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明細書 :漢方処方による神経回路網再構築剤および神経回路網の再構築方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5044782号 (P5044782)
登録日 平成24年7月27日(2012.7.27)
発行日 平成24年10月10日(2012.10.10)
発明の名称または考案の名称 漢方処方による神経回路網再構築剤および神経回路網の再構築方法
国際特許分類 A61K  36/25        (2006.01)
A61K  36/48        (2006.01)
A61K  36/18        (2006.01)
A61K  36/07        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  25/16        (2006.01)
A61P  25/14        (2006.01)
FI A61K 35/78 M
A61K 35/78 J
A61K 35/78 C
A61K 35/84 A
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 25/16
A61P 25/14
請求項の数または発明の数 3
全頁数 6
出願番号 特願2006-549013 (P2006-549013)
出願日 平成17年12月20日(2005.12.20)
国際出願番号 PCT/JP2005/023412
国際公開番号 WO2006/068155
国際公開日 平成18年6月29日(2006.6.29)
優先権出願番号 2004370300
優先日 平成16年12月22日(2004.12.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年10月15日(2008.10.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】東田 千尋
【氏名】小松 かつ子
個別代理人の代理人 【識別番号】100114074、【弁理士】、【氏名又は名称】大谷 嘉一
審査官 【審査官】鶴見 秀紀
参考文献・文献 特開平06-316527(JP,A)
特開2001-039887(JP,A)
NISHIYAMA N et al,Effects of DX-9386, a Traditional Chinese Preparation, on Passive and Active Avoidance Performances in Mice,Biol.Pharm.Bull.,1994年,Vol.17,No.11,pp.1472-1476
SMRIGA M et al,Hoelen (Poria Cocos WOLF) and Ginseng (Panax Ginseng C.A. MEYER),the Ingredients of a Chinese Prescription DX-9386,Individually Promote Hippocampal Long-Term otentiation in Vivo,Biol.Pharm.Bull.,1995年,Vol.18,No.4,pp.518-522
TOHDA C et al,Axonal and Dendritic Extension by Protopanaxadiol -Type Saponins From Ginseng Drugs in SK-N-SH Cells,Jpn.J.Pharmacol.,2002年,Vol.90,No.3,pp.254-262
田村隆幸 他,黄ぎによるAβ25-35誘発性の神経突起萎縮に対する抑制作用-基源植物の差異および修治が及ぼす影響,日本薬学会年会講演要旨集,2004年 3月 5日,Vol.124th No.2,p.116,31[P2]I-322
小松かつ子 他,モンゴルにおける漢薬の資源植物の調査と品質評価に関する研究,日本生薬学会年会講演要旨集,2003年,Vol.50th,page.222
厳延淳 他,中国における痴呆研究,中医臨床,1999年,Vol.20,No.4,pp.17-20
調査した分野 A61K 36/00-36/9068
A61P 25/00
A61P 25/14
A61P 25/16
A61P 25/28
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
三七人参5~15重量部、黄耆5~15重量部、菖蒲5~15重量部、茯苓5~15重量部の混合物の抽出物のみを乾燥して得られた粉末状エキスを有効成分とすることを特徴とする神経回路網再構築剤。
【請求項2】
人参5~15重量部、黄耆5~15重量部、菖蒲5~15重量部、茯苓5~15重量部の混合物の抽出物のみを乾燥して得られた粉末状エキスを有効成分とすることを特徴とする神経回路網再構築剤。
【請求項3】
三七人参または人参を5~15重量部、黄耆5~15重量部、菖蒲5~15重量部、茯苓5~15重量部の混合物のみから10~25倍量の水で熱時抽出し、乾燥したことを特徴とする神経回路網再構築剤の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内の神経回路網の破綻に起因する認識機能不全の治療に有効な漢方処方による神経回路網再構築剤およびそれを用いる神経回路網の再構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記憶・認知に障害を呈する疾患として、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、老年性痴呆、前頭側頭葉型痴呆、レビー小体痴呆、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病などが知られている。これらは病因が異なるものの神経突起の萎縮とシナプス欠落による機能障害により生じる疾患である。
また、神経突起の萎縮とシナプス欠落による機能障害は、筋萎縮性側索硬化症、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、脊髄損傷などでも生じる。
【0003】
臨床で抗痴呆薬として用いられているコリンエステラーゼ阻害薬は、疾患の進行を遅らせるものの疾患を治療するには至らず、且つ中程度を超えた痴呆患者には有効性が現れにくい。また神経栄養因子様作用物質に分類される薬物も抗痴呆薬候補として研究されているが、いずれも神経保護作用が主であり、神経変成環境下における神経突起伸展作用とシナプス形成作用は明確に示されていない。
【0004】
一方、漢方を基礎とする抗痴呆薬として、例えば、丹参、川きゅう、芍薬、紅花、木香、香附子を原料とした「冠元顆粒」(特許文献1)、芍薬、蒼朮、沢瀉、茯苓、川きゅう、当帰を原料とした「当帰芍薬散」(特許文献2)が知られている。また、人参(分量1)、遠志(分量2)、菖蒲(分量1)、白茯苓(分量3)からなる「定志円」が物忘れを治す旨、漢方処方の古典「丹渓心法」「備急千金要方」に記載されている。また、人参(分量1)、遠志(分量2)、菖蒲(分量25)、白茯苓(分量50)からなるDX-9386が動物実験において記憶障害を改善することが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
本発明者らは、人参、三七人参、黄耆が神経障害後から軸索および樹状突起の再形成、シナプスの再形成作用を有すること、三七人参のその作用は人参より若干強いことを見出してきた。(非特許文献2)
【0006】

【特許文献1】特公平7-37392号公報
【特許文献2】特許2629251号公報
【非特許文献1】Biol. Pharm. Bull., 17(11), 1472-1476 (1994)
【非特許文献2】Jpn. J. Pharmacol. 90, 254-262 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルツハイマー病、老年痴呆、脳血管性痴呆、パーキンソン病などの神経変性疾患は、病因は異なるがいずれも神経回路網の破綻により、記憶・認知に障害を呈する症候を指す。これら有効な治療法の無い疾患に対し、既に神経回路網の障害が進行している状態からでも、神経機能を正常に近づけることのできる治療が、真に求められている。しかも患者の立場を考えると、手術を要する神経細胞移植や遺伝子治療よりは、負担の少ない投薬による治療法がより望ましい。そこで、神経細胞が障害を受けている時、あるいは受けた後からでも神経回路網を再生する薬物の開発が必要である。
【0008】
筋萎縮性側索硬化症は、大脳皮質運動野の運動ニューロンと脊髄、脳幹の運動ニューロンが脱落することによって手足が動かなくなる難病であり、有効な治療法は存在しない。さらに、大脳皮質運動野の運動ニューロンは、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷などによっても障害を受け、身体の麻痺に繋がる。また、外傷性の脊髄損傷では、脊髄の運動ニューロンが障害を受けることにより四肢麻痺が生じる。いずれの場合も神経回路網の破綻による機能障害であるが、生き残った神経細胞を賦活化して再び神経回路網を形成させることが出来れば、機能の回復が期待できる。
本発明は、神経回路網を再生する薬物として、すでに広く使用され安全性が十分に確認されている漢方薬に基礎を置き、新たな漢方処方を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、神経回路網の破綻の細胞モデルとして、ラット大脳皮質神経の初代培養細胞に、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータの活性部分配列(Aβ(25-35))を処置し、軸索と樹状突起の萎縮、前シナプス数と後シナプス数の減少を呈する状態を作製した。
この状態の神経細胞に処置することで、神経細胞の神経突起とシナプスを正常状態に戻すことのできる薬物を探索することができる。
探索方法は、例えば、試験薬物として、生薬を様々に等量合わせ、水で煎じ液エキスを作成し、それを上記の細胞モデルで試験する。この方法で神経突起伸展作用を有する方剤エキスを選び出すことができる。
【0010】
本発明者らは、神経回路網の破綻の動物モデルとして、マウスの側脳室内にAβ(25-35)を単回投与し、1週間後から現れ始める空間記憶障害と、脳内の軸索と樹状突起の萎縮、前シナプス数と後シナプス数の減少を呈する状態を作製した。細胞モデルで神経突起伸展作用が認められた方剤エキスをこの状態のマウスに経口投与し、空間記憶の回復をもたらすこと、同時に脳内の軸索、樹状突起、前シナプスのいずれもが正常状態の発現量に回復することを確認する。
【0011】
上記細胞モデルと動物モデルの試験結果により、三七人参および/または人参、黄耆、菖蒲、茯苓の抽出物が有効であることを見い出した。
本発明において使用される生薬は以下のものである。
三七人参(サンシチニンジン)は、田七人参(デンシチニンジン)とも呼ばれ、ウコギ科の多年草(Panax notoginseng)の根、茎である
人参は、ウコギ科の多年草オタネニンジン(Panax ginseng C.A. Meyer)の根である。畑で収穫され、取れたばかりの人参は水参と呼ばれており、4~6年根の水参を原料として、ほとんどは皮を剥ぎ、自然乾燥または60℃以下で熱風乾燥させて水分を15%以下としたものが白参、水参に蒸気を当てて蒸したものを乾燥したものが紅参と呼ばれている。
黄耆(オウギ)は、マメ科の多年草(Astragalus membranaceus BungeまたはAstragalus mongholicus Bunge)の根である。
菖蒲(ショウブ)は、サトイモ科の水菖蒲(Acorus calamus L.)、石菖蒲(Acorus gramineus Soland)の根茎である。
茯苓(ブクリョウ)は、サルノコシカケ科茯苓菌(Poria cocos(Schw.) Wolf.)(マツホド)の菌核である。菌核の内部が淡赤色ものが赤茯苓である。
【0012】
本発明の抽出物は、三七人参および/または人参1~25重量部、黄耆1~25重量部、菖蒲1~25重量部、茯苓1~25重量部の混合物を10~25倍量の水で熱時抽出し、乾燥して得られるものである。好ましくは、三七人参および/または人参5~15重量部、黄耆5~15重量部、菖蒲5~15重量部、茯苓5~15重量の混合物を10~20倍量の水で熱時抽出し、凍結乾燥などの乾燥をして得られるものである。さらに好ましくは、三七人参および/または人参10重量部、黄耆10重量部、菖蒲10重量部、茯苓10重量部の混合物を15倍程度の熱水で抽出し、この抽出液を凍結乾燥し得られる粉末状のエキスである。
【0013】
本発明の漢方処方を医薬品とする場合、賦形剤、補助剤、添加剤などと組み合わせることにより、各種の医薬製剤、例えば、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤などにすればよい。
また、医薬品として投与する場合、投与方法、投与量および投与回数は、患者の年齢、体重および症状によって適宜選択できるが、経口投与の場合、エキスとして1~1000mg/kg、好ましくは100~1000mg/kgであればよい。
【発明の効果】
【0014】
三七人参および/または人参、黄耆、菖蒲、茯苓の抽出物からなる漢方処方は、アミロイドベータの活性部分配列(Aβ(25-35))に誘発される軸索および樹状突起の萎縮と、前シナプスおよび後シナプスの減少に対し、顕著な改善作用を有する。
また、これらエキスは、Aβ(25-35)を脳室内投与することでマウスに誘発される空間記憶障害、軸索、樹状突起、前シナプスの減少を、正常レベルにまで回復させた。
これらのことから、本発明におけるエキスは、既存の薬物には無い新規の作用様式を有し、アルツハイマー病、老年痴呆、脳血管性痴呆、前頭側頭型痴呆、レビー小体痴呆、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、など種々の神経変性疾患の治療に有用あるとともに、軸索形成が必要な筋萎縮性側索硬化症、脳出血、脳梗塞、脳腫瘍、脳外傷、脊髄損傷等による運動ニューロンの障害の治療にも有用である。
次に実施例、試験例で本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】方剤1~8の樹状突起伸展作用を神経成長因子(NGF)と比較した図である。
【図2】方剤1~8の軸索伸展作用を神経成長因子(NGF)と比較した図である。
【図3】方剤1の空間記憶障害改善作用を示した図である。

【実施例】
【0016】
実施例1
三七人参10g、黄耆10g、石菖蒲10g、赤茯苓10gに水600mLを加え、1時間煎じた。煎じ液を凍結乾燥しエキス粉末A(方剤1)を得た。
【0017】
実施例2
白参10g、黄耆10g、石菖蒲10g、赤茯苓10gに水600mLを加え、1時間煎じた。煎じ液を凍結乾燥しエキス粉末B(方剤2)を得た。
【0018】
参考例
白参、三七人参、黄耆、石菖蒲、赤茯苓、遠志を用い、各生薬を以下の配合とし、各配合総量の15倍の水を加え、1時間煎じた。煎じ液を凍結乾燥しエキス粉末(方剤3~8)を得た。
・方剤3:三七人参10g、黄耆10g、石菖蒲10g、赤茯苓10g、遠志10g
・方剤4:黄耆10g、石菖蒲10g、赤茯苓10g、遠志10g
・方剤5:三七人参10g、石菖蒲10g、赤茯苓10g
・方剤6:三七人参10g、黄耆10g、赤茯苓10g
・方剤7:三七人参10g、黄耆10g、石菖蒲10g
・方剤8:白参10g、石菖蒲10g、赤茯苓10g、遠志10g
【0019】
試験例1
神経回路網形成作用
(方法)胎生18日齢のSDラットの大脳皮質神経細胞を分散培養した。10μM Aβ(25-35)を神経細胞に処置し障害を与えた。障害誘発後の神経細胞に対して方剤を処置した後、リン酸化型NF-H(軸索マーカー)、MAP2(樹状突起マーカー)、synaptophysin(前シナプスマーカー)、PSD-95(後シナプスマーカー)に対する抗体を用いた免疫染色を行い、細胞当たりの軸索、樹状突起の長さ、および樹状突起単位長さ当たりのシナプス密度を測定した。
【0020】
(結果)ラット大脳皮質神経細胞の培養開始1日後に、10 μM Aβ(25-35)を処置するとその4日後には、軸索と樹状突起の著しい萎縮が認められた。ここに、本発明エキスを100 μg/mlで処置したところ、その4日後には軸索、樹状突起のいずれもが溶媒処置群に比べて有意に伸展した。次にラット大脳皮質神経細胞を3週間培養しシナプスを十分形成させた後、10 μM Aβ(25-35)を4日間処置すると、前シナプス、後シナプスともに顕著に減少した。ここに、本発明のエキス粉末を100 μg/mlで処置したところ、その7日後には前シナプス、後シナプスの密度がいずれも溶媒投与群に比べて有意に増加した。
【0021】
試験例2
空間記憶障害改善作用
(方法)8週齢のddYマウス(雄)の右側脳室に、25 nmol Aβ(25-35)を投与した。7日後から1日1回エキス粉末A(方剤1)経口投与(1000mg/kg)し14日間続けた。方剤1の投与を始めた7日後から、モーリス水迷路にて空間記憶の獲得試験を7日間行った。獲得試験の最終日で薬物投与を中止し、その7日後に水迷路にて空間記憶の保持試験を行った。
【0022】
(結果)25 nmol Aβ(25-35)の脳室内投与により、マウスの記憶保持能力が低下した。方剤1を投与し始める、Aβ(25-35)投与の7日後には既に、記憶障害が始まることを確認した上で、方剤1を連続経口投与した。その結果、記憶保持能力が正常マウスレベルにまで回復した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
三七人参および/または人参、黄耆、菖蒲、茯苓の抽出物は、神経回路網形成作用および空間記憶障害改善作用を示し、脳内の神経回路網の破綻に起因する認識機能不全の治療するための漢方処方として有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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