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明細書 :ワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年4月5日(2018.4.5)
発明の名称または考案の名称 ワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子
国際特許分類 C12Q   1/68        (2018.01)
C12N   7/01        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  35/768       (2015.01)
A61K  35/76        (2015.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  39/285       (2006.01)
A61K  35/761       (2015.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K   9/107       (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 7/01
A61P 35/00
A61K 35/768
A61K 35/76
A61K 48/00
A61K 39/285
A61K 35/761
A61K 9/08
A61K 9/107
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 27
出願番号 特願2017-529942 (P2017-529942)
国際出願番号 PCT/JP2016/071538
国際公開番号 WO2017/014296
国際出願日 平成28年7月22日(2016.7.22)
国際公開日 平成29年1月26日(2017.1.26)
優先権出願番号 2015145153
優先日 平成27年7月22日(2015.7.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】中村 貴史
【氏名】堀田 享佑
【氏名】黒▲崎▼ 創
【氏名】中武 大夢
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求
テーマコード 4B063
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
Fターム 4B063QA08
4B063QA18
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4C087MA66
4C087MA67
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4C087ZB26
要約 本発明は、ワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療を効果的に行うための、ワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子であるUCA1遺伝子の利用の提供を目的とする。本発明は、癌患者の癌細胞におけるUCA1遺伝子の発現を測定し、UCA1遺伝子が発現している場合に、該患者においてワクシニアウイルスによる癌治療効果があると予測する、ワクシニアウイルスによる癌治療効果を予測評価する方法、並びにUCA1遺伝子を発現可能に導入したワクシニアウイルスである。
特許請求の範囲 【請求項1】
癌患者の癌細胞におけるUCA1遺伝子の発現を測定し、UCA1遺伝子が発現している場合に、該患者においてワクシニアウイルスによる癌治療効果があると予測する、ワクシニアウイルスによる癌治療効果を予測評価する方法。
【請求項2】
ワクシニアウイルスが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
UCA1遺伝の発現をRT-PCRにより測定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
UCA1遺伝子を発現可能に導入した、ワクシニアウイルス。
【請求項6】
癌細胞中でUCA1遺伝子を発現させ、UCA1の制御により癌細胞中で増殖する、請求項5記載のワクシニアウイルス。
【請求項7】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、請求項5又は6に記載のワクシニアウイルス。
【請求項8】
ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、請求項5~7のいずれか1項に記載のワクシニアウイルス。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載のワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物。
【請求項10】
UCA1遺伝子を発現可能に導入した発現ベクター及びワクシニアウイルスを組合せて含む、癌治療のための医薬組成物キット。
【請求項11】
ワクシニアウイルスが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、請求項10に記載の癌治療のための医薬組成物キット。
【請求項12】
ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、請求項10又は11に記載の癌治療のための医薬組成物キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はワクシニアウイルスを利用した癌ウイルス治療に対するワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスを癌治療に用いる癌ウイルス治療に関する種々の技術が開発されている。このような治療に用いるウイルスとして、アデノウイルス、レトロウイルスの他、ワクシニアウイルスがある。
【0003】
近年ワクシニアウイルスは、その広い宿主域と高い発現効率という特性から、外来遺伝子を導入した発現ベクターとして感染症(HIVやSARS)のための多価ワクチンとしても用いられている。
【0004】
また、ワクシニアウイルスの癌細胞に対する溶解性を利用して、癌治療に利用する技術についても報告されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0005】
腫瘍形成や胚発生に関与している遺伝子としてUCA1が報告されている(非特許文献1~非特許文献4を参照)。UCA1(Urothelial cancer associated 1)遺伝子は、タンパク質をコードしていない長鎖ノンコーディングRNA(long-non coding RNA:lncRNA)であり、膀胱癌等のマーカーとして用いることが報告されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第WO2011/125469号
【特許文献2】国際公開第W02015/076422号
【0007】

【非特許文献1】Wang F et al., Oncotarget, 2015, April 10; 6(10): 7899-7917
【非特許文献2】Shi-Ping Liu et al., Cancer Biol Med., 2013 Sep; 10(3): 138-141
【非特許文献3】Zheng Q et al., Clin Transl Oncol., 2015 Aug; 17(8):640-646
【非特許文献4】Wang XS et al., Clin Cancer Res., 2006 Aug 15; 12(16): 4851-4858
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療を効果的に行うための、ワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子であるUCA1遺伝子の利用を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、卵巣癌細胞株であるKF細胞における抗癌剤耐性とワクシニアウイルスの増殖の関係について検討を行い、抗癌剤耐性能が高い細胞、抗癌剤耐性能が中間の細胞及び抗癌剤耐性能を有しない細胞において、抗癌剤耐性能の高さとワクシニアウイルスの増殖程度が相関していることを見出した。
【0010】
本発明者は、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析により、癌細胞中のワクシニアウイルスの増殖を制御する因子として、長鎖ノンコーディングRNA(long-non coding RNA:lncRNA)遺伝子であるUCA1遺伝子を同定した。
【0011】
本発明者は、この知見に基づき、癌患者の癌細胞中のUCA1遺伝子の発現レベルによりワクシニアウイルスの癌ウイルス治療効果を予測評価し得ること、及び癌細胞中でUCA1遺伝子を発現させることにより、該癌細胞におけるワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療効果を増強し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 癌患者の癌細胞におけるUCA1遺伝子の発現を測定し、UCA1遺伝子が発現している場合に、該患者においてワクシニアウイルスによる癌治療効果があると予測する、ワクシニアウイルスによる癌治療効果を予測評価する方法。
[2] ワクシニアウイルスが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、[1]の方法。
[3] ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、[1]又は[2]の方法。
[4] UCA1遺伝の発現をRT-PCRにより測定する、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] UCA1遺伝子を発現可能に導入した、ワクシニアウイルス。
[6] 癌細胞中でUCA1遺伝子を発現させ、UCA1の制御により癌細胞中で増殖する、[5]のワクシニアウイルス。
[7] 腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、[5]又は[6]のワクシニアウイルス。
[8] ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、[5]~[7]のいずれかのワクシニアウイルス。
[9] [5]~[8]のいずれかのワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物。
[10] UCA1遺伝子を発現可能に導入した発現ベクター及びワクシニアウイルスを組合せて含む、癌治療のための医薬組成物キット。
[11] ワクシニアウイルスが、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、[10]の癌治療のための医薬組成物キット。
[12] ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、[10]又は[11]の癌治療のための医薬組成物キット。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2015-145153号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
UCA1遺伝子は、癌細胞においてワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子として作用する。すなわち、癌細胞におけるUCA1遺伝子の発現レベルが高いとき、該癌細胞中でのワクシニアウイルスの増殖・伝搬が増強される。従って、癌患者から採取した癌細胞中のUCA1遺伝子の発現レベルを指標にして、その癌患者におけるワクシニアウイルスの癌ウイルス治療効果を予測評価することができる。
【0014】
また、該患者の癌細胞又は癌組織において人為的にUCA1遺伝子を発現させることにより、ワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療効果を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】KFtx(PTx耐性KF細胞)の薬剤耐性の変化を示す図である。
【図2】ワクシニアウイルスの増殖・伝搬性はPTx耐性に依存することを示す図である。図2(a)はワクシニアウイルスの構造を示し、図2(b)は、KFtx、LowTx及びLowの抗癌剤耐性を示す。
【図3】KFtx、Low、LowTxの3者間で行ったマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的な解析の結果を示す図である。
【図4】UCA1遺伝子のトランスフェクションの方法を示す図である。
【図5】qRT-PCRによるUCA1発現増強を確認した結果を示す図である。
【図6】KFtxシリーズのPTx耐性能の比較の結果を示す図である。
【図7-1】KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの感染・増殖を示す図であり、KFtxシリーズの細胞の観察像を示す図である。
【図7-2】KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの感染・増殖を示す図であり、ウイルス力価を示す図である。
【図8】KFtxシリーズにおける活性化ERK(リン酸化ERK)の発現を示す図である。
【図9】EGF刺激によるワクシニアウイルスの増殖の変化を示す図である。
【図10】様々な卵巣がんの細胞株におけるUCA1の発現を比較した図である。
【図11-1】様々な卵巣がんの細胞株におけるワクシニアウイルスの増殖・伝搬能を比較した結果を示す図であり、細胞の観察像を示す図である。
【図11-2】様々な卵巣がんの細胞株におけるワクシニアウイルスの増殖・伝搬能を比較した結果を示す図であり、ウイルス力価を示す図である。
【図12-1】KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの感染像を示す図である。
【図12-2】KFtxシリーズにおけるウイルスGFP蛍光の定量化の結果を示す図である。
【図13】KFtxシリーズにおけるウイルスの経時的感染増殖像を示す図である。
【図14】ワクシニアウイルスの感染によるUCA1の発現の時間依存的な変化を示す図である。
【図15】KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスのウイルス産生能を示す図である。
【図16-1】EGF刺激を加えたKFtxシリーズにおけるウイルスの感染像を示す図である。
【図16-2】EGF刺激を加えたKFtxシリーズにおけるGFP蛍光の定量化の結果を示す図である。図16(a)は10%FBSの条件下で行い、図16(b)は0.5%FBSの条件下で行った。
【図17】EGF刺激によるpERK/tERKの変化を示す図である。
【図18-1】様々な卵巣癌におけるウイルス感染像を示す図である。
【図18-2】様々な卵巣癌におけるウイルスGFP蛍光の定量化の結果を示す図である。図18-2(a)はMOI=0.01の条件下で行い、図18-2(b)はMOI=0.001の条件下で行った。
【図19-1】様々な卵巣癌におけるウイルス感染像を示す図である。
【図19-2】様々な卵巣癌におけるウイルスGFP蛍光の定量化の結果を示す図である。
【図20】KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの腫瘍溶解性を示す図である。
【図21】腹膜播種モデルマウスにおけるパクリタキセルとウイルスの抗癌効果の比較の結果を示す図である。
【図22】腹膜播種モデルマウスにおける腫瘍のイメージングデータを数値化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0017】
UCA1(Urothelial cancer associated 1)遺伝子は、タンパク質をコードしていない長鎖ノンコーディングRNA(long-non coding RNA:lncRNA)遺伝子である。

【0018】
UCA1遺伝子には多くのバリアントが存在する。UCA1遺伝子の塩基配列の例として、2314bpの配列(GenBankアクセッション番号:NR_015379.3)を配列番号1に、1409bpの配列(GenBankアクセッション番号:HQ833208.1)を配列番号2に示す。

【0019】
本発明においては、UCA1をワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子として利用する。

【0020】
具体的には、ワクシニアウイルスを癌ウイルス治療に用いる場合に、患者の癌細胞においてUCA1遺伝子の発現を指標にワクシニアウイルスが効果があるか否かを評価し、予測するための検査を行い、評価し、予測するための補助的データを取得する。評価、予測は、判定ともいう。

【0021】
また、ワクシニアウイルスを用いて癌ウイルス治療を行う場合に、癌細胞においてUCA1遺伝子を発現させることによりワクシニアウイルスの癌治療効果を促進することができる。

【0022】
癌細胞中にUCA1遺伝子の転写産物であるlncRNA UCA1が存在している場合、lncRNA UCA1が癌細胞中におけるワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する。従来より、ERK(Extracellular signal-regulated kinase: 細胞外シグナル調節キナーゼ)の活性化はワクシニアウイルスの増殖能を増強するという報告があったが、lncRNA UCA1はERKを介した経路でワクシニアウイルスの増殖能を増強するのではなく、他の経路を介してワクシニアウイルスの増殖能を増強する。

【0023】
本発明のワクシニアウイルスの株は限定されないが、リスター(Lister)株、リスター株から確立されたLC16株、LC16mO株、LC16m8株(橋爪 壮、臨床とウイルス vol.3, No.3, 269, 1975等)、NYBH株等の株、Wyeth株、コペンハーゲン株等が挙げられる。LC16mO株は、Lister株からLC16株を経て作出された株であり、LC16m8株は、さらにLC16mO株から作出された株である(蛋白質 核酸 酵素 Vol.48 No.12(2003), p.1693-1700)。

【0024】
好ましくは癌細胞の中のみで増殖するワクシニアウイルスである腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(oncolytic virus)が好ましい。腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは正常の細胞には作用しないが、癌細胞の中でのみ増殖し癌細胞を溶解させ、癌細胞を効果的に殺すことができる。腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを制限増殖型ワクシニアウイルスとも呼ぶ。

【0025】
ヒトに投与する場合の安全性が確立されているという点で、本発明において用いるワクシニアウイルスは弱毒化され、病原性を有していないものが好ましい。このような弱毒化された株として、B5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失した株が挙げられる。B5R遺伝子は、ワクシニアウイルスのエンベロープに存在するタンパク質をコードしており、B5R遺伝子産物は、ウイルスの感染・増殖に関与している。B5R遺伝子産物は感染細胞表面及びウイルスのエンベロープに存在し、隣接の細胞、あるいは宿主体内の他の部位にウイルスが感染・伝播するときに、感染効率を高める働きをし、ウイルスのプラークサイズ及び宿主域にも関与している。B5R遺伝子を欠失させると、動物細胞に感染させた場合のプラークサイズが小さくなり、ポックサイズも小さくなる。また、皮膚増殖能が低下し、皮膚病原性が低下する。B5R遺伝子が部分的に又は完全に欠失したワクシニアウイルスは、B5R遺伝子の遺伝子産物がその正常機能を有さず、皮膚増殖性も小さく、ヒトに投与した場合でも副作用を起こさない。B5R遺伝子を欠失している弱毒化株として、例えば上記のLC16m8株からB5R遺伝子を完全に欠失させて確立されたm8Δ株(LC16m8Δ株とも呼ぶ)が挙げられる。また、LC16mO株からB5R遺伝子を完全に欠失して確立されたmOΔ株(LCmOΔ株とも呼ぶ)を用いることもできる。これらのB5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失した弱毒されたワクシニアウイルス株は国際公開第WO2005/054451号に記載されており、その記載に基づいて入手することができる。ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失し、B5Rタンパク質の機能が欠失しているかどうかは、例えば、RK13細胞に感染させたときに形成されるプラークサイズ、ポックサイズ、Vero細胞でのウイルス増殖性、ウサギにおける皮膚病原性等を指標に判断することができる。また、ワクシニアウイルスの遺伝子配列を調べてもよい。

【0026】
本発明において用いるワクシニアウイルスは、B5R遺伝子を癌細胞中で発現させ、B5Rタンパク質の作用により、癌細胞の傷害をもたらす。従って、本発明において用いるワクシニアウイルスは完全なB5R遺伝子を発現することが望ましい。上記のようにB5R遺伝子を有しておらず、弱毒化され安全性が確立されているワクシニアウイルスを用いる場合、該B5R遺伝子を欠失したワクシニアウイルスにあらためて完全なB5R遺伝子を導入する。B5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失したワクシニアウイルスを用いる場合、該ワクシニアウイルスゲノムに、B5R遺伝子を挿入して用いればよい。B5R遺伝子のワクシニアウイルスへの挿入は如何なる方法で行ってもよいが、例えば公知の相同組換え法により行うことができる。また、この場合のB5R遺伝子を挿入する位置は、もともとB5R遺伝子が存在していたB4R遺伝子とB6R遺伝子の間でもよいし、ワクシニアウイルスのゲノムの任意の部位であってもよい。さらに、あらかじめ、B5R遺伝子をDNAコンストラクトとして構築し、それをワクシニアウイルスに導入してもよい。

【0027】
相同組換えとは、細胞内で2つのDNA分子が同じ塩基配列を介して相互に組換えを起こす現象で、ワクシニアウイルスのような巨大なゲノムDNAを持つウイルスの組換えにしばしば用いられる方法である。まず、標的とするワクシニアウイルス遺伝子部位の配列を中央で分断する形で、B5R遺伝子を連結したプラスミド(これをトランスファーベクターという)を構築し、これを、ワクシニアウイルスを感染させた細胞に導入してやると、ウイルス複製の過程で裸になったウイルスDNAとトランスファーベクター上の同じ配列部分との間で入れ換えが起こり、挟み込まれたB5R遺伝子がウイルスゲノム中に組み込まれる。このとき用いる細胞としては、BSC-1細胞、HTK-143細胞、Hep2細胞、MDCK細胞、Vero細胞、HeLa細胞、CV1細胞、COS細胞、RK13細胞、BHK-21細胞、初代ウサギ腎臓細胞等、ワクシニアウイルスが感染し得る細胞を用い得る。また、ベクターの細胞への導入は、リン酸カルシウム法、カチオニックリボゾーム法、エレクトロポレーション法等の公知の方法で行えばよい。

【0028】
また、癌ウイルス治療に用いるために遺伝的に改変されたワクシニアウイルスを用いることもできる。そのようなワクシニアウイルスとして、癌細胞で発現が低下しているマイクロRNAの標的配列を含むワクシニアウイルスである国際公開第WO2011/125469号に記載のワクシニアウイルスやワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能が欠損しているワクシニアウイルスである国際公開第W02015/076422号に記載のワクシニアウイルスが挙げられる。

【0029】
UCA1遺伝子の発現の測定は、試料中のlncRNA UCA1を測定することにより行う。UCA1遺伝子の塩基配列の全部又は一部を含むヌクレオチドをプローブ又はプライマーとして用いて測定することができる。測定は、lncRNA UCA1若しくはその断片又はUCA1 cDNA若しくはその断片をターゲットとした定量PCR法で測定することができる。また、マイクロアレイ(マイクロチップ)を用いた方法、ノーザンブロット法等で測定することが可能である。好ましくは定量PCR法で測定すればよい。

【0030】
定量PCR(Q-PCR)法としては、定量RT-PCR法、リアルタイムPCR法、Taqman(登録商標)プローブ法、SYBR Green法、アガロースゲル電気泳動法、蛍光プローブ法、ATAC-PCR法(Kato,K.et al.,Nucl.Acids Res.,25,4694-4696,1997)、Body Map法(Gene,174,151-158(1996))、Serial analysis of gene expression(SAGE)法(米国特許第527,154号、第544,861号、欧州特許公開第0761822号)、MAGE法(Micro-analysis of Gene Expression)(特開2000-232888号)等がある。この中でもTaqMan(登録商標)プローブ法が好ましい。

【0031】
PCR法は公知の手法で行うことができる。用いるプライマーの塩基長は、5~50、好ましくは10~30、さらに好ましくは15~25である。UCA1遺伝子の塩基配列に基づいてフォワードプライマー及びリバースプライマーを設計して用いればよい。

【0032】
マイクロアレイは、UCA1遺伝子の塩基配列からなるヌクレオチド又はその一部配列を含むヌクレオチドを適当な基板上に固定化することにより作製することができる。

【0033】
固定基板としては、ガラス板、石英板、シリコンウェハーなどが挙げられる。ヌクレオチド又はその断片の固定基板への固定化は、ヌクレオチドの荷電を利用して、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミンなどのポリ陽イオンで表面処理した固相担体に静電結合させる方法や、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基を導入した固定基板に、アミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入したヌクレオチドを共有結合により結合させる方法等により行うことができる。固定化は、アレイ機やスポッターを用いて行えばよい。lncRNA UCA1やcDNA又はその断片を基板に固相化してマイクロアレイを作製し、該マイクロアレイと蛍光物質で標識した癌患者の癌細胞由来のRNAまたはcDNAを接触させ、ハイブリダイズさせ、マイクロアレイ上の蛍光強度を測定することにより、UCA1遺伝子の発現を測定することができる。癌細胞由来のRNAを標識する蛍光物質は、限定されず、市販の蛍光物質を用いることができる。例えば、Cy3、Cy5等が挙げられる。マイクロアレイを用いた方法は、lncRNA UCA1にハイブリダイズするヌクレオチドプローブの使用により測定することができる。測定に用いるプローブの塩基長は、10~50bp、好ましくは15~25bpである。

【0034】
癌患者の癌細胞中において、UCA1遺伝子が発現していれば、その患者の癌治療にワクシニアウイルスが効果的に利用できると判断することができる。また、UCA1遺伝子の発現の程度によりワクシニアウイルスの効果の程度も予測評価することができる。

【0035】
抗癌剤耐性能が高い癌細胞ほどUCA1遺伝子の発現レベルが高く、ワクシニアウイルスの増殖が増強されるため、特に抗癌剤の投与を続け、癌細胞が抗癌剤耐性を獲得した可能性のある患者に対して有効である。

【0036】
あらかじめ複数の癌患者より採取した癌細胞中のUCA1遺伝子の発現レベルを測定しておき、該測定値に基づいてUCA1遺伝子の発現レベルについてカットオフ値(閾値)を定めておき、ワクシニアウイルスの効果を評価しようとする癌患者から採取した癌細胞のUCA1遺伝子の発現レベルを測定し、発現レベルがカットオフ値を超えた場合に、その癌患者にはワクシニアウイルスを癌ウイルス治療に用いることができると評価することができる。

【0037】
また、UCA1遺伝子の発現が検出された場合に、その癌患者にはワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療効果がありワクシニアウイルスを癌ウイルス治療に用いることができると評価することもできる。

【0038】
本発明は、ワクシニアウイルスを用いて癌ウイルス治療を行う場合に、癌細胞においてワクシニアウイルスの癌治療効果を促進させるためのUCA1遺伝子の利用に関する発明も包含する。

【0039】
UCA1遺伝子は癌細胞の抗癌剤耐性能に関与していることが報告されており、lncRNA UCA1により、抗癌剤、例えばパクリタキセル(PTx)に対する耐性能が高い癌細胞において、ワクシニアウイルスの増殖能が増強される。

【0040】
癌治療を行う患者の癌細胞にlncRNA UCA1を存在させた状態でワクシニアウイルスによる治療を行えばよい。あらかじめ、癌細胞にlncRNA UCA1を投与してもよいし、UCA1遺伝子を癌細胞に投与し、癌細胞中でlncRNA UCA1を発現させてもよい。

【0041】
癌細胞中でのUCA1遺伝子の発現は、UCA1遺伝子を含む発現ベクターを用いて行うことができる。すなわち、UCA1遺伝子を含む発現ベクターを癌患者の癌細胞に発現可能に導入し癌細胞内でUCA1遺伝子を発現させればよい。

【0042】
UCA1遺伝子を癌細胞で発現させるためには、UCA1遺伝子を患者の癌病変部へ導入する必要があるが、遺伝子の導入は公知の方法により行うことができる。遺伝子を癌患者へ導入する方法として、ウイルスベクターを用いる方法やプラスミド等の非ウイルスベクターを用いる方法がある。これらの方法については、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999、Walter J. Burdette、知っておきたい遺伝子治療の基礎知識、タカラバイオ、2004;等に記載されている。

【0043】
UCA1遺伝子導入のためのウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内にUCA1遺伝子を導入することが可能である。

【0044】
UCA1遺伝子を導入したウイルスベクターは特異的受容体を介して細胞に感染させることができる。

【0045】
また、上記ウイルスを用いなくても、プラスミド等の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、UCA1遺伝子を標的細胞や組織に導入することができる。例えば、リン酸-カルシウム共沈法、リポフェクション法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法等の手法を用いて細胞内へUCA1遺伝子を導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ-リポソーム法、改良型HVJ-リポソーム法(HVJ-AVEリポソーム法)などのリポソームを用いる方法、HVJ-E(エンベロープ)ベクターを用いる方法、レセプター介在性遺伝子導入法、naked-DNAの直接導入法、パーティクル銃を用いてDNAを金属粒子と共に細胞に導入する方法、種々のポリマーによる導入法等を利用することによって、組換え発現ベクターを標的細胞や組織に導入することができる。この目的のためには、生体内でUCA1遺伝子を発現させることのできるベクターであるかぎりいかなる発現ベクターをも用いることができる。例えば、pCMV6、pBK-CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pCAGGS(Gene 108, 193-200(1991))、pVAX1等の発現ベクターを用いることができる。

【0046】
UCA1遺伝子を含む発現ベクターは、プロモーター、エンハンサー、ポリAシグナル、マーカー遺伝子等を含んでいてもよい。プロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。

【0047】
上記方法においては、ワクシニアウイルスによる癌治療を行う前に癌患者の癌細胞にlncRNA UCA1を発現させておく。一方、癌治療に用いるワクシニアウイルスにUCA1遺伝子を導入し、癌治療用ワクシニアウイルス自体がUCA1遺伝子を発現するようにし、該ワクシニアウイルスを癌患者に投与してもよい。この場合は、癌細胞にワクシニアウイルスが感染し、癌細胞中でlncRNA UCA1が発現することによって、UCA1遺伝子の制御によりワクシニアウイルスが癌細胞中で増殖し、ワクシニアウイルスの癌ウイルス治療効果が増強される。

【0048】
本発明は、UCA1遺伝子を発現可能に組込み導入したワクシニアウイルス及び該ワクシニアウイルスを含む癌治療用医薬組成物を包含する。さらに、UCA1遺伝子を発現可能に組込み導入した発現ベクター及びワクシニアウイルスを組合せて含む癌治療用医薬組成物キットを包含する。

【0049】
ワクシニアウイルスによる癌ウイルス治療の対象とする癌は限定されず、卵巣癌、肺癌、膵癌、皮膚癌、胃癌、肝臓癌、結腸癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、脳・神経腫瘍、リンパ腫・白血病、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫等あらゆる癌種を挙げることができる。

【0050】
本発明のワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物は、医薬的に有効量のワクシニアウイルスを有効成分として含んでいる、無菌の水性又は非水性の溶液、懸濁液、又はエマルションの形態で製剤することができる。さらに、塩、緩衝剤、アジュバント等の医薬的に許容できる希釈剤、助剤、担体等を含んでいてもよい。投与は非経口経路、例えば、皮下経路、静脈内経路、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、鼻内経路、経皮経路によればよい。また、癌部に局所投与してもよい。有効投与量は癌患者の年齢、性別、健康、及び体重等により適宜決定することができる。例えば、限定されないが、ヒト成人の場合、投与当たり約102~1010プラーク形成単位(PFU)、好ましくは105~106プラーク形成単位(PFU)を投与すればよい。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
実施例1 KF(卵巣癌)におけるパクリタキセル耐性とワクシニア増殖の関係
KFtx (PTx-resistant KF)は抗がん剤PTx(パクリタキセル)が含まれていないRPMI,10%FBS培地で培養を続けるとPTx耐性能が低下する。このPTx耐性能が低下した株をLowとする。Lowを次に62.5nM PTx in RPMI培地で培養を行うとPTx耐性能が回復する。このPTx耐性能が回復した株をLowTxとする(図1)。また、LowTxをPTxなしで培養すると耐性能が低下することから、この耐性能は可逆的であるといえる。
【実施例】
【0053】
また、ワクシニアウイルスLC16mO株のRas/Raf/MEK/ERK代謝経路の活性因子であるO1LとVGFをコードする遺伝子を、ルシフェラーゼ、GFPや DsRedで置き換え、欠失させたウイルス株を作成した。O1L+/VGF+ウイルスは、Ras/Raf/MEK/ERK代謝経路の活性化因子でないHA遺伝子をルシフェラーゼやGFPで置き換え、欠失させている(図2(a))。次に96wellにKFtxシリーズを播種し、36hr後に、MOI=0.01でVGF+/O1L+を感染させ、感染から72hr後に蛍光顕微鏡(オリンパス)でGFP蛍光を撮影した(図2(b))。その結果、抗がん剤耐性能が高い細胞種ほどウイルス増殖も高くなっている。したがって、パクリタキセル耐性能とウイルス増殖は正の相関があることが示唆された。
【実施例】
【0054】
実施例2 候補遺伝子UCA1の抽出と、UCA1の安定発現株の作成
KFtx、Low、LowTxの3者間でマイクロアレイ(タカラバイオ)による遺伝子発現の網羅的な解析を行った。ウイルス増殖、抗がん剤耐性が高い細胞株で発現が亢進され、ウイルス増殖、抗がん剤耐性が低い細胞株で発現が抑制されている遺伝子を候補遺伝子として抽出した。図3にマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的な解析の結果を示す。図3は、KFtx、LowTx及びLow間の発現が亢進され、又は発現が抑制されている遺伝子の遺伝子解析の結果を示す。候補遺伝子として抽出されたUCA1はLong-non coding RNAであり、卵巣癌、膀胱癌、胃癌など、他の様々な癌種においてもoncogeneとして同定されている。このUCA1の安定発現株を作成するためにKFtxからNucleoSpinRNA(タカラバイオ)を用いて、そのマニュアルに従いRNAを抽出した。このRNAをHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用い、マニュアルに従いRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)によりcDNAを作成した。cDNAを鋳型に2つのプライマー5’-ctggatcctgacattcttctggacaatgag-3’(配列番号4)と5’-ctgcggccgcatattagctttaatgtaggtggc-3’(配列番号5)によって、両末端にBamH1とNot1の制限酵素サイトを付加したUCA1遺伝子を増幅した。両末端にBamH1とNot1の制限酵素サイトを付加したUCA1遺伝子の配列を配列番号3に示す。配列番号3の配列における7番目のtから1414番目のcまでがUCA1遺伝子の配列であり、配列番号1の1番目から1408番目の塩基に相当する。ただし、配列番号1の797番目のaがtに変異している。このPCR産物をBamH1とNot1で切断し、pcDNA3.1(+)の同じ制限酵素部位にクローニングしてpcDNA3.1(+)- UCA1を取得した。次に24wellに播種したLow、LowTxにpcDNA3.1(+)-UCA1とネガティブコントロールであるpcDNA3.1(+)をFugeneHD(Promega社)とProFection Mammalian Transfection System(Promega社)(リン酸カルシウムを使用)を用いてトランスフェクションを行った。pcDNA3.1(+)-UCA1によりUCA1遺伝子をトランスフェクションしたLowTxをUCA1 LowTxと呼び、pcDNA3.1(+)-UCA1によりUCA1遺伝子をトランスフェクションしたLowをUCA1 Lowと呼ぶ。また、UCA1を含まないpcDNA3.1(+)をトランスフェクションしたLowTxをEmpty LowTxと呼び、UCA1を含まないpcDNA3.1(+)をトランスフェクションしたLowをEmpty Lowと呼ぶ。UCA1 LowTx及びEmpty LowTxに対しては、FugeneHDを用い、UCA1 Low及びLowに対しては、リン酸カルシウムを用いた。その後、Geneticinによりセレクションを行い、UCA1安定発現株を取得した。図4にUCA1遺伝子のトランスフェクションの方法を示す。このUCA1安定発現株に対してUCA1の発現増強を確認するために、qRT-PCRを行った。各細胞からRNAをNucleoSpinRNAにより抽出し、抽出したRNAからRT-PCR(Reverse Transcription PCR)によりcDNAを作成し、TaqMan probe(Life Technologies, Assay ID: Hs01909129_s1)を用いて、qRT-PCRを実施した(n=3)。リファレンス遺伝子にはGAPDH(Life Technologies, Assay ID: Hs03929097_g1)を選択した。UCA1の相対発現量は、GAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。UCA1の安定発現株ではKFtxと同等のUCA1の発現を確認することができた。一方、ネガティブコントロールであるpcDNA3.1(+)の安定発現株ではUCA1の発現が増強されていないことが確認された(図5)。
【実施例】
【0055】
実施例3 KFtxシリーズにおけるUCA1の特性
UCA1の安定発現株を含むKFtxシリーズにおいてパクリタキセル(Paclitaxel)耐性能を比較した。KFtxシリーズを6×103/wellで96wellに播種し、細胞がプレートに生着したと考えられる37℃、12hr培養後に、PTxを含有したRPMIでメディウムチェンジを行った。PTxの濃度は、0、2、5、20、50、100、200、500nMであった。さらに、37℃、48hr培養後にcell titer glo (Promega社)により生細胞数を定量化し、比較した。その結果、UCA1の発現が低いLowとEmpty Lowのみ有意に生細胞数が減少していることが分かった(図6)。このことから、UCA1の高発現はパクリタキセル耐性能において重要であることが考えられた。
【実施例】
【0056】
次に、UCA1の高発現とKFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの増殖能を比較した。KFtxシリーズを6×103/wellで96wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF+/O1L+とVGF-/O1L-をそれぞれMOI=0.01,0.001で感染させた。さらに37℃、72hr培養後、蛍光顕微鏡で生細胞のまま明視野観察と蛍光観察した(図7-1)。その結果、どちらのウイルスにおいても、MOIの高低差はGFP蛍光の強弱に反映されていた。VGF+/O1L+において、緑色の蛍光を発する細胞はKFtxが多く、一方、Lowが少ない。また、LowTxは2つの中程度となっていた。LowとそのコントロールであるEmpty Low、又はLowTxとそのコントロールであるEmpty LowTxはいずれも同程度で、それぞれ緑色の蛍光を発する細胞数に大きな差はなかった。対照的に、UCA1の安定発現株である、UCA1 LowとUCA1 LowTxはKFtxと同程度に緑色の蛍光を発する細胞数が多く見られた。一方、VGF-/O1L-においても細胞間による差異はVGF+/O1L+と同様で、Low、LowTx、Empty Low及びEmpty LowTxに比べて、UCA1 LowとUCA1 LowTxはKFtxと同程度に緑色の蛍光を発する細胞が多く見られた。以上のことから、ワクシニアウイルスの種類に関わらず、UCA1の発現とワクシニアウイルスの増殖能は正の相関を示すことが明らかになった。さらにUCA1の高発現とワクシニアウイルスの増殖能の関連を詳細に検証するために、タイトレーションを行った。KFtxシリーズを6×103/wellで96wellに播種し、37℃、36hr培養後にMOI=0.001でVGF+/O1L+を感染させた(n=3)。さらに37℃、72hr培養後 、それぞれの上清と感染細胞を回収し、凍結融解後、ソニケーションし、遠心(2,000 rpm、5分間)後の上清をウイルス液として回収した。各ウイルス液(1ml)のウイルス力価をRK13細胞にて測定した(図7-2)。その結果、蛍光顕微鏡による観察像と一致していた。
【実施例】
【0057】
これらの結果は、UCA1のトランスフェクションがコントロールに比べてウイルスの増殖・伝搬能を増強していることを示す。また、UCA1の高発現はワクシニアウイルスの増殖・伝搬能を増強していた。以上の結果から、KFtxシリーズにおいてUCA1の高発現がワクシニアウイルスの増殖能を高めることが確認された。
【実施例】
【0058】
実施例4 UCA1の高発現によって制御されるワクシニアウイルスの増殖能とERKの活性化の関連性
UCA1によるワクシニアウイルスの増殖能の増強を詳細に解析した。ERKの活性化はワクシニアウイルスの増殖能を増強するという報告があることから、ERKの活性化とUCA1の高発現の関係を比較した。KFtxシリーズを6×103/wellで96wellに播種し、37℃、36hr培養後にPierce Colorimetric In-Cell ELISA Kitsにより総ERKとその中で活性化しているERK(リン酸化 ERK)を計測した(図8)。その結果、Low、Empty Lowではリン酸化ERKの割合が低くUCA1の発現が上昇するにしたがってリン酸化ERKの割合も上昇した。すなわち、UCA1の発現と比例するようにリン酸化 ERKの割合が変動していた。さらに、ERKはウイルスの増殖・伝搬能に関わるため、UCA1はERKの活性化を制御することでウイルスの増殖を調節すること、すなわちUCA1の高発現がワクシニアウイルスの増殖能だけではなく、ERKの活性化にも関与することが示唆された。
【実施例】
【0059】
次に、ERKを活性化させることによるワクシニアウイルスの増殖能の変化を測定した。ERKの上流にはその受容体であるEGFRがあり、EGFがEGFRに結合するとアダプター分子、低分子量G蛋白質Rasを経由して、Raf→MEK→ERKとリン酸化反応するMAPK経路によりシグナルが伝達される。活性化したERKは最終的に核へ移行し、転写因子が活性化され、細胞増殖、細胞分化の遺伝子が発現する。KFtxシリーズを6×103/wellで96wellに播種し、37℃、12hr培養(10%FBS RPMI)後、10%FBS又は0.5%FBSのRPMIにメディウムチェンジをした。さらに37℃、24hr培養後(播種から36hr後)、MOI=0.01でVGF+/O1L+を感染させ、さらに 37℃、72hr培養後、蛍光顕微鏡で生細胞のまま明視野観察と蛍光観察した(図9)。尚、一部の細胞は感染の30min前に0.2ng/μlでEGF刺激を行った。その結果、10%FBSにおいて、KFtxとUCA1 Lowでは緑色の蛍光を発する細胞数が多く、一方LowとEmpty Lowでは緑色の蛍光を発する細胞数が少なかった。また、EGFの刺激の有無による変化は観察されなかった。0.5%FBSにおいても同様で、10%FBSと比べて全体的に緑色の蛍光を発する細胞数が減少していたが、KFtx とUCA1 Low では緑色の蛍光を発する細胞数が多く、一方LowとEmpty Low では緑色の蛍光を発する細胞数が少なかった。またEGFの刺激の有無による変化は観察されなかった。以上より、EGF刺激によってワクシニウイルスの増殖能が増強されることはなかった。このことから、KFtxシリーズにおいてERKの活性化によってワクシニアウイルスの増殖能の増強は確認されなかった。すなわち、UCA1はERK単独ではなく他の経路を制御することでウイルス増殖を増強していると考えられた。
【実施例】
【0060】
実施例3と実施例4の結果からUCA1の高発現はERKではなく、別の経路に作用することで、ワクシニアウイルスの増殖能を増強していることが示唆された。
【実施例】
【0061】
実施例5 様々な卵巣癌細胞株(cell line)におけるUCA1の意義
UCA1の高発現がワクシニアウイルスの増殖能を増強する現象をKFtxシリーズ以外の細胞株で検証した。6wellにSHIN3、OVCAR3、RMG-1、SKOV3、ES2の5種を播種した。37℃、36hr後に各細胞からRNAをNucleoSpinRNAで抽出回収し、RT-PCRによりcDNAを作成した。そのcDNAを鋳型としてTaqManプローブ(Life Technologies, Assay ID: Hs01909129_s1)を用いたqRT-PCRによりUCA1の発現を定量化した(n=3)。なお、リファレンス遺伝子はGAPDH(Life Technologies, Assay ID: Hs03929097_g1)を用いた。UCA1の相対発現量は、GAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。その結果、細胞株間でUCA1の発現の差が示された。(図10)。
【実施例】
【0062】
次に、この5種の卵巣癌cell lineを1×104/wellで96wellに播種し、37℃、36hr培養後にMOI=0.001でVGF+/O1L+を感染させた。さらに37℃、72hr培養後、蛍光顕微鏡で生細胞のまま明視野観察と蛍光観察した(図11-1)。図11-1に示すように、RMG-1及びSKOV3で緑色の蛍光を発する細胞が多かった。すなわち、UCA1の高発現とワクシニアウイルスの増殖能に正の相関があることが示唆された。さらに、96wellにこの5種の卵巣癌cell lineを1×104/wellで播種し、37℃、36hr後に、MOI=0.001でVGF+/O1L+を感染させた。さらに37℃、72hr培養後にそれぞれの上清と感染細胞を回収し、RK-13によってタイトレーションを行った(図11-2)。図11-2に示すように、UCA1の発現が低い、SHIN3、OVCAR3及びES2でウイルス増殖・伝搬能が低く、UCA1の発現が高いRMG-1及びSKOV3でウイルス増殖・伝搬能が高かった。すなわち、観察像と同じ結果が得られた。以上のことからUCA1の高発現はワクシニアウイルスの増殖能と正の相関を示すことが確認された。
【実施例】
【0063】
さらにこの現象はKFtxのみでなく他の卵巣癌でも同様の結果が得られたことから、卵巣癌において幅広く保存されている現象であることが示唆された。
【実施例】
【0064】
実施例6 KFtxシリーズにおけるUCA1の発現とワクシニアウイルスの増殖能、ウイルス産生能、腫瘍溶解性の関係の検討
(1) KFtxシリーズにおけるウイルスの感染像及びウイルスGFP蛍光の定量化 UCA1の高発現とKFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの増殖能を比較した。KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx、LowTx、UCA1 LowTx及びEmpty LowTx)を6×103/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF+/O1L+をMOI=0.01で感染させた(n=3)。37℃で培養を行い、感染から72hr後にキーエンスの蛍光顕微鏡BZ-X710で生細胞のまま蛍光観察を行うと共に、蛍光強度を数値化した。感染像を図12-1に示し、蛍光の定量化の結果を図12-2に示す。図12-1に示すように、UCA1 Low及びUCA1 LowTxで蛍光強度が強く、UCA1の発現量とウイルスの増殖及び伝播能は正の相関を示していた。また、図12-2に示すように、GFPの蛍光強度は蛍光顕微鏡による観察像と一致していた。
【実施例】
【0065】
(2) KFtxシリーズにおけるウイルスの経時的感染増殖像
UCA1の高発現とKFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの増殖能を経時的に比較した。KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx、LowTx、UCA1 LowTx及びEmpty LowTx)を6×103/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF+/O1L+をMOI=0.01で感染させた(n=3)。37℃で培養を行い、感染から12hr~72hr後まで12hr毎にキーエンスの蛍光顕微鏡BZ-X710で生細胞のまま明視野観察と蛍光観察を行った。感染像を図13に示す。図13に示すように、UCA1の発現とワクシニアウイルスの増殖能は正の相関を示すことが経時的に確認された。
【実施例】
【0066】
(3) KFtxシリーズにおけるウイルス感染に伴うUCA1の発現の変化
UCA1の発現量とウイルスの増殖能を経時的に比較した。KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low)を3×104/wellの細胞密度で24wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF+/O1L+をMOI=0.01で感染させた。さらに感染の直前と感染から12hr、24hr、36hr、48hr後にRNAを回収し、RT-PCRによりcDNAを作製した。RNAの抽出回収はNucleoSpinRNAにより行い、cDNAの作製は、RT-PCR(Reverse Transcription PCR)で行った。得られたcDNAを鋳型としてTaqManプローブを用いたqRT-PCRによりUCA1の発現を定量化した(n=3)。なお、リファレンス遺伝子はGAPDHを用いた。UCA1の相対発現量は、GAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。図14に結果を示す。図14に示すように、UCA1の高発現株において、UCA1の発現量はウイルス増殖に伴って増強されることが分かった。
【実施例】
【0067】
(4) KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスのウイルス産生能
ワクシニウイルスはIMV(細胞内成熟ウイルス)とEEV(細胞外被覆ウイルス)の2種類の感染形態を保持している。EEVはIMVと比べて高い遠隔感染能を保持している。この2種類の産生量の比較をKFtxシリーズにおいて行った。KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx、LowTx、UCA1 LowTx及びEmpty LowTx)を1.5×105/wellの細胞密度で6wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF+/O1L+をMOI=0.01で感染させた。37℃、72hr培養後 、それぞれの上清(感染細胞から放出されたEEV)と感染細胞(感染細胞内に存在するIMV)を回収した。IMVは上清を除いた後、感染細胞をTryple Expressで剥がし凍結融解することにより得た。凍結融解後、ソニケーションし、遠心(2,000 rpm、5分間)後の上清をウイルス液として回収した(EEVは凍結融解により外膜構造が破損するため、凍結融解、ソニケーション、遠心の工程は行っていない)。各ウイルス液(1ml)のウイルス力価をRK13細胞にて測定した。結果を図15に示した。図15に示すように、EEVとIMVのウイルス力価は両方とも蛍光顕微鏡による観察像(図12-1)と一致していた。
【実施例】
【0068】
(5) EGF刺激を加えたKFtxシリーズにおけるウイルスの感染像及びウイルスGFP蛍光の定量化
ERKを活性化させることによるワクシニアウイルスの増殖能の変化を測定する。ERKの上流にはEGFRがあり、EGFによって活性化される。KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx)を6×103/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、12hr培養後、10%FBSと0.5%FBSのRPMIにメディウムチェンジをする。さらに、37℃、24hr培養後、MOI=0.01でVGF+/O1L+を感染させた。感染の30min前に0.2ng/μlでEGF刺激を行った。感染から72hr後にキーエンスの蛍光顕微鏡BZ-X710で生細胞のまま蛍光観察を行うと共に、蛍光強度を数値化した。感染像を図16-1に示し、蛍光の定量化の結果を図16-2に示す(図16-2Aは10%FBSの結果であり、図16-2Bは0.5%FBSの結果である)。図16-1及び図16-2に示すように、GFPの蛍光強度はEGF刺激によってワクシニウイルスの増殖能が増強されることはなかった。このことから、KFtxシリーズにおいてERKの活性化によってワクシニアウイルスの増殖能の増強は確認されなかった。
【実施例】
【0069】
(6) EGF刺激によるpERK/tERKの変化
KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx)を6×103/wellの細胞密度で96wellに10%FBS RPMIで播種し、37℃、12hr培養後に10%FBS、0.5%FBS RPMIでメディウムチェンジを行った。さらに37℃、24hr培養後にEGFを0.2ng/μlになるようにメディウムチェンジした。30分のEGF刺激後にPierce Colorimetric In-Cell ELISA KitsによりtERK(total-ERK)とpERK(phosphorylated-ERK)を計測した(n=3)。結果を図17に示す。図17に示すように、0.5%、10%FBSで差は見られなかった。また全ての細胞においてEGF刺激によりpERKが活性化されpERKの割合が増大することが確認された。
【実施例】
【0070】
実施例7 様々な卵巣癌におけるウイルスの効果
(1) 様々な卵巣癌におけるVGF+/O1L+感染像及びウイルスGFP蛍光の定量化
SHIN3、OVCAR3、RMG-1、SKOV3、ES2の卵巣癌5種を1×104/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、36hr培養後にMOI=0.01、0.001でVGF+/O1L+を感染させた。37℃、48hr培養後、キーエンスの蛍光顕微鏡BZ-X710で生細胞のまま蛍光観察を行うと共に、蛍光強度を数値化した。感染像を図18-1に示し、蛍光の定量化の結果を図18-2に示す(図18-2AはMOI=0.01の結果であり、図18-2BはMOI=0.001の結果である)。図18-1に示すように、UCA1を高発現しているRMG-1とSKOV3では蛍光強度が強く、ウイルス増殖・伝搬能が高かった。一方、UCA1の発現が低いSHIN3、OVCAR3、ES2では蛍光強度が弱く、ウイルス増殖・伝搬能は低かった。また、図18-2に示すように、GFPの蛍光強度は蛍光顕微鏡による観察像と一致していた。
【実施例】
【0071】
(2) 様々な卵巣癌におけるVGF-/O1L-感染像及びウイルスGFP蛍光の定量化 SHIN3、OVCAR3、RMG-1、SKOV3、ES2の卵巣癌5種を0.6~1×104/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF-/O1L-をMOI=0.005で感染させた。感染の30min前に0.2ng/μlでEGF刺激を行った。37℃、96hr培養後、キーエンスの蛍光顕微鏡BZ-X710で生細胞のまま蛍光観察を行うと共に、蛍光強度を数値化した。感染像を図19-1に示し、蛍光の定量化の結果を図19-2に示す。図19-1に示すように、UCA1を高発現しているRMG-1とSKOV3では蛍光強度が強く、ウイルス増殖・伝搬能が高かった。一方、UCA1の発現が低いSHIN3、OVCAR3、ES2では蛍光強度が弱く、ウイルス増殖・伝搬能は低かった。また、図19-2に示すように、GFPの蛍光強度は蛍光顕微鏡による観察像と一致していた。
【実施例】
【0072】
実施例8 KFtxシリーズにおけるワクシニアウイルスの腫瘍溶解性
KFtxシリーズ(Low、UCA1 Low、Empty Low、KFtx)を6×103/wellの細胞密度で96wellに播種し、37℃、36hr培養後にVGF-/O1L-をMOI=0.5で感染させた。感染から72hrと96hrにCellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay (Promega社)で生細胞数を測定した。結果を図20に示す。図20に示すように、UCA1の高発現はウイルスの腫瘍溶解性を増強することが示された。
【実施例】
【0073】
実施例9 腹膜播種モデルマウスにおけるパクリタキセルとウイルスの抗癌効果の比較 BALB/cAJcl-nu/nu(♀ 5週齢)に対し、in vivoイメージング用にRenilla Luciferase (Rluc)を導入したLow細胞、又はKFtx細胞(1×107)を腹腔内投与した。Rlucの基質であるセレンテラジンを腹腔内投与することによって、マウス体内での腫瘍の生着をin vivoイメージングシステム(Berthold, NightDHADE LB985)で非侵襲的に確認後、31匹(Low群は17匹、KFtx群は14匹)にパクリタキセル(ファイザー社)を1mg/ml/匹で投与した。パクリタキセル投与から7日後に腫瘍のシグナルの変化をRlucイメージングにより検出した。さらに、パクリタキセル投与から8日後にVGF-/O1L-を1×106pfu/200μl/匹で投与し、コントロール群にはPBSを200μl投与した(Low-PBS投与群は8匹、Low-Virus群は9匹、KFtx-PBS群は7匹、KFtx-Virus群は7匹)。VGF-/O1L-は、Firefly Luciferase (Fluc)を感染細胞内で発現するため、その基質であるルシフェリンを腹腔内投与することによって、マウス体内でのウイルス分布をin vivoイメージングシステム(Berthold, NightDHADE LB985)で非侵襲的に可視化できる。ウイルスの投与から2日、及び10日後にウイルス分布をFlucイメージングによって、ウイルス投与から9日後に腫瘍増殖の変化をRlucイメージングによって観察した。結果を図21、図22に示す。図21において右の棒はルシフェラーゼによる光源の光度つまり光の強さのスケールを示し、上から赤、オレンジ、黄、黄緑、青、紫の順で光の強さを表す。そして、図22ではその光の強さの単位であるphotons/secの総数を縦軸に示している。図21、図22に示すように、パクリタキセル(PTx)投与前の腫瘍イメージングによりLow群とKFtx群の腫瘍の生着が確認された。PTx投与後、KF細胞由来の腫瘍は95%以上消失したのに対し、KFTx細胞由来の腫瘍は残存していた。これより、KFtx細胞を用いた腹膜播種モデルマウスは、PTx抵抗性の臨床像を反映した卵巣癌モデルといえる。この残存腫瘍に対するVGF-/O1L-による治療を試みた結果、ウイルス投与2日後のウイルスイメージングでは、腹膜播種した残存KFtx腫瘍において高いウイルス増殖が観察された。そしてウイルス投与9日後の腫瘍イメージングでは、コントロールのPBS投与群における残存腫瘍の再増殖が観察されたのに対し、ウイルス投与群ではPTx治療前の腫瘍の98%以上が消失していた。さらに、ウイルス投与10日後のウイルスイメージングでは、この腫瘍の消失に伴って、ウイルス増殖も消失していた。一方、Low細胞を用いた腹膜播種マウスでは、PTxによって殆どの腫瘍が消失したため、腫瘍特異的増殖能を有するVGF-/O1L-ウイルスの増殖は観察されなかった。
【実施例】
【0074】
以上よりUCA1が高発現する治療抵抗性の残存病変は腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの標的となり、同時にUCA1は抗がん効果を予測するバイオマーカーになり得ることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
ワクシニアウイルスの増殖・伝搬を増強する宿主制御因子をワクシニアウイルスの癌治療効果の評価、及び癌の治療に用いることができる。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0076】
配列番号3 合成
配列番号4及び5 プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7-1】
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【図7-2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11-1】
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【図11-2】
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【図12-1】
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【図12-2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16-1】
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【図16-2】
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【図17】
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【図18-1】
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【図18-2】
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【図19-1】
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【図19-2】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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