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明細書 :哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法及び哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-103423 (P2019-103423A)
公開日 令和元年6月27日(2019.6.27)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法及び哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キット
国際特許分類 C12N   1/00        (2006.01)
C12N   5/074       (2010.01)
C12N   5/0793      (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI C12N 1/00 ZNAG
C12N 5/074
C12N 5/0793
C12N 15/00 A
C12N 15/00 G
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-237231 (P2017-237231)
出願日 平成29年12月11日(2017.12.11)
発明者または考案者 【氏名】杉谷 博士
【氏名】中野 令
【氏名】松本 太郎
【氏名】加野 浩一郎
出願人 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100175824、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 淳一
【識別番号】100126882、【弁理士】、【氏名又は名称】五十嵐 光永
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB19
4B065BB20
4B065CA44
要約 【課題】神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便に、且つ、効率よく製造可能な、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法を提供する。
【解決手段】哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法であって、塩基性繊維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)と、レチノイン酸と、神経分化誘導剤と、エピジェネティクス阻害剤と、を含む培地を用いて、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞を培養する工程を備える方法である。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法であって、
塩基性繊維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)と、レチノイン酸と、神経分化誘導剤と、エピジェネティクス阻害剤と、を含む培地を用いて、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞を培養する工程を備える製造方法。
【請求項2】
前記神経分化誘導剤がISX9である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記エピジェネティクス阻害剤がIBET-151である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記神経分化誘導剤の濃度が50μM未満である請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キットであって、
神経細胞を培養するための培地と、
bFGFと、
レチノイン酸と、
神経分化誘導剤と、
エピジェネティクス阻害剤と、
を備えるキット。
【請求項7】
前記神経分化誘導剤がISX9である請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記エピジェネティクス阻害剤がIBET-151である請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
前記哺乳動物がヒトである請求項6~8のいずれか一項に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法及び哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経組織は、一般的に回復する能力が低く、一度損傷してしまうと自律的に機能再生することはない。そのため、脊髄損傷やパーキンソン病等の重度の中枢神経疾患に多くの患者が苦しめられている。
【0003】
これらの疾患に対して、ヒトiPS細胞等の多能性幹細胞やダイレクトリプログラミング技術によって作成した神経細胞(例えば、特許文献1等参照)を移植する神経再生医療が試みられている。神経再生医療を行うためには、元になる細胞を生体外で神経細胞へと分化誘導する基礎技術が必要である。しかし、ヒトiPS細胞やダイレクトリプログラミング技術は、神経細胞の作出のために遺伝子導入を行う必要がある。そのため、細胞の腫瘍化、予期せぬ遺伝子変異、過剰な免疫応答といった危険性を排除しきれない。したがって、神経再生医療を実現するために、遺伝子導入を行わずに生体外で神経細胞へと分化誘導する方法とそれに適した細胞源が求められている。
【0004】
一方、本発明者らはこれまで、動物の脂肪組織由来の成熟脂肪細胞を脱分化させた脱分化脂肪細胞の製造方法を開発してきた(例えば、特許文献2及び3等参照)。また、特許文献3には、この脱分化脂肪細胞を神経細胞へと分化するために、1~10mMのβ-メルカプトエタノール及び血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2010/140698号
【特許文献2】特許第5991687号公報
【特許文献3】特許第5055613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載の方法により得られた神経細胞は、その外観上の形質により神経細胞であることが確認されているが、活動電位、神経伝達物質への感受性等、神経細胞に特異的な機能については検討されていない。よって、簡便且つ大量に、効率よく神経細胞に特異的な機能を有する神経細胞を製造できる方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便に、且つ、効率よく製造可能な、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法及び哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法は、塩基性繊維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)と、レチノイン酸と、神経分化誘導剤と、エピジェネティクス阻害剤と、を含む培地を用いて、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞を培養する工程を備える製造方法である。
【0009】
上記第1態様に係る製造方法において、前記神経分化誘導剤がISX9であってもよい。
【0010】
上記第1態様に係る製造方法において、前記エピジェネティクス阻害剤がIBET-151であってもよい。
【0011】
上記第1態様に係る製造方法において、前記神経分化誘導剤の濃度が50μM未満であってもよい。
【0012】
上記第1態様に係る製造方法において、前記哺乳動物がヒトであってもよい。
【0013】
本発明の第2態様に係る哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キットは、神経細胞を培養するための培地と、bFGFと、レチノイン酸と、神経分化誘導剤と、エピジェネティクス阻害剤と、を備える。
【0014】
上記第2態様に係るキットにおいて、前記神経分化誘導剤がISX9であってもよい。
【0015】
上記第2態様に係るキットにおいて、前記エピジェネティクス阻害剤がIBET-151であってもよい。
【0016】
上記第2態様に係るキットにおいて、前記哺乳動物がヒトであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記態様の製造方法及びキットによれば、神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便に、且つ、効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞での神経細胞の各種マーカー(MAP2、NF-L及びAscl1)のmRNAの発現量の相対比の経時的な変化を示すグラフである。
【図2】実施例1における神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)の活動電位を示すグラフである。
【図3A】実施例1における神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)での脱分極刺激前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を示す画像である。
【図3B】実施例1における神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)でのアセチルコリン刺激前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を示す画像である。
【図3C】実施例1における神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)でのドーパミン刺激前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を示す画像である。
【図4】実施例2における各種低分子化合物を含む培地を用いて培養した細胞(培養14日目)での神経細胞マーカー(NF-L)のmRNAの発現量の相対比を比較したグラフである。
【図5】実施例3における異なる濃度のISX9を含む神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)の細胞生存率を比較したグラフである。
【図6】実施例3における異なる濃度のISX9を含む神経細胞分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養14日目)での神経細胞の各種マーカー(NF-L及びMAP2)のmRNAの発現量の相対比を比較したグラフである。
【図7A】試験例1におけるアトロピン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)処理及び未処理の実施例1で得られた神経細胞でのアセチルコリン刺激による細胞内カルシウムイオン濃度の経時的な変化を比較したグラフである。
【図7B】試験例1におけるD1受容体アンタゴニスト処理及び未処理の実施例1で得られた神経細胞でのドーパミン刺激による細胞内カルシウムイオン濃度の経時的な変化を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法≫
本実施形態の哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法は、以下に示す(a)~(d)の成分を含む培地(以下、「神経細胞への分化誘導培地」と称する場合がある)を用いて、哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞を培養する工程(以下、「培養工程」と称する場合がある)を備える製造方法である。
(a)塩基性繊維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF);
(b)レチノイン酸;
(c)神経分化誘導剤;
(d)エピジェネティクス阻害剤

【0020】
本実施形態の製造方法によれば、上記構成の培地を用いることで、神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便に、且つ、効率よく製造できる。

【0021】
なお、本明細書において、「神経細胞に特異的な機能」とは、神経細胞マーカー(例えば、MAP2、NF-L、Ascl1等)のmRNAが発現していること、活動電位を有すること、及び、神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン等)への感受性を有することを意味する。

【0022】
後述する実施例に示すとおり、本実施形態の製造方法によって得られる神経細胞は、上記例示した神経細胞に特異的な機能を有することが確認されている。なお、ニコチン感受性を有さないため、本実施形態の製造方法によって得られる神経細胞は、中枢系の神経細胞であると考えられる。そのため、得られた神経細胞は、中枢系の神経細胞に有効な薬剤のスクリーニングに使用することができる。また、個人の脂肪細胞を由来として、大量の分化脂肪細胞を製造し、更に、大量の神経細胞を製造できる。そのため、中枢神経組織の疾患(例えば、脊髄損傷やパーキンソン病等)へのオーダーメイド再生医療の細胞源としても使用できる。

【0023】
<培養工程>
培養工程は、神経細胞への分化誘導培地を用いて、脱分化脂肪細胞を培養する工程である。

【0024】
培養温度としては、例えば25℃以上40℃以下とすることができ、例えば30℃以上37℃以下とすることができる。

【0025】
培養時間としては、例えば10日以上30日以下とすることができ、例えば、14日以上28日以下とすることができる。

【0026】
培養工程でのCO濃度としては、例えば5%CO下とすることができる。

【0027】
[脱分化脂肪細胞]
培養工程に用いられる脱分化脂肪細胞は、本発明者らが開発した公知の方法(例えば、特許文献2及び3参照)を用いて、成熟脂肪細胞を脱分化することで得られる。具体的には、まず、脂肪組織からコラゲナーゼ処理等により成熟脂肪細胞を単離する。次いで、単離された成熟脂肪細胞を天井培養法によって培養することで脱分化脂肪細胞が得られる。

【0028】
また、本実施形態の製造方法において用いられる脱分化脂肪細胞は、哺乳動物に由来するものであればよい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等が挙げられる。中でも、哺乳動物としては、ヒトが好ましい。

【0029】
また、培養工程に用いられる脱分化脂肪細胞は、予め低栄養の培地を用いて培養して飢餓状態としておいてもよい。低栄養の培地として具体的には、例えば、2%のB-27 Serum-Free Supplement(Thermo Fisher社製)を含有するNeurobasal(登録商標)-A Medium(Thermo Fisher社製)等が挙げられる。これにより、高効率で、神経細胞へ分化誘導することができる。

【0030】
[神経細胞への分化誘導培地]
培養工程に用いられる神経細胞への分化誘導培地は、上記(a)~(d)の成分を含む培地である。各構成成分について、以下に詳細を説明する。

【0031】
((a)塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF))
一般に、「塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)」は、FGF2とも呼ばれ、低分子量型(LWL)と高分子量型(HWL)との2つのアイソフォームを持つ。低分子量型FGF2は主に細胞質に存在し自己分泌(オートクリン)で作用する。一方、高分子量型FGF2は核内にあり、細胞内で作用するイントラクリン機構で活性を示す。培地に含まれるbFGFとしては、低分子量型であってもよく、高分子量型であってもよい。

【0032】
bFGFは、脱分化脂肪細胞の由来となる哺乳動物と同じ種の動物に由来するものであってもよく、異なる種の動物に由来するものであってもよいが、脱分化脂肪細胞の由来となる哺乳動物と同じ種の動物に由来するものであることが好ましい。例えば、ヒト由来の脱分化脂肪細胞を用いる場合は、bFGFもヒト由来のものを用いることが好ましい。

【0033】
培地に含まれるbFGFの濃度は、10μg/mL以上500μg/mL以下であることが好ましく、30μg/mL以上300μg/mL以下であることがより好ましく、50μg/mL以上150μg/mL以下であることが更に好ましい。

【0034】
((b)レチノイン酸)
一般に、「レチノイン酸」は、ビタミンA(レチノール)の代謝物質であり、成長や発達に必要なビタミンAの機能を媒介することが知られている。

【0035】
レチノイン酸は、シス体であってもよく、トランス体であってもよい。中でも、レチノイン酸は、二重結合がすべてトランス型をとった、オール・トランス異性体(すなわち、トレチノイン)であることが好ましい。

【0036】
培地に含まれるレチノイン酸の濃度は、1μM以上100μM以下であることが好ましく、3μM以上50μM以下がより好ましく、5μM以上15μM以下が更に好ましい。

【0037】
((c)神経分化誘導剤)
神経分化誘導剤としては、特別な限定はないが、神経分化誘導能を有するイソキサゾール環を有する低分子化合物であることが好ましい。

【0038】
ここでいう「神経分化誘導能」とは、脱分化脂肪細胞を上述する機能を有する神経細胞に分化誘導させる性質を意味する。

【0039】
このような低分子化合物として具体的には、例えば、ISX9及びその誘導体が挙げられる。

【0040】
中でも、神経分化誘導剤としては、ISX9が好ましい。

【0041】
培地に含まれる神経分化誘導剤の濃度としては、50μM未満であることが好ましく、5μM以上50μM未満であることがより好ましく、10μM以上20μM以下であることが更に好ましく、20μMであることが特に好ましい。

【0042】
特に、培地に含まれる神経分化誘導剤の濃度が50μM未満であることにより、細胞生存率をより高く保ちながら、脱分化脂肪細胞を効率よく神経細胞へ誘導することができる。

【0043】
((d)エピジェネティクス阻害剤)
エピジェネティクス阻害剤としては、特別な限定はないが、エピジェネティクス阻害能を有するイソキサゾール環を有する低分子化合物であることが好ましい。

【0044】
ここでいう、「エピジェネティクス阻害能」とは、DNAのメチル化、ヒストンのアセチル化及びメチル化等のDNA及びヒストンの化学修飾を阻害する、又は、それら化学修飾を認識するタンパク質を阻害する性質を意味する。具体的には、例えば、DNAメチル基転移酵素(DNMT)を阻害すること、メチル化DNA結合タンパク質を阻害すること、ヒストンアセチル基転移酵素(HAT)を阻害すること、ヒストン脱アセチル化酵素を促進すること、ブロモドメインタンパク質(BRD)を阻害すること、ヒストンのリシンメチル基転移酵素(KMT)を阻害すること、ヒストンのリシン脱メチル化酵素を促進すること、メチル化リシン結合タンパク質(MKBP)を阻害すること等が挙げられる。

【0045】
このような低分子化合物として具体的には、例えば、DNMT阻害薬、HAT阻害薬、BRD阻害薬、KMT阻害薬、MKBP阻害薬等が挙げられる。

【0046】
DNMT阻害薬としては、例えば、アザシチジン、デシタビン及びそれらの誘導体等が挙げられる。

【0047】
HAT阻害薬としては、例えば、C646、アセチルCoAアナログ及びそれらの誘導体等が挙げられる。

【0048】
BRD阻害薬としては、例えば、IBET-151、IBET-762及びそれらの誘導体等が挙げられる。

【0049】
KMT阻害薬としては、例えば、DOT1L、EZH2及びそれらの誘導体等が挙げられる。

【0050】
MKBP阻害薬としては、例えば、UNC1215及びその誘導体等が挙げられる。

【0051】
中でも、エピジェネティクス阻害剤としては、IBET-151であることが好ましい。

【0052】
培地に含まれるエピジェネティクス阻害剤の濃度は、0.1μM以上10μM以下であることが好ましく、0.3μM以上5μM以下であることがより好ましく、0.5μM以上3μM以下であることが更に好ましく、2μMであることが特に好ましい。

【0053】
((e)その他構成成分)
培地は、上記(a)~(d)の成分に加えて、更に、(e)その他構成成分を含有していてもよい。

【0054】
その他構成成分としては、特別な限定はなく、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等が挙げられる。

【0055】
培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、及び、膜電位の調節を助けるためのものである。

【0056】
無機塩としては、特別な限定はなく、例えば、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛等の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び重炭酸塩の形で用いられる。

【0057】
一般的に、培地の重量オスモル濃度は、例えば200mOsm/kg以上400mOsm/kg以下とすることができ、例えば290mOsm/kg以上350mOsm/kg以下、例えば280mOsm/kg以上310mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上300mOsm/kg未満(具体的には、280mOsm/kg)とすることができる。

【0058】
炭水化物としては、特別な限定はなく、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。

【0059】
一般的に、培地中の炭水化物(好ましくは、D-グルコース)の濃度としては、0.5g/L以上2g/Lであることが好ましい。

【0060】
アミノ酸としては、特別な限定はなく、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、及びその組み合わせ等が挙げられる。

【0061】
一般的に、培地に含まれるグルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下)である。培地に含まれるグルタミン以外の各アミノ酸は、0.001g/L以上1g/L(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下)である。アミノ酸は合成由来でもよい。

【0062】
ビタミンとしては、特別な限定はなく、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、D-パントテン酸ヘミカルシウム、(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)、塩化コリン、myo-イノシトール等が挙げられる。

【0063】
培地は、更に抗生物質、血清又はホルモン等を含んでいてもよい。

【0064】
抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。

【0065】
一般的に、培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下とすることができる。

【0066】
血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。

【0067】
一般的に、培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下とすることができる。

【0068】
ホルモンとしては、例えば、インスリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン(ハイドロコーチゾン等)等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。

【0069】
一般的に、培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下とすることができる。

【0070】
また、ホルモンを含む培地添加剤として、ウシ脳下垂体抽出物(Bovine Pituitary Extract:BPE)を用いてもよい。

【0071】
培養工程に用いられる神経細胞への分化誘導培地は、上記各種構成成分を混合して調製してもよく、通常、神経細胞を培養するための培地に上記(a)~(d)の成分、及び、必要に応じて、上記(e)の成分等を添加して調製してもよい。

【0072】
神経細胞を培養するための培地としては、例えば、B-27 Serum-Free Supplement(Thermo Fisher社製)を添加したNeurobasal(登録商標)-A Medium(Thermo Fisher社製)等が挙げられる。

【0073】
≪哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キット≫
本実施形態の哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導用キットは、神経細胞を培養するための培地と、bFGFと、レチノイン酸と、神経分化誘導剤と、エピジェネティクス阻害剤と、を備える。

【0074】
本実施形態のキットによれば、神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便、且つ、効率よく製造できる。

【0075】
本実施形態のキットの各構成について、以下に詳細を説明する。

【0076】
<神経細胞を培養するための培地>
本実施形態のキットに含まれる神経細胞を培養するための培地としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0077】
<bFGF>
本実施形態のキットに含まれるbFGFとしては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0078】
<レチノイン酸>
本実施形態のキットに含まれるレチノイン酸としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、レチノイン酸は、二重結合がすべてトランス型をとった、オール・トランス異性体(すなわち、トレチノイン)であることが好ましい。

【0079】
<神経分化誘導剤>
本実施形態のキットに含まれる神経分化誘導剤としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、神経分化誘導剤としては、ISX9が好ましい。

【0080】
<エピジェネティクス阻害剤>
本実施形態のキットに含まれるエピジェネティクス阻害剤としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、エピジェネティクス阻害剤としては、IBET-151であることが好ましい。

【0081】
<その他構成>
本実施形態のキットは、上記構成に加えて、更に、その他構成を備えていてもよい。

【0082】
本実施形態のキットに含まれるその他構成としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において、「その他構成成分」として例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0083】
本実施形態のキットに含まれる上記構成を、各構成中の各成分が上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において説明した濃度となるように混合することで、神経細胞への分化誘導培地が調製できる。この分化誘導培地を用いることで、脱分化脂肪細胞から神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便、且つ、効率よく製造できる。

【0084】
本実施形態のキットを用いて培養する脱分化脂肪細胞としては、上記「哺乳動物由来の脱分化脂肪細胞から神経細胞を製造する方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、脱分化脂肪細胞はヒト由来であることが好ましい。

【0085】
また、本実施形態のキットを用いて得られる神経細胞は、上記例示した神経細胞に特異的な機能を有することが確認されている。なお、ニコチン感受性を有さないため、本実施形態のキットを用いて得られる神経細胞は、中枢系の神経細胞であると考えられる。そのため、得られた神経細胞は、中枢系の神経細胞に有効な薬剤のスクリーニングに使用することができる。また、個人の脂肪細胞を由来として、大量の分化脂肪細胞を製造し、更に、大量の神経細胞を製造できる。そのため、中枢神経組織の疾患(例えば、脊髄損傷やパーキンソン病等)へのオーダーメイド再生医療の細胞源としても使用できる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
[実施例1]
1.脱分化脂肪細胞の作製
まず、公知の方法(例えば、特許文献2等参照)を用いて、ヒト成熟脂肪細胞からヒト脱分化脂肪細胞を作製した。具体的には、まず、ヒト頬粘膜下に位置する頬脂肪体より採取した脂肪組織5gを、終濃度が0.02w/v%となるようにコラゲナーゼ(TypeII)(SIGMA社製)を添加したNaHCO含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(SIGMA社製)に入れ、コラゲナーゼ処理を行った。コラゲナーゼ処理を行った後、ナイロンメッシュにて濾過し、細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁液を1分間、700Gで遠心分離し、上層に分離される単胞性脂肪画分を新鮮な10%FBS添加DMEMに加え、1分間、700Gの遠心分離を3回繰り返すことで、単胞性脂肪細胞として成熟脂肪細胞を得た。
【実施例】
【0088】
次いで、得られた単胞性脂肪細胞を組織培養フラスコ(Falcon,3107)に移し、20%FBS、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを添加したDMEMでフラスコ内を完全に満たし、37℃、5%CO、95%空気の気相に調節した炭酸ガス培養装置内にフラスコ底面が上となるように静置して7日間培養した。
【実施例】
【0089】
培養4日後には大部分の細胞がフラスコ天井面にしっかりと接着し、大型の脂肪滴の周辺に種々の大きさの脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞へと形態変化した。培養6日後には脂肪滴が更に小さくなり、脂肪滴をまったく持たない線維芽細胞様の形態に変化する細胞が多数観察された。
【実施例】
【0090】
培養7日後にフラスコ内の培地を20%FBS添加DMEMに交換し、細胞接着面が底面になるようにして炭酸ガス培養装置内で10日間培養を続けた。培地交換は4日毎に行った。脂肪滴を持たない細胞は活発に増殖し、培養10日後にはフラスコ内の細胞は線維芽細胞様の細胞のみとなり、コンフルエントに達した。
【実施例】
【0091】
この線維芽細胞様の細胞は、活発な増殖能を有し、またDEX、INS、IBMX等の
分化誘導剤により、脂肪滴を有する脂肪細胞に再分化する分化能を有することから、単胞
性脂肪細胞由来の脱分化脂肪細胞として作出された。
【実施例】
【0092】
次いで、1%ペニシリン及びストレプトマイシン並びに20%FBS添加DMEM(高濃度グルコース)を用いて、作出された脱分化脂肪細胞を、1×10cells/5mL/75-cm flaskの濃度となるように添加して培養した。培地交換は2~3日に1度行った。
【実施例】
【0093】
1週間に一度継代し、4回継代培養した。次いで、4回目の継代培養後、5mLのPBSで洗浄した。次いで、2mLのトリプシン-EDTAを用いて、37℃で2分間処理した。次いで、処理後の細胞を回収して、300gで1分間室温にて遠心した。次いで、1×10cells/5mL/75-cm flaskの濃度となるように細胞を播種して、培養した。
【実施例】
【0094】
2.分化誘導培地の作製
次いで、以下の表1に示す組成となるように、各成分を混合し、神経細胞への分化誘導培地を調製した。
【実施例】
【0095】
【表1】
JP2019103423A_000002t.gif
【実施例】
【0096】
3.脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導
次いで、「1.」で準備した脱分化脂肪細胞を5mLのPBSで洗浄した。次いで、2mLのトリプシン-EDTAを用いて、37℃で2分間処理した。次いで、処理後の細胞を回収して、300gで1分間室温にて遠心した。次いで、3.0×10cells/1ウェルとなるように、6ウェルプレートに播種して、24時間培養した。
【実施例】
【0097】
次いで、1mLのPBSで洗浄した。次いで、1mLの2%B27含有Neurobasal(登録商標)-A培地(以下、「NA培地」と略記する場合がある)を用いて、細胞を飢餓状態で24時間培養した。
【実施例】
【0098】
次いで、1mLのPBSで洗浄した。次いで、「2.」で作製した分化誘導培地1mLを用いて、21日間培養した。培地交換は、1週間に1回行った。
【実施例】
【0099】
4.神経細胞マーカーのmRNA発現の確認
次いで、「3.」で分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養0、7、14及び21日目)について、1mLのトリゾールを用いて、全RNAを回収した。次いで、以下の表2に示すプライマーを用いたリアルタイムRT-PCRにより、神経細胞の各種マーカー(MAP2、NF-L及びAscl1)のmRNAの発現を確認した。結果を図1に示す。なお、対照としてGAPDHのmRNAの発現量を測定した。図1では、GAPDHのmRNAの発現量に対する神経細胞の各種マーカー(MAP2、NF-L及びAscl1)のmRNAの発現量を相対比で示している。
【実施例】
【0100】
【表2】
JP2019103423A_000003t.gif
【実施例】
【0101】
図1から、培養14日目には、神経細胞の各種マーカーのmRNAの発現が顕著に増加していた。
【実施例】
【0102】
5.活動電位の確認
次いで、「3.」で分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)について、パッチクランプ法により、活動電位を計測した。結果を図2に示す。
【実施例】
【0103】
図2から、培養21日目の細胞において、活動電位が観察された。
【実施例】
【0104】
6.外部刺激に対する細胞内Ca2+濃度変化の確認
次いで、「3.」で分化誘導培地を用いて培養した細胞(培養21日目)について、カルシウムイメージング法を用いて、脱分極刺激、アセチルコリン刺激及びドーパミン刺激の前後での細胞内Ca2+濃度変化を観察した。結果を図3A(脱分極刺激)、図3B(アセチルコリン刺激)及び図3C(ドーパミン刺激)に示す。
【実施例】
【0105】
図3A~図3Cから、脱分極刺激、アセチルコリン刺激及びドーパミン刺激の全てにおいて、刺激後の細胞では、細胞内Ca2+濃度の上昇が観察された。
【実施例】
【0106】
以上のことから、上記分化誘導培地を用いて培養した細胞は、培養14日目には、神経細胞の各種マーカーが発現しており、培養21日目には、神経細胞に特異的な機能を有することが確かめられた。
【実施例】
【0107】
[実施例2]
次いで、神経分化誘導剤として、ISX9以外の低分子化合物を用いて、神経細胞への分化誘導可能かを確認した。
【実施例】
【0108】
1.脱分化脂肪細胞の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、脱分化脂肪細胞を準備した。
【実施例】
【0109】
2.分化誘導培地の作製
ISX9の代わりに、以下に示す低分子化合物を用いて、その他の成分については、実施例1の「2.」と同様の組成となるように培地を調製した。また、コントロールとして、神経分化誘導剤を含まない培地、及び、20μMのISX9を含む培地を準備した。
・SP600125(Sigma-Aldrich社製)
・SU5402(Sigma-Aldrich社製)
・FIPI(Sigma-Aldrich社製)
・SU6656(Sigma-Aldrich社製)
・YM254890(Sigma-Aldrich社製)
・MK2206(Sigma-Aldrich社製)
・GSK525762(Sigma-Aldrich社製)
・JW67(Sigma-Aldrich社製)
・SKF86002(Sigma-Aldrich社製)
・SB239063(Sigma-Aldrich社製)
・FR180204(Sigma-Aldrich社製)
・U0126(Sigma-Aldrich社製)
【実施例】
【0110】
3.脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導
各種低分子化合物を含む培地を用いた以外は、実施例1の「3.」と同様の方法を用いて、脱分化脂肪細胞を培養して、神経細胞への分化誘導を試みた。
【実施例】
【0111】
4.神経細胞マーカー(NF-L)のmRNA発現の確認
次いで、実施例1の「4.」と同様の方法を用いて、各種低分子化合物を含む培地で培養した細胞(培養14日目)について、神経細胞マーカーであるNF-LのmRNAの発現を確認した。結果を図4に示す。
【実施例】
【0112】
図4から、ISX9以外の低分子化合物を含む培地を用いて培養した細胞において、NF-LのmRNAの発現を確認できたものはなかった。
【実施例】
【0113】
[実施例3]
次いで、神経細胞へ分化誘導するためのISX9の最適濃度を検討した。
【実施例】
【0114】
1.脱分化脂肪細胞の作製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、脱分化脂肪細胞を準備した。
【実施例】
【0115】
2.分化誘導培地の作製
ISX9の最終濃度を0、1、3、5、5、10、20、50、100及び200μMとふって、その他の成分については、実施例1の「2.」と同様の組成となるように培地を調製した。
【実施例】
【0116】
3.脱分化脂肪細胞から神経細胞への分化誘導
異なる濃度のISX9を含む培地を用いた以外は、実施例1の「3.」と同様の方法を用いて、脱分化脂肪細胞を培養して、神経細胞への分化誘導を試みた。
【実施例】
【0117】
4.細胞生存率の確認
次いで、実施例1の「4.」と同様の方法を用いて、異なる濃度(0、20、50、100及び200μM)のISX9を含む培地で培養した細胞(培養21日目)について、LIVE/DEAD(登録商標)細胞生存率キットを用いて細胞を染色し、生細胞及び死細胞を計測して、細胞生存率を算出した。結果を図5に示す。
【実施例】
【0118】
図5から、ISX9の濃度が50μM以上では、細胞死が引き起こされ、細胞生存率が低下することが明らかとなった。
【実施例】
【0119】
5.神経細胞マーカー(NF-L及びMAP2)のmRNA発現の確認
次いで、実施例1の「4.」と同様の方法を用いて、異なる濃度(0、1、3、5、5、10及び20μM)のISX9を含む培地で培養した細胞(培養14日目)について、神経細胞マーカーであるNF-L及びMAP2のmRNAの発現を確認した。結果を図6に示す。
【実施例】
【0120】
図6から、神経細胞マーカーであるNF-L及びMAP2のmRNAの発現量は、ISX9の濃度依存的に上昇することが明らかとなった。
【実施例】
【0121】
[試験例1]
神経細胞を用いて、アセチルコリン又はドーパミン刺激に対する各種アンタゴニストの影響を試験した。
【実施例】
【0122】
具体的には、実施例1で得られた神経細胞に、アトロピン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)又はD1受容体アンタゴニストを添加して、10分間培養した。また、コントロールとして、各種アンタゴニストを添加せずに培養した細胞も準備した。次いで、カルシウムイメージング法を用いて、ムスカリン受容体アンタゴニストを添加した細胞には、アセチルコリン刺激を、D1受容体アンタゴニストを添加した細胞には、ドーパミン刺激を加えて、経時的な細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定した。結果を図7A(アトロピン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)添加)及び図7B(D1受容体アンタゴニスト添加)に示す。
【実施例】
【0123】
図7A及び図7Bから、アトロピン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)又はD1受容体アンタゴニストを添加した細胞では、アセチルコリン刺激又はドーパミン刺激による細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が抑制されることが確かめられた。
【実施例】
【0124】
以上のことから、上記分化誘導培地を用いて培養して得られた神経細胞は、薬剤のスクリーニングへ応用できる可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本実施形態の製造方法及びキットによれば、神経細胞に特異的な機能を有する大量の神経細胞を簡便、且つ、効率よく製造できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図3C】
4
【図4】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7A】
8
【図7B】
9