TOP > 国内特許検索 > オルニチンを富化した納豆の製造方法 > 明細書

明細書 :オルニチンを富化した納豆の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6142197号 (P6142197)
公開番号 特開2014-197985 (P2014-197985A)
登録日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
公開日 平成26年10月23日(2014.10.23)
発明の名称または考案の名称 オルニチンを富化した納豆の製造方法
国際特許分類 A23L  11/00        (2016.01)
FI A23L 11/00 109Z
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2013-073660 (P2013-073660)
出願日 平成25年3月29日(2013.3.29)
審査請求日 平成28年3月28日(2016.3.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591100563
【氏名又は名称】栃木県
【識別番号】513076947
【氏名又は名称】あづま食品株式会社
発明者または考案者 【氏名】星 佳宏
【氏名】古口 久美子
【氏名】礒 貴洋
【氏名】牛久 吉弘
【氏名】塩澤 ゆきは
【氏名】木村 幸恵
個別代理人の代理人 【識別番号】100095739、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 俊夫
審査官 【審査官】濱田 光浩
参考文献・文献 特開昭47-030856(JP,A)
特開2010-098962(JP,A)
特開2009-213423(JP,A)
特開2013-169158(JP,A)
特開2009-112205(JP,A)
国際公開第2008/153158(WO,A1)
国際公開第2010/010631(WO,A1)
特開昭53-081648(JP,A)
特開昭57-099169(JP,A)
特開昭56-005065(JP,A)
特開昭43-010996(JP,A)
特開昭53-024096(JP,A)
特開昭60-098990(JP,A)
調査した分野 A23L 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
FSTA(STN)
日経テレコン
特許請求の範囲 【請求項1】
大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程における納豆菌の増殖曲線の対数期の中頃をすぎてから製品完成までの間にアルギニンを添加することを特徴とするオルニチンを富化した納豆の製造方法。
【請求項2】
請求項1の納豆の製造方法において、アルギニンの添加量は大豆100g当たり600mg以下で添加することを特徴とするオルニチンを富化した納豆の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、オルニチンが富化された納豆の製造方法に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
分子式C12からなるオルニチン(ornithine)は、タンパク質を構成しない遊離アミノ酸として体内に存在し、種々の生理機能(肝機能改善作用,成長ホルモン分泌促進作用,免疫機能改善作用,筋肉増強作用,基礎代謝向上作用,疲労改善作用)を奏するとされている。然しながら、一般的な食品にはオルニチンがあまり多く含まれていないことから、通常の食生活でオルニチンを積極的に摂取することは困難である。
【0003】
現在、オルニチンの積極的な摂取を目的として、オルニチンを添加した薬剤,サプリメントが各種提供されている。然しながら、これ等の薬剤,サプリメントは、製造コストやオルニチンの体内への吸収効率等の点で問題がある。このため、一般的な食品に含有されるオルニチンを富化してオルニチンの積極的な摂取を可能にする技術の開発が要望されている。
【0004】
従来、一般的な食品に含有されるオルニチンを富化する技術としては、例えば、特許文献1~6に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1~6には、アルギニン(arginine)の分解に乳酸菌を関与させ生成されるオルニチンを増量させることで、一般的な食品に含有されるオルニチンを富化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第4402633号公報
【特許文献2】再表2007-29719号公報
【特許文献3】特開2008-17703号公報
【特許文献4】特開2009-112205号公報
【特許文献5】特開2011-36161号公報
【特許文献6】特開2010-98962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~6に係る技術によると、乳酸菌以外の他の菌類によってもアルギニンからオルニチンへの変換が促進され得ることが示唆される。
【0008】
本発明者は、納豆菌によってアルギニンからオルニチンへの変換を促進することができるのではないかと考え、各種納豆菌をアルギニン溶液添加培地にて培養することでアルギニンからオルニチンが生成されることを確認した。そして、この確認を踏まえ、一般的な食品であって栄養価が高く健康食品とされ頻繁に食される納豆について含有されるオルニチンを富化させて、オルニチンの積極的な摂取を可能にする技術の開発という前述の要望に応えることとした。
【0009】
なお、納豆の製造については、既に成熟技術として存在している。 従って、納豆に含有されるオルニチンを富化させる際に、通常の製造工程の変更を伴わないことが望ましい。
【0010】
本発明は、このような点を考慮してなされたもので、通常の製造工程を変更することなく含有されるオルニチンを富化させることのできる納豆の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するため、本発明に係る納豆の製造方法は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0012】
即ち、請求項1では、大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程における納豆菌の増殖曲線の対数期の中頃をすぎてから製品完成までの間にアルギニンを添加することを特徴とする。
【0013】
この手段では、納豆菌が増殖する際にアルギニン,オルニチンを資化してしまうのを避け納豆菌が酵素を生成してアルギニンからオルニチンへの変換を有効に促進する時期として納豆菌の増殖曲線の対数期の中頃をすぎて以降が選択され、アルギニンの添加時期以外に製造工程に影響を及ぼすことがないようにしている。
【0014】
また、請求項2では、請求項1の納豆の製造方法において、アルギニンの添加量は大豆100g当たり600mg以下で添加することを特徴とする。
【0015】
この手段では、アルギニンの添加量を制限することで、あくが強くなるえぐ味の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る納豆の製造方法は、納豆菌が増殖する際にアルギニン,オルニチンを資化してしまうのを避け納豆菌が酵素を生成してアルギニンからオルニチンへの変換を有効に促進する時期として納豆菌の増殖曲線の対数期の中頃をすぎた以降が選択され、アルギニンの添加時期以外に製造工程に影響を及ぼすことがないようにしているため、通常の製造工程を変更することなく含有されるオルニチンを富化させることができる効果がある。
【0017】
さらに、請求項2として、アルギニンの添加量を制限することで、あくが強くなるえぐ味の発生を防止することができるため、含有されるオルニチンを富化させても納豆として慣れ親しまれている食味を維持することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る納豆の製造方法を実施するための形態の工程図(納豆菌の増殖曲線のグラフを含む)である。
【図2】図1のアルギニンの添加量と食味との関係を示す表である。
【図3】図1におけるアルギニンの添加時期を特定するための実験結果の表である。
【図4】図3におけるアルギニン,オルニチン,尿素の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る納豆の製造方法を実施するための形態を図面に基づいて説明する。

【0020】
この形態は、図1に示すように、納豆の通常の製造工程である「浸漬」,「蒸煮」,「植菌」,「充填」,「発酵」,「冷蔵」の流れをそのまま利用して実施される。

【0021】
「浸漬」は、大豆に水を吸わせるものである。大豆の品質,大きさや気温により浸漬時間が調整される。なお、「浸漬」に先行して、不良大豆,異物の除去等の選別や大豆の洗浄が行われる。

【0022】
「蒸煮」は、大豆を圧力釜等で蒸上げるものである。大豆の状態により蒸煮時間が調整される。

【0023】
「植菌」は、納豆菌aを大豆に添加(接種)するものである。培養された納豆菌aは、適度な濃度に薄められて大豆に噴霧される。

【0024】
「充填」は、植菌された大豆を容器に盛込むものである。大豆の容器への盛込みの際に計量が行われる。

【0025】
「発酵」は、植菌され容器に盛込まれた大豆を発酵室で発酵させるものである。発酵室では温度,湿度が調整される。

【0026】
「冷蔵」は、発酵の完了した大豆を冷却するものである。冷却された大豆は、納豆菌の活動を低下させて熟成される。

【0027】
この形態では、「発酵」工程における納豆菌aの増殖曲線の対数期(納豆菌栄養細胞が旺盛な分裂を始め菌数が指数関数的に増加する時期)の中頃をすぎた以降にアルギニンを大豆に添加する。アルギニンの添加時期については、納豆としての製品完成までの間を選択することができる。

【0028】
アルギニンは、アルギニン溶液bとして大豆に添加される。この添加手段としては、滴下,噴霧等が適宜選択される。

【0029】
この形態によると、アルギニンを添加しない場合(多くても20mg/100g程度)に比して、製品完成された納豆におけるオルニチンの含有量が数倍から十数倍に増量されることが確認された。このため、一般的な食品であって栄養価が高く健康食品とされ頻繁に食される納豆によって、オルニチンの積極的な摂取が可能になる。なお、納豆の通常の製造工程の流れをそのまま利用して実施することができる、現状の納豆製造現場に簡単に適用することができる。

【0030】
なお、納豆菌aについては、増殖曲線の対数期の終わりに至ると、菌体外酵素を多く出すことが知られている。この菌体外酵素がアルギニンのオルニチンへの変換に関与しているものと考えられる。然しながら、納豆菌aの増殖曲線の対数期の終わりの前であっても中頃をすぎてからアルギニンを添加すると、製品完成された納豆におけるオルニチンの含有量が相当程度に増量される。

【0031】
なお、前述の納豆の通常の製造工程における納豆菌aの増殖曲線の対数期については、納豆菌aの菌数を検査しなくても、実験データの蓄積による時間経過や増殖曲線と近似的な曲線となる品温の変化として把握することができる。

【0032】
また、アルギニンの添加量については、添加量に比例して、製品完成された納豆におけるオルニチンの含有量が増量される。ただし、オルニチンの含有量が増量されすぎると、納豆の食味が低下することが確認されている。図2に示す表は、大豆100g当たりのアルギニンの添加量の納豆の食味との関係についての官能検査の結果,評価を示している。図2から明らかなように、大豆100g当たりのアルギニンの添加量が600mgを大きく超えると、あくが強くなるえぐ味が発生して納豆として慣れ親しまれている食味が維持されなくなる。

【0033】
また、アルカリ性であるアルギニン溶液bに酸を加えてpH調整を行って添加したところ、酸性になるとアルギニンからオルニチンへの変換が低下することが確認された。従って、添加するアルギニン溶液bのpH調整は、あまり必要とはならないと考えられる。

【0034】
以上、図示した形態の外に、アルギニンを水溶液以外の性状で添加することも可能である。
【実施例】
【0035】
前述の本発明に係る納豆の製造方法を実施するための形態の根拠となった実験を説明する。
【実施例】
【0036】
アルギニンの添加については、pH7に調整した50mg/mlのアルギニン溶液5mlを50g(1パック)の大豆に添加した。即ち、大豆100g当たりアルギニン500mg添加したことになる。
【実施例】
【0037】
「発酵」工程の発酵時間については、19時間に設定した。初期の0~18時間は、発酵室の温度を40℃とした。残りの1時間は、発酵室の温度を20℃まで徐々に下げた。
【実施例】
【0038】
「冷蔵」工程については、24時間5℃を維持することで行った。ただし、後述の添加(11)については、アルギニン溶液bの添加後、さらに24時間5℃を維持した。
【実施例】
【0039】
この実験によると、図3に示すように、添加時期を発酵開始である添加(1)から発酵開始後44時間(発酵は終了している)である添加(11)までに設定したところ、納豆菌aの増殖曲線の対数期の中頃をすぎた発酵開始後9時間である添加(4)から製品完成された納豆におけるオルニチンの含有量が格段に増量されることが明らかになっている。ちなみに、納豆菌aの増殖曲線の対数期の中頃に至らない添加(3)では68.6mg/100gであるのに対して、添加(4)では110.1mg/100gとなっている。そして、
納豆菌aの増殖曲線の対数期の終わり(発酵開始後11時間、12時間である添加(6),(7)付近)以降の添加時期において、製品完成された納豆におけるオルニチンの含有量が143.9mg/100gを超えてより増量されることが明らかになっている。また、このオルニチンの増量傾向は、発酵は終了している添加(11)まで継続されている。
【実施例】
【0040】
なお、図4には、添加(1)~(11)の添加時期について、アルギニンの残存率とオルニチンの変換率と尿素の変換率とが示されている。なお、各比率について「見かけの」と表題したのは、大豆のタンパク質の分解によるアルギニンの影響を考慮したためである。また、各比率について「重量比」ではなく「モル比」としたのは、「アルギニン」+「水」から「オルニチン」+「尿素」への反応から変換の比率を理解しやすくするためである。
【実施例】
【0041】
図4からは、納豆菌aの増殖曲線の誘導期,対数期では、納豆菌aがアルギニン,オルニチンを成長のために資化しているものと考えることができる。
【実施例】
【0042】
即ち、納豆菌aは、植菌されたときには胞子の状態であり、増殖曲線の誘導期から対数期に至る際に発芽して生育した栄養細胞が細胞分裂する。このとき、アルギニン,オルニチンが納豆菌aの成長のための格好の栄養分となるのである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る納豆の製造方法は、手作業による小規模な納豆製造工場から自動化された大規模な納豆製造工場まで広汎に実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
a 納豆菌
b アルギニン溶液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3