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明細書 :高分子を細胞と共に凝集させる技術

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6176770号 (P6176770)
登録日 平成29年7月21日(2017.7.21)
発行日 平成29年8月9日(2017.8.9)
発明の名称または考案の名称 高分子を細胞と共に凝集させる技術
国際特許分類 C12N  11/08        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
A61L  27/38        (2006.01)
FI C12N 11/08
C12N 5/071
A61L 27/38
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2017-517982 (P2017-517982)
出願日 平成28年5月12日(2016.5.12)
国際出願番号 PCT/JP2016/064167
国際公開番号 WO2016/182022
国際公開日 平成28年11月17日(2016.11.17)
優先権出願番号 2015099064
優先日 平成27年5月14日(2015.5.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年4月12日(2017.4.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】小島 伸彦
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査官 【審査官】川口 裕美子
参考文献・文献 特開昭62-175172(JP,A)
KOJIMA N,Fabrication of a microchannel network in multicellularspheroids by embedding hydrogel beads,Regenerative Medicine,2013年11月,pp.85,Abstract Number: OP-069
KOJIMA, Nobuhiko, TAKEUCHI, Shoji, and SAKAI, Yasuyuki,Rapidaggregation of heterogeneous cells and multiple-sized microspheres inmethylcellulose medium,Biomaterials.,2012年 6月23日,Vol.33, No.18,p.4508-4514
津田行子 他,バイオ材料を扱いやすくするビーズ化技術,BIO INDUSTRY,2009年12月12日,Vol.26, No.12,pp.38-43
調査した分野 C12N 11/08
A61L 27/38
C12N 5/071
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
膨潤性材料を含有する培地へ水溶性高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、培地中の膨潤性材料が水溶性高分子と細胞とを含む溶液で膨潤することより、水溶性高分子と細胞を共に凝集させることを含む、水溶性高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を作製する方法。
【請求項2】
細胞凝集体が、3次元組織を形成する請求項1記載の方法。
【請求項3】
3次元組織の性状及び/又は機能が、3次元組織を形成していない細胞の性状及び/又は機能又は細胞間に水溶性高分子を充填せずに形成された3次元組織の性状及び/又は機能より向上している請求項2記載の方法。
【請求項4】
水溶性高分子が充填された細胞又は細胞凝集体が、細胞又は細胞凝集体を封入した水溶性高分子のカプセルである請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
膨潤性材料を含有する培地へ添加する溶液に含まれる少なくとも1個の細胞が、請求項1~4のいずれかに記載の方法で作製した水溶性高分子が充填された細胞又は細胞凝集体である請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法で作製した、水溶性高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の性状及び又は機能を制御する方法。
【請求項7】
膨潤性材料を含有する培地へ水溶性高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、培地中の膨潤性材料が水溶性高分子と細胞とを含む溶液で膨潤することより、水溶性高分子と細胞を共に凝集させることで、細胞又は細胞凝集体を封入した水溶性高分子のカプセルを作製し、このカプセル内で細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の培養方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子を細胞と共に凝集させる技術に関し、より詳細には、細胞間に高分子を充填する、あるいは、細胞を高分子カプセルに封入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を用いた細胞アッセイや再生医療において、それら細胞の三次元的な組織化は細胞の分化能を高めるために有効な手段であると考えられている。一般的な三次元組織化では、細胞凝集体をつくるために非接着プレートやハンギングドロップ法を用いる(Lin et al., Biotechnology Journal, 2008,3,1172-1184:非特許文献1)。しかし、薬剤スクリーニングや再生医療で求められるような、より高付加価値な三次元組織の作製のためには、さらに工夫を凝らした三次元組織の構築方法が求められている。
【0003】
我々の体内に存在する臓器は、細胞と細胞外マトリクスが積層化されて成り立っている。これまでにも細胞表面に細胞外マトリクス(ECM)の一種であるフィブロネクチンとゼラチンをコーティングし、これを積層する技術(Nishiguchi et al., Advanced Materials, 2011, 23, 3506-3510:非特許文献2、Matsusaki et al., Angewandte Chemie 2007, 46, 4689-4692:非特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Lin et al., Biotechnology Journal, 2008,3,1172-1184
【非特許文献2】Nishiguchi et al., Advanced Materials, 2011, 23, 3506-3510
【非特許文献3】Matsusaki et al., Angewandte Chemie 2007, 46, 4689-4692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元細胞組織の作製には、従来の方法であれば96穴U字ボトムプレート法やハンギングドロップ法が利用される。これらの方法でもECMを細胞組織の内部に混ぜ込むことが可能であるが、三次元細胞組織がU字ボトムプレートやドロップ(液滴)の底に細胞が集まることで形成されるのに対し、ECMは可溶性であるために培養液中に均等に存在する。したがってECMのほとんどは細胞凝集に寄与することができない。
上記の細胞表面にフィブロネクチンとゼラチンをコーティングし、これを積層する技術は、細胞を積層化することを主な目的としている。また、細胞表面のインテグリン分子とフィブロネクチンとの相互作用を利用しているため、すべての高分子を細胞表面にコーティングできるわけではない。
また、ECMゲルによるカプセル内部に細胞を封入し、これを培養するという要求が存在する。従来法ではオイルに対して細胞を含んだECM溶液を混ぜ込んでこれをゲル化させるという方法がとられるが、オイルによる影響によって細胞傷害が生じることが問題となる。
本発明は、従来技術の欠点を克服すべく、効率良く、ECMを細胞と共に凝集させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、比較的高濃度の高分子溶液(高分子溶液A、例えば3%メチルセルロース培養液)の中に、比較的低濃度の高分子溶液(高分子溶液B、例えばマトリゲル)をわずかな分量で吐出すると、高分子溶液Bの水分を高分子溶液Aが吸収する「膨潤現象」を生じ、溶液Bに分散していた高分子が当初よりも狭い空間に集積する現象に着目し、これを利用することにした。高分子溶液Bに任意の細胞を懸濁しておき、これを高分子溶液Aに吐出すると、溶液Bに分散していた高分子は細胞と共に凝集してゆく(図8)。その結果、溶液Bの高分子を細胞間に充填した凝集体が形成される。高分子溶液Bがゲル化する性質をもち、濃度が高い場合は、溶液Bに由来する高分子は細胞間にハイドロゲルとなって比較的厚い層を形成する。このとき溶液Bの液量に対して細胞数が少ない場合には、細胞を内包したカプセルを形成する。高分子溶液Bの濃度が低い場合には、溶液Bに由来する高分子は細胞間に薄いコーティング状の層をつくる。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)膨潤性材料を含有する培地へ高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、高分子と細胞を共に凝集させることを含む、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を作製する方法。
(2)細胞凝集体が、3次元組織を形成する(1)記載の方法。
(3)3次元組織の性状及び/又は機能が、3次元組織を形成していない細胞の性状及び/又は機能又は細胞間に高分子を充填せずに形成された3次元組織の性状及び/又は機能より向上している(2)記載の方法。
(4)高分子が充填された細胞又は細胞凝集体が、細胞又は細胞凝集体を封入した高分子のカプセルである(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)膨潤性材料を含有する培地へ添加する溶液に含まれる少なくとも1個の細胞が、(1)~(4)のいずれかに記載の方法で作製した高分子が充填された細胞又は細胞凝集体である(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の方法で作製した、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の性状及び又は機能を制御する方法。
(7)膨潤性材料を含有する培地へ高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、高分子と細胞を共に凝集させることで、細胞又は細胞凝集体を封入した高分子のカプセルを作製し、このカプセル内で細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の培養方法。
本発明の方法は、凝集体に寄与する細胞と細胞との間にECMなどの高分子を、インテグリンへの結合力に関係なく充填できるという点、また自身がゲル化できるECMなどの高分子を用いた際に、オイルを使わずに液滴状のゲルを成形できる点、で従来法と異なっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、効率良く、ECMなどの高分子を細胞と共に凝集させることができるようになった。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2015‐99064の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ECMと細胞とが同時に凝集する様子を示す。
【図2】ゲルの希釈率によって変化する組織の断面積を示す。
【図3】ゲルの希釈率による三次元細胞組織の内部構造を示す。
【図4】三次元組織内部の細胞間に充填されるFITC結合コラーゲンやFITC結合デキストランを示す。
【図5】ゲルの希釈率によるアルブミン分泌活性の変化を示す。
【図6】ゲルの希釈率によるアンモニア除去活性の変化を示す。
【図7】カプセル化の方法による細胞障害の比較を示す。
【図8】本発明の方法による、高分子が充填された細胞凝集体の作製の一実施態様を模式的に示す。膨潤性材料として、メチルセルロースを用い、細胞間に充填する高分子として、ECMを用いた。
【図9】カプセル化の方法による細胞傷害の定量的評価を示す。MC培地で作製したカプセル内の細胞をパラホルムアルデヒドですべて殺した状態(PFA)を基準(100%)として、他の条件における細胞(ミネラルオイル(Oil)あるいはMC培地(MC)で作製したカプセル内の細胞)の死細胞率を出した。
【図10】ゲルの充填による毛細胆管構造の形成促進を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、高分子と細胞を共に凝集させることを含む、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を作製する方法を提供する。

【0010】
膨潤性材料は、水分などの液体を含んで,膨れる性質を持つ材料であればよく、例えば、メチルセルロース、ペクチン、カルボキシメチルセルロースなどの高分子を例示することができる。

【0011】
培地としては、DMEM培地、αMEM、その他一般的などんな種類の培地も使うことができる。

【0012】
高分子は、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、例えば、コラーゲン(I型、II型、IV型など)、プロテオグリカン(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン)、ヒアルロン酸(グリコサミノグリカンの一種)、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、フィブロネクチン、などの細胞外マトリクス(ECM)、デキストラン、でんぷん、グリコーゲン、セルロース、アルギン酸、などのECMには含まれない生体由来の高分子多糖類、その他、上記の物質の由来物、例えばコラーゲンを変成させたゼラチンなどや、様々な天然・人工の高分子化合物を例示することができる。高分子カプセルに細胞又は細胞凝集体を封入する場合には、高分子はゲル化するものであることが好ましい。ゲル化する高分子としては、上述のECMやゼラチンなどを例示することができる。マトリゲルは、市販のECMゲルであり、ECM成分として、ラミニン、コラーゲンIV、およびエンタクチンを含み、その他に、bFGF、EGF、IGF-1、PDGF、NGF、TGF-βなどの成長因子を含みうる。後述の実施例では、bFGF、EGF、IGF-1、PDGF、NGF、TGF-βなどの成長因子をできるだけ減らしたgrowth factor reduced matrigelを使用した。growth factor reduced matrigelを使えば、ゲル成分だけの効果、あるいは他の成長因子を後から足して効果を確認できる(参考webページhttp://catalog2.corning.com/LifeSciences/ja-JP/Shopping/ProductDetails.aspx?categoryname=&productid=356231(Lifesciences))。
細胞は、特に限定されるものではなく、いかなる細胞であってもよく、例えば、肝細胞、胆管上皮細胞、膵島を構成するα、β、δ、PP細胞、脂肪細胞、骨髄細胞(白血球、赤血球、それらの細胞の前駆細胞、造血幹細胞などのいわゆる血球細胞(実質細胞)、造血微小環境を構成する細胞である血管内皮細胞や脂肪細胞、細網細胞、外膜細網細胞、骨内膜細胞、骨芽細胞など)、精原細胞、卵細胞、神経細胞、骨芽・破骨細胞、軟骨細胞、各種の尿細管上皮細胞、肺胞上皮細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞などを例示することができる。
細胞は、1個の細胞(例えば、卵など)であっても、複数の細胞(細胞集団)であってもよく、また、同種又は異種の細胞の混合物であってもよい。さらには、細胞凝集体を形成しているものであってもよい。本明細書において、「細胞凝集体」とは、細胞同士が結合した状態をいい、三次元組織(複数の細胞が立体的に集まり、互いに接着したもの)、スフェロイド(spheroid)、オルガノイド(organoid)を包含する概念である。また、細胞は、ゲル(例えば、アルギン酸ゲル)の中に埋め込まれたものであってもよい。
細胞は、天然由来のものであっても、遺伝子操作したものであってもよく、ES細胞やiPS細胞、それらから分化誘導した各種前駆・成熟細胞であってもよい。
高分子と少なくとも1個の細胞を含有させる溶液は、DMEM培地などを例示することができるが、これらに限定されることはない。
高分子と細胞を共に凝集させるには、膨潤性材料の存在下で細胞と高分子を強制的に凝集状態にして保持するような条件で凝集を行うとよい。
細胞と高分子の凝集の程度に影響する因子としては、膨潤性材料の種類、物性(分子量など)、濃度、細胞の種類、物性、数など、高分子の種類、物性(分子量やゲル化する能力など)、濃度などを挙げることができる。また、膨潤性材料を含有する培地中へ高分子と細胞を含有する液を注入して、培養する場合には、細胞注入液の容量、注入液の注入法と注入後の液滴の形状なども、凝集の程度に影響する因子となりうる。
培地中の膨潤性材料の濃度は、膨潤性材料の種類や物性によって適正な値が異なりうるので、適宜選択するとよい。膨潤性材料の濃度が極端に低いと三次元細胞組織が底に沈んでしまうなどの問題が生じるので、一定以下(例えば、メチルセルロースの場合、1質量%)には下げられない。膨潤性材料の濃度が高いほど、凝集速度が速く、また凝集させる力も強くなる。しかし、膨潤性材料の濃度が高すぎると、膨潤性材料を培地に分散させるのが困難になり、粘性も高く非常に取り扱いにくくなるので、一定以上(例えば、メチルセルロースの場合、3質量%)には上げられない。膨潤性材料として、メチルセルロースを用いる場合、培地中のメチルセルロース濃度は、1~3質量%であるとよい。メチルセルロース培地に対して吐出する、所望の濃度の高分子を含有する細胞懸濁液(注入液)における細胞数は、1μl当たり下限は1個、上限は100000個程度まで目的に合わせて調整するとよい。マイクロピペットを用いて1 μlずつ(0.1~10μlの範囲で調節可能)、適当な間隔をあけて、メチルセルロース含有DMEM培地中に吐出することで、球状のカプセルあるいは三次元細胞組織の構築を行うことができる。メチルセルロース含有DMEM培地は、容器に対して適切な量が決まる。通常の培養を行うときに添加する培地量とほぼ等しい量であれば適切といえる。メチルセルロース含有培地は、多い分には問題ないが、酵素で分解するときに時間がかかる。少ない場合は、水分が蒸発して粘性がさらに高くなってしまったり、凝集体が培養機材の底に触れるなどのトラブルが生じる。吐出した注入液の形状が球状であると、凝集体の形状も球状となる可能性が高い。吐出した細胞は、10分程度で凝集状態となる。そのままメチルセルロース含有DMEM培地中で、CO2インキュベーターで、33~37℃の温度で、24時間~7日間培養すると、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体が得られる。また、細胞懸濁液中の高分子の濃度は、培地中の膨潤性材料の濃度より低いことが重要である。高分子と膨潤性材料の濃度差が大きいと、高分子側の水分を培地が吸収・膨潤することで、高分子が濃縮される。細胞懸濁液中の高分子の濃度は、カプセル化する場合は高分子がゲル化できる濃度(商品によっても異なるがコラーゲンで3-4 mg/ml、マトリゲルで9-12 mg/ml程度)、細胞組織間に充填する場合は、コラーゲンでは0.1 mg/ml、マトリゲルでは0.3-0.4 mg/ml程度が好ましいが、目的によってはそれよりも低い濃度での使用も可能である。後述の実施例で示すように、マトリゲルを含まない培地で作製した細胞のみの三次元細胞組織と比較して、マトリゲル原液(9-12 mg/ml)を用いた場合は、ゲルのカプセルの中に細胞が散らばって存在する。一方、マトリゲルを0.3-0.4 mg/mlに希釈すると、細胞のみの状態とほぼ同じ組織像が得られる。
高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を回収するには、そのままだとメチルセルロース含有培地の粘性が高いために回収操作が困難であるため、セルラーゼを用いてメチルセルロースを分解することでメチルセルロース含有培地の粘性を低下させるとよい。メチルセルロース以外の膨潤性材料を用いる場合にも、膨潤性材料含有培地の粘性を低下させるための処理(例えば、分解酵素処理、低温側への変化、多少のpHの変化など)を行うとよい。分解酵素は、細胞の構成成分を分解するものは、細胞に毒性があるので、好ましくない。メチルセルロースは骨格であるセルロースをセルラーゼで分解する。セルロースは植物細胞がもっているもので、我々の細胞にはないので、毒性がほとんどないと考えている。
本発明の方法により、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体が得られる。細胞凝集体をそのまま培養することにより、3次元組織を形成させることができる。この3次元組織の性状及び/又は機能は、3次元組織を形成していない細胞の性状及び/又は機能又は細胞間に高分子を充填せずに形成された3次元組織の性状及び/又は機能より向上しているかもしれない。よって、本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、高分子と細胞を共に凝集させることで作製した、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の性状及び又は機能を制御する方法を提供する。
本発明の方法において、高分子が充填された細胞又は細胞凝集体は、細胞又は細胞凝集体を封入した高分子のカプセルの形状をとりうる。例えば、高分子カプセルに、膵島などの小さな組織単位を1~数個入れることも可能である。膵島のカプセル化は免疫抑制を目的として、アルギン酸ゲルが使われている。アルギン酸ゲルの代わりにECMゲルなどを用いることにより、さらなる機能が付加されるかもしれない。
また、本発明の方法により、オイルフリーで、細胞を含むECMゲルカプセルを作製することもできる。この方法でゲルカプセルを作製すれば、オイルの成分によって細胞がダメージを受けることなく、ECMゲルカプセルの中で細胞を培養することが可能となる。よって、本発明は、膨潤性材料を含有する培地へ高分子と少なくとも1個の細胞とを含む溶液を添加して、高分子と細胞を共に凝集させることで、細胞又は細胞凝集体を封入した高分子のカプセルを作製し、このカプセル内で細胞又は細胞凝集体を培養することを含む、細胞又は細胞凝集体の培養方法を提供する。例えば、それほど増殖能力のない、しかし通常の2次元培養では死んでしまうような、初代培養神経細胞などは、このカプセル内での培養に適している(培養は必ずしも増殖をともなわない)。また、増殖性の細胞でも、ECMを分解する酵素を出して上手く増えるものもあるであろう。また、カプセルの中に空間をつくって細胞を増やすようなアプローチも可能である。例えば、アルギン酸ゲルの中に細胞や細胞凝集体を埋め込み、それをさらにECMゲルでカプセル化する。なお、アルギン酸は塩化カルシウム容器に滴下する方法でゲル化できる(いわゆる人工いくら)。出来上ったアルギン酸ゲルとECMゲルの二重カプセルを、アルギン酸リアーゼという酵素で処理して、アルギン酸ゲル部分だけを消化する。この酵素はECMゲルは消化しない。したがって、このような方法で中空のECMカプセルをつくることができ、その中の空間で細胞を増やすことができる。この方法であれば、ある程度増える細胞でもしばらくカプセルは破れない。
また、本発明の方法で作製した、細胞又は細胞凝集体を封入した高分子カプセルを3Dバイオプリンターで並べてもよい。例えば、低濃度の高分子(例えば、ECM)を充填した細胞凝集体(三次元細胞組織を形成していてもよい)を、さらに高濃度の高分子(例えば、ECM)でカプセル化して、それを3Dバイオプリンターで並べることもできる。よって、本発明の方法において、膨潤性材料を含有する培地へ添加する溶液に含まれる少なくとも1個の細胞は、本発明の方法で作製した高分子が充填された細胞又は細胞凝集体であってもよい。

【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
[本技術の概要]
細胞を用いた細胞アッセイや再生医療において、それら細胞の三次元的な組織化は細胞の分化能を高めるために有効な手段であると考えられている。しかし、薬剤スクリーニングや再生医療で求められるような、より高付加価値な三次元組織の作製のためには、さらに工夫を凝らした構築方法が求められている。例えば我々の体内に存在する臓器は、細胞と細胞外マトリクス(ECM)が積層化されて成り立っていることから、ECMを積極的に活用することは三次元臓器の機能を向上させるために効果的だと考えられる。
本技術は、オイルフリーで細胞を含むECMゲルカプセルを作る方法、および細胞凝集体内部にECMやデキストランなどの水溶性高分子を任意の濃度で混ぜ込む方法に関するものであり、三次元細胞組織の性状や機能を制御して様々な価値を付与する技術を提供する。

[本技術の利点]
三次元細胞組織は、従来の方法であれば96穴U字ボトムプレート法やハンギングドロップ法が利用される。これらの方法でもECMを細胞組織の内部に混ぜ込むことが可能であるが、三次元細胞組織がU字ボトムプレートやドロップ(液滴)の底に細胞が集まることで形成されるのに対し、ECMは可溶性であるために培養液中に均等に存在する。したがってECMのほとんどは細胞凝集に寄与することができない。96穴U字ボトムプレート法では培養液を100 μl、ハンギングドロップ法でも20 μlを使用する。凝集体を作るときに一般的な細胞数である2000細胞が占める量は細胞の直径を20 μmとすると8.4ナノリットル程度である。したがって、8.4 nl/100 μl = 1/12000あるいは8.4 nl/20 μl = 1/2400程度の効率でしか、ECMが三次元細胞組織に混じり込んでいない計算になる。一方、本発明では1 μlのECM含有培地に2000個の細胞を混ぜて、ECMと細胞とを同時に凝集させることで、大半のECMを効率よく三次元細胞組織に寄与させることができる(図1)。このために、ECMにかかる費用を数千~1万分の1程度にできるほか、大量に合成できないような人工ECMや、対象が小さい生物であるなどの理由からごく少量しか抽出できない希少ECMを有効に使うことができる。

[方法と材料]
細胞
ヒト肝がん細胞株であるHep G2細胞を使用した。Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM、10%ウシ胎仔血清と抗生剤を含む)培地によって培養し、サブコンフルエントの状態で継代を行った。

ECMおよび高分子多糖類
マトリゲル(Matrigel Matrix Growth Factor Reduced, 354230, BD Bioscience)、FITC標識コラーゲン(4001, Chondrex)、FITC標識デキストラン(FD250S, Sigma-Aldrich)を使用した。マトリゲルは原液、あるいは冷やした培地で希釈した希釈液を用いた。FITC標識コラーゲンは、pHを中性に戻した後、冷やした培地で希釈して用いた。マトリゲルもコラーゲンも使用前に40 μmのストレーナーを用いて、予期せずゲル化した画分を除去した。FITC標識デキストランは培地で1.25 mg/mlの溶液をつくり、これを100倍希釈して用いた。

ECMゲルカプセルおよび水溶性高分子を充填した三次元細胞組織の作製
メチルセルロース(MC)を3%の濃度でDMEMに分散させたMC培地を35 mm ペトリディッシュに2 ml注ぎ、気泡を除くためや液面を平らにするためにしばらく静置した。ECMや多糖類など水溶性高分子を必要に応じて培地で希釈し、原液あるいは希釈液を用いてHep G2細胞を懸濁し、2×107 cells/mlの細胞密度に調製した。特にECMが入っているサンプルは氷上に保管するなど、温度の上昇によるゲル化が生じないように工夫した。この細胞およびECM懸濁液をマイクロピペットを用いて1 μlずつ、適当な間隔をあけてMC培地中に吐出した。35 mmペトリディッシュであれば100個程度のカプセルあるいは三次元細胞組織が形成可能である。吐出した水溶性高分子と細胞は10~30分程度で凝集状態となり、そのままMC培地の中で1~2日間培養を行った。ECMなどゲル化する高分子の場合、濃度が高い場合はゲルカプセル、低い場合は細胞凝集体が形成された。MC培地からこれらを回収する際、そのままだとMC培地の粘性が高いため、セルラーゼを用いてMCを分解することでMC培地の粘性を低下させた。

ECMゲルカプセルおよび三次元細胞組織の断面積計測
MC培地に細胞懸濁液を吐出して1日後に三次元細胞組織を位相差顕微鏡で観察し、一条件あたり5個の凝集体の断面積を計測して平均値及び標準偏差を求めた。

共焦点顕微鏡による三次元細胞組織の観察
FITC標識コラーゲンや、FITC標識デキストランを使用した場合は、細胞をPKH26(Sigma-Aldrich)にて事前に染色しておき、回収したECMゲルカプセルなどの三次元細胞組織を共焦点顕微鏡(Leica)によって観察した。

ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色
MC培地から回収したECMゲルカプセル・三次元細胞組織をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄した後、4%のパラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間固定作業を行った。50個程度の凝集体を含んだ少量の1%アルギン酸溶液を10%塩化カルシウム溶液を添加することでゲル化し、ゲルごとパラフィンに包埋して切片を作製した。薄切したサンプルを親水化した後、HE染色を行った。

アルブミン分泌アッセイ
三次元細胞組織をMC培地から回収した後、2 mlの新鮮培地とともに10個程度ずつ6穴プレートにいれ24時間培養した。培養前と培養後における培地中のアルブミン濃度をELISAキットによって測定した。三次元組織は別に回収してDNA量を定量し、単位DNA量および単位時間あたりのアルブミン分泌活性を求めた。n=3で実験を行い、平均値及び標準偏差を算出した。

アンモニア除去アッセイ
三次元細胞組織をMC培地から回収した後、塩化アンモニウムを2 mMの濃度で添加した2 mlの培地とともに30個程度ずつ6穴プレートにいれ6時間培養した。培養前および培養後の培地中のアンモニア濃度をアンモニアテストワコーによって測定した。三次元組織は別に回収してDNA量を定量し、単位DNA量および単位時間あたりのアルブミン分泌活性を求めた。n=3で実験を行い、平均値及び標準偏差を算出した。

オイルによるゲルカプセル化および細胞傷害性試験
ミネラルオイル(M8410, Sigma-Aldrich)を35 mm ペトリディッシュに2 ml注ぎ、マトリゲル原液を用いてHep G2細胞を懸濁し、2×107 cells/mlの細胞密度に調製した。細胞を懸濁したマトリゲル溶液は氷上に保管するなど、温度の上昇によるゲル化が生じないように工夫した。この細胞懸濁マトリゲル溶液をマイクロピペットを用いて1 μlずつ、適当な間隔をあけてミネラルオイルに吐出し、CO2インキュベーター内でゲル化を行い、細胞を内包したゲルカプセルを作製した。MC培地にも同様に吐出して、ゲルカプセルを作製した。ミネラルオイルあるいはMC培地で30分間インキュベートした後、カプセルをとり出して洗浄し、LIVE/DEADアッセイ(Life Technologies)を実施した。このアッセイでは生細胞は緑色、死細胞は赤色の蛍光を発する。4%パラホルムアルデヒドですべての細胞を死滅させたときにはすべての核が赤色の蛍光を示すことから、赤色蛍光が占める面積を三次元細胞組織の総面積で除した数値を死細胞率100%とし、ミネラルオイルあるいはMC培地で作製したカプセル内部の死細胞率を求めた。

透過型電子顕微鏡による三次元細胞組織の微小構造の観察
三次元細胞組織(培養2日目)を3%グルタルアルデヒド、1%四酸化オスミウムで順次固定した後、脱水してエポン樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームで樹脂ブロックを薄切してサンプルを作製した。透過型電子顕微鏡を用いて観察を行った。

統計解析
t検定を行い、p<0.05のとき有意差であると判定した。[結果および考察]
MC培地を用いた、細胞とECMとの凝集現象
我々はこれまでにMC培地を用いて細胞を効率よく凝集させる技術について報告している[1]。具体的には、MC培地に対して1 μl程度の通常培地を細胞や粒子状物質とともに吐出すると、MC培地が通常培地を吸収・膨潤することで、細胞や粒子状物質が10~30分程度で凝集状態となる。MC培地は100 nm程度の直径をもつポリスチレン粒子をも凝集できる能力を持っている。しかし、ECMなどの水溶性高分子をMC培地中で拡散することなく凝集できるかどうかは不明であった。そこで、蛍光標識されたI型コラーゲン溶液(氷上でpHを中性に調整し、37℃に加温すればゲル化する状態)に細胞を懸濁して、これを冷やしたMC培地に吐出する実験を行った。吐出量は1 μlであり、およそ2000個のHep G2細胞が含まれる濃度に調整した。図1に示すように、赤色の蛍光で標識した細胞だけでなく、緑色の蛍光で標識されたECM成分も時間とともに凝集し、細胞とECMからなる三次元細胞組織を形成できることが分かった。
I型コラーゲンやマトリゲルは、その濃度によって、途中で凝集速度が遅くなってゲル化し、ゲルカプセルを形成することが予想される。そこで、マトリゲルを市販の状態(原液)から段階的に培地で希釈し、Hep G2細胞を2000個含む1 μlの溶液としてMC培地に吐出した。1日後に位相差顕微鏡で三次元細胞組織の断面積の平均を算出したところ、細胞単独では0.1 mm2程度であるのに対して、マトリゲル原液では0.8 mm2程度となった(図2)。マトリゲルを希釈していくと徐々に断面積が小さくなり、1/30の時に細胞単独の状態とほぼ同じになることが分かった(図2)。なおコラーゲンの場合でも濃度が高い場合は三次元細胞組織の断面積が大きくなってゲルカプセルとなるか1/40程度で細胞のみの三次元細胞組織と同等になることが分かっている。
マトリゲルの濃度によってゲルカプセルあるいは細胞主体の組織になることについて、より詳細に調べるために、三次元細胞組織のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った(図3)。マトリゲルを含まない培地で作製した細胞のみの三次元細胞組織と比較して、マトリゲル原液を用いた場合は、ゲルのカプセルの中に細胞が散らばって存在していることが分かった。一方、マトリゲルを1/30で希釈すると、細胞のみの状態とほぼ同じ組織像が得られることが分かった。
マトリゲル1/30やコラーゲン1/40の状態で、三次元細胞組織は細胞だけの場合とほぼ同じ大きさとなるが、その内部にECMが残存しているかどうかを確かめるために、蛍光標識したコラーゲンを用いて三次元細胞組織を作製し、共焦点顕微鏡を用いて組織内部の観察を行った。その結果、コラーゲン1/40(およそ0.1 mg/ml)では細胞間に網目状にコラーゲンが充填されている様子が明らかとなった。また、12.5 μg/ml程度の蛍光標識デキストランについてもECMと同様に三次元細胞組織の細胞間に充填できたことから、マトリゲルやコラーゲンなどのたんぱく質高分子だけでなく、デキストランなどの多糖類高分子についても本手法で扱うことができることが明らかとなった(図4)。水溶性のたんぱく質高分子や多糖類高分子がMC培地によって拡散することなく濃縮できることから、他の水溶性高分子についても同様の効果を持つことが期待できる。
本発明を用いることで、ECMによる細胞のカプセル化、細胞凝集体内部へのECMや多糖類など水溶性高分子の充填などを行い、それによって従来法では実施できなかった細胞培養を実施する、あるいは細胞機能を引き出すことができる。一例として、Hep G2細胞の肝機能を高める条件についてマトリゲルを用いて検討した。図5はマトリゲル原液、あるいは培地で希釈したマトリゲルを用いて三次元細胞組織を作製し、アルブミン分泌活性を比較した結果である。マトリゲルの濃度が比較的高い条件、すなわちマトリゲルのカプセルを作る条件では細胞と細胞とが離れてしまい、アルブミン分泌活性はマトリゲルを加えていない細胞だけのコントロールに比べて低くなることが分かった。興味深いことにマトリゲルを薄めていくと、1/30の希釈率においてアルブミン分泌活性がコントロールよりも高くなることが分かった。この効果はさらにマトリゲルを希釈していくことで消失した。以上の結果から、Hep G2のアルブミン分泌活性において、細胞が接着することあるいはかなり近くまで接近することがまず重要であり、マトリゲルが細胞の周囲にたくさんあるカプセル状態では分泌活性が高くならないこと、細胞が接着するほど近づいている状態で細胞間に薄くマトリゲルが存在するときには、細胞-細胞間だけでなく細胞-マトリゲル間の効果が現れ、コントロールよりも高いアルブミン分泌活性を示していると予想された。
アルブミン分泌活性と同様にHep G2細胞におけるアンモニア除去活性についても、マトリゲルの希釈率の違いによる効果を検討した。その結果、アルブミン分泌活性と同様の傾向が得られ、Hep G2細胞はマトリゲルを1/30程度に薄めた培養液中で凝集させることで、機能を高めることができることが示された。このような結果は逆に細胞密度が低く保たれることが求められる条件では、結果が逆転することが容易に想像できる。希釈率やゲルの種類は細胞種ごとにことなると思われるため最適化が必要ではあるが、本発明を用いることで様々な機能に優れた三次元細胞組織を作製できる可能性がある。
従来法であるオイルを用いたECMゲルのカプセル化とMC培地を用いたカプセル化において、内包された細胞への傷害性について比較を行った。マトリゲル原液の溶液にHep G2細胞を懸濁し、これをミネラルオイル(マウス胚培養試験済製品)に1 μl吐出して30分間、CO2インキュベーターで培養することでゲルカプセルを作製した。その後、カプセルをとり出して洗浄を行い、細胞の生死をLIVE/DEAD試薬を用いて検証した。その結果、ミネラルオイル中でカプセル化を行ったものは赤い死細胞が一定量みられるのに対し、MC培地で作製したカプセルでは死細胞はほとんどみられなかった(図7)。定量的に評価を行ったところ、ミネラルオイルとMC培地によるカプセル化の間には有意な差が見られた(図9)。今回購入したミネラルオイルはマウスの胚培養を行うために作製されており、細胞毒性を示す化合物は入っていない。しかしながらミネラルオイルに起因すると思われる細胞死がみられ、オイルが細胞に触れるような操作が伴う場合は細胞生存率が減少することが示唆された。MC培地を用いたカプセル化ではそのような細胞死を防ぐことができていることから、大きな利点を持つことが分かった。
Hep G2細胞のみによる三次元細胞組織と1/30に希釈したマトリゲルとともに凝集させた三次元細胞組織の内部構造を比較したところ、マトリゲルを充填した場合には毛細胆管と思われる微絨毛が発達した構造が多くみられることがわかった。三次元細胞組織にECMを効率良く充填することによって、組織構造を実際の臓器により近づけることができることを示す結果である。

[結論]
ECMやデキストランなど、水溶性の多糖類はMCなど別種の高分子溶液の中を拡散できず、またその濃度差が大きい場合、すなわちECMやデキストリンの濃度が低く、MCの濃度が高い場合には、ECMやデキストリン側の水分をMC溶液が吸収・膨潤することで、ECMやデキストリンが濃縮されることが明らかとなった。このような手法によるゲルカプセルやECMなどを含む三次元細胞組織の作製方法は、従来法に比べて効率よくECMを使用することができ、またオイルなどによる細胞への影響を無視できる。また、実際にアルブミン分泌活性を高めることや毛細胆管構造の再建も確認できており、試験管内で高機能かつ微細構造を備えた組織を作るために必要不可欠な技術となることが予想される。

参考文献
1. Kojima, N., Takeuchi, S. and Sakai, Y. Rapid aggregation of heterogeneous cells and multiple-sized microspheres in methylcellulose medium. Biomaterials, 33, 4508-4514 (2012).

本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、創薬(細胞機能を指標とした薬剤スクリーニング)、human-on-a-chip(人間の臓器を小さなデバイスに埋め込んで、臓器間の相互作用など種々のアッセイを行う)、再生医療(iPS細胞由来の様々な分化細胞の組織化)などに利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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