TOP > 国内特許検索 > 非球体細胞の高精度生死活性判定方法及び判定装置 > 明細書

明細書 :非球体細胞の高精度生死活性判定方法及び判定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6353239号 (P6353239)
公開番号 特開2015-149960 (P2015-149960A)
登録日 平成30年6月15日(2018.6.15)
発行日 平成30年7月4日(2018.7.4)
公開日 平成27年8月24日(2015.8.24)
発明の名称または考案の名称 非球体細胞の高精度生死活性判定方法及び判定装置
国際特許分類 C12Q   1/06        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
C12M   1/42        (2006.01)
C12N  13/00        (2006.01)
FI C12Q 1/06
C12M 1/34 D
C12M 1/42
C12N 13/00
請求項の数または発明の数 12
全頁数 20
出願番号 特願2014-028602 (P2014-028602)
出願日 平成26年2月18日(2014.2.18)
審査請求日 平成29年1月11日(2017.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】須加 実
【氏名】篠原 寛明
個別代理人の代理人 【識別番号】100099623、【弁理士】、【氏名又は名称】奥山 尚一
【識別番号】100096769、【弁理士】、【氏名又は名称】有原 幸一
【識別番号】100107319、【弁理士】、【氏名又は名称】松島 鉄男
【識別番号】100114591、【弁理士】、【氏名又は名称】河村 英文
【識別番号】100125380、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 綾子
【識別番号】100142996、【弁理士】、【氏名又は名称】森本 聡二
【識別番号】100154298、【弁理士】、【氏名又は名称】角田 恭子
【識別番号】100166268、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 祐
【識別番号】100170379、【弁理士】、【氏名又は名称】徳本 浩一
【識別番号】100161001、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 篤司
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 特開2012-143231(JP,A)
特開2001-252065(JP,A)
特開2008-286763(JP,A)
調査した分野 C12Q
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、少なくとも底面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、
周波数を印加しない状態の光透過率Tを測定する工程と、
前記一対の透明電極に、全細胞を直立させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、
前記一対の透明電極に、死細胞を選択的に転倒させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、
前記光透過率の値から、前記非球体細胞懸濁液中細胞生存割合S(%)を算出する工程であって、
S=(T-T)/(T-T)×100
に基づいて算出する工程
を順に含む、非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項2】
前記非球体細胞が、酵母細胞であり、
前記全細胞を直立させる周波数が100kHz~4MHzであり、
前記死細胞を選択的に転倒させる周波数が5~20MHzである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光透過率Tを測定する工程と、前記光透過率Tを測定する工程において、前記周波数印加時の電圧が、いずれも電極間20μmあたり0.5~2.0Vである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、少なくとも前記底面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、
前記透明電極に、生細胞を選択的に直立させる2~20MHzの周波数を印加する工程と、
印加後に、前記底面若しくは上面から、セル内の非球体細胞の静止画像を取得する工程と
を含む、1段階の交流印加による、静止画像上での非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項5】
前記周波数を印加する工程において、電極間100μmあたり1.0~4.0Vの電圧を印加する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記周波数の印加後、静止画像を取得するまでの時間が、20秒以内である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、前記底面を構成する透明電極及び上面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体微小細胞懸濁液を封入する工程と、
前記透明電極に、生細胞を選択的に直立させる6~20MHzの周波数を印加する工程と、
印加後に、底面若しくは上面から、セル内の非球体微小細胞の静止画像を取得する工程と
を含む、1段階の交流印加による、静止画像上での非球体微小細胞の生死活性判定方法。
【請求項8】
前記周波数を印加する工程において、電極間10μmあたり、1.0~4.0Vの電圧を印加する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記周波数の印加後、静止画像を取得するまでの時間が、5秒以内である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
底面と上面とが対向する透明電極で構成され、少なくとも前記底面を構成する透明電極の液体接触面が、50nm~10μmの透明な絶縁性薄膜で被覆されている、セルと、
前記透明電極に所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、
光源と、分光器とを含む光透過率測定装置であって、前記セル中の非球体細胞懸濁液の光透過率を測定するための光透過率測定装置と
を備える非球体細胞の生死活性判定装置。
【請求項11】
底面と上面とが対向する透明電極で構成され、前記底面を構成する透明電極の液体接触面が50nm~10μmの透明な絶縁性薄膜で被覆されているか、あるいは、前記底面を構成する透明電極と上面を構成する透明電極との両方の液体接触面が50nm~10μmの透明な絶縁性薄膜で被覆されている、セルと、
前記透明電極に所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、
前記セル中の非球体細胞の静止画像を取得する観察装置と
を備える非球体細胞の生死活性判定装置。
【請求項12】
前記透明な絶縁性薄膜が、100nm~2μmの酸化アルミ薄膜又はシリコーン樹脂被膜である、請求項10または11に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非球体細胞の高精度生死活性判定方法及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物細胞を含む非球体細胞の生死状態の把握は、食品製造から医薬品製造の発酵プロセスまで非常に重要である。一般的に用いられている精度が高い測定方法は染色法やコロニー計数法であるが、染色法は色素による生細胞への損傷があり、またコロニー計数法では生育するまで長い時間を必要とする。
【0003】
本発明者らによる非球体細胞の生死活性判定方法が知られている(特許文献1)。かかる方法は、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記判定周波数における非球体細胞の生死を判定する工程とを含む。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-143231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らによる特許文献1に開示された発明は、細胞を損傷することなく、単一細胞について、複数同時に生死判定が可能であり、また装置構成がシンプルであり、測定方法を簡便かつ迅速に行うことができる大きな利点があった。
【0006】
特許文献1に開示された生死活性判定方法をより正確又は簡便なものとするにあたって、本発明者らは次の点に着目した。まず、セルの電極構成について、従来のシステムでは、透明電極の一例であるITO(インジウム-酸化スズ)電極表面が直接液体と接触するため、印加する周波数や電圧によっては電気分解が生じたり、またITO電極自体が還元されたりして、使用不能になる場合があった。
【0007】
また、交流印加方式について、従来法では判定周波数のみ印加しても直立割合が良くないため、判定直前に直立し易い周波数を印加して、次に判定周波数で死細胞のみを転倒させる2段階周波数印加方式を採用していた。しかし、これには、煩雑な印加条件を設定する必要があり、判定にも時間がかかるという問題があった。また、従来技術においては、2段階周波数印加方式としても、100%の細胞を直立させることができない場合があった。
【0008】
従来技術による、光透過率測定を用いた生死活性判定方法では、配向変化に依存した透過率変化を検出することができるが、実際に生存率を算出することはできなかった。これは従来の電極構成では死細胞の直立割合の再現性及び誤差が大きいためである。また生存率の算出には、既知の生存率の細胞懸濁液を調整して予め検量線を作成しておく必要もある。
【0009】
また、新たな課題として、より小さなバクテリアなどでは直立状態の配向は安定して観察されるが、転倒状態の配向はブラウン運動により不安定で時折直立状態となるので間違えて判別する可能性があることを見出した。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、より高精度な生死判定、光透過率による迅速で簡易的な生死判定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を行った結果、細胞懸濁液の電気分解や透明電極の還元を防止するために、直接電極と細胞懸濁液が接触しないように電極を構成し、かつ、1段階の交流印加で高精度な細胞の生死判定を可能とする測定方法を見出し、また、光透過率測定では検量線を使用せずに簡易的に生存率を算出する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は、一実施の形態によれば、非球体細胞の生死活性判定方法であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、少なくとも底面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、周波数を印加しない状態の光透過率Tを測定する工程と、前記一対の透明電極に、全細胞を直立させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、前記一対の透明電極に、死細胞を選択的に転倒させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、前記光透過率の値から、生細胞の直立割合を算出する工程とを順に含む。
【0013】
本発明において、細胞を直立させる、あるいは細胞が直立した状態とは、非球体細胞の長軸が、電界方向に対して平行になる配向、あるいは非球体細胞の長軸が電極面に垂直になる配向をいい、「正の配向」ともいう。細胞を転倒させる、あるいは細胞が転倒した状態とは、非球体細胞の長軸が、電界方向に対して垂直になる配向をいい、「負の配向」ともいう。また、「判定周波数」とは、生細胞のみを選択的に直立させ、死細胞は転倒した状態とする周波数をいう。
【0014】
前記非球体細胞の生死活性判定方法において、前記非球体細胞が、分裂酵母菌であり、前記全細胞を直立させる周波数が100kHz~4MHzであり、前記死細胞を選択的に転倒させる周波数が5~20MHzであることが好ましい。
【0015】
前記非球体細胞の生死活性判定方法の、前記光透過率Tを測定する工程と、前記光透過率Tを測定する工程において、前記周波数印加時の電圧が、電極間20μmあたり、いずれも0.5~2.0Vであることが好ましい。
【0016】
前記非球体細胞の生死活性判定方法の、前記光透過率Tを測定する工程と、前記光透過率Tを測定する工程において、前記周波数の印加開始後、50秒以上経過後に光透過率を測定することが好ましい。
【0017】
本発明は、別の実施の形態によれば、静止画像上での非球体細胞の生死活性判定方法であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、少なくとも前記底面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、前記透明電極に、生細胞を選択的に直立させる2~20MHzの周波数を印加する工程と、印加後に、前記底面若しくは上面から、セル内の非球体細胞の静止画像を取得する工程とを含む。
前記周波数を印加する工程において、電極間100μmあたり1.0~4.0Vの電圧を印加することが好ましい。
【0018】
前記静止画像上での非球体細胞の生死活性判定方法において、前記周波数の印加後、静止画像を取得するまでの時間が、20秒以内であることが好ましい。
【0019】
本発明は、また別の実施の形態によれば、静止画像上での非球体微小細胞の生死活性判定方法であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルであって、前記底面を構成する透明電極及び上面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体微小細胞懸濁液を封入する工程と、前記透明電極に、生細胞を選択的に直立させる6~20MHzの周波数を印加する工程と、印加後に、底面若しくは上面から、セル内の非球体微小細胞の静止画像を取得する工程とを含む。
前記周波数を印加する工程において、電極間10μmあたり、1.0~4.0Vの電圧を印加することが好ましい。
【0020】
前記静止画像上での非球体微小細胞の生死活性判定方法において、前記周波数の印加後、静止画像を取得するまでの時間が、5秒以内であることが好ましい。
【0021】
本発明は、別の局面によれば、非球体細胞の生死活性判定装置であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成され、少なくとも前記底面を構成する透明電極の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されている、セルと、前記透明電極に所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、光源と、分光器とを含む光透過率測定装置であって、前記セル中の非球体細胞懸濁液の光透過率を測定するための光透過率測定装置とを備える。
【0022】
本発明は、また別の局面によれば、非球体細胞の生死活性判定装置であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成され、前記底面を構成する透明電極の液体接触面が透明な絶縁性薄膜で被覆されているか、あるいは、前記底面を構成する透明電極と上面を構成する透明電極との両方の液体接触面が透明な絶縁性薄膜で被覆されている、セルと、前記透明電極に所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、前記セル中の非球体細胞の静止画像を取得する観察装置とを備える。
【0023】
前記透明な絶縁性薄膜が、50nm~10μmの酸化アルミ薄膜又はシリコーン樹脂被膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる、非球体細胞の生死判定装置及び方法によれば、少なくともセルの底面を構成する透明電極の液体接触面を絶縁体で被膜することで、電気分解の抑制や、透明電極の還元による不導体化を防止することができる。また、単一の判定周波数印加で生細胞のみを、100%の直立割合で選択的に直立させることが可能になった。ゆえに、1段階周波数印加方式でも判定可能となった。従来技術の方法によれば、生細胞の直立割合は最高でも95%程度であったが、100%の直立が得られたことで、従来と比較してさらなる高精度の判定が可能となった。さらに死細胞でも、判定周波数よりも低い周波数を印加すると100%の直立割合が得られた。これにより、特定周波数での光透過率測定から生存率を算出することも可能となった。この透過率測定による方法は、高価な顕微鏡システムを使用することなく、レンズフリーの安価な生存率測定システムを構築することができる。さらには、より微小な細胞では1段階周波数印加方式を用いること及び特定の電圧を印加することで、顕微鏡システムを用いた目視観察による生死判定方法も、より正確に実施することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る、非球体細胞の生死判定装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る生死判定方法において、周波数を印加しない状態の光透過率Tを測定する工程、全細胞を直立させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程、死細胞を選択的に転倒させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程のそれぞれにおける、セル中の生細胞及び死細胞の挙動を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態に係る非球体細胞の生死判定装置のセル及びセル中の細胞の構成を概念的に示す図であって、図3(A)は、セルの断面を表す概念図であり、図3(B)は、セル底面下方からの非球体細胞を観察した画像の概念図である。
【図4】図4は、本発明の第3実施形態に係る、非球体微小細胞の生死判定装置の構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第1実施形態に係る生死判定方法において、経過時間と得られた光透過率の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、生細胞と死細胞を混合調整した既知のサンプルにおける混合割合と、本発明の第1実施形態に係る光透過率測定方法において算出された直立割合との対応関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る、非球体細胞の生死判定装置を用いて測定した場合の電圧と細胞の直立割合との対応関係を示すグラフであり、(a)は生細胞のみ、(b)は死細胞のみについて測定した結果を示す。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態に係る、5MHz、3Vの単一判定周波数を印加した場合の、生細胞、死細胞、生死混合細胞(50%生細胞)についての、印加時間と細胞の直立割合との対応関係を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の第2実施形態に係る、5MHz、3Vの単一判定周波数を印加開始10秒後の生死混合細胞(50%生細胞)の、顕微鏡写真である。
【図10】図10は、本発明の第3実施形態に係る、非球体微小細胞の生死判定方法における、印加する電圧と細胞の直立割合との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない

【0027】
[第1実施形態:光透過率測定による簡易生存率測定]
本発明の第1実施形態による、非球体細胞の生死判定装置を図1に示す。非球体細胞の生死判定装置1は、主として、セル2と、交流発振器3と、光源7と、分光器8と、演算処理装置9とから構成される。

【0028】
セル2と、交流発振器3とは接続されており、交流発振器3は、セル2内のサンプルに所定範囲の周波数を印加することができるように構成される。セル2は、一対の透明電極を備え、一方の透明電極が底面に、他方の透明電極が上面に位置するように配置される。図1は、判定周波数において、セルを電界方向に垂直な方向からみたセル断面の概念図である。上面を構成する透明電極21aと、底面を構成する透明電極21bとの間に、生死判定対象となる細胞23、24を含む細胞懸濁液22が挟まれた状態になっている。そして、底面を構成する透明電極21bの液体接触面は、導線接着部分以外の実質的にその全面が、透明な絶縁性薄膜20で覆われている。また、上面を構成する透明電極21aも、同様に、透明な絶縁性薄膜20aで覆われている。透明電極21a、21bは、それぞれ、交流発振器3に接続される。光源7には、光源接続光ファイバケーブル7a、コリメーティングレンズ7bが接続される。分光器8にも、分光器接続光ファイバケーブル8a、コリメーティングレンズ8bが接続され、分光器8にはさらに演算処理装置9が接続される。

【0029】
非球体細胞の生死判定装置を構成する各部分についてさらに説明する。

【0030】
セル2は、判定対象となる非球体細胞を含む細胞懸濁液を注入し、細胞懸濁液に所定の範囲の周波数を印加するための部材である。このようなセル2は、2枚の対向する透明電極のあいだに、所望の厚さのスペーサ(図示せず)を挟み、サンプル溶液を注入することにより作製することができる。セル2は、2枚の透明電極の一方が底面に、他方が上面になるように配置する。

【0031】
透明電極としては、ガラス基板上のITO、FTO等の導電性薄膜を用いることができるが、これらには限定されない。一例として、液晶ディスプレイ用の透明電極等を用いることができる。またその他の例として、金や白金を10~100nm程度の薄膜に蒸着したガラス基板やプラスチック基板も導電性と透明性を有しており、用いることができる。ガラス基板上のITOからなる透明電極を用いる場合には、ガラス基板の厚さは、0.12~1.5mmとすることができるが、この範囲には限定されない。また、ITOの膜の厚さは、50nm~400nm程度のものを用いることができるが、この範囲には限定されない。

【0032】
本実施形態においては、底面となる透明電極21bのセル内側の面、すなわち液体接触面が透明な絶縁性薄膜20で被覆されている。ここでいう、透明とは、光透過率が概ね75%以上であるものをいうものとする。このような透明性と、絶縁性を有する薄膜であれば、特には制限されないが、具体例としては、シリコーン樹脂、アルミやシリコンなどの酸化薄膜、ポリ塩化ビニリデンなどのビニールラップ等が挙げられる。絶縁性薄膜20は、透明電極の液体接触面全体に、略均一な厚みで設けられていることが好ましい。これにより溶液中に良好な均一電界が得られ誘電泳動による細胞の水平方向への移動が防げるためである。厚みは、例えば、50nm~10μm、好ましくは、100nm~2μmである。厚すぎると溶液中に配向させるために必要な電圧がかからないためである。いっぽう上記の範囲の薄さであれば、溶液中で容易に高電界を得ることが出来る。絶縁性薄膜20は、透明電極と接して設けられていることが好ましく、透明電極に直接蒸着することにより、あるいは塗膜形成法により設けられることが好ましいが、絶縁性薄膜の態様はこれらには限定されない。透明性を損なわず、また厚みがない限り、例えば、絶縁性薄膜と透明電極と間には接着層等の別の層が含まれていても良い。

【0033】
なお、セル2自体には、底面上面の区別はなく、本実施形態において、光透過率を測定する際に、細胞を沈降させたときに、細胞が接触する面を底面と便宜的にいうものとする。絶縁性薄膜20は、図示するように、底面及び上面の両方の透明電極21a、bの液体接触面に設けられていることが好ましく、その場合、電極間の細胞懸濁液に直接高い電界を印加することが出来るという利点がある。しかしながら、少なくとも底面となる透明電極21bの液体接触面に絶縁性薄膜が設けられていれば、5MHz以上での生細胞の直立を100%とすることができ、以下に詳述する透過率の測定が可能となる。

【0034】
スペーサは、絶縁性であり、細胞懸濁液に対して不活性な部材であればよく、例えば、シリコンゴム、硬質ゴム、プラスチック等の樹脂を用いることができるが、これらには限定されない。スペーサの厚さは、1~300μmとすることが好ましく、10~100μmとすることがさらに好ましい。スペーサは、透明電極間の距離を決定し、すなわち、電界の強度を決定するためである。ただし、上記値は一般的な厚さであって、スペーサの厚さは、判定対象とする非球体細胞の長軸の長さをも考慮して決定することが好ましい。すなわち、スペーサの厚さは、非球体細胞の長軸の長さの1倍~30倍程度とすることができるが、この範囲には限定されない。非球体細胞が配向することができる厚さを確保するためである。

【0035】
セル2は、サンプル溶液を挟み込むだけのものであってもよく、密閉系としてもよい。セル2の大きさは、特には限定されないが、概ね、直径10mm以内程度の観察面を確保することができるものであればよい。

【0036】
交流発振器3は所定の範囲の周波数を印加することができるものであればよい。具体的には、100kHz~20MHz程度の範囲の周波数を印加することができるものであればよく、市販の交流発振器であってよい。ただし、内部抵抗が50Ω~75Ωで、10Vp-pの出力が可能なものが好ましい。また、交流発振器3には、増幅器を接続することもできる。かかる構成により、電圧を増幅することもできる。交流発振器3の出力波形は、正弦波に限らず、方形波や三角波などとすることもできる。

【0037】
光源7は、キセノンランプ、タングステンハロゲンランプ、LED光源等を使用することができ、可視-近赤外(360~2500nm)を用いることができる。光源7には、光源接続光ファイバケーブル7aが接続される。光源接続光ファイバケーブル7aの光源7と逆側の先端は、コリメーティングレンズ7bを接続し、セル2の底面21bに設置される。そして、光ファイバケーブル7aが、セル2中の細胞懸濁液22に光を向けることができるように構成される。光ファイバケーブル7aとセル2の底面21bとは、接していても良く、10cm程度の距離を離して設置してもよい。

【0038】
一方、分光器8は、S/N(300:1)程度であれば、低価格の分光器であっても用いることができる。分光器8にも、分光器接続光ファイバケーブル8aが接続される。分光器接続光ファイバケーブル8aの分光器8と逆側の先端は、コリメーティングレンズ8bを接続し、セル2の上面21aに設置される。そして、光ファイバケーブル7aからの光を受け取ることができるように構成される。光ファイバケーブル8aとセル2の上面21aとは、接していても良く、10cm程度の距離を離して設置してもよい。なお、本実施の形態においては、光源7がセル底面側に、分光器8がセル上面側に設けられた形態を図示したが、光源と分光器の位置は逆であってもよい。すなわち、光源7がセル上面側に、分光器8がセル底面側に設けられてもよい。

【0039】
任意選択的に設けられても良い演算処理装置9は、分光器8で得られた光透過率を計算し、細胞の生存割合等を算出することができる。演算処理装置9は、通常の演算処理ができるコンピュータ等であってよい。

【0040】
上記生死判定装置1は、任意選択的に、生死判定結果や、判定に用いた画像をプリントアウトするためのプリンタ等をさらに備えても良い。また、判定した結果をリアルタイムにオンラインでアナログ電気信号又はデジタルデータ信号として出力する機能を備えても良い。このような機能は、データロガーなどのアナログ・デジタル変換器によって実現することができる。

【0041】
上記生死判定装置1によれば、複雑な構造及び構成を導入することなく、また透明電極の光透過性に優れる特性を確保したまま、より高電界の印加が可能なセル構成とすることで、より正確に、短時間で、定量的に細胞の生死を判定することができる。

【0042】
次に、本発明の一実施形態に係る、非球体細胞の生死判定方法について説明する。本実施形態にかかる非球体細胞の生死判定方法は、上記生死判定装置1を用いて行うことができる。本実施形態にかかる生死判定方法は、周波数を印加しない状態の光透過率Tを測定する工程と、前記一対の透明電極に、全細胞を直立させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、前記一対の透明電極に、死細胞を選択的に転倒させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程と、前記光透過率の値から、生細胞の直立割合を算出する工程とを順に含む。

【0043】
上記生死判定方法の各工程を行う前段階として、判定対象となる非球体細胞試料の調製を行う。非球体細胞は、交流周波数を印加した際に、セル中で、正の配向を示すか、負の配向を示すか、光透過率の測定により判別できるものであればよい。このような判定が可能な非球体細胞としては、細胞の短軸と長軸との比が、概ね、1.5以上であって、短軸の長さが概ね2μm以上のものが好ましい。非球体微生物細胞の具体例として、主に酵母菌ではSchizosaccharomyces属酵母、Candida属酵母、Pichia属酵母、Rhodotorula属酵母などが挙げられるが、これらには限定されない。細菌以外の非球体細胞の例としては、赤血球、藻類、単細胞生物(ミドリムシ、ゾウリムシなど)、大腸菌、乳酸桿菌などが挙げられるが、これらには限定されない。

【0044】
非球体細胞の由来は問わないが、例えば、抗生物質やワクチン、バイオ燃料、あるいは食品の製造工程に用いる非球体微生物細胞であってよい。その場合は、製造工程のバッジやラインから、サンプリングすることにより、非球体細胞を採取することができる。一例として、微生物発酵のリアルタイムセンサーとして用いる場合には、接続したチューブなどを通して外部に連続的に循環させることにより非球体微生物細胞を採取することができる。あるいは、微生物以外の非球体細胞は、ヒトやその他の哺乳動物から採取した血液由来の細胞であってもよい。

【0045】
採取した非球体細胞は、例えば遠心分離機やフィルタ等を用いて、低電導率溶液や非電解質溶液などで洗浄することにより、前処理を行う。これは電解質成分が多く残ると電極間に十分な電界が形成されず、誘電分極による配向現象が生じ難くなるためである。

【0046】
前処理をした細胞は、非球体細胞が酵母の場合には、細胞懸濁液として調製するために用いる。細胞懸濁液は、超純水やイオン交換水、又は非電解質の糖類溶液で懸濁し、電解質をなるべく含まないことが好ましい。これはなるべく電気二重層の形成を防ぎ電極間の十分な電界形成を維持し、細胞の誘電分極を誘導するためである。非電解質の糖アルコール溶液としては、ソルビトール溶液、マンニトール溶液、グリセロール溶液、糖溶液としてもスクロースなどを用いることができるが、これらには限定されない。あるいは、細胞懸濁液を、培養液を直接、超純水やイオン交換水で希釈することで調製し、非電解質の糖アルコール等を含まない態様とすることもできる。この態様によれば、低電導率溶液や非電解質溶液などで非球体細胞を洗浄するといった前処理を省くことができ、洗浄によるタイムラグを短縮することができる。よって、細胞懸濁液を培養槽からの送液などによってセルに直接供給することが可能になり、迅速な測定や、連続式の測定ができる。

【0047】
非球体細胞試料において、通常の酵母細胞の大きさの場合、細胞濃度は、1x10~1x10cells/mL程度であることが好ましく、2x10~5x10cells/mL程度であることがより好ましい。透過率変化の検出に好適な範囲だからである。また、超純水、イオン交換水、又は非電解質を使用しない場合には、培養液を直接超純水やイオン交換水などで10倍以上に薄め、導電率が、10mS/m以下となるようにすることが好ましい。

【0048】
前述の装置1においては、光源接続光ファイバケーブル7a、コリメーティングレンズ7b、分光器8、分光器接続光ファイバケーブル8a、コリメーティングレンズ8b、演算処理装置9を接続し、絶縁被膜20a、bを設けた透明電極21a、bを備えたセル2を配置する(図1参照)。セル2においては、透明電極21a、b間の距離は、1~300μmとすることが好ましく、10~100μmとすることがさらに好ましい。上記サンプル容量とも関連して、かかる電極間距離とすることで、光透過率測定で検出可能な配向変化を誘発する電界強度を得ることができるためである。

【0049】
前述のようにして調製した細胞懸濁液の試料溶液を、第1実施形態において説明した判定装置のセル2に注入する。試料溶液は、セルのサイズに対してスポットの直径がなるべく小さくなるように、0.1~10μl程度を採取して、セルに注入することができる。サンプルの量は、0.5~3μlとすることがさらに好ましい。これによりキャパシタンスが小さくなり、高周波数でも電極間に十分な電圧を印加することができる。また、このような少ない量のサンプルで生死判定を正確に行うことができる。注入後、セルを静置することにより、細胞を、底面の透明電極21bに設けられた絶縁被膜20b上に沈降させる。0~3分程度静置することで沈降させることができる。電極間の距離を上述のように狭くすることで、沈降時間を待つ必要がなくなり、迅速な測定が可能になる。

【0050】
沈降した後、周波数を印加しない状態で、光透過率Tを測定する工程を実施する。光透過率を測定する工程では、光源7から発された光の、好ましくは、波長600~660nmでの透過率を分光器8で測定する。この波長域での透過率を測定するする理由は、一般的に微生物の増殖過程を測定するときは、この波長での濁度変化が用いられるためである。ただし、この波長以外でも測定は可能であり、例えば、400~1000nmの波長での透過率を測定することができるが、特定の波長範囲には限定されない。なお、図1に示す態様には限定されず、光源7と分光器8との位置関係が逆であっても良い。この段階におけるセル内の細胞状態を図2(a)に模式的に示す。細胞懸濁液を封入後、周波数を印加しない状態では、生細胞23も死細胞24も、絶縁被膜上に転倒した状態で存在する。

【0051】
光透過率Tを測定する工程の後、生細胞及び死細胞を含む全細胞を直立させる周波数を印加し、光透過率Tを測定する工程を実施する。生細胞及び死細胞を含む全細胞を直立させる周波数は、分裂酵母菌で、100kHz~4MHzとすることが好ましく、500kHz~2MHzとすることがより好ましく、1MHz程度であることがさらに好ましい。また、この際、電圧が電極間20μmあたり0.5~2.0Vとなるように交流発振器を調節することが好ましい。光透過率Tの測定は、電圧印加開始時点を0とした場合に、50秒以上経過後に実施することが好ましい。転倒していた全細胞が直立して安定するのに、30秒程度の時間が必要なためである。それ以外は、前工程である光透過率Tの測定と同様の条件で実施することが好ましい。この段階におけるセル内の細胞状態を図2(b)に模式的に示す。全細胞を直立させる周波数を印加した状態では、生細胞23も死細胞24も、絶縁被膜20b上に直立している。

【0052】
光透過率Tを測定する工程の後、前記一対の透明電極に、生細胞のみ直立し死細胞が選択的に転倒する周波数(本明細書において判定周波数ともいう)を印加し、光透過率Tを測定する工程を実施する。判定周波数は、分裂酵母菌で、5~30MHzとすることが好ましく、10~20MHzであることがより好ましく、15MHz程度とすることがさらに好ましい。また、この際、電圧は、Tを測定する工程と同様に、電極間20μmあたり0.5~2.0Vとなるように交流発振器を調節することが好ましい。光透過率Tの測定は、周波数を印加している状態で実施することが好ましい。光透過率Tの測定は、判定周波数の印加開始時点を0とした場合に、50秒以上経過後に実施することが好ましい。直立していた死細胞が転倒するのに、30秒程度の時間が必要なためである。また、周波数を印加してから透過率が変化して安定する時間が必要とされるためである。なお、生細胞は、この条件において、判定周波数の印加開始時点から直立した状態を継続する。それ以外は、前工程である光透過率Tの測定と同様の条件で実施することが好ましい。この段階におけるセル内の細胞状態を図2(c)に模式的に示す。判定周波数を印加した状態では、生細胞23のみが直立し、死細胞24は絶縁被膜20b上に転倒している。なお、本実施形態においては、判定周波数よりも低い上記周波数を印加して光透過率Tを測定した後に、判定周波数を印加して光透過率Tを測定することが必要である。また、光透過率Tの測定時点と、光透過率Tの測定時点との時間間隔は、30秒~1分とすることが好ましい。

【0053】
次いで、前記光透過率の値から、生細胞の直立割合を算出する工程を実施する。生細胞の直立割合S(%)は、前工程で得られた光透過率T、T、Tの値から、以下の式に従って算出することができる。
S(%)=(T-T)/(T-T)×100
このように算出した直立割合を、本発明における生存割合の結果とすることができる。このような算出は、任意選択的に、判定装置の一部を構成してもよい演算処理装置9により実施することができる。

【0054】
本発明の第1実施形態による生死判定装置及び生死判定方法によれば、各工程での光透過率を測定する2段階周波数印加方式で従来と比較して簡便に、細胞懸濁液中の非球体細胞の生存率を見積もることができる。

【0055】
[第2実施形態:観察装置による非球体細胞の高精度生死判定]
本発明の第2実施形態による、非球体細胞の生死判定装置を図3に示す。非球体細胞の生死判定装置10は、主として、セル2と、交流発振器3と、観察装置4と、画像表示装置5とから構成される。

【0056】
セル2と、交流発振器3とは接続されており、交流発振器3は、セル2内のサンプルに所定範囲の周波数を印加することができるように構成される。セル2は、一対の透明電極21a、bを備え、一方の透明電極が底面に、他方の透明電極が上面に位置するように配置される。底面を構成する透明電極21bの液体接触面には、絶縁被膜20bが設けられる。そして、観察装置4が、透明電極21bの下方からセル内を観察できるように構成される。観察装置4には、画像表示装置5が接続される。セルの詳細な構成については、スペーサの厚さを、好ましくは、20~200μm、より好ましくは、50~150μm、さらに好ましくは100μm程度とした以外は、概ね第1実施形態と同様とすることができる。交流発振器3の構成については、第1実施形態において説明したとおりであり、第1実施形態と同様の態様とすることができる。なお、本実施形態において、任意選択的に、上面を構成する透明電極の液体接触面にも絶縁被膜を設けてもよい。

【0057】
観察装置4は、セル中の非球体細胞の静止画像を取得するために用いる装置である。観察装置4は、典型的には顕微鏡のレンズである。顕微鏡としては、倒立型顕微鏡、正立型顕微鏡、実体顕微鏡等を用いることができる。倒立型顕微鏡を用いる場合には、セルの底面から細胞静止画像を取得する。いっぽう、図示はしていないが、正立型顕微鏡を用いる場合には、セルの上面から、細胞静止画像を取得することもできる。

【0058】
顕微鏡のレンズは、好ましくは、100~700個程度の非球体細胞をカメラ撮影視野に入れることができる倍率のレンズである。具体的には、10~100倍の解像度を有する対物レンズを用いることが好ましく、20~40倍とすることがさらに好ましい。静止画像から、目視により細胞の生死、すなわち細胞の配向を判断するために必要な精度の画像データを取得できるようにするためである。なお、レンズの倍率は、使用するセルの透明電極を構成するガラス基板の厚さとの関係によっても、当業者が適宜、決定することができる。

【0059】
観察装置4は、顕微鏡のほかに、静止画像を記録するためのカメラを備える。この記録用顕微鏡カメラは、カラーである必要はないが、画素数は100万画素以上のものとすることが好ましい。顕微鏡は、熱線吸収フィルタ付きとすることが好ましい。光源ランプからの熱線によるサンプルの温度上昇を防ぐためである。

【0060】
生死判定装置10に任意選択的に含まれても良い、画像表示装置5は、観察装置4で取得した画像を表示するものであって、典型的にはコンピュータのモニタ等である。画像を表示するだけでなく、データとして保存する機能を備えるものであってもよく、この場合、上記カメラに替えて静止画像を記録するための手段となりうる。上記生死判定装置10は、任意選択的に、取得した静止画像を加工し、画像処理もしくは演算処理しまたは、保存したりすることができる装置を備えてもよく、また、生死判定結果や、判定に用いた画像をプリントアウトするためのプリンタ等をさらに備えても良い。

【0061】
次に、本発明の第2実施形態に係る、非球体細胞の高精度生死判定方法について説明する。本実施形態にかかる非球体細胞の高精度生死判定方法は、上記生死判定装置10を用いて実施することができる。本実施形態にかかる高精度生死判定方法は、底面と上面とが好ましくは、20~200μm、より好ましくは、50~150μm、さらに好ましくは100μm程度のスペーサにより隔てられた対向する透明電極で構成されたセルであって、少なくとも底面の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、前記一対の透明電極に、生細胞を選択的に直立させる判定周波数及び特定の電圧を印加する工程と、印加後に静止画像を取得する工程とを含む。

【0062】
非球体細胞懸濁液の調製ならびに封入する工程は、第1実施形態に係る生死判定方法において説明したのと概ね同様に実施することができる。しかし、第2実施形態においては、試料となる非球体細胞懸濁液中の細胞濃度は、5x10cells/mL以下とすることが好ましく、5x10~2x10cells/mLがより好ましい。顕微鏡観察の場合、細胞濃度が濃いと、カウントの手間かかる、あるいは、死細胞の転換周波数が上がるので判定周波数が変化するという問題が生じる場合がある。

【0063】
次いで、一対の透明電極に、酵母菌である生細胞を選択的に直立させる判定周波数及び、特定の電圧を印加する工程を実施する。判定周波数は、好ましくは、2~20MHz、より好ましくは、3~10MHz、さらに好ましくは5MHz程度である。いっぽう、電圧は、電極間100μmあたり、好ましくは、1.0~4.0V、より好ましくは、2.0~3.0Vである。

【0064】
次いで、上記判定周波数の印加後に、静止画像を取得する工程を実施する。静止画像の取得は、図3に示す装置においては、観察装置4を用いて実施することができ、例えばコンピュータのディスプレイなどの画像表示装置5に表示することができる。静止画像の取得は、判定周波数の印加後、例えば、20秒以内に実施することができるが、10秒程度、最短では5秒程度で判別が可能である。印加後、時間が経過すると観察時に細胞が重なっていくため、正確な判別が困難になる場合がある。本発明の方法によれば、特定の判定周波数及び電圧を印加することにより、短時間でほぼ100%の生細胞を直立させることができ、迅速で高精度な判定をすることができる点で有利である。

【0065】
取得した画像に基づいて、当業者は、目視により生死の判定を高精度に行うことができる。具体的には、生細胞は判定周波数において直立しているため、静止画像上で、丸い形状あるいは点状に見える。死細胞は判定周波数において転倒しているため、静止画像上で細長い棒のような形状、あるいは線状に見える。これらは、明確に区別可能である。これに基づいて、例えば、観察画面内の全細胞数に対する、直立した細胞数を目視でカウントし、直立割合を算出することができる。本発明の第2実施形態による高精度生死判定は、特に、酵母菌などの個々細胞の生死判別といった応用形態において好ましく用いることができる。

【0066】
[第3実施形態:観察装置による非球体微小細胞の高精度生死判定]
本発明の第3実施形態による、非球体微小細胞の生死判定装置を図4に示す。非球体微小細胞の生死判定装置11は、主として、セル2と、交流発振器3と、観察装置4と、画像表示装置5とから構成される。ここで、非球体微小細胞とは、細胞の短軸と長軸との比が、概ね、1.5以上であって、短軸の長さが概ね2μmより小さいものをいう。一例としては、大腸菌、乳酸桿菌などの桿菌、並びに上記の大きさの藻類、単細胞生物が挙げられるが、これらには限定されない

【0067】
セル2と、交流発振器3とは接続されており、交流発振器3は、セル2内のサンプルに所定範囲の周波数を印加することができるように構成される。セル2は、一対の透明電極21a、bを備え、一方の透明電極が底面に、他方の透明電極が上面に位置するように配置される。透明電極21a、bの液体接触面には、第1実施形態と同様に、絶縁被膜20a、bが設けられる。そして、観察装置4が、透明電極21bの下方からセル内を観察できるように構成される。観察装置4には、画像表示装置5が接続される。セルの詳細な構成については、スペーサの厚さを、好ましくは、8~20μm、より好ましくは、10~15μm、さらに好ましくは、10μm程度とした以外は、概ね第1実施形態と同様とすることができる。交流発振器3の構成については、第1実施形態において説明したとおりであり、第1実施形態と同様の態様とすることができる。

【0068】
観察装置4、及び、任意選択的な構成要素である画像表示装置5については、第2実施形態において説明したのと同様とすることができる。また、第3実施形態による、非球体微小細胞の生死判定装置においても、取得した静止画像を加工し、画像処理もしくは演算処理しまたは、保存したりすることができる装置や、生死判定結果や、判定に用いた画像をプリントアウトするためのプリンタ等を任意選択的に備えても良い。

【0069】
次に、本発明の第3実施形態に係る、非球体微小細胞の高精度生死判定方法について説明する。本実施形態にかかる非球体細胞の高精度生死判定方法は、上記生死判定装置11を用いて実施することができる。本実施形態にかかる高精度生死判定方法は、底面と上面とが、好ましくは、8~20μm、より好ましくは、10~15μm、さらに好ましくは、10μm程度のスペーサにより隔てられた、対向する透明電極で構成されたセルであって、底面及び上面の両面の液体接触面が、透明な絶縁性薄膜で被覆されているセル中に非球体細胞懸濁液を封入する工程と、前記一対の透明電極に、生細胞のみを選択的に直立させる判定周波数及び特定の電圧を印加する工程と、印加後に静止画像を取得する工程とを含む。

【0070】
非球体微小細胞懸濁液の調製ならびに封入する工程は、第1実施形態に係る生死判定方法において説明したのと概ね同様に実施することができる。しかし、第3実施形態においては、第1、第2実施形態よりも小さい、非球体微小細胞を用いるため、試料となる非球体微小細胞懸濁液中の細胞濃度は、5x10cells/mL以下とすることが好ましく、5x10~2x10cells/mLがより好ましい。顕微鏡観察の場合、細胞濃度が濃いと、カウントの手間かかる、あるいは、死細胞の転換周波数が上がるので判定周波数が変化するという問題が生じる場合がある。また、非球体細胞が乳酸棹菌や大腸菌の場合には、非電解質を加えた細胞懸濁液としないことが好ましい。これらの非球体細胞については、非電解質を加えないほうが、配向現象が明確に生じやすいためである。

【0071】
次いで、一対の透明電極に、乳酸桿菌である生細胞を選択的に直立させる判定周波数及び特定の電圧を印加する。判定周波数は、6~20MHzとすることが好ましく、10~15MHzとすることがより好ましい。一方、電極間10μmあたり、電圧は、1.0~4.0Vとすることが好ましく、1.5~2.0Vとすることがより好ましい。高電界により死細胞の配向方向を安定化させ、生細胞のみ選択的に直立させ、死細胞は転倒した状態とすることができるためである。電圧が小さすぎると死細胞がブラウン運動により瞬間的に直立状態として観察される場合がある。逆に、電圧が大きすぎると、セルの上部にパールチェーンが形成し易くなり、観察時に細胞が重なることがあるため判別が困難になる場合がある。また電圧が大きいときでは、判定周波数がわずかでも外れると、一部の死細胞が直立してしまい正確に判定できなくなる。これは、実施例3、図10(b)の5MHz印加の実験により、実証されている。なお、かかる周波数を印加する前に、細胞にこれよりも大きな周波数もしくは小さな周波数を印加することは好ましくない。この場合も判定前に別の周波数を印加すると、トータルとして印加時間が長くなるためパールチェーンの形成により、観察時に細胞が重なり判別が困難になる問題が発生するためである。

【0072】
次いで、上記判定周波数の印加後に、静止画像を取得する工程を実施する。静止画像の取得は、図4に示す装置においては、観察装置4を用いて実施することができ、例えばコンピュータのディスプレイなどの画像表示装置5に表示することができる。静止画像の取得は、判定周波数の印加後、例えば、5秒以内に実施することができるが、1秒程度で判別が可能である。印加後、時間が経過すると観察時に細胞が重なっていくため、正確な判別が困難になる場合がある。本発明の方法によれば、特定の判定周波数及び電圧を印加することにより、短時間でほぼ100%の生細胞を直立させることができ、迅速で高精度な判定をすることができる点で有利である。

【0073】
取得した画像に基づいて、当業者は、目視により生死の判定を高精度に行うことができる。具体的には、生細胞は判定周波数において直立しているため、静止画像上で、丸い形状あるいは点状に見える。死細胞は判定周波数において転倒しているため、静止画像上で細長い棒のような形状、あるいは線状に見える。これらは、明確に区別可能である。従来技術によれば、取得画像において、細胞の配向方向が経時的に変化することが観察されていた。その場合、静止画像では、経時変化が把握できないため、動画像を取得して、経時的に正の配向と負の配向とを示す細胞の挙動を追う必要があった。本発明者らは、このような細胞の配向方向の経時変化がブラウン運動に起因することを突き止め、高電界により強い配向力を発生させ配向方向を安定化させことで、静止画像による高精度生死判定を可能にしたものである。本発明の第2実施形態による高精度生死判定は、特に、ブラウン運動し易い微小なバクテリアに対する個々細胞の生死判別といった応用形態において好ましく用いることができる。

【0074】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
[実施例1:酵母菌サンプルでの電界配向による透過率測定による簡易生存率算出]
1)微生物サンプルの調整
分裂酵母菌(Schizosaccharomyces pombe)をYE培地(0.5%酵母エキス、3%グルコース)でOD600=0.8まで30℃で培養した後、遠心分離機(KUBOTA1900、久保田製作所)を用いて超純水で洗浄、再懸濁して細胞濃度を2x10cells/mLに調整した。
【実施例】
【0076】
2)実験システム(電極構成)
図1に示す第1実施形態による装置の通りにセルを組み立て、図1に示す装置構成とした。25×20mmのITO(インジウム-酸化スズ)透明電極2枚の間に20μmの絶縁スペーサと調整したサンプル1.5μLを注入し、挟み込んだ。上下の電極は、液体接触面に酸化アルミ薄膜で100nmの絶縁被膜を形成した。絶縁被膜は真空スパッタリングで形成した。これを透過率測定用ステージ上に設置した。
【実施例】
【0077】
3)実験システム(光透過率測定)
光源としてはLED光源(617nm、Ocean Optics LLS-617)を、検出部には分光器(Ocean Optics USB4000)を用いて透過率を測定した。
【実施例】
【0078】
4)生存率測定方法(交流印加方式)
まず印加前の全細胞が転倒状態での透過率Tを測定した。次に1MHzを印加して全細胞が直立状態の透過率Tを測定した。この際の電圧は、1.6Vとした。続けて15MHzに切り替えて死細胞を転倒させ生細胞のみ直立状態になった透過率Tを測定した。この際の電圧は、0.9Vとした。これらT、T、Tから生細胞の直立割合S(%)を、以下の式に従って算出し、これを生存率とした。
S(%)=(T-T)/(T-T)×100
【実施例】
【0079】
結果を図5、6に示す。図5は、経過時間と得られた透過率の関係を示すグラフである。本発明に従って全細胞を直立させる1MHzの周波数を印加後、15MHzの判定周波数を印加して操作を実施した場合である。図6は、生細胞と死細胞の混合比率を調整した既知のサンプルにおける混合割合と、本発明の第1実施形態に係る生死判定方法において得られた直立割合との対応関係を示すグラフである。
【実施例】
【0080】
[実施例2:酵母菌サンプルでの電界配向による高精度生死判定]
1)微生物サンプルの調整
本実験例に用いた微生物は、分裂酵母菌(Schizosaccharomyces pombe)で、長軸が約10μm、短軸が約4μmの円柱状であった。分裂酵母菌をYE培地(0.5%酵母エキス、3%グルコース)でOD600=0.8まで30℃で培養した後、4000rpm、4℃、5分間の条件で遠心分離機(KUBOTA1900、久保田製作所)を用いて超純水で洗浄、再懸濁して細胞濃度を、1x10cells/mLに調整した。ここでは、調製後の細胞懸濁液を生細胞のサンプルとした。ただし、培養中死滅した死細胞もわずかに含まれている場合があった。死細胞のサンプル調製は、生細胞として調製した細胞懸濁液を、80℃で10分間の熱処理によって全て死滅させることにより行った。生死細胞の混合液は、上述の生細胞のサンプルと死細胞のサンプルとを等量混合して調製した。
【実施例】
【0081】
2)実験システム
図3に示す第2実施形態による装置の通りにセルを組み立て、25×20mmのITO(インジウム-酸化スズ)透明電極2枚の間に100μmの絶縁スペーサと調整したサンプル3μLを注入し挟み込んだ。下部電極は、液体接触面にシリコーン樹脂(信越シリコーン、KR-251)で2.9μmの絶縁被膜を形成した。絶縁被膜はスピンコートにより形成した。これを倒立型顕微鏡上に設置した。
【実施例】
【0082】
3)細胞生死判定方法(交流印加方式)
上記のようにしてセルに封入した生細胞サンプルに、100kHz、500kHz、1MHz、5MHz、及び10MHzの周波数を印加し、かつ、電圧を0~4.0Vで変化させて生細胞の直立割合を測定した。結果を図7(a)に示す。死細胞についても同様にして直立割合を測定した。結果を図7(b)に示す。次いで、生細胞が100%のサンプル、死細胞が100%のサンプル、及び生細胞が50%のサンプルについて、判定周波数の印加開始時点からの経過時間と、細胞の直立割合の関係を測定した。直立割合は観察画面内の全細胞数に対し、直立した細胞数で算出した。結果を図8に示す。これらの結果から、交流発振器で周波数5MHz、電圧2.0V以上を印加すると、生細胞のみ直立するので、顕微鏡下で高精度に個々の細胞を生死判別できることがわかった。直立割合は観察画面内の全細胞数に対し、直立した細胞数で算出した。図9は、5MHz、3Vの単一判定周波数を印加開始10秒後の細胞の顕微鏡写真を示す。写真から、丸い形状の生細胞と、細長い形状の死細胞とが混在していることが確認され、生細胞と死細胞との割合を目視で判定することができる。
【実施例】
【0083】
[実施例3:乳酸桿菌サンプルでの電界配向による高精度生死判定]
1)微生物サンプルの調整
乳酸桿菌(Lactobacillus casei)をMRS培地(BD社製)で、OD600=0.8まで37℃で静置培養した後、5000rpm、4℃、5分間の条件で遠心分離機(KUBOTA1900、久保田製作所)を用いて超純水で洗浄、再懸濁して細胞濃度を、1x10cells/mLに調整した。
【実施例】
【0084】
2)実験システム
図4に示す第3実施形態による装置の通りにセルを組み立て、25×20mmのITO(インジウム-酸化スズ)透明電極2枚の間(電極は表面にシリコーン樹脂で絶縁被膜)に10μmの絶縁スペーサと調整したサンプル0.5μLを注入し挟み込んだ。上下の電極は、液体接触面にシリコーン樹脂で絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の厚みは1.7μmで、形成方法は実施例1と同様とした。これを倒立型顕微鏡上に設置した。
【実施例】
【0085】
3)細胞生死判定方法(交流印加方式)
交流発振器で周波数10~20MHz、電圧1.5~2.0Vを印加すると、生細胞のみが直立するので顕微鏡下で高精度に個々の細胞を生死判別できた。図10(a)によれば、生細胞においては、電圧を1.0V以上とすれば、5~20MHzのいずれの周波数を印加した場合でも細胞が直立し、本発明の測定条件においてブラウン運動の影響を受けないことがわかった。一方、図10(b)によれば、死細胞は、10~20MHzで電圧が概ね1.5V未満の場合、ブラウン運動の影響を受け、転倒しているものと直立するものが混在することがわかる。5MHz以下の場合には、電圧が上がるに従って直立割合が上がった.また20MHzでは2.0V以上印加することができなかった.そこで、判定周波数を10~15MHzとし、1.5V以上とした場合には、当該周波数で概ね100%の死細胞を転倒状態とすることができる。したがって、この条件では、静止画像取得による生死判定が正確に実施可能であること、また、判定周波数の印加開始時点を0としたとき、印加後1秒程度で、静止画像に基づく生死判定が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
今回の技術により、有用微生物の品質管理において迅速で正確な細胞活性測定センサへの実用的な展開が期待できる。また生細胞の回収にも有効である。また微生物だけでなく、iPS細胞からの赤血球製造時などにも適用可能で医療分野にも応用できる可能性が期待される。
【符号の説明】
【0087】
1 非球体細胞の生死判定装置
2 セル
20a 透明絶縁性薄膜
20b 透明絶縁性薄膜
21a 上面を構成する透明電極
21b 底面を構成する透明電極
22 細胞懸濁液
23 死細胞
24 生細胞
3 交流発振器
4 観察装置
5 画像表示装置
7 光源
7a 光源接続光ファイバケーブル
7b コリメーティングレンズ
8 分光器
8a 分光器接続光ファイバケーブル
8b コリメーティングレンズ
9 演算処理装置
10 非球体細胞の生死判定装置
11 非球体微小細胞の生死判定装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9