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明細書 :乳酸脱水素酵素阻害剤およびそれを含有する抗てんかん剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6681072号 (P6681072)
登録日 令和2年3月25日(2020.3.25)
発行日 令和2年4月15日(2020.4.15)
発明の名称または考案の名称 乳酸脱水素酵素阻害剤およびそれを含有する抗てんかん剤
国際特許分類 A61K  31/36        (2006.01)
A61K  31/4162      (2006.01)
A61K  31/433       (2006.01)
A61K  31/4025      (2006.01)
A61K  31/506       (2006.01)
A61K  31/4178      (2006.01)
A61K  31/425       (2006.01)
A61K  31/42        (2006.01)
A61K  31/41        (2006.01)
A61K  31/427       (2006.01)
A61K  31/439       (2006.01)
A61K  31/404       (2006.01)
A61K  31/496       (2006.01)
A61K  31/422       (2006.01)
A61K  31/4155      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/08        (2006.01)
A61K  31/443       (2006.01)
FI A61K 31/36
A61K 31/4162
A61K 31/433
A61K 31/4025
A61K 31/506
A61K 31/4178
A61K 31/425
A61K 31/42
A61K 31/41
A61K 31/427
A61K 31/439
A61K 31/404
A61K 31/496
A61K 31/422
A61K 31/4155
A61P 43/00 111
A61P 25/08
A61K 31/443
請求項の数または発明の数 2
全頁数 28
出願番号 特願2016-574804 (P2016-574804)
出願日 平成28年2月9日(2016.2.9)
国際出願番号 PCT/JP2016/053764
国際公開番号 WO2016/129583
国際公開日 平成28年8月18日(2016.8.18)
優先権出願番号 2015023572
優先日 平成27年2月9日(2015.2.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成31年1月28日(2019.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】井上 剛
【氏名】佐田 渚
個別代理人の代理人 【識別番号】110001070、【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
審査官 【審査官】飯濱 翔太郎
参考文献・文献 国際公開第2014/115764(WO,A1)
米国特許出願公開第2013/0079336(US,A1)
米国特許第04209517(US,A)
特表2013-510106(JP,A)
Asian Journal of Chemistry,2010年,Vol.22, No.1,P.589-592
Bioorganic & Medicinal Chemistry,2005年,Vol.13,P.4007-4013
調査した分野 A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
式 (III) で表される化合物を含有する乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【化1】
JP0006681072B2_000016t.gif
式(III)中、
aは、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基を表し、
bは、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基またはニトロ基を表すか、Rc、RdまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
cは、水素原子またはカルボキシル基を表すか、RbまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
dは、水素原子または-X11-R11を表すか、RbまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
11はアルキレン基、-NH-CO-、-CH2-NR12-CO-または-S-を表し、
11は、置換基を有していてもよいアリール基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、またはヒドロキシアルキル基を表し、
12は、ヒドロキシアルキル基を表し、
e、RfおよびRgは、
(i)全てが水素原子を表すか、
(ii)ReおよびRfが一緒になって、=O、=NR21または=CR2122を表し、Rgが、-X31-R31、-O-X32-R32、-N(-X33-R33)(-X34-R34)または-CR353637を表し、
21はヒドロキシ基を表すか、RcまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
22は、ニトロ基、または窒素原子に結合した水素原子がアルキル基で置換されていてもよいアミノカルボニル基を表し、
31は、単結合、アルケニレン基、-CH2-O-CH2-CO-NH-、-CH2-O-CH2-CO-または-CO-を表し、
31は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい複素環式アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基、またはヒドロキシアルキル基を表し、
ただし、X31が単結合であり、R31が置換基を有していてもよい複素環式アミノ基である場合は、当該単結合は当該複素環式アミノ基の窒素原子以外の原子と結合しており、
32は、単結合または-CH2-CO-NH-を表し、
32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を表し、
33およびX34はそれぞれ独立して、単結合、アルキレン基、-CH2-CO-NH-または-SO2-を表し、
33およびR34はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、ヒドロキシルアルキル基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基またはアルキニル基を表すか、Rb、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表すか、R33およびR34はそれらが単結合であるX33およびX34を介して結合している窒素原子と共に一体となって置換基を有していてもよい複素環式アミノ基を表し、
35、R36およびR37はそれぞれ独立して、水素原子または-X31-R31を表すか、Rb、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
hは、水素原子またはハロゲン原子を表す。
ただし、式(III)で表される化合物は、
(i)RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rfが一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、またはRe・RfとRgが一体となった環状構造のいずれか一つであって、五員環、六員環、あるいはそれらの縮合環またはスピロ環であるものが形成されている化合物、あるいは
(ii)RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rfが一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、およびRe・RfとRgが一体となった環状構造のいずれも形成されていない化合物であって、Re、RfおよびRgが下記(ii-a)または(ii-b)に限定されるもの、である。
(ii-a)ReおよびRfは一緒になって=Oを表し、Rgは、下記式のいずれかの構造の、-X31-R31を表す。
【化2】
JP0006681072B2_000017t.gif
(ii-b)ReおよびRfは一緒になって=Oを表し、Rgは-N(-X33-R33)(-X34-R34)を表し、X33およびX34はどちらも単結合を表し、R33は水素原子を表し、R34は、下記式のいずれかの構造の、置換基を有するアリール基または置換基を有するヘテロアリール基を表す。
【化3】
JP0006681072B2_000018t.gif

【請求項2】
請求項1に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤を有効成分とする抗てんかん剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イソサフロール(もしくはその誘導体)を有効成分とする乳酸脱水素酵素阻害剤および抗てんかん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんは、脳の電気活動の過剰興奮によって生じる神経疾患であり、特徴的な脳波(てんかん脳波) によって診断される。その有病率は、総人口の約1%と高い。てんかんの治療法としては薬物治療が主であり、20種類以上のてんかん治療薬が臨床現場で使用されている (非特許文献1)。しかしながら、約3割のてんかん患者に対し、これら既存のてんかん治療薬が奏功しないことが知られている。このような背景により、既存薬が効かない「難治性てんかん」に対する治療薬が、現在必要とされている。
【0003】
てんかんは、過剰な神経電気興奮が原因で起きるため、その治療薬も電気活動を制御する分子を標的にするものが殆どである。具体的には、イオンチャネル、シナプス受容体、神経伝達物質トランスポーターである (非特許文献2)。一方、これらの既存薬が効かないてんかん患者の一部に対して、ケトン食療法と呼ばれる「食事療法」が効果的であることが、臨床的に知られている (非特許文献3)。最近になって、ケトン食による抗てんかん機構が次々と明らかにされている (非特許文献4~6)。すなわち、エネルギー代謝経路に作用する薬ができれば、難治性てんかん治療薬として有望である。
【0004】
抗てんかん薬の一つに、スチリペントール(CAS: 49763-96-4, 4-ジメチル-1-[(3,4-メチレンジオキシ)-フェニル]-1-ペンテン-3-オール, 下記式(I)参照) がある。スチリペントールは最初、脳疾患薬として開発され (特許文献1)、その後難治性てんかんの一つであるDravet 症候群 (小児てんかんの一つ) に効くことが明らかにされた (非特許文献7,8)。現在、Dravet症候群の治療薬として、ヨーロッパ (2007年承認) と日本 (2012年承認) で、ディアコミットという商品名で臨床使用されている。しかしながら、Dravet症候群には成功したものの、それ以外のてんかん (特に成人てんかん) に対して、スチリペントールは臨床試験で成功していないのが現状である (非特許文献9)。
【0005】
最近、スチリペントールが、乳酸脱水素酵素 (lactate dehydrogenase; LDH) の阻害剤であることが報告されている (特許文献2)。乳酸脱水素酵素とは、「エネルギー代謝経路上」に存在し、乳酸とピルビン酸を相互変換する「代謝酵素」である。乳酸脱水素酵素阻害剤自体は、これまで、主に抗マラリア薬開発 (非特許文献10,11)、および抗ガン剤開発 (非特許文献12,13) を目的として作られてきた。しかしながら、これらの乳酸脱水素酵素阻害剤が、抗てんかん作用を持つかどうかは不明である。すなわち、現段階において、スチリペントールは「乳酸脱水素酵素阻害作用」を持つ唯一の「抗てんかん剤」である。
【0006】
【化1】
JP0006681072B2_000002t.gif

【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】米国特許3910959
【特許文献2】国際公開WO2014/115764
【0008】

【非特許文献1】Sirven et al, Mayo Clin Proc 87: 879-889, 2012
【非特許文献2】Meldrum et al, Neurotherapeutics 4: 18-61, 2007
【非特許文献3】Neal et al, Lancet Neurol 7: 500-506, 2008
【非特許文献4】Ma et al, J Neurosci 27: 3618-3625, 2007
【非特許文献5】Juge et al, Neuron 68: 99-112, 2010
【非特許文献6】Masino et al, J Clin Invest 121: 2679-2683, 2011
【非特許文献7】Perez et al, Epilepsia 40: 1618-1626, 1999
【非特許文献8】Chiron et al, Lancet 356: 1638-1642, 2000
【非特許文献9】Chiron, Neurotherapeutics 4: 123-125, 2007
【非特許文献10】Deck et al, J Med Chem 41: 3879-3887, 1998
【非特許文献11】Cameron et al, J Biol Chem 279: 31429-31439, 2004
【非特許文献12】Granchi et al, J Med Chem 54: 1599-1612, 2011
【非特許文献13】Farabegoli et al, Eur J Pharm Sci 47: 729-738, 2012
【非特許文献14】Aboul-Enein et al, Eur J Med Chem 47: 360-369, 2012
【非特許文献15】Riban et al, Neuroscience 112: 101-111, 2002
【非特許文献16】Houser, Brain Res 535: 195-204, 1990
【非特許文献17】Shen et al, Epilepsy Res 7: 40-48, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スチリペントールは、芳香族アリルアルコール構造を有しており、従来の抗てんかん薬にはない化学構造を持つ (特許文献1)。しかも、「乳酸脱水酵素阻害作用を持つ抗てんかん剤」として、唯一の化合物である (特許文献2)。代謝経路 (代謝酵素) に作用する抗てんかん剤は、難治性てんかん治療薬として有望である。しかしながら、スチリペントールは、一部の小児難治性てんかん (Dravet 症候群) には効くものの、それ以外の難治性てんかんには使用されていない。すなわち、乳酸脱水素酵素阻害活性を維持し、スチリペントールの化学構造を改変することで、スチリペントールが効かない難治性てんかんにも効く「抗てんかん剤」が開発可能であると期待される。そして、このような抗てんかん剤は、産業的利用価値が非常に高い。
【0010】
しかしながら、どのように化学構造を改変すれば、スチリペントールが効かない難治性てんかんに効くようになるかは、現在の技術レベルで想定するのは容易ではない。そこで本発明では、「乳酸脱水素酵素阻害作用」を持ち、スチリペントールが効かない難治性てんかんにも効く抗てんかん剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、スチリペントール (芳香族アリルアルコール) を特徴づける“3位のヒドロキシ基”(特許文献1) や従来技術で報告されている“3位の官能基群”(非特許文献14) が、むしろ不必要という仮説を立てた。そこで、スチリペントールの3位からヒドロキシ基と3級ブチル基を除いた物質であるイソサフロール (CAS: 120-58-1, 5-(1-プロペニル)-1,3-ベンゾジオキソール, 下記式(II)参照) に着目した。本発明者らは今回、このイソサフロールが乳酸脱水素酵素の阻害作用を持つことを明らかにした。さらに、スチリペントールとは化学構造が全く異なる「イソサフロールを母核構造に持つ乳酸脱水素酵素の阻害剤」を数多く同定した。しかも、スチリペントールでは抑えることができない成人難治性てんかん (海馬硬化症に伴う内側側頭葉てんかん) を、イソサフロール等の乳酸脱水素酵素の阻害剤が顕著に抑えることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
【化2】
JP0006681072B2_000003t.gif

【0013】
本発明は、一つの側面において、以下の発明を提供するものである。
【0014】
[1]
式 (III) で表される化合物を含有する乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【0015】
【化3】
JP0006681072B2_000004t.gif

【0016】
式(III)中、
aは、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基を表し、
bは、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基またはニトロ基を表すか、Rc、RdまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
cは、水素原子またはカルボキシル基を表すか、Rb、Re・RfまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
dは、水素原子または-X11-R11を表すか、RbまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
11はアルキレン基、-NH-CO-、-CH2-NR12-CO-または-S-を表し、
11は、置換基を有していてもよいアリール基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、またはヒドロキシアルキル基を表し、
12は、ヒドロキシアルキル基を表し、
e、RfおよびRgは、
(i)全てが水素原子を表すか、
(ii)ReおよびRfが一緒になって、=O、=NR21または=CR2122を表し、Rgは、水素原子、-X31-R31、-O-X32-R32、-N(-X33-R33)(-X34-R34)、-CR353637を表し、
21はヒドロキシ基を表すか、RcまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
22は、ニトロ基、または窒素原子に結合した水素原子がアルキル基で置換されていてもよいアミノカルボニル基を表し、
31は、単結合、アルケニレン基、-CH2-O-CH2-CO-NH-、-CH2-O-CH2-CO-または-CO-を表し、
31は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい複素環式アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基、またはヒドロキシアルキル基を表し、
ただし、X31が単結合であり、R31が置換基を有していてもよい複素環式アミノ基である場合は、当該単結合は当該複素環式アミノ基の窒素原子以外の原子と結合しており、
32は、単結合または-CH2-CO-NH-を表し、
32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を表し、
33およびX34はそれぞれ独立して、単結合、アルキレン基、-CH2-CO-NH-または-SO2-を表し、
33およびR34はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、ヒドロキシルアルキル基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基またはアルキニル基を表すか、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表すか、R33およびR34はそれらが単結合であるX33およびX34を介して結合している窒素原子と共に一体となって置換基を有していてもよい複素環式アミノ基を表し、
35、R36およびR37はそれぞれ独立して、水素原子または-X31-R31を表すか、、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表し、
hは、水素原子またはハロゲン原子を表す、
ただし、RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rfが一体となった環状構造、RcとRgが一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、Re・RfとRgが一体となった環状構造は、多くとも1つだけしか、式(III)中に形成されない。
【0017】
[2]
前記式(III)で表される化合物が、Rc、Rd、Re、Rf、Rgのすべてが水素原子である化合物である、[1]に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【0018】
[3]
前記式 (III) で表される化合物が、下記式(II)で表されるイソサフロールである、[1]に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【0019】
【化4】
JP0006681072B2_000005t.gif

【0020】
[4]
前記式(III)で表される化合物が、RbとRcが一体となった前記環状構造、RbとRdが一体となった前記環状構造、RbとRgが一体となった前記環状構造、RcとRe・Rfが一体となった前記環状構造、RcとRgが一体となった前記環状構造、RdとRgが一体となった前記環状構造、およびRe・RfとRgが一体となった前記環状構造のいずれも形成されていない化合物である、[1]に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【0021】
[5]
式(III)で表される化合物が、RbとRcが一体となった前記環状構造、RbとRdが一体となった前記環状構造、RbとRgが一体となった前記環状構造、RcとRe・Rfが一体となった前記環状構造、RcとRgが一体となった前記環状構造、RdとRgが一体となった前記環状構造、およびRe・RfとRgが一体となった前記環状構造のいずれか一つが形成されている化合物である、[1]に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤。
【0022】
[6]
[1]~[5]のいずれか一項に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤を有効成分とする抗てんかん剤。
【発明の効果】
【0023】
スチリペントールは、「乳酸脱水酵素阻害作用」を持つ唯一の「抗てんかん剤」である (特許文献1,2)。しかし、スチリペントールは、一部の小児難治性てんかん (Dravet 症候群) にしか、臨床的に有効でない。我々は、第二の「乳酸脱水素酵素阻害作用」を持つ「抗てんかん剤」として、新たにイソサフロールを見出した。これは、スチリペントールが効かない難治性てんかん(成人難治性てんかんである内側側頭葉てんかん)を劇的に抑制した。さらに、イソサフロールを母核構造に持つ、数多くの乳酸脱水素酵素の阻害剤も見出した。すなわち、イソサフロールおよびイソサフロールの誘導体は、てんかん治療薬として産業利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】海馬硬化症モデルマウス (実施例参照)。A:海馬硬化症モデルマウスの作製法。B:正常な海馬 (左) と海馬硬化症を呈する海馬 (右) の形態。白矢印は記録電極の跡を示す。C:海馬硬化症モデルマウスから記録されるてんかん波 (矢尻)。
【図2】海馬硬化症モデルマウスのてんかん波に対するスチリペントールとイソサフロールの作用 (実施例参照)。A:スチリペントールの化学構造 (A1) と、てんかん波に対するスチリペントールの作用 (A2)。B:イソサフロールの化学構造 (B1) と、てんかん波に対するイソサフロールの作用 (B2)。スチリペントールによる抑制作用はほとんど観察されないが、イソサフロールは顕著なてんかん抑制作用を示す。
【図3】海馬硬化症モデルマウスのてんかん波に対する、オキサミド酸ナトリウム、スチリペントール、イソサフロールの抑制作用に関する集計データ (実施例参照)。
【図4】乳酸脱水素酵素 (LDH-1, LDH-5) の酵素活性に対する、イソサフロールの阻害作用 (実施例参照)。イソサフロールが存在しなかった場合の酵素活性(コントロール値)を 100% とした。すなわち、0% は乳酸脱水素酵素が完全に阻害されていることを示す。
【図5】乳酸脱水素酵素 (LDH-5) の酵素活性に対する、イソサフロールの阻害作用に関する濃度依存性データ (実施例参照)。イソサフロールの構造式を上段に示す。グラフの縦軸は阻害率 (% Inhibition) であり、100% は乳酸脱水素酵素が完全に阻害されており、0% は全く阻害されていないことを示す。阻害率の算出は、実施例を参照。イソサフロールは、乳酸脱水素酵素を500 μM では阻害するが、250 μM では阻害しない。
【図6】イソサフロールより乳酸脱水素酵素の阻害作用が強い、イソサフロールを母核構造に持つ化合物 (実施例参照)。250 μM以下で阻害率 (% Inhibition) が 100% (±25%) を示す化合物を示している。
【図7】図6で示したイソサフロールを母核構造に持つ化合物に関する、乳酸脱水素酵素を阻害した濃度 (μM) とその阻害率 (% Inhibition) (実施例参照)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、以下の (a)に記載の乳酸脱水素酵素阻害剤、およびそれを有効成分とする (b) に記載の医薬品を提供する。

【0026】
(a) イソサフロールまたはイソサフロールを母核構造として有する化合物(本明細書において「イソサフロール類縁体」と呼ぶこともある。)を含有する乳酸脱水素酵素の阻害剤。

【0027】
(b) (a) に記載の乳酸脱水素酵素の阻害剤を有効成分とする抗てんかん剤。

【0028】
【化5】
JP0006681072B2_000006t.gif

【0029】
イソサフロールは、式 (II) で示すように、芳香環である1,3-ベンゾジオキソールの5位に、1-プロペニル基が付いた化学構造を持つ。なお、イソサフロールを表す式(II)は、式(III)においてRa、Rb、Rc、Rd、Re、Rf、Rg、Rhのすべてが水素原子で表される場合に相当する。

【0030】
一方、イソサフロールを母核構造として有する化合物(イソサフロール類縁体)としては、例えばプロペニル基を改変したものや、芳香環である1,3-ベンゾジオキソールに官能基を付けたものが挙げられる。しかしながら、イソサフロールを母核構造として有する化合物で、乳酸脱水素酵素阻害作用を持つものであれば特に限定されるものではなく、抗てんかん剤として用いることができる。

【0031】
イソサフロールおよびイソサフロール類縁体は、式 (III) で表すことのできる化合物である。式(III)で表される化合物にはいくつかの立体異性体が存在する場合があるが、どの立体異性体も包含される。本発明では、乳酸脱水素酵素の阻害剤として、さらに抗てんかん剤の有効成分として、複数の立体異性体の混合物(ラセミ体)を用いても、いずれかの立体異性体の精製物を用いてよい。ラセミ体および各立体異性体のいずれを用いるべきかは、必要に応じて各立体異性体の有効性を試験したり、精製コストを勘案したりしながら、当業者であれば適切に判断することができる。

【0032】
【化6】
JP0006681072B2_000007t.gif

【0033】
式(III)に含まれる記号の定義は次の通りである。ある記号の定義において用いられた用語(例えば、Raにおけるハロゲン原子)の具体例およびその他の説明は、他の記号の定義において用いられた同一の用語(例えば、Rbにおけるハロゲン原子)についても同様に当てはまる。

【0034】
aは、水素原子、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基(-OR)を表す。

【0035】
ハロゲン原子の例としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが挙げられる。

【0036】
アルコキシ基の例としては、メトキシ基(-OCH3)、エトキシ基(-OC25)など、炭素数が1~4程度の低級アルコールに由来する基が挙げられる。アルコキシ基は、一部または全部の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよいし、全く置換されていなくてもよい。アルコキシ基中のアルキル基の部分は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。

【0037】
bは、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基またはニトロ基(-NO2)を表すか、Rc、RdまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表す。

【0038】
cは、水素原子またはカルボキシル基(-COOH)を表すか、Rb、Re・RfまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表す。

【0039】
カルボキシル基は、カルボキシラートアニオン(-COO-)の状態であってもよい。

【0040】
dは、水素原子または-X11-R11を表すか、RbまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表す。

【0041】
11はアルキレン基、-NH-CO-、-CH2-NR12-CO-または—S-を表す。

【0042】
アルキレン基の例としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-C25-)など、炭素数が1~6程度の低級アルキル基に由来する2価の基が挙げられる。

【0043】
11は、置換基を有していてもよいアリール基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、またはヒドロキシアルキル基を表す。

【0044】
アリール基の例としては、フェニル基(-C65)、ナフチル基(-C109)が挙げられる。

【0045】
アリール基が有する置換基の例としては、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基、ヒドロキシ基、チオアルコキシ基(-SR)、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基などが挙げられる。置換基の個数および置換基が導入される部位は任意であり、置換基の性質によって適宜選択することができる。

【0046】
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基など、炭素数が1~6程度の低級アルキル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状(n-アルキル基)でも、分岐鎖状(i-、sec-、tert-アルキル基)でもよい。アルキル基は、一部または全部の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよいし、全く置換されていなくてもよい。

【0047】
ヒドロキシアルキル基の例としては、オキシメチル基(-CH2OH)、オキシエチル基(-C25OH)など、炭素数が1~4程度の低級アルコールに由来する基が挙げられる。ヒドロキシアルキル基中のアルキル基の部分は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。ヒドロキシアルキル基中のヒドロキシ基の個数および部位は任意である。

【0048】
12は、ヒドロキシアルキル基を表す。

【0049】
eおよびRfは、それぞれが単独で、互いに独立して、水素原子、ヒドロキシ基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を表すか、一緒になって、=O、=NR21、=CR2122を表す。

【0050】
21はヒドロキシ基を表すか、RcまたはRgと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表す。

【0051】
22は、ニトロ基、または窒素原子に結合した2つの水素原子が互いに独立してアルキル基で置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。

【0052】
gは、水素原子、-X31-R31、-O-X32-R32、-N(-X33-R33)(-X34-R34)、-CR353637を表す。

【0053】
31は、単結合、アルケニレン基、-CH2-O-CH2-CO-NH-、-CH2-O-CH2-CO-または-CO-を表す。

【0054】
アルケニレン基の例としては、1-プロペニレン基(-CH=CH-CH2-)、2-プロペニレン基(-CH-CH=CH2-)など、炭素数が2~6程度の低級アルケニル基に由来する2価の基が挙げられる。炭素-炭素二重結合の数および位置は任意である。

【0055】
31は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよい複素環式アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシ基、またはヒドロキシアルキル基を表す。
ただし、X31が単結合であり、R31が置換基を有していてもよい複素環式アミノ基である場合は、当該単結合は当該複素環式アミノ基の窒素原子以外の原子と結合している(この規定は、-X31-R31が、後述するような「R33およびR34はそれらが単結合であるX33およびX34を介して結合している窒素原子と共に一体となって置換基を有していてもよい複素環式アミノ基を表す」場合の-N(-X33-R33)(-X34-R34)と重複することを避けるためのものである)。

【0056】
ヘテロアリール基の例としては、ピリジル基(-C55N)、ピラジニル基(-C432)、トリアジニル基(-C323)、テトラジニル基(-C2HN4)、ピロリル基(-C44N)、チエニル基(-C43S)、フラニル基(-C43O)、1,3-ベンゾジオキソール基、化合物No.26が有する基、化合物No.34が有する基が挙げられる。ヘテロアリール基が有する置換基の例、個数および位置については、前述したアリール基が有する置換基と同様のことがいえる。

【0057】
シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など、炭素数が1~6程度のものが挙げられる。シクロアルキル基が有する置換基の例、個数および位置については、前述したアリール基が有する置換基と同様のことがいえる。

【0058】
複素環式アミノ基の例としては、ピロリジニル基(-C48N)、ピペリジニル基(-C510N)、ピペラジニル基(-C492)、化合物No.70が有する基(図6-10参照)が挙げられる。複素環式アミノ基が有していてもよい置換基の例、個数および位置については、前述したアリール基が有する置換基と同様のことがいえる。例えば、複素環式アミノ基がピペラジニル基の場合、その置換基の例としては、置換基(ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基等)を有していてもよいフェニル基が挙げられる。

【0059】
32は、単結合または-CH2-CO-NH-を表す。

【0060】
32は、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を表す。

【0061】
33およびX34はそれぞれ独立して、単結合、アルキレン基、-CH2-CO-NH-または-SO2-を表す。

【0062】
33およびR34はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、ヒドロキシルアルキル基、カルボキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基またはアルキニル基を表すか、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表すか、R33およびR34はそれらが単結合であるX33およびX34を介して結合している窒素原子と共に一体となって置換基を有していてもよい複素環式アミノ基を表す。

【0063】
アルキニル基の例としては、2,3-プロピニル基(-CH2-C≡CH)など、炭素数が2~6程度の低級アルキニル基が挙げられる。炭素-炭素三重結合の数および位置は任意である。

【0064】
-N(-X33-R33)(-X34-R34)で表されるRgが、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって環状構造を形成する基を表す場合、-X33-R33または-X34-R34の一方がRb、Rc、RdまたはRe・Rfと連結して環状構造を形成し、もう一方(特に水素原子以外)はその環状構造に含まれるNに結合した置換基に相当するような形態であってもよいし(化合物No.57:図6-8および化合物No.91:図6-13参照)、-X33-R33および-X34-R34が一緒にRb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって環状構造を形成するような形態であってもよい(化合物No.55:図6-7参照、R33およびR34に由来する二重結合を含む)。

【0065】
35、R36およびR37はそれぞれ独立して、水素原子または-X31-R31を表すか、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって置換基を有していてもよい環状構造を形成する基を表す。

【0066】
-CR353637で表されるRgが、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって環状構造を形成する基を表す場合、R35、R36およびR37から選ばれる1つまたは2つがRb、Rc、RdまたはRe・Rfと連結して環状構造を形成し、残る基(特に水素原子以外)はその環状構造に含まれるCに結合した置換基に相当するような形態であってもよい(化合物No.54:図6-7参照、R35およびR36に由来する二重結合と、R37に由来する置換基を含む。化合物No.59および60:図6-8参照、R35およびR36それぞれに由来するキヌクリジン構造内の2本の結合を含む)。また、同じく-CR353637で表されるRgが、Rb、Rc、RdまたはRe・Rfと一体となって、縮合環のような環状構造を形成する基を表す場合、R35、R36およびR37から選ばれる1つまたは2つが上述したようにRb、Rc、RdまたはRe・Rfと連結して環状構造の一部(縮合環の一方)を形成し、残る基がその環状構造の骨格を形成する原子の一つに連結して環状構造のさらなる一部(縮合環の他方)を形成する基を表してもよい(化合物No.61-65:図6-9参照)。

【0067】
hは、水素原子またはハロゲン原子を表す。

【0068】
ただし、RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rf(=NR21または=CR2122のR21)が一体となった環状構造、RcとRg(-N(-X33-R33)(-X34-R34)のR33またはR34、あるいは-CR353637のR35、R36またはR37)が一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、Re・RfとRgが一体となった環状構造は、多くとも1つだけしか、式(III)中に形成されない。つまり、例えば、RbとRcが一体となった環状構造と、RbとRdが一体となった環状構造が同時に形成されることはなく、前者が形成される場合は、Rdは水素原子または-X11-R11を表す(Rbと一体となって環状構造を形成する基は表さない)ことになる。

【0069】
また、Rgが水素原子のときは、ReおよびRfも水素原子に限る。つまり、Rgが水素原子であるという規定は、式(III)で表される化合物に、Re、RfおよびRgすべてが水素原子であるイソサフロールおよびその誘導体を包含するためのものであり、式(III)で表される化合物には、Reがヒドロキシ基、Rfがアルキル基(t-ブチル基)、Rgが水素原子という組み合わせによるスチリペントールは包含されない。

【0070】
式(III)で表される化合物の具体例としては、図6-1~6-13の掲載した化合物(No. 1~94)が挙げられる。このうち、所定の環状構造(環bc、環bd、環bg、環cef、環cg、環dgまたは環efg)を有する化合物はNo. 44~94であり(下記の対応表参照)、環状構造を有さない化合物はNo. 1~43である。化合物No. 1~94およびその他の式(III)で表される化合物はいずれも、当業者であれば、入手したり、公知の手法にしたがって合成したりすることができる。

【0071】
【表1】
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【0072】
本発明における好ましい実施形態の一つとして、イソサフロール本来の構造に近い、Re、Rf、Rgのすべてが水素原子である、さらにはRcおよびRdも水素原子である、イソサフロールまたはその類縁体が挙げられる。つまり、式(III)中のプロペニル基の3位の炭素原子、さらには1位および2位の炭素原子は修飾されておらず、1,3-ベンゾジオキソールの部分のみ修飾されていてもよい(Ra、Rb、Rhが水素原子以外であってもよい)化合物が好ましい。

【0073】
本発明における好ましい実施形態の一つとして、ReおよびRfが一緒になって、=O、=NR21または=CR2122を表し、Rgが、-X31-R31、-O-X32-R32、-N(-X33-R33)(-X34-R34)または-CR353637を表している実施形態が好ましく、なかでも多くの化合物が属する、ReおよびRfが一緒になって=Oを表している実施形態が特に好ましい。

【0074】
本発明における好ましい実施形態の一つとして、式(III)において、RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rfが一体となった環状構造、RcとRgが一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、Re・RfとRgが一体となった環状構造、いずれも形成されていないイソサフロール類縁体が挙げられる。このようなイソサフロール類縁体の具体例は、イソサフロールおよび化合物No.1~44である。

【0075】
本発明における好ましい実施形態の一つとして、式(III)において、RbとRcが一体となった環状構造、RbとRdが一体となった環状構造、RbとRgが一体となった環状構造、RcとRe・Rfが一体となった環状構造、RcとRgが一体となった環状構造、RdとRgが一体となった環状構造、Re・RfとRgが一体となった環状構造、いずれかが形成されているイソサフロール類縁体が挙げられる。

【0076】
bとRcが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-bc)のように記載することもできる。式(III-bc)中、本来Rbが結合していた1,3-ベンゾジオキソール上の炭素原子と本来Rcが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rbcは、RbおよびRcが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環bc)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0077】
【化7】
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【0078】
bとRdが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-bd)のように記載することもできる。式(III-bd)中、本来Rbが結合していた1,3-ベンゾジオキソール上の炭素原子と本来Rdが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rbdは、RbおよびRdが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環bd)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0079】
【化8】
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【0080】
bとRgが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-bg)のように記載することもできる。式(III-bg)中、本来Rbが結合していた1,3-ベンゾジオキソール上の炭素原子と本来Rgが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rbgは、RbおよびRgが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環bg)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0081】
【化9】
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【0082】
cとRe・Rfが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-cef)のように記載することもできる。式(III-cef)中、本来RcおよびRgが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rcefは、RcおよびRe・Rfが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環cef)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0083】
【化10】
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【0084】
cとRgが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-cg)のように記載することもできる。式(III-cg)中、本来RcおよびRgが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rcgは、RcおよびRgが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環cg)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0085】
【化11】
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【0086】
dとRgが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-dg)のように記載することもできる。式(III-dg)中、本来RdおよびRgが結合していたプロペニル基上の炭素原子のそれぞれに点線で結ばれている基Rdgは、RdおよびRgが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環dg)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0087】
【化12】
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【0088】
e・RfとRgが環状構造を形成する場合、式(III)は下記式(III-efg)のように記載することもできる。式(III-efg)中、本来Re・RfおよびRgが結合していたプロペニル基上の同一の炭素原子に点線で結ばれている基Refgは、Re・RfおよびRgが一体となって置換基を有していてもよい環状構造(環efg)を形成している基を表し、その他の記号の定義は式(III)と同様である。

【0089】
【化13】
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【0090】
bc、Rbd、Rbg、Rcef、Rcg、Rdg、Refgはそれぞれ、環bc、環bd、環bg、環cef、環cg、環dg、環efgの骨格の一部を形成する原子として、炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を少なくとも1個含む。各環(環状構造)は、好ましくは、五員環、六員環、七員環、あるいはそれらの縮合環(化合物No. 59, 60:図6-8(キヌクリジン構造)、化合物61-65, 66-68:図6-9、化合物86, 87:図6-12参照)またはスピロ環(化合物No. 94:図6-13参照)である。環状構造の骨格をなす原子同士は、単結合、二重結合または三重結合のいずれで結合していてもよく、環状構造は芳香族性であっても非芳香族性であってもよい。

【0091】
環状構造の骨格をなす各原子には、水素原子またはハロゲン原子が結合していてもよいし、置換基が結合していてもよい。環状構造が有する置換基としては、例えば前述したアリール基の置換基として例示した置換基、二重結合で結合した酸素原子または窒素原子(化合物No.48-52:図6-6および6-7参照)、その他の比較的大きな置換基(例えば、化合物No.45-47, 58のR1として表されている基:図6-6、化合物No.48-52のR4として表されている基:図6-6~6-7、化合物No.55に表されている基:図6-7、化合物No.58に表されている基:図6-8、化合物No. 61, 64のR3として表されている基:図6-9参照)が結合していてもよい。そのような置換基に相当する部分(枝分かれ部分)もRbc、Rbd、Rbg、Rcef、Rcg、Rdg、Refgそれぞれが表す基の一部に含まれる。

【0092】
本発明の医薬品の対象となるてんかんの種類は、てんかんであれば特に限定されるものではない。実施例では、その一例として、成人の難治性てんかんである「海馬硬化症に伴う内側側頭葉てんかん」に対して、優れた抗てんかん作用を有することを示している。

【0093】
医薬品は通常、医薬組成物として調整される。本発明の医薬品は、有効成分に加え、必要に応じてその他の薬剤もしくは機能性化合物を含有してもよい。たとえば、有効成分の体内動態を改善する他の化合物を含んだ医薬品等が考えられる。また、医薬品を調整するために必要な賦形剤、希釈剤、添加剤等を含有してもよい。

【0094】
医薬品の剤形、投与方法は特に限定されるものでなく、医薬品の用途に応じて適切なものとすればよい。投与方法としては、経口剤や注射剤等が例として挙げられる。経口剤であれば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、ドライシロップ等から選択することが可能である。また、注射剤であれば、任意の希釈剤 (生理食塩水やブドウ糖液等) で溶解した製剤が考えられる。

【0095】
本発明の医薬品は、目的、投与対象 (患者) の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、投与経路等を考慮しながら、適切な有効成分量および回数で投与すればよい。医師や薬剤師等の当業者であれば、各患者の状態を踏まえ、投与量を決定することができる。
【実施例】
【0096】
方法
海馬硬化症モデルマウスの作製と測定 (図1~図3):海馬硬化症モデルマウスの作製は、過去の文献に従って行った (非特許文献15)。6-7週令のICRマウスを実験に用いた。マウスをケタミン (100 mg/kg) とキシラジン (20 mg/kg) 混合液によって十分に麻酔をかけた後、脳定位固定装置にセットした。頭部の海馬上方から微小ガラス電極とハミルトンシリンジを用いて、てんかん誘発のために微量のカイニン酸 (0.8 nmol, 40 nL) を背側海馬(ブレグマの後方に 1.6 mm, 中心線から側方に 1.6 mm, 脳表面から深さ 1.4 mm)に注入し、次にてんかん脳波記録のための金属電極(200 μm径)をカイニン酸注入部位付近に埋め込んだ。さらに、in vivo 電気測定に必要な頭部固定のために、小型のプラスチック製U字枠も頭部に取り付けた。手術から2週間以上経過後、海馬におけるてんかん波を測定した。頭部は、U字枠を介して固定し、てんかん波は増幅され、バンドパスフィルター (0.5-30 Hz) を介して測定し、ADコンバータを用いてコンピュータに取り込んだ。ベースライン脳波を30分間測定後、スチリペントール (300 mg/kg)、イソサフロール (100-300 mg/kg)、オキサミド酸ナトリウム (250-500 mg/kg)、もしくは生理食塩水を腹腔内投与し、1時間記録した。オキサミド酸ナトリウムは水に溶かし、スチリペントールとイソサフロールはカルボキシルメチルセルロースナトリウム (1%) に溶かして腹腔内投与した。データ解析において、0.5 mV 以上の振幅を持つ高振幅のてんかん波を投与前30分間と投与後30分間でそれぞれカウントし、投与前のてんかん波の数で規格化することにより薬効を評価した。海馬硬化症による形態変化の観察では、脳を 300 μmでスライスした後、10% ホルマリンで固定し、0.05% のクレシルバイオレットで染色した。
【実施例】
【0097】
イソサフロールによる乳酸脱水素酵素の阻害評価 (図4):乳酸脱水素酵素の活性は、NADHの光吸収に基づく汎用的手法により測定した。乳酸脱水素酵素は、ピルビン酸と乳酸を相互変換する酵素である。その際、NADHとNADも相互変換する。乳酸からピルビン酸への乳酸脱水素酵素活性では、乳酸 (20 mM) とNAD (200 μM) と乳酸脱水素酵素を加え、生成される NADH の反応速度を測定した。一方、ピルビン酸から乳酸への乳酸脱水素酵素活性では、ピルビン酸 (1.0 mM) とNADH (200 μM) と乳酸脱水素酵素を加え、減少する NADH の反応速度を測定した。両反応ともに、100 mM のリン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.3) で 37℃ の条件下で行い、NADH が持つ 340 nm の光吸収に関して吸光光度計を用いて 30秒間隔で3.5分間測定することにより、反応速度を求めた。乳酸脱水素酵素として、2種類のヒト乳酸脱水素酵素(human LDH-1, LDH-5)で検討した。乳酸脱水素酵素量は、2つの乳酸脱水素酵素の最大速度がほぼ同じになるように設定し、乳酸→ピルビン酸の活性に関しては LDH-1 が 0.0033 units/ml でLDH-5 が 0.01 units/ml、ピルビン酸→乳酸の活性に関しては LDH-1 が 0.0017 units/ml で LDH-5 が 0.0033 units/ml とした。 これらの酵素反応系に対し、イソサフロール (500 μM) を加えることにより、乳酸脱水素酵素の阻害作用を検討した。
【実施例】
【0098】
イソサフロールを母核構造に持つ乳酸脱水素酵素阻害剤の同定 (図5~図7):NADH の吸光は紫外領域 (340 nm) であり、その波長を吸収する化合物は多いため、化合物ライブラリを用いたスクリーニングには適していない。そこで、ピルビン酸から乳酸への乳酸脱水素酵素活性を評価するために、まずはピルビン酸 (100 μM)、NADH (100 μM) と乳酸脱水素酵素 (human LDH-5, 0.015 U/mL) を加え、100 mM のリン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.3) 中で 37℃ 条件下で60分間反応させた (LDH酵素反応, 200 μL/well)。この段階でまず、バックグラウンドの 492 nm の吸光度をプレートリーダーで測定した (発色反応前の吸光度)。次に、LDH酵素反応で残った NADH 量を測定するために、diaphorase (25 U/mL) と INT (5 mM) を溶かした発色溶液を 100 μL/well 加え、100 mM のリン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.3) 中で 37℃ 条件下で10分間反応させた (発色反応)。INT は NADH 存在下、diaphorase により INT formazan に変化して発色するため、INT formazan が持つ 492 nm の吸光度をプレートリーダーで測定した (発色反応後の吸光度)。各化合物自身が有する吸光の影響を排除するため、発色反応後の吸光度から発色反応前の吸光度を減じた値を「吸光度変化値 (ΔA)」として計算し、ΔAから阻害率を計算した。
【実施例】
【0099】
阻害率 (% Inhibition) の計算は、以下の通りである。乳酸脱水素酵素が存在する条件下で上記反応を行ったときのΔAを「0%コントロール値」、乳酸脱水素酵素が無い条件で上記反応を行ったときのΔAを「100%コントロール値」とした。0%コントロール条件下では、LDH酵素反応により残ったNADHが少ないため低いΔAを示すが、100%コントロール条件下ではLDH酵素反応が起こらないため高いΔAを示す。そして、イソサフロールを母核構造に持つ化合物が存在する状況下で 0%コントロールと同じ反応を行い、そのΔAを「化合物存在下でのΔA」とした。もし、調べた化合物に乳酸脱水素酵素の阻害作用が無ければ、0%コントロール値に近い低いΔA を示し、その阻害作用があれば100%コントロール値に近い高いΔA を示す。具体的には、阻害率 (%) = 100 × (化合物存在下でのΔA - 0%コントロール値) / (100%コントロール値 - 0%コントロール値) とし、その阻害率が100% (±25%) を示した化合物を乳酸脱水素酵素の阻害剤として、図6と図7に記載した。
【実施例】
【0100】
イソサフロールおよびイソサフロールを母核構造に持つ化合物 (No.1-94, 図6参照) は、以下から入手した。イソサフロールと化合物 No.1 は東京化成から、化合物 No.2-5 及び No.7-9 は Sigma から、化合物 No.6 は Bionet より入手した。また化合物 No.10-94 は、文部科学省創薬等支援技術基盤プラットフォームの化合物ライブラリを用いた。イソサフロールに関しては、図5に示すように 500 μM から 10 μM の各濃度にて阻害率を算出した。化合物 No.1-9 に関しては、100, 50, 25, 10 μM で阻害率を算出し、阻害率が100±25% を示す最低濃度とその阻害率を図7に示した。また化合物 No.10-94 に関しては、250 μM もしくは 50 μM で阻害率を算出し、用いた濃度とその阻害率を図7に示した。
【実施例】
【0101】
結果
海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかんは、成人の代表的な難治性てんかん (既存の薬が効かないてんかん) である。まず、過去の文献 (非特許文献15) に従い、微量のカイニン酸を海馬に投与し、海馬硬化症モデルマウスを作製した (図1A)。カイニン酸投与から2週間以上経つと、海馬では形態的変化が観察され、ピラミダル神経細胞層は細くなり (図1B; CA1)、歯状回領域は肥大化した (図1B; DG)。これは、既に報告されている海馬硬化症モデルマウスと同じ所見であり (非特許文献15)、ヒト海馬硬化症で見られる症状に類似している (非特許文献16)。また、その海馬から記録を行うと、自発的に生じる高振幅のてんかん波が観察された (図1C; 矢尻)。すなわち、この海馬硬化症モデルマウスは、従来研究での報告通り慢性てんかんモデルである。
【実施例】
【0102】
そこで次に、この海馬硬化症モデルマウスに対して、スチリペントールもしくはイソサフロールを腹腔内投与し、抗てんかん作用を調べた。小児抗てんかん薬であるスチリペントール (図2A1) から、3位のヒドロキシ基と3級ブチル基を除いたのがイソサフロールである (図2B1)。スチリペントール (300 mg/kg) を腹腔内投与しても、てんかん波はほとんど抑えられなかった (図2A2)。これは、スチリペントールが小児てんかん (Dravet 症候群) に対する抗てんかん薬としてのみ使用されているのと一致する。
【実施例】
【0103】
一方で、イソサフロール (300 mg/kg) を腹腔内投与すると、てんかん波が顕著に抑えられることが分かった(図2B2)。これらの抗てんかん作用に関する集計データを、図3に示す。まず、乳酸脱水素酵素阻害剤として良く知られたオキサミド酸ナトリウムを腹腔内投与したところ、500 mg/kg において弱い抗てんかん作用を示した (図3; saline, n = 7; 250 mg/kg, n = 7; 500 mg/kg, n = 7)。従来研究により、スチリペントールをラットに 300 mg/kg で腹腔投与すると、薬物誘導性 (ペンチレンテトラゾール誘導性)の急性てんかん発作を抑制し、その時の血漿濃度は 20-100 μg/ml (85-427 μM) であると報告されている (非特許文献17)。しかしながら、スチリペントールを300 mg/kg で腹腔投与しても、この海馬硬化症モデルマウスに対して抗てんかん作用をわずかしか示さなかった (図3; n = 8)。一方で、イソサフロールを腹腔内投与すると、200-300 mg/kg で顕著な抗てんかん作用が観察された (図3; 100 mg/kg, n = 8; 200 mg/kg, n = 8; 300 mg/kg, n = 8)。これらの結果は、イソサフロールが難治性てんかんモデルマウスにも効く抗てんかん剤であることを示している。
【実施例】
【0104】
次に、イソサフロールにも乳酸脱水素酵素の阻害作用があるかどうか、酵素活性測定により調べた。イソサフロールが存在しない時の乳酸脱水素の酵素活性を100%とし、イソサフロール (500 μM) 存在下における酵素活性を評価した。乳酸脱水素酵素は、2つのサブユニット (LDHA と LDHB) で構成されており、LDHAのみで構成されるのが LDH-5 であり、LDHB のみで構成されるのが LDH-1 である。まず、乳酸からピルビン酸への乳酸脱水素酵素活性に対するイソサフロールの作用を検討したところ、human LDH-1, LDH-5 ともにイソサフロールが阻害作用を示すことが分かった (図4, Lactate→Pyruvate; LDH-1, n = 4; LDH-5, n = 4)。さらに、ピルビン酸から乳酸への乳酸脱水素酵素活性に関し、イソサフロールの作用を検討した。すると、human LDH-1, LDH-5 ともに、ピルビン酸→乳酸方向の酵素活性も阻害され、しかもその阻害効果が強いことも見出した (図4, Pyruvate→Lactate; LDH-1, n = 5; LDH-5, n = 6)。これらの結果は、イソサフロールが乳酸脱水素酵素の阻害剤であることを示している。
【実施例】
【0105】
最後に、イソサフロールを母核構造にもつ化合物の中から、乳酸脱水素酵素の阻害作用を持つものを探索した。まず、イソサフロールの各濃度において、乳酸脱水素酵素 (LDH-5) の阻害率を調べたところ、500 μM では乳酸脱水素酵素を阻害するが、250 μM では阻害しないことが分かった (図5)。そこで、イソサフロールを母核構造に持ち、イソサフロールよりも強い乳酸脱水素酵素の阻害剤を探索した。その結果、250 μM 以下で乳酸脱水素酵素をほぼ完全に阻害する「イソサフロールを母核構造に持つ化合物」として、以下94化合物を同定した (図6, 図7)。
【実施例】
【0106】
94化合物の詳細は以下の通りである (図6)。まず化合物 No.1-44 は、イソサフロールの1-プロペニル基の3位の炭素に、各種置換基が結合した化合物である (図6-1~6-6)。具体的には以下の化合物が含まれる。プロペニル基の3位でカルボニル基を形成し(式IIIのReおよびRfが=Oであり)、3位に芳香環を含む置換基も結合している(式IIIのRgが置換または無置換のアリール基またはヘテロアリール基を含む)化合物 (No.1-9, 11-13)。プロペニル基の3位でオキシム基を形成し(式IIIのReおよびRfが=NR21であり)、芳香環も結合している化合物 (No.14)。プロペニル基の3位でエステル結合を形成している(式IIIのRgが-O-X32-R32である)化合物 (No.15-17)。プロペニル基の3位でアミド結合を形成している(式IIIのRgが-N(-X33-R33)(-X34-R34)である)化合物 (No.18-39)。プロペニル基の3位でカルボニル基を形成するだけでなく、1位や2位に各種置換基が結合した(式IIIのRcおよびRdが水素原子以外である)化合物 (No.40-43)。プロペニル基の3位の炭素を介し、ウラシル構造と結合する(ReおよびRfが一緒になって=CR2122を表し、かつRe・RfとRgが一体となって環状構造を形成している)化合物 (No.44)。また、化合物No.10は、スチリペントールのヒドロキシ基をカルボニル基と置換し、3級ブチル基の炭素の1つをヒドロキシ基に置換した化合物である。加えて、化合物 No.1-44 の幾つかは、イソサフロールの1,3-ベンゾジオキソールのベンゼン環の5位以外にも、各種置換基が結合している(式IIIのRa、RbまたはRhが水素原子以外である)。
【実施例】
【0107】
次に化合物 No.45-68 は、イソサフロールの1-プロペニル基の2位と3位のC-C結合が、環構造の一部を形成する(式IIIのRdとRgが一体となって環状構造を形成している)化合物である (図6-6~6-9)。具体的には以下の化合物が含まれる。プロペニル基の2位と3位の C-C 結合を介し、5員環と結合する化合物 (No.45-58)。5員環の構成元素は炭素だけでなく、窒素・酸素・硫黄からなる複素環も含まれる。なお、化合物 No.45-58全てに関し、プロペニル基の3位でカルボニル基を形成している。また、プロペニル基の2位と3位の C-C 結合を介し、キヌクリジン構造と結合する化合物 (No.59,60)。プロペニル基の2位と3位の C-C 結合を介し、五員環と六員環からなる縮合環と結合する化合物 (No.61-68)。なお、化合物 No.61-68全てに関し、プロペニル基の3位でカルボニル基を形成している。加えて、化合物 No.45-68 の幾つかは、イソサフロールの1,3-ベンゾジオキソールのベンゼン環の5位以外にも、各種置換基が結合している。
【実施例】
【0108】
さらに、化合物 No.69-94 は、イソサフロールの1-プロペニル基の1位から3位のC=C-C結合が、環構造の一部を形成する(式IIIのRcとRe・RfもしくはRcとRgが一体となって環状構造を形成している)化合物 (図6-10~6-12; No.69-87)、またはイソサフロールの1-プロペニル基の全てもしくは一部により、三環式化合物を形成する(式IIIのRbとRc、RbとRdもしくはRbとRgが一体となって環状構造を形成している)化合物である (図6-12~6-13; No.88-94)。具体的には以下の化合物が含まれる。プロペニル基の1位から3位の C=C-C 結合が、イソオキサゾール構造の一部を形成する化合物 (No.69-81) や、チオフェン構造の一部となっている化合物 (No.82)。プロペニル基の1位から3位の C=C-C 結合が、二環式化合物の一部を形成する化合物 (No.83-87)。さらに、プロペニル基の3位に窒素が結合し、それが1,3-ベンゾジオキソールの6位と結合した三環式化合物 (No.88-91)。プロペニル基の2位に硫黄が結合し、それが1,3-ベンゾジオキソールの6位と結合した三環式化合物 (No.92)。プロペニル基の1位に窒素が結合し、炭素鎖を介して1,3-ベンゾジオキソールの6位と結合した三環式化合物 (No.93,94)。以上94化合物において、乳酸脱水素酵素の阻害活性が観察された (図7)。
【実施例】
【0109】
上記のことより、イソサフロールが「乳酸脱水素酵素阻害作用」を持ち、スチリペントールが効かない難治性てんかんに効く「抗てんかん剤」であることが明らかとなった。また、イソサフロールを母核構造に持つ化合物の数多くが、乳酸脱水素酵素の阻害作用を有することも明らかとなった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6-1】
5
【図6-2】
6
【図6-3】
7
【図6-4】
8
【図6-5】
9
【図6-6】
10
【図6-7】
11
【図6-8】
12
【図6-9】
13
【図6-10】
14
【図6-11】
15
【図6-12】
16
【図6-13】
17
【図7】
18