に示すように、4日目を経過後には、フルボ酸鉄シリカを添加したケースにはヘドロ表面に変化が現れたことが確認された。

【0050】
図5(a)で示されるように、フルボ酸鉄シリカを添付した水槽のヘドロ表面には、多くの気泡が発生したことが確認された。これに対して、図5(b)で示されるように、比較例であるフルボ酸鉄シリカ無添加のケースでは、このような変化(気泡の発生)は見られなかった。

【0051】
また、フルボ酸鉄シリカを投入したマイクロコズム表層の赤茶色部分の1500倍拡大写真を図6(a)に示す。得られた結果から、マイクロコズム内の浮遊物は珪藻類およびデトリタスであることが確認され、その中にスケレトネマが多く観察された。また、当該マイクロコズム内でのアサリ稚貝の死亡数比較を図6(b)に示す(M-1・M-4:比較例(水質改善材の添加無し)、M-2:水質改善材の推奨量(0.03~1.88kg/m)添加、M-3・M-5:水質改善材の推奨量(0.03~1.88kg/m)の範囲内でM-2の2倍添加)。得られた結果から、水質改善材の推奨量添加によって、アサリ稚貝の死亡は発生しなくなったことが確認された。

【0052】
(実施例2)
干潟にて、よりスケールアップした実験を行った。熊本県玉名郡長洲町沿岸干潟で、フルボ酸鉄・シリカ含物を幅20m長さ100mの範囲施工区に、5m格子状に53袋設置し、このフルボ酸鉄・シリカ含有物を水中へ投入し、フルボ酸鉄・シリカ含有物の含有量が干潟面積当たり0.03~1.88kg/mの範囲になるように設置した。

【0053】
以下に示すように、コドラート調査、干潟の地盤高さの測定、および、低質土の浄化変化の測定を行い、二枚貝の生息変化を測定した。

【0054】
(1)コドラート調査
フルボ酸鉄・シリカ含有物サンプル設置場所付近に0.5m×0.5mのコドラートを置き、この中の深さ10~20cmの泥をスコップで採取した。この泥を径30cmの箭目4.75mmへ入れ、飾分けし、飾に残った生物(アサリ貝等)を採取し、そのサイズと数を測定した。

【0055】
また、比較例として、実施例1と同じ場所で、フルボ酸鉄・シリカ含有物を施工しない工区幅20m、長さ20mの範囲を対照区とした。

【0056】
コドラート調査によって、魚貝類(アサリ貝、シオフキ貝、ホトトギス貝)の個体数変動を確認した結果を、図7~10に示す。得られた図7および図8の結果から、千鳥格子状に5m間隔で資材を投入した施工区1がアサリの生息数が一番多く、10m間隔で投入した施工区2ではアサリの生息数が上記工区1より少ないことが確認された(施工区3は投入直後の状態である)。

【0057】
これに対して、比較例の対照区では、上記の図7に示されるように、二枚貝の生息はほとんど無く、増殖もしないことが分かった。底質土の変化も無く、すなわち、ヘドロが堆積した還元状態では、アサリ貝は着床しても成長していないことが確認できた。

【0058】
さらに、本実施例(第1施工区)では、底質土が砂地化するにつれて、図9(b)に示すように、2ヶ月後にはシオフキ貝が増加し、アサリ貝の稚魚が成育開始して、3ヶ月後にはシオフキ貝(シオフキガイ)が減少し始め、図10(a)に示すように、ホトトギス貝(ホトトギスガイ)が増加したことが確認された。5か月後にはシオフキ貝、ホトトギス貝はほとんど見られず、図9(a)や図10(b)に示すように、アサリ貝が急に増加したことが確認された。このことから、フルボ酸鉄・シリカ含有物はその効果が持続し、ヘドロ中の有機成分を分解し、珪藻類のスケレトネマの生息を促進するとともに、アサリなどの二枚貝類が捕食可能なデトリタスと変化するため、それを餌にアサリ貝が段々と成長しサイズが大きくなったものと考えられる。得られた結果から、フルボ酸鉄・シリカ含有物を干潟面積当たり、0.03kg/m2~ 1.88kg/m2の範囲になるように施工すれば、干潟の再生と同時に魚貝類を増殖できることが確認された。

【0059】
(2)干潟の地盤高さの測定
干潟の地盤高さの測定は、RTK測定機(TrimbleR4 73004-00)を使用して、フルボ酸鉄・シリカ含有物を設置した工区とその周りの地盤高さを測定した。干潟の地盤高さの測定結果について、経時的な地盤高さの推移を表す写真を図11(a)に示すと共に、比較例(対照区)との地盤高比較を図11(b)に示す。

【0060】
得られた結果から、フルボ酸鉄・シリカ含有物の設置後2週間で、底質土中のヘドロ成分が約5cm程度分解し、底質土の地盤高さが低くなったことが確認されている。また、設置後時間が経過するとともに再び波などで輸送されてきた底質が堆積するが、施工前のようにヘドロ化する事象は観察されていない。

【0061】
(3)底質土の浄化変化の測定
底質土の分析は、実験現場でアクリル製コアサンプラー(径50mm、深さ200mm)に採取した底質土を実験室へその日の中に持ち帰り、冷凍保存して、含水比試験(JISA1203)、強熱減量試験(JIS A1220)、及び泥分率(粒径75μm未満の粒子の質量構成率)を測定した。得られた結果を図12~図14に示す。本実施例に係る土壌(第1~第3施工区)について、図12は含水比試験の測定結果であり、図13は強熱減量試験の測定結果であり、図14は泥分率の測定結果であり、各々、比較例(対照区)と共に示している。

【0062】
以上の結果から、本実施例では、底泥を砂泥化することができ、さらに、アサリ貝の生息が増加したこと確認された。

【0063】
以上の結果から、本実施例に係るフルボ酸鉄・シリカ含有物を環境汚染された底質土の干潟へ散布施工することで、底質土が改善され、ヘドロから砂地化へ変化し、同時に底質土中の有機物成分が光フェントン反応と可溶性シリカの反応で、珪藻類が生成した。さらに、この珪藻類中に、アサリ貝の餌になるスケレトネマが多く含まれているため、アサリ貝が生息し始めて、成長し、今まで採取できなかったところでも採取が可能となり、また、干潟の再生も同時に行えたことから、水産業に大いに貢献できることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 水質改善材
2 砂
3 収納袋
100 海岸部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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