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明細書 :高強度超高分子量ポリエチレン成形体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-177673 (P2017-177673A)
公開日 平成29年10月5日(2017.10.5)
発明の名称または考案の名称 高強度超高分子量ポリエチレン成形体及びその製造方法
国際特許分類 B29C  43/34        (2006.01)
B29C  65/02        (2006.01)
B29C  55/02        (2006.01)
B29K  23/00        (2006.01)
B29L   7/00        (2006.01)
B29L   9/00        (2006.01)
FI B29C 43/34
B29C 65/02
B29C 55/02
B29K 23:00
B29L 7:00
B29L 9:00
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-071119 (P2016-071119)
出願日 平成28年3月31日(2016.3.31)
発明者または考案者 【氏名】大森 和宏
【氏名】山畑 雅之
【氏名】鈴木 透
【氏名】澤口 宜哲
出願人 【識別番号】591100563
【氏名又は名称】栃木県
【識別番号】597082304
【氏名又は名称】協栄産業株式会社
個別代理人の代理人 【識別番号】100095739、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 俊夫
審査請求 未請求
テーマコード 4F204
4F210
4F211
Fターム 4F204AA06
4F204AC03
4F204AG03
4F204AR02
4F204AR06
4F204AR07
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF01
4F204FG03
4F204FN11
4F204FN15
4F210AA06
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH03
4F210AR02
4F210AR06
4F210AR07
4F210QC00
4F210QC01
4F210QG01
4F210QG18
4F211AA06
4F211AD08
4F211AG03
4F211AP06
4F211AR07
4F211TA01
4F211TN01
4F211TN07
4F211TQ01
4F211TQ04
4F211TQ09
4F211TQ11
要約 【課題】 本発明は超高分子量ポリエチレン延伸フィルムを積層させた高強度成形体の製造方法とその成形体を得ることを課題とする。
【解決手段】 本発明における超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法は、a)配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、b)該配向性を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせ、c)成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、d)成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、e)加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却し、f)成形体を得ることを特徴とする。
【選択図】 図4
特許請求の範囲 【請求項1】
a)配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、
b)該配向を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせ、
c)成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、
d)成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、
e)加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却し、
f)成形体を得る、
ことを特徴とする超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法。
【請求項2】
配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を同一方向に揃えて積層させ、融着にて一体化して成ることを特徴とする成形体。
【請求項3】
a)配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、
b)配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、
c)該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入し、
d)成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、
e)成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、
f)加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却し、
g)成形体を得る、
ことを特徴とする超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項3にあって、一の方向のフィルムと、それと異なる方向のフィルムとがなす角度が90度であることを特徴とする超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項3にあって、一の方向のフィルムと、それと異なる方向のフィルムとがなす角度が45度であることを特徴とする超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法。
【請求項6】
配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入させて成ることを特徴とする成形体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレン延伸フィルムを積層させて得る高強度成形体の製造方法とその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、分子量100万以上のポリエチレンで、自己潤滑性、耐摩耗性、寸法安定性、耐薬品性等に優れた樹脂で、ギア、ガスケット、人工関節、フィルム、繊維等多岐に渡って利用されている。その中でも、延伸フィルムは近年バッテリーのセパレータフィルムとして利用されており、電気自動車やタブレット端末等の普及から今後も利用の増加が予想されている。一方、セパレータフィルムの製作過程において廃棄される端材や、使用済みのフィルム等に、再利用の途が求められている。
しかし、超高分子量ポリエチレンは流動性が悪く、射出成形や押出成形には不向きで、ペレット化することが困難な材料であり、これら超高分子量ポリエチレンのセパレータフィルムには、有効な再利用の途が見いだされていないのが現状である。また、一般的に、プラスチックはマテリアルリサイクルにより劣化し、物性が低下するため、リサイクル材の用途範囲はバージン材と比較し限定的である。
一方、プラスチックは、分子が配向することにより強度が高まることが知られており、超高分子量ポリエチレンにおいても同様である。
従来、超高分子量ポリエチレンの配向性を利用した技術として特許文献1が存在する。
特許文献1の技術は、超高分子量ポリエチレンを摺動部品に用いるもので、射出成形のせん断流動により分子配向させるものであるが、配向部分は樹脂成形体のせん断層に限定されるため、成形体の配向度は低く、分子配向は金型キャビテイの形状に左右されるものである。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開H06-218752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記延伸されたセパレータフィルムにおいても同様に分子が配向しており、優れた機械的特性を有するが、しかし、そのリサイクル過程において、超高分子量ポリエチレンの融点以上の温度で加熱すると、一体化された成形体が得られるが、配向性は失われてしまうという課題を抱えるものとなる。
そこで、本発明者は、超高分子量ポリエチレンのフィルム体についての再利用の方途を探って試行錯誤を重ねたところ、融点以上であっても一定温度範囲及び加圧等の諸要件を揃えた条件下では、配向性を保持しつつフィルム体相互の融着を促すことで、成形体が得られることを見いだした。成形体には配向性に基づく優れた物性及び低摩擦係数等の特性が得られ、その長所を活かした新たな用途開発の途を探り出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法は、a)配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、b)該配向を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせ、c)成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、d)成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、e)加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却し、f)成形体を得ることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の成形体は、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を同一方向に揃えて積層させ、融着にて一体化して成ることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法は、a)配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、b)配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、c)該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入し、d)成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、e)成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、f)加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却し、g)成形体を得ることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法は、一の方向のフィルムと、それと異なる方向のフィルムとがなす角度が90度であることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の超高分子量ポリエチレン成形体の製造方法は、一の方向のフィルムと、それと異なる方向のフィルムとがなす角度が45度であることを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の成形体は、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入させて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、重ね合わせた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム間に融着が促され、相互が一体化される。それと共に、延伸フィルムが有する配向を保持する。このことは走査型電子顕微鏡(SEM)の画像及び引張試験における高い強度の発揮等からも確認される。
しかし、超高分子量ポリエチレン延伸フィルム間の融着は140℃以上で、高い引張強さの値は163℃以下で得られ、139℃以下及び164℃以上では配向性を有する一体化した成形体は得られない。これは、フィルム間の融着のためには分子運動をある程度促すだけの温度が必要であること、又、高い引張強さの要因に超高分子量ポリエチレンフィルムの配向性があり、この配向性を保持できる程度に低い温度である必要があることが要求され、これらが140℃~163℃の範囲で達成されるからと推察される。
又、上記配向性の保持は、成形圧力も関与し、1~30MPaの圧力で加圧したとき、配向性が得られるもので、示差走査熱量計(DSC)によっても確認される。
この配向性は、70℃以下への冷却工程によって固化が促され、保持される。
得られた成形体は、表面が超高分子量ポリエチレン本来の低摩擦性を有すると共に、内部では高い一体化が得られる。
これらの効果は、原則配向性を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせた場合に発揮されるが、配向を一の方向とそれと異なる方向とに角度を変えてフィルムを重ね合わせた場合には、そのフィルムの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入することで、互いの融着と配向性の保持が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フィルムの配向を同一方向へ重ね合わせる場合を示す斜視図である。
【図2】成形体の断面をSEM観察した写真図で、(a)が一部断面図、(b)がその一部を拡大した状態の断面図である。
【図3】成形温度150℃で成形した場合の成形体のX線回折図である。
【図4】成形圧力を無とした場合と加圧した場合とを比較したDSC曲線で、(a)が全体図で、(b)が一部拡大図である。
【図5】配向方向を変えてフィルムを重ね合わせる態様の斜視図で、(a)が90度回転させて重ね合わせた場合、(b)が45度回転させて重ね合わせた場合を示す。
【図6】配向を90度回転させた場合の成形体のシャルピー破断面をSEM観察した写真図で、(a)が一部断面図、(b)がその一部を拡大した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
超高分子量ポリエチレンは分子量100万以上のポリエチレンで、耐摩耗性、低摩擦性、寸法安定性等に優れた特性を有し、その延伸フィルムは高温下における孔の自己閉塞性の特性からバッテリーのセパレータフィルムとして利用されている。
このバッテリー用のセパレータフィルムとは、120℃~150℃程度の温度下で延伸してフィルム体としたもので、多数の孔を備え、例えば、その厚みが0.5~500μmで、幅500mm×長さ10mの形態を備えている。尚、本発明では、試料として厚み60μmのバッテリーセパレータフィルムを用いている。
超高分子量ポリエチレンは、流動性が著しく低く、射出成形や押出成形には向かず、押出成形によるペレット化等が困難なものであるが、圧縮成形にて成形体とするか、又はその成形体を切削等することで、ギア、ガスケット等への加工が可能なものとなる。
そこで、上記バッテリーセパレータフィルムの再利用に対して、フィルム体の圧縮成形による成形に着目した。

【0014】
該バッテリーセパレータフィルムとして利用される超高分子量ポリエチレンは、上記の如く延伸によりフィルム体とするが、その延伸により分子配向性を備えた特性を有する。
分子配向とは、フィルムの延伸方向に対してポリエチレン分子鎖がある程度同じ方向に向いて並んでいる状態をいい、分子配向性とはその性質のことをいう。超高分子量ポリエチレン延伸フィルムにおける結晶構造には、伸びきり鎖結晶と、折りたたみ鎖結晶(ラメラ)とが存在し、一部の折りたたみ鎖結晶を残して延伸により伸びきり鎖結晶が生じ、これが配向性を生むものと考えられる。
この分子配向性は、後述する如く、本発明の成形体を特徴づける重要な特性となる。

【0015】
本発明では、この超高分子量ポリエチレンのフィルムを、配向が同一方向に揃えられた状態に所定枚数量を重ね合わせて並べ(図1参照)、これを圧縮成形機等で圧縮する。
配向が同一方向とは、上記の如く超高分子量ポリエチレンフィルムが製造される際に、フィルムの延伸される方向に配向が生まれるので、製造時のフィルムの延伸方向と一致する方向と言える。

【0016】
上記並べ方で重ね合わせた超高分子量ポリエチレンのフィルム体について、その圧縮成形を可能とする諸条件を探索した。
先ず、温度条件について、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃の各点で成形体を成形し、引張試験、X線回折測定、DSC測定、SEM観察を行った。

【0017】
成形圧力を30MPaとした場合、成形温度を130℃~170℃としたときの引張強さの値を測定し、表1を得た。
【表1】
JP2017177673A_000003t.gif
試験方法:成形した厚さ2mmの成形体から、打ち抜き型を用いてダンベル試験片を作成し、試験片はJIS K 6251のダンベル状5号形とした。引張試験はJIS K 7161-1に従い、島津製作所製オートグラフAG-M1により行い、引張速度は10mm/minで、引張方向は配向方向と平行とした。
この結果、140℃~160℃の間では、引張り強さが185MPa以上の高い値が得られたが、一方、170℃以上では20MPaと低い値となった。
なお、成形温度130℃では、試験片作製時に剥離が生じてしまい、引張試験実施不可であった。

【0018】
下限値を探るべく、フィルム2枚を融着させ、その剥離強さを求めた。成形温度140℃以下の範囲で剥離時の引張荷重が如何に変化するかを測定し、表2の結果を得た。
【表2】
JP2017177673A_000004t.gif
試験方法:40mm×150mmに切断した超高分子量ポリエチレンフィルムを2枚用意し、それらを重ね合わせた。鉄板2枚に重ね合わせたフィルムの40mm×40mm部分を挟み込み、その部分に対して加熱・加圧を行った。残りの40mm×110mm部分には熱が加わらないようにした。成形温度を134℃~140℃とし、成形圧力を30MPaで加圧時間を10分とした。試験片の40mm×110mm部分をチャックし、島津製作所製オートグラフAG-M1を用いて引張速度を10mm/minで剥離試験を行った。
この結果、140℃においては剥離に対し36Nという高い値を示したが、それ以下の138℃、136℃等では18N以下の低い値となり、実用化には不適であることが明らかとなった。
なお、配向方向に対して垂直方向の引張試験を40mm×150mmに切断した超高分子量ポリエチレンフィルムについて実施したところ、最大荷重は20Nであり、20N以上を実用化に適していると判断した。

【0019】
次に、上限値を探るべく、成形温度を160℃以上の範囲で引張強さが如何に変化するかを測定し、表3の結果を得た。
【表3】
JP2017177673A_000005t.gif
試験方法:表1と同じ試験方法によった。
この結果、161℃及び163℃では223MPa以上の強い引張強さが得られたが、164℃以上となると24MPa以下の低い値となり、成形時の温度は最高で163℃迄であり、それ以上では実用化に不適な値となった。
上記のことから、成形時の温度は、成形圧力を30MPaとしたとき、140~163℃の範囲で高い引張強さが得られることが確認された。

【0020】
上記と同趣旨の試験を、成形圧力を10MPaとした場合で検討した。
その結果表4を得た。
【表4】
JP2017177673A_000006t.gif
試験方法:表2と同じ試験方法によった。
145℃以上では、剥離時の平均荷重が27N以上となり、融着の強さを示したが、140℃以下では13N以下となり実用化に不適な値となった。

【0021】
尚、上記成形温度140℃~163℃の範囲にあって、より望ましい温度を探ったところ、上記表4の剥離試験において、150℃が110Nという頗る高い値を示しており、150±3℃付近に最適値が存するものと捉えられる。

【0022】
次に、成形圧力を10MPaとした場合の上限値を求めて表5の結果を得た。
【表5】
JP2017177673A_000007t.gif
試験方法:表1と同じ試験方法によった。
この結果、155℃~157℃にあっては、126MPa以上の高い引張強さを示すが、158℃に至っては28MPa以下の低い値となった。
上記を総合すると、成形圧力を10MPa以上とした場合には、成形温度を145℃~157℃の範囲とすることが望ましいものとなった。

【0023】
次に、加圧条件についての検討を行った。
成形圧力が30MPa及び10MPaについては、上記表1~5に示す如く、その範囲では成形温度を140℃~163℃とした場合には、126MPa以上の高い引張強さが得られることが確認できた。
そこで、成形温度を150℃とし、成形圧力を10MPa以下とした場合に引張強さが如何に変化するかを測定し、表6の結果を得た。
【表6】
JP2017177673A_000008t.gif
試験方法:表1と同じ試験方法によった。
この結果、10MPa以下であっても1MPa以上とすることで197MPa以上の引張強さを得ることができ、実用化に適したものとなった。
なお、0.5MPaでは、成形時に配向方向に対して収縮が起こり、正常な成形体が得られなかった。
このことから、成形時の圧力条件は、1~30MPaの範囲で197MPa以上の高い引張強さが得られることが確認された。

【0024】
上記加熱及び加圧に要する時間は、目的とする成形体の厚みに合わせた超高分子量ポリエチレンフィルムの枚数によって異なってくるが、厚さ4mmとした場合に要する時間は10分であったが、厚さ10mmの場合には20分を要した。

【0025】
次いで、加熱・加圧したものの冷却に移り、超高分子量ポリエチレンフィルムを挟んだ金型を冷却して、その温度を70℃以下とする。冷却速度は例えば、10℃/分とする。
溶融状態の結晶性高分子は冷却により結晶化を促すことができ、上記加熱、加圧した超高分子量ポリエチレンフィルムを冷却することで配向性を備えたものとすることができる。この冷却を十分にするため、冷却温度を結晶化温度より低温の70℃以下とする。

【0026】
上記製法に基づいて、バッテリーのセパレータフィルムとして使用された超高分子量ポリエチレンフィルム体が、その配向の方向が同一となるよう重ね合わされて、融着されて一体化された成形体を得る。

【0027】
上記は配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を対象とし、該配向を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせた場合を説明したが(図1参照)、次いで、配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせた場合を検討した(図5参照)。
すると、この場合には、フィルム界面の融着力が弱く、容易に剥離してしまうものであった。
そこで、互いのフィルムの間に比較的低分量のポリエチレンフィルムを挿入し、それを上記と同様の条件下で融着することを検討した。
ここで、低分子量のポリエチレンとは、通常のフィルム形成が可能な分子量のポリエチレンをいい、数万~数十万の分子量を指すが、具体的にはMFR値で0.3~7g/10minのポリエチレンをいう。
具体的には、例えば、互いが直角の90度をなして、一のフィルムに対し直角と平行を繰り返して重ね合わせられる場合と(図5(A))、一の配向性を備えたフィルムに対し、90度以下の角度、例えば1/2直角の45度だけ回転させた角度とする場合(図5(B))等を検討した。

【0028】
その結果、引張り試験において、表7に示す如き、強い引張強さを得た。
【表7】
JP2017177673A_000009t.gif
試験方法:表1と同じ試験方法によった。
この結果、回転角度を90度とした場合には、引張強さは138MPaで、45度とした場合には、106MPaと共に高い引張強さが発揮された。
従って、配向を同一方向に揃えてフィルムを重ね合わせた場合に比べ、配向を異なる方向に組み合わせそこにより低分子量のポリエチレンフィルムを介在させた場合には、多角的であり、一方向の引張強さが若干落ちるものの、100MPa以上の引張強さを得ることができ、充分実用性に耐え得ることが確認された。

【0029】
斯くして、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入するものとする。そして、成形温度を140℃~163℃として加熱しつつ、成形圧力を1MPa~30MPaとして加圧し、加圧状態を維持しつつ70℃以下に冷却することは上記と同様である。

【0030】
尚、上記フィルム体の配向を一の方向とそれと異なる方向とに角度を変えて重ね合わせる態様は、a)各フィルムを1枚毎に変える場合と、b)上記配向を同一方向に揃えたフィルムを10~100枚程度重ね合わせたものを一単位とし、それらを単位毎に変える場合とがあり、b)の場合には、その単位毎の間に低分子ポリエチレンフィルムを挿入するものとする。
この態様の違いは、求める成形体の形状や厚み等により決定される。

【0031】
上記製造方法に基づいて、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を同一方向に揃えて積層させ、融着にて一体化して成ることを特徴とする成形体が得られるものとなる。
又、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を、その配向を一の方向と隣り合うそれと異なる方向とに配向の組み合わされる角度を変えて順次フィルムを重ね合わせ、該一の方向のフィルムとそれと異なる方向のフィルムとの間に低分子量のポリエチレンフィルムを挿入させて成る成形体が得られるものとなる。

【0032】
本発明の作用効果を説明する。
本発明においては、重ね合わせた超高分子量ポリエチレンのフィルム間に融着が起こっていると推定される。
それは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察画像からも窺える。
図2(a)、(b)に示した画像は、成形体の切断面を、日本電子(株)製JSM-6510LAにより観察したSEM像で、切断面は平滑で、剥離は見られず、フィルム同士が融着していることを示している。

【0033】
上記図2(a)に示した画像中央のA部分は、成形体の切断面に切り込みを入れ、配向方向に引っ張って剥がした部分である。ここには、配向方向に平行して線状の構造が見られ、これを拡大した図2(b)には、この線状の構造に対し垂直に伸びるフィブリルが観察される。
即ち、この線状の構造から配向した分子構造の存在が窺える。また、これはシシカバブ構造と酷似しており、該フィブリルは配向した分子に対するトランスクリスタルと予想され、このトランスクリスタルがフィルム間の融着を促す一因となっていると予想される。

【0034】
一方、一定条件を外れた場合、例えば成形温度が164℃を超えた場合には、引張強さが24MPa以下に低下してしまう現象が起こる。これは、本発明における融着が単なる熱による分子拡散のみにとどまらず、他の要因が働いてものと考えられ、これを本発明者は超高分子量ポリエチレンのフィルムに存在する配向性の有無ではないかと推察した。
尚、本発明における配向性とは、超高分子量ポリエチレン分子鎖又は結晶が延伸方向に対して配列する性質のことをいう。
そこで、上記SEM観察に加え、X線回折測定とDSC測定を試みた。

【0035】
超高分子量ポリエチレンフィルムの成形温度を150℃、成形圧力を10MPaに設定した場合の成形体を、(株)リガク製RINT RAPID-SによりX線回折測定したところ、図3に示す如き像が得られた。デバイリングの赤道線上に回折斑点が観察され、配向性の存在を示唆している。

【0036】
次いで、DSCによる測定を行った。
DSCは、状態変化による吸熱、発熱を測定し、構造の相転移、結晶化等を把握するもので、(株)日立ハイテクサイエンス製DSC7020を用い、測定にはアルミ製容器を使用した。
その結果、図4(a)に示す如く、無加圧状態でフィルムを加熱した試料の場合は超高分子量ポリエチレンの折りたたみ鎖結晶の融解由来の吸熱ピークのみが見られたのに対し、成形温度150℃、成形圧力を10MPaとした試料では伸びきり鎖結晶の融解由来と思われる吸熱ピークが見られた。
即ち、その一部を拡大した図4(b)において、150℃で10MPaに加圧した成形体のグラフは矢印に示される2点において伸びきり鎖結晶の融解を示す吸熱ピークが見られるのに対し、加圧無しで加熱したものではこれが見られなかった。
このことから、超高分子量ポリエチレンフィルムを加圧条件下で成形したものには、一定の成形温度範囲内で配向性が見られることが裏付けられた。

【0037】
上記は配向を同一方向に揃えたフィルムの場合であったが、複数方向に対して高強度な成形体を成形することを目的に、配向を一の方向とそれと異なる方向とに角度を変えた成形体を成形した。この成形体の衝撃破断面のSEM観察において図6に示す如き像が得られた。図6(a)は、互いを90度違えた場合のもので、一の方向の部分(図中Aの部分)と直交方向(90度)に違えた部分(図中Bの部分)は、しっかり一体化している。又、図6(a)を拡大して捉えた図6(b)にあっては、A部とB部の間にポリエチレンフィルムとなるC部とD部が観察され、そのA部及びB部との界面は密着しており、良好な接着が確認された。

【0038】
次に、本発明で得られた成形体の摩擦特性、耐衝撃強度等を測定した。
即ち、超高分子量ポリエチレンは、低摩擦であることが大きな特徴の一つであり、用途展開にも影響を与えるものである。
そこで、超高分子量ポリエチレンフィルムを上記条件下で成形した後の成形体を、摩擦・摩耗試験機(往復式摩擦摩耗試験機(新東科学(株)製HEIDON-18L)により摩擦係数を測定し、表8の結果を得た。
【表8】
JP2017177673A_000010t.gif
試験方法:圧子を3/8インチのアルミナとし、荷重を200gとして測定した。
この結果、成形後の超高分子量ポリエチレンにおいてもバージン材から成形した成形体と同等の低い摩擦係数であることが確認され、超高分子量ポリエチレンの特徴である低摩擦が求められる用途に広く展開が可能となる。

【0039】
次に、超高分子量ポリエチレンは耐衝撃性に優れた材料である一方、配向した成形体には衝撃強さが劣ることが懸念される。そこで、シャルピー衝撃試験を行った。結果は表9に示す通りであった。
【表9】
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試験方法:JIS K 7111-1により、シングルノッチ試験片に対し、エッジワイズ衝撃試験を行った。ハンマーは7.5J及び4Jを用いた。同一方向の成形体においては、配向方向に対して垂直方向の衝撃とした。
この結果、配向が同一方向の成形体の場合には、57.1kJ/m、配向を90度回転させた場合には49.0kJ/mの衝撃強さとなり、45度の場合には、破壊しなかった。
従って、配向の回転角度を制御することで、高い耐衝撃性を示すことが証明されたものである。

【0040】
上記はバッテリーのセパレータ用超高分子量ポリエチレンフィルムを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、配向性を備えた超高分子量ポリエチレン延伸フィルム体を素材としたものを広く対象とすることができる。

【0041】
上記本発明の優れた効果が得られる理由は未だ詳細には定かでないが、以下の如くに推察される。
超高分子量ポリエチレンフィルムを重ね合わせて加熱すると、融点以上になった場合結晶融解し互いが融着するが、一方で、延伸によって生まれた配向は消失してしまうのが原則である。
しかし、本発明者の検討によって、分子配向が同一方向であること、成形温度が140℃~163℃の範囲であること、成形圧力が1~30MPaであること、冷却を70℃以下とすること等の基では、例外が生まれることが確認された。
先ず、超高分子量ポリエチレンをフィルム状に延伸すると、その延伸方向と同じ方向に高分子鎖や結晶が配列したものとなる。
そして、超高分子量ポリエチレンを配向と同一の方向に積層させ、加圧下において融点以上に加熱すると、結晶は融解するが、超高分子量ポリエチレンは非晶質部分や結晶の折り返し部分に絡み合い点が多く、それにより分子運動が阻害されるため、融点に近い140℃~163℃の範囲では、一定範囲分子の相互位置に大きな変化が生じることなく、配向が保持されるものとなる。
更に、無加圧では配向が失われるものを、圧力を負荷することで、配向が保持されるものとなる。これは、成形過程に加圧を加えると、分子運動が抑制されて、配向緩和が抑制され、その結果、溶融状態においても、大きな分子の位置変化が起こらず、超高分子量ポリエチレンフィルムの分子配向等には大きな変化が生じないものとなる。
一方、超高分子量ポリエチレンフィルムを配向と同一の方向に積層させると、互いの界面に同じ配向の分子鎖や結晶が並ぶものとなり融着が容易となると共に、同一方向に強い引張強さ等の物性を発揮するものとなる。
そして、この状態の超高分子量ポリエチレンフィルムを冷却していくと、分子配向を保っていた状態の分子を結晶核として結晶化する。
一方、超高分子量ポリエチレンフィルムを配向と同一の方向には積層させずに、一の方向とそれと異なる方向とに配向の角度を変えて組み合わせた場合には、結晶方向にズレが生じてしまい、融着が不完全となってしまう。そこで、低分子量のポリエチレンフィルムを両者間に挟み込むと、結晶方向がズレた上下のフィルムの間に、より低分子量のポリエチレンが介在することとなる。この、低分子量のポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンと比較し、分子に絡み合い点が少なく、融点以上で加熱した場合、分子運動が活発になり、分子は自由な形態をとることが可能となる。これが冷却されると、超高分子量ポリエチレンフィルム間で、それぞれの分子配向に合った形態の結晶を形成するか、低分子量のポリエチレン鎖は超高分子量ポリエチレン鎖とからみ合いを形成した状態で固化され、フィルム同士を結合させるものとなる。且つ、超高分子量ポリエチレンの配向性の保持を阻害することはなく、引張強さ等の機械的強度が発揮されることとなる。
斯くして、延伸超高分子量ポリエチレンフィルムの配向を保持しつつ融着によって一体化した成形体が得られるものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明成形体は、金型での圧縮成形にて成形体とするか、又は、必要に応じて金型での成形体を切削加工等して求められる形状に加工することができ、これを、ギア、ガスケット、人工関節、カップ、ライナー、ボール、ステム、車両床材等に広く応用することが可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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