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明細書 :癌治療薬剤ならびに治療方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年4月19日(2018.4.19)
発明の名称または考案の名称 癌治療薬剤ならびに治療方法
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/02        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C07K  16/32        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61K 48/00
A61P 35/02
A61P 35/00
A61P 43/00 111
A61K 31/713
C12Q 1/04
C12Q 1/68 A
C12N 15/00 ZNAG
C07K 16/32
国際予備審査の請求
全頁数 31
出願番号 特願2017-524803 (P2017-524803)
国際出願番号 PCT/JP2016/066393
国際公開番号 WO2016/208348
国際出願日 平成28年6月2日(2016.6.2)
国際公開日 平成28年12月29日(2016.12.29)
優先権出願番号 2015128139
優先日 平成27年6月25日(2015.6.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】新森 加納子
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100174791、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 敬義
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4C084
4C086
4H045
Fターム 4B063QA07
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
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4B063QS34
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC41
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
要約 【課題】肺小細胞癌をはじめとする神経分化を示す癌において,Matrin-3をはじめとする幹細胞制御因子の役割を明らかにするとともに,その役割をもとにした癌の治療に有用な薬剤等の開発。
【解決手段】癌幹細胞制御機構を有する癌のうち,分化能を示す癌においては,正常細胞と比較して,幹細胞維持因子と分化促進因子が共に高発現しており,特有のバランスを保持している。また,未分化性の癌においては,正常細胞と比較して,幹細胞維持因子が高発現しており,特有のバランスを保持している。癌幹細胞制御機構が存在する癌においては,これら正常細胞と異なる特有の幹細胞制御因子のバランスが存在するものであり,本発明の癌治療薬剤ならびに癌治療方法では,この幹細胞制御因子のバランスを破綻させることにより,癌の増殖性を抑制するものである。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌において,癌幹細胞制御機構を破綻させることにより,癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする癌治療薬剤

【請求項2】
癌幹細胞制御機構の破綻が,幹細胞制御因子もしくはリン酸化幹細胞制御因子の発現量を抑制することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の癌治療薬剤

【請求項3】
癌幹細胞制御機構の破綻が,幹細胞制御因子のリン酸化を阻害することにより行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の癌治療薬剤

【請求項4】
前記幹細胞制御因子が,癌細胞における核内に存在する幹細胞制御因子であることを特徴とする請求項1から3に記載の癌治療薬剤

【請求項5】
前記幹細胞制御因子の発現量の抑制が,抗幹細胞制御因子抗体を有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする請求項2に記載の癌治療薬剤

【請求項6】
前記リン酸化幹細胞制御因子の発現量の抑制が,抗リン酸化幹細胞制御因子抗体を有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする請求項2に記載の癌治療薬剤

【請求項7】
前記幹細胞制御因子の発現量の抑制が,幹細胞制御因子に対するsiRNAを有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする請求項2に記載の癌治療薬剤

【請求項8】
前記siRNAが,配列番号1から6に記載される配列であることを特徴とする請求項7に記載の癌治療薬剤

【請求項9】
前記幹細胞制御因子が,Matrin-3,INI1,hnRNPK,MBD3,SFRS3のいずれか又は複数から選択されることを特徴とする請求項1から8に記載の癌治療薬剤

【請求項10】
分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌が,神経内分泌腫瘍であることを特徴とする請求項1から9に記載の癌治療薬剤

【請求項11】
分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌が,肺小細胞癌,白血病,乳癌,大腸癌,胃癌,直腸癌,皮膚癌,前立腺癌,卵巣癌,子宮体癌,膵臓癌,骨肉腫,神経芽細胞腫癌のいずれかから選択されることを特徴とする請求項1から9に記載の癌治療薬剤

【請求項12】
分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌において,癌幹細胞制御機構を破綻させることにより,癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする癌の治療方法

【請求項13】
癌組織における幹細胞制御因子の発現を調べることにより,癌治療薬の治療効果を予測することを特徴とする癌の体外診断用キット

【請求項14】
生検により採取された癌細胞を含む生検サンプルから組織切片を作製し,幹細胞制御因子の免疫染色を行うことにより,幹細胞制御因子の発現を調べ,癌治療薬剤の治療効果を予測することを特徴とする治療効果予測方法

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,癌を治療する薬剤ならびに治療方法等に関する。より詳細に説明すると本発明は,Matrin-3などの幹細胞制御因子の発現やリン酸化をコントロールすることにより,肺小細胞癌など特定の癌において存在する幹細胞性維持機構・神経分化機構を破綻させ,結果として,癌の増殖を抑制することをメカニズムとする癌治療薬剤ならびに癌治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
肺小細胞癌は,他の癌細胞と比較すると細胞のサイズが小さいことから,そのように命名されている。
肺小細胞癌の特徴としては,肺癌の中でも最も進行が速く,低分化で急速に増殖する。そのため,肺小細胞癌では,早い時期からリンパ節や他臓器への転移が見られ,殆どの場合,進行癌の状態で発見される。結果として,肺小細胞癌は,他の癌と比較しても,致死率が高いことが知られている。
【0003】
現在,肺小細胞癌の治療としては,抗癌剤や放射線による治療が行われている。しかしながら,これらの治療は,余命の延長には寄与するものの,完治は極めて困難なのが現状である。肺小細胞癌において,肺小細胞癌の早期発見,腫瘍の成長の抑制,転移の抑制が可能になれば,治療成績が飛躍的に向上すると考えられる。しかしながら,肺小細胞癌の分子基盤については未解明な点が多いため,高い治療効果が期待できる有効な治療法が無いのが現状である。
【0004】
このような特徴を有する肺小細胞癌であるが,もう一つの特徴として,神経分化を示すことが知られている。
神経分化とは,幹細胞が幹細胞維持因子により,神経系の細胞へと分化する現象である。この神経分化がどのようにコントロールされているかについて研究が行われているものの,明らかにはなっていない。また,神経分化が,肺小細胞癌の病態と関係するか否かについては全く明らかになっておらず,当然のことながら,治療薬の開発にはつながっていない。
【0005】
一方,Matrin-3は,最近,重要な知見が立て続けに報告されていることで,注目が集まっている分子である。
Matrin-3は125-kDaの核内蛋白質であり(非特許文献1,非特許文献2),chromatin organisation, DNA replication, RNA processingなどの機能を有することが知られている(非特許文献3)。Matrin-3は,これまで,Neuroscienceのフィールドではほとんど解析されてこなかった分子であった。しかしながら,最近ではMatrin-3の遺伝子に変異があるとfamilial amyotrophic lateral sclerosisになることや(非特許文献4),Matrin-3ネットワークが,ホメオドメイン転写プログラムに必須であること(非特許文献5)などが報告されている。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Nakayasu. H, Berezney. R, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 88, 10312-10316 (1991).
【非特許文献2】Belgrader. P, Dey. R, Berezney. R, J. Biol. Chem. 266, 9893-9899 (1991).
【非特許文献3】Salton. M et al., PLoS One 6, e23882 (2011).
【非特許文献4】Skowronska-Krawczyk. D et al., Nature 514, 257-261 (2014)
【非特許文献5】Johnson. J.O et al., Nat. Neurosci. 17, 664-666 (2014).
【発明の概要】
【0007】
発明者は,プロテオミクス研究について,特許技術でもある翻訳後修飾プロテオミクス法(特開2013-61253)を開発するほどの第一人者である。
発明者は,脳における神経分化のメカニズムを明らかにするため,前述の翻訳後修飾プロテオミクス法を用い解析を行った。その結果,マウス胎仔脳発生において神経分化への関与が示唆される,約4000個にも及ぶ新規制御因子を発見することに成功した。
発明者は,かかる新規制御因子について解析を行い,約4000個の中から,制御因子として興味深い役割を果たすいくつかの分子を見出した。
【0008】
見出された分子の一つに,Matrin-3が含まれていた。その後のさらなる検討の結果,Matrin-3は,神経幹細胞の未分化性維持をつかさどっていることを発明者は明らかにした。
すなわち,神経幹細胞が未分化性を維持しているとき,Matrin-3は高い発現量を示すとともにリン酸化が亢進していた。一方,神経分化を示す際,Matrin-3は,発現量が低下し脱リン酸化していた。このように,Matrin-3は,神経幹細胞の維持に働き,神経分化を阻害する方向で機能していた。
【0009】
このMatirin-3の役割とは逆に,神経分化を促進する分子の一つとして,INI1が見出された。
すなわち,神経幹細胞が未分化性を維持しているとき,INI1は低い発現量を示すとともに脱リン酸化状態にあった。一方,神経分化を示す際,INI1は,発現量が増加し,リン酸化が亢進していた。
【0010】
これらMatrin-3とINI1で確認されたように,脳においては,幹細胞の未分化性を維持する幹細胞維持因子と分化を促進する幹細胞分化促進因子(以下,幹細胞維持因子と幹細胞分化促進因子をまとめて,「幹細胞制御因子」と略する)が存在する。そして,この幹細胞制御因子の発現量の調整ならびにリン酸化・脱リン酸化により,神経分化をコントロールするというメカニズム(以下,「幹細胞制御機構」と略する)は,肺小細胞癌においても存在するのではないかと発明者は考えた。
【0011】
上記事情を背景として本発明では,肺小細胞癌をはじめとする神経分化を示す癌において,Matrin-3をはじめとする幹細胞制御因子の役割を明らかにするとともに,その役割をもとにした癌の治療に有用な薬剤等の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は,鋭意研究の結果,肺小細胞癌においてMatrin-3やINI1等の幹細胞制御因子が発現しており,脳と同様の幹細胞制御機構が存在することを発見した。
すなわち,発明者は,肺小細胞癌においてMatrin-3が高発現していることを確認し,このMatrin-3の発現量の調節およびリン酸化・脱リン酸化により,肺小細胞癌の神経分化がコントロールされていることを発見した。加えて,INI1においても,神経幹細胞が未分化性を維持しているとき,INIは低い発現量を示すとともに脱リン酸化状態にある一方,神経分化を示す際,INI1は,発現量が増加しリン酸化が亢進することを発明者は発見した。
【0013】
発明者は,さらなる検討を行ったところ,幹細胞維持因子として機能するMatrin-3,分化促進因子として機能するINI1,これらタンパク質の発現を抑制することにより,癌細胞の増殖が抑制されることを発見した。
この発見は,容易に想到しうるものではない。すなわち,未分化性維持と分化促進,矛盾するそれぞれの役割を果たすタンパク質が,いずれもその発現量を抑制することにより,同様に癌の増殖を抑制しうるからである。
【0014】
発明者は,さらなる検討の結果,癌細胞では,正常細胞と比較して,幹細胞維持因子と分化促進因子が高度に発現し,これらが癌細胞特有のバランスを維持していることを見出した(以下,このバランスを保つ機構を「癌幹細胞制御機構」と略する)。そしてこの癌幹細胞制御機構が破綻することで,癌細胞の増殖を抑制しうることを確認し,発明を完成させたものである。
【0015】
さらに発明者は,幹細胞が強く関与する未分化性の癌や神経内分泌腫瘍において,幹細胞維持因子が強く発現しており,肺小細胞癌と類似の幹細胞制御機構が存在することを確認し,発明を完成させたものである。
【0016】
本発明は,下記の構成からなる。
本発明の第一の構成は,分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌において,癌幹細胞制御機構を破綻させることにより,癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする癌治療薬剤である。
【0017】
本発明の第二の構成は,癌幹細胞制御機構の破綻が,幹細胞制御因子もしくはリン酸化幹細胞制御因子の発現量を抑制することにより行われることを特徴とする第一の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第三の構成は,癌幹細胞制御機構の破綻が,幹細胞制御因子のリン酸化を阻害することにより行われることを特徴とする第一又は第二の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第四の構成は,前記幹細胞制御因子が,癌細胞における核内に存在する幹細胞制御因子であることを特徴とする第一から第三の構成に記載の癌治療薬剤である。
【0018】
本発明の第五の構成は,前記幹細胞制御因子の発現量の抑制が,抗幹細胞制御因子抗体を有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする第二の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第六の構成は,前記リン酸化幹細胞制御因子の発現量の抑制が,抗リン酸化幹細胞制御因子抗体を有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする第二の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第七の構成は,前記幹細胞制御因子の発現量の抑制が,幹細胞制御因子に対するsiRNAを有効成分とする薬剤によりなされることを特徴とする第二の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第八の構成は,前記siRNAが,配列番号1から6に記載される配列であることを特徴とする第七の構成に記載の癌治療薬剤である。
【0019】
本発明の第九の構成は,前記幹細胞制御因子が,Matrin-3,INI1,hnRNPK,MBD3,SFRS3のいずれか又は複数から選択されることを特徴とする第一から第八の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第十の構成は,分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌が,神経内分泌腫瘍であることを特徴とする第一から第九の構成に記載の癌治療薬剤である。
本発明の第十一の構成は,分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌が,肺小細胞癌,白血病,乳癌,大腸癌,胃癌,直腸癌,皮膚癌,前立腺癌,卵巣癌,子宮体癌,膵臓癌,骨肉腫,神経芽細胞腫癌のいずれかから選択されることを特徴とする第一から第九に記載の癌治療薬剤である。
【0020】
本発明の第十二の構成は,分化能を示す癌,並びに,未分化性を有する癌において,癌幹細胞制御機構を破綻させることにより,癌細胞の増殖を抑制することを特徴とする癌の治療方法である。
本発明の第十三の構成は,癌組織における幹細胞制御因子の発現を調べることにより,癌治療薬剤の治療効果を予測することを特徴とする癌の体外診断用キットである。
本発明の第十四の構成は,生検により採取された癌細胞を含む生検サンプルから組織切片を作製し,幹細胞制御因子の免疫染色を行うことにより,幹細胞制御因子の発現を調べ,癌治療薬剤の治療効果を予測することを特徴とする治療効果予測方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により,肺小細胞癌をはじめとする分化能を示す癌や未分化性の癌における癌幹細胞制御機構の存在が明らかとなった。これにより,癌における幹細胞制御因子により構築される増殖機構を破綻させることをメカニズムとした癌の治療や診断に有用な薬剤等の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】神経幹細胞から抽出した核タンパク質の二次元電気泳動解析結果を示した図
【図2】Matrin-3-siRNA存在下・非存在下において神経幹細胞を培養した様子を示した図
【図3】ヒト病理組織におけるMatrin-3免疫染色結果を示した図
【図4】ヒト病理組織におけるリン酸化Matrin-3免疫染色結果を示した図
【図5】Matrin-3-shRNAを導入した肺小細胞癌培養株の様子を示した図
【図6】Matrin-3-shRNAを導入した抗癌剤耐性を有する肺小細胞癌培養株の様子を示した図
【図7】Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を皮下移植したマウスの様子を示した図
【図8】Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を皮下移植したマウスから摘出した腫瘍の様子を示した図
【図9】Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を皮下移植したマウスから摘出した腫瘍サイズの経時的変化を示した図
【図10】複数種の癌細胞培養株のタンパク質抽出液がメンブレン上にブロットされたディップスティック アレイにおける,抗Matrin-3抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示した図
【図11】複数種の癌細胞培養株のタンパク質抽出液がメンブレン上にブロットされたディップスティック アレイにおける,抗Matrin-3抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示した図
【図12】複数種の癌細胞培養株のタンパク質抽出液がメンブレン上にブロットされたディップスティック アレイにおける,抗Matrin-3抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示した図
【図13】ウェスタンブロット法を用いて肺癌培養株における癌幹細胞制御因子の発現プロファイルを解析した結果を示した図
【図14】ウェスタンブロット法を用いて肺癌培養株におけるINI1の発現プロファイルを解析した結果を拡大して示した図
【図15】ウェスタンブロット法を用いて肺癌培養株におけるリン酸化されたINI1の発現プロファイルを解析した結果を示した図
【図16】細胞増殖マーカーKi67を指標として,INI1-siRNAを用いて,INI1が肺小細胞癌培養株の増殖にどのような影響を及ぼすかを画像解析により調べた図
【図17】細胞増殖マーカーKi67を指標として,INI1-siRNAを用いて,INI1が肺小細胞癌培養株の増殖にどのような影響を及ぼすかを画像解析により調べ,これを蛍光強度により数値化して比較した図
【図18】神経分化マーカーCGAを指標として,INI1-siRNAを用いて,INI1が肺小細胞癌培養株の神経分化にどのような影響を及ぼすかを画像解析により調べた図
【図19】神経分化マーカーCGAを指標として,INI1-siRNAを用いて,INI1が肺小細胞癌培養株の神経分化にどのような影響を及ぼすかを画像解析により調べ,これを蛍光強度により数値化して比較した図
【図20】ヒト病理組織におけるINI1免疫染色結果を示した図
【図21】ヒト病理組織切片を用いて,神経分化を示す皮膚癌であるメルケル細胞癌と,神経分化を示さない他の皮膚癌とのMatrin-3の免疫染色結果を比較した図
【図22】ヒト病理組織切片を用いて,メルケル細胞癌におけるリン酸化Matrin-3の免疫染色結果を示した図
【図23】ヒト病理組織切片を用いて,メルケル細胞癌におけるINI1の免疫染色結果を示した図
【図24】ヒト病理組織切片を用いて,神経分化を示す胃神経内分泌癌の各分子の免疫染色結果を比較した図
【図25】ヒト病理組織切片を用いて,神経分化を示す直腸神経内分泌癌の各分子の免疫染色結果を比較した図
【図26】ヒト病理組織切片を用いて,神経分化を示す直腸神経内分泌癌の各分子の免疫染色結果を比較した図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下,本発明について説明を行う。

【0024】
本発明の癌治療薬剤ならびに癌治療方法等については,癌幹細胞制御機構を破綻させることにより,癌の増殖を抑制することを原理とする。
本発明において,癌幹細胞制御機構とは,正常細胞と異なる幹細胞維持因子と分化促進因子のバランスにより,癌細胞特有の増殖性を維持する機構として定義される。
すなわち,癌幹細胞制御機構を有する癌のうち,分化能を示す癌においては,正常細胞と比較して,幹細胞維持因子と分化促進因子が共に高発現しており,特有のバランスを保持している。また,未分化性の癌においては,正常細胞と比較して,幹細胞維持因子が高発現しており,特有のバランスを保持している。癌幹細胞制御機構が存在する癌においては,これら正常細胞と異なる特有の幹細胞制御因子のバランスが存在するものであり,本発明の癌治療薬剤ならびに癌治療方法では,この幹細胞制御因子のバランスを破綻させることにより,癌の増殖性を抑制するものである。

【0025】
本発明において幹細胞維持因子とは,癌幹細胞の未分化性を保持する役割を果たす分子として定義される。かかる幹細胞維持因子としては,Matrin-3などが挙げられる。
また,本発明において分化促進因子とは,癌幹細胞の分化を促進する役割を果たす分子として定義される。かかる分化促進因子としては,INI1(SWI/SNF-related matrix-associated actin-dependent regulator of chromatin subfamily B member 1),hnRNPK(Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K),MBD3(Methyl-CpG-binding domain protein 3),SFRS3(Serine/arginine-rich splicing factor 3)などが挙げられる。

【0026】
癌幹細胞制御機構の破綻については,癌細胞において保たれている幹細胞制御因子のバランスを破綻させることにより行われる。
幹細胞制御因子のバランスを破綻させる手法としては,下記に掲げる手法が挙げられる。
(1) 幹細胞制御因子の発現抑制
(2) リン酸化幹細胞制御因子の発現抑制
(3) 幹細胞制御因子のリン酸化の阻害・抑制

【0027】
幹細胞制御因子の発現抑制については,幹細胞制御因子の発現が抑制できる限り種々の手法を採用することができる。
かかる抑制手法として,例えば,幹細胞制御因子に対する抗体を用いることができる。この場合,幹細胞制御因子に対する抗体そのものに限定されず,これをフラグメント化したもの,もしくは化学的修飾により体内動態を改善したものなども用いることができる。

【0028】
また,別の抑制手法として,siRNA等を用いて,mRNAレベルで発現を抑制することができる。この場合,siRNAそのものに限定されず,これを化学的修飾したものや,リポソームなどで体内動態を改善したものなども用いることができる。
かかるsiRNAの一例として,配列番号1から6に開示される配列を有効成分として用いることが挙げられる。すなわち,かかる配列は,Matrin-3に対するsiRNAであり,Matrin-3のmRNAに作用し,遺伝子レベルでMatrin-3の発現を抑制する。

【0029】
なお,本発明において,有効成分とは,薬効を発揮する際の分子形態として定義される。そのため,例えば,siRNAや抗体を有効成分とした場合,siRNAや抗体そのものを薬剤として用いることもできるし,化学的修飾やリポソームなどによりDDS化したものを薬剤として用いることもできる。

【0030】
リン酸化幹細胞制御因子の発現抑制については,リン酸化幹細胞制御因子の発現が抑制できる限り種々の手法を採用することができる。かかる手法として,例えば,リン酸化幹細胞制御因子に対する抗体を用いたり,siRNA等を用いてmRNAレベルでタンパク質の発現を抑制するなどである。

【0031】
幹細胞制御因子のリン酸化の阻害・抑制については,幹細胞制御因子のリン酸化の阻害・抑制が可能である限り種々の手法を採用することができる。かかる手法として,リン酸化部位に結合し,リン酸化を防止する低分子化合物などが挙げられる。

【0032】
本発明の幹細胞制御因子として,癌細胞における核内に存在する幹細胞制御因子をターゲットとすることが好ましい。かかる核内に存在する幹細胞制御因子としては,INI1,hnRNPK,MBD3,SFRS3など,癌幹細胞制御機構への寄与が高い幹細胞制御因子が存在するため,これらを抑制等することにより,癌の増殖を効果的に抑制しうることが可能となる。

【0033】
本発明において癌幹細胞制御機構を有する癌とは,癌細胞のうち幹細胞の性質を持つ細胞を有する癌として定義され,分化能を示す癌,もしくは未分化性の癌についてもこれに含まれるものである。
すなわち,本発明の癌治療薬剤又は癌治療方法の対象となる癌は,正常細胞と異なる幹細胞維持因子と分化促進因子のバランスにより,増殖性が維持されており,かかる癌細胞制御因子が高発現している癌と換言することができる。

【0034】
未分化能を示す癌としては,甲状腺未分化癌が挙げられ,組織学的にも臨床上も悪性度が高く,その治療法は確立していないのが現状である。
神経分化を示す癌としては,神経内分泌腫瘍が挙げられ,臓器特異的に限定しうるものではない。すなわち,神経内分泌腫瘍は,消化管,肺,肝臓,胆嚢,膵臓など全身の各臓器に発生しうるものである。
なお,肺小細胞癌は,神経分化を示す癌を代表する癌の一つであるとともに,未分化性を示し,これら両方の性質を有するものである。

【0035】
このように,癌幹細胞制御機構を有する癌は,多岐にわたり,単純に限定することは困難である。よって,各種癌マーカーないし癌幹細胞制御因子の発現を調べることにより,特定することが好ましい。
一例として,神経内分泌腫瘍は,シナプトフィジン,クロモグラニンA,NSE(neuron specific enolase)などの神経分化・神経内分泌マーカーを発現するため,これを調べることにより,本発明の癌治療薬剤の適用となりうるかを確認することができる。
また別の例として,急性骨髄性白血病,乳癌,脳腫瘍,前立腺癌,大腸癌,頭頸部扁平上皮癌,膵臓癌などは,癌幹細胞マーカーを発現し悪性度の高い癌として知られており,この癌幹細胞マーカーを調べることにより,本発明の癌治療薬剤の適用となりうるかを確認することができる。

【0036】
このように,本発明の癌治療薬剤又は癌治療方法の対象となる癌は,分化能を示す癌,もしくは未分化性の癌であるが,各種癌マーカーや癌細胞制御因子の発現を調べることにより,確認することが可能である。また,各種癌マーカーや癌細胞制御因子が発現する癌幹細胞制御機構を有する癌である限り,特定の組織の癌に限定されるものではない。すなわち,肺癌,膵臓癌,悪性黒色腫,乳癌,悪性リンパ腫,消化器癌,食道癌,胃癌,大腸癌,直腸癌,結腸癌,胆管癌,胆嚢癌,肝臓癌,舌癌,口腔癌,咽頭癌,喉頭癌,腎臓癌,卵巣癌,子宮癌,前立腺癌,甲状腺癌,脳腫瘍,血管腫,白血病,神経芽細胞腫,網膜芽腫,骨髄腫,膀胱腫,肉腫,骨肉腫,筋肉腫,皮膚癌,カポジ肉腫など,いずれの癌であっても,癌幹細胞制御機構を有していれば,本発明の癌治療薬剤又は癌治療方法の対象となる。

【0037】
本発明の癌の体外診断用キットでは,癌組織における幹細胞制御因子の発現を調べることにより,癌治療薬の治療効果を予測することを特徴とする。
幹細胞制御因子の発現については,その発現を確認しうる限り特に限定する必要はなく,種々の手法を採用することができる。
典型的には,評価対象となる各種癌の生検サンプルを採取後,病理切片を作製し,抗Matrin-3抗体など抗幹細胞制御因子抗体による免疫染色により,その発現を確認すればよい。また,病理切片や固定ブロックなどから,DNAやmRNAなどの核酸を抽出し,rtPCRなどでこれを調べることにより,幹細胞制御因子の発現を間接的に調べることができる。これらタンパク発現や核酸発現の結果から,本発明の癌治療薬剤等の治療効果予測ないし適用の有無などを判定することが可能となる。本発明においては,かかる免疫染色キットないし核酸抽出キットとして,体外診断用キットを構成することができる。
また,前述の免疫染色法により,癌治療薬剤の治療効果を予測することができる。すなわち,本発明の治療効果予測方法では,生検により採取された癌細胞を含む生検サンプルから組織切片を作製し,幹細胞制御因子の免疫染色を行うことにより,幹細胞制御因子の発現を調べ,癌治療薬剤の治療効果を予測することを特徴とするものである。
【実施例】
【0038】
<<実験例1,マウス胎仔脳における分化制御因子の抽出>>
特許技術である翻訳後修飾プロテオミクス法(特開2013-61253)を用いて,マウス胎仔脳から抽出される核タンパク質の解析を行い,神経分化制御に関与しうるタンパク質を抽出することを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0039】
<実験方法>
1.特開2013-61253に記載の方法に順じて行った。
2.すなわち,マウス胎仔脳から脳組織を取り出した。この脳組織から神経上皮細胞を分離し,細胞をシャーレに撒いた後,培地中にFGF2を添加して5日間培養することで神経幹細胞を得た。
3.得られた神経幹細胞について,FGF存在下・非存在下の二つの条件に分けて,培養を行った。
4.培養した細胞から蛋白質抽出キットを用いて,核蛋白質分画の可溶化を行った。これは,このサンプルについて,密度勾配遠心により核タンパク質の分離・精製を行ったことを意味する。
5.上記で得られたタンパク質抽出液について,二次元電気泳動による解析,画像解析を行った後,目的の蛋白質ゲルスポットを切出し,トリプシンにて酵素処理を行い,タンパク質をペプチド断片化させた。その後,質量分析器による蛋白質の同定を行った。
【実施例】
【0040】
<結果>
1.結果を図1に示す。
2.二次元電気泳動の結果,FGF2刺激で発現が変動した4096個のタンパク質が検出された。
3.これらのタンパク質群について,質量分析の結果からタンパク質の同定を行い,解析の結果,神経分化に強く関連していることが示唆される5つのタンパク質が検出された。これら5つのタンパク質はそれぞれ,INI1,hnRNPK,MBD3,Matrin-3,SFRS3であった。
【実施例】
【0041】
<<実験例2,Matrin-3-siRNA存在下・非存在下における神経幹細胞の培養>>
Matrin-3が,神経幹細胞の分化にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0042】
<実験方法>
1.実験例1と同様の方法で神経幹細胞を得た。細胞の形態を観察しやすいように,神経幹細胞にsiRNA処理をする際に,同時にGFPのプラスミドをエレクトロポレーションにより導入した。
2.神経幹細胞について,Matrin-3のsiRNAの存在下,又は非存在下,これら2つの条件で培養を行った。Matrin-3-siRNAは,サンタクルズ社から購入したものを用い,濃度については,100pmolの濃度に調整し,培養を行った。
3.サンタクルズ社から購入したsiRNAのカタログNo.は,sc-62605である。これは,マウスだけでなく,ヒトに対しても効果を示す配列となっている。また,A, B, C の3配列とも,ヒトmatrin-3 の5つの転写変異体との交差性は100%である。

(1) sc-62605A
Sense(配列番号1): GCUACCCAGUCUUUAAGUAtt
Antisense(配列番号2): UACUUAAAGACUGGGUAGCtt
(2) sc-62605B
Sense(配列番号3): CUAGUACUUCUUCCCAUAAtt
Antisense(配列番号4): UUAUGGGAAGAAGUACUAGtt
(3) sc-62605C
Sense(配列番号5): CCAUUUGGAGUCAUUUCAAtt
Antisense(配列番号6): UUGAAAUGACUCCAAAUGGtt

4.培養した神経幹細胞について,蛍光顕微鏡にて観察・撮影を行った。
【実施例】
【0043】
<結果>
1.結果を図2に示す。
2.Matrin-3の発現が抑制されていない場合,神経幹細胞は分化せず,その形態を維持していた。一方,Matrin-3-siRNAが存在した場合,Matrin-3の発現が抑制されるが,この場合,神経幹細胞は形態を維持することなく,突起伸長が起こり,ニューロンへと分化することが分かった。
3.これらの結果から,Matrin-3が,神経幹細胞において未分化性維持を担っていることが明らかとなった。
【実施例】
【0044】
<<実験例3,ヒト臨床病理検体を用いたMatrin-3の免疫組織染色>>
神経分化能を示す肺小細胞癌において,Matrin-3がどの程度発現しているかについて,神経分化能を示さない肺腺癌および肺扁平上皮癌と比較して検討することを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0045】
<実験方法>
1.熊本大学倫理規定に準じて,ヒト肺小細胞癌,ヒト肺腺癌,ヒト肺扁平上皮癌,これらそれぞれのホルマリン固定ブロックを入手し,実験を行った。
2.ブロックの薄切切片を作製し,一次抗体として抗Matrin-3マウスモノクローナル抗体(ライフスパン社製,No.LS-C72171),二次抗体としてAnti-mouse immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)を用いて,免疫染色を行った。
【実施例】
【0046】
<結果>
1.図3に,免疫染色の結果を示す。
2.肺腺癌や肺扁平上皮癌と比較して,肺小細胞癌においては,Matrin-3の染色を示す茶色い染色が強く現れていた。これより,肺小細胞癌では,他の癌と比較して,Matrin-3が高発現していることが明らかとなった。
【実施例】
【0047】
<<実験例4,ヒト臨床病理検体を用いたリン酸化Matrin-3の免疫組織染色>>
神経分化能を示す肺小細胞癌において,リン酸化されたMatrin-3がどの程度亢進しているかについて,神経分化能を示さない肺腺癌および肺扁平上皮癌と比較して検討することを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0048】
<実験方法>
1.実験例3に順じて実験を行った。
2.一次抗体として抗リン酸化Matrin-3ラビットポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories社製),二次抗体にはPolyclonal goat anti-rabbit immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)を用いた。
3.なお,抗リン酸化Matrin-3ラビットポリクローナル抗体は,Matrin-3の全アミノ酸配列の中でも208番目セリン残基のリン酸化を特異的に認識する抗体である。
<結果>
1.図4に,免疫染色の結果を示す。
2.肺腺癌や肺扁平上皮癌と比較して,肺小細胞癌においては,リン酸化Matrin-3の染色を示す茶色い染色が強く現れていた。これより,肺小細胞癌では,他の癌と比較して,Matrin-3のリン酸化が亢進していることが明らかとなった。
【実施例】
【0049】
<<実験例5,Matrin-3-shRNA導入肺小細胞癌培養株の培養>>
Matrin-3が,浮遊系の肺小細胞癌培養株(H69細胞)にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0050】
<実験方法>
1.H69細胞について,Matrin-3-shRNA(Origene社製)の導入を行い,培養を行った。
比較対象として,Matrin-3に対するsiRNAを有しないコントロールshRNAを導入したH69細胞についても,同条件にて培養を行った。
2.Matrin-3のshRNAの4種類の配列を下記に示す。

(1) Matrin-3-shRNA1(配列番号7)
TGAGTTCTTCATTGAATCAACAAGGAGCT
(2) Matrin-3-shRNA2(配列番号8)
TATCCAGAGGACAAGATTACTCCTGAGAA
(3) Matrin-3-shRNA3(配列番号9)
GATTTGCCAGTTCATTCTAATAAGGAGTG
(4) Matrin-3-shRNA4(配列番号10)
AAGTATGCCAGCATCTCTTGGAAGGATGA

3.培養したそれぞれの細胞について,顕微鏡にて観察・撮影を行った。
【実施例】
【0051】
<実験結果>
1.図5に,結果を示す。図中上が光学顕微鏡での観察結果を,図中下が蛍光顕微鏡での観察結果を示す。
2.Matrin-3-shRNAの導入を行ったH69細胞において,コントロールと比較して,細胞の増殖能が低下していた。また,この細胞については,わずかな細胞で安定株を樹立することが分かった。
3.これらの結果から,H69細胞は,Matrin-3の発現を抑制することにより,細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。
【実施例】
【0052】
<<実験例6,Matrin-3-shRNA導入抗癌剤耐性癌細胞株の培養>>
Matrin-3が,抗癌剤であるドキソルビジンに耐性を有する肺小細胞癌培養株(H69AR細胞)にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0053】
<実験方法>
1.H69AR細胞について,Matrin-3-shRNA(Origene社製)の導入を行い,培養を行った。比較対象として,Matrin-3に対するsiRNAを有しないコントロールshRNAを導入したH69AR細胞についても,同条件にて培養を行った。
2.培養したそれぞれの細胞について,蛍光顕微鏡にて観察・撮影を行った。
【実施例】
【0054】
<実験結果>
1.図5に,結果を示す。
2.Matrin-3-shRNAの導入を行っていないH69AR細胞については,細胞数に変化はなく,その形態も維持されていた。一方,Matrin-3-shRNAの導入を行ったH69AR細胞の場合,H69AR細胞は急激に減少し,培養3日後には,ほとんど死滅していた。
3.これらの結果から,H69AR細胞は,Matrin-3の発現を抑制することにより,死滅することが明らかとなった。
【実施例】
【0055】
<<実験例7,肺小細胞癌移植マウスにおける検討>>
実験例5で得られた,Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を,高度免疫不全マウスに皮下移植した。これらのマウスを経過観察し,その増殖の様子・腫瘍形成能を調べることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0056】
<実験方法>
1.実験例5で得られたMatrin-3欠損肺小細胞癌培養株を,高度免疫不全マウスに皮下移植を行った。高度免疫不全マウスであるRag2-/-/Jak3-/-マウス1匹あたりに2×106個の細胞を皮下移植した。比較対象として,実験例5で用いたコントロール培養株を皮下移植した。
2.皮下移植後に,腫瘍を取り出し,その外観の様子を確認するとともに,腫瘍サイズの計測を行った。
【実施例】
【0057】
1.図7は,皮下移植39日後のマウスの様子を示した図である。図から分かるとおり,Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を用いたマウスでは,コントロールと比較して腫瘍の大きさが小さいことが分かった。
2.図8は,皮下移植39日後のマウスから摘出した腫瘍の外観を示した図である。このように,Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を用いたマウスでは,コントロールと比較して腫瘍の増殖が抑制されていることが分かった。
3.図9は,マウスから摘出した腫瘍サイズの経時的変化を示した図である。このように,Matrin-3欠損肺小細胞癌培養株を用いたマウスにおいても腫瘍サイズの増加は起こるものの,その増加は,皮下移植39日後において,コントロールと比較して5分の1程度であることが分かった。
【実施例】
【0058】
<<実験例8,Matrin-3の各種癌における発現プロファイル解析>>
Matrin-3が,どのような癌に発現しているかを調べることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0059】
<実験方法>
1.白血病,乳癌,大腸癌,前立腺癌など複数種の癌細胞培養株のタンパク質抽出液がメンブレン上にブロットされたディップスティック アレイ(Protein Biotechnology社製,カタログNo.SLC-1,SLC-2,SLC-3)を用いて,ウェスタンブロッティングを行った。
2.Matrin-3を特異的に検出するための一次抗体として,抗Matrin-3マウスモノクローナル抗体(ライフスパン社製,No.LS-C72171)を用いた。また,二次抗体として,HRPで標識された抗マウス抗体(GEヘルスケア社製)を用いた。
3.ブロッキングには5%スキムミルクを用いた。また,一次抗体の希釈倍率は500倍で検出を行った。
4.Matrin-3のシグナル検出にはGEヘルスケア社のカタログNo. RPN2209 ECL Western Blotting Detection Reagentsを用いた。
5.なお,ウェスタンブロッティングをした後のディップスティック アレイを,金コロイドで染色を行い,各種癌細胞培養株の総タンパク量の検出強度を比較対象とした。
【実施例】
【0060】
<結果>
1.図10から図12に結果を示す。各図において,右側のWBが,抗Matrin-3抗体にて検出した結果を示している。また,左側のWPが,金コロイドにて検出した結果を示している。
2.図10の結果から,Matrin-3は,白血病,乳癌,大腸癌,前立腺癌等の癌にも発現することが明らかとなった。
3.図11の結果から,Matrin-3は,卵巣癌,子宮体癌等の癌にも発現することが明らかとなった。
4.図12の結果から,Matrin-3は,膵臓癌,骨肉腫,神経芽細胞腫等の癌にも発現することが明らかとなった。
【実施例】
【0061】
<<実験例9,ウェスタンブロット法を用いたMatrin-3, INI1, MBD3, SFRS3, hnRNPKの肺癌培養株における発現プロファイル解析>>
実験例1の結果,4096個のタンパク質が検出され(図1),その中から,神経分化制御に強く関連していることが示唆される5つのタンパク質が抽出された。これら抽出された5つのタンパク質である,INI1,hnRNPK,MBD3,Matrin-3,SFRS3が,肺癌培養株においてどのような発現様式をとるかを調べることを目的として,実験を行った。
【実施例】
【0062】
<実験方法>
1.ウェスタンブロット法を用いて,肺小細胞癌培養株(H69, H889, H69AR),及び,
非小細胞癌培養株(A549, H358, CALU6, H226, H2170)におけるINI1,hnRNPK,MBD3,Matrin-3,SFRS3の発現プロファイル解析を行った。非小細胞癌培養株(A549, H358, CALU6, H226, H2170)には,肺腺癌,及び,肺扁平上皮癌の培養株が含まれる。
2.肺小細胞癌培養株(H69, H889, H69AR),及び,非小細胞癌培養株(A549, H358, CALU6, H226, H2170)を培養し,蛋白質を抽出した後,SDS-PAGEにより,蛋白質をゲル上に分離した後,ウェスタンブロット用メンブレン(ニトロセルロース膜)に転写した。
3.INI1,hnRNPK,MBD3,Matrin-3,SFRS3,を特異的に検出するための一次抗体として,各々,抗INI1ラビットポリクローナル抗体(サンタクルズ社製,No.sc-13055),抗hnRNPKマウスモノクローナル抗体(サンタクルズ社製,No.sc-53620),抗MBD3マウスモノクローナル抗体(サンタクルズ社製,No.sc-166319),抗Matrin-3マウスモノクローナル抗体(ライフスパン社製,No.LS-C72171),抗SFRS3ラビットポリクローナル抗体(abcam社製,No.ab73891)を用いた。また,二次抗体として,各々の一次抗体の動物種に応じてHRPで標識された抗マウス抗体(GEヘルスケア社製),抗ラビット抗体(GEヘルスケア社製)を用いた。ブロッキングには各々の一次抗体に応じて0.5%~5%スキムミルクを用いた。また,一次抗体の希釈倍率は抗Matrin-3抗体,抗INI1抗体は500倍,抗MBD3抗体,抗hnRNPK抗体は200倍,抗SFRS3抗体は2000倍で検出を行った。
4.INI1,hnRNPK,MBD3,Matrin-3,SFRS3,のシグナル検出にはGEヘルスケア社のカタログNo. RPN2209 ECL Western Blotting Detection Reagentsを用いた。
【実施例】
【0063】
<結果>
1.図13に結果を示す。抗Matrin-3抗体にて検出した結果を示している。その結果,Matrin-3は肺小細胞癌培養株において特に強い発現を示すことが明らかとなった。
2.図13の結果から,抗INI抗体にて検出した結果を示している。また,図14は,INI1の結果を拡大した図である。
(1) 図13より,INI1は肺小細胞癌培養株において特に強い発現を示すことが明らかとなった。
(2) 図14より,INI1については,INI1陽性反応を示したバンドが二つ認められた。このことから,INI1の一部がリン酸化され,INI1そのものとリン酸化INI1が検出されている可能性が強く示唆された。すなわち,INI1がリン酸化されると,リン酸基が蛋白質に修飾される分,分子量が約79Da増加する。そのため,SDS-PAGE上,泳動速度が遅くなり,バンドが2本観察される。よって,2本のバンドのうち,上のバンドがリン酸化型INI1,下のバンドが非リン酸化型INI1であることが強く示唆された。
3.図13の結果から,抗MBD3抗体にて検出した結果を示している。その結果,MBD3は肺小細胞癌培養株において特に強い発現を示すことが明らかとなった。
4.図13の結果から,抗SFRS3抗体にて検出した結果を示している。その結果,SFRS3は肺小細胞癌培養株において特に強い発現を示すことが明らかとなった。その他,非肺小細胞癌においても発現が認められた。
5.図13の結果から抗hnPNPK抗体にて検出した結果を示している。その結果,hnRNPKは肺小細胞癌培養株において特に強い発現を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0064】
<<実験例10,肺小細胞癌培養株におけるリン酸化INI1の解析>>
実験例9の結果から,INI1が,リン酸化している可能性が示唆された。また,これまでの報告で,INI1のセリン129がリン酸化されることが報告されている (Matsuoka S et al., Science. 316:1160-1166. (2007))。そこで,INI1のセリン129番目のリン酸化を特異的に認識するラビットポリクローナル抗体を作製し,この抗体を用いて,肺癌培養株におけるINI1のリン酸化の亢進を検討した。
【実施例】
【0065】
<実験方法>
実験例9と同様の方法で行った。一次抗体のみ,抗リン酸化(セリン129)INI1抗体を用いて実験を行った。
【実施例】
【0066】
<結果>
1.図15に結果を示す。
2.リン酸化INI1のバンドが強く検出されており,INI1は肺小細胞癌培養株においてリン酸化が亢進していることが明らかとなった。
3.また,図15において,抗リン酸化抗体で,上のバンドに相当するリン酸化型INI1のバンドに強い陽性反応を示しており,このことから,図14において検出された上のバンドが,リン酸化INI1であることが確認された。
4.さらには,INI1のリン酸化の亢進は特に,神経分化を示す,肺小細胞癌において,強い陽性反応を示した。
【実施例】
【0067】
<<実験例11,INI1 -siRNA存在下・非存在下における肺小細胞癌培養株の増殖能評価>>
INI1が,肺小細胞癌培養株の増殖にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,実験を行った。本実験においては,細胞増殖のマーカーとして,Ki67を指標として,実験を行った。
【実施例】
【0068】
<実験方法>
1.実験には浮遊系肺小細胞癌培養株(H69)を用いた。細胞の形態を観察しやすいように,肺小細胞癌培養株・H69細胞にsiRNA処理をする際に,同時にGFPのプラスミドをエレクトロポレーションにより導入している。
2.肺小細胞癌培養株・H69細胞について,INI1のsiRNAの存在下,又は非存在下,これら2つの条件で培養を行った。INI1-siRNAは,サンタクルズ社から購入したものを用い,濃度については,100pmolの濃度に調整し,培養を行った。No-treatは,Control-siRNAもINI1-siRNAも導入しておらず,GFPのみを導入した細胞である。
サンタクルズ社から購入したsiRNAのカタログNo.は,sc-35670である。これは,マウスだけでなく,ヒト対しても効果を示す配列となっている。

(1) sc-35670A
Sense(配列番号11): GCAAUGACGAGAAGUACAAtt
Antisense(配列番号12): UUGUACUUCUCGUCAUUGCtt

(2) sc-35670B
Sense(配列番号13): GGAACAUGAAUGAGAAGCUtt
Antisense(配列番号14): AGCUUCUCAUUCAUGUUCCtt

(3) sc-35670C
Sense(配列番号15): CCACAGACAGCAUCCUAGAtt
Antisense(配列番号16): UCUAGGAUGCUGUCUGUGGtt


3.siRNA処理をして72時間後,細胞を回収し,固定した。
4.細胞の増殖能を評価するため,細胞増殖マーカーであるKi67マウスモノクローナル抗体(BD Pharmingen社)を用いて細胞の染色を行った。核の染色にはDAPI (Sigma社)を用いた。siRNAを導入した細胞に関しては,抗GFPラビットポリクローナル抗体(Sigma社)を用いて染色した。二次抗体には,Anti-rabbit Alexa 488抗体,Anti-mouse Alexa 568抗体を用いて,蛍光染色を行った。
5.蛍光シグナルは,オリンパス社の蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【実施例】
【0069】
<結果>
1.結果を図16に示す。なお,Mergedと記載された画像は,それぞれの蛍光シグナルで撮影した画像を擬似カラー化し,コンピュータ上で融合したものである。
2.INI1-siRNAの導入を行ったH69細胞において,コントロール群と比較して,Ki67陽性細胞数が低下していたことから,H69細胞の増殖能が低下したことが示唆される。これらの結果から,H69細胞は,INI1の発現を抑制することにより,細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。
3.図17に,細胞染色の結果,GFP陽性細胞中のKi67陽性細胞をカウントし,student t-testで統計処理した結果を示す。*は,群間でP<0.01と統計的に有意差があったことを示している。INI1-siRNAを導入した肺小細胞癌培養株H69細胞では,No-treat, Control-siRNA群と比較して,Ki67陽性細胞が減少していることが明らかとなった。【0070】
<<実験例12,INI1-siRNA存在下・非存在下における肺小細胞癌培養株の神経分化評価>>
INI1が,肺小細胞癌培養株の神経分化制御にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として,実験を行った。本実験においては,神経分化マーカーであるCGA(クロモグラニンA)を指標として,実験を行った。
【実施例】
【0071】
<実験方法>
1.実験には浮遊系肺小細胞癌培養株(H69)を用いた。細胞の形態を観察しやすいように,肺小細胞癌培養株・H69細胞にsiRNA処理をする際に,同時にGFPのプラスミドをエレクトロポレーションにより導入した。
2.肺小細胞癌培養株・H69細胞について,INI1のsiRNAの存在下,又は非存在下,これら2つの条件で培養を行った。INI1-siRNAは,サンタクルズ社から購入したものを用い,濃度については,100pmolの濃度に調整し,培養を行った。No-treatは,Control-siRNAもINI1-siRNAも導入しておらず,GFPのみを導入した細胞である。
3.サンタクルズ社から購入したsiRNAのカタログNo.は,sc-35670である。これは,マウスだけでなく,ヒト対しても効果を示す配列となっている。
4.siRNA処理をして72時間後,細胞を回収し,固定した。
5.H69細胞の神経分化能を評価するため,肺小細胞癌の神経分化マーカーであるCGA(クロモグラニンA)ラビットポリクローナル抗体(サンタクルズ社)を用いて細胞の染色を行った。核の染色にはDAPI (Sigma社)を用いた。siRNAを導入した細胞に関しては,抗GFPマウスモノクローナル抗体(Sigma社)を用いて染色した。二次抗体には,Anti-mouse Alexa 488抗体,Anti-rabbit Alexa 568抗体を用いて,蛍光染色を行った。
6.蛍光シグナルは,オリンパス社の蛍光顕微鏡を用いて観察した。
【実施例】
【0072】
<結果>
1.結果を図18に示す。Mergedと記載された画像は,それぞれの蛍光シグナルで撮影した画像を擬似カラー化し,コンピュータ上で融合したものである。
2.INI1-siRNAの導入を行ったH69細胞において,コントロール群と比較して,CGA陽性細胞数が低下していたことから,H69細胞の神経分化能が低下したことが示唆される。これらの結果から,H69細胞は,INI1の発現を抑制することにより,細胞の神経分化が抑制されることが明らかとなった。
3.図19に,細胞染色の結果,GFP陽性細胞中のCGA陽性細胞をカウントし,student t-testで統計処理した結果を示す。*は,群間でP<0.01と統計的に有意差があったことを示している。INI1-siRNAを導入した肺小細胞癌培養株H69細胞では,No-treat, Control-siRNA群と比較して,CGA陽性細胞が減少していることが明らかとなった。【0073】
<<実験例13,肺小細胞癌のヒト臨床検体を抗INI1抗体で免疫組織染色した結果>>
神経分化能を示す肺小細胞癌において,INI1がどの程度発現しているかについて検討した。
【実施例】
【0074】
<実験方法>
1.熊本大学倫理規定に準じて,ヒト肺小細胞癌のホルマリン固定ブロックを入手し,実験を行った。
2.ブロックの薄切切片を作製し,一次抗体として抗INI1ラビットポリクローナル抗体(サンタクルズ社製,No.sc-13055),二次抗体としてAnti-rabbit immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)を用いて,免疫染色を行った。
【実施例】
【0075】
<結果>
1.図20に,免疫染色の結果を示す。左図が弱拡大,右図が強拡大で撮影した図である。
2.肺小細胞癌において,INI1の染色を示す茶色い染色が強く現れていた。これより,肺小細胞癌において,INI1が高発現していることが明らかとなった。
【実施例】
【0076】
<<実験例14,神経内分泌腫瘍におけるMatrin-3,リン酸化Matrin-3ならびにINI1の発現>>
神経内分泌腫瘍は,神経分化の性質を示し癌幹細胞制御機構の関与が強く示唆されることから,癌幹細胞制御因子がどのように発現しているか調べることを目的に検討を行った。
神経内分泌腫瘍としては,胃神経内分泌腫瘍,直腸神経内分泌腫瘍,皮膚メルケル細胞癌を対象とし,これらの腫瘍におけるMatrin-3,INI1などの発現について調べた。
【実施例】
【0077】
<実験方法>
1.実験例3等に準じて実験を行った。すなわち,熊本大学倫理規定等に準じて,神経内分泌腫瘍に関する各ヒト病理組織を入手し,実験を行った。
2.免疫染色に関しては,それぞれ下記の抗体を用いて,染色を行った。
(1) Matrin-3
一次抗体:抗Matrin-3マウスモノクローナル抗体(ライフスパン社製,No.LS-C72171)
二次抗体:Anti-mouse immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)
(2) リン酸化Matrin-3
一次抗体:抗リン酸化Matrin-3ラビットポリクローナル抗体(Bethyl Laboratories社製)
二次抗体:Polyclonal goat anti-rabbit immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)
(3) INI1
一次抗体:抗INI1ラビットポリクローナル抗体(サンタクルズ社製,No.sc-13055)
二次抗体:Anti-rabbit immunoglobulins-HRP antibody (DAKO社製)
【実施例】
【0078】
<結果>
1.図21から図23に,メルケル細胞癌の結果を示す。メルケル細胞癌は,皮膚癌の一種であり,神経内分泌細胞であるメルケル細胞(基底層)から発症するとされており,その形態・病理像は,肺小細胞癌に酷似していることが知られている。
(1) メルケル細胞癌においては,抗Matrin-3抗体により腫瘍部分が濃く染まっており,Matrin-3の発現が亢進していることが分かった(図21上)。
(2) 真皮内に生じているNF1においては,Matrin-3による染色はほとんど染まっておらず,Matrin-3の発現がないことが分かった(図21,下左)。
(3) 表皮に生じているPaget病においても,Matrin-3による染色はほとんど染まっておらず,Matrin-3の発現がないことが分かった(図21,下中央)。
(4) 表皮の腫瘍であるが,真皮まで腫瘍が浸潤しているSCCにおいても,Matrin-3による染色はほとんど染まっておらず,Matrin-3の発現がないことが分かった(図21,下右)。
(5) また,3つの異なるいずれの症例においても,抗リン酸化Matrin-3抗体により腫瘍部分が濃く染まっており,リン酸化Matrin-3の発現が亢進していることが分かった(図22)。
(6) さらに,異なる2つのいずれの症例においても,抗INI1抗体により腫瘍部分が染まっており,INI1の発現が亢進していることが分かった(図23)。
(7) これらより,皮膚における癌において,神経分化を示すメルケル細胞癌においてのみMatrin-3ならびにリン酸化Matrin-3の発現が上昇していることが示された。なお,この結果については,神経分化を示す肺小細胞癌における結果と同様の結果である(実験例3)。
2.図24ならびに図25に,胃の神経内分泌腫瘍(G1 grade)の結果を示す。
(1) 抗Matrin-3抗体,抗リン酸化Matrin-3抗体,いずれにおいても腫瘍部分が濃く染まっていた(図24)。
(2) また,図24とは異なる症例においても,抗Matrin-3抗体ならびに抗リン酸化Matrin-3抗体により,腫瘍部分が濃く染まっていた(図25)。
(3) これらより,胃の神経内分泌腫瘍(G1 grade)において,Matrin-3ならびにリン酸化Matrin-3の発現が亢進していることが分かった。
3.図26に,直腸の神経内分泌腫瘍(G1 grade)の結果を示す。抗Matrin-3抗体,抗リン酸化Matrin-3抗体,いずれにおいても腫瘍部分が濃く染まっており,Matrin-3ならびにリン酸化Matrin-3の発現が亢進していることが分かった。
4.これらの結果から,神経分化を示す神経内分泌腫瘍において,Matrin-3やリン酸化Matrin-3,INI1の発現が増加しており,癌細胞制御機構を有していることが示された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図20】
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【図21】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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