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明細書 :LaBr3シンチレーション検出器及び特定イベント排除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年12月21日(2017.12.21)
発明の名称または考案の名称 LaBr3シンチレーション検出器及び特定イベント排除方法
国際特許分類 G01T   1/20        (2006.01)
FI G01T 1/20 J
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 18
出願番号 特願2017-502057 (P2017-502057)
国際出願番号 PCT/JP2016/054017
国際公開番号 WO2016/136480
国際出願日 平成28年2月10日(2016.2.10)
国際公開日 平成28年9月1日(2016.9.1)
優先権出願番号 2015035788
優先日 平成27年2月25日(2015.2.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】石川 正純
【氏名】小川原 亮
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001210、【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G188
Fターム 2G188BB04
2G188BB06
2G188CC21
2G188EE01
2G188EE07
2G188EE12
2G188FF02
要約 LaBrシンチレータの発光に含まれるα崩壊等のイベントを同定し、γ線イベントだけを収集する。LaBrシンチレータ10と、光電子増倍管12と、オシロスコープ14と、コンピュータ18を備える。コンピュータ18は、電圧波形信号のピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを検出し、ピーク値Vpと全電荷量Qtotalの比の誤差伝播式関数を算出する。この誤差伝播式関数を閾値関数として用いてα崩壊イベントを同定して排除する。α崩壊イベントは、ピーク値Vpと全電荷量Qtotalというリアルタイムで実測可能な計測値から同定される。
特許請求の範囲 【請求項1】
LaBrシンチレータと、
前記LaBrシンチレータの発光を電気信号に変換する光電変換器と、
前記光電変換器からの出力を電圧波形信号に変換する波形信号出力器と、
前記電圧波形信号のピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを検出する検出手段と、
前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比の誤差伝播式関数を算出する算出手段と、
前記誤差伝播式関数を閾値関数として用いることで、γ線以外のイベントを特定し、該イベントを排除する処理手段と、
を備えることを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記波形信号出力器から出力される前記電圧波形信号の高周波成分を除去するローパスフィルタをさらに備えることを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項3】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記算出手段は、前記検出器で検出される前記ピーク値Vpを、前記全電荷量Qtotalに対して線形となるように補正して標準偏差を算出することを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項4】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記算出手段は、1.5MeV以下のエネルギ範囲における誤差伝播式関数を算出する
ことを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項5】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記処理手段は、前記閾値関数として、3σの誤差伝播式関数を用いることを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項6】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比は、Vp/Qtotalであることを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項7】
請求項1に記載のLaBrシンチレーション検出器において、
前記算出手段は、前記検出器で検出される前記ピーク値Vpを、前記全電荷量Qtotalに対して線形となるように補正し、補正されたピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比であるVp/Qtotalの1.5MeV以下のエネルギ範囲における誤差伝播式関数を算出し、
前記処理手段は、前記閾値関数として、3σの誤差伝播式関数を用いる
ことを特徴とするLaBrシンチレーション検出器。
【請求項8】
LaBrシンチレータの特定イベントを排除する方法であって、
前記LaBrシンチレータの発光を電圧波形信号に変換して出力するステップと、
前記電圧波形信号のピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを検出するステップと、
前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比の標準偏差を算出し、前記シンチレータの発光のうちγ線以外のイベントを含まない所定値以下のエネルギ範囲における前記標準偏差の誤差伝播式関数を算出するステップと、
前記誤差伝播式関数を閾値関数として用いて前記所定値以上のエネルギ範囲におけるイベントを特定し、該イベントを排除するステップと、
を備えることを特徴とする特定イベント排除方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はLaBrシンチレーション検出器、及びその自己放射能によるα崩壊イベント等の特定イベントの排除に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機シンチレータの研究開発は日進月歩で進んでおり、性能が飛躍的に向上している。中でも、LaBrシンチレータは、時間分解能のみならず、エネルギ分解能に優れており、Cs-137(662KeV)のγ線に対して3%以下という特徴を持っている。また、大型の結晶を作成することも可能であり、コンプトン-ピーク比を大きくすることで、高検出効率での測定が期待できる。LaBrシンチレータの実効原子番号はやや低いが、密度が5.3g/cmと大きいため、高エネルギγ線の測定に適しており、高純度Ge検出器に代わる検出器として注目されている。
【0003】
他方、LaBrシンチレータは、自己放射能として138La からのγ線(1436keV)と、227Ac 系列の残留放射能(5~6MeVのα線を放出)を有しているため、低アクティビティのγ線に対する測定では、自己放射能が大きな測定誤差の原因となっている。特に、1.7~2.4MeVに相当する領域にα崩壊に伴うスペクトルが存在するため、高エネルギγ線領域において、LaBrシンチレータの特性を十分に生かせない問題があった。
【0004】
図12は、LaBr:Ceの自己放射能スペクトラムである。図において、横軸はエネルギ(MeV)であり、縦軸はイベント頻度である。1.7~2.4MeVにα崩壊に伴うスペクトルが多く存在することが分かる。測定したいイベントが、1.5~2.5MeV以外であればα崩壊のバックグラウンド(BG)は特に問題とならないと考えられるが、環境放射線や核反応は多数分布しており、これらは低係数率である場合が多いため問題となり得る。
【0005】
α崩壊のバックグラウンド(BG)を単純に引き算してしまえばよいとも考えられるが、低係数率のイベントでは十分な統計を得るには時間を要し、また、一般的に高エネルギーのガンマ線に対する検出効率は低くなるため、計数率も低くなる場合が多い。
【0006】
下記の非特許文献1には、LaBrシンチレータの発光シグナルがγ線イベントとα線イベントで違いがあることを利用し、部分的な電荷量と全電荷量を比較することでα線イベントを除外する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】“Alpha-Gamma discrimination by pulse shape in LaBr3:Ce and Lacl3:Ce” F.C.L. Crespi et al., Nucl. Instr. Meth. A 602, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来方法では、波形のピーク付近に任意の積分窓を作り、その領域での部分積分電荷を求める必要があり、解析範囲(積分窓)の設定次第で測定結果が変化する問題がある。
【0009】
また、γ線イベントとα線イベントを識別する閾値も人為的に設定しており、設定次第で識別精度が変化してしまう問題もある。
【0010】
本発明の目的は、LaBrシンチレータにおいて信号のピーク電圧と全電荷量というリアルタイムで実測可能な計測値を用いてα崩壊イベント等の特定イベントを同定することで、図13に模式的に示すように、α崩壊イベント等の特定イベントを含んで検出されたスペクトラム(a)から、主としてγ線イベントのみのスペクトラム(b)を検出可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、LaBrシンチレータと、前記LaBrシンチレータの発光を電気信号に変換する光電変換器と、前記光電変換器からの出力を電圧波形信号に変換する波形信号出力器と、前記電圧波形信号のピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを検出する検出手段と、前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比の誤差伝播式関数を算出する算出手段と、前記誤差伝播式関数を閾値関数として用いることで、γ線以外のイベントを特定し、該イベントを排除する処理手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本願発明者等は、LaBrシンチレータの例えば自己放射能による発光信号の一定数のイベントのデータに対してその電圧信号波形のピーク値Vpと全電荷量(積分電荷量)Qtotalの比を解析したところ、α崩壊イベントのみが有意に異なる分布を示すことを見出した。そこで、シンチレータの発光のうちγ線以外のイベントを含まない所定値以下のエネルギ範囲におけるVpとQtotalの比の誤差伝播式関数を算出し、これを閾値関数として用いることで、有意に異なる分布を示すα崩壊イベント等の特定イベントのデータを同定し、元のデータから特定イベントのデータを排除する。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、前記波形信号出力器から出力される前記電圧波形信号の高周波成分を除去するローパスフィルタをさらに備える。
【0014】
本発明の他の実施形態では、前記算出手段は、前記検出器で検出される前記ピーク値Vpを、前記全電荷量Qtotalに対して線形となるように補正して標準偏差を算出する。
【0015】
本発明のさらに他の実施形態では、前記算出手段は、1.5MeV以下の誤差伝播式関数を算出する。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態では、前記処理手段は、前記閾値関数として、3σの誤差伝播式関数を用いる。
【0017】
本発明のさらに他の実施形態では、前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比は、Vp/Qtotalである。
【0018】
また、本発明は、LaBrシンチレータの特定イベントを排除する方法であって、前記LaBrシンチレータの発光を電圧波形信号に変換して出力するステップと、前記電圧波形信号のピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを検出するステップと、前記ピーク値Vpと前記全電荷量Qtotalの比の標準偏差を算出し、前記シンチレータの発光のうちγ線以外のイベントを含まない所定値以下のエネルギ範囲における前記標準偏差の誤差伝播式関数を算出するステップと、前記誤差伝播式関数を閾値関数として用いて前記所定値以上のエネルギ範囲におけるイベントを特定し、該イベントを排除するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、LaBrシンチレータにおいて信号のピーク電圧と全電荷量というリアルタイムで実測可能な計測値を用いて特定イベント(例えば自己放射能のα崩壊イベント)を同定し、これを排除することが可能である。従って、本発明によれば、特に1.5~3MeVに相当する高エネルギγ線領域において、LaBrシンチレータの特性を活用した高精度検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態のシンチレーション検出器の構成図である。
【図2】LaBr:Ceシンチレータの自己放射能の波形信号図である。
【図3】LaBr:Ceシンチレータのエネルギスペクトル図である。
【図4】Vp/Qtotalのプロット図である。
【図5】Vp/Qtotalの標準偏差σVp/Qtotalと誤差伝播式関数を示す図である。
【図6】図4に閾値関数を適用した図である。
【図7】α線イベントを排除した結果を示す図である。
【図8】γ線イベントの誤排除率を示す図である。
【図9】外部線源を用いたBG差し引き法と実施形態の方法のヒストグラム図(その1)である。
【図10】外部線源を用いたBG差し引き法と実施形態の方法のヒストグラム図(その2)である。
【図11】α線イベントを排除した結果を示す図である。
【図12】LaBr:Ceシンチレータのエネルギスペクトル図(その2)である。
【図13】α線イベント排除の模式図説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。

【0022】
<全体構成>
図1は、本実施形態におけるシンチレーション検出器の構成図である。シンチレーション検出器は、LaBr:Ceシンチレータ10、光電子増倍管12、オシロスコープ14、ハードディスクドライブ16、及びコンピュータ18から構成される。

【0023】
LaBr:Ceシンチレータ10は、γ線等の電離放射線を光に変換するシンチレータであり、例えば1.5インチφ×1.5インチの円柱型に形成される。LaBr:Ceシンチレータ10は、阻止能、エネルギ分解能、時間分解能に優れたシンチレータであるが、既述したように、含有される放射性核種によって、常にバックグラウンド信号を出力する。

【0024】
光電子増倍管12は、LaBr:Ceシンチレータ10に接続され、LaBr:Ceシンチレータ10の光をその強度に応じた電気信号に変換して出力する。

【0025】
オシロスコープ14は、検出された電気信号を時間軸に沿った電圧信号(波形信号)に変換して出力する。

【0026】
ハードディスクドライブ16は、オシロスコープ14とUSBインタフェース等により接続され、オシロスコープ14から出力された波形信号(波形整形等を施さない生(Raw)の波形信号)を記憶する。

【0027】
コンピュータ18は、本実施形態における検出手段、算出手段及び処理手段として機能し、ハードディスクドライブ16に記憶された波形信号を入力し、波形信号を解析して解析結果を出力する。コンピュータ18は、CPU及びプログラムメモリを備え、プログラムメモリには所定の処理プログラムが格納される。コンピュータ18は、プログラムメモリに格納された処理プログラムを読み込んで順次実行することで波形信号を解析する。本実施形態における波形信号の解析は、以下の処理を含む。
(a)波形信号に対するフィルタ処理
(b)電荷の全積分値Qtotal及び電圧のピーク値Vpを検出してVp/Qtotalを算出する処理
(c)エネルギに依存する閾値関数の決定処理
(d)閾値関数を用いたα線イベントの排除処理

【0028】
なお、図1において、ハードディスクドライブ16とコンピュータ18を一つの波形解析装置で実現してもよく、オシロスコープ14、ハードディスクドライブ16及びコンピュータ18を一つの波形解析装置として実現してもよい。

【0029】
また、コンピュータ18は、α線イベントが排除されたデータについてそのイベント数をカウントし、カウント値を放射線の線量に変換して出力する機能を有してもよいが、これについては公知であるためその説明は省略する。

【0030】
次に、上記の処理について順に説明する。

【0031】
<フィルタ処理>
図2は、LaBr:Ceシンチレータ10の自己放射能イベントを含むイベントで測定される波形信号図である。オシロスコープ14で得られる波形であり、外部放射線源は用いられていない。図において、横軸は時間(ns)、縦軸は電圧(V)である。

【0032】
一番上の波形信号は、生データの波形信号であり、
ピーク値Vp=-0.113(V)
全電荷量(電荷の全積分値)Qtotal=4.219
が得られる。但し、生データはノイズが大きく、Vp/Qtotalを算出したとしてもその精度が低い。

【0033】
中央の波形信号は、生データを2nsの時間幅で移動平均処理をした波形信号であり、Vp=-0.099(V)
全電荷量Qtotal=4.213
が得られる。

【0034】
一番下の波形信号は、FFT及びIFFT(逆FFT)で50MHz以上の高周波ノイズを除去するローパスフィルタでノイズ除去した波形信号であり、
Vp=-0.099(V)
全電荷量Qtotal=4.214
が得られる。移動平均処理やローパスフィルタ処理、特にローパスフィルタ処理を施して波形整形することで、ピーク値Vp及び全電荷量Qtotalを高精度に検出し得る。

【0035】
なお、これら3つのVp及びQtotalを比較すると、Vpについては移動平均及びローパスフィルタ処理で同一の値が得られ、生データではこれと異なる値が得られているが、他方で、Qtotalについては3つのデータでほぼ同一の値が得られている。Qtotalは全電荷量であってエネルギに相当し、このことは3つのデータ間におけるエネルギ分布に大きな変化がないことを示唆している。

【0036】
図3は、図2における一番下の波形信号、すなわちFFTとIFFTのローパスフィルタで高周波ノイズを除去した場合のエネルギスペクトルである。実線は生データのエネルギスペクトルであり、破線はローパスフィルタ処理した場合のエネルギスペクトルである。この図から、ノイズ除去前後でエネルギスペクトルが変化していないことがわかる。このことは、生データに対してローパスフィタ処理してもデータ欠損が生じないことを意味する。

【0037】
<Vp/Qtotalの算出処理>
図4は、LaBr:Ceシンチレータ10の自己放射能による発光10万イベント分のデータに対して波形信号(ローパスフィルタ処理済み)のピーク値Vpと全電荷量Qtotalの比Vp/Qtotalのプロット結果である。図において、横軸は全電荷量Qtotal及び対応するエネルギ(MeV)であり、縦軸はVp/Qtotalである。

【0038】
図4の(a.1)から明らかなように、1.5~3MeVのエネルギ範囲において2成分が存在する。α線イベントの波形信号のピーク値Vpは、γ線イベントの波形信号のピーク値よりも大きいことが知られている(従来技術を参照)。従って、図4の(a.1)における上側の成分がα線イベントに対応し、下側の成分がγ線イベントに対応する。なお、エネルギの低い部分は、環境放射線核種である208Tl2.6MeVによるγ線イベントと考えられる。

【0039】
また、Vp及びQtotalは、それぞれエネルギに対して線形の関係にあるため、その比であるVp/Qtotalは全エネルギ領域において一定となるはずであるところ、そうなっておらず、エネルギが増大するほど低下する傾向にある。これは、ピーク値Vpが飽和することによるものと考えられる。本願発明者等は、横軸をQtotal、縦軸をVpとしてプロットしたところ、VpとQtotalの線形性は低エネルギ領域(1.5MeV以下)において維持され、高エネルギ領域では線形性が維持されずVpが飽和する傾向にあることを確認している。
そこで、Vpの飽和を補正するために、Vpの飽和曲線を
【数1】
JP2016136480A1_000003t.gif
と定義する。ここで、αQtotalが線形項であり、1+βQtotalが飽和項である。そして、補正されたVp(これをVpcorrとする)はQtotalに比例すべき、すなわちVpcorr=αQtotalになるべきとして、
【数2】
JP2016136480A1_000004t.gif
によりVpを補正してVpcorrとする。
図4の(a.2)に、補正されたVpを用いた場合のVp/Qtotalのプロット結果を示す。補正されたVpを用いたVp/Qtotalは、全エネルギ領域においてほぼ一定となる結果が得られる。なお、上式における係数α及びβは実験で定めることができる。

【0040】
図4において、1.5MeV以下のγ線イベントは、エネルギが低いほどバラツキが大きくなっているが、これは、誤差伝播から理論的に導かれる。すなわち、Vp/Qtotalの標準偏差σVp/Qtotal(以下、σとする)は、
【数3】
JP2016136480A1_000005t.gif
である。上記の式は、
【数4】
JP2016136480A1_000006t.gif
と近似できる。この式から明らかなように、Vp/Qtotalの標準偏差σVp/Qtotalは、Qtotalが低いほど増大し、すなわちエネルギが低いほど増大する。

【0041】
<閾値関数の決定処理>
図4において、γ線イベントとα線イベントを識別するための閾値関数は、1.5MeV以下の純粋なγ線イベントの標準偏差σを用いて決定できる。

【0042】
図5は、補正されたVpを用いたVp/Qtotalに関して算出されたσ、2σ、3σと、その誤差伝播式関数を示す。図において、横軸はエネルギであって1.4MeV以下のエネルギ範囲(つまりγ線イベントのみのエネルギ範囲)、縦軸はVp/Qtotalの標準偏差σを示す。この図より、Vp/Qtotalのバラツキは、誤差伝播式関数で非常に良く再現されることが分かる。従って、この誤差伝播式関数から閾値関数を決定することで、1.5MeV以上のエネルギ範囲において存在するα線イベントを明確に識別できる。

【0043】
図6は、図4の(a.2)に示された、補正されたVpを用いたVp/Qtotalのプロットに閾値関数を適用した図である。閾値関数はQtotalに逆比例し、エネルギ依存性を示す。図には、σ、2σ、3σそれぞれの閾値関数を示すが、特に3σの閾値関数を用いることでγ線イベントとα線イベントを明確に識別できる。従って、閾値関数を用いてα線イベントを排除することが可能である。

【0044】
σ~3σの閾値関数は、1.5MeV以下におけるVp/Qtotalのデータ群から一義的かつ客観的に決定される点に留意されたい。

【0045】
<α線イベントの排除処理>
図7は、3種類の閾値関数(σ、2σ、3σの閾値関数)を用いてα線イベントを排除した結果を示す図である。図において、(a.1)はσの閾値関数、(a.2)は2σの閾値関数、(a.3)は3σの閾値関数を用いた場合の結果である。これらの図において、横軸はエネルギ(MeV)、縦軸はイベント数であり、1.5MeV以上についてはイベント数を10倍に拡大して示している。1.5MeV以上のエネルギ範囲において、実線がα線イベントを排除した後のイベント数であり、全ての閾値関数でα線のイベントを排除できている。

【0046】
図8は、3種類の閾値関数それぞれにおいて、誤ったγ線イベント排除率、すなわち本来であれば排除すべきでないγ線イベントの排除率を示す図である。図において、横軸はエネルギであって0.3MeV~1.5MeV、つまりγ線イベントのみが生じているエネルギ範囲を示す。σ、2σ、3σと閾値関数が大きくなるほど誤排除率は大幅に低下し、正しくα線イベントのみを排除していることが分かる。特に、3σの閾値関数を用いた場合には、1.5MeV以下の全領域でほぼ1%以下の誤排除率であり、全体としては0.716%程度の誤排除率が得られる。このことは、言い換えれば、本実施形態においてγ線イベントが全く排除されないことを意味するのではなく、多少は排除され得ることを意味する。

【0047】
以上のように、LaBr:Ceシンチレータ10の自己放射能のみを用いてα線イベントを識別するための閾値関数を決定できる。また、この閾値関数には数学的根拠があり、人為的に設定するパラメータが含まれていないため、一義的かつ客観的に決定し得るものである。特に、閾値関数をエネルギの関数として決定することで、α線イベントを識別する精度を飛躍的に向上させることが可能となる。さらに、3σの閾値関数を用いることで、1.5MeV以下の誤ったγ線イベントの排除率を0.7%程度とし得る。

【0048】
次に、α線イベントを正しく排除できるか否かを確認するために、外部線源を用いて測定を行う場合について説明する。

【0049】
外部線源として、例えばGe/Ga-68(68Ga1.883MeV)を用いる。このとき、環境放射線からの寄与(208Tl2.61MeV等)が存在し得るため、1.5MeV~3MeVにα線イベントとγ線イベントが混在している。そこで、上記の方法で3σの閾値関数を用いてα線イベントを排除した後に、イベント数が予め分かっているγ線イベント(68Ga1.883MeV)が正しい数だけ残っているか否かを評価する。

【0050】
具体的には、信頼性の高いバックグラウンド(BG)差し引き法により得られる結果と、本実施形態により得られる結果とを比較し、両者に相違があるか否かを評価する。つまり、外部線源が存在する場合の測定結果から外部線源が存在しない場合の測定結果を差し引いて残った1.883MeVのγ線の分布(バックグラウンドBG差し引き方法)と、外部線源が存在する場合に本実施形態のVp/Qtotal及び閾値関数を用いて残った1.883MeVのγ線の分布を比較することにより、本実施形態の方法で正しくα線イベントを排除できるかを評価する。

【0051】
図9は、外部線源を設置した状態と設置していない状態もエネルギスペクトラムである。(a)において実線は外部線源が存在する場合、破線は外部線源が存在しない場合のエネルギスペクトラムであり、縦軸は規格化されたイベント数である。前者から後者を差し引くことで68Ga1.883MeVのイベント数を測定できる。

【0052】
他方、図9の(b)は、外部線源を設置した状態と本実施形態の方法によりα線イベントを排除した後のエネルギスペクトラムである。(b)において実線は外部線源が存在する場合、破線は3σの閾値関数でα線イベントを排除した後のエネルギスペクトラムである。(b)に示すように、3σの閾値関数でα線イベントを排除しても、1.883MeVの成分が排除されずに残っている。

【0053】
図10は、バックグラウンド(BG)を差し引いた場合と本実施形態の場合とを比較した図である。横軸はエネルギであって1.883MeV近傍のエネルギ範囲を示す。縦軸は規格化されたイベント数である。(c.1)は外部線源を設定した場合からそうでない場合を差し引いた、BG法による結果、(c.2)は本実施形態の結果であり、(c.3)は両者を照合した結果である。

【0054】
それぞれの場合のピークカウント数(測定値、フィッティング値)、平均エネルギ、半値全幅(FWHM)、及び相違は以下の通りである。
・ピークカウント数(測定値)
BG法:139.6±28.54
実施形態:138.6±19.22
相違:0.716%
・ピークカウント数(フィッティング値)
BG法:129.9±6.34
実施形態:127.7±4.46
相違:1.694%
・平均エネルギ(keV)
BG法:1885.9±0.7334
実施形態:1885.5±0.5281
相違:0.021%
・FWHM(keV)
BG法:33.1±3.62(1.755%)
実施形態:36.2±3.31(1.920%)
相違:0.165%
以上の結果より、本実施形態ではBG法と同様の結果をより高精度で得られることが分かる。

【0055】
なお、本実施形態では、波形信号の取得に要するデッドタイムにより、特定のイベントの数え落としがあり得る。例えば、219Rn等からカスケード的に崩壊する短寿命娘核215Poの数え落としがあり得る。しかしながら、測定したイベントの排除は確実に実行できるため、この数え落としは精度評価に寄与することはない。

【0056】
また、本実施形態では、上記のように環境放射線核種である208Tl2.6MeVが含まれている可能性があるため、同系列の核種も同様に混在している可能性もある。図11は、統計数をさらに増大させてVp/Qtotal及び3σの閾値関数を用いてα線イベントを排除した場合の結果を示す図である。非常にイベントの少ない212,214Biが同定されている。このことから、本実施形態の方法は、少ないイベント数のγ線でも顕著に検出できる効果もある。

【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、信号のピーク電圧と全電荷量というリアルタイムで実測可能な計測値を用いてα線イベントを同定し、これを排除することでγ線イベントのみを収集することができる。また、本実施形態では、バックグラウンド(BG)差し引き法と同様の結果をより高精度で得ることができる。また、本実施形態では、測定対象とα崩壊バックグラウンドのS/N比に依存せずに測定を行うことができるため、非常に小さい信号の検出にも適している。本実施形態では、自己放射能に含まれるα崩壊イベントに特に着目したが、自己放射能に限らず、外部から入射されるα線や重粒子線に対しても同様に適用し得る。すなわち、本実施形態は、必ずしも自己放射能に限定されず、特定のエネルギ範囲に存在し得る特定イベントの排除に適用し得る。

【0058】
本実施形態では、1イベント毎に数秒かけてデータを保存するのでデッドタイムが大きくなる傾向にあるが、高速で信号波形を取得するFADC(Flash Analog to Digital Converter)用の高速ADCを用いることでデッドタイムの減少を図ることが可能である。

【0059】
本実施形態における処理を実現するための処理プログラムは、FPGA(Field Programmable Gate Array)に実装することで、リアルタイムでγ線スペクトルのみを抽出することも可能である。

【0060】
本実施形態では、Vp/Qtotalを用いてα線イベントを同定しているが、その逆数であるQtotal/Vpを用いてもよいのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
10 LaBr:Ceシンチレータ、12 光電子増倍管、14 オシロスコープ、16 ハードディスク、18 コンピュータ。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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