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明細書 :低温活性が改善された酵素及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-088225 (P2019-088225A)
公開日 令和元年6月13日(2019.6.13)
発明の名称または考案の名称 低温活性が改善された酵素及びその製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/42        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 9/42 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12M 1/00 C
請求項の数または発明の数 22
出願形態 OL
全頁数 31
出願番号 特願2017-219234 (P2017-219234)
出願日 平成29年11月14日(2017.11.14)
発明者または考案者 【氏名】玉田 太郎
【氏名】平野 優
【氏名】上田 光宏
出願人 【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】110000855、【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B050
4B065
Fターム 4B029AA01
4B029BB01
4B029CC01
4B029CC03
4B050CC03
4B050DD11
4B050FF14E
4B050HH02
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4B050LL05
4B050LL10
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA77X
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA31
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA60
要約 【課題】低温側での活性が向上している変異型酵素を提供する。
【解決手段】酵素の分岐型の塩橋を形成しているアミノ酸残基に、塩橋を消失させずに架橋強度を弱めるような変異を導入した変異型酵素とする。
【選択図】 なし
特許請求の範囲 【請求項1】
親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基が、前記塩橋を維持しながら塩橋強度が小さくなるように変更されている、変異型酵素。
【請求項2】
前記親の酵素は、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列で特定される酵素と同じ酵素活性を有する、請求項1に記載の変異型酵素。
【請求項3】
前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離が3.2Å未満である、請求項1又は2に記載の変異型酵素。
【請求項4】
前記分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖が、前記酵素の至適温度以下の温度で単一のコンフォメーションをとる、請求項1~3の何れかに記載の変異型酵素。
【請求項5】
前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つが、以下の構造を有する、請求項1~4の何れかに記載の変異型酵素。
【化1】
JP2019088225A_000014t.gif

【請求項6】
前記分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアルギニン残基がリジン残基に置換されている、請求項1~5の何れか1項に記載の変異型酵素。
【請求項7】
前記親の酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列の少なくとも302位のアルギニン残基がリジン残基に置換されている、請求項1に記載の変異型酵素。
【請求項8】
前記親酵素より、前記親酵素の至適温度より低い温度での比活性が向上している、請求項1~7の何れか1項に記載の変異型酵素。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の変異型酵素をコードする、核酸。
【請求項10】
請求項9に記載する核酸を含む、発現カセット又は発現ベクター。
【請求項11】
請求項9に記載する核酸、又は請求項10に記載する発現カセット若しくは発現ベクターを含む、形質転換体。
【請求項12】
微生物である、請求項11に記載する形質転換体。
【請求項13】
請求項1~8の何れか1項に記載の変異型酵素、或いは請求項11又は12に記載する形質変換体を含む、リアクター。
【請求項14】
請求項1~8の何れか1項に記載の変異型酵素、請求項11又は12に記載する形質変換体、或いは請求項13に記載するリアクターを用いて、目的物質を製造する方法。
【請求項15】
親酵素の分岐型の塩橋を特定する工程と、
前記特定した塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基の少なくとも一つを、前記塩橋を維持しながら架橋強度が小さくなるように変更する工程と
を含む、変異型酵素の製造方法。
【請求項16】
前記親酵素は、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列で特定される酵素と同じ酵素活性を有する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離が3.2Å未満である、請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖が、前記酵素の至適温度以下の温度で単一のコンフォメーションをとる、請求項15~17の何れかに記載の変異型酵素。
【請求項19】
前記親酵素の分岐型の塩橋の少なくとも一つが、以下の構造を有する、請求項15~18の何れかに記載の製造方法。
【化2】
JP2019088225A_000015t.gif

【請求項20】
前記親酵素が有する前記分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアルギニン残基がリジン残基に置換されている、請求項15~19の何れかに記載の製造方法。
【請求項21】
得られる変異型酵素は、前記親の酵素より、前記親の至適温度より低い温度での比活性が向上している、請求項15~20の何れかに記載の製造方法。
【請求項22】
熱安定性を改善した変異型酵素の製造方法であって、
親酵素の塩橋部位を特定する工程と、
前記特定した塩橋を形成するアミノ酸残基を、前記塩橋を維持しながら架橋強度が増大するように変更する工程と
を含む、変異型酵素の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定部位のアミノ酸を改変して低温での活性を改善した変異型酵素、これをコードする核酸、これを含む発現カセット、発現ベクター、及び形質転換体、これらの製造方法、並びにこれらを利用して目的物質を工業的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、触媒として生体中の様々な反応に関与するタンパク質であり、酵素を利用した各種機能性物質の生産、各種廃棄物質の処理などは、化学・物理的な方法に比べ、特異性が高く、反応に高温条件を要せず、大量廃液の問題もないために、エネルギーコストが小さく、環境への負荷が小さい技術として、食品・医薬品・エネルギー・廃棄物処理等の様々な分野で利用されている。
【0003】
他方、酵素を利用した工業的な生産及び処理においては、生産又は処理効率の向上および製造又は処理コストの低減が解決すべき課題として残されている。例えば、酵素は、タンパク質であるため、その触媒作用を効果的に発揮させるには、pH、温度等の反応条件を厳密に制御する必要がある。ところが、工業的な生産又は処理において利用される酵素の多くは、至適温度が室温よりかなり高い温度であるため、このような温度条件で反応を行うための設備を要し、生産効率の低下および製造コストの増大の一要因となっている。このため、高温での反応に利用されている酵素の低温での活性が改善されれば、よりエネルギー効率の高い工業生産が可能となる。
【0004】
K. S. Siddiqui及びR. Cavicchioliは、天然の低温適合性酵素に関する総説で、酵素の立体構造の高い柔軟性は、低い活性エンタルピーに翻訳され、低温での高い特異的な活性をもたらす一方、立体構造が不安定化し、基質親和性の低下をもたらす、ことを教示する(非特許文献1の要約)。また、K. S. Siddiquiらは、多くの低温適合性酵素において、Arg/Lys比が低減している報告に言及し、アルギニンが、一般的に、酵素の熱安定性を増大させることを教示している(非特許文献1の第424頁)。また、栗原らは、好冷性細菌の総括的な報告において、好冷性酵素でArg/Arg+Lys比が低減しているものが多いと報告している(非特許文献2)
【0005】
また、Guozeng Wangらは、低温活性のキシラナーゼのD83Nの置換で塩橋を破壊すると相対的に低温側の活性が高くなったものの熱安定性が低下し、D39Nの置換で橋を破壊すると全体的に活性が低下し、熱安定性も低下したことを報告している(非特許文献3)。
【0006】
しかしながら、K. S. Siddiquiら及びGuozeng Wangらが指摘する通り、通常、酵素の立体構造の柔軟性を高めると、酵素が不安定化するため、活性は低下し、場合によっては喪失してしまう。従って、立体構造の柔軟性を高める変異を導入した、工業的な利用が可能な酵素は知られていない。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】”Cold-Adapted Enzymes”, K. S. Siddiqui and R. Cavicchioli, Annu. Rev. Biochem. 2006, 75, 403-433
【非特許文献2】生化学第81巻第12号,pp.1072—1079,2009
【非特許文献3】Guozeng Wang et al..(2016) The disruption of two salt bridges of the cold-active xylanase XynGR40 results in an increase in activity, but a decrease in thermostability. Biochemical and Biophysical Research Communications xxx (2016) 1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような技術水準にあって、低温側での酵素活性が向上し、低温下で工業的に利用可能な酵素活性を有する変異型酵素を提供することを目的とする。
本発明はまた、このような変異型酵素をコードする核酸、当該核酸を含む発現カセット、発現ベクター、及び形質転換体を提供することを他の目的とする。
本発明はまた、このような変異型酵素等の製造方法を提供することを他の目的とする。
本発明はまた、このような変異型酵素、ベクター、又は形質転換体を用いて、目的物質を製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酵素の塩橋部位に着目し、分岐型の塩橋を形成しているアミノ酸残基を、塩橋を消失させずに架橋強度を弱めるように変更することで、低温側での比活性レベルを増大させることに成功し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の変異型酵素、当該変異型酵素をコードする核酸、当該核酸を含む発現カセット、発現ベクター、及び形質転換体、当該変異型酵素等の製造方法、並びにこれら変異型酵素、発現カセット、発現ベクター、又は形質転換体を用いて、目的物質を製造する方法を提供する。
【0010】
[1]親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基が、前記塩橋を維持しながら塩橋強度が小さくなるように変更されている、変異型酵素。
[2]前記親酵素は、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、配列番号1並びに配列番号15乃至18のいずれかによって特定される酵素と同じ酵素活性を有する、[1]に記載の変異型酵素。
[3]前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離が3.2Å未満である、[1]又は[2]に記載の変異型酵素。
[4]前記分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖が、前記酵素の至適温度以下の温度で単一のコンフォメーションをとる、[1]~[3]の何れかに記載の変異型酵素。
[5]前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つが、以下の構造を有する、[1]~[4]の何れかに記載の変異型酵素。
【化1】
JP2019088225A_000002t.gif

[6]前記分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアルギニン残基がリジン残基に置換されている、[1]~[5]の何れかに記載の変異型酵素。
[7]前記親酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列の少なくとも302位のアルギニン残基がリジン残基に置換されている、[1]に記載の変異型酵素。
[8]前記親酵素より、前記親酵素の至適温度より低い温度での比活性が向上している、[1]~[7]の何れかに記載の変異型酵素。
[9][1]~[8]の何れかに記載の変異型酵素をコードする核酸。
[10][9]に記載する核酸を含む、発現カセット又は発現ベクター。
[11][9]に記載する核酸、又は[10]に記載する発現カセット若しくは発現ベクターを含む、形質転換体。
[12]微生物である、[11]に記載する形質転換体。
[13][1]~[8]の何れかに記載の変異型酵素、或いは[11]又は[12]に記載する形質変換体を含む、リアクター。
[14][1]~[8]の何れかに記載の変異型酵素、[11]又は[12]に記載する形質変換体、或いは[13]に記載するリアクターを用いて、目的物質を製造する方法。
[15]親酵素の分岐型の塩橋を特定する工程と、
前記特定した分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基の少なくとも一つを、前記塩橋を維持しながら塩橋強度が小さくなるように変更する工程と
を含む、変異型酵素の製造方法。
[16]前記親酵素は、配列番号1、及び配列番号15乃至18のいずれかに示すアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、配列番号1、並びに配列番号15乃至18のいずれかによって特定される酵素と同じ酵素活性を有する、[15]に記載の製造方法。
[17]前記親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離が3.2Å未満である、[15]又は[16]に記載の製造方法。
[18]前記分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖が、前記酵素の至適温度以下の温度で単一のコンフォメーションをとる、[15]~[17]の何れかに記載の変異型酵素。
[19]前記親酵素の分岐型の塩橋の少なくとも一つが、以下の構造を有する、[15]~[18]の何れかに記載の製造方法。
【化2】
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[20]前記親酵素が有する前記分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアルギニン残基がリジン残基に置換されている、[15]~[19]の何れかに記載の製造方法。
[21]得られる変異型酵素は、前記親酵素より、前記親酵素の至適温度より低い温度での比活性が向上している、[15]~[20]の何れかに記載の製造方法。
[22]熱安定性を改善した変異型酵素の製造方法であって、
親酵素の塩橋部位を特定する工程と、
前記特定した塩橋を形成するアミノ酸残基を、前記塩橋を維持しながら架橋強度が増大するように変更する工程と
を含む、変異型酵素の製造方法。
【0011】
本発明は、酵素の分岐型の塩橋を形成しているアミノ酸残基を、塩橋を維持しながら塩橋の架橋強度が小さくなるように変更することで、低温側の活性を高めることに成功したものである。この基本原理は、様々な酵素に適用可能であり、典型的には、至適温度が室温より高く、より低温での利用が可能になることで、よりエネルギー効率の高い工業的な利用が可能になる酵素への適用が期待される。また、本発明の基本原理は、低温適合性の酵素にも適用可能である。すなわち、酵素の分岐型の塩橋を形成しているアミノ酸残基を、塩橋の架橋強度が大きくなるように変更することで、より高温での活性及び安定性を高められ、やはり、よりエネルギー効率の高い工業的な利用が可能な変異型酵素を提供することが期待される。
【0012】
ここで、本願明細書で用いる幾つかの用語について説明する。
「塩橋」とは、タンパク質のなかでアミノ酸の側鎖間に働くイオン性相互作用であり、典型的には、塩基性のアミノ酸と酸性のアミノ酸の側鎖間で形成される。一般的には、「塩橋」は、タンパク質の三次元構造を安定化させるのに重要であると理解される。本願明細書では、近接するアミノ酸の相反する極性の側鎖の窒素および酸素原子間の距離が、6.5Å以内である場合に、「塩橋」とみなす。また、「分岐型の塩橋」とは、塩橋を形成するアミノ酸の側鎖間で水素結合が2つ以上形成されている構造を言う。「分岐型の塩橋」には、以下の3つのタイプがある(以下では、それぞれ「Aタイプ」、「Bタイプ」及び「Cタイプ」という。)。
【化3】
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Aタイプの塩橋は、塩基性アミノ酸(典型的にはアルギニン)側鎖のε位の窒素原子とη位の1つの窒素原子に結合している水素が酸性アミノ酸(典型的にはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸)のカルボキシル基の2つの酸素原子と水素結合を2本形成している状態によって定義付けることができ、Bタイプの塩橋は、塩基性アミノ酸(典型的にはアルギニン)側鎖のη位の2つの窒素原子に結合している水素が酸性アミノ酸(典型的にはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸)のカルボキシル基の2つの酸素原子と水素結合を2本形成している状態によって定義付けることができ、Cタイプの塩橋は、塩基性アミノ酸側鎖と酸性アミノ酸側鎖間に水素結合が2本形成されている状態のうち、AおよびBタイプ以外の状態によって定義付けることができる。
【0013】
本願明細書における「塩橋の強度」とは、水素結合の強度と静電的相互作用の強度の総和をいう。水素結合は水素結合を形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離に相関があり(4~40kJ/mol)、静電的相互作用は塩橋を形成する側鎖の窒素と酸素の原子間距離の2乗に反比例する(40~400kJ/mol)。
本願明細書における「塩橋の強度を低減する」とは、水素結合の強度と静電的相互作用の強度の総和が低減していることを意味する。分岐型の塩橋は、典型的には図1に示すように、親酵素の分岐型の塩橋では2本以上の水素結合によりアミノ酸側鎖が引き合って、塩橋を形成する側鎖の窒素と酸素の距離が近くなり、静電的相互作用が増大している。一方で、塩橋を形成するアミノ酸を変更した変異酵素においては、アミノ酸側鎖間の距離やコンファメーションの変化などで、水素結合及び静電的相互作用自体が低減したり、塩橋を構成する水素結合が1本に減じたり、又は水素結合が消滅して、塩橋を形成する側鎖の窒素と酸素の距離が遠くなり、静電的相互作用も低減している。このような状態は、「塩橋の強度を低減する」に該当する。
【0014】
本願明細書における「親酵素の至適温度より低い温度での比活性が向上している」とは、親酵素の至適温度より低い任意の温度、典型的には、親酵素の至適温度より低く5℃以上、好ましくは10℃以上の任意の温度で、親酵素の比活性より高い比活性を有することを意味する。好ましい実施形態では、親酵素の至適温度から5℃まで、より好ましくは親酵素の至適温度から10℃までの温度範囲での比活性の総和が、同じ温度範囲での親酵素の比活性の総和より高い。
本願明細書における「同じ酵素活性を有する」とは、同じ基質に対する同じ反応を触媒し、至適条件での比活性が元の酵素の50%以上、典型的には80%以上であることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一例により、「塩橋の強度を低減する」状態を模式的に示す概略図である。
【図2】Ef-Man WTのArg302-Asp300の塩橋の構造を示す概略図である。
【図3】Ef-Man WTのArg213-Asp251の塩橋の構造を示す概略図である。
【図4】Ef-Man WTのArg125-Asp193の塩橋の構造を示す概略図である。
【図5】発現後の各組換え酵素(Ef-Man WTと、「R125K」、「R213K」、「R302K」、「R125K/R302K」、「R213K/R302K」、及び「R125K/R213K/R302K」の変異型Ef-Man)のSDS-PAGEの電気泳動像の写真である。
【図6】精製処理後の「R302A」変異型Ef-Manの各フラクションのSDS-PAGEの電気泳動像の写真である。
【図7】精製処理後のEf-ManWT並びに各変異型Ef-Manの各フラクションの280nmでの吸光度及び酵素活性値を示すグラフである。
【図8】Ef-Man WTにおける酵素活性の温度依存性を示すグラフである。
【図9】Ef-Man WTと、「R125K」変異型Ef-Manとの、50℃以下での酵素活性の比較を示すグラフである。
【図10】Ef-Man WTと、「R213K」変異型Ef-Manとの、50℃以下での酵素活性の比較を示すグラフである。
【図11】Ef-Man WTと、「R302K」変異型Ef-Manとの、50℃以下での酵素活性の比較を示すグラフである。
【図12】Ef-Man WTと、「R125K/R302K」変異型Ef-Manとの、50℃以下での酵素活性の比較を示すグラフである。
【図13】Ef-Man WTと、「R125K/R213K/R302K」変異型Ef-Manとの、50℃以下での酵素活性の比較を示すグラフである。
【図14】Ef-Man WTと、「R125K」、「R213K」、「R302K」、「R125K/R302K」、「R213K/R302K」、及び「R125K/R213K/R302K」の変異型Ef-Manとの、20℃における酵素活性の比較を示すグラフである。
【図15】Ef-Man WTと、「R302K」及び「R302A」変異型Ef-Manとの、20℃における酵素活性の比較を示すグラフである。
【図16】Ef-Man WT、並びに「R302K」及び「R302A」変異型Ef-Manの50℃における熱安定性を示すグラフである。
【図17】Ef-Man WT、「R302K」変異型Ef-Man、B.circulans由来Man、及びA. niger由来Manの酵素活性を比較するグラフである。
【図18】枯草菌由来のアルカリセルラーゼの全長アミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上記の通り、低温側での活性が改善された変異型酵素、当該変異型酵素をコードする核酸、当該核酸を含む発現カセット、発現ベクター、及び形質転換体、当該変異型酵素等の製造方法、並びに当該変異型酵素等を用いて、目的物質を製造する方法に関する。以下では、本発明の実施形態により、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態により限定的に理解されるものではない。

【0017】
1.変異型酵素
本発明による変異型酵素は、親酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基を、塩橋を維持しながら塩橋強度が小さくなるように変更しており、これにより、親酵素に比べ低温での活性が向上している。
本発明は、特定部位のアミノ酸残基に変異を導入して一定限度で構造に柔軟性を付与するものであり、この原理は、種々の酵素に適用可能である。したがって、親酵素について特に制限はなく、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼといった酵素に適用でき、工業的利用に対する需要が多い、酸化還元酵素、加水分解酵素及び異性化酵素が好ましく、加水分解酵素がより好ましく、糖加水分解酵素が特に好ましい。

【0018】
酸化還元酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等を挙げることができる。
転移酵素としては、例えば、αーグルコシルトランスフェラーゼ、サイクロデキストリン生成酵素(cyclo maltodextrine glucano transferase : CGTase)等を挙げることができる。
異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼを挙げることができる。

【0019】
加水分解酵素としては、例えば、アルカリプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、グルタミナーゼ等のプロテアーゼ類;デキストラナーゼ、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、アミロプルラナーゼ、グルコアミラーゼ、β-グルカナーゼ等のアミラーゼ類、ヘミセルラーゼ、アラバナーゼ、ペクチナーゼ、フィターゼ、プロトペクチナーゼ、キシラナーゼ、アルカリセルラーゼ等のセルラーゼ類;マンナナーゼ、β-ガラクトシダーゼ(ラクターゼ)、β-フラクトフラノシダーゼ(インベルターゼ、サッカラーゼ、プルラナーゼ、ヘスペリジナーゼ、アントシアナーゼ、リゾチーム、タンナーゼ、マルトオリゴシルトレハロース合成酵素(MTSase)、マルトオリゴシルトレハロースヒドロラーゼ(MTHase)、リパーゼ等のその他の加水分解酵素を挙げることができる。
中でも、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、マンナナーゼ、アルカリプロテアーゼ、セルラーゼ類等は本発明を適用するのに好ましい。特に、本発明者らが見出したシマミミズ由来の生澱粉分解酵素I型およびII型並びにシマミミズ由来のマンナナーゼは、本発明を適用するのに好ましい。また、枯草菌由来のアルカリプロテアーゼ、および枯草菌由来のアルカリセルラーゼも本発明を適用するのに好ましい。

【0020】
本発明においては、親酵素の由来についても特に制限はなく、例えば、哺乳類、植物、無脊椎動物(例えば草食性の貝類、環形動物)、昆虫、微生物等に由来する酵素が挙げられる。工業的には、環形動物、微生物由来の酵素が用いられることが多く、例えば、シマミミズ、真菌、酵母、放線菌、大腸菌、枯草菌などに由来する酵素が用いられている。

【0021】
もっとも、工業的利用の観点からは、室温以上、特に40℃以上の温度での活性が工業的に利用可能なレベルであるが、40℃以下、特に室温付近での活性が低く、このような温度を選択できない酵素を親酵素として選択することが好ましい。このような観点から、好ましい親酵素として、例えば、上述したシマミミズ由来の生澱粉分解酵素I型およびII型、シマミミズ由来のマンナナーゼ、枯草菌由来のアルカリプロテアーゼ、および枯草菌由来のアルカリセルラーゼを挙げることができる。

【0022】
これらの酵素のアミノ酸配列は、UniProtKB、PDB、PIR: Protein Information Resource、SWISS-PROT & TrEMBL、PRF: Protein Research Foundation、GenPept (NCBI Protein Database)、NIAS DNA Bank、GenBank等のデータベースを利用して特定することができる。また、既知の配列決定方法を利用して決定してもよい。

【0023】
幾つかの好ましい親酵素として、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するシマミミズマンナナーゼ、配列番号15に示すシマミミズ由来の野生型生デンプン分解酵素II型、配列番号16に示す枯草菌由来のアルカリプロテアーゼ、並びに配列番号17及び18に示す枯草菌由来のアルカリセルラーゼが挙げられる。
本発明では、このような酵素のアミノ酸に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋、好ましくは塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、同じ酵素活性を有する酵素を親酵素とすることができる。好ましくは、配列番号1並びに配列番号15乃至18の何れかで特定されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋、好ましくは塩橋を形成するアミノ酸は保存されている、アミノ酸配列を含み、配列番号1並びに配列番号15乃至18の何れかで特定される酵素と同じ酵素活性を有する酵素を親酵素とする。本願明細書でのアミノ酸配列の同一性は、ギャップを許し、最大の同一性が得られるアラインメントにおける同じアミノ酸の百分率(%)を言う。
なお、配列番号16のアミノ酸配列は、数箇所で残基飛びがあり、配列同一性を決める際には、この残基飛びを配慮してアライメントする必要がある。また、配列番号17の221~227は触媒ドメインを発現する際に付けたタグの領域であり、配列同一性を決める際には、配列番号18の対応する位置のアミノ酸配列に置き換えたアミノ酸配列に基づいて決めてもよい。

【0024】
当業者であれば、例えば、当業者が通常用いる部位特異的変異導入法などを用いて、適宜、既知の酵素のアミノ酸に置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することができる。また、突然変異など自然に変異を生じる場合もある。人為的にアミノ酸配列に変異を導入する際には、元となった酵素のアミノ酸配列、立体構造、特性などの情報に加え、相同アミノ酸、活性中心等の技術常識を考慮して活性に悪影響を与えない変異を導入することができる。特に、本発明においては、分岐型の塩橋、好ましくは塩橋を形成するアミノ酸は保存されることが好ましい。また、酸性やアルカリ性に対する耐性を付与しているアミノ酸も保存することが好ましい。アミノ酸の置換等の酵素の特性に対する影響は、変異を導入した酵素を用いて酵素反応を行い、その際に対象とする特性に応じて適宜反応条件(pHなど)を変動させて、元の酵素と酵素活性を比較して確認することができる。

【0025】
化学的性質が類似するために、一般的に相互に置換可能とされる以下の各群のアミノ酸間での保存的置換は、塩橋を形成するアミノ酸以外での置換を行なう際の好ましい例である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。

【0026】
本発明による変異型酵素では、親の酵素が有する分岐型の塩橋の少なくとも一つを形成するアミノ酸残基が変更されて、塩橋を維持しながらも親酵素に比べ塩橋強度が小さくなっている。
「塩橋」は、隣接するアミノ酸の相反する極性の側鎖間でイオン性相互作用が作用し、側鎖間で互いに引き合う構造をいい、典型的には水素結合を形成している。「分岐型の塩橋」は、この水素結合が2つ以上形成されている。本発明では、この分岐型の塩橋を標的にして変異を導入する。「塩橋」の特定は、X線結晶構造解析法などの従来公知のタンパク質の立体構造解析方法により酵素の立体構造を解析し、相反する極性の側鎖の窒素および酸素原子間の距離が、6.5Å以内である隣接するアミノ酸を同定することによって行うことができる。また、「分岐型の塩橋」の特定は、隣接するアミノ酸の相反する極性の側鎖が、2つ以上の水素結合を形成し得る極性基を有しているかによって行うことができる。

【0027】
従って、上述した種々の酵素について、立体構造を解析し、「分岐型の塩橋」を特定することができ、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するシマミミズマンナナーゼ、配列番号15に示すシマミミズ由来の野生型生デンプン分解酵素II型、配列番号16に示す枯草菌由来のアルカリプロテアーゼ、および配列番号17に示す枯草菌由来のアルカリセルラーゼの触媒ドメインにおいて、立体構造解析で特定される分岐型の塩橋は、以下の通りである。
・シマミミズマンナナーゼ(配列番号1)
R63:E159(触媒残基と相互作用されるので候補から除外)、R125:D193、R213:D251、R302:D300
・シマミミズ由来の野生型生デンプン分解酵素II型(配列番号15)
158位、185位、195位(触媒残基と相互作用されるので候補から除外)、213位、380位のアルギニン(Arg)残基
・枯草菌由来アルカリプロテアーゼ(配列番号16)
19位、247位、275位のアルギニン(Arg)残基
・枯草菌由来アルカリセルラーゼ(配列番号17)
339位、423位、464位、565位のアルギニン(Arg)残基

【0028】
「分岐型の塩橋」は、通常、塩基性アミノ酸残基と酸性アミノ酸残基で形成される。塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンが挙げられ、酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、及びグルタミン酸が挙げられる。
また、分岐型の塩橋は、構造の観点から以下のタイプに分類できる。
【化4】
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「分岐型の塩橋」のタイプの特定は、上述した立体構造解析を通じて行うことができる。即ち、X線結晶構造解析法などの従来公知のタンパク質の立体構造解析方法により酵素の立体構造を解析し、相反する極性の側鎖の窒素および酸素原子間の距離が、6.5Å以内である隣接するアミノ酸を同定する。そして、隣接するアミノ酸の相反する極性の側鎖が、2つ以上の水素結合を形成し得る極性基を有している場合に分岐型の塩橋を形成していると特定できる。そして、当該分岐型の塩橋の水素結合の結合パターンが上記A~Cのいずれのパターンに合致するかを比較することで、分岐型の塩橋のタイプを特定する。なお、側鎖のコンフォメーションも同様に、X線結晶構造解析法などの立体構造解析方法により特定することができる。

【0029】
本発明においては、このような分岐型の塩橋を形成するアミノ酸を、塩橋を消滅させずに塩橋強度が小さくなるように変更する。後述する実施例で実証している通り、分岐型の塩橋を消滅させる変異の導入は、酵素の安定性を損ない、実用的な温度での利用が困難になるが、塩橋を維持しながら塩橋強度を小さくすると、低温側での酵素活性が向上できると伴に、酵素の安定性が改善される。塩橋構造の変異は、塩橋を維持しながら塩橋強度を小さくする変異であれば特に制限は無いが、塩橋を形成するアミノ酸残基の種類、塩橋構造のタイプ、親酵素の分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離、酵素の立体構造における塩橋の位置、塩橋を形成するアミノ酸残基のコンフォメーションなどの観点から変異を導入することが好ましい。また、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸の変更は、例えば、アミノ酸の置換、付加若しくは削除、或いはアミノ酸の修飾によることができるが、典型的には、アミノ酸の置換による。

【0030】
塩橋を形成するアミノ酸残基の種類の観点からは、例えば、塩基性アミノ酸残基の他の塩基性アミノ酸残基への置換、または酸性アミノ酸残基の他の酸性アミノ酸残基への置換が挙げられる。より具体的には、塩基性アミノ酸残基の場合、アルギニンをヒスチジン又はリジンに置換することができ、好ましくはアルギニンをリジンに置換する。酸性アミノ酸残基の場合は、アスパラギン酸及びグルタミン酸間で、相互に置換することができ、何れの置換でも塩橋強度が減少する事が有り得る。アルギニンをリジンに置換した場合には、分岐型の塩橋を構成する2本の水素結合が1本になり、又は水素結合が消滅するため、塩橋強度が顕著に低減する。
アミノ酸の置換による変異の典型例としては、親の酵素が有する分岐型の塩橋が、下記左列の群から選択されるアミノ酸残基対で形成され、この対が、下記右列のアミノ酸残基対に変更されている変異を挙げることができる。
【表1】
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【0031】
特に、変異導入による低温での酵素活性の向上の観点で、アルギニン:アスパラギン酸対を、リジン:アスパラギン酸対、又はヒスチジン:アスパラギン酸対、に置換するのが好ましく、リジン:アスパラギン酸対に置換するのが特に好ましい。

【0032】
塩橋構造のタイプの観点からは、A及びBタイプの分岐型の塩橋を変異導入の対象として選択することが好ましい。A及びBタイプの塩橋構造では、2本の水素結合により、両アミノ酸の極性側鎖がより近くに位置づけられ、その結果両側鎖の静電的相互作用が強くなるため、通常塩橋強度が大きい。このため、水素結合が減少又は消滅するようなアミノ酸の変異を与えると、1つの塩橋構造の変化で効率的な構造の柔軟化が起り、効果的に低温での酵素活性が向上するものと推測される。

【0033】
本発明においては、親酵素の分子内に存在する分岐型の塩橋の複数で、アミノ酸の変異を導入してもよいが、その場合でもA又はBタイプタイプの分岐型の塩橋を含めることが好ましい。また、低温側での酵素活性の向上と酵素の安定性の両方の観点から、A又はBタイプの分岐型の塩橋のみをアミノ酸の変異を導入する対象とすることが好ましい。

【0034】
親酵素の分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離の点からは、変異導入の対象として、2つの水素結合の少なくとも1つ、好ましくは両方を形成するアミノ酸側鎖の窒素と酸素の原子間距離が4Å以下であることが好ましく、3.2Å未満であることがより好ましく、3Å未満であることがさらに好ましい。アミノ酸間の2つの水素結合を形成するアミノ酸側鎖の距離がこのぐらい近いとアミノ酸間の静電的相互作用が強くなるため塩橋強度が大きく、このような塩橋に変異を導入することでアミノ酸間の静電的相互作用が大幅に低減し、これにより効果的に低温での酵素活性が向上するものと推測される。

【0035】
分岐型塩橋の変異においては、酵素の立体構造における塩橋の位置、例えば酵素の触媒残基と塩橋との距離も重要である。塩橋を形成するアミノ酸残基が酵素の触媒活性に直接関係するアミノ酸残基(触媒残基)である場合、または、酵素の立体構造上塩橋を形成するアミノ酸残基と触媒残基との距離が近すぎる場合には、塩橋の変異により酵素活性が低下する場合がある。酵素の立体構造上、このような位置になる分岐型の塩橋への変異の導入は避けることが望ましい。なお、「近すぎる」かは、通常、上述した、強度の高い塩橋を形成するアミノ酸側鎖間の距離(窒素と酸素の原子間距離)として例示した4.0Å以内であるか否かによって判断する。より好ましくは、上述した「塩橋」か否かを判断する基準、すなわち、6.5Å以内であるか否かによって判断する。

【0036】
塩橋の変異においては、塩橋を形成するアミノ酸残基の側鎖のコンフォメーションも重要である。より具体的には、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸残基の側鎖が運動(典型的には回転)し、複数のコンフォメーションをとることがある。このようなコンフォメーションの中には、分岐型の塩橋を形成しなかったり、水素結合を形成しないコンフォメーションが存在するため、側鎖の運動が多く複数のコンフォメーションをとるアミノ酸残基は、側鎖の運動が少ないアミノ酸残基と比較して、塩橋を形成する確率が低くなる。従って、塩橋を構成するアミノ酸残基の側鎖の運動が少ない塩橋を変異導入の対象として選択することが好ましく、分岐型の塩橋を形成しなかったり、水素結合を形成しないコンフォメーションをとらない塩橋を変異導入の対象とすることがより好ましく、塩橋を構成するアミノ酸残基の側鎖が単一のコンフォメーションをとる塩橋を変異導入の対象とすることが特に好ましい。また、複数のコンフォメーションをとるアミノ酸残基であっても、酵素の至適温度より低い温度で、分岐型の塩橋を形成するコンフォメーションを取る確率が、65%以上の塩橋を選択することが好ましく、70%以上の塩橋を選択することがより好ましく、80%以上がさらに好ましい。

【0037】
また、分岐型の塩橋を形成する原子の配置も、塩橋の強度に影響する。即ち、2つの水素結合を形成する原子がほぼ同一平面上に配置存在するように配置される場合、塩橋の強度が強くなる傾向にある。従って、2本の水素結合を形成する原子がほぼ同一平面上に配置される塩橋を変異導入の対象として好適に選択することができる。

【0038】
具体的に、配列番号1に示すマンナナーゼを例として以下に説明する。
このマンナナーゼの立体構造から、分子中に4つの分岐型塩橋(R63:E159、R125:D193、R213:D251、R302:D300)を有する。
このうちR63:E159の塩橋は、立体構造上、触媒残基に極めて近いため、アミノ酸変異導入対象から除外することが好ましい。
他の3つの分岐型塩橋(R125:D193、R213:D251、R302:D300)は、いずれもアミノ酸変異導入の候補として選択可能であり、これらの塩橋の塩橋強度が小さくなるようアミノ酸変異を導入することにより低温活性を向上し得る。

【0039】
塩橋のタイプに着目すると、Aタイプの塩橋(R302:D300)およびBタイプの塩橋(R213:D251)は、Cタイプの塩橋(R125:D193)と比較して塩橋強度が高いため、これらの塩橋をアミノ酸変異導入の候補として好適に選択し得る。特にBタイプの塩橋(R213:D251)は塩橋のタイプの観点からは好適なアミノ酸変異導入の候補である。ただし、側鎖のコンフォメーションに着目すると、この塩橋(R213:D251)は図3に示すコンフィメーションa)及びb)を同程度の頻度で取り得る。このコンフォメーションの変動により塩橋強度が影響を受けるため、R125:D193、又はR302:D300の塩橋を変異導入の候補として選択する事が好ましい。
更に、塩橋を形成する側鎖の原子間距離の観点からは、塩橋(R302:D300)は2本の水素結合の両方が3Å未満であるため好ましい。

【0040】
上述のとおり、塩橋のタイプ、塩橋を形成するアミノ酸のコンフォメーション、塩橋を形成する側鎖間の距離などを総合的に判断すると、R302:D300の塩橋に変異を導入することが好ましいと推測できる。このとき、アルギニンをリジンに置換する変異は、分岐型の塩橋における水素結合が解消され効果的に塩橋の強度を低減できるため好ましい。

【0041】
2.変異型酵素の製造
本発明による変異型酵素は、上述した親酵素の立体構造を、X線結晶構造解析法により解析し、水素結合を形成するアミノ酸側鎖の窒素及び酸素原子間の距離が、6.5Å以内、好ましくは4Å以下、より好ましくは3.2Å未満、さらに好ましくは3.0Å以下である隣接するアミノ酸を同定し、隣接するアミノ酸の相反する極性の側鎖が、2つ以上の水素結合を形成し得る極性基を有しているかによって、分岐型の塩橋を特定する。また、塩橋のタイプについては、分子描写ソフト(Cootなど)を用い、塩橋を実際に視覚化することで分岐型の塩橋を形成しているか否か、形成している場合はA、B、Cのどのタイプに属するかを特定する。

【0042】
変異導入は、上記で詳細に述べた、塩橋を形成するアミノ酸残基の種類、塩橋構造のタイプ、親酵素の分岐型の塩橋を形成するアミノ酸側鎖間で水素結合を形成している水素と酸素の原子間距離、酵素の立体構造における塩橋の位置、塩橋を形成するアミノ酸残基のコンフォメーションなどの観点から行うことが好ましい。既知の酵素については、アミノ酸配列、立体構造、活性部位、触媒活性に直接関与するアミノ酸、および塩橋部位は、様々な文献及びデータベースで明らかになっており、変異を導入する塩橋を選択する際に考慮することが好ましい。
変異導入は、既知の方法を利用すればよく、例えば、部位特異的変異導入法によって行うことができる。例えば、親酵素をコードする核酸を含むプラスミドを作成し、これを鋳型にして、変異を導入するアミノ酸をコードするコドンを含むプライマーを用いてPCRを行ない、変異を導入した塩基配列の核酸を増幅し、この核酸を含むプラスミドを酵母等の宿主に導入して形質転換し、形質転換した宿主を所定条件で培養して変異型の酵素を発現させることができる。産生された酵素は精製することが好ましい。

【0043】
3.核酸、ベクター、及び発現カセット
本発明は、上記変異型酵素をコードする核酸も対象とする。核酸の典型的な例は、DNAであるが、mRNA等も対象となり得る。
本発明による核酸としては、例えば、配列番号1、並びに配列番号15乃至18の何れかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に示す塩基配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の配列同一性を有し、分岐型の塩橋を形成するアミノ酸に対応するコドンは、上述した変異導入後のアミノ酸に対応するコドンで置換されている、塩基配列を含み、親酵素と比較して低温での活性が向上している変異型酵素をコードする核酸を挙げることができる。本願明細書での塩基配列の同一性は、ギャップを許し、最大の同一性が得られるアラインメントにおける同じ塩基の百分率(%)を言う。
本発明は、このような核酸を含む、発現ベクター又は発現カセット、或いは当該核酸、発現ベクター又は発現カセットで宿主を形質転換した、形質転換体も対象とする。
発現カセットは、目的の酵素をコードする遺伝子の発現を調節するプロモーター、ターミネーター、オペレーター、エンハンサーなどのいわゆる調節因子を含み得、当業者によって適宜選択され得る。各種塩基配列を含むDNAの合成および連結は、当業者が通常用い得る手法で行われ得る。遺伝子または該遺伝子を含む発現カセットを、ベクターに組み込んで、発現ベクターが構築される。ベクターとしては、既知のベクターから当業者によって適宜選択され得る。また、これらを用いて遺伝子を宿主のプラスミド又はゲノムに導入して、形質転換体を構築する。形質転換方法も、エレクトロポレーションなどの既知の方法を適用すればよい。

【0044】
4.リアクター、目的物質の製造
本発明は、上述した変異型酵素、或いは形質変換体を含む、リアクターも対象とする。リアクターは、例えば、変異型酵素、或いは宿主生物を固定化する既存の記述を利用して製造することができる。
本発明では、上述した変異型酵素、形質変換体、或いはリアクターを用いて、酵素反応により目的物質を製造することも対象とする。用いる変異型酵素に応じて好適な反応条件を選択すれば良いが、本発明による変異型酵素は、親酵素に比べ、親酵素の至適温度より低い温度での酵素活性が向上している。従って、親酵素の至適温度より低い温度条件を選択することが好ましく、多くの場合、親酵素の至適温度より10℃から20℃低い温度を選択することが好ましい。また、親酵素に対して特に活性が向上している温度を選択することが好ましい。このような温度は、各温度で親酵素と酵素活性を比較する事で決定することができる。
【実施例】
【0045】
以下では、シマミミズ由来のマンナナーゼを用いた実施例及び比較例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例等で実証される技術的事項の基本原理は、他の酵素にも適用可能である。また、以下の実施例等で用いる各手法は、既知の他の手法に置換し得ることも理解される。よって、本発明は以下の実施例等によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
1.概要
エンド-β-1,4-マンナナーゼ(EC 3.2.1.78)はマンナン内部のβ-1,4マンノシド結合を加水分解し、マンノビオースやマンノトリオースなどのマンノオリゴ糖を生産する酵素であり、細菌、カビなどがマンナナーゼを生産し、植物や無脊椎動物などより高等な生物においてもマンナナーゼが存在することが報告されている。シマミミズ(Eisenia fetida)は、様々な酵素を持ち、マンナナーゼも有している。本試験では、シマミミズ(Eisenia fetida)由来マンナナーゼ(以下、Ef-Manと略称することがある)の分岐型塩橋に変異を導入して、塩橋の架橋強度を弱めた或いは塩橋を破壊した変異型酵素を作成し、その酵素特性について評価した。
【実施例】
【0047】
2.実験材料及び使用機器
・シマミミズ(Eisenia fetida)
実験に使用したE. fetidaは、長根産業(北海道)から購入した。E. fetidaを水で洗浄後、20℃で1晩絶食させた。その後、凍結乾燥し、乳鉢で細かく破砕し、mRNA抽出に使用した。
【実施例】
【0048】
・配列決定
各酵素をコードするDNAの配列はユーロフィンジェノミクス株式会社のDNAシークエンスサービスに依頼し、その配列を明らかにした。その塩基配列からEf-Manのアミノ酸配列を決定した。
【実施例】
【0049】
・X線立体構造解析
高エネルギー加速器研究機構が設置した放射光施設(Photon Factory)のビームライン17Aにおいて収集したX線回折データに対し、複数のプログラム(XDS, CCP4, Coot)を用いて、Ef-Manの立体構造及び分岐型塩橋を特定した。
【実施例】
【0050】
・Ef-Man発現系
EasySelect Pichia Expression Kit (Invitrogen)を用いて、メタノール資化性酵母(Pichia pastoris GS115株)の発現系を構築した。P. pastorisは、メタノール資化性酵母である。メタノール資化には、アルコールオキシダーゼ(AOX)が必要となり、P. pastorisではAOX1遺伝子とAOX1プロモーターにより、AOXが生産され、メタノールを資化出来る。本発現系ではAOX1プロモーターの下流にEf-Manの遺伝子配列を挿入することによって、メタノール資化時にEf-Manを発現させる。また、このGS115株はHIS4遺伝子に変異をいれ、ヒスチジン要求株としてある。
【実施例】
【0051】
・使用培地
試験で用いた各培地の組成を以下に示す。
YPD (Yeast extract peptone dextrose)培地
1% yeast extract
2% peptone
2% dextrose (glucose)
YPDS+Zeocin寒天培地
1% yeast extract
2% peptone
2% dextrose (glucose)
1M sorbitol
2% agar
100 mg/ml Zeocin (final conc.)
BMGY培地(1% glycerol)
1% yeast extract
2% peptone
100 mM potassium phosphate, pH 6.0
1.34% YNB (Yeast Nitrogen Base)
4×10-5% biotin
1% glycerol
BMMY培地(0.5% methanol)
1% yeast extract
2% peptone
100 mM potassium phosphate, pH 6.0
1.34% YNB
4×10-5% biotin
0.5% methanol
2×TY培地
1.6% bacto tryptone
1% yeast extract
2.5% NaCl
【実施例】
【0052】
・ベクター
pPICZαA(Invitrogen Cat. no.V 195-20)を用いた。これは、目的タンパク質のN末端側にα-factor シグナルペプチドを付加することにより、目的タンパク質を細胞外に分泌させることが出来る、細胞外分泌発現用ベクターである。また、C末端側に付加された6×Hisの存在により、His-Tag融合タンパク質として目的タンパク質を発現させることが出来る。形質転換体の選択はZeocinを用いて行なった。
【実施例】
【0053】
3.野生型のEf-Manのアミノ酸配列の特定
PCRクローニングにより、野生型のEf-Man(Ef-ManWT)を得、上記シーケンサーを用いて、Ef-ManWTのアミノ酸配列を決定した。野生型のEf-Manのアミノ酸配列は配列番号1に示されEf-Manをコードする塩基配列は配列番号2に示される。
【実施例】
【0054】
4.分岐型塩橋の特定
放射光施設(Photon Factory)のビームライン17Aにおいて収集したX線回折データを用いてX線結晶構造解析法により1.7Å分解能でEf-Manの立体構造を決定した。Ef-Manの立体構造において、隣接する塩基性アミノ酸側鎖の窒素原子と及び酸性アミノ酸側鎖の酸素原子間の距離が6.5Å以内である場合に、「塩橋」とみなし、両アミノ酸が水素結合を2つ以上形成し得る側鎖を有する場合に「分岐型の塩橋」と特定した。通常、このような塩橋は、塩基性のアミノ酸残基(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)と酸性アミノ酸残基(アスパラギン酸とグルタミン酸)との間で形成される。
構造解析の結果、Ef-Man分子内には、合計で12本の塩橋が形成されていた。このうち、分岐型の塩橋を形成しているのは、Arg63-Glu159、Arg125-Asp193、Arg213-Asp251、およびArg302-Asp300であった。それぞれの塩橋の構造を図2乃至4に示す。このうち、Arg63-Glu159の塩橋については、近傍にマンナナーゼの加水分解活性に必須と予想される触媒残基(Glu293)が存在するため、このアミノ酸残基への影響を回避するため、残り3つの分岐型の塩橋を変異導入対象として選定した。
【実施例】
【0055】
5.変異型Ef-Manの調製
選択した3つの分岐型の塩橋を形成するアルギニンをリジンへと置換して変異型Ef-Manを調製した。変異導入は、選択した3つの塩橋の1つずつ、3本のうち2本、3本すべて、の計6通りを実施し、最終的に「R125K」、「R213K」、「R302K」、「R125K/R302K」、「R213K/R302K」、及び「R125K/R213K/R302K」の6種類の変異型Ef-Manを調製した。また、塩橋を形成するアルギニンをアラニンに置換して塩橋を消滅させる変異を導入した「R302A」の変異型Ef-Manを調製した。
変異の導入は、以下に示す部位特異的変異導入法により実施した。
【実施例】
【0056】
1)野生型(WT)プラスミドの獲得
変異型Ef-Manの設計の元となる野生型Ef-Manとしては、配列番号3に示される組換えEf-Manを用いた。組換えEf-Manは、野生型Ef-Manマンナナーゼの1位~361位のアミノ酸配列(配列番号1)に対して、-1位~-16位にシグナルペプチドが付加されている。
pPICZαAをベクターとして用い、野生型Ef-Manをコードする塩基配列部分を挿入し、ライゲーション後、大腸菌(E. coli)DH5αに導入して形質転換体を得た。得られた形質転換体をZeocin含有低塩LB培地で培養した後、プラスミド抽出を行い、菌体から野生型Ef-Man(Ef-Man WT)をコードするDNAを有するプラスミドを取得した。大腸菌(E.coli)DH5αの形質転換体の培養は、50mlの2×TY培地2本を用いて培養し、PureYield Plasmid Midiprep System 25 preps (Promega Lot no. 293710)を用いてプラスミド抽出を行った。操作方法はキットの方法を用いた。プラスミド抽出後、プラスミドの濃縮のために、以下に示す方法でエタノール沈殿を行った。
【実施例】
【0057】
2)エタノール沈殿
プラスミド抽出溶液に対して0.6倍量のイソプロパノールを加えた。得られた混合液に対して1/10量の3M酢酸ナトリウムを加え転倒混和した。室温で10min放置後、15,000rpmにて15min遠心分離した。上清を捨て、1mlの70%エタノールを加え軽く転倒混和後、15,000rpmにて5min遠心分離した。上清を完全に除去し、沈殿を風乾させた。1μg/μlとなるよう滅菌MilliQ水を加え、沈殿を溶解させた。
【実施例】
【0058】
3)プライマーの作製
Ef-Man WTに部位特異的変異導入を行うために、以下のプライマーを作製した。変異導入部位を下線で示した。
【表2】
JP2019088225A_000007t.gif
【実施例】
【0059】
4)変異導入
部位特異的変異導入はPrimeSTAR Mutagenesis Basal kit (Takara)のプロトコルに従って行った(http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/R046A_j.pdf)。
【実施例】
【0060】
・PCR
上記のプライマーを用いて、Ef-Man WTプラスミドを鋳型にPCRを行った。DNAポリメラーゼにはPrimeSTAR(登録商標)Max DNA Polymeraseを使用した。反応液組成は以下の通りである。
【表3】
JP2019088225A_000008t.gif

また、PCRの条件は、以下の通りである。
【表4】
JP2019088225A_000009t.gif

増幅産物は下記に示すアガロースゲル電気泳動により増幅を確認した。
【実施例】
【0061】
・アガロースゲル電気泳動
PCR産物を6×loading bufferと混和し、1.0%アガロースゲルにより電気泳動(100V、20min)を行い、増幅断片の長さを確認した。
loading bufferの組成
36% グリセロール
30 mM EDTA
0.05% Bromophenol Blue
0.035% キシレンシアノール
【表5】
JP2019088225A_000010t.gif


【実施例】
【0062】
・鋳型DNA(Ef-Man WTプラスミド)の制限酵素での消化
Ef-Man WTプラスミドは反応液20μlに制限酵素Dpn I (10U/ml)を加え、37℃で1hインキュベートすることで鋳型DNA(Ef-Man WTプラスミド)を消化した。
【実施例】
【0063】
・大腸菌(E.coli)DH5αの形質転換
大腸菌(E.coli)DH5αにDpn I処理した各PCR反応液1.0μlを添加し、穏やかに撹拌して氷上で30min静置した。42℃で40secヒートショックを与えた。450μlのLB液体培地を加え37℃で3h遥動攪拌しながらインキュベートした。インキュベート後、Zeocin含有低塩LBプレートに培養液50μlを播種し、37℃で一晩インキュベートした。
【実施例】
【0064】
・コロニーPCRによる変異導入の確認
真木寿治改訂(1997) PCR Tips 秀潤社に従ってコロニーPCRを実施した。Zeocin含有低塩LBプレートに形成されたコロニーをランダムに選び、それぞれ爪楊枝でつつき、採取物を以下のPCR反応液に浸け、次いで採取物を含む反応液を別のZeocin含有低塩LBプレートに植え継いだ。PCRの条件、プライマーは以下の通りである。
【表6】
JP2019088225A_000011t.gif

プライマーには5’-AOX1 forward primer(配列番号13)及び3’AOX1-reverse primer(配列番号14)を用いた。
シーケンサーによる配列解析の結果、目的の部位に変異が確認できたので、得られた大腸菌形質転換体を用いて以後の実験を行った。
【実施例】
【0065】
6.Ef-Manの酵母による異種発現
酵母におけるEf-Manの発現を、EasySelectTM Pichia expression kit(Invitrogen)を用いて行った。
【実施例】
【0066】
・プラスミド抽出(Midi prep)
上記5の1)及び2)で記載した手順で、変異を導入した大腸菌(E. coli)の形質転換体からプラスミドを抽出し、濃縮した。
【実施例】
【0067】
・プラスミドの線状化
新しいエッペンチューブに、濃縮したWTプラスミド並びに各変異体プラスミドの抽出液15μl、PmeI3μl、10×NEB buffuer4(cut smart)3μl、滅菌MilliQ水9μlを混合し37℃で一晩インキュベートした。この反応液から1μlを上述したアガロースゲル電気泳動にかけ切断されているかを確認した。
残りの反応液29μlにフェノール:クロロフォルム:イソアミルアルコール(PCI)30μlを添加し、ボルテックスで混合した。15,000rpm、4℃、5minで遠心し、上清を新しいエッペンチューブに回収した。この上清に3M酢酸ナトリウム(NaOAc)(pH5.2)3μlを添加して混合し、100%エタノール75μlを添加・混合した後、5min間氷上に静置し、その後15,000rpm、4℃、5minで遠心し、上清を除去し、沈殿物を回収した。沈殿物に70%エタノール1mlを添加・混合した後、15,000rpm、4℃、5min間遠心し、エタノールを除去し沈殿物を回収した。風乾させた後、沈殿物に滅菌MilliQ水10μlを加えて溶解した。
【実施例】
【0068】
・コンピテントセル作製
5mlのYPD培地に、Pichia pastorisGS115株のシングルコロニーを植菌し、28℃で終夜培養した。250mlのYPD培地に、前培養から250μlの培養液を植え継ぎ、OD600が1.3-1.5になるまで、28℃で終夜培養した。培養液を500ml容遠沈管に移し、1,500×g、5min、4℃で遠心し、沈殿物を回収した。この沈殿物に250mlの冷滅菌MilliQ水を加えて懸濁した。懸濁液を同様に遠心し、沈殿物を取り出し、冷滅菌MilliQ水125mlに懸濁し、懸濁液を同様に遠心し、沈殿物を取り出し、冷1Mソルビトール10mlに懸濁し、懸濁液を同様に遠心し、沈殿物を取り出し、冷1Mソルビトール500μlに懸濁した。
【実施例】
【0069】
・エレクトロポレーション法による形質転換
コンピテントセル懸濁液80μlとPmeI処理して線状化した各プラスミド液10μlを混合し、冷えた0.2cmエレクトロポレーションキュベットに移し氷上に5min置いた。BTX Electro cell manipulator ECM 600(Genetronics Inc.)を用いてキュベットに1回パルスを印加した。この時の条件は、1.5kV、186Ω、50μFであった。氷冷1Mソルビトール1mlをキュベットに添加し、キュベットから4ml容チューブに移し、30℃で1-2hインキュベートした。1mlYPD培地を添加し、30℃で4hシェイクしながらインキュベートした。インキュベート後、100μg/ml Zeocinを含有するYPDSプレートに、培養物100μlを接種し、28℃で2日間培養した。
【実施例】
【0070】
・マルチコピー形質転換体の選抜
マルチコピー形質転換体の選抜は形質転換プレートからシングルコロニーをピックアップし、終濃度100/1000/2000μg/mlZeocinを含むYPDSプレートに塗抹し、28℃で2日間培養した。選抜したマルチコピー形質転換体はpPICZαA-EfManを相同組換えにより、P.pastorisの染色体上のAOX1遺伝子に挿入しているため、メタノールによって目的タンパク質を培養上清中に発現誘導することができる。以降の発現実験では、2000μg/mlZeocinを含むYPDSプレートに生育した株を用いた。
【実施例】
【0071】
・P.pastorisを用いた発現
25mlのBMGY培地に選抜した形質転換株のシングルコロニーを植菌し、28℃、200-230rpmでOD600が2-6になるまで2日間培養した。培養液を50ml容ファルコンチューブに移し、3000×g、5min、室温で遠心した。沈殿を取り出し、少量のBMMY培地に懸濁し、200mlのBMMY培地に植え継いだ。17℃で7日間、200-230rpmで振とうして培養した。発現誘導を維持するため、24hごとに100%メタノールを終濃度0.5%となるように添加した。また、メタノールを添加する直前に1mlずつ培養液をサンプリングした。培養終了後、培養液を8,200×g、10min、4℃で遠心し、上清を回収した。培養上清中の目的タンパク質の発現を、SDS-PAGEで確認した。
【実施例】
【0072】
・SDS-PAGE
培養後に回収した上清をSDS-PAGE用のサンプルとした(「R302A」の変異型Ef-Manは、後述する精製処理後の各フラクションをサンプルとした)。Laemmli UK. (1970) Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature, 227: 680-685に記載の方法を参考に、SDS-PAGEのアクリルアミド濃度は分離ゲルを10%として、running gelとstacking gelを以下の通りに試薬を混合して作製した。
【表7】
JP2019088225A_000012t.gif

サンプル10μlと2×サンプルbuffer10μlを混合して3min煮沸した。煮沸混合物をゲルにアプライし、電気泳動は1枚当たり20mA、300Vで行った。分子量マーカーには、Unstained Protein Molecular Weight Marker (Bio-Rad)を使用した。泳動終了後、クマシーブリリアントブルー(CBB)G-250で染色し、10%酢酸で脱色した。図5及び6に示す通り、39.5kDaに単一なバンドを得られたため、培養上清を以下の精製に供した。
【実施例】
【0073】
7.Ef-ManWT並びに変異型Ef-Manの精製
I)硫酸アンモニウムによる塩析
培養上清に80%飽和になるように硫酸アンモニウム(561g/L)をスターラーバーで撹拌しながら、少量ずつ添加した。低温で一晩静置した後、溶液を11,000rpmで20min遠心し、上清を除去した。得られた少量の沈殿に20mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)を加え、溶解した。透析用セルロースチューブ(透過分子質量12000-16000、孔径40-50Å、三光純薬)に酵素溶液を入れ、20mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)を外液とし、スターラーバーで撹拌しながら、4℃で一晩透析して脱塩を行った。pPICZαAは、発現タンパク質のC末端側に6つのヒスチジンから成るHis-Tagが付与されるように設計されている。そこで、得られた粗酵素液をHisTrap HP(GE health care)アフィニティークロマトグラフィーに供し、発現タンパク質を精製した。
【実施例】
【0074】
II)HisTrap HP(GE healthcare)アフィニティークロマトグラフィー
クロマトグラフィーの基本的仕様及び用いた各バッファーの組成
・基本仕様
ゲルマトリックス:6% 高度架橋アガロース
平均粒子径:34 μm
担体容量:1 ml
カラムサイズ:0.7×2.5 cm(1ml)
流速:1 ml/min
・Binding buffer
20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)
500 mM NaCl
20 mM イミダゾール
・Elution buffer
20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)
500 mM NaCl
500 mM イミダゾール
【実施例】
【0075】
処理手順
カラム中のゲルマトリックス(1ml)をBinding buffer5mlで平衡化した。硫安塩析後の粗酵素液を0.45μmフィルターでろ過した後で、クロマトグラフィーに1mlアプライした。1ml/minの流速で、Binding buffer5mlでゲルマトリックスを洗浄した。その後、同じ流速で、Elution buffer20mlで発現タンパク質を溶出させた。溶出液は約1mlずつ分画した。各フラクションについてA280と加水分解活性を測定した。
【実施例】
【0076】
8.各フラクションのA280と酵素活性を測定
I)A280は、分光光度計を用いて280nmの吸光度を測定した。
【実施例】
【0077】
II)酵素活性
酵素活性(加水分解活性)は、Somogyi M. (1952) Notes on Sugar Determination. The Journal of Biological Chemistry, 195: 19-23の記載に従って、ソモギ-ネルソン法による還元糖の定量により評価した。
【実施例】
【0078】
試薬
ソモギ試薬(銅試薬)の調製
A液:15%硫酸銅液(CuSO・5HO 15g/100ml)
B液:無水炭酸ナトリウム25g、酒石酸カリウムナトリウム(ロッセル塩)25g、炭酸水素ナトリウム20g、及び無水硫酸ナトリウム200gを蒸留水で溶解し1Lとした。
ネルソン試薬(発色試薬)の調製
1000mlメスフラスコに(NHMo24・4HO25gを900mlの蒸溜水に溶解し、これに濃硫酸42gとNaHAsO・7HO3gを加え、蒸溜水を加えて全体積1Lとした。
基質溶液:0.4%(w/v)locust bean gum
バッファー:0.1MCHCOOH/CHCOONa(pH5.0)
【実施例】
【0079】
分析手順
基質溶液50μl、各フラクション流出液10μl及びバッファー50μlを混合して試験試料とし、各フラクション流出液10μl及びバッファー50μlを混合して、Blank試料とした。各試料を37℃で15分インキュベートした後で、A液40μl、及びB液1mlを混合して要事調製したソモギ試薬100μlを各試料に加え、ボルテックスで混合した。Blank試料には基質溶液を加え、ボルテックスで混合した。各試料を100℃で10min煮沸した後、10分以上、氷水で急冷した。各試料にネルソン試薬100μlを加え、ボルテックスで混合後20min静置した。蒸留水1mlを加え、遠心後、655nmで吸光度を測定した。活性値(U/ml)は、1分間に1μmolのマンノースに相当する還元糖を遊離する酵素量として求めた。Ef-ManWTの試料並びに各変異型Ef-Manにおける各フラクションの活性値をA280値と伴に、図7に示す。図7に示す通り、をA280の吸収ピークとマンナナーゼ活性のピークが一致し、目的タンパク質がHisTrap HPに吸着させていることが確認された。A280の吸収ピークとマンナナーゼ活性のピークが一致したフラクションを酵素学的性質の評価に用いた。
【実施例】
【0080】
9.Ef-ManWT並びに変異型Ef-Manの酵素学的性質の評価
以下で述べる酵素学的性質の測定では、全てn=3で行い、上記精製によって得られた各組換え酵素試料を以下の表に示すタンパク質濃度として用いた。
【表8】
JP2019088225A_000013t.gif
【実施例】
【0081】
1)低温での酵素活性の評価
Ef-ManWTの至適温度を確認するために、精製した組換え酵素(Ef-ManWT)を、基質と、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃の温度で15分間反応させ、当該組換え酵素の活性をソモギ・ネルソン法で測定した。酵素活性の測定条件及び測定手順は、上記8のII)と同様である。Ef-ManWTの酵素活性の温度依存性を図8に示す。図8に示すとおり、Ef-ManWTの至適温度は約60℃である。
変異型Ef-Manの低温での酵素活性を調べるために、上記Ef-ManWTの至適温度(60℃)よりも低温下での酵素活性を測定した。即ち、精製した各組換え酵素を、基質と、10℃、20℃、30℃、40℃、50℃の温度で15分間反応させ、各組換え酵素の活性をソモギ・ネルソン法で測定した。酵素活性の測定条件及び測定手順は、上記8のII)と同様である。R125K、R213K、R302K、R125K/R302K)およびR125K/R213K/R302Kの各変異型Ef-ManとEf-ManWTの酵素活性の測定結果を図9から13に示し、20℃におけるEf-ManWT及びR125K、R213K、R302K、R125K/R302KおよびR125K/R213K/R302Kの各変異型Ef-Manの酵素活性の比較を図14に示し、20℃におけるEf-ManWT及びR302Aの変異型Ef-Manの酵素活性の比較を図15に示す。当該20℃は、変異型マンナナーゼを用いたマンノース製造温度として期待する温度である。
図14および図9から13に示すように、分岐型の塩橋の何れか一つの塩橋強度を小さくした変異型マンナナーゼ(R125K、R213K、R302K)のいずれも、野生型マンナナーゼの至適温度よりも低い温度(特に20℃)での酵素活性が改善された。また、2つの変異を導入した変異型マンナナーゼ(R125K/R302K)および3つの変異を導入した変異型マンナナーゼ(R125K/R213K/R302K)のいずれも野生型マンナナーゼの至適温度よりも低い温度(特に20℃)での酵素活性が改善された。
これらの結果より、親酵素分岐型の塩橋の塩橋強度を小さくするように変異を導入することにより、親酵素の至適温度よりも低い温度での酵素活性を向上できることを確認した。
また、図15に示すように、分岐型の塩橋の一つを塩橋強度が小さくなるように置換した変異型マンナナーゼ(R302K)が、同じ塩橋を塩橋が消滅するように置換した変異型マンナナーゼ(R302A)と比較しても、野生型マンナナーゼの至適温度よりも低い20℃で、酵素活性がより改善された。この結果は、親酵素分岐型の塩橋の塩橋強度を小さくするように変異を導入することにより、塩橋を消滅させるように変異を導入するより、親酵素の至適温度よりも低い温度での酵素活性をより向上し得ることを確認した。
【実施例】
【0082】
2)熱安定性の測定
Ef-ManWT、並びにR302K、及びR302Aの変異型Ef-Manの50℃における安定性を測定するために、各試料を、50℃で、0min、30min、45min、60min、75min、90min、120min、180min及び240min処理し、残存活性をソモギ・ネルソン法で測定した。酵素活性の測定条件及び測定手順は、上記8のII)と同様である。各組換え酵素の温度安定性を図16に示す。図16に示す通り、50℃では、R302K変異型Ef-Manは、Ef-ManWTと温度安定性に大きな差は無いのに対して、R302Aの変異型Ef-Manでは、時間経過に伴い比活性が著しく減少し、塩橋を維持する変異により安定性が保持されることが確認された。
【実施例】
【0083】
3)各種マンナナーゼとの活性比較
2種の市販酵素Bacillus circulans由来マンナナーゼ(Megazyme)、Aspergillus niger由来マンナナーゼ(Megazyme)、及びEf-ManWTと、R302K変異型Ef-Manとを、40℃の反応温度でマンナナーゼ活性を比較した。酵素活性の測定条件及び測定手順は、上記8のII)と同様である。各酵素の酵素活性の比較を図17に示す。
図17に示すとおり、今回具体的な対象酵素として使用したシマミミズ由来のマンナナーゼ(野生型)が市販酵素と比較して優れた酵素活性を有する。そして、本発明によると、かかるシマミミズ由来のマンナナーゼの酵素活性(特に低温での酵素活性)をさらに改善し得ることが示された。このように、本発明は、酵素活性の改善を可能とする技術に関するものであり、優れた酵素活性を有する親酵素のさらなる酵素活性の改善にも適用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、低温での活性が改善された酵素が提供され、工業的生産及び処理でエネルギー効率の向上が期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7-1】
6
【図7-2】
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【図8】
8
【図9】
9
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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