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明細書 :ストレス耐性付与組成物、ストレス耐性付与方法、ストレス耐性体内増殖方法、及びストレス評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年1月18日(2018.1.18)
発明の名称または考案の名称 ストレス耐性付与組成物、ストレス耐性付与方法、ストレス耐性体内増殖方法、及びストレス評価方法
国際特許分類 A01K  67/033       (2006.01)
FI A01K 67/033 502
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 16
出願番号 特願2017-508386 (P2017-508386)
国際出願番号 PCT/JP2016/059169
国際公開番号 WO2016/152911
国際出願日 平成28年3月23日(2016.3.23)
国際公開日 平成28年9月29日(2016.9.29)
優先権出願番号 2015059490
優先日 平成27年3月23日(2015.3.23)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】早川 洋一
出願人 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査請求 未請求
要約 昆虫類に対して耐ストレス性を付与する組成物及びその関連する用途を提供する
ストレス耐性付与組成物は、昆虫類にストレス耐性を付与するためのストレス耐性付与組成物であって、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含む。
特許請求の範囲 【請求項1】
昆虫類にストレス耐性を付与するためのストレス耐性付与組成物であって、
N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含むことを特徴とする
ストレス耐性付与組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のストレス耐性付与組成物において、
前記ストレス耐性が、温度抵抗性、薬剤抵抗性、感染抵抗性、寄生抵抗性、及び傷害抵抗性から成る群より選択される少なくとも1つの抵抗性であることを特徴とする
ストレス耐性付与組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のストレス耐性付与組成物において、
前記ストレス耐性が、抗酸化酵素の活性を制御することによって付与されることを特徴とする
ストレス耐性付与組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載のストレス耐性付与組成物において、
前記昆虫類が、アワヨトウ、ハスモンヨトウ、カイコ、キイロショウジョウバエ、ミツバチ、クワガタ、及びカブトムシから成る群より選択されることを特徴とする
ストレス耐性付与組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のストレス耐性付与組成物を前記昆虫類に導入する導入工程を含むことを特徴とする
ストレス耐性付与方法。
【請求項6】
請求項5に記載のストレス耐性付与方法において、
前記導入工程が、注射投与、経口投与、及び噴霧投与から成る群より選択される投与により導入されることを特徴とする
ストレス耐性付与方法。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のストレス耐性付与組成物として昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を、前記昆虫類の体内で増加させて、ストレス耐性を増殖させるストレス耐性体内増殖方法であって、
前記昆虫類にストレスを付加するストレス付加工程を含むことを特徴とする
ストレス耐性体内増殖方法。
【請求項8】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のストレス耐性付与組成物の含有量として前記昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量を測定する測定工程と、
前記含有量に基づいて、前記昆虫類が受けているストレスの度合いを評価する評価工程を含むことを特徴とする
ストレス評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、対象生物のストレス耐性を付与するストレス耐性付与組成物に関し、特に、昆虫類にストレス耐性を付与するためのストレス耐性付与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、商品価値の高い昆虫類が、外部から各種ストレスを受けることによって、当該昆虫類の生産性及び商品価値が低下することが問題視されている。
【0003】
例えば、西洋ミツバチ及びカイコ等のような商品を産生する昆虫類、並びに、クワガタ及びカブトムシのようなそれ自体が商品としての昆虫類は、高温(熱ストレス)に弱いことが知られている。このため、昆虫類が高気温時に輸送される際には、昆虫類の生産性や商品価値の低下を防ぐために、温度管理や生育管理に要するコストが膨大となっている一方で、その効果も限定されたものとなっており、費用対効果の低い状況となっている。また、昆虫類は、農薬や溶剤等の化学薬品に接触すること(薬剤ストレス)によっても、ダメージを受けて弱体化しやすいことも知られている。
【0004】
このようなことから、昆虫類に対して、簡易にストレス耐性を付与することが、強く望まれている。このため、従来から、昆虫類の耐ストレス機構(抗ストレス機構)に関する研究が活発に行われている。
【0005】
例えば、従来では、寄生蜂(Cotesia kariyai)に寄生されたアワヨトウ蛾幼虫の死亡率は、セラチア属細菌(Serratia marcescens)感染により著しく増加するということが知られている。セラチアの分泌するmetalloproteaselikeinsecticide (MPLI)の毒性が、当該アワヨトウ蛾幼虫の血液リンパ系及び脳のドーパミン濃度増加と脳細胞のアポトーシス増加に起因しているという知見から、MPL1 が分泌される前に、3‐ヨードチロシンをアワヨトウ蛾幼虫に注射することによって、アワヨトウ蛾幼虫のドーパミン増加及び死亡率が抑制されたことが確認されている(非特許文献1参照)。
【0006】
また、例えば、従来では、熱ストレス負荷系において、ストレス対応系を欠くクロショウジョウバエ(Drosophilavirilis)147 系は、平時は野生株(101 系)よりもDOPA、ドーパミン、オクトパミン、チロシン等の濃度が高いが、ストレス負荷で変動しないことが確認されている。また、チラミン濃度は両者で不変であり、染色体6の遺伝子変異がストレス応答性欠如に関与していたことも確認されている(非特許文献2及び3参照)。
【0007】
また、例えば、従来では、ミールワーム幼虫に各種ストレス(高温、低温、酸化等)を負荷し、全てのストレスで脳や血液中にドーパミン様の生体アミン様物質の濃度上昇が確認されている。この物質は、幼虫の死亡率に相関があり、濃度が約10 ピコモル/脳に達すると24 時間以内にほぼ全ての個体が死亡したことが確認されており、フラグメント解析の結果では、C9H11NO5、分子量213という構造が予想されていることが開示されている(非特許文献4参照)。
【0008】
また、例えば、従来では、オクトパミン(OA:チロシンの脱炭酸体)は、昆虫体内で主要なモノアミン系神経伝達物質として、ストレス負荷により、貯穀害虫コクヌストモドキ(Tribolium castaneum Herbst)虫体のOA含量は増加し、幼虫の生育が阻害されたことが確認されている。当該OA 作用性の農薬としてはクロロジメフォル(CDM)があり、これは、CDM がN-脱メチル化されたDCDM がOA アゴニストとして作用し、OA 感受性アデニレートシクラーゼ(AC)活性化、cAMP 増加を介して摂食阻害作用等を示すことが確認されている。その他、当該OA アゴニストの例として、NC-7、AC-6、及びHSO-786が知られている(非特許文献5参照)。
【0009】
しかし、昆虫類に対して耐ストレス性を付与できるような有効成分は、未だ具体的には特定されていない。そのため、昆虫類に対して耐ストレス性を付与するような組成物は、現在のところ見当たらない。また、このような組成物を利用して、昆虫類の耐ストレス性を増強させる方法や、昆虫類が受けている各種ストレスの抵抗性を評価する方法等の耐ストレス性に関連する幅広い応用も期待されているものの、未だその実現には至っていない。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】Matsumoto H, Tanaka K, Noguchi H, Hayakawa Y., Eur J Biochem, 3469-76, 270(16), 2003
【非特許文献2】Hirashima A, Sukhanova MJh, Rauschenbach IYu, Biosci Biotechnol Biochem. 2625-30, 64(12), 2000 Dec.
【非特許文献3】Hirashima A, Sukhanova MJh, Rauschenbach IYu, Biochem Genet. 167-80, 38(5-6), 2000 Jun.
【非特許文献4】科研費助成費事業DB「昆虫の新規ストレス応答機構の解明とその利用(研究課題番号:19658022)」, 2008年度 研究実績報告書
【非特許文献5】平島明法, 化学と生物, 724, 30(11), 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、昆虫類に対して耐ストレス性を付与する組成物及びその関連する用途の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、昆虫類にN-アセチルチロシン及び/又はその誘導体を投与したところ、ストレスに対する昆虫類の抵抗性が増強され、生存率が有意に増加することを見出した。これにより、当該N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含む組成物によって、昆虫類に有意な耐ストレス性が付与されることを見出すと共に、当該組成物を用いることによって、ストレス耐性を付与する各種の方法及びストレスを評価する方法も見出した。
【0013】
すなわち、本願に開示するストレス耐性付与組成物は、昆虫類にストレス耐性を付与するためのストレス耐性付与組成物であって、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含むものである。
【0014】
また、本願に開示するストレス耐性付与方法は、前記ストレス耐性付与組成物を前記昆虫類に導入する導入工程を含むものである。
【0015】
また、本願に開示するストレス耐性体内増殖方法は、前記ストレス耐性付与組成物として昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を、前記昆虫類の体内で増加させて、ストレス耐性を増殖させるストレス耐性体内増殖方法であって、前記昆虫類にストレスを付加するストレス付加工程を含むものである。
【0016】
また、本願に開示するストレス評価方法は、前記ストレス耐性付与組成物の含有量として前記昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量を測定する測定工程と、前記含有量に基づいて、前記昆虫類が受けているストレスの度合いを評価する評価工程を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第4の実施形態に係るストレス評価方法のフローチャートを示す。
【図2】N-アセチルチロシンを注射したアワヨトウ幼虫に熱を与えた後の生存率を測定した結果(a)、及び当該注射から4日後の当該生存率を測定した結果(b)を示す。
【図3】N-アセチルチロシンを注射したアワヨトウ幼虫の4時間経過後の血中抗酸化活性を測定した結果(a)、並びに、抗酸化酵素(SOD)及びカタラーゼ遺伝子をRT-PCR法で分析した結果をゲル撮影装置プリントグラフで撮影した結果(b)を示す。
【図4】N-アセチルチロシンを注射したアワヨトウ幼虫に熱を与えた後の生存率を測定した結果を比較例(PBS)の結果と共に示す。
【図5】N-アセチルチロシンを注射したカイコ幼虫に熱を与えた後の生存率を測定した結果(a)と、N-アセチルチロシンを注射した西洋ミツバチ成虫に隔離ストレスを与えた後の生存率を測定した結果(b)を、比較例(PBS)の結果と共に示す。
【図6】N-アセチルチロシンを注射したアワヨトウ幼虫に除草剤を与えた後の生存率を測定した結果について、投与から32時間後の除草剤の各投与濃度における結果(a)、及び7.4μmolの除草剤の投与後の時間経過に伴う結果(b)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
本願の第1の実施形態に係るストレス耐性付与組成物は、昆虫類にストレス耐性を付与するためのストレス耐性付与組成物であって、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含むものである。

【0019】
第1の実施形態に係るストレス耐性付与組成物は、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含むものであり、N-アセチルチロシン化合物単体の場合や、N-アセチルチロシン化合物誘導体単体の場合も対象として含まれる。このような組成物としては、以下の化学式に示すN-アセチルチロシンを基本構造に有するものであれば特に限定されない。

【0020】
【化1】
JP2016152911A1_000003t.gif

【0021】
このような組成物の一例としては、以下の化学式に示すN-アセチルチロシン、N-セチルチロシンナトリウム、N-アセチルチロシンカリウム、N-アセチルチロシンエチルエステル、及び環状ジチロシン(cyclic dityrosine)のうち1又は複数のものを選択することができる。

【0022】
【化2】
JP2016152911A1_000004t.gif

【0023】
当該ストレス耐性付与組成物には、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体以外の成分として、各種用途に応じた添加剤を添加することができる。当該組成物の形態は、用途に応じて、乾燥固体である粉末状、水やエタノールに溶解された溶液状、乳化剤の添加により乳化された乳化状等の様々な形態として構成することができる。

【0024】
ストレス耐性を付与する対象となる昆虫類とは、昆虫類であれば特に限定されるものではないが、商品価値の高い昆虫類を対象とすることが好適であり、例えば、アワヨトウ、ハスモンヨトウ、養蚕場で飼育されるカイコ、キイロショウジョウバエ、養蜂場で飼育されるミツバチ(西洋ミツバチ等)、並びに、観賞用昆虫として養殖されるクワガタ及びカブトムシから成る群より選択することができる。

【0025】
ストレス耐性とは、昆虫類が受けるストレスに対する耐性(抵抗性)であれば特に限定されるものではないが、例えば、温度抵抗性、薬剤抵抗性、感染抵抗性、寄生抵抗性、及び傷害抵抗性から成る群より選択される少なくとも1つの抵抗性を対象に挙げることができる。

【0026】
温度抵抗性としては、高温又は低温における熱ストレスに対する抵抗性や、低温における熱ストレスに対する抵抗性が挙げられる。薬剤抵抗性としては、化学的又は薬学的なストレス(例えば、除草剤や農薬などの曝露)に対する抵抗性が挙げられる。感染抵抗性としては、ウイルスや細菌による感染に対する抵抗性が挙げられる。寄生抵抗性としては、寄生虫の寄生に対する抵抗性が挙げられる。傷害抵抗性としては、外傷に対する抵抗性が挙げられる。

【0027】
第1の実施形態に係るストレス耐性付与組成物が奏するストレス耐性は、昆虫類の抗酸化酵素の活性を制御することによって付与されることが確認されている(後述の実施例参照)。第1の実施形態に係るストレス耐性付与組成物は、この抗酸化酵素の活性度合いを直接的に制御することによって、効率的に生体内で高いストレス耐性を付与することが可能となる。

【0028】
このように、本実施形態に係るストレス耐性付与組成物の優れたメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体が、生体内の組織細胞内に存在するミトコンドリアの呼吸を促進させて活性化させ、一時的に活性酸素の上昇を誘発し、抗酸化酵素の遺伝子発現上昇を誘起し、抗酸化酵素の活性化がもたらされ、体液全体の抗酸化活性が上昇し、この上昇した抗酸化活性がストレス耐性の基盤となり、結果として、生体内で高いストレス耐性が付与されるものと推察される。

【0029】
(第2の実施形態)
本願の第2の実施形態は、上述した第1の実施形態に記載したストレス耐性付与組成物を用いたストレス耐性付与方法として、当該ストレス耐性付与組成物を前記昆虫類に導入する導入工程を含むものである。

【0030】
この導入工程は、注射投与、経口投与、及び噴霧投与から成る群より選択される投与を用いて、前記昆虫類に導入することが好ましい。注射投与では、昆虫類に針注射によって、液状の前記ストレス耐性付与組成物を注射する。経口投与では、前記ストレス耐性付与組成物を餌として(或いは他の餌に混合して)昆虫類に与えて摂食させる。噴霧投与では、液状の前記ストレス耐性付与組成物を霧吹きを用いて液滴化し、昆虫類に対して噴霧する。なお、この導入工程として注射投与を用いる場合には、注射針を生体に直接刺すことから、生体にある程度の痛みを与えるものであり、この痛みによるストレスもある程度生じることとなる。この点から、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を導入する際に、生体におけるストレス状態をより低減させたほうが、得られる耐ストレス性の効果も高められることから、この導入工程では、よりストレスが少ない投与として、経口投与又は噴霧投与を行うことがより好ましい。

【0031】
この導入工程によって、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を含むストレス耐性付与組成物が、前記昆虫類の体内に容易に取り込まれることから、このストレス耐性付与組成物によって、前記昆虫類の生体内で抗酸化活性が効率的に増すこととなり、前記昆虫類に各種のストレス耐性が付与され、高温条件下や農薬散布下のような強いストレスを受ける状況下であっても、前記昆虫類の弱体化及び劣化を抑制することができる。その結果として、前記昆虫類の商品としての品質を維持することができる。

【0032】
(第3の実施形態)
本願の第3の実施形態は、上述した第1の実施形態に記載したストレス耐性付与組成物として昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体を、前記昆虫類の体内で増加させて、ストレス耐性を増殖させるストレス耐性体内増殖方法であって、前記昆虫類にストレスを付加するストレス付加工程を含むストレス耐性体内増殖方法である。

【0033】
このストレス付加工程において前記昆虫類に付加することのできるストレスとしては、例えば、温度、薬剤(薬品)、感染、寄生、及び傷害から成る群より選択することができる。このうち、取扱いの容易性から、温度(高温又は低温)を前記昆虫類に加えることが好ましく、昆虫類に温度を加えるという簡素な処理によって、前記昆虫類の弱体化及び劣化を簡易に抑制することができる。

【0034】
このように、前記昆虫類に対してストレスを加えるという簡素な処理によって、前記昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体が体内で増加されることとなり、前記昆虫類の生体内で効率的にストレス耐性を増殖させることができる。

【0035】
この昆虫類の生体内にストレス耐性を容易に増殖させることができるという優れた効果を奏するメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、上述した第1の実施形態に記載したストレス耐性付与組成物が、種々のストレスを受けた際に、生体内でストレス順応に関連するマスターコントロール的機構を作動させる内在性因子として作用することによって、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の血中濃度が上昇し、その結果としてミトコンドリアを活性化し、瞬間的に活性酸素を上昇させて、元々生体内に備わる活性酸素除去機構、すなわち、抗酸化活性機構が活性化され、体内の抗酸化活性を上昇させて、この上昇した抗酸化活性がストレス耐性の基盤となることにより得られるものと推察される。

【0036】
すなわち、N-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体が、熱ストレス耐性を付与する内在性のストレス順応性誘導因子(Stress acclimation inducer, SAI)として作用し、ホルメシス(低濃度の毒性成分を体内に導入することによって、その後の高濃度の毒性成分に対する抵抗性を上昇させる)に類似するような現象、特にホルメシスのうちミトコンドリアが関与するミトホルメシス(Mitohormesis)説に類似するような現象が生じていることが推察される。

【0037】
(第4の実施形態)
本願の第4の実施形態は、上述した第1の実施形態に記載したストレス耐性付与組成物を用いるストレス評価方法であり、このストレス耐性付与組成物の含有量として前記昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量を測定する測定工程と、前記含有量に基づいて、前記昆虫類が受けているストレスの度合いを評価する評価工程を含むものである。

【0038】
以下、本実施形態に係るストレス評価方法を、図1のフローチャートと合わせて説明する。

【0039】
(測定工程)
先ず、図1(a)に示すように、測定工程では、このストレス耐性付与組成物の含有量として前記昆虫類中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量を測定する。測定方法としては、昆虫類から血液採取などを行い、採取した血液中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量(または濃度)を測定する(S1)。

【0040】
(評価工程)
次に、評価工程では、前記測定工程で測定された前記含有量に基づいて、前記昆虫類が受けているストレスの度合いを評価する。この評価方法としては、先ず、ストレスの基準値として前記含有量の閾値を定める。この閾値としては、例えば、ストレスが無い平常時の前記昆虫類における前記含有量の平均値や、ストレスを受けてから一定時間後の前記含有量や、ストレスを受けてからの経過時間と前記含有量との組み合わせ等を用いることができる。次に、前記含有量(及び/又はストレスを受けてからの経過時間)と、この閾値との大小関係を比較する(S2)。

【0041】
前記含有量が、この閾値よりも高い場合には、ストレスが高い状態である(又は、これまで受けたストレスが高い状態であること、若しくは今後受けるストレスが高い状態であること)と評価する(S3)。また、前記含有量が、この閾値よりも高い場合には、ストレスが低い状態である(又は、これまで受けたストレスが低い状態であること、若しくは今後受けるストレスが低い状態であること)と評価する(S4)。

【0042】
この他にも、前記含有量に基づいて、昆虫類が受けているストレスを数値化して定量的に評価することも可能である。

【0043】
例えば、図1(b)に示すように、前記S1と同様の手順に従い、昆虫類から血液採取などを行い、採取した血液中のN-アセチルチロシン化合物及び/又はその誘導体の含有量(または濃度)を測定する(S1)

【0044】
その後、前記含有量に基づいて、ストレス指標値を算出する(S2’)。このストレス指標値は、前記含有量の数値をそのまま用いてもよいし、前記含有量の数値に比例する関数を用いて演算して数値化を行ってもよい。

【0045】
このように、第4の実施形態に係るストレス評価方法では、昆虫類が受けているストレスを簡易に評価または数値化することができる。この評価によって、昆虫類の置かれている状況さらには将来受け得るストレス状態も容易に把握できることとなり、昆虫類に対する適切な処置を行うことができ、商品として価値の高い昆虫類の弱体化や劣化を未然に防止することが可能となる。

【0046】
このようにストレスを簡易に評価できるという優れた効果を奏するメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、昆虫類がストレスを受けた場合に、上述した第1の実施形態に記載したストレス耐性付与組成物が、体外環境からストレスを受容したことを体内の各組織に知らしめる情報伝達因子(内在性因子)として機能する機構が存在しており、この情報伝達因子(内在性因子)の体液中の濃度が、受容するストレスの量に応じて線形的に上昇しているためと推察される。

【0047】
本発明の特徴を更に明らかにするため、以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。

【0048】
(実施例1)
アワヨトウ幼虫(平均体重0.25g)に対して、異なる濃度(1幼虫あたり2ナノモル、0.2マイクロモル、2マイクロモル、20マイクロモル、及び0モル(リン酸緩衝生理食塩水(PBS):比較例))のN-アセチルチロシンを注射して各サンプルを得た。

【0049】
注射後、アワヨトウ幼虫の成長率及び生存率は変化が無かった。注射後、さらに熱ストレスとして、43~45℃の熱を1時間与えた後のアワヨトウ幼虫の生存率を測定した結果を図2(a)に示す。図2(a)の結果から、N-アセチルチロシンの投与量が増加するほど、熱ストレスが与えられた後のアワヨトウ幼虫の生存率が高まったことが確認された。特に1幼虫あたり2ナノモルより多い投与量で顕著な効果を奏することが確認された。

【0050】
この結果のうち、特に注射から4日後の当該生存率を測定した各サンプルの結果を図2(b)に示す。図2(b)の結果から、1幼虫あたり20ナノモルの場合では、1幼虫あたり2ナノモルの場合と比較して、生存率が倍増した。このことから、特に1幼虫あたり20ナノモルより多い投与量において、さらに顕著にアワヨトウ幼虫の生存率が上昇したことが確認された。

【0051】
上記で得られた各サンプルに対して、当該注射から4時間経過後の血中抗酸化活性を測定した結果を図3(a)に示す。得られた結果から、当該注射から4時間経過後では、血液中の抗酸化活性は、注射直後の15倍近くまで増大したことから、アワヨトウ幼虫の血液中の抗酸化活性が明らかに上昇したことが確認された。

【0052】
上記で得られた各サンプルに対して、当該注射から4時間経過後の抗酸化酵素(SOD)及びカタラーゼ遺伝子をRT-PCR法で分析し、その結果をゲル撮影装置プリントグラフ(製品番号AE-6933FXCF-U、製造元:アトー株式会社)で撮影した結果を図3(b)に示す。得られた結果から、発現レベルの変動について、当該注射から4時間経過後では、抗酸化酵素(SOD)及びカタラーゼ遺伝子の発現が明らかに活性化したことが確認された。

【0053】
(実施例2)
アワヨトウ幼虫(平均体重0.25g)に対して、1幼虫あたり0.1マイクロモルのN-アセチルチロシンを注射してサンプルを得た。また、N-アセチルチロシンを投与しない比較例として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみのサンプルも得た。4時間後に熱ストレスを与えた後, 3日目の生存率の測定結果を図4に示す。得られた結果から、当該注射から4時間経過後では、比較例のPBSのみのサンプルと比較して、約2倍もの生存率が確認されたことから、N-アセチルチロシンの投与によって、高い耐ストレス性が確認された。

【0054】
(実施例3)
上記実施例2と同様に、N-アセチルチロシンをカイコ成虫に注射した。また、N-アセチルチロシンを投与しない比較例として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみのサンプルも得た。4時間後に熱ストレスを与えた後,の生存率の測定結果を図5(a)に示す。得られた結果から、比較例のPBSのみのサンプルと比較して、特に2日目以降に顕著な生存率上昇が確認されたことから、N-アセチルチロシンの投与によって、カイコ成虫に対しても高い耐ストレス性が得られることが確認された。

【0055】
(実施例4)
0.2マイクロモルのN-アセチルチロシンを西洋ミツバチ成虫に注射し、その後、西洋ミツバチ成虫の巣から隔離して虫籠に入れることによって、西洋ミツバチ成虫に隔離ストレスを与えた。その際の生存率測定の結果を図5(b)に示す。得られた結果から、隔離ストレスに対して、比較例の生理塩水を注射した西洋ミツバチ成虫では、高ストレス状態に置かれたことよって、3日目以降は生存率0%(生存無し)であったのに対して、N-アセチルチロシンを注射した西洋ミツバチ成虫は、一定の生存率を維持していたことから、西洋ミツバチに対してもN-アセチルチロシンの投与によって高い生存率が確かに付与されたことが確認された。

【0056】
なお、本実施例では、N-アセチルチロシン注射直後では、N-アセチルチロシン注射成虫は、比較例の生理塩水を注射した個体よりも平均的な生存率が一時的に低下しているが(但し、1割程度の個体は、比較例の個体より長く生存していたことは確認されている)、これは、今回N-アセチルチロシン注射直後から隔離ストレスを施したことによる、隔離ストレスの影響とN-アセチルチロシン自体の(弱い)毒性効果の影響が個体に対して同時に生じたことによるものである。これはアワヨトウやカイコによっても観察されている結果であり、N-アセチルチロシン注射によるストレス耐性増強効果は注射後最低2時間以上はストレスのない状態に置く必要がある。このような点から、N-アセチルチロシンの注射によるストレス耐性増強効果を効率的に得るためには、好ましくは、N-アセチルチロシンの注射後、数時間程度(例えば、2時間以上)試験虫を本来の巣に戻して放置することであり、この放置後に(即ち、N-アセチルチロシンの毒性によるストレスが減衰した後に)耐ストレス性の優れた効果が発揮されることが確認されたはずである。また、注射によるストレス(痛み)の影響もあることから、N-アセチルチロシンの投与に関しては、経口、噴霧、噴射、暴露等による投与がより好ましいことも確認された。

【0057】
(実施例5)
アワヨトウ幼虫に除草剤(パラコート:Paraquat)を経口投与し、アワヨトウ幼虫の血中N-アセチルチロシン濃度を測定することによってアワヨトウ幼虫が受けるストレスの度合いを評価した。得られた結果を図6(a)に示す。図6(a)は、アワヨトウ幼虫に対する除草剤の経口投与量を横軸とし、32時間後の血中N-アセチルチロシン濃度を測定した結果を縦軸に示している。得られた結果から、除草剤を経口投与されたアワヨトウ幼虫の血液中N-アセチルチロシン濃度は線形的に上昇していることから、例えば、N-アセチルチロシンの検出濃度の閾値を15pmol/μlと定めることによって、高濃度(例えば、74μmol/幼虫)の除草剤を経口投与されて高いストレス状態にあるアワヨトウ幼虫を簡易に判別でき、即ち、アワヨトウ幼虫の血液中のN-アセチルチロシン濃度を検出することによって、除草剤からアワヨトウ幼虫が受けているストレスを評価できることが確認された。

【0058】
(実施例6)
アワヨトウ幼虫に7.4μmolの除草剤(パラコート:Paraquat)を経口投与し、アワヨトウ幼虫の血中N-アセチルチロシン濃度変化を、経時的に測定することによってアワヨトウ幼虫が受けるストレスの度合いを評価した。得られた結果を図6(b)に示す。図6(b)は、アワヨトウ幼虫に対する除草剤の経口投与後(幼虫に対する吸着後)の時間(時)を横軸とし、当該各時間における血中N-アセチルチロシン濃度を測定した結果を縦軸に示している。

【0059】
得られた結果から、除草剤を経口投与されたアワヨトウ幼虫の血液中N-アセチルチロシン濃度は経時的に上昇していることから、例えば、7~8μmol程度の除草剤をアワヨトウ幼虫が暴露したと推定される時刻に基づいて、例えば、除草剤の経口投与からの16時間経過後のN-アセチルチロシンの検出濃度が10pmol/μlという閾値を定めることによって、除草剤の経口投与からの経過時間が16時間の場合におけるN-アセチルチロシン濃度を測定し、測定された濃度が当該閾値よりも高い場合には、その後も、N-アセチルチロシンの検出濃度は増加し続ける傾向を有しており、約30時間後には約2倍の強度のストレス状態となる(N-アセチルチロシン濃度が倍増する)というストレス状態を評価できることが確認された。

【0060】
さらに、例えば、7~8μmol程度の除草剤をアワヨトウ幼虫が暴露したと推定される場合に、当該アワヨトウ幼虫の血中N-アセチルチロシン濃度を測定することによって、その検出時点までのN-アセチルチロシン濃度が推定できることによって、その検出時点までに累積的にアワヨトウ幼虫が受けてきたストレス状態を評価することができることも確認された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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