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明細書 :算出方法、溶接方法、及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-048309 (P2019-048309A)
公開日 平成31年3月28日(2019.3.28)
発明の名称または考案の名称 算出方法、溶接方法、及びプログラム
国際特許分類 B23K   9/095       (2006.01)
B23K  31/00        (2006.01)
FI B23K 9/095 505B
B23K 31/00 F
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2017-173120 (P2017-173120)
出願日 平成29年9月8日(2017.9.8)
発明者または考案者 【氏名】柴原 正和
【氏名】生島 一樹
【氏名】前川 真奈海
出願人 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
審査請求 未請求
要約 【課題】本発明は、残留応力分布に対応する溶接パラメータ、又は溶接パラメータに対応する残留応力分布を予測することができる算出方法を提供する。
【解決手段】本発明の算出方法は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データを学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む算出方法。
【請求項2】
前記算出するステップは、学習済みのニューラルネットワークを用いて逆問題解析により残留応力を含む入力から溶接パラメータを含む出力を算出するステップである請求項1に記載の算出方法。
【請求項3】
前記算出するステップは、学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップである請求項1に記載の算出方法。
【請求項4】
前記母材を溶接する方法は、多層溶接であり、
前記溶接パラメータは、積層された溶接パスのパス割り、積層された溶接パスの溶接順序、各溶接パスの入熱量、各溶接パスの溶接速度、各溶接パスの溶接電流、各溶接パスの印加電圧、パス間温度のうち少なくとも1つを含む請求項1~3のいずれか1つに記載の算出方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の算出方法を用いて算出した溶接パラメータを用いて前記母材を溶接する溶接方法。
【請求項6】
学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータから残留応力分布、変形分布、ひずみ分布、温度分布のうち少なくとも1つを算出するステップを含み、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と、残留応力分布、変形分布、ひずみ分布、温度分布のうち少なくとも1つを含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む算出方法。
【請求項7】
コンピューターに学習済みのニューラルネットワークを用いて逆問題解析により残留応力を含む入力から溶接パラメータを含む出力を算出するステップを実行させるためのプログラムであって、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、前記母材の材質、前記母材の形状、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、複数の溶接パスの配置、複数の溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含むプログラム。
【請求項8】
コンピューターに学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップを実行させるためのプログラムであって、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、前記母材の材質、前記母材の形状、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、複数の溶接パスの配置、複数の溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含むプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、残留応力、溶接パラメータなどの算出方法、溶接方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
厚い金属板を接合したり補修したりする場合、一般的に溶接材料を用いて母材を溶接する方法(例えば、アーク溶接)が用いられる。溶接材料を用いて母材を溶接する際、溶接材料は溶融し溶接金属として溶着する。そして溶接金属は、凝固し冷却される。この溶接金属は冷え固まる際に収縮するため、溶接金属付近(溶接部)の表面では引張応力が残留しやすい。この残留引張応力が生じた箇所が腐食環境に曝されると、この箇所において応力腐食割れが生じやすい。また、残留引張応力が生じた箇所に振動が加わると、この箇所において疲労破壊が生じやすい。なお、溶接部は、母材が熱影響を受けた部分と溶接金属とを含む。
溶接部の表面をピーニング処理することにより、表面の残留応力を引張から圧縮の応力に変える、又は表面の引張りの残留応力を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。表面の残留応力が圧縮の応力となる又は表面の引張りの残留応力が低減されることにより、応力腐食割れや疲労破壊などが生じにくくなる。また、溶接部に熱を加えることにより残留応力を取り除く方法(アニーリング)が知られている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2006-122969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピーニング処理により溶接部の表面の残留応力を引張から圧縮の応力に変える方法では、ピーニング処理工程を溶接工程と別工程として行う必要があり、溶接コストを増大させている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、残留応力分布に対応する溶接パラメータ、又は溶接パラメータに対応する残留応力分布を予測することができる算出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む算出方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の算出方法で用いる学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、この教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータである。このため、学習済みのニューラルネットワークの汎化能力を利用して、実験を行っていない溶接パラメータやシミュレーションを行っていない溶接パラメータに対応する残留応力を算出することが可能になり、残留応力分布を容易に予測することができる。また、ニューラルネットワークを用いることにより、シミュレーションを用いて残留応力分布を作成する場合に比べ、短時間で残留応力分布を作成することができる。
【0007】
また、逆問題解析を用いて残留応力分布に対応する溶接パラメータを算出することが可能であり、所望の残留応力分布に対応する溶接パラメータを予測することができる。このため、算出された溶接パラメータに従って母材を溶接することにより、所望の残留応力分布を有する溶接部又は所望の残留応力分布に近い残留応力分布を有する溶接部が形成されるように母材を溶接することができる。従って、溶接部の表面に圧縮の残留応力が発生するような溶接パラメータを算出することが可能であり、この溶接パラメータを用いて溶接することにより、表面に圧縮の残留応力が発生するように母材を溶接することが可能になる。よって、応力腐食割れや疲労破壊などが生じにくい溶接部を形成することが可能になる。
【0008】
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、母材の材質、母材の形状、溶接材料の材質、溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む。このため、これらのうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定して残留応力分布を予測することができる。また、これらのうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定して所望の残留応力分布に対応する溶接パラメータを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の算出方法で用いる多入力・一出力のユニットである。
【図2】本発明の一実施形態の算出方法で用いるニューラルネットワークの説明図である。
【図3】本発明の一実施形態の算出方法で用いるニューラルネットワークの説明図である。
【図4】残留応力分布を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態の溶接方法の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態の溶接方法の説明図である。
【図7】FEM熱弾塑性解析に用いた解析モデルである。
【図8】FEM熱弾塑性解析で作成した残留応力分布である(教師データ)。
【図9】ニューラルネットワークを用いて作成した残留応力分布である。
【図10】FEM熱弾塑性解析に用いた解析モデルである。
【図11】FEM熱弾塑性解析で設定した溶接パスのパス割及び各パスの溶接順序の説明図である。
【図12】FEM熱弾塑性解析で設定した計測点の説明図である。
【図13】FEM熱弾塑性解析で作成した残留応力分布である(教師データ)。
【図14】FEM熱弾塑性解析で作成した残留応力分布である(教師データ)。
【図15】FEM熱弾塑性解析で作成した残留応力分布である(教師データ)。
【図16】ニューラルネットワークを用いて作成した残留応力分布である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の算出方法は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む。

【0011】
本発明の算出方法に含まれる算出するステップは、学習済みのニューラルネットワークを用いて逆問題解析により残留応力を含む入力から溶接パラメータを含む出力を算出するステップであることが好ましい。
本発明の算出方法に含まれる算出するステップは、学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップであることが好ましい。
前記母材を溶接する方法は、多層溶接であることが好ましく、前記溶接パラメータは、積層された溶接パスのパス割り、積層された溶接パスの溶接順序、各溶接パスの入熱量、各溶接パスの溶接速度、各溶接パスの溶接電流、各溶接パスの印加電圧、パス間温度のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
また、前記教師データは、少なくとも1つの溶接パラメータを有する解析モデルを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであってもよい。

【0012】
本発明は、学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータから残留応力分布、変形分布、ひずみ分布、温度分布のうち少なくとも1つを算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と、残留応力分布、変形分布、ひずみ分布、温度分布のうち少なくとも1つを含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む算出方法も提供する。
また、本発明は、本発明の算出方法を用いて算出した溶接パラメータを用いて前記母材を溶接する溶接方法も提供する。
さらに、本発明は、本発明の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラムも提供する。

【0013】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。

【0014】
図1~6は、本実施形態の算出方法、溶接方法又はプログラムに関する図面であり、詳細は上述の通りである。
本実施形態の算出方法は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、前記溶接パラメータは、溶接材料8を用いて母材2を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、母材2の材質、母材2の形状、溶接材料8の材質、溶接材料8の形状、溶接パス6のパス割り、溶接パス6の溶接順序のうち少なくとも1つを含む。
また、本実施形態は、本実施形態の算出方法を用いて算出した溶接パラメータを用いて母材2を溶接する溶接方法も提供する。
さらに、本実施形態は本実施形態の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラムも提供する。

【0015】
本実施形態の算出方法は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含む。
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークである。
ニューラルネットワークとは、人間の情報処理システムの中枢である脳神経系を模擬した、並列・分散・学習的な情報処理を行う数理的モデルである。層状に並べたユニットが,隣接層間でのみ結合した構造を持ち、情報が入力側から出力側へのみ伝播する。1つのユニットは、複数の入力チャンネルと1つの出力チャンネルを持ち、各チャンネルに割り当てられた重みを使って、全入力データの重み付き和が計算された後,活性化関数を介して出力チャンネルに送られる。図1に本実施形態で採用した多入力・一出力のユニットを示す。また、入力と出力との関係を以下に示す。

【0016】
【数1】
JP2019048309A_000003t.gif

【0017】
zj = f(uj) uj:入力、Wij:重み、bj:バイアス、zj:出力
応力関数fとしては以下のシグモイド関数を採用している。
入力ユニットは線形の入出力関係をもつものとし、入力データは[0,1]に正規化する。

【0018】
【数2】
JP2019048309A_000004t.gif

【0019】
入力と望ましい出力がペアとなったデータを教師データとよぶ。教師データを多数用意し、これらの組に対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することを「学習」という。学習は、通常ニューラルネットワークによって算出された出力と教師データの差の二乗和が最小となるように重みを調整する。出力と教師データの差の二乗和は,誤差関数とよばれ次のように表される。

【0020】
【数3】
JP2019048309A_000005t.gif

【0021】
dn:n番目の出力ユニットの教師信号、y(xn,W):n番目の出力ユニットの出力信号
ニューラルネットワークの学習には、逆誤差伝播法を用いる。逆誤差伝播法とは、誤差関数に基づき出力層から入力層の方向に向かって誤差関数の重み微分値を順次計算し、誤差関数が最小となるように重みを更新していく方法である。本手法では,重みの更新は勾配法を用いて行う。次式のように誤差関数Eの重みに関する勾配を計算し、それを古い重みから差し引くことで重みを更新する。

【0022】
【数4】
JP2019048309A_000006t.gif

【0023】
【数5】
JP2019048309A_000007t.gif

【0024】
Wjk:j番目のユニットとk番目のユニットに関する重み、eoutput,k:k番目のユニットの誤差、oj:j番目のユニットの出力、α:学習率
このように出力層から入力層の方向に向かって順次重みを更新していく。ニューラルネットワーク全体の重みの更新が終了後、再度出力層での誤差を計算し出力層から入力層の方向に向かって順次重みを更新していく。このような反復計算を行うことによって、誤差関数が最小となるような重みになるよう調節し、入力と出力との関係を関数(非線形の他変数関数)で表すことができる。このような関数を用いることにより、単純な行列計算を用いて残留応力などを算出することができるため、高速な計算が可能になる。

【0025】
本実施形態の算出方法では、残留応力分布から溶接パラメータを算出すること、及び溶接パラメータから残留応力分布、変形分布、ひずみ分布、温度分布のうち少なくとも1つを算出することが可能であるが、ここでは、残留応力分布から溶接パラメータを算出する方法、及び溶接パラメータから残留応力分布を算出する方法について説明する。同様の方法を用いて、溶接パラメータから変形分布、ひずみ分布又は温度分布を算出することが可能である。
本実施形態では、第1フェーズにおいて教師データを作成し、第2フェーズでその教師データをニューラルネットワークに学習させる。その後第3フェーズで学習済みニューラルネットワークを利用する。本実施形態の算出方法は、少なくとも第3フェーズを含む。
第1フェーズにおける教師データは、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成される。教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力とのペアであり、このペアを溶接パラメータを変えて複数作成する。
例えば、教師データは、理想化陽解法FEM、JWRIAN、ASU/WELD-Master、Abaqus、MSC. Marcなどの構造解析ソフトを用いてシミュレーションを行い作成することができる。シミュレーションでは、少なくとも1つの溶接パラメータを変化させることができる解析モデルを作成し、様々な値の溶接パラメータを有する解析モデルについて残留応力を算出することができる。このことにより、溶接パラメータ及び解析モデルを入力とし残留応力を出力とする教師データを作成することができる。また、解析モデルに対応する溶接条件において溶接を行い、溶接部についてのX線回折により残留応力分布を調べ教師データを作成することもできる。また、X線回折とシミュレーションの両方を用いて教師データを作成してもよい。

【0026】
第2フェーズでは、作成した入力と出力の複数のペア(教師データ)に対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することによりニューラルネットワークを学習させる。例えば、解析モデル、入熱条件(位置、速度、順序)など溶接パラメータを含む入力と、変位、残留応力などの出力との複数のペアによりニューラルネットワークを学習させることができる。

【0027】
第3フェーズでは、学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出することができる。このため、学習済みのニューラルネットワークの汎化能力を利用して、シミュレーションや実験を行っていない溶接パラメータに対応する残留応力を算出することが可能になり、残留応力分布を容易に予測することができる。
例えば、図2に示したような学習済みのニューラルネットワークに溶接パラメータ、解析モデルなどを含むx1~xIを入力し、残留応力を含むZ1~ZJを出力することにより、残留応力を算出することができる。

【0028】
また、第3フェーズでは、学習済みのニューラルネットワークを用いて逆問題解析により残留応力を含む入力から溶接パラメータ(例えば、母材の寸法、入熱条件など)を含む出力を算出することができる。このため、残留応力分布に対応する溶接パラメータを算出することが可能であり、例えば、図4に示したような所望の残留応力分布に対応する溶接パラメータを予測することができる。このため、算出された溶接パラメータに従って母材を溶接することにより、所望の残留応力分布を有する溶接部又は所望の残留応力分布に近い残留応力分布を有する溶接部が形成されるように母材2を溶接することが可能になる。従って、溶接部の表面に圧縮の残留応力が発生するような溶接パラメータを算出することが可能であり、この溶接パラメータを用いて溶接することにより、表面に圧縮の残留応力が発生するように母材2を溶接することが可能になる。よって、応力腐食割れや疲労破壊などが生じにくい溶接部を形成することが可能になる。なお、図4においてマイナス(-)で示した領域が圧縮の残留応力が生じる領域であり、プラス(+)で示した領域が引張りの残留応力が生じる領域である。
例えば、図3に示したような学習済みのニューラルネットワークに残留応力を含むZ1~ZJを入力し、溶接パラメータを含むx1~xIを出力することにより、溶接パラメータを算出することができる。

【0029】
解析モデルは、溶接条件をコンピュータで扱えるように近似した数値モデルである。解析モデルは、溶接方法、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、母材2の材質、母材2の形状、溶接する母材2の位置関係、溶接材料の材質、溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序などを含む。解析モデルに含まれる溶接条件のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。算出したい溶接条件を溶接パラメータに設定することができる。また、残留応力分布への影響を調べたい溶接条件を溶接パラメータに設定することができる。

【0030】
溶接パラメータは、溶接材料8を用いて母材2を溶接する方法のパラメータである。本実施形態の算出方法では、解析モデル又は溶接条件に含まれる少なくとも1つの溶接パラメータを設定することができる。本実施形態の算出方法では、1つの溶接パラメータを設定してもよく、複数の溶接パラメータを設定してもよい。様々な値の溶接パラメータを有する複数の解析モデルについて教師データを作成することができる。このことにより、溶接パラメータと残留応力分布との関係についてニューラルネットワークに学習させることができ、溶接パラメータから残留応力を算出することや、残留応力から溶接パラメータを算出することが可能になる。また、教師データを実験で作成する場合、解析モデルに対応した条件で溶接実験を行い、溶接部の残留応力分布をX線回折などで調べることができる。
溶接方法は、例えば、アーク溶接又はレーザービーム溶接である。また、母材2の溶接方法は、開先溶接であってもよく、すみ肉溶接であってもよい。
溶接パラメータは、例えば母材2の材質、母材2の形状、又は溶接する2つの母材の位置関係である。母材2は被溶接材料であり、例えば、金属板、金属管などの金属材料である。例えば、溶接方法が溶接継手である場合、母材2aと母材2bとが溶接される。

【0031】
溶接パラメータに母材2の材質を設定した場合、例えば、母材2の材質を変化させて教師データを作成することができ、この教師データを用いてニューラルネットワークを学習させることができる。例えば、溶接パラメータに母材2に含まれる金属元素の含有量を設定し、この含有量を変化させることができる。母材2の材質は、例えば、鋼、ステンレス鋼、金属アルミニウムなどである。また、2つの母材2を溶接する場合、一方の母材2の材質を溶接パラメータに設定してもよい。
溶接パラメータに母材2の形状を設定する場合、例えば、母材2の板厚、外径、開先10の形状、すみ肉溶接する角部の形状などのうち少なくとも1つを溶接パラメータとして変化させて教師データを作成し、ニューラルネットワークを学習させることができる。例えば、図5、6に示したような母材2の形状(厚さ、長さなど)、母材2a、2bの位置関係、開先10の形状などのうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。

【0032】
例えば、溶接材料8の材質、溶接材料8の形状、溶接材料8の供給量のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。溶接材料8は、溶接の際に加える添加材料であり、例えば、溶接棒、溶接用ワイヤ、溶接用フラックス、帯状電極、溶接用金属粉末などである。これらの材質、形状、供給量を溶接パラメータとして変化させて教師データを作成し、ニューラルネットワークを学習させることができる。

【0033】
例えば、入熱量、溶接速度及び加熱位置のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。また、溶接方法がアーク溶接である場合、溶接パラメータに、例えば、溶接電流、印加電圧を設定することができる。また、溶接方法がレーザービーム溶接である場合、溶接パラメータにレーザービームのパワー密度を設定することができる。これらを溶接パラメータとして変化させて教師データを作成し、ニューラルネットワークを学習させることができる。また、溶接方法が多層溶接である場合、積層される溶接パスごとにこれらの溶接パラメータを設定することができる。
図5に示したようにアーク溶接をする場合、電源装置により母材2と溶接トーチ7との間に印加する電圧、母材2と溶接トーチ7との間に流れる溶接電流、母材2に対して溶接トーチ7が動く溶接速度のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。
また、入熱量は、溶接部に外部から与えられる熱量Hであり、アーク溶接の場合、入熱量は、式:H(J/cm)=60EI/v(I:溶接電流(A)、E:アーク電圧(V)、v:溶接速度(cm/min))で表される。

【0034】
溶接方法が多層溶接である場合、積層された溶接パスのパス割り、積層された溶接パスの溶接順序及びパス間温度のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。これらを溶接パラメータとして変化させて教師データを作成し、ニューラルネットワークを学習させることができる。
例えば、図6では、溶接パス6a~6fの6つの溶接パス6を4層に積層させている。このような溶接パス6のパス割りや溶接順序を溶接パラメータに設定することができる。この場合、本実施形態の算出方法により、パス割りや溶接順序を変化させたときの残留応力分布を予想することができる。また、逆問題解析により、望ましい残留応力分布が形成されるパス割りや溶接順序を予想することが可能である。

【0035】
ニューラルネットワークを用いた残留応力分布の算出
本計算で用いたニューラルネットワークは、人間の情報処理システムの中枢である脳神経系を模擬した、並列・分散・学習的な情報処理を行う数理的モデルである。例えば、図2、3に示したように、層状に並べたユニットが、隣接層間でのみ結合した構造を持ち、情報が入力側から出力側へのみ伝播する。

【0036】
まず、FEM熱弾塑性解析を実施することで残留応力分布を出力させ、入熱量を溶接パラメータとする教師データを作成した。FEM熱弾塑性解析に用いた第1解析モデル(ハーフモデル)を図7に示す。この第1解析モデルでは、解析対象材料がSUS304であり、図7の溶接線において2つの母材が溶接されている。また、図7に示した入熱領域への入熱量Qを700J/mm、900J/mm、1100J/mm、1300J/mm、1500J/mmと変えて、図7において破線で示した残留応力評価ライン(表面)における残留応力分布(教師データ)を作成した。解析結果を図8に示す。溶接パラメータである入熱量Qを変化させることにより残留応力分布が変化することが確認された。なお、正規化残留応力が大きい領域では、引張り(正)の残留応力が生じており、正規化残留応力が小さい領域では、圧縮(負)の残留応力が生じている。
正規化残留応力とは、700MPaをσ’=1.0とし、-700MPaをσ’=0.0となるように残留応力を線形変換したものである。
次に、FEM熱弾塑性解析によって得た教師データは,次式にしたがって[0,1]に正規化を行った。ここで、Qは入熱量であり、yは残留応力評価ラインにおける溶接線からの距離(座標)であり、σは残留応力である。

【0037】
【数6】
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【0038】
【数7】
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【0039】
【数8】
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【0040】
入熱量Qと溶接線からの距離yとを入力(Q、y)とし、距離yにおける残留応力σと出力として、作成した教師データ(入熱量Q:700J/mm、900J/mm、1100J/mm、1300J/mm、1500J/mm)を3層の中間層を持つニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークを学習させた。中間層のノード数は1000とした。
次に、学習させたニューラルネットワークに、学習させていない溶接パラメータである入熱量Q=800J/mmと距離yを入力し、残留応力σを出力させ、残留応力分布を作成した。作成した残留応力分布を図9に示す。また、図9には、入熱量Qを800J/mmとしてFEM熱弾塑性解析により作成した残留応力分布も示す。図9に示した結果から、教師データを学習させていない条件(入熱量Q=800J/mm)でニューラルネットワークを用いて作成した残留応力分布と、FEM熱弾塑性解析により作成した残留応力分布(入熱量Q=800J/mm)とがほぼ同じになることがわかった。従って、多数の教師データをニューラルネットワークに学習させることにより、学習させていない条件の残留応力分布を予測することができることがわかった。

【0041】
次に、図10に示した第2解析モデルを用いてFEM熱弾塑性解析を実施することで残留応力分布を出力し、金属管の外径を溶接パラメータとする教師データを作成した。第2解析モデルでは、図10の溶接金属において2つの金属管(母材)が溶接されている。また、第2解析モデルでは、溶接パラメータである金属管の外径を136.2mm(150A)、318.5mm(300A)、475.2mm(450A)と変えて解析を行った。また、板厚は12mmとし、入熱量Qは2000J/mmとし、溶接速度は0.9mm/sとし、熱効率は0.8とした。また、第2解析モデルでは、多層溶接(4層6パス)を行っており、図11に示した溶接パス6a~6fを図11に示した順序で積層させている。また、1層目および2層目は1層1パスとし,3層目以降の層は1層2パスの溶接形状とした。解析に使用した材料はSUS304であり、全パスを同一方向(周方向)に溶接するものとし、熱伝導解析においては、各パスの溶接金属を移動熱源により加熱する。また,金属材料は、高温状態において溶融に至らない場合においても塑性変形に伴う累積した転位が消滅する、いわゆるアニーリング効果を生じる。本解析では、アニーリング効果を生じる温度をアニール温度とし,800℃以上でアニーリング効果が発生するものと仮定した。

【0042】
FEM熱弾塑性解析の解析結果に基づき、図12に示した白丸の箇所における(x、y、σ)のデータを作成し、溶接パラメータである金属管の外径を含む入力と残留応力を含む出力とのペアである教師データを作成した。σは、座標(x、y)における残留応力である。また、図12は、溶接開始位置から溶接方向に180度回転させた箇所における溶接部の断面である。
図13に金属管の外径を136.2mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示し、図14に金属管の外径を318.5mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示し、図15に金属管の外径を475.2mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示す。図13~15から、金属管の内側表面において正規化残留応力が大きくなっており、引張りの残留応力が生じていることがわかった。また、この引張りの残留応力は、金属管の外径が大きいほど小さくなることがわかった。

【0043】
作成したこれらの教師データ(残留応力分布及び金属管の外径を含む)をニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークを学習させた。
次に、学習させたニューラルネットワークに、学習させていない溶接パラメータである金属管の外径=609.6mm(600A)を入力し、残留応力σを出力させ、残留応力分布を作成した。作成した残留応力分布を図16に示す。図16では、金属管の内側表面における正規化残留応力が大きくなって領域がなくなっており、教師データに比べ引張りの残留応力が小さくなっていることがわかった。このことから、図16の残留応力分布は、教師データにおける外径の変化に対する残留応力分布の変化の傾向と同様の傾向を示すものであることがわかった。従って、多数の教師データをニューラルネットワークに学習させることにより、学習させていない条件の残留応力分布を予測することができることがわかった。
【符号の説明】
【0044】
2、2a、2b: 母材 5:溶接金属 6、6a~6f:溶接パス 7:溶接トーチ 8:溶接材料 10:開先
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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