TOP > 国内特許検索 > 酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、その製造方法および紫外線遮蔽材としての利用 > 明細書

明細書 :酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、その製造方法および紫外線遮蔽材としての利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5750662号 (P5750662)
公開番号 特開2012-158500 (P2012-158500A)
登録日 平成27年5月29日(2015.5.29)
発行日 平成27年7月22日(2015.7.22)
公開日 平成24年8月23日(2012.8.23)
発明の名称または考案の名称 酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、その製造方法および紫外線遮蔽材としての利用
国際特許分類 C01B  39/46        (2006.01)
C01F  17/00        (2006.01)
A61K   8/19        (2006.01)
A61K   8/25        (2006.01)
A61K   8/26        (2006.01)
C09K   3/00        (2006.01)
C08K   3/34        (2006.01)
C08K   9/02        (2006.01)
FI C01B 39/46
C01F 17/00 B
A61K 8/19
A61K 8/25
A61K 8/26
C09K 3/00 104Z
C08K 3/34
C08K 9/02
請求項の数または発明の数 13
全頁数 13
出願番号 特願2011-020261 (P2011-020261)
出願日 平成23年2月1日(2011.2.1)
審査請求日 平成26年1月29日(2014.1.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591100563
【氏名又は名称】栃木県
【識別番号】000160407
【氏名又は名称】吉澤石灰工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】細井 栄
【氏名】松本 泰治
【氏名】伊東 裕恭
【氏名】岡村 達也
【氏名】山田 隆之
個別代理人の代理人 【識別番号】100070161、【弁理士】、【氏名又は名称】須賀 総夫
審査官 【審査官】山口 俊樹
参考文献・文献 特表2007-512216(JP,A)
特開2000-327328(JP,A)
特開2008-069290(JP,A)
特開2003-231099(JP,A)
特開2005-095733(JP,A)
特開2009-046372(JP,A)
特開2002-255538(JP,A)
特開平10-316416(JP,A)
特開2007-001826(JP,A)
特公昭35-014913(JP,B1)
特表2004-513861(JP,A)
米国特許第05382420(US,A)
松本泰治ら,多孔質無機化合物の細孔内を反応場とする金属ナノ粒子の作製,栃木県産業技術センター 研究報告,2009年,No.6、52~55ページ,インターネット[検索日:2014年6月23日<URL: http://www.iri.pref.tochigi.lg.jp/information/publication/09_02.pdf>]
調査した分野 C01B33/20-39/54
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
C01F1/00-17/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライト中に、粒径1~20nmの酸化セリウム(CeO)ナノ粒子が分散した形で存在する酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体
【請求項2】
その中に酸化セリウムナノ粒子が分散した形で存在するゼオライトが、その本来の結晶形態を維持している請求項1の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体。
【請求項3】
その中に酸化セリウムナノ粒子が分散した形で存在するゼオライトが、加熱により本来の結晶形態を失っている請求項1の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載した、粒径1~20nmの酸化セリウムナノ粒子がゼオライト中に分散した形で存在する酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を製造する方法であって、Ceの可溶性塩の水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKとCe3+イオンとのイオン交換を行なって、少なくとも10%の交換率でCeイオンをゼオライト中に存在させたのち、酸化性の雰囲気下に、800℃以上1000℃未満の温度で焼成することからなる製造方法。
【請求項5】
粒径1~20nmの酸化セリウムCeOナノ粒子を製造する方法であって、請求項1~3のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体に対して酸またはアルカリを作用させてゼオライトを溶解し、溶解せずに残った酸化セリウムナノ粒子を濾過により分離取得することからなる製造方法。
【請求項6】
2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライ中に、粒径1~20nmの酸化セリウムCeOのナノ粒子が、Ca,Pr,Nd,SmまたはGd(以下「Ce以外の金属」)の酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体。
【請求項7】
その中に酸化セリウムナノ粒子が分散した形で存在するゼオライトが、その本来の結晶形態を維持している請求項6の金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体。
【請求項8】
その中に酸化セリウムナノ粒子が分散した形で存在するゼオライトが、加熱により本来の結晶形態を失っている請求項6の金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載した、粒径1~20nmの酸化セリウムCeOナノ粒子が、Ce以外の金属の酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を製造する方法であって、Ceの可溶性塩と、Ce以外の金属の少なくとも1種の可溶性塩から選んだ塩とを混合して含有する水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKとCe3+イオンおよびCe以外の金属のイオンとのイオン交換を行なって、少なくとも10%の交換率でCeイオンおよびCe以外の金属のイオンをゼオライト中に存在させたのち、酸化性の雰囲気下に、800℃以上1000℃未満の温度で焼成することからなる製造方法。
【請求項10】
粒径1~20nmの金属酸化物固溶酸化セリウムCeOナノ粒子を製造する方法であって、請求項6~8のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体に対して酸またはアルカリを作用させてゼオライトを溶解し、溶解せずに残った金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子を濾過により分離取得することからなる製造方法。
【請求項11】
請求項2もしくは3に記載した酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、または請求項7もしくは8に記載した金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を化粧品の基材に添加した日焼け止め化粧品。
【請求項12】
請求項2もしくは3に記載した酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、または請求項7もしくは8に記載した金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体をビヒクルに分散させて形成した、紫外線による劣化を防止した塗料。
【請求項13】
請求項2もしくは3に記載した酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体、または請求項7もしくは8に記載した金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体をプラスチック材料に混練して成形した、紫外線による劣化を防止したプラスチック成形品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト結晶構造内に酸化セリウムのナノ粒子が分散した状態で存在する、酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体と、その製造方法とに関する。この複合体としては、とりわけ、ゼオライトとして板状の結晶形態をもつものを使用して得られる、酸化セリウムナノ粒子-板状ゼオライト複合体が重要である。
【0002】
本発明はまた、酸化セリウムにセリウム以外の金属の酸化物を固溶体として共存させた金属酸化物固溶酸化セリウムが、ゼオライト結晶構造内にナノ粒子の形で分散した状態で存在する、ナノ粒子-ゼオライト複合体と、その製造方法にも関する。
【0003】
本発明はさらに、上記の酸化セリウムナノ粒子-板状ゼオライト複合体または金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-板状ゼオライト複合体から分離取得した、ナノメータレベルの微細で均一な粒径分布を有する、酸化セリウムナノ粒子または金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子それ自体と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0004】
酸化セリウムの特性の向上、とくに触媒特性の向上を目的とした、ナノ粒子化技術が開発されている。従来の酸化セリウムの製造方法は、セリウム塩の水溶液に塩素および水酸化ナトリウムを加えて水酸化セリウムの沈殿を生成させ、それを焼成、粉砕することによって行われてきたが、その方法では、粒子の形態および粒径を制御することができなかった。ナノ粒子化技術として提案された方法のひとつは、有機溶媒の存在下で酸化セリウム前駆体を製造し、水熱反応により約30~300nmの粒径を有する酸化セリウムナノ粒子を製造する方法(特許文献1)である。この技術で得られる酸化セリウムは粒径の分布が広いから、均一な粒径の酸化セリウムを得ることはできない。いまひとつの技術は、有機溶媒中での合成反応により、平均粒径が100nm以下の酸化セリウムナノ粒子を製造する方法(特許文献2)であるが、この技術も、酸化セリウムの粒度分布が広く、均一な粒径の製品を提供することはできない。
【0005】
酸化セリウムに限らず、金属酸化物から1~200nmの範囲内の粒度を有する微粒子を製造する方法として、機械的な微粉砕処理を工程に含む技術が開発された(特許文献3)。しかし機械的な処理は、原理的に考えても均一な粒径の金属酸化物粉末を与えない。これと異なる技術として、金属酸化物固溶体の製造を、反応混合物を加圧下に連続的に反応させることにより行なうことが考案された(特許文献4)。高圧装置を必要とするうえ、高圧処理のため作業性が悪いという不利がある。
【0006】
均一な粒径をもった酸化セリウムのナノ結晶を製造することが可能な技術として、無水性の、および有水性の、ゾル・ゲル反応を行なう方法が提案された(特許文献5)。ただしこの方法は、有機溶媒を使用し、操作が煩雑である。やはり狭い粒度分布をもった金属酸化物ナノ粒子を合成する方法として、金属塩または金属錯体を含む溶液に、紫外線領域波長レーザーを照射する方法も提案された(特許文献6)。これも、合成に特殊な装置を必要とする。
【0007】
一方、ゼオライトは、そのキャビティ(細孔)内に種々の金属元素をイオン交換により均一に分散させることが容易であることから、ゼオライトを母結晶ないし原料に用いたイオン交換体が、蛍光体の製造をはじめとして、さまざまな分野で試作されている。ゼオライトをセリウムイオンで交換したものは、とくに触媒として有用であって、たとえば、β型ゼオライトをセリウムイオンでイオン交換したものを、排気ガス浄化用触媒として使用するという提案がある(特許文献7)。ただし、これは酸化セリウムを合成する技術ではない。排気ガス浄化用触媒に関しては、ゼオライトをセリウムイオンでイオン交換するとともに、酸化セリウムに担持される化合物を含有する触媒を製造する技術がある(特許文献8)が、ゼオライトの構造内に酸化セリウムのナノ粒子を合成するものではない。
【0008】
近年、オゾン層の破壊の問題を契機として、人体に対する紫外線の有害さが懸念されている。樹脂や塗料も、日光に暴露されると紫外線の影響を受け、経時的に劣化し、変色したり亀裂が生じたりするという問題がある。そこで、こうした害を防ぐ対策の一つとして、種々の有機系や無機系の紫外線遮蔽材が開発されつつある。酸化セリウムの微粒子は、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄のような金属酸化物の微粒子とともに、紫外線遮蔽効果の大きい物質として知られ、無機系紫外線遮蔽材として有力な物質である。
【0009】
ところが一方で、酸化セリウムをはじめとする金属酸化物の微粒子は、光触媒作用あるいは熱触媒作用を有しており、単に化粧品や塗料の材料、プラスチックなどに配合した場合、その中の有機物質成分を劣化させ、変質させる可能性があるという問題がある。また、紫外線の遮蔽効率を向上させるには、粒子をできるだけ小さくすることが望ましいが、一般的にこれら金属酸化物の微粒子はきわめて凝集しやすく、それを添加すべき物質中に均一に分散させることは困難であり、そのために、本来もっている紫外線遮蔽効果が十分に発揮できないという悩みもあった。
【0010】
そこで、こうした問題を解決する手段として、金属酸化物の微粒子を、触媒活性のない無機化合物で被覆することや、形態を制御することが試みられてきた。その一例は、紫外線遮蔽機能を有する金属または金属酸化物を、シリカによって内包した複合化粒子の提案である(特許文献9)。この複合化粒子は、一次粒子が鱗片板状の形状であることを特徴としているが、水熱合成によって製造したものであり、金属または金属酸化物の分散状態は明らかでない。
【0011】
シリカで被覆した金属酸化物粒子に関しては、ゾル-ゲル反応を応用して変性シリカ被覆粒子を製造する方法がある(特許文献10)。ところが、被覆粉体を粉砕する過程を必要とするため、形態および粒径を制御するという観点からは、有力でない。水熱合成により酸化セリウム微粒子、セリウム含有複合酸化物微粒子を、不定形または結晶性の無機化合物で被覆した紫外線遮蔽材が考えられた(特許文献11)が、水熱合成は粒子の形態および粒径を制御するには適しない。
【0012】
金属酸化物微粒子をシリカで被覆することは引き続き試みられており、シリカからなる粒径が20~100nmの粒子の内部に、1個または複数個の酸化セリウムまたは酸化チタンを含有させた構造を有する微粒子が提案された(特許文献12)。この技術は、粒子の形態や粒径の制御には及んでない。膜厚が0.1~100nmであるシリカで金属酸化物粉末を被覆したものを、シリカ被膜形成用組成物に金属酸化物粉を接触させて表面にシリカを選択的に沈着させる、という手法で製造することも行われた(特許文献13)。しかしながらこの技術でも、製品のシリカ被膜金属酸化物の形態や粒径を、はっきり制御することはできない。
【0013】
セリウム化合物、とりわけセリアすなわち酸化セリウムのさまざまな分野における広範な用途については、最近の総説(非特許文献1)にまとめられている。

【特許文献1】特開2005-519845
【特許文献2】特開2002-201023
【特許文献3】特表2002-515393
【特許文献4】特表2007-504091
【特許文献5】特表2009-511403
【特許文献6】特開2008-044817
【特許文献7】特開2006-281127
【特許文献8】特開2004-313971
【特許文献9】特開平11-11927号
【特許文献10】特開2000-319128
【特許文献11】特開2001-139926
【特許文献12】特開2003-253249
【特許文献13】特開2004-115541
【非特許文献1】小沢正邦「マテリアル インテグレーション」23巻1号(2010)40-45頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、第一に、ナノレベルの微細な粒径を有し、しかも粒径が均一な酸化セリウムのナノ粒子がゼオライト中に分散した形で存在する、酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を提供することにある。この複合体を製造する方法を提供することも、本発明の目的に含まれる。
【0015】
本発明の目的は、第二に、ナノレベルの微細な粒径を有し、しかも粒径が均一な酸化セリウムのナノ粒子が、Ce以外の金属、すなわち、Ca,Pr,Nd,SmまたはGdの酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する、金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を提供することにある。この複合体を製造する方法を提供することも、本発明の目的に含まれる。
【0016】
本発明の目的は、第三に、上記した酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体または金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体から分離取得した、ナノレベルの微細な粒径を有し、しかも粒径が均一な、酸化セリウムナノ粒子または金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子を提供することにある。これらのナノ粒子を製造する方法を提供することも、本発明の目的に含まれる。
【0017】
本発明の応用面における目的は、上記した形態の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体もしくは金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を提供することによって、または、酸化セリウムナノ粒子もしくは金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子を提供することによって、一般に凝集性が強いというナノ粒子に共通の取り扱いにくさを解決し、紫外線遮蔽材としてのすぐれた性能を十分に発揮させるとともに、表面被覆により触媒活性を抑制した物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の、酸化セリウムのナノ粒子がゼオライト中に分散した形で混在する酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体は、2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライト中に、K2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライト中に、
粒径1~20nmの酸化セリウムCeOナノ粒子が分散した形で存在する複合体である。複合体のゼオライトは、本来の結晶構造を維持しているものであってもよいし、たとえば加熱されて結晶構造が崩壊したものであってもよいし、その中間の、ミクロ構造は破壊されたものの、外見上の結晶形態は維持されている、という段階のものであってもよい。

【0019】
本発明の、酸化セリウムのナノ粒子がCe以外の金属の酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体は、同じくK2O・Al23・2SiO2・xH2Oの組成を有し六角板状の結晶形態をもつ「リンデQ」型ゼオライ中に、粒径1~20nmの酸化セリウムCeOナノ粒子が、Ca,Pr,Nd,SmまたはGdの酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する複合体である。この場合も、上記と同様に複合体のゼオライトは、本来の結晶構造を維持しているものであってもよいし、たとえば加熱されて結晶構造が崩壊したものであってもよいし、その中間の段階のものであってもよい。


【0020】
本発明の、粒径1~20nmの酸化セリウムのナノ粒子がゼオライト中に分散した形で存在する酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を製造する方法は、Ceの可溶性塩の水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKとCe3+イオンとのイオン交換を行なって、少なくとも10%の交換率でCeイオンを存在させたのち、酸化性の雰囲気下に、800℃以上1000℃未満の温度で焼成することにより、酸化セリウムCeOナノ粒子を形成させることからなる。

【0021】
本発明の、粒径1~20nmの酸化セリウムのナノ粒子がCe以外の金属の酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体を製造する方法は、Ceの可溶性塩と、Ce以外の金属すなわちCa,Pr,Nd,SmおよびGdの可溶性塩から選んだ少なくとも1種の塩とを混合して含有する水溶液にゼオライトを浸漬し、100℃以下の温度でゼオライト中のKとCe3+イオンおよびCe以外の金属のイオンとのイオン交換を行なって、少なくとも10%の交換率でCeイオンおよびCe以外の金属のイオンを存在させたのち、酸化性の雰囲気下に、800℃以上1000℃未満の温度で焼成することにより、Ce以外の金属の酸化物を固溶体として取り込んだ酸化セリウムCeOナノ粒子を形成させることからなる。

【0022】
本発明の、粒径1~20nmの微細な粒径を有し、しかも粒径が均一な酸化セリウムナノ粒子を製造する方法は、上記の酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体に対して酸またはアルカリを作用させてゼオライトを溶解し、溶解せずに残った酸化セリウムナノ粒子を濾過により分離取得することからなる。本発明の、粒径1~20nmの微細な粒径を有し、しかも粒径が均一な金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子を製造する方法は、これと同様に、上記の金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子-ゼオライト複合体に対して酸またはアルカリを作用させてゼオライトを溶解し、溶解せずに残った金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子を濾過により分離取得することからなる。

【発明の効果】
【0023】
本発明の酸化セリウムナノ粒子は、ゼオライトに、そのKまたはNaイオンとセリウムイオンCe3+とのイオン交換により与えたセリウム(III)が、酸化性雰囲気下での焼成によりセリウム(IV)の酸化物となるという機構により、形成されたものである。一般に、金属イオンでイオン交換したゼオライトを加熱すると、ゼオライト構造が分解した後、通常はアルミノケイ酸金属塩やアルミン酸金属塩が生成し、イオン交換された金属の酸化物が生成することはない。本発明は、これまで当業者がもっていた知見からは予想できなかった新規な経路により、はじめて酸化セリウムナノ粒子を実現したものである。ゼオライトとセリウムイオンCe3+とのイオン交換も、その焼成も簡単な操作であって、格別の装置も操作も必要なく、本発明は低コストで容易に実施することができる。
【0024】
これまでに知られている酸化セリウムの微粒子は、その粒径の制御が困難であるばかりか、微粒子にすると凝集しやすく、分散性が不十分なものしか得られなかった。本発明によって、ゼオライト中に良好な分散状態で混在する酸化セリウムナノ粒子が得られ、所望であれば、ゼオライトの結晶形態や粒径を維持したままで、その中に酸化セリウムナノ粒子が分散した複合体が得られるから、酸化セリウムのもつ触媒性能を抑制した状態で紫外線遮蔽効果を発揮する、微粉末状の添加剤を提供することができる。
【0025】
後記する実施例にみるとおり、リンデQゼオライトを使用して得た本発明の複合体を透過型電子顕微鏡により観察すると、六角板状形態の粒子内部に数10nmのナノサイズ結晶粒子が分散していることが確認でき、その粒径はきわめて均一である。得られた試料の光反射率を測定したところ、紫外領域において優れた遮蔽能を示すことが確認できた。
【0026】
このように、酸化セリウムのナノ粒子がゼオライト中に分散した形で存在する本発明の複合体は、紫外線遮蔽材として役立つほか、前記の最近発表された総説(前掲非特許文献1)にあるように、研磨材、触媒、燃料電池電極材としての用途を有する。この複合体をプラスチック材料に添加したときは、その酸化を防止する作用を示すから、たとえば耐候性を向上させたプラスチックフィルムの製造に利用可能である。
【0027】
この事実は、酸化セリウムが、金属酸化物固溶体酸化セリウムである場合も同様である。酸化セリウムのナノ粒子がCe以外の金属の酸化物を固溶体として取り込んだ粒子としてゼオライト中に分散した形で存在する本発明の複合体は、固溶した金属の種類に対応して、固有の特性をもつ。たとえば、PrまたはNdがCeに固溶したものは、触媒としての性能が向上する。GdまたはSmが固溶したものは、導電率が高まるし、Caが固溶したものは、白色度が増し、かつ、触媒性能は低下して油脂などの有機物を分解させる傾向が低くなるため、とりわけ化粧品における紫外線遮蔽材として好適なものとなる。
【0028】
所望であれば、本発明の酸化セリウムまたは金属酸化物固溶体酸化セリウムのナノ粒子を、ゼオライトとの複合体から分離して単体として取得することができ、得られた単体ナノ粒子は、それらが本来有する性能を利用して、前述の諸用途に向けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明で使用するゼオライトとしては、セリウムイオンをイオン交換によってその構造中に取り込むことが可能なものであれば、任意のゼオライトを選択することができる。紫外線遮蔽材などの用途にとって好適な板状の複合体を製造するには、クリノプチロライトなどの板状の結晶形態をもったゼオライトが好適である。なかでも、リンデQゼオライトが好適である。リンデQゼオライトは六角板状の結晶自形をもち、イオン交換容量が大きい。ゼオライトは、径0.5~10μm、厚さ10~200nm、アスペクト比5以上のものが好ましい。
【0030】
ゼオライト中にあらかじめ存在するKイオンやNaイオンをCe3+イオンとイオン交換するには、セリウムの硝酸塩、塩化物等の可溶性塩の水溶液中にゼオライトを分散懸濁させ、100℃以下の温度でイオン交換させる。イオン交換溶液のセリウムイオン濃度を選択することにより、ゼオライトのCeイオン交換率、すなわち、Ceイオン含有量を制御することができる。
【0031】
イオン交換後、酸化性の雰囲気下で、または大気中でイオン交換体を焼成して、セリウム(III)→(IV)の酸化を行ない、酸化セリウムの粒子を生成させる。焼成温度を800~900℃に選べば、酸化セリウムの生成と、ゼオライトの形態および粒径の維持とを両立させることが可能である。焼成温度を調節することにより、またそれに加えてイオン交換率を調節することにより、ゼオライト構造を維持した複合体を得ることもできるし、ゼオライトを分解させて非晶質とした複合体を得ることもできる。ゼオライト構造を維持する場合、所望であれば、イオン交換により、抗菌性を有する銀イオンなどの金属イオンを、その構造内に取り込ませることができる。
【実施例】
【0032】
以下の実施例において、試料のキャラクタリゼーションおよび性能の試験は、つぎのように行なった。
[イオン交換率の測定]
イオン交換試料を酸で分解し、誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所製「ICPS-8000」)によりCeおよびKを定量して、イオン交換率を求める。
[イオン交換試料および加熱試料の結晶相の同定]
粉末X線回折(XRD)(マック・サイエンスMXP3A、理学電機RINT-2550H)を使用。
[結晶形態の観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子JSM-6100)および透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM-2100EX)により観察。
[反射特性]
自記分光光度計(日本分光V-570積分球付き)により、加熱試料の反射スペクトルを測定。
【実施例1】
【0033】
酸化セリウムナノ粒子とゼオライトとの複合体(1)
平均粒径1.17μm、厚さ約100nmの六角板状結晶形態を有するK型リンデQゼオライト(K2O・Al23・2SiO2・xH2O 以下、「リンデQ」と略称する)を合成した。硝酸セリウムCe(NO3)3の濃度を0.025,0.05,0.1,0.15,0.2および0.25mol/Lに選んだ水溶液各60mLに、上記のリンデQを8gずつ投入し、90℃の恒温槽中に24時間保持して、イオン交換処理を行なった。イオン交換をした試料をメンブレンフィルターにより濾過し、蒸留水で洗浄後、50℃で乾燥して、セリウム交換リンデQを得た。(以下、「イオン交換試料」という。)
【0034】
上記のイオン交換試料のイオン交換率を求め、イオン交換試料および加熱試料の結晶相を同定し、結晶形態を観察した。さらに、加熱試料の反射スペクトルを測定した。
表1に、イオン交換試料の定量分析結果を示す。リンデQ内のKは、Ce3+と交換することが確認された。
【0035】
表1 Ce交換リンデQゼオライトの化学分析値
JP0005750662B2_000002t.gif
【0036】
図1に、イオン交換試料を800℃に加熱した試料のXRDパターンを示す。この図から、イオン交換率11.3%の試料は、800℃に加熱したときに構造が崩れはじめているが、イオン交換率25.4%以上の試料は、ゼオライト構造を維持していることがわかる。リンデQは、Eu3+およびTb3+とのイオン交換によって熱安定性が向上することが知られているが、Ce3+イオン交換においても同様に熱安定性が向上することが明らかになった。加熱試料の結晶性はイオン交換率により異なることから、リンデQの熱安定性の向上の度合は、Ce含有量に依存することがわかった。
【0037】
図2に、800℃に加熱した加熱試料のSEM写真を示す。試験したCeイオン交換率11.3~80.5%の全範囲にわたり、800℃加熱試料はすべて、リンデQの六角板状形態を保持していることを確認した。
【0038】
次に、加熱温度の影響を、イオン交換率47.6%の試料を用いて検討した。イオン交換試料を、50~1000℃の範囲内の所定の温度に加熱した。図3に加熱試料のXRDパターンを、図4にSEM観察像を示す。
【0039】
イオン交換率47.6%のCeイオン交換試料は、800℃まで結晶構造を維持することがわかった。この熱安定性の向上は、EuおよびTb交換リンデQとほぼ同様である。さらに、850℃の加熱において構造がこわれはじめるが、900℃の加熱においても六角板状の形態は保たれていることが分かった。 1000℃の加熱では、リンデQの構造は完全に分解し、六角板状体が溶融した形態となった。また、850℃以上の加熱試料から、28.6°,33.1°,47.5°および56.3°付近に幅広いピークが現れ、酸化セリウムの生成が確認された。酸化セリウムの回折ピークは、加熱温度の上昇とともに強くなっており、結晶の生長が推測される。
【0040】
表2に、回折ピーク幅から結晶子サイズを求めた結果を示す。酸化セリウムは、その結晶粒径が約15~30nmであるナノ粒子であることが推測された。また、加熱温度が高くなるほど、そしてイオン交換率が高くなるほど、言い換えるとCe含有量が大きくなるほど、酸化セリウムの結晶子すなわち完全結晶のサイズが大きくなることが分かった。
【0041】
表2 酸化セリウムの結晶子サイズ
JP0005750662B2_000003t.gif
【0042】
次に、イオン交換率47.6%の900℃加熱試料についてのTEM観察像を、図5に示す。十数nmの酸化セリウム粒子が生成し、六角板状のリンデQの構造内に分散して存在していることが明らかとなった。酸化セリウム粒子の粒径はよく揃っていて、分布はおおよそ±2nm程度であった。
【0043】
図6に、種々の交換率でイオン交換したイオン交換試料を、800℃に加熱した試料の反射スペクトルを示す。Ceイオン交換リンデQの加熱試料は、紫外線を吸収することが確認された。さらに、Ceイオン交換率が大きくなるほど、紫外線吸収率は高くなった。この紫外線吸収率の増大は、リンデQ構造内に存在する酸化セリウムの含有量と相関があると思われる。これに対し、Ceイオン交換率47.6%のイオン交換試料を、200℃~1000℃の種々の温度に加熱した試料について反射スペクトルを調べ、図7の結果を得た。
【0044】
一方、Ceイオン交換率47.6%のイオン交換試料を200℃に加熱して得た試料についてTEM観察し、図8の写真を得た。このTEM像には、酸化セリウムの結晶が明確には見えない。図3のXRDパターンもまた、酸化セリウム結晶の生成を示してはいない。しかし、図7の反射スペクトルにみるように、この試料は紫外線を吸収する性能はある。これらの事実から、この200℃加熱の試料においては、酸化セリウムは生成したものの、結晶が発達するに至っていないものと解される。つまり、Ce-Oの結合が紫外線を吸収していると考えられる。要するに本発明の複合体における酸化セリウムとは、明確な結晶が生成した場合に限らず、この例のように結晶が発達していない場合であっても、Ce-Oの結合が存在するものをすべて包含する趣旨の語である。
【実施例2】
【0045】
酸化セリウムナノ粒子とゼオライトとの複合体(2)
Na型ゼオライトX(Na2O・Al23・2.5SiO2・xH2O)をテフロン(登録商標)密閉容器に8g量り取り、Ce(NO3)3イオン交換溶液(Ce(NO3)3濃度:0.1mol/L)を60ml加え、90℃の恒温槽中で、24時間イオン交換処理を行なった。イオン交換試料は、濾過および洗浄の後、50℃で乾燥した。イオン交換によって得られたイオン交換試料を、大気中で900℃に1時間加熱し、加熱試料を得た。
【0046】
この加熱試料をX線回折分析により観察したところ、ゼオライトXのピークは失われて、ゼオライト構造が完全に崩壊していることがわかった。それに代わって、28.6°,33.1°,47.5°および56.3°付近に幅広いピークが現れ、酸化セリウムが生成していることが確認された。
【実施例3】
【0047】
他の金属酸化物を固溶した酸化セリウムナノ粒子
Ce(NO3)3の濃度を0.1mol/Lとして用意したイオン交換用の溶液に、Ce以外の金属のイオン(Caイオン、Prイオン、Ndイオン、SmイオンまたはGdイオン)をそれぞれ内割で20モル%添加することによって、2種の金属イオンが混合した溶液を調製した。K型リンデQ(K2O・Al23・2SiO2・xH2O)をテフロン(登録商標)密閉容器に8g量り取り、上記混合溶液を60mL加え、90℃の恒温槽中で24時間、イオン交換処理を行なった。イオン交換試料は、濾過し洗浄した後、50℃で乾燥し、セリウム-他の金属イオン複合交換ゼオライトを得た。このイオン複合交換ゼオライトを、大気中で900℃に1時間加熱し、加熱試料を得た。
【0048】
これらの加熱試料をX線回折により分析したところ、900℃以上の加熱によってリンデQの構造は完全に崩壊したことがわかった。この場合も、リンデQのピークに代わって、28.6°,33.1°,47.5°および56.3°付近に幅広いピークが現れ、酸化セリウムが生成していることが確認された。走査型電子顕微鏡で観察した結果、すべての混合溶液から得られた試料が、六角板状の形態を維持していることがわかった。
【0049】
走査型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型蛍光X線分析により組成分析を行なったところ、下記のデータが得られ、いずれの試料も、セリウムと他の金属が共存していることが確認された。

表3 金属酸化物固溶酸化セリウムナノ粒子の蛍光X線分析
JP0005750662B2_000004t.gif
【実施例4】
【0050】
酸化セリウムナノ粒子の分離
実施例1において得た、リンデQゼオライトに71.4%のイオン交換率でCeをイオン交換したものを、900℃に加熱した。得られた酸化セリウム-ゼオライト複合体0.1gに、46%HF溶液5mLと36%HCl溶液5mLとを加え、加熱してゼオライトを溶解した。いったん蒸発乾固したのち、水10mLと少量のHClを加えて、可溶性の成分を溶解して除いた後、濾過洗浄した。得られた酸化セリウムナノ粒子単体をTEM観察して、図9の写真を得た。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図は、いずれも本発明の実施例のデータであって、それぞれ下記の内容である。
【図1】実施例1において、リンデQゼオライトをセリウムで、種々の交換率でイオン交換したイオン交換試料を、800℃に加熱した試料のXRDチャート。
【図2】図1にXRDチャートを示した加熱試料のうち、Ceイオン交換率11.3%および80.5%のもののSEM写真。
【図3】実施例1において、Ceイオン交換率47.6%でイオン交換した試料を、50~1000℃の範囲の種々の温度に加熱した試料のXRDチャート。
【図4】図3にXRDチャートを示した加熱試料のうち、200℃、850℃、900℃または1000℃に加熱したもののSEM写真。
【図5】実施例3において、Ceイオン交換率が47.6%のイオン交換試料を900℃に加熱した試料のTEM写真。下段は上段の白枠内の拡大図。
【図6】実施例1において得た、種々の交換率でイオン交換したイオン交換試料を800℃に加熱した試料の反射スペクトル。
【図7】実施例1において得た、Ceイオン交換率47.6%のイオン交換試料を200℃~1000℃の種々の温度に加熱した試料の反射スペクトル。
【図8】実施例1において得た、Ceイオン交換率47.6%のイオン交換試料を200℃に加熱した試料のTEM写真。
【図9】実施例4において、Ceイオン交換率71.4%のイオン交換試料を900℃に加熱した後、酸を作用させてゼオライトを溶解除去して得た酸化セリウムナノ粒子単体のTEM写真。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8