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明細書 :ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、ネフローゼ症候群診断用マーカー、ネフローゼ症候群の検査方法、及びネフローゼ症候群の診断用試薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6770741号 (P6770741)
公開番号 特開2018-059877 (P2018-059877A)
登録日 令和2年9月30日(2020.9.30)
発行日 令和2年10月21日(2020.10.21)
公開日 平成30年4月12日(2018.4.12)
発明の名称または考案の名称 ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、ネフローゼ症候群診断用マーカー、ネフローゼ症候群の検査方法、及びネフローゼ症候群の診断用試薬
国際特許分類 G01N  33/50        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  31/4015      (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI G01N 33/50 Z
A61K 45/00
A61K 31/4015
A61P 13/12
G01N 33/15 Z
G01N 33/53 D
G01N 33/68
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 5
全頁数 23
出願番号 特願2016-199262 (P2016-199262)
出願日 平成28年10月7日(2016.10.7)
審査請求日 令和元年7月11日(2019.7.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
発明者または考案者 【氏名】河内 裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100141139、【弁理士】、【氏名又は名称】及川 周
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 米国特許出願公開第2008/0214458(US,A1)
特開2005-229834(JP,A)
特開2012-093351(JP,A)
特開2000-321274(JP,A)
Yoshiyasu Fukusumi,Therapeutic target for nephrotic syndrome: Identification of novel slit diaphragm associated molecules,World J Nephrol,2014年 8月 6日,Vol.3 No.3,Page.77-84
Hiroshi Kawachi,Slit diaphragm dysfunction in proteinuric states: identification of novel therapeutic targets for nephrotic syndrome,Clin Exp Nephrol,2009年,Vol.13,Page.275280
猪阪善隆,ネフローゼ症候群Update ネフローゼ症候群をめぐる研究の進歩,医学のあゆみ,2015年 3月14日,Vol.252 No.11,Page.1166-1170
宮内直子,ポドサイトにおけるsynaptotagumin1・syntasin1Aの発現,日本腎臓学会誌,2006年 4月25日,Vol.48 No.3,Page.282 P-292
河内 裕,神経細胞関連分子「A」の蛋白尿(ネフローゼ症候群)の新規治療標的分子としての有用性,キャンパスイノベーションセンター東京 新技術説明会 (医療・創薬・バイオ),2016年12月 1日,URL,https://shingi.jst.go.jp/var/rev0/0000/4518/2016_cictokyoB_3.pdf
福住好恭,腎糸球体上皮細胞スリット膜の形成・維持におけるシナプス小胞輸送機構の解明,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2016年,URL,https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-24790839/24790839seika.pdf
調査した分野 G01N 33/50
A61K 31/4015
A61K 45/00
A61P 13/12
C07K 14/47
G01N 33/15
G01N 33/53
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
シンタキシン-2のネフローゼ症候群の進行具合の診断を補助するためのマーカーとしての使用。
【請求項2】
SV2Aのネフローゼ症候群の診断を補助するためのマーカーとしての使用。
【請求項3】
被検者の尿中からシンタキシン-2及びSV2Bからなる群より選ばれる少なくとも1種の発現量を測定する工程を備えるネフローゼ症候群の検査方法。
【請求項4】
シンタキシン-2に対する特異的抗体及びSV2Aに対する特異的抗体からなる群より選ばれる1種以上を含む、ネフローゼ症候群の診断用試薬。
【請求項5】
SV2Bに対する特異的抗体、Neurexinに対する特異的抗体、及びRab3に対する特異的抗体からなる群より選ばれる1種以上を更に含む、請求項4に記載のネフローゼ症候群の診断用試薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、シナプス小胞関連分子のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用、ネフローゼ症候群の検査方法、及びネフローゼ症候群の診断用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、慢性腎臓病患者の潜在患者数は約1,300万人に推定されており、その半数は治療が必要であると考えられている。腎臓病が進行すると、腎機能がほぼ廃絶した状態である腎不全となる。腎不全患者に対する治療は、血液透析(人工透析)等の透析療法、又は腎移植しか選択肢がないが、腎移植は限られた症例のみでしか行われておらず、腎不全患者のほとんどは血液透析療法を受けている。血液透析療法を受けている患者数は、35万人を超えており、その総医療費は年間約2兆円に達している。腎病変進行の最も重要な悪化因子は蛋白尿である。蛋白尿を抑制する新規薬剤の開発は、腎不全への進行を阻止、遅延させる効果があり、さらに、透析療法に掛かる莫大な医療費の軽減につながるため、求められている。
【0003】
蛋白尿の中でも、尿蛋白が1日3.5g以上であり、血液中のアルブミン濃度が3.0g/dL以下である場合、ネフローゼ症候群と診断される。ネフローゼ症候群とは、尿からタンパク質が多く排出されるために、血液中のタンパク質濃度が減り(低蛋白血症)、その結果、むくみ(浮腫)が起こる疾患である。高度のネフローゼ症候群では、肺や胃、さらに心臓や陰嚢にも水がたまる。また、低蛋白血症は血液中のコレステロールを増加させるため、腎不全、血栓症(例えば、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞等)、感染症等を合併する危険性がある。
【0004】
本発明者らは、これまでの基盤研究において、腎臓の糸球体上皮細胞(ポドサイト)の細胞間接着装置であるスリット膜が蛋白尿を防ぐ最終バリアとして機能していることを明らかにした。また、本発明者らは、次世代シーケンサによる解析、Subtraction/Differential Display法を用いた検討等により、蛋白尿が発症する直前、病態形成期に遺伝子発現が変化している分子を同定し、その発現パターン、局在、分子機能の解析を行い、蛋白尿発症に関わる分子群の探索、同定を行ってきた(例えば、非特許文献1参照。)。一連の検討により、SV2B、Neurexin等の神経細胞間の接着装置であるシナプスにおける機能分子群(以下、「シナプス小胞関連分子」と称する場合がある。)が、糸球体上皮細胞において発現しており、その機能低下が蛋白尿発症に関与していることを明らかにした(例えば、非特許文献2、及び3参照。)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Miyauchi N et al., “Synaptic vesicle protein 2B is expressed in podocyte, and its expression is altered in proteinuric glomeruli”, J Am Soc Nephrol., vol.17, p2748-2759, 2006.
【非特許文献2】Saito A, et al., “Neurexin-1, a presynaptic adhesion molecule, localizes at the slit diaphragm of the glomerular podocytes in kidneys”, Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol., vol.300, pR340-R348, 2011.
【非特許文献3】Fukusumi Y et al., “SV2B is essential for the integrity of the glomerular filtration barrier”, Lab Inv., vol.95,p534-545, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1~3において、SV2Bノックアウトマウス、及びネフローゼ症候群モデルのラットを用いた試験により、シナプス小胞関連分子が蛋白尿の発症に関連していることが明らかとなった。しかしながら、ネフローゼ症候群を発症しているヒト患者において、糸球体上皮細胞でのシナプス小胞関連分子の発現については明らかとされていなかった。また、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の開発には未だ至っていなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、新規のネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、新規のネフローゼ症候群診断用マーカー、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の検査方法、及び新規のネフローゼ症候群の診断用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高度の蛋白尿を呈するネフローゼ症候群を発症しているヒト患者において、糸球体上皮細胞でのシナプス小胞関連分子の発現が著しく低下することから、シナプス小胞関連分子がネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬開発における標的分子となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
シンタキシン-2のネフローゼ症候群の進行具合の診断を補助するためのマーカーとしての使用。
SV2Aのネフローゼ症候群の診断を補助するためのマーカーとしての使用。
]被検者の尿中からシンタキシン-2及びSV2Bからなる群より選ばれる少なくとも1種の発現量を測定する工程を備えるネフローゼ症候群の検査方法。
シンタキシン-2に対する特異的抗体及びSV2Aに対する特異的抗体からなる群より選ばれる1種以上を含む、ネフローゼ症候群の診断用試薬。
[5]SV2Bに対する特異的抗体、Neurexinに対する特異的抗体、及びRab3に対する特異的抗体からなる群より選ばれる1種以上を更に含む、[4]に記載のネフローゼ症候群の診断用試薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、有効なネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、正確に診断可能なネフローゼ症候群診断用マーカー、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の検査方法、及び正確に診断可能なネフローゼ症候群の診断用試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における正常(蛋白尿陰性)ヒト被検体及びネフローゼ症候群のヒト被検体の糸球体上皮細胞(ポドサイト)での各シナプス小胞関連分子の発現を検出した画像である。
【図2】実施例2における各ネフローゼ症候群モデルラット(アドリアマイシン(adriamycin;ADR)腎症、ピューロマイシン(puromycin;PAN)腎症、及び抗ネフリン抗体(anti-nephrin antibody;ANA)誘導腎症(ANA腎症)の尿中でのシンタキシン-2(syntaxin-2)を検出した画像である。
【図3】実施例3におけるADR腎症モデルラットの尿中でのSV2Bを検出した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法>
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する工程1と、前記シナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程2と、前記発現量を増加させる物質を選択する工程3と、を備えるネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法を提供する。

【0013】
本実施形態のスクリーニング方法によれば、簡便且つ正確にネフローゼ症候群の予防又は治療に有効な物質をスクリーニングすることができる。

【0014】
一般に、「蛋白尿」は、以下のように尿蛋白濃度を検査することで定量的及び定性的に診断される。
健常者の尿中において、尿蛋白は1日あたり0.15g程度含まれており、尿蛋白の検査において、尿蛋白濃度が15mg/dL未満であれば特に問題ないとされ、陰性(-)と診断される。一方、尿蛋白の検査において、尿蛋白が15mg/dL以上30mg/dL未満では偽陽性(±)、30mg/dL以上100mg/dL未満では陽性(1+)、100mg/dL以上300mg/dL未満では陽性(2+)、300mg/dL以上1000mg/dL未満では陽性(3+)、1000mg/dL以上では陽性(4+)と診断される。
また、一般に、「ネフローゼ症候群」とは、尿からタンパク質が多く排出されるために、血液中のタンパク質濃度が減り(低蛋白血症)、その結果、むくみ(浮腫)が起こる疾患である。また、尿蛋白が1日3.5g以上であり、血液中のアルブミン濃度が3.0g/dL以下である場合、ネフローゼ症候群と診断される。高度のネフローゼ症候群では、肺や胃、さらに心臓や陰嚢にも水がたまる。また、低蛋白血症は血液中のコレステロールを増加させるため、腎不全、血栓症(例えば、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞等)、感染症等を合併する危険性がある。従って、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を開発することで、上記合併の虞のある疾患を防ぐことができる。
本実施形態のスクリーニング方法の各工程について、以下に詳細に説明する。

【0015】
[工程1]
まず、シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する。

【0016】
一般に、「糸球体上皮細胞」は、高度に分化した細胞であり、腎臓の糸球体において、糸球体基底膜(glomerular basement membrane;GBM)を外側から覆っており、その外観から、タコ足細胞(ポドサイト;podocyte)と呼ばれている。糸球体上皮細胞の突起は細胞体から伸びる一次突起と、そこからさらに伸展する二次突起がある。二次突起の末端にある足突起は常に別の細胞(体)からでた突起が隣り合うように絡み合った特異な形態をとる。スリット膜はこの足突起と足突起の約20nm以上60nm以下程度の間隙に形成される。この細胞間接着装置の一種であるスリット膜は、“ジッパー様”の構造をしており、高分子透過阻止に関与している。また、スリット膜を形成しているネフリン(nephrin)、ポドシン(podocin)、CD2関連タンパク質(CD2-associated protein;CD2AP)、α-アクチニン4(α-actinin-4)等のスリット膜関連分子の遺伝子レベルにおける異常が蛋白尿、乃至家族性の糸球体硬化症をもたらすことが報告されている。
これらのことから、糸球体上皮細胞及びスリット膜の機能不全は著明な蛋白尿を引き起こすことが知られている。
また、本発明者らは、神経細胞間の接着装置であるシナプスにおける機能分子群(以下、「シナプス小胞関連分子」と称する場合がある。)が、糸球体上皮細胞において発現しており、さらにその発現量又は機能の低下がネフローゼ症候群の発症に関与することを明らかにした。
従って、医薬候補物質を添加した糸球体上皮細胞におけるシナプス小胞関連分子の発現量を測定することで、ネフローゼ症候群に有効な物質を選択することができる。

【0017】
また、本実施形態で用いられる糸球体上皮細胞は、糸球体上皮細胞に分化し得る細胞を糸球体上皮細胞に分化誘導したものを用いてもよい。
なお、「糸球体上皮細胞に分化し得る細胞」とは、糸球体上皮細胞に分化することができる未分化細胞を意味する。糸球体上皮細胞に分化し得る細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞、ネフロン前駆細胞等が挙げられる。

【0018】
また、本実施形態で用いられる糸球体上皮細胞の由来となる動物種としては、哺乳動物であることが好ましい。前記哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、マーモセット、サル等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、ヒトであることが好ましい。

【0019】
糸球体上皮細胞は予め適当な細胞数となるように培養しておけばよい。糸球体上皮細胞の培養に用いられる培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基礎培養液であればよい。
前記培地としては、例えば、DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が挙げられ、これらに限定されない。

【0020】
また、前記培地はさらに血清、又は成長因子を含んでいてもよい。
前記血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下であればよい。

【0021】
前記成長因子としては、例えば、細胞増殖因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。
前記成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic fibroblast growth factor:aFGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin—like growth factor-1:IGF-1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage-derived growth factor:MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、腫瘍血管新生因子(Tumor angiogenesis factor:TAF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
培養液に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。

【0022】
培地にはさらに、以下に例示するホルモン、抗生物質等のその他の添加物を含有していてもよい。

【0023】
培地に含まれるホルモンとしては、例えば、インシュリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。細胞培養用培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。

【0024】
培地に含まれる抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。細胞培養用培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下であればよい。

【0025】
培養温度としては、例えば25℃以上40℃以下であってもよく、例えば30℃以上39℃以下であってもよく、例えば35℃以上39℃以下であってもよい。
また、培養環境は、例えば約5%のCO条件下であってもよい。
培養時間としては、必要とする細胞数等により適宜選択することができ、例えば1日以上14日以下であってもよい。

【0026】
培養した糸球体上皮細胞においてシナプス小胞関連分子が発現していることは、例えば、シナプス小胞関連分子に対する抗体を用いた蛍光染色法等により簡易的に確認すればよい。

【0027】
本明細書において、「シナプス小胞関連分子」としては、例えば、SV2A(シナプス小胞タンパク質2A)、SV2B(シナプス小胞タンパク質2B)、Neurexin(ニューレキシン)、Synaptotagmin(シナプトタグミン)、Rab3、シンタキシン-2、Munc-18、Mint 1等が挙げられ、これらに限定されない。
SV2A及びSV2Bは、シナプス小胞における神経伝達物質のエクソサイトーシス(開口分泌)の制御に関与しており、細胞内基質のトランスポーターとしての機能、シナプトタグミンの調節機能、SV2Aの糖鎖部分が神経伝達物質又はATP等を保持するマトリックスとしての機能を担う可能性が報告されている。
Synaptotagmin(シナプトタグミン)は、Ca2+依存性シナプス小胞開口放出を制御するCa2+センサーの機能を有するタンパク質である。
Rab3は、GTP結合タンパク質であり、シナプス小胞における神経伝達物質のエクソサイトーシス(開口分泌)の制御に関与する。
シンタキシンは、開口放出を含む細胞内小胞輸送において膜融合に関わるタンパク質ファミリー及びそのメンバーである。
Munc-18は、シンタキシン結合タンパク質であり、シンタキシンと結合することによって、シナプス小胞の開口放出に対して抑制的に制御するものと考えられている。
Mint 1は、ニューロンの細胞質に局在するタンパク質であり、PTBドメイン及び2つC末端PDZドメインからなるマルチドメインタンパク質である。シナプス構造の形成及び神経伝達物質の放出機能の発現と制御に関与していると考えられている。

【0028】
本明細書において、「医薬候補物質」とは、シナプス小胞関連分子の発現、又は機能を促進する物質であればよく、特別な限定はない。例えば、低分子化合物であってもよく、天然物に含まれる化合物であってもよい。また、ペプチドや核酸であってもよい。スクリーニングには個々の被検物質を用いてもよいが、これらの物質を含む化合物ライブラリーを用いてもよい。候補物質の中から、シナプス小胞関連分子の発現又は機能を促進するものを選択することにより、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の候補物質を得ることができる。
また、例えば、癲癇等の神経疾患で既に使用されている薬剤を用いてもよく、この場合、ネフローゼ症候群への効果が証明されれば、早期の臨床応用が可能となる。
医薬候補物質は、培地と混合し、予め培養しておいた糸球体上皮細胞に添加すればよい。

【0029】
なお、本明細書において、「シナプス小胞関連分子の発現又は機能を促進する」とは、シナプス小胞関連分子のmRNA若しくはタンパク質の発現量を増加させる、又は発現されたシナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進することを意味する。

【0030】
[工程2]
次いで、糸球体上皮細胞におけるシナプス小胞関連分子の発現量を測定する。

【0031】
シナプス小胞関連分子の発現量を測定する方法としては、当該技術分野において用いられる公知の方法であればよく、例えば、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を用いた方法等が挙げられる。
シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を用いた方法として、より具体的には、例えば、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、ウエスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫組織学的染色法等が挙げられる。シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体としては、検出したいシナプス小胞関連分子の種類に応じて、適宜選択して用いればよい。

【0032】
シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を用いた方法を用いてシナプス小胞関連分子の発現量を測定する方法について、詳細な手順を以下に示す。
まず、誘導工程後の医薬候補物質の添加、又は無添加条件での培養液と、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体とを接触させて、培養液中の抗原(シナプス小胞関連分子)と前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体とによる抗原抗体反応(以下、「1次抗原抗体反応」と称する場合がある。)を行う。この抗原抗体反応は、4℃以上37℃以下にて行うことが好ましい。反応時間については、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体の抗体価及び培養液中の抗原(シナプス小胞関連分子)の量によって、適宜調整することができる。
前記培養液としては、糸球体上皮細胞の懸濁液であってもよく、破砕液であってもよい。破砕液を用いる場合、公知の方法を用いて調製すればよい。

【0033】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、例えば、緩衝液等を用いて溶解又は希釈して用いればよい。使用する緩衝液としては、当該分野において公知のものから適宜選択でき、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられる。緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(例えば、Tween 20、Triton X-100等)及び防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)のうち少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。緩衝液の具体例としては、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline;PBS)、PBS-T(PBS-Tween 20)、トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)、又はTBS-T(TBS-Tween 20)等が挙げられる。

【0034】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がマイクロタイタープレート、チューブ、スライドグラス又はチップ等の支持体に固定されている場合、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体が固定されている支持体に、培養液を滴下し、接触させればよい。また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がビーズ、粒子等の支持体に固定されている場合、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体が固定されている支持体を緩衝液等に懸濁し、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体が固定されている支持体を含む溶液と、培養液とを混合して接触させればよい。使用する緩衝液としては、上述において例示したものと同様のものが挙げられる。

【0035】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に標識物質が結合したものを用いる場合、1次抗原抗体反応を検出してもよい。
また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がマイクロタイタープレート、チューブ、スライドグラス又はチップ等の支持体に固定されている場合、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に結合した際に、センサー等により1次抗原抗体反応を検出してもよい。
検出感度及び反応特異性の観点から、2次抗体を用いて、シナプス小胞関連分子を検出及び定量することが好ましい。2次抗体を用いた場合の検出方法について、以下に詳細に説明する。

【0036】
まず、1次抗原抗体反応後、培養液を取り除き、洗浄する。この洗浄は、例えば、緩衝液等を用いて行えばよい。使用する緩衝液としては、上述において例示したものと同様のものが挙げられる。

【0037】
次いで、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体と、2次抗体を接触させ、シナプス小胞関連分子、又は前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体と、2次抗体(前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に標識物質が結合したもの、又は前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したもの)と、による抗原抗体反応(以下、「2次抗原抗体反応」と称する場合がある。)を行う。2次抗原抗体反応についても、4℃以上37℃以下にて行うことが好ましい。反応時間については、使用する2次抗体の抗体価によって、適宜調整することができる。

【0038】
使用する2次抗体としては、後述の<ネフローゼ症候群の診断用試薬>の(2次抗体)において例示したものと同様のものが挙げられる。
また、使用する2次抗体は、例えば、緩衝液等を用いて溶解又は希釈して用いればよい。使用する緩衝液としては、上述において例示したものと同様のものが挙げられる。

【0039】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がマイクロタイタープレート、チューブ、スライドグラス又はチップ等の支持体に固定されている場合、2次抗体を含む溶液を滴下し、接触させればよい。また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がビーズ、粒子等の支持体に固定されている場合、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体が固定されている支持体を含む溶液と、2次抗体を含む溶液とを混合して接触させればよい。

【0040】
また、2次抗原抗体反応後に、1次抗原抗体反応後と同様に洗浄を行ってもよい。また、2次抗体の標識物質が酵素である場合、酵素基質と接触させる工程、反応停止液を添加して反応を停止させる工程等をさらに備えていてもよい。

【0041】
次いで、2次抗体を検出することにより、シナプス小胞関連分子を検出することができる。さらに、2次抗体を検出することにより、培養液中に含まれるシナプス小胞関連分子の発現量を定量することができる。検出方法としては、標識物質の種類により、当業者が適宜選択することができる。例えば、標識物質が蛍光物質である2次抗体を検出する場合、蛍光スキャナー又は2光子励起スキャナー等により検出及び定量することができる。

【0042】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がマイクロタイタープレート、チューブ、スライドグラス又はチップ等の支持体に固定されている場合、検出機構やサンプル分注機構等の解析に必要な周辺装置と組み合わせることによって、全自動あるいは半自動の培養液中のシナプス小胞関連分子の検出システムとして提供することができる。この検出システムによれば、培養液中に含まれるシナプス小胞関連分子を全自動あるいは半自動で簡便に検出することができる。さらに、培養液中に含まれるシナプス小胞関連分子を定量することができる。

【0043】
また、工程2において、シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を測定してもよい。

【0044】
シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を測定する方法としては、例えば、糸球体上皮細胞におけるシナプス小胞関連分子をコードするmRNAを抽出し発現量を測定する方法が挙げられる。より具体的には、例えば、定量RT-PCR法、ノーザンブロット法、In situ hybridization法等が挙げられ、これらに限定されない。

【0045】
また、シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を測定する方法において、培養中に含まれるシナプス小胞関連分子をコードするmRNAは、当業者に周知の方法を用いて、あるいは市販のmRNA抽出用キットを用いて、抽出及び精製することができる。

【0046】
シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量は、蛍光強度、発光強度、又は放射能強度等によって、検出及び定量することができる。

【0047】
[工程3]
次いで、シナプス小胞関連分子の発現量の定量結果から、前記発現量を増加させる物質を選択する。

【0048】
シナプス小胞関連分子の発現量の定量結果から、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量と比較して高かった場合に、発現量の増加に伴い、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有し、前記候補物質はネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬として有用であると評価することができる。
一方、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量と比較して同程度、又は低かった場合に、前記候補物質は、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有さないと評価することができる。
以上により、シナプス小胞関連分子の発現量を増加させた物質をネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の候補物質として選択することができる。

【0049】
また、シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量の定量結果から、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量と比較して高かった場合に、発現量の増加に伴い、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有し、前記候補物質はネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬として有用であると評価することができる。
一方、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量と比較して同程度、又は低かった場合に、前記候補物質は、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有さないと評価することができる。
以上により、シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を増加させた物質をネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の候補物質として選択することができる。

【0050】
<ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物>
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有するネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物を提供する。

【0051】
本実施形態の医薬組成物によれば、シナプス小胞関連分子の発現又は機能を促進することで、効果的にネフローゼ症候群を予防又は治療することができる。
また、低蛋白血症は血液中のコレステロールを増加させるため、腎不全、血栓症(例えば、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞等)、感染症等を合併する危険性がある。従って、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を開発することで、上記合併の虞のある疾患を防ぐことができる。

【0052】
シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質としては、シナプス小胞関連分子の発現又は機能を促進するものであればよく、例えば、低分子化合物であってもよく、天然物に含まれる化合物であってもよく、ペプチドや核酸であってもよい。
また、前記促進物質としては、例えば、癲癇等の神経疾患で既に使用されている薬剤であってもよく、具体的には、レベチラセタム等が挙げられる。
レベチラセタムは、SV2Aと特異的に結合することで抗癲癇作用を有する薬として市販されており、カルシウムチャネルを阻害する等して、脳神経の興奮を抑制する作用を有する。

【0053】
(投与方法)
本実施形態の医薬組成物は、有効成分の種類、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、本実施形態の医薬組成物において、レベチラセタムを有効成分として含有する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、経口投与にて、1日の投与において1g以上3g以下程度を投与すればよい。

【0054】
投与回数としては、1週間平均当たり、1回~数回投与することが好ましい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法が挙げられる。

【0055】
(組成成分)
本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量のナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の他に、薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含んでいてもよい。
薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、腎臓へ、有効成分を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。

【0056】
本実施形態の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
又は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。さらには、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。

【0057】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。

【0058】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。

【0059】
注射用の油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤等を配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。

【0060】
注射剤である場合、上記のような水性又は非水性の希釈剤、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法等によって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。

【0061】
(治療方法)
本発明の一側面は、ネフローゼ症候群の治療のための上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、治療的に有効量の上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を提供する。
また、本発明の一側面は、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を製造するための上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の使用を提供する。
また、本発明の一側面は、上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、ネフローゼ症候群の治療方法を提供する。

【0062】
<ネフローゼ症候群診断用マーカー>
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子をネフローゼ症候群診断用マーカーとして使用する。

【0063】
本実施形態において、シナプス小胞関連分子をマーカーとして使用することにより、簡便且つ正確に被検者がネフローゼ症候群であるか否かを診断することができる。

【0064】
シナプス小胞関連分子としては、上述の<ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法>において例示されたもののうち、尿中に排泄されるもの、例えば、シンタキシン-2、SV2B、Rab3等が挙げられる。
中でも、ネフローゼ症候群診断用マーカーとして用いられるのは、シンタキシン-2、及びSV2Bからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明者らは、これらのシナプス小胞関連分子について、一過性の重篤な蛋白尿を呈する患者、又は進行性のネフローゼ症候群患者であって予後の良好な患者においては検出されず、進行性のネフローゼ症候群患者であって予後の悪い患者においてのみ検出されることを初めて見出した。よって、これらのシナプス小胞関連分子は、特にネフローゼ症候群の進行具合を診断する上で有用なマーカーとなり得る。

【0065】
本明細書において、ネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用とは以下のような態様を含む。
(1)尿中での上記シナプス小胞関連分子の発現を検出又は発現量を測定する。
(2)尿中での上記シナプス小胞関連分子をコードするmRNA又はその部分配列を有するヌクレオチド断片の存在を検出又は測定する。

【0066】
尿中での上記シナプス小胞関連分子の発現を検出又は発現量を測定してネフローゼ症候群の診断を行うには、例えば、このシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を作製して、特異的抗体を使用したウエスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、免疫沈降法、免疫組織学的染色法等の免疫学的方法が挙げられる。

【0067】
ウエスタンブロッティング法は、例えばシナプス小胞関連分子を含有する尿サンプルをアクリルアミドゲル電気泳動によりシナプス小胞関連分子を分離し、これをメンブランに転写し、シナプス小胞関連分子を認識しうる抗体 (一次抗体) と反応させ、生成する免疫複合体を標識した二次抗体を用いて検出する方法である。生成した免疫複合体と結合した標識二次抗体の標識量を測定することにより、存在するシナプス小胞関連分子の量を測定できる。

【0068】
免疫組織学的染色法は、スライドガラス上に固定された組織切片や細胞等を、抗体と反応させて免疫複合体を生成させ、これと結合した標識二次抗体により検出するものであり、組織や細胞における対象シナプス小胞関連分子の発現部位を解析するのに有効である。

【0069】
使用する特異的抗体は、後述の<ネフローゼ症候群の診断用試薬>において例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0070】
また、ネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用には、シナプス小胞関連分子をコードするmRNA、又はその部分配列を有するヌクレオチド断片を検出する方法も挙げられる。より具体的には、例えば、定量RT-PCR法、ノーザンブロット法、In situ hybridization法等が挙げられ、これらに限定されない。
このような検出方法には、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報に基づいて作成したプローブやプライマー、又はそれらを組み合わせて用いることができる。

【0071】
また、尿中に含まれるシナプス小胞関連分子をコードするmRNA、又はその部分配列を有するヌクレオチド断片について、特定のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)での増幅の有無をみることによっても、シナプス小胞関連分子をコードするポリヌクレオチドの存在を検出することができる。

【0072】
<ネフローゼ症候群の検査方法>
一実施形態において、本発明は、被検者の尿中からシナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程を備えるネフローゼ症候群の検査方法を提供する。

【0073】
本実施形態の検査方法(検査データを得る方法)によれば、シナプス小胞関連分子の発現量が、健常者(好ましくは、ヒト)等を対照として、減少している場合、被検者(好ましくは、ヒト)がネフローゼ症候群に罹患している、又はネフローゼ症候群の危険性が高いと判定することができる。

【0074】
[測定工程]
被検者から得られた尿に含まれるシナプス小胞関連分子の発現量を測定する方法としては、例えば、このシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を作製して、特異的抗体を使用したウエスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、免疫沈降法、免疫組織学的染色法等の免疫学的方法が挙げられる。
ウエスタンブロッティング法及び免疫組織学的染色法の詳細については、上述の<ネフローゼ症候群診断用マーカー>において説明されたとおりである。

【0075】
使用する特異的抗体は、後述の<ネフローゼ症候群の診断用試薬>において例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0076】
また、被検者から得られた尿に含まれるシナプス小胞関連分子の発現量を測定する方法としては、例えば、シナプス小胞関連分子をコードするmRNA、又はその部分配列を有するヌクレオチド断片を検出する方法等が挙げられる。より具体的には、例えば、定量RT-PCR法、ノーザンブロット法、In situ hybridization法等が挙げられ、これらに限定されない。
このような検出方法には、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報に基づいて作成したプローブやプライマー、又はそれらを組み合わせて用いることができる。

【0077】
<ネフローゼ症候群の診断用試薬>
[第1実施形態]
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を含むネフローゼ症候群の診断用試薬を提供する。

【0078】
本実施形態の診断用試薬によれば、簡便且つ正確に被検者がネフローゼ症候群であるか否かを診断することができる。

【0079】
本実施形態におけるシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよく、所望のシナプス小胞関連分子の発現量を測定できるものであればよい。
本実施形態におけるシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体の機能的断片であってもよい。中でも、特異性が高く、定量性が優れていることから、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。

【0080】
本明細書中において、「特異的に結合」とは、抗体が標的タンパク質(抗原)にのみ結合することを意味し、例えば試験管内におけるアッセイ、好ましくは精製した野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore、GE-Healthcare Uppsala, Sweden等)における抗体の抗原のエピトープへの結合等により定量することができる。結合の親和性は、ka(抗体-抗原複合体からの抗体結合に関する速度定数)、kD(解離定数)、及びKD(kD/ka)によって規定することができる。抗体が抗原に特異的に結合している場合の結合親和性(KD)は、10-8mol/L以下であることが好ましく、10-9M~10-13mol/Lであることがより好ましい。

【0081】
本実施形態において、「ポリクローナル抗体」とは、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物を意味する。すなわち、本実施形態の抗体がポリクローナル抗体である場合、O結合型GlcNAc化したセリン40残基を含み、且つ、異なるアミノ酸配列からなるエピトープに対し、特異的に結合する異なる抗体を含み得る。
また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。
また、ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものを意味する。すなわち、本実施形態の抗体がモノクローナル抗体である場合、自然環境の成分から単離された抗体である。
本実施形態において、抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的タンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。

【0082】
また、本実施形態のシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は標識物質が結合していてもよい。
前記抗体の標識物質としては、例えば、安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、酵素、磁性体等が挙げられる。中でも、前記抗体の標識物質としては、検出が容易且つ高感度であることから、蛍光物質又は酵素であることが好ましい。上記標識物質を備えることで、培養液中に含まれるシナプス小胞関連分子を簡便且つ高感度に検出及び定量することができる。

【0083】
安定同位体としては、例えば13C、15N、H、17O、18Oが挙げられ、これらに限定されない。
放射性同位体としては、例えばH、14C、13N、32P、33P、35Sが挙げられ、これらに限定されない。
蛍光物質としては、例えばシアニン色素(例えばCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等)等が挙げられ、これらに限定されない。

【0084】
酵素としては、例えばアルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ(HRP)等が挙げられる。標識物質が酵素である場合、酵素基質を使用することが好ましい。酵素基質としては、アルカリホスファターゼの場合、p-ニトロフェニルリン酸(p-nitropheny phosphase;pNPP)、4-メチルウンベリフェリルリン酸(4-MUP)等を用いることができ、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’-diaminobenzidine(DAB)、3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine(TMB)、o-phenylenediamine(OPD)、2,2-アジノ-ジ-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)等を用いることができる。

【0085】
磁性体としては、例えばガドリニウム、Gd-DTPA、Gd-DTPA-BMA、Gd-HP-DO3A、ヨード、鉄、酸化鉄、クロム、マンガン、又はその錯体、或いはキレート錯体等が挙げられ、これらに限定されない。

【0086】
(抗体の製造方法)
本実施形態のシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がポリクローナル抗体である場合、抗原(例えば、シンタキシン等のシナプス小胞関連分子若しくはその断片、又はこれらを発現する細胞等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等)によって、精製して取得することができる。
抗原として使用するシナプス小胞関連分子、又はその一部のアミノ酸配列を有するペプチド断片は、化学的に合成してもよく、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報にも基づいて既知の遺伝子工学的手段によって製造してもよい。

【0087】
また、本実施形態のシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がモノクローナル抗体である場合は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。

【0088】
ハイブリドーマ法としては、例えば、コーラー及びミルスタインの方法(例えば、Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975)参照)等が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞としては、例えば抗原(例えば、シンタキシン等のシナプス小胞関連分子若しくはその断片、又はこれらを発現する細胞等)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球等が挙げられる。また、免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することができる。ミエローマ細胞としては、公知の種々の細胞株を使用することができる。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、同一の動物種起源のものであることが好ましい。ハイブリドーマを得る方法としては、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る方法等が挙げられる。ハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を得る方法としては、例えば標的蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得する方法等が挙げられる。

【0089】
組換えDNA法としては、例えば上記本実施形態の抗体又は抗体の機能的断片をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、本実施形態の抗体を組換え抗体として産生させる手法等が挙げられる(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775(1990)参照)。
本実施形態の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(例えば、国際特許出願第94/11523号参照)。本実施形態の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離及び精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離及び精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いた方法では、例えば、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、又はブタ等)を作製し、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得する方法等が挙げられる。

【0090】
本実施形態の抗体は、シナプス小胞関連分子に特異的に結合できるものであれば、アミノ酸配列変異体であってもかわない。
アミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、又はペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域及びCDR)であってもよい。また、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法等を用いてもよい(例えば、PNAS,102:8466-8471(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J.Biol.Chem.,280:24880-24887(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:345-351(2008)参照)。

【0091】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。
本明細書中において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・スレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)等で分類することができる。アミノ酸配列変異体は、抗原への結合活性が対照抗体(例えば、後述の実施例に記載のO-GlcNAc(RL2)抗体等)よりも高いことが好ましい。
本実施形態の抗体(上述の抗体の機能的断片、アミノ酸配列変異体等も含む)の抗原への結合活性は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫染色法等により評価することができる。

【0092】
(2次抗体)
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に加えて、さらに、前記シナプス小胞関連分子に特異的抗体に標識物質が結合したもの、又は前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備えていてもよい。
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備える場合、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法や抗原測定系による化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)等を用いて、特定のシナプス小胞関連分子を検出及び定量することができる。
また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備える場合、抗体測定系によるELISA法、間接蛍光抗体法、抗体測定系によるCLEIA法等を用いて、特定のシナプス小胞関連分子を検出及び定量することができる。

【0093】
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体の由来動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)に対する抗体であることが好ましい。例えば、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体の由来がマウスである場合、抗マウス抗体であることが好ましい。また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したものには、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスが含まれる。

【0094】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、必要に応じて、さらに反応停止液を備えていてもよい。反応停止液としては、例えば、硫酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。

【0095】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、さらに、緩衝液を備えていてもよい。緩衝液としては、上述の<ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法>の[工程2]に例示されたものと同様のものが挙げられる。

【0096】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬において、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体、及び2次抗体は、乾燥状態であってもよく、上述の緩衝液に溶解した上であってもよい。中でも、これらの抗体は、保存安定性から、乾燥状態であることが好ましい。

【0097】
[第2実施形態]
一実施形態において、本発明は、逆転写反応用のランダムプライマーと、前記ランダムプライマーを用いた逆転写反応で得られる逆転写産物のうちシナプス小胞関連分子をコードするcDNAを増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーと、を含むネフローゼ症候群の診断用試薬を提供する。

【0098】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は定量RT-PCR法によりシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量(すなわち、mRNAの発現量)を測定する場合に用いることができる。本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬によれば、簡便且つ正確に被検者がネフローゼ症候群であるか否かを診断することができる。

【0099】
本実施形態における逆転写反応用のランダムプライマーとしては、例えば、ランダムな配列を有する6mer又は9merのデオキシリボヌクレオチドの混合物からなるもの等が挙げられ、前記デオキシリボヌクレオチドの5’末端がリン酸化されていることが好ましい。

【0100】
本実施形態におけるフォワードプライマーは、前記逆転写反応用のランダムプライマーにより得られた逆転写産物のうち、シナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAの3’末端領域の塩基配列に対して特異的な配列とすることができる。また、本実施形態におけるリバースプライマーは、前記逆転写反応用のランダムプライマーにより得られた逆転写産物のうち、シナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAの5’末端領域の塩基配列に対して特異的な配列とすることができる。フォワードプライマー及びリバースプライマーが上記配列を有することにより、リアルタイムPCR反応において、前記ランダムプライマーを用いた逆転写反応で得られる逆転写産物のうちシナプス小胞関連分子をコードするcDNAをより特異的に増幅することができる。
各種ヒトのシナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAを増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列を以下の表1に示す。

【0101】
【表1】
JP0006770741B2_000002t.gif

【0102】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、さらに、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを備えていてもよい。前記標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、シナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAの塩基配列の少なくとも3塩基と相補的な塩基配列を含む。前記塩基配列を含むことにより、プローブは前記フォワードプライマー及びリバースプライマーによる増幅産物に特異的にハイブリダイゼーションすることができる。本実施形態における標識されたプローブとしては、例えば、5’末端にクエンチャーが、3’末端に標識物質が結合しているものを用いることができる。5’末端にクエンチャー、3’末端に標識物質を備えることにより、リアルタイムPCR反応のDNAポリメラーゼによる伸長反応の際に、ポリメラーゼの持つ5’-3’exonuclease活性により、前記逆転写産物のうちシナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAにハイブリダイズしたプローブが分解され、クエンチャーによる抑制が解除されて標識物質を検出することができる。

【0103】
プローブの3’末端に結合した標識物質としては、例えば、蛍光色素、蛍光ビーズ、量子ドット、ビオチン、抗体、抗原、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられる。
蛍光色素としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’ ,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647等が挙げられる。
プローブの3’末端に結合した標識物質が蛍光色素である場合、プローブの3’末端に結合した標識物質とプローブの5’末端に結合したクエンチャーとの組み合わせとしては、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動;Fluorescence(Foerster) Resonance Energy Transfer)が起こり得る標識物質の組合せであることが好ましい。具体的には、例えば、励起波長が490nm付近の蛍光色素(例えば、FITC、ローダミングリーン、Alexa(登録商標)fluor 488、BODIPY FL等)と励起波長が540nm付近の蛍光色素(例えば、TAMRA、テトラメチルローダミン、Cy3)、又は励起波長が540nm付近の蛍光色素と励起波長が630nm付近の蛍光色素(例えば、Cy5等)の組合せ等が挙げられる。

【0104】
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、使用する核酸増幅方法によって異なるが、この他に、基質としてのヌクレオチド三リン酸、核酸合成酵素、増幅反応用緩衝液の1つ以上を含んでいてもよい。ヌクレオチド三リン酸は、核酸合成酵素に応じた基質(dNTP、rNTP等)である。核酸合成酵素は、使用する核酸増幅方法に応じた酵素であり、例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等が挙げられる。増幅反応用緩衝液としては、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられ、pHは特に限定されない。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
[実施例1]
(1)試料の調製
健常者及びネフローゼ症候群患者において腎生検(腎臓を細い針で刺して、一部組織を取ってくる検査)で得られた試料の一部を、提供者の許可を得て、糸球体上皮細胞のサンプルとして用いた。得られた試料はすぐにn-ヘキサンを用いて-70℃で凍結した。
次いで、健常者及びネフローゼ症候群患者由来の試料について、それぞれ3μm厚の凍結切片を複数作製した。
【実施例】
【0107】
(2)シナプス小胞関連分子の検出
次いで、抗SV2B抗体(Synaptic System(SYSY)社製)、抗SV2A抗体(SYSY社製)、抗neurexin(自作、前記非特許文献(2)、参照。)、又は抗Rab3抗体(SYSY社製)を用いて、切片を4℃で16時間インキュベーションした。次いで、FITC結合抗マウスIgG抗体(DAKO社製)を用いて、染色した。次いで、IF顕微鏡(BX50、オリンパス社製)を用いて観察した。結果を図1に示す。図1において、正常とは、健常者由来のサンプルを示し、ネフローゼ症候群症例とはネフローゼ症候群患者由来のサンプルを示す。
【実施例】
【0108】
図1から、糸球体上皮細胞に発現しているシナプス小胞関連分子は、ネフローゼ症候群患者では、発現が低下していることが観察された。
このことから、ヒトのネフローゼ症候群の病態形成にこれら分子群の発現低下、機能低下が関与することが示唆された。またこれら分子は病態のマーカーとして有用であることが示唆された。
【実施例】
【0109】
[実施例2]
(1)ネフローゼ症候群モデルラットの準備
公知の方法を用いて、ネフローゼ症候群モデルラット(アドリアマイシン(adriamycin;ADR)腎症(参考資料:「Otaki Y at al., “Dissociation of NEPH1 from nephrin is involved in development of a rat model of focal segmental glomerulosclerosis”, Am J Physiol Renal Physiol., vol.295, no.5, pF1376-1387, 2008.」参照。)、ピューロマイシン(puromycin;PAN)腎症、及び抗ネフリン抗体(anti-nephrin antibody;ANA)誘導腎症(以下、「ANA腎症」と称する場合がある。)(非特許文献1参照。)を準備した。
なお、ADR腎症ラットは持続性、進行性の蛋白尿を呈し、最終的に腎不全になるモデルである。一方、PAN腎症、及びANA腎症はそれぞれ病変誘導10日後、5日後をピークとする著明な蛋白尿(ADR腎症20日目と同等若しくはそれ以上の蛋白尿)を呈するが、病態誘導3~4週後に蛋白尿は正常化する。
【実施例】
【0110】
(1-1)ADR腎症ラットの準備
まず、ラットに麻酔下でアドリアマイシン(6.0mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、ADR腎症を誘導した。アドリアマイシンの注射から28日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
【実施例】
【0111】
(1-2)PAN腎症ラットの準備
まず、ラットに麻酔下でピューロマイシン(100mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、PAN腎症を誘導した。ピューロマイシンの注射から10日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
【実施例】
【0112】
(1-3)ANA腎症ラットの準備
まず、ラットに麻酔下で抗ネフリン抗体(mAb5-1-6。15mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、ANA腎症を誘導した。抗ネフリン抗体の注射から5日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
【実施例】
【0113】
(2)シナプス小胞関連分子の検出
次いで、得られた尿サンプルを用いて、抗シンタキシン-2抗体(SYSY社製)を用いたウエスタンブロッディングにより、検出した。結果を図2に示す。図2において、preとは、病変誘導前の正常尿サンプルである。
【実施例】
【0114】
図2から、シナプス小胞関連分子のシンタキシン-2は、進行性のネフローゼ症候群モデルであるADR腎症ラットの尿中で確認されるが、一過性のネフローゼ症候群モデルであるPAN腎症、及びANA腎症では、それぞれ蛋白尿が最も重篤となる10日目、5日目の尿中でも確認されなかった。
このことから、シンタキシン-2は、ネフローゼ症候群の進行具合を診断する上で有用なマーカーとなり得ることが示唆された。
【実施例】
【0115】
[実施例3]
(1)ADR腎症ラットの準備
実施例2の(1-1)と同様の方法を用いて、ADR腎症を誘導した。アドリアマイシンの注射から28日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
【実施例】
【0116】
(2)シナプス小胞関連分子の検出
次いで、得られた尿サンプルを用いて、抗SV2B抗体(SYSY社製)を用いたウエスタンブロッディングにより、検出した。結果を図3に示す。図3において、preとは、病変誘導前の正常尿サンプルである。
【実施例】
【0117】
図3から、シナプス小胞関連分子のSV2Bは、進行性のネフローゼ症候群モデルであるADR腎症ラットの尿中で確認された。
このことから、SV2Bは、ネフローゼ症候群を診断する上で有用なマーカーとなり得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、有効なネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、正確に診断可能なネフローゼ症候群診断用マーカー、簡便且つ正確なネフローゼ症候群の検査方法、及び正確に診断可能なネフローゼ症候群の診断用試薬を提供することができる。また、本発明のネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物によれば、腎不全への進行を阻止、遅延させる効果があり、さらに、現在の透析療法に掛かる莫大な医療費を軽減することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2