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明細書 :重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-042511 (P2018-042511A)
公開日 平成30年3月22日(2018.3.22)
発明の名称または考案の名称 重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
FI C12Q 1/68 Z
G01N 33/50 P
G01N 33/68
C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNA
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2016-180356 (P2016-180356)
出願日 平成28年9月15日(2016.9.15)
発明者または考案者 【氏名】松本 直通
【氏名】三宅 紀子
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
Fターム 2G045AA25
2G045DA13
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ43
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
要約 【課題】重度の小児期早期発症神経変性脳症の確定診断や出生前診断、その保因者の検出を可能にする手段を提供すること。
【解決手段】本願発明者らは、症状の重篤度が異なる小児期早期発症の神経変性脳症を呈する4家系8症例の責任遺伝子を同定すべく鋭意に解析した結果、TBCD遺伝子に合計7種の病因変異を同定し、さらに、重症例で複合ヘテロ変異として発見された6種類の変異と比較的軽度の症例で見られた1種類のホモ変異との間では、ARL2及びTBCEなどの結合パートナーとの結合レベルに明らかな差異があること等を見出した。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
対象から分離された試料を用いて、対象生体が重度の小児期早期発症神経変性脳症の指標となる下記のTBCD遺伝子の有害な変異の少なくともいずれかを有するか否かを調べることを含む、重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者の検出方法。
(1) TBCD遺伝子コード領域の第1160位のT(配列番号12中の356位)がGになる変異
(2) TBCD遺伝子コード領域の第1564位より12塩基上流のイントロン中のC(配列番号17中の322位)がGになる変異
(3) TBCD遺伝子コード領域の第2280位のC(配列番号27中の345位)がAになる変異
(4) TBCD遺伝子コード領域の第2314位のC(配列番号27中の379位)がTになる変異
(5) TBCD遺伝子コード領域の第2761位のG(配列番号31中の367位)がAになる変異
(6) TBCD遺伝子コード領域の第3365位のC(配列番号35中の419位)がTになる変異
【請求項2】
TBCD遺伝子の有害な変異がホモ接合又は複合ヘテロ接合で検出された場合に、重度の小児期早期発症神経変性脳症が検出され、ヘテロ接合で検出された場合に保因者が検出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列を調べることにより行なわれる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
対象生体が出生後のヒト又はヒト胎児である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
対象から分離された試料を用いて、対象生体がTBCD遺伝子に変異を有するか否かを調べる工程、
検出された変異を有するTBCD遺伝子にコードされる変異型TBCDタンパク質を調製する工程、並びに
調製した変異型TBCDタンパク質及び野生型TBCDタンパク質と、ARL2及びTBCEから選択される少なくとも1つの結合パートナーとの結合能をそれぞれ調べる工程
を含む、小児期早期発症神経変性脳症の病因変異の重症度を予測又は判定する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α/β-チューブリンヘテロ二量体は、TBCA、TBCB、TBCC、TBCD、TBCEの5つのチューブリン折り畳み補因子(TBC)を含むチューブリン特異的シャペロンの助けを受けて形成される(非特許文献1、2)。単量体のα-チューブリン及びβ-チューブリンは、まずTBCB及びTBCAにそれぞれ結合し、TBCE及びTBCDにそれぞれ引き渡され、TBCC及びARL2と一緒になって複合体を形成する(非特許文献1、3~5)。
【0003】
5つのTBC遺伝子のうち、これまでにTBCD遺伝子及びTBCE遺伝子の変異とヒト疾患との関連が報告されている。
【0004】
TBCE遺伝子(NM_003193.4, MIM*604934)の変異は、常染色体劣性のHRD(Hypoparathyroidism-Retardation-Dysmorphism)症候群(MIM#241410)に関連することが知られている(非特許文献6)。この症候群は、先天性副甲状腺機能低下症、小頭、脳梁低形成、知的障害、成長傷害、特徴的顔貌を特徴とする(非特許文献7)。また、TBCE遺伝子の変異は骨異形成を伴う類似の疾患であるKenny-Caffey症候群(MIM#244460)とも関連がある(非特許文献6)。
【0005】
TBCD遺伝子(NM_005993.4, MIM*604649)の変異は、ごく近年Edvardsonらによって報告された(非特許文献8)。Edvardsonらが同定したTBCD変異はc.G1423A, p.A475Tとc.C1757T, p.A586Vの2種であり、小児期早期に発症した神経変性疾患4症例との関連が報告されている。しかしながら、小児期早期に発症する神経変性脳症の中には、Edvardsonらが報告した4症例よりも症状が重篤な、重度の筋力低下、進行性の脳萎縮、人工呼吸器を生涯必要とする呼吸障害などを呈する症例も知られており、それら重症例の責任遺伝子ないしは病因変異についてはいまだ報告がない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Tian, G. et al., J Cell Biol 138, 821-832, 1997
【非特許文献2】Lewis, S.A. et al., Trends Cell Biol 7, 479-484, 1997
【非特許文献3】Bhamidipati, A. et al., J Cell Biol 149, 1087-1096, 2000
【非特許文献4】Tian, G. et al., J Biol Chem 274, 24054-24058, 1999
【非特許文献5】Nithianantham, S. et al., eLife 2015, 4, e08811
【非特許文献6】Parvari, R. et al., Nat Genet 32, 448-452, 2002
【非特許文献7】Sanjad, S.A. et al., Arch Dis Child 66, 193-196, 1991
【非特許文献8】Edvardson, S. Hum Mol Genet. 2016 Aug 29. pii: ddw292.(Epub)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、重度の小児期早期発症神経変性脳症の確定診断や出生前診断、その保因者の検出を可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、症状の重篤度が異なる小児期早期発症の神経変性脳症を呈する4家系8症例の責任遺伝子を同定すべく鋭意に解析した結果、TBCD遺伝子に合計7種の病因変異を同定し、さらに、重症例で複合ヘテロ変異として発見された6種類の変異と比較的軽度の症例で見られた1種類のホモ変異との間では、ARL2及びTBCEなどの結合パートナーとの結合レベルに明らかな差異があること等を見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、対象から分離された試料を用いて、対象生体が重度の小児期早期発症神経変性脳症の指標となる下記のTBCD遺伝子の有害な変異の少なくともいずれかを有するか否かを調べることを含む、重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者の検出方法を提供する。
(1) TBCD遺伝子コード領域の第1160位のT(配列番号12中の356位)がGになる変異
(2) TBCD遺伝子コード領域の第1564位より12塩基上流のイントロン中のC(配列番号17中の322位)がGになる変異
(3) TBCD遺伝子コード領域の第2280位のC(配列番号27中の345位)がAになる変異
(4) TBCD遺伝子コード領域の第2314位のC(配列番号27中の379位)がTになる変異
(5) TBCD遺伝子コード領域の第2761位のG(配列番号31中の367位)がAになる変異
(6) TBCD遺伝子コード領域の第3365位のC(配列番号35中の419位)がTになる変異
【0010】
また、本発明は、
対象から分離された試料を用いて、対象生体がTBCD遺伝子に変異を有するか否かを調べる工程、
検出された変異を有するTBCD遺伝子にコードされる変異型TBCDタンパク質を調製する工程、並びに
調製した変異型TBCDタンパク質及び野生型TBCDタンパク質と、ARL2及びTBCEから選択される少なくとも1つの結合パートナーとの結合能をそれぞれ調べる工程
を含む、小児期早期発症神経変性脳症の病因変異の重症度を予測又は判定する方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、重度の小児期早期発症神経変性脳症の確定診断や出生前診断、その保因者の検出が可能になる。当該疾患の重症例では、重度の運動不能と呼吸障害を呈し、人工呼吸器が生涯必要となる等、患者自身及び家族の生活への影響が甚大であるため、重度の小児期早期発症神経変性脳症を早期に診断することは臨床上非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A) TBCD遺伝子に両アレル性の変異を生じた4家系の家系図である。患者を黒のシンボルで、非罹患者を白のシンボルで示す。家系1のII-1が症例1、家系1のII-2が症例2、家系2のII-1が症例3、家系2のII-2が症例4、家系3のII-1が症例5、家系3のII-2が症例6、家系4のII-1が症例7、家系4のII-2が症例8である。(B) TBCD遺伝子cDNA及びTBCDタンパク質の構造を示す図である。p.Met387Argとp.Arg772CysはSCOPドメイン内の変異であり、p.Ala921Thrとp.Pro937ArgはTFCD_Cドメイン内の置換変異である。cDNA及びタンパク質中に発見された7種の変異を矢印で示す。TBCDタンパク質の機能ドメインはSMARTプログラムで予測した。(C) ミスセンス変異における進化的に保存されたアミノ酸。保存アミノ酸残基を実線で囲んで示す。
【図2】(A) 症例2及びその両親のリンパ芽球細胞株をシクロヘキシミド(ナンセンス変異依存mRNA分解を阻害する)処理し、RNeasy Plus Mini Kit(キアゲン)を用いて抽出したRNAを使用し、エクソン15/16からエクソン17のRT-PCR増幅を行なった。全RNAの逆転写にはSuperScript III First-Strand Synthesis System(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いた。正常アレル由来の103bp産物及び変異アレル(c.1564-12C>G)由来の114bp異常産物が確認され、各配列をサンガー法で確認した。父親と当該変異を有する症例2のサンプルでは、シクロヘキシミド処理により114bp産物のバンド強度の増大が見られた。None: 薬剤処理なし、DMSO: ジメチルスルホキシド(溶媒)添加、Cyclo: シクロヘキシミド添加、RT-: 逆転写酵素なし、RT+: 逆転写酵素あり。(B) 正常バンド(103 bp)に対する異常バンド(114 bp)の相対定量解析の結果である。薬剤処理なし(None)、溶媒処理(DMSO、コントロール)、シクロヘキシミド処理の各条件で相対定量評価した(n=3)。ChemiDoc Touch Imaging system (バイオラッドラボラトリーズ)によりゲルイメージを取得した。正常バンドに対する異常バンドの比率は薬剤処理なしのバンド強度に対してノーマライズした。バーは標準誤差を表す。(C) エクソン13と14の結合部からエクソン18と19の結合部の領域を増幅した症例2のRT-PCR産物(435 bps)のシークエンシングの波形データである。イントロン16に由来する11ヌクレオチド(下線部分)がスプライシング異常によりmRNAに挿入されていることがcDNAの配列から確認された。異常アレルのピーク高は、シクロヘキシミド処理によりナンセンス変異依存mRNA分解(NMD)が阻害されると薬剤処理なし(None)又はDMSO処理よりも高くなった。(D) 変異cDNA及びc.1564-12C>G変異により生じると予測されるタンパク質の配列を示す。挿入されたヌクレオチドを実線で囲んで示す。変異したアミノ酸残基をグレーで示す。このスプライス部位変異はフレームシフト(p.Gly522Phefs*14)を生じるが、短縮化タンパク質はNMDのために生成しないと考えられる。シークエンシングには3130xl or 3500xL Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ)を使用し、Sequencher(Gene Codes)を用いて解析した。
【図3】(A)~(D)は症例2の12日齢(修正在胎5日)時の筋生検の組織像である((A) ヘマトキシリン・エオシン染色、(B) ミオシンATPase, pH4.2、(D) ミオシンATPase, pH10.5、(D) NADH-テトラゾリウムレダクターゼ)。矢印はタイプ1線維である。スケールバー:20μm。(E)~(O)は症例1の剖検の組織像である(E, F, G, I, L, M, クリューヴァー・バーレラ染色; H, J, N, O, ヘマトキシリン・エオシン染色; K, ボディアン染色。スケールバーはEが1cm; Fが500μm; G, Iが200μm; H, L, N, Oが100μm; Jが160μm; Jの挿入図及びKが50μm; Mが1.5mm。)。(E) 大脳皮質は全体的に層状壊死を呈し、側頭葉でより顕著である。白質も萎縮しており、側脳室の顕著な膨張と関連する。脳梁(矢頭)及び内包後脚(矢印)は薄い。大脳基底核及び視床は概ね十分に形成されている。(F) 前頭皮質は正常な6層構造を有する。層状壊死は中間の皮層で明らかである。(G) 重篤なニューロン欠損及びグリオーシスを示す橋核。縦方向、横方向の線維がいずれも変性しており、縦線維はほとんど観察できない。(H) 被殻は中型有棘細胞及び大型無棘細胞の正常な構成を有する(矢印)。被殻・淡蒼球の線維は明白である(矢頭)。(I) 黒質は当該患者では十分に保存されている。(J)~(L) 小脳ではプルキンエ細胞及び顆粒細胞の喪失が明白である。残存するプルキンエ細胞の樹状突起の腫大(J, 矢頭)と近傍軸索の腫大(J, 矢印)、ハロー様の無定形な構造(somatic sprouts)(K, 矢頭)を認める。ニューロン欠損は歯状核でも明白である(L)。(M) 脊髄前角の体積は腰髄で減少している。腹側神経根は重度に萎縮しているが(矢印)、背側神経根はほぼ保存されている。外側皮質脊髄路(矢頭)及び後柱の変性も明白に認める。(N) 腰髄前角では下位運動ニューロンの重度の欠損と関連するグリオーシスを認める。(O)横隔膜では筋線維の重度の変性と線維症、分散性の核濃縮・凝集(矢印)を認める。
【図4】両アレル性TBCD遺伝子変異を有する患者の神経画像である。(A) 症例2の8か月時(CT)、1歳8か月時(T1強調MRI)、及び16歳時(T1強調MRI)の神経画像。両側の脳室に進行性の重度の拡大、薄い脳幹、重度の小脳萎縮を認める。(B) 症例3の3か月時及び7か月時のT1、T2強調MRI画像、及び4歳時のCT画像(右)。(C) 症例3の矢状断画像。3か月時のT1強調MRI(左)と4歳時のCT(右)。MRI画像上で薄い脳梁と大槽拡大が認められる(左)。(D) 症例4の経時画像。左上から右上は、5か月時の軸方向T1強調MRI及びT2強調MRI、1歳6か月時のCT、及び2歳時のCTである。回のパターン及び髄鞘形成は年齢に一致していたが、進行性の大脳皮質萎縮(主に前頭皮質の萎縮)と脳室拡大が顕著である。左下から右下は、5か月時の矢状断T1強調MRI2枚と2歳時のCT矢状断及び冠状断画像である。(E) 症例4の5か月時のT1、T2強調MRI画像。白い矢頭は慢性の硬膜下血腫を示す。(F) 症例6の1歳4か月時のT1、T2強調MRI画像。
【図5】TBCD及び結合パートナーの分子間結合を調べた免疫共沈降の結果である。(A, B) ヒトTBCDとARL2(A)又はTBCD(B)との間の分子間相互作用。X-treme GENE9 DNA transfection kit(ロシュ)を用いて、GFPを融合させた野生型TBCD(159 kDa)又はその変異体をV5-6xHisタグ付加ARL2(22 kDa)又はV5タグ付加TBCD(60 kDa)と共にHEK293T細胞内に一過的に共過剰発現させた。トランスフェクションの48時間後、細胞を回収し、溶解バッファー(25 mM Tris-HCl [pH 7.5], 100 mM NaCl, 2 mM EDTA, 0.5% Triton X-100, 及びプロテアーゼ阻害剤)で溶解させた。GFP融合TBCDタンパク質は、ウサギポリクローナル抗GFP抗体(ab6556, アブカム)及びDynabeads Protein-G(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて免疫沈降した。インプットのサンプル及び免疫沈降したサンプル(IP)は、マウスモノクローナル抗GFP抗体(ロシュ)及び抗V5抗体(R960-25、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて免疫ブロットした。(C) ヒトTBCDと内在β-チューブリン (50 kDa)の結合。野生型のGFP融合TBCD又はその変異体は、HEK293T細胞内で一過的に過剰発現させた。GFP融合TBCDタンパク質は、ウサギポリクローナル抗GFP抗体で免疫沈降させ、マウスモノクローナル抗GFP抗体又は抗β-チューブリン抗体 (MAB3408, ケミコンインターナショナル)で免疫ブロットした。二次抗体としてセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体 (ジャクソンイムノリサーチ) を用いた。免疫検出は、ChemiDoc Touch Imaging system (バイオラッドラボラトリーズ)上でSupersignal West Dura Extended Duration Substrate (サーモフィッシャーサイエンティフィック) を用いて行なった。少なくとも3回の独立した実験を実施して、TBCDのARL2, TBCE, 又はβ-チューブリンとの結合の結果の一貫性を確認した。MockはGFPタンパク質(27 kDa)のみである。“+”及び“-”はそれぞれV5タグ付加タンパク質(又は1 kDaのサイズのV5タグのみ、分子量が小さいために検出不可能であった)の有無を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
小児期早期発症神経変性脳症(以下、本疾患ということがある)は、発症時期が早期(通常1歳未満)であること、筋力低下、追視がないこと、及び出生後小頭症を主要な特徴とする。その他、頻度の高い症状として、進行性の脳萎縮、出生後成長障害、呼吸障害、退行、筋緊張低下、筋萎縮などが見られる。TBCE遺伝子変異によるヒト疾患と比較すると、TBCE変異では呼吸不全が見られない点、TBCE変異では骨の異形成及び副甲状腺機能の低下を呈するがTBCD変異による本疾患では見られない点で相違する(後掲の表8参照)。

【0014】
本発明で対象とする疾患は、この小児期早期発症神経変性脳症のうちで重度のものである。本疾患の重症例では、重度の運動不能を呈し、多くの場合人工呼吸器による呼吸補助が生涯必要となる。特に重篤な症例では、呼吸不全により早期に死亡するおそれがある。非特許文献8に記載される小児期早期発症神経変性脳症の症例は、脳MRI画像から把握される脳萎縮及びその他の臨床症状が本疾患の中では比較的軽度である。

【0015】
本発明では、生体から分離された試料を用いて、対象生体がTBCD遺伝子に有害な変異を有するか否かを調べる。TBCD遺伝子の両アレルに有害な変異が検出された場合、対象生体が重度の小児期早期発症神経変性脳症を現に罹患している(出生後のヒトに対して)、又は将来発症する(主として出生前診断)と判断することができる。両アレル性の変異には、ホモ接合変異と複合ヘテロ接合変異が包含される。TBCD遺伝子の有害な変異がヘテロ接合で、すなわち一方のアレルにのみ検出された場合、対象生体は保因者であると判断することができる。

【0016】
本発明におけるTBCD遺伝子の「有害な変異」、「有害なTBCD遺伝子変異」とは、細胞内におけるTBCDタンパク質の機能を喪失又は大きく低下させる変異であり、例えば、TBCDタンパク質とARL2又はTBCEとの結合能を低下させる変異である。野生型TBCDタンパク質とARL2又はTBCEとの結合レベルと比べて、変異型TBCDタンパク質とARL2又はTBCEとの結合レベルが低下している場合、その変異は本発明でいう有害なTBCD遺伝子変異に該当すると考えてよい。

【0017】
下記表2に示したTBCD遺伝子変異は、実施例において4家系8症例の解析により同定された小児期早期発症神経変性脳症の病因変異のうち、重症例の病因変異であり、本発明において指標となる有害なTBCD遺伝子変異の具体例である。これらの変異はいずれも、TBCDタンパク質の結合パートナーであるARL2及びTBCEとの結合アッセイ(免疫共沈降)により、これらの結合パートナーとの結合能が大幅に低下することが確認されている。一方、症状が比較的軽度の症例で同定されたc.2810C>G変異によるp.Pro937Arg変異型TBCDタンパク質は、上記した2つの結合パートナーとの結合能を維持していることが確認されており、c.2810C>G変異は本発明でいうTBCD遺伝子の有害な変異には該当しない。

【0018】
【表1】
JP2018042511A_000003t.gif

【0019】
もっとも、本発明の範囲は上記6種の変異に限定されるものではなく、本発明にいう「有害な変異」に該当するその他のTBCD遺伝子変異によって重度の小児期早期発症神経変性脳症又はその保因者を検出することも可能である。

【0020】
TBCD遺伝子の変異は、ゲノムDNAやRNA等の核酸試料を用いて塩基配列を解析することで検出可能である。とりわけ、ゲノムDNA試料を用いてゲノム配列の解析を行なうことが最も確実で望ましい。ゲノムDNA等の核酸試料は、末梢血や口腔粘膜スワブ等から常法により容易に調製することができる。また、種々の出生前遺伝子検査法が公知であり、胎児に有害なTBCD遺伝子変異が存在するかどうかを調べることも可能である。例えば、胎児から細胞を採取して検査する方法(羊水、絨毛、臍帯血を使用)、母体血中に混在している胎児細胞を用いて胎児の遺伝子変異を検査する非侵襲の検査方法、体外受精した受精卵の1細胞を用いる方法(着床前診断)など、種々の手法が公知である。上記非侵襲の検査方法では、胎児細胞を含有する母体血試料が「生体から分離された試料」に該当し、胎児が「対象生体」に該当する。

【0021】
配列表の配列番号1~38に示す塩基配列は、正常なTBCD遺伝子のゲノム配列であり、各エクソン及びその近傍のイントロンの配列を表1の通りに示したものである。また配列番号39及び40には、NCBIのGenBankにNM_005993.4のアクセッション番号で登録されているヒトTBCD遺伝子の配列からコード領域のみを抜粋した塩基配列と、それにコードされるアミノ酸配列を示した。配列表に示したこれらのTBCD遺伝子ゲノム配列、cDNA配列、及びTBCDタンパク質のアミノ酸配列は、野生型の正常なTBCD配列の典型例である。TBCD遺伝子変異の有無は、配列表に示されたTBCD遺伝子の配列を基準とし、この基準配列との対比により判断することができる。

【0022】
【表2】
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【0023】
コードタンパク質の機能を損なわせる病原性変異の一般的な具体例として、エクソン又はイントロン領域内での塩基の置換、欠失、挿入、重複等によるミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、インフレーム欠失若しくは挿入変異(1個以上のアミノ酸の欠失若しくは挿入をもたらす)、スプライシング異常を生じる変異、あるいは遺伝子の全体又は一部を含むゲノム領域の欠失等が挙げられる。遺伝子領域の一部を欠失する変異は、例えば、少なくとも1つのエクソンの全体を含む領域が欠失する変異である。多数の健常者集団には認められない、ないしは極めてまれにしか認められない変異であったり、NCBIのdbSNPや1000 Genomes Project、ExAC(Exome Aggregation Consortium)(http://exac.broadinstitute.org/)、EVS(Exome Variant Server)(http://evs.gs.washington.edu/EVS/)、HGVD(Human Genetic Variation Database)(http://www.genome.med.kyoto-u.ac.jp/SnpDB/)等の塩基配列の多様性に関する周知のデータベースに登録されていない、ないしは極めて頻度の低いまれな塩基変異である場合も、病原性変異と考えることができる。

【0024】
本発明において指標となる有害なTBCD遺伝子変異も、典型的には、上記した病原性変異の一般的具体例に該当する。特に、TBCD遺伝子の全体又は一部を欠失する変異は、細胞内におけるTBCDタンパク質の機能を喪失又は大きく低下させる変異に該当する蓋然性が高く、表2に示した有害な変異のその他の具体例として第一に挙げることができる。また、短縮されたアミノ酸配列をコードする変異(ナンセンス変異の他、フレームシフト変異やスプライシング異常を生じる変異も該当し得る)は、ナンセンス変異依存mRNA分解機構により変異mRNAが分解されてタンパク質の発現が抑制され、結果としてTBCDの細胞内での機能が著しく低下する。上記(2)、(3)はこのタイプの変異の具体例であるが、これら以外でも、短縮型のアミノ酸配列をコードするTBCD変異は本発明でいう有害なTBCD遺伝子変異と考えて差し支えない。その他、TBCDタンパク質の機能ドメイン(SCOPドメイン、TFCD_Cドメイン)内で、進化的保存性の高い1個以上のアミノ酸残基が欠失する変異や、性質の異なるアミノ酸に置換する変異も、TBCDタンパク質とARL2又はTBCEとの結合能を完全に又は部分的に失わせる変異に該当する可能性が高い。

【0025】
また、ある遺伝子中のアミノ酸置換変異が病原性変異であるか否かを調べることができる各種の予測ツールが知られている。例えば、SIFT (http://sift.jcvi.org/)、PolyPhen (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/)、PolyPhen-2 (http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/)、Mutation Taster (http://neurocore.charite.de/MutationTaster/index.html)、Align GVGD (http://agvgd.iarc.fr/agvgd_input.php)などが知られている。SIFTでは、スコア0.05未満の場合、置換はintolerant(タンパク質機能変化に影響あり)と予測される。PolyPhenでは、スコア2.0を超えた場合、病原性と予測される。PolyPhen-2では、スコア0.000 (良性の可能性が最も大) ~0.999 (有害の可能性が最も大)でスコア付けされ、スコアをもとにした判定がpossiblyあるいはprobably damagingであるときに、病原性変異が強く示唆される。Align GVGDでは、Class C0 (可能性小) ~Class C65 (可能性大)の範囲でクラススコア評価され、クラススコアC55以上の変異であれば病原性変異が示唆される。本発明において指標となる有害なTBCD遺伝子変異も、アミノ酸置換変異の場合には、通常、これらの予測ツールで病原性と予測される。

【0026】
表2に示した6種の変異の有無は、簡便には、SNPタイピングなどに用いられている一塩基置換を検出できる技術を用いて調べることができる。その他の有害なTBCD遺伝子変異も含めてTBCD遺伝子検査を実施する場合には、TBCD遺伝子の各エクソンを含むゲノム配列をダイレクトシークエンシング等により解析し、検出された変異について、予測ツールを利用したり、塩基配列の多様性に関するデータベースで検索する等して病原性を評価し、必要に応じ、変異型TBCDタンパク質を実際に調製して、ARL2及びTBCEから選択される少なくとも1種の結合パートナーとの結合能が野生型TBCDと比べて低下しているかを調べればよい。以下、表2以外の変異も含めてTBCD遺伝子の有害な変異の有無を調べる場合の手順を説明する。

【0027】
タンパク質のアミノ酸配列は、エクソン領域だけではなくイントロン領域における変異によっても影響され得るが、遺伝子検査では通常、エクソン及びその近傍数十~数百塩基程度、例えば30~50塩基程度のイントロン領域を含めて検査するのが一般的である。本発明でも、TBCD遺伝子のエクソン及びその近傍のイントロンを対象に配列解析(ダイレクトシークエンシング等)を行えばよい。本願配列表の配列番号1~38や公知のデータベースから入手可能なTBCD遺伝子のゲノム配列を参照して適宜プライマーを設計し、ゲノムDNA試料を用いて常法によりシークエンシングを行えばよい。対象生体ゲノムDNA上のTBCD遺伝子の塩基配列を決定し、これを野生型配列(例えば配列番号1~38の配列)と比較することにより、変異を詳細に同定できる。決定した塩基配列は、例えばSeqScape (登録商標) 等の公知のソフトウェアを用いて解析することにより、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。検出された変異の病原性は、上述した通り、公知の予測ツールを利用したり、塩基配列多様性に関するデータベースを検索する等して評価することができる。

【0028】
変異がホモかヘテロかは、シークエンスの波形データから確認できる。ヘテロ変異の場合、同一部位に2種類のシグナルが重なることになる。ヘテロ変異が2箇所以上ある場合、クローニングして配列決定すれば、変異が複合ヘテロであるかどうか(すなわち、変異が異なる染色体上に存在するかどうか)を確認できる。

【0029】
ゲノムからTBCD遺伝子全長が欠失している場合には、CDS領域の増幅断片が得られない。一部領域が欠失している場合でも、プライマーの設定部位によってはゲノムDNAから増幅断片が得られない。つまり、TBCD遺伝子領域の全部又は一部が欠失しているか否かは、増幅断片の有無に基づいて判断することができる。ゲノムからTBCD遺伝子の一部領域が欠失している場合には、野生型と比較してより小さいサイズの増幅断片が得られることもあるので、増幅断片のサイズに基づいて一部領域の欠失を判断することもできる。

【0030】
ヘテロ二本鎖の検出により、TBCD遺伝子の変異のスクリーニングを行なうことも有効である。ヘテロや複合ヘテロの変異が存在する場合、ゲノムDNA試料を熱変性後に再会合させることにより、正常型DNAと変異DNAとがハイブリダイズしたヘテロ二本鎖が生じる。ヘテロ二本鎖は、(1)非変性ポリアクリルアミドゲル中で異なる移動度を示す、(2)ミスマッチ部分の塩基は化学物質や酵素による切断を受けやすい、(3)変性の際に異なる変性温度を示す、といった特性を有する。これらの特性を利用してヘテロ二本鎖を検出する方法がこの分野において公知であり、変異の検査方法として実用化もされている。具体的には、例えば、変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)を用いてヘテロ二本鎖を検出する方法や、High Resolution Melt法が知られている。

【0031】
High Resolution Melt法とは、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素(SYTO(登録商標)9, LC Green(登録商標), EvaGreen(商標)等)を用いて、二本鎖DNAの融解(熱変性)の過程を蛍光強度の変化としてとらえ、ヘテロ二本鎖を検出する方法である。すなわち、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素を用いて二本鎖DNAを染色すると、該二本鎖DNAを融解(熱変性)させたとき、二本鎖が解離した部位から蛍光色素が脱落するため、二本鎖DNAからの蛍光シグナルの量が減少する。従って、そのような蛍光色素を用いることで、二本鎖DNAの熱変性の過程を蛍光強度の変化として視覚的にとらえることができる。温度-蛍光のデータを高密度で取得し解析することで、ヘテロ二本鎖の検出を迅速に高感度で行うことができる。市販の機器類及びキット等を用いて容易に実施可能である。変異がホモである場合、High resolution melt法の検出感度は低くなると想定されるが(検出できないわけではない)、本疾患では、患者両親の血族婚がない場合ではまず複合ヘテロ変異が想定されるため、High Resolution Melt法等のヘテロ二本鎖検出は本発明でも有効な検査方法となり得る。

【0032】
検出された変異が、予測ツールや塩基配列多様性データベースの検索により病原性と予測された場合には、上述した通り、必要に応じてその変異を有する遺伝子にコードされる変異型TBCDタンパク質を実際に調製し、結合パートナーとの結合能が野生型TBCDタンパク質と比べてどれだけ低下しているかを調べればよい。この場合、ARL2及びTBCEのうちの少なくとも1つの結合パートナーとの結合能を調べればよく、2つの結合パートナーとの結合能をそれぞれ調べてもよい。変異型TBCDタンパク質と結合パートナーとの結合能の解析は、下記実施例にも記載される免疫共沈降の他、タンパク質同士の相互作用を定量的に(相対定量でもよい)評価できる公知の種々の手法を用いて実施できる。上述した通り、野生型TBCDタンパク質と結合パートナーとの結合レベルと比べて、変異型TBCDタンパク質と結合パートナーとの結合レベルが明らかに低下している場合には、そのような変異をホモ又は複合ヘテロで両アレルに持つ対象生体は、重度の小児期早期発症神経変性脳症を罹患している、又は発症するおそれがあると判断できる。「明らかに低下している」とは、実験誤差などの影響が疑われる範囲内のわずかな低下ではなく、野生型よりも結合レベルが低下していることが当業者にとって明らかな程度まで低下しているという意味である。例えば、免疫沈降法で結合能を調べる場合には、免疫ブロット上のバンドの強度を数値化して結合レベルを比較すればよい。この際、実験を反復して行ない、バンド強度の平均値を求めて比較することが望ましく、野生型TBCDタンパク質の結合レベルと変異型TBCDタンパク質の結合レベルとの間で有意差があった場合に結合レベルが低下していると判断することとしてもよい。短縮型タンパク質をコードする変異の場合、本発明にいう有害なTBCD遺伝子変異に該当すると考えて差し支えないため、結合アッセイは省略可能である。

【0033】
本発明はまた、対象から分離された試料を用いて、対象生体がTBCD遺伝子に変異を有するか否かを調べる工程;検出された変異を有するTBCD遺伝子にコードされる変異型TBCDタンパク質を調製する工程;並びに調製した変異型TBCDタンパク質及び野生型TBCDタンパク質と、ARL2及びTBCEから選択される少なくとも1つの結合パートナーとの結合能をそれぞれ調べる工程を含む、小児期早期発症神経変性脳症の病因変異の重症度を予測又は判定する方法を提供する。該方法は、検出された変異について、変異型TBCDタンパク質の調製に先立ち、病原性を評価する工程をさらに含んでいてもよい。病原性の評価は、上述した通り、予測ツールを利用したり、塩基配列の多様性に関するデータベースで検索する等の方法で実施できる。重症度が高いことの判定基準は上記と同様であり、野生型TBCDタンパク質と結合パートナーとの結合レベルと比較して、変異型TBCDタンパク質と結合パートナーとの結合レベルが低い場合には、そのような変異をホモ又は複合ヘテロで両アレルに持つ対象生体は、当該疾患の重症度が高いと予測又は判定することができる。保因者が有する病因変異についても同様にして、その病因変異が両アレル性となった場合に生じる当該疾患の重症度を予測又は判定することができる。小児期早期発症神経変性脳症の病因変異が両アレルに検出され、かつ、その(それらの)病因変異の重症度が高いと予測された場合、その対象生体は、重度の運動不能を呈し、人工呼吸器による呼吸補助が必要となるおそれが高い。該方法で得られる結果は、遺伝カウンセリングや患者の管理・治療方針の決定の際に活用できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
1.責任遺伝子の同定
日本人2家系(非近親婚)、中国人1家系(非近親婚)、及びイスラエル人1家系(近親婚の家族歴あり)の4家系で発生した小児期早期発症の神経変性脳症8症例を調べた(図1A)。ゲノムDNAは、末梢白血球からはQuickGene-610L(富士フィルム)を用いて、ホルマリン固定パラフィン包埋脳組織(症例1、図1A中の家系1のII-1)からはQIAamp DNA FFPE tissue kit(キアゲン)を用いて抽出した。各症例及び家族員からの血液サンプル及び脳組織サンプルの採取は、書面によるインフォームド・コンセントを得た上で行なった。研究のプロトコールは横浜市立大学医学部の施設内審査委員会に承認された。
【実施例】
【0036】
該疾患の遺伝的原因を同定するため、全エクソーム解析を既報(Miyake, N. et al., Am J Hum Genet 97, 555-566. 2015)の通りに実施した。家系1及び家系2は発端者と両親、家系3及び家系4は発端者のみを対象として解析を行なった。ゲノム分画にはSureSelect All Human Exon kit(アジレント)を、大量並行シークエンスにはHiSeq2000/2500(イルミナ)を、in silico解析にはNovoalign、GATK及びANNONARを用いた。
【実施例】
【0037】
4家系とも同胞発症であること、両親は罹患していないこと、患者は男女両方いることから、常染色体劣性遺伝形式が想定された(図1A)。そこで、ホモ接合又は複合ヘテロ接合の変異を有する遺伝子に注目して解析を行なった結果、4家系の発端者全員にTBCD遺伝子の両アレル性変異を同定した(図1A、表3~5)。サンガーシークエンシングにより、これらの両アレル性変異は疾病状態と一緒に分離することを確認した。
【実施例】
【0038】
【表3】
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【実施例】
【0039】
【表4】
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【実施例】
【0040】
【表5】
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【実施例】
【0041】
合計で7種類の変異がTBCD遺伝子中に発見された(ミスセンス変異5種、ナンセンス変異1種、スプライシング変異1種)(表6)。これらの変異は、ExAC, EVS, 1000 Genome, HGVD, 及び我々が独自に保有するエクソームのデータベース(in-houseデータベース、N=575)にも報告が無いか、極めてまれな(≦0.0002)変異であった。ミスセンス変異は全てPolyPhen-2及びMutationTasterで病原性と予測された。ミスセンス変異により置換が生じるアミノ酸残基のうちの4つはタンパク質の機能ドメイン内に位置していた(図1B)。ミスセンス変異により置換される5つのアミノ酸残基は進化的に保存されていた(4残基はゼブラフィッシュからヒトまで、1残基はマウスからヒトまで)(図1C)。イントロン内の変異(c.1564-12C>G)は、エクソン16と17の間に11bpのイントロン配列の挿入を生じさせる変異であり、ナンセンス変異依存mRNA分解機構に供されてフレームシフト(p.Gly522Phefs*14)が生じることをcDNAレベルで確認した(図2)。この遺伝学的証拠は、両アレル性のTBCD遺伝子変異によって当該神経変性脳症が生じることを強く示唆している。
【実施例】
【0042】
【表6】
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【実施例】
【0043】
2.患者の臨床症状及び病理組織学的解析
患者全員の臨床データを表7に示す。簡潔に述べると、両アレル性のTBCD遺伝子変異を有する患者は症状を早期(1歳未満)に発症する。初発の症状は家系によって相違があるが、同じ家系内の同胞患者では類似しており、家系1では新生児仮死、家系2では1か月齢、家系3では5か月齢で運動低下及び筋緊張低下、家系4では9~11か月齢でけいれん発作が認められた。患者は共通して筋力低下、追視がみられない、出生後小頭症を呈し進行性の臨床経過をたどった。患者の半数以上が出生後の成長障害、けいれん発作、呼吸不全、退行、視神経萎縮、筋緊張低下及び筋委縮を呈した。また、患者2名で変動性血圧がみられ、他の2名で尿失禁、うち1名では便失禁もみられたが、このことは自律神経系の関与を示唆している。3家系中の患者6名は運動不能となり呼吸管理が必要となった。患者8名のうち3名は20歳までに死亡した。
【表7】
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【実施例】
【0044】
症例2(家系1のII-2)の12日齢(修正在胎5日)時の筋生検(腓腹筋)により、1) 筋線維が直径5~15μmの範囲で大小不同(Figure 2A)、2) タイプ2C線維が多い、3) タイプ1線維(赤筋に相当)の萎縮 (図3B, C)、4) NADH-テトラゾリウムレダクターゼ反応(NADH染色)で筋線維細胞質が点状に染色された(正常は網目構造)(図3D)という筋原性変化が明らかとなった。神経筋接合部は切片に含まれていなかった。ニューロパチーは認めなかった。これらの所見は筋線維の未成熟を反映している可能性があるが、少数のサンプルしか利用できていないため確証には至らなかった。
【実施例】
【0045】
症例1(家系1、II-1)では剖検を実施した。内臓器官には形成異常が検出されなかったが(Supplementary Table S5)、腸腰筋を含め横紋筋の体積は重度に減少しており、横隔膜は極度に薄かった。脳と脊髄は概ね萎縮していた。大脳では、皮質と白質が重度に萎縮し、側脳室は顕著に膨張していた(図3E)。大脳基底核と視床は概ね十分に形成されていたが、脳梁は未発達であった。内包前脚、後脚はいずれも重度に萎縮していた。
【実施例】
【0046】
病理組織学的解析によると、異形成のニューロンや気球細胞などの細胞学的に異常なニューロンがなく正常な6層構造が観察されたが、大脳皮質の全体的な層状壊死が明らかとなった(図3F)。また、海馬、視床、橋核(図3G)、淡蒼球、及び下オリーブ核には重度のニューロン欠損とグリオーシスを認めた。淡蒼球内節には原因不明の球状構造が多数観察された。小脳のプルキンエ細胞及び顆粒細胞は重度に枯渇していた。
【実施例】
【0047】
これらの組織学的異常は、そのニューロン損傷のパターンが満期産児における重症仮死におけるパターンにほぼ匹敵するであろう分娩時仮死に少なくとも部分的に起因している可能性がある[14]。しかしながらこの患者では、満期産児では仮死の障害に感受性である被殻(図3H)、四丘体、黒質(図3I)、迷走神経背側核などの他の解剖領域には軽度のグリオーシスがあるのみで、明白なニューロン欠損はなかった。加えて、小脳では、残存するプルキンエ細胞の多くが樹状突起(カクタス/ヒトデ小体)の局所的な膨張(図3J)を有し、細胞体周辺にハロー様の無定形な構造(somatic sprouts)を有する細胞もあった(Figure 2K)。ニューロンの枯渇は歯状核で重度であった(図3L)。また、動眼神経核及び舌下神経核をはじめとする脳幹の下位運動ニューロン(LMN)核には、重度のニューロン欠損と関連するグリオーシスを認めた。脊髄では、外側皮質脊髄路及び後柱はミエリンの蒼白化を伴う重度の変性を呈していた(図3M)。前角は、外側核群よりもやや明白な重度のLMN欠損と関連するグリオーシスを呈していた(図3N)。脊髄の前根は重度に萎縮していたが、後根は保存されていた。横隔膜は線維症と濃縮した核の凝集を伴い重度に変性していた(図3O)。
【実施例】
【0048】
興味深いことに、4症例でクレアチンキナーゼ(CK)上昇のエピソードがあった。CK上昇は、家系1では出生時のみ認め(症例1: 1,338 IU/L, 症例2: 1,345 IU/L)、症例3 (7か月時に最大285 IU/L) 及び症例4 (11か月時に最大752 IU/L) では数回認めた (表7)。CK上昇は、家系1では仮死・骨折により生じ、家系2では頻繁な無熱発作のエピソードにより生じたと考えられるが、実際の誘因は不明である。
【実施例】
【0049】
患者3名の脳画像解析により、大脳、脳梁、小脳、脳幹を含む脳の進行性の萎縮が確認された(図4)。3か月齢という早期に前頭葉の萎縮と脳室(特に側脳室の前角)の拡大が検出された。患者は顔貌が平坦で無表情、下向きの口角で口が開いているが、顔の異形成の特徴は全く認めなかった。
【実施例】
【0050】
両アレル性のTBCD遺伝子変異とTBCE遺伝子変異の間にはいくつかオーバーラップする臨床徴候があり、1歳未満での早期発症、知的障害、出生後の発育遅延、脳梁低形成及び小頭症は両疾患で共通していたが、子宮内胎児発育遅延及び副甲状腺機能低下はTBCD遺伝子変異患者では認められなかった(表8)[Sanjad, S.A. et al., Arch Dis Child 66, 193-196, 1991; Padidela, R. et al., J Clin Endocrinol Metab 94, 2686-2691, 2009]。
【実施例】
【0051】
【表8】
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【実施例】
【0052】
TaqManアッセイにより、胎児及び成人においてTBCD遺伝子は全ての組織で広範に発現すること、脳、心臓、骨格筋で高発現することが明らかとなった(データ省略)。発現パターンは、中枢神経系及び骨格筋を含め、TBCD遺伝子変異患者において異常のある器官と一貫性があった。
【実施例】
【0053】
3.免疫共沈降
免疫共沈降により、TBCD (野生型、変異型)と他の複合体成分(α/β-チューブリン, TBCE, TBCC, ARL2)との間のタンパク質間相互作用を調べた。ヒトのTBCD(配列番号39、40), TBCE(NM_003193.4、配列番号41、42), TBCC(NM_003192.2), 及びARL2 (NM_001667.3、配列番号43、44) のオープンリーディングフレームは、クロンテックより購入したヒトcDNAを鋳型としてPCRにより増幅した。この際に使用したプライマーの配列を表9に示す。PCR産物をGateway pDONR221ベクター (ライフテクノロジーズ) にクローニングしてエントリークローンを作製した。各配列はサンガーシークエンシングにより確認した。QuickChange II XL Site-Directed Mutagenesis Kit (アジレントテクノロジーズ) を用いて変異型コンストラクトを作製した。一過的哺乳動物発現ベクターを作製するため、各エントリークローンを用いて、pcDNA3.1/nV5-DEST (N'側V5タグ付加TBCC又はTBCEに対して)、pcDNA-DEST53 (N'側GFP融合TBCDに対して)又はpcDNA-DEST40 (C'側V5タグ付加ARL2に対して)と共にLR組換えを行なった。
【実施例】
【0054】
【表9】
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【実施例】
【0055】
結果を図5に示す。野生型TBCDはARL2, TBCE, 及びβ-チューブリンと相互作用したが(図5)、TBCD及びα-チューブリン間、TBCD及びTBCC間では明らかな結合は観察されなかった(データ省略)。そこで、ARL2, TBCE, 及びβ-チューブリンとTBCDとの結合に着目した。ARL2との結合は、野生型TBCDと比べて変異型TBCDのp.Met387Argはほぼ完全に、p.Arg722Cys, p.Ala921Thr, p.Pro1122Leu及びp.Tyr760*は部分的に結合能を失っていた。p.Pro937Argは結合能を維持していた(図5A)。変異型TBCDは、TBCEに対しても同様に結合能が損なわれていた(図5B)。内在性β-チューブリンへの結合は全てのTBCD変異体で低下していた(図5C)。これらの結果は、ここで検討したTBCD変異の全てが微小管シャペロン複合体を適切に形成できないことを示唆している。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4