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明細書 :キメラタンパク質及びそれを用いたミクログリア活性阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6516235号 (P6516235)
公開番号 特開2016-088869 (P2016-088869A)
登録日 平成31年4月26日(2019.4.26)
発行日 令和元年5月22日(2019.5.22)
公開日 平成28年5月23日(2016.5.23)
発明の名称または考案の名称 キメラタンパク質及びそれを用いたミクログリア活性阻害剤
国際特許分類 C07K  19/00        (2006.01)
C07K  14/54        (2006.01)
C12N  15/24        (2006.01)
C12N  15/62        (2006.01)
A61K  38/20        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61P  25/16        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C07K 19/00 ZNA
C07K 14/54
C12N 15/24
C12N 15/62 Z
A61K 38/20
A61K 47/36
A61P 43/00 111
A61K 47/42
A61P 25/16
A61P 25/00
A61P 37/06
A61P 29/00
A61L 27/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 10
出願番号 特願2014-223366 (P2014-223366)
出願日 平成26年10月31日(2014.10.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 ウエブサイトの掲載日 : 平成26年10月10日 ウエブサイトのアドレス :http://pubs.rsc.org/en/content/articleanding/2014/tb/c4tb0413h#!divAbstract 表題 :「Interleukin-10 chimeric protein to protect transplanted neural progenitor cells from immune responses」
審査請求日 平成29年10月27日(2017.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】中路 正
個別代理人の代理人 【識別番号】100114074、【弁理士】、【氏名又は名称】大谷 嘉一
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特表2002-542304(JP,A)
特開2001-190280(JP,A)
特開2011-219492(JP,A)
特表2011-507498(JP,A)
特表2004-520031(JP,A)
特表2016-516065(JP,A)
国際公開第2013/073454(WO,A1)
第33回日本バイオマテリアル学会大会予稿集,2011年,第244頁O23-1
Pharmacology & Therapeutics,2006年,Vol.109 ,p.210-226
調査した分野 C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed





特許請求の範囲 【請求項1】
抗炎症性サイトカインに酵素分解性ペプチド及び基材結合性ペプチドを、その順に融合したキメラタンパク質であって、
前記酵素分解性ペプチドは脳内に有するミクログリアの活性化により産生されるマトリックスメタロプロテアーゼ類により切断されるものであり、
前記基材結合性ペプチドは天然ハイドロゲルからなる基材と分子間相互作用により結合可能であり、
前記抗炎症性サイトカインは、前記ミクログリアの活性化を抑制するものであり、
前記マトリックスメタロプロテアーゼ類はMMP-3又はMMP-9であり、
前記抗炎症性サイトカインはインターロイキン-10である、キメラタンパク質を含んでなり、
前記キメラタンパク質をコラーゲン又はヒアルロン酸からなる前記天然ハイドロゲルの基材に担持するとともに、移植細胞と複合化して用いることを特徴とする、前記移植細胞の移植に伴い惹起された炎症反応を抑制する炎症抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内の免疫反応を司るミクログリアの活性化を局所的に必要なときにのみ不活性化させ、炎症反応を鎮静化させる抗炎症性サイトカインに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パーキンソン病治療等を目的に神経幹/前駆細胞等の幹細胞移植治療を検討した場合に、移植後初期に惹起される初期炎症反応が問題になる。
脳内における炎症反応および免疫反応を担うのがミクログリアであるが、移植直後に活性化され異物となる移植細胞の排除に向けて機能する。
移植後初期に惹起される炎症反応では、ミクログリアが活性化され炎症性サイトカインIL-1β,IL-6,TNFa等を放出し、移植幹細胞を攻撃することが知られている。
そこでミクログリアを不活性化させるための、抗炎症性サイトカインを用いた炎症反応の抑制が必要になると考えられる。
しかしながら、免疫抑制剤の投与等、過剰な免疫抑制は患者自身の生体防御能を低下させることになるため、できることならば避けなければならない。
本発明は患者自身の免疫応答を妨害することなく、局所的に移植幹細胞を炎症反応から保護できないか研究した結果得られたものである。
【0003】
特許文献1には、多官能化学成分を含む水溶性ポリマーセグメントに酵素的に切断可能なリンカーを介して接合された生物学的に活性な物質を含む重合薬物接合体を開示する。
しかし、同公報に開示する重合薬物接合体は、生物学的に活性な物質を化学的に修飾する技法にて接合しており、この生物学的に活性な物質であるタンパク質の活性が化学的接合により維持されなくなる恐れが高い。
また、同公報には水溶性ポリマーセグメントとしてポリエチレングリコールを開示しているが、この種のポリマーはタンパク質を放出した後も生体内に残留し、生体に悪い影響を与える毒素となる恐れが高い。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特表2002-542304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、必要とする時に且つ局所的に作用する抗炎症性サイトカインを放出するキメラタンパク質及びこれを用いたミクログリア活性阻害剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るキメラタンパク質(融合タンパク質)は、抗炎症性サイトカインに酵素分解性ペプチド及び基材結合性ペプチドを、その順に融合したキメラタンパク質であって、前記酵素分解性ペプチドは脳内に有するミクログリアの活性化により産生されるマトリックスメタロプロテアーゼ類により切断されるものであり、前記基材結合性ペプチドは天然ハイドロゲルからなる基材と分子間相互作用により結合可能であり、前記抗炎症性サイトカインは、前記ミクログリアの活性化を抑制するものであることを特徴とする。
本発明に係るキメラタンパク質は、基材結合性ペプチドを介して天然ハイドロゲルに分子間相互作用にて結合して使用できるものである。
ここで分子間相互作用は、天然ハイドロゲルと基材結合性ペプチドが10~1010/Mの会合定数を有する特異的な結合をいう。
このようにキメラタンパク質を天然ハイドロゲルからなる基材に結合させる方法を採用すると、結合によりキメラタンパク質に有する生物学的活性が失われることはない。
【0007】
本発明において、前記マトリックスメタロプロテアーゼ類はMMP-3又はMMP-9であるのが好ましい。
MMP-3はストロメライシン-1と称され、MMP-9はゼラチナーゼ-B(92kDa)と称される。
これらは、ペプチドを特異選択的に切断する作用を有する。
例えば他のMMP-2等は複数のプロテアーゼにて切断される点で明確に相違する。
【0008】
本発明において、前記抗炎症性サイトカインは、インターロイキン-10であるのが好ましい。
例えば、抗炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン-4では、本開発方法で構築したキメラタンパク質では、抗炎症活性が低下してしまう。
また、前記天然ハイドロゲルはコラーゲン又はヒアルロン酸であり、当該基材に前記キメラタンパク質を担持させることでミクログリア活性阻害剤となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明者は、これまでパーキンソン病治療を目指した神経幹/前駆細胞移植医療における低生着率を改善する目的で、細胞移植時に天然ハイドロゲルを用いた。
この天然ハイドロゲルが移植幹細胞を物理的に保護し、その生着率が約40%まで向上できている。
本発明により、脳内の免疫反応を司るミクログリアの活性化を抑制し、移植部位周辺のみの免疫反応を抑制できるので生物学的にも保護可能になる。
このように本発明は、物理的な保護と生物学的な保護の両方が可能になり、移植幹細胞の生着率はさらに向上することができる(約55%に向上)。
それに伴い、中枢神経系における細胞移植による再生医療が実現に向けて大きく前進すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る作用機序を模式的に示す。
【図2】抗炎症性サイトカイン(IL-10)キメラタンパク質の概略図を示す。
【図3】IL10キメラタンパク質および天然IL10のSDS-PAGE分析(左)およびWB分析(右)を示す。 WB分析では、ポリフッ化ビニリデン膜に転写後、anti-IL10抗体で染色し、HRPの化学発光法を利用してバンドを検出した。
【図4】IL10キメラタンパク質(実線)および天然IL10(点線)のCDスペクトルを示す。
【図5】(A)はIL10キメラタンパク質固定表面に種々濃度のMMP-9を3時間接触させた時のIL10ドメインの放出を示し、(B)はIL10キメラタンパク質固定表面に2.5μg/mL MMP-9を所定時間接触させた時のIL10ドメインの放出を示す。
【図6】ラットミクログリアを用いたIL10キメラタンパク質の活性評価を示し、不活性化ミクログリア (a),LPSおよびIFN-γにより活性化されたミクログリア(b),および200ng/mL IL10キメラタンパク質およびリコンビナントIL10を含む培養液中の活性化ミクログリア(c,d)の位相差顕微鏡像。(e-g)ミクログリアから放出された炎症性サイトカイン(IL1β, IL6, TNFα)の産生量,IL10またはIL10キメラタンパク質の濃度:(+:2ng/mL, ++:20ng/mL, +++:200ng/mL, ++++:2μg/mL.)を示す。
【図7】活性化ミクログリアと共存させた神経前駆細胞の生存評価を示す。(A)は培養方法の模式図を示す。 神経前駆細胞は、コラーゲンゲルに挟んだ状態で、そのゲル上にミクログリアを播種した。培養液は、神経前駆細胞の培養液を用い、LPSおよびIFNγ を添加して活性化させた。(B)は共培養したミクログリア(a-c)および神経前駆細胞(d-f)の生細胞染色像.スケール:200μm.(C)はミクログリア活性化後1日のコラーゲンゲル(a),細胞接着促進タンパク質担持コラーゲンゲル(b),細胞接着促進タンパク質およびIL10キメラタンパク質担持コラーゲンゲル(c)中の神経前駆細胞の生存率,濃灰色:不活性化ミクログリア共存時,淡灰色:活性化ミクログリア共存時を示す。(D)はミクログリアから産生された炎症性サイトカインの定量.濃灰色:ミクログリア不活性化時,淡灰色:ミクログリア活性化時,白色:IL10キメラタンパク質担持ゲル共存でのミクログリア活性化時を示す。
【図8】IL10-M9CS-SBPの遺伝子配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、発明の機序を説明する。
本材料は、炎症反応が起こっているときのみ放出され局所で作用し、炎症反応が鎮静化されたあとは、放出がストップする機能を有している。
例えば図1に示した模式図で説明すると、幹細胞の移植後に惹起される炎症反応でミクログリアが活性化されると、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が放出される。
この放出されたMMPにより基材に担持されたIL-10等の抗炎症性サイトカインが切断されて、放出される。
この放出された抗炎症性サイトカインがミクログリアを不活性化し、炎症反応が鎮静化される。
これにより、移植幹細胞を保護しつつも、通常生体内で起こっている生体防御反応を妨害しないシステムが構築できる。
本発明に係る阻害剤は、移植幹細胞を保護して、且つ、不必要な免疫抑制が起こらないようにすることができ、患者にとって負担軽減になると期待できる。
前述したように、我々はこれまでに、移植幹細胞を保護するための天然ハイドロゲルの設計を進めてきた。
その天然ハイドロゲルにキメラタンパク質を安定に固定する。
これにより、移植後でも炎症反応が起こらない限り拡散しないため、不必要に免疫抑制することはない。
移植後に惹起される炎症反応に伴い、ミクログリアが活性化され、移植部位に遊走してくるが、その際に、マトリックスメタロプロテアーゼ類(MMP-3やMMP-9)を大量に産生する。
その現象に着目し、抗炎症性サイトカインIL-10を天然ハイドロゲルに安定に固定し、IL-10と天然ハイロドゲル結合部位との間に、MMP-9で特異的に切断されるペプチド配列を導入した(図2)。
これにより、炎症反応誘発時のMMP-9の大量放出時にのみ、IL-10が放出され、炎症反応を鎮静化させるシステムを構築した。

【0012】
<抗炎症性サイトカイン(IL-10)キメラタンパク質の合成>
抗炎症サイトカイン(IL-10)キメラタンパク質は、遺伝子工学技術を応用し、大腸菌・酵母・動物細胞などの発現系を利用して合成する。
まず、タンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子をインターロイキン10(IL10)、MMP9切断サイト(M9CS)、基材結合ペプチド(SBP)、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して得る。
それぞれのDNAをオーバーラップ伸長PCR法や制限酵素法など様々な方法を駆使することによって、IL10-M9CS-SBPの順に連結させる。
そのDNAを生物発現系で一般的に用いられるプラスミドベクターに挿入する。作製したプラスミドベクターを宿主(大腸菌・酵母・動物細胞など)に導入し、強制発現させ、一般的なタンパク質精製法を利用して目的となるタンパク質を得た。

【0013】
その例を以下具体的に説明する。
まず、ヒトIL10コード遺伝子よりPCRによりクローニングし、IL10遺伝子を得た。
その塩基配列を配列番号1に示す。
遺伝子増幅に用いたフォワードプライマーは下記のとおりであり、
5-catgcatatgagcccaggccagggcacccag-3(配列番号4)
リバースプライマーは下記のとおりである。
5-gtttcgtatcttcattgtcatgtagg-3(配列番号5)
次にIL10遺伝子にオーバーラップエクステンションPCR法により、MMP-9により切断される切断サイト(M9CS)のペプチド及び天然ハイドゲルからなる基材に結合させるための基材結合ペプチド(SBP)を、この順にて連結させたIL10-M9CS-SBP遺伝子を作成した。
オーバーラップエクステンションPCRに用いたプライマーは下記のとおりである。
フォワードプライマー :5-ctacatgacaatgaagatacgaaacggtggcgggggaccacctggtgtagtgggagaacaaggggagcagggaccaccgcc-3(配列番号6)
リバースプライマー :5-gctcgagggtgatattggtatcagcaatgcggatgtaggaaccgcccccacccccgccacctggcggtggtccctgctcccct-3(配列番号7)
上記プライマーにて得られた遺伝子の増幅には下記のプライマーを用いた。
フォワードプライマー :5-ctacatgacaatgaagatac-3(配列番号8)
リバースプライマー :5-gctcgagggtgatattggta-3(配列番号9)
また、IL10-M9CS-SBPの増幅には配列番号4のフォワードプライマーと下記のリバースプライマーを用いた。
リバースプライマー :5-gctcgagggtgatattggtatcagc-3(配列番号10)
得られたIL10-M9CS-SBP遺伝子の塩基配列を図8に示し、そのアミノ配列を配列番号2,3に示す。
図8にて説明すると、□の部分がIL10のコード配列,「 」の部分がMMP-9により切断されるペプチドコード配列(M9CS),『 』の部分がコラーゲン結合性ペプチドコード配列,一重下線の部分は柔軟リンカーペプチドコード配列,二重下線の部分は制限酵素切断配列である。
なお、図8に示したタンパク質には、高純度精製を可能とするアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いるため、ヒスチジンタグを含ませた例になっている。
PCRにより増幅したIL10-M9CS-SBP遺伝子をプラスミドに導入し、その導入プラスミドを、ヒートショック法により大腸菌に形質導入した。
なお、エレクトロポレーションにより動物細胞に形質導入してもよい。
培養増殖により発現したタンパク質を宿主から抽出し、アフィニティーカラムクロマトグラフィーにより分画精製した。
なお、コラーゲンゲル等の天然ハイドロゲルからなる基材に担持するには、低温にてコラーゲンゲル前駆溶液と上記タンパク質溶液を混合し、その溶液を37℃×15~30min加温する。
このように特異的な相互作用を利用して、特定の方向でタンパク質を基材に担持できる。
これにより、従来の化学的結合と異なりタンパク質の活性が失われることはない。
<IL-10キメラタンパク質のキャラクタリゼーション>
発現し精製したタンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS-PAGE)による分析、ウエスタンブロッティング(WB)法によるIL10キメラタンパク質の証明、円偏光二色性(CD)測定によるタンパク質の構造評価、基材への担持能力の評価および基材に担持されたIL10キメラタンパク質の選択放出評価、活性化ミクログリアを用いた活性評価を行った。
<SDS-PAGEおよびWB分析>
本実験では、IL10キメラタンパク質と対照実験として天然のIL10を用い、SDS-PAGE分析、WB分析を行った(図3)。
本開発タンパク質の理論的な分子量(21.8 kDa)にほぼ一致するバンドが得られている。
また、WB分析によって、本発明に係るキメラタンパク質がIL10ドメインを含むタンパク質であることがこの結果より証明された。
<CD測定>
本開発キメラタンパク質の構造評価を行った(図4)。
対照として天然のIL10のCDスペクトルと比較した。
本開発キメラタンパク質のCDスペクトルは、197~260nmの領域において、天然IL10とほぼ一致するスペクトルであった。
このことから、得られたキメラタンパク質が天然IL10と同様の二次構造を有することが明らかとなった。
また、190~197nmにおいて、天然IL10のスペクトルと異なるスペクトルが得られた。
これは、本開発キメラタンパク質がIL10のC末端側に存在するM9CSおよびSBPのオリゴペプチド配列(28 amino acids)のランダムコイル構造に由来するものと考えられる。

【0014】
<基材への固定能力評価および基材固定されたIL10の選択放出評価>
本開発タンパク質は、様々な基材に固定することのできるように基材結合ペプチド(SBP)を導入している。
本実験では、IL10キメラタンパク質にオリゴヒスチジン(His)を導入したタンパク質を使用した。
ガラス基板上に2価の金属配位子(Ni(II)またはZn(II))を有する置換基を導入し、IL10キメラタンパク質を固定させた。
ガラス基材上に固定されたIL10キメラタンパク質の表面密度は、0.685 μg/cmであった。
IL10の大きさから概算すると、ある程度密にIL10キメラタンパク質が固定されていることが分かった(表面占有率79.4%)。
IL10キメラタンパク質固定基材を、500mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液に浸漬させ、IL10キメラタンパク質の脱離について評価した。
イミダゾールは、Hisと金属配位子間の相互作用を阻害する。
これにより、キメラタンパク質がSBPによって固定されているかどうかを評価した。
イミダゾール溶液に浸漬後のIL10キメラタンパク質の表面密度は、0.101μg/cmであり、約85%がSBPによりアンカーリングされていることが分かった。
IL10キメラタンパク質を固定した表面に、種々の濃度MMP-9を3時間接触させ、IL10ドメインの放出を観察した(図5A)。
また、2.5μg/mL MMP-9を所定時間接触させ、経時的なタンパク質放出を観察した(図5B)。
MMP-9の切断によって溶液中に放出されたタンパク質をSDS-PAGE分析により検出し定量した。
その結果、1μg/mL以上のMMP-9を3時間反応させると、固定されたIL10のうち90%放出されることが分かった。
また、2.5μg/mL MMP-9を反応させた場合、接触後15分で固定されたIL10の約70%が放出されたことが分かった。
また、MMP-9接触後1時間でほぼ放出量は一定となり、2.5μg/mLのMMP-9では、約1時間の反応でほとんどのIL10が放出されることが明らかとなった。
これらの結果から、基材に安定固定させたIL10キメラタンパク質を、MMP-9の切断により、選択的に放出させることができることが分かり、本システムが目的通りに機能することが証明された。
<活性化ミクログリアを用いた活性評価>
合成したIL10キメラタンパク質の活性を、活性化ミクログリアの不活性化により評価した。
ミクログリアは、リポポリサッカライド(LPS)およびインターフェロンγにより活性化し、炎症反応を司るマクロファージなどと同等の機能を果たす。
活性化ミクログリアは、炎症性サイトカインを産生するが、その産生量をIL10キメラタンパク質により、抑制できるかで、その活性をリコンビナントIL10との比較により判断した。
その結果、リコンビナントIL10と同等の活性を有していることが明らかになった。
<IL-10キメラタンパク質の有効性評価(in vitro)>
IL10キメラタンパク質をコラーゲンゲルに担持させることにより、ゲル中の細胞を炎症反応から保護できるかについて、in vitroにより評価した。
この結果、IL10キメラタンパク質を担持させた天然ハイドロゲル中では、活性化ミクログリアが存在しても、細胞は、死滅しないことが分かった。
また、その理由として、Figure 7Dに示すように、炎症性サイトカインの産生量が、大幅に減少しているためと考えられる。
これらの結果から、IL10キメラタンパク質により、炎症反応から細胞を保護することが出来ると強く示唆される。
これは、細胞移植による治療において非常に有用なツールになると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は抗炎症性サイトカインを、移植材料に複合化させ、移植直後の初期炎症・免疫反応が起こったときのみ抗炎症性サイトカインが放出され、移植部位周辺のみに局所的に作用するシステムとなっている。
このシステムにより、移植に伴い惹起された炎症反応のみを抑制することとなり、生体防御のために常に起こっている免疫反応・炎症反応を抑制することなく、レシピエントへの負担が最大限軽減されることが期待される。
また、一般的に用いられる免疫抑制剤の前身投与も必要がなくなると考えられ、この点からもレシピエントへの負担軽減につながると期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
7