TOP > 国内特許検索 > 尿中の急性腎障害マーカーの測定方法 > 明細書

明細書 :尿中の急性腎障害マーカーの測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-179873 (P2018-179873A)
公開日 平成30年11月15日(2018.11.15)
発明の名称または考案の名称 尿中の急性腎障害マーカーの測定方法
国際特許分類 G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/532       (2006.01)
G01N  33/536       (2006.01)
FI G01N 33/543 545H
G01N 33/53 D
G01N 33/532 B
G01N 33/536 C
G01N 33/543 545B
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 10
出願番号 特願2017-082836 (P2017-082836)
出願日 平成29年4月19日(2017.4.19)
発明者または考案者 【氏名】糟野 健司
【氏名】横井 靖二
【氏名】岩野 正之
【氏名】淀井 淳司
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
【識別番号】517139820
【氏名又は名称】特定非営利活動法人日本バイオストレス研究振興アライアンス
個別代理人の代理人 【識別番号】100104318、【弁理士】、【氏名又は名称】深井 敏和
【識別番号】100182796、【弁理士】、【氏名又は名称】津島 洋介
【識別番号】100181308、【弁理士】、【氏名又は名称】早稲田 茂之
審査請求 未請求
要約 【課題】急性腎障害の診断を迅速に、しかも安定かつ正確に行うことができる尿中の急性腎障害マーカーの測定方法を提供することである。
【解決手段】尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する方法であって、尿検体を動物血清入り緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程と、前処理した前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)を利用して測定する工程と、を含む。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する方法であって、
尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程と、
前処理した前記尿検体に含まれる前記急性腎障害マーカーを、免疫学的反応を利用して測定する工程と、
を含むことを特徴とする、尿中の急性腎障害マーカーの測定方法。
【請求項2】
前記急性腎障害マーカーの測定が、検出系に化学発光反応を用いる方法である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記急性腎障害マーカーの測定が、化学発光酵素免疫測定法である、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する方法であって、以下の(イ)および(ロ)の工程を含むことを特徴とする、尿中の急性腎障害マーカーの測定方法。
(イ)尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程。
(ロ)以下の(A)に記載された(a)から(e)の工程、または、(B)に記載された(a)から(d)の工程を含む、前処理した前記尿検体に含まれる前記急性腎障害マーカーを測定する工程。
(A)
(a)前記(イ)工程で前処理された尿検体と、この尿検体に含まれる前記急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体を含む溶液とを接触させて、前記抗原と第一の抗体との複合体を形成する工程。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)前記多孔性フィルタの表面に、前記抗原に特異的に結合する、酵素で標識された第二の抗体の溶液を滴下して、第二の抗体を、リガンド補捉剤とリガンド部分とを介して多孔性フィルタに結合している第一の抗体と抗原との複合体に結合させる工程。
(d)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(e)多孔性フィルタに結合した前記酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。
(B)
(a)前記(イ)工程で前処理された尿検体と、この尿検体に含まれる前記急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体と、前記TRX抗原に特異的に結合する第一の抗体とは別の抗体であって、第一の抗体と同じもしくは異なる部分で抗原に結合する、酵素で標識された第二の抗体とを接触させて、第一の抗体と第二の抗体と抗原との複合体を溶液中にて形成する工程。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(d)多孔性フィルタに結合した酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。
【請求項5】
前記急性腎障害マーカーが、TRX(チオレドキン)、NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)またはKIM-1(Kidney injury molecule 1)である請求項1~4のいずれかに記載の測定方法。
【請求項6】
尿検体が酸性である場合に、この尿検体をpH6~9の範囲内に調整し、緩衝液で希釈する請求項1~5のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
前記緩衝液が、動物血清入り緩衝液である請求項1~6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の、尿中の急性腎障害マーカーを測定する方法に用いるためのキットであって、少なくとも
(i) 前処理用の緩衝液、
(ii) 前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合する第一の抗体、
(iii)前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合する第二の抗体、
(iv) 未結合の検体・抗体を除去するための洗浄液、および
(v) 多孔性フィルタに結合した酵素の活性を測定するための発光基質
を含むことを特徴とするキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、急性腎障害の迅速な診断を行うことができる、尿中の急性腎障害マーカーのCLEIA法等による迅速測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎障害は、死亡率が50%を上回る予後不良な疾患である。従来から、急性腎障害の診断は、酵素法による血清クレアチニンの測定と尿量とによって行われている。しかし、血清クレアチニンは、腎不全が完成して2~3日後に変化が現われる遅い指標であるため、急性腎障害の治療開始が手遅れとなることが予後改善の障壁となっている。
【0003】
血清クレアチニンに代わるマーカーとして、発症後2時間で上昇するNGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)やKIM-1(Kidney injury molecule 1)が提唱されている。
しかし、尿中NGALでは、化学発光免疫測定法 (CLIA法)(chemiluminescent immunoassay)により診断に35分、尿中KIM-1ではELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay法)により診断に6時間を要する。そのため、急性腎障害の予後改善のために、より迅速な診断法の開発が求められている。
【0004】
本発明者は、先に、尿中のチオレドキン(TRX)が急性腎障害で特異的に高値を示し、急性腎障害の発症後約2時間という非常に早期に尿中で検出されることを発見した。尿中のチオレドキンによる急性腎障害の診断能力は、特定のカットオフ値にてAUC0.94、感度0.88、特異度0.88であった。(非特許文献1)。さらに、本発明者は、化学発光酵素免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay法、以下、CLEIA法と略称することがある)を用いた診断システムを開発した(非特許文献2)。この方法では合成TRXや血液検体のようなpHや塩濃度が一定或いは振れ幅が狭い場合のみ測定が可能であったが、急性腎障害を診断法するためには様々な疾患背景を持つ振れ幅の大きい臨床尿検体に幅広く対応することが要望されている。
また、尿に含まれるチオレドキン以外の他の急性腎障害マーカー、例えばNGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)およびKIM-1(Kidney injury molecule 1)などについても、同様に迅速で正確な安定した測定法が要望されている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Kasuno et al., Am J Physiol Renal Physiol. 307; F1342-1351, 2014
【非特許文献2】科学技術費助成事業研究成果報告書、研究代表者:糟野健司、基盤研究(C)、「レドックス生体応答反応を利用した新規のベッドサイド迅速酸化ストレス診断法の開発」、平成27年6月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、急性腎障害の診断を迅速に、しかも安定かつ正確に行うことができる尿中の急性腎障害マーカーの測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する方法であって、
尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程と、
前処理した前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを、免疫学的反応を利用して測定する工程と、
を含むことを特徴とする、尿中の急性腎障害マーカーの測定方法。
(2)前記急性腎障害マーカーの測定が、検出系に化学発光反応を用いる方法である、(1)に記載の測定方法。
(3)前記急性腎障害マーカーの測定が、化学発光酵素免疫測定法である、(1)または(2)に記載の測定方法。
(4)尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する方法であって、以下の(イ)および(ロ)の工程を含むことを特徴とする、尿中のチオレドキン測定方法。
(イ)尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程。
(ロ)以下の(A)に記載された(a)から(e)の工程、または、(B)に記載された(a)から(d)の工程を含む、前処理した前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを測定する工程。
(A)
(a)前記(イ)工程で前処理された尿検体と、この尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体を含む溶液とを接触させて、前記抗原と第一の抗体との複合体を形成する工程。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)前記多孔性フィルタの表面に、前記抗原に特異的に結合する、酵素で標識された第二の抗体の溶液を滴下して、第二の抗体を、リガンド補捉剤とリガンド部分とを介して多孔性フィルタに結合している第一の抗体とTRX抗原との複合体に結合させる工程。
(d)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(e)多孔性フィルタに結合した前記酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。
(B)
(a)前記(イ)工程で前処理された尿検体と、この尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体と、前記TRX抗原に特異的に結合する第一の抗体とは別の抗体であって、第一の抗体と同じもしくは異なる部分で抗原に結合する、酵素で標識された第二の抗体とを接触させて、第一の抗体と第二の抗体と抗原との複合体を溶液中にて形成する工程。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(d)多孔性フィルタに結合した酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。
(5)前記急性腎障害マーカーが、TRX(チオレドキン)、NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)またはKIM-1(Kidney injury molecule 1)である(1)~(4)のいずれかに記載の測定方法。
(6)尿検体が酸性である場合に、この尿検体をpH6~9の範囲内に調整し、緩衝液で希釈する(1)~(5)のいずれかに記載の測定方法。
(7)前記緩衝液が、動物血清入り緩衝液である(1)~(6)のいずれかに記載の測定方法。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の、尿中の急性腎障害マーカーを測定する方法に用いるためのキットであって、少なくとも
(i) 前処理用の緩衝液、
(ii) 前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合する第一の抗体、
(iii)前記尿検体に含まれる急性腎障害マーカー(抗原)に特異的に結合する第二の抗体、
(iv) 未結合の検体・抗体を除去するための洗浄液、および
(v) 多孔性フィルタに結合した酵素の活性を測定するための発光基質
を含むことを特徴とするキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、尿検体に含まれる急性腎障害マーカーを、免疫学的反応を利用して測定するにあたり、尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理を行うので、尿検体を安定化することができ、pHや塩濃度の変動に影響されることなく正確で迅速な測定が可能になる。これにより、急性腎障害の早期診断が可能となり、急性腎障害の予後改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】前処理していない急性腎障害患者の尿検体を用いて、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)を用いてチオレドキンの測定を行い、従来のELISA法と比較した試験例1のグラフである。
【図2】尿検体の至適pH条件を検討した試験例2のグラフである。
【図3】前処理した尿検体のチオレドキンの測定値について、CLEIA法とELISA法との関連性を示す試験例3のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
急性腎障害マーカーとしてチオレドキン(TRX)を例に挙げて、本発明の急性腎障害マーカーの測定方法を以下説明する。
本発明に係る尿中のチオレドキン測定方法は、(I)尿検体を緩衝液で希釈し、尿検体のpHを6~9の範囲内に維持する前処理工程と、(II)前処理した前記尿検体に含まれるチオレドキンを測定する工程と、を含む。チオレドキンの測定は、免疫学的反応を利用して行い、特に検出系に化学発光反応を用いる方法、例えば化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)が好適に利用される。

【0011】
尿検体は、患者から採取したものをそのまま前処理工程に供してもよく、あるいは水等の溶媒で希釈した後、前処理工程に供してもよい。希釈液としては、後述する緩衝液を使用するのが好ましい。

【0012】
前処理工程は、pH調整と、緩衝液の添加とを含む。尿検体はpHが6~9、好ましくは6.5~8の範囲内にあるのが好ましい。尿は血液に比べて生理的にpH変動が大きく、pHが6未満の酸性尿である場合には、測定値が有意に低下して、正確な測定ができないおそれがある。その場合には、アルカリ剤でpHを上記範囲に調整する必要がある。pHを前記範囲まで戻すことで、正確な測定が可能になる。一方、ヒトでは尿がpH9を超えることは通常ない。
使用可能なアルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、グリシン-NaOH緩衝液、トリシン-NaOH緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などが使用可能である。
なお、尿検体のpHが上記範囲内にある場合や、上記範囲内にあると推測される場合等には、pH補正を行うことなく、緩衝液で希釈するだけでもよい。

【0013】
尿検体は、血液検体に比べて塩濃度にばらつきが大きく、そのため抗原抗体反応に至適な塩濃度から外れることがある。そのため、所定の緩衝液を加えることにより、安定した測定値が得られるようになる。緩衝液としては、例えば動物血清入りの緩衝液が挙げられる。動物血清入りとするのは、抗原抗体反応を安定化させ正確な抗原定量性を担保し、様々な疾患背景を持つ臨床尿検体に幅広く対応するためである。
動物血清入りの緩衝液としては、具体的には、例えば東洋紡(株)製のピオキューブFluAB検体前処理液などが挙げられる。

【0014】
緩衝液は、尿検体を希釈するのに充分な量であるのがよく、尿検体の5~10倍量であるのが好ましい。これにより、安定した測定値が得られる。
pH調整が必要な場合、pH調整と緩衝液の希釈との順序は特に限定されるものではないが、尿検体をpH調整後、緩衝液で希釈するのが好ましい。pH調整を行わない場合には、東洋紡(株)製のピオキューブFluAB検体前処理液などの動物血清入りのリン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、またはトリス塩酸緩衝液で希釈するだけでもよい。

【0015】
このようにして前処理した尿検体に含まれるチオレドキンを、免疫学的反応を利用して測定する。免疫学的反応としては、特に検出系に化学発光反応を用いる化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)であるのが急性腎障害を迅速に診断するうえで好ましい。この測定法は、特開2001-235471号公報などで公知である。

【0016】
以下、前処理した前記尿検体に含まれるチオレドキンを測定する方法を説明する。この方法は、以下の(A)に記載された(a)から(e)の工程、または、(B)に記載された(a)から(d)の工程を含む。
(A)
(a)前処理した尿検体と、この尿検体に含まれるチオレドキン(TRX抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体を含む溶液とを接触させて、前記TRX抗原と第一の抗体との複合体を形成する工程(第一免疫反応)。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)前記多孔性フィルタの表面に、前記TRX抗原に特異的に結合する、酵素で標識された第二の抗体の溶液を滴下して、第二の抗体を、リガンド補捉剤とリガンド部分とを介して多孔性フィルタに結合している第一の抗体とTRX抗原との複合体に結合させる工程(第二免疫反応)。
(d)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(e)多孔性フィルタに結合した前記酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。
(B)
(a)前処理した尿検体と、この尿検体に含まれるチオレドキン(TRX抗原)に特異的に結合し且つリガンドが結合された第一の抗体と、前記TRX抗原に特異的に結合する第一の抗体とは別の抗体であって、第一の抗体と同じもしくは異なる部分でTRX抗原に結合する、酵素で標識された第二の抗体とを接触させて、第一の抗体と第二の抗体とTRX抗原との複合体を溶液中にて形成する工程。
(b)前記複合体を含む溶液を、前記リガンドの補捉剤が結合された多孔性フィルタの表面に滴下して、前記複合体のリガンド部分を前記リガンド補捉剤に結合させる工程。
(c)多孔性フィルタを洗浄し、多孔性フィルタに結合していない試薬を除去する工程。
(d)多孔性フィルタに結合した酵素の活性を、発光基質を用いて測定する工程。

【0017】
第一の抗体としては、例えばビオチン標識抗体などが挙げられる。多孔性フィルタとしては、例えばガラス繊維フィルタなどが挙げられる。第二の抗体としては例えば酵素標識抗体などが挙げられ、発光基質としては例えば酵素基質が挙げられる。
CLEIA法に使用可能な測定装置としては、例えば東洋紡(株)製の小型化学発光免疫自動分析装置POCube(登録商標)等が挙げられる。

【0018】
本発明に係る尿検体中のチオレドキンの測定方法に用いるためのキットは、目的とするチオレドキン成分を測定するために必要な試薬構成を含むものである。具体的には、本発明のキットは、少なくとも、(i) 前処理用の緩衝液、(ii)前記尿検体に含まれるチオレドキン(TRX抗原)に特異的に結合する第一の抗体、(iii)前記尿検体に含まれるチオレドキン(TRX抗原)に特異的に結合する第二の抗体、(iv)未結合の検体・抗体を除去するための洗浄液、および(v)多孔性フィルタに結合した酵素の活性を測定するための発光基質を含む。

【0019】
なお、以上の説明では、急性腎障害の代表的なマーカーであるチオレドキンの測定方法を説明したが、尿検体に含まれるNGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)やKIM-1(Kidney injury molecule 1)といった他のマーカーについても、尿検体を上記と同様に前処理し、CLEIA法を用いて測定することができる。この場合も、急性腎障害の迅速な診断が可能となる。
【実施例】
【0020】
以下、試験例を挙げて本発明の急性腎障害マーカーの測定方法を詳細に説明するが、本発明は以下の試験例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
試験例1
前処理工程なしで、急性腎障害患者6人の尿検体について、CLEIA法を用いてチオレドキンの測定を行い、測定結果を従来のELISA法と比較した。
<CLEIA法>
(実験1)第1抗体(ビオチン標識抗体)の調製
TRX11抗体(MBL(医学生物学研究所)社)1 mgと、ビオチンアミドカプロン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを25℃で4時間反応させ、Amicon Ultra-4(ミリポア社製)を用いて分画し、第1抗体液を調製した。
(実験2)第2抗体(ALP標識抗体)の調製
TRX21抗体(MBL(医学生物学研究所)社)0.1 mgをAlkaline Phosphatase Labeling Kit - SH(同人化学社製)を用いて、第2抗体液を調製した。
(実験3)チオレドキン抗原測定
急性腎障害患者より採取した尿検体液75μLに第1抗体液20μLを添加し、混合後、40℃でインキュベーションした(第一免疫反応)。10秒後に、検体・第1抗体液混合液70μLをあらかじめ50μLの蒸留水を添加したPOCube(東洋紡績(株)製)専用反応容器(第1抗体に結合したリガンドを特異的に認識するリガンド捕捉剤が結合された多孔性フィルタを含む容器)に添加し、さらに、第2抗体液を20μL添加し、40℃でインキュベーションした。150秒後に、0.05%のTween20を含む蒸留水を80μLずつ2回添加し、さらに発色基質としてLumigen(登録商標)APS-5(Lumigen社製)30μLを添加し、発光強度を測定した。そして、事前に作成した発光強度とチオレドキン量との関係を示す検量線から、尿検体中のチオレドキン量を測定した。なお、チオレドキン抗原測定に要した時間は約6分間であった。
<ELISA法>
上記と同じ急性腎障害患者の尿検体について、従来のELISA法にてチオレドキン量を測定した。
<ELISA法とCLEIA法との対比>
図1にCLEIA法とELISA法との各測定結果を示す。同図に示すように、ELISA法では、尿中チオレドキンが200ng/mL以上であった尿検体が、CLEIA法で測定すると、0.02~50.0ng/mLであった。従って、そのままではCLEIA法で尿中チオレドキンを正確に測定できないことがわかる。
【実施例】
【0022】
試験例2
(至適pH条件の検討)
以下の尿検体について、前記したCLEIA法にて尿中チオレドキン(TRX)を測定した。
・pH8の尿検体1
・pH8の尿検体1をpH4に調整した尿検体2
・pH4の尿検体2をpH8に戻した尿検体3
pH調整には、酸としてHCl水溶液を使用し、アルカリとしてNaOH水溶液を使用した。
試験結果を図2に示す。同図に示すように、pH4の尿検体2では、前記したCLEIA法で測定した尿中チオレドキンは、測定感度以下まで低下していた。これに対して、pHを8まで戻すことにより(「pH4-8」として表示)、正確な測定が可能になることがわかる。
【実施例】
【0023】
試験例3
(pH補正+緩衝液で希釈)
急性腎障害患者から採取した尿検体のpHを6~9の範囲内に調整し、ついで、動物血清入り緩衝液(東洋紡(株)製のピオキューブFluAB検体前処理液)にて2、4、8、16、32倍に希釈した。このようにして前処理した尿検体中のチオレドキンを、試験例1と同様にしてCLEIA法にて測定した。
一方、上記の前処理をしていない同じ尿検体について、従来のELISA法にて、ELISA法所定の専用希釈液で40倍に希釈した後、チオレドキンを測定し、東洋紡(株)製のピオキューブFluAB検体前処理液で8倍希釈した尿検体をCLEIA法で測定した結果と比較した。その結果を図3に示す。同図において、グラフ内の黒点は、試験に供した各急性腎障害患者の尿検体を示している。
図3に示すように、pH補正し緩衝液で希釈した尿検体を使用して、CLEIA法にて測定した尿中チオレドキンの測定値は、ELISA法による測定値と良好な直線関係を有していることがわかる。
これにより、臨床尿検体の尿中チオレドキンを6分程度の短時間にしかも正確に且つ安定的に測定できることから、急性腎障害の迅速な診断が可能になる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2